韓国SKとNVIDIAが日本進出…ギガワット級「巨大データセンター」構想の狙い

●この記事のポイント
韓国SKグループとNVIDIAが日本にギガワット級AIデータセンター「AIファクトリー」を建設する計画を発表。SKハイニックスのHBMとNVIDIA製GPUを組み合わせ、2028〜29年稼働を目指す。HBM市場シェアやラピダスへの政府支援、NTTの光電融合(IOWN)技術など、日本企業の対応策も含めて解説する。

 韓国最大級の財閥SKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長が6月10日、日本経済新聞のインタビューで、米NVIDIAと連携した次世代AIデータセンター「AIファクトリー」を日本に建設する計画を明らかにした。2028~2029年の稼働を目標とし、想定される受電容量は大都市の消費電力に匹敵する「ギガワット(GW)級」。

 SKグループが海外でのAIファクトリー進出を具体的に表明したのは今回が初めてであり、日本のAIインフラ地図に一定の影響を与える可能性がある。本稿では、この構想の概要と背景、そして日本企業が今後どう向き合うべきかを、公開情報に基づいて整理する。

●目次

「AIファクトリー」構想の概要

 報道によれば、SKは傘下のSKハイニックスが持つ広帯域メモリー(HBM)と、NVIDIAのGPUを組み合わせ、AIの学習・推論に特化した次世代データセンターを構築する方針だ。広大な敷地と安定した電力を確保するため、複数の日本企業や電力事業者との共同開発・共同運営に向けた協議が始まっているという。データセンターの設計ではNVIDIAと緊密に連携し、液冷技術や高効率な電力供給設計を導入することで、消費電力を抑えた大規模施設を目指すとされる。

 並行して、SKテレコムはNTT、台湾の中華電信と共同で、光電融合技術や次世代半導体、液冷インフラ、AIソフトウェアの開発企業に投資する「IOWN AIファンド」(総額約5億ドル)を設立している。今回のAIファクトリー構想は単独の動きではなく、複数のレイヤーで進む日韓の技術連携の一部として位置づけられる。

HBM市場の構造とNVIDIAの調達戦略

 構想の核心にあるのは、AI半導体の性能を大きく左右するHBMだ。市場調査会社の推計では、HBM市場におけるSKハイニックスのシェアは概ね50~60%前後とされ、サムスン電子(約3割前後)、マイクロン(2割前後)が続く構図となっている。次世代のHBM4でも当初はSKハイニックスの優位が予測されていたが、サムスンも認証をクリアし、出荷シェアを拡大していると報じられている。

 市場の評価という観点では、SKハイニックスは2026年5月に時価総額1兆ドルを超え、マイクロンと並んで「1兆ドル企業」の一角に入ったと報じられている。AI需要を背景にしたメモリー業界の好況を象徴する出来事であり、SKがAIインフラ投資を加速させる原資にもなっている。

 注目すべきは、NVIDIAがSKハイニックス一社に依存する設計を取っているわけではない点だ。NVIDIAは2026年6月、サムスン電子・SKハイニックス・マイクロンの3社がいずれも次世代HBM4の認証を通過したことを確認したと発表し、同時にSKハイニックスとは「AIファクトリー」向け次世代メモリの共同開発に関する複数年の技術提携を結んだことも明らかにした。SKは現時点でNVIDIAの最重要パートナーの一社だが、NVIDIA側は複数サプライヤーを確保することでリスクを分散する姿勢を維持している。

 元半導体メーカー研究員で経済コンサルタントの岩井裕介氏は次のように分析する。

「NVIDIAは特定のメモリベンダーへの過度な依存リスクを十分に理解している。SKとの協業強化は事実だが、それは同時にサムスンやマイクロンの開発競争を促す材料にもなっている」

なぜ日本が選ばれたのか

 SKが日本を有力な拠点として検討する背景には、複数の合理的な要因が指摘できる。

 第一に、電力と地政学リスクの分散だ。韓国国内では半導体工場やデータセンターの増設により電力網の余力が逼迫しており、安定した電力供給網を持つ日本は分散先として現実的な選択肢となる。

 第二に、製造エコシステムへのアクセスだ。日本には信越化学工業や東京エレクトロンをはじめ、半導体材料・製造装置で世界的に高いシェアを持つ企業が集積している。HBMの開発・量産には高純度の材料や精密な製造装置が不可欠であり、こうした企業群との関係強化はSKハイニックスにとっても技術的なメリットがある。

 第三に、為替の影響も無視できない。歴史的な円安は、外貨ベースで見た日本の土地・電力・労働コストを相対的に割安にしており、大規模インフラ投資のタイミングとして合理的との見方もある。

 これらはいずれも、特定の企業が日本市場のみを狙っているというより、グローバルなAIインフラ投資競争のなかで、各企業が自社の事業上の合理性に基づいて投資先を選定している結果と捉えるのが妥当だろう。

日本企業が直面する構造的な課題

 一方で、日本企業にとって楽観視できない論点も存在する。

 国産先端半導体の量産を目指す「ラピダス」は、2025年度までに累計約1.7兆円、2026年2月には官民合計約268億円の追加資金調達を発表するなど、政府主導で大規模な支援が続いている。2027年度後半の2ナノ品量産開始を目標に、現在は試作と歩留まり改善の段階にあり、量産の実現には依然として時間と不確実性が伴う。

 また、NTTやソフトバンク、さくらインターネットなど国内事業者もAIデータセンターの増設を進めているが、最先端GPUやHBMの調達競争では、グローバルなサプライチェーンを持つ海外大手との価格・供給量交渉において相対的に不利な立場に置かれやすい。

 電力需要の面でも課題は大きい。国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンターの消費電力が2030年までに2024年比でほぼ倍増し、現在の日本の総電力消費量に匹敵する規模に達するとの見通しを示している。経済産業省・NEDO関連の推計でも、国内データセンターの電力需要は2022年の約150億kWhから2030年には約250億kWhへと7割近く増加するとされ、AI関連の電力消費は今後さらに上振れする可能性が指摘されている。

「データセンターの集積自体は産業誘致として歓迎すべき面もあるが、その電力をどう確保し、コストを誰が負担するのかという議論を並行して進める必要がある」(岩井氏)

日本企業の戦略的な「勝ち筋」

 こうした状況下で、日本企業が取り得る現実的な選択肢は複数ある。

 第一に、素材・製造装置における交渉力の活用だ。信越化学工業や東京エレクトロンなど、サプライチェーンの上流を担う企業は、安定供給の見返りとして、AIファクトリーの共同運営への参画や、計算リソースの優先的な確保といった条件を交渉する余地がある。

 第二に、次世代の省電力技術によるゲームチェンジだ。NTTは光と電気を融合させる「光電融合」技術を中核とするIOWN構想を推進しており、2026年度中にはデータセンター内のサーバー間を光で接続するスイッチの商用化を予定している。将来的には消費電力を大幅に削減する技術として、海外勢にとっても無視できないインフラとなる可能性がある。

 第三に、「フィジカルAI」と呼ばれる、製造現場やロボティクス、医療など実世界のデータと結びついた特化型AIの領域だ。汎用的な計算基盤は海外勢から調達しつつ、その上で動く産業データやアプリケーションの価値を日本企業が押さえる、という分業も現実的なシナリオの一つとなる。

 製造業向けAIコンサルティングに携わる専門家は「計算基盤の主導権を必ずしも自前で握る必要はない。重要なのは、自社の現場データという『資産』をどう守り、どう収益化するかという視点だ」と指摘する。

 SKとNVIDIAによる日本でのAIファクトリー構想は、立地や投資額など多くが未確定の段階にある。それでも、AI半導体・データセンターを巡るグローバルな競争が、日本という市場・インフラを舞台に新たな段階に入ったことは間違いない。日本企業にとって重要なのは、対立構図で捉えることではなく、自社が持つ強み――材料・装置技術、省電力インフラ技術、産業データ――を正確に把握し、それを交渉のカードとして主体的に活用していく姿勢だろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩井裕介/経済コンサルタント)