ロボタクシー、世界は「量産・商用化」段階へ…実証実験から抜け出せない日本

●この記事のポイント
Waymoは週50万回の無人配車を実現し、中国製EV「Zeekr Ojai」も投入開始。一方、ホンダ・GM・クルーズが掲げた2026年東京での商用化計画は車両開発中止で無期限休止に。BCG予測では世界のロボタクシーは2035年に最大300万台規模へ。日本の「元年」の実態と、規制・データ格差という課題を検証する。

 国内のモビリティ業界では2026年を「ロボタクシー元年」と表現する言葉が聞かれるようになった。しかし世界の現在地と照らし合わせると、その表現には注釈が必要だ。米グーグル系のWaymo(ウェイモ)は米国10都市以上で週50万回超の有償無人運行を実現し、中国勢も北京・上海といった大都市で安全員なしの有料配車に踏み切っている。一方、日本国内で商用の無人ロボタクシーが公道を走った例はまだない。

 なぜこれほどの差が生まれたのか。単純な「規制の厳しさ」だけでは説明がつかない。世界の自動運転産業で進む構造変化と、国内特有の事情を整理する。

●目次

週50万回運行のWaymo、白紙撤回された日本の目玉計画

 Waymoは2024年5月時点で週5万回だった有償乗車を、2026年には週50万回へと10倍に拡大した。2月には160億ドルを調達し、企業価値は自動運転企業として過去最大となる約1260億ドルに達している。年内には週100万回を目標に掲げ、7月にはサンディエゴやラスベガスなど新たに4都市でサービスを開始したと発表した。

 日本での旗印だったのが、本田技研工業(ホンダ)が米GM・GMクルーズと2023年に打ち出した計画だ。専用車両「クルーズ・オリジン」を使い、2026年初頭に東京都心でサービスを始めるとしていた。ところがGMが2024年にクルーズの事業を見直し、肝心の専用車両の開発そのものが中止に追い込まれた。結果として、この計画は事実上、無期限休止の状態にある。ホンダは求人情報などから水面下でプロジェクトを継続している様子がうかがえるが、公式な再始動の時期は明らかになっていない。

 これに代わり、日産自動車・英Wayve(ウェイヴ)・米ウーバーの3社連合が日産リーフをベースに、2026年後半に東京で無人走行の実証を計画している。またWaymoも日本交通・GOと組み、2025年4月から都心7区で走行データ収集を進めているが、現時点では乗務員が同乗しており、無人でのサービス開始時期は未定のままだ。つまり日本にとっての「元年」候補は、当初の主役が退場した後、複数の新規プレーヤーによって仕切り直されている状況にある。

「頭脳」と「車体」が分離する世界 トヨタは中国で先行

 世界のロボタクシー市場で起きているのは、自動運転AI(頭脳)と車両(車体)の開発が別会社によって担われる「水平分業化」だ。象徴的なのが、Waymoが最新車両「Ojai(オーハイ)」に中国・吉利控股集団傘下のZeekr(ジーカー)製EVを採用したことである。車体はスウェーデンで設計され中国・寧波で生産、米アリゾナ州の工場でWaymo独自のセンサー類が後付けされる。米中の関税・規制の間隙を縫う形で、コスト効率の高い車両を確保した格好だ。

 ボストン コンサルティング グループ(BCG)が2026年1月に公表した分析によれば、世界のロボタクシー台数は2035年までに70万〜300万台規模に達する可能性があり、成長初期は規制やインフラが整う米国・中国が牽引する見通しだという。同社は、事業として損益分岐点に達するには1万5000〜2万台規模の車両を10〜15都市に展開する必要があり、収益化までに約7年を要すると試算している。台数と都市展開のスピードで先行できるかどうかが、今後の勝敗を分けるという構図だ。

 この文脈で見落とせないのが、トヨタ自動車の動きである。トヨタは中国の自動運転企業Pony.ai(ポニー・エーアイ)と組み、2026年2月に「bZ4X」ベースのロボタクシー車両の量産を広東省で開始した。年内に中国国内へ1000台規模を投入する計画で、Pony.aiは年末までに車両保有台数を3000台超、展開都市を世界20都市以上に拡大する方針を掲げる。つまりトヨタは「水平分業」の枠組み自体には、中国という舞台で参加している。日本国内での商用化に慎重な姿勢を崩していない点とは対照的だ。

規制と「タクシー1000万台問題」ではなく、合意形成の時間

 日本での自動運転レベル4(特定自動運行)は2023年4月の法改正で解禁され、福井県永平寺町の自動運転バスなど限定区域でのサービスは既に始まっている。制度上の障壁が全くないわけではないが、「ロボタクシーだけが特別に規制で止められている」というより、事業者側の車両調達や合意形成に時間を要している面が大きい。

 一方で、関連する論点としてライドシェアを巡る規制論議がある。2026年6月、政府の規制改革推進会議はライドシェアの全面解禁について「諸外国の事例や地域のニーズを踏まえて必要な取り組みを進める」とするにとどまる答申をまとめた。国土交通省や自民党のタクシー・ハイヤー議員連盟が全面解禁に慎重な立場を取り続けていることが背景にあるとみられ、日本経済新聞は規制改革の停滞がイノベーションを阻んでいると指摘している。

 タクシー業界側にも相応の事情がある。国内のタクシー運転者数は2004年度末の約40万人から2022年度末には約24万人まで減少し、深夜・週末を中心に人手不足が深刻化している。全国ハイヤー・タクシー連合会などは、拙速な自由化が安全性の低下や既存事業者の経営悪化を招くリスクを指摘してきた。ロボタクシーについても、車両調達に大きな資本を要するため、体力の乏しい中小事業者が置き去りになる懸念は根強い。規制強化を「既得権益の防衛」とのみ捉えるのではなく、担い手不足という現実的な課題と、新規参入への慎重論とのせめぎ合いとして理解する必要がある。

「ロボタクシーの競争力は、車両の完成度以上に、無人走行データの蓄積量に規定されます。Waymoや中国勢が数百万マイル単位のデータを積み上げる一方、日本勢は実証実験の段階にとどまっており、後発で追いつくコストは時間とともに非線形に増えていくことになります。トヨタが中国という市場でデータと知見を得ている点は、経営判断として合理的といえます」(自動車アナリスト・荻野博文氏)

「タクシー・ライドシェア業界の慎重論を単純な既得権益と切り捨てるのは早計でしょう。運転者不足という現実の課題を放置したまま自由化を急げば、地方の交通空白がむしろ拡大しかねない。規制当局には、安全基準の明確化と新規参入のバランスを取る調整能力が問われています」(交通政策研究所・岩田敏正氏)

「元年」の看板より、データと合意形成のスピードを

「ロボタクシー元年」という言葉自体を否定する必要はない。実証実験からサービス開始へ、日本のモビリティ業界が一歩を踏み出そうとしているのは事実である。ただし世界はすでに「実証」から「量産・収益化」の段階に移っており、車両開発の中止という不測の事態一つで看板計画が止まってしまう脆弱さも今回露呈した。

 今後を左右するのは、規制の是非を巡る対立構図だけでなく、車両調達・運行データ・保険制度・タクシー業界との合意形成といった複数の条件をどれだけ早く整えられるかである。BCGが指摘する通り、普及は事業者・自動車メーカー・インフラ事業者・規制当局・消費者による横断的な連携にかかっている。日本にとっての「元年」を実質あるものにできるかどうかは、この先1〜2年の実行力にかかっているといえるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)