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10人に1人が課税対象の時代に突入…不動産高騰で“相続税地獄”が一般家庭を直撃
●この記事のポイント
東京23区の不動産価格高騰により、相続税が一般家庭にも広がり始めている。2024年の相続税課税割合は全国で約10.4%に達し、都心では「普通の実家」が評価額1億円近くになるケースも増加。相続税の基礎控除は「3000万円+600万円×法定相続人数」にすぎず、都内のマンションや戸建ては容易に超える水準だ。小規模宅地等の特例や生前贈与などの制度を知らなければ、納税資金不足による“キャッシュレス相続”や実家売却に追い込まれる可能性もある。東京不動産バブルの裏で進む「相続税の大衆化」の実態を解説する。
「相続税は資産家の税金」。そんな認識は、もはや過去のものになりつつある。国税庁の統計によれば、2024年に発生した相続のうち、相続税の課税対象となった割合は約10.4%と、ついに1割を突破した。これは制度改正の影響に加え、都市部の不動産価格が急騰したことが大きな要因とされる。
とりわけ影響が大きいのが東京だ。東京23区では、いまや「普通の実家」が評価額1億円近くになるケースも珍しくない。かつては一部の富裕層だけの問題だった相続税が、都心に実家を持つ一般的な会社員家庭にも降りかかる時代に入りつつある。
●目次
- 「うちは普通」という思い込みが最大の落とし穴
- 東京で進む「中古マンション1億円時代」
- 「3000万円+600万円×人数」という低すぎる壁
- 相続税を難しくする「不動産評価」というブラックボックス
- 最大の悲劇「キャッシュレス相続」
- 不動産は「資産」から「リスク」へ
「うちは普通」という思い込みが最大の落とし穴
多くの人は「親は普通の会社員で預金もそれほど多くない。だから相続税なんて関係ない」と考えている。
しかし、税務署が見るのは現預金だけではない。相続財産の約4割は不動産とされており、都市部ではその比率はさらに高くなる。
例えば、親が30年前に購入した都内のマンション。購入価格は5000万円程度だったとしても、現在の市場ではそれが1億円近くの価値になっていることも珍しくない。この「不動産の値上がり」が、相続税の課税対象を一気に広げている。
都内で実家を持つというだけで、知らないうちに“潜在的な納税義務者”になっている可能性があるのだ。
東京で進む「中古マンション1億円時代」
背景にあるのは、首都圏不動産市場の異常ともいえる価格高騰だ。不動産経済研究所などのデータによれば、2025年の東京23区では、70平米換算の中古マンション平均価格が1億円を超える水準に達したとされる。
新築マンションはすでに1億5000万円前後が珍しくなく、価格上昇により新築が買えない層が中古市場へ流入。結果として、築20年や30年の物件であっても値下がりしないどころか、購入時より高く売れる「逆転現象」が起きている。
この市場価格の上昇は、時間差を置いて相続税評価額にも反映される。相続税の評価の基準となる路線価は、一般的に市場価格の約8割が目安とされる。つまり、実勢価格が上昇すれば、税務上の評価額も必然的に押し上げられる。
その結果、
・購入価格:5000万円
・現在の市場価格:1億円
・相続税評価額:約8000万円
というケースも十分にあり得る。
つまり「実家が1億円」という状況は、決して誇張ではないのである。
「3000万円+600万円×人数」という低すぎる壁
相続税には「基礎控除」という非課税枠がある。計算式は次の通りだ。
基礎控除額= 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
例えば、相続人が子ども1人だけの場合、基礎控除は3600万円にすぎない。仮に、評価額8000万円の実家があれば、それだけで課税対象になり得る。さらに都市部では、土地だけでこの水準を超えるケースも多い。
相続コンサルタントでファイナンシャルプランナーの田中真一氏はこう指摘する。
「東京では、現預金が少なくても“自宅だけで課税対象になる”ケースが増えています。特に一人っ子の場合、基礎控除が小さいため、思った以上に税額が発生することがあります」
つまり、「資産家ではないから大丈夫」という常識は、もはや通用しない。
相続税を難しくする「不動産評価」というブラックボックス
相続問題をさらに複雑にしているのが、不動産評価の仕組みだ。評価額は主に次の2つで算出される。
土地 路線価 × 面積
建物 固定資産税評価額
一見シンプルに見えるが、実際にはここから数多くの補正が加わる。例えば、土地の形状、奥行き、接道状況、マンションの階数、共用部分の持分などによって評価額は大きく変動する。
「不動産の相続評価は専門家でも難しい分野です。同じ面積でも評価額が数千万円違うこともあります。自己判断で『うちは大丈夫』と考えるのは危険です」(田中氏)
相続税対策として知られるのが小規模宅地等の特例だ。被相続人が住んでいた自宅の土地について、最大80%の評価減が認められる制度である。例えば、評価額1億円の土地が特例適用を受ければ、評価額2000万円まで圧縮できる。
しかし、この制度には厳しい条件がある。「同居していた親族」「家を持っていない親族(いわゆる「家なき子」)」などでなければ適用できない。都市部では、「親は実家に一人暮らし」「子どもは都内にマイホーム」というケースが多く、この特例が使えない家庭も少なくない。
最大の悲劇「キャッシュレス相続」
不動産相続の最大の問題は、納税資金不足だ。相続税は、原則として相続開始から10か月以内に現金一括納付しなければならない。
もし、実家の評価額が1億2000万円、現預金ほぼゼロ、というケースなら、数百万円〜1000万円規模の納税が必要になる可能性がある。現役世代にとって、これは決して小さな金額ではない。
「相続税を払うために実家を売る家庭は珍しくありません。問題は、納税期限があるため“急いで売却”になりやすいことです。本来の市場価格より安く手放してしまうケースも多くあります」(同)
さらに、不動産は現金のように分割できないため、兄弟間のトラブル、売却か保有かの対立など、いわゆる“争族”に発展することもある。
今すぐできる「資産防衛」3つのステップ
では、どうすればよいのか。専門家は、早期の準備を強く勧める。
① 路線価で実家の評価を確認
国税庁の路線価図を見れば、土地評価の目安を知ることができる。固定資産税の通知書と合わせれば、概算評価は把握できる。
② 生前贈与制度の活用
2024年の税制改正で、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新設された。これにより、生前贈与を活用した資産移転が以前より使いやすくなっている。
③ 親との情報共有
もっとも重要なのは、親が元気なうちに資産状況を共有することだ。実家を残すのか、売却するのか、介護費用はどうするのか……。こうした問題は、突然の相続後では決められない。
不動産は「資産」から「リスク」へ
かつて日本では、不動産は「持っていれば安心な資産」と考えられてきた。しかし、人口減少や税制、都市部の価格高騰を背景に、その意味は変わりつつある。東京23区の住宅は、資産価値が上がるほど相続税リスクも増大するという構造を抱えている。
「うちは普通の家庭だから関係ない」と思っている人ほど、突然の納税に直面する可能性が高い。現在の日本では、相続問題はもはや富裕層だけの話ではない。まずは、自分の実家の価値を知ることが、将来のトラブルを防ぐ第一歩となる。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=田中真一/相続コンサルタント、ファイナンシャルプランナー)
新築2600万円時代に500万円中古が動く理由…八戸の不動産会社が仙台進出を狙う
●この記事のポイント
青森県八戸市で不動産仲介業を展開するといず不動産は、フランチャイズ「ハウスドゥ」に加盟し、市内で3店舗を運営している。新築戸建て価格が2,500万〜2,600万円に上昇する一方、500万〜600万円台の中古住宅をリフォームして購入する需要が拡大。5LDKなど広い間取りを求めて中古を選ぶ層も増えている。同社は中古住宅需要の高まりを受け、リフォーム会社をM&Aで取得。人口減少と人材不足を見据え、東北最大都市である宮城県仙台市への進出も計画しており、地方不動産会社の成長戦略として注目される。
人口減少が進む地方都市でも、不動産市場がそのまま縮小するとは限らない。新築価格の上昇や住宅の間取りニーズの変化を背景に、近年は「中古」を選ぶ層も広がりつつある。
青森県八戸市で3拠点を構えるといず不動産は、こうした地域の住宅需要を捉えながら事業を拡大してきた。同社は不動産フランチャイズチェーン「ハウスドゥ」に加盟し、ノウハウを活用することで店舗数・人員ともに拡大している。社長の佐藤拓也氏は外資系の小売企業出身で、不動産業界の専門家ではなかったが、マネジメント経験を武器に組織づくりを進めてきたという。
今後は人口動態や採用環境も見据え、宮城県仙台市への進出を計画している。地域の不動産事情と、といず不動産の事業内容について佐藤社長に話を聞いた。
●目次
八戸市で「ハウスドゥ」3店舗を運営
といず不動産は現在、八戸市で3店舗を運営している。東証プライム市場上場のAnd Doホールディングスが展開する不動産FCチェーン「ハウスドゥ」に加盟し、八戸田向店、八戸下長店、八戸市庁前店を展開する。
佐藤社長は以前、外資系の小売企業に勤めており、不動産は当初の専門分野ではなかった。だが、会社員の傍らで1棟もののマンション、アパートなどを保有し、不動産投資家として活動していた。不動産投資家として初めて投資したのが青森県の物件であり、不動産業者とのつながりもあったため、八戸市での開業に至ったという。
開業後、どのような経緯でハウスドゥに加盟したのか。
「開業して最初の3年間は加盟せず、独自でやっていました。ただ従業員が3人程度の規模で、これ以上の拡大が見えなくなったんです。未経験なので業界の指針や常識などが分からず、ノウハウを活用したい目的で加盟しました。加盟後は3店舗まで拡大でき、従業員も32人に増えました」(佐藤社長)
FCに加盟すると、本部のネットワークを通じて不動産情報を得やすくなる面がある。本部からスーパーバイザーが派遣され、新制度・新法への対応を含めた人材教育が行われるケースもあるという。一方で加盟には一定のコストも伴うため、最終的には「地域でどこまで独自の強みをつくれるか」も重要になる。
一般的に不動産業は、ハウスメーカーや不動産会社で経験を積んだ人材が独立するケースが多い。その点で佐藤氏は他業種からの参入だが、前職の経験が組織づくりに活きていると話す。
「小売業にいましたが、私の仕事はマネジメントの仕事でした。『人をどう動かすか』『どう気持ちよく仕事してもらうか』を考える姿勢は業種が違っても共通することです。従業員には売るばかりではなく、お客様との関係づくりに努めるよう伝えています。不動産の知識も重要ですが、『この人だから契約したい』と思われる人材になってほしいです」(同)
5LDKを求めて中古を選ぶ人も
八戸市は太平洋に面しており、県内でも積雪量が比較的少ない地域だ。人口は約21万人で、他の自治体と同様、1990年代をピークに減少が続いている。
佐藤氏によると、八戸市の住宅市場では新築価格の上昇や、戸建て中心の供給構造も背景に、中古を選ぶ動きが目立ち始めているという。
「大手の物件を見ると、新築戸建ては4LDKで2,500万~2,600万円程度が相場です。マンションはほとんどありません。不動産価格はここ2~3年で上昇しており、戸建てで300万~400万円程度高くなりました。中古物件は500万~600万円台の古い物件が多く出ています」(同)
といず不動産では仲介を主力事業としており、全3店舗で売買仲介を行い、そのうち1店舗で賃貸仲介も手がける。主力ではないが、建売や中古物件の買取再販も行う。
中古物件に関しては「安いから中古」という単純な構図ではなく、広さを求めて中古を選ぶ層もいるという。
「安さを重視して、500万~600万円の中古物件に300万円程度のリフォームをかけた家を求めるお客様もいます。一方で、安さではなく5LDKが欲しいという理由で中古を選ぶ方もいます。最近の家は3~4LDKが中心なので、建売で5LDKはほぼ出回っていません。新築にこだわると注文住宅になり、かなり高価格になってしまいます」(同)
間取りの選択肢が限られる地域では、「新築か中古か」ではなく、「希望の住まい方を実現できるか」という観点で中古が選ばれる局面もあるようだ。
M&Aと仙台進出で、次の成長を探る
といず不動産は昨年、リフォーム会社をM&Aで取得した。中古需要の拡大に伴い、リフォーム件数が増えていることも背景に、内製化を進めたという。不動産業者がリフォーム機能を取り込む動きは、各地でみられる。
「以前はリフォームを他社に依頼していたのですが、スピードも遅かったため、子会社化を決断しました。お客様にワンストップで提案できるのが強みです。内製化により、利益率も上がりました。過去には同業の不動産会社へのM&Aも検討しましたが、今のところ良い案件は見つかっていません」(同)
リフォームの内製化は、単に利益率の改善にとどまらず、売買仲介や買取再販の提案力にもつながる。中古物件の購入は「物件価格」だけでなく、「修繕費」「工期」「施工品質」まで含めて判断されることが多い。こうした条件を一体で提示できるかどうかは、仲介会社の差別化要因にもなり得る。
現在は八戸市内で事業を展開しているが、今後は仙台市への出店を見据えているという。仙台―八戸間は直線距離で約250km離れているが、佐藤氏は採用難も含めた経営課題の解決策として、仙台に拠点を設けたい考えだ。
「今後も東北で事業を行う予定ですが、人口減少は長期で続くため、仙台に拠点を構えたいと考えています。今と同じく戸建て事業に注力したいので、ロードサイドの店舗を探しています。正直に言えば、今は人材確保に苦戦しています。仙台には大学も多く、採用面でも優位です。仙台で事業規模を拡大しつつ、八戸で仕事してもらえる人も探したいですね」(同)
仙台は東北最大の都市圏であり、人口規模や流通量の面でも市場の厚みがある。地方都市で事業を続けるうえでは、採用だけでなく、情報量や取引機会を増やす意味でも「都市拠点」を持つことが選択肢となりうる。
人手不足は地域や業種を問わず広がっている。東京でも大企業が採用に苦戦し、イメージアップのため一等地にオフィスを構える企業もある。佐藤氏は現在、仙台で物件を探しており、進出は早ければ6月になる見通しだ。
人口減少下の地方不動産では、市場の縮小だけでなく、住宅ニーズの変化や人材確保といった課題が同時に進む。といず不動産は、こうした環境変化を踏まえながら、次の成長機会を探っている。
(取材・文=山口伸)