JRA社台グループ「先物買い」に光る先見の明!? ジオグリフやルヴァンスレーヴ級の大物が登場、旋風を巻き起こしたダートのスプリンターはサンデーサイレンスの再来か

「レースを制したのは、またドレフォン産駒」

 最近の競馬中継を見ていて、やたらと耳にするフレーズである。

 それもそのはず。その理由は、新種牡馬ドレフォンの初年度産駒が、ちょっとした旋風を巻き起こしているからに他ならない。

 今月5日の開催終了時点で2歳馬における同馬産駒の勝利数は7勝。9勝でトップのロードカナロアを2勝差で追っていたが、連勝を決めた先週の土日でそれぞれ2勝して4勝を上乗せ。ついには、12日の開催を終えて11勝と、一気に2歳種牡馬リーディングトップの座を奪った。

 特筆すべきは、ドレフォン産駒の多彩なラインナップだろう。

 先日、札幌競馬場で行われた札幌2歳S(G3)を、4馬身差の楽勝で制したジオグリフは同馬の産駒。来年のクラシックに繋がる芝1800mの重賞でライバルを圧倒し、一躍クラシック候補へのし上がった。11日のアスター賞(1勝クラス)で2着に敗れはしたが、白毛のアイドルソダシの近親ハイアムズビーチも、将来性豊かな2歳牝馬の1頭といえるだろう。

 上記2頭は芝のレースだったが、芝だけではなくダートでも怪物候補を出していることにも注目したい。8月22日の新潟競馬場で行われた新馬戦は、2番人気のコンシリエーレが大差勝ち。同条件となる新潟のダート1800mの新馬戦は、過去にデビュー4連勝で海外遠征したエピカリスが1:54.4、G1・4勝のルヴァンスレーヴが1:54.8(稍重)で勝ち上がっているが、コンシリエーレは1:53.5と上回ったのだから驚きだ。

 そこで気になるのがドレフォンの経歴である。

 米国産馬である同馬の現役時代は9戦6勝の成績。G1・3勝を挙げているが、これはいずれもダートの短距離戦でのもの。スタートと二の脚の速さに定評があり、芝の適性は少なからず感じられていたとはいえ、中距離のレースを走った経験はない。

「ドレフォンの父ジオポンティは、芝の中距離G1を7勝した名馬ですから芝への適性自体は潜在的にあったということでしょうか。母系にもダート中距離でG1勝ちのあるゴーストザッパーがいます。

自身はダートの短距離が主戦場となりましたが、血統的には芝ダートの短距離から中距離までこなせるオールマイティさも兼ね備えていたともいえそうです」(競馬記者)

 勿論、まだサンプル数も少なく未知数な種牡馬ではあるが、デビューしてすぐ2歳リーディングという活躍は、なかなかできるものでもない。そう考えると、「先物買い」ともいえそうなドレフォンを購入した、社台グループの先見の明が光る現在の成績ではないだろうか。

 かつて、アメリカで結果を残していなかったヘイロー産駒のサンデーサイレンスを、社台グループの創業者である吉田善哉氏が購入した際、アメリカの生産者から「とても成功しそうにない母系のヘイロー産駒を買った」と笑われたが、芝、ダートともに大物G1馬を輩出したその後の大活躍は周知の通り。

 この勢いが続くようだと、そう遠くない将来、ドレフォンがサンデーサイレンス2世と呼ばれる日も訪れるかもしれない。

(文=高城陽)

<著者プロフィール>
 大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。

JRA苦境続きの騎手へ恩師から「非情宣告」!? 何度もチャンスを与えた陣営が“降板”に踏み切った原因とは……

 20日の敬老の日、中山競馬場ではセントライト記念(G2)が行われる。現在、ホープフルS(G1)2着以来の実戦となるオーソクレースやスプリングS(G2)優勝ヴィクティファルスなどの実績馬をはじめ15頭が登録している。

 同レースは東の菊花賞トライアルだ。3着以内に入れば菊花賞(G1)への優先出走権が与えられるだけに、賞金面に不安がある馬は是が非でも出走権を得たいところだろう。今回、それに該当しているのが、アサマノイタズラ(牡3歳、美浦・手塚貴久厩舎)だ。

 同馬はデビュー以降、全レースで嶋田純次騎手が鞍上を務めていたが、今回は田辺裕信騎手を予定している。

「遂に乗り替わりになってしまいました。アサマノイタズラは、嶋田騎手にとって数少ない“お手馬”の1頭でした。自身もまだ勝てていない重賞勝ちを期待できる器ですから、今回の乗り替わりが痛いことは間違いありません。

ただ、本人は何度も乗り替わりを覚悟していたみたいです。『とうとうその時が来てしまった』と、いったところでしょうか」(競馬記者)

 デビュー11年目の嶋田騎手は1年目に同期で最も多い18勝を挙げた“かつての期待のルーキー”だったものの、2年目以降は負傷が続いて勝ち星が激減。当時は4年目から減量特典が無くなることも重なって、近年は毎年一桁勝利数が続く厳しい状況だ。

 そんな苦境が続く嶋田騎手だが「助けてくださる人がいたし、そういった方が喜んでくれるのを見ると、(騎手を)辞めようとは思いませんでした」と、過去に平松さとし氏のインタビューで語っている。

「嶋田騎手を助けている1人が星野壽市オーナーです。嶋田騎手はデビュー4年目に1勝で終わってしまいましたが、その年唯一挙げた勝利が星野オーナーの馬でした。

以降も嶋田騎手は定期的に星野オーナーの所有馬に騎乗しています。アサマノイタズラへ継続騎乗ができたのも、オーナーのおかげでしょう」(同記者)

 そして、嶋田騎手を語る上で欠かせないのが、アサマノイタズラを管理する師匠の手塚師だ。手塚師は所属騎手である同騎手へコンスタントに騎乗依頼を出している。それに応えるように、デビュー以来ほぼ毎年師匠の馬で勝ち星を挙げてきた。

「嶋田騎手と手塚師の関係を表す興味深いエピソードがあります。嶋田騎手のお父様が病に倒れた際、手塚師は嶋田騎手に課していた午後の厩舎作業を免除してくれたそうです。

嶋田騎手はそのことを恩義に感じていて『手塚先生は僕が苦しい時、いつも助けてくださいました』と、先のインタビューで答えています」(同記者)

 アサマノイタズラは、星野オーナーの所有馬で手塚厩舎の管理馬でもある。自分が苦しいときを助けてくれた恩人に恩返しをしようと、嶋田騎手はこれまで全身全霊をかけて騎乗してきた。にもかかわらず、今になって突然「非情宣告」を受けてしまったきっかけは何だろうか。

「『3、4コーナーで外を回る形になりましたが、結果的に内を突いても良かったかもしれません』と、嶋田騎手が悔しがったのが前走のラジオNIKKEI賞(G3)です。スタートが遅れてしまい後方からの追走を余儀なくされました。開幕週ということで、皐月賞(G1)同様に道中で動くかと思いきや追走するだけで特に何もせず。終始外を回るだけの競馬となってしまいました

陣営としては何度もチャンスを与えながら、さほど結果が出ていないということで経験豊富な田辺騎手へスイッチしたといったところでしょうか」(同記者)

 残念ながら、今回アサマノイタズラは乗り替わりとなってしまったが、日曜中山9Rでは全5戦中4戦でコンビを組んで2勝しているキモンブラウン(牝3歳、美浦・手塚貴久厩舎)が出走を控えている。恩師への恩返しするチャンスはまだ残っているだけに、好騎乗を期待したい。

(文=寺沢アリマ)

<著者プロフィール>
大手スポーツ新聞社勤務を経て、編集部所属のライターへ。サラ系・ばん馬のどちらも嗜む二刀流で「競馬界の大谷翔平」を目指すも収支はマイナス。好きな競走馬はホクショウマサル。目指すは馬券的中31連勝だが、自己ベストは6連勝と道は険しい…。

JRA苦境続きの騎手へ恩師から「非情宣告」!? 何度もチャンスを与えた陣営が“降板”に踏み切った原因とは……

 20日の敬老の日、中山競馬場ではセントライト記念(G2)が行われる。現在、ホープフルS(G1)2着以来の実戦となるオーソクレースやスプリングS(G2)優勝ヴィクティファルスなどの実績馬をはじめ15頭が登録している。

 同レースは東の菊花賞トライアルだ。3着以内に入れば菊花賞(G1)への優先出走権が与えられるだけに、賞金面に不安がある馬は是が非でも出走権を得たいところだろう。今回、それに該当しているのが、アサマノイタズラ(牡3歳、美浦・手塚貴久厩舎)だ。

 同馬はデビュー以降、全レースで嶋田純次騎手が鞍上を務めていたが、今回は田辺裕信騎手を予定している。

「遂に乗り替わりになってしまいました。アサマノイタズラは、嶋田騎手にとって数少ない“お手馬”の1頭でした。自身もまだ勝てていない重賞勝ちを期待できる器ですから、今回の乗り替わりが痛いことは間違いありません。

ただ、本人は何度も乗り替わりを覚悟していたみたいです。『とうとうその時が来てしまった』と、いったところでしょうか」(競馬記者)

 デビュー11年目の嶋田騎手は1年目に同期で最も多い18勝を挙げた“かつての期待のルーキー”だったものの、2年目以降は負傷が続いて勝ち星が激減。当時は4年目から減量特典が無くなることも重なって、近年は毎年一桁勝利数が続く厳しい状況だ。

 そんな苦境が続く嶋田騎手だが「助けてくださる人がいたし、そういった方が喜んでくれるのを見ると、(騎手を)辞めようとは思いませんでした」と、過去に平松さとし氏のインタビューで語っている。

「嶋田騎手を助けている1人が星野壽市オーナーです。嶋田騎手はデビュー4年目に1勝で終わってしまいましたが、その年唯一挙げた勝利が星野オーナーの馬でした。

以降も嶋田騎手は定期的に星野オーナーの所有馬に騎乗しています。アサマノイタズラへ継続騎乗ができたのも、オーナーのおかげでしょう」(同記者)

 そして、嶋田騎手を語る上で欠かせないのが、アサマノイタズラを管理する師匠の手塚師だ。手塚師は所属騎手である同騎手へコンスタントに騎乗依頼を出している。それに応えるように、デビュー以来ほぼ毎年師匠の馬で勝ち星を挙げてきた。

「嶋田騎手と手塚師の関係を表す興味深いエピソードがあります。嶋田騎手のお父様が病に倒れた際、手塚師は嶋田騎手に課していた午後の厩舎作業を免除してくれたそうです。

嶋田騎手はそのことを恩義に感じていて『手塚先生は僕が苦しい時、いつも助けてくださいました』と、先のインタビューで答えています」(同記者)

 アサマノイタズラは、星野オーナーの所有馬で手塚厩舎の管理馬でもある。自分が苦しいときを助けてくれた恩人に恩返しをしようと、嶋田騎手はこれまで全身全霊をかけて騎乗してきた。にもかかわらず、今になって突然「非情宣告」を受けてしまったきっかけは何だろうか。

「『3、4コーナーで外を回る形になりましたが、結果的に内を突いても良かったかもしれません』と、嶋田騎手が悔しがったのが前走のラジオNIKKEI賞(G3)です。スタートが遅れてしまい後方からの追走を余儀なくされました。開幕週ということで、皐月賞(G1)同様に道中で動くかと思いきや追走するだけで特に何もせず。終始外を回るだけの競馬となってしまいました

陣営としては何度もチャンスを与えながら、さほど結果が出ていないということで経験豊富な田辺騎手へスイッチしたといったところでしょうか」(同記者)

 残念ながら、今回アサマノイタズラは乗り替わりとなってしまったが、日曜中山9Rでは全5戦中4戦でコンビを組んで2勝しているキモンブラウン(牝3歳、美浦・手塚貴久厩舎)が出走を控えている。恩師への恩返しするチャンスはまだ残っているだけに、好騎乗を期待したい。

(文=寺沢アリマ)

<著者プロフィール>
大手スポーツ新聞社勤務を経て、編集部所属のライターへ。サラ系・ばん馬のどちらも嗜む二刀流で「競馬界の大谷翔平」を目指すも収支はマイナス。好きな競走馬はホクショウマサル。目指すは馬券的中31連勝だが、自己ベストは6連勝と道は険しい…。

JRA苦境続きの騎手へ恩師から「非情宣告」!? 何度もチャンスを与えた陣営が“降板”に踏み切った原因とは……

 20日の敬老の日、中山競馬場ではセントライト記念(G2)が行われる。現在、ホープフルS(G1)2着以来の実戦となるオーソクレースやスプリングS(G2)優勝ヴィクティファルスなどの実績馬をはじめ15頭が登録している。

 同レースは東の菊花賞トライアルだ。3着以内に入れば菊花賞(G1)への優先出走権が与えられるだけに、賞金面に不安がある馬は是が非でも出走権を得たいところだろう。今回、それに該当しているのが、アサマノイタズラ(牡3歳、美浦・手塚貴久厩舎)だ。

 同馬はデビュー以降、全レースで嶋田純次騎手が鞍上を務めていたが、今回は田辺裕信騎手を予定している。

「遂に乗り替わりになってしまいました。アサマノイタズラは、嶋田騎手にとって数少ない“お手馬”の1頭でした。自身もまだ勝てていない重賞勝ちを期待できる器ですから、今回の乗り替わりが痛いことは間違いありません。

ただ、本人は何度も乗り替わりを覚悟していたみたいです。『とうとうその時が来てしまった』と、いったところでしょうか」(競馬記者)

 デビュー11年目の嶋田騎手は1年目に同期で最も多い18勝を挙げた“かつての期待のルーキー”だったものの、2年目以降は負傷が続いて勝ち星が激減。当時は4年目から減量特典が無くなることも重なって、近年は毎年一桁勝利数が続く厳しい状況だ。

 そんな苦境が続く嶋田騎手だが「助けてくださる人がいたし、そういった方が喜んでくれるのを見ると、(騎手を)辞めようとは思いませんでした」と、過去に平松さとし氏のインタビューで語っている。

「嶋田騎手を助けている1人が星野壽市オーナーです。嶋田騎手はデビュー4年目に1勝で終わってしまいましたが、その年唯一挙げた勝利が星野オーナーの馬でした。

以降も嶋田騎手は定期的に星野オーナーの所有馬に騎乗しています。アサマノイタズラへ継続騎乗ができたのも、オーナーのおかげでしょう」(同記者)

 そして、嶋田騎手を語る上で欠かせないのが、アサマノイタズラを管理する師匠の手塚師だ。手塚師は所属騎手である同騎手へコンスタントに騎乗依頼を出している。それに応えるように、デビュー以来ほぼ毎年師匠の馬で勝ち星を挙げてきた。

「嶋田騎手と手塚師の関係を表す興味深いエピソードがあります。嶋田騎手のお父様が病に倒れた際、手塚師は嶋田騎手に課していた午後の厩舎作業を免除してくれたそうです。

嶋田騎手はそのことを恩義に感じていて『手塚先生は僕が苦しい時、いつも助けてくださいました』と、先のインタビューで答えています」(同記者)

 アサマノイタズラは、星野オーナーの所有馬で手塚厩舎の管理馬でもある。自分が苦しいときを助けてくれた恩人に恩返しをしようと、嶋田騎手はこれまで全身全霊をかけて騎乗してきた。にもかかわらず、今になって突然「非情宣告」を受けてしまったきっかけは何だろうか。

「『3、4コーナーで外を回る形になりましたが、結果的に内を突いても良かったかもしれません』と、嶋田騎手が悔しがったのが前走のラジオNIKKEI賞(G3)です。スタートが遅れてしまい後方からの追走を余儀なくされました。開幕週ということで、皐月賞(G1)同様に道中で動くかと思いきや追走するだけで特に何もせず。終始外を回るだけの競馬となってしまいました

陣営としては何度もチャンスを与えながら、さほど結果が出ていないということで経験豊富な田辺騎手へスイッチしたといったところでしょうか」(同記者)

 残念ながら、今回アサマノイタズラは乗り替わりとなってしまったが、日曜中山9Rでは全5戦中4戦でコンビを組んで2勝しているキモンブラウン(牝3歳、美浦・手塚貴久厩舎)が出走を控えている。恩師への恩返しするチャンスはまだ残っているだけに、好騎乗を期待したい。

(文=寺沢アリマ)

<著者プロフィール>
大手スポーツ新聞社勤務を経て、編集部所属のライターへ。サラ系・ばん馬のどちらも嗜む二刀流で「競馬界の大谷翔平」を目指すも収支はマイナス。好きな競走馬はホクショウマサル。目指すは馬券的中31連勝だが、自己ベストは6連勝と道は険しい…。

三菱電機、検査不正“当事者”が新社長就任、異常な社内の常識…想像絶する不正、発覚止まらず

 三菱電機は7月28日、漆間啓専務執行役(62)を社長に昇格させた。不正検査問題を受けて杉山武史社長(64)は引責辞任し、取締役や執行役から外れ、特別顧問に退いた。柵山正樹会長(69)は留任した。

 漆間氏は1982年早稲田大学商学部を卒業し、三菱電機に入社。FA(ファクトリーオートメーション)システムや社会システム部門、欧州部門のトップを務めてきた。20年4月に代表執行役に就任、企画担当専務として、今年6月に発表した中期経営計画をとりまとめた旧体制のNo.2だ。

 漆間氏は記者会見を開き、「危急存亡の時。企業風土の改革を進めて新しい三菱電機をつくり、社会の信頼を取り戻すことが使命だ」と述べた。漆間新社長は「社内基盤が弱い」(関係者)と懸念されている。歴代社長は東大、京大、九州大など旧7帝国大の工学部系の出身者が大半を占めるが、「漆間氏は文系で早大商学部卒」(同)だ。

 不正は、長崎製作所(長崎県時津町)でつくる鉄道車両向けの空調設備や、ブレーキやドアに使う空調圧縮機の検査で発覚した。出荷前の検査で、顧客との取り決めたやり方と違う方法で検査したり、架空のデータを入力したりする不正が1985年ごろから続いていた。架空データを自動的につくる専用プログラムを使用していた。

 三菱電機では2018年以降、製品の品質データの偽装や検査の省略といった不正が今回を含めて計6件見つかった。再発防止に向け、社外の弁護士らによる調査委員会を設け、原因の究明調査を進め、9月中に調査結果を公表する。

 漆間新社長が就任した2日後の7月30日、三菱電機はホームページに「業務用空調・冷熱機器ご愛用のお客様へのお詫びと点検のお知らせ」と題する文章をアップした。冷熱システム研究所(和歌山市)が製造したビルや店舗などの大型施設に使われる業務用空調について、最終検査工程に使う装置が断線による故障で正常に作動していなかった。

 こうした不備が起きていた期間は14年6月から21年7月までの7年間。対象は578機種4万338台に及ぶ。うち27機種2430台は、電気用品安全法が定める検査ができていなかった。

 8月17日には受配電システム製作所(香川県丸亀市)が製造する配電盤(ガス絶縁開閉装置)で検査の不正を行っていたことが発覚した。配電盤は電流の開閉を行う装置で変電所などで使われる。検査前の検査を一部省略したり、顧客の要求とは異なる方法で実施したりしていた。対象となったのは1996~2021年に出荷した4529台。国内外の官公庁や鉄道会社など490社・機関に納入してきた。主要駅や発電所、工場などで使われている。

「安全性に問題はない」を繰り返す

 6月に発覚した品質不正問題を受けて社内調査を進めるなか、従業員からの申告で新たな不正が判明した。7月に設置した弁護士などによる調査委員会が調査を引き継ぐ。9月1日、広島県福山市の工場で製造する遮断器について、安全性を認証する第三者機関による検査時に不正行為があったと発表した。約16年間にわたり、定期検査で実際とは異なる部品を使ったり電圧を低くしたりしていた。

 漆間新社長が就任した7月28日以降、新たな不正が明らかになるのは3件目。不正の連鎖は止まらない。検査の不正を行っていたのは福山製作所で製造する低圧遮断器。ショートや落雷で電圧が急上昇した時に電流を遮断するブレーカーだ。対象となる製品は産業機械向けで国内外に243万台出荷された。今回も、また三菱電機は「安全性に問題はない」と主張している。

 7月20日に社内調査で不正が発覚したが、発表は9月にずれ込んだ。タイムリーディスクロージャーの姿勢からは程遠い。社長直轄の品質保証部門を新設するとしているが、それ以前にやるべきことがある。

 三菱電機は8月23日、配電盤での不正検査が明らかになった受配電システム製作所について、品質管理に関する国際規格「ISO9001」の認証が同日付で一時停止されたと発表した。認証の停止で、一部の入札案件に参加できなくなる懸念がある。官公庁などではISOの取得を入札の条件としている場合がある。鉄道車両向け機器の不正が発覚した長崎製作所でも7月下旬から同認証が停止されている。

隠蔽体質を改革できるのか

 鉄道機器の不正検査は35年前に遡る。35年前は、社長を10年、会長を5年務め、三菱電機の“中興の祖”と呼ばれた進藤貞和氏が代表権を持つ名誉会長の時代だ。「腐敗の根っ子は進藤貞和氏の時代に芽生えた」という、根本問題にかかわる指摘がある。

 進藤氏は父が海軍軍人だったため広島県呉市に生まれ、長崎県と高知県で育った。1933年九州帝国大学工学部電気科を卒業、34年三菱電機に入社。重電部門一筋で長崎製作所長を歴任し、70年社長に就任した。強烈なリーダーシップを発揮し、殿様商売といわれた三菱電機のイメージを一掃。神奈川県・鎌倉市に人工衛星の工場を建設し、宇宙開発事業の礎を築く。80年会長に就任、実力会長といわれ、85年には三菱グループでは前例のない代表取締役名誉会長に就任している。

 進藤氏が所長を務めていたこともある長崎製作所での不正は、少なくとも85年ごろから2020年まで行われていた。顧客が指定する試験は手間暇がかかるため、三菱電機側が定めた条件で一律的に検査し、事後に数値を偽装してつじつまを合わせてきた。

 不正検査三菱電機の閉鎖性に原因があるといわれている。内に閉ざされがちな企業組織では、往々にして「世間の常識」とは異なる「社内の常識」というものが存在する。加えて、財閥系大企業は終身雇用のため社内に他の会社の常識を知る人が少なく、その閉鎖性ゆえに誤った「社内の常識」がまかり通るようになる。「社内の常識」が「世間の常識」と乖離している場合、あらゆる事象の判断プロセスに今までとは異なる具体的な対応が求められる。社外取締役の厳しい目を加え、「社内の常識」に染まっていない外部のやり方を根付かせることが必要になるが、三菱電機の社外取締役は就任してからの期間は軒並み長いのだが、心もとない。

 新たな経営体制である漆間体制になっても「隠蔽体質は変わらない」との批判の声が上がる。新社長に就任した漆間氏は経営企画を担当してきた事実上のNo.2。17~20年には、鉄道用装置の検査不正を起こした部門の事業担当を務めていた。「工場長などの現場責任者じゃない」(社外取締役で指名委員会委員長の藪中三十二氏=元外務事務次官)というのだが、本来なら責任を問われてもおかしくない立場の人である。こういう属性の人が社長になるのは、普通では考えにくい。

 社長交代に伴う企業としての責任の取り方も限定的だ。柵山会長は留任し、杉山氏も社長を辞任したとはいえ特別顧問の座にとどまっている。野間口有・三菱電機特別顧問が発明協会の会長に居座り続けていることに対する批判もある。野間口氏は柵山氏の前任の山西健一郎氏の前の前の社長である。1992年に社長に昇格した北岡隆氏以降、谷口一郎、野間口有、下村節宏、山西健一郎、柵山正樹の5人の社長が、きちんと任期4年でバトンタッチしてきた。

 発明協会では中嶋誠副会長・専務理事(元特許庁長官)が経営破綻したジャパンライフの顧問をしていたことの責任を取り辞任しているが、野間口氏は居座りを決め込んでいる。三菱電機の歴代トップは社会的責任を取ることとは対極の立場にあるのだ。

 9月中に弁護士や大学教授からなる調査委員会が報告書をまとめる。その調査結果を踏まえ、社外取締役が柵山会長ら歴代トップの責任にまで踏み込むことができるのか。調査結果の公表を踏まえた体制の刷新が三菱電機再生の第一歩となるはずだが、聞こえてくるのは「体制の刷新は無理」という声ばかりだ。

(文=編集部)

なぜ「M&A」が日本経済を救うのか?知っておくべき基本知識

<目次>
今や「M&A」は多くの企業のビジネス戦略に欠かせないものになった。
大企業、中小企業、スタートアップ、さまざまな企業で行われるM&A。
電通がなぜ日本M&Aセンターと提携し、M&A仲介を推進するのか。
M&A

今や「M&A」は多くの企業のビジネス戦略に欠かせないものになった。

ここ30年くらいの間、M&A(企業の合併・買収)件数が増加し続けているということを、皆さんはご存じでしょうか?

実は、“失われた30年”といわれるバブル崩壊から今まで、M&A市場は、ほぼずっと右肩上がりで拡大し続けているのです。

M&Aは、かつて“ハゲタカ”などと揶揄(やゆ)され、なんとなく怖い印象を持たれることも少なくありませんでした。しかし最近では、企業の経営戦略・戦術に欠かせないものとして確立されてきました。

特にここ数年、M&A市場は大きな成長を遂げており、新聞やウェブの経済メディアで、M&Aに関する報道を毎日のように目にするようになりました。一体どうして、このような状況になっているのでしょうか?

その答えはズバリ、

「もう、M&A無しでは、多くの企業が生き残れなくなった」

からなのです。

大企業、中小企業、スタートアップ、さまざまな企業で行われるM&A。

大企業、中小企業、スタートアップそれぞれのM&A戦略

●大企業の場合……事業ポートフォリオの再構築、選択と集中

まずは、大企業。最近、多くの大企業が、「イノベーション」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「BX(ビジネストランスフォーメーション)」を標榜するようになりました。

それらはそれぞれ、「技術革新」「デジタル技術による変革」「事業変革」を意味するのですが、大企業が単体で「革新」や「変革」を行うことは、とても難しいのが実情です。

その状況を一気に打破できる戦略が、M&Aです。例えば、大企業が競争力を強化するために、ノンコア事業を他企業に譲渡し、その売却益で、デジタル事業やイノベーション事業を買収する。

このようにして、企業単体では実現できないような革新や変革を、M&Aによって実現することが可能になるのです。

●中小企業の場合……事業承継による地方経済の維持、成長

上記のことは、大企業のみならず中小企業にも当てはまります。ただし中小企業は、資金や人材リソースの確保が難しいため、自社単体による「イノベーション」「DX」「BX」の実現は、より困難なものになります。

そこで、さらなる成長を目指す中小企業は、M&Aを活用して大企業のグループ会社となり、大企業の資金力・人材リソース・販売力・ロジスティクスを活用することで、技術の革新・事業の変革を実現することが可能になるのです。

また、後継者がいないばかりに優良な企業が廃業してしまうケースが、特に地方で増えています。ここでも、M&Aは非常に有効な戦略となります。

●スタートアップの場合……成長戦略・出口戦略(イグジット)としてのM&A

スタートアップのイグジットといえば「IPO」(株式上場)、というイメージが長らくありました。しかし、最近は、イグジットとしてM&Aを選択するスタートアップが増えています。

急成長しているテック系ベンチャー企業が、突然、大企業の傘下に入る、というニュースをよく目にするようになりましたね。これは、スタートアップのさらなる成長の機会と、大企業のイノベーションの機会を、それぞれが同時に獲得することを目的としているのです。

結論:M&Aは、日本経済復興の要である。

日本が“失われた30年”から脱却し、経済をアップデートするためには、M&Aの活用は欠かせません。

特に中小企業では、100万社を超える会社が事業承継問題を抱えており、わが国にとって喫緊の課題となっています。前述のように、適切なM&Aによる事業承継は、地方経済の維持・発展にとって必須なもので、日本経済の再興にもつながる重要なテーマとなっています。

さらには、コロナ禍によって事業環境が急速に変化する各業界を救う切り札としても、M&Aが活用されています。コロナ禍でビジネススタイルの変化を余儀なくされている企業は、「資金」「人材」「組織」といった経営資源に余裕がない場合がほとんどで、その状況を一気に打破するために、M&Aが選択されるのです。

電通がなぜ日本M&Aセンターと提携し、M&A仲介を推進するのか。


 


かつて、日本経済が右肩上がりで成長し、マスメディアが広告を寡占していたころ、企業は広告を大量投下すればおおむねモノが売れる、といわれていました。

その後、“失われた30年”の間に経済が停滞し、インターネット広告が拡大するにつれ、企業は、「統合的なコミュニケーション戦略」が求められるようになりました。昨今はさらに進化し、「コミュニケーション戦略」と「ビジネス戦略」を一元的に扱う企業が、年々増加しています。

この状況を見据え、2019年、電通は日本M&Aセンターと業務協定を締結。両社で協力して企業のM&A仲介を行うことを約束しました。これにより、電通グループは、さまざまなパートナー企業に対し「コミュニケーション戦略とM&A戦略の統合ソリューション」を提供することが可能になりました。

電通はあらゆる企業のIntegrated Growth Partner(IGP)として、そのビジネスグロースを統合的に支えるパートナーになることを宣言しています。

電通 Integrated Growth Partner (IGP) 特設ページ
https://www.dentsu.co.jp/igp/

そして本稿で記してきた通り、大企業、中小企業、スタートアップ、多くの企業のビジネス戦略において、M&Aは欠かせないピースとなっています。これが、電通が日本M&Aセンターと共にM&A仲介を推進する理由です。

次回は、本協定により生み出そうとしているソリューションやその秘訣(ひけつ)に関し、日本M&Aセンターのキーパーソンとディスカッションいたします。ぜひ、ご期待ください!

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なぜ「M&A」が日本経済を救うのか?知っておくべき基本知識

<目次>
今や「M&A」は多くの企業のビジネス戦略に欠かせないものになった。
大企業、中小企業、スタートアップ、さまざまな企業で行われるM&A。
電通がなぜ日本M&Aセンターと提携し、M&A仲介を推進するのか。
M&A

今や「M&A」は多くの企業のビジネス戦略に欠かせないものになった。

ここ30年くらいの間、M&A(企業の合併・買収)件数が増加し続けているということを、皆さんはご存じでしょうか?

実は、“失われた30年”といわれるバブル崩壊から今まで、M&A市場は、ほぼずっと右肩上がりで拡大し続けているのです。

M&Aは、かつて“ハゲタカ”などと揶揄(やゆ)され、なんとなく怖い印象を持たれることも少なくありませんでした。しかし最近では、企業の経営戦略・戦術に欠かせないものとして確立されてきました。

特にここ数年、M&A市場は大きな成長を遂げており、新聞やウェブの経済メディアで、M&Aに関する報道を毎日のように目にするようになりました。一体どうして、このような状況になっているのでしょうか?

その答えはズバリ、

「もう、M&A無しでは、多くの企業が生き残れなくなった」

からなのです。

大企業、中小企業、スタートアップ、さまざまな企業で行われるM&A。

大企業、中小企業、スタートアップそれぞれのM&A戦略

●大企業の場合……事業ポートフォリオの再構築、選択と集中

まずは、大企業。最近、多くの大企業が、「イノベーション」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「BX(ビジネストランスフォーメーション)」を標榜するようになりました。

それらはそれぞれ、「技術革新」「デジタル技術による変革」「事業変革」を意味するのですが、大企業が単体で「革新」や「変革」を行うことは、とても難しいのが実情です。

その状況を一気に打破できる戦略が、M&Aです。例えば、大企業が競争力を強化するために、ノンコア事業を他企業に譲渡し、その売却益で、デジタル事業やイノベーション事業を買収する。

このようにして、企業単体では実現できないような革新や変革を、M&Aによって実現することが可能になるのです。

●中小企業の場合……事業承継による地方経済の維持、成長

上記のことは、大企業のみならず中小企業にも当てはまります。ただし中小企業は、資金や人材リソースの確保が難しいため、自社単体による「イノベーション」「DX」「BX」の実現は、より困難なものになります。

そこで、さらなる成長を目指す中小企業は、M&Aを活用して大企業のグループ会社となり、大企業の資金力・人材リソース・販売力・ロジスティクスを活用することで、技術の革新・事業の変革を実現することが可能になるのです。

また、後継者がいないばかりに優良な企業が廃業してしまうケースが、特に地方で増えています。ここでも、M&Aは非常に有効な戦略となります。

●スタートアップの場合……成長戦略・出口戦略(イグジット)としてのM&A

スタートアップのイグジットといえば「IPO」(株式上場)、というイメージが長らくありました。しかし、最近は、イグジットとしてM&Aを選択するスタートアップが増えています。

急成長しているテック系ベンチャー企業が、突然、大企業の傘下に入る、というニュースをよく目にするようになりましたね。これは、スタートアップのさらなる成長の機会と、大企業のイノベーションの機会を、それぞれが同時に獲得することを目的としているのです。

結論:M&Aは、日本経済復興の要である。

日本が“失われた30年”から脱却し、経済をアップデートするためには、M&Aの活用は欠かせません。

特に中小企業では、100万社を超える会社が事業承継問題を抱えており、わが国にとって喫緊の課題となっています。前述のように、適切なM&Aによる事業承継は、地方経済の維持・発展にとって必須なもので、日本経済の再興にもつながる重要なテーマとなっています。

さらには、コロナ禍によって事業環境が急速に変化する各業界を救う切り札としても、M&Aが活用されています。コロナ禍でビジネススタイルの変化を余儀なくされている企業は、「資金」「人材」「組織」といった経営資源に余裕がない場合がほとんどで、その状況を一気に打破するために、M&Aが選択されるのです。

電通がなぜ日本M&Aセンターと提携し、M&A仲介を推進するのか。


 


かつて、日本経済が右肩上がりで成長し、マスメディアが広告を寡占していたころ、企業は広告を大量投下すればおおむねモノが売れる、といわれていました。

その後、“失われた30年”の間に経済が停滞し、インターネット広告が拡大するにつれ、企業は、「統合的なコミュニケーション戦略」が求められるようになりました。昨今はさらに進化し、「コミュニケーション戦略」と「ビジネス戦略」を一元的に扱う企業が、年々増加しています。

この状況を見据え、2019年、電通は日本M&Aセンターと業務協定を締結。両社で協力して企業のM&A仲介を行うことを約束しました。これにより、電通グループは、さまざまなパートナー企業に対し「コミュニケーション戦略とM&A戦略の統合ソリューション」を提供することが可能になりました。

電通はあらゆる企業のIntegrated Growth Partner(IGP)として、そのビジネスグロースを統合的に支えるパートナーになることを宣言しています。

電通 Integrated Growth Partner (IGP) 特設ページ
https://www.dentsu.co.jp/igp/

そして本稿で記してきた通り、大企業、中小企業、スタートアップ、多くの企業のビジネス戦略において、M&Aは欠かせないピースとなっています。これが、電通が日本M&Aセンターと共にM&A仲介を推進する理由です。

次回は、本協定により生み出そうとしているソリューションやその秘訣(ひけつ)に関し、日本M&Aセンターのキーパーソンとディスカッションいたします。ぜひ、ご期待ください!

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政府が検討進めるワクチンの「交差接種」、本当に安全?予防効果は?海外の事例を検証

 今年2月、待望のワクチン接種が始まり、新型コロナウイルス収束へ向けて大きく前進するのではないかと、誰もが期待を寄せた。しかし、2回目のワクチン接種後にもかかわらず、コロナに感染する“ブレイクスルー感染”が相次いで報告され、ワクチンへの期待が大きく挫かれた。

 さらに、熊本総合病院と国立国際医療研究センターの共同研究によると、ファイザー製ワクチンを接種した医療従事者およそ220人について、2回目接種後の1週間から2週間で抗体量がピークに達し、2カ月後にはその2分の1になっていたという報告があり、国民を落胆させた。

 国内外の研究報告から、ワクチンを2回接種後の抗体価が時間の経過とともに低下することは認めざるを得ない。そこで政府は、「ブースター」と呼ばれる、3回目のワクチン接種を検討している。政府は、ブースター接種の前に、希望する全国民に2回目のワクチン接種を終えたい意向を示しているが、現在、ワクチンの1回目の接種を終えたのは全人口の約60%であり、いまだ1800万人もの人が1回目の接種を待っている状況だという。

 しかし、2回目の接種完了までのワクチン安定供給も危うい状況であり、そこで検討されているのが「交差接種」である。交差接種とはどのようなものか、函館陵北病院総合診療科の医師でYouTubeチャンネル「YouTube医療大学」でも医療について発信する舛森悠医師に聞いた。

なぜ交差接種が検討されているのか

「コロナワクチンは、いずれの製薬会社のワクチンも、2回の接種が推奨されています。さらに、原則、1回目と2回目のワクチンは同種のものを接種することが推奨されています。これに対し、1回目と2回目で異なるワクチンを接種することを交差接種といいます。しかし、WHO(国際保健機関)は『他のCOVID-19ワクチンと互換性に関するデータはない』と提言していますので、交差接種に関しては慎重に検討すべきと思います」

 WHOの提言にもかかわらず、なぜ日本政府は交差接種の有効性・安全性に関して検討しているのだろうか。

「その理由は、速やかに安定したワクチンの供給が見込めないなかで、少しでも早く国内のワクチン接種を普及させるためです。現在、国内生産が可能なアストラゼネカ社のワクチンは供給の目処がたっています。しかし、アストラゼネカ社製ワクチンは、1回目と2回目の接種の間隔を8週間以上あける必要があるので、スピード感としては他社ワクチンに劣るというデメリットがあるのです。そのため、1回目のワクチン接種をアストラゼネカ製で接種し、その4週後にモデルナ社やファイザー社製のワクチン接種が可能になれば、供給が安定していないモデルナ社・ファイザー社製のワクチンを温存しつつ、スピーディーに国内のワクチン接種を進めることが可能になるのではという狙いがあります」

交差接種の目的

 日本においては検討段階の交差接種だが、海外ではすでに実施している国もある。

「実は、その試みがカナダ、ドイツ、スペインで、すでに行われています。これらの国では1回目にアストラゼネカ製を打ち、2回目はファイザーやモデルナが製造したワクチンを接種しています」

 しかしながら、交差接種を実施する目的が日本とは大きく異なる。ひとつは、アストラゼネカ社のワクチンで、まれに報告されている“血栓症”のリスクを避けるため、もうひとつは、より強い予防効果を得るためである。

「一個人の意見としては、アストラゼネカ製のワクチンによる血栓症などの有害事象を避けるという意味での交差接種は検討できるかもしれませんが、ワクチンを速やかに普及させるために、現段階で交差接種を検討するのは時期尚早と言わざるを得ないと考えます」

 すでに交差接種を行っている海外では、その安全性・有効性についての報告がなされているが、十分な内容とはいえない。

「イギリスで行われた臨床試験(Com-COV試験)で、50歳以上の463例(平均年齢57.8歳、女性46%)を対象に、1回目と2回目でそれぞれ次の4パターンに分けて接種が行われました。

(1)アストラゼネカ→アストラゼネカ
(2)アストラゼネカ→ファイザー
(3)ファイザー→ファイザー
(4)ファイザー→アストラゼネカ

 この試験の結論としては、国内で採用しようとしている交差接種パターンである(2)のアストラゼネカ→ファイザー(接種間隔4週間)は、従来の世界的に承諾されているアストラゼネカによる2回接種(接種間隔によらず)よりも、抗スパイクIgG濃度(≒中和抗体)が同等以上に高くなる、つまり予防効果が高くなることがわかっています。しかし、対象者が50歳以上に限定した試験のため、若年者に対しての有効性は不明であり、さらなる報告が待たれます」

交差接種のメリット・デメリット

「交差接種により、希望する全国民への2回のワクチン接種を早急に進めることができるのはメリットではありますが、そもそも抗体価が低下しなければ本当にコロナウイルスにかかりづらいのか、重症化しにくいのかに関する一定した見解は得られていません。つまり、異なるメーカーのワクチンを体内に入れることが本当に安全かつ有効であるかについては、次なる研究結果が待たれるところであり、交差接種の予想がつかないことがデメリットだといえます」

 デルタ株の出現によって、集団免疫の獲得が難しいとみられている。ワクチン接種後にも感染するブレイクスルー感染の報告も相次いでいる。せめて、重症化や死に至ることを免れるためにもワクチン接種は重要だが、安全性を第一に進めることを政府に望みたい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)



吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

政府が検討進めるワクチンの「交差接種」、本当に安全?予防効果は?海外の事例を検証

 今年2月、待望のワクチン接種が始まり、新型コロナウイルス収束へ向けて大きく前進するのではないかと、誰もが期待を寄せた。しかし、2回目のワクチン接種後にもかかわらず、コロナに感染する“ブレイクスルー感染”が相次いで報告され、ワクチンへの期待が大きく挫かれた。

 さらに、熊本総合病院と国立国際医療研究センターの共同研究によると、ファイザー製ワクチンを接種した医療従事者およそ220人について、2回目接種後の1週間から2週間で抗体量がピークに達し、2カ月後にはその2分の1になっていたという報告があり、国民を落胆させた。

 国内外の研究報告から、ワクチンを2回接種後の抗体価が時間の経過とともに低下することは認めざるを得ない。そこで政府は、「ブースター」と呼ばれる、3回目のワクチン接種を検討している。政府は、ブースター接種の前に、希望する全国民に2回目のワクチン接種を終えたい意向を示しているが、現在、ワクチンの1回目の接種を終えたのは全人口の約60%であり、いまだ1800万人もの人が1回目の接種を待っている状況だという。

 しかし、2回目の接種完了までのワクチン安定供給も危うい状況であり、そこで検討されているのが「交差接種」である。交差接種とはどのようなものか、函館陵北病院総合診療科の医師でYouTubeチャンネル「YouTube医療大学」でも医療について発信する舛森悠医師に聞いた。

なぜ交差接種が検討されているのか

「コロナワクチンは、いずれの製薬会社のワクチンも、2回の接種が推奨されています。さらに、原則、1回目と2回目のワクチンは同種のものを接種することが推奨されています。これに対し、1回目と2回目で異なるワクチンを接種することを交差接種といいます。しかし、WHO(国際保健機関)は『他のCOVID-19ワクチンと互換性に関するデータはない』と提言していますので、交差接種に関しては慎重に検討すべきと思います」

 WHOの提言にもかかわらず、なぜ日本政府は交差接種の有効性・安全性に関して検討しているのだろうか。

「その理由は、速やかに安定したワクチンの供給が見込めないなかで、少しでも早く国内のワクチン接種を普及させるためです。現在、国内生産が可能なアストラゼネカ社のワクチンは供給の目処がたっています。しかし、アストラゼネカ社製ワクチンは、1回目と2回目の接種の間隔を8週間以上あける必要があるので、スピード感としては他社ワクチンに劣るというデメリットがあるのです。そのため、1回目のワクチン接種をアストラゼネカ製で接種し、その4週後にモデルナ社やファイザー社製のワクチン接種が可能になれば、供給が安定していないモデルナ社・ファイザー社製のワクチンを温存しつつ、スピーディーに国内のワクチン接種を進めることが可能になるのではという狙いがあります」

交差接種の目的

 日本においては検討段階の交差接種だが、海外ではすでに実施している国もある。

「実は、その試みがカナダ、ドイツ、スペインで、すでに行われています。これらの国では1回目にアストラゼネカ製を打ち、2回目はファイザーやモデルナが製造したワクチンを接種しています」

 しかしながら、交差接種を実施する目的が日本とは大きく異なる。ひとつは、アストラゼネカ社のワクチンで、まれに報告されている“血栓症”のリスクを避けるため、もうひとつは、より強い予防効果を得るためである。

「一個人の意見としては、アストラゼネカ製のワクチンによる血栓症などの有害事象を避けるという意味での交差接種は検討できるかもしれませんが、ワクチンを速やかに普及させるために、現段階で交差接種を検討するのは時期尚早と言わざるを得ないと考えます」

 すでに交差接種を行っている海外では、その安全性・有効性についての報告がなされているが、十分な内容とはいえない。

「イギリスで行われた臨床試験(Com-COV試験)で、50歳以上の463例(平均年齢57.8歳、女性46%)を対象に、1回目と2回目でそれぞれ次の4パターンに分けて接種が行われました。

(1)アストラゼネカ→アストラゼネカ
(2)アストラゼネカ→ファイザー
(3)ファイザー→ファイザー
(4)ファイザー→アストラゼネカ

 この試験の結論としては、国内で採用しようとしている交差接種パターンである(2)のアストラゼネカ→ファイザー(接種間隔4週間)は、従来の世界的に承諾されているアストラゼネカによる2回接種(接種間隔によらず)よりも、抗スパイクIgG濃度(≒中和抗体)が同等以上に高くなる、つまり予防効果が高くなることがわかっています。しかし、対象者が50歳以上に限定した試験のため、若年者に対しての有効性は不明であり、さらなる報告が待たれます」

交差接種のメリット・デメリット

「交差接種により、希望する全国民への2回のワクチン接種を早急に進めることができるのはメリットではありますが、そもそも抗体価が低下しなければ本当にコロナウイルスにかかりづらいのか、重症化しにくいのかに関する一定した見解は得られていません。つまり、異なるメーカーのワクチンを体内に入れることが本当に安全かつ有効であるかについては、次なる研究結果が待たれるところであり、交差接種の予想がつかないことがデメリットだといえます」

 デルタ株の出現によって、集団免疫の獲得が難しいとみられている。ワクチン接種後にも感染するブレイクスルー感染の報告も相次いでいる。せめて、重症化や死に至ることを免れるためにもワクチン接種は重要だが、安全性を第一に進めることを政府に望みたい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)



吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

政府が検討進めるワクチンの「交差接種」、本当に安全?予防効果は?海外の事例を検証

 今年2月、待望のワクチン接種が始まり、新型コロナウイルス収束へ向けて大きく前進するのではないかと、誰もが期待を寄せた。しかし、2回目のワクチン接種後にもかかわらず、コロナに感染する“ブレイクスルー感染”が相次いで報告され、ワクチンへの期待が大きく挫かれた。

 さらに、熊本総合病院と国立国際医療研究センターの共同研究によると、ファイザー製ワクチンを接種した医療従事者およそ220人について、2回目接種後の1週間から2週間で抗体量がピークに達し、2カ月後にはその2分の1になっていたという報告があり、国民を落胆させた。

 国内外の研究報告から、ワクチンを2回接種後の抗体価が時間の経過とともに低下することは認めざるを得ない。そこで政府は、「ブースター」と呼ばれる、3回目のワクチン接種を検討している。政府は、ブースター接種の前に、希望する全国民に2回目のワクチン接種を終えたい意向を示しているが、現在、ワクチンの1回目の接種を終えたのは全人口の約60%であり、いまだ1800万人もの人が1回目の接種を待っている状況だという。

 しかし、2回目の接種完了までのワクチン安定供給も危うい状況であり、そこで検討されているのが「交差接種」である。交差接種とはどのようなものか、函館陵北病院総合診療科の医師でYouTubeチャンネル「YouTube医療大学」でも医療について発信する舛森悠医師に聞いた。

なぜ交差接種が検討されているのか

「コロナワクチンは、いずれの製薬会社のワクチンも、2回の接種が推奨されています。さらに、原則、1回目と2回目のワクチンは同種のものを接種することが推奨されています。これに対し、1回目と2回目で異なるワクチンを接種することを交差接種といいます。しかし、WHO(国際保健機関)は『他のCOVID-19ワクチンと互換性に関するデータはない』と提言していますので、交差接種に関しては慎重に検討すべきと思います」

 WHOの提言にもかかわらず、なぜ日本政府は交差接種の有効性・安全性に関して検討しているのだろうか。

「その理由は、速やかに安定したワクチンの供給が見込めないなかで、少しでも早く国内のワクチン接種を普及させるためです。現在、国内生産が可能なアストラゼネカ社のワクチンは供給の目処がたっています。しかし、アストラゼネカ社製ワクチンは、1回目と2回目の接種の間隔を8週間以上あける必要があるので、スピード感としては他社ワクチンに劣るというデメリットがあるのです。そのため、1回目のワクチン接種をアストラゼネカ製で接種し、その4週後にモデルナ社やファイザー社製のワクチン接種が可能になれば、供給が安定していないモデルナ社・ファイザー社製のワクチンを温存しつつ、スピーディーに国内のワクチン接種を進めることが可能になるのではという狙いがあります」

交差接種の目的

 日本においては検討段階の交差接種だが、海外ではすでに実施している国もある。

「実は、その試みがカナダ、ドイツ、スペインで、すでに行われています。これらの国では1回目にアストラゼネカ製を打ち、2回目はファイザーやモデルナが製造したワクチンを接種しています」

 しかしながら、交差接種を実施する目的が日本とは大きく異なる。ひとつは、アストラゼネカ社のワクチンで、まれに報告されている“血栓症”のリスクを避けるため、もうひとつは、より強い予防効果を得るためである。

「一個人の意見としては、アストラゼネカ製のワクチンによる血栓症などの有害事象を避けるという意味での交差接種は検討できるかもしれませんが、ワクチンを速やかに普及させるために、現段階で交差接種を検討するのは時期尚早と言わざるを得ないと考えます」

 すでに交差接種を行っている海外では、その安全性・有効性についての報告がなされているが、十分な内容とはいえない。

「イギリスで行われた臨床試験(Com-COV試験)で、50歳以上の463例(平均年齢57.8歳、女性46%)を対象に、1回目と2回目でそれぞれ次の4パターンに分けて接種が行われました。

(1)アストラゼネカ→アストラゼネカ
(2)アストラゼネカ→ファイザー
(3)ファイザー→ファイザー
(4)ファイザー→アストラゼネカ

 この試験の結論としては、国内で採用しようとしている交差接種パターンである(2)のアストラゼネカ→ファイザー(接種間隔4週間)は、従来の世界的に承諾されているアストラゼネカによる2回接種(接種間隔によらず)よりも、抗スパイクIgG濃度(≒中和抗体)が同等以上に高くなる、つまり予防効果が高くなることがわかっています。しかし、対象者が50歳以上に限定した試験のため、若年者に対しての有効性は不明であり、さらなる報告が待たれます」

交差接種のメリット・デメリット

「交差接種により、希望する全国民への2回のワクチン接種を早急に進めることができるのはメリットではありますが、そもそも抗体価が低下しなければ本当にコロナウイルスにかかりづらいのか、重症化しにくいのかに関する一定した見解は得られていません。つまり、異なるメーカーのワクチンを体内に入れることが本当に安全かつ有効であるかについては、次なる研究結果が待たれるところであり、交差接種の予想がつかないことがデメリットだといえます」

 デルタ株の出現によって、集団免疫の獲得が難しいとみられている。ワクチン接種後にも感染するブレイクスルー感染の報告も相次いでいる。せめて、重症化や死に至ることを免れるためにもワクチン接種は重要だが、安全性を第一に進めることを政府に望みたい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)



吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。