訪日中国人旅行者を中国最大のライフスタイルSNSのデータからひもとく

訪日中国人旅行者のリアル④

日本政府観光局(JNTO)のデータによれば、2025年6月の訪日観光客は約338万人 。特に夏休みシーズンは例年海外からの旅行客が最も多い時期であり、皆さんの生活圏の中でもその姿を目にする機会が多かったのではないだろうか。また今年は大阪・関西万博の開催により、さらにその数は増えることが見込まれている。中でも4分の1近くを占める中国からの観光客は規模だけでなく、消費力などから常にインバウンド・マーケティングの有力なターゲットとなってきた。

しかし新型コロナウイルス大流行による断絶を経て中国の状況も変わり、電通GBC(グローバル・ビジネス・センター)の調査からは「旅マエ・旅ナカ・旅アトの境の曖昧化」など、旅行マインドの変化・深化が浮き彫りになった。それによって行き先、アクティビティ、求めるものなども大きく「多様化・複雑化・臨機応変化」しているのが現状だ。

同調査から浮かび上がった変化の一つが、日本では今まであまり目にすることのなかったアプリ「rednote(中国名:小紅書)」の存在感だ。訪日中国人旅行者に対して行ったヒアリングでも口々に「旅マエ・旅ナカ・旅アト」すべてで「rednoteを活用している」と話してくれた。そこで今回、電通とrednoteの運営会社は、双方が持つ知見とデータを持ち寄り、組み合わせることで、訪日中国人旅行者にアプローチするための手掛かりを探った。

■rednoteとは?
rednoteはMAU(月間アクティブユーザ)3億以上、中国最大のライフスタイルアプリ。特徴はInstagramやPinterestに近い写真・動画を中心にテキストを添えるUI形式と、TikTokのように超強力なアルゴリズムに基づくレコメンデーション。海外旅行だけでなく、ファッション、話題のスポット、グルメなど、トレンドに敏感な中国の特に若者によってなくてはならない存在になっている。
 
rednoteとは?

 

ビッグデータから見えてきた訪日客のリアル

今回入手したのは2024年に日本を訪れたことがあるユーザの検索、閲覧行動のビッグデータ。ヒアリングなどと違い、ビッグデータは「実際の行動」の蓄積であり、言葉にならないような細かい行動やホンネまでも明らかになる。

まずrednoteユーザ全体と、その中の日本旅行者の違いを見てみよう。デモグラフィックで見ると、rednoteは女性の比率が高いプラットフォームだ。その中でも日本旅行者セグメントでは女性比率がさらに高めになっている(中国からの日本入国者全体の比率は男性44.6%、女性55.4%(※1)であることからしても、女性比率が際立って高い)。若者が多いrednoteの中でも、日本旅行者は年齢が若く、20代が過半数である。そして北京・上海といった1級都市(※2)、それに続く成都(四川省)、杭州(浙江省)、武漢(湖北省)といった新1級都市の比率が高い傾向にあることがわかる。

※1 出典:出入国管理統計統計表 2023年年報(法務省)、在留資格:短期滞在(15日以内+90日以内)、国籍・地域:中国
 
※2 中国の都市区分:
中国では、都市を人口や経済レベルなどさまざまな観点から1級(北京・上海など)・新1級(青島・成都など)〜5級までの6つに分けられている。習慣的なものであり法律などで定められた正式な行政区分ではないが、一般的には中国の大手経済誌「第一財経」とその傘下のシンクタンクが発表する「都市魅力ランキング」が基準とされ、毎年少しずつ顔ぶれが変わる。
参考サイト;中国広播電視台「第一财经发布《2025新一线城市魅力排行榜》 ,刷新过往重新发现」
https://www.smg.cn/review/202505/0166469.html

 

rednoteユーザのデモグラフィック特性

検索ワードから見る「旅マエ・旅ナカ・旅アト」のココロの変化

では、彼ら・彼女らは日本で実際に何をしているのか? 多様化・複雑化とは、具体的に何を指すのか? まず最近起こっている全体的な変化を探るために、直近3年間の春節期間における検索キーワードTop10の推移を「旅マエ・旅ナカ・旅アト」ごとに見てみよう。

検索キーワードTop10の推移 旅マエ・旅ナカ・旅アト
旅行の準備を始める「旅マエ」期間では、中国からの日本入国に必須のビザの手続きがトップに来るのは変わらない傾向だ。加えて「日本旅行」「大阪」「京都」といった地名、あるいはそこに「攻略(日本語由来の単語で、旅行に関する中国語では『ヒント・Tips』『指南・ガイド』といった意味)」を加えた、大まかな情報探索が行われていることがわかる。中国からの旅行者にはリピーターも多く、「もはや東京・大阪・京都だけではない」と言われながらも、全体から見ればこれらの定番スポットの人気はいまだ圧倒的だ。

日本到着後の「旅ナカ」には、グルメや買い物に関するキーワードが一気に増える。とはいえ「日本旅行攻略」といったビッグワードが上位に残り続けていることからも、いまだ行動計画が完全に固まっていない人が多いこともうかがえる。また25年については、春節期間中の2月2日に非常に知名度が高い台湾出身の女優、徐熙媛が日本を旅行中にインフルエンザにかかり、不幸にして亡くなってしまった。この影響でrednoteでも「日本ではインフルエンザが大流行しているのでは」といううわさが流れ、関連のキーワードが上位を占めることとなった。

「旅アト」については、「旅マエ」「旅アト」で登場したようなキーワードが多くみられる。これは閲覧というよりは、自らの体験をノートとして投稿する際、他の投稿を参考にすることが多いことに由来する。写真や文章、用いるハッシュタグなど、閲覧数が多い投稿を参考にして自分の体験をできるだけ多くの人に見てもらえる形にするのは万国共通の特徴と言えるだろう。この中にはもちろん、すでに次の日本旅行についての情報収集をしている人も含まれる。

旅マエ・旅ナカ・旅アトごとのキーワードと投稿例
「旅マエ・ナカ・アト」ごとのキーワードと投稿例

では実際に日本に来ている人たちはどういう特徴をもち、何を求めているのか? その行動や目的地などごとにさらに分析すると、4つのペルソナが浮かび上がった。それが「美食探求者」「爆買い継承者」「二次元聖地巡礼者」「秘景旅行者」だ。また、女性利用者が多いとはいえ、月間アクティブユーザが3億を超えるrednoteにおいて、全体の4分の1程度は男性であるため、 男性の特徴をあぶりだすために、独立したセグメントとして切り出して分析している。

若手グルメ中国人殺到中、「食い倒れの街」面目躍如の大阪、冬の定番北海道急上昇

 

美食探求者 ランキング

ここではそのうち特徴が比較的明確な「美食探求者」を紹介しよう。東京・京都・大阪は本州のゴールデンルートといわれ、元々訪日観光客がもっとも人気の都市だ。なかでも検索数上位を大阪関連の地名が占めており、中国人の若者からの注目が集まっていることがわかる。「心斎橋」のほか「日本橋」「長堀橋」「大国町」「りんくうタウン」など非常に具体的な地名と共に検索されている。その一方、「お好み焼き」や「たこ焼き」といった、一般的に大阪名物といわれて日本人が思いつく料理の名前は出現しない。たこ焼きは中国でも比較的よく目にする料理で「日本のもの」というイメージはあるが、訪日中国人旅行者の中で大阪という地名と日本人ほどには結びついていないことが考えられる。

美食探求者 検索ワード上昇率上位
 
また調査時期が冬であったことも影響してか、急上昇ワードには北海道関連が多く見られた。一般的に観光名所として思い浮かぶ時計台ではなく、日本風情がある「北海道神宮」が美食のキーワードとしても現れているのが興味深い。また、TOP10には小樽が北海道の地名としては唯一ランクイン。札幌や富良野といった大定番の目的地からの行先の広がりが感じられる結果となった。

美食探求者たちが参考にしているのは、フォロワー1000万前後の全領域における影響力を持つ大物KOL(インフルエンサー)のほか、フォロワー数千人ではあるが、TGI(※) の高いKOC(Key Opinion Consumer)も多くランクインしている。しっかりとした訴求テーマが決まっている場合は、むしろこうした、フォロワー数は多くないが特定のテーマに関しては影響力を持つKOCとのコラボレーションでの情報発信は、効果・効率の両面で十分に検討に値するだろう。

※TGI: Target Group Indexの略。あるセグメントの母集団からの乖離程度を表し、100を標準として、数字が大きいほど母集団の特徴と異なる(=個性を持つ)ことになる。例えば母集団の10%がりんご好き、某セグメントの20%がりんご好きだった場合、TGIは200となる。

 

KOL-TGI
 
他のカテゴリにおいても、例えばアニメ・マンガ好きの「二次元聖地巡礼者」であれば好きな作品の舞台となった街の名前や、買い物好きの「爆買い継承者」の間で共有される免税手続きのTipsなど、同じプラットフォームの中でもまったく異なるキーワードで検索が行われ、異なるKOLの発信が影響力を持つ。漠然と「訪日観光客」とひとくくりにするのではなく、日本国内向けの一般的なマーケティング活動同様、入手可能なデータに基づき事前に「誰が潜在顧客なのか」を見定めたうえで戦略を定めないと、期待したような効果を得ることは難しいだろう。


電通が提供する中国インバウンド向け統合ソリューション

 

訪日中国人に対する包括的なソリューション

電通は、訪日客の「旅マエ・旅ナカ・旅アト」向けマーケティングを一気通貫で解決するソリューションを提供している。今回取り上げたrednoteに加えて、最大手旅行OTA(オンライン旅行代理店)であるCtripや、電通中国がもつ12億IDのデバイス情報にもとづいたオーディエンスプラットフォーム”Mercury”によるターゲット属性や行動に応じた効果的、効率的でピンポイントな広告投下など、さまざまなツールやプラットフォームとの提携によって、訪日消費取り込みの最大化を狙うクライアントをサポートする。

参考:ウェブ電通報 | 「データから読み解く訪日中国人旅行者のリアル2025」


また、今回そのソリューションに加わったrednoteは、単純な広告出稿だけではなく、有力KOLへの投稿作成依頼や、特有のリスクを避けながらブランドの魅力を最大限引き出す公式アカウント運用、そしてサイト内Eコマース(現在は中国国内向けが中心)など、サービス傘下の多岐にわたる機能を組み合わせることで、その費用対効果を最大化することができる。電通もまた、プラットフォームのデータと電通の知見をかけあわせ、これら多彩なパレットから最適な組み合わせを導出し、提供していきたい。

 

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 AIが顧客対応を一気通貫で支援…FAQの進化が企業成長を加速する

●この記事のポイント
・株式会社Helpfeelは、FAQ検索技術「意図予測検索」を核とする新戦略「AIナレッジデータプラットフォーム」を発表し、AIを活用した3つの新サービスを公開した。
・FAQから予約・購入まで完結できる「Helpfeel Agent Mode」、問い合わせ管理を自動化する「Helpfeel Support」、顧客の声を分析しFAQ改善を支援する「Helpfeel Analytics」である。
・これにより自己解決から有人対応、改善提案まで一気通貫の顧客支援を実現。既に700サイト以上で導入され、問い合わせ削減やROI向上に寄与している。

 FAQに単語を入れるだけで質問予測を提示する特許技術「意図予測検索」を搭載したFAQソリューション「Helpfeel」を提供するテック企業、株式会社Helpfeelは8月27日にメディア向けの事業戦略発表会を開催した。 当日は基本戦略を解説しつつ、AIエージェントに搭載する新機能を初公開。さらに、累計59億円の資金調達に至った背景と今後の成長戦略についても説明した。

 

 Helpfeelの中核戦略は「AIナレッジデータプラットフォーム」だ。これは企業の内外に散らばるマニュアルやFAQ記事、問い合わせログといった情報をひとつにまとめて整理し、AIが「迷わず、正しく、速く」活用できる形に整えた情報基盤を指す。この情報基盤を使うことで、FAQはより的確に回答へ導けるようになり、社内ヘルプデスク対応の効率化につながる。

「近年の生成AIは強力ですが、社内事情を反映できず、回答が曖昧になり実務で使いにくいという課題があります。社内のメール文作成やコールセンター分析のような実務にAIを活用するには、社内に蓄積された膨大なナレッジデータと、分析や検索ができる仕組みが不可欠です。

 また、生成AIの回答は企業の公式サイトやFAQなど公開ナレッジの整備状況から大きく影響を受けるため、エンドユーザーに最新かつ正しい情報を提供できるよう、最新かつ正確な情報提供が重要になります。本来必要な公開情報やナレッジの整備が不十分であることは、生成AI時代の企業課題といえるでしょう」(洛西氏)

「答える」から「解決する」へ進化した、3つの新サービス

 このような基本戦略を持ちつつ、自己解決チャネルで顧客の課題解決を支援してきたHelpfeelだが、今回発表したのは、答えを提示するだけでなく、解決まで導くAIへと進化した、AIエージェントを含む3つの新サービスの「Helpfeel Agent Mode」「Helpfeel Support」「Helpfeel Analytics」だ。いずれも「AIナレッジデータプラットフォーム」を構成する新サービスとして位置づけられている。

 Helpfeel Agent Modeは、FAQとチャットボットを組み合わせ、自然な対話で課題を引き出し、解決まで導くAIエージェントだ。対話型UIを備え、回答内に予約フォームやオンラインストア、地図などを埋め込み、ページ遷移なしで予約や手配まで完結できるようにした。

 架空のホテルサイトを使ったデモでは、FAQからチャットモードへ自然に移行し、会話の流れのなかで予約まで完了する様子が披露された。「誕生日」と入力すると関連質問が即座に提示され、レストラン利用や客室演出などの選択肢が会話に沿って表示される。「牛乳アレルギー」などの条件追加にも対応し、ニーズに合わせて次のアクションまでつなげる動作が示された。

「最初は、お客様が実際に運用しているシステムと連携していただきますが、将来的にはこのミニアプリ自体を当社と一緒に作れるようにすることも検討しています。

 社内システムでは、パソコンの不具合がある場合に、問い合わせへのチャット回答からPC交換フォームへとつながり、そのままチャット内で申請まで完了できるなど、社内の問い合わせ自体を減らす仕組みを構築できるのも特長です」(秋山氏)

 Helpfeel Supportは、問い合わせを管理するためのプラットフォーム。従来は自己解決を促す検索エンジンの提供が中心でしたが、有人対応のカスタマーサポート業務まで機能を広げることで、AIによる一気通貫の支援を実現する。

 具体的には、受信した問い合わせをAIが自動でチケット化し、内容を分類して担当者に振り分け、返信文面のドラフトまで自動作成。オペレーターはAIが用意した内容を確認・送信するだけで初期対応を完了できる。さらに、対応履歴からFAQの改善点を抽出し、自己解決を促すコンテンツの作成も支援するため、問い合わせ件数の削減にも寄与する。

 Helpfeel Analyticsは、お客様の声を分析するためのプラットフォームだ。数千〜数十万件規模のメールや電話の問い合わせログをAIが自動で分類・クラスタリングし、既存のFAQ記事と照合して改善案や記事案を提案する。

 たとえば、「閲覧数が多いのに問い合わせも多い」といった課題を定量的に特定し、記事の見直しや追記など具体的な改善案を提示。未掲載のテーマについては、実際の問い合わせ内容をもとにFAQのドラフトも自動生成する。これまでコンサルティングで行ってきた分析・改善提案を、継続的に使えるプロダクトとして“SaaS化”した点が特徴だ。

 リリース予定については、Helpfeel Agent Modeは10月提供開始予定。Helpfeel Supportはクローズドベータの形で10月から提供開始予定。Helpfeel Analyticsは12月の提供を目標として開発を進めている。

3年平均CAGR80%超、26億円調達で北米展開を加速

 直近3年間の年平均成長率(CAGR)は80%超に達している。Helpfeelの導入効果としては、コールセンターの人員最適化に寄与し、問い合わせを20〜64%削減。導入は700サイト以上に広がっているようだ。

「Helpfeelが多くの企業に選ばれる理由は、顧客や社内からの不要な問い合わせを明確に減らし、粗利率や販管費の効率改善、人手不足への対応などで成果が出ていて、投資対効果(ROI)がはっきり示せることにあります。

 もうひとつは、AI時代に合わせてウェブやアプリの体験を改善し、デジタルネイティブ世代を取り込めている点です。エンドユーザーが速く正確な体験を求めるなか、Helpfeelの対応によって売上の伸長にもつながっています。AIがPoC段階から、実運用で結果が求められる段階に移る潮流に対し、当社としての答えを示しています」(洛西氏)

 2025年8月にはシリーズEのファーストクローズで26億円を調達し、累計59億円に到達。資金はAIナレッジデータプラットフォームの開発体制強化に充当し、公開ウェブサイト、コールセンター、社内利用の複数領域での提供を加速するという。海外需要を追い風に、中長期的には北米市場をはじめ海外展開を進める方針だ。

(取材・文=福永太郎)

パスワードはもういらない?大阪万博で世界を驚かせた日本発の「次世代決済」技術

 55年ぶりに日本で開催されている大阪・関西万博。その国際舞台で、キャッシュレス社会が抱える根源的な課題に切り込む日本発のベンチャー企業が注目を集めた。8月10日、大阪ヘルスケアパビリオン「リボーンステージ」で開催された「第4回 METインクルーシブ・スマイルデー in 大阪万博 2025」に登壇した株式会社PAY ROUTEだ。

キャッシュレス社会の「見えないリスク」

 クレジットカードやスマートフォン決済が普及し、キャッシュレスは生活に欠かせないインフラとなった。一方で、利用者は常にIDやパスワードの入力を求められる環境に置かれ、不正利用リスクも増大している。世界の被害額は2023年時点で4,290億ドルに達し、多要素認証さえ突破されるケースも少なくない。代表取締役・田川涼氏は、「ID・パスワードでの認証はすでに限界がきている」と指摘する。

「ROUTE PAY」が描く次世代認証

 同社が開発した「RC-Auth」を基盤とする決済アプリ「ROUTE PAY」は、秘密鍵・公開鍵を用いた双方向認証によってID・パスワードを不要とする仕組みである。ユーザーは画面に表示される数桁のコードを入力するだけで認証が完了する。従来の3Dセキュアのように複雑なアプリ間移動は必要なく、「高いセキュリティ」と「シンプルな操作性」の両立を可能にした。

 来場者からは「難しい知識がなくても安心して使える技術だ」と驚きの声が上がり、体験した人々の関心を大きく集めた。

テレビが決済端末に変わる――「TVPAY」の可能性

 続いて田川氏が紹介したのは、テレビに決済機能を付与する「TVPAY」だ。ROUTE PAYの認証を活用し、専用リモコンからショッピングやオンライン診療の決済までをテレビ画面上で完結できる。

 これまで別デバイスを使っていたテレビショッピングも、検索から購入・決済までをワンストップで実現する。特に高齢者にとっては、慣れたテレビ操作でオンライン診療や生活サービスを利用できる点が大きな魅力となる。高齢化が進む日本社会において、デジタル包摂の切り札となり得るだろう。

障がい者に寄り添う「YELLPAY」

 さらに発表されたのが、障がい者専用キャッシュレス「YELLPAY(エールペイ)」。従来、障がい者手帳を利用した割引は現金決済が中心で、キャッシュレスの普及が進みにくい背景があった。

 YELLPAYでは、手帳情報を登録することでキャッシュレス決済でも割引が適用され、よりスムーズな買い物が可能になる。登壇したMETイノベーション国際推進機構・副代表の村上美文氏は「障がいのある方“も”使える仕組みではなく、障がいのある方の困りごとに特化した点に大きな意義がある」と強調した。

万博が示した「世界共通の課題」と日本発の突破口

 今回のイベントには、吉村洋文大阪府知事や大阪観光局・溝畑宏理事長らも来賓として出席。雨にも恵まれ、来場者数は1万5,000人を超えた。ステージ前に人だかりができ、PAY ROUTEの技術は予想以上の注目を浴びたと言う。

 田川氏は最後に「PAY ROUTEの認証技術は、決済の安全性とシンプルさだけでなく、今まで見られなかった世界を実現していくことができる」と語り、万博という国際舞台から世界にメッセージを発信した。

 ID・パスワード認証に依存する現在の仕組みは、日本だけでなく世界が直面する共通課題だ。大阪万博での発表は、グローバルに展開可能なソリューションとしての第一歩となった。同社の取り組みは、決済分野にとどまらず社会のあり方そのものを変える可能性を秘めている。今後の普及の行方が、世界のキャッシュレス社会の未来を占う試金石となるだろう。

※本稿はPR記事です

サントリーHDが挑む「協調の脱炭素」…食品業界4社がサプライヤー支援に乗り出す理由

●この記事のポイント
・サントリーホールディングスは食品大手4社と共同で、国際団体CGFのもとサプライヤーへの脱炭素支援を開始した。
・食品業界は裾野が広くスコープ3排出が大きいため、一社単独では限界がある。取り組みは、サプライヤー向けの啓発活動や排出量算定の支援、実践型ワークショップの実施など多面的に展開される。
・競合関係を超えた協調により、農業分野での環境負荷低減や安定調達を目指す点が特徴。将来的には協調型脱炭素プラットフォームとして共同調達やシステム活用に発展する可能性もあり、日本企業にとって「協調」が持続的競争力の源泉となることを示唆している。

 世界的に「脱炭素」は企業活動の最重要課題となりつつある。国や業界の枠を越え、サプライチェーン全体を巻き込んだ行動が求められるなか、サントリーホールディングス(以下、サントリーHD)は、食品大手4社と共に新たな取り組みを開始した。

 それは、国際的な消費財業界団体「The Consumer Goods Forum(CGF)」のもとで、サプライヤーの脱炭素化を支援する協調型のプラットフォームを立ち上げるというものだ。競合であるはずの企業同士が手を取り合う今回の動きは、食品業界における「協調領域」でのイノベーションを象徴している。

 本記事では、その背景や具体的施策、そして日本企業にとっての学びを探っていきたい。

●目次

なぜ「協調」に踏み出したのか

 サントリーHDが食品業界4社と共に脱炭素支援に乗り出した背景には、スコープ3と呼ばれる「サプライチェーン全体の温室効果ガス(GHG)排出」がある。

 製造業や小売業にとって、自社工場や店舗だけでなく、原材料調達から物流、農業生産に至るまでの排出量が環境負荷の大半を占めることはよく知られている。食品業界は特に裾野が広く、複雑に企業が絡み合う。こうした事情から「一社だけの努力」では限界がある。

 サントリーHDは語る。

「ネットゼロ実現には、業界全体の協調が不可欠です。今回の4社の取り組みを通じ、将来的には消費財業界全体へと波及することを目指しています」

 CGFが4月に発表したプレスリリースによれば、この協調プログラムは「サプライヤー脱炭素支援」「持続可能な農業モデルの推進」など4つの協調領域に基づいている。国際的に見ても、食品業界におけるサプライヤー支援型の協働はまだ珍しい。まさに業界初の試みといえる。

サプライヤー支援の具体像

 では、実際にどのような支援が行われるのだろうか。サントリーHDは「啓発」と「算定」の両輪で取り組みを進める方針を明らかにしている。

(1)啓発
 サプライヤーに対し、GHG削減の意義やメーカーからの期待を伝えるとともに、勉強会やオンラインコンテンツを通じて、ネットゼロに向けた基本知識や具体的削減手法を提供する。

(2)算定
 排出量の算定は、多くの中小サプライヤーにとって大きな負担だ。そこで、共通ルールに基づきサプライヤー固有の排出係数を算出・提供する事務局を設立し、第三者保証付きのデータをメーカーに提供できるよう支援する。

 さらに、単なる知識提供にとどまらず、「削減」の実践も重視する。有志サプライヤーとメーカーが共に参加する分科会やワークショップを設け、テーマや品目ごとに具体的な削減策を検討していくという。

 このアプローチは「トップダウンの要請」ではなく、「共創」に近い。サプライヤーが主体的に動ける仕組みを整えることで、長期的な関係性の強化につながる。

複数社で取り組むメリット

 競合他社と手を組むことにデメリットはないのか。そう問うと、サントリーHDは明快に答える。

「GHG削減は競合領域ではなく、協調領域です。ここで協力することが、結果として持続可能な調達につながります」

 特に農業分野における効果は大きい。農家はしばしば輪作(複数の作物を同じ畑で順に育てる農法)を行っており、単一企業による支援では十分な効果を得にくい。複数企業が協働すれば、農家にとっても一貫性のあるサポートとなり、実効性が高まる。

 さらに、規模の効果や費用分担の点でも協働の利点は大きい。脱炭素の取り組みには多大な投資や人材リソースが必要であり、単独で進めれば非効率になりがちだ。協調によって「共通基盤」を整えることが、業界全体の加速につながる。

将来展望:プラットフォーム化の可能性

 今回の取り組みの第一歩は、協調型の脱炭素プラットフォームを立ち上げることにある。サプライヤー支援や農業モデルの推進を通じて、データやノウハウの蓄積が進めば、将来的には「共同調達」や「共通システム」の利用といった、より深い協力へ発展する可能性もある。

 欧州では、業界横断的な再生可能エネルギー調達や、共通プラットフォームによる排出量管理が広がりつつある。日本企業が国際的な競争で存在感を維持するためにも、こうした協調の基盤づくりは不可欠だ。

脱炭素潮流と日本企業への示唆

 脱炭素は単なる「環境対策」ではなく、企業の競争力を左右する経営課題だ。世界的にカーボンプライシングや規制が強化され、投資家や消費者の目線も厳しさを増している。

 特にスコープ3への対応は、企業単独では限界がある。今回のサントリーHDら4社の取り組みは、日本企業にとって次の3つの学びを示している。

(1)競合との協調が新しい競争力を生む
環境課題は「競争」ではなく「協調」が前提。業界横断的な枠組みづくりは、企業価値の持続性を高める。

(2)サプライヤー支援は長期的な投資
下請け企業や農家を単に「コスト削減の対象」と見るのではなく、共に成長するパートナーとして支援する姿勢が重要。

(3)プラットフォーム化が加速を生む
脱炭素の知見やデータを共有する基盤は、将来的な新事業や調達力強化にもつながる。

おわりに──「協調」こそ次世代の競争軸

 サントリーHDらの挑戦は始まったばかりだ。しかし、競合を超えて協力するという姿勢は、今後の産業界における新たな常識となるかもしれない。

 企業がサステナビリティを真に実現するには、「一社の努力」ではなく「業界全体の協調」が不可欠だ。ビジネスパーソンにとっても、今回の事例は「自社の取り組みをどう広げ、誰と共に進めるか」を考えるきっかけになるだろう。

 脱炭素時代の競争軸は、「どれだけ速く単独で走るか」ではなく、「どれだけ広く共に進むか」にある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

“Possibilism(ポシビリズム)” ~AI時代のリテール・コマースの新たな可能性は、米国ではなくAPACから(前編)

毎年1月に行われる全米小売業協会(NRF)主催の世界最大の流通小売分野における大型コンベンション「NRF Retail's Big Show」。第2回目となるAPAC 版が、6月3日から5日にシンガポールはマリーナベイ・サンズホテルにて開催されました。リテール・コマースの最先端トレンドは、今後どのようにシフトしていくのか?コロナ前の2020年から時系列で定点観測してきた、電通グループにおける流通小売業のBX/CX支援を行う木村仁昭がお送りします。

はじめに

昨年以上の規模感で大盛況に終わった、NRF APAC 2025(以下、APAC2025)。そのオープニングで強調されていたのは、リテール・コマース領域における APAC エリアの「ポシビリティ」や「ポテンシャル」でした。 米国では超大手グローバルブランドの動向に注目が集まりがちですが、“デジタル・データ・テクノロジー”という3点セットの力によって、

①世界市場にまだ認知されていないAPACのユニークでバラエティに富んだリテーラーたちなりの、DXやブランディングの在り方がアンチテーゼとして打ち出されたこと。

②その原動力となったのが、“デジタル・データ・テクノロジー”の3点セットにデフォルトで加わりつつある、AIという第4の力であること。

③逆説的ではありますが、これらの環境が整うことによって、「店員と顧客というミューチュアルなつながり」「店舗というフィジカルな空間」「その場限りでのリアルな体験」という、コロナ前は当たり前のように消費者が享受してきた顧客体験(CX)の価値が、相対的にグッと高まったこと。

これらのAPACならではの「リテール・コマース・アジェンダ」は、まさにAPACの多様な歴史・文化・社会・民族・宗教……観点に根差したところが大きいと言えるのではないでしょうか?もちろん、そこには日本も含まれます。今回のレポートでは、上記論点に沿って、

前編: NRF APAC 2025振り返り~AI時代のリテールコマースの可能性
後編: APAC域内の店舗視察~台湾/シンガポール/マレーシア

の2部構成で、内容詳細を皆さまにお届けします。

スピーチから見えてくるリテール・コマースの可能性

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APAC 2025 Day1(オープニング):KPMG社 イサベル・アレン氏

初日のオープニング講演で提起されたこの「ポシビリズム」という、聞き慣れない言葉は、古くはフランスの政治活動に端を発し、その後米国の社会経済学者:アルバート・ O・ハーシュマン(Albert O. Hirschman)により提唱された、「まだ見ぬ新たな社会へ、漸進的に向き合う」スタンスを指すそうです。もっと端的にお伝えすると、特に大きなパラダイムシフトが起こるタイミングや社会においては、官や経営のトップダウンよりも、民や現場からのボトムアップが引き出す未来への可能性を信じる方がベター、という考え方です。筆者は「AI浸透の現代」に、それらを重ねて見ています。

また、APAC 2025のテーマは、「Retail Unlimited」。オープニング講演では、APAC市場そのものが持つポテンシャルとして以下のようなデータを挙げていました。

●APACは35億人の人口で、世界人口の55%を占める。
●2030年には、世界の一般的な消費者層の2/3がこの地域に集中する見込み。
●東南アジアにおいては、EC市場が過去5年間、年平均20%以上で成長。
●韓国では、世界で初めてEC化率が50%超え。

さらに、スーパーアプリ、ライブコマース、SNS連動型購買など、APAC発のリテールトレンドが世界の市場や消費者行動に強い影響を与える存在となりつつあることが示されたことも、見逃せません。ここにAIがどのような影響を及ぼしていくのでしょうか?

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APAC 2025 Day1(オープニング):KPMG 社 イサベル・アレン氏

講演の中では、「今までにないほど人も物もサービスも、ネットやECを通じて、グローバルにつながっているにもかかわらず、ナショナリズムや保護貿易主義がまん延している世界」「消費者の刹那的な欲求期待に応える利便性は、エコノミカルにもサステナブルにもならないという社会構造」「リテーラーは従来以上にデータ集積を進めているにもかかわらず、消費者行動におけるキーとなる情報にたどり着けていない現状」「人の手を介した仕事が減っている一方で、必要な人材はより得難くなっている労働市場」……など、10領域に関する各種 の“paradox” を挙げつつ、それらの矛盾を解決していくのがAI 、特に今回会場内でよく聞かれた、高度な自律性と意思決定能力を持つAgentic AIの可能性である、と説明されていたことが印象的でした。

1月のNRFでNVIDIAの幹部が触れていた、ロレアル(L'Oréal)のデジタルマーケティングにおける多パターンバナー広告の自動生成、Walmartにおける在庫管理とサプライチェーンの可視化、ロウズ(Lowe's)におけるデジタルツイン活用の従業員向けOJTプログラムなどのAI活用実例も含めて、2025年までのリテール・コマース環境におけるテクノロジーの変革×EC環境の変化×チャネル構造の変遷を年表形式にまとめてみたのが以下です。そこからたった半年余りが経過しただけですが、この進化のスピードもまた速く、「I am AI」から、「Agentic AI is everywhere」とも言える状況が昨今は到来している、と言っても過言ではないでしょう。

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リテール・コマース環境におけるトランスフォーメーション(20~21世紀)

3日間の会期中、各日ともにAPACのリテールDXやBXをけん引する、強いリーダーシップを持った経営層が登壇しましたが、そこで印象に残ったセッションを以下に紹介したいと思います。

Day1:LOTTE
LOTTEは、日本だとお菓子メーカーとしてなじみの方がある企業かもしれませんが、グローバルでは、韓国発・APACの先進的リテーラーとしてその名をはせています。APAC 2024の前回レポートでも取り上げてきましたが、彼らのリテールDXに対するアプローチはOcadoを活用した都市型先進的なネットスーパーにとどまりません。傘下に抱える幅ある業態の中でも、「旅マエ・ナカ・アト」という購買モーメントの高まる特別な瞬間を捉えるDuty Free ShopはCX観点でも着目に値すると言えます。

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Day1:韓国・LOTTE×シンガポール・FairPrice Group、Opening Keynote CEO対談

Day2:Royal Selangor
ロイヤルセランゴール(Royal Selangor)は、1885年創業で今年140周年を迎えるマレーシア王室御用達のピューター(錫(スズ)工芸品)メーカーです。越境EC需要の高まりの中で、こちらも前回お伝えしたタイのシルクブランド:Jim Thompsonと同様、旅行や出張の土産品というグローバル・ブランディングからの脱却を志向。既存のブランド価値を守りながらも、コンテンツ IPを活用した商品化を通じて拠点であるマレーシアでのローカル・マーケティングに注力していた点が印象的でした。

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マレーシア・クアラルンプールにある、Royal Selangorの旗艦店

Day3:GOLDEN  ABC
GOLDEN ABCは、1986年に創業のフィリピン・ファッション小売業界をけん引する大手アパレル企業として、配下にPenshoppe/Oxygen/MEMO ……といったオリジナルブランドを持ちます。家族経営発ながら、「アジアで最も尊敬されるファッションブランドになる」というビジョンを掲げ、AI やその他の新興テクノロジーを取り込む進取の気性に富む企業です。しかし、Alice Liu CEOは最後にこう述べていました。「Growth isn't just about entering new markets, it's about staying rooted in who we are even  as we continue to evolve (企業にとってのグロースは単に新領域へ参入するということだけでなく、“進化し続けながら”自社にとっての原点にこだわり続けることです)」この言葉は国や業種関係なく、グロースを目指すあらゆる企業にとって、重要な言葉かもしれません。

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Day3:フィリピンのアパレルコングロマリット、GOLDEN ABCのOpening PV

いずれの企業にも言えることは、いい意味での創業家リーダーシップが健全に発揮された上で、4点セット(データ・デジタル・テクノロジー、そして AI )を活用しながらもそれに依存することなく、各社の原点(それぞれの国固有の文化、社会、民族、宗教……)とそこへのリスペクトという軸足をブラさずに、ビジネス・ピボットしている点ではないでしょうか?  

参考:Story, Memory, History ~ Brand, Store, People, ポスト・コロナとその先にあるもの 


注目のブース展示

会場内で目立ったブース展示には、冒頭お伝えしたようなAI時代の新たなCX追求ニーズを反映してか、インストア向けのハードソリューションやテクノロジーが強調されていたように感じられました。

VUSION (電子棚札)
imageAI を活用した予測機能を持つ機能進化した電子棚札により、売り上げ最大化と粗利率向上を図り、中韓勢のコスト競争と差別化を図っている。

Amazon (3D AI ホログラフィックディスプレー)  
imageアパレルECにおけるImmersive Commerceを店舗に逆応用。VR/AR/3DといったSpatial Computing技術により、購入前試着にスピードとスムーズさを提供することで顧客⇆店員のやり取りを円滑にし、ペインポイントを解消する。

SONY (エッジコンピューティング処理搭載のAIカメラ)
imageイメージング&センシングを得意とするソニーセミコンダクタソリューションズと、マイクロソフトのクラウドを活用した共創ソリューションは、AI写真判定により顧客像を捕捉、in-store顧客動態データを基に、店内導線改善やROIを高めるゾーニングなどの示唆出しも。

FairPrice (レジカート — Store of Tomorrow —)
imageAppの二次元コードでアンロックし、内蔵重量センサーとスキャナーでカート内商品認識が可能。不正登録はライトセンサー警告が発動する。タッチパネル決済が可能で購入情報はアプリに自動反映される。

電通グループの挑戦

今回は電通グループとしても2回目の海外コンベンションの出展となりましたが、昨年同様に電通 APACや国内電通グループ各社と連携しながら、ブースデザインはTag社が再び取り仕切り、グループ一体となって推進したソリューション展示となりました。

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昨年同様大盛況となったdentsuブースでは、AI判定モデル実装の購買証明ソリューション「SCAN DA CAN 」 がアジア初上陸

電通グループのブースコンセプトは、昨年の「Infite Commerce」から「Commerce×Culture」へと進化しました。APACとくくられたマーケット定義は最近でこその言葉ですが、それだけでは語り切れない文化的な多様性こそがAPACのポシビリティであり、ポスト・コロナの・AI時代におけるリテール・コマースのグローバルスタンダートとなりえるとするならば、会場の中でわれわれがその一翼を少しは担えたのかもしれません。

ポシビリティから、ポテンシャルへ。後編では、今回赴いたシンガポール・マレーシアに昨年11月の台湾も併せて、グローバルな消費社会におけるAPACという巨大なマーケットが持つ多様性のポテンシャルを、リテール店舗視察・フィールドワークの観点から、推し量ってみたいと思います。

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GovTech東京が描く行政AI活用の未来─全国の自治体で使える“デジタル公共財”

●この記事のポイント
・東京都は「東京都AI戦略」を公表し、行政サービスと業務効率を高めるための全庁的AI活用を打ち出した。その中核となるのが、GovTech東京とデジタルサービス局が整備するAIプラットフォームである。
・Difyはクラウド版とセルフホステッド版の2つを持ち、職員がノーコードで業務アプリを構築・共有できる仕組みを備える。多様なAIモデルを組み合わせて「短い鎖」で業務を分担し、安全性と速度を両立させる設計が特徴。
・住民サービスの入口や編成の工夫が各地で再現可能となり、全国の自治体で導入格差を埋める効果が期待される。

 テクノロジーは机上の計画ではなく、現場の摩擦の中で磨かれる。GovTech東京がTokyo Innovation Baseで2025年8月19日に開催した「ガブテックカンファレンス vol.1」は、生成AIを”話題”ではなく行政の品質を上げるための”道具”として、実システムに実装する確かな一歩を示した。

 東京都は2025年7月25日に「東京都AI戦略」を正式に公表し、都民サービスの質と業務生産性の双方を高めるために、AIの全庁横断活用を明確化した。その方針の下で、行政DXを推進する組織であるGovTech東京が、AI導入のためのプラットフォームと運用フレームワークを示し、登壇した松尾豊(東京大学大学院工学系研究科教授、東京都AI戦略会議座長)、大山訓弘(日本マイクロソフト業務執行役員)、松本勇気(LayerX代表取締役CTO)の各氏が”実務で回るAI”の条件をそれぞれの視点から具体化した。政策・技術・運用を横断する議論に、現場起点の温度が通った。

●目次

GovTech東京が目指す自治体AI基盤──共通道具としてのプラットフォーム

 今回の中核は、GovTech東京と東京都デジタルサービス局が連携して整備する生成AIプラットフォームである。プラットフォームと表記しているのは比喩的な表現ではない。職員が専門的コーディングに依存せず、ノーコードを含む環境で業務アプリを自ら組み立て、庁内外で共有し、他団体が再利用できることを前提に設計された”現場実装のための道具”だ。

 Difyの提供形態はクラウド版とセルフホステッド版の2つに分かれる。前者のパターンのDify Cloudはクラウドで提供される運用一体型、後者のパターンのDify Communityはソースコードが公開されており、自前サーバーに導入して使える形、同じく自前運用前提のDify Enterpriseは組織要件に合わせた拡張・統合を見込むエンタープライズ版である。すなわち、セルフホステッド版は”自庁で動かす”選択肢であり、プラットフォームとしては Dify Enterprise を採用している。

 アーキテクチャの骨格は明快だ。既存の文書や台帳を知識として取り込み回答精度を高めるRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)、業務横断のデータ取扱いを支えるガバナンス、そしてテナントごとの厳密な分離と統治を前提にする。重要なのは”多機能化”より”標準化”の置き所である。プロンプトと評価の手続き、モデル更新時の回帰確認、監査ログの保全を最初から運用設計に織り込み、安全と速度を両立させた状態で”回し始める”ことを可能にする。

 Difyはまた、複数のAIモデルを編成して使う前提で設計され、要約・照会・根拠提示・文書生成といった”短い鎖”に仕事を分解し、場面ごとに最適な能力をつなぎ合わせる。Microsoft Azure OpenAI ServiceのGPT-4o、GoogleのVertex AIによるGeminiやClaude、ローカルLLMなど、多様なAIモデルを統合的に活用できる構成となっている。

2026年度の本格稼働へ──現場で使い、使いながら磨く

 生成AIプラットフォームは完成されたプラットフォームとして配布される”大規模一括導入”型ではない。GovTech東京はまず自分たちの現場で自ら試験運用(いわゆる“ドッグフーディング”)し、都庁各局・区市町村での実証を並走させるスタイルで開発が進められている。

 文書の校正・要約、議事録作成、ヘルプデスク支援といった、短期で効果が見えやすい領域から成果を積み上げ、作りながら使い、使いながら直す。この進め方は、リスク分散と習熟の同時実現を可能にし、2026年度の本格稼働を現実味ある工程に置き直す。

 2025年4月に新設されたGovTech東京のAIイノベーション室が、この取り組みの中核を担う。「AIと技術イノベーションを泥臭く現場に実装」「職員一人ひとりの手取り時間を増やす」「テクノロジーをフル活用し、これまでできなかったことをできるに変える」という明確なミッションの下、既に37団体の区市町村に対して生成AI活用支援を展開している。

 視野は都域に閉じない。Difyを使った生成AIアプリの開発は”デジタル公共財”の発想を背骨に置き、Dify Communityを軸に、東京都外の自治体でも自庁環境で活用できる道を開く。同じプラットフォームを共有すれば、初期コストを抑えつつ、地域ごとの制度・表現・業務導線に合わせた上物の作り替えに集中できる。利用者が増えるほどテンプレートやベストプラクティスが洗練され、改修の速度が上がる”正の循環”が生まれる。

町田市が示した「入口」と「編成」──Dify時代の先行事例

 共通の道具が整えば、各地の”入口の発明”や”編成の工夫”は知見として流通しやすくなる。町田市のポータル「まちドア」は、三次元アバターと生成AIを組み合わせたAIナビゲーターを導入し、制度名や部署名を知らなくても自然な対話で目的の手続きに到達できる”入口”を実装した。愛称は市民投票で決まった「マチネ」と「マーチ」。窓口の”人柄”をUIに移植する発想が、探索コストを下げ、初手の迷いを減らす。

 2025年4月のリニューアルでは生成AIをGPT-4oに更新し、案内の対象を市のデジタルサービスにとどめず公式サイト群へ広げた。

 裏側の作りは”万能主義”ではない。要約・照会・根拠提示・文書生成の短い鎖をそれぞれ得意なエージェントに割り当て、全体を編成で底上げする。住民向けと職員向けで入口は異なっても、最終的にはDifyでリクエストを受け、最適なモデルや機能群へ振り分けて応答する構えに進化していく。強い単一モデルに賭けず、編成で勝つ設計は、Difyが掲げるプラットフォーム思想と合致している。ここで強調しておきたいのは、町田が”主役”ではなく、道具が正しく設計されれば各地で再現可能であることを示す先行例だという点である。

「東京の事例」を全国へ──共通道具と作法で導入格差を埋める

 全国には1700を超える自治体がある。人手不足が深まるなか、生成AIへの関心は高いが、実装の速度と人材の偏在が大きな壁になっている。現場でAIを回し続けるには、誰でも使える共通の道具と、作法(評価・監査・更新・運用の折り目)が不可欠だ。Dify Cloud/Community/Enterpriseという三つの選択肢は、財政・人員・情報政策の事情に応じた”入り口”を提供し、導入のハードルを下げる。

 評価の言語も揃えたい。問い合わせの初期応答時間、一次解決率、申請の離脱率、案件あたりの処理時間──通貨を「時間」に置き換えて語ることで、技術の議論は生活の議論に翻訳される。手続きが簡素化され、「都民の手取り時間」が確実に増えるという結果が積み上がれば、その成功は地方でのデジタル導入の推進力になる。

 この取り組みを支える人材基盤も着実に拡充されている。CTO井原正博氏の下、現在約260人体制(東京都職員派遣と民間採用が半々)で運営されるGovTech東京は、「世界最強の行政DX技術チーム」構築を目標に掲げる。

10年の見取り図──定数から「編成としての処理能力」へ

 5年先、10年先を穏やかに想像する。市民は制度名を知らずとも自然な対話で目的のサービスに導かれ、必要書類はバックグラウンドで生成される。行政側が必要とする情報や根拠条文も、AIを通じて即時に提示される。Difyはリクエストと応答の流れを常時監視し、細かく刻まれたタスクを特化エージェントへ分配する。職員は例外判断や合意形成に集中し、残業は確実に減る。その成功はテンプレートとして外に開かれ、他自治体は上物の調整だけで追随できる世界が見えてくる。

 なお、国の「ガバメントAI」構想も併走する。2025年6月13日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に盛り込まれ、2025年度中に一部実用化、2026年度から本格提供が開始される予定だ。両者は競合ではなく、階層の異なる基盤として相互補完的に重層化する可能性が高い。国の基盤の上で、東京都発のDifyや、Dify Communityに対応したOSS群が連携・運用される絵柄だ。町田市のような先行事例がDifyと噛み合い、成果が積み上がるほど、AIの行政への浸透は加速する。

 結局のところ、行政へのAI導入の鍵は”道具を共通化し、活用のための作法を揃え、現場でどのように回す(使ってもらうか)”に尽きる。生成AIプラットフォームという共通の道具が成熟し、全国に広がれば、その形を最短で形成できるだろう。

(取材・文=本田雅一/ITジャーナリスト)

「薬が効かない痛み」をVRで軽減──医療現場が注目する新しい治療法

●この記事のポイント
・VR技術を活用した「セラピアVR」により、手術中の鎮静剤を50~75%軽減することに成功
・薬物療法だけでは解決困難な慢性疼痛に対し、心理療法とVRを組み合わせた新たなアプローチを開発

 超高齢化社会において慢性疼痛患者の増加が社会問題となる中、従来の薬物療法では解決困難な痛みや不安に対し、VR技術を活用した革新的な治療法が注目を集めている。福岡県に拠点を置く株式会社xCuraが開発する「セラピアVR」は、医療現場での実証実験において鎮静剤の大幅な削減効果を実証し、新たな治療の可能性を示している。同社代表取締役の新嶋祐一朗氏に、VRによる痛み軽減の仕組みと将来的な展望について話を伺った。

●目次

「薬でも治らなかった痛みがVRで改善」実証データが示す効果

 xCuraが開発する「セラピアVR」は、VR映像を通じて宇宙や海、森といった自然環境を体験させることで、患者の意識を痛みから逸らすデジタル鎮静技術である。同システムでは、単純な映像視聴にとどまらず、呼吸のタイミングや長さをガイドし、催眠療法の技法をデジタル化している。

「国際医療福祉大学血管外科での研究では、セラピアを使用したすべての患者様の鎮静剤が50%から75%軽減しました」と新嶋氏は説明する。鎮静剤の削減は、呼吸抑制などの副作用リスクを軽減し、医師の心理的負担も軽減している。

 注目すべきは、治療中だけでなく治療後の効果持続性である。「薬でも治らなかった痛みがVRを2週間持って帰って装着したところ、腰痛や不眠症が治癒した」との報告もあり、従来の治療法では困難だった症例での改善例が確認されている。

 脳波測定による科学的検証では、VR装着時に瞑想の熟練者と同様の脳波パターンを示すことが判明した。「瞑想の初心者でもVRを装着して呼吸をすることで、瞑想の熟練者と同じような脳波が出ており、こうした脳波が痛みの軽減に効果的な可能性がある」と新嶋氏は分析している。

慢性疼痛の根本的解決に向けた心理療法とVRの融合

 日本における慢性疼痛患者は超高齢化に伴い増加の一途をたどっている。慢性疼痛は組織損傷による痛み、神経の圧迫や損傷による痛み、そしてストレスによって感じる痛覚変調性疼痛の3種類に分類される。xCuraが特に注力するのは、3番目の痛覚変調性疼痛である。

「ストレスで痛みを感じる慢性疼痛では、脳の中で痛いという回路ができあがっています。体は痛くないのに脳が痛いと感じるため、リラックスしてもらうことと、痛くないという脳の回路を作る必要があります」と新嶋氏は説明する。

 従来の治療アプローチでは、運動療法、心理療法、手術、薬物療法を組み合わせるものの、77%の患者が治療に満足していない現状がある。その背景には、日本独特の文化的要因も影響している。「痛いとカウンセリングという部分がなく、痛いと注射を打ちに行ったり薬をもらったりという文化で、自分の脳の認知を変えるという文化がない」と新嶋氏は指摘する。

 この課題に対し、同社では自律訓練法や漸進的筋弛緩法といった心理技法をVRと組み合わせることで、カウンセラー不要で自宅でも気軽に心理療法を受けられるシステムを構築した。催眠療法士でもある新嶋氏の専門性を活かし、催眠の技法をVR化させたデジタルセラピーを提供している。

医療現場での信頼獲得と海外展開への道筋

 革新的技術の医療現場への導入には、慎重な医療業界での信頼獲得が不可欠である。「最初は怪しいと思われていましたし、VRでどこまでコントロールできるかを懐疑的に見ている先生も多かった」と新嶋氏は振り返る。

 信頼構築のプロセスでは、段階的なアプローチを採用した。「最初は病院ではなくクリニックで、大きい病院ではなく歯科クリニックなどで実施し、患者さんの主観的なレビューをいただき、そのデータを持って大病院に行っていました」と戦略的な展開を説明する。

 現在は日本国内での30件以上の医療機関、100名以上の患者での検証実績を有し、医師からも高い評価を得ている。医師の声として「麻酔量が減ることによって呼吸抑制や血圧変動も少ないので安全に手術が行えている」「患者さんは皆さん次回も希望するし、お金を払う価値は十分ある」といった評価が寄せられている。

 海外展開についても積極的に検討を進めており、特にフィンランドとの関係が深い。「フィンランドと昨年からやり取りが多く、3回ほど現地に行っています。日本よりもどちらかというと海外の方が早いのではないか」と海外市場への期待を示している。

 事業モデルとしては、VRゴーグルとコンテンツを一体化した月額5.5万円の契約形態を採用し、医療機関での治療中使用から患者の自宅持ち帰り使用まで幅広く対応している。保険適用についても「マストだと思っている」としながらも、点数設定の不透明性から慎重な検討を続けている。

 将来的なビジョンについて新嶋氏は「薬だけでは解決できない痛みをテクノロジーで解決したい。痛みがあることで死にたくなったり鬱になったりしないよう、テクノロジーを通して生きやすい社会にしたい」と語る。超高齢化社会における医療課題の解決に向け、VR技術を活用した新たな治療法の確立と普及に向けた取り組みが続いている。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

なぜ監査はオルツの不正を見抜けなかったのか…「監査の死角」をAIでなくせ

●この記事のポイント
・AI議事録ソフトを展開していたオルツが売上の大半を架空計上していたことが発覚し、2025年8月末に上場廃止となった。
・専門家は、監査は書類の突合だけでなくシステム稼働や現場検証に踏み込むべきだったと指摘。加えてAIを用いた「全件×連関×言語」による網羅的検証は、不正発見力を大幅に高める可能性があると語る。
・今後はAIが全データの自動分析を担い、人間が現場調査や経営者との対話で本質を見抜く「AI+人間」の二層体制が監査の進化に不可欠とされ、企業ガバナンスの再設計が問われている。

 2025年夏、議事録ソフト「AI GIJIROKU」等を展開していたAI企業オルツは、売上の過大計上などを理由に8月31日付で上場廃止となった。第三者委員会の調査では、販売パートナー向けライセンスに実態を伴わない売上計上が長期にわたって行われ、売上高の大半(期によって約8~9割)が過大計上であったと指摘された。この事件は、企業ガバナンスと会計監査の機能不全を露呈させると同時に、AI活用による“全件監査”の現実解を問いかけている。

 本稿では、公認会計士/公認不正検査士/公認システム監査人である姥貝賢次氏(ジュリオ株式会社代表取締役)に、事件の本質と「AI+人間」による監査再設計を聞いた。

●目次

不正の手口ーー「形式」を完璧に繕った罠

 姥貝氏はまず、不正の手口を簡潔に振り返る。

「書類だけ見れば整っているが、実態がない——これは古典的な不正手口です。広告代理店や販売パートナーを介した“循環取引”のような構造により、売上を膨らませて見せる。SaaSやスタートアップ特有の問題ではなく、歴史上繰り返し起きてきた典型例だといえます」

 第三者委員会報告書は、本件スキームの形成経緯から資金移動の全体像、そして「架空売上」と評価すべき根拠まで段階的に解明している。重要なのは、不正が「資料と手続が“一見”整う」よう巧妙に設計されていた点だ。帳簿・請求・支払・回収が相互に整合しても、プロダクトの稼働実態やアカウントの発行・利用ログが伴わなければ、取引の経済的実態は成立しない。この基本原則が見過ごされたのだ。

なぜ監査は機能しなかったのかーー本質を見失った『リスク・アプローチ』の形骸化

 なぜ会計監査の専門家たちは、この不正を止められなかったのか。現在の主流である『リスク・アプローチ』(企業の事業内容や環境を理解し、重要な虚偽表示リスクに応じて監査資源を配分する手法)が、形式的な確認作業に終始し、本質的なリスクを見落とした可能性が高いと姥貝氏は指摘する。

「エンジニアの隣に座って、管理画面を直接見れば、アカウント発行や利用状況の実在は確かめられたかもしれない。現場の多くは不正に関与していないはずで、『これ、本当に稼働していますか?』という現地・現物の掘り下げは有効です。

 オルツ社のようなソフトウェア企業の最重要リスクは、『売上に対応するサービスが本当に稼働しているか』という一点に尽きます。ならば、監査の最優先課題は、契約書や請求書といった書類の確認だけではなく、システムの稼働ログや顧客や現場への実態確認といった事業の実態(本質)を直接検証することだったはずです」(姥貝氏)

 しかし、それが実行されることはなかった。監査は、形式を整えた不正の罠にはまり、その役割を果たせなかったのだ。

AIは不正を見抜けるのか——“全件×連関×言語”で実現する監査の進化

 形式的な監査の限界に対し、AIはどのような解決策をもたらすのか。

「AIは疲れません。だから全件・全データに対し、突合・系列分析・言語解析をかけ続けられる。監査の“見落としやすい領域”を埋める強力な補完策として、大きな期待があります」

 AIは、監査の「あるべき姿」を実現するためのゲームチェンジャーとなり得る。具体的には、以下の2つの側面で監査を進化させる。

「網羅性」による規律: AIは全件検査を機械的に実行する。これにより、「これくらいは大丈夫だろう」という人間の判断の甘さを排除し、サンプリング(試査)の限界を克服する。

「本質」の自動検証: AIは会計データとシステムの稼働ログ、外部情報などを自動的に突合する。人間が怠りがちだった、あるいは工数や慣習の制約から避けていたかもしれない『経済的実態』の検証を、最優先の必須タスクとしてドライに実行する。

未来の監査——「AI+人間」の二層構造へ

 姥貝氏は、AI時代の監査の在り方を次のように展望する。

「AIが書類・ログの突合といった網羅的な検証を担い、人は現場と経営と対話する。役割を明確に分けるほど効率と品質は上がります。AIが異常を検知し、人が背景を深掘りする。発見確率は段違いになるはずです」

 AIが監査の土台を固め、人間はその上で専門的懐疑心と高度な判断力を発揮する。この役割分担こそが、監査を進化させる鍵となる。

 最後に、姥貝氏は経営者にこう呼びかける。

「資本主義の仕組みには“隙”があり、監査は万能ではありません。だからこそ、AIで“全件”を見渡し、人が現場で確かめる体制が必要です。企業は信頼できるガバナンスを築き、AIという新しい道具で不正の根絶に踏み出すべきです」

(文=Business Journal編集部、協力=姥貝賢次/公認会計士・公認不正検査士・公認システム監査人、ジュリオ株式会社代表取締役)

ノーペコ ラボ主催「めざせ、商品化!究極のノコサンレストラン2024」受賞アイデアがローソンで商品化 9月9日発売

食品ロス削減を目的として食パンの耳を活用したレシピを募集した、電通ノーペコ ラボ主催のコンテスト「めざせ、商品化! 究極のノコサンレストラン2024」でローソン賞を受賞したトキワ松学園高等学校の生徒のアイデアをもとに、ローソンが商品化した「黒糖とシナモン香るクロワッサン」(税込181円)を9月9日(火)から発売する。

今回発売する商品は、「めざせ、商品化!究極のノコサンレストラン2024」において、全国から寄せられた103案の応募の中から、ローソンでの商品化が決定するローソン賞を受賞したアイデアをもとに開発したクロワッサン。パンメーカーがパンを作る過程で発生し、通常は食品原料や飼料として再利用されている食パンの耳を生地に一部使用している。

「黒糖とシナモン香るクロワッサン」
「黒糖とシナモン香るクロワッサン」(税込181円) 粉砕した食パンの耳とシナモンパウダーを混ぜ込んだクロワッサン生地を焼き上げ、黒糖蜜を加えたカスタードクリームをサンドした。パッケージにはノーペコラボのキャラクター「ノコノコ」も登場。

商品は関東甲信越地区(長野県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県)のローソン店舗(約4600店※2025年7月末時点、「ナチュラルローソン」「ローソンストア100」を除く)で発売する。

ローソンは、食品ロス削減の取り組みとしてこれまでに、規格外食材などを使用したおせち、「プレミアムロールケーキ」の生地の切れ端を使用したクリスマスケーキ、余剰食材となったまぐろのたたきや焼穴子を具材に使用した手巻寿司などさまざまなアップサイクル商品を発売し、好評を得ている。

■ノーペコ ラボについて
ノーペコ(ノー、腹ペコ!の意味)ラボは、飢餓・貧困の撲滅というテーマを柱に、「子どもと食」のあらゆる問題を、さまざまな企業・団体・世の中との掛け算で楽しく大きく解決することを目指した、電通ソデジン(ソーシャル・デザイン・エンジン)内のプロジェクト。2019年に発足。企業や団体の課題を解決しながら、いいことだとはわかっていてもいざ行動にはつなげにくい社会貢献を、みんながついやりたくなる、自分ごと化できる楽しい活動に変換していく活動を行っている。
Facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=100068660948955

関連記事 https://dentsu-ho.com/articles/9035
 

生物多様性への取り組みを企業の強みに変える5つの視点

「生物多様性保全に取り組んでいるが、企業の価値につなげられていない」
「長年続けた環境活動の投資効果を問われ、事業とのひもづけを問われている」

日本では2005年の愛知万博前後で生物多様性が社会課題として注目され、世界的に見ても長年にわたって生物多様性に関連する活動を続けている企業が数多くあります。しかし、世界に先駆けて始めた自然保全活動が今、競争優位性を持っているとは限らず、コストカットを求められる中で継続が難しくなることも。そもそもなぜ長年やっているのかを問われても説明がしにくいなど、冒頭にあげたような悩みを持つ企業も多いのが現状です。

また、日本では2027年3月期から、一部の大手企業有価証券報告書でのサステナビリティ開示が義務付けられ、対象企業は順次拡大される予定です。企業は生物多様性保全にどのように取り組み、企業価値をどう示していけばよいのでしょうか。

本記事では、日本の森を盛り上げ、次世代へつなげることを目指す株式会社モリアゲの森林業コンサルタント 長野麻子氏と、電通サステナビリティコンサルティング室の澤井有香氏にインタビュー。企業が取り組む自然保全活動の現状や苦悩、活動を企業の強みにするための方法について話を聞きました。

長野氏と澤井氏
(左から)モリアゲ 長野麻子氏、電通 澤井有香氏。日本の森をモリアゲていく「モリアゲポーズ」をとる二人
<目次>
世界3位の森林率を誇る日本。「生物多様性」と「森」の関係は?

TNFD情報開示だけでなく、行動の質が問われるように

自然保全活動を企業の強みにする5つの視点

成功例の横展開も、地域の独自性と掛け合わせるとオンリーワンの活動になる

先進国で3位の森林率を誇る日本。「生物多様性」と「森」の関係は?

──初めに「生物多様性」と「森」はどう関係しているのか教えてください。

澤井:最初にお伝えしたいのは、生物多様性は“いきもの”の種だけでなく、森や里山といった生態系、遺伝子など地球の自然すべてを含みます。そして、その自然と共生するための活動こそが、生物多様性を考えるうえでの核となります。私たちは自然から多くの恩恵を受けており、生物多様性の保全とは、自然とともに生きる未来をつくる取り組みでもあります。

森林もその一例です。動植物を守るだけでなく、水を蓄える機能によって水資源の保全にもつながります。水はすべての人、多くの産業にとって欠かせない資源であり、水源地を守ることはビジネスの土台となる“共生”の実践だといえます。なお、環境省が認定する自然共生サイトの多くも、森林に関わるものです。

生物多様性とは

長野:日本の国土の約7割は森林で、先進国(OECD加盟国)の中でも日本はフィンランド、スウェーデンに続いて第3位の森林率を誇ります。これだけの人口と経済規模を持ちながら森を維持している国は他にありません。

長野氏

──森林を保全する企業は、どのように見られるのでしょうか。

澤井:もちろん投資家や環境保全に関わる団体・専門家からの要請もありますが、最近では企業の森林保全活動が、共感やエンゲージメントを育むひとつの手段としても注目されています。

長野:「当社の若手社員が、森林保全活動に誇りを持ってくれているから続けている」とおっしゃる企業もあります。

澤井:若者の間では「自然界隈」という言葉がSNSで使われ、自然を大切にし、自然の中で癒やされる時間を持とうとする姿勢が広がっています。そうした価値観と、企業の取り組みが重なる場面も増えている印象です。

長野:人材は企業にとっての資産であり、ウェルビーイングを目指して、森林を活用したメンタルヘルス対策などの取り組みも有効です。ドイツでは、医師が「1週間森に行きなさい」と処方するケースもあり、健康保険が適用されることもあります。まさに「森の処方箋」ですね。

TNFD情報開示だけでなく、行動の質が問われるように

──生物多様性に関する企業の取り組みのトレンドには、どんなものがありますか?

澤井:昨年は、企業からTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)(※)に関するお問い合わせが多くありましたが、今年は「TNFDに対応し始めたけれど、これから何を求められるのか分からない」という声が増えています。TNFD自体は各社進めており、そこだけでオリジナリティを出すのは相当難しい。ですから、その企業らしい「行動」で示す方法をお勧めしています。

※=TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)
企業・団体が経済活動による自然環境や生物多様性への影響を評価し、情報開示する枠組み
澤井氏

長野:陸の生き物の8割は森に棲んでいるので、森林保全はネイチャーポジティブに貢献できます。企業の森林保全活動をどう企業価値につなげていけるかは、私自身も研究中です。むしろ企業と一緒に価値を作っていきたいですね。

澤井:森林活動をCSRの延長で続けている企業もありますが、その価値や意義をうまく言語化できていないケースも多く見受けられます。「企業価値には結びついていないが、世間体を考えるとやめにくい」といった声もある一方で、その取り組みの積み重ねは、かけがえのない大きな財産です。生物多様性が求められる今こそ、その活動を企業の価値や未来への投資として捉え直すチャンスなのではないでしょうか。

長野:実は1990年代にも、企業の森林保有が盛り上がりを見せました。そして現在、第2次ブームが来ていると感じます。ただし、ブームで終わらせてはいけません。森林は世代を超えて存続するからです。

モリアゲでは「一社一山」を提唱しており、一つの企業が自分事として森に長く関わることを勧めています。そうした継続的な関わりこそが、企業価値につながると考えています。

澤井:取り組みの価値を、自らの言葉で説明できることも重要ですよね。

長野:最近では計測技術やシミュレーション精度が向上し、森林保全による効果を定量化できるようになってきました。水源涵養(すいげんかんよう)や土砂流出防止といった効果を数値で示すことで、企業の取り組みが評価されていくはずです。

自然保全活動を企業の強みにする5つの視点

──電通で作成した「自然保全活動を企業価値として示すための5つの視点」についてご説明いただけますか?

澤井:生物多様性は地域ごとに状況が異なるので、「なぜその地域なのか」「どんな意志で取り組んでいるのか」をストーリーとして論理的に伝える必要があります。下記はその伝え方の視点です。長野さんにぜひご意見をいただきたいです。

自然保全活動を企業価値として示すための5つの視点
澤井:1つ目が「面積」です。30by30(2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全しようとする目標)の観点から、保全面積を示すことが重要です。自然共生サイトの登録状況に加え、海外でも評価されているOECM(民間や地域による保全活動を国際的に認定する枠組み)への対応も含めて伝えられると、より信頼性が増します。さらに、気候変動との連携を考えられるとベストです。

2つ目は「お墨付き」。企業の保全活動を評価・支援してくれる専門家の存在は欠かせません。長野さんのような専門家と協働できると、活動への解像度も上がります。

長野:ただし「お墨付き」には注意が必要だと感じます。外部評価や認証を取りたい気持ちは理解できるのですが、多くのコストと時間がかかることもままあります。

私は最初に「お墨付き」から入ることはお勧めしません。まずは、その地域で自然観察に取り組んでいる人たちを支援したり、地域の大学や団体と共創したりするなど、地域と共に知見を深めるプロセスに意義があると思います。認証に頼らなくても、地域で実践を積み重ねること自体が大切と考えています。

澤井:確かに。専門家以外にも、各地域の生物多様性に知見のある方がいらっしゃると思うので、まずはその地域に詳しい方にご意見を伺ってもいいかもしれませんね。

3つ目が「効果の可視化」です。生物種の増減だけでなく、防災やヒートアイランド緩和など、保全の多面的な効果を社会に伝えることが必要です。単に「森は素晴らしい」だけでは伝わらないからです。

長野:効果の可視化は、森が当たり前の存在である地域の人たちにとっても、企業の発信を通じて「森にはこんなお宝があったんだ」と再発見することができると思います。そうした価値の交換が生まれることに期待しています。

澤井:4つ目は「地域課題」。地域と手を結び、保全を通じて課題解決に結びつける視点です。

長野:地域の方が気づいている課題と、外部から見えてくる課題の違いもあるので、お互いの視点を交換しながら取り組むと有意義ですね。自治体が住民を巻き込みながら街づくりに取り組む流れの中で、森林保全にも企業の視点が加わると面白い展開が生まれるかもしれません。

澤井:企業・地域・生物多様性という三者が支え合う「三方よし」の関係が築けると、活動も持続していくと思います。

最後、5つ目は「広がり」。1~4の要素がしっかり実践できていれば、他の場所でも横展開できる取り組みになっていくはずです。

成功例の横展開も、地域の独自性と掛け合わせるとオンリーワンの活動になる

──長野さんが関わってこられた活動で「広がり」に該当する事例はありますか?

長野:群馬県のみなかみ町では、20年以上イヌワシを守る森づくりに取り組んでいます。狩場の創出や森の再生を通じて、イヌワシの繁殖成功につながったんです。その横展開として、今年から山形県金山町でも地域と連携しながら新たな価値づくりを進める予定です。同じテーマでも場所が違えばその土地ならではのものになります。だからこそ、企業側の思いだけを押し付けるのではなく、地域との対話を通じて形をつくっていくことが大切です。価値の見つけ方を地域に学び、歴史と文化をリスペクトする姿勢があれば、無理なく継続的に関わっていけると思います。

澤井:生物多様性の保全においては、“どこで”取り組むかという場所の視点がとても重要です。実際、TNFDでも最初のステップは「場所の特定(Locate)」から始まります。

場所を特定するということは、その土地に根ざす自然環境や文化と深く関わっていくものです。まさに、地域は最大のステークホルダーといえます。地域らしさと企業らしさが重なり合うことで、独自のストーリーが生まれ、取り組みもより魅力的になっていくはずです。

──最後にお伺いします。お二人にとって森の魅力とは何でしょうか?

長野:実際、森に行くと圧倒的に気持ちがいい。それはきっと人類が森から生まれ、自然の中に戻りたいという本能があるからだと思うんです。森に興味がない人もだまされたと思って、一回行ってみてほしいです(笑)。

生物多様性の話にも通じますが、人間も自然の一部。人は自然を観察したり触れ合ったりすることで、人としての感覚を取り戻せるような気がしています。ネイチャーとウェルビーイングは、きっと切り離せないものなんでしょうね。

澤井:私もキャンプが大好きで、週末は大体森にいます(笑)。5つの視点を語った後でなんですが、「森っていいな」と感じる、そんな素直な気持ちこそがすごく大事だと思うんです。生物多様性の大切さをロジックで積み上げていくことももちろん必要ですが、理屈だけで人は動きません。

世の中に少しでも森に興味や関心が芽生えることで、そこから始まる行動が生物多様性を守る力になります。森に心が動く瞬間が、生物多様性のスイッチになる。そんな感覚的な実感こそが、本質的な自然の大切さを理解し、未来を豊かにしていくのだと信じています。

──本日は貴重なお話をありがとうございました。

対談の様子

 
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