金融業界で求められる高度IT人材、「クオンツ」の仕事とは?

優れたプログラミングスキルやアルゴリズム開発能力を持つ「高度IT人材」は、今やIT、非ITを問わず企業の成長に欠かせない存在です。本連載では、競技プログラミング界のキーパーソンであるAtCoder社長 高橋直大氏とともに高度IT人材の育成・採用について考えてきました。

今回は「金融業界」での高度IT人材の活躍に着目。野村ホールディングスの瀧川孝幸氏、野村證券の相澤比氏を訪ね、金融ビジネスにおけるIT技術の役割や、事業成長との関係について聞きます。

瀧川氏、相澤氏、高橋氏のスリーショット
左から野村ホールディングス  瀧川孝幸氏、野村證券 相澤比氏、AtCoder 高橋直大氏

金融ビジネスはデータビジネスである

高橋:相澤さんは、野村證券でクオンツ開発課に在籍するクオンツアナリストだそうです。そもそも「クオンツ」とは、何でしょうか。

相澤:クオンツは、「Quantitative」(数量的、定量的)から派生した言葉です。数学的手法を用いて市場動向を分析したり、金融商品の開発や投資戦略を行ったりすること、もしくは人を指します。一般的にはなじみが薄いかもしれませんが、金融業界には欠かせない専門職です。

クオンツとは?

瀧川:当社には、統計学や数学、情報科学の手法を用いた数理モデル(※1)の開発やデータの分析を行う専門のチームがあり、そのメンバーをクオンツと称しています。当社のように主要なビジネスライン毎にクオンツを配置する企業もありますし、グループ内のクオンツを一つの研究所に集約する金融機関もあります。数でいえば、当社は、国内で最も多くのクオンツを抱える企業ではないでしょうか。

※1=数理モデル
気象予測、生命現象、経済活動、交通渋滞、人口予測など、さまざまな現象を数学・統計学・情報科学などの手法を用いて定式化したもの。方程式等で数学的に導出したり、コンピューター上でシミュレーションしたりすることで、起こり得る現象を予測することができる。


高橋:相澤さんは、もともと数学を研究していたんですか?

相澤:数学専攻ではないのですが、大学、大学院を通して理学系研究科で物理学を専攻し、素粒子理論分野の理論研究、それに基づく数値計算の研究をしていました。新卒で野村證券に入社し、5年にわたって現在の部署で働いています。

高橋:素粒子物理学から金融業界に進むのは、珍しいルートでは?

相澤:物理の研究者から金融業界のクオンツになる人は、少なくありません。物理学の研究、数学的なスキルセットが生かせるため、就職先の第一候補として考えていました。

高橋:金融業界は、経済や情報系を学んだ方が多いのかと思っていました。

瀧川:意外かもしれませんが、世界を見渡しても数理の専門家が金融ビジネスに挑戦するケースが多いんです。例えば、ブラック・ショールズという2人の有名な数理の専門家が知られていますが、1970年代に彼らは1本の方程式を考案し、それによって新しい金融市場が作り出されました。その規模は約600兆ドルにも及ぶといわれています。なお、この方程式を考案したショールズは、のちにノーベル経済学賞にも与り、自ら資産運用ビジネスも始めました。数式を考えて終わりではなく、考えた数式が世の中を変えていく。そこに金融の醍醐味があるのではないかと思います。

高橋:それは面白いですね。

瀧川:他にも、自分の名前が数学の定理に冠されているようなスター研究者、機械学習の分野で有名な大学教授など、多様なバックグラウンドを持つ方が金融ビジネスに参入しています。

高橋:瀧川さんは、野村ホールディングス未来共創推進部で新規事業の開発に携わっているそうですね。これまでのご経歴は?

瀧川:大学では、確率論やその他の数学的な手法を基に、金融商品の将来価格を推定する手法や新たな資産運用手法を数理的に導出する手法を研究する「金融工学」を専攻し、大学院ではコンピューター上に架空の金融マーケットを作り出し、さまざまなシミュレーションを行う「人工市場」の研究をしていました。その後、新卒で野村総合研究所に入社し、研究開発部署に配属。そこから日本銀行、日本IBMを経て、2014年に野村ホールディングスに入社しました。現在は、機械学習や量子コンピューターなどを既存の実務に取り入れるプロジェクトの企画・推進などに携わっています。

瀧川氏

高橋:金融業界において、ITはどのように活用されているのでしょう。

瀧川:資産運用、トレーディング、商品開発、リサーチ、リスク管理からデジタル・マーケティングまで、多岐にわたる業務にITやデータを分析するクオンツが関わっています。金融ビジネスの本質はデータビジネスなので、ITとの関わりが深いんです。

金融業界におけるITとクオンツの活用範囲

瀧川:例えば株式は、「ある企業が発行した株式を、いついくらで買った」という電子データがあり、それによって価値が日々変わっていきます。変動する要因は、その企業に関するニュースかもしれないし、少し前の取引かもしれない。もしかしたら全く違う情報かもしれない。そうしたさまざまなデータを活用しながら、その変動の仕組みを数理的にモデル化するのは、データサイエンスそのものですよね。

高橋:確かにそうですね。

瀧川:年金基金などに代わって、資産の運用を行う「アセットマネジメント」のビジネスにも、データが大きく関わってきます。株式や投資信託など膨大な投資対象がありますが、お客さまの大切なお金をお預かりしている以上、投資先を選定する基準を明確にする必要があります。そのために、企業の財務情報や、金融マーケットの情報、あるいは金融とは一見無関係なデータなど、さまざまな情報を基に、どこにいくら投資するかを計算するための数理的なモデルを構築しています。

また、短期で株式を売買する仕事においても、例えば5分後の株価を予想しながらコンピューターが取引を自動執行するサービスを提供しています。そのモデルを開発するのは、やはりクオンツの役割です。

リスク管理にも、クオンツが関わっています。リーマンショック以降、金融規制上の要請として、金融機関は全社的に発生し得る最大損失額などの算出を行う必要があります。金融規制当局が指定する簡易モデルをそのまま利用するケースも多いですが、当社では、当社のビジネス特性をより正確に反映させるために、当局の承認のもと、独自モデルを利用して算出を行っています。

他にもリサーチ部門では、定量的なモデルを使い、取引関係のある企業グループの中で株価の変化がどのように波及していくのかのプロセスをグラフ化して可視化させたり、あるいは現在、持続可能な社会を実現するために「ESG」(環境への取り組み、社会とのかかわり、自社の企業統治)の三つの視点で企業評価を行うという世界的なイニシアチブがありますが、そうした観点を企業評価に織り込むための具体的な手法を開発したりするなど、データに基づくコンサルティングを行っています。

高橋:ありとあらゆるデータを使って、ビジネスを展開しているんですね。「金融ビジネスはデータビジネスである」という視点は今までなかったので、新たな発見でした。

最初からすべての能力を備えている必要はない

高橋:相澤さんは、クオンツとしてどんな業務に携わっているのでしょうか。

相澤:「デリバティブ」といわれる金融派生商品の評価モデル分析、評価システムへの実装を行っています。

高橋:デリバティブについて、分かりやすく教えていただけますか?

相澤:金融商品には「株式」「外国為替」「債券」などがありますよね。その価格には流動性があり、売り買いされることによって「今日のドル円レートはいくら」「日経平均株価はいくら」と値段がつきます。

こうした金融商品は常に値動きするため、価格変動リスクがありますが、そのリスクの形を変えるのがデリバティブ、つまり金融派生商品です。デリバティブの特徴は、金融商品の値動きを元に、条件付きで将来支払われる金額が変わってくることです。

具体的には、将来いくらで取引するかを現時点で約束する「先物取引」、将来ある値段で取引できる権利を売買する「オプション取引」、あるいは、固定金利の受け取りと変動金利の支払いを交換するなど、現在時点で見たときに将来受け取るキャッシュフローから得られる価値が等しいが性質の異なるキャッシュフローを当事者間で交換する「スワップ取引」などの取引形態があります。

金融商品金融派生商品

相澤氏

瀧川:誤解を恐れずに言いますと、デリバティブというのは、ある種の保険のような商品と考えれば、分かりやすいのかもしれません。将来、株価がいくらになるかは誰にもわかりませんよね。そこで、あらかじめ「3カ月後にこの株をこの価格で買います」という権利を取引するのです。その際、数学的な前提がなければ、取引の権利をいくらで売買するかという価格付けができません。そこで統計や数学の技法を使って、クオンツが価格を計算しているんです。

相澤:デリバティブ評価システムに用いる数値計算ライブラリー(※2)を開発するのが、私の主な業務です。数学的な道具立てや金融工学に基づいて値動きのモデルを計算し、適正価格を導き出しています。

数理モデルを考える際には、プロトタイピングとして自らコードを書き、ワークするか検証することもあります。実際に数値計算を行う段階でも、業務レベルで効率的に計算できるよう、さまざまな数値計算アルゴリズムを用いています。IT部署と連携し、社内のトレーダーやセールスマンが使うシステムへの実装も行っています。

※2=ライブラリー
ある特定の機能を持つプログラムを定型化して、他のプログラムが引用できる状態にしたものを、複数集めてまとめたファイルのこと。


高橋:数理モデルも作れば、検証のためのプログラミング、システムの実装まで行っているのはすごいですね。AtCoderの競技プログラミングコンテストには、情報系の方ばかりではなく、物理や数学を学んできた方も多く参加しています。情報系企業に就職しようと考え、参加するようです。相澤さんは、学生時代からプログラミングを学んでいたのですか?

相澤:学生時代は、講義や研究で簡単なコードを書く程度でした。AtCoderに出合ったのも、社会人になってからです。クオンツには、数理的なモデルに対する理解、モデルを作るための数学的なツールの理解、コードとして書く能力が必要ですが、最初からすべてを兼ね備えた人材はいません。私は物理学をバックグラウンドにしつつ、この仕事を始めてからアルゴリズム構築やプログラミングを必死になって勉強しました。

金融ビジネスで用いるアルゴリズムの考え方とは

高橋:デリバティブの評価システムに使われるアルゴリズムには、どんなものがありますか?

相澤:デリバティブ評価の計算手法は、大きく二つの種類に分けて考えることができます。デリバティブの価格がいくらであれば適正かについての解を数式によって直接的に計算する手法(解析的なアルゴリズム)と、誤差を小さく抑えながら、解の「候補」を求める手法(近似アルゴリズム)の2種類です。

いずれの場合でも、まず基になる金融商品(原資産)の価格がどのように変動するかを数理モデル化しますが、その表現の仕方と解き方が異なります。

解析的なアルゴリズムについては、冒頭の話にでも出たブラック・ショールズが考案した確率微分方程式やその派生形などを用いて、デリバティブの価格を直接計算できることが知られています。ただし、全ての商品に適用できるというわけではなく、一部の複雑なデリバティブには適用できません。

例えば、「ある金融商品を予め決められた価格で取引できる」権利を与えるという商品があったとして、1年後までの期間であれば、その権利をいつでも行使できるというタイプのデリバティブを考えてみましょう。この場合、1カ月後に行使するのかしないのか、3カ月後には行使するのかしないのかなど、多くのシナリオを同時に考慮する必要があり、計算が複雑になります。デリバティブの価格を直接的に計算しにくい、こうしたケースにおいては、近似アルゴリズムによって、解の候補を計算するということを行います。

近似アルゴリズムはさらにいくつかの種類に分けて考えることができます。

代表的な手法として三つ挙げられます。
一つは、数理モデル(確率微分方程式)に従って将来起こり得るさまざまなシナリオをコンピューター上でシミュレーションし、統計的に当てはまりの良い解の候補を見つけ出す手法(モンテカルロ法※3)。

二つ目は、原資産の価格変動は同じ数理モデルによって表現されるという前提に従いつつも、いくつかの制約条件を加えることで偏微分方程式の問題(境界値問題)に置き換え、計算可能な形に変形して(有限差分法※4)、デリバティブの価格を導き出す方法。

三つ目は、取引期間をいくつかの期間に分割し、原資産の将来の価格変動のパターンを各期間で「上がる、または下がる」という二つのシナリオ(あるいは価格上昇・下落のパターンをより細分化した二つ以上のシナリオ)に単純化した数理モデルを立てた上で、全てのパターンを洗い出し、各パターンで最終的に得られる利益とそれが実現する確率を基に、動的計画法(※5)と呼ばれる手法により、将来得られる利益の期待値を計算する手法。

※3=モンテカルロ法
数値計算アルゴリズムの一種。乱数を用いたシミュレーションを繰り返すことにより近似解を求める手法。
 
※4=有限差分法
数値計算アルゴリズムの一種。微分方程式を差分方程式に変換し、差分方程式を解くことで元の微分方程式の近似解を求める手法。
 
※5=動的計画法
代表的なアルゴリズムの一つ。解くべき問題を複数の部分問題(小さい問題)に分け、部分問題を順に解いていくことで元の問題の答えを求める手法。


高橋:数学的に解を求められないものを、コンピューターが計算できるところまで細かくし、近似値を求めるという感じですね。

相澤:そうですね。パターンが複雑な金融派生商品では、厳密な評価が難しいんです。コンピューターのマシンパワーによって、シミュレーションなどの数値計算で近似解を求めています。

高橋:しかも、そこに計算速度の向上など、数理的な工夫を加えているわけですよね。とても興味深いです。

ここまでの話をまとめると、デリバティブの適正価格、将来起こり得るリスクを計算するために、確率微分方程式、偏微分方程式で数理モデルを考えるわけですよね。そこから実際に価格を導き出すには、数値計算が必要です。そのためにプログラムを書き、高速かつ精度の高いアルゴリズムを構築している。マシンスペックにも限界があるので、できるだけ効率の良いアルゴリズムを開発したり、近似アルゴリズムを使ったりすることで、望んでいるデータをできるだけうまく取り出している。そういったことを、日々の業務で行っているわけですね。

高橋氏

相澤:おっしゃる通りです。

高橋:となると、正確に答えを導き出す競技プログラミングとは、ちょっと違う世界かもしれませんね。マラソンマッチのように、長期間にわたって精度を高めるコンテストには少し近いかもしれませんが。

相澤:脳内にあるイメージをアルゴリズムに落とし込み、それを適切かつ素早く実装していく。そのプロセスは、競技プログラミングに似ているように感じます。

高橋:クオンツとしての能力の違いは、どんなところに出るのでしょう。予測の精度ですか?

相澤:クオンツとしての業務によります。運用に数理モデルを使っているクオンツなら、運用成績が重要。マーケット情報を分析して今後の予測を立てるリサーチャーなら、分析結果が現実に即しているか、信頼に値するか。私のようにデリバティブのクオンツであれば、価格評価、リスク評価が正しくできているか、トレーダーが売り買いして利益を残せるか。いずれも計算結果が間違っていたら、損失を発生させてしまいますから、慎重を期す必要があります。

高橋:それは怖いですね。自分が導き出した価格が合っているかどうか、保証もないわけですから。どうやってミスを回避しているのでしょうか。

相澤:入念にテストを重ね、チーム内でもコードレビューをします。それに加えて、数理モデルの検証をするリスクマネジメント部もあります。何重ものチェックがありますが、やはり数理モデルを考えるクオンツの責務は重大です。

瀧川:システム開発会社では多くの場合、要件定義があり、その通りにプログラミングすることが重要とされてきました。でも、証券会社はシステム開発を主眼としているわけではありません。デリバティブの価格付けをはじめ、証券会社として目指すゴールがあり、その手段としてアルゴリズムを使っています。要件定義をしてくれる人はいませんが、そのアルゴリズムの良し悪しは数字として明確な結果が出ます。目的を満たすために自分自身でひたすら創意工夫しなければならない。その分、求められるハードルは高いのではないかと思います。

金融業界以外の技術や事例を持ち込むことで、第一人者になれるかも

高橋:最近は、「アルゴリズム取引」という言葉を耳にするようになりましたよね。競技プログラミングでアルゴリズムを学習した人が金融取引に手を出す際、まずチャレンジするのがアルゴリズム取引ではないかと思います。

相澤:ひと口にアルゴリズム取引といっても、意味が広いので一度整理しておきましょう。金融業界でアルゴリズム取引と言う場合、高橋さんのおっしゃる取引とは違うものを指します。例えば株の大量注文をさばく際、まとめて売ると一気に値下がりし、損をしてしまいますよね。そのため、マーケットのインパクトを抑えつつ、ゆっくり売る必要があるのですが、あまりのんびりしているとマーケットの変動を受けることになる。そこで、マーケット株価の予測をしながら、取引コストを最小化するよう適切に分割して注文を出していきます。このようなコンピューターによる取引の自動執行をアルゴリズム取引と称しています。

一方、マーケットの細かい動きから「この直後に一瞬株価が上がるかもしれない」というシグナルを受け取り、高速で株の売買を繰り返すことをアルゴリズム取引と呼ぶこともあります。高橋さんがおっしゃっているのは、こちらですよね。

瀧川:そういった取引を、金融業界では「高頻度取引」と呼んでいます。こちらは数理モデルというよりも、機材や通信回線などインフラ勝負の取引であるケースも多いです。

高橋:なるほど、理解しました。デリバティブでは、評価モデルやリスク予測の信用を与えるために数式を用いているんですよね。アルゴリズム取引など短期で株式を売買するときの5分後の株価予測は、そういった説明づけが不要なのでしょうか。

瀧川:アルゴリズム取引ではさまざまな取引戦略をお客さまに提示し、お客さま自身にどの取引戦略を採用するかを決定いただく場合が多く、それぞれの取引戦略がどのようなものかという説明付けは必要です。もっとも、分単位あるいは秒単位の取引の仕組みを、情報科学あるいは統計学の用語を使わずに直感的に説明すること自体も難しいですし、企業の競争力の源泉であるアルゴリズムそのものの説明を事細かく求められることはあまりないように思います。

年金基金などから資産をお預かりして運用する場合は、四半期で開示される企業財務の情報も含めた、直感的にも分かりやすい指標も使われます。また、自分たちが採用している数理モデルがどのようなもので、業界標準として用いられているいくつかの数理モデルとの違いに関する説明もしばしば求められます。例えば、深層学習を用いる場合には、なぜそのような結果になったのかを数理的に説明できる必要があります。「機械学習のライブラリーを使ってみた」だけだと説明の責務を果たせず、なぜその価格になり、なぜそういう意思決定がされたのか、機械学習の数式やアルゴリズムを読み解かなければならないため、より高いレベルの数理的素養が求められます。

高橋:金融ビジネスでは、最先端の技術を追い続けることが事業の成長につながっているように感じます。最新技術のキャッチアップは、どのように行っているのでしょう。

瀧川:業界内だけでなく、アカデミアのフィールドでもキャッチアップしています。人工知能学会、言語処理学会などにはスポンサーシップも行っています。そこから最先端のテーマを持ち帰り、金融業界でどのように応用できるかクオンツと一緒に展開を考えるというケースもあります。例えば、強化学習や転移学習(※6)のように、他の業界では盛り上がっているけれど、金融業界ではまだまだこれからという領域もあるため、そういった研究も行います。また一部の成果は、米国人工知能学会(AAAI)などの世界のトップカンファレンスで、対外発表もしています。金融業界で生かしきれていない分野はまだまだありますので、全く新しく参入された方が数年のうちに金融ITの第一人者になれる可能性もあります。

※6=転移学習
ある領域で学習したモデルを応用し、別の領域に適合させる技術。通常よりも少ないデータ量で、精度の高い結果を得ることができるとあって、AI分野で注目を集めている。


金融にはそうした学際的な面もあるため、異業種との協業も積極的に行っています。例えば、コンピューター将棋で世界チャンピオンになったベンチャー企業と当社の協業により、将棋の棋譜を読むように相場の次の一手を読むというアルゴリズムを開発し、株式のトレーディング業務に導入しています。

なお、数学の世界では、さまざまな公理(※7)を組み合わせて新しい定理を見つけ出しますが、金融業界も仮説の設定とモデルへの落とし込みが重要という点で、これに通じるところがあります。これまでに当社が長年にかけて培ってきたモデル・技法があり、それを新しい技法と組み合わせることで、更なる新しい技法が生まれることがあります。非常に論理的・数理的な世界なのです。

※7=公理
その他の命題を導き出すための前提として導入される最も基本的な仮定のこと。


高橋:「この技術を応用できるかも」と勘が働くのは、ある種のセンスであり数学的素養ではないかと思います。競技プログラミングにおける、「この問題にはこのアルゴリズムを適用できるんじゃないか」という考え方と近いように感じました。

※後編につづく

テクノロジーで、テレワークは当たり前になれるのか。

今、多くの企業で「テレワーク」への試みが実施・検討されています。かねてからオフィスに縛られず、世界中を旅しながら自由に仕事をするスタイルに憧れ、「夢は旅人になることです!」と周囲にもらしていた私としては、個人的な視点でもこの新しいビジネススタイルには可能性を感じています。

今回は、私の所属する国内電通グループの新会社 「GNUS(ヌース)」の事例から、テレワークに対する気付きをシェアします。

設立当初からリモートを前提としていたGNUSのワークスタイル

GNUSは、2019年8月に設立された「イノベーション・コンサルティング&ソフトウエア開発」会社です。特徴は、フリーランスのエンジニアやデザイナー、プロダクトマネージャーたちとチームを組んで、デジタルプロダクトの開発をアジャイル(迅速)に行うこと。CX(顧客体験)やEX(従業員体験)の向上、DX(デジタルトランスフォーメーション)などを実現し、ビジネスの価値につなげる事業を行っています。

フリーランスの方々とはプロジェクトごとに、週に数度の打ち合わせを行いますが、メンバーの居住地はバラバラで、地方や海外から参加するメンバーも多数います。必然的にリモートでの共同作業が基本になっており、そのような環境下でも効率的に、かつ有機的なやりとりが行える仕組みが構築されています。したがってテレワークが強いられている現在でも、全く出社しなくても作業の質とスピードを落とすことなくプロジェクトが進められています。

GNUSのビジネスモデルの特徴
GNUSのビジネスモデルの特徴

どのツールを使うかで差が出る。文字コミュニケーションを通した創発の質

GNUSでの重要な業務の一つが「企画・提案作成業務」です。その中心的なインフラとなっているのがビジネス向けチャットツールのSlack。メールでのコミュニケーションと違い、文章を整理する必要がないため、創発的なやりとりに発展しやすいのが特徴です。

誰かが書き込んだ思いつきに他の人が乗っかることで、これまで雑談で行われていたような突発的なブレストが実現しています。わざわざ返信するほどでもないコメントだとしても、自分たちでカスタマイズした5000個以上の楽しい絵文字でリアクションをすることができ、考えたことを発信しやすい土壌がつくられています。

またトピックスごとにチャンネルが立てられることにより、議題ごとに異なったトーン&マナーの会話が並行して行われることも。プロジェクト別のチャンネルの他に、例えばビズデブ(事業開発)関連、情報共有、ファイナンス、法務、勤怠管理や飲み会など、さまざまな題材で40~50個のチャンネルが同時にやりとり可能。このようにSlackはGNUSのあらゆる企業活動のハブとなっているのです。

GNUSで使用している絵文字
GNUSで使用している絵文字

具体的な業務に関しては、それぞれの用途に特化された機能と、画面の見やすさや操作性の良さを持ったオンラインツールをSlackと自動連携させています。そのうちの一つが顧客管理システムSalesforceプラットフォームを、GNUSのビジネスモデルに適した形でカスタマイズしたGDP(GNUS Delivery Platform)という自社システムです。

提案フェーズごとに案件をまとめて管理するだけでなく、フリーランスのスタッフィングをする際に案件の作業範囲とスキルを鑑みて、マッチ度のスコアリングを表示。また、各案件にアサインされるフリーランス個々人との契約を管理するなどの機能を組み込んでいます。

GDP (GNUS Delivery Platform)の仕組み
GDP (GNUS Delivery Platform)の仕組み

ブレストに関してはTrelloというオンラインツールを活用しています。Trelloは、ボードに付箋を貼る感覚で、発言を共有できるのが特徴です。オンライン会議でなかなか発言するタイミングが見つからずに忘れ去られていってしまうアイデアも、書き留めることで全員にリアルタイムに可視化されるので、議論に持ち込まれるチャンスが全てのブレスト参加者に平等につくり出されます。「声のデカい人が全てを持っていく」のではない、アイデアの平等性がこれにより担保されています。

リモートだからこそ重要なのは、非言語コミュニケーション

こういったツールを使いこなせば、リモート環境でワークショップを開くことも可能です。お題に対して個人ワークやグループワークを行うこともできますし、即興で作った資料やメモをシェアすることもできます。

その際に参加者全員の顔が同時に見えていることは、円滑で情報量豊かにコミュニケーションを運ぶ上で大切な要素の一つです。特にZoomは、参加者の顔の一覧性が高い点がメリット。オンライン会議でカメラをつけることに抵抗があるという声も聞きますが、リモートでビジネスを進める上では相手の顔が見えることは安心感にもつながり、重要です。メークが大変という方には、メークを顔の上に合成してくれるようなツールを活用できることも、オンライン会議ならではのメリットかもしれません。

テレワークが推奨されるようになってからも、紙の稟議書やハンコが必要なので会社に行かなければいけないという声を聞くことがあります。しかし、これらの業務も社内規定を整備し、請求管理、契約管理、経費精算などをオンラインで可能にするツールで解決することができます。

例えばGNUSでは契約書関連の処理はDocuSignという電子署名システムを使用しています。オンライン上で署名ができるので、上司の都合の良いタイミングを狙ってハンコを押してもらう必要も、製本時にテープがズレてやり直す必要もありません。全てのドキュメントはオンラインで管理され、契約書としての効力もきちんと発生させることができます。

デジタルツール以上に大切な、社内のカルチャー

他にもいろいろと活用している便利なツールはあるのですが、テレワークを実現する上でデジタルツール以上に重要だと思うことが社内に根付いた「カルチャー」です。

  • それぞれのメンバーの役割を明確にし、アウトプットで従業員を評価し、十分に互いを信頼する。
  • 上下関係による圧力を働かせず、フラットな関係で全員がフェアに自分の能力を発揮することを奨励する。
  • 一人一人がチームの成果のために自身の貢献に責任感を持って自ら働きかける。

などなど。

内発的動機は良いアウトプットを生むための何よりの力になります。近年スタートアップで働くことを選ぶ優秀層が増えている理由も、ここにあるのではないでしょうか。働くことそのものに対するモチベーションづくりが、風土として整えられていることが重要です。

GNUSは、現在フリーランス以外の社員は十数名の組織ですが、大企業も経験した私たちだからこそお伝えできることもあると思い、Workstyle Innovation(働き方のDX)に関するコンサルテーションプログラムなども用意しています。

GNUSのWorkstyle Innovationコンサルティング
GNUSのWorkstyle Innovationコンサルティング

今、多くの企業で臨時的なテレワークの実施や対策が強いられています。この取り組みを持続可能なものにすることで、従業員一人一人に働きやすさと働きがいを提供する社会にすること。そして一人一人のポテンシャルを引き出すことで強いチームをつくること。それが今、世の中に託された宿題だと感じています。

そして究極的にはリモートな選択肢のある社会が定着し、「旅人になる夢」が実現しやすい社会がつくられていくことが、試練の渦中にある世の中で、私が抱く希望です。

お問い合わせ:support@gnus-inc.com

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ビデオリサーチ調査 「 コロナ禍でテレビの見方はどう変わっているのか」

ビデオリサーチは4月23日、新型コロナウイルス感染拡大に伴う、生活者の生活変化、テレビ視聴の状況を発表した。
4月7日に7都府県に発令された緊急事態宣言から2週間が経過し、その影響で生活者の行動やテレビ視聴はどのように変化してきているのか、その実態をインターネットによるアンケート調査、視聴率調査(関東地区)のデータで分析している。ここでは、テレビ視聴率を中心に紹介する。
(グラフ・表=ビデオリサーチ提供)

(参考)新型コロナウイルス影響調査概要
1.調査手法 インターネット調査
2. 調査エリア 首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の1都3県)
3. 調査サンプル数 1,500s ※性年代構成を人口構成に合わせて調査を実施。15才は高校生以上。

◇激変する生活とともに、大きく変化するテレビ視聴動向
(1) テレビにおける変化① :<関東地区 6-24時 総世帯視聴率(HUT)※ 2019年同時期と比較>

(2) テレビにおける変化② :<関東地区 週平均6-24時におけるテレビ視聴量の増減 2019年同週と比較>

◇即時性が求められる情報源
現在、重視する情報源/最も重視する情報源

〇現在、最も重視する情報源は“テレビ”が最も高く、次いで“インターネットのニュース記事”となっている。現在の状況下では、情報をタイムリーに入手することが求められていると考えられる。

◇需要が高いコンテンツは「お笑い番組」「洋画」「アニメ」
現在、よく見る番組ジャンル/もっと見たい番組ジャンル

〇「よく見る番組ジャンル」では“ニュース・報道番組”が43.6%と最も高い。
〇「もっと見たい番組ジャンル」は、“お笑い番組”“洋画”“アニメ”が上位3項目となっている。

◇Afterコロナには「外食」「国内旅行」

同社は、「現在、私たちは戦後初めて“自由な行動を制限される事態”に直面していると言えます。“新型コロナウイルスに対する恐怖感”は6割近くに達しており、“行動の制限”や“予定・見通しが立たないこと”も悩み・ストレスとして上位にあげられています。
これまで普通に行動できた外食、国内旅行、友人・知人に会う、ショッピング、宴会・飲み会を“収束したら”と自然に任せるのではなく“収束させたら”と主体的に考え、感染拡大を防ぐための行動をとることが重要なのだと考えます」としている。
プレスリリース:https://www.videor.co.jp/press/2020/200423.html

 

開発「TUNA SCOPE」〜匠の目利きをAIに託す〜

日本の匠が持つ技術をAIに実装するという革新的な取り組みでたちまち注目を浴び、世界三大広告賞の一つであるクリオアワードのイノベーション部門をはじめ、国内外における数々の賞を受賞しているプロジェクトがあります。

マグロの「目利き」職人の技を受け継いだ、品質判定AI「TUNA SCOPE」。

今回は「TUNA SCOPE」プロジェクトのリーダーであり、クリエーティブ・ディレクターの志村和広氏に、そのアイデアの裏側にある開発の経緯や今後の展望について聞きました。

志村氏
志村和広氏(電通 第4CRプランニング局 クリエーティブ・ディレクター)

日常での気づきが、プロジェクト発足のきっかけに

ー「TUNA SCOPE」はどのような技術なのでしょうか。

テレビ番組などで、市場で仲買人がマグロの尻尾の切り口を見て何かを確認している光景を見たことはありませんか?彼ら、熟練の職人たちは「マグロの尾部断面」を見て、マグロの品質を判断しています。この技術は、長い年の経験と、それに基づく直感によるもので、限られた人間にしかできない極めて感覚的な「暗黙知」です。

この目利きの技術を継承したAIが、我々が開発した「TUNA SCOPE」です。TUNA SCOPEがインストールされたスマートフォンでマグロの尻尾の断面を撮影すると、誰でも簡単にマグロの品質を判定できるようになります。

開発したTUNA SCOPEのスマートフォンアプリ
開発したTUNA SCOPEのスマートフォンアプリ

 

ー「TUNA SCOPE」が生まれた経緯を教えてください。

僕はもともと魚が好きで、スーパーでマグロの刺身をよく購入するのですが、物によっては「思ったよりおいしくないな」と感じることがありました。「同じような見た目、同じ金額なのに、当たり外れがあるのをなんとかできないだろうか」、と思ったちょうど同じ頃、築地市場が豊洲に移転するニュースがテレビで流れていて、そこでマグロの目利きをする仲買人を見て、このアイデアを思いついたのです。

市場では何十年という長い経験を持つ仲買人による「尾の断面」の目視によってマグロが値付けされていく。しかし調べてみると、仲買人は後継者不足に悩まされ、この貴重な目利きの職能を持つ人材は減少してしまっている。そこでこの仲買人の能力を AI に託せないかと閃いた。AI であれば職人の直感を学習し、最低10 年はかかると言われている修行をあっという間に終わらせることができる。この目利きAIを、一般のマグロにも広く普及させれば、みんながマグロを美味しく食ベられるのではないか、と考えました。

また、職人へのインタビューを通じてわかってきたのは、この能力は「暗黙知」で極めて感覚的なものであるということ。もしどこを見ているか言語化できれば、マニュアル化して新人に覚えさせたり、プログラム化してソフトに落とし込むこともできますが、この目利きの技術は言語化しづらい直感的なものなのだったのです。これはなおさら面白い。何十年もの間、毎日のようにマグロの尻尾を見続けることによって培われる、その貴重な技術を保存するためにも、AIに学習させる意義があると考えました。

限られた職人が持つ技術をAI化して、幅広く普及させ、私たちが日常生活の食べているマグロにその価値を導入できないか。その構想と自分の想いを電通社内で発表したところ、正式にプロジェクト発足となりました。電通のクリエイティブと、技術に強いISIDでチームをつくりました。

たった1カ月で、職人の10年以上の経験に相当するマグロの目利きを学習

ー開発の中で、特にどのようなことに苦労しましたか。

マグロの尻尾の断面画像を集めることです。職人の20年、30年分の修業をAIに学習させるには、膨大なサンプルデータが必要でしたが、彼らが日々マグロを見極めている水産市場は、職人以外の人間が容易に足を踏み入れることのできる現場ではありません。そこで、マグロのデータを多数保有しているところはどこか、考えをシフトしました。そして巡り合ったのが、世界でマグロビジネスを展開する総合商社・双日です。

三崎港で集めたマグロのデータをもとにアプリケーションのプロトタイプを制作し、それを持って相談に行きました。プロジェクトの概要を説明すると、双日さんも、目利きの精度の個人差・買い付けの際の当たり外れなどのビジネス上の課題を抱えていることが分かりました。「TUNA SCOPE」がある世界では、誰が目利きを行っても一定基準を満たした高品質のマグロを安定的に供給できます。両社の想いが合致して、プロジェクトに参画してもらうことになりました。

双日さんの協力を得たことで、4,000点ものキハダマグロのサンプルデータを集めることができました。そのサンプルの断面をスマートフォンのカメラでひたすら撮影し、職人の判定結果と照合。それらをセットにして、AIに読み込ませます。そしてたった1カ月で、職人が1日1体のマグロを見ると換算すると10年以上の修業に相当する量を学習させることに成功しました。

生涯かけて修行する目利きを、たった1カ月でAIが継承
生涯かけて修行する目利きを、たった1カ月でAIが継承

開発したAIをスマートフォンに実装し検証した結果、その道35年の職人による判定結果と比較して、約85%の一致率という精度を実現したのです。直近では、熟練の職人が高品質と判定したマグロを、90%を超える確率で「美味しい」と言い当てるまでになりました。

マグロの目利き風景
焼津工場で職人とAIの判定結果を照合した結果、高い一致率を記録
焼津工場で職人とAIの判定結果を照合した結果、高い一致率を記録

ー「TUNA SCOPE」が最高品質だと判定したマグロを、「AIマグロ」として販売し、実地調査も行ったそうですね。

2019年3月、東京駅の「産直グルメ回転ずし 函太郎Tokyo」で、TUNA SCOPEが最高ランクとして判定したマグロを「AIマグロ」(280円・税抜)として通常メニューに加えてもらい、販売しました。結果的に、5日間で約1000皿を売り切り、調査の結果、約90%のお客様から同じ価格帯のマグロよりおいしいというアンケート結果を得ることができました。お客様から「いつものマグロより実際に美味しい」、「このAIが導入されると、期待通りマグロをおいしく食べられるというのはとても嬉しいし、安心できる」という声をいただいたことが印象的でした。

大好評だった「AIマグロ」の販売提供
大好評だった「AIマグロ」の販売提供

2020年、TUNA SCOPE マグロ、世界展開へ

ープロジェクトの今後の展望を教えてください。

今後の具体的な展開としては、1月からTUNA SCOPEによるAI品質判定を行ったマグロが、ニューヨークとシンガポールでの提供が開始されました。

さらに3月には、プロジェクトが水産庁の「水産物輸出拡大連携推進事業」に認定されました。2020年は、水産庁の支援を受け、AIによる品質判定を受けた高品質なマグロを世界中に輸出していくための準備を進めています。

私は、このTUNA SCOPEが世界に拡がっていくことには、さまざまな面で重要な価値があると考えています。一つ目は、世界中どこでも、誰もが美味しいマグロを食べられるようになるからです。世界には、日本の職人のように長い人生をかけてマグロを見続けてきたプロの目利きの職人はいません。よって、日本ほどレベルの高い品質判定を通さず、人々の食卓にマグロが届けられているのが現状です。しかし、AIにより、世界中に日本の職人の能力を拡げていくことで、世界中の人たちが日本の目利きが入った美味しいマグロを食べることができるようになります。これは、日本人としても嬉しいことです。

TUNA SCOPEを通じて、日本の目利きを世界中に展開していく予定
TUNA SCOPEを通じて、日本の目利きを世界中に展開していく予定

また、もう一つの理由は「TUNA SCOPE」は、世界的な課題である「マグロの資源問題」の解決にも役立つのではないかと考えているからです。

私たちが日常生活で食べる普通のマグロは、主に重さや量で取引されています。ゆえに乱獲で問題となる漁では「量」を重視し、たくさんの数を獲るために幼魚も含めて群れをまとめて大量捕獲しています。さらに、一度にまとめて捕獲された魚は網の中で暴れまわるため、体温の上昇で身がヤケてしまったり、魚体に傷がついたり、なかには死んでしまうこともあります。その結果、著しく鮮度が落ちてしまうのです。

「TUNA SCOPE」を導入し、世界共通の品質基準をつくり、判定する仕組みをつくることができれば、獲り手側の意識を「質」重視に変えていくことができるだろうと考えています。大量に捕獲するよりも、マグロの品質、鮮度を保つために1体ずつ丁寧に獲ろうとする獲り手が増えていくでしょう。丁寧にマグロを獲る漁船のマグロが市場で評価され、みんながおいしいマグロを食べることができ、資源も安定することにつながっていく。人も資源もビジネスも、Win-Winの関係を築けるのではないでしょうか。

TUNA SCOPEのプロジェクトの始まりは個人の想いでしたが、それが拡大し、今では社会の課題を解決する可能性を持った事業へと拡大しつつあります。今後はこのプロジェクトで得られたノウハウを活用することで、匠の技をAIの力で継承する活動として、水産業はもちろん、他のさまざまな分野にまで拡大していきたいと思っています。

TUNA SCOPE:https://tuna-scope.com/jp/

リリース:https://www.dentsu.co.jp/news/release/2020/0424-010044.html

日用品の回転体が柔らかなフォルムを生み出す“ROTER PRODUCTS”

平面の領域を飛び越えたアートディレクションの可能性を打ち出す“NEWSPACE”プロジェクト。当連載ではこれまで6回にわたり、アートディレクターたちが自由な発想で生み出した創造性あふれるプロトタイプをご紹介してきました。

最終回はアートディレクターの宇崎弘美が手掛ける“ROTER PRODUCTS”が飾ります。独特な形状の花瓶がどのような発想と手法によって生まれたのか、聞いてみました。



「生理的に好き」な有機性のある幾何形態をつくってみた


—“ROTER PRODUCTS”とはどんなプロダクトですか?また、誕生した背景とはいかに?

ROTERとは、回転体という意味です。「ものはどんな形をしていても、回転させてアウトラインをかたどれば幾何形態ができる」という仮説を立て、回転体を3D CADで花瓶に仕立てたのが“ROTER PRODUCTS”です。

もともと六面体や球体、円錐や円柱のような幾何形態には興味があり、そのようなモチーフを使って個人的にアクセサリーを制作していました。

あと、昔からなぜだかぽてっと丸みを帯びたフォルムをしたものに引かれる傾向があります。キリッとした線ではなく、ちょっと歪んでいるような柔らかい曲線が好きなんですね。

最近私はよく「生理的に好き」という造語を使うのですが、自分でも理由は分からないけど好きなものってありませんか?よく言われている「生理的に無理」の逆の感覚です。今回“NEWSPACE”プロジェクトへ参加するにあたり、ずっと自分の中にある「生理的に好き」を形にしてみることにしました。

どうにかして、幾何形態の中に有機的な表現や柔らかなラインを生み出せないか?と考えた結果、行き着いたのが、身の周りにあるものを回転させて新しい曲面を生み出すというアイデアでした。

水平回転させて際立つフォルム、メリハリのある配色


—日用品がユニークな花瓶に変わるまでのプロセスを教えてください。

プロダクトの制作に加え、もうひとつの試みとして、モチーフを回転させて撮影した写真を使ったグラフィックポスターもつくりました。

“ROTER PRODUCTS”

モチーフを回転台の上に乗せて回しながら、定点から長時間露光の設定で撮影しています。背景に漂っているオーロラのような色彩は、撮る際に背景へ写り込んだモチーフの影を利用したものです。どうしても反射してしまうのを逆手にとり、ビジュアルへと生かしました。

“ROTER PRODUCTS”
“ROTER PRODUCTS”ポスター

花瓶のモチーフは上から時計回りに招き猫、洗剤のスプレーボトル、植物のラベンダー、ハサミ、天むす(!)です。いろいろなものを用いて実験し、最終的に残ったのがこの5点です。

モチーフは、形も重要ですが、実際のものの色を反映してつくりたかったので、色もひとつの要素として、そもそもの色がかわいいものを選びました。

●招き猫の置物が持つモコモコッとしたフォルムがきれいなカーブを描いてくれました。赤い首輪のラインもアクセントになっています。
●洗剤のスプレーボトルは、丸みとくびれと配色で選びました。
●最初はお花シリーズでつくってみたくて、お花の回転体にお花を生けたらかわいいなと思っていたんですが、実際に撮影してみたら華奢で形になりづらいものが多くて、思ったように3D化することができず、断念したという感じです。繊細すぎると向いていないようです。ラベンダーだけは物体感があるので、1点つくってみました。
●天むすは、2トーンに分かれているたたずまいが向きそうだなと思いました。
●ハサミは、回転させるとキュッとくびれができることを想定して選びました。

3Dプリンターを用いて実際のプロダクトにするためのステップについて説明します。まずモチーフを30ほどの多角度から静止画で撮影。それらをつなぎ合わせて作成した3Dデータが、中央と右のものです。右のデータを画面上で回転させ、花瓶状の3Dデータへ発展させます。それをもとに花瓶を制作していきます。

“ROTER PRODUCTS”制作過程 招き猫

広告の仕事でも、自分の好きを提案してみる価値がある


—“NEWSPACE”プロジェクトで実際に「生理的に好き」を形にしてみた感想は?

自分の頭の中で妄想していたものを表出し、完成させることができたのはありがたくも貴重なチャンスでした。

「次はあんなものを回転させてみよう」とか「ランプシェードにしてみたい」とか、新たな発想が生まれたり。また、既存の商品から“ROTER PRODUCTS”を制作し、広告や販売促進に活用することもできると考えています。自分の領域のひとつとして「このような技法があります」と言えるようになるのかな、と。

“NEWSPACE”プロジェクトでは皆さんが独創的なプロトタイプを発表しており、ハタから見ると「一体何をやっているの?」と思われることがあるかもしれません。でもこのように自由な実験をする場が、凝り固まった発想を解放するチャンスになると感じました。

電通のアートディレクターは多くが美大卒で、グラフィックデザインだけをやってきたわけではありません。いろいろな能力や発想を持っているのに、可能性を限定してしまうのはもったいないですよね。

受注する仕事にはさまざまな制約がありますが、一度は自分の「生理的に好き」を盛り込んでアプローチしてみる価値があると思っています。私たちが持っている独自の目線で提案すると、意外に喜ばれたり、受け入れてもらえたりすることがあるので。



情報を伝える+αの感性が既成概念を変え、人を動かす


—アートディレクション、アートディレクターの仕事の本質はどのようなものだと思いますか?

これまで広告会社におけるアートディレクターの仕事の領域は平面、グラフィックに偏ったところがありました。私の仕事に関しては、ここ数年、新店舗のブランディングやパッケージデザインなどもやらせていただく機会が増えてきました。

最近では渋谷スクランブルスクエア B2F 東急フードショーエッジ内にオープンした北海道のコロッケ屋さん「COROMORE」のブランディングや、2019年の3.11に開催されたYahoo!のイベントのアートディレクションなどを手掛けています。六本木ヒルズで実施された「Yahoo!防災ダイバーシティ」のイベントはTokyo ADC賞ノミネートを頂くことができました。

「COROMORE」のポスター
「COROMORE」のポスター
「COROMORE」の紙袋
「COROMORE」の紙袋

どのような切り口で防災のイベントをつくるかを考えた時、Yahoo!の検索履歴から防災にも多様性が求められているということに気付いたんです。例えば、がれきでペットがケガをしてしまったとか、高齢者に乾パンは固すぎて食べられなかったとか…。そこで、防災の情報やグッズを描いた100種類以上のイラストカードを用意し、訪れた人に自分が必要なものを選んで持ち帰ってもらうスタイルを提案しました。

「Yahoo!防災ダイバーシティ」のイベント 
「Yahoo!防災ダイバーシティ」のイベント
防災情報・グッズのイラストカード
防災情報・グッズのイラストカード

後に「カードがすてきで欲しくなった」とか「選ぶのが楽しくて見て回っているうちに防災の知識がついた」という声をいただき、それはアートディレクションの力だったのかな?と感じました。

災害や防災は暗くなりがちな題目なので、イラストレーターの方たちには「できるだけポップなイメージで描いてください」とお願いしたんです。情報を伝えるものに対し、すてきだとか、かわいいという感覚が加わるだけで関心が高まったりします。そういう視点からアプローチできるのは、アートディレクターならではでないでしょうか?アートディレクションには誰かの気持ちを動かす力がある。私はそう思っています。
“ROTER PRODUCTS”へ興味を持っていただけたら、ぜひこちらまでご連絡ください。