カテゴリー: ビジネスジャーナル
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「悪魔合体」は炎上ではなく戦略?メルカリ×駿河屋提携の先にある越境EC構想
●この記事のポイント
・Xで「悪魔合体」と話題になったメルカリ×駿河屋提携。その真意を取材すると、越境取引900億円規模へ拡大する中で、日本のホビー・エンタメを「信頼の流通インフラ」として世界へ届ける戦略が見えてきた。
・メルカリは駿河屋との提携を「最重要戦略」と位置づける。数千万点の在庫と鑑定力、AIと越境ECを組み合わせ、真贋不安が残る海外市場で「安心して買える日本文化」の確立を狙う。
・海外で高まる日本アニメ・ホビー需要。その一方で流通の信頼不足が課題だった。メルカリ×駿河屋は台湾・香港から展開を始め、リアル店舗も視野に入れた新たな世界展開モデルを構築する。
「悪魔合体」「駿河屋とメルカリ」──。12月17日、X(旧Twitter)上でこのワードがトレンド入りした。ホビー・エンタメ分野で圧倒的な在庫量と鑑定力を誇る駿河屋と、国内最大級のCtoCマーケットプレイスであるメルカリ。その資本・業務提携は、驚きと期待、そして一部には戸惑いをもって受け止められた。
一見すると異質にも映るこの組み合わせだが、BUSINESS JOURNAL編集部の取材に対し、メルカリは「話題先行の提携ではない」と強調する。むしろ今回の決断は、同社が描くグローバル戦略の核心に位置づけられているという。
●目次
- 越境取引900億円時代、その7割を占める「ホビー・エンタメ」
- 「日本の宝を、不透明な市場から守る」という発想
- 海外市場の壁は「人気」ではなく「信頼」
- 台湾・香港から始める「成功モデルづくり」
- AIが支える「数百万点」のグローバル流通
- リアル店舗は「文化を体験する場所」
越境取引900億円時代、その7割を占める「ホビー・エンタメ」
編集部の取材に対し、メルカリは今回の提携を次のように説明した。
「今回の提携は、メルカリがミッションとして掲げる『新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る』ための最重要戦略です」
背景にあるのは、同社の越境取引の急拡大だ。過去3年で取引額は15倍に成長し、現在は年間約900億円規模。そのうち、約7割を占めているのが、日本発のホビー・エンタメ商品だという。
「この爆発的な需要に対し、数千万点の在庫と3,000万件超の商品カタログデータ(順次拡大予定)、そして高度な鑑定眼を持つ駿河屋さんとの連携は、今後グローバルに展開していく上で欠かせない要素だと思います」
需要はすでに世界中に存在する。しかし、それを“正しく届ける仕組み”が足りていなかった。メルカリはそのギャップを、今回の提携で埋めにいく構えだ。
「日本の宝を、不透明な市場から守る」という発想
SNS上では「悪魔合体」といった刺激的な言葉が飛び交ったが、メルカリの受け止めは冷静だ。
「一部のSNSでの内容については、社内でも単なる話題性にとどまらず、お客さまにとってより良い体験を実現することを重視しています」
同社が目指すのは、規模の拡大そのものではない。
「この提携により、日本国内の確かな鑑定基準に基づいた商品を、メルカリのテクノロジーで世界へ繋ぎます。『日本の宝(コンテンツ)を、不透明な市場から守り、正しく世界に届ける』。この信頼のインフラを構築することこそが、今回の提携を通じて実現したい世界です」
海外市場では、需要の高さとは裏腹に、真贋や価格の妥当性に対する不安が根強い。だからこそ、鑑定と流通を一体で設計し直す必要がある、という発想だ。
海外市場の壁は「人気」ではなく「信頼」
メルカリは、日本のアニメやゲームカルチャーの広がりについて、次のように分析する。
「日本のアニメやゲームをはじめとするカルチャーは、世界中で高い支持を得ており、動画メディアやSNSの普及によって、その広がり方や熱量は近年さらに加速していると認識しています」
一方で、流通の現場では課題も顕在化している。
「グローバル市場においては、その需要に対して『信頼できる商品が必ずしも十分に行き渡っているとは言えない』という課題があります。その結果、海外のファンが『本物かどうか判断しづらい』『価格が適正かわかりにくい』といった不安を抱えたまま、取引を行わざるを得ない状況が生まれてきました」
今回の提携は、単なる越境販売強化ではない。
「単に商品を海外に並べることが目的ではありません。日本で長年培われてきた文化的価値や専門性を、安心・安全なかたちで世界に届けるための流通基盤を構築することにあります」
台湾・香港から始める「成功モデルづくり」
最初の展開先として選ばれたのは、台湾・香港だ。
「まずは、台湾・香港のように日本カルチャーへの理解が深く、越境ECの受容度も高い市場から展開を進め、そこで得られる知見をもとに、今後のグローバル展開のモデルケースを築いていきたいと考えています」
駿河屋の鑑定力と在庫、メルカリの越境EC基盤。この組み合わせによって、「世界中のファンが、まるで日本の店舗で商品を選ぶかのような信頼感をもって購入できる環境」をつくることが狙いだ。
AIが支える「数百万点」のグローバル流通
数百万点規模の商品を扱ううえで、テクノロジーの役割は大きい。
「数百万点規模の専門的な在庫を世界中に展開するには、テクノロジーによる支援が欠かせません」
メルカリは、AIを活用して駿河屋の商品カタログを多言語化・最適化し、出品や検索の精度を高める方針だ。
「また、鑑定についてもAIの活用で精度向上を検討しています」
“人の目”と“AI”を組み合わせることで、スケールと信頼性の両立を図る。
実店舗を中心に展開してきた駿河屋にとっても、今回の提携は大きな意味を持つ。
「実店舗を中心に展開してきた駿河屋にとって、今回の提携は、店舗で培ってきた専門性や在庫の価値を、より広い市場に届けていくための新たな選択肢だと考えています。地域や国境といった物理的な制約を超え、これまで接点のなかったお客さま層にも価値を届けられる可能性が広がります」
特に、日本のアニメやホビーへの関心が高い一方、流通インフラが未成熟な北米やアジア圏では、両社の強みが生きるという。
リアル店舗は「文化を体験する場所」
米国などで検討されているリアル店舗について、メルカリは次のように語る。
「単なる販売の場というよりも、日本のエンタメ・ホビーカルチャーや、その品質基準を体験できる場所としての役割を想定しています」
リアルな体験を通じて、「オンラインでの取引に対する理解や信頼を高め、マーケットプレイス全体の活性化につなげていきたい」という考えだ。
今回の提携を通じてメルカリが目指す姿は明確だ。
「単なる取引の場を超え、日本の多様な文化的価値を、最も信頼できるかたちで世界へ届ける流通の基盤となることです。国境を越えて、安心・安全にモノの価値が循環する社会を実現するため、駿河屋さんとともに、日本のリユース文化を世界へ広げていきたいと考えています」
「悪魔合体」という刺激的な言葉の裏側にあったのは、日本のコンテンツ流通を次の段階へ引き上げようとする、極めて現実的で長期的な戦略だった。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)
大量供給なのに値崩れしない東京オフィス市場…空室率2%台が示す企業行動の変化
●この記事のポイント
・東京のオフィス市場では大量供給が続くにもかかわらず、空室率は2%台まで低下し賃料も上昇中。「供給過剰説」が成り立たない背景には、企業のオフィス戦略の根本的変化がある。
・企業はコスト削減ではなく、人材獲得と生産性向上を目的に最新・高立地オフィスへ移転。港区や渋谷、丸の内では“満室状態”が常態化し、都心5区で激しい争奪戦が起きている。
・今後の焦点は新築移転後に生じる「二次空室」の行方。市場全体が崩れるのではなく、老朽ビルが淘汰される“選別の時代”が始まり、東京一極集中はなお続く可能性が高い。
いま、東京のオフィス市場で「常識」では説明のつかない現象が起きている。建設資材価格の高騰、人手不足、リモートワークの定着――。本来であれば、オフィス需要を冷やすはずの逆風が吹き荒れるなか、東京都心では今後5年間にわたり、かつてない規模の「超・大量供給」が予定されている。
通常であれば「供給過剰によるオフィス暴落」、いわゆる「2025年問題」が声高に叫ばれても不思議ではない。しかし、現実は真逆だ。空室率は下がり続け、賃料は2年近く上昇を続けている。
なぜ東京だけが、これほどまでに強いのか。その背景には、日本企業の「生き残り」をかけたオフィス戦略の劇的な変化がある。
●目次
- 過去5年を大幅に上回る「年16万坪超」という異次元供給
- 「空室率2%台」が示す、驚異的な需要吸収力
- 都心5区「争奪戦」のリアル…港区一極集中と“空室ゼロ”地獄
- 2026年へのカウントダウン…二次空室は“崩壊”か“選別”か
過去5年を大幅に上回る「年16万坪超」という異次元供給
商業用不動産大手コリアーズ・インターナショナル・ジャパンが公表した予測は、業界関係者に大きな衝撃を与えた。東京中心部(千代田・中央・港・新宿・渋谷・豊島・品川の一部)における、今後5年間の年間平均供給面積は16万6,800坪。過去5年間の平均(約12万3,700坪)と比べ、実に35%超の増加となる。
注目すべきは、その多くが大規模再開発によるハイグレードビルである点だ。大阪、名古屋、福岡といった地方中枢都市では、建設費の高騰を受け、新規プロジェクトの凍結や延期が相次ぐ。一方、東京ではデベロッパーがコスト増を織り込んだうえで、開発の手を緩めていない。
不動産ジャーナリストの秋田智樹氏はこう分析する。
「東京は賃料水準そのものが高く、長期で見れば建設費高騰を吸収できる前提が成り立つ。地方都市と同じ物差しで“供給過剰”を語ること自体が、すでに現実とズレています」
「空室率2%台」が示す、驚異的な需要吸収力
供給が増えれば空室が増える――。この市場原理が、現在の東京ではほとんど機能していない。
三鬼商事が発表した2025年11月時点の東京都心5区の平均空室率は2.44%。9カ月連続で低下し、事実上「満室」に近い水準だ。さらに平均賃料も22カ月連続で上昇しており、大量供給をものともせず、市場がそれ以上のスピードでオフィスを“飲み込んでいる”状況が続く。
この異常とも言える需要の正体を解くヒントが、森ビルが実施した「2025年 東京23区オフィスニーズに関する調査」にある。
同調査によれば、新規賃借の予定がある企業は全体の27%。注目すべきは、その移転理由だ。
・立地の良いビルに移りたい(33%)
・新部署設置・業容拡大(26%)
・設備グレードの高いビルに移りたい(25%)
かつて主流だった「賃料削減のための移転」は影を潜め、オフィスは今や人材獲得と生産性向上のための戦略投資へと位置づけが変わった。
都内でオフィスを構えるスタートアップ企業の経営者は、こう打ち明ける。
「リモートワークで十分だと思っていた時期もありましたが、優秀な人材ほど“集まる価値のある場所”を求める。最新ビルの立地や環境は、どんな求人広告よりも効くんです」
秋田氏も、「オフィスの役割そのものが変わった」と指摘する。
「企業が欲しいのは“机を並べる箱”ではない。社員を呼び戻し、外部からも選ばれる“舞台装置”です。その機能を満たせるビルは、実は限られています」
この結果、最新スペックの大型ビルへ需要が集中し、玉突き移転が加速している。
都心5区「争奪戦」のリアル…港区一極集中と“空室ゼロ”地獄
最新データからは、都心5区のなかでも明確な「勝ち組」と「調整局面」が浮かび上がる。
港区:東京で最も“街が生まれ変わっている”爆心地
2025年度上半期、都心での移転先の過半数が港区に集中。浜松町ビルディングなどの再開発に伴う退去企業が、そのまま麻布台ヒルズや虎ノ門ヒルズへ移る「港区内循環」が常態化している。
渋谷・千代田:空室を探すこと自体が困難
渋谷区はIT・クリエイティブ企業の集積が続き、空室率は2%を下回る水準。千代田区(丸の内・大手町)では外資系金融・コンサルの拡張意欲が根強く、坪単価3万円超を維持している。
エリア格差が示す「選ばれる条件」
一方、中央区や新宿区では、築年数の古い中小ビルを中心に空室が目立ち始めている。
「立地」「設備」「環境」の3拍子が揃わないビルは、同じ都心でも競争力を失いつつある。
2026年へのカウントダウン…二次空室は“崩壊”か“選別”か
今後、市場の最大の焦点となるのが、新築ビルへの移転後に残る二次空室(既存ビルの空き)だ。これまでは別の企業が埋めることで需給が保たれてきたが、供給がさらに増えれば、Bクラス以下のビルは賃料を下げても埋まらないリスクを抱える。
秋田氏はこう警鐘を鳴らす。
「今後起きるのは“オフィス不況”ではなく、“オフィスの選別”です。市場全体が崩れるのではなく、価値のないビルだけが静かに淘汰されていく」
現在の東京オフィス市場は、単なるバブルではない。企業が生き残りをかけ、最高の環境を奪い合う戦略的な椅子取りゲームだ。
賃料上昇はどこまで続くのか。2026年に向けた超大量供給は、市場を冷やすのか、それとも東京一極集中をさらに加速させるのか。
都心の空を埋め尽くすクレーンの群れは、日本経済の「再生」の象徴か、それとも「過熱」の前兆か――。その答えは、これから竣工を迎える数々のメガプロジェクトの稼働率が、静かに示すことになるだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)