アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.11

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。

インタビューに応える為末さん

──「さびしさとは、何か?」というテーマの今回のインタビューも、いよいよ最終回です。前回、あらゆる人間関係においてさびしさを克服するには「信頼感」が大事、というところに話が及びました。さびしいから他人と関わる、さびしいから仕事をしてしまう、では基本的な解決になってませんものね?

為末:そうですね。ここで大事なのは、信頼関係を築くにためには時間がかかる、ということなんです。外交の首脳会議なんかでよく見られる光景ですが、お互いの国の事情を背負って会談に臨む人たちは、ともすればズブズブの関係になって「落とし所」を探りがたる。でも、それでは本当の信頼関係は築けないと思うんですよね。

──握手をして、終わり。みたいな。

為末:そうです。僕は「好敵手」みたいな関係が、いい信頼関係を生むんじゃないかと思っています。やるなあ、コイツ。みたいなことです。こちらが出したパスをちゃんと受け止めて、そのパスにこちらが予想した以上のものを返してきたときに、相手に対するリスペクトというか、真の信頼感が生まれると思うんですよ。いま、会社でも家庭でも、あるいは社会でも、なんとなく「さびしさ」が蔓延しているような気がするのですが、その本質は「心から相手を信じられる感覚」が薄まっているから、のように思います。

──分かります、分かります。世の中では「暗黙知」というワードが、最近、よく取りざたされるようになりました。つまり、個人が抱えている仕事上のメソッドを、できるかぎりデータ化して、みんなで共有しましょう。あうんの呼吸で仕事をするのはやめましょう、ということです。一見、さびしさから解放されるような感じがするのですが、なんだかそこに僕は違和感を覚えるんですよね。

為末:よく分かります。

インタビューに応える為末さん

為末:経営者のジレンマとして「会社を存続させるためには一人のタレントに依存してはいけない」ということがある。一方で、そのノウハウをデータ化してみんなで共有してしまった瞬間、ようするに「その仕事をやるのは、つまるところ誰でもいいんじゃん」ということになる。

──難しいさじ加減ですよね?

為末:そう。なので、すべてをデータ化して、データをもとに他人と会話するということには、僕は懐疑的です。暗黙知と言われると「それくらい、言われなくても分かるだろう?空気を察しろ」みたいなイメージがあると思うんですけど、僕は、こう考えています。つまり、「無意識に聞こえてくる情報にも、とてつもない価値があるのだ」と。カクテルパーティー効果、みたいなワードがありますが大勢がワイワイしている中で、自分にとって必要な情報がふと耳に入ってくる。これって、ネットで検索する、みたいなことからは体験できないことだと思うんです。

──ああ、それは会社員にとっても、かつての醍醐味だった。先輩と夜に酒を飲んでいて、ふとした瞬間に聞いた話とか、いまも心に残っています。

為末:でしょ。聞くつもりもないのに、耳に飛び込んできた話。そういうのが、
心に深く刺さるんです。 

──さあ、これからフィードバック面談をやるぞー、とか言われても心に響きませんものね。心に響かないものだから、どんどんみな「さびしく」なっていく

為末:僕は思うのですが、人と人とが信頼関係を築く上でもっとも大切なことは
「素直になること」ではないかと。具体的に言うなら「嫌いなことを、早めに表明しておけ」ということです。一瞬、相手に「コイツ、嫌な奴だな」と思われてもいい。「嫌な奴だけど、嫌いじゃない」みたいな感情が芽生えたときに、真の
信頼関係が築けるのではないでしょうか。

──世の中の経営者の悩みも、きっとそこにあるんでしょうね。

為末:そうだと思います。経営や人事に関して「感情的にえこひいきすること」は絶対に避けるべきだと思うのですが、「自分はこうしたいんだ」という意志なり基準なりをはっきりと示した上でのえこひいきは 、僕はアリだと思いますね。

──「さびしさ」というテーマから始まって、最後はリーダー論、経営論にまで話が広がってしまいました。今回も、ありがとうございました。

為末:こちらこそ。新たな発見があって、楽しかったです。

(聞き手:ウェブ電通報編集部)


アスリートブレーンズ プロデュースチーム白石より

アフターコロナ時代や働き方改革の中で問われる、信頼関係のつくり方。僕自身も試行錯誤する領域です。「効率」と「効果」が同時に求められる昨今、皆さまも多かれ少なかれ、苦心されているテーマではないでしょうか? 今回のコラムにはその解決に資する論点や切り口が多く内包されていたように感じます。そのひとつが、一面的ではない、表面的ではない、「素直さ」。言葉で言うほど簡単ではないですが、これを機にこのアスリートブレーンズでも強く意識をし、推進していきたいと思います。

アスリートブレーンズプロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・白石幸平(事業共創局)

為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。
アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

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東電・福島原発、震災後も“防潮堤なし”で数千人が作業、地震計故障のまま放置

 2月13日、福島県沖を震源とするマグニチュード7.3、最大震度6強の地震が発生した。東日本大震災・東京電力福島第1原発事故の発生から間もなく10年の節目に至ろうとする時期で、福島県民のみならず日本中の人の頭の中に“福島第1原発の安否”がよぎったことだろう。地震発生当初、「異常はない」と発表していた東電だったが、数日を経てその杜撰なあり方が浮き彫りになった。

原発建屋の地震計を故障のまま1年間放置

 梶山弘志経済産業相は24日、閣議後記者会見で「原子炉建屋への地震の影響を丁寧に把握することは重要であり、早急に復旧すべきだったと考えておりまして、誠に遺憾」と東電に不快感を示した(以下、経産省の動画参照)

 梶山経産相が不快感を示しているのは、東電が福島第1原発3号機の地震計2台が故障したまま放置していたことに対してだ。地震計の故障は2月22日の原子力規制委員会で初めて明るみに出た。その席上、東電は故障を知りながら修理や交換対応をしていなかったことがわかったのだ。

 会見によると、東電は20年3月、原発建屋の状況把握のために比較的に線量の低かった3号機に無線型の簡易地震計2台を設置した。しかし、そのうち1台は同年7月の大雨で水没して故障、もう1台は同年10月ごろ計測値にノイズが入るようになった。その後、原因究明に時間がかかり、今月13日の地震時には稼働していなかったのだという。

 2011年3月の原発事故時の水蒸気爆発で、原子炉建屋の一部は半壊した。除染作業が進み、同原発敷地内でも防護服・全面マスク着用でなくても活動できる場所が増えてはいるが、原子炉建屋やタービン建屋周辺が高線量区域であることに変わりはない。そんな状況下で原子炉建屋を直撃する地震の規模と構内設備に対する影響の相関を知り、防災対策を考える上で、地震計が収集するデータは重要だ。廃炉作業は今後数十年続く予定で、その間に新たな巨大地震の到来も否定できないからだ。

 2013年ごろから東電の下請けとして廃炉作業に携わる作業員男性(38)は次のように語る。

「とにかく第1原発構内の対地震・津波対策は震災被災地の中で最も遅れていると思いますよ。地震計の件もさもありなんです。東電さんとしては、『本当に東日本大震災クラスの巨大地震が来たら、地震計どころじゃないからどうでもいい』という意識の表れなんだと思いますよ。国も東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まったころから、事故後の第1原発の防災力対策より、とにかく廃炉計画を進めることに腐心してきましたからね。例えば、防潮堤の件とかが一番わかりやすい例でしょう」

原発の防潮堤建設に見る「廃炉計画優先」「人命軽視」の風潮

 前出の作業員男性が指摘する「防潮堤」とは、昨年9月25日に完成した海抜11メートルのL型擁壁のことだ。1~4号機の周囲に設置されたもので、2017年に政府の地震調査委員会が「北海道の太平洋沖にある千島海溝沿いで巨大地震が切迫している」と評価したことを受けての対応だった。

 東電の発表資料によると、防潮堤建設の目的は以下の通りだ。

「切迫性が高いとされている千島海溝地震に伴う津波に対して、建屋流入に伴う滞留水の増加を防ぐこと、並びに重要設備の津波被害を軽減することにより、福島第一原子力発電所における廃炉作業が遅延するリスクを緩和すること」

 東電は地震調査委の予測をもとに、原発に襲来する津波の高さを10.3メートルと試算し、高さ11メートルの擁壁で建屋を囲った。ところが内閣府の有識者会議は20年4月、「東北地方の太平洋沖に位置する日本海溝沿いの巨大地震で最大15.3メートルの津波が原発に到達する可能性がある」と新たな試算を出した。東電は23年度までに最大16メートルの防潮堤を建設する計画を発表するなど、イタチごっこの様相を呈し始めている。

 事故当時から福島第1原発の保守作業に関わっている東電協力企業社員(58)は語る。

「プレスリリースの防潮堤の設置目的をよく読んでほしいのですが、どこにも『現場の人命を守るため』とは書いていませんよね。なにより9年間、ここの防潮堤が満足に検討されていなかったということを改めて多くの人に考えてほしいです。

 震災被災地の気仙沼市や石巻市などで防潮堤建設が問題になっていましたよね。それらが話題になっていた当時、ここには仮設防潮堤しかありませんでした(下写真)。常時、数千人が海の間際で仕事をしているのにかかわらず、です。

 地震調査委を含む政府の専門家委員会は2011年直後、震災クラスの大津波が再度襲来する可能性は低いという見解を示していました。しかし誰もゼロとは言っていませんでした。福島県沖や三陸沖で震災の余震活動と見られる中規模地震はこの10年弱続いています。現場には『次に震災クラスの津波が来たら、ここで働いている俺らは全員助からないな』とあきらめていますよ。

 我々作業員や従業員は、地震発生と津波警報が発令されれば高台に避難することになっています。しかし、遠隔モニタリングで災害の直撃を受けた原子炉の状況を把握するのには限度があります。最終的に線量的に行けるところまで行って、人が目視するしかありません」

福島第1原発では震災の津波で運転員2人が亡くなった

 原発事故が発生する直前、前出の協力企業社員が指摘しているような痛ましい事例が起こっていたことはあまり知られていない。

 震災に伴う津波により、4号機のタービン建屋で東電福島第1原発第1運転管理部の運転員小久保和彦さん(24)、寺島祥希さん(21)の2人が亡くなった。政府の福島原子力事故調査報告書や当時の東電の会見資料によると、2人は2011年3月11日、地震発生直後に運転員控室へ避難。同日午後2時47分、3号機タービン補機冷却系の冷却水タンクの水位低下警報があり、その直後、中央制御室からの指示を受けてタービン建屋に調査に向かい、津波の襲来とともに行方不明となった。

 2人の遺体が見つかったのは同年3月30日。タービン建屋の汚染水を抜く作業をしていた東電社員が発見した。原子力規制委や東電などによると午後3時ごろ、原発構内の各所に設置された拡声器などから、津波襲来に関する警告が流れていたが、2人はすでにタービン建屋地下に向かった後で、運転員用のPHSも通じなかったのではないかと見られている。

 東電の福島第1原発事故公式サイトの「再び大きな地震・津波がきた場合の対策」には以下のような記載がある。

「今回の地震(編集部注:東日本大震災)によって、原子炉建屋およびタービン建屋や耐震安全上重要な機能を有する主要な機器・配管に大きな損傷はありませんでした。実際の地震観測記録をもとに、原子炉建屋およびタービン建屋、耐震安全上重要な機能を有する主要な機器・配管がどの程度の影響を受けたかを解析した結果、評価基準値よりも十分な余裕を有していたことを確認しています」

 設備の健全性を誇るのに余念がないようだ。福島第1原発もまた震災の津波で被災し、死者が出た場所であるという事実は、どこかに忘れられてしまったのだろうか。原発事故の再発は日本という国にとって二度とあってはならない。災害への設備の健全性と保つのと同時に、現場で働く人々の命にももっと目を向けてほしいものだ。

(文=菅谷仁/編集部)

 

苦難の連続…かもめの玉子「さいとう製菓」、極貧の餅店から世界的菓子メーカーへの軌跡

「名物に旨いものなし」と揶揄されるものも多いなかで、岩手県大船渡市に本社を構えるさいとう製菓のメイン商品である「かもめの玉子」は、1990年から3年連続でヨーロッパの国際食品コンクール「モンドセレクション」で金メダルを受賞しています。

 岩手から東北の銘菓として販路を拡大していた同社ですが、東日本大震災で本社、工場1棟、直営店5店舗が壊滅状態になり、3億1000万円の損失を出してしまいます。しかし、同社の齊藤俊明会長(当時社長)は「津波の被害を免れた『かもめの玉子』の生産工場のメンテナンスを早急に行って、大船渡のなかで一番の復活を目指す」を合い言葉に、準備を進めていました。

 ところが、予想もしない大ピンチに立たされます。被害を受けたのは、人や家屋だけではありません。農作物や家畜も大きな犠牲を受けました。「かもめの玉子」は、練乳の入った黄味餡をカステラに包み、ホワイトチョコでコーティングしていますが、これらはすべて自社製造です。カステラをつくる上で欠かせない卵がこれまでの量を確保できなくなってしまったのです。津波の二次被害で鶏のエサ不足が発生したのが原因でした。

 同社は創業以来、材料にも厳選されたものだけを使用しているからこそ、素材のおいしさが互いに引き出され、しっとり、ほくほくとした、どんな飲み物にもマッチする上品な甘さのお菓子が完成するのです。卵にしても、衛生や品質管理が徹底した養鶏場から、毎日、産みたてのものを届けてもらっていました。新鮮な卵の旨みは格別です。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      

 社員も誇りを持って仕事に取り組んでいるため、「非常事態だから、この際、入手できる卵であれば何でもいい」という妥協を許すはずはありません。

“おいしさの復活”こそ、震災復興の第一歩となります。何か一つでも妥協すれば、味の再現はできません。妥協はお客様への裏切りとなります。震災直後は、ガソリンの確保も道路の整備も十分とはいえない状況で、他地区からの調達も望めない絶望的な状況に、一時は製造を中止せざるをえない状況に追いやられてしまいました。

 ところが、奇跡が起こったのです。窮状を見かねた取引先の業者が、「困った時はお互い樣」と、さいとう製菓への納入を最優先で行ってくれることになったのです。

「業者間の日々の信頼関係を、この時ほど痛感したことはありません。『買ってやっているんじゃない。その材料を買わせていただいているから商品がある』と取引先を大切にする姿勢は、創業者であった私の祖母から先代の父に、先代の父から当社に受け継がれた齊藤家のDNAです。仮に私一人がそういう姿勢を見せても、社員がそっぽを向いていたら、取引先との信頼関係は成立しなかったと思います。取引先をぞんざいに扱う社員は、当社には一人もいません」(齊藤会長)

必死の立て直し

 実際、同社が地元の人を大切にし、復活がどれだけ地元の励みになっていたのか、私事になりますが、お話させていただきます。

「かもめの玉子」を初めて味わったのは、同社のお客様である知人から送られてきたときでした。「大船渡は津波と地震のWパンチで、地元の人は将来の見通しなど持てないほどの絶望感でいっぱいでした。そんな状況なのに、さいとう製菓さんは、わずかの期間で再開して、震災前と変わらないおいしさです。お店のスタッフさんも大変だと思うのに『一緒にがんばりましょう』と笑顔で励ましてくれるのです。地元にとって復興の証ではなく“希望の味”です」というメッセージとともに送られてきたのです。

 さいとう製菓は、震災の年の4月6日に大船渡市内にあるスーパー内の店舗を再開、4月20日には震災前の約8割にあたる1日に15万個の製造を復活、21日には岩手県内の6店舗を再開させることができたのです。

 そんななか、経営者である齊藤会長は経営の建て直しに必死でした。3億1000万円の損害の補填のために、自己資金やグループ会社からの補助金の調達、銀行からの融資も受けました。

 さらに同社は地震保険にも加入していました。損害保険料率算出機構によると、地震保険の2011年の全国平均付帯率は53.7%でしたが、震災後、同年の岩手県の加入率は56.7%です。これは北海道・東北6県の中で、北海道、山形に次ぐ低さでした。ちなみに震災後、19年の地震保険付帯率の全国平均が66.7%なのに対し、岩手県は72.3%と大幅に伸展しています。

 保険料が高いからという理由で地震保険の加入をためらう方が多かったなか、齊藤会長が地震保険に加入していたのは、同社と齊藤会長の運命を大きく変える出来事があったことためです。

2度目の津波

 実は齊藤会長にとっても、大船渡市にとっても、津波被害は2度目だったのです。これまで発生した巨大地震のなかで最も規模が大きい地震といわれているM9.5のチリ地震が1960年5月22日に発生しました。この余波を受けて、三陸海岸を中心に津波が発生、結果的に大船渡市は、当時の日本国内でチリ地震の被害を一番受けた地域といわれています。

 その頃、さいとう製菓は、被災した本社の場所に店舗兼自宅を構えていました。創業は1933年で、齊藤会長の祖母が家の前を行き交うセメント工場に勤務する人を相手に、手づくりの大福や餅やゆべしを販売した「齊藤餅店」が始まりです。戦争で一時中断していたものの、やはりお客様の声に押されて再開、齊藤会長の父が後継者となりました。

「廊下を改造したわずか1坪の作業場に、祖母や両親と6人の兄弟全員でひしめきあってつくっていました。その頃、祖母も元気で、『商売は信頼、一個の餅にも手を抜くな』と徹底的に叩き込まれました」

 材料にこだわり、手間と労力をかけてつくった餅は評判でしたが、その分、儲けは本当に少なく、齋藤会長の父は別の仕事との兼業で家計を支えていたのです。中学1年生になっていた齊藤会長は、朝は4時に起きて餅づくりを手伝っていました。そんな毎日を続けていた中学3年生の時に、「無理がたたったのか、父が病に倒れました。その後も父は入退院を繰り返すことになり、わずか14歳の私の肩に一家の生活がかかったのです」。

 齊藤会長は勉強や部活に打ち込んでいる同級生を横目に、登校するまで自転車であちこちに売りに出かけました。売れなければ今日のご飯もどうなるかわかりません。幼い兄弟の顔を思い出しながら、挫けそうな心を奮い立たせてみるものの、「どうして自分だけがこんな人生なんだ。こんな暮らしはもうたくさんだ」と人目を忍んで号泣したことも何度かあったといいます。

 その後も、齊藤会長に苦難が降りかかりました。高校に入学すると、創業者の祖母が入院し、その看病を担うことになったのです。寸暇を惜しんで店も手伝い、病院から学校に通う生活でした。

 もともと素人が始めた餅屋が老舗に勝負したところで先は見えています。そこで齊藤会長の父である俊雄元社長は病を抱えながら、観光客を相手にした商売を始め、齊藤菓子店と屋号を変え、1951年、大船渡の特性を活かした5つのお菓子を考案しました。その中の一つが、初代「鴎の玉子」です。カステラと饅頭、つまり和と洋をコラボしたお菓子は当時としては画期的な商品で、珍しさもあって評判もよく、売れ行きも順調でした。

 さらに、嬉しいことが起こりました。1953年、大船渡の市制記念として、ミス大船渡のイベントが開催され、その商品として「鴎の玉子」が採用になったのです。このことで地元の評判を呼び、「鴎の玉子」は売り切れ状態が続き、社員も12人まで増えました。

「鴎の玉子」を起死回生の商品に

 手応えを感じ、お菓子屋として発展させたい父とは違って、苦しい暮らしだった家業に未来を見いだせず、柔道をやっていたことや同級生が警察官を目指していたことに影響を受け、齊藤会長は盛岡の警察学校に入学しました。

「これでやっとあの生活とは、おさらばできる」と安堵したのも束の間、同社と齊藤会長の人生を大きく変えるチリ地震が発生したのです。店舗兼自宅は流されずに済みましたが、被害に遭った家屋が家の中に流れ込み、全壊しました。病弱の父、看病をしている母に代わって、盛岡から呼び戻された齊藤会長と弟2人が後片付けをすることになりました。想像以上に後始末に時間がかかり、盛岡に戻る日が遠のくばかりです。ついに警察学校に戻ることを断念せざるをえなくなりました。

 お客様の声に押されて、齊藤菓子店は再開したものの、すべてを失い、経済基盤も脆弱で、ゼロからどころかマイナスからのスタートです。入退院を繰り返している父の様子を見て、社員も次々に辞めていきました。お金もない、人もいない、今と違って物流も情報も発達していない駆け出しのお菓子屋にとっては、まさに八方塞がりでした。再び、家族だけで細々と餅を売る毎日が始まりました。

 1961年、齊藤家の窮状を打破するため、親戚のアドバイスもあり「鴎の玉子」を起死回生の商品にすることにしました。これまでは平べったい形でしたが、俊雄元社長は、同じトライなら、本物の玉子に形を似せることを目指して、挑戦が始まりました。厳しい経営に変わりはありませんでしたが、ようやく今のコロンと愛らしい形が完成したのは6年後の1967年。数え切れないほどの失敗を繰り返したといいます。

「チリ地震後の齊藤菓子店の再建は苦難の連続でした。毎日が試練で、ただただ必死にがんばり抜くだけでした。二度と経験したくないことばかりでしたが、この経験があったから、東日本大震災でも前向きに立ち向かうことができたのだと思います」(齊藤会長)

 しかし、そんな齊藤会長は、身を切られるほど辛い決断を強いられることになります。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

※後編へ続く

●鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。保険業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュ協会を設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などでも活躍。

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映画レビュー「マジック・ランタン・サイクル」

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「ソーシャルグッド」と「ソーシャルメディア」のいい関係

「人の居ないバザールで人の集うSNSを」 photo by 中村正樹
「人の居ないバザールで人の集うSNSを」 photo by 中村正樹

世界では、サステナビリティーとサーキュラーエコノミー(循環型経済)に向けた動きが加速しています。その実現には、企業間の「調達・開発・生産・流通」だけでなく、人々の行動である「購入・使用・廃棄(回収)」をどのように巻き込んでいくかが鍵となります。本連載では、この潮流において、グローバルで何が共通し、何がローカライズされるべきか、ヒントを探っていきます。

今回は、電通SDGsコンサルタントの田中理絵と、電通総研プロデューサーの中川紗佑里が、2020年12月に電通と電通総研が共同実施した「ソーシャルグッド意識調査(※)」の結果から、ソーシャルグッドへ人々の参加を促す方法を考察します。

※ソーシャルグッド意識調査:日本・イギリス・アメリカ・中国・インドの5カ国で、ソーシャルメディアの利用者を対象に実施。ソーシャルメディアには、SNS、動画共有サイト・アプリ、メッセンジャーアプリの利用を含む。
 

中国とインドが、欧米よりソーシャルグッド意識が高い理由とは?

ソーシャルグッド意識 5か国比較

こちらは、日本・イギリス・アメリカ・中国・インドにおける、ソーシャルグッド意識調査の結果です。この結果を見た複数の方から、「アメリカやイギリスは、昔からソーシャルグッド活動が盛んだが、中国やインドの方がより高い割合となったのはなぜか」と聞かれました。私たちは、各国のインターネット普及率が、インターネットのアンケート結果に影響しているのではないかと考えています。

【インターネット普及率(2020年)】
イギリス95%
日本94%
アメリカ90%
中国59%
インド41%

出典:https://www.internetworldstats.com/stats.htm

上記を見ると、インターネットが広く普及している国と、おそらく都市部や経済的に豊かな層に偏っている国がありそうです。中国とインドについては、インターネット調査の回答者にアーリーアダプター(流行に敏感で、積極的に情報収集を行い、自ら判断する層)が多く含まれると考えられます。また、今回は一律「ソーシャルメディアの利用者」を対象としていますが(細かい定義はニュースリリースをご覧ください)、ソーシャルメディアの発信が盛んな人の割合は、インド・中国において回答者の約8割を占めています。

SNS週一回以上投稿者の割合(5か国)

日本やイギリスはインターネット普及率が9割を超え、ソーシャルメディアも大多数が使っています。なお、日本のSNS利用率は69%(総務省情報通信白書 令和2年版から)で、今回の調査では「SNS発信が盛んな人と受信メインの人がおよそ半々」という状況です。中国やインドのように一定水準以上の生活レベルの人を中心にSNSが使用されている状況に比べて、日本やイギリスでは多様なバックグラウンドの人が見ることを前提としており、一つの方向に価値観が一致することは難しくなっているのかもしれません。

2020年にステイホームを強いられた際、中国で「加油(がんばれ)」の投稿に賛同コメントが集まった様子や、インドでTikTokの手洗いチャレンジ「#LifebuoyKarona」が広がった様子など、ソーシャルメディア内でのポジティブな団結が世界から注目されました。これらの事象からも、インド・中国ではソーシャルグッドを牽引する層がSNS投稿の多数派を占め、SNS内でのムーブメントを起こしやすい土壌ができていると考えられます。

SNS投稿者がソーシャルグッドの仲介役に

「日本人は奥ゆかしく、発言を控えることが美徳だ」と感じる方もいるでしょうし、SNS内のムーブメントが起こることがいつも良いわけでもありません。ただ「日本は他の国とは違う」と思い過ぎると、他国から学ぶ機会がなくなってしまいますので、ここでは、学べるポイントを抽出していきます。

図3の調査結果から、日本において「SNSを週1回以上投稿する人」は、ソーシャルグッド意識が高いことがうかがえます。SNS投稿を週1回以上するかどうかが消費行動に影響するならば、サーキュラーエコノミーの鍵を握る存在として、SNS投稿が習慣になっている人たちを巻き込むことは、日本においても大事になってきます。

社会よよくする企業ブランドの商品を購入する(日本)環境負荷の低い商品やフェアトレードの商品を購入する(日本)

ここで誤解なきようお伝えしたいのは、「複数のSNSを使っている」「SNSを毎日複数回投稿する」というような、SNS利用のヘビーな人ほどソーシャルグッド意識が高いわけではなかった(投稿回数そのものはソーシャルグッド意識との相関関係はない)ということです。

しかしながら「週1回以上のSNSの習慣的な投稿がある層」という、ゆるやかなくくりで見ると、どの国でもソーシャルグッド意識が高めになることが確認できています。つまり、ある閾値を超えたら、それ以上かどうかは関係がないのですが、投稿をあまりしないで読むだけの人と習慣的に投稿する人を分けると、国を問わず意識に違いが見られたということです。

ソーシャルグッド意識(5か国)

SNS投稿の内容はさまざまでしょうが、「仲介役となって情報を周りに伝えることが多い人」と考えてみましょう。ソーシャルグッドが大事だと頭で分かっていても、世界を遠く感じたままでは、どう行動していいか分かりません。しかし、そこに仲介役がいたら、世界を身近に感じる人が増え、遠くにいた人々が参加しやすくなります。もし、自身の投稿内容が常にプライベートのひとときだとしても、投稿習慣がある人の方が、他者の投稿やニュース記事に対しても、「いいね!」や「シェア」をする頻度が高まるのではないでしょうか。

SNS投稿をする人を介して、これまで見えてなかった世界と身の回りをつなげる人が増えたとき、ソーシャルグッド活動は起こりやすくなるでしょう。2010年にTEDで、デレク・シヴァーズ氏が「社会活動はどうやって起こすか」のスピーチで述べたように、最初に踊り始めるイノベーターも大事ですが、それを見て、一緒に踊りに参加するノリの良いフォロワーとエンドーサーがいてこそ、社会活動のムーブメントが起きるのです。

企業主導のソーシャルグッド活動を成功に導くヒント
 

最後に、ソーシャルグッド活動を成功に導く二つのポイントを紹介します。一つ目は企業主導で、「ファクトに基づくビジョンを、経営層からステークホルダー全てに長期・継続的に伝えていくこと」です。

キーワードが毎年コロコロ変わる演説ではなく、企業独自のビジョンを一貫性と継続性を持って、事あるごとに繰り返し、言葉だけでなくビジネスを動かす事実を模範として示すことで、ビジョンは初めて浸透していきます。例えるなら、日頃から祈りや家訓を唱えていないなら、有事の時にいきなり唱えられません。何を信じ、どう行動すべきかを、普段から浸透させていることが大事です。ビジョンは、創業時からの社是や行動規範に立ち戻る場合もありますが、今後の変革を促すために、SDGsビジョンを追加することも有効です。

サーキュラーエコノミーを意識すると、ステークホルダーは株主・従業員・顧客だけでなく、バリューチェーンに関わる人全てにそのビジョンが伝わっている必要があります。さらに地域、NPO・NGO団体、研究者など、直接ビジネスに関わらない関係者に対しても、企業がポーズではなく実現に向けて根を張った取り組みをしていると信じてもらうことで、協業の可能性が開けていきます。

そのため、IRを意識したビジネス系メディアだけでなく、サステナビリティーに関心の高いメディア・団体との関係構築も意識して、事業を超えて広く社会に「長期・継続的にビジョンを伝えていくこと」の重要性はますます高まります。

逆に、実行していても発信しない企業は、透明性や社会貢献度が低いという評価になりかねません。ことソーシャルグッドに関しては、奥ゆかしさの美徳をいったん外して、積極的に広く発信することも企業が行うべき社会貢献のひとつなのです。

二つ目のポイントは、今回の調査で示されたように、SNS投稿をする人をソーシャルグッド活動に巻き込むことです。SNS投稿者が発信したくなるのは、企業活動ではなく、自分たちが仲介して伝えることで、他の人にも役に立ちそうな、知的で面白い、共有できる体験です。

ですから企業は、情報の受け手がME(私になにしてくれるの?という受け身)になってしまう発信ではなく、WE(それをきっかけに、私たちが企業と共に主体性を持って動く)となるよう、教科書のような「正しい」発信だけではなく、今こそ、みんなでやらなければならないというライブ感が求められてきます。

経営トップの長期・継続的なPRと、SNS投稿者が参加したくなるライブ感は、それぞれ個別で動かすのではなく、一連のストーリーにすることが成功の鍵です。しかしこれは、企業の一つの専門部署だけでできることではできません。ステークホルダーやさまざまな団体などと連携して、社会全体で積み上げたくなる物語をつくっていけるよう、それぞれの人が自分の役割を信じ抜き、片手間ではなく、本業として関わることが大事になってきます。

日本は、SDGsランキング17位で、企業・行政・教育の取り組みは世界的に見ても活発な国です。人々に十分接点はありそうですが、それでも今回の調査でソーシャルグッド意識が他国より低めにとどまったのは、得られた知識を生かして行動するための「WE(私たち)」として動けるコミュニティーが足りないのかもしれません。電通総研から発表された「ジェンダーに関する意識調査」においても、「学校」以外の分野では男女の平等感が低いことが示されています。

2030年に向けて日本でもソーシャルグッドを推進するコミュニティーの活動が増え、その活動を知らせるSNS投稿も増えていくでしょう。そこに積極的に企業も関わり、ビジョンを共有できる体験の場を持ち、時には企業もコミュニティーの一員となってつながっていくことがWEを動かす鍵となるのではないでしょうか。

【調査概要】
タイトル:「ソーシャルグッド意識調査(日本、イギリス、アメリカ、中国、インド編)」
調査手法:ウェブアンケート調査
実施主体:電通、電通総研
調査時期:2020年12月13~21日
対象者:各国15~64歳のソーシャルメディア利用者
有効サンプル数:2624ss
(日本537ss/イギリス531ss/アメリカ525ss/中国500ss/インド531ss)
 

今、音声UIについて語るべき三つの理由

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BX・クリエーティブ・センター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

frog

機械とコミュニケーションする手段といえば、かつてはマウスをクリックすることでした。しかし現在では、コンピューターに話しかければ音声で答えてくれる─そんな時代になっています。 

インタラクションデザイナーとしての私の仕事は、人間がコンピューターとコミュニケーションできるようにすることです。仕事を始めた頃は、コンピューターとのコミュニケーションは、大部分がマウスをクリックすることで行われていました。グラフィックユーザーインターフェース(GUI)を使い、どこをクリックして、どこにキーボード入力すればいいか、ユーザーを誘導するのが私の役目でした。今はタッチインターフェースも手掛け、タップやスワイプで、小さなモバイルコンピューター(いわゆるスマートフォン)とユーザーがいつでもどこでもやりとりできるようにしています。

将来は、音声ユーザーインターフェース(VUI、音声UI)がインタラクション革命の原動力になりそうです。今までは、ユーザーがGUIの使い方を覚えなくてはなりませんでした。しかし、音声技術を使えば、コンピューターに私たちの言葉を「話して」もらえるようになるのです。

frogでも音声UIの依頼が増えています。そこで、私はもっと幅広い産業界の視点も知りたいと考え、昨秋ミュンヘンで開催されたAll About Voiceの第2回年次会議に参加しました。音声アプリケーションを開発する169 Labsの主催で、スマートスピーカーの現状から音声アシスタントのパーソナリティー設計まで、テーマは多岐にわたります。この種の会議(最近はバーチャル参加ですが)では、大抵いくつか疑問が提示されます。このときは、「そもそも音声は重要なテーマなのか?」「音声UIは一過性の流行?それとも人と世界のコミュニケーションを根本的に変えるもの?」でした。

結論はといえば─今や音声UIへのパラダイムシフトが目の前に迫り、もう後戻りはできない、ということでした。

世代の要請

今の子どもたちは、スマートフォンや照明、家電までも、話しかけることで操作できる世界に生きています。タッチスクリーンの登場で、コンピューターは以前より直感的に使えるものになりましたが、音声UIの進歩で、そのタッチスクリーンの使い方を覚える必要さえなくなるかもしれない、と私は考えています。会話ができる人なら誰でも、「音声ファースト」の自然なやりとりができるようになるでしょう。ミレニアル世代の最年長層に属する私などは、Amazonの音声アシスタントAlexa搭載の電子レンジに何となく違和感を覚えますが、私たちの子どもの世代は疑問にも思わないのでは、と想像します。

上述の会議では多くの講演者が、基盤となる音声技術はまだ「産みの苦しみ」の段階だと認めていましたが、その成長スピードには目を見張るものがあります。スマートヘッドホンは、世界中の家庭や車の中に急速に広がりつつあります。

Amazon Alexa開発チームのアンドレア・ムットーニは、2019年9月下旬に発売したスマートスピーカー対応デバイスの話の中で、こうした現状にたびたび言及しました。メガネから電子レンジまで、生活で考えられるあらゆる機器にAlexaを搭載するのがAmazonの構想だと、ムットーニは公言してはばかりません。「あらゆる場所にAlexaを」が目標だと言います。

音声技術の勢いを感じる、もう一つの例はGoogleから発売された「いつでも聴ける」ワイヤレスイヤホンPixel Buds 2です。さらに、Googleの最新スマートフォンPixel 4には、端末を持ち上げるとすぐにGoogleアシスタントが起動する「Raise to talk」が搭載されています。つまり、Googleはやがて音声が端末操作の第一手段になると予想しているのです。

今、なぜ音声が重要なのか

音声こそが将来のインタラクションモデルだと考えられる理由はたくさんあります。いくつか挙げてみましょう。 

1スマートスピーカーの普及
ボイスボット・エーアイ(voicebot.ai)の創業者ブレット・キンセラは講演で、アメリカでは2018年から19年の間に、スマートスピーカーを設置している世帯が40%近く増えたと指摘しました。これは、アメリカ人口の約32%、8000万人以上の家庭が、2019年の9月までにスマートスピーカーを設置したことになります。EUでも着実に普及しており、2019年末での普及率はイギリスが21.1%、ドイツが11.6%となっています。

2インクルーシブ社会との相性
高品質の音声UIは、インクルーシブ(包摂的)な社会へのカギでもあります。視覚や歩行、運動機能など障がいのある人々にとって、音声技術は身体活動においてもデジタル生活においても、自分に合った方法でコミュニケーションをとり、生活をコントロールする手段になります。高齢者や社会的に孤立しがちな人にも、仲間や心の安らぎを得る大切な機会を与えてくれます。

3話すことは自然なこと
話すことは、クリックやタッチのインターフェースと比べ、はるかに自然な方法です。もちろん、どれだけ自然に感じられるかは、音声UIのパーソナリティーが大きく関わってきます。子ども向け音声アプリを開発するPretzel Labsの創業者兼CEOのアドバ・レビンは、こんな話をしていました。「音声アシスタントのパーソナリティーの設計は、キャラクターづくりによく似ています。年はいくつか、どんな生い立ちか、どんな話し方をするか」。こうした要素が、今やデザイン上の重要事項になっています。

どのように話せばよいのか?

私たちは人間として、人間を模倣する技術に大きな期待を持っています。声は人を形づくる根本的なものであり、ボタンのクリックよりはるかに親密で、感情に響く交流の手段です。それだけに、もしコンピューターがうまく対話に応じてくれなければ、不満もはるかに大きくなるでしょう。

困ったことに、会話というのは、たとえ同じ言語を話す人同士の間でも、本質的にまとまりのないものです。人間の脳は、まとまりのないものでもうまく扱えるようにできていますが、コンピューターはそうはいきません。感情的なニュアンスよりも論理を選ぶので、音声の解釈を間違う可能性は大いにあります。

「音声アプリの良しあしは、会話中の誤解をどう処理するかで判断されるようになる」。Googleのシニア会話デザイナーのジョン・ブルームは、エラー処理に関する講演の中でそう話しました。

ブルームによると、最大の課題のひとつは「認識」です。ここでの問題は、デバイスがユーザーの声を聞き取れない(つまり、室内に雑音が多い)場合、あるいはユーザーが言っていることを理解できない(長い沈黙や変な言葉遣いがある)場合です。さまざまな状況があり得る中、音声アシスタントがどの時点で、どんなふうに聞き返せば、ユーザーが心地よく感じるかを知ることが何よりも重要だとブルームは言います。

例えば、音声アシスタントがユーザーの要求を理解できない場合、もう一度質問をするか、言い方を変えるよう促すというのが典型的な対応です。しかし、それを2、3回繰り返してもまだ理解できない場合、ユーザーをイライラさせ続けるよりも、一度マイクを切って、最初からやり直してもらう方がいいかもしれません。これが「正しい」対応かどうかは、その時点で会話がどれくらい進んでいたかや、会話の内容によって違ってきます。

ブルームの挙げたもう一つの課題は、人の集中力の持続(というより、その短さ)の問題です。旅行の予約をすべて音声で完了できると便利そうですが、現実にはフライトが20便もあると、大抵の人はコンピューターが一つ一つ読み上げるのを待っていられません。場合によっては、マルチモードで20便のリストをスマートフォン画面に表示し、それを見てもらう方が早いということになります。ですから音声デザイナーは、どの場合に何が理にかなっているのか判断しなければなりません。そのためには、大事な点に収束されてくるようなデザインを考慮する、つまり「分野の壁」を越えて物事を見る力が必要になります。音声だけにこだわることは、この種のイノベーションでは障壁になりかねないのです。

frogと音声UI

frogはすでに、自動車医療消費財など、自社の製品・サービスに音声の導入を目指す多くのクライアント企業と仕事をしています。最近は、企業へのアドバイスの際にもこうした活用事例を検証し、どの部分に音声を活用すれば顧客体験が最も向上するのか提案するケースが増えています。音声技術を家庭で車の中で、あるいは職場で利用するのはどのようなときでしょうか?音声モードが最も効率的なのは、あるいは最も楽しく感じられるのは、どのような状況でしょうか?

裏を返せば、音声以外のインタラクションモデルを選ぶべきはどの部分か。その把握も、私たちの責任範囲にあります。例えば車の中では、音声で操作できる機能(カーナビ、メディアプレーヤーなど)は、同時にタッチ入力にも対応していて、雑音が多い場所ではそちらを使うことができます。また、カーナビに音声で目的地を指示したとしても、その後は道順を読み上げてもらうより、ディスプレーの地図の方が確認しやすいかもしれません。デザイナーである私たちは、さまざまな状況があり得ると理解しておく必要があります。

技術がさらに進み、難しい条件下でも複雑な指示に対応できるようになるまでは、このようなマルチモード手法、つまり、音声モードと視覚やタッチを使うモードを切り替える機能が、現在の音声アシスタントが持つ限界に対応する効果的な手段になるはずです。

人工的であるが“人間らしい”パーソナリティーを設計する

このようなマルチモード手法は、多くの場合、収束的デザインの技法にヒントを得ています。収束的デザインとは、製品、サービス、デジタル技術を統合することで、新たな変革を起こすソリューションや体験を生み出す方法です。frogでは、この種の戦略をクライアントと話し合う際、音声に特有の、ある要素にアドバイスを求められることがあります。その要素とは、パーソナリティーです。GUIでは、デザイナーが選ぶ色や書体、画像などによって、ある程度ブランドパーソナリティーを表現できますが、音声UIのデザインは全く異なります。

音声のデザインでは、言葉を無視することはできません。会話そのものがインターフェースなので、とりあえずダミーのテキストを入れておくわけにはいかないのです。音声を扱うデザイナーは、人が音声に対して、また異なる音声それぞれの特徴に対して、どのような感情を示すかを理解しなければなりません。そのためには、心理学、社会学、言語学などの社会科学の知識、場合によっては、文学、哲学、歴史学などの人文分野の知識も必要になります。

キンセラは講演の中で、「音声において大事なのは、人が人らしくいられること。私たちが機械の言語を勉強しなくても、機械が私たちを理解してくれることです」と語りました。人を中心に考えた音声体験を、誰よりも必要としている人の手が届くところに─あるいは、声が聞こえるところに─もたらすことができる。そんな可能性に、インタラクションデザイナーである私自身が興奮を覚えています。

この記事はウェブマガジン「AXIS」にも掲載されています。

菅政権がコロナ病床確保を打ち出すも裏で「病床の削減」続行! 新年度予算でも消費税195億円使いベッド減らした病院に給付金

 首都圏を中心に病床使用率がステージ3の指標を超えつづけ、病床の逼迫が解消されないなか、厚労省が病床確保計画を見直す方針を打ち出した。本日付の朝日新聞によると、〈第3波のピークの2倍程度の感染者数に対応できる体制をめざす〉という。  何をいまごろ、という話だろう。大手マス...

JRAエフフォーリア「だけじゃない」C.ルメールも羨む超豪華ラインアップ!? 桜花賞(G1)騎乗も決定! 横山武史に続々集まる良血馬

 7日、中山競馬場にて行われた弥生賞ディープインパクト記念(G2)は、横山武史騎手が騎乗したタイトルホルダーが優勝。先月14日に共同通信杯(G3)をエフフォーリアで勝利した今年5年目の若武者が、またもクラシック前哨戦を制した。

 昨年はウインマリリンでフローラS(G2)を制し、4年目にして重賞初制覇を飾った横山武騎手。年間でも94勝を挙げ、関東リーディングに輝いている。

 今年は悲願のG1制覇が期待されるが、冒頭のエフフォーリアはこれまで3戦全勝。その強さにはリーディングジョッキーであるC.ルメール騎手も、自身のツイッターで「Derby horse !!」と呟いたほどだ。

 牡馬クラシックで大きな注目を集める横山武騎手だが、今年は牝馬でも超豪華ラインアップ。4月に控えた桜花賞(G1)には、アカイトリノムスメで参戦することが決定している。

 アカイトリノムスメはデビュー戦こそ7着に敗れたものの、次の未勝利戦から3連勝でクイーンC(G3)を制覇。父ディープインパクトに、母アパパネという三冠馬同士の血統背景から、期待するファンも少なくない。

 前走騎乗した戸崎圭太騎手は27日に行われるドバイ国際競走へ参戦予定で、帰国してからの2週間は自主隔離期間。桜花賞には騎乗できないことが見込まれているが、横山武騎手も3戦目の赤松賞(1勝クラス)では同馬を勝利へと導いており心配無用だろう。

 リーディングジョッキーのC.ルメール騎手と比較しても、互角以上といえそうなラインアップ。騎乗馬の質からは、春・クラッシックの中心にいると言っても過言ではないだろう。

「昨年も大活躍の横山武騎手でしたが、今年も勢いは止まりませんね。桜花賞で騎乗するアカイトリノムスメは戸崎騎手のお手馬で、今回の騎乗は代打ともとれる人選です。ただ、今年の横山武騎手には、それ以外にも期待できそうな馬が数頭います。

仮に桜花賞以降アカイトリノムスメから降板となっても、オークス(G1)、秋華賞(G1)と、3歳牝馬三冠でチャンスはあると思いますよ」(競馬記者)

 エフフォーリアで共同通信杯(G3)を勝利した際、牝馬ながらに3番人気となったレフトゥバーズも初戦は横山武騎手が騎乗していた馬。共同通信杯では9着と敗れたが、騎乗した戸崎騎手が「スローペースだったこともあって気負って走っていたし、それが響いて最後は伸び切れませんでした」と語ったように、テンションが高かったことが敗因だと思われる。デビュー戦で見せた2着馬を1秒も上回る「33.4秒」の末脚は強烈で、気性面の成長があれば巻き返しは十分可能だろう。

 また、来週のフラワーC(G3)に出走するオメガロマンスもデビュー戦を任された良血馬で、オークス馬・ヌーヴォレコルトの全妹。今年の行われた中山マイル戦の勝ち馬では上り最速の「33.5秒」で差し切り勝ちを収めており、その内容には価値がある。

 デビュー5年ながらもこれだけの良血馬を集め、結果を出し続ける横山武騎手。今年のクラシックでの活躍はもちろん、将来的には日本を背負って立つジョッキーになるかもしれない。

Y!mobile(ワイモバイル)のeSIMサービス、便利だが契約内容には要注意

生活をもっと楽しく刺激的に。 オトナライフより】

ソフトバンクのサブブランド・Y!mobile(ワイモバイル)がeSIMの取扱いをスタートさせることが発表された。eSIMといえば、オンライン上で契約を完了させることも可能な手軽さが一番の強み。外出を控えることが求められるようになったコロナ禍の現代にもマッチしたサービスとも言えるかもしれない。しかしそんなeSIMにも、便利な面だけでなく気をつけておきたい側面も存在するのだが…。
今回は、便利だからと飛びつく前に知っておきたい、eSIMの注意点についてご紹介していきたい。

契約も簡単!eSIMとは

 eSIMとは、Embedded SIM(組み込み型SIM)と呼ばれるもので、スマートフォン本体に内蔵された一体型のSIMのことだ。そもそもSIMカードは携帯電話の識別情報等が記録されたカードであり、機種変更の際にもSIMカードの抜き差しで簡単に作業を完了させたり、逆に悪意あるユーザー等の悪用を防ぐため勝手にSIMカードを交換できないよう“ロック”をかけたりできるようにもなっている。  一方で近年では、ユーザーの自由な携帯電話会社の乗り換えを妨げるものだとして、国が携帯電話各…

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