Netflixで全10話、一挙配信がスタートした『カウボーイビバップ』(以下『ビバップ』)は、近未来を舞台にしたSFドラマだ。
宇宙船ビバップ号で暮らすスパイク(ジョン・チョー)とジェット(ムスタファ・シャキール)はしがない賞金稼ぎ。生活のために賞金首を追っていたが、実はスパイクには秘密の過去があった……。
『ビバップ』は1998~99年にかけて放送されたアニメで、筆者も当時楽しく観ていた。『機動戦士ガンダム』や『新世紀エヴァンゲリオン』といった大ヒット作と比べると知る人ぞ知る作品だったが、アメリカを中心とした海外での評価は高く、監督の渡辺信一郎は映画『ブレードランナー2049』の前日譚となる短編アニメの監督に抜擢された。
そんな『ビバップ』の実写ドラマを『プリズン・ブレイク』などを手がけたマーティ・アデルスタインが率いるトゥモロースタジオが制作し、Netflixで全世界に配信されると知ったときは興奮した。
国内で漫画やアニメを実写化した作品は、予算やスケジュールの都合もあってか、残念なものが多かった。しかし、海外ドラマを作っているスタッフがNetflix制作で豊潤な予算と余裕のあるスケジュールで作れば成功し、世界規模のヒットも見込めるのではないか? と期待が高まった。
その意味でも、ドラマ版『ビバップ』は国内コンテンツの海外展開の今後を占う重要な作品だったのだが、配信された作品を観て複雑な気持ちになった。
アニメの再現度が高いドラマ版『ビバップ』
アニメや漫画の映像化をする際に大きな注目が集まるのが“再現度”である。 設定だけ借りて作り手が好きなことをやるのか? 原作を忠実に再現することを優先するのか? 『ビバップ』のアプローチは後者で、世界観や衣装はアニメ版に大きく寄せている。
『ビバップ』の大きな魅力を占めている菅野よう子の音楽も使用されており、「Tank!」が流れるOPはアニメ版のOPに対するオマージュとなっている。山寺宏一、林原めぐみといったアニメ版の声優が吹き替えを担当しており、レイアウトもアニメを再現しているシーンが多い。
もちろん改変箇所もある。たとえば、スパイクを演じる韓国系アメリカ人のジョン・チョーを筆頭に各登場人物を演じる俳優の年齢はアニメよりも高めに設定されており、アニメでは肌の露出が多かった女賞金稼ぎのフェイ(ダニエラ・ピネダ)の衣装も露出を抑えたものに変更されている。
アニメでは許された無国籍テイストも世界配信されることを考慮してか、多様な人種が登場する世界となっており、現実のアメリカに近い世界となっているが、これらの改変はリブートとして正しいと感じた。
ドラマ版のスタンスを見ていると、『ビバップ』に対して愛情のあるスタッフが集まって映像化したことは理解できる。ただ、それが作品のおもしろさにつながっているかというと、話は別だ。むしろアニメの映像を再現することに固執するあまり、ドラマとしてのテンポが悪くなっており、全体的にどこかぎこちない。
これは尺の問題もあるだろう。アニメ版が1話25分弱であるのに対して、ドラマ版は40~50分前後。約2倍の放送時間の中にアニメ版のエピソードが細切れにして挟み込まれているため、どうにも詰め込み過剰でせわしなく感じる。この“詰め込み過剰”によって、ドラマ版『ビバップ』はアニメ版とは真逆の印象になってしまった。
たとえば第1話「カウボーイ・ゴスペル」はアニメの第1話「アステロイド・ブルース」を下敷きにしているのだが、アニメ版ではスパイクやジェットのバックボーンを説明せずに、薬物を強奪した賞金首の男が女と逃げる物語を淡々と見せることで、本作の世界観とスパイクとジェットのキャラクターを描いていた。
第1話の距離感は作品全体を貫いている。スパイクたちのバックボーンをギリギリまで語らず、映像と音楽の気持ちよさをベースに作品世界の雰囲気を描こうとしたのが、アニメ版『ビバップ』の粋なところだった。
対してドラマ版はとにかく饒舌で、スパイクたちの心情や境遇が全部台詞で語られる。アニメ版では背後に隠されていたスパイクの過去も描かれ、ライバルのビシャスと謎の女・ジュリアの関係が強く強調される。好意的に観るならば万人向けでわかりやすいのだが、アニメ版と比べると野暮に見える。
日本の映画やドラマは何でも台詞で説明してしまうと批判され、海外のドラマや映画は言葉の説明が最小限で映像で語ると言われてきた。だが、『ビバップ』は逆で、アニメ版の方が説明台詞は少なく、映像で語る作品となっている。
つまり、演出プランの違いによって、一見そっくりだが真逆の物語になってしまったというのがドラマ版の印象だ。SFドラマとしてはそれなりに楽しめたが、ファンとしては「こんなの『ビバップ』じゃない」というのが正直な気持ちである。
「海外でドラマ化されたからといって、必ずしも傑作になるわけではない」という苦い教訓を『ビバップ』は残した。せめてドラマ化をきっかけに、アニメ版を観る人が少しでも増えてくれることを祈る。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)