AbemaTV×電通、社長対談。ネットが切り開く新しいテレビの形

“無料で楽しめるインターネットテレビ局”として成長を続けるAbemaTVに電通が出資を行ってから1年。両社のさらなる連携強化を目指して、10月3日、東京・汐留の電通ホールでイベント「Dentsu AbemaTV Day」を開催しました。

同イベント内で行われた、AbemaTVの藤田晋社長と電通の山本敏博社長によるトークセッションの模様をお届けします。

<目次>
テレビの新しい時代を切り開いていくのは何か?
「受け身視聴」をつくってこその広告。そこにAbemaTVの勝機がある
「新しいテレビ」的な価値を高めるハイブリッド化とは?
サイバーエージェントと電通、お互いをどう見ている!?

 

電通 山本敏博社長、AbemaTV 藤田晋社長
電通 山本社長、AbemaTV 藤田社長

テレビの新しい時代を切り開いていくのは何か?

―電通がAbemaTVに出資した経緯を教えてください。

山本:「日本のテレビの未来はどこにあるのか?」というのが、ずっと私の関心事です。日本のテレビの持つポテンシャルの高さは、世界でも類を見ない素晴らしいものです。ただ、正直に言うとこのままではダメだとも思っていまして、テレビの新しい時代を切り開いていくためにはやはりインターネットとの融合が不可欠だと常々感じています。ですから、テレビがネットの方向に向かっていく取り組みについては、そのどれも全て、電通も一緒に挑戦をしたい。「うちも入れてよ!」と言っています。当然、2016年にAbemaTVのサービスが始まるときにも同じ側に立ちたいと思って、テレビ朝日さんに「一緒にやりたい」と声を掛けさせてもらったのですが、その時は「サイバーエージェントの藤田さんが、ちょっと待ってほしいと言っている」という(笑)。

それから2年後の2018年に、藤田さんと一緒にご飯を食べる機会がありまして、AbemaTVが何をしようとしているのか、直接聞くことができました。その時やっぱり藤田さんの肌感覚みたいなものにすっかり感じ入って、「ネットによってテレビが新たな未来を切り開いていく現場で、同じ方向を向いて一緒にやりたい」と改めて強く思い、「電通も入れてくださいよ」と申し出たところ、その翌日にはもう藤田さんから電話がかかってきて。テレビ朝日とも話は済んでいるということで、非常に具体的な条件のお話をされて。お願いした翌日にですよ。「こういうところだな!」と思いましたね。

藤田:最初にちょっと待っていただいたのには理由がありまして、サービス開始当時、「ネットテレビをつくる」というベンチャーはAbemaTV以外にもたくさんありました。そのうちの一つとして出資を受けるのでは、物足りない。つまり、本気で「これは放っておけない」と思っていただいてから受けたかったんです。そこでテレビ朝日と相談して、「まず、どれだけわれわれが本気かということを感じてもらえるところまでは、自力で頑張りましょう」と決めました。

その後、電通の出資を受けることになったきっかけは、昨年私がチェアマンを務めるプロ麻雀リーグ、「Mリーグ」に電通が参戦してくれたことです。もう本当にうれしくなっちゃったんですが(笑)、そのタイミングで、ちょうど山本社長と食事をすることになりましたので、今度はすぐに出資をお願いした次第です。

電通山本社長
電通 山本社長

「受け身視聴」をつくってこその広告。そこにAbemaTVの勝機がある

―ネットの動画配信サービスが急速に増えていますが、AbemaTVの勝機はどこにあると考えていますか。

藤田:大きくは二つあって、「リニア」であることと、「無料」であることはAbemaTVの他にはない大きな強みだと思っています。

リニアである理由はいくつかありますが、一番の理由は「受け身視聴」をつくりたかったんです。私自身が広告会社をやってきて感じていたのは、ネット上でユーザーが目的を持ってクリックしていくもの、つまり能動的に見るコンテンツは、広告と相性があまり良くないということでした。やはり「受け身視聴」をつくってこその広告である、ということです。しかも、多くの人に見てもらわなければ広告にならない。

「ブランド広告はインターネットにシフトする」と以前から言われていますが、僕の体感値ではまだそれほどシフトしていません。出す場所がないんですよ。ネットでたくさんの視聴者を得ているメディアの多くがCGM(ユーザー投稿型メディア)なので、要は広告主のブランド力や好感度を上げるような出しどころというのが本当に少ない。そんな中で、ちゃんとクオリティーを管理できて、安心できるスペースをつくりたかったんです。

山本:ちょっといいでしょうか。皆さん、私は藤田さんと食事をしたときにこの話を聞いて、本当に衝撃を受けましたよ。あのサイバーエージェントの藤田晋がですよ、「広告、特にブランド広告は、やっぱりリニアで、受け身視聴でなくては効果がない」と言うんですから。あ、ごめんなさいね(笑)。

藤田:いやいや(笑)。それで、先ほど山本社長がおっしゃった日本のテレビのポテンシャルについては、僕も全く同じように考えています。だけど、今ある動画配信サービスは大半がオンデマンドで、実質的にテレビをリプレースできているものはありません。つまり、テレビのメインコンテンツである「ニュース番組」や「スポーツ中継」の流し場所というものがネット上にない。「テレビが出せるものが、ネットでは出せていない」という状況がまず頭にあったんです。

今では、「緊急ニュースがあればAbemaTVを開く」というのが、ある程度ネットユーザーに浸透してきました。スポーツでも、大相撲や格闘技などをAbemaTVで視聴する人は増えている。また、将棋に麻雀など、非常に放送時間が長い中継コンテンツを流すのに適しているのも強みですね。加えて、テレビではなかなか見られないフェンシングやフットサルなどのマイナースポーツからも大変な期待を寄せていただいています。

山本:AbemaTVをやって3年たつと、サイバーエージェントの藤田社長がこういうことを言うようになるんですよ。毎日自分たちであれだけのチャンネルを編成してやっているからですよね。つまり、「テレビ的なもの」に対して恐ろしく造詣が深くなっているんです。こんな話を聞かされてしまったら、放っておけない、絶対にそこに一緒にいないといけない(笑)。「一人では行かせないぞ!」という気持ちが大きかったですね。

藤田:ありがとうございます(笑)。次に、「無料」であることの強みについて。他社の動画配信サービスの多くは、いわゆる有料のサブスクリプションモデルなので、「同時にたくさんの人に見せる」ということが苦手です。その点、AbemaTVはリニアかつ無料ということで、大人数の同時視聴に強いんですね。

例を挙げると、アニメコンテンツ。開局以来行ってきたアニメ第1話の世界最速無料配信は、ついに200作品を超えました。アニメの「最速放送日」は、従来は東京ローカル局が一番多かったのですが、2019年の1月クールではAbemaTVが最多となりました。これは、テレビに代わって「全国区でより多くの人が視聴できる無料の場所」として、AbemaTVに期待が集まっている結果だと感じます。

この「リニア」であることと、「無料」であることが、従来の広告メディアとしてのテレビの特徴ですが、AbemaTVならではの特徴でもあります。

AbemaTV藤田社長
AbemaTV 藤田社長

「新しいテレビ」的な価値を高めるハイブリッド化とは?

―AbemaTVは進化している過程にあると思いますが、どのような方向性を目指しているのでしょうか。

藤田:現在、非常に力を入れているのは、「リニアとオンデマンドのハイブリッド化」です。というのも、自分自身がそうなんですが、AbemaTVを使い慣れれば使い慣れるほど、タイムシフトで見たかったり、追っかけ再生で見たかったりと、オンデマンド的な使い方が増えるのは避けられません。

それに合わせて、UIも大きく変えていこうとしています。AbemaTVの従来のUIは、見ている番組を横にスワイプしていくことでチャンネルを変えるというものですが、やはり見ているときが手持ち無沙汰になりがちなので、そこはYouTubeのように「次に見るもの」を探せるUIに変えようと。

そうなると、オンデマンド視聴に対しては課金サービスにしていくか、もしくはオンデマンドでも無料で出すものについてはなんらかの広告を導入すべきだと考えています。でも、これは地上波を見ていて感じる課題なのですが、オンデマンドやタイムシフト視聴では、どうしてもユーザーに広告を飛ばされてしまうんですよね。それでは収益機会がなくなってしまうので、そんな課題に対応できる新しい広告商品の適切な開発の仕方というのを、電通と一緒に取り組んでいきたいです。

ネットの歴史を見てみると、大きくなったサービスというのは、GoogleにせよFacebookにせよYouTubeにせよ、最初は何もマネタイズのことを考えていません。とにかくたくさんの人を集め、それがある日、決定的にスケールできる広告商品を生み出している。Googleであれば検索結果にリスティング広告を入れたり、Facebookならインフィード広告とリタゲを組み合わせたものだったり、YouTubeならTrueViewだったり。なので、AbemaTVもまずは多くのユーザーを集め、広告効果の高いスケールできるものを開発していきたいです。

そのためにはまず、メディアとしてユーザーに“視聴習慣”をつくってもらう必要がありますが、それには長い年月が必要だというのは改めて感じていますので、腰を据えてやっていきます。

山本:ありがとうございます。新しい広告商品の開発といった面でも、一緒に取り組んでいけたらと考えています。テレビ×ネットでいうと、地上波・ネット同時配信についてはどうお考えですか?

藤田:報道などでミスリードがあるなと思っているんですが、本当に価値があるのは、実は「同時配信」という部分ではないんですよ。同時配信をして、それを追っかけ再生もできて、かつ全ての番組がタイムシフトで見られるということを実現してこそ、テレビ的な価値をさらに高めた新しい体験になる。ユーザーにとってより便利なものとして、テレビを“再発明”していかなきゃいけないと思っています。そのためのハイブリッドです。

サイバーエージェントと電通、お互いをどう見ている!?

―お二人は、社長としてお互いの会社をどのように見ていますか?

山本:今日は「AbemaTVの藤田社長」にお越しいただきましたので、まずAbemaTVについて。最初にお話しした通り、電通も新しいテレビの可能性を一緒に切り開いていきたい、そのことが誰にとってもいいことであると考えています。

一方で、競合する広告会社としての「サイバーエージェントの藤田社長」が持つ若さと、革新さと、破天荒さは電通にとっては脅威です。しかし、そういう存在がいてくださることで、やり方は違うかもしれないけど、この人たちよりも革新性のあること、新しいこと、若いことを毎日やっていかなくてはならないのだと思えるので、とてもいい刺激になっています。ちょっと負け惜しみもありますけど(笑)。

「テレビ×ネット」という新しい舞台に対して、AbemaTVという新しい可能性のあるメディアに共に協力して取り組みつつ、その舞台ができたあかつきには、広告会社としてのサイバーエージェントと、堂々と戦えればいいなと思っています。

藤田:私にとって電通は、数少ない「こんな会社にしたい」と目標にしている会社です。社員が自由に働いているのに、結束が非常に強い。そんな会社を、優秀な人材をたくさん集めながらつくれるというのは、本当に参考にしたい部分です。

私は昔、アメーバブログの頃からメディア事業に傾倒していったのですが、その当時に電通のある方から食事に誘われ、「広告代理店、電通にできないの?」と言われたことがあります。「企業カルチャーがあるので、難しい」とお断りしたところ、「よし、じゃあこの話は終わりだ、今日は飲もう!」と(笑)。はっきりと、回りくどくなく言ってくれるところは、本当に電通の良さだなと思います。そういう、個人的に好きな会社でもあるんです。

広告会社サイバーエージェントとしては競合かもしれませんが、今後も電通とはさらなる連携を深め、「日本のテレビ」の持つポテンシャルをAbemaTVを通じて引き出していけたらと思っています。

山本:本日はありがとうございました!

電通 山本敏博社長、AbemaTV 藤田晋社長
電通ホール

自由に動いてビジョンでつながる「ティール組織」によるアイヌ文化の新価値発掘

2019年10月、新宿のビームス ジャパンで、北海道阿寒湖温泉の若手アイヌ工芸家と日本各地の手仕事を紹介し続けているセレクトショップBEAMSのレーベル<fennica(フェニカ )>のコラボ商品が発売されました。本連載第1回では、「地産外商」や「観光地から交流地への変革」というビジネスモデルや、持続的にプロジェクトを進めるためのモチベーション・ビルディングについて紹介しました。

第2回では、私たちが出合ったアイヌ文化が現代社会に提起する、「未来へのヒント」ともいうべき価値と、その価値への気付きを社会の需要に結び付け、コラボレーション商品の開発に至った「自由意思で動くチーム=ティール組織」について組織論的視点で考察します。

「アイヌ文化」という異文化との遭遇

「アイヌ」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。私は以前、土産物店でアイヌ文様らしきものを見かけたことがありましたが、「個性的だな」という印象にとどまり、その後は全く接点がなく、深く知ることはありませんでした。

今回、阿寒湖の地域活性プロジェクトをスタートするに当たって思い出したのが文様のこと。アイヌの方々と話していくうちに、木彫りなどに施される個性的な文様には魔よけの意味があり、着物に刺繍する際には、着る人・使う人を思って刺繍するなど、アイヌ民族・文化に独特な特徴があり、これは魅力的なコンテンツになることを確信しました。

一方で、当初は個性が強い文様ゆえにアイヌ工芸をふだんの暮らしに取り入れるのは難しいかもしれないという直感も働いていました。われわれは「地産外商」という目標を掲げ、旅の思い出にアイヌ工芸品を買うという"土産品”で終わることなく、例えば「イイな」と思って買ったらアイヌ工芸だったというような普遍的価値のある商品の開発を目指しており、「古き良きアイヌ」にはとどまらない、どこか新しい見せ方で、ターゲットとなる地域外の人々との接点をつくりたいと考えました。

伝統的なアイヌ文様があしらわれた着物
伝統的なアイヌ文様があしらわれた着物

現代人のバイブル?! SDGsの先を行くアイヌ民族

彼らとの接点が濃くなるうちに印象的だったのが、アイヌ民族の自然と共生する姿勢。すべての動物、植物、ひいては道具にまでカムイ(神)が宿るという教えがあります。獲物として捕らえた母熊と一緒にいる子熊は、殺すことなく大きくなるまで育てていた習慣があったり、衣料やカゴなど織物の素材になる植物を採る際には「いただく」と言ったり、「感謝の気持ちを持つように」「採る際には根こそぎ採らないように」と生命を絶やすことのないよう、語り継がれています。

また日本国内で後継者不足により消滅していく手工芸品も多い中で、アイヌの人たちの手仕事が暮らしの中で自然と代々受け継がれているケースを耳にしました。「おばあちゃんに刺繍を習った」「おばちゃんと一緒に材料を採りに行った」というように。自然やモノを大事にすることを生まれながらに知っている民族なのです。これはSDGsの先を行っている、と感じました。

このようにアイヌ社会での考え方や暮らし方には、現代人が失ってしまったものを取り戻し、強く生きていくための未来へのヒントがあるのではないかと感じ、「現代人のバイブル」的存在に捉え方が変わりました。

工芸品の素材となる「ツルウメモドキ」を採集
工芸品の素材となる「ツルウメモドキ」を採集

「阿寒湖で生きる」がブランドストーリーの核

初めて阿寒湖温泉を訪問したのは、アイヌ新法の成立に先立つこと2年近く。2017年初秋でした。豊かな大自然を味わいながら現地を散策するとともに、道内屈指のアイヌコタン(村・集落)にある幾つかの土産店や工房を訪ね、コラボレーションの可能性を探りました。同じように見えていた商品群の中でも「これは」と心に触れる作品に幾つか出合い、幸いにもその制作者の方々から参画の承諾を得られ、木彫り、刺繍、織物、彫金の技術を持った若手の作家たちが集まりました。

工房内でカフェを営む彫金作家
工房内でカフェを営む彫金作家

出会った初日から、作品の味わいだけではなく、魅力あふれる人間性、また阿寒湖という森と湖に囲まれた風土が阿寒湖アイヌ民族の個性を下支えしている様子がうかがわれ、確固たるブランドに昇華していくだろうとの予感を抱きました。阿寒湖温泉ではアイヌ舞踊のシアターを構えたり、民族衣装で観光船のガイドをするなど他地域に先駆けて文化発信に取り組んできた特徴があり、伝統を守るだけではない「開かれたアイヌ」というポジションも生かせると考えました。

こうした気付きから、開発していく商品とともに作家のライフスタイルや人物像をブランドの核にしたいと考えるようになりました。作家の内面にまで迫りたいと、アイヌコタン出身、アイヌ文化の中で育ったライターの方に参画いただき、作家自身をフィーチャーしたウェブサイト「kar pe kuru ~創り手の街 阿寒湖温泉」を商品発表の半年前から公開して下地をつくり、発売時、作家のプロフィールと作品をひも付けて詳細に紹介するなど、ブランドの核を固めていきました。

自由に動いてビジョンでつながる「ティール組織」が生んだ想像以上の成功

今回、電通が得意とするブランディングやプロモーションの領域を超えた事業のプロデュースが可能となったのは、自由なチーミングが鍵だったと考えます。今回のメンバーは数年前たまたま席を並べていて、現在はそれぞれが異なる部署で異なるミッションに当たっていた3人のチームでした。われわれには営業・ストラテジックプランニング・出版・コンテンツ・人事・経営企画の経験があり、さまざまな職能を持ち合わせたチームです。プロジェクト後半には電通北海道のメンバーも加わり、共にプロジェクトを進めています。

経営の世界では次世代型の組織モデル「ティール組織」が話題ですが、われわれも事前の役割を規定せず、専門性の異なる一人一人が主体的に職能を発揮しつつ、プロジェクトが有機的に進んでいきました。常に本質的な問題と向き合い、異なる視点から多角的に課題を発見。時には領域侵犯しながら考えをぶつけ合いソリューションを生み出していくことで、各人のスキルアップも実現しました。

SDGsでは企業や自治体の活動が頻繁に紹介されますが、そこにアイヌ民族が受け継いできた暮らし方に着目し「われわれに未来のヒントをくれるバイブル的存在」と捉えてみるなど、これまで見いだされていないソリューションのポイントをつくり出すためには、このような自由意思に基づく幅広い視野と動き方が肝要だったと考えます。

また、ゼロからのスタートで規定演技は通用せず、東京と阿寒湖という物理的な距離や、アイヌ民族とセレクトショップという業態の縁遠さを埋めていくチャレンジングな取り組みという点でもフレキシブルな発想が必要でした。

上意下達ではない自主運営のティール組織においては、プロジェクトが目指すべき方向性・ゴールといった「ビジョン」がメンバーの自由な動き方を規定する唯一のルールといえるでしょう。ビジョンを共有し、変化に自由であること。それらは活動しながら、さらに皆で発展させていくのが望ましい形です。

本プロジェクトにおけるティール組織が生んだ効果

さまざまなプレーヤーとのフレキシブルな体制にもビジョンが重要

阿寒湖温泉で活動する若手アイヌ工芸作家と、日本各地の手仕事を市場に紹介し続けているセレクトショップBEAMSのレーベル<fennica>(ディレクターはロンドン在住)。本来巡り合うことのなかった両者を結び付けましたが、社内のメンバーに加えて阿寒湖温泉の観光協会、釧路信用金庫、現地コーディネーター、アイヌ民族のライターの方々とのフレキシブルな連携がそれを可能にしました。そこにもビジョンの存在が重要であったことは間違いありません。

阿寒湖訪問初日にfennicaディレクターの北村恵子氏は語りました。「日本の手仕事は各地で消滅の危機を迎えています。今なら、後継者がいなくても、そばで見ていた人がいたり、かつては触ったことがある人がいたり、ギリギリ間に合うタイミング。技術は途絶えてしまったらそこで終わりですから。素晴らしい技術は守らなくては、今やらなくては、という使命感のようなものがわれわれにはあります」。

実際に仙台の伝統工芸品であるこけしをアップデートして「インディゴこけし」としてよみがえらせ、コレクターの女性「こけ女」が発売前に行列する「こけしブーム」を仕掛けた方です。説得力がありました。こうした思想はfennicaの元々の活動ビジョンにあるものですが、結果としてわれわれのモチベーションへとつながり、プロジェクトのビジョンに組み入れられてチームの全員が意識するようになりました。

自由意思でチームを動かすためのコンセプトワード開発のすすめ

ティール組織の運営において効力があったのは「ことば」です。立ち上げ当初から、プロジェクトのビジョンや世界観をコンセプトワードにまとめ意図的に使用してきました。ゼロからの立ち上げという点を逆手に取り、常に高い目標設定でプロジェクトを描いていましたが、「阿寒湖Next Generation」もその一つ。作家のブランディングとして、単なる若手ではなく、もともと瀧口政満氏、藤戸竹喜氏、床ヌブリ氏をはじめ木彫作家の巨匠たちを輩出してきた阿寒湖の次世代を担う人たち、というポジションを形成し地域の資産を活かしたいという狙いでした。

当初からチーム内で使っていたプロジェクトの仮称「AKAN AINU Collection」に込めていたのは、阿寒湖のアイヌ文化らしさが感じられ、コレクション欲をそそるアイテム群をつくり、一過性ではなく永続的なブランドとして立ち上げること。そしてお土産物とは一線を画したアート性×ライフスタイルのあるイメージです。

これらのワードは、fennicaディレクターのテリー・エリス氏による“新作コレクション”発表イベントのタイトルへと引き継がれます。題して「アイヌ クラフツ 伝統と革新 -阿寒湖から-」(英題:AINU CRAFTS from Lake Akan Tradition and Innovation)。2年余の歳月の中でメンバーの思いは「ことば」で引き継がれながら進化し、やがてかたちになったのです。

イベントのキービジュアル
イベントのキービジュアル

AbemaTV×電通、社長対談。ネットが切り開く新しいテレビの形

“無料で楽しめるインターネットテレビ局”として成長を続けるAbemaTVに電通が出資を行ってから1年。両社のさらなる連携強化を目指して、10月3日、東京・汐留の電通ホールでイベント「Dentsu AbemaTV Day」を開催しました。

同イベント内で行われた、AbemaTVの藤田晋社長と電通の山本敏博社長によるトークセッションの模様をお届けします。

<目次>
テレビの新しい時代を切り開いていくのは何か?
「受け身視聴」をつくってこその広告。そこにAbemaTVの勝機がある
「新しいテレビ」的な価値を高めるハイブリッド化とは?
サイバーエージェントと電通、お互いをどう見ている!?

 

電通 山本敏博社長、AbemaTV 藤田晋社長
電通 山本社長、AbemaTV 藤田社長

テレビの新しい時代を切り開いていくのは何か?

―電通がAbemaTVに出資した経緯を教えてください。

山本:「日本のテレビの未来はどこにあるのか?」というのが、ずっと私の関心事です。日本のテレビの持つポテンシャルの高さは、世界でも類を見ない素晴らしいものです。ただ、正直に言うとこのままではダメだとも思っていまして、テレビの新しい時代を切り開いていくためにはやはりインターネットとの融合が不可欠だと常々感じています。ですから、テレビがネットの方向に向かっていく取り組みについては、そのどれも全て、電通も一緒に挑戦をしたい。「うちも入れてよ!」と言っています。当然、2016年にAbemaTVのサービスが始まるときにも同じ側に立ちたいと思って、テレビ朝日さんに「一緒にやりたい」と声を掛けさせてもらったのですが、その時は「サイバーエージェントの藤田さんが、ちょっと待ってほしいと言っている」という(笑)。

それから2年後の2018年に、藤田さんと一緒にご飯を食べる機会がありまして、AbemaTVが何をしようとしているのか、直接聞くことができました。その時やっぱり藤田さんの肌感覚みたいなものにすっかり感じ入って、「ネットによってテレビが新たな未来を切り開いていく現場で、同じ方向を向いて一緒にやりたい」と改めて強く思い、「電通も入れてくださいよ」と申し出たところ、その翌日にはもう藤田さんから電話がかかってきて。テレビ朝日とも話は済んでいるということで、非常に具体的な条件のお話をされて。お願いした翌日にですよ。「こういうところだな!」と思いましたね。

藤田:最初にちょっと待っていただいたのには理由がありまして、サービス開始当時、「ネットテレビをつくる」というベンチャーはAbemaTV以外にもたくさんありました。そのうちの一つとして出資を受けるのでは、物足りない。つまり、本気で「これは放っておけない」と思っていただいてから受けたかったんです。そこでテレビ朝日と相談して、「まず、どれだけわれわれが本気かということを感じてもらえるところまでは、自力で頑張りましょう」と決めました。

その後、電通の出資を受けることになったきっかけは、昨年私がチェアマンを務めるプロ麻雀リーグ、「Mリーグ」に電通が参戦してくれたことです。もう本当にうれしくなっちゃったんですが(笑)、そのタイミングで、ちょうど山本社長と食事をすることになりましたので、今度はすぐに出資をお願いした次第です。

電通山本社長
電通 山本社長

「受け身視聴」をつくってこその広告。そこにAbemaTVの勝機がある

―ネットの動画配信サービスが急速に増えていますが、AbemaTVの勝機はどこにあると考えていますか。

藤田:大きくは二つあって、「リニア」であることと、「無料」であることはAbemaTVの他にはない大きな強みだと思っています。

リニアである理由はいくつかありますが、一番の理由は「受け身視聴」をつくりたかったんです。私自身が広告会社をやってきて感じていたのは、ネット上でユーザーが目的を持ってクリックしていくもの、つまり能動的に見るコンテンツは、広告と相性があまり良くないということでした。やはり「受け身視聴」をつくってこその広告である、ということです。しかも、多くの人に見てもらわなければ広告にならない。

「ブランド広告はインターネットにシフトする」と以前から言われていますが、僕の体感値ではまだそれほどシフトしていません。出す場所がないんですよ。ネットでたくさんの視聴者を得ているメディアの多くがCGM(ユーザー投稿型メディア)なので、要は広告主のブランド力や好感度を上げるような出しどころというのが本当に少ない。そんな中で、ちゃんとクオリティーを管理できて、安心できるスペースをつくりたかったんです。

山本:ちょっといいでしょうか。皆さん、私は藤田さんと食事をしたときにこの話を聞いて、本当に衝撃を受けましたよ。あのサイバーエージェントの藤田晋がですよ、「広告、特にブランド広告は、やっぱりリニアで、受け身視聴でなくては効果がない」と言うんですから。あ、ごめんなさいね(笑)。

藤田:いやいや(笑)。それで、先ほど山本社長がおっしゃった日本のテレビのポテンシャルについては、僕も全く同じように考えています。だけど、今ある動画配信サービスは大半がオンデマンドで、実質的にテレビをリプレースできているものはありません。つまり、テレビのメインコンテンツである「ニュース番組」や「スポーツ中継」の流し場所というものがネット上にない。「テレビが出せるものが、ネットでは出せていない」という状況がまず頭にあったんです。

今では、「緊急ニュースがあればAbemaTVを開く」というのが、ある程度ネットユーザーに浸透してきました。スポーツでも、大相撲や格闘技などをAbemaTVで視聴する人は増えている。また、将棋に麻雀など、非常に放送時間が長い中継コンテンツを流すのに適しているのも強みですね。加えて、テレビではなかなか見られないフェンシングやフットサルなどのマイナースポーツからも大変な期待を寄せていただいています。

山本:AbemaTVをやって3年たつと、サイバーエージェントの藤田社長がこういうことを言うようになるんですよ。毎日自分たちであれだけのチャンネルを編成してやっているからですよね。つまり、「テレビ的なもの」に対して恐ろしく造詣が深くなっているんです。こんな話を聞かされてしまったら、放っておけない、絶対にそこに一緒にいないといけない(笑)。「一人では行かせないぞ!」という気持ちが大きかったですね。

藤田:ありがとうございます(笑)。次に、「無料」であることの強みについて。他社の動画配信サービスの多くは、いわゆる有料のサブスクリプションモデルなので、「同時にたくさんの人に見せる」ということが苦手です。その点、AbemaTVはリニアかつ無料ということで、大人数の同時視聴に強いんですね。

例を挙げると、アニメコンテンツ。開局以来行ってきたアニメ第1話の世界最速無料配信は、ついに200作品を超えました。アニメの「最速放送日」は、従来は東京ローカル局が一番多かったのですが、2019年の1月クールではAbemaTVが最多となりました。これは、テレビに代わって「全国区でより多くの人が視聴できる無料の場所」として、AbemaTVに期待が集まっている結果だと感じます。

この「リニア」であることと、「無料」であることが、従来の広告メディアとしてのテレビの特徴ですが、AbemaTVならではの特徴でもあります。

AbemaTV藤田社長
AbemaTV 藤田社長

「新しいテレビ」的な価値を高めるハイブリッド化とは?

―AbemaTVは進化している過程にあると思いますが、どのような方向性を目指しているのでしょうか。

藤田:現在、非常に力を入れているのは、「リニアとオンデマンドのハイブリッド化」です。というのも、自分自身がそうなんですが、AbemaTVを使い慣れれば使い慣れるほど、タイムシフトで見たかったり、追っかけ再生で見たかったりと、オンデマンド的な使い方が増えるのは避けられません。

それに合わせて、UIも大きく変えていこうとしています。AbemaTVの従来のUIは、見ている番組を横にスワイプしていくことでチャンネルを変えるというものですが、やはり見ているときが手持ち無沙汰になりがちなので、そこはYouTubeのように「次に見るもの」を探せるUIに変えようと。

そうなると、オンデマンド視聴に対しては課金サービスにしていくか、もしくはオンデマンドでも無料で出すものについてはなんらかの広告を導入すべきだと考えています。でも、これは地上波を見ていて感じる課題なのですが、オンデマンドやタイムシフト視聴では、どうしてもユーザーに広告を飛ばされてしまうんですよね。それでは収益機会がなくなってしまうので、そんな課題に対応できる新しい広告商品の適切な開発の仕方というのを、電通と一緒に取り組んでいきたいです。

ネットの歴史を見てみると、大きくなったサービスというのは、GoogleにせよFacebookにせよYouTubeにせよ、最初は何もマネタイズのことを考えていません。とにかくたくさんの人を集め、それがある日、決定的にスケールできる広告商品を生み出している。Googleであれば検索結果にリスティング広告を入れたり、Facebookならインフィード広告とリタゲを組み合わせたものだったり、YouTubeならTrueViewだったり。なので、AbemaTVもまずは多くのユーザーを集め、広告効果の高いスケールできるものを開発していきたいです。

そのためにはまず、メディアとしてユーザーに“視聴習慣”をつくってもらう必要がありますが、それには長い年月が必要だというのは改めて感じていますので、腰を据えてやっていきます。

山本:ありがとうございます。新しい広告商品の開発といった面でも、一緒に取り組んでいけたらと考えています。テレビ×ネットでいうと、地上波・ネット同時配信についてはどうお考えですか?

藤田:報道などでミスリードがあるなと思っているんですが、本当に価値があるのは、実は「同時配信」という部分ではないんですよ。同時配信をして、それを追っかけ再生もできて、かつ全ての番組がタイムシフトで見られるということを実現してこそ、テレビ的な価値をさらに高めた新しい体験になる。ユーザーにとってより便利なものとして、テレビを“再発明”していかなきゃいけないと思っています。そのためのハイブリッドです。

サイバーエージェントと電通、お互いをどう見ている!?

―お二人は、社長としてお互いの会社をどのように見ていますか?

山本:今日は「AbemaTVの藤田社長」にお越しいただきましたので、まずAbemaTVについて。最初にお話しした通り、電通も新しいテレビの可能性を一緒に切り開いていきたい、そのことが誰にとってもいいことであると考えています。

一方で、競合する広告会社としての「サイバーエージェントの藤田社長」が持つ若さと、革新さと、破天荒さは電通にとっては脅威です。しかし、そういう存在がいてくださることで、やり方は違うかもしれないけど、この人たちよりも革新性のあること、新しいこと、若いことを毎日やっていかなくてはならないのだと思えるので、とてもいい刺激になっています。ちょっと負け惜しみもありますけど(笑)。

「テレビ×ネット」という新しい舞台に対して、AbemaTVという新しい可能性のあるメディアに共に協力して取り組みつつ、その舞台ができたあかつきには、広告会社としてのサイバーエージェントと、堂々と戦えればいいなと思っています。

藤田:私にとって電通は、数少ない「こんな会社にしたい」と目標にしている会社です。社員が自由に働いているのに、結束が非常に強い。そんな会社を、優秀な人材をたくさん集めながらつくれるというのは、本当に参考にしたい部分です。

私は昔、アメーバブログの頃からメディア事業に傾倒していったのですが、その当時に電通のある方から食事に誘われ、「広告代理店、電通にできないの?」と言われたことがあります。「企業カルチャーがあるので、難しい」とお断りしたところ、「よし、じゃあこの話は終わりだ、今日は飲もう!」と(笑)。はっきりと、回りくどくなく言ってくれるところは、本当に電通の良さだなと思います。そういう、個人的に好きな会社でもあるんです。

広告会社サイバーエージェントとしては競合かもしれませんが、今後も電通とはさらなる連携を深め、「日本のテレビ」の持つポテンシャルをAbemaTVを通じて引き出していけたらと思っています。

山本:本日はありがとうございました!

電通 山本敏博社長、AbemaTV 藤田晋社長
電通ホール

GSOMIA延長で安倍政権が吹聴する「完全勝利」はやっぱり嘘だった! 韓国の抗議にまともに反論できず、輸出規制解除は既定路線

 やっぱり「パーフェクトゲーム」は嘘だったらしい。先日、失効直前で韓国側がGSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄を中止し延長した問題だが、安倍政権が流していた情報とはまったく違う実態があることが少しずつ明らかになってきた。  当初、安倍政権は「韓国側がWTOへの提訴中断...

東京パラリンピック聖火リレー ランナーは約1000人で、11月27日から 募集開始

東京2020組織委は11月22日、東京2020パラリンピック聖火リレーについての記者発表を都内で行い、リレールートやランナー募集概要を発表した。

冒頭、組織委の森喜朗会長は「パラリンピック聖火は全都道府県で採火し、最終的に東京で一つになるなど、オリンピックとはひと味違うものになる。全国各地の人々の熱い思いを開催都市に集めることで、共生社会の実現につなげたい。開会式で聖火台に火が灯る瞬間を楽しみに、今後も準備に尽力する」とあいさつした。

聖火リレー検討委員会の河合純一さんと、聖火リレー公式アンバサダーの田口亜希さんは、パラリンピック聖火リレーコンセプト「Share Your Light あなたは、きっと、誰かの光だ。」に基づいた、リレーの全体概要を説明した。
最終的な聖火は、大きく三つの“火”が集約されてできる。ひとつは、パラリンピックのルーツになった障がい者スポーツ大会が行われた、イギリスのストークマン・デビルで採火されたもの、二つ目は、競技が開催される4都県(静岡、千葉、埼玉県、東京都)以外の43道府県(700以上の市区町村)で、さまざまな手法により採火されたもの、最後は4都県で採火されリレーされたもの。
これらの火が全て東京に集められ、2020年8月21日夜間の「集火式」で一つになる。その後、都内で聖火リレーが行われ開会式(8月25日)を迎える。

発表会に参加した聖火リレー公式アンバサダーの女優・石原さとみさんは、田口さんと共に聖火ランナーの選定基準や募集計画について説明した。
聖火リレーは競技開催4都県(8月18~21日)と開催都市・東京都(22~25日)で行われる計8日間で、ランナー総数は約1000人の予定。“初めて出会う3人”が1チームになり、約200メートルを走る。
聖火ランナーに応募できるのは、2008年4月1日以前に生まれた人で、国籍・性別・障がいの有無は問わない。また、オリンピック聖火ランナーに応募した人も可能。
応募は、パラリンピック聖火リレープレゼンティングパートナーのLIXIL(募集期間:2019年11月27日~20年2月29日)と4都県(同:12月16日~2月15日)からできる。各都県への応募は、走行を希望する都県とゆかりがある人が対象だが、LIXILとの同時応募が可能。ランナーの決定は、各応募先が選考を行い組織委に候補者を推薦。組織委が決定後、20年5月以降に発表する。

石原さんは聖火ランナーについて「アスリートでなくても、沿道の応援を受けながら走れる貴重な体験は、一生の宝物になると思う。オリンピックの熱気を引き継いで、とても素晴らしい聖火リレー、大会になってほしい。ランナー以外の皆さんも、全国各地での採火アイデアを提案するなどして、一緒に盛り上げましょう」と呼び掛けた。

公式サイト:
https://tokyo2020.org/jp/news/notice/20191122-02.html

関連記事:LIXIL パラリンピック聖火リレープレゼンティングパートナー第1号に[2019.10.03]

 

安倍友の「桜を見る会」ケータリング業者に官邸・内閣府が蓮舫の調査の動きを漏えい!「内閣から『蓮舫さんが調べてる』と連絡が」

 安倍自民党による大規模な“有権者買収”の場だったことが明確になりつつある「桜を見る会」問題。一方、安倍首相や菅義偉官房長官は「長年の慣行」という言葉を強調し、またぞろ民主党批判に矛先を向けようと必死になっているが、そんななか、新たな問題が飛び出した。立憲民主党・蓮舫議員の...

思ったよりもいいヤツだった? 人工知能の実力を探る“AIグラフィック”

アートディレクションの拡張を目指す“NEWSPACE NEW PROTOTYPE OF ART DIRECTION”プロジェクト。発足以来、次々と注目のアートディレクターが実験的な試みを発表しています。第4弾の作品は、人工知能にグラフィックデザインをさせる“AI GRAPHIC DESIGN PROJECT”。

アートディレクションを手掛けたのは、普段はアナログ志向だという江波戸李生です。異色のチャレンジによって体感したAIの素顔、デザインにおける可能性を語ります。


AIさん。世間で騒がれてますけど…何ができるんですか?

最新のAIグラフィックの作品をご覧いただいた上で、記事もご覧ください!

 

──AIにデザインをさせるという発想へは、どのように行き着いたのでしょうか。

私は、大学でファッション、舞台美術、インテリアなどを学んでいました。自分も同級生も、全て手作業で作品を完成させていくことが多く、その影響かアナログ大好き人間になりました。デジタルって聞くと、距離を置いてきました…。

ですが、今回立ち上げられた“NEWSPACE”はアートディレクションの実験の場だと聞いて、普段は手を出さない領域にあえて踏み込んでみることに。「世間ではもてはやされているけど、本当にデザインができるのか!?」と、半ばケンカ腰でAIへの挑戦を決めました。

まず、僕には人工知能に関する知識がほぼなかったため、AI研究とメディアアートの制作をしている東京大大学院特任助教の山岡潤一氏とアーティストの草野絵美氏に教えを請うことに。そこで紹介されたのが「DCGAN(ディーシーギャン)」という画像版のディープラーニングAIソフトです。AIが大量の画像素材を学習し、新たな画像をつくり出す。この技術からAIにグラフィックデザインをさせてみようという発想に至りました。


約200点の画像素材から16×4500通りものビジュアルを生み出す

──AIにグラフィックデザインをさせるプロセスとは?

工程として、まずAIに学習させる画像のデータを収集する手順があります。今回の一連の作品に対しては、シンプルな色面構成のような画像を集め、200点ほどに絞ってDCGANに与えました。

最初に全ての素材を与え「あなたが考えたグラフィックデザインを見せてください」と、繰り返し結果を求めていきます。今回の実験では、4500回以上結果を出させて経過を観察しました。

1回の結果につき、16点の画像がDCGANから提示されます。膨大な結果の中から、過程が読み取れる画像を以下にピックアップしました。

AIグラフィック作品

AIも混沌から試行錯誤してオリジナリティーを絞り出す

 

AIグラフィック作品
AIグラフィック作品
AIグラフィック作品
AIグラフィック作品

──4点の作品と、AIによるデザインの特徴について教えてください。

どんな素材を与えても、初期には一番左上の画像に代表されるようなもやもやとした画像が提示されます。初めて見せられたものから何かを紡ぎ出そうとしている感じ、いろいろな情報によって頭の中をかき回されている感じが出ています。

回数を重ねるごとに形を見せ始め、構成がシンプルになったり、ベタになったりしながら、オリジナリティーを出そうと奮闘しているさまには親近感すら覚えます。途中で画面がブレークしたり、変化が止まったりと、過学習による現象も観察できました。

後半にかけては、結果が似てきます。明度のバランス、形の複雑さなどは変化しますが、徐々に方向性が固まっていきます。


人間が触れることで個性やキャラクターが芽生え、育つ

──実際にAIと向き合って得た成果、感じた将来性とは?

この実験をする上で一番意識したのは、いかにこのAIらしさを引き出すかという点です。実は、ポスターや商品パッケージなども素材としてDCGANに与えてみました。すると元の素材に近づこうとする性質が働き、まるでパクリのような画像が多出。

学習させる内容をしっかりと精査することで、オリジナリティーのあるビジュアルを導き出すことができたと思います。

実験前と今で、AIの印象は「よく名前を聞くけど、距離を置きたい偉そうなヤツ」から「結構がんばる、いいヤツ」へ変わりました。必死に何かを生み出そうとする力を感じられたし、今回の結果だけでいうなら「まだまだだな」と安堵した面もあります。

AIにゼロから学習をさせる過程は、子どもに言語を教えるようなもの。相手は育てなくちゃいけない赤ん坊のような存在で、僕らが触れることで個性やキャラクターが形成されていきます。

今回の実験結果はまだグラフィックデザインとして主張できる段階にはありませんが、人工知能ソフトは速いスピードで進化しています。同じプロセスを踏んでも日に日に精度が上がっていくはずなので、楽しみですね。AIがつくるグラフィックをアートや音楽、ファションなどの分野に転換してアウトプットすることも考えています。


研ぎ澄まされた感性で生き残るアートディレクターに

──将来AIに取って代わられる職種もあるという説ですが、アートディレクターはどうでしょうか?

自分たちの仕事がなくなるかもしれない、ターゲットへ端的に届く情報の羅列のような広告が量産されるようになるかもしれない、という危機感はどこかに持っています。

一方、新しい技術がもたらす利便性に対し、手触りや重みを感じられるものや体験の価値はなくならないとも感じています。音楽産業に例えるなら、CDが衰退してデータが進化すると同時に、アナログレコード盤の価値が高まっていくように。

広告で表現をする基礎体力があれば、どんなジャンルのアートディレクションにも対応できる。グラフィックデザインの傍らで空間やプロダクトを手がける周囲の先輩たちがそうでした。

アナログとデジタルのちょうどいいところを突く、感覚の研ぎ澄まされたプロのアートディレクターであれば、時代が進んでも適応していけるのではないでしょうか?そうなるためには人間もAIと同じで、学習とアウトプットを重ねるしかない。だからAIに親近感が湧いたのかもしれないし、まだ自分にやれることがあると思えました。

よい広告デザインをつくるために、AIに仕事をアシストしてもらう関係もありですよね。そんなワガママな夢も今回の実験から生まれ、どう発展するかは未知数ですが、AIとはこれからも付き合っていきたいと考えています。

人工知能に長けている社内外の方々とリンクをし、可能性を探っていきたいと考えています。“AI GRAPHIC DESIGN PROJECT”プロジェクトに興味を持っていただけたら、ぜひinfo@newspace.galleryまでご一報ください。

 

思ったよりもいいヤツだった? 人工知能の実力を探る“AIグラフィック”

アートディレクションの拡張を目指す“NEWSPACE NEW PROTOTYPE OF ART DIRECTION”プロジェクト。発足以来、次々と注目のアートディレクターが実験的な試みを発表しています。第4弾の作品は、人工知能にグラフィックデザインをさせる“AI GRAPHIC DESIGN PROJECT”。

アートディレクションを手掛けたのは、普段はアナログ志向だという江波戸李生です。異色のチャレンジによって体感したAIの素顔、デザインにおける可能性を語ります。


AIさん。世間で騒がれてますけど…何ができるんですか?

最新のAIグラフィックの作品をご覧いただいた上で、記事もご覧ください!

 

──AIにデザインをさせるという発想へは、どのように行き着いたのでしょうか。

私は、大学でファッション、舞台美術、インテリアなどを学んでいました。自分も同級生も、全て手作業で作品を完成させていくことが多く、その影響かアナログ大好き人間になりました。デジタルって聞くと、距離を置いてきました…。

ですが、今回立ち上げられた“NEWSPACE”はアートディレクションの実験の場だと聞いて、普段は手を出さない領域にあえて踏み込んでみることに。「世間ではもてはやされているけど、本当にデザインができるのか!?」と、半ばケンカ腰でAIへの挑戦を決めました。

まず、僕には人工知能に関する知識がほぼなかったため、AI研究とメディアアートの制作をしている東京大大学院特任助教の山岡潤一氏とアーティストの草野絵美氏に教えを請うことに。そこで紹介されたのが「DCGAN(ディーシーギャン)」という画像版のディープラーニングAIソフトです。AIが大量の画像素材を学習し、新たな画像をつくり出す。この技術からAIにグラフィックデザインをさせてみようという発想に至りました。


約200点の画像素材から16×4500通りものビジュアルを生み出す

──AIにグラフィックデザインをさせるプロセスとは?

工程として、まずAIに学習させる画像のデータを収集する手順があります。今回の一連の作品に対しては、シンプルな色面構成のような画像を集め、200点ほどに絞ってDCGANに与えました。

最初に全ての素材を与え「あなたが考えたグラフィックデザインを見せてください」と、繰り返し結果を求めていきます。今回の実験では、4500回以上結果を出させて経過を観察しました。

1回の結果につき、16点の画像がDCGANから提示されます。膨大な結果の中から、過程が読み取れる画像を以下にピックアップしました。

AIグラフィック作品

AIも混沌から試行錯誤してオリジナリティーを絞り出す

 

AIグラフィック作品
AIグラフィック作品
AIグラフィック作品
AIグラフィック作品

──4点の作品と、AIによるデザインの特徴について教えてください。

どんな素材を与えても、初期には一番左上の画像に代表されるようなもやもやとした画像が提示されます。初めて見せられたものから何かを紡ぎ出そうとしている感じ、いろいろな情報によって頭の中をかき回されている感じが出ています。

回数を重ねるごとに形を見せ始め、構成がシンプルになったり、ベタになったりしながら、オリジナリティーを出そうと奮闘しているさまには親近感すら覚えます。途中で画面がブレークしたり、変化が止まったりと、過学習による現象も観察できました。

後半にかけては、結果が似てきます。明度のバランス、形の複雑さなどは変化しますが、徐々に方向性が固まっていきます。


人間が触れることで個性やキャラクターが芽生え、育つ

──実際にAIと向き合って得た成果、感じた将来性とは?

この実験をする上で一番意識したのは、いかにこのAIらしさを引き出すかという点です。実は、ポスターや商品パッケージなども素材としてDCGANに与えてみました。すると元の素材に近づこうとする性質が働き、まるでパクリのような画像が多出。

学習させる内容をしっかりと精査することで、オリジナリティーのあるビジュアルを導き出すことができたと思います。

実験前と今で、AIの印象は「よく名前を聞くけど、距離を置きたい偉そうなヤツ」から「結構がんばる、いいヤツ」へ変わりました。必死に何かを生み出そうとする力を感じられたし、今回の結果だけでいうなら「まだまだだな」と安堵した面もあります。

AIにゼロから学習をさせる過程は、子どもに言語を教えるようなもの。相手は育てなくちゃいけない赤ん坊のような存在で、僕らが触れることで個性やキャラクターが形成されていきます。

今回の実験結果はまだグラフィックデザインとして主張できる段階にはありませんが、人工知能ソフトは速いスピードで進化しています。同じプロセスを踏んでも日に日に精度が上がっていくはずなので、楽しみですね。AIがつくるグラフィックをアートや音楽、ファションなどの分野に転換してアウトプットすることも考えています。


研ぎ澄まされた感性で生き残るアートディレクターに

──将来AIに取って代わられる職種もあるという説ですが、アートディレクターはどうでしょうか?

自分たちの仕事がなくなるかもしれない、ターゲットへ端的に届く情報の羅列のような広告が量産されるようになるかもしれない、という危機感はどこかに持っています。

一方、新しい技術がもたらす利便性に対し、手触りや重みを感じられるものや体験の価値はなくならないとも感じています。音楽産業に例えるなら、CDが衰退してデータが進化すると同時に、アナログレコード盤の価値が高まっていくように。

広告で表現をする基礎体力があれば、どんなジャンルのアートディレクションにも対応できる。グラフィックデザインの傍らで空間やプロダクトを手がける周囲の先輩たちがそうでした。

アナログとデジタルのちょうどいいところを突く、感覚の研ぎ澄まされたプロのアートディレクターであれば、時代が進んでも適応していけるのではないでしょうか?そうなるためには人間もAIと同じで、学習とアウトプットを重ねるしかない。だからAIに親近感が湧いたのかもしれないし、まだ自分にやれることがあると思えました。

よい広告デザインをつくるために、AIに仕事をアシストしてもらう関係もありですよね。そんなワガママな夢も今回の実験から生まれ、どう発展するかは未知数ですが、AIとはこれからも付き合っていきたいと考えています。

人工知能に長けている社内外の方々とリンクをし、可能性を探っていきたいと考えています。“AI GRAPHIC DESIGN PROJECT”プロジェクトに興味を持っていただけたら、ぜひinfo@newspace.galleryまでご一報ください。

 

ITの力で“関係人口”を増やせ!郡上市のシビックテック事例

シビックテックとは、地域の課題を住民自身がテクノロジーで解決すること。しかし、必ずしも「そこに住むプロのエンジニアが、地域のために新たなシステムやツールを開発する」だけがシビックテックの全てではありません。

本連載では、SNSやスマホアプリなど、すでに世の中にあるIT/ICTサービスを住民が活用することで地域活性化を図る、いわば「広義のシビックテック」の事例を中心に紹介していきます。

今回は、岐阜県郡上市で行われた「IT活用により“関係人口”を増やす取り組み」を、地域施策を数多く手掛ける電通デジタルの加形拓也が紹介します。

<目次>
郡上市の課題:“交流人口”を“関係人口”につなげられない
データ管理とコミュニティーで郡上ファンのつながりをつくる
関係人口を生み出すために「四つのフェーズ」を連携させる
小中学校にもテレビ電話を導入。身近なIT化がもたらすメリット

 

郡上市の課題:“交流人口”を“関係人口”につなげられない

岐阜県のほぼ中央に位置する郡上市は、観光客が非常に多い地域です。日本三大民踊の“郡上おどり”や、江戸時代の城下町の面影が残る“郡上八幡”の街並みが有名。さらに、ラフティング(ラフトを使用した川下り)などの自然を使ったアクティビティーも人気ですし、踊り文化によって根付いた下駄や染物など、工芸品も盛んです。

日本三大民踊の一つ“郡上おどり”のために、市外、さらには県外からも多くの人が訪れる。
日本三大民踊の一つ“郡上おどり”のために、市外、さらには県外からも多くの人が訪れる。

郡上市の総人口は4万人弱ですが、年間に訪れる観光客は600万人に迫るほど。この数字からも、いかに多くの人がこの街に足を運ぶか分かるでしょう。

郡上市はベンチャービジネスも活発ですし、「徹夜踊り」で名高い郡上おどりの伝説的な歌い手や、夜の川に潜って漁をする名人、自然農法の達人など、全国にファンを持つカリスマ的な人がたくさんいます。

また、漫画家のさくらももこさんが生前に足しげく通い、郡上への愛着から「GJ8マン」というキャラクターを自主的に誕生させるなど、文化人との縁も深い。地域としての観光資源はとても豊かな場所です。

しかし、郡上市には悩みがありました。観光客のような“交流人口”は多くても、その人たちの訪問は単発で終わってしまい、長期的に地域と関わる“関係人口”(※)に発展させることができていなかったのです。

※ 関係人口=移住した“定住人口”でも、観光という一時的な“交流人口”でもない、地域外の人が持続的に地域と関わり続けるケースのこと。地域と外部の接触点を増やし、地域づくりの担い手になることが期待される。


それに郡上市自体、2004年に7町村が合併しましたが、人口は年々減少。いっときの観光にとどまらない、関係人口を増やすことが急務となっていました。

そこで実施されたのが、電通がお手伝いさせていただいた「郡上縁つなぎプロジェクト」です。

データ管理とコミュニティーで郡上ファンのつながりをつくる

プロジェクトの発端は、電通の「地方創生室」に所属する岡野春樹からの相談です。岡野は総務省の「地域おこし企業人」という制度を活用して、郡上市に出向していました。

彼から「郡上市の関係人口を増やしたい」と相談され、二人で話し合う中でこのプロジェクトが生まれました。

目指したのは、お祭りやアクティビティーなど郡上市でのイベントに参加してくれた人たちを“横につなげる”ことです。これまで、それぞれの目的でたくさんの“郡上ファン”が訪れていましたが、イベント同士は相互に連携せず、完全なタテ割りになっていました。

しかし、例えばラフティング目的で郡上を訪れる人を、ラフティングと相関性の高い自然体験や他のアクティビティーに関するイベントにも勧誘できれば、より深く、長期的に地域と関わってもらうことができます。

あるいは郡上踊りに来た観光客に対しても、郡上踊りに関係する工芸品や他のイベントに案内できれば、これまで年1回だった来訪が2回、3回と増えるかもしれません。

郡上市には魅力的な工芸品もたくさんある。
郡上市には魅力的な工芸品もたくさんある。

そこで、イベント同士の横のつながりをつくるために活用したのが、CRM(顧客管理)システム大手のSalesforceです。主に企業が顧客管理や営業支援に使うサービスですが、これを郡上市という“地域”に導入したのです。

もともと店舗や組織ごとでそれぞれ顧客管理をしていたものを、「郡上市」という大きなくくりの顧客データとして、Salesforce上で一元管理することに。蓄積されたデータを元に、各個人に興味のありそうな関連イベントや、昨年来訪したイベントの告知などをDMで送付するようにしました。

ただし、DMを見ていない人もいます。そこで、もう一つの顧客接点としてFacebook上に郡上市のグループを作成。郡上市を訪れた方たちのためのコミュニティーをつくりました。このコミュニティーでは、郡上市で行われるさまざまなイベントを発信。自分の興味あるイベントしか知らなかった郡上ファンたちが、「他にこんなイベントがあるんだ」と、新たな発見をするようになりました。

従来は、各イベントが独自で情報発信、集客、参加者管理を行っていた。しかしこれでは関係を深めている人が誰なのかが見えてこないし、他のイベントがさらにコンタクトする手段がない。
そこで各イベントが共通で使える情報発信、集客、参加者管理の仕組みを既存のITサービスで構築。郡上市全体で関係人口になりそうな人を把握し、継続的にコンタクトできる状態をつくりだした。

これら「郡上縁つなぎプロジェクト」の運営は、HUB GUJOという地元のコワーキングスペースを営む団体に依頼。行政の施策にせず、あくまでも民間の方が関わる形です。

特にポイントとなったのは、SalesforceのDMや、Facebookコミュニティーでのトピック投稿、参加者とのコメントのやりとりです。運営自体はHUB GUJOですが、実際にDMを作成したりFacebook上で郡上ファンとコミュニケーションしたりする「縁つなぎサポーター」の役割は、地元の主婦の方々に依頼しました。

コミュニティー内で誰か郡上ファンがコメントすると、サポーターが積極的に返信し、会話を活発化。やがて、面識のない郡上ファン同士が新たに知り合うケースが増えていき、タテ割りだった郡上ファンやイベントが横につながる流れができたのです。

こうして横のつながりが生まれると、郡上を訪れる回数、関わる機会は増えていきます。それは“関係人口”につながります。

地域課題解決のために専用システムをゼロから開発するのではなく、SalesforceやFacebookという “こなれた技術”を使い、“市民”である民間組織や地元の主婦が携わる。そういった「広義のシビックテック」が実践された実例だと思います。

最後に、電通から郡上市に出向して奮闘してきた岡野と、実際にプロジェクトを運営するHUB GUJOの代表者からのコメントをご紹介しましょう。

関係人口を生み出すために「四つのフェーズ」を連携させる

電通 地方創生室の岡野春樹氏
電通 地方創生室の岡野春樹氏

電通 地方創生室の岡野です。私は郡上市に出向してから、住民と外部の人が一緒になって“根っこのある”プロジェクトを生み出すローカルインキュベーション事業「郡上カンパニー」を立ち上げるなど、さまざまな人がこの地と関われるような機会を企画・創出してきました。「郡上縁つなぎプロジェクト」もそのひとつです。

地域の関係人口を増やすためには、以下の四つのフェーズがあると思います。

  1. 交流フェーズ(観光などで地域を訪れる)
  2. 関係継続フェーズ(DM、Facebookなどで関係を継続する)
  3. プロジェクトフェーズ(地域の取り組みに参加するようになる)
  4. 担い手フェーズ(地域に関わり続けるようになる)

郡上は、観光という交流フェーズ(1)で止まるケースが多かったのですが、そこで途切れずにDMやFacebookで郡上ファンとコミュニケーションをとることで、関係継続フェーズ(2)に移行できます。さらにここで関係性が増すと、地域の取り組みなどに関わるプロジェクトフェーズ(3)、そして年間を通じて関わり続ける担い手フェーズ(4)へと移っていきます。この流れをスムーズにつくることが、関係人口創出のポイントです。

大切なのは、四つのフェーズを連携させる仕組みづくり。縁つなぎプロジェクトでは、官民で力を合わせ、ITを活用することで、それを実現できたと思います。

小中学校にもテレビ電話を導入。身近なIT化がもたらすメリット

NPO法人 HUB GUJO理事長・赤塚良成氏
NPO法人 HUB GUJO理事長・赤塚良成氏

HUB GUJOの赤塚です。「郡上縁つなぎプロジェクト」の運営団体は私たちHUB GUJOですが、DMの作成やFacebookでのやりとりは、郡上に住む主婦の方2人に「縁つなぎサポーター」として担当していただきました。郡上には若い女性が結婚を機に移住してくるケースも多く、彼女らはSNSやITに親しみがあります。そのような方が、自宅で子育てしながらスキルを生かせる形にしました。

郡上にはもともと多数のイノベーターがおり、それぞれのコミュニティーは活気がありましたが、コミュニティー同士の横のつながりはできにくかったといえます。私たちがHUB GUJOというコワーキングスペースを運営しているのは、いろんな人たちが郡上と“つながる場所”をつくりたかったから。そのためにテレビ会議などのITシステムを充実させ、市内や遠方の人がつながれる空間としました。

ちなみに郡上市では、公立の小中学校でもテレビ会議のシステムを導入しています。少子化に加え、山間部で学校同士が離れており、子どもたちの孤立化が課題でしたが、テレビ会議で交流や合同授業が可能になり、新たな形で友達が増えています。ITの活用は、地域の維持を考える上で欠かせないと強く思います。

郡上のコミュニティー同士、あるいは郡上と外部の人たちのハブとなる空間として設計されたHUB GUJO。
郡上のコミュニティー同士、あるいは郡上と外部の人たちのハブとなる空間として設計されたHUB GUJO。

ITの力で“関係人口”を増やせ!郡上市のシビックテック事例

シビックテックとは、地域の課題を住民自身がテクノロジーで解決すること。しかし、必ずしも「そこに住むプロのエンジニアが、地域のために新たなシステムやツールを開発する」だけがシビックテックの全てではありません。

本連載では、SNSやスマホアプリなど、すでに世の中にあるIT/ICTサービスを住民が活用することで地域活性化を図る、いわば「広義のシビックテック」の事例を中心に紹介していきます。

今回は、岐阜県郡上市で行われた「IT活用により“関係人口”を増やす取り組み」を、地域施策を数多く手掛ける電通デジタルの加形拓也が紹介します。

<目次>
郡上市の課題:“交流人口”を“関係人口”につなげられない
データ管理とコミュニティーで郡上ファンのつながりをつくる
関係人口を生み出すために「四つのフェーズ」を連携させる
小中学校にもテレビ電話を導入。身近なIT化がもたらすメリット

 

郡上市の課題:“交流人口”を“関係人口”につなげられない

岐阜県のほぼ中央に位置する郡上市は、観光客が非常に多い地域です。日本三大民踊の“郡上おどり”や、江戸時代の城下町の面影が残る“郡上八幡”の街並みが有名。さらに、ラフティング(ラフトを使用した川下り)などの自然を使ったアクティビティーも人気ですし、踊り文化によって根付いた下駄や染物など、工芸品も盛んです。

日本三大民踊の一つ“郡上おどり”のために、市外、さらには県外からも多くの人が訪れる。
日本三大民踊の一つ“郡上おどり”のために、市外、さらには県外からも多くの人が訪れる。

郡上市の総人口は4万人弱ですが、年間に訪れる観光客は600万人に迫るほど。この数字からも、いかに多くの人がこの街に足を運ぶか分かるでしょう。

郡上市はベンチャービジネスも活発ですし、「徹夜踊り」で名高い郡上おどりの伝説的な歌い手や、夜の川に潜って漁をする名人、自然農法の達人など、全国にファンを持つカリスマ的な人がたくさんいます。

また、漫画家のさくらももこさんが生前に足しげく通い、郡上への愛着から「GJ8マン」というキャラクターを自主的に誕生させるなど、文化人との縁も深い。地域としての観光資源はとても豊かな場所です。

しかし、郡上市には悩みがありました。観光客のような“交流人口”は多くても、その人たちの訪問は単発で終わってしまい、長期的に地域と関わる“関係人口”(※)に発展させることができていなかったのです。

※ 関係人口=移住した“定住人口”でも、観光という一時的な“交流人口”でもない、地域外の人が持続的に地域と関わり続けるケースのこと。地域と外部の接触点を増やし、地域づくりの担い手になることが期待される。


それに郡上市自体、2004年に7町村が合併しましたが、人口は年々減少。いっときの観光にとどまらない、関係人口を増やすことが急務となっていました。

そこで実施されたのが、電通がお手伝いさせていただいた「郡上縁つなぎプロジェクト」です。

データ管理とコミュニティーで郡上ファンのつながりをつくる

プロジェクトの発端は、電通の「地方創生室」に所属する岡野春樹からの相談です。岡野は総務省の「地域おこし企業人」という制度を活用して、郡上市に出向していました。

彼から「郡上市の関係人口を増やしたい」と相談され、二人で話し合う中でこのプロジェクトが生まれました。

目指したのは、お祭りやアクティビティーなど郡上市でのイベントに参加してくれた人たちを“横につなげる”ことです。これまで、それぞれの目的でたくさんの“郡上ファン”が訪れていましたが、イベント同士は相互に連携せず、完全なタテ割りになっていました。

しかし、例えばラフティング目的で郡上を訪れる人を、ラフティングと相関性の高い自然体験や他のアクティビティーに関するイベントにも勧誘できれば、より深く、長期的に地域と関わってもらうことができます。

あるいは郡上踊りに来た観光客に対しても、郡上踊りに関係する工芸品や他のイベントに案内できれば、これまで年1回だった来訪が2回、3回と増えるかもしれません。

郡上市には魅力的な工芸品もたくさんある。
郡上市には魅力的な工芸品もたくさんある。

そこで、イベント同士の横のつながりをつくるために活用したのが、CRM(顧客管理)システム大手のSalesforceです。主に企業が顧客管理や営業支援に使うサービスですが、これを郡上市という“地域”に導入したのです。

もともと店舗や組織ごとでそれぞれ顧客管理をしていたものを、「郡上市」という大きなくくりの顧客データとして、Salesforce上で一元管理することに。蓄積されたデータを元に、各個人に興味のありそうな関連イベントや、昨年来訪したイベントの告知などをDMで送付するようにしました。

ただし、DMを見ていない人もいます。そこで、もう一つの顧客接点としてFacebook上に郡上市のグループを作成。郡上市を訪れた方たちのためのコミュニティーをつくりました。このコミュニティーでは、郡上市で行われるさまざまなイベントを発信。自分の興味あるイベントしか知らなかった郡上ファンたちが、「他にこんなイベントがあるんだ」と、新たな発見をするようになりました。

従来は、各イベントが独自で情報発信、集客、参加者管理を行っていた。しかしこれでは関係を深めている人が誰なのかが見えてこないし、他のイベントがさらにコンタクトする手段がない。
そこで各イベントが共通で使える情報発信、集客、参加者管理の仕組みを既存のITサービスで構築。郡上市全体で関係人口になりそうな人を把握し、継続的にコンタクトできる状態をつくりだした。

これら「郡上縁つなぎプロジェクト」の運営は、HUB GUJOという地元のコワーキングスペースを営む団体に依頼。行政の施策にせず、あくまでも民間の方が関わる形です。

特にポイントとなったのは、SalesforceのDMや、Facebookコミュニティーでのトピック投稿、参加者とのコメントのやりとりです。運営自体はHUB GUJOですが、実際にDMを作成したりFacebook上で郡上ファンとコミュニケーションしたりする「縁つなぎサポーター」の役割は、地元の主婦の方々に依頼しました。

コミュニティー内で誰か郡上ファンがコメントすると、サポーターが積極的に返信し、会話を活発化。やがて、面識のない郡上ファン同士が新たに知り合うケースが増えていき、タテ割りだった郡上ファンやイベントが横につながる流れができたのです。

こうして横のつながりが生まれると、郡上を訪れる回数、関わる機会は増えていきます。それは“関係人口”につながります。

地域課題解決のために専用システムをゼロから開発するのではなく、SalesforceやFacebookという “こなれた技術”を使い、“市民”である民間組織や地元の主婦が携わる。そういった「広義のシビックテック」が実践された実例だと思います。

最後に、電通から郡上市に出向して奮闘してきた岡野と、実際にプロジェクトを運営するHUB GUJOの代表者からのコメントをご紹介しましょう。

関係人口を生み出すために「四つのフェーズ」を連携させる

電通 地方創生室の岡野春樹氏
電通 地方創生室の岡野春樹氏

電通 地方創生室の岡野です。私は郡上市に出向してから、住民と外部の人が一緒になって“根っこのある”プロジェクトを生み出すローカルインキュベーション事業「郡上カンパニー」を立ち上げるなど、さまざまな人がこの地と関われるような機会を企画・創出してきました。「郡上縁つなぎプロジェクト」もそのひとつです。

地域の関係人口を増やすためには、以下の四つのフェーズがあると思います。

  1. 交流フェーズ(観光などで地域を訪れる)
  2. 関係継続フェーズ(DM、Facebookなどで関係を継続する)
  3. プロジェクトフェーズ(地域の取り組みに参加するようになる)
  4. 担い手フェーズ(地域に関わり続けるようになる)

郡上は、観光という交流フェーズ(1)で止まるケースが多かったのですが、そこで途切れずにDMやFacebookで郡上ファンとコミュニケーションをとることで、関係継続フェーズ(2)に移行できます。さらにここで関係性が増すと、地域の取り組みなどに関わるプロジェクトフェーズ(3)、そして年間を通じて関わり続ける担い手フェーズ(4)へと移っていきます。この流れをスムーズにつくることが、関係人口創出のポイントです。

大切なのは、四つのフェーズを連携させる仕組みづくり。縁つなぎプロジェクトでは、官民で力を合わせ、ITを活用することで、それを実現できたと思います。

小中学校にもテレビ電話を導入。身近なIT化がもたらすメリット

NPO法人 HUB GUJO理事長・赤塚良成氏
NPO法人 HUB GUJO理事長・赤塚良成氏

HUB GUJOの赤塚です。「郡上縁つなぎプロジェクト」の運営団体は私たちHUB GUJOですが、DMの作成やFacebookでのやりとりは、郡上に住む主婦の方2人に「縁つなぎサポーター」として担当していただきました。郡上には若い女性が結婚を機に移住してくるケースも多く、彼女らはSNSやITに親しみがあります。そのような方が、自宅で子育てしながらスキルを生かせる形にしました。

郡上にはもともと多数のイノベーターがおり、それぞれのコミュニティーは活気がありましたが、コミュニティー同士の横のつながりはできにくかったといえます。私たちがHUB GUJOというコワーキングスペースを運営しているのは、いろんな人たちが郡上と“つながる場所”をつくりたかったから。そのためにテレビ会議などのITシステムを充実させ、市内や遠方の人がつながれる空間としました。

ちなみに郡上市では、公立の小中学校でもテレビ会議のシステムを導入しています。少子化に加え、山間部で学校同士が離れており、子どもたちの孤立化が課題でしたが、テレビ会議で交流や合同授業が可能になり、新たな形で友達が増えています。ITの活用は、地域の維持を考える上で欠かせないと強く思います。

郡上のコミュニティー同士、あるいは郡上と外部の人たちのハブとなる空間として設計されたHUB GUJO。
郡上のコミュニティー同士、あるいは郡上と外部の人たちのハブとなる空間として設計されたHUB GUJO。