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成年後見制度の限界、認知症800万人時代に露呈する「資産管理の盲点」

●この記事のポイント
認知症800万人時代において、成年後見制度の「終身契約」「月額2万〜6万円の報酬負担」「資産凍結に近い硬直運用」といった構造的欠陥が顕在化。親族排除や死後手続きの空白といった実務上のリスクを踏まえ、家族信託や任意後見など代替手段と事前設計の重要性を解説する。

 認知症800万人時代、制度の前提が揺らぎ始めている。「親の口座が凍結され、介護費用が引き出せない」――。高齢化が進む日本において、この問題はもはや特殊なケースではない。

 内閣府の推計によれば、認知症の高齢者は2025年前後に約700万人、2030年代には800万人規模に達すると見込まれている。これは65歳以上の約5人に1人に相当する水準だ。こうした状況の中、判断能力が低下した高齢者の財産や権利を守る仕組みとして、国が整備してきたのが「成年後見制度」である。

 制度の趣旨は明確だ。本人の財産を不正利用や詐欺から守り、生活を支える。しかし、現場ではこの制度が必ずしも家族の期待通りに機能していない実態が、各種報道や実務家の指摘から浮かび上がっている。

 制度そのものの設計が、現代の家族構造や資産管理ニーズと乖離し始めている可能性がある。

●目次

利用者が直面する「現実」と制度のギャップ

 成年後見制度は大きく「法定後見」と「任意後見」に分かれるが、問題が顕在化しやすいのは、判断能力低下後に家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見」である。

 最高裁判所の統計によると、後見人のうち弁護士や司法書士などの専門職が占める割合は依然として高く、親族後見人の比率は低下傾向にある。これは不正防止という観点では合理的だが、家族の関与が制限される構造にもつながっている。

相続コンサル タントでファイナンシャルプランナーの田中真一氏は次のように指摘する。

「制度は“財産保全”を最優先に設計されているため、本人や家族の生活の質(QOL)をどう高めるかという視点は相対的に弱い。結果として、“安全だが硬直的”な運用になりやすい」

 この「安全性重視」が、現場では別の問題を生んでいる。

見過ごせない「3つの構造的リスク」

1.事実上の終身契約という拘束性

 成年後見制度の最大の特徴は、一度開始すると原則として本人が亡くなるまで継続する点にある。途中での解任は、不正や著しい不適格性がない限り極めて限定的だ。

 つまり、後見人との相性が悪くても、利用者側から柔軟に変更することは難しい。ビジネスに例えれば、「契約解除がほぼ不可能な外部委託契約」に近い構造といえる。

2.報酬体系の不透明性と継続コスト

 後見人への報酬は家庭裁判所が決定し、一般的には月額2万〜6万円程度が目安とされる。資産額や業務量に応じて加算される場合もある。

 この費用は本人の財産から支払われるため、長期化すれば数百万円単位の支出となる可能性もある。

「本来は資産を守るための制度が、結果として“固定費として資産を削り続ける構造”を持っている。特に中間層にとっては無視できない負担だ」(同)

3.「資産維持」を優先する硬直的運用

 後見人の基本義務は「本人の財産を減らさないこと」にある。このため、資産を取り崩す行為には慎重な判断が求められる。

 しかしその結果、例えば以下のような支出が制限されるケースもある。

 ・自宅のリフォーム
 ・家族との旅行
 ・孫への贈与

 いずれも生活の質を高める支出だが、「資産減少リスク」として制約される可能性がある。

「制度は“守ること”には強いが、“使うこと”には極めて消極的。ここに家族との認識ギャップが生まれる」(同)

家族が直面する「想定外のシナリオ」

 制度利用後に発生するトラブルは、必ずしも例外的ではない。

親族が後見人になれないケース

 申し立て時に親族が候補として挙げられても、家庭裁判所が第三者専門職を選任するケースは少なくない。理由としては、親族間の利害対立リスクや資産規模の大きさなどが挙げられる。

 その結果、家族は意思決定への関与が限定され、「当事者でありながら外部化される」状況に直面する。

死後手続きにおける制度の空白

 重要な論点として見落とされがちなのが、後見制度の「終了タイミング」である。後見人の権限は、本人の死亡と同時に消滅する。

 しかし実務上、以下のような対応はすべて家族に委ねられる。

 ・葬儀手配
 ・医療費・施設費の精算
 ・遺品整理
 ・相続手続き

「利用者側の期待として“最後まで面倒を見てくれる”というイメージがあるが、制度上はそこまでカバーしていない。このギャップは大きい」(同)

制度を使う前に検討すべき「現実的な選択肢」

 こうしたリスクを踏まえると、成年後見制度は「唯一の解決策」ではない。むしろ複数の手段を組み合わせる視点が重要となる。

家族信託という柔軟な選択肢

 近年注目されているのが「家族信託」である。親が元気なうちに、信頼できる家族に財産管理を託す契約を結ぶ仕組みだ。

 特徴は以下の通り。
 ・家庭裁判所の関与が不要
 ・柔軟な資産運用が可能
 ・資金の使途を事前に設計できる

「後見制度が“守る仕組み”だとすれば、家族信託は“使いながら守る仕組み”。特に中間層以上の資産管理では有効性が高い」(同)

任意後見契約の活用

 判断能力があるうちに契約しておく「任意後見」も有効だ。将来の後見人を自ら指定できるため、第三者選任リスクを抑えられる。

 ただし、実際の発効時には家庭裁判所の監督が入るため、完全な自由度があるわけではない点には留意が必要だ。

事前の意思設計と家族間の合意形成

 最も重要なのは、「制度に頼る前の準備」である。

 ・資産の所在と管理方法の可視化
 ・医療・介護方針の共有
 ・家族間での役割分担の明確化

 これは企業におけるBCP(事業継続計画)に近い。“何かが起きてから対応する”のではなく、“起きる前に設計しておく”ことがリスクを最小化する。

結論:制度は「使うもの」であって「任せるもの」ではない

 成年後見制度は、本来必要不可欠な社会インフラである。しかし、その設計思想は「不正防止」と「財産保全」に大きく傾いており、現代の多様な家族ニーズに完全には適合していない。

 現在、政府内でも制度見直しの議論が進んでいるが、抜本的な改善には時間を要する可能性が高い。

 重要なのは、制度を過信しないことだ。資産をどう守るかだけでなく、どう使うか。誰が意思決定を担うのか。その主導権をどこまで外部に委ねるのかーー。これらを事前に設計することが、結果として最大のリスク回避につながる。

 認知症は予測できない形で訪れる。だからこそ、「その時に備える設計力」こそが、これからの家族に求められる最も重要な資産防衛戦略といえる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=田中真一/相続コンサルタント、ファイナンシャルプランナー)

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