企業がDX時代に直面する「個人情報の取り扱い」、課題とヒント(後編)

企業がDX時代に直面する「個人情報の取り扱い」、課題とヒント(後編)

「個人情報」の取り扱いが、改めて注目されています。

顧客接点のデジタル化が進み、個人情報をさまざまなタッチポイントで取得できるようになったためです。

今や、GDPR(※1)やCCPA(※2)など、世界的に個人情報保護規則の潮流が強まっています。日本でも個人情報保護法の改正(※3)があり、「顧客の個人情報をどう扱うか」について、企業のさまざまな部門が課題を抱えています。

本記事では、DX推進の上で必須である個人情報の取り扱いと、それに関連したプロジェクトを進める上での難しさ、そして解決の糸口を、実際にクライアントの課題に相対する3人の鼎談としてお送りします。

法務的な観点から弁護士の田中浩之氏、顧客データ基盤を提供するトレジャーデータの山森康平氏、そしてデジタルマーケティング全般のソリューションを提供する電通デジタルの今井紫氏です。

※1 GDPR
General Data Protection Regulation:一般データ保護規則。2018年に施行。EEA(欧州経済領域)で統一された、厳格な個人情報保護に関する規則。
 
※2 CCPA
California Consumer Privacy Act:カリフォルニア州消費者プライバシー法。2020年に施行。カリフォルニア州の住民の個人情報を取扱う事業者に適用される。全米初の包括的な個人情報に関する州法。

※3 改正個人情報保護法
2020年、日本で改正個人情報保護法が成立・公布され、2年以内に施行されることになった。一部のクッキーの利用が規制されるなど、規制が強化・追加されている。

<目次>
課題1:部門間の「個人情報に対する意識の違い」から意思決定が遅くなる
課題2:プライバシーを専門にする人材の不足
課題3:データ処理プロセスの透明化が難しい
求められているのは「ユーザーに分かりやすく説明すること」

課題3:データ処理プロセスの透明化が難しい

山森:デジタルマーケティング業界で、クライアントが喫緊の問題として注視しているのが「サードパーティークッキーに代わるデータをどうする?」ということです。「1ID」というキーワードはありますが、改正個人情報保護法に則りつつそれらのデータを探すにはどうすればよいのか、私たちにも多くのご相談が寄せられています。

田中:EUでは、GDPR上、「クッキーその他の端末識別子」自体が個人情報とされている他、「eプライバシー指令」に基づく各国法によるクッキー規制があります。そのため、「厳格必須クッキー」(※4)以外については、原則としてユーザーに「クッキーをどう利用する可能性があるのか」を説明した上で、オプトイン同意を得ることが必要となっています。こうしたEUの厳しい規制は、EUだけでなくグローバルで、サードパーティークッキー対応の起点となりました。

※4 厳格必須クッキー
ウェブサイトの運営のために厳格に必須なクッキー。たとえば、ECサイトにおける買い物かごの中身を記録するためのクッキー等が典型例。
 

企業も、GDPRをきっかけにクッキーポリシー等で透明性のある説明を行い、クッキー同意ツール等を導入して、ユーザーが選択できるような仕組みを用意することが増えましたよね。

一方、2020年改正の日本の個人情報保護法では、「クッキーその他の端末識別子」自体を個人情報とする改正はされませんでしたが、「個人関連情報」規制のなかで一部のクッキー利用が規制されることになりました。

今井:「個人情報」と「個人関連情報」の違いについては、少し理解が難しいところがありますよね。田中先生の観点から、個人関連情報についての改正のポイントを教えていただけますか?

田中:法文上、「個人関連情報」は、 クッキーを使う場合に限って規制をかけるものではありませんが、たとえば、クッキーに紐付く個人情報ではないユーザーデータ(趣味嗜好等の属性情報等)も、典型的には 個人関連情報 に含まれます。

企業等が取得したこの「個人関連情報」を第三者に提供する際、「個人関連情報を受け取る側が、そのデータを『個人データ』(※5)として取得する」ことが想定される場合には、提供元は提供先への確認義務を負います。確認義務の内容は、「提供先がそのデータを『個人データ』として取得することについて、提供先はユーザー本人から同意を得ているか?」ということです。

※5 個人データ
個々の個人情報で、「個人情報データベース等」を構成するものを個人データと呼ぶ。データベースに入っていない散在情報については、個人情報ではあるが、個人データには当たらない。
 

制度改正の大綱では、パブリックDMP事業者の事例が挙げられ、「パブリックDMPを利用してデータ利活用をしているケースが、プライバシー上懸念がある」との見解が示されました。

パブリックDMP事業者は、クッキーに紐付けてユーザーの属性情報を保有していますが、通常、自社では個人データとしては管理していません。ところがパブリックDMP事業者からデータを受け取る側の企業では、クッキーと別途取得した自社の会員登録データ等を紐づけて、その会員についての属性(趣味嗜好等)を知ることができます。

多くのケースではパブリック DMP事業者は、「受け取る側の企業が個人データとして受け取る」ことを想定してデータを渡しているはずなので、先ほど述べた通り「受け取る側の企業が、ユーザー本人から同意を取得しているかを確認する義務」が、パブリックDMP事業者に発生します。

このように「クッキーを使って、ユーザー本人の知らないうちにデータがやり取りされてしまう」ことに規制をかけるのが、一つの典型的な適用ケースです。必ずしも個人関連情報規制の導入により、クッキーの利用全般が規制されるわけではありません。

今井:なるほど、よく分かりました。個人関連情報以外で、今回の改正で理解しておくべきポイントはありますか。

田中:今回の改正では、事業者の守るべき責務の在り方として「不適正利用の禁止」という項目が盛り込まれました。改正前に明文化されていたのは不適正な「取得」の禁止でしたが、不適正な「利用」については明文化されていなかったのです。

つまり、「騙してデータを取る」のはダメだが、「今すでにあるデータを利用する」ことについては明文の規制はなかったといえます。今回の改正で、例えば2019年に話題となった「破産者マップ (※6)」のような倫理的に問題のあるサービスを停止させられる、明確な根拠ができたわけです。

※6 破産者マップ
破産者の情報を収集し、インターネットの地図上に載せたサイト。政府の個人情報保護委員会の求めで、2019年に閉鎖。この事例では個人データの第三者提供の同意がなく、個人情報保護委員会にオプトアウトによる第三者提供の届出もされていなかったため、違法の認定は容易だったが、仮にオプトアウトによる第三者提供の届出がされていた場合には、個々人の同意なくサイトの運営が継続できていた懸念がある。オプトアウト届出についての詳細は個人情報保護委員会の解説を参照。

 

もう一つ挙げると、ユーザーに対する個人情報の利用目的の説明に当たり、「データ処理の方法についての説明」を充実させよ、というものがあります。これは、条文では反映されないのですが、改正のタイミングに、ガイドラインで定められる見込みです。

データ処理の方法といっても、アルゴリズムの詳細を書くわけではなく、取得したデータを利用する目的が分かる範囲で、その処理プロセスを明らかにせよ、ということです。

例えば、「広告宣伝目的で使います」という単純な説明ではなく、「あなたの行動履歴や閲覧履歴を分析したうえで、あなたの嗜好にあった広告を表示します」という、プロセスの透明化と具体的な説明が必要になります。

今井:しかし、実務としてデジタルマーケティング推進の戦略策定から実行まで関わっている立場から申し上げますと、この「データ処理プロセスの透明化」は非常に難しいと感じます。仕組みを知っているだけでは足りず、実際にどのデータベースにどういったデータが格納されていて、それがどのように処理されているのかを理解していないと、プロセスはなかなか説明できません。

田中:そもそも現状のプロセスを把握できていない企業も多いですよね。そういう企業では、プロセスの透明化に相当な時間がかかります。仮にクッキー同意ツールを導入しようとなっても、まず今までクッキーをどう活用してきたかを把握する必要があるわけです。

今井:確かに、クッキーを自社がどう使ってきたかを把握できていない企業も多いように思います。マーケティングやセールスのためにダッシュボード上で施策を動かしていても、クッキーを一連のプロセスのどこで取得し、どのデータと結びつけて、どの施策に反映してきたかが、見えていない場合が多いのです。

私がTreasure Data CDPの利点だと感じるのは、扱っているのが生データ、いわゆる「全量データ」であることです。ダッシュボード上で可視化されたデータだけを見て判断すると、その裏側にあるかもしれないデータを見落とす可能性があります。実はその裏側にある別のデータの存在によって、クッキーに紐付くユーザーデータ(趣味嗜好等の属性情報等)が個人情報とみなされる場合があります。

田中:「容易照合性」の問題ですね。法律上、個人情報の定義(※7)に「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるもの」という表現があり、クッキーに紐付くユーザーデータも企業が持っている他の情報と容易に照合することができ、それにより、特定の個人を識別することができることになれば、個人情報に該当することになります。

※7 個人情報の定義
個人情報とは、生存する個人に関する情報であって、生存する個人に関する情報であって、次の①②のいずれかに該当するものをいう。①当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)②個人識別符号が含まれるもの

 

今井:同じクッキーでも、「データをどう持っているか」によって、前提が全く異なってしまうわけですね。

山森:そこで私の場合、クライアントのCDP導入プロジェクトの最初に、全体を見通す形でデータマッピングを行います。クライアントがどんなデータを保持しているかを、マーケティング(事業)観点、プライバシー観点、法務的観点で“棚卸し”することで、クライアントと認識を揃えるようにしています。

田中:ただ、データマッピングは非常に難しいですよね。各部署にシートを配って埋めてもらおうとしても、担当者や部署ごとに認識がまちまちで、なかなかうまくいかないことが多いですね。

今井:確かにデータの持ち方について、部門によっても認識が違いますよね。私もデータマッピングは難しいと感じています。

田中:法律家の立場からすると、現場の各担当者に作成していただいたデータマッピングの結果は、うのみにしないようにしています。マップを見てみたら、事業活動上、当然ありそうなものが抜けているので、確認すると「実はありました」ということもよくあります。そうすると、今井さんが先程おっしゃったように「前提が違う」ということになるわけです。

今井:会社や担当者によって理解度も違えば、時には会社の規定として個人情報保護法よりも厳しい運用ルールを定めていることもあり、データマッピングを行うとプロジェクト自体がストップする場合もあり得ます。そういう時は、まず「自分たちで把握・判断のできるデータ」だけを用いて施策化していき、それを“突破口”にすることもありますね。

山森:私たちの場合、Treasure Data CDPに格納されているデータは把握できるのですが、外のデータベースに格納されているデータは当然分かりません。導入に当たって最初にデータマッピングを行うのは、クライアントのデータプロセスの全体像を把握するためでもあるのです。

つまり、「Treasure Data CDPに格納しているデータは個人情報に当たらないが、社内の他のデータと統合すると、容易照合性により、個人情報になってしまう」ことがあります。その対策として、改正個人情報保護法に定められている保有個人データの「開示」「使用停止」「削除」を実行できるようにしています。

お二人の話を伺うと、それぞれのアプローチの違いからも、クライアントが保持しているデータの“前提”を確認し、そのプロセスを透明化させることの難しさが分かって興味深いですね。

今井:トレジャーデータはそういったデータに関することを詳らかに説明してくれるので、助かっています。CDPを提供するベンダーでも温度差がありますから、パートナー選定は重要ですね。

求められているのは「ユーザーに分かりやすく説明すること」

今井:プライバシー保護については、法的なリスクの他に、“炎上”による企業イメージの低下も懸念材料です。田中先生は、炎上を回避するにはどういった施策が必要だと思われますか?

田中:ありきたりですが、結局は大きな視点でみて、データ主体に対して“サプライズ”を与えていないか、自分たちが倫理的におかしなことをしていないかを常に考えておくことが、大きく道を踏み外して炎上してしまうことを防ぐのには一番有益なのではないでしょうか。

というのも、個人情報保護法関連においては、執行事例が公表されるケースは限られています。そんな限られた執行事例を後追いする形で場当たり的に対応していくことには、どうしても限界があります。

「炎上を防ぐための施策」と考えるとどうしても後ろ向きに見えますが、「プライバシー保護に配慮したサービスとして、ユーザーに安心して使っていただくために考えよう」という発想に立てば、前向きな姿勢で取り組めるのではないでしょうか。

山森:結局、炎上というのは、世間から見て「おかしいな、不適切だな」と思われる行為が発覚したときに起こります。法としては間違ってはいないかもしれないけれど、生活者から見て不適切だなと思われた場合に燃え上がるわけですよね。

今井:かといって、あまりにも守りに入りすぎると、同意の取り方もギスギスしてしまって、逆にユーザーを警戒させてしまいます。「法律を守る」だったり「自社規定のルールを守る」という姿勢に入りすぎて、それ自体が目的化してしまっている企業も見受けられます。

田中:そこが大事なポイントなんですが、ヨーロッパでも日本でも、当局が求めているのは、あくまでも「ユーザーに分かりやすく説明してね」ということなんです。けっして、ユーザーに対してガチガチな法的文言を提示することを要求しているわけではないんですよね。

保守的になりすぎて、説明文に「第○条第○項に基づき~」などと入れたり、難解な法律用語を駆使した文章でユーザーの同意を取ろうとしても、結局具体的に何をしているのかがユーザーに伝わりません。ユーザーの理解が得られないのでは、「説明」したことになりませんよね。

今井:法的文書の問題というより、コミュニケーションをどうデザインするかという問題なのかもしれませんね。会社として、ステートメントやメッセージをどのように伝えていくのかということにつながりますね。

山森:田中先生も言われたように、ユーザーに「悪いサプライズ」を与えないようにすることがとても大事ですよね。

田中:ユーザーから見て、「この文章じゃ自分の情報がどう使われるのかよく分からないよ」というのがダメなんですね。

今井:プライバシーポリシーも顧客体験だということですね。

田中:われわれ弁護士は堅い文章を書きがちですから(笑)、ここは常にクライアントやユーザーの視点に立ってコミュニケーションを行っている、今井さんたちの得意分野ではないでしょうか。

「使い方を説明して、必要に応じて同意を取る」というシンプルな話なのです。ユーザーにとって分かりやすい説明文と、分かりやすいインターフェースを用意することが重要です。「同意を取れば万全だ」とか、逆に「同意を取らないと何もできない」というわけではありません。

同意が必要な際は、ユーザーに分かるように正しく情報提供する。同意が不要な局面でも法規制にはしっかり従っていく。これを戦略的にやっていくべきでしょうね。

山森:私は、“善いツール”というのは、法律の知識がない人が使っても、法律を守ることができるものだと考えています。例えば「16桁の数字はクレジットカード番号の可能性があるから自動的にインポートしない」であったり、細かくアクセス権限を設定できたり、という機能が該当します。

こうした機能を企業が用意することは、個人のデータが“民主化”されていく時代において、法規制やプライバシーを遵守しながらデータを活用できることにつながります。

今井:企業がプライバシーを遵守しながら、より優れた顧客体験をデザインしていくことは、実際にサービスを利用するユーザーにとっての価値にもつながります。電通や電通デジタルにできる範囲のことだけでなく、トレジャーデータのようなツールを提供しているテクノロジー企業や、田中先生のような法律家と協力することで、プライバシー関連のプロジェクトに取り組まれているクライアントを横断的に支援して行きたいですね。


トレジャーデータと電通・電通デジタルが協業し提供するソリューションについて、興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。
 
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褒めて、ほしいの

TVer

鈴木おさむさんに「テレビは今後、どこへ行く?」という仮タイトルで思いの丈を語っていただくこの企画。TVer×ウェブ電通報という、ありそうでなかった座組みで実現しました。

前評判も上々の新作ドラマ「殴り愛、炎」(4/2、4/9にテレビ朝日系列にて放送予定)のお話もちょいちょい折り込んでいただきつつ、鈴木おさむ氏ならではのテレビ論を大いに語っていただきました。

ご安心ください。ウェブ電通報の編集方針として、「とどのつまりは、番宣なのだろう?」といったような凡庸なる記事にはいたしません。乞う、ご期待。

TVer

─TVer×ウェブ電通報×鈴木おさむさんという座組みで実現した本インタビュー企画。おさむさんとは、私は、はじめましてなのですが、どうぞよろしくお願いいたします。

鈴木:よろしくお願いします。

─いきなり、で恐縮なのですが、新作のドラマ「殴り愛、炎」(4/2、4/9にテレビ朝日系にて放送)の背景や狙いなどについて、お聞かせいただけますか?

鈴木:山崎育三郎さんで恋愛モノのドラマを作れないか、というオファーを受けたのがきっかけです。山崎さんは、言わずとしれたミュージカルのスターで、ある種、完璧な存在だと思うんですよ。そんな彼が、これまでに見せたことのないような「嫉妬に侵されていく」役をやったら面白いんじゃないかな、と。あの甘いフェイスの三浦翔平さんが、ドラマ「奪い愛、冬」で、どんどんおかしくなっていったように。

─そこが、出立点だったんですね?

鈴木:そうです。山崎育三郎さん演じる天才ドクターが、嫉妬に狂ってどんどん壊れていく。「山崎育三郎さんで、恋愛モノのドラマ」というオファーには、きちんと応えていますよね。しかも、王道の「天才ドクター」役。でも……

─そこに、鈴木おさむ流の演出が加わる、と(笑)。予告編を拝見したのですが、壊れていくのは、どうやら山崎さんだけではありませんよね?

鈴木:瀧本美織さん、市原隼人さん、酒井若菜さん、永井大さん……。山崎さんの周りにいる人、みんながみんな、壊れていく。それも、予想の範囲には収まらないレベルで(笑)。

殴り愛、炎

─実際、演者の方々からも「これまで経験したことのない役を演じられて、とても楽しかった」という内容のコメントが多かったように思います。

鈴木:うれしいですね。突き抜けたものをやりたい、自身の芝居の幅をもっと見せたい、という思いは役者なら誰もが持っているものだと思うんです。それも、地上波で。それに応えることもまた、脚本家の役目なのかな、なんて。

─とはいえ、地上波ならではの制約はありますよね?

鈴木:もちろん。だから、オーソドックスな設定から、まずは入る。最初に申し上げたとおり、「山崎育三郎さんで、恋愛モノのドラマ」というオファーには、きちんと応えています。でも……

─役者さん、なにより視聴者からの期待は、絶対に裏切らない。

鈴木:ご安心ください。裏切るところは、きちんと裏切っていますから(笑)。

TVer

─さて、と。大切な「番宣」も滞りなく済んだ、ということで……

鈴木:恐れ入ります(笑)。

─今回の取材の大テーマとして、「テレビは今後、どこへ行く?」ということを伺っていきたいんですよ。その導入ということで、最近のテレビであったり、テレビ業界であったりについて感じていらっしゃることを、まずはお聞かせいただけますか?

鈴木:特徴的なことで言うと、そういう質問が増えた、ということですね(笑)。テレビ業界を代表して、一言、みたいな。おそらくは「言質」のようなものが欲しいんだと思います。最近のテレビの、ここがなってない!みたいな。

─インタビュアーの代わりに、吠えてくれ!みたいなことですね。

鈴木:そうですね。

─それでいうと、今日は「テレビ」というものについて、いくつかの「仮説」を用意してみたのですが、聞いていただけますか?

鈴木:はい。

─一つ目の仮説なんですが、テレビという「魔法の箱」がお茶の間という「場」をつくった。ここまでは、よく言われることだと思うのですが、昔を振り返ると「テレビに支配されている快感」みたいなものがあったと思うんです。お茶の間のド真ん中にでーんとあって、当時はまだ録画なんてことは出来ませんから、好きな番組が始まるのをテレビの前で正座して待っている、みたいな。テレビのことが好きすぎて、もうどうにでもして、という感覚。これって、ある意味「テレビに支配されていた」ということじゃなかったのかな、と。

鈴木:支配、ですか……。支配されてる、と思ったことはないですね。とにかく「新しくて面白いもの」は、当時テレビからしか得られなかったから。チャンネルを捻れば、見たことも聞いたこともないものが次々に飛び出してくる。そりゃ、魂、持ってかれますよね。それが「支配されてる」ということ、なのかも知れないけど。

─僕の感覚でいうと、テレビって「学校」みたいなものだったんですよ。時間割(タイムテーブル)に支配される、テストやかけっこの成績(視聴率)に支配される、おなかが空く頃には大好きな給食をみんなで食べる。決してイヤだということではなく、それがもう、楽しくて楽しくて仕方なかった。なのに、あるとき「学校」という枠組みからぽーんと外に投げ出されて、どうしたらいいのか途方に暮れている、みたいな。

鈴木:枠組みということでいうと、昔とはすべてが違いますからね。たとえば視聴率にしたって、昔はその番組の成績を測る唯一の指標だったけど、今は違う。とにかくF1層さえ掴んでおけばいい、なんてことはもうない。50代、60代はどう視聴しているかといったことがきちんと数字としてあがってくる。これはもう、校則が変わったというか、法律(憲法)が変わった、くらいの変化だと思います。

TVer
─それでいうと、リアルと非リアルの境界もなくなりましたよね。

鈴木:テレビを見ている側もリアルだし、テレビに映っている向こう側もリアル。共にリアルだと何が起こるのかというと、よくも悪くもお互いに「干渉」し合うようになる。批難や悪口といったものは簡単に想像できることだけど、たとえば視聴率としてはいい数字がとれなかった番組が、DVD化や映画化されることで大きくハネたりすることがある。つまり、マネタイズされることでそのコンテンツの品質が証明されるんです。

─それは、つくり手冥利に尽きる、というものですね。

鈴木:そう。別に僕は、お金がほしいわけじゃない。ただ、褒められたいんです。「ほら、やっぱりおもしろいよね」と言いたいというか。お金を払ってでも、観たい。これは、ものすごくわかりやすくて正直な評価ですから。

─「褒められたい」というのも、とても純粋な動機です。

鈴木:バラエティーの中でも演出家の「作家性が強いモノ」が選ばれているような気がします。

「作り手で選ばれるワイン」みたいなことだと思うんです。ワイナリーのオーナーからしてみれば、こんなうれしいことはない。褒められたくて、褒められたくて、だから、土の一粒にまでこだわってつくる。その思いが、感度の高い人に、まず伝わる。

─そこからじわじわと人気に火がついて……ということですね。まさに、今の時代そのものだ。

鈴木:その分、つくり手としては怖いですけどね。感度が高いということは、確かな舌を持っているということだから、「今回は手を抜いたな」みたいなことまできちんと伝わっちゃうんです。

TVer
鈴木:その意味では、お世辞でもなんでもなく、TVerがテレビの未来を握ってると僕は思います。テレビに代わるメディアの王者になるとかそういうことではなく、テレビの未来の「カギ」を握ってる。情報感度の高い人に、なにがどれだけ届いてるのか、刺さっているのか、が一目瞭然なんです。

─「カギ」というニュアンスは、とてもよくわかります。インタビューの冒頭で「かつてあったテレビに支配される快感」みたいなことを申し上げましたが、いまの時代、作り手も見る側も、あれれ?ここにカギ穴らしきものがあるぞ、どれどれこちょこちょこちょ……みたいな感覚で、メディアと接していますものね。

鈴木:そう。それは、テレビに限ったことじゃない。SNSだってそうだし、ゲームだってそう。情報感度の高い人というのは、流行りモノだから飛びついてるわけじゃない。カギ穴をこちょこちょするのが好きなんだと思う。

─ネット検索みたいな行為とは、ぜんぜん違う、と。

鈴木:テレビが圧倒的に「新しくて、面白いもの」であることは、今も昔も変わらない。ただ、昔のように「ほら、これが新しいですよ!」「ほらほら、これが面白いんですよ!」という感じに、テレビ側からぐいぐいアプローチはしてくれない。

─お茶の間で、大人気!視聴率が、それを示してます!みたいな。

鈴木:実際、ドラマの脚本を担当していると「TVer、どう?」って聞いちゃうもの。期待半分、心配半分で。これは、テレビ業界をあえて代表して言いますけど、テレビ業界人のあるある、だと思うな。

(聞き手:ウェブ電通報編集部)


【編集後記】
鈴木おさむ氏とは、むろん初対面である。でも、インタビューをはじめて5分くらい経ったところで、「ああ、この人は、純粋な人なんだな」ということがよくわかった。

純粋であるとは、どういうことか。主張に一切のブレがないということだ。ブレがない、というと、頑固一徹の職人みたいな人をイメージしがちだがそうではない。たとえば、「褒められたいのよー」という発言。まるで、少年のよう。でも、それに続けて鈴木氏はこう言い放つ。「褒められるためだったら、僕はなんでもするよ」と。

ブレがないから、結論も早い。行動も早い。ある意味、とてもテレビ的だ。それはテレビというものがお茶の間に鎮座していた「魔法の箱」だった時代も、「魔法のコンパクト」さながら手のひらの上で楽しむようになった今も、変わらない。なぜなら、人はいつの時代も「テレビ的」なものを追い求めているからだ。時間がなくて質問し損なったのだが、鈴木氏ならこう答えるにちがいない。「テレビ的なものを楽しみたいなら、やっぱりテレビをおいて他にないんじゃないの?」と。


鈴木おさむ氏が脚本を手がけた最新ドラマ「殴り愛、炎」の情報については、こちら

奨学金を批判する人への根本的疑問…底辺からでも這い上がれる素晴らしい救済制度だ

 4月から晴れて社会人になる人のなかには、学生時代に借りた奨学金の返済が始まる人もいると思います。しかし昨今、奨学金が返済できずに苦しんでいる若者がいることで、「奨学金は悪質な学生ローンだ」「奨学金は貸与ではなく給付にすべきだ」などという論調を目にすることがあり、それが私にはどうにも腑に落ちず、奨学金制度について主観を論じたいと思います。

 私は旧日本育英会から借りた奨学金で、高校・大学へ進学しました。返済猶予制度を利用しましたから、総額約350万円を完済したのは確か40歳頃だったと思いますが、私に東京に出る機会を与えてくれた奨学金制度には感謝しています。だから私の場合、好意的なバイアスがあるのは確かです。

 もちろん、経済的に苦境に陥っている人もいて、奨学金を借りたことを後悔している人がいるのも事実でしょう。延滞を繰り返し、ブラックリスト入り(個人信用情報データベースに事故記録として記載される)してしまった人もいると思います。もしかしたら、お行儀の悪い督促担当者に遭ったという人もいるのかもしれません。世の中にはいろんな状況、いろんな立場の人がいますから、「これが正しい」とか「これが絶対だ」というわけではありません。

 しかし昨今、奨学金に関して世間の注目を集めるのは、こうした社会的弱者の存在を根拠に、奨学金悪玉論に傾きがちな世論です。私は、それは制度へのミスリードにつながると感じており、そうした主張に対して、「奨学金は社会に必要な救済制度である」ということを主張しておきたいのです。

「奨学金は借金だ」という意見がありますが、もちろん借金です。それをことさら「借金だ」とネガティブにいう人は、「奨学金はもらえるという前提」を持っているのではないでしょうか。奨学金には給付型と貸与型があり、前者はもらえるもの、後者は返済が必要です。「だったら教育ローンとか学資ローンという名前にしたほうがいい」という声もあるようですが、民間金融機関の教育ローンと区別するためにも、別に奨学金のままで問題ないと思います。

 奨学金はその名のとおり、学ぶことを奨励するための資金であり、そもそも最初から給付とか貸与とかが決まっているわけではないのですから。受け止める側の「奨学金ならもらえるべき」といった固定観念にすぎない印象です。

 そもそも奨学金のメリットは、

・保護者が低所得でも学業の機会が開かれる

・無担保で15年という長期間借りられる(保証人・連帯保証人は必要)

・無利子もしくは低利

・就学中は利払いすら不要

というもので、大盤振る舞いな好条件です。これがたとえば事業主の読者なら、「こんな条件で借りられるなんて、なんて優遇されてるんだ」と感じるはずです。

 そしてこれはほかの借金にもいえるのですが、最初から良い借金と悪い借金が決まっているわけではなく、良い借金にできる人と、悪い借金にしてしまう人の両方がいるというだけだと思います。

 たとえば私は借金をして不動産投資をしていますが、家賃収入から返済額を引いた残りが手取りとなって、私の収入を増やしてくれています。一方、新しい服やブランドバッグが欲しいからと借金すれば、返済は自分の収入の中からですから、生活が苦しくなります。

底辺からでも這い上がれるのが日本の素晴らしさ

 当時の私の状況を少し紹介します。私は父親の反対を押し切り、東京の大学に進学しようと高校は普通科を選択しましたから、学費の支援も仕送りもないと言われていました。だからすべて自分で捻出しなければならず、奨学金を借りることは大前提でした。それで無利子の第一種奨学金を借りられたのですが、当然ながら卒業後は返済が始まるという説明は受けました。母親からは「利息がつかないからちょっとオトクよ」と言われ、当時は利息はなんのことやらという感じでしたが、安いなら良かろうという程度の認識でした。

 学生時代はちょうどバブルの頃で、バイトの時給も高いし先輩たちも2桁の数の内定をもらっていましたから、このままなんとかなるだろうと思っていました。しかし私が就職活動を始める直前にバブルが崩壊し、就職氷河期第1号になってしまったのです。私は結局どこにも就職が決まらず、卒業式を迎えます。

 卒業後はフリーターとして、居酒屋やビル清掃のアルバイトで細々と食いつなぎました。

 だから奨学金の返済が始まる通知が来たときも、とても払えないと育英会に電話し、返済猶予制度で返済開始を遅らせてもらいました。

 その半年後くらいにようやく就職が決まったものの、ミスばかりして約1年後にクビ同然で追われるように辞めました。その後はコンビニエンスストア本部、外資戦略系コンサルを経て独立起業し、今に至ります。

 という感じで、底辺から這い上がった経験があるがゆえに、私には生存者バイアス(自分の特殊な経験や価値感を一般化しすぎる)が強いのも自覚しています。

 しかし、奨学金を悪という人には、やはり次のような疑問が湧いてくるのです。

奨学金を悪く言う人への疑問

(1)奨学金は借金であり、卒業後には返済が始まるという説明を受けたのではないか?

 大学の職員として勤務する私の友人曰く、奨学金は借金で返済があるということはしっかり説明しているということです。つまり、奨学金を借りる学生は、奨学金の返済は織り込み済みで学生時代を過ごし、就職し、返済をスタートさせると思うのです。

(2)借り過ぎかもしれないという自制は働かなかったのか?

 私の場合、自宅外・文系だったので、月々の受給額は5万4000円ぐらいだったと思いますが、学費が高い医学部や理工学系はもっと借りられるようです。何かの記事で、総額500~600万円借りて返済が苦しい人の事例を読んだことがありますが、それくらいの額になれば、確かに厳しそうです。むろん、私のようにバイトしないと生活できないという場合、生活費も含めて奨学金を借りられるだけ借りるというケースもあるかもしれませんが、金銭感覚の乏しい学生であっても、さすがにそれはビビる金額のような気がします。

(3)借金してまで進学する以上、元を取るべく学生時代に努力をしなかったのか?

 お金を借りて進学するとは、かなり覚悟が必要なはずです。では、自分はそもそも何のために進学するのか? 進学して何をするのか? 私もそこまで明確ではなかったものの、講義のほとんどがつまらないと感じてからは、公認会計士を目指していわゆるダブルスクールにいそしみました。その費用も分割払いで、さらに借金が増えてしまったわけですが、お金を借りた以上は当然ながらそれ以上の人間になろうともがいていました。

 私が進学した当時、いまから約30年前は、大学に行くことが選択肢を広げる方法でした。しかし今、大卒がそこまで価値ある学歴なのでしょうか。ただ周囲が進学するから、なんとなく大学に行くのが当たり前だから、メディアが高卒と大卒では生涯年収が違うと煽るから、などという理由に流されて大学に進学しても得られるものは多くないでしょう。

(4)奨学金の返済を加味した家計設計を考えなかったのか?

 たとえば東京での大卒初任給は、手取りで16~18万円くらいだと思いますが、スマホに月1万円以上使い、家賃が7~8万円もする部屋に住んでいる人がいます。そこに奨学金の返済が加われば、それはさすがに苦しいはず。だから本来は、収入に合わせて家計や生活構造を変えるはずです。自分の家計の収支すら見直せないとしたら、いったい大学で何を学んだのか。いくら勉強ができても、生活の知恵が回らないとしたら、なかなか大変だろうと思います。

 私が社会に出たての頃は携帯電話もスマホもありませんでしたが、いまなら格安SIMで月3000円程度でしょう。東京でも家賃3万円程度のアパートはたくさんあります。私も、駅から徒歩5分で家賃月5万5000円のアパートから、駅から徒歩20分で4万5000円のアパートに引っ越したのを覚えています。

(5)苦しいなら返済猶予制度を使わないのか?

 前述の通り奨学金には返済猶予制度がありますから、事情を説明すれば返済開始時期を遅らせてもらうことができます。私もそうしました。なのでもし家計が苦しいなら、その制度を利用すればよいのに、と思うのは自分だけでしょうか。

 奨学金の返済は、次の世代にバトンを渡すことだ、というのが私の考えです。先輩が苦労して返済した奨学金が、自分が進学する際の原資になっている。同時に自分が返済する奨学金が、次の世代が進学するための原資になる。しかし、もし今自分が苦しいからと、そのバトンを落としてしまったら、どうなるでしょうか。

 自分は先輩方のお金を使って進学していながら、世代間扶助のサイクルを自ら断ち切り、後輩が学ぶ機会を奪ってしまうかもしれないという身勝手さに、想像力を働かせたいと思います。

 という感じでちょっと辛辣な書き方になってしまいましたが、だからといって奨学金の返済ごときで、弱冠20代で人生に絶望しないでいただきたいと思います。なぜかというと、仮にいま25歳だとして、職業人生はあと40年もあるからです。20代はまだ周囲から教えてもらっている状態ですから、収入が低く生活が苦しくて当たり前。でもそれを乗り越え、30代、40代になり、仕事の実力がついてくれば、いくらでも挽回できます(と、私は希望を持つことを推奨しています)。

 時間軸を長く見据えて研鑽し、人生の後半戦を尻上がりで迎えられるほうが幸福度が高いということを、奨学金で進学した先輩からのお説教としたいと思います。

(文=午堂登紀雄/米国公認会計士、エデュビジョン代表取締役)

●午堂登紀雄

1971年、岡山県瀬戸内市牛窓町生まれ。

岡山県立岡山城東高等学校(第1期生)、中央大学経済学部国際経済学科卒。

米国公認会計士。

東京都内の会計事務所、コンビニエンスストアのミニストップ本部を経て、世界的な戦略系経営コンサルティングファームであるアーサー・D・リトルで経営コンサルタントとして勤務。

2006年、不動産仲介を手掛ける株式会社プレミアム・インベストメント&パートナーズを設立。

2008年、ビジネスパーソンを対象に、「話す」声をつくるためのボイストレーニングスクール「ビジヴォ」を秋葉原に開校。2015年に株式会社エデュビジョンとして法人化。

不動産コンサルティングや教育関連事業などを手掛けつつ、個人投資家、ビジネス書作家、講演家としても活動している。

あのカセットボンベの会社?なぜ「岩谷産業」が世界の水素社会の命運を握るのか?

 これまでの炭素中心社会の地球温暖化の弊害を防ぐため、現在、世界的に脱炭素=水素中心社会への変革期を迎えている。主要国の政府や企業は、一斉に水素の利用に向けた取り組みを強化している。水素の可能性は大きい。水素は燃料や発電に利用でき、燃焼時には二酸化炭素(CO2)が排出されない。また、水素はエネルギーの貯蔵手段にもなる。経済全体でのより効率的かつ循環的なエネルギー供給と消費を目指して水素利用が重視されている。

 それが意味することは、世界が、脱炭素から水素を中心とする社会と経済の運営に急速に向かい始めたことだ。水素社会を目指した取り組みに関して、日本では岩谷産業が存在感を示している。突き詰めていえば、同社は水素社会を支えるインフラ企業を目指そうとしているとの印象を持つ。

 中長期的な展開を考えると、岩谷産業にとって水素関連事業は成長の柱として重要性が高まるだろう。同社がスピード感をもって水素製造などに関する信頼性の高い技術を確立することは、世界各国の水素社会への取り組みに影響を与える。そうした成長の機会を手に入れるために、岩谷産業は独自の取り組みに加えて国内外の企業や研究機関などとの連携を強化する必要がある。

水素社会実現に向けた取り組み

 世界的に、水素の利用によって社会と経済の運営(水素社会)を目指す国が増えている。なぜなら水素はCO2を発生しない。水素利用のために、主に製造工程における脱炭素技術の重要性が高まっている。世界的なエネルギー源のパラダイムシフトを引き起こしている主役は水素だ。

 以上の点を踏まえたうえで、水素社会を目指した各国での取り組みを確認しよう。日本では、岩谷産業が水素社会を目指して積極的に事業を展開している。岩谷産業といえば、食卓で使う簡易ガスコンロなどに使われるカセットボンベが思い浮かぶ。しかし、同社は創業当初から、水素が究極のクリーンエネルギーであるとの考えを堅持し、水素の製造や輸送、貯蔵、利用に関する技術を開発してきた。

 同社の水素事業が自動車分野でのイノベーションに与えた影響は軽視すべきでない。トヨタやホンダが水素を用いた燃料電池自動車(FCV)の実用化を実現した背景には、岩谷産業による水素ステーションの運営がある。そうした取り組みに押されるようにして、日本政府は水素利用を重視し始めているように見える部分もある。

 海外に視点を向けると、リーマンショック後、欧米を中心に水素の可能性への注目は徐々に高まった。米国では、iPhoneのヒットを実現したアップルなどが、ITデバイスの駆動時間を長くするために水素を用いた燃料電池の開発に取り組んだ。IT先端企業にとって、環境負荷の小さいエネルギー源を活用することによって持続的かつ循環的なエコシステムを確立し、その結果として成長と脱炭素への寄与を目指すことの重要性は高まっている。

 欧州では、ドイツが気候問題の解決などに向けて水素社会の実現を急いでいる。自動車が主力産業のドイツにとって、岩谷産業やトヨタが連携してFCV利用を支えるインフラを整備していることは脅威だろう。コロナショックからの経済の立て直しのためにも、ドイツは水素社会への取り組みをより重視している。米バイデン政権も水素を重視している。国際世論の変化に押されるようにして、有力産油国であるロシアやサウジアラビアが水素社会への取り組みを進めている。

水素事業の強化にとり組む岩谷産業

 水素の製造方法はさまざまある。その中で注目されているのが、“グリーン”と“ブルー”と呼ばれる水素の製造方法だ。まず、グリーン水素とは、再生可能エネルギーによって得られた電力を使って水を電気分解して製造される水素を指す。また、 ブルー水素とは、化石燃料を用いたガス化などの技術とCO2を回収・貯蔵する技術を組み合わせて生産される水素を指す。そのために脱炭素技術の重要性が高まっている。

 現在、ドイツなどの欧州各国はグリーン水素の活用をより重視している。その背景には、欧州各国の政府や企業が注力してきた再生可能エネルギーの利用を推進し、国際世論における欧州の影響力を強めたいとの目論見があるだろう。ただし、グリーン水素の生産は気象状況などに左右される。米国のように想定外の寒波などが発生した場合の電力需要に対応するためには、水素製造源の分散が必要だ。

 岩谷産業は、グリーンとブルー、両方の水素を視野に原料、製造、輸送、利用を支えるサプライチェーンの確立に取り組んでいる。グリーン水素に関して、岩谷産業は“福島水素エネルギー研究フィールド”の運営に携わっている。福島水素エネルギー研究フィールドではトヨタ自動車が水素利用の実証事業に意欲を示すなど、震災からの復興と水素社会の実現の両面で注目を集めるだろう。岩谷産業は、オーストラリアの電力会社や鉄鉱石企業、およびわが国の川崎重工と協力して、再生可能エネルギー由来の水素製造、水素の液化および輸送事業の確立を目指している。

 また、ブルー水素の分野で岩谷産業は内外の企業と連携してオーストラリアで褐炭を用いて水素を製造し、多国間の水素サプライチェーン構築を目指す実証試験を行う。現在、日豪政府は、米国およびインドとの連携(日米豪印のクアッド体制)を強化して自由で開かれたインド太平洋地域の実現を目指している。その状況下、岩谷産業と豪州企業などとの連携強化は、インド太平洋地域における水素社会への取り組みを加速させる要因の一つになり得る。

アライアンス強化の重要性

 このように考えると、世界各国が水素社会の実現を目指す中で岩谷産業は相対的に良好な競争ポジションを手に入れているといえるだろう。同社に期待したいことは、さらなる競争力の発揮を目指すことだ。そのためには、自社内での研究・開発の強化が欠かせない。それに加えて、国内外の企業などとのアライアンスを推進して、水素社会を支える技術を生み出すことの重要性も一段と増す。そうした取り組みが、水素社会を支えるインフラ企業としての岩谷産業の競争力発揮を支えるだろう。

 例えば、米国では化石燃料を用いた水素製造技術の開発に取り組むスタートアップ企業がある。それに加えて、廃棄物を原料に水素を製造する技術の確立に取り組む企業もある。米国の自動車産業ではエンジン専業メーカーがFCVへの研究開発に取り組み始めた。そうした変化をもたらした要因の一つとして、岩谷産業がトヨタ自動車などと協力してFCV利用のインフラを整備したことは大きいだろう。岩谷産業が水素関連分野での影響力を高めるためには、自社の技術やノウハウと新しい発想の結合を増やすことが欠かせない。

 岩谷産業は国内外で異業種との連携や合弁事業に取り組んでおり、その重要性をしっかりと認識している。それが、同社の成長期待を支えている。2020年9月頃から同社の株価は上昇傾向が鮮明化した。世界が水素社会の実現を目指す中で、岩谷産業の存在感が一段と高まる展開を想定する投資家は多いようだ。

 今後、岩谷産業には、水素分野の世界的なリーディング・カンパニーとしての立場を目指してもらいたい。そのために、グリーンとブルー水素の製造コストの引き下げや、持続的な水素利用を支える技術とシステム開発の重要性は高まる。岩谷産業が内外の企業と連携して水素の製造や消費を支えるより良い技術を確立することは、各国が水素社会を目指す中でわが国の発言力向上を支える要因の一つにもなるだろう。それくらいの大胆な発想を持って、同社経営陣が水素に関する事業戦略を立案・実行する展開を期待したい。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

●真壁昭夫/法政大学大学院教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。

著書・論文

『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)

『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)

『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)

『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)

『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。

WHO、コロナ報告書が骨抜き、中国の意向が色濃く…パンデミック対処能力の欠如が明白

 世界保健機関(WHOは3月30日、国際調査団が中国湖北省武漢市で実施した新型コロナウイルス(以下、コロナ)の起源に関する報告書を公表した。調査は今年1月末から4週間をかけて実施されたが、報告書の公表はこれまで何度も延期されてきた。待ちに待った報告書の公表だったが、その内容は残念なものだった。事前に予想されていたが、報告書を共同で作成した中国側の意向が反映されたかたちになっている。

 報告書は、コロナがどのように人に感染するようになったかについてのいくつかの仮説を検証し、可能性が最も高いものから最も低いものまでを順位付けしている。報告書が最も可能性が高いとしたのは、「コロナが最初の宿主動物(コウモリの可能性が高い)から別の中間宿主動物に広がり、その後、人に感染するようになった」とする仮説である。2013年に中国雲南省の洞窟に生息するコウモリから、遺伝子情報が新型コロナウイルスと96パーセント以上合致するコロナウイルスが見つかっている。

 しかし4パーセント弱しか違わなくても、自然の進化だけでは数十年の時間が必要であることから、「ミッシングリンク(失われた環)」としての中間宿主が存在した可能性が高い。中間宿主の候補としてミンクやセンザンコウなどの名前が挙がっているが、武漢市周辺に生息する家畜や野生動物を検査した調査団は、コロナの痕跡を見つけることはできなかった。

 次に中国側が強く主張してきた「冷凍食品の製品やその包装が新型コロナウイルス感染の経路となった」とする仮説については、「コロナは氷点下でも生存できることからその可能性はある」とした上で「コロナの食物経由感染を示す決定的な証拠は見つかっておらず、その可能性は非常に低い」と結論付けている。

 最後にトランプ前政権が強く主張してきた「コロナが武漢ウイルス研究所におけるなんらかの事故によってもたらされた」とする仮説については、「武漢ウイルス研究所の安全レベルは高く、その可能性は極めて低い」としている。主張が真っ向から対立する中国と米国だが、報告書の内容は「中国の主張にやや利がある」との印象を与えている。

「オリジナルのデータ及び検体へのアクセスが欠如」

 報告書の発表を受けて、日米をはじめとする14カ国は30日、「WHOが中国で実施した調査の時期は遅く、オリジナルのデータ及び検体へのアクセスが欠如していたことについて、共通の懸念を表明する」とのメッセージを発出した。

 「中国寄り」と揶揄されていたテドロス事務局長も報告書公表後の記者会見で、「調査団のメンバーからは生データへのアクセスが困難だったことが指摘されていた」とし、コロナの起源については「今回の調査が十分であるとは考えておらず、より確かな結論にたどり着くためにさらなるデータや調査が必要となる」と中国に追加調査団を派遣する可能性があるとの考えを示した。

 さらにテドロス氏は、報告書が「最も可能性が低い仮説」と結論付けた「武漢ウイルス研究所からの漏洩」についても、「生データの提供が十分ではなく、さらなる調査が必要である」との認識を示し、米中の対立のはざまで苦しい舵取りをする苦悩をにじませた。

 米国では疾病対策センター(CDC)のレッドフィールド前所長が26日に公開されたCNNのインタビューで、「コロナの起源は武漢ウイルス研究所にある」との見方を示したように、「中国は今回のパンデミックについて責任をとるべきである」とする論調が強いが、ブリンケン国務長官は28日、「私たちにとっての課題は、将来のパンデミックを防ぐために、より強力なシステムを構築することに焦点を当てる必要がある」と述べ、前政権のアプローチとの違いを明らかにした。

国際的な枠組みの構築が必要

 ドイツ、フランスなど23カ国とEU、WHOは29日、「将来の新たなパンデミックに対応するための新しい国際条約を用意すべきである」と呼びかける共同寄稿文を発表した。寄稿文が要求する条約には「将来のパンデミックとなり得るウイルスを体内に保有している動物に対するサーベイの必要性」が盛り込まれている。米CDCは「今後発生が予測される新興感染症の4つのうち3つは動物由来であり、なかでもコウモリ由来のパンデミック発生には要注意である」との見方を示しているが、近年、中国南部や東南アジアの開発が進み、人とコウモリが接触しやすい環境となったことがその背景にある。

 コロナのパンデミックを契機に、WHOはアジア地域全体でコウモリの体内に存在するウイルスについて調査を行った結果、日本を含めアジア各地に生息するコウモリからコロナに類似する新種のウイルスが見つかっている。「コウモリの体内に存在するウイルスに関する基礎データを得ることにより、新たな感染症発生の可能性を予測できる」と主張する専門家もいる。

 前述の寄稿文には、日本や米国、中国、ロシアなどは加わっていないが、現在のWHOの権能では将来の脅威に対処できないことは明白である。パンデミックへの対処は、今や非伝統的な安全保障分野の最重要事項の一つになってきている。化学剤や放射性物質・核兵器の規制については、国際機関による査察の権限が認められているが、感染症対策を指揮するWHOはこの権限を有していないのである。

 EUは昨年11月、「感染症危機管理に関する強力なルールをつくるべき」と主張し、WHOはこれに賛成しているが、多くの国々は様子見の姿勢をとっているのが現状である。中国をはじめアジア地域が新たな感染症の発生源となる可能性が高いことから、日本も新たな国際的な枠組みの構築のために尽力すべきではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省

1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)

1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)

1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)

2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)

2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)

2016年 経済産業研究所上席研究員

2021年 現職

ファミマ“異常な高クオリティ”食品5選!コンビニ最強の冷凍チーズピッツァ&チキン

 新型コロナウイルス感染症が流行している昨今、飲食店の時短営業や感染リスク回避のために、食事を外で済ませずに買って帰るようになったという人は多いだろう。夜間でも営業していて、手軽に買い物をすることができるコンビニエンスストアは、一変してしまった今の日常でも変わらぬ便利さが感じられる。

 しかしながら、コロナ禍にあって各コンビニチェーンの売上高は減少傾向にあり、それは日本の3大コンビニチェーンの一角である「ファミリーマート」も例外ではない。ファミマが発表した2021年2月期の月次営業報告によれば、客単価は前年同月比で8.2%上昇しているものの客数は13.5%減少しており、既存店日商も6.4%減となっている。

 そんなファミマだが、現在も精力的に新商品の展開がされていて、この春もすでにさまざまな商品が登場中。今回「Business Journal 買うべき・買ってはいけない調査班」は、ファミリーマートの食品を独自にリサーチし、「この春、買うべきファミリーマート商品5選」をピックアップした。

梅と蒸し鶏のあったかそうめん/398円(税込、以下略)

 春の訪れを告げる花といわれている梅は、春を代表する植物のひとつ。そんな梅を味わって舌でも春の到来を実感することができる商品が、この春に発売された「梅と蒸し鶏のあったかそうめん」だ。

 そうめんのトッピングとしてのせられている具材は梅肉を筆頭に、蒸し鶏、錦糸玉子、水菜、とろろ昆布、かつお節とその種類が豊富で、さまざまな味や食感が楽しめる。コンビニのチルド麵というと食感が悪い商品も少なくないイメージがあるが、この商品のそうめんはそういった心配を払拭する高クオリティでまとまっている。

 出汁が効いたあたたかいつゆは優しい味つけで、体だけでなく心もほっこりとさせてくれる味わい。梅肉を全体に溶かすとさっぱりとした風味になるので、お酒のシメにもオススメしたい。

香りとコクのチーズピッツァ/298円

 ファミマの冷凍ピザはデリバリーピザに匹敵するクオリティと評判が高く、2020年8月に掲載された当サイト記事『ファミマ、今“絶品”と評判の食品5選…油そば、ピッツァ、メロンパンアイス』でも「トマト感じるマルゲリータピッツァ」を紹介した。今回取り上げる「香りとコクのチーズピッツァ」も、そのうちのひとつだ。

「香りとコクのチーズピッツァ」の最大の魅力は、商品名にもなっているチーズ。メインの丸いモッツァレラチーズに加え、ゴルゴンゾーラ、パルミジャーノ・レッジャーノの3種のチーズが使われている、まさにチーズ尽くしな商品となっている。

 袋を開けるとチーズ特有のややクセのある香りが漂うが、あたためると焦げたチーズのなんとも食欲をそそる香りへと一変する。味も濃厚かつクリーミーで、チーズ好きには堪らない絶品ピザだ。

とろーりやわらか 半熟煮たまご/159円

 続いて紹介するのは、「お母さん食堂」シリーズの一品である「とろーりやわらか 半熟煮たまご」。数ある味つけたまご系の商品のなかでも人気を集めているポイントは、味とコスパの良さにある。

 ファミマオリジナル商品で店頭でも販売されている「コクと旨みのたまご」を食材として使用し、黄身はトロっとして甘辛な味つけもしっかりとついているので食べ応え抜群。2個入りで159円という価格も、煮たまごにかかる調理の手間を考えればリーズナブル。

 袋を開けて取り出すだけで食べられるというお手軽さも嬉しい。そのままおかずの一品やおつまみにするもよし、カップラーメンなどのトッピングとして加えるもよしと、あらゆる食事の場面で活躍すること間違いなしだ。

このまま使える 乱切り揚げなす/108円

 先に挙げた「香りとコクのチーズピッツァ」のように、近年のコンビニ冷凍食品の品質は驚くほどの進化を遂げている。「このまま使える 乱切り揚げなす」はその名の通り一口サイズに乱切りされ、大豆油で素揚げされたなすを急速冷凍させた、「お母さん食堂」シリーズの冷凍食品だ。

 一切れずつバラバラになっているため、必要な数だけ皿に移して電子レンジで加熱調理するだけで、出来立てさながらの揚げなすを味わうことができる。スーパーなどで販売されているなすとも価格に大きな差がないので、なすを調理する手間をかけたくない人にも打ってつけ。

 また、なす自体に味つけがされていないので、めんつゆやかつお節を加えて揚げなすの煮浸しにアレンジすることや、パスタなどの食材として使うことも自由自在。利便性に優れたお得商品と言えるだろう。

クリスピーチキン(ハバネロホット)/145円

 今年の春に新たに登場した新作ホットスナック「クリスピーチキン」シリーズ。大々的にCMが打たれたことや、“ファミチキ越えの問題児!?”というキャッチフレーズから瞬く間に注目され、全国のファミリーマートで品薄状態となっている。

 そのなかでも数量限定品である「クリスピーチキン(ハバネロホット)」は、かなりの人気を誇る様子。実際に食べてみると、かなり強い辛味が感じられる味つけは辛党の人でも満足できそうな仕上がりで、その人気のほどもうなずける。

 ザクザクとして分厚いものの重さを感じない衣はやみつきになりそうな味と食感で、中身の鶏むね肉はあっさりとしていて、最後まで胃にもたれることもなく食べやすい。インパクトのある宣伝で試し買いした人々をリピーターに変えていくような魅力を秘めているフライドチキンだ。

 以上、ファミマでこの春買うべき商品を5つご紹介してきた。とりわけ「梅と蒸し鶏のあったかそうめん」と「香りとコクのチーズピッツァ」は心の底からオススメしたい逸品。店頭で見かけることがあったらぜひ手に取ってみてほしい。

(文・取材=「買うべき・買ってはいけない調査班」from A4studio)

※情報は2021年3月18日現在のものです。

「令和のヒットメーカー」の原点は倒産寸前の水道屋?“栃木のカリスマ”が東京進出

 飲食業界における一大ブームとなった「タピオカミルクティー」。アパレル業界において異例の大ヒットとなった「スーツに見える作業着」。このまったく異なる2つの分野の事業で大成功を収め、「令和のヒットメーカー」という異名を持つオアシスライフスタイルグループ代表取締役CEOの関谷有三氏の原点にあるのは、「水道屋」である。

 では、なぜ関谷氏は水道、飲食、アパレルという3つの異なる分野で、次々に事業を成功させることができたのだろうか。その成功の原理と法則がつづられた『なぜ、倒産寸前の水道屋がタピオカブームを仕掛け、アパレルでも売れたのか?』(フォレスト出版刊)をのぞくと、関谷氏の半生は挑戦に次ぐ挑戦であり、人の心を揺さぶる強い信念を持っていることが感じられる。

 4回にわたるこの連載を通して、関谷氏の軌跡をたどっていこう。

政治家の夢を見た少年は高校時代にドロップアウトし…

「タピオカミルクティー」「スーツに見える作業着」――近年を代表するこれらのヒットを仕掛けてきた関谷氏は1977年、街のありふれた水道屋の息子として、栃木県宇都宮市に生まれた。

 幼い頃の関谷氏は、どんな子どもだったのだろう。本書を開くと、小さな頃から勉強がよくできたと回想している。小学校時代のテストはほとんど100点。95点を取ろうものなら、悔しさのあまりテストを破り捨てたというから、相当の負けず嫌いだったのだろう。

 そんな関谷少年の夢は政治家だった。東京大学に入り、外交官となって、政界に進出する。そんな人生を描いていたという。

 高校は県下一の進学校に入学する関谷氏。しかし、東大を目指していた彼は、ここからドロップアウトしていってしまう。ガリ勉が集まる男子校に耐えられなかったのだ。他校のかわいい女子と付き合うには、自分のイメージを変えないといけない。身なりをヤンキーに変え、街の不良グループの一員となり、頭脳派として君臨していたという。

 東大から外交官、そして政治家へ――。その夢はとっくに忘れ去っていた。

 高校を卒業した関谷氏は、浪人を経て東京の大学に進学。そこでは持ち前の行動力でイベントサークルを立ち上げ、学生生活を謳歌した。大学卒業後は、そのまま東京でイベント屋にでもなろう。そんなことをぼんやり考えていた矢先、彼は「一番進みたくない道」に進むことを余儀なくされてしまう。

 それは、栃木に戻り、実家の水道屋を継ぐことだった。

 父親が体調不良となり、唯一の営業が動けなくなった実家の水道屋は倒産寸前に追い込まれていた。東京での派手な日々に後ろ髪を引かれつつ、これまでの罪滅ぼしのためにと、水道屋を手伝うことを決めた関谷氏だったが、そう簡単に父の代わりが務まるはずがない。

 勢いだけではうまくいかない。アドバイスをくれる人もいない。がんばればがんばるほど追い詰められていく。一方、東京にいる大学時代の友人たちからは、華やかな世界の話ばかりが流れてきた。関谷氏は彼らとの接触を断つために、携帯電話を着信拒否にした。何もかもうまくいかなかった。

どん底から「栃木の若きカリスマ」へ、そして父親との諍い

 それから3年。当時を振り返り、「ノイローゼ状態」だったという関谷氏は、市役所に貼られた1枚のポスターをきっかけに快進撃を見せ始める。

 そこに書いてあったのは「助成金、お申込み受け付け中」という文字。お金がもらえるならと、関谷氏はさっそく無料相談コーナーのおじいさんのもとに通い、助成金の申請を進める。この名コンビは、日々アイデアを出し合い、チャレンジを続けた。そして、大学との共同研究の助成金を申請し、数百万円という高額をゲットするとともに、研究が実用化に成功、会社名義で特許も出願するという結果を出した。ビジネスの才覚が花開いた瞬間だった。

 さらに、経済産業省の助成金にも挑戦し、北関東で初めて採択されたことから「栃木の若きカリスマ」と呼ばれるようになった関谷氏。県の水道局からの受注を皮切りに、大学との産学連携で考案したオゾンを利用した水道管メンテナンス事業は拡大し、水道屋は急成長を遂げていく。

 しかし、良いことがあれば、問題も起こるものだ。この頃になると、元気になった父親とぶつかることが多くなった。そして、2人の話し合いは平行線をたどり、結局は関谷氏が会社を辞め、再び東京に戻ることを決める。

あの震災から得た2つの教訓

 再び戻ってきた東京は光り輝いているようだった。さっそく六本木ヒルズが見える西麻布の外れのマンションの一室を借り、会社を設立した。社名は「オアシスソリューション」。楽園を目指してオアシス。IT企業のようにシステム「SYS」と「SOLUTION」をくっつけた。2006年、関谷氏は28歳にして独立を果たした。

 しかし、まだ事業が決まっていない。そこで思いついたのが、自ら手がけていた水道管メンテナンス事業だった。東京には星の数ほどマンションがある。それは水道屋にとってビッグビジネスの可能性があるということだ。父親に頭を下げて「あの事業を東京でやらせてほしい」と告げ、許される。

 事業も決まり、さらに社員も入社した。ところが、マンションの管理会社に営業をしても、まったく相手にされない。東京において実績がまったくない会社に、入り込む隙間はなかったのだ。

 それでも関谷氏はあきらめない。オゾンによる水道管メンテナンスは、マンションにとって役に立つ技術。アポさえ取れれば、興味は持ってもらえる。なんとかしてアポを取ると、とある中堅会社の技術部長から気に入られ、管理組合の理事長を紹介してもらえることになり、トントン拍子で初めての受注が取れた。

 そこからは早い。評判が評判を呼び、次々と商談が決まった。2年目には大阪に進出、3年目には全国に7拠点を持つなど、破竹の勢いを見せるオアシスソリューション。そして、株式上場の話が持ち上がり、準備が始まった。すべてが順調に進んでいた。そしてあの日――2011年3月11日を迎える。

 上場準備は中止。しかし、それよりも大津波が人や建物を襲い、多大な犠牲者が出た。あの震災を目の当たりにした関谷氏は、そこから2つの教訓を得たという。

「一つ目は、事業がひとつしかないと、突然の大きな社会変化に弱く、頼りないということだ。実際、震災の影響で、水道事業の売り上げは一時的だが激減していた。事業を複数にしたい。理想は3本の柱をつくることだ。できれば、いつの時代にも普遍的なテーマである衣食住に関する事業がいい。

 二つ目は、人生は、はかない。いつ死んでも悔いのないよう、様々なことにチャレンジしなくては、ということだ。多くの方が亡くなった。無念だっただろう。自分は今回生かされたが、明日何が起きてもおかしくはない」(p.44より引用)

 心の底からやりたいことが見つかったら、ひるむことなく挑戦しよう――。そう決めた関谷氏の目の前に、さっそく「やりたいこと」が現れる。全国展開に続いて、水道事業のアジア展開を目指していた矢先、市場調査で訪れた台湾で関谷氏の人生は大きく変わるのであった。

(文=編集部)

※本記事はPR記事です。

メルカリで見つけた!車内から桜を楽しむ「お花見ドライブ」に“使えない”アイテム5選

 コロナ禍はまだまだ気が抜けない状況が続くが、そんな状況下でも季節特有のイベントを楽しみたいと思う人は多いだろう。今なら「花見」に興じたくなるところだが、屋外でも宴会を開くのは「密」になりやすく危険だ。そこで今年は宴会をしない、新しいスタイルの花見をしてみてはいかがだろうか。

 おすすめは、車内から楽しむ「お花見ドライブ」だ。車の中でも少人数で換気に気をつければ、安全に花見を楽しめる。「花見」と「ドライブ」の両方を堪能できるので、一石二鳥だ。

「お花見ドライブ」を満喫するためには、車内で快適に過ごせるアイテムの準備が重要となる。とはいえ、中には買うと後悔してしまうようなものもあるのだ。今回はフリマサイトの「メルカリ」で見つけた、お花見ドライブをする際に買うと後悔するかもしれないアイテムを5つ紹介する(各種情報は調査時点)。

ポータブル冷蔵庫

 ドライブに限らず、車での長距離移動が多い人やレジャーに出向く機会が多い人に人気のアイテムが「ポータブル冷蔵庫」だ。保冷はもちろん保温も可能な冷蔵庫を選べば、1年を通して役に立つ。お花見ドライブの際も、冷たいドリンクや手づくりした軽食などを入れておけば、ドライブ中に買い物へ行く手間も減るのでとても便利だ。

 しかし、ドリンクをハイペースで飲むと、トイレが近くなってしまう。ドライブ中は頻繁にトイレに立ち寄れない上に、最近は感染予防のためトイレの貸し出しを控えている店や施設も多い。お花見ドライブにおいては、ドリンクの飲みすぎを防止するため、冷蔵庫まで設置して飲み物の用意に力を入れるのは避けた方がいいかもしれない。

車用芳香剤

 お花見ドライブ中、車内で食事をすると気になるのがニオイだ。揚げ物のニオイなどが車内に充満すると気分が悪くなり、車酔いなどを引き起こしかねない。気持ちよくドライブを楽しむためにも、ニオイ対策は重要だ。

 悪臭の対策に「車用芳香剤」を設置する人もいるだろう。置くだけでその場を良い香りで満たしてくれる芳香剤は、ドライブ中の車内を居心地の良い空間にしてくれるが、悪臭対策としての設置はおすすめしない。食べ物臭と芳香剤の香りが混ざってしまい、より強烈なニオイになってしまうからだ。

 食事をしない場合は芳香剤を置いて車内を良い香りで包んでもいいだろうが、食事をする場合は、消臭剤や消臭スプレーなど、「ニオイを消す」アイテムで対策することをおすすめする。

FMトランスミッター

 ドライブのお供として欠かせないのが音楽。最近はカーステレオとスマートフォンをBluetoothで接続できる車も多いが、車種によってはケーブルなどを用いて接続しなければいけない場合もある。「FMトランスミッター」は、ケーブルなしでもカーステレオとポータブルオーディオプレーヤーをつないでくれる優れ物だ。

 音楽をかけながらのドライブはテンションが上がるものだが、コロナ禍のお花見ドライブでは、換気のために窓を開ける時間が増える。そのため、あまりにもテンションが上がりすぎて大音量で音楽を流したり、大声で騒いでいたりすると、周囲を走行する車の迷惑になってしまう可能性もあるのだ。大音量で音楽が聴けるアイテムの購入は、今年は控えた方が無難だろう。

使い捨てカイロ

 花見のシーズンは春とはいえ、夕方から夜にかけては、まだまだ肌寒さを感じる時期だ。そこで、あると重宝するのが「使い捨てカイロ」。実はメルカリでは使い捨てカイロを大量にまとめ売りしている人も多く、メーカーなどにこだわりがなければ、お得に買うこともできる。

 とはいえ、まとめ売りされている出品物は使用期限が短いものが大半を占めている。そうなると、お花見ドライブのために購入しても1、2個しか使わず、後は使わないまま期限切れ……という無駄な買い物になりかねない。

ブロワー機能付きハンディクリーナー

 桜の木の近くを走行すると、花びらが車のボディに付着してしまう。花びらの掃除と、車内での飲食による食べかすなどの掃除の、どちらにも活躍してくれるのが「ブロワー機能付きハンディクリーナー」だ。

 ブロワー機能が付いていれば、花びらを風で吹き飛ばすことができる。だが、意外と花びらがボディにこびりつくため、ブロワー機能を使っても上手に吹き飛ばせない。特に雨の後などは水分も含んでしっかりとこびりつくため、ブロワーの風では歯が立たないのだ。

 車内の清掃だけならとても使いやすいアイテムだが、車体に付いた桜の花びらを一掃しようと思うなら、モップやマイクロファイバー素材の雑巾などを使う方がきれいになるはずだ。

 まだまだコロナ禍は続くと見られるが、感染症対策に十分気をつけ、ニューノーマルなスタイルで花見を楽しみ、気分転換をするのもいいだろう。

(文=清談社)

JRA 池添謙一のお株を奪う「新・代打職人」に大仕事の気配!? 大阪杯(G1)「ギベオン級」超大穴激走のカギを握るのはコースと馬場

 4月4日、阪神競馬場で行われる大阪杯(G1)に、カデナ(牡7歳、栗東・中竹和也厩舎)が出走を予定している。

 近4走は三浦皇成騎手、田辺裕信騎手など関東の有力ジョッキーが手綱を握るも、4着、8着、11着、6着。G1はおろか、G2、G3でも勝ち切れないレースが続いていたが、大阪杯では鮫島克駿騎手に手綱が戻る。

 カデナは昨年、鮫島駿騎手とのコンビで小倉大賞典(G3)を優勝。続く大阪杯でも4着と健闘したが、勝ち馬ラッキーライラック、2着のクロノジェネシスに、上がり最速の33.5秒で0.2秒差まで迫った末脚は圧巻だった。

 レースは12頭立ての芝2000m戦。11番と外枠を引いたカデナの鮫島駿騎手は、レース後「今週からBコースに替わって、昨日今日と競馬を見てインが伸びていましたし、この枠でも外を回らないように気を付けていました」と振り返ったように、スタート後にすかさず最内へと進路をとった。

 最後の直線でも最内を突く一か八かの騎乗を見せ、あわや馬券圏内の4着へと導いたのは、コース替わりの馬場を把握し、カデナのキレる特性を掴んだ好騎乗に他ならない。

「手応え通り伸びてくれていましたが、すごく惜しいです」

 レース後、そのように悔しがった鮫島駿騎手。11番人気とファンの評価は低かったカデナだが、自身には勝算があったということだろう。

 今回、再びコンビを組むこととなった鮫島駿騎手への乗り替わりが、このカデナに劇的な変化をもたらすかもしれない。

 なぜなら、カデナへの騎乗は昨年9月の新潟記念(G3)以来となるが、今年は騎乗馬の乗り替わりで優秀な成績を収めているからだ。

 複勝回収率では代打職人として名高い池添謙一騎手の113%に僅か劣るものの、鮫島駿騎手は単勝で158%、複勝でも109%と期待値100%を優に上回る回収率を叩き出している。

 乗り替わりでの成績は【10-14-10-98/132】で、勝率7.6%、複勝率25.8%と4回に1回は馬券対象となる好走。フェブラリーS(G1)では9番人気のエアスピネルを2着に導き、先週28日に行われた高松宮記念(G1)でも16番人気トゥラヴェスーラで4着と健闘したが、どちらもG1で乗り替わりの1戦だったことを思えば、勝負強さの証明といえるのかもしれない。

 今回のカデナについては『日刊スポーツ』の取材に対して「内回りの2000mは合っていると思う」とコメント。昨年好走の舞台であり、再び一発を狙っていることだろう。

 唯一心配なのは天気で、日曜は先週に続いて雨予報。鮫島駿騎手も「後ろから行く馬なので、馬場状態や展開がポイント」と馬場を気にしているようだ。

 昨年12着と惨敗を喫した宝塚記念(G1)もレース直前に降った雨が影響。レース後に鮫島駿騎手は「前半からどこを走ってものめっていて……。トビが綺麗で、上がりの脚が持ち味の馬ですから、馬場がキツかったです」とコメントを残している。

「切れ味があるし、きれいな馬場でやりたい」

 今回の大阪杯へ向けて、そう語った鮫島駿騎手。昨年9月の新潟記念では、トップハンデの58kgを背負いながら上がり32.3秒の末脚で後方から追い込み、6着と復調の兆しを見せていた。

 今回は、その新潟記念以来となるカデナへの騎乗。鮫島駿騎手の願いが天に届けば、アッと驚く好走が見られるかもしれない。

パチンコ・パチスロ「最も愛された機種」は!?「ジャグラーこそ至高」「ラッシュが快感」など称賛する声が続出!!

 2020年で最も人気を集めたパチンコ・パチスロはどの機種だったのか。一般社団法人ぱちんこ広告協議会は先日、「“ファン”が選ぶパチンコ・パチスロ大賞2020」の投票結果を発表した。

 当企画は、全国のパチンコ・パチスロファンの声を集約することを目的とし、ぱちんこ広告協議会に集うファンメディア各社が中心にとなってファンの声を業界内外に発信していく取り組みのひとつとして開催。2020年に導入・設置された機種を対象に、「その年を代表する機種」をファン投票で選出した。

 投票期間は1月8日から2月26日で、投票は専用HPで行われた。また、パチンコ必勝ガイドのバイク修次郎、パチスロ実戦術の政重ゆうき、パチマガスロマガのわるぺこといった有名ライターたちがアンバサダーを務めた。

 この結果によると、パチンコ部門は得票率10.1%で三洋物産の『P大工の源さん 超韋駄天』が大賞を獲得。投票理由としては「出玉のスピードが最高」「ラッシュが快感」など、時速約36,000発ともいわれる超速出玉性能を支持するコメントが目立った。

 第2位は得票率7.34%でSANKYOの『Pフィーバー戦姫絶唱シンフォギア2』。以下、得票率5.30%で三洋物産の『P大海物語4スペシャル』、得票率4.80%で藤商事(製造:JFJ)の『Pとある魔術の禁書目録』、得票率3.48%で平和(製造:アムテックス)の『P戦国乙女6 暁の関ヶ原』と続いた。

 一方のパチスロは、6号機初のジャグラーシリーズとして導入前から話題を提供した北電子の『アイムジャグラーEX』が得票率12.9%で栄えあるトップ。「定番のジャグラーが一番好き」「ジャグラーこそ至高」とさすがの人気ぶりで、「5号機と同じ感覚で打てる」「出玉は減ったけど、コイン持ちが良くなって5号機より遊べる」など、変わらぬ打感や遊びやすさを喜ぶ声も多かった。

 第2位は得票率8.43%でミズホの『SLOTバジリスク~甲賀忍法帖~絆2』。以下、得票率6.44%でサボハニの『吉宗3』、得票率5.98%でオーイズミの『パチスロひぐらしのなく頃に祭2』、得票率5.61%で大都技研の『押忍!サラリーマン番長2』と続いた。

 稼働率や導入数を考えるとパチンコ・パチスロ共に納得の結果といえるが、その中でも注目すべきは、バジ絆2がパチスロ部門の第2位にランクインした点であろう。

 こういったランキングは記憶に残るマシンほど投票されやすいだけに、年の中盤以降にリリースされたマシンがランクインしやすい傾向にある。

 昨年2月に導入された当機が上位にランクインしたということは、それだけ長期間、稼働を維持しているということ。2021年も、このような名機の誕生を期待したいものである。

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