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自販機大国ニッポンが大きく変化か…“減少ショック”の裏で進む、静かな構造改革

●この記事のポイント
・日本の自販機市場は販売低迷と人件費・燃料高騰で収益性が悪化し、コカ・コーラをはじめメーカー各社が自販機網の縮小と構造改革を進めている。
・自販機は定価販売で高利益を生む強みがあったが、ドラッグストアの台頭や生活動線の変化で売上が減少し、大規模な減損計上が不可避となった。
・今後は台数減少が続く一方、データ活用・キャッシュレス化・多機能化で「価値の高い自販機」への転換が進み、持続的なビジネスモデル再構築が焦点となる。

 日本の街角から、自動販売機が静かに姿を消し始めている。かつて「自販機大国」と呼ばれ、飲料メーカーにとっては“定価販売で高収益を生む最強のチャネル”だった自販機が、今や重荷へと変わりつつあるのだ。

 自販機網を最大規模で展開してきたコカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス(CCBJ)は、多額減損により大幅赤字に転落。背景には、販売低迷、人件費・燃料費の高騰、ドラッグストアの台頭、生活圏の変化など、多層的な構造問題がある。本稿では、戦略コンサルタントの高野輝氏に自販機ビジネスが直面する転換点と、これからの成長シナリオを読み解いてもらった。

●目次

「自販機大国ニッポン」に何が起きているのか

 日本は長らく、世界屈指の「自販機大国」として知られてきた。駅前、オフィス街、住宅地、山間部の集落に至るまで、24時間365日飲料や食品を供給する小売インフラとして、自販機は生活に溶け込んできた。

 とりわけ飲料メーカーにとって、自販機は単なる販売チャネルではない。「定価販売ができる高収益チャネル」であり、「自社ブランドの露出拠点」であり、「物流・営業網と一体になった収益装置」でもあった。

 なかでもCCBJは、自販機網の規模で他社を大きく上回ってきた。サントリー食品インターナショナルの自販機設置台数が約35万台とされるのに対し、CCBJは約65万台と、2倍近いネットワークを構築している。この巨大な自販機網こそが、同社の強みであり、利益の柱であり続けてきた。

 しかし、その「強み」が、今や経営の重荷へと姿を変えつつある。

CCBJの大幅赤字は「自販機ビジネスの転換点」

 CCBJは、2025年12月期連結決算で最終損益494億円の赤字見通しを公表した。前期の73億円の黒字から一転しての大幅赤字である。

 注目すべきは、本業の稼ぐ力はむしろ強まっている点だ。直近の2024年度第3四半期決算では、事業利益が前年同期比66.5%増と過去最高を記録している。価格改定効果によりケース当たり納価は全チャネルで改善し、「コカ・コーラ」「紅茶花伝」などの主力ブランドが販売を支えた。

 それにもかかわらず、営業利益は701億円の赤字、純利益は487億円の赤字。最大の要因が、自販機を中心とするベンディング事業で計上した約881億円の減損損失だ。

 つまり、「モノは売れていて、事業利益も増えているが、自販機という資産の価値を思い切って切り下げた結果としての赤字」という構図である。

 これは、単に一社の決算上のテクニカルな話にとどまらない。各社が長年「安定収益源」とみなしてきた自販機ビジネスが、構造的な見直し局面に入ったことを象徴している。

なぜ自販機は「儲かる装置」から「重荷」になったのか

 

 自販機の収益構造を整理すると、その脆さが見えてくる。

1.売上面の逆風
 ・ドラッグストア、ディスカウントストア、スーパーなどで、ペットボトル飲料が自販機価格より大幅に割安で販売されるようになった。
 ・消費者の節約志向が強まり、「日常的な飲料は店でまとめ買いし、どうしても必要なときにだけ自販機を使う」という行動が広がっている。
 ・オフィス街でも、コンビニやドラッグストアが増え、「自販機で定価購入する必然性」が弱まっている。

2.コスト面の逆風
 ・自販機は商品補充、売上回収、機器点検などで、人件費と輸送コストがかかるビジネスである。
 ・近年の人件費上昇、トラックドライバー不足、燃料価格の高止まりなどが重なり、補充・回収コストがかさむ一方になっている。
 ・電気料金の上昇も追い打ちをかける。冷却・加温機能を持つ自販機は、常時稼働するだけに電力コストの影響が大きい。

3.台数が多いほど「固定費」が重くのしかかる構造
 ・自販機は設置台数が多いほど販売機会が増える半面、「眠っている機械」も増える。
 ・売上が伸びない場所でも、機械の減価償却やメンテナンスは発生する。
 ・CCBJのように他社の倍近い自販機網を持つ企業ほど、売上減少とコスト増の板挟みを強く受けやすい。

 かつては「大量に設置し、定価で売るほど儲かる装置」だった自販機は、いまや「売上が伸びないのに固定費がかかる装置」へと性格を変えつつある。

 CCBJによる大規模な減損は、「今後、自販機ビジネスの収益性が過去ほど期待できない」と経営が判断した結果とも読める。

日本の自販機市場に起きている構造変化

 自販機減少の背景には、個別企業の事情を超えた環境変化がある。主なポイントを整理しておきたい。

① 消費チャネルのシフト
 ドラッグストア、ディスカウントストアの台頭は、自販機にとって最大の逆風の一つだ。
 これらの業態は薄利多売を前提に、ペットボトル飲料を自販機価格の半額近くで販売するケースも珍しくない。

 また、コンビニエンスストアは、ホットスナックやコーヒーとセットで飲料を販売するなど、付加価値を上乗せした売り方で自販機から顧客を奪っている。「冷たい飲み物がほしい」というニーズだけなら自販機で足りたが、いまや「ついで買い」や「まとめ買い」が当たり前になりつつある。

② キャッシュレスとスマホの浸透
 かつて自販機は、「小銭さえあればすぐ買える」手軽さが強みだった。しかしスマホ決済が普及するなかで、この優位性は薄れている。

 コンビニやドラッグストアでは、交通系ICカードやQRコード決済でスムーズに支払える。
 一方、自販機は長らく現金中心で、キャッシュレス対応に出遅れた側面がある。近年はキャッシュレス対応自販機も増えてきたが、機器の入れ替えや決済手数料など、新たなコストを生む側面もある。「キャッシュレス対応=即座に高収益化」とは限らないのが現実だ。

③ 人口減少と生活圏の変化
 人口減少と働き方の変化も、静かに自販機需要を削っている。地方の人口減少で、路地裏や住宅街にある自販機の売上はじわじわと低下している。
 コロナ禍以降、オフィスへの出社が減り、オフィスビル内やその周辺の自販機の売上も影響を受けた。深夜営業の飲食店が減ったことで、夜間の自販機需要も細っている。
 自販機は「人の流れ」に依存するビジネスであり、生活動線の変化がそのまま売上の変化につながる。

各社は自販機をどう見直そうとしているのか

 では、自販機ビジネスはこのまま縮小していくしかないのだろうか。メーカー各社の動きをみると、「やみくもに台数を減らす」のではなく、「質への転換」を模索している様子が見て取れる。

① 採算管理に基づく「選択と集中」
 まず進んでいるのが、自販機の「選択と集中」である。
 ・売上が一定水準に満たないロケーションの自販機は撤去し、採算の良い立地に資源を集中する。
 ・同じエリアに複数台ある場合、台数を絞って補充や回収ルートを効率化する。
 ・老朽化した機械は更新せず、そのまま撤去するケースも増えている。

 CCBJの大規模減損も、こうしたネットワークの見直しを前提にした「負の資産の一括処理」といえる。一度バランスシート上のしがらみを整理し、収益性の高いネットワークへの再編を加速させる狙いが透けて見える。

② IoT・データ活用による「スマート自販機化」
 次の柱が、デジタル技術を使った高付加価値化だ。
 ・在庫情報や販売データをリアルタイムで取得し、補充ルートや商品構成を最適化する。
 ・気温や天候、時間帯に応じて売れ筋の商品を変える「ダイナミック・マーチャンダイジング」に取り組む。
 ・デジタルサイネージ機能を搭載し、広告メディアとしても収益化を図る。

 将来的には、広告収入やデータ活用の価値を組み合わせることで、飲料販売以外の収益源を取り込む動きが強まる可能性が高い。

③ キャッシュレス・サブスクとの連携
 自販機を、キャッシュレスやサブスクとの接点として活用する動きもある。
 ・スマホアプリと連携したポイント施策や、ドリンクチケットのバンドル販売。
 ・企業向けに「社員専用の割引自販機」を導入し、福利厚生と連動させるモデル。
 ・オフィスビルや大学などを対象とした「月額制ドリンクサービス」と自販機の組み合わせ。

「通りすがりに買う単発の自販機」から、「会員・IDに紐づく販売チャネル」へと位置づけを変えられるかどうかが、今後の収益性を左右する。

④ 飲料以外の領域への展開
 自販機という仕組みを、飲料以外にも広げる試みも着実に増えている。
 ・冷凍食品や総菜、スイーツなどのフード系自販機。
 ・地域特産品や土産物を販売する観光地の自販機。
 ・書籍や日用品、医薬品など、ニッチなニーズに応える自販機。

 飲料自販機の採算が厳しくなるなか、「箱」としての自販機をどう活用するか。ここには、メーカーだけでなく流通・外食・観光業など異業種連携の余地も大きい。

自販機は本当に「衰退ビジネス」なのか

 こうして見ると、自販機市場は確かに成熟・縮小フェーズにある。しかし、それは「ビジネスとして終わり」という意味ではない。

 自販機には、ほかのチャネルに代替しづらい強みがある。

1.24時間365日、無人で販売できる
 人手不足が深刻化するなか、無人で回る販売チャネルである自販機は、労働集約的な店舗ビジネスの一部を代替しうる存在でもある。

2.災害時のインフラとしての役割
 災害時に無料開放される「災害対応自販機」は、すでに各地で導入が進んでいる。電源や通信を工夫すれば、防災インフラとしての価値はさらに高まる。

3.インバウンド需要との相性
 日本の「自販機文化」は、訪日客にとっては一種の観光資源でもある。キャッシュレスや多言語対応が進めば、インバウンド向けの収益源としてもポテンシャルは残る。

 重要なのは、「台数を増やしてボリュームで押すモデル」から、「価値の高い場所に、価値の高い機能を持った自販機を配置するモデル」への転換を、どれだけ早く・徹底的に進められるかだ。

CCBJは「負の遺産一掃」で攻めに転じられるか

 今回のCCBJの大幅赤字は、短期的にはインパクトが大きい。だが視点を変えれば、これは「自販機ビジネスを再成長させるための前向きなコスト」とも解釈できる。

・自販機関連の減損を一気に計上することで、将来の減価償却負担を軽くする。
・採算の悪い自販機を整理し、ネットワーク全体の収益性を底上げする。
・余力を、IoT・キャッシュレス・新サービスなど攻めの投資に振り向ける。

 本業の飲料ビジネス自体は、第3四半期時点で事業利益が過去最高を更新している。つまり、「売れる商品」と「ブランド力」は依然として強い。課題は、それをどのチャネルで、どのようなコスト構造で売るかという設計にある。

 価格改定で単価を引き上げただけでなく、自販機以外のチャネルでの販売拡大、商品ポートフォリオの最適化なども進めることで、「自販機依存からの脱却」を図りつつあるとみることもできる。

業界全体の未来予想――「台数減少」と「価値の高度化」が同時進行

 今後の自販機業界を展望すると、次のようなシナリオが合理的だろう。

1.設置台数は緩やかに減少
 採算の合わないロケーションからの撤退が進み、全体の台数は中長期的に減少傾向が続く可能性が高い。特に人口減少が激しい地方や、コンビニ・ドラッグストアが密集する都市部の“中途半端な立地”は整理対象になりやすい。

2.残る自販機の「一台あたり収益」は向上
 利益の出るロケーションに絞り込むことで、一台あたりの売上・利益は逆に改善していく。キャッシュレス決済やアプリ連携でリピート率を高める工夫も進むだろう。

3.「飲料+α」を売るプラットフォーム化
 飲料だけでなく、冷凍食品、軽食、健康食品、地域商品など、多様な商品を扱う「ミニ無人店舗」としての自販機が増える。デジタルサイネージによる広告収益や、データビジネスとの連携も視野に入る。

4.災害・防災インフラとしての位置づけが強化
 自治体やインフラ企業との連携により、「平時は販売、非常時はインフラ」という役割を担う自販機が増える。電源・通信技術の進化によって、その重要性はむしろ高まる可能性がある。

 端的に言えば、「数は減るが、残る自販機の役割と価値は高くなる」という方向に進む公算が大きい。

自販機ビジネスから見える「日本企業の課題」

 自販機の急減は、一つの産業の話にとどまらない。ここには、日本企業が直面している構造的な課題も透けて見える。

・長年成功してきたビジネスモデルに固執し、環境変化への対応が後手に回るリスク。
・資産を積み上げることで強くなる一方、その資産が一気に「重荷」に変わる構造。
・人件費・燃料費などコスト構造の変化に対応した、抜本的なビジネスモデルの見直しの必要性。

 CCBJが今回示したように、「負の資産を一気に処理し、次の成長に向けて身軽になる」という意思決定は、他の業界にも共通する重要な示唆を含んでいる。

「自販機が消える日本」ではなく、「役割が変わる日本」へ

「自販機が減っている」と聞くと、ついノスタルジーを感じてしまう。しかし、それを単なる衰退の物語として描いてしまうのは早計だ。

・自販機ビジネスは、量から質へ。
・定価販売の“装置”から、データとサービスを組み合わせた“プラットフォーム”へ。
・メーカーの“収益の柱”から、社会インフラとしての役割を併せ持つ“公共性の高い装置”へ。

 そうした変化の入口に、日本の自販機ビジネスは立っている。

 コカ・コーラ ボトラーズジャパンHDの減損は、その痛みを伴う第一歩だ。自販機大国ニッポンが、どのような「次のかたち」を描いていくのか。それは飲料メーカーだけでなく、小売、物流、自治体、そして私たち消費者一人ひとりの選択がつくり出していく未来でもある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)

地方から空の常識を変える…トキエアが“あえて”東京を経由しない旅に挑むワケ

●この記事のポイント
・新潟発の地域航空会社トキエアが、地方同士を直接結ぶ新しい航空ネットワークで「空の民主化」に挑む。低コスト構造とデータ活用で、地方航空を持続可能な産業へ転換しようとしている。
・スタートアップLANDの和田直希氏は、航空事業を“地域DXの入口”と位置づけ、チャーターアプリや観光連携など空を起点にしたプラットフォーム構想を推進。航空を体験経済の基盤に変革する。
・異業種人材の融合や安全第一の文化など、スタートアップ的思考と航空業界の価値観を掛け合わせた組織づくりも進行中。トキエアは“地域航空の第三極”として地方創生に挑むモデルケースとなりつつある。

 地方から日本の空を変えようとしているスタートアップがある。新潟を拠点とする地域航空会社「トキエア」、そしてその経営に深く関わるスタートアップ「LAND」だ。両社を率いるのは、家具メーカーの経営からエンタメ、テックまで多彩な分野を渡り歩いてきた起業家・和田直希氏。

「航空をもっと身近に、誰もが空を自由に移動できる社会にしたい」と語るそのビジョンには、スタートアップ経営者にも共通する“市場の読み方”と“構想力”がある。

●目次

地域と地域をつなぐ、「都市を介さない」航空ネットワーク

 トキエアが運航するのは、東京を起点としない地方路線だ。新潟を中心に、名古屋(中部国際空港)、神戸、札幌(丘珠)を結び、「地域と地域を直接つなぐ」ことを主眼に置く。

「丘珠空港は札幌市内から30分。アクセスの良さが圧倒的な強みです」と和田氏は語る。

 これまで地方空港は“補助線”としての位置づけにとどまりがちだった。だがトキエアは、「地方同士をダイレクトに結ぶ」という発想で需要を掘り起こしている。

「首都圏を外す戦略は大胆に見えますが、既存路線のデータを見れば合理的です。例えばセントレアと熊本を結ぶ便では、ピーク時に年間10万人超が利用していたが今年撤退しています。そこに72人乗りのターボプロップ機を1往復飛ばすのは、十分に成立する規模なんです」

 この「地域間直行便」という発想は、航空ネットワークの再構築を意味する。10月度は前線搭乗率7割を超え、黒字化への道筋が見えているという。

プロペラ機で挑む「小さな市場の最適化」

 和田氏がトキエアに出資を決めた理由のひとつが、ビジネスモデルの合理性だ。「航空業界は赤字のイメージが強いですが、トキエアは利益が出る構造を持っている。プロペラ機は燃料コストがジェット機の半分以下。人口減少下でも採算が取れるスケールなんです」と説明する。

 黒字化の鍵は「稼働率」と「搭乗率」。1機あたりのフライト回数を1日4回から6回、最終的には8回へ増やし、搭乗率70%を目標とする。

「最大のボトルネックは人材。パイロットをはじめ運航管理、整備士など、地道に育てていく必要があります」

 スタートアップ的な発想で見れば、トキエアは“ユニットエコノミクス”の設計から始まった事業だ。高コストな大規模輸送ではなく、最小限のコストで最大の接続性を生むモデルを追求している。

「空のUber」を目指す、“空の民主化”構想

 和田氏が繰り返し口にするキーワードが「空の民主化」だ。「空をもっと近いものにする。誰もが気軽に利用できる空を作りたい」と語る。

 トキエアでは、法人向けチャーターアプリ「SORA PASS(仮)」や「離島ホッピングツアー」、地域連携型アプリ「TOKILAND」などを展開予定だ。格安で46人(or72人)がチャーターできる「空のシェア便」も構想の一つであり、かつて一部の富裕層の特権だったチャーター体験を、誰もが手の届くものにする。

「チャーターやビジネスジェットは“富裕層専用”という前提を崩したい。スタートアップらしいディスラプションを、空の領域で実現したいんです」

 この発想は単なる交通の話ではない。「フェスのチケット付き航空券」「地域体験と連動した観光パッケージ」など、航空を“体験経済”の起点にする構想もある。まさに「空のUber」と呼ぶにふさわしいサービスエコシステムを目指している。

スーパーアプリ構想とデータ戦略:地域DXの中核へ

 和田氏は、航空事業を「移動プラットフォーム」ではなく、「地域DXの入口」と位置づける。「交通・宿泊・観光を統合し、誰もがスマホから旅の全体設計を完結できるようにしたい。AIや時系列データの活用で、需要予測やダイナミックプライシングも導入していく予定です」と語る。

 和田氏はもともとIoT・エンタメ事業を手がけており、データ制御技術に強みを持つ。そのノウハウを航空に転用し、運航効率を上げるだけでなく、地域の観光・交通データを可視化し、自治体や地元企業への還元を目指すという。「移動データを地域経済の活性化に使うことができる」と和田氏は言う。

 地方創生を“空からのDX”で進めるという発想は、全国の中小空港に新しい経済循環をもたらす可能性を秘めている。

異業種人材の融合がもたらす、組織変革の実験

 トキエアの運営体制には、LANDの人材が深く関わっている。財務や管理部門のメンバーが航空事業に入り込み、オペレーション改善を進めているという。「エンタメやテック業界出身者が、航空の現場で数字を見ながら改善していく。最初は文化の違いもありましたが、良い化学反応が起きています」と和田氏。

 スタートアップ出身者が持つ“数値感覚”と、航空業界が培ってきた“安全第一”の姿勢。この二つが融合することで、「スピードとリスク管理を両立する組織」への進化が始まっている。「航空業界の経営会議は、リスクに対して徹底的に議論する。スタートアップに足りない“安全に対する哲学”を学ばせてもらっている」とも語る。

 異業種人材の融合は、航空に限らず多くの産業で求められるテーマだ。「規制産業にスタートアップ思考を持ち込む」その実践例としても、トキエアの挑戦は注目に値する。

「東京の二番手ではなく、自らの強みで勝つ街に」

 和田氏の地方創生観は、一般的な「地域支援」とは異なる。

「“東京の便利さを享受する地方”ではなく、“東京より便利な地方”を作ることが重要。それが本当の意味での地方創生だと思います」

 和田氏はインドネシアでの経営経験を持ち、現地でIT産業が急成長する様を体感してきた。「当初は不便だったけれど、ITによって“日本より便利”になった瞬間に都市が一気に伸びた。新潟でも同じことが起こせるはず」と語る。

 その視線の先にあるのは、単なる航空事業の成功ではない。「空港を中心に、街のサービスを再設計する。まちづくりそのものに関わっていきたい」と意欲を見せる。すでに地元企業との共同イベント「燕三条ジャパンフェス」では50社以上が協賛。教育機関との連携も進み、地域全体を巻き込む動きが広がっている。

堀江貴文氏との連携、そして「空の次のステージ」へ

 トキエアには実業家の堀江貴文氏も取締役として参画している。

「堀江さんとは毎日やり取りしています。パイロット訓練中でして、技術的な知見が非常に深い。“飛行機をどう作るか”という領域で、最前線のアドバイスをいただいています」

 長期的には、個人でも操縦できる小型機(LSA)の普及を視野に入れている。「誰もが車のように飛行機を操縦できる未来を。アメリカではすでに法律が整いつつあります。「まずはアメリカでLSAを飛ばしたい」と和田氏は語る。

“空の民主化”の最終形とは、移動そのものが社会インフラになること。航空が「地域をつなぐ手段」から「新しい暮らし方の基盤」へと変わる時代を、彼は見据えている。

「地域航空の第三極」を目指して

「この10年で、地域航空=トキエア、というポジションを確立したい」

 和田氏は明確に語る。既存の大手(JAL・ANA・スカイマーク)やLCC(Peach・ジェットスター)とは異なる、“第三の選択肢”を地方から生み出す挑戦だ。

 それは単に航空業界の話にとどまらない。大都市への依存を断ち切り、地方から産業を再設計する動きの象徴でもある。「空の移動をもっと自由に、地方をもっと主役に」──その構想は、地方発スタートアップが国家規模の課題に挑む、新しいモデルケースになりつつある。

 和田氏の言葉の根底には、「制約を前提に再設計する」という起業家の本質がある。補助金や制度に頼らず、現場の需給とデータから新しい事業構造を描く。それは、どの業界のスタートアップにも通じる発想だ。

「航空」という巨大産業に、民間発の構想力とスピードで挑むトキエアとLAND。その実験は、地方創生とスタートアップ経営の交点にある。彼らが見ているのは、“空の上”ではなく、“日本の未来”そのものだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

滑走路で飛行機がガタガタ揺れる“本当の理由”とは?風のせいではありません… – ニュースな本

出張や旅行、遠方への帰省などで飛行機にのる機会が多い人でも、意外と知らないことが多いのが「空の世界」です。機体や操縦をめぐる疑問から、航空業界の裏側まで、あらゆる方向から飛行機の謎に迫った『乗ってるだけじゃわからない 飛行機と空港のすごい秘密』(青春出版社)のなかから、飛行機と空港にまつわる、とっておきの話を紹介します。