防衛テックの最前線:スカイゲートテクノロジズが描く日本の安全保障と未来社会

●この記事のポイント
・スカイゲートテクノロジズは、防衛とテクノロジーを組み合わせた「防衛テック」を専門とし、物理とデジタルを横断する視点で、ソフトウェアを活用して次世代の防衛インフラの構築を目指す。主要な防衛ソリューションは「Skyagate JADC2 Alayasiki(アラヤシキ)」で、陸・海・空・宇宙・サイバーといった各領域の情報を一元的に分析・共有し、リスクの検出と対処法をソフトウェアで導き出すシステム。
・さらに、防衛分野への投資を社会全体に波及させることを目指し、「DEFENSE TECH DAY」を主催して、企業や大学との共創も促進。同社は、軍事兵器ではなく、災害救助やインフラ監視などにも応用可能な「波及性ある技術」の開発に注力しており、持続可能な社会の実現を目指している。

 ミサイルは数分で国境を越える。サイバー攻撃は目に見えない戦場を作り出す──。日本の防衛にいま求められているのは、物理とデジタルをつなぐ“領域横断型”の視点だ。こうした時代背景のなか、防衛省出身の起業家が立ち上げたスカイゲートテクノロジズは、ソフトウェアを武器に次世代の防衛インフラに挑んでいる。

 同社を率いる粟津昂規氏は、慶應義塾大学理工学部でソフトウェア開発に取り組んだ後、自衛官として防衛省に入省。衛星通信やサイバーセキュリティの任務に従事したのち、クラウド会計ソフト企業freeeでセキュリティマネージャーを務め、2020年にスカイゲートを創業した。「国家とスタートアップ、物理とサイバー、有事と平時──。異なる領域をつなぐことが、私たちの使命です」と語る粟津氏に、防衛テックの可能性と、日本社会が進むべき未来について聞いた。

目次

異色のキャリアが導く“領域横断”の視点

 粟津氏のキャリアは、防衛テック領域において他に類を見ない強みをもたらしている。自衛官時代には、災害対応や日米共同訓練にも従事しつつ、サイバーセキュリティ部隊の立ち上げにも関与。「安全保障や行政制度、技術と社会構造の接続といった“仕組みの裏側”に触れたことが、今の事業に直結しています」と粟津氏は振り返る。

 その経験を基に開発を進めるのが、スカイゲートテクノロジズが開発する防衛ソリューション「Skyagate JADC2 Alayasiki(アラヤシキ)」だ。アラヤシキは、物理・サイバーの両面からリスクを検出し、どのように対処すべきかをソフトウェアで導き出す仕組みである。たとえば、陸・海・空・宇宙・サイバーといった各自衛隊の「領域」を横断し、それぞれの情報を一元的に分析・共有できるように設計されている。

「防衛分野では、各組織が個別のシステムを持ち、情報連携がうまくいかないことが多い。アラヤシキでは、それらをつなげて“共通の視界”をつくることを目指しています」(粟津氏/以下同)

 この「領域横断」は、官民を問わず解決が困難なテーマだ。だが同社は、防衛省との連携のもと、技術とオペレーションの両面から地道な実装を進めている。

クラウドから防衛へ:民間技術の応用力

 アラヤシキの根幹にあるのは、「データの統合と、そこから得られるインサイトの継続的な改善」だ。大量のログやセンサーデータをリアルタイムで処理し、脅威の兆候を抽出、即時対応につなげる仕組みは、クラウドセキュリティの技術と多くの共通点を持つ。

「私たちは防衛領域と民間領域の両方にプロダクトを展開していますが、根本の考え方は変わりません。クラウド上の異常検知も、災害時の被害予測も、必要なのは“変化する状況への即応”です」

 従来、防衛産業は先端技術の導入に慎重な分野だった。しかし近年はドローンやAIといった民生技術のスピード感が勝り、防衛側が民間から技術を取り入れる動きが加速している。

「かつては軍事技術が民間に転用されていましたが、いまは逆。民間で育ったテクノロジーをいかに素早く防衛に生かすかが鍵になります。海外でも同様で、私たちだけが慎重でいるわけにはいかない」

リスクを乗り越える“ハイブリッドな組織”とは

 有事と平時のリスクは性質こそ異なるが、組織としての対応には共通点がある──。粟津氏はこの視点を、事業の中核に据えている。

「有事は“命のリスク”、平時は“経済のリスク”。でも、どちらも“備え”がなければ対応できない。リスクの種類に関係なく、同じ方法論で対処できる組織を作るべきです」

 例えば、コロナ禍ではリモートワーク環境の有無が企業の適応力を左右した。これも「平時に整備していたか否か」の差である。防衛分野でも、突発的な事態に対する備えと柔軟性が問われており、技術的・組織的な“ハイブリッド”が鍵になるという。

社会波及性を重視したエコシステムづくり

 スカイゲートテクノロジズが主導する「DEFENSE TECH DAY」は、国内の防衛課題をオープンにし、スタートアップや大学、他企業との共創を促すイベントだ。そこには「防衛投資を社会全体に波及させたい」という強い意図がある。

「米国では、軍の投資が社会インフラに転用される仕組みがあります。クラウド技術や衛星通信の進化も、その一環です。防衛領域の技術やサービスが、より社会の安全を支えるものとなっていく。そんな想像力をもっと働かせて良いと思います」

 同社は、防衛専用品(いわゆる軍事兵器)の開発は行っていない。その代わり、災害救助やインフラ監視、セキュリティ分野にも応用可能な「波及性ある技術」の開発に注力している。実際、民間クラウド領域で培った技術は、防衛向け製品にも活用されており、「オープンイノベーションの好循環」を生み出している。

宇宙・国際連携・そして“持続可能な日本”へ

 防衛と並んで注力しているのが、宇宙領域との連携だ。現在はパートナー企業との共同研究を進めており、詳細は明かせないものの、防衛省以外の財源(SBIRや宇宙基金など)からの支援も得ているという。

「宇宙もまた、領域横断の一部。いまは国家戦略としても優先順位が高く、連携の必要性が増しています」

 安全保障環境が複雑化する中で、粟津氏は「日本の脅威はミスによるカタストロフィー」だと警鐘を鳴らす。つまり、悪意ある攻撃だけでなく、「うっかり」が即座に悲劇に繋がる時代。だからこそ、隣国との関係性や欧米諸国との連携を通じて、状況を正確に把握し、即時に対応できる仕組みが不可欠だという。

 最後に、粟津氏はスカイゲートテクノロジズが目指す未来についてこう語った。

「防衛テックで実現したいのは、“明日のことを安心して話せる社会”です。有事が起きないことが一番ですが、それに備えることで、私たちは初めて自由に生きられる。そのためにテクノロジーは進化し続ける必要があるし、私たちの挑戦も終わりません」

 防衛×スタートアップ、サイバー×物理、有事×平時──。あらゆる分断を乗り越え、未来の安心を築くために。スカイゲートテクノロジズの挑戦は、日本社会の“持続可能性”を問い直す実験でもある。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

味の素、過去最高益を支える半導体関連・医薬品開発製造受託事業の強さ…食品の売上も成長持続の秘密

●この記事のポイント
・味の素の業績が伸長、25年3月期は売上高・事業利益ともに過去最高を更新
・食品事業に加えて大きな柱となっているのが、半導体関連事業と医薬品の開発製造受託事業
・事業展開は基本的にアミノ酸がすべて軸になっており、100年以上にわたるアミノ酸の研究の成果

 1909(明治42)年の創業から110年以上の歴史を持つ老舗食品メーカー・味の素の業績が伸びている。2025年3月期の連結決算は売上高が前期比6%増の1兆5305億円、事業利益は同8%増の1593億円でともに過去最高を更新。海外売上比率60%を超えるグローバル企業だが、食品事業に加えて大きな柱となっているのが、半導体関連事業と医薬品の開発製造受託(CDMO)事業だ。業績伸長と海外展開の加速、そして多角化の成功の理由について、味の素への取材を交えて追ってみたい。

●目次

ABFという半導体関連製品をグローバルで展開

 2026年3月期に過去最高益を更新する見通しとなっている理由について、味の素は次のように説明する。

「2020年頃から売上高・事業利益はともに成長基調となっており、特にオーガニックの既存事業の成長を軸として毎期、売上高・事業利益が過去最高を更新しております。食品事業については特に海外の売上・利益の成長が続いています。もう一つの要因としては、23年度は一時的に市場全体の調整の影響を受けましたが、電子材料のABF(味の素ビルドアップフィルム(R):層間絶縁材料)が持続的に高い成長を続けているのに加えて、25年度はバイオファーマサービス(CDMO)や、医薬品原料として製薬企業様などにお使いいただくアミノ酸事業と合わせ、バイオファーマサービス&イングリディエンツの利益が拡大することもあり、引き続き高い成長を見込んでおります。

 食品については概ね全地域で業績が伸びており、特にタイやインドネシア、ベトナム、フィリピンなどのASEAN各国、ブラジル、ペルーなどラテンアメリカ各国での販売の好調が続いています」

 味の素の成長を支える原動力の一つとなった半導体関連事業に同社が参入したのは、1990年代だ。きっかけは何だったのか。

「当社はABFという半導体関連製品をグローバルで展開しております。半導体を実装するときの半導体パッケージ基板に使われるものです。基板の中には複雑な層があり、その層と層の間を絶縁するフィルムになります。半導体のチップをマザーボードに接続する際にパッケージ基板の中にたくさんの層が重ねられているのですが、その層と層の間に使われるフィルムです。層の上に細かい回路が引かれており、層を何枚も重ねることによって、回路から複雑なシグナルを送ることができるようになります。半導体と基板が一体になってチップセットが構成されており、当社は1990年代後半にチップセットに使われるフィルムを開発して、現在は世界で生産されるチップセットの95%以上で使用されています。PCやサーバー、ネットワーク機器などにも使用されております」

 このABFは、『味の素(R)』を発酵でつくる際の副産物を応用して開発したもので、アミノ酸の研究から生まれた製品です。我々の事業展開は基本的にはアミノ酸がすべて軸になっており、100年以上にわたるアミノ酸の研究の成果の一つといえます」

 こうした非食品事業は、会社として事業の多角化を目指した結果生まれたのか。

「多角化を目指したというよりは、経営メンバーや従業員の『アミノ酸の力は、もっといっぱいあって、いろいろなことができる。もっと社会の役に立ちたい』という思いから生まれました」

医薬品の開発製造受託事業

 このほか、同社の業績を支える事業の一つとして、医薬品の開発製造受託がある。

「当社はさまざまな種類のアミノ酸をグローバルで生産しており、医薬品の原料としてもお使いいただいており、高品質アミノ酸の世界市場で約40%のシェアを頂戴している関係で、グローバルで製薬企業様の顧客基盤を保有しております。例えば発酵でアミノ酸をつくる際に効率の良い発酵方法を開発するために発酵に使う発酵菌株の改良といったバイオの研究も行っており、そうしたなかでさまざまな技術が生まれてきます。このような技術を医薬品の生産でお困りの企業様の課題解決にご活用いただけるのではないか、より高付加価値型のサービスを提供できるのではないかという思いから、40年くらい前に参入したCDMO事業で成長を続けております。

 近年では製薬企業様が生産部分をアウトソースしていく流れが続いていることも、当社のCDMO事業の成長につながっていますが、当社は大きな投資をしてバイオ医薬品の受託生産を行うというよりは、当社のオンリーワンの技術を軸にして特定のカテゴリーで高い資本効率の事業を展開しています。

 先ほどのABF事業と同様に、技術ドリブンの事業モデルであるため少額の投資で済み、厚めの営業キャッシュフローを創出していくことで、しっかりと株主の皆様にも還元していくということも継続してやっております」

 そして主力の食品事業も伸びている。

「ここ数年は海外・国内ともに伸びております。新製品開発に若い社員たちが積極的にチャレンジできる仕組みをつくるのに加えて、部門ごとに分かれていたマーケティング関連・開発関連の機能をマーケティングデザインセンターに集約して、一極集中でお客様のインサイトをデータベース化して解析できるような組織改革を行い、結果的に新製品の販売が好調となっております。昨年度もコーヒー類を除く調味料、栄養・加工食品の売上が数量ベースで前期比5%も伸びています。繰り返しになりますが、組織の壁や縦割りを解消してチャレンジする企業文化に変えてきた成果が出てきていると感じております」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

【参加者募集】Do! Solutions Webinar「事業成長を加速させる、経営×ブランディング」9月9日開催

電通が運営する、ビジネス課題を解決する情報ポータルDo! Solutionsは、9月9日(火)に開催するウェビナー「事業成長を加速させる、経営×ブランディング 停滞を打破する電通流“習慣化アプローチ”とは」の参加者を募集している。
    
現在の延長線上に自社の未来像を描きにくくなった今、企業の「あり方」そのものが事業成長のカギになる時代が到来。多くの企業が“経営アジェンダ”として「ブランディング」を捉え直し、注力している。一方で、その「ブランディング」のアプローチや成果に悩む企業も多いという。

本ウェビナーでは、経営のメインアジェンダとして「ブランディング」を捉え、事業変革と確かなビジネス成長につなげるための実践知を紹介する。 

「事業成長を加速させる、経営×ブランディング 停滞を打破する電通流“習慣化アプローチ”とは」

【概要】
日時:
9月9日(火)14:00〜15:00
費用:無料
形式:Zoomウェビナー
登録締め切り:9月4日(木)17:30
定員:先着1000人


■参加登録・セミナー詳細はこちらから
 

【プログラム】

第1部
ブランディングは「経営アジェンダ」へ

第2部
事業成長につながる「ブランディング」~電通流アプローチを事例とともにご紹介~

第3部
FAQ

【登壇者プロフィール】

電通 グロース・ブランディング部長
伊神 崇(いかみ たかし)

マーケティングプランニング、コミュニケーションデザイン、メディアプランニング領域の業務を経験。企業や事業、商品/サービスのマーケティング戦略立案・施策立案、またその調査や効果検証/分析業務に従事。2018年よりビジネス・トランスフォーメーションにも領域拡張し、企業の新事業/新領域開発支援、経営分析/事業分析を通じた戦略立案、経営/事業における意思決定支援、ビジョン開発、ブランドコンサルティング業務、インナーアクティベーションなど、企業の成長に寄り添う業務を実施。

電通コンサルティング 執行役員・パートナー
田中 寛(たなか ひろし)

外資系大手会計系コンサル2社で企業再生の事業評価や事業戦略策定、業務改善コンサルを経験し、事業会社に転職。米系大手化学企業や米系大手EC企業にて、社長室・経営企画・事業企画や事業部での営業・マーケティングの経験を通じて、事業成長に向けた取り組みを実践。その後、ブランディング専門コンサルタントを経て、2022年より現職。
 

国立新美術館×CLAMP展が魅せた“アートという体験”

左から国立新美術館 真住貴子氏、同 吉村麗氏、電通 中野良一氏
左から国立新美術館 真住貴子氏、同 吉村麗氏、電通 中野良一氏

近年、マンガやアニメに代表されるコンテンツファンが展覧会などのイベントに「体験」を求めはじめ、展覧会のあり方も変化しています。

そうした中、電通と電通ライブは「コンテンツの新しい体験の場」という視点で展覧会をプロデュースする「dentsu Exhibition Value Design」の提供を開始しました。この連載では、両社が手掛けた新しい形の展覧会をご紹介します。

本記事では前回に続き、72日間の開催期間(東京のみ)で約25万人を動員した、「CLAMP展」を取り上げます。 

会場となった国立新美術館(以降、新美)の研究員・真住貴子氏と吉村麗氏をゲストに迎え、同展でクリエイティブ・ディレクターを務めた電通の中野良一氏が、美術館ならではの“体験づくり”のポイントや、展示において大切にしている視点などをお聞きしました。

※CLAMPとは

いがらし寒月、大川七瀬、猫井、もこなの女性4名で構成される創作集団。1989年「聖伝-RG VEDA-」で商業誌デビュー。以降、少女漫画、少年漫画、青年漫画と多彩なジャンルにわたり多くのヒット作を世に放つ。主な作品に「東京BABYLON」「X -エックス-」「魔法騎士レイアース」「カードキャプターさくら」「ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-」など。

なぜ国立の美術館がコンテンツ作品の展覧会を手掛けるのか?

国立新美術館 真住貴子氏
国立新美術館 真住貴子氏

中野:あらためて、お二人の自己紹介と、CLAMP展における役割についてお話しください。僕自身は電通のBXクリエイティブセンターでプランナーを務めており、CLAMP展では、クリエイティブ・ディレクターとして、展示企画・コンセプト・体験デザイン・アートワークなど、全クリエイティブを統括しました。

吉村:私は大学で美術史、大学院でマンガを研究したのち、現在国立の美術館では唯一のマンガ担当研究員としてキュレーション業務にあたっています。当館では2015年に開催した「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム」展(以降、ニッポンのマンガ展)をきっかけとして、コンテンツ作品の展示に力を入れていますが、私は2017年から新美のプロジェクトに携わっています。一つの展覧会に対して、基本的に研究員二人体制で担当することになっているため、CLAMP展では私がメイン、真住がサブを務めました。

真住:私は日本の近現代美術と美術館教育が専門で、マンガ専門ではないのですが、「文化庁メディア芸術祭」などに関わっていた経緯から、2015年に当館に着任して以降、その時々のキュレーターと共にコンテンツ系の展示を手掛けてきました。CLAMP展では主に新美側の窓口とマネジメント役を務めました。

中野:新美は、美術館としてのコレクションを持たずに、ジャンルレスな展示をしている稀有(けう)な美術館です。2015年からマンガやアニメといったコンテンツ系の展示がはじまったきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

真住:当時館長を務めていた青木保が、海外に幾度も出張する中で日本コンテンツの人気を目の当たりにし、「これだけ海外人気があるものを国立の美術館で取り上げないのはおかしい」と提案したのが始まりです。
    
国のコンテンツに対する動きとしては、2009年ごろに「国立メディア芸術総合センター構想」の企画が立ち上がったものの、頓挫していました。青木は当時文化庁の長官をしていたこともあって、マンガやアニメが日本のプレゼンス向上のために重要なジャンルだという認識を持っていました。その後、新美の館長になった際に、ぜひこの分野をやっていきたいと考えたようです。そこでまず2015年に、ニッポンのマンガ展を開催する運びとなり、私が担当しました。

中野:僕の感覚で言うと、マンガは「エンターテインメント」。美術館で展示されるアートとは少し距離があるイメージなのですが、研究員の皆さんの視点では、美術品・アートと呼べるものなのでしょうか?

真住:CLAMP展でもそうだったように、多くの来場者がマンガの原画に強く魅了され、見入っている姿を目にしていますので、美術館で扱うのにふさわしいものだと思っています。ただ、私自身はアートか否かに、あまり拘泥しないようにしています。

日本のマンガが間違いなく優れた文化であることは、世界中から認められていますし、私自身も素晴らしいものだと思います。現時点で「マンガはアートではない」と思っている人がいたとしても、きっと200年くらいたてば、すっかりアートになっているのではないでしょうか。同時に、新美で展示することで、ある意味その点を来場者の皆さまに問いかけている部分もありますね。

実施の決め手は「独自の活動スタイル」と「作家としての歴史的評価」

国立新美術館 吉村 麗氏
国立新美術館 吉村 麗氏

中野:今回新美でCLAMP展を実施しようと思われた決め手は?

吉村:新美で展示する作家を決める際には、まず芸術文化として「国立」が自信を持って披露できるかが基準になります。漫画家であれば、対象の作家あるいは作品が、マンガ文化に果たした役割や影響を検証する必要がありますし、さらに次世代へと継承していくべきものかという問いかけも必要だと考えています。

CLAMP先生は、世界的に有名なイベントとなったコミックマーケットなどの同人誌即売会を基点にプロになった方です。同人誌はアマチュアの活動ですが、素晴らしい作家たちがそこから生まれ、多くの支持を得ていくようになりました。その中でも、CLAMP先生は特に優れた作家として評価されている歴史的な事実があります。この事実はマンガ研究者の中で共有されていて、実はお話をいただく前から、個人的に今後展示をしていきたい作家の候補として考えていたんです。

中野:もともと候補に考えておられたんですね!2018年にCLAMP作品の一つに焦点をあてて開催した「カードキャプターさくら展」(以降、さくら展)は、いわゆるギャラリースペースで行いました。そのとき僕自身がCLAMPさんの原画を初めて見て、誌面で見ていたときとは全く違う感覚に襲われ、「原画には本当に力がある」ことを実感したんです。

電通がこうした展示を手掛ける場合、映像などを駆使した体験に重きを置いていくことが多いんです。けれど、CLAMP展については、原画の力を思う存分見ていただける環境で実施した方がいいのではないかと思い、そこで会場として浮かんだのが新美でした。コネクションもないし無理かなとは思いつつ、公式サイトに記載されていた応募フォームに企画書を送ったわけですが、お返事をいただけたときはとてもうれしかったです。

吉村:CLAMP先生の選定に関しては、実はもう一つ、美術業界における社会的な背景もありました。ニッポンのマンガ展のように幅広いジャンルを総括した展示は別として、これまで当館で開催したコンテンツ系の展覧会は新海誠監督、荒木飛呂彦先生、庵野秀明監督と、どうしても「男性のソロ作家」に寄りがちでした。実はアートの現場で働いているのは大多数が女性なのですが、作家として展覧会などで取り上げられる対象者には女性がいない。このジェンダーバランスにおける課題感や、業界全体への問題提起といった点は、近年非常に注目されています。これはマンガに限らず、絵画でも建築でも同じです。

そんな中で、やはり次に取り上げるべきは女性作家ではないかと。CLAMP先生の場合は、さらに4人組のユニットという非常に珍しい形で活動されています。だからこそ、マルチセルフプロデュースを上手にされている点も興味深く、決め手の一つになりました。

「ファン目線」に寄るよりも、CLAMP作品の社会的な価値を映し出す

電通 中野 良一氏
電通 中野 良一氏

中野:CLAMP展の展示についてお聞きする前に、これまでに新美で行われたマンガやコンテンツの展覧会で、ユニークな試みをしたことがあればお聞かせください。

吉村:新美の場合、企画展示室は約2000平米の中に柱が1本もありません。これは何でも自由に組めるということでもあり、逆に言うと、その広い空間をなんとかして埋めなくてはならないという使命にもなります。この点が、当館で行う展覧会を特徴付けている要素の一つだと思います。

この空間は、いろいろな展示物をぽつぽつと点在させて世界観を作るのには適しています。でも、マンガの場合は原画の形がほぼ決まっていて、サイズも小さい。見やすさなどを考えると、人の目線より上に作品を飾ることは基本的にできないため、どのように空間を埋めていくかが毎回課題になります。

そんな中、2020年に「MANGA都市TOKYO ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮2020」という展覧会を開催しました。これは元々は2018年にパリで開催していたもので、各コンテンツの展示でありつつ、それらコンテンツと融合している「東京という都市」自体をも見せるという展示です。パリでの開催時は、当館よりさらに巨大な約3500平米の空間を埋めなくてはいけませんでした。

そこで、1/1000の縮尺で再現した、幅約16メートル、長さ約21メートルの巨大な東京の都市模型を作って、さらに巨大なスクリーンでアニメとゲームの映像を流し、その周りにバルコニーのような展示スペースを作ってマンガ原画を飾る構成を組み立てました。困難ではありましたが、通常のコンテンツ展では思いつかないようなアイデアを、あの大空間だからこそ実現できた例です。

中野:とても面白いですね。CLAMP展では、壁で区切りはしたものの、約2000平米で天井も高い大空間を、基本は原画で埋めるという構成でした。原画選びなどを時間をかけて一緒に行っていく中で、電通の方法と、今まで皆さんがしてこられた方法の違いを感じた部分はありますか。

真住:展示は「モノ」がなくては成立しないので、私たちの場合、「モノ」をどう見せるかが最初にあり、そこから何をどう見せられそうかといったコンセプトを並行して考えていきます。しかし電通さんの場合は、まず「キャッチフレーズ」を決めることから入っていたところがとても印象に残っています。

今回は「CLAMP作品」という明確な「モノ」がある中で、そのコンセプトとして「C(Color)」「L(Love)」「A(Adventure)」「M(Magic)」「P(Phrase)」と作家名になぞらえた各ゾーンのキャッチフレーズを定め、みんなの意思統一を図ってから原画を選ぶという順番で進んでいったのが新鮮でした。

COLOR

中野:なるほど、これはわりと広告会社らしい進め方なのかもしれません。広告では、生活者とのコミュニケーション方法を考えるときに、目の前のものをどう伝えたら魅力的に見えるのか、正しく理解してもらえるかを“翻訳”する作業が肝になります。そのため、イベントでもまずは世の中や生活者と作品(コンテンツ)とを掛け合わせたときにどんな価値が出るのかを考え、伝えるべき「メッセージ」を決めて、コミュニケーション方法や表現を考えていきます。

今回の場合、僕はリアルタイムではCLAMP作品を読んでいなかったのですが、企画の前に「カードキャプターさくら」を読んで、これはすごい作品だと思いました。その、自分がなぜすごいと思ったかを切り口にメッセージを作ったら、もともとCLAMP作品を知らなかった人でも、「面白い」「楽しい」と思える展示になるのではないかといった視点で取り組みました。

こう考えた理由の一つに、ファンの方々の「熱量」には絶対に勝てないと思っていたことがあります。CLAMPファンの熱量の大きさはさくら展を見て実感していましたし、スタッフ側も、以前からCLAMP作品を好きな人には同様の熱量がありました。

今回の展覧会にあたって、僕もCLAMPさんの全作品を3回ずつは読みましたが、コアな方々はもっと読んでいるはずです。そこで「ファン目線で作る」と言ってしまうのはおこがましい。どれだけ作品やカルチャーをリスペクトしていても、熱量の高い人にはきっと「ファン」の目線ではないことがバレてしまう怖さがすごくありました。

真住:その感覚はよく分かります。例えば西洋美術の展覧会であれば、おそらく来場者よりもキュレーターの知識量の方が多いはずです。けれど今回は、お客さまの方が絶対作品に詳しい。この状況を見誤ると、大やけどをする感覚が私もずっとありました。

中野:そうですよね。だからこそ方法を変えて、初めて読んだ自分がなぜCLAMP作品を面白いと思ったのかや、今の世の中と作品世界がクロスするところがあるのではないかといった点を考えるようにしました。例えば、「カードキャプターさくら」はLGBTQが広く言われる前の作品ですが、キャラクターの関係性においてジェンダーの概念が固定的でないように感じます。「東京BABYLON」であれば、当時作中で描かれた東京が今の東京につながっている部分もあります。こうした視点で切り口を探ると、作品の深さみたいなものが新たな角度から見えてくるのではないかと考え、メッセージや構成を作っていきました。

展示する原画を選ぶ前に、吉村さん真住さんにも入っていただいて、「CLAMPの魅力とは」という勉強会を約1年にわたって開催しましたよね。その勉強会を通じて、今の世の中や、マンガファンではない人にもCLAMP作品の面白いと思えるポイントを出していく作業を行った。あの時間がなかったら、今回のコンセプトを作れなかったと思います。

美術館での体験は、「自分には分からない」ことにも価値がある

真住氏、吉村氏

吉村:今回は、そうした議論を通して新たな化学反応が起きた感覚がありました。電通さんの場合は、作品の魅力を分解していく作業からメッセージ性や、作品を象徴するキーワードを探していかれるんですよね。一方で私たちは歴史研究者なので、歴史の中でCLAMP先生が他の人よりも優れていたり、新しかったり、飛び抜けてすごいと思える「ファクト」を探していきます。似たような作業ではあるものの、私たちとしてはそうした「客観性」を担保していきたいという話をずっとしていましたね。

これはとても美術館的な考え方ではありますが、作品自体のメッセージ性など“内側”の魅力と、作品が社会に与えた影響や、立ち位置といった“外側”の魅力を両方考えていかないと、文化的価値をしっかり評価できません。この点をじっくり話し合い、一つの展覧会を一緒に作っていけたのは、新しい経験でした。

また、マンガは「現在進行形」のコンテンツなので、いろんな情報が流布していますし、一人がその全てを知ることはできません。だからこそ、電通さんはじめいろんなスタッフが入ってくださり、チームになって作る意味があると感じました。

中野:みんな、良い意味でこだわりや熱量をオブラートに包まず話していましたよね。関わる全ての人たちが、自分のエゴということではなく、それぞれに考えているCLAMPさんの良さみたいなものを丸裸でぶつけ合う場になっていたと思います。その意味で特に「Love」のエリアは、もともとCLAMP作品のファンだったスタッフと、ニュートラルな視点を持ったスタッフの両方が議論したから、良いバランスが取れたと考えています。例えば真住さんからは、「このテーマで、この原画の並べ方にして意図が分かる?」といった観点からのご指摘をよくいただきました。

加えて、情報設計をお二人と議論できたことも、とても勉強になりましたね。例えば、どこまでテーマや流れに対しての「説明」を入れフォローするか、というバランスについて。電通側はキャプションやセリフを掲示することで、受け手が分かってくれるような説明を加えます。これは広告の世界では(意図を)伝えなくてはいけないので、そういう考え方になるんです。そこに対して、「アートなのだから説明的な情報は一定にして、その先はお客さんに委ねた方がいいのではないか」といった意見をもらえました。

真住:面白いなと思ったのが、やはり広告は(ある種の正解を)「伝えなくてはいけない」ってことですね。マンガやアートはそうではなくて、おそらく作品が見る側によって「成長するもの」なんだと思います。つまり(作品を通して伝えたい)ある種の答えがあったとしても、その「正解」みたいなものは、見る側に託されている部分が大いにあると思います。

中野:先ほど「アートか否かには拘泥しない」というお話がありましたが、僕がCLAMP展を新美でやりたいと考えた理由は、CLAMPさんの作品をアートとして体験してほしいと思ったからなんです。

アート体験というのは、情報を100%伝えきることではなく、作品が持っている多様な価値を感じることです。それは、仮に見る側が受け入れられない価値観であったとしても、成立します。こんな考え方もあるのかと“知る体験”の場であり、もっというと「分からない」とか「嫌い」という感覚も、一つの価値としてある。「分かりやすくない」という価値、「自分には分からない」ものに出合う価値が、美術館にはあるのだと思います。

真住:そうですね。受け取り方も見る人の数だけあるので、「伝えるけれど、伝えきらず」で、相手に委ねる部分を残す必要がある。この両方のバランスを考えながら展示を作っているんですよね。

解釈ではなくファクトを見せて、来場者の「自分自身の発見」を引き出す

吉村氏、中野氏

中野:吉村さんのお話にあった「ファクト」については、当初「Love」のエリアをもっと僕の解釈が入った設計にしていた中で、ご指摘をいただいてハッとしたところです。お客さんは別に僕の「解釈」を見たくて来るわけではないなと。そこで、それまでの抽象的なメタ視点が入った切り口の設計をやめて、全て原画の中のキャラクターによる「アクション」という、いわばファクトで切っていく形に変えました。

LOVE
吉村:キャラクター同士の関係性を「こういう形の愛(友情)ですよね」と解釈をつけてしまうと決めつけになるけれど、「握手」とか「ハグ」などの原画内で描かれているアクションで分けたら、ファクトになります。この形であればファンの方がそれぞれの気持ちで見られるのでは、と互いの意見をだいぶすり合わせたところでしたね。

例えば制作スタッフが「愛の告白」と解釈した場面でも、作品内のテキストで明示されていない以上CLAMP先生はそう思っていない可能性があります。また、来場者は別の意味だと捉えるかもしれません。キュレーションを行う側がファクトを「解釈」し、その解釈を提示することと、ファクト自体を提示して、来場者にそれぞれ何かを見いだしてもらうことは、別です。むしろ主観的な解釈をできるだけ加えないよう、ファクトをもって客観性を担保しながら展示構成を考えることがとても大事なのだと思います。

中野:おっしゃるとおり、見る人に「展示のテーマ」や「この展示の流れが意味するもの」を提示しすぎると、鑑賞する上でのノイズになってしまうのだと思います。お客さんは純粋に絵を楽しんだり、新たなCLAMP作品の魅力を発見したりするためにお金を払っている。意図的なリードを入れすぎず、素直な気持ちで体験してもらい、「この場面にはこういう意味があったのか」と自分で見つけてもらえた方が感動も大きいし、大事なものとして心の中に落ちてくるはずです。来場時に何枚も原画を見て、それでももう1回行きたくなるとしたら、そうした「自分自身での発見」が大きいのかなと。

吉村:一方の美術館側の留意点としては、原画を並べるだけでは、「体験」としてはマンガを読んでいることに近くなり、ただ見るだけになってしまうのではということでしたね。お客さんは会場の広い空間の中に物理的にやってくるので、その「空間体験」も非常に大切です。この点は電通さんの得意分野。映像の演出や、来場者がキャラクターのセリフが書かれたシールを引いて壁に貼るといったアトラクション的なものはあっていいと思いますので、そこは否定せず、良い塩梅を取りたいと思っていました。

MAGIC
中野:ありがとうございます。最後に、今後こうした美術館の展示に、電通が参加することや、今回のようなコラボレーションをすることに対して、思われていることをお聞かせいただけますか。

真住:電通さんたち他業界のプレーヤーが入ってくることで、私たちも勉強になりました。一緒に仕事をするにあたって、「客観性」や「ファクト」「リスペクト」といった美術館として守りたいところと、相手との価値観をすり合わせていく工程は重要です。初めて組むプレーヤーとは、お互いの仕事における流儀や“言語”が異なるので、当然ハレーションも起こりますが、それをすることでわれわれも殻を破れる。一つの目的に向かって進める仲間やパートナーだと考えたときに、この工程を通ることでより良い展覧会と関係性を作っていけるのだと思います。またチャンスがあったら、ぜひご一緒したいですね。

Twitter

JOYSOUND×電通、サウンドロゴから企業のパーパスを駆動させる “瞬間エンタメ”

サウンドロゴカラオケAWARD

JOYSOUND(エクシング)と電通は“サウンドロゴカラオケ”を企業のパーパスアクションに生かす新たな取り組みをスタートします。各種広告体験開発やスタートアップ連携、社歌の取り組みなど、さまざまなコンテンツ開発で連携してきた両社が、なぜ今サウンドロゴに着目するのか?企業・団体にとってのサウンドロゴの価値とは?プロジェクトメンバーが語り合います。

【サウンドロゴカラオケAWARDとは】
企業・団体の結束力No.1を決める“瞬間エンタメ”。JOYSOUNDが主催する社員参加型の新たなるアワード。各企業・団体が独自に制作したサウンドロゴをJOYSOUNDでカラオケ配信し、予選を経てリアルイベントによる決勝戦を開催。サウンドロゴカラオケの歌唱やそこに込めた思いに関するショートプレゼンテーションを経て、サウンドロゴカラオケ日本一を決める。
 

サウンドロゴカラオケAWARD公式サイト

サウンドロゴカラオケAWARD

 

“瞬間エンタメ”を切り口に、企業の経営課題解決を目指す

電通森本:「サウンドロゴカラオケAWARD」は、エクシングと電通がタッグを組んで立ち上げた新コンテンツです。まずは企画ローンチの経緯について、エクシングの寺本部長からお話しいただいてもよろしいでしょうか?

エクシング寺本:私たちはこれまで、JOYSOUNDのブランディングを従来のプロモーションとは異なる視点から模索してきました。その中で社歌コンテストをきっかけに森本さんたち電通さんと継続的にコミュニケーションを取らせていただくようになり、競合との差別化やJOYSOUNDならではの新しい可能性について議論を重ねてきました。そこで浮かび上がったのが、JOYSOUNDの資産を生かして、企業のブランディングに寄与しながら、弊社のパーパスブランディングにもつながる取り組みのかたちです。単なるカラオケにとどまらない事業性も兼ね備えた新しいチャレンジとして、このプロジェクトが始まりました。

サウンドロゴカラオケAWARD
エクシング 寺本氏

電通森本:途中からプロジェクトに参加されたエクシングの福井さん、村瀬さんは、当初どのような印象があったのでしょうか。

エクシング福井:日々の業務に追われる中で、漠然とですが「このままではいけない、何かもっとできることがあるはず。」と思っていました。寺本からこの話を聞いた時に、電通さんと一緒なら「ココロが震え、人々を突き動かすようなストーリー」を創り実現していけるのではないかと思い、期待に胸膨らませたことを覚えています。 

エクシング村瀬:私は営業部から異動して間もないタイミングでの参加でしたが、寺本から「まっさらで何もない状態からチャレンジできる仕事」と聞いてワクワクしたことを覚えています。営業時代に感じていた現場の課題を持ち込めるかもしれないし、JOYSOUNDに対する自分の考えや思いを発信できるチャンスかもしれないと、前向きな気持ちで関わり始めました。

電通森本:エクシングさんとの各案件にフロントとして携わり、本プロジェクトも一緒に企画した江口さんは、新しい取り組みにどのような印象がありましたか?

電通江口:JOYSOUNDが世の中に提供しているカラオケって、人を一つにまとめる力があると思うんです。コロナ禍が明けて、またみんなで集まる時間が戻ってきた今だからこそ、リアルな場で一体感をつくるエンタメの力に可能性を感じていました。エクシングさんとのプロジェクトはいつもワクワクさせられるのですが、サウンドロゴという“瞬間エンタメ”をテーマにした今回の企画は、これまでにない切り口で面白い挑戦になると思っていました。

電通森本:プランナーの増田さんも、プロジェクトを企画する中で感じたことを教えてください。

電通増田:個人的にはエクシングさんとアイデアを共創するというプロセス自体が、毎回本当に楽しかったですね。一度500件近くのアイデアを棚卸しして分類するというフェーズがあったのですが、それって普通は社内で方向性を決めてからクライアントに提案するものだと思うんです。でも今回は寺本さんたちに「こんなことを考えているんですけど、どう思います?」と意見を交わしながらアイデアを絞り込んでいきました。その共創プロセスを経て企画がかたちになっていく感覚は自分にとっても大きな財産になりました。

サウンドロゴの原点と今。短い音で伝えることの価値とは?

電通森本:今回、われわれはサウンドロゴに可能性を感じて企画を立ち上げましたが、この時代にサウンドロゴが持つ意味合いにはどういったものがありますか?クリエイティブ・ディレクターの笹川さん、お願いします。

電通笹川:サウンドロゴの起源は、ラジオが広告媒体として普及した1930年代にまでさかのぼります。映像が使えないラジオにおいて、音だけで企業の印象を残す手段として、ジングルやテーマソングが誕生しました。それが現在のサウンドロゴの原型といわれています。その後テレビの普及とともに、テレビCMの締めに流れる短いフレーズとして定着し、企業イメージの象徴となっていきました。そして今、スマートフォンやアプリ、ポッドキャスト、SNSなど、音のコンタクトポイントが増えたことで、記憶に残るサウンドロゴの価値は高まっています。

電通森本:そして昭和100年、ラジオ放送開始から100年という節目に、こうしてサウンドロゴに再び注目したことには、エクシングにとってどんな意義があるのでしょうか?

エクシング寺本:サウンドロゴは、広告としての機能を果たしながら、企業の世界観やサービスの特徴を印象的に伝える手段です。しかも、それが“音”であるという点で、JOYSOUNDと非常に親和性が高いと感じています。日常生活の中でふと耳に入る音。そのような身近な存在であることが、カラオケという日常にある身近なエンタメとも自然に結び付きますよね。

そして、エンタメとしての親和性だけでなく、社風や価値観とも通じるものがあると感じています。

電通森本:福井さんはサウンドロゴカラオケという新しいアイデアに対して、直感的にどんな印象を持たれましたか?

エクシング福井:第一印象としては、シンプルで分かりやすく楽しそうだと感じました。また、普段の生活の中で耳にしているさまざまなサウンドロゴを「カラオケで歌ってみたい!」と思いましたし、こんなシーンで歌ったらカラオケがより楽しくなりそうだな、と想像が膨らんだことを覚えています。

エクシング 福井氏
エクシング 福井氏

エクシング村瀬:私は音楽をずっとやってきたので、その視点でいうと、サウンドロゴは誰でも口ずさめる、誰でも好きになれる音楽だと思っています。カラオケの楽曲って好みによって分かれがちですが、サウンドロゴは短くてキャッチーなので、好みを問わず多くの人に届きやすい。記憶に残りやすく、共有しやすい音楽のかたちだと感じています。

電通森本:いろんな企業のビジネスパーソンが自然に交わるきっかけにもなりそうですよね。増田さんはプランナーの視点から見てどんなところに魅力を感じていますか?

電通増田:サウンドロゴとカラオケという、一見交わらないようなものが結び付いて、数秒の“瞬間エンタメ”になる。これは大きな発見でした。エンタメって通常はある程度の時間をかけて楽しむものが多いですが、この企画はそのエッセンスを数秒に凝縮している。しかも、企業ブランディングやパーパス浸透とも結び付いている点がすごくユニークです。限られた時間で最大限の盛り上がりをつくる、その思いきりの良さが面白いと思っています。

電通江口:企業のサウンドロゴって、知らず知らずのうちに歌で覚えていたりしますよね。それをカラオケで歌えるっていうのが、新しいし、面白い。私自身は音痴なのでカラオケはあまり得意じゃないのですが、サウンドロゴなら数秒で済むし、恥ずかしさも少ない。社員同士でのちょっとしたコミュニケーションの一曲として、二次会の始まりや締めとして、いろいろなシーンで活用できそうです。生活者視点で見ても、新しいコミュニケーションのきっかけになる気がしています。

電通森本:そうですね。簡単に取り組めるという参入障壁の低さは大きな魅力だと思います。「この会は最後にサウンドロゴで締めておくか」くらいの軽やかさで活用できるので、企業の中でも自然と浸透していく可能性があるのかもしれません。

サウンドロゴ

社内外の共感を生む、パーパス浸透の新たな手段

電通森本:今回の企画では、企業・団体に対してサウンドロゴを活用した新しいコミュニケーションのかたちを提案しています。具体的には「カラオケでのサウンドロゴ楽曲配信」と「サウンドロゴカラオケAWARDへの参加」という2つの軸がありますが、そこに込めた狙いについて教えてください。

エクシング寺本:今回は、カラオケでの楽曲配信を前提として企業にご参加いただく仕立てにしています。もちろん、イベントとしてのアワード当日の盛り上がりも魅力の一つですが、それだけではなくサウンドロゴという素材そのものを、企業のインナー・アウター両面のコミュニケーションに有効活用していただきたいという思いがあります。すでに保有しているサウンドロゴをそのまま活用していただいてもよいですし、たとえば販売終了している商品の過去のサウンドロゴを掘り起こしてリメイクすることで、いわゆる“エモさ”を喚起するようなブランドアクションにつなげることもできます。特に昭和100年という節目も重なり、企業にとっては原点回帰や再発見の機会にもなるのではないでしょうか。さらに、Z世代をはじめとする若い世代が日常的にカラオケに親しんでいる今、そうした世代との接点としても、サウンドロゴのカラオケ配信は有効だと感じています。

サウンドロゴカラオケAWARD

電通森本:確かに、歴史を持つサウンドロゴがZ世代に届くというのは、意外性もあって面白いですよね。世代も含めて幅広い生活者との接点になりうる、ということですね。

エクシング寺本:もともとサウンドロゴは、広告ツールとして企業と生活者をつなぐ“橋渡し”のような役割を持っています。そこに今回の「つくる」や「歌う」といったプロセスを通じて、企業の内側での共創や結束の力が加わることで、インナーとアウターの両面をカバーできる取り組みになっています。この両軸が同時に機能するという点に、企画としての価値を感じています。

電通森本:増田さんは、サウンドロゴを「つくる」過程と「歌う」過程、それぞれが企業にもたらす効果についてどう見ていますか?

電通増田:個人的に、サウンドロゴを制作するプロセスって、高校の文化祭に近いものがあると感じています。一つのゴールができると、自然と社員が一致団結する。その時点で、すでにインナーブランディングが始まっているんですよね。さらに、それを歌って発信することは、企業の姿勢やパーパスを外部に伝えるアウトプットになります。この数秒の音に、寺本さんがおっしゃったようなインナー・アウターの両方へ作用するコミュニケーションの力が潜んでいると思います。

サウンドロゴカラオケAWARD

電通森本:江口さんはサウンドロゴのような“短い”コンテンツだからこその効果について、どんな可能性を感じていますか?

電通江口:楽曲をつくるためには多くの工程が必要ですが、サウンドロゴはその要素をギュッと凝縮したような存在だと思います。しかも、それを“瞬間エンタメ”として楽しめる。企業がパーパスをもとに何かを表現したいとき、10秒程度の音を通じて自然に共有できる、そんな新しいかたちのエンタメになるのではないかと感じています。社員の一体感を生みながら、新たなチャレンジの突破口にもなる。そんな拡張性を持った施策だと思います。

電通森本:少ない工数で見込める効果の大きさもポイントですよね。短くても、SNSやCMなど多様なコンテンツに応用しやすい。さらに、JOYSOUNDで継続的に配信されることで、生活者との新たな接点にもなりうる。投資対効果としても魅力的な企画だと感じます。

数秒の歌で組織と人をつなげる。瞬間エンタメの可能性

電通森本:サウンドロゴカラオケAWARDは、企業・団体が自分たちのブランドを背負ってステージに立ち、わずか数秒の歌に思いを込めるユニークな大会です。視聴側にとっての“見どころ”とは、どんな点にあるのでしょうか。

エクシング寺本:参加企業の方々が、自社のサウンドロゴをどう表現するか。それを見るだけでも、短時間に詰め込まれた熱量や工夫が伝わってくると思います。普通に歌うだけの方もいれば、自分なりのアレンジで“足跡を残す”ような挑戦をしてくる方もいるはず。そうした多様な表現の集まりそのものが、見ごたえのあるエンタメになると感じています。

エクシング村瀬:知っている企業のサウンドロゴはもちろん、新しく生まれたサウンドロゴにも注目が集まりそうですよね。なぜそのメロディになったのか、どんな意図があるのか。歌唱前のプレゼンテーションを通じて“誕生秘話”のようなものが垣間見えるのも、今回のアワードならではの面白さだと思います。

電通森本:サウンドロゴの“種類”そのものにも幅がありますよね。音楽的なものから、セリフや効果音のようなものまで。どんな広がりが期待できそうでしょうか?

エクシング福井:たとえば「ダダーン」や「カーン」といった効果音のようなサウンドロゴも、音楽や歌詞を付けて歌うことで一気に楽しくなりますよね。「こう発音するのか」「こんな音程だったのか」という驚きもあり、そこから笑いや一体感が生まれる気がします。

エクシング 村瀬氏
エクシング 村瀬氏

エクシング村瀬:一方で、セリフだけのサウンドロゴもありますよね。それをどのように仕上げてくるのかも楽しみにしています。

電通江口:もともとサウンドロゴをお持ちの企業には、ぜひこの機会にご応募いただきたいですし、まだお持ちでない企業にとっても、このアワードがサウンドロゴ誕生のきっかけになるといいなと思っています。

電通森本:増田さんは電通の採用ブランディングチームの一員として活動していますが、この取り組みは人材採用の観点でも有効でしょうか?

電通増田:そう思います。短い尺の中に、その企業らしさが凝縮されているので、雰囲気や社風が伝わりやすいんですよね。アワード当日に歌っている人の様子や空気感だけでも伝わるものがある。今の学生や若手は、「どんな人と一緒に働くか」を重視する傾向があります。そういう意味で、この取り組みは採用にも非常に効果的だと思います。

電通江口:会社案内の資料をじっくり読むより、数秒のパフォーマンスから感じ取ってもらう方が、記憶に残るということもありますよね。サウンドロゴをつくる過程から世の中に発信するまでの一連のプロセスそのものが、企業の魅力を伝えるストーリーになるはずです。

電通森本氏、江口氏、増田氏
左から電通森本氏、江口氏、増田氏

電通森本:大会自体はもちろん、カラオケ配信というかたちで、その後の活用が広がるのも魅力ですよね。

電通江口:はい。アワードの場で歌って終わり、ではなくて、その後もJOYSOUNDでいつでも歌えるという持続性があります。社員はもちろん、社外の関係者や一般の生活者など、さまざまな人に繰り返し触れてもらえる環境が整っているのも、このプロジェクトの強みだと思います。

電通笹川:いろんな企業のサウンドロゴが集まった公式サイトは、それだけで面白そうですよね。聞き比べるだけでも楽しいし、聞き慣れたフレーズの裏に、企業の思いやストーリーが垣間見えるかもしれない。公開が待ち遠しいです。

電通森本:ちなみに今回、サウンドロゴカラオケ体感動画としてエクシングの皆さんにも実際にサウンドロゴを歌っていただきました。

電通森本:実際に歌ってみていかがでしたか?

エクシング村瀬:みんなで楽しんで歌えるし、同じテンションで盛り上がれるのがよかったです。しかも短いから、歌が苦手な人でも気軽に参加できるという点も魅力だなって思いました。

エクシング福井:企業・ブランド名を大声で言う機会って意外とないですよね。それだけに、歌ってみると妙に新鮮な感覚がありました。撮影でたくさん歌ったので、なおさらです(笑)。

電通森本:サウンドロゴ×カラオケで、楽しい撮影になりましたよね。お疲れさまでした!

エクシング寺本:ぜひ多くの企業・団体の方々に参加していただけたらうれしいです。サウンドロゴカラオケAWARDの募集は2025年9月30日(火)までです。皆さまのご応募、お待ちしています!

サウンドロゴカラオケAWARDへの応募はこちら
サウンドロゴカラオケAWARD

x

【2025年最新版】セールスイネーブルメントツールおすすめ8選!中小企業に選ばれているツールは?

トップセールスのノウハウが属人化し、新人の立ち上がりに時間がかかっていませんか?

営業担当者個人のスキルに依存しがちな営業組織を、データと仕組みで強化するセールスイネーブルメント。本記事では、中小企業が導入すべき理由から具体的なツール選択まで、営業変革を成功に導くための実践的なガイドを提供します。

セールスイネーブルメントツールとは

セールスイネーブルメントの定義

セールスイネーブルメントツールは、営業チーム全体の売上向上を目的とした仕組みです。営業担当者一人ひとりが継続的に成果を出せるよう、必要な情報やノウハウ、トレーニングを体系的に提供し、営業組織全体の強化を図るシステムです。

具体的な要素

  • 営業に必要な情報、コンテンツの整理と共有
  • システムによる商談分析
  • 営業トレーニング、人材育成

SFA・CRMとの違い

よく混同されるSFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)とは、目的と役割が異なります。CRMが顧客情報を一元管理し、SFAが商談や営業活動のプロセスを管理・効率化するのに対し、セールスイネーブルメントは、その活動の「質」を高め、成果の再現性を生み出すことに重点を置いています。SFA/CRMが「活動の記録と管理」の側面が強いのに対し、セールスイネーブルメントは「営業力の強化と標準化」を担う役割です。

システム 主な目的 重点ポイント
CRM 顧客関係管理 顧客情報の一元管理
SFA 営業プロセス管理 活動の記録と効率化
セールスイネーブルメント 営業力強化 活動の質向上と標準化

なぜ今セールスイネーブルメントなのか?中小企業が導入すべき理由と効果

属人化した営業ノウハウを共有資産に変える

「トップセールスの成績に依存している」「優秀な営業担当者が辞めるとノウハウが失われる」といった課題は、企業の持続的な成長を妨げる大きな要因です。

セールスイネーブルメントツールを導入することで、トップセールスが持つ顧客へのアプローチ手法、効果的なトークスクリプト、刺さる提案書といった「暗黙知」を、動画や資料などのコンテンツとして誰もがアクセスできる形(形式知)に変えることができます。

これにより、個人のスキルを組織全体の資産として蓄積し、営業チーム全体のレベルを底上げすることが可能になります。

経験に頼らない営業プロセスの標準化

経験の浅い営業担当者は、「どのタイミングで、どの顧客に、どの資料を見せれば効果的なのか」がわからず、手探りで活動しがちです。

セールスイネーブルメントツールは、効果的な営業資料や提案書テンプレートをツール内に格納し、SFA/CRMの商談フェーズと連携させることで、営業プロセスを標準化します。これにより、誰もが「勝ちパターン」に沿った質の高い営業活動を実践できるようになり、成果の再現性が飛躍的に向上します。

新人育成を効率化するデータ活用トレーニング

従来の上司や先輩によるOJT(On-the-Job Training)は、指導側のスキルや経験に依存し、育成に時間がかかるという課題がありました。セールスイネーブルメントツールを活用すれば、eラーニングコンテンツの視聴履歴やテスト結果、さらには「どの資料をよく使っている営業の成約率が高いか」といったデータを分析できます。

これにより、個々の営業担当者の強みや弱点を客観的に把握し、一人ひとりに最適化されたトレーニングを効率的に実施できるため、新人の早期戦力化を促進します。

非効率な業務を削減し、提案活動に集中できる環境を構築

多くの営業担当者は、本来最も注力すべき顧客との対話や提案活動以外の業務に多くの時間を費やしています。特に「最新の提案書はどこにあるのか」「あの事例資料が見つからない」といったコンテンツ探しに費やす時間は、生産性を大きく低下させる要因です。セールスイネーブルメントツールは、必要なコンテンツをいつでも誰でも簡単に見つけられる中央リポジトリとして機能します。

これにより、資料作成や検索といった付帯業務が大幅に削減され、営業担当者が「売る」ための活動に集中できる環境を実現します。

セールスイネーブルメントツール選定で外せない6つのポイント

自社の営業課題とのフィット感を重視する

まず、自社が抱える最も大きな営業課題は何かを明確にすることが重要です。「新人の立ち上がりが遅い」「提案の質にバラつきがある」「特定の商品だけ売れない」など、課題によって重視すべき機能は異なります。例えば、人材育成が課題ならトレーニング機能が豊富なツール、提案の質が課題ならコンテンツ管理・分析機能が強力なツールを選ぶべきです。ツールありきではなく、自社の課題解決に直結するツールを選びましょう。

営業担当者が現場で使いやすいか(UI・UX)

どんなに高機能なツールでも、現場の営業担当者に使われなければ意味がありません。多忙な営業担当者がストレスなく使える、直感的でシンプルなインターフェースは必須条件です。特に、普段利用しているSFA/CRMやメールソフト内からシームレスに資料を検索・共有できるか、スマートフォンやタブレットでも快適に操作できるか、といった「現場での使い勝手」は、導入後の定着を左右する極めて重要なポイントです。

コンテンツ管理・分析の精度と柔軟性

セールスイネーブルメントの中核となるのがコンテンツです。必要な資料がすぐに見つかる高度な検索機能はもちろん、常に最新版が共有されるバージョン管理機能は不可欠です。さらに重要なのが分析機能です。

「どの資料が、いつ、誰に、どれくらいの時間閲覧されたか」「成約につながった商談では、どの資料が使われていたか」を分析できるツールを選ぶことで、売れるコンテンツを特定し、営業活動全体の質をデータに基づいて改善していくことができます。

チェックポイント

  • 高度な検索機能とバージョン管理機能が充実しているか
  • 資料の利用状況と成約データを連携して分析できるか
  • 効果的なコンテンツを特定し、改善に活用できる仕組みがあるか

トレーニング・育成機能の充実度

営業担当者のスキルアップを支援する機能も重要です。商品知識や営業スキルを学べるeラーニング機能、自分の商談ロープレ動画をアップロードして上司や同僚からフィードバックをもらえるコーチング機能など、育成を支援する機能が充実しているか確認しましょう。これにより、集合研修に頼らずとも、個々のレベルに合わせた継続的なスキル向上が可能になります。

既存システム(SFA/CRM)等との連携性

セールスイネーブルメントツールは、単体で利用するよりもSFA/CRMと連携させることで効果が最大化されます。SFA/CRM上の顧客情報や商談データと、ツール内のコンテンツ利用状況を紐づけることで、「受注した顧客は、どの資料を熱心に見ていたか」といったより深い分析が可能になります。

現在利用している、あるいは将来導入予定のSFA/CRMとスムーズにデータ連携できるかは必ず確認しましょう。

コストとサポート体制のバランスを見極める

特にITツールの運用に不慣れな中小企業にとっては、導入時の設定支援やトレーニング、導入後の活用相談といったベンダーのサポート体制が成功の鍵を握ります。日本語での手厚いサポートが受けられるかを確認しましょう。

また、料金体系も重要です。ID数に応じた課金か、機能に応じた課金かなどを確認し、自社の規模や成長計画に合った、費用対効果の高いツールを選ぶことが重要です。

中小企業におすすめのセールスイネーブルメントツール8選

項番 カテゴリ 該当するツール
1 ナレッジ共有・コンテンツ管理に強いツール ・ナレッジワーク
・DealPods
・Sales Doc
2 商談解析・会話の可視化に強いツール ・MiiTel
・ailead
・Amptalk
3 育成・トレーニングに強いツール ・UMU
・Shouin

ナレッジ共有・コンテンツ管理に強いツール

ナレッジワーク

出典:公式サイト

株式会社ナレッジワークが提供する「ナレッジワーク」は、営業資料やノウハウといった組織の知識を資産化し、営業の生産性向上を実現するセールスイネーブルメントツールです。セールス、マーケティングなど組織全体で利用できるナレッジプラットフォームとして、必要な情報がすぐに見つかる環境を構築します。

基本情報

サービス名 ナレッジワーク
費用 要問い合わせ
※初期費用0円、利用サービス領域や人数により変動
主な特徴 ・営業資料や動画、ノウハウなどを一元管理
・データ分析による「売れるコンテンツ」の可視化
・専門チームによる手厚い導入・活用支援
無料トライアル・プラン 要問合せ
公式HP https://knowledgework.cloud/

DealPods

出典:公式サイト

株式会社マツリカが提供する「DealPods」は、商談ごとに顧客と営業が共同で利用する専用のポータルサイト「デジタルセールスルーム」を作成できるツールです。このルームに、これまでメール等でバラバラに送っていた資料や議事録、見積書、タスク管理といった全ての情報を集約。顧客は検討に必要な情報にいつでもアクセスでき、営業は顧客の閲覧状況から関心度を測ることが可能です。情報共有の抜け漏れや認識齟齬を防ぎ、買い手である顧客の購買体験を向上させることで、営業成果の最大化を目指します。

基本情報

サービス名 DealPods(ディールポッズ)
費用 月額 5,000円/名~
主な特徴 ・顧客専用ページで資料や議事録、タスクを共有し購買体験を向上
・AIによる議事録自動作成や、顧客の閲覧状況分析で検討度合いを把握
・セールステックに精通した担当者による導入・活用支援
無料トライアル・プラン 要問合せ
公式HP https://deal-pods.com/

Sales Doc

出典:公式サイト

株式会社イノベーションが提供する「Sales Doc」は、営業資料をオンラインで共有し、顧客の閲覧状況をリアルタイムで把握することに特化したツールです。誰が、いつ、どのページを、何秒見たかまで詳細に分かるため、顧客の興味・関心事を正確に捉え、最適なタイミングで次のアプローチを仕掛けることができます。

基本情報

サービス名 Sales Doc(セールスドック)
費用 月額 30,000円~(10IDまで)
主な特徴 ・資料共有と詳細な閲覧分析で、顧客の興味関心を可視化
・閲覧通知機能で、顧客が資料を見た瞬間にアプローチが可能
・専任担当者による導入後の活用コンサルティング
無料トライアル・プラン 14日間無料トライアルあり
公式HP https://promote.sales-doc.com/

商談解析・会話の可視化に強いツール

MiiTel

出典:公式サイト

株式会社RevCommが提供する「MiiTel」は、AI搭載のIP電話サービスです。電話営業や顧客対応の会話をAIがリアルタイムで解析・可視化し、議事録の自動作成やトークの分析を通じて、営業組織全体の応対品質向上と教育の効率化を実現します。

基本情報

サービス名 MiiTel(ミーテル)
費用 月額 5,980円/ID~
主な特徴 ・電話の会話をAIが自動で文字起こし・要約し、SFAへの入力を自動化
・AIが会話のラリー数や話速を分析し、トップセールスの話し方を可視化
・専任担当者による手厚いサポートとオンライン勉強会で定着を支援
無料トライアル・プラン 要問合せ
公式HP https://miitel.revcomm.co.jp/

ailead(エーアイリード)

出典:公式サイト

株式会社aileadが提供する「ailead」は、ZoomやGoogle MeetなどのWeb会議を自動で録画・解析するクラウドサービスです。AIが商談内容を文字起こし・要約し、会話の内容を分析することで、議事録作成の手間を削減するだけでなく、商談の振り返りや営業教育を効率化します。

基本情報

サービス名 ailead(エーアイリード)
費用 要問合せ
主な特徴 ・Web会議をAIが自動で文字起こし、要約し、SFAへの入力を自動化
無料トライアル・プラン 要問合せ
公式HP https://www.ailead.app/

Amptalk

出典:公式サイト

アンプトーク株式会社が提供する「Amptalk」は、電話やWeb会議などの営業活動を自動で記録・要約・SFAに入力する、営業特化のAIツールです。議事録作成やSFAへの入力といった手間のかかる作業をAIが代行することで、営業担当者が顧客との対話に集中できる時間を創出します。

基本情報

サービス名 Amptalk(アンプトーク)
費用 要問い合わせ
主な特徴 ・電話やWeb会議の会話をAIが自動で記録・要約し、SFAに自動入力
・音声認識だけでなく、顧客とのやり取りからネクストアクションを自動提案
・Salesforceなどの連携機能と、スムーズな導入を支援するサポート体制
無料トライアル・プラン 要問合せ
公式HP https://amptalk.co.jp/

育成・トレーニングに強いツール

UMU

出典:公式サイト

ユームテクノロジージャパン株式会社が提供する「UMU」は、AIを活用して人材育成の効果を最大化する学習プラットフォームです。動画やスライド、テストなどを組み合わせたオンライン学習コースを簡単に作成・配信でき、特に営業担当者のトークスキル向上を目的としたAIコーチング機能が充実しています。

基本情報

サービス名 UMU(ユーム)
費用 月額 4,000円/アカウント~(税込、10アカウント以上からの契約)
主な特徴 ・動画やスライドを使い、オンライン学習コースを簡単に作成・配信
・AIがロープレ動画を解析し、話す速度や表情などを自動でフィードバック
・学習のプロによる研修設計や運用定着のコンサルティング
無料トライアル・プラン 要問合せ
公式HP https://umujapan.co.jp/

Shouin for セールス

出典:公式サイト

ビートレード・パートナーズ株式会社が提供する「shouin for セールス」は、日々の営業活動と連携した実践的なトレーニングを実現する営業特化型の人材育成プラットフォームです。学習コンテンツの提供だけでなく、実際の営業活動の振り返りや指導内容を記録・蓄積することで、成長を可視化し、スキル定着を促します。

基本情報

サービス名 shouin for セールス(ショウイン フォー セールス)
費用 要問い合わせ
主な特徴 ・日々の営業活動をテンプレートに沿って振り返り、指導内容を蓄積
・評価コメント作成を支援し、トレーナーの負担を軽減
・営業代行のプロによる目標管理や活動改善の伴走支援
無料トライアル・プラン 要問合せ
公式HP https://shouin-sales.jp/

まとめ

セールスイネーブルメントは、単なるツール導入に留まりません。トップセールスの成功を再現し、データに基づいて営業組織全体を強化する「仕組み」を構築すること、それが真の価値です。中小企業にとって、属人化から脱却し、持続的な成長を実現するための経営基盤となります。

特に注目すべきは、データ分析とAI技術の活用です。どのコンテンツが成約に貢献したのかを分析し、最適な営業トークをAIが提案するなど、これまで経験と勘に頼っていた営業活動が科学的なアプローチへと進化します。リソースが限られる中小企業こそ、これらの技術を活用することで、営業生産性を飛躍的に高めることができます。

導入成功の鍵

導入成功の鍵は、自社の営業課題とツールの機能が合致しているかを慎重に見極めることです。「新人の育成が遅い」「提案の質が低い」など、最も解決したい課題を明確にし、その解決に直結するツールを選択する必要があります。営業現場のリアルな業務フローに定着するかどうかが最も重要です。

導入を検討する際は、必ず現場の営業担当者を巻き込み、無料トライアルやデモで実際の操作性を確認してください。営業担当者にとって「使いやすい」と感じられなければ、定着は望めません。ベンダーの導入支援や活用コンサルティングを積極的に活用し、自社に最適な運用方法を見つけ出すことが、営業改革を成功に導く最短ルートとなるでしょう。

セールスイネーブルメントの導入により、属人化から脱却し、データに基づく営業組織への進化を実現してください。まずは自社の課題を明確にし、それに最適なツールの無料トライアルから始めてみることをお勧めします。

(さらに…)

気候変動で食料高騰=世界各地、日本のコメも―22~24年調査

【ニューヨーク時事】気候変動を背景とした極端な高温などが原因で、2022~24年にかけて世界各地の食料品価格が高騰したとの分析を欧州の研究チームがまとめた。日本のコメや欧州のオリーブオイル、ブラジルとベトナムのコーヒー豆といった幅広い商品に影響し、インフレ深刻化や格差拡大といった社会問題にもつながっていると警鐘を鳴らした。

 分析では、過去に記録がないほどの極端な高温や干ばつ、豪雨が価格急騰の要因になったとみられる18カ国の16事例を特定。日本では24年8月の猛暑の後、9月にコメの価格が前年同月比48%上昇したケースを挙げた。

 韓国でも同じ時期に暑さが原因でキャベツが同70%も値上がりした。スペインとイタリアでは22~23年に起きた干ばつにより、オリーブオイルが欧州連合(EU)域内で24年1月に50%高となった。ブラジルの干ばつ、ベトナムの高温を受けて国際市場のコーヒー豆価格が上昇し、西アフリカのガーナとコートジボワールの熱波によりカカオ豆も高騰したという。

 分析には欧州中央銀行(ECB)なども参加した。異常気象の頻発で食料品価格の変動が激しくなると、中央銀行が物価安定の責務を果たすことがますます困難になるかもしれないと指摘。価格高騰の打撃は低所得世帯ほど大きく、買い控えにより健康状態の悪化を招く可能性があると説明した。また、食料品の高騰と社会不安の関連性に言及し、物価高は民主主義国の選挙結果を直接左右し得るとの見方も示した。

 チームを率いたバルセロナ・スーパーコンピューティング・センターのマクシミリアン・コッツ研究員は「気候変動による食料品価格上昇が社会全体にもたらす広範な影響を考慮し、行動するよう呼び掛けるものだ」と強調。影響は「今後さらに悪化していくだろう」と警告した。 (了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/02-14:13)

メルカリがインドに開発拠点を設置して生まれた莫大なメリット…実は支障はほぼなかった

●この記事のポイント
・メルカリは2022年にインドに技術開発拠点を設立し、規模を拡大させている
・メルカリには約55カ国からメンバーが集まっており、外国籍社員比率はエンジニア組織では56.8%
・エンジニアの採用面で大きなメリット。母数が大きく、スキルの高いエンジニアが多い

 高度ITエンジニアの輩出国として知られるインド。グーグルやマイクロソフトをはじめとする世界的な大手テック企業では優秀なインド人エンジニアが数多く働き、インドに開発拠点を置くIT企業も多いなか、日本のフリマアプリ大手・メルカリは2022年にインド南部ベンガルールに技術開発拠点として「グローバル・センター・オブ・エクセレンス(GCoE)」を設立し、規模を拡大させている。その狙いやメリット、そして日本とインドにまたがって支障なく開発を進めるための取り組みなどについて、同社に取材した。

●目次

エンジニアの人数と質という面でインドが魅力的

 メルカリは2018年にはじめてグローバルで大規模な新卒採用を実施し、このときの新卒採用のエンジニア50人の内、44人が外国籍で、インド国籍は32人だった。同年にはインドの科学技術系大学トップ、インド工科大学の出身者を29名採用し、その後も同大学の学生を採用している。メルカリには約55カ国からメンバーが集まっており、外国籍社員比率は29.4%であり、エンジニア組織では56.8%に上る(2024年度)。インドのGCoEには24年6月末時点で65名が在籍しており、今後も拡大予定だという。

 インドにシステム開発拠点を設置した理由について、メルカリ 執行役員 VP of India Operationsの梅澤亮氏はいう。

「海外拠点の設置先として欧州やアジア     など複数の国を検討するなかで、エンジニアの人数と質という面でインドがもっとも魅力的であったというのが理由です。弊社では、その前からインド工科大学の新卒学生などを採用して日本オフィスに勤務してもらっており、インド人エンジニアのレベルの高さを把握していたという面も大きいです」

 GCoEで開発するのは、主にメルカリの国内向けサービス。インド人を採用して日本のオフィスで勤務してもらうという形態も選択肢としてあるなか、なぜ、メルカリのほうがインドに“出向く”かたちで開発拠点を設置したのか。

「インドの方々は家族のつながりを重要視されるので、日本に移住してもらうハードルを解消することで、より多くの優秀なインドの技術者の方々に弊社に入っていただくという目的もあります。これは日本人でも同様ですが、結婚やお子さんの誕生から間もない方に、海外     に移住していただくというのはハードルが高いので、その点は大きいです。

 採用面では、日本と比較してインドは圧倒的に母数が大きいというのもメリットです。米国のテック企業で多くのインド人エンジニアが活躍していることからもわかるとおり、インド工科大学をはじめレベルが高い大学もあることからスキルの高いエンジニアがたくさんいるため、言語要件さえ外してしまえば採用がしやすいという点は大きいです」

大きなハードルはない

 日本のオフィスでチームメンバーが集まって開発を行うのと、国をまたいでメンバー同士が離れた場所で開発を行うのとでは、勝手が違ってくる面もあるのではないか。何か工夫していることはあるのか。

「弊社は以前から海外人材の採用を進めてきたことで約55カ国から社員が集まっており、特にプロダクト開発組織     では英語化が進んでいるため、言語に関する障害はほぼありません。日本とインドの時差は3時間半くらいですので、この点も問題ないです。また、22年にGCoEを開設する以前からコロナの影響でリモートワークが進んで社員はリモートで働くことに慣れていたので、その点に関しても大きなハードルはありませんでした。

 開発の進め方という面では、日本でも複数のチームが連携してプロジェクトを進行させていくケースが多いですが、それと同様に基本的にはインド拠点のチームと日本拠点のチームが協力して進めていく形態なので、大きな違いはありません。また、仕事を進める上でコミュニケーションの面で支障が生じるようなことも特にありません。

 しいて難しい点といえるようなことを挙げるとすれば、インドではメルカリのサービスを使えず、またメルカリのようなサービスは浸透していないので、現地のエンジニアたちに“どのような使われ方をするサービスなのか”を深く理解してもらうという点は少し時間がかかるかもしれません」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

話題のNetflix『マッド・ユニコーン』に見る、活況を呈すタイのスタートアップ環境の最前線と課題

●この記事のポイント
・Netflixで配信中のタイのドラマ『マッド・ユニコーン』が話題
・モデルのスタートアップ、フラッシュ・エクスプレスはタイ初のユニコーン企業といわれる存在
・タイのベンチャー・スタートアップ環境は、政府の「Thailand 4.0」戦略やデジタル経済の急速な成長に支えられ活発化

 動画配信サイト「Netflix(ネットフリックス)」で配信中のタイのドラマ『マッド・ユニコーン』が話題を呼んでいる。主人公のサンティは辺境の衰退する村で中国系の両親の家庭で育ち、貧困を脱出するためにタイの首都・バンコクに出て、成長が目覚ましい宅配事業での成功を賭けて「サンダー・エクスプレス」というスタートアップを起業。天才的なプログラマーや財務担当などの仲間の力を得ながら、激しい生存競争が繰り広げられる同市場で、競合他社からの妨害行為や取引先企業からの裏切りなど次々に降りかかる難題に悪戦苦闘。成功に向けて邁進(まいしん)するというストーリーだ。日本では5月に配信がスタートし、間もなく日本でも企業経営者などから絶賛の声が寄せられるなど話題に。実はこのドラマには、モデルとなる実在の企業がある。その企業とは、コムサン・リー氏が2017年に創業した物流スタートアップ、Flash Express(フラッシュ・エクスプレス)。競合他社を大きく下回る低価格の配送料やDX化による効率化で急成長し、タイ初のユニコーン企業(創業10年以上で企業評価額10億ドル以上)といわれる存在に。現在では約1万人の従業員を抱える大企業となっている。そんなフラッシュ・エクスプレスとは、どのような企業なのか。また、タイのスタートアップをめぐる状況はどうなっているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

AIやロボットを活用した自動化にも注力

 フラッシュ・エクスプレスが急成長を遂げた理由について、愛宕山総合会計事務所タイ現地法人、Asset & Accounting Advisors の溝口陽平氏はいう。

「フラッシュ・エクスプレスは2017年に設立されたタイ発の物流スタートアップで、全国77県をカバーする宅配ネットワークを持ち、365日無休で集荷・配達を行っています。個人・法人向けに低価格でサービスを提供し、AIやロボットを活用した自動化にも注力。小口配送に加え、大型荷物、倉庫管理、金融サービスなども展開し、ワンストップの物流ソリューションを実現しています。競合他社との差別化として、無料集荷、高額補償制度、広範な自社インフラが強みです。 

 筆者はタイのECプラットフォームをしばしば利用しますが、最近はタイ郵便局やKerry Expressという主流の中にフラッシュ・エクスプレスが加わったという肌感覚です。料金の手頃さや配達スピードは魅力ですが、荷物の取り扱いに関してはやや粗さを感じる場面もあり、今後の改善に期待したいところです」

規制環境の不確実性といった重要な課題

 現在、タイのベンチャーやスタートアップを取り巻く環境はどのような状況なのか。タイのビジネス界は、新興企業が次々と立ち上がるような活性化された状況なのか。

「タイのベンチャー・スタートアップ環境は、政府の『Thailand 4.0』戦略やデジタル経済の急速な成長に支えられ活発化しています。特にAI、サステナビリティ技術、フィンテック分野が成長を牽引しており、現在は約2,100社のスタートアップが存在しています。なかでもフラッシュ・エクスプレスやAscend Moneyなど、複数のユニコーン企業も誕生しています。

 しかし、このような成長の裏側には高度な技術人材の不足、ミドル~レイトステージにおける資金調達の困難さ、そして規制環境の不確実性といった重要な課題が存在します。なかでも規制環境の不確実性は、投資家や外資系企業にとって最も深刻なリスクの一つとされています。

 具体例として、タイでは2022年に嗜好用大麻が合法化され、国内外から数千万~数億バーツ規模の投資が一気に流入しました。しかし2025年現在、政府は再び大麻を違法薬物として規制対象に戻す方針を正式に打ち出しており、すでに事業を展開している企業にとっては大きな打撃となっています。健康や青少年保護といった建前の一方で、政争や利権争いが方針転換の背景にあるとの見方もあり、法制度や規制の予測可能性に疑問符が付く状況です。

 このように、タイには投資家や起業家が将来の見通しを立てにくくなるような不透明な要素が依然として存在しています。これらの課題を克服し、人材育成、資金調達環境の整備、そして規制の透明性・安定性の確保を進めることが、タイがASEAN地域のデジタル経済ハブとしての地位をさらに確立するための鍵となるでしょう」(溝口氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=溝口陽平/Asset & Accounting Advisors)

プラ削減策、歩み寄り焦点=条約交渉5日再開

 プラスチック汚染を防ぐ国際条約の策定に向けた交渉が5日、スイス・ジュネーブで再開される。14日までの日程で条文案を議論するが、プラの削減策や特定の製品・化学物質を規制するかどうかを巡る隔たりは依然として大きい。各国が合意に向けて歩み寄れるかが焦点となる。

 条約の策定は、プラによる環境汚染の深刻化を背景に、2022年の国連環境総会で決議された。24年末までの合意を掲げていたが、昨年12月の交渉では各国が強硬姿勢を崩さず、議長草案を基に議論を継続することとした。

 草案の中で意見の相違が大きいのは、(1)プラの生産・廃棄を含むライフサイクル全体での削減対策(2)健康への悪影響が懸念されるプラ製品と添加される化学物質の規制(3)途上国への資金支援―の3点。削減対策では、欧州連合(EU)や汚染の影響を受けやすい島しょ国が石油由来のプラの生産規制などを求める。一方、経済的な打撃を懸念する産油国のサウジアラビアやロシアなどは、廃棄物管理の強化でプラ汚染を防げると主張する。

 日本は、激しく対立する両者の「橋渡し役」(政府関係者)を担いたい考え。生産を含むライフサイクル全体での対策を各国の裁量で決める仕組みを設けるべきだと訴え、できるだけ多くの国が参加する条約を目指す。

 ただ、化学物質の規制や途上国支援に関しても参加国間に溝があり、合意できるかは不透明な情勢。今後も生産・消費量の増加が見込まれる中、危機感を共有して議論を前進させられるかは予断を許さない状況だ。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/02-15:30)