社会と対話するビジネスの時代

本コラムも全6回のうち5回目となりました。残りの2回は対話の相手として「外に開かれた社会との対話」そして「内なる自己との対話」について触れていきます。今回は、「外に開かれた社会との対話」として、ビジネスの世界でわれわれは課題を抱え続けるVUCAの時代の社会とどういう対話をしていけばよいかについて述べていきます。

本コラムは、三つのパートで構成されています。

■株主資本主義の時代
■CSRとCSVへ
■エコシステムの全体性を意識する

株主資本主義の時代

ビジネスは、それが属している社会や経済のエコシステム(生態系)の内側に部分として存在しています。しかし、企業の方は周辺にある社会との対話を意識しなくても成立してきました。ただし、これまでは。

ビジネスの世界でわれわれが意識しなければいけないステークホルダーは、時代とともに拡大していく傾向にあります。日本で1960年代に確立した株主資本主義の時代には、株主に気を使いつつ、マーケットや社員を意識することでビジネスは十分に成立しました。いわば対話すべき相手は近いところで見えている存在のみでした。

やがて社会問題や環境問題が表面化し、社員や地域社会、さらには国全体、そしてグローバル経済へと、企業は多様なステークホルダーへの影響に配慮をしたビジネスが求められるようになってきます。ビジネスは、市場を選択したりコントロールしたりするだけではなく、それまでは意識してこなかった社会への影響を意識することが求められるようになったのです。

CSRとCSVへ

その中で、1990年代に導入が進んだのが、CSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)という考え方です。しかしCSRは、どちらかというと本業の領域外での寄付や地域への支援活動として展開していきます。収益を犠牲にしてまでCSRの活動を行うという判断には至らなかったからです。この段階では、企業の社会に対して対話のチャネルはまだ限定的です。

2010年代に入り社会課題の解決をビジネスの競争戦略として活用しようするCSV(Creating Shared Value、共通価値の創造)という考え方が登場します。CSVは本業の領域でしっかり社会課題と向き合うことこそが競争優位となるという考えです。ここで、企業はより広範に社会と向き合った対話が求められるようになります。

しかし、残念ながらCSRやCSVという言葉が定着している今日でも、ビジネスと社会との分断は続いています。それはCSRやCSVを導入している企業が少ないということとは別のところにも原因があります。

CSRやCSVは、その企業の経営理念やビジョンに基づいて実施しているものではなく、社会や株主の要請に対しての「反応的な対応」として実施しているにすぎません。実際に日本の企業でのCSRやCSVの担当者の大半は、企業の中の本業とは独立した存在であり、ビジネスの根幹として理念やビジョンと結びついて実施しているところはまれといえるでしょう。

結局のところCSRとCSVのどちらも、企業が社会から存在を認めてもらおうとするための「反応的な対応」としてのコミュニケーションの行動にすぎなかったのです。これは、本コラムで一貫してお伝えしようとしている「対話」とは異なる概念です。「対話」とは、当事者たちを、影響を与え合う大きな一つのシステムとして捉えた全体性の視点に立ったところから創発を生み出していく行為のことです。

エコシステムの全体性を意識する

ビジネスと社会を対話のレベルに持ち上げるために重要なことはビジネスにおける視座の転換です。これまでの、自己のビジネスを中心に内側から周辺社会を観察して捉えるというこれまでのパラダイムを手放してみましょう。自分の視座そのものを、自己の企業から抜け出して周辺社会の側に置くのです。

それは、同時に周辺社会のエコシステムの全体性を意識するということになります。人体に例えると、心臓の側から、脳や腎臓などの他の臓器を捉えることではなく、人体の全体の側に視座を置いて心臓の在り方を捉えるのです。

ビジネスでも同様に社会全体のシステムの側から、自己のビジネスの存在を見てみるのです。エコシステムの全体像が見えた時に、ビジネスにおける新しい「対話」の在り方が見えてきます。

人体を一つのエコシステムと捉える
人体をエコシステム、心臓をあなたのビジネスと置き換えてみてください。人体も社会も一つのシステムと捉えることができます。

具体的な事例を一つ紹介します。ドイツのボーフムという都市にGLS銀行というソーシャルバンクがあります。ソーシャルバンクとは社会課題を解決する環境、教育、農業などの事業への融資に特化した金融機関のことをいいます。例えばドイツでは2011年の日本の東日本大震災以降に再生エネルギーへの機運が高まる中で、この銀行は急速に貸し出しを増加させ業容を拡大しています。GLS銀行はそれ以前からもドイツで進展している脱原発での再生エネルギーの普及の裏側で、多大な影響を及ぼしたといわれています。

GLS銀行は「人間のための銀行」という経営理念を持っています。社会課題を解決する融資に特化することは当然のこととして、預金者に対しても「自分のおカネを銀行に預けることには社会に対して責任を伴う」という理念を説きます。預金者はその理念に共感して、自分の子どもや孫の世代に残したい社会を創るために、おカネを預けます。そして、預金者には、融資した事業の内容は透明に開示される仕組みになっています。また、彼らをつなぐコミュニティー形成などのイベントの場もGLS銀行は提供しています。

GLS銀行がソーシャルバンクとしての事業を行っているのは、社会的な責任を果たすためでも、社会的な事業によって高い収益を上げるためでもありません。経営における視点の中心は、エコシステムの全体であり、そのために必要な機能の一つとしてGLS銀行は存在し、社会と対話をしているのです。収益は持続可能な経営を継続するための手段として必要だという考え方によっているのです。

VUCAの時代に突入し、環境問題、格差社会や医療・教育問題など社会課題は複雑さを増しています。その中でビジネスは社会課題の解決とは不可分の存在であり、エコシステムの全体性を意識しながら、社会と対話するビジネスがメインストリームとなる時代がもうすぐそこまで来ているのです。

『対話する銀行』の書影

本コラムの筆者、江上広行氏が金融業界におけるパラダイムシフトを「対話」の中から引き起こすさまを描いたのが、7月に刊行された書籍『対話する銀行〜現場のリーダーが描く未来の金融』です。「対話」されるテーマは「リーダーシップ」や「分権経営」「貨幣の本質」など盛りだくさん、金融業界に関係がない方も、ぜひ手に取ってみてください。

「体験しなきゃ分からない」のつくり方

「予定調和は、つまらないですよ!」

ご縁あって、東京で有数の人気レストラン「81(エイティー・ワン)」のオーナーシェフ永島健志さんと対談する機会があり、それならばどんな内容にするか打ち合せようとしたときに言われた言葉です。

永島健志さん
永島健志さん

う~む。おっしゃることは分かる、よ~くわかる。でも小心者のぼくは何の準備もしないで百人を超える聴衆の前に出ると緊張しちゃうんだよなぁ。案の定、当日は夜明け前に目が覚め、お客さまに見ていただく映像やパワーポイントの準備もなく、コロシアムのようにぐるりと客席が取り囲む舞台の上でガチガチのドキドキ、対談の幕は開いたのでした。

当日風景
当日風景

81といえば「カルボナーラの再構築」が有名です。あの著名なパスタメニューを分解し、卵料理として再構築したひと皿。料理の世界には「この素材はこういうふうに調理しなさい」「これをつかうなら、この香辛料で」という「常識」が数多くあります。その一部はもちろん今でも理にかなっているのですが、たとえば鮮度管理の技術が進歩した現在、無駄な「思い込み」もたくさんあるそうで、永島さんはいつの間にか「目の前にあるものを疑い、分解する習慣」がついたのだといいます。

カルボナーラの再構築
カルボナーラの再構築

海上自衛隊に入隊し、配属をきっかけに料理の世界に入った若者がなぜ、こんな思考をするようになったのか。そこには世界で最も予約が取れないレストランとして伝説のエル・ブジ(スペイン/現在は閉店)のシェフ、フェラン・アドリア氏のもとで働いた経験が大きかったようです。

「エル・ブジ」といえばエスプーマや液体窒素を駆使した分子ガストロミー、つまりサイエンスな料理のイメージが強いかもしれません。しかし永島さんによれば、アドリア氏はカタルーニャ生まれのダリやガウディと同じ「芸術家」(とはいえレッテル貼りをして理解したつもりになるのは意味がないと釘も刺されましたが・笑)。料理の世界に初めて「コンセプト」を持ち込んだ人だといいます。彼はレシピを隠すことなく公開し、チームはもちろん他分野の知見も積極的に活用しました。「分子ガストロミー」も主要なテーマというよりは、新しい料理を表現するための手段にすぎなかったではないか、という見方です。

永島シェフがつくる「42℃のサーモン」
永島シェフがつくる「42℃のサーモン」
 

さてさて。81がおいしいことだけは間違いないのですが、いざその魅力を説明しようとすると、なんとも困っちゃいます。試しにトークセッションで「どんなレストランですか?」と聞いてみたら、永島さんも「それを文章で伝えられるなら本を書く。写真で伝えられるなら写真家になる。でも料理でしか伝えられないから料理人をやっているのであって、体験しなきゃ、分からないですよ」ですって。

なので、ここからはぼくの想像なのですが、永島さんは「レストラン」をいったん分解し、「常識」を疑ったのだと思います。たとえば…

■料理と一緒に供される「飲み物」にも、もっと表現の可能性があるのではないか(だから飲み物込みのコース設計です)。

■シェフがどのような意図で、どのような食材を、どのように扱ったのか。直接説明できたら感動は広がるのではないか(だからオープンキッチンからシェフが客席に出向き、かなり詳細なプレゼンをしてくれます)。

■音楽をリミックスして料理とのマリアージュを図ることも、おいしさにつながるのではないか(だから、キッチン内のDJブース‼にしばしばシェフ自らが入ります)。

などなど。

そうやって分解した従来のレストランを、永島式に再構築したのが81であると。

よく「おいしさはお皿の上でなく、脳の中にある」「料理は舌の味覚だけでなく、五感で感じるものだ」と言われますが、そういったときにも「味覚と嗅覚」とか「味覚と聴覚」に分けるのではなく、茶室に通じる全体観のある「おもてなし」の場としてデザインする。徹底的にいま、ここの体験を追求する「禅」的な空間をつくる。主客一体。一座建立。永島さんがやっているのは、実は極めて日本文化に根付いた取り組みであると感じました。

2007年、現代美術の祭典ドクメンタ(ドイツ)にアドリア氏は料理界で初めて、芸術家として招待されました。永島さんもまた、独自の感性でこの道に続くのだろうと確信した90分。まだまだ余韻が残っているので、次回もまた続きを。 

コンセプトのつくり方

どうぞ、召し上がれ!

タイムシフト視聴率 11/13~11/19 ─ 少しくらい、誰かに頼ったっていいんですよ ─

ビデオリサーチの視聴率調査データから、「11月13日~11月19日のタイムシフト視聴率・総合視聴率5」をリサーチボーイがお届けします。

リサーチボーイ

子育てはみんな必死ですから、向井祥子の言った通り、
「少しくらい、誰かに頼ったっていいんですよ」ね。

TBS「コウノドリ」第3話より
 

< タイムシフト視聴率5 >

1▶︎12.3%:奥様は、取り扱い注意

[視聴率]12.7% [総合視聴率]23.2%
 放送局:日本テレビ、放送日:2017/11/15(水):22:00-60分間

2▶︎11.6%日曜劇場・陸王

[視聴率]16.8% [総合視聴率]26.3%
 放送局:TBS、放送日:2017/11/19(日):21:00-84分間

3▶︎10.6%:木曜ドラマ・ドクターX・外科医・大門未知子

[視聴率]20.7% [総合視聴率]28.9%
 放送局:テレビ朝日、放送日:2017/11/16(木):21:00-54分間

4▶︎10.0%:金曜ドラマ・コウノドリ

[視聴率]11.0% [総合視聴率]20.2%
 放送局:TBS、放送日:2017/11/17(金):22:00-54分間

5▶︎7.5%:相棒

[視聴率]14.6% [総合視聴率]20.8%
 放送局:テレビ朝日、放送日:2017/11/15(水):21:00-54分間

  

< 総合視聴率5 >

1▶︎28.9%:木曜ドラマ・ドクターX・外科医・大門未知子

[視聴率]20.7% [タイムシフト視聴率]10.6%
 放送局:テレビ朝日、放送日:2017/11/16(木):21:00-54分間

2▶︎26.3%日曜劇場・陸王

[視聴率]16.8% [タイムシフト視聴率]11.6%
 放送局:TBS、放送日:2017/11/19(日):21:00-84分間

3▶︎25.3%:連続テレビ小説・わろてんか

[視聴率]20.8% [タイムシフト視聴率]5.9% 
 放送局:NHK総合、放送日:2017/11/13(月):8:00-15分間

4▶︎23.2%:奥様は、取り扱い注意

[視聴率]12.7% [タイムシフト視聴率]12.3% 
 放送局:日本テレビ、放送日:2017/11/15(水):22:00-60分間

5▶︎22.6%:世界の果てまでイッテQ!

[視聴率]19.9% [タイムシフト視聴率]3.2% 
 放送局:日本テレビ、放送日:2017/11/19(日):19:58-56分間

期間:2017年11月13日(月)~11月19日(日)
地区:関東地区

▶︎タイムシフト視聴率と総合視聴率の定義については、ここからご覧いただけます。
▶︎上記以外の番組については、ビデオリサーチのサイトからご覧いただけます。

【禁】無断転載
転載については以下までお問い合わせください。
株式会社ビデオリサーチ 
コーポレートコミュニケーション室
Tel  03-5860-1723(直通)

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