ポスト資本主義のブランディング〜「価値」と「信用」を支える新しいシステムとは?〜


インターネット社会が進み、社会や文化、人間にとっての価値を考えることが求められている現代。ポスト資本主義社会のブランディングと価値共創はどうなっていくのか?前回 に続き、インフォバーン(※1)CVOの小林弘人氏に話を聞きました。

小林弘人氏と小西圭介氏
インフォバーンCVOの小林弘人氏(右)、電通の小西圭介氏(左)

ポスト資本主義の「価値」と「お金」の関係の変化

小西:私がそもそも“ブランド”という概念に興味を持ったきっかけは、それが人間性を中心に、「意味」や「価値」をどのように作るのかという方法論を示していたからです。そして、インターネットは価値の作り手や作り方に本質的な変化をもたらしてきました。一つの大きな変化は、個人を中心とした情報発信や価値創造の民主化ですよね。またデジタル化で価値をコピーして無限に再生産することが容易になり、フェイク(偽物)やコモディティー化が起こるようにもなった。

そしてもう一つ、価値交換の手段や前提である「お金」や「信用」についても大きな変化が起こりつつあります。ウェブ3.0の中核となるブロックチェーン技術は、国家や企業などの中央集権ではなく、個人主導のつながりが軸となった、分散型の信用システムを実現するテクノロジーとして注目されています。

小林:ウェブ3.0については、単にウェブ1.0とか2.0に続く新しい技術コンセプトとして捉えるのは間違いだと思っています。極端にいうと新しい「私有」や「専有」の概念を、法律の代わりにツールが生み出しつつあるんですね。コード(プログラムによる命令規則)が新しい価値と社会改革の機会を創発しています。

それは今の資本主義システムに取り込まれたウェブ世界に対する、反動的な思想と民主的なテクノロジーを伴った大きな流れだと認識すべきですね。インターネット黎明期では、世界に張り巡らされたウェブは公共のものであり、その上で寡占的に儲けるなんてあり得ないという議論がありました。今聞いたら笑い話ですが、本当にそのような議論がされていた時期があります。

しかし、今支配的な考え方は、その企業のやり方が多少荒っぽくても時価総額が高ければ周りを黙らせられるし、株主のために資本を最大化すればそれでよいという思考停止状態に陥りがちです。

企業は短期的な利益確定を求める株主のために存在し、ガバナンスという言葉も株主や市場向けにしか聞こえない。働いている従業員とその家族、また、「社会」や「公益」がすっぽり抜け落ちたまま、集金マシンとしての価値しか検分されないように思えます。

小西:なるほど。今の資本主義社会は、「価値」が「お金」と結びついて交換される社会ですが、いつの間にかマネー資本主義みたいになって、昔は「物」と「お金」という交換構造があったのが、お金だけが回っていくみたいな。むしろ今、「価値」と「お金」が切り離されてしまっている時代だと思うんですね。社会や環境に悪いことをするほど儲かるような。社会や人間にとっての「価値」と、その適切な交換システムを取り戻す必要がある。

しかしウェブ3.0時代には、お金にコードで「色」がつけられる。どういうお金の使い方や、どういう価値に対して、それを報酬として交換し合うかのような。今まで“匿名”の通貨経済ではお金として換算しにくかった、個人や特定の文脈で意味を持つ、多様な価値をやりとりする新しい手法が出てきている。だからお金も個別性を持った意味を付与されて「ブランド化」できるし、そこにすごく可能性を感じるのです。

小林:私がしっくりきたのは、ベルナルド・リエター(※2)という経済学者の提示した論です。今使っている通貨システム自体が、「負債」(お金の貸借)から始まり、人から利子を取ることが前提となっている。

一つのパイの中から利子を取るので、誰かからその利子分を持ってこないといけない。だから、基本的には、人に分け与える思想設計じゃなくて、人の競争を促す設計になっている。このメカニズムは国力を向上させることや競争を促すことには効果があるのですが、コミュニティーに持ち込むとどんなことが起きるかというと、コミュニティーが持つ「地縁」を壊す力があるわけですね。

ここを何とかするには補完通貨が必要だということを、ブロックチェーン以前から唱えていたのがリエター氏です。そのような補完通貨として、有名なシルビオ・ゲゼル(※3)というドイツの経済学者の「減価するお金」といった考え方があります。

いわばある期間までに使わないと腐ってしまう。ゆえに早期に経済を循環させ、貯め込ませないために設計された「腐るお金」(※4)ですね。今だったら、ブロックチェーンを使えばそのような設定が可能なので、期限限定や用途限定型のお金とか、試論されていますよね。

インフォバーン小林弘人氏

「意味」を提起することで、共創コミュニティーをつくる

小西:価値を共有するコミュニティーの仕組みを支える経済システムですよね。実は2013年に私は『ブランドコミュニティ戦略』(ダイヤモンド社)という本を書いたのですが、ブランドというのはこれからコミュニティーづくりになり、企業や組織がお客さんと直接つながって一緒に価値をつくっていく、というコンセプトを提唱しました。でも、今考えるとまだ大企業中心の目線だったなと思ってしまって。

圧倒的に個人が中心の社会を前提に、これからはブランド主導のコミュニティーではなくて、個人やコミュニティーが中心の価値をつくっていく。そのために企業やブランドがどう支えていけるのか、支えるプラットフォームを形成していけるのかという発想で考えないと、5年、10年後の価値を共創していくような社会に対応できないんじゃないか、という気がするんですね。

小林:それはまさにおっしゃる通りだと思います。僕はコミュニティー形成こそ、常に過去から未来に向けたブランディングの軸になっていると思います。例えば地域発のクラフトビールを作るスタートアップが増えていますが、彼らは、クラフトビール文化や地域の独自価値を生み出す「想い」をユーザーと共有して、一緒に発信しています。コンシューマーを巻き込みながらエバンジェリストやプロシューマーを育てている。

ただ一方で、コミュニティーをつくるには、「意味」を提起することが必要だと思うんです。ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ氏(※5)は「意味のイノベーション」を提起していて、これはポスト・デザインシンキングですね。

デザインシンキングは、ユーザー視点の価値設計の方法論を理論化して、カリスマやクリエーターが暗黙知でやってきたことを、みんなでできるようになった。でも、それは改善にはつながるけれど、新しい「意味」の提案に果たして向いているのか、という疑念が残ります。

「意味」の提案には責任が伴うし、社会のグランドデザインになってくる。従来のやり方でいいのかという、ポスト・デザインシンキングの問題提起が起きることは必然だと考えていたので、ベルガンティ氏の思想に触れ、合点がいきました。私も「エディトリアル・シンキング」という考え方をここ数年喧伝してきたからです。そこでは、リサーチだけではあぶり出せない、異なる領域同士の接合やアイデアの跳躍方法に加え、いかに新しい価値を基軸とした社会変革の意志を込めるのかといったことを中心に話してきました。むしろ、アイデアのテンプレート化に対する批判です。

小西:新しい「意味」を提起して、その価値を共有するコミュニティーを通じて共創する運動を、私も「動詞のブランディング」という言葉で表現しています。その主体としてのリーダーシップが企業なのか個人なのかは分かりませんが、世の中を変える大きな力を生み出せないかと。

電通の小西圭介氏
小林:インフォバーン社内に、企業や行政内のイノベーターたちをネットワークするUnchainedを創設したのは、まさにそういう目的からです。ブロックチェーンの社会実装プログラムや領域横断型のイベント、勉強会、海外視察を行っています。

最初、私たちが企画するベルリン視察ツアーに参加される方は、渡航前に「すごいテクノロジーを持っているスタートアップがあったら、出資したいので教えてくれ」と依頼されます(笑)。でも、参加した後は、「そもそもうちの会社、何がやりたいの?」と意味を考えだす。そして、その意味に基づいて実現したい理想の社会像が描けてこそ、共創相手が見つかることに気づかれるわけですね。

どんなに歴史のある企業でも、無数の「How」ばかりで、たった一つの「Why?」が欠けていることが少なくありません。私が「イノベーションごっこ」と揶揄するのは、流行りに乗って「アジャイル」「コ・ワーキング」「デザインシンキング」などと「How」に振り回され、「Why?」を見つけようとしない状態のことです。それでは本質的なイノベーションを生み出せないし、コミュニティーもつくれないと思います。なぜなら、何の価値を提供しようとしているのかわからないし、A社ではなく、B社でも展開できそうなことに誰も共感はできません。

小西:私もまさにそれを体感しました。今回は本質的で、非常にインスピレーションに富むお話をありがとうございました。

(対談を終えて)
マーケティング手段を超え、社会や文化、人間にとっての価値を考える

今回は、ポスト資本主義のブランディング、価値共創の未来という大きなテーマで小林氏に伺いました。その中で、テクノロジーと社会の大きな転換点に当たって、人や社会にとって意味のある「価値」を生み出し、増やしていく経済システムをどのように実現していくのか、という本質的な問いに至りました。ブランディングも、企業にとっての経済価値を増やすマーケティング手段にとどまらず、より大きな視点で社会価値を共創していく仕組みや手段として、新しい視野と方法論を持つ必要があると確信しました。


※1  インフォバーン:国内外企業のデジタルマーケティング全般からウェブメディアの立ち上げ・運用などを支援。コンテンツ・マーケティング、オウンドメディアの先駆として知られる。2016年からベルリン最大のテック・カンファレンスTech Open Airの日本公式パートナーとなる。

↑本文へ

※2 ベルナルド・リエター:ベルギー生まれの経済学者(1942-2019)。新しいマネーの仕組みを提唱した、補完通貨(地域通貨)研究の世界の第一人者。主著に『マネー崩壊―新しいコミュニティ通貨の誕生』(日本経済評論社)など。

↑本文へ

※3 シルビオ・ゲゼル:ドイツ人の実業家・経済学者(1862~1930)。主著『自然的経済秩序』など。自由貨幣の概念を提唱した。

↑本文へ

※4 腐るお金: 愛知県豊田市で発案されたコメと交換できる地域通貨「おむすび通貨」などが有名。時間がたつほど価値が減る仕組みを持つ。

↑本文へ

※5 ロベルト・ベルガンティ:イタリア・ミラノ工科大学教授。専門はリーダーシップ論、イノベーション論。「意味のイノベーション」と呼ぶ考え方で多くの企業から注目され、欧州委員会のイノベーション政策にも関与している。著書に『デザイン・ドリブン・イノベーション』(クロスメディア・パブリッシング)、『突破するデザイン』(日経BP)など。

↑本文へ

安倍首相「桜を見る会前夜祭」会費5000円では無理!? ホテルは「最低1万1千円」+「銀座久兵衛の寿司4貫2000円」

「臭いものには蓋をしろ」とはまさにこのことだ。昨日夕、菅義偉官房長官は来年の「桜を見る会」の開催中止を発表し、安倍首相もテレビカメラの前で「私の判断で中止にすることにしました」と述べ、公金を使った私物化問題の追及を封じ込めにかかった。  しかも、噴飯モノだったのが、今朝放...

第32回東京国際映画祭 森達也監督「i―新聞記者ドキュメント―」

権力に立ち向かう女性記者の孤軍奮闘を描く、森達也監督の新作ドキュメンタリー。日本映画スプラッシュ部門で上映された。

投稿 第32回東京国際映画祭 森達也監督「i―新聞記者ドキュメント―」映画遊民 映画をもっと見たくなる! 映画ライター沢宮亘理の映画レビュー、インタビューetc に最初に表示されました。

第32回東京国際映画祭 原一男監督「れいわ一揆」

参院選で健闘した“れいわ新選組”に密着した、原一男監督の長編ドキュメンタリー。日本映画スプラッシュ部門で上映された。

投稿 第32回東京国際映画祭 原一男監督「れいわ一揆」映画遊民 映画をもっと見たくなる! 映画ライター沢宮亘理の映画レビュー、インタビューetc に最初に表示されました。

【参加者募集】電通デザイントーク 「ジャイアントキラーズ ~逆境からメジャーをつくる~」


電通デザイントーク事務局は東京・汐留の電通ホールで11月20日、株式会社ゴンパの権八成裕氏、音楽プロデューサーの渡辺淳之介氏、電通の尾上永晃氏を招き、トークイベント「ジャイアントキラーズ ~逆境からメジャーをつくる~」を開催する。

本イベントに、ウェブ電通報読者から観覧希望者(先着30人)を募集する。応募方法はこちら

【事務局から】

シンガタ解散後、権八成裕さんが、いよいよ株式会社ゴンパを立ち上げたと聞き、いま考えていることをお聞きします。トークのお相手は、日ごろから親しくしている音楽プロデューサーの渡辺淳之介さん。スキャンダラスな話題と圧倒的な楽曲・パフォーマンスでアイドル界に革命を起こし続けています。「ジャイアントキラーズ=番狂わせ」はゴンパさんと渡辺さん共通の在り方、態度、生き方になっているそうで、渡辺さんがプロデュースするBiSHの楽曲タイトルにも使われています。電通入社早々、あの佐々木宏さんに誘われシンガタに加わったゴンパさんですが、ボスである佐々木さんという大メジャーに対する葛藤もあったとか?最近では、稲垣吾郎さん・草彅剛さん・香取慎吾さん、3人の「新しい地図」の挑戦などがいろんな意味で話題を呼んでいます。今回はさらに、電通の尾上永晃さんにも加わっていただき、カウンターの目線でクライアントや世界に向き合ったときに見えてくる、メジャーな手法にはない面白さ、新しさ、挑戦から生まれる経験について語っていただきます。

【イベント詳細・応募方法】

電通デザイントークVol.194「ジャイアントキラーズ ~逆境からメジャーをつくる~」
■日時:2019年11月20日(水)13:30-15:30
■会場:電通本社ビル1階 電通ホール
■募集人数:30人(先着順)
 ※11月18日(月)正午締め切り。
  なお、定員に達した場合はその時点で締め切りとなります。
■主催:電通デザイントーク事務局
■応募方法:必要事項を記載したメールを下記アドレスに送付してください。
 ope-dentsuho@dentsu.co.jp

【必要事項】

・メールタイトル「電通デザイントーク vol.194参加申し込み」
・氏名と会社名(学校名)をメール本文にご記載ください。会社員・学生以外の方は職業(または無職)をご記載ください。なお、入場時は身分証が必須となりますのであらかじめご了承ください。
*定員になる前に応募いただいた方には事務局よりご案内のメールをお送りします。11月19 日(火)までにご案内メールが届かない場合は、残念ながら定員の枠外となりますのでご了承ください。

【個人情報の取り扱い】

提供いただいた個人情報は、本イベントの運営に必要な範囲内で、当事務局を運営する株式会社電通および株式会社電通ライブが利用します。提供いただいた個人情報は、第三者に開示せず、利用する必要がなくなった場合には遅滞なく消去します。

【権八氏のプロフィール】

電通入社後、03年電通の佐々木宏、博報堂の黒須美彦とシンガタ設立に参加。19年株式会社ゴンパ設立。最近の仕事に、香取慎吾「10%」作詞。スタジオマリオCM(ゆりやんレトリィバァ)。ファミリーマート広告(香取慎吾)。サントリーストロングゼロ(天海祐希・沢村一樹)、金麦ゴールドラガー(長嶋一茂・ヒロミ・小池栄子)。宮﨑あおい〜広瀬すずearth music&ecologyのCM。稲垣吾郎さん・草彅剛さん・香取慎吾さん、3人の「新しい地図」を命名&ブランディング。3人によるアベマTV『72時間ホンネテレビ』チーフ作家として企画。映画『クソ野郎と美しき世界』を多田琢、山崎隆明と共に企画。香取慎吾NIPPON初個展『BOUM!BOUM!BOUM!』を企画。渡辺氏との仕事に、BiSH「GIANT KILLERS」やGANG PARADE「ブランニューパレード」。WACK渋谷109 『まだ何もしてませんが先に謝罪しときます』。WACK渋谷東急壁面『○○○と言える世の中を』。東京FM『澤本・権八のすぐに終わりますから』日曜24時〜放送中。

権八成裕

 

【渡辺氏のプロフィール】

早稲田大学政治経済学部卒業 2014年7月マネジャーを行っていたBiSを横浜アリーナで解散させた後、脱サラ。8月に音楽事務所、株式会社WACKを設立。以後、BiSH、GANG PARADE、EMPiRE、CARRY LOOSE、WAggといった 所属グループのプロデュース、作詞、マネジメントを担当。 近年は自社制作のドキュメンタリー映画の興行やアパレルブランド "NEGLECT ADULT PATiENTS"を立ち上げるなど 音楽のみにとらわれない活動を行っている。 

渡辺淳之介

【尾上氏のプロフィール】

電通入社後、企業広告からまちづくりまで臨機応変なコミュニケーション設計をしている。最近の主な仕事は、ネットフリックス「リラックマとカオルさん」、スクエアエニックス「ドラゴンクエストウォーク」、日清食品「チキンラーメン アクマのキムラー」、東急電鉄「池上線フリー乗車デー」など。ゴンパさんとはファミマなどで、渡辺さんとはバンドのPV制作で絡ませていただいたことがある。

尾上永晃

「大嘗祭」の秘密の儀式とは! 新天皇が寝座のある部屋に一晩こもり…秋篠宮は“宗教色”の強さを指摘し国費支出に異議

 本日14日から15日にかけて、天皇の代替わり儀式のなかで最重視される「大嘗祭」が行われる。大嘗祭は、代替わりした天皇が初めて行う「一世一度」の新嘗祭。その内容の多くは非公開で行われるが、これまでの研究から、その実態は一連の代替わり儀式のなかでもとりわけ宗教色が強いことがわ...

オウンドメディア効果測定~オウンドメディアの「効果」ってなに?

第1回でもお伝えしましたが、広報の現場でいつもぼやかれるのが「効果測定が難しい」というセリフ。悩みは相当深いようです。

2017年に経済広報センターが企業の広報部門に対して行ったアンケート調査の中で、日頃抱えている悩みについて尋ねたところ、「広報活動の効果測定が難しいこと」と答えた企業が71.4%でトップとなっています。2位の「広報の人員が少ないこと」が42.3%、3位の「危機管理」が35.2%であることを考えると圧倒的トップといって差し支えないでしょう。

広報部門としての日頃の悩み

広報活動における、この効果測定に関する悩み、もちろんオウンドメディアについても例外ではありません。いろいろな方から「オウンドメディアの効果の測り方が分からない」という悩み相談をされます。ただ不思議なことに、そういった方々の中にGoogle Analyticsなどのツールの使い方が分からないという方はほとんどいません。聞くと、Google Analyticsは毎日見ているけど、そこに表示される数字の意味が分からない、アクセス数の変化がわが社にとってどういう意味を持つのかが分からないといった方が大半です。

効果測定の「測定」は分かるけど「効果」の方が難しい、というのがオウンドメディアにおける“あるある”なのではないでしょうか?

オウンドメディアといっても、会社案内、アニュアルレポート、広報誌などさまざまありますが、今回はコーポレートサイトやブランドサイトといったプラットフォームの効果測定に絞ってお話しします。

オウンドメディアの「効果」はこう決める

冷静に考えると当たり前のことなのですが、効果測定を行うためには「効果」が何であるかが決定されていなければなりません。

あなたのオウンドメディアの「効果」は何でしょうか?

ここからは効果の決め方のお話しです。私が今からいくつか質問をしますので、お考えいただけますでしょうか?

1.あなたの会社のミッションは何でしょうか?

あなたの会社や組織にはきっとミッションがあると思います。おいしい食べ物を家庭に届けることかもしれませんし、人々が暮らしやすいまちづくりかもしれません。

2.ミッションを遂行するために、あなたの会社が行っているコミュニケーション活動が「達成すべきこと」は何でしょうか?

会社の活動はすべてミッションの遂行のために行われます。もちろん広告や広報などのコミュニケーション活動も。コミュニケーション活動が達成すべきことは何でしょうか?商品をたくさん売ることでしょうか?それとも会社の社名をできるだけたくさん世の中に出していくことでしょうか?重要なのは、ミッションをたくさんの人に知ってもらうことかもしれませんね。

3.あなたのオウンドメディアは「達成すべきこと」に対してどのパートで貢献できそうですか?

例えば商品をたくさん売ろうと思ったとき、コミュニケーション活動はさまざまな段階で行われねばなりません。商品の名前、商品の機能を覚えてもらう段階、一度買った後にもう一度買ってもらう段階、あるいはある人にその商品が必要なシーンに気付いてもらう段階などもあるかもしれません。

また、段階だけではありません。誰に買ってもらいたいのか、どのように買ってもらいたいのか、などいろいろあるでしょう。

あなたのオウンドメディアはそれらのどのパートで貢献できそうでしょうか?
商品の必要性を十分に理解している人にもうひと押しして、ECサイトに来てもらうこと?それとも何だか面白そうな会社だなと気付いてもらうこと?

今私がした質問がそのままオウンドメディアの効果が何なのかを決めるプロセスになります。

「測定」できる形に「効果」を加工

オウンドメディアの「効果」が何なのかは決まりましたので、次は「測定」の方の話をしましょう。今決めた「効果」を、「測定」できる形に加工しなければなりません。

もう一つ質問をさせてください。

4.オウンドメディアがどのようになれば「達成すべきこと」に対して貢献できているといえますか?

ある特定のページがたくさん見られることかもしれませんし、ある特定のページに掲載された外部サイトへのリンクボタンがたくさん押されるかことかもしれません。あるいはオウンドメディアのコンテンツがTwitterでたくさんシェアされることで、あなたの会社の社名をTwitter上に多く露出させることかもしれません。「オウンドメディアが発展すること」や「盛り上がること」といった漠然としたイメージではなく、上記のようにできるだけ具体的に考えてみてください。

オウンドメディアがどのようになればよいのか、今考えていただいたこれが、オウンドメディアの効果測定における目標になります。

オウンドメディアの効果を定め、目標を定めましたので、晴れていよいよ「測定」が可能になりました。どうでしょうか?Google Analyticsで分かるページビュー数でOKという方もいらっしゃれば、もう少し別のデータを取得せねばならないという方もいらっしゃったかもしれません。とにかく、それがあなたのオウンドメディアの効果測定の方法です。


効果測定はそのときどきで変わる

ところで、先ほどの質問について、こういう方もいらっしゃったかもしれません。ひょっとしたらあなたのオウンドメディアは、立ち上がったばかりで上で述べたようなことをうんぬんする段階になく、とにかくコンテンツが増えることが「達成すべきこと」に対する貢献、だと。

実はこれは大事な視点を含んでいます。オウンドメディアの「目標」は、オウンドメディアが今どのような状態にあるかによって変わるのです。

例えば、あなたのオウンドメディアの「効果」が、「20代の人々に商品の名前を覚えてもらうこと」だったとします。この「効果」は、立ち上げたばかりのオウンドメディアでは発揮できないことは皆さん何となく想像できるでしょう。立ち上げたばかりのオウンドメディアは、その効果が発揮されるまでに、成長していかねばなりません。20代の人々にオウンドメディア自体に興味を持ってもらう⇒興味を持ってくれた人にアクセスしてもらう⇒一度アクセスしたくれた人に定期的にアクセスしてもらう、といった成長段階を経る場合もあるでしょう。

あなたのオウンドメディアが真に効果を発揮するまでにどのような成長段階を経るのかを考え、そしてその成長段階ごとに「目標」を設定せねばならないのです。

実際の効果測定

ウェブサイトを含め、PRの効果測定には大きく分けてアウトプット(施策の成果)とアウトカム(目的に対する成果)の2種類があります。

アウトプットには、さらに定量的に捉えるものと定性的に捉えるものに分けることができます。ウェブサイトの場合、定量的に把握する調査には、Google Analyticsによるページビュー、セッション、滞在時間、お問い合わせ数などのアクセス解析などがあります。定性的に把握する調査にはIPインテリジェンスを活用した訪問者の属性調査や、フォーカスグループで自社ウェブサイトと競合ウェブサイトを比較調査する手法などがあります。デザインの先進性の比較調査やユーザビリティーといった使いやすさをチェックしている企業やブランドも存在します。

アウトカムには、大きく分けてオンラインとオフラインでの測定に分けることができます。オンラインではECの売り上げや寄付などを確認することになりますが、オフラインでは、具体的な商談が成立したか、採用に応募してきた学生の数が増えたかなど、営業部門や人事部門から情報を入手したり、ウェブサイトの管理部署だけではなく、他部署と連携して効果を把握することが必要となります。

ウェブサイトの効果測定

例えば、テクノロジー系のBtoB企業の場合はどうでしょうか。

ある企業が運営するコーポレートサイトは、テクノロジーの先進性を訴えることが目的のひとつになっています。
この企業では年に数回、人々からどのようなイメージで見られているかをテーマとした調査を行っており、その中でこの企業が持つテクノロジーの先進性がどのくらい認知されているかを測定しています。

また、これに加え、コーポレートサイトのアクセス分析をGoogle Analyticsによって行っており、どのようなコンテンツが掲載されたときに、どういった人々がどういったアクセス行動をするかを毎月計測しています。

これら二つの調査・計測から得られたデータを突き合わせることにより、ある期間について、どういったコンテンツが掲載されたときに、Google Analyticsの数字がどのように動き、それがこの企業の先進性の理解にどのようにつながっているかを把握することができます。


「測定」を考える前に「効果」を考えよう

オウンドメディアは、ただ漫然と続けているだけで自覚されていない何らかの問題が自動的に解決されるようなものでは決してありません。オウンドメディアは、更新さえしていればなんとなく適切に運営できているように見えてしまうため、効果の定義がされづらく、効果測定の悩みも深くなるのかもしれません。

オウンドメディアはあくまで手段。それ自体を目的にしてしまうのは文字通り本末転倒といえるでしょう。マーケティング上のどのような課題を解決するものなのかを明確に設定し、解決の度合いを測る指標を見つけ出した上で行われるべきコミュニケーションなのです。

まとめ

・会社のミッション・コミュニケーションの目的を確認、オウンドメディアがそれに貢献できることは何かを確認。
・測定を考える前に効果を考えよう。
・オウンドメディアはあくまで手段。それ自体を目的にしてしまうのは文字通り本末転倒。

ショートケーキのイチゴのような「バズワード」をつくろう!

新著『通年採用時代の就活デザイン』(白桃書房)と連動した連載コラム。2回にわたり(第1回第2回) 、就活で自分の魅力を伝えるためには、「ショートケーキ思考」が必要なことを述べてきました。最終回は、ショートケーキの「真っ赤ないちご」に当たるバズワードについて触れます。

2万人のエントリーに埋もれない秘訣

就活で何といっても頭を抱えるのは、他の就活生の中に自分が埋もれてしまうことです。他の就活生と「ダイレクトな差別化」を図るためにはどうすればよいか?多くの学生が悩んでいます。

人気企業の場合、毎年2万人のエントリーに対し、最終的な採用人数は150人前後のところもあります。130倍以上もの倍率を潜り抜けて内定をもらうには、他の就活生と差別化できる自分自身のコンセプトが必要です。「ショートケーキ思考」において、私はそれをバズワードの「イチゴ」と呼んでいます。

ケーキ屋さんで商品を選ぶとき、決定打の一つになる直感的なインパクトとして、「装飾のクマがかわいかった」「大きなイチゴがおいしそうだった」などの理由があるはず。就活においても、真っ赤なイチゴのような「自分を印象づける何か」が必要です。

広告に例えると、バズワードは「見出し」または「キャッチコピー」です。「あなた」という広告に目が留まるかどうかの50%、多くて75%以上は、見出しで決まります。目に留まらなければ2万人のエントリーの中に埋もれて終わってしまうでしょう。

ただし誤解しないでほしいのは、バズワードが生きるのは、前回お話しした、ショートケーキ思考の生クリームに当たる「クリエーティブ・ブリーフからなるロジック」と、弾力のあるスポンジに例えた「自分の経験から得たしっかりとした根拠」があってこそ。これらがなければ、いくら印象に残るバズワードをアピールしても中身がないことになってしまいます。

ショートケーキ思考いちご

セルフ・ブランディングの顔は「バズワード」

では、「バズワード」をどのように考えていけばいいのでしょう?書籍の中で詳しく説明していますが、ここでは根本的な考え方をお伝えします。

皆さんは「自己PR」と「セルフ・ブランディング」の違いを考えたことがありますか?実は、この二つは似て非なるものです。

まず、「自己PR」のPRは、Public Relationに由来し、「相手との良い関係づくり」というのが元の意味です。就活における相手とは、企業や採用担当者。彼らに自分を理解して受け入れてもらうためには、彼らのニーズに合ったこと、つまり自分はその会社に必要であることをアピールしなくてはなりません。

一方で「セルフ・ブランディング」の「ブランド」とは、類似したものを区別するための要素です。就活においては学生同士が、自分と他の就活生を差別化するために必要です。「セルフ・ブランディング」のメインは「自分らしさの演出」で、自分の個性(ウリ)が表現できれば目的達成となります。

つまり、「自己PR」では、他の就活生との差別化はできません。「御社にとって私は必要な人材です」というのはみんな言っていること。自分にしかないものを言うのが差別化で、それは「セルフ・ブランディング」でしか実現できないのです。

採用面接での自己紹介は、「セルフ・ブランディング」と「自己PR」を行う時間。面接では、まず自分が何者なのかという「セルフ・ブランディング」を話してから、自分がいかに御社のニーズにマッチングしている人材かという「自己PR」に移ると効果的です。

そして「セルフ・ブランディング」の顔となるのが、バズワードです。短い一言で自分を表現するとき、その言葉にはいろいろな意味が込められています。より凝縮させた言葉で自分を表現した方が、面接官を飽きさせることなく、印象づけることが可能になります。

バズワードを考えるときは、企業や業界のインサイトと自分独自の強みを深掘りして考えなければなりません。ポジティブに自分を目立たせることで、相手に自分を印象づけ、採用される決め手にできます。

ショートケーキ思考で、それぞれ生クリーム、スポンジ、いちごに例えた、ロジック、根拠、バズワードは、セルフ・ブランディングに欠かせないもの。就活ルールが廃止されたことで企業は堂々と通年採用を行えるようになります。早い段階から志望業界を定め、ショートケーキ思考で自分の魅力を存分に引き出すことが、選んだ企業の内定を勝ち取るカギとなるでしょう。

四六版、148ページ、定価:1400円+税、ISBN978-4-561-51107-6 C0034

月を生活圏に。民間企業ispaceが主導する、“全産業参加型”の月面開発プロジェクト

2040年、月には1000人が定住し、年間1万人が訪れる―。

そんな未来を現実にしようとしているのが、世界有数の宇宙ベンチャー企業、ispaceです。電通は、約5年前からispaceと共に事業開発やマーケティングを行うとともに、同社と企業パートナーを結び付ける橋渡し役としてサポートを続けてきました。

ispace CEO 袴田武史氏、電通 ソリューション開発センター コンテンツソリューション部長 後藤光彦氏の対談を通じ、もはや遠い話ではない月面探査事業の今をひもときます。

<目次>
月面の水資源を活用し「宇宙産業」を創出する
非・宇宙企業にこそ、プロジェクト参画の意義がある!
「月への物資輸送サービス」をはじめとする、宇宙産業の三本柱
 
ispace袴田武史CEO、電通・後藤光彦
ispace袴田武史CEO、電通・後藤光彦

月面の水資源を活用し「宇宙産業」を創出する

後藤:本日は宇宙産業の創出というテーマで袴田さんに伺います。現在、宇宙産業を取り巻く状況はどのようなものなのでしょうか?

袴田:宇宙と聞くと、皆さん遠い世界の話だと思いますよね。しかし、そもそもわれわれの生活は、GPS、気象衛星、通信衛星など、宇宙のインフラによって支えられています。今後はインターネットをはじめ人類の宇宙への依存はますます深まり、「宇宙のインフラ」をいかに効率的に構築するかが重要なテーマになるでしょう。

宇宙探査については、1969年にアポロ11号が月面に着陸してから50年、人類は目覚ましい偉業を達成できずにいました。しかし近年になって技術開発が急加速しており、その中で今改めて「月」が注目されているんです。ispaceでは2040年を目標に、月面に資源採掘エリアを築く「ムーンバレー構想」の実現に向けて動いています。


後藤:人間が宇宙に生活圏を築く、というビジョンですね。ロードマップを簡単に教えてください。

袴田:2020年代に月面に輸送インフラをつくり、高頻度低コストの輸送サービスを展開していきます。そして2030年代には月面で資源開発を行い、2040年代に月で生活する未来をつくるという計画です。

後藤:月の資源として、特に期待されているのが「水」だそうですね。

袴田:月に水が存在すると聞き、驚く方もいるかもしれません。アポロ11号の時代に、月には水の痕跡がないということでほぼ結論づけられましたから。しかしこの10年で再調査が始まり、2018年にはNASAも月に水があることを確認しています。月の砂に氷が混ざっているとされ、その量は数十億トンに及ぶといわれています。

水は人間の生活にも不可欠ですが、それ以上に「水素と酸素に分けて燃料にできる」という点が重要です。月の水を燃料として活用すれば、月をいわば「中継基地」として、宇宙探査やインフラ構築がさらに発展する。月は、宇宙開発における貿易港のような役割を果たすと考えています。

後藤:地球からわざわざ水を持っていくと、輸送コストがかさみますからね。

袴田:そうなんです。水に限らず、地球から静止軌道まで資源を運ぶには、莫大なコストがかかります。しかし、月から直接資源を調達すれば輸送コストは100分の1に抑えられる。経済合理性は圧倒的です。

後藤:今の技術を考えると、「南極よりも月に行く方が楽ではないか」という説もありますよね。南極に行くには自然現象の影響を大きく受けますが、ロケットで宇宙に出られれば、探査機を阻むものはなく、月までスムーズに移動できますから。南極への年間旅行者は約2万人。そう考えると、2040年には年間1万人が月を訪れるというのも絵空事ではありません。

袴田:月を中継基地としての惑星探査、さらに月面観光も当たり前になっていくと考えています。

「水資源」を持った月を燃料ステーションにすることで、人工衛星を使ったビジネスや惑星探査にも大きな可能性が開かれる。
「水資源」を持った月を燃料ステーションにすることで、人工衛星を使ったビジネスや惑星探査にも大きな可能性が開かれる。

後藤:宇宙産業市場はここへ来て大きく成長しており、2016年はグローバルの市場規模が30兆円、2040年代には少なくとも100兆円規模になると推測されています。投資も活発化しており、2017年には、ispaceが宇宙ベンチャーとしては世界最高額となる103.5億円の資金調達を行いました。INCJ、日本政策投資銀行など政府金融機関だけでなく、電通を含む非・宇宙事業会社からも巨額の投資を受けていますね。

袴田:背景にあるのは、宇宙開発の、国家機関から民間企業へのシフトです。例えばNASAは月の周回軌道上に新たな拠点をつくる「ゲートウェー構想」を主導していますが、これも実は民営化を前提としています。コストを下げるために民間企業の参入を促し、競争環境をつくるべきと判断したのでしょう。

後藤:民間へのシフトは、世界的な潮流といえます。イーロン・マスクのSpaceX、ジェフ・ベゾスのBlue Originと、世界を代表する実業家たちも、莫大な資金をもって宇宙ベンチャーを立ち上げていますよね。民間による宇宙開発事業は、まさに広大なブルーオーシャンだと感じています。

袴田:NASAやJAXAなどが国家として宇宙開発に関わっているだけでは、事業としては成り立ちません。宇宙ビジネスを持続可能な「産業」として確立し、永続的に成長させるには、民間企業の参入が不可欠なんです。

非・宇宙企業にこそ、プロジェクト参画の意義がある!

後藤:2040年の「ムーンバレー構想」に先駆け、ispaceでは現在二つのミッションに取り組んでいらっしゃいますね。

袴田:はい、2023年まで2回の月面探査を行うプログラム「HAKUTO-R」を実施しています。2021年に月面着陸、2023年にローバー(探査車)による月面探査を行う予定です。

このプログラムを前提に、月着陸船「Lunar Lander」、月面探査車「Lunar Rover」の技術開発も進めています。コンセプトは、小型軽量化による低コスト・高頻度の輸送システム。ランダー(月面着陸船)は30キロの荷物を年に数回月面に運ぶことができ、ローバー(月面探査車)は世界最軽量の4キロを達成する見込みです。打ち上げロケットは、イーロン・マスクのSpaceXが開発した「Falcon 9」と契約済みです。

 

ispaceの月着陸船と月面探査車。パートナー各社を含め、日本のテクノロジーの粋を集めたプロジェクトとなっている。
ispaceの月着陸船と月面探査車。パートナー各社を含め、日本のテクノロジーの粋を集めたプロジェクトとなっている。

後藤:「HAKUTO-R」は、すでに多くのコーポレートパートナーの協賛を得ています。JAL、三井住友海上、日本特殊陶業、シチズン時計、スズキ、住友商事がコーポレートパートナー、TBS、朝日新聞、小学館がメディアパートナーとなっています。

袴田:後藤さんをはじめ、電通の皆さんに橋渡し役を担っていただいていますね。パートナー企業には、出資にとどまらず、自社事業を宇宙ビジネスに結び付けるべく、文字通り協業パートナーとしてプロジェクトに参画していただいているんです。

後藤:スポンサーとして「HAKUTO-R」を“応援”するだけでなく、各事業会社の強みを生かし、自ら月面開発に、つまり宇宙産業に“参画”できるスキームを構築しているのが特徴的です。

袴田:そうなんです。例えばJALには、成田空港の整備工場にランダーの組み立て施設をつくっていただきました。燃料パイプの溶接、エンジンに亀裂がないかチェックする非破壊検査などの技術においても、サポートしていただいています。

後藤:JALの整備工場の方は、「まさか自分たちが宇宙開発に関われるとは思わなかった」と話していました。何十年も旅客機のエンジン整備をしてきた方々の技術が宇宙に生かされるわけですから、皆さんうれしそうでした。

JALの溶接技術がHAKUTO-Rのランダー(月着陸船)に生かされている。
JALの溶接技術がHAKUTO-Rのランダー(月着陸船)に生かされている。

袴田:また、日本特殊陶業には電解質に液体を一切使わない全固体電池の実証実験で協力していただきます。昼は110度、夜はマイナス170度という月面の過酷な環境でも、電力を安定的に供給できるかという技術実証です。シチズン時計は、スーパーチタニウム技術をランダーやローバーに応用。スズキにはランダー脚部の構造設計において、小型軽量化と強度の両立のために必要な構造解析の技術で貢献いただいています。

協業は技術面にとどまりません。三井住友海上は、リスク管理での支援として「月保険」を新たに開発していただきます。今年100周年を迎える住友商事は、さまざまな観点から宇宙開発への貢献を我々と共に取り組んでいます。さらなるパートナー企業も募集中です。

後藤:「宇宙開発なんてウチには関係ない」と考える企業も多いのですが、そうではないんですよね。人間が移動し、生活する以上、「地球で必要なもの」は月でも必要になる。つまり、“月×全企業”がビジネスチャンスになり得るわけです。

もちろん電通も例外ではなく、約5年前からispaceと協力体制を築き、事業投資の他に電通が得意とするマーケティング、セールス支援を行っています。さらに地球から月への輸送ビジネスの販売代理店としても協力したいと考えています。

袴田:後藤さんと出会った5年前、ispaceは民間初の月面無人探査コンテスト「Google Lunar XPRIZE」に取り組んでいました。ローバーの開発費、人件費などの調達にとても苦労していたところをサポートしていただきましたね。

後藤:袴田さんは、当時から宇宙産業に“広告モデル”を取り込もうと考えていましたよね。しかも、宇宙系企業だけでなく非・宇宙系企業の支援を必要としていました。電通は国内外の企業とのアクセスに強みがあるので、ispaceとは非常に相性が良いと感じました。

袴田:それから5年で、実体のあるビジネスとしての手応えを感じられるところまで来ました。世界の宇宙ビジネス業界の中で、かなりispaceの名前も浸透してきたと思っています。

5年前、ispaceが麻布台のビルの一室にオフィスを構えていた時代の貴重な写真。
5年前、麻布台のビルの一室にオフィスを構えていた時代の貴重な写真。

「月への物資輸送サービス」をはじめとする、宇宙産業の三本柱

後藤:ispaceの柱となる事業についてお聞かせください。

袴田:短期的には、3本の柱を考えています。一つは月面に荷物を運ぶ「輸送サービス」。地球から月面に探査機器などの物資を運ぶ、宅配便のようなシステムですね。

後藤:探査車が1台6トンとすると、非常に大きなビジネスが期待できそうです。

袴田:二つ目は、月面で得られるさまざまな「データ」の提供です。例えば建造物を構築する場合、月面の環境を事前に知っておく必要があります。そういった探査データの他、VRやゲームなどエンターテインメントの領域に活用できる映像データも取得、提供する予定です。

そして最後に挙げるのが、われわれが力を入れているスポンサーシップです。非・宇宙企業が最初に宇宙に関わるきっかけを、ispaceでつくっていきます。

後藤:一つ目の輸送サービスについては、すでに世界が動き始めていますよね。

袴田:はい。ispaceも、NASAが計画する商業月面輸送サービス「CLPS」(Commercial Lunar Payload Service)に参加しています。アポロ11号計画にもソフトウエア開発で参加したドレイパー研究所のチームで、ispaceはランダー、ローバーの設計を行っています。CLPSはNASAが10年間で約3000億円をかける一大プロジェクトなんです。

後藤:「HAKUTO-R」と「CLPS」を並行して進めているんですね。

袴田:NASAとしては、できるだけ早期に月面着陸したいと考えています。というのも、トランプ大統領が2024年の月面有人探査をするという方針を示したんです。当初は2028年と発表されていたのに、4年も早まりましたので、「HAKUTO-R」における月着陸の計画も早めることになりました。急きょの前倒しになりましたが、ポジティブに受け止め、迅速に対応しようと考えています。

後藤:宇宙開発には、アメリカをはじめ、中国やインドといった強力なライバルもいますが、どのように見ておられますか?

袴田:確かに、ある意味では脅威なのですが、新しい宇宙産業をつくるには“競争”だけでなく“共創”も重要です。これから先、宇宙をめぐる国同士の争いをなくすには、なんらかの国際的な合意事項が必要となります。その枠組みをつくるに当たり、「日本の民間企業」が果たせる役割は大きいと思うんです。

そもそも宇宙の資源は、国連が定めた宇宙条約により、国家では所有できないことになっています。しかしアメリカの連邦法では、民間企業であれば宇宙の資源を所有・売買してよいと定められていて、国際的な議論もその方向で進み始めているんですよね。そういう意味でも、超大国同士が正面切ってやり合うよりも、日本の民間企業が主導権を握って話し合うことが解決に最も近いと思います。

後藤:宇宙開発は、民間企業にとって今や避けて通れないビジネスになりつつあります。成長領域として資金が投入され、技術開発も加速度的に進化しています。何より、社会的意義が重要性を増しています。資金、技術開発、社会的意義という三つを掛け合わせると、新しい巨大産業が生まれてくる。電通としても、さらに注力していきたいです。本日はありがとうございました!

安倍首相「桜を見る会」中止で私物化問題の幕引き図るも新証拠続々! 安倍事務所がツアー案内、萩生田文科相も貸切バスで大量招待

 国民が払った税金を総理大臣が地元選挙区の何百人という後援会員の接待のために使っていたという、前代未聞の背信行為として波紋を広げている「桜を見る会」問題。本日、菅義偉官房長官は午前の定例記者会見で招待者について国会議員からの推薦や働きかけがあったことを認め、さらに夕方の会見...