「熊本から脱炭素を進める!」地銀の挑戦

政府が2050年カーボンニュートラルの実現を掲げて以降、企業における脱炭素への取り組みは年々重視され、その強化が求められています。

現在では、中小企業も取引先をはじめとしたステークホルダーからCO2排出量の算定と情報開示を求められるケースが増加。一方で、近年提供されているCO2排出量算定ツールは大企業の利用を想定したものが多く、中小企業は予算や使いやすさの点からなかなか導入が進んでいません。

こうした状況の中、熊本県を代表する地銀「肥後銀行」は、安価で使いやすいCO2排出量算定ツール「zero-carbon-system炭削(たんさく)くん」(以降「炭削くん」)の開発・展開プロジェクトを実施。その全国販売に向けた戦略策定とマーケティングを電通が担当しています。

「炭削くん」
https://www.higobank.co.jp/business/tansaku/

地方銀行が、なぜ自らCO2排出量算定ツールを開発しようと考えたのか?また、熊本から全国へこのツールを展開するにあたってカギとなったものは?本プロジェクトを中心となって進めた肥後銀行経営企画部サステナビリティ推進室の玉木孝次郎氏、西村奈未氏、電通第1ビジネス・トランスフォーメーション(第1BX)局の槙谷吉紘に聞きました。

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(写真左より)肥後銀行・玉木氏、西村氏、電通・槙谷

中小企業による脱炭素への第一歩を、安価な算定ツールでサポートしたい

──まずは皆さんの自己紹介をお願いします。

西村:肥後銀行経営企画部のサステナビリティ推進室に所属し、SDGsと経営品質に関わる業務を担当しています。肥後銀行内に限らず、地域のお客さまに対する取り組みも含んだ仕事です。炭削くんプロジェクトでは、主に企画・開発・プロモーションなどをメイン担当者として進めました。

玉木:同じくサステナビリティ推進室で副企画役を務めています。炭削くんプロジェクトには本推進室に所属する9人のメンバーが関わっており、私はプロジェクトマネージャーとして取りまとめやディレクションを行いました。

槙谷:電通の第1BX局は広告領域以外のコンサルティングなどでお客さまをご支援している部署です。本プロジェクトでは、戦略立案チーム、プロモーションチームなどに分かれて支援を行っており、私は電通側全体の取りまとめとディレクションを担当しました。

──地銀である肥後銀行が、企業のCO2排出量の算出ツールを開発しようと思われた背景についてお聞かせください。取引先企業や肥後銀行自体が、脱炭素の取り組みにおいて抱えていた課題も含め、お話しいただけますか。

玉木:同じ地方と言っても、SDGsや脱炭素への取り組み状況は、地域によって大きく異なります。2024年に行われた帝国データバンクの調査によると、熊本県はSDGsに積極的な都道府県の1位でしたが、これも地域としての取り組みの影響が大きいと考えています。

2021年に当行は熊本県と共同で「熊本県SDGs登録制度」を創設しました。この制度を活用しながらSDGsや脱炭素への取り組みを進めていきたいという取引先企業に対して、当行は、「SDGsコンサルティング」や「カーボンニュートラルコンサルティング」を通してサポートをしています。

これまでにコンサルティングサービスを通して約300社をご支援してきたのですが、近年は特に脱炭素に対しての課題を感じているお客さまが増えており、

「まず何から脱炭素への取り組みを始めればいいのかが分からない」
「さまざまな算定ツールがあるが、いずれも利用コストが高く導入が難しい」

といった声を多くお聞きしていました。脱炭素に向けた取り組みの第一歩は、自社のCO2排出量を把握することです。お客さまの中には、Excelなどを使って算定していた企業もありますが、その計算に必要な「排出係数」が年に複数回更新されることもあり、ヒューマンエラーを誘発したり作業負荷を高めたりする原因になっています。

そこで、算定ツールをわれわれが開発し、お客さまに低価格で提供できれば、地域のカーボンニュートラルの実現に向けて貢献できるのではないかと考え、炭削くんプロジェクトがスタートしました。

肥後銀行#1_玉木さんソロカット

「金融面の支援」だけで終わらない。地銀が旗振り役となり、脱炭素を進める意義とは

──地域の支援が地方銀行の大きな役割となる中で、特に脱炭素・SDGs推進の重要性を感じられていたということでしょうか?

西村:そうですね。肥後銀行は「私たちは、お客様や地域の皆様とともに、お客様の資産や事業、地域の産業や自然・文化を育て、守り、引き継ぐことで、地域の未来を創造していく為に存在しています」というパーパスを掲げています。

当行は金融機関ですが、金融の枠を超えてあらゆる可能性を追求し、地域課題解決に貢献するグループを目指すため、あえて「金融」という言葉を入れていません。当行の頭取は常に「地域にどのような金融機関があるかによって、その地域の未来は変わる」と話しています。だからこそ私たちは「銀行だから金融面を支援」するだけではなく、銀行分野以外でもお客さまを支援し、地域を守り育てていかなければならないと思っています。そのため、サステナビリティ推進室には全体で15人ものメンバーが配属されているのです。

玉木:とはいえ、SDGs分野の取り組みにおいて特に中小企業のネックとなってしまうのは、ファイナンスの部分です。この点を併せて支援できるのがわれわれの強みだと考えています。最初はCO2を「測る」ところからですが、その次にどう削減するかを考えるフェーズに入ります。例えば企業内設備をCO2排出量が少ないものに更新したり、サステナブルな原料への変更を検討したりする場合に資金の問題は無視できません。

炭削くんを使ってCO2排出量が分かったら、次は排出量が増える一番のポイントは電気なのか、社用車のガソリンなのかを見つける。当行ではそうしたホットポイントと企業ごとの状況に応じた削減方法をご案内し、取り組みに必要な資金面のご相談も併せて、一気通貫でサポートできます。そのためのフックとして「炭削くん」を使っていただけたらと考えています。

槙谷:中小企業の場合、資金面の問題などもあって、利益に直結しないこうした分野の取り組みを進めるのが特に難しい状況にあります。誰かが旗振り役になって推進する必要がある中で、そこを担えるのが地方銀行だと考えています。

その中で、肥後銀行ほどサステナビリティ領域に人員を割いているところは、銀行でも他業種の企業でも多くありません。また、自行でこうしたツールの開発を手掛けていること自体が、かなりレアなケース。脱炭素は、電通にとっても非常に重要なアジェンダです。今回のプロジェクトのように、地方銀行が進めるSDGsの取り組みをご支援することには大きな意味があります。

月額2200円で「Scope3」の算出にも対応! サプライチェーン全体での導入も含め4000社以上が利用する「炭削くん」の魅力

──炭削くんの概要と、独自性を教えてください。

西村:一番のポイントはやはり、中小企業の皆さまの課題として大きかった価格面だと考えています。

炭削くんの場合、Scope1・2・3※を全て測ることができ、いくつ拠点を登録しても5IDまで月額2200円です。一方で機能面は他のツールと変わらず、PCやスマートフォンから自社で使用する電気やガソリンなどの使用量を入力するだけで、下記の通りCO2排出量の“見える化”ができます。

※ Scope1・2・3:「Scope」はCO2などの温室効果ガス(GHG)の排出量を測定する範囲を表したもの。大まかに以下の3つに分けられる。

・「Scope1」
 燃料の燃焼や、製品の製造などを通じて企業・組織が「直接排出」するGHG
・「Scope2」
 他社から供給された電気・熱・蒸気を使うことで、間接的に排出されるGHG
・「Scope3」
 自社事業における原材料仕入れや販売後など、サプライチェーンを通して排出されるGHG

 

① 企業活動全体の CO₂排出量算定(Scope1・2・3)および可視化
② 排出量削減目標の設定および進捗管理
③ 算定結果のレポート出力
④グループやサプライチェーン全体の排出量管理

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「炭削くん」から出力できるレポート(イメージ)

西村:現在、プライム上場企業十数社を含めた4000社以上にご利用いただいています。上場企業に関しても、Scope3は自社だけでは算定できません。炭削くんは、サプライヤーの中小企業にも利用してもらえれば、そのデータをシステム内でひもづけて自社のScope 3の算定にそのまま使うことができます。当初は中小企業に向けて開発したツールでしたが、炭削くんを通してサプライヤーから集めたデータを自社のサプライチェーン排出量算定に活用される上場企業も増えてきています。

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サプライチェーン排出量算定に関わる画面(イメージ)

槙谷:炭削くんは、安価でありながら機能面では競合ツールと遜色ありません。これは、先ほどのお話どおり、肥後銀行さんは事業として、炭削くんシステム利用料による利益化を目指しているのではなく、あくまで地域の企業の脱炭素を進める入り口として利用していただくために開発したからこそだと思います。

上場企業単体でしたら、多少コストのかかるツールでも導入できますが、サプライチェーン全体に同じツールを入れてデータをひもづけようとしたとき、高価なツールの利用をサプライヤーに勧めるのは難しくなります。炭削くんでしたら月に2200円なので広く活用をしやすいということですね。

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全国の金融機関と連携するために開発した、新たな機能

──「炭削くん」では、中小企業に加え、貴行と同じ地方の金融機関にも使いやすい機能があるそうですが、どのようなものでしょうか?

西村:金融機関においては、Scope3の中でも「投融資先」のCO2排出量が対象となるカテゴリー15の排出量が多くを占めます。例えば肥後銀行の場合、自行で担うCO2排出量の9割が投融資先のもの。つまり、取引先企業の排出量もきちんと算定しなくては、カーボンニュートラルを進められない状況なのです。炭削くんは、金融機関が投融資先の排出量を確認しながら、地域のカーボンニュートラルに向けて取り組むことを目指してFE(ファイナンスド・エミッション)機能を途中で追加しました。

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ファイナンスド・エミッション機能に関わる画面(イメージ)

玉木:こちらは槙谷さんから提案をいただいて追加した機能です。金融機関の取引先は多岐にわたり、自社のCO2排出量を算出できていない企業も多く含まれます。そのため金融機関はこのカテゴリーについては、売り上げ規模や融資残高といった数値を掛け合わせた推計で算出せざるをえません。自行の9割を占めるこの項目のCO2を減らすためには、お客さまの実データを知る必要があり、さらにそれをきちんと算定する機能が必要なのです。

西村:当初は熊本県内の中小企業に向けて開発を進めていたのですが、途中から他県の金融機関にも導入、活用していただくことも考えるようになりました。理由として、各地域のカーボンニュートラルを実現するためには、例えばお客さまが算定したデータを基に、「自治体と一緒に進められる施策」を考えるといった目線も必要だと感じたことがあります。他県の金融機関に、炭削くんをホワイトラベルとして導入していただき、さらに各地域の企業への導入が進めば、熊本県以外でも同じような取り組みができると考えたのです。

肥後銀行#1_西村さんソロカット

玉木:他の地域で「炭削くん」を導入し、地域内の企業へ展開している金融機関を「パートナー銀行」と呼んでいます。現在、福岡銀行、鹿児島銀行、東北銀行がパートナー銀行ですが、本年中にあと5行は増やしていきたいと考えています。

カーボンニュートラルの取り組みは、熊本県だけが進んでも目標に届きません。その意味で、日本全国の金融機関と連携して取り組んでいけたら、われわれとしてもメリットがあります。金融機関に対しては、同じ立場として自行と地域の脱炭素推進における課題を抱え、対応してきたノウハウや成功・失敗事例なども共有できますし、より近い目線でサポートできます。また、パートナー銀行からの案内で「炭削くん」を導入していただいた企業へのヘルプデスクはすべて肥後銀行が担当するなど、サービスを充実させています。

徹底的な情報収集と分析によって、「炭削くん」の位置付けを明確に。約4000社の導入を実現した戦略とは?

──「炭削くん」を全国に展開するにあたり、電通に戦略設定やプロモーションを依頼した理由をお聞かせください。

西村:地銀である肥後銀行が全国に向けたサービスを提案、展開する機会は「炭削くん」が初めてだったため、ノウハウがほとんどなく、やりたくても方法が分からない状況でした。地銀がサービスを展開するときの基本は直接お客さまに会いに行き、対話することです。全国を対象とした場合、面識のないお客さまに商品を提案していくことになるので、この方法では無理がある。そこで、全国展開における知見が豊富で、営業戦略や有効性の高い方法をご相談できる電通さんに、伝手をたどってお願いすることにしました。

──実際に電通からどのようなご提案がありましたか?

西村:プロモーション部分だけではなく、競合ツールがある中で炭削くんを「どんなシステムに育て上げていくか」や、今後目指すポジションに必要な機能といったところを選評していただきました。もちろん、電通さんの強みである全国地域に対する広報戦略も含めてのご提案がありました。

玉木:特に印象に残っているのは、他社の情報収集と分析をたいへんスピーディーに、膨大な情報量をもって対応してくださった点です。その情報と分析を基に、炭削くんが目指すべきポジションなど戦略策定の部分で、かなりお力添えをいただきました。プロモーションにおいても、われわれは「とりあえずCMを……」と考えていたのですが、「それは無駄金になります」とハッキリ言っていただきました(笑)。

肥後銀行#1_玉木さん西村さん

──電通側がサポートするにあたり、ポイントとしたのはどのような部分でしたか?

槙谷:こうしたツールを開発・提供している全国のプレーヤーと戦っていく必要もあると考えたときに、まずきちんとした状況分析が必要だと考えました。この場合の「状況」には、競合ツールについてだけではなく、利用してくださる金融機関やエンドユーザーとなる企業も含まれます。そうした方々の状況が分かって初めて、炭削くんの営業戦略やポジショニングが考えられます。基本的なことではありますが、オンラインのリサーチだけではなく、生の声を集めてくることも含めて最初に分析や診断を約2ヵ月かけてしっかりやりました。

西村:他社ツールにはあって、炭削くんにはない機能ももちろんあります。その場合、「機能を追加してください」と言われることもあるのですが、「その機能は果たして『炭削くん』のユーザーや目的を考えたときに追加開発する必要があるのか?」と俯瞰する目線を、電通さんが伴走してくださったことで持つことができました。

炭削くんが目指すポジションや営業戦略に合わせて機能に優先順位をつけ、必要かどうかといったことを何度も話し合い、自行で開発した方が強みになる部分と、他社ツールと連携するなどの方法にした方が強みになる部分をアドバイスしていただいたのもありがたかったです。価格は変えない前提でしたので、その中での取捨選択ができました。

炭削くん自体は、2024年1月にリリースしましたが、その後の4~9月の間に電通さんの分析を基にした戦略を立てられていなければ、1年で約4000社の導入には至っていないと思います。

“見える化”の次は実現可能な削減案を!日々状況が変わる中でも、日本全体に脱炭素の流れをつくりたい

──今後の展開について考えていることを教えてください。また、肥後銀行が電通に対して期待されていることなども併せてお願いします。

玉木:炭削くんはあくまでCO2を「算定」し“見える化”するツールです。カーボンニュートラルのためには、“見える化”して終わりではなく「削減」していかないと意味がありません。そこで、今後はAI等を活用して企業ごとに実現可能な削減施策を提案するような機能をつけていきたいと考えています。

脱炭素分野を取り巻く状況は、お客さま企業も、国の方針も含めて日に日に変わっています。そうした中で炭削くん自体も戦略も常にブラッシュアップしていかないといけません。電通さんはこの分野の知見と経験をたくさん持っていらっしゃるので、最新の情報と併せてご提示いただきながら引き続き相談していきたい。われわれもアンテナを高く張って推進していけたらと考えています。

西村:電通さんに対しては日本を代表する企業の1つとして、私たちへの情報提供だけではなく、「日本全体で脱炭素を推進していく流れ」をつくっていただけるよう期待しています。

槙谷:ありがとうございます。脱炭素に対する取り組みは、地域によって推進状況が、はっきりと2極化しています。電通は、生活者はもとより、さまざまなお客様との接点があるので、B to Bの側面でもムーブメントをつくっていける点が強み。クライアント企業と脱炭素を推進していくような団体を組織したり、流れをつくることで、引き続き脱炭素を推進していきたいですね。

肥後銀行#1_集合カット

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【参加者募集】電通×電通マクロミルインサイト 共催ウェビナー「どうなる?ポストSDGs!未来の人々が望む商品・サービスとは? 市場をリードする新たな価値のつくり方」9月3日開催

電通と電通マクロミルインサイトは、9月3日(水)に開催するウェビナー「どうなる?ポストSDGs!未来の人々が望む商品・サービスとは? 市場をリードする新たな価値のつくり方」の参加者を募集している。

SDGsのゴールイヤーである2030年が近づき、ポストSDGsのアジェンダに関する議論が、国連をはじめとする国際機関、各国政府や経済界において始まっている。Beyond GDPといった概念も提唱され、経済成長だけでは捉えきれない「実感できる豊かさ」を新たな指標とする動きが広がりつつある。「より良い社会や暮らし」に向けて、企業はこれから何を届けていくべきか。SDGsのその先を見据えた、新たな価値創造のあり方が問われている。

本ウェビナーは、未来視点からのバックキャスト型アプローチにより新規事業・サービス開発やビジョン策定を支援する電通「未来事業創研」と、生活者の主観的なWell-beingなどのインサイト研究を行う電通マクロミルインサイト「人と生活研究所」が共催する。最新の“幸せ調査”の結果も踏まえ、「ポストSDGs」および「Well-Being」を軸に、これからの価値創造の方向性を探る。未来に選ばれるブランド・事業を構想するうえで、未来の生活者視点に立って何が必要か、そのヒントを共有する。
 
「未来の人々が望む商品・サービスとは?」

【概要】
日時:
9月3日(水)13:00~14:00
形式:オンライン
費用:無料
申し込み締め切り:9月1日(月)12:00
主催:電通、電通マクロミルインサイト

■参加登録・ウェビナー詳細はこちらから


【プログラム】

・ポストSDGsとWell-Being
・生活者の主観的Well-Beingについて
 「人と生活研究所」主観的幸せの9因子のご紹介
・最新の調査結果から読み解く“幸せを感じる”商品・サービスとは
・ポストSDGs時代を意識した、あるべき未来の可視化方法
・あるべき未来からバックキャストで考えるこれからの人々が望む商品・サービスとは

【登壇者プロフィール】

電通  シニア・ディレクター/未来事業創研 ファウンダー
吉田 健太郎

モバイル事業、スマホアプリ領域を中心とした市場分析、戦略プランニング、コンサルティングなどに従事。電通モバイルプロジェクトリーダーとして、CES/MWCに2011年から毎年参加し、TECHトレンドを把握。2021年、国内電通グループ横断組織「未来事業創研」設立。未来の暮らしの可視化からのバックキャストでの事業開発を得意とする。消費者庁 新未来ビジョンフォーラム フェロー、経営管理学修士(MBA)、日本デジタル空間経済連盟 2045年の社会像検討委員。

電通マクロミルインサイト リサーチャー/ファシリテーター
工藤 陽子

“人“を基点に、インサイトやトレンドに関するメソッド開発や、情報発信をしていく窓口「人と生活研究所」所属。企業活動におけるWell-Being促進のための研究や、クライアントワークでは、エスノグラフィのような質的調査やワークショップデザインに主に従事。JPPI認定ポジティブサイコセラピスト。

女性起業家とAIの挑戦が交差する瞬間…「RAISE HER」デモデイが示した未来への一歩

●この記事のポイント
・Women AI Initiative Japan(WAIJ)が主催する女性起業家支援プログラム「RAISE HER」第1期のデモデイが開催され、24名の起業家がAIを活用したサービスを発表した。このイベントは、半年間のプログラムの集大成であり、「卒業発表」として位置づけられた。
・受賞者たちは、自身の原体験や経験から事業アイデアを考案したと語っている。また、プログラムを通じて「挑戦する勇気」や「仲間の大切さ」を得たと振り返った。特に、AI技術の活用法を学び、事業化に向けて具体的なアドバイスやサポートを受けたことが大きな影響を与えたと述べている。

 Women AI Initiative Japan(WAIJ)が主催する、女性起業家支援アクセラレーションプログラム「RAISE HER」の第1期生によるデモデイが開催された。この日、ステージに立ったのは全24名。AI技術を活用しながら、自らの原体験をプロダクトに昇華した起業家たちが、自信と情熱に満ちたピッチを披露した。事業化の段階は様々で、すでに事業を立ち上げ複数の企業と連携している人もいれば、まだ事業化に至っていない人もいたが、いずれも自身の経験や強みを生かしたアイデアを披露し、聴衆を感心させた。

 本記事では、イベントの概要、注目プロダクト、そして受賞者たちの声を通じて、「RAISE HER」が起こした変化をレポートする。

目次

プログラムの全体像:「RAISE HER」とは何か

 RAISE HERは、女性起業家によるAIスタートアップを支援するためのプログラム。WAIJが掲げるミッションは「女性のアイデアとAIの力で、社会課題を解決する」。このビジョンのもと、起業未経験の女性でもプロダクト開発・事業化に挑戦できるよう、4か月間にわたりメンタリングや資金支援が行われた。

デモデイの見どころ:個性と社会課題が交差するプロダクト群

 今回のデモデイでは、以下のように多様な分野にわたるプロダクトが登場。共通していたのは、「自分自身の課題・関心」を原点とし、AI技術を活用して社会の困りごとを解決しようという姿勢だ。

● 教育・キャリア支援系
STEM GATE:理工系女子のキャリア支援プラットフォーム
BeShift:AIでキャリア診断と習慣化を支援
KakerAI:研究成果をベースに授業を生成するAIツール

● 子育て・家庭向け
HuGlow:親子の自己肯定感を育む投稿アプリ
キラフル:夫婦関係改善を支援するアプリ
図書AI:近隣図書館の本をLINEと連携してAIが推薦

● 地域・観光・グローバル展開
DriVoice:AI音声観光ガイド
Omiisay:飲食店の海外展開支援プラットフォーム
InnoDrops:地方の人材育成支援

● その他の革新的プロダクト
肩代わり:部下育成を支援するAIツール
Edit:資産の活用をサポートするプラットフォーム
KnoVelo:タブやURLを効率管理するブラウザ拡張

 このような多様性こそが、RAISE HERの最大の魅力といえるだろう。

注目の受賞者たち:起業ストーリーに見る“挑戦”の本質

 数多くの登壇の中から、審査員が選んだ優秀プロダクトには以下の女性起業家たちが選ばれた。

●1位:渡邉 茜さん「推し活のスケジュール・タスク管理アプリ」

 15年にわたる“2.5次元オタク歴”と生成AIの知見を活かし、ライブのチケット応募やグッズ管理、当落確認までを一元化できる「推し活管理アプリ」を開発。チケットの応募や当落確認、グッズ交換、ファンクラブ情報など、煩雑になりがちな推し活の情報管理をサポートすることを目的としている。

 渡邉さんは「自分の“困りごと”を、自分の技術で解決したかった」「RAISE HERで得たのは、挑戦する勇気と仲間の存在」と語る。現時点で事業化は考えていないとしつつ、まずは目の前の一人のファンを救うことを大切にしたいという。

●2位:平下 ひかるさん フラダンス振り付け自動解析アプリ「Hula Note」

 14年間のフラダンス経験を背景に、動画から振り付けをキャプチャし、自動でノート化するアプリを開発。

「起業なんて自分には無理だと思っていた。でも、RAISE HERで“起業がリアルになった”」と語る平下さんは、育休中にプログラミングを学び、管理栄養士から一転、開発者に。フラダンスだけでなく、他のダンスや幼稚園のお遊戯会などにも応用できる可能性があると評価されており、多様な展開をみせる可能性もある。

●3位:河畑 えりさん 親が子どもの投稿にリアクションできるアプリ「HuGlow(はぐろう)」

 病気を経験し、自らの子ども時代を振り返ったことから誕生したプロダクト。

「子どもの自己肯定感の低さは、社会全体の問題。小さな褒め言葉を積み重ねたい」「RAISE HERで出会えた“共感し合える仲間”が何よりの財産」と河畑さんは語る。

 将来的には、情緒教育の第一人者として、世界中の子どもと親を支援するユニコーン企業を目指す。

●同率3位:南 恵子さん AI音声ガイド「DriVoice」

 地方観光の課題に着目し、外国語が苦手なガイドでも質の高い案内ができるAIガイドを開発。地方観光の移動課題を解決するため、特定の条件を満たせば自家用車での送迎も可能とする観光マッチングサイトとも連動している。

「自分の地域の課題を解決したいという想いから生まれた」「自治体や観光協会と話す中で、応援してくれる人が増えた」と南さんは語る。宮崎から始め、全国へと展開を目指す。

終わりに:RAISE HERが生んだもの

「RAISE HER」は、単なる“起業支援”にとどまらない。参加者の多くが「挑戦する勇気」「仲間の存在」「共感の力」を挙げており、それは女性起業家に必要な「安心して飛び込める土壌」がまだ足りていないという裏返しでもある。

 このデモデイが証明したのは、「誰もが自分の課題から、社会を変えるサービスを生み出せる」という事実だ。AIはその背中を押すツールであり、起業は“選ばれた人だけの道”ではない。

 今後のRAISE HERの展開、そしてこれらのプロダクトの進化に、引き続き注目したい。

(文=UNICORN JOURNAL編集部)

高齢者も乗りやすい電動新車両=三輪で安定、来年度実証へ―Luup

 電動キックボードなどのシェアリング事業を展開するLuup(ループ、東京)は5日、高齢者でも乗りやすいユニバーサルデザインの新車両「Unimo(ユニモ)」を初公開した。三輪で安定性が高く、年齢や体格に関係なく利用できる。2026年度中に公道での実証実験を始め、早期の本格導入を目指す。

 新車両は自動車部品製造のアイシンなどと共同開発した。速度やハンドルの傾きを検知し、自動で車体を安定させる技術を搭載。カーブでも姿勢が安定し、身体能力によらず安心して走行できるという。 

 また全長130センチとコンパクトで、貸し出し・返却拠点「ポート」にも置きやすい。今月下旬から大阪・関西万博の会場にも展示し、デモ走行などを実施する。岡井大輝社長は「若者も乗りたいと思えるデザイン。いずれは自動運転機能も実装したい」と自信を示した。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/08/05-16:35)

AI翻訳・DeepL、東証プライム上場企業の半数以上が導入の理由…業界特化型の高精度が強み

●この記事のポイント
・DeepL、36言語に対応、228の市場で有償版が利用されており、世界の企業・政府機関合わせて20万社以上に採用されている
・独自開発のLLMと7年以上の専用データ、および1,000名以上の言語専門家による人間チューニングが特徴
・製造、自動車、製薬、法務、IT など主要業界向けに、事例を交えた導入ガイドやテンプレートを提供する計画

 AI翻訳ツールの利用が拡大し、新たなサービスが次々と登場するなか、日本では東証プライム市場上場企業の半数以上が利用しているのがDeepLだ。2017年という早い段階でAI文書翻訳サービスを始め、市場では草分け的な存在でもあるDeepLは、現在は36言語に対応。世界228の市場で有償版が利用されており、世界の企業・政府機関合わせて20万社以上に採用されている。7月にはビデオコミュニケーションツール「Zoom」でリアルタイム翻訳機能を使えるようにすると発表。独自のLLM(大規模言語モデル)を開発し、各業界に特化した製品を強みに顧客網を広げている。新興勢が次々と参入する日本市場におけるシェア拡大に向けた戦略について、DeepLジャパンに取材した。

●目次

多言語コミュニケーションの効率が5~6倍に改善

 前述のとおり日本では多くの大企業が導入しているが、導入企業では具体的にどのような効果が出ているのか。DeepLジャパンは次のように説明する。

「具体的な導入事例としては、パナソニックコネクト様がDeepLを活用し、多言語コミュニケーションの効率を5~6倍に改善したほか、日立産機システム様では、PowerPoint資料の翻訳時間を2〜3日から1日に短縮するなど、翻訳品質の向上と業務効率化に大きく貢献しています。また、NEC様ではMicrosoft Teamsと連携した音声翻訳ソリューション『DeepL Voice』の実証導入が進められており、グローバル会議におけるリアルタイム翻訳の活用が期待されています。さらに、東京都教育委員会では、都立高校における英語教育や教職員の業務支援を目的にDeepLの翻訳・ライティング機能が導入され、教育現場でのAI活用の先進的な取り組みとして注目を集めています」

 AI翻訳サービス市場では新規参入が活発化するなか、DeepLのサービスの強み・特徴は何か。

「翻訳品質の高さ:独自開発の大規模言語モデル(LLM)と7年以上の専用データ、および1,000名以上の言語専門家による人間チューニングで、競合比2~3倍少ない編集量でご利用いただけます。

カスタマイズ性:企業用用語集(Glossary)を使い、自社独自の表現や業界用語の一貫性を維持可能です 。

豊富な製品ラインナップ:テキスト翻訳(DeepL Translator)、AIライティング支援(DeepL Write)、リアルタイム音声翻訳(DeepL Voice)を提供し、一気通貫で『書く』『話す』を支えます 。

エンタープライズ対応:ISO 27001/SOC2 Type 2取得の堅牢なセキュリティ、SSO/チーム管理/利用状況レポートなど管理機能を備え、機密性の高い業務にも安心してご利用いただけます」

シェア拡大に向けた施策

 DeepLは2023年に日本法人を設置しているが、今後の日本市場におけるシェア拡大に向けた計画・施策について、同社は次のように説明する。

「パートナー連携強化:新規チャネルパートナーやシステムインテグレーターと協業し、API 経由での大規模展開を支援します。

業種特化ソリューション:製造、自動車、製薬、法務、IT など主要業界向けに、事例を交えた導入ガイドやテンプレートを提供し、業務効率化を推進します。

カスタマーサクセス:専任の顧客担当者による24時間×365日サポート、定期トレーニングやオンボーディングセッションで利用促進を図ります。

ローカル開発・研究投資:日本語特有のニュアンスや敬体・常体の対応精度向上に向けた研究開発を継続し、市場ニーズに合わせた機能拡張を行います」

 現在、AI翻訳サービスをめぐっては低価格の新規参入組も増えており、かつ米国の大手IT企業が実質無料でサービスを提供したりと、市場競争が激しくなってきているが、そうしたなかで、どのようにシェアを拡大させていく戦略を描いているのか。

「DeepLは、単なる価格競争ではなく、『品質』と『信頼性』による差別化を重視しています。特に企業向けでは、正確性が求められる法務・金融・製造などの分野で、DeepLの高精度な翻訳が強みを発揮しています。また、価格面でもサブスクリプション+従量課金モデルを採用し、エンタープライズ向けにはボリュームディスカウントも提供した柔軟な価格体系と競争力のある価格設定で、多様な顧客ニーズに対応しています。生成AIとの共存を見据えた機能強化や、NVIDIAとの連携による技術基盤の強化など、長期的な競争力の確保にも注力しています」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

電通ライブがトータルプロデュースをした埼玉初のイノベーション創出拠点「渋沢MIX」がオープン

電通ライブが、埼玉県と共に開設の準備を進めてきたイノベーション創出拠点「渋沢MIX(シブサワミックス)」が、7月25日にオープンした。

※電通ライブは2024年夏に渋沢MIXの施設構築、開設後の運営・管理業務を受託した

 

「渋沢MIX(シブサワミックス)」

本施設は、さまざまな業種・規模の企業や起業家などの交流・マッチングにより共創を行う、埼玉初のイノベーション創出拠点。「オープンイノベーションの創出・促進」「スタートアップの創出・成長支援」「イノベーションを担う人材の育成」の3つをコンセプトに、イノベーション創出のためのさまざまな取り組みを展開する予定。

電通ライブは、同社が持つ高度なプロデュース能力と、これまで培ってきた“にぎわい”を生み出すノウハウを生かし、「渋沢MIX」の継続的な活性化を目指す。

【渋沢MIXの利用について】
1.会員区分

渋沢MIXは、原則として会員登録制(無料)の施設。会員の区分や利用可能な主なサービスについては、以下のとおり。

渋沢MIXの利用について 会員区分

2.会員登録
会員登録に当たっては審査を行う。なお、渋沢MIXで開催されるセミナーなどのイベントへの参加は、会員登録不要(会員限定のイベントを除く)。
①申し込み
申し込みフォームはこちら
https://shibusawa-mix.pref.saitama.lg.jp/membership/
②面談
書類審査終了後、面談を実施(オンライン)。
③登録~利用開始
審査を通過された方は渋沢MIX施設にて利用契約・入退室管理システムの登録を行い、利用開始となる。

3.専門人材
渋沢MIXの会員は施設利用だけでなく、各専門人材への相談も可能。さまざまな専門人材を配置し、利用者同士の出会い・交流の促進やイノベーションの創出・成長を支援する。
●コミュニテイマネージャー
渋沢MIXに常駐し、利用者の相談対応やイベントの企画・運営に従事する。
●共創コーディネーター
企業同士、企業と県内外機関などをつなぎ合わせることで共創を支援する(予約制)。
●スタートアップアドバイザー
スタートアップに対する専門的な助言やベンチャーキャピタルなどへの橋渡しを行う(予約制)。

4.イベントについて
渋沢MIXでは、コンセプトに基づいたさまざまなテーマによるセミナー、勉強会、交流会などのイベントが開催される。
 
【施設概要】
渋沢MIXは、約500もの企業の創立に携わった埼玉県出身の偉人である渋沢栄一翁が、適切な人や企業をマッチングすることで企業を成長に導いたことに倣い、人々が出会い、つながり、共創することで新たなイノベーションが創出される場を目指している。

渋沢MIXのロゴ

名称:渋沢MIX(シブサワミックス)
場所:埼玉県さいたま市大宮区吉敷町4丁目262番18
   「ekism(エキスム)さいたま新都心」5階
開館:平日 10時~21時
   土曜 10時~18時
   ※日曜日・祝日等除く/イベントでなど延長の場合あり
機能:コワーキングスペース、イベントスペース、ラウンジ、個別ブース(打ち合わせスペース)、受付、情報掲示スペース  など

【施設構築・運営】
埼玉県
統括・トータルプロデュース
 電通ライブ
運営・管理
 電通イベントオペレーションズ 
 コミュニティコム
 アドリブワークス
施設構築
 日展
 テイクアーキテクツ
ロゴデザイン
 TM

アイデア産業の仲間たち

続ろーかるぐるぐる#200_メイン画像

近年、電通グループ内で「アイデアという商品は何を指すのか?」「どうやって作って、どうやって品質管理をし、どのようにお客さまの手元までお届けするのか?」などなどについてざっくばらんな対話を重ねる「Creative Dialogue」という会をやっています。

要はこのコラムに書いていることを、5~6人くらいのメンバーで集まってあれやこれや、のべ300回以上、話をしているのです。

今回は連載200回を記念し、そんな仲間の中からマーケティング、プロモーション、クリエイティブ、プロデューサー、デジタルなどさまざまな分野の(お互いに「はじめまして」の)プロフェッショナルな皆さまに集まっていただきました。

クリエイターの仕事は、クラフトだけではない

続ろーかるぐるぐる#200_山田さんアイコン

本日のタイトル「アイデア産業の仲間たち」には由来がありまして。電通の先輩、杉山恒太郎さんはかつて“アイデアが日本の誇る輸出産業となる日が来る”とおっしゃっていました。

そしてぼくはそれに刺激を受けて最初の本「〈アイデア〉の教科書」を書きました。今、電通グループ内でCreative Dialogueと称して「アイデア」に関する対話を重ねているのも、すべて杉山さんの言葉を心から夢見ているからなんです。

続ろーかるぐるぐる#200_高山さんアイコン
いつでもクライアントの課題と真摯(しんし)に向き合う戦略家

Creative Dialogueではアイデアを「表現のアイデア」と「構造のアイデア(コンセプト)」に整理しています。わたしは電通東日本でストラテジック・プランナー(以降ストプラ)として戦略を考える部署にいるからこそ、この「構造のアイデア」あるいは「コンセプト」といわれるものが大好きです。

ストプラというとアカデミックというか、難しいことをこねくり回している印象があるかもしれませんが、「構造のアイデア」を生み出すクリエイティビティにこそ、大きな責任があると感じています。

続ろーかるぐるぐる#200_藤本さんアイコン
ある時は理論派、あるときは情熱家。可能性無限大のコピーライター

ぼく自身は「構造のアイデア」みたいな部分をもっと意識的に考えていきたいです。もちろんクリエイターとして「クラフト」と呼ばれる見せ方とか表現の工夫もめちゃくちゃ大事にしていますが、そこだけにこだわっちゃって、「なんかいい感じの表現を作る人」みたいなポジションに収まりたくはないなって思っています。

“新しい価値を生み出す”ところは、クリエイティブもマーケティングも関係なく、本質的にすごく大事なことだと思うんですよね。

続ろーかるぐるぐる#200_山田さんアイコン

のっけから面白いお話ですね。北海道の現場から見ると、いかがですか?

続ろーかるぐるぐる#200_増田さんアイコン
クライアントからの信頼が絶大な「北の大地」のクリエイティブ・ディレクター

Creative Dialogueを通じて一番感じているのは、アイデアを形にしていくのには「型」があるということです。もしかすると、クリエイティビティは今まで「個人の技」に頼りすぎていたのではないでしょうか。

例えば「コンセプトとは何なのか?」という、今まで当たり前すぎて考えてこなかったことをしっかり見つめ直すだけで、マーケティングでもクリエイティブでも、もっとみんなで意見をぶつけ合う、もっとみんなで動く「型」が手に入ると実感しています。

続ろーかるぐるぐる#200_吉田さんアイコン
ニコニコ笑顔でロジックとアイデアを語るアカウントマネージャー

わたしはCARTA ZEROでデジタルコミュニケーションを中心に担当しているのですが、いまだに媒体起点というか、「YouTubeで発信するならこんな表現がいい」「クリックしてもらいたいならこの表現にしましょう」といったように、オンライン媒体になった瞬間、どうも定量でだけ評価される傾向があると思います。

そんな中、「コンセプト」をしっかり言語化していくことで、オンライン媒体とオフライン媒体の統合はもっと効果的に進むんじゃないか、と考えています。

Creative Dialogueの中では「もし日本の喫茶店が、自分たちのサービスの本質を『サードプレイス』と言語化できていたなら、スターバックスに代わって世界を席巻していたかもしれない」というお話が印象に残っています。やはり、自分たちがつくった価値をしっかり“言葉でつかまえる”ことは、とても重要だと思います。

続ろーかるぐるぐる#200_高山さんアイコン

そうですよね。どんな案件であれ「コンセプトが何であるのか?」はっきりさせることの良い点は、作業の無駄がなくなることです。本質的なコンセプトが何であるかが曖昧なまま、なんとなく“耳触りの良い言葉”を「コンセプト」として戦略の中心に置いちゃうと、結局、その案件に取り組んでいるうちに方向性が見えなくなり、迷子になるんです。

続ろーかるぐるぐる#200_山田さんアイコン

なるほど、マーケティングとクリエイティブ、オンラインとオフライン、それらをつなぐ上位概念として「コンセプト」が重要だということですね。それは当然といえば当然なのですが、「コンセプトが何であるのか?」をはっきりさせることはチーム力を向上させるカギになりそうだ、という感じでしょうか。プロモーションのプロから見ると、いかがですか?

続ろーかるぐるぐる#200_松浦さんアイコン
チームを優しく見守り、温かくリードするアートディレクター

わたしは「コンセプトは、サーチライトである」というお話が一番印象に残っています。高山さんもおっしゃる通り、日々の作業ではうっかり「すてきなコピー」を「コンセプト」と混同しちゃうケースもあったんですが、まさにサーチライトとなって、仲間に対して進むべき方向を照らし出す言葉がコンセプトなんだと理解しています。

全体を俯瞰(ふかん)して「構造」として捉えることがクリエイティブ・ディレクターの仕事だし、またチームメンバー全員が構造を意識することで、現場のクリエイターの成長もより確実なものになると思っています。

続ろーかるぐるぐる#200_サーチライトの図
続ろーかるぐるぐる#200_増田さんアイコン

確かに気の利いたキャッチコピーがあると、「それが、コンセプト」って言いがちですね。

続ろーかるぐるぐる#200_山田さんアイコン

安田さんはプロデューサーという立場から、いかがでしょうか?

続ろーかるぐるぐる#200_安田さんアイコン
冷静沈着な行動の裏に、常に熱い思いをたぎらせるビジネスプロデューサー

日ごろのキャンペーン開発業務の中で、それが「良いクリエイティブかどうか?」という判断と、それが「クライアントにとって良い結果をもたらしそうか?」という判断はどちらも重要なのですが、ともすると感覚的になりがちでした。そんな中、皆さんのお話にあった「表現のアイデア(クラフト)」と「構造のアイデア(コンセプト)」を整理することによって、明確な軸を示しながら冷静にチームを牽引していけそうだと思っています。

これからビジネスプロデューサーとして経営課題に向き合うときにも、それは大きな判断軸になりそうです。

「コンセプトの品質管理」という考え方と出合って

続ろーかるぐるぐる#200_山田さんアイコン

さて、Creative Dialogueの中では皆さんと「コンセプトの品質管理」をするための5つの基準について話をしていますが、特に印象的なものはありますか?

続ろーかるぐるぐる#200_コンセプトの品質管理
続ろーかるぐるぐる#200_芳田さんアイコン

この①ですね。コンセプトが「新しい視点」になっているかどうかを考えるときに、「古い視点(常識)」がわからないと「新しい」かどうか判断できないという点は、シンプルに新鮮に感じました。

続ろーかるぐるぐる#200_松浦さんアイコン

Creative Dialogueではコンセプトの話をするときに、必ず「サーチライト」の図が出てきて、それにのっとって話をするように求められますもんね。

続ろーかるぐるぐる#200_増田さんアイコン

そこで感じたのは、「古い常識」っていうのは「変えるべきふつうのこと」「当たり前のこと」なので、実は「それを変えた方が良いよね」ということに気が付けるかどうかがスタートラインだし、とても大事だということです。実は「変えるべきふつうのこと」がわからないから「新しい視点」としてのコンセプトが見つからない、ということが結構あるんじゃないかと思いました。

続ろーかるぐるぐる#200_安田さんアイコン

一つ質問があって、実際の仕事でこの「5つの基準」全てをかなえるのは、すごく難しいと思うんです。あえてお聞きしたいのは、この5つの中で「これを満たしていれば上出来」みたいなものって、あるんですか?

続ろーかるぐるぐる#200_芳田さんアイコン

全てを満たしている必要はない気はするけど……

続ろーかるぐるぐる#200_山田さんアイコン

たぶん、①古い常識を覆しているから②新しい悩みが見つかるし、②新しい悩みが見つかっているから④市場規模とか「数字」が推計できるし……というように、5つの基準は互いに独立しているというよりは、相互連携していると思うんです。その意味では②だけ、とか④だけ満たしている状況というのが、ちょっと想像できません。

一方で、ぼくも芳田さんに賛成なのは、「すべて満点」という状況も、これもまた想像しづらいということです。

なぜなら各案件において、完璧な言語化なんて、まずできません。そして世の中がどんどん変化していく中で、そのコンセプトが描くお客さまと商品・サービスの新しいつながりの意味も、日々刻々、どんどん変わっていく。

昨日80点だったものが、きょう40点になっているかもしれない。その意味で、ぼくらが取り組むのは「絶対的に正しい答えを手に入れて満足」ではなく、「いま、ここ」での最善を探しながら、一方でとりあえず手にしたものは「仮説」に過ぎないことも知りながら、永遠のスパイラルを旅するような、そんな仕事だと思うんです。

続ろーかるぐるぐる#200_松浦さんアイコン

「とあるCDが、企画時でも提案時でも制作時でもなく、実施後しばらくしてコンセプトを言語化した」。つまり実はその時までコンセプトを言語化できないけれどあきらめないで考え続けていた、というエピソードがありました。

通常コンセプトは、ある種の分析から生み出されると思われがちですが、そうでなくて「表現」のようなアウトプットから逆算しても良いのだ、と。これはまさに「いま、ここ」での最善を提案したとしても、その後も引き続き考え続けなければならない、ということかもしれないですね。

「コンセプトの品質管理」をするための基準は、もっと精緻化できる

 

続ろーかるぐるぐる#200_藤本さんバナー

①と②、そして③〜⑤は、同じ「良きコンセプトの類型」でも、ちょっと種類が違う気がしていて。後者の「方向性」と「数字」と「理想」は、まさしく「コンセプトの品質管理」のために必要なものです。でも前者の①と②は、良きコンセプトを新しく考えるときに最初にぶつかる壁のようなもので、ここを乗り越えるのがめちゃくちゃ大変なんですよね。

だからこそ、チーム全員でちゃんとマーケットと向き合って、一緒に考えていかないと、本当にいいものってなかなか出てこないなって思います。

続ろーかるぐるぐる#200_山田さんアイコン

たしかにこの①~⑤は、そこに何かを流し込めば自動的に答えが出てくるようなフレームワークではないですよね。だからこそ、やりがいがあるのですけど。

続ろーかるぐるぐる#200_増田さんアイコン

ぼくも藤本さんと同じようなことを感じています。①と②、そして③と④と⑤は種類が違う。そして、たとえば⑤のその組織が目指すべき「理想」は「コンセプト」を考え始める切っ掛けにはなるかもしれないけれど、④の売上高や利益額といった「数字」は企画の出発点にはなり得ない。なんとなく①②から始めて③④⑤に流れていくイメージです。

続ろーかるぐるぐる#200_山田さんアイコン

そうですよね……。実はこの5つの基準については、Creative Dialogueを始めた4年前は言葉つきや内容が今とは違うものでした。皆さんとの対話を通じて、今でも少しずつ育てている最中なんです。さっきもお話ししたように5つの要素が必ずしもMECE(モレなく、ダブりなく)になっていなし(笑)。例えば並べる順番も④の数字と⑤の理想、どっちを先にしようかなぁ、なんかコンセプトのお話が数字で終わっちゃうのは楽しくないのかなぁ……と悩んでいます。

続ろーかるぐるぐる#200_高山さんアイコン

ぼくはちょっと違う意見で、④の「数字」がとても大事だと思っています。クライアントは限られた予算の中で、どうやって売り上げを達成するかを真剣に考えていらっしゃいます。だからこそ、ぼくらにはアイデア(コンセプト)という一見頼りない言葉が、いかに数字に貢献するかを説明する大きな責任があると思います。数字で説明できれば、それはつまり「市場を創造できる」という「大きな夢」につながるので、ぼくはこの④が一番好きです。

続ろーかるぐるぐる#200_松浦さんアイコン

自分の企画が「ひとりよがり」にならないための視点として、④の「数字」は大切ですよね。

続ろーかるぐるぐる#200_安田さんアイコン

結局、クライアントにそのコンセプトの価値を明確に伝えられるかということが、その企画をお買い上げいただけるかどうかの大きな分岐点になります。その意味では、高山さんのおっしゃっていることは、とてもよくわかります。

続ろーかるぐるぐる#200_増田さんアイコン

⑤では「理想」を「実現する」と書かれているけれど、④の「数字」は「約束」ではなく「予感させる」なんですよね(笑)。

続ろーかるぐるぐる#200_芳田さんアイコン

デジタルをやっている立場からすると、「数字」といってもいろんな「数字」がありますよね。例えばスターバックスの「サードプレイス」をテーマに企画をするなら、「自分の居場所」なのだから、「どれだけの人がアプリでポイントをためたか?」なんて話じゃなくて、「どれだけの人がメニューを自分好みにカスタマイズをしたか?」といったように、測定指標自体も今までにない、クリエイティブなものになりますよね。

続ろーかるぐるぐる#200_増田さんアイコン

ちなみに、この評価基準①から⑤みたいなものを、日ごろの業務に生かしている方って、いらっしゃいます?

続ろーかるぐるぐる#200_高山さんアイコン

戦略立案を担うストプラとしては、今やっているプロジェクトにも、そのまますぐに生かしています。

続ろーかるぐるぐる#200_増田さんアイコン

ぼくもCreative Dialogueで「あぁ、きょうも山田さんと楽しく話したな」で終わらないように、できるだけ実践に生かそうと思っています。この前も、あるプレゼンで、ここで話されている「型」をすごく意識したりしました。

続ろーかるぐるぐる#200_山田さんアイコン

ありがたいことです。そうやってどんどん皆さんに実践していただいて、そしてまたフィードバックを頂いて、例えばこの「コンセプトの評価基準」についても、もっともっと精度を上げていかなければならないですね。

「アイデア産業」を前に進めよう

続ろーかるぐるぐる#200_山田さんアイコン

Creative Dialogueで皆さんと話し合っている「アイデア」「コンセプト」を武器に、これからどんなお仕事にチャレンジしたいとお考えですか?

続ろーかるぐるぐる#200_安田さんアイコン

新しい仕事の前にまず、Creative Dialogueの対話を通じて日々の業務を見る目が変わってきている点を一番実感しています。その上で、事業や商品のブランディング全体や、いわゆる経営課題に関するご相談に対しても対応する準備ができてきていると感じます。

大きなクライアントの仕事で、しっかりとしたオリエンが用意されており、それにいかに返すか?というお仕事も大切です。一方で、まだどこに課題があるかもわからない状態でご相談を受けて、商品コンセプトから経営方針まで伴走するプロジェクトにも取り組んでみたいと思っています。

続ろーかるぐるぐる#200_藤本さんアイコン

ぼくは広告や商品・サービスとして「良いもの」を目にした時に、「なんかいいなぁ」で片づけることを禁止するために「コンセプト」が有効なのだと思っています。「なんかいい」と感じるものには、必ずしっかりしたコンセプトがあるはずで、それをちゃんと捉えられるようになりたい。そのためにも、“コンセプトをつくる技術”を、もっと使いこなしていきたいですね。

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わたしはコンセプトを活用してオンラインとオフラインをしっかりつなげていきたいです。その両者の体験が一致して、ブランドに一貫性をもたらすことが大切です。当たり前のことではあるのですが、現実にはもっともっと高い質のコミュニケーションを目指せると思っています。

続ろーかるぐるぐる#200_増田さんアイコン

ぼくたち電通北海道は、クライアントの皆さまからまだまだ“広告屋さん”だと思われているんです。「川上からやりますよ」とか宣言したところで、そういう目で見てもらえていない。一方でマンネリ化した何かとか、売り上げが止まっちゃっていることに悩んでいるクライアントが確実にいることも事実です。

だからこそそういった企業で何ができそうか、広告コミュニケーション領域を超えて、自分自身で考えて、話をしてみる。それを先方が喜んでくれて、結果ブランドの根幹、企業の根幹に触れる何かができるような仕事をしていきたいと思っています。

続ろーかるぐるぐる#200_高山さんアイコン

やりたいことは二つあります。まず、電通東日本もまだまだ“広告屋さん”なのだと思います。「事業価値を再定義してほしい」とか「ビジネス・トランスフォーメーション(BX)をやりたい」と言っているクライアントは、多くない。基本的に求められているのは「広告コミュニケーション」なんです。

でも、クライアントはその奥で、潜在的にビジネスの在り方で悩んでいたりします。そうしたとき、「この一つの商品を、どうやって売ったら良いか」という仕事の延長線上としてビジネスの潜在的な悩みも解決していく、そんな仕事をやっていきたいです。

二つ目は、作業上の「無駄」をなくしていくことです。さっきも話題になりましたが「かっこいい言葉」と「コンセプト」を混同すると、確実に作業の効率が悪くなります。だからこそ「コンセプトの品質管理」を理解する仲間の輪を、クライアントも含めて広げて、そうした無駄を排除していきたいです。

続ろーかるぐるぐる#200_松浦さんアイコン

わたしは会社のクリエイティブセクション自体を盛り上げたいです。手前みそですが、うちのメンバーってけっこう「優秀」だと思うんです(笑)。そういったメンバー一人一人がもっと自身の能力を高められるように、「構造のアイデア」のような根本から考えて取り組む仕事を会社内に増やしていきたいと思っているので……どしどしお仕事ください。

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“広告屋さん”であることももちろん素晴らしいのですが、やはり「ぼくらはクリエイティブの会社だ」と胸を張って言える存在になっていきたいですね。

続ろーかるぐるぐる#200_山田さんアイコン

きょうはいろいろなバックグラウンドを持つ皆さまに集まっていただきましたが、それぞれの専門領域を超えてしっかり「コンセプト」が共通言語になっていることが心強いですよね。このメンバーでチームをつくったら、とてつもなく良い成果が上がる気が。読者の皆さま、お仕事をお待ちしてます!!(笑)

【メンバー紹介】

高山 勇輝
電通東日本 ストラテジック・プランナー
電通ヤング・アンド・ルビカム(現 電通東日本)入社以来、ビジネスプロデューサーとして飲食、食品、嗜好品などのブランドにおけるマスからデジタルまでの統合的なブランドコミュニケーションに関わり、現在はストラジック・プランナーとして、行政や金融・建設業など幅広く、コミュニケーション戦略立案を手掛ける。

藤本 千尋
電通 コピーライター
2001年、山梨県大月市生まれ。カンヌライオンズヤングコンペティション2024ファイナリスト。

増田 光記
電通北海道 クリエイティブ・ディレクター
札幌のプロダクションから広告業界をスタートし、電通テック(現 電通プロモーションプラス)札幌支社を経て現在に至る。「考えつづける」ことをモットーに、本質課題を捉えた戦略づくり、ストーリー構築、コアアイデアの発見~クリエイティブ表現で、クライアントが抱える課題に最適な解決策を粘り強く探します。現在は、広告クリエイティブの枠を超えて、未来づくりの領域に挑戦中。

松浦 恵
電通プロモーションプラス アートディレクター
神奈川県生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒。アートディレクターを軸にプランニングから作るところまで。おいしそう・かわいい・楽しいが得意。3歳の娘と愛猫がいます。受賞はThe GLOBES Awards、CANNES LIONS ショートリスト、など。

安田 桜子
電通アドギア/ビジネスプロデューサー
入社以来ビジネスプロデューサー業に従事。大手飲料メーカー、食品メーカーの担当を経て、企業ブランディング開発、PRプロデュースなども担当。 2024年から株式会社サン・アドに出向、クリエイティブプロデューサーに従事。クリエイティブ制作プロデュースを得意領域としマス広告〜ブランディング・PR案件などを担当している。

芳田 晃一
CARTA ZERO アカウントマネージャー
映像制作会社、電通を経て 2022年からCARTA HOLDINGS。B2CからB2Bまで幅広い案件に携わり、デジタル領域を中心にマーケティング戦略からプランニング、効果検証までの業務を推進。電通グループ横断プロジェクト「電通B2Bイニシアティブ」リーダー。

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BXにつながる、電通ライブの「体験デザイン」とは?

国内最大規模のイベント・スペース専門会社である電通ライブ。リアル、バーチャルを問わずさまざまなイベントを企画・運営し、空間デザインも手掛けています。

本連載でお伝えするのは、電通ライブの「体験デザインを活用したビジネス変革(BX)」。現状では「プロモーション」として位置づけられがちなイベント事業を、BXのアプローチの一つとして捉え、活用していく可能性を探ります。

記事では毎回、高い専門性を有する電通ライブのメンバーが登場。ビジネスにおける「イベント」の新しい可能性について、事例を交えながらお伝えします。

今回お話しいただくのは、サーキュラーエコノミー統括の堀田峰布子氏。ご自身が手掛けた資源循環プラットフォームの実証実験の事例を交えて語っていただきました。

電通ライブ

電通ライブが提供するのは、「体験デザイン」という価値

──初めに自己紹介をお願いします。

堀田:電通ライブのサーキュラーエコノミー統括を務めています。私は、サーキュラーエコノミーの専門家として、さまざまなサーキュラービジネスを企画・運営しています。

なぜ電通ライブにサーキュラーエコノミー専門家がいるのか疑問に思われるかもしれませんが、実はイベント業界こそ、サーキュラーエコノミーの恩恵を受けやすい業界です。日程・機材・廃棄物が事前確定される計画経済的性質により、他業界と比べてサーキュラーエコノミーの計画・実行・効果測定が容易な優位性があります。また、従来の「調達→制作→設営→撤去→廃棄」のワンタイムモデルから脱却し、サーキュラーエコノミー導入により環境・経済・社会価値を創出できると考えています。

──電通ライブの事業について教えてください。

堀田:当社は、国内最大規模のイベント・スペース専門会社です。イベント事業は、モビリティショー、スポーツ大会、展覧会、大手商業施設の開業イベントなど、多くの人を動員するリアルなものから、バーチャル領域まで幅広く手掛けています。スペース事業は、企業ミュージアム、車両デザイン、ディスプレー、ポップアップストアなど多岐にわたります。当社には、一級建築士や一級建築施工管理技士をはじめ、専門的な知識・技術を持つ人財が多数在籍し、世の中に新しい体験を提供しています。

電通ライブ
(上段左から)True Colors Festival THE CONCERT 2022、SUBARU JAPAN MOBILITY SHOW 2023、こどもの視展、(下段左から)ハラカドでmelt、ジャパンアニメタウン、パークプレイス大分シャングリラリニューアル 企画・設計(電通ライブウェブサイトより)

堀田:電通ライブは、イベントやスペース領域の会社だと、多くの方が認識されていると思いますが、私はその上位概念として「体験デザイン」の会社だと捉えています。

──体験デザインとは、どのようなものでしょうか?

堀田:ユーザーが製品・サービスと接触する全てのプロセスで得られる価値、感情、記憶を総合的に設計することで、ユーザーの意識や行動の変容を多角的に促進することです。

ビジネスにおいて、一般的にイベントは、商品・サービス開発のフェーズの最終段階に位置し、商品を世に送り出すプロモーションの役割を担います。しかし、イベントを「体験デザイン」と捉えると、開発の上流工程に戦略的に組み込むことで、BXにも活用できると考えています。例えば、新規事業や商品・サービスの開発工程の「テスト・検証フェーズ」に「体験デザイン」を組み込むことができます。

商品開発のプロセスにおいては、ユーザーインサイトや市場調査の結果に基づいて開発を進めたものの、完成した商品やサービスをいざ市場に投入してみると、企業が想定していた商品イメージを消費者に抱いてもらえなかったり、狙った顧客層を獲得できなかったりすることがあります。そのようなギャップを防ぐために、「テスト・検証フェーズ」で「体験デザイン」を活用することができるでしょう。

電通ライブ

──「テスト・検証フェーズ」における、「体験デザイン」の活用とは、どのようなものですか?

堀田:一言で言うと、リアル体験型のテストマーケティングです。商品やサービスをどのようなイメージで、どういったお客さまに提示するのか。カスタマージャーニー全体を通して、よりリアルな体験機会を設けて検証するということです。そこで得た結果を開発にフィードバックすることで、新規事業や商品・サービスをリリースしたときに、狙った顧客層をつかみ、エンゲージメントを高めていくことが可能になります。

さらに重要なのは、「体験デザイン」を通じて取得できる高品質な意識行動変容データです。「テスト・検証フェーズ」では、従来の市場調査では得られない、顧客の実際の行動パターンや情動データを取得できます。このデータを元に、実際の商品のローンチ時に活用できるデータドリブンなBX戦略の構築に寄与できると考えます。また、「体験デザイン+データ取得活用」によりmROI(Marketing Return on Investment:マーケティングの投資対効果)への貢献の可視化も可能になると思います。

電通ライブ


 

資源循環プラットフォーム「で、おわらせないPLATFORM」における、「体験デザイン」

──「テスト・検証フェーズ」に「体験デザイン」を組み込んだ事例を教えてください。

堀田:電通グループでは、2023年12月~2024年1月の2カ月間、「で、おわらせないPLATFORM」の実証実験を行いました(リリースはこちら)。「で、おわらせないPLATFORM」は、製造や流通メーカーの“動脈”、リサイクラーの“静脈”、生活者をデジタルで連携させる、サーキュラーエコノミーの取り組みです。

堀田:実証実験では、明治、ローソン、ナカダイホールディングスと協業して、空容器などの「回収・リサイクル」に、クーポン・ポイントなどの「販促」を組み合わせた、「体験デザイン」を構築。消費者が、「明治おいしい牛乳」をはじめとする、ローソン店舗で取り扱っている紙パック商品を、ローソン店舗に設置した資源循環ボックスに投函。投函時に、紙パックのJANコードを読み取ると、「明治おいしい牛乳」のクーポンを取得できる仕組みにしました。

──実際に消費者が回収・リサイクル行動に参加できる「体験デザイン」を構築したのですね。どのような収穫がありましたか?

堀田:実証実験の結果、参加者の意識行動変容のデータ取得と分析ができて、今後のサーキュラーエコノミー事業に活用できる基本となるモデルを作ることができました。また、いくつかの興味深いファインディングスがありました。

認知から行動への転換率モデル化
回収活動の認知率を100%とした場合、最終的な回収完了率は5~10%という具体的な転換率を把握しました。これにより、サーキュラーエコノミーの課題である、顧客からの回収において、各段階での離脱要因に対する具体的な対策立案が可能になりました(※)。

※一般的なクローズドキャンペーンと電通グループ実証実験の実績値からの推計
 

電通ライブ
消費者の行動パターンの可視化
当初、回収場所への持参行動が最も離脱が大きいと仮説を立てていました。しかし、空き容器の保管フェーズも離脱の大きな要因になることが分かりました。実証実験の結果、消費者は家庭で空箱をいくつか保管して、たまったら店舗に持参するという行動パターンが見えてきました。これは、当たり前と言えば当たり前ですが、家庭での保管については、空箱や空容器を保管しておく場所がないと保管が面倒になり、回収行動から離脱しやすくなります。つまり、回収事業をする際には、併せて保管袋や保管ボックスなどの提供も検討した方が良いというファインディングスがありました。

顧客セグメントごとの行動変容率
実証実験に参加した顧客をセグメント化して、行動変容率を分析しました。その結果、これまで回収に参加したことがなかった参加者の内、この施策によって回収に参加したという行動変容率を比較すると、「明治おいしい牛乳」のロイヤルカスタマーが5.9%で、非ロイヤルカスタマー層2.8%と比較して、行動変容に大きな違いが表れました。つまり、いままで回収に参加していなかったロイヤルカスタマーは、回収場所が近くにあれば、行動変容が起こりやすい顧客ということです。よって、ロイヤルカスタマーに対してアプローチしていくことが、継続的な購買と回収が行われ、事業性と社会貢献性の両立にも寄与することが見えてきました。

他にも、実証実験では、来店客数の変化、回収活動への参加人数、参加頻度、売り上げへの貢献、施策によるブランドイメージへの影響など、さまざまなデータを取得できました。リアル体験型のテストマーケティングとして、実店舗で実証実験を行ったからこそ、リアルな体験デザインの提供ができ、消費者の意識行動変容を「オフライン×デジタル」の融合で詳細につかむことができたと考えています。

──「テスト・検証フェーズ」に「体験デザイン」を組み込むことで、さまざまなデータが取得でき、消費者の行動モデルがつかめることが分かりましたね。

堀田: 電通グループには、データテクノロジーセンターや電通デジタル、電通マクロミルインサイトといった、データに強い会社もあります。これらの会社が、人の機微や動きの知見を集積した電通ライブと連携できます。例えば、「体験デザイン」に、IoTやアイトラッキング(視線計測技術)、生体反応測定なども活用すれば、参加者の情動や行動データを定量的に分析して、確度の高いマーケティングが実現できるでしょう。

今回紹介した実証実験以外でも、体験デザインを構築し、データを取得・活用することで、新規事業や商品・サービスの精度を上げることができます。

この連載では、イベント領域で培った統合的な体験価値をビジネスに柔軟に組み込むことでビジネスに変革を起こす電通ライブの取り組みを引き続き紹介していきます。

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路線価の上昇は喜べない?高齢者のいる世帯に深刻な影響…相続税アップで住宅を手放さざるを得ない

●この記事のポイント
・2025年分の路線価、全国の標準宅地の平均は前年比2.7%プラス、東京都内は同8.1%プラス
・インバウンドだけではなくて国内の消費、旅行含めた人の移動が活発になっている証左
・路線価が毎年上がり続けることで、相続によって物件を売却するという動きも増えてくる

 国税庁は7月1日、2025年分(1月1日時点)の路線価を発表した。路線価は相続税・贈与税の算定基準となる。全国約32万地点の標準宅地の平均は、現在の算出方法となった2010年以降としては最大の前年比2.7%プラスとなり、東京都内は平均で前年比8.1%プラス、関西2府4県は同2.7%プラスという高い伸びとなった。地方でも長野県白馬村が同32.4%プラス、北海道富良野市が同30.2%プラス、岐阜県高山市が同28.3%プラスなど高い伸びを示す地域が出ている。路線価の上昇は一般の生活者、特にこれから相続を迎える人に深刻な事態をもたらす懸念があると専門家は指摘する。どのような問題が潜んでいるのか。また、路線価の上昇の背景には何かあるのか。専門家への取材を交えて追ってみたい。

●目次

賃貸住宅需要や不動産の売買需要が活発になってきた結果

 全国でもっとも上昇率が高かったのは前出の長野県白馬村。路線価が全国でもっとも高かったのは東京都中央区銀座5の「鳩居堂」前(1平方メートルあたり4808万円)。東京都内で上昇率の最高は浅草の雷門通り(前年比29%プラス)。全国的に大きな上昇幅となっている要因は何か。不動産事業のコンサルティングを手掛けるオラガ総研代表取締役の牧野知弘氏はいう。

「全般的にコロナによる影響が払拭されて、インバウンドだけではなくて国内の消費、旅行含めた人の移動が活発になっている一つの証左ではないかと捉えております。例えばオフィスもリアル勤務に戻るという傾向が顕著になっており、低金利が続いておりますのでマンションに対する需要も活発です。これに加えてインバウンドを含めた旅行需要もコロナ前の水準に戻ったことで、全国的に地価が上昇傾向を強めています。当然ながら土地の価格は観光客の動向だけではなく、人の動きの影響を受けますので、賃貸住宅需要や不動産の売買需要がかなり活発になってきた結果だと考えられます」

 地方で一部の地域が大幅な上昇をしている理由は何か。

「白馬や富良野といった冬のスポーツ、スキーリゾート地の大きな地価の上昇というのは、多くのインバウンドが何らかの目的を持って日本の地方都市を目指すという動きの結果だと考えられます。岐阜県の高山ですと古民家に代表される街並み、そういった場所を訪れる外国からの旅行者が、特に日本を何度も訪問するリピーターの間で非常に増えています。そうしたリピーターは東京、京都、大阪の観光を卒業されて、日本は非常に交通体系が整っておりますので、地方にも気軽にアクセスしており、その結果、地方都市でも宿泊や商業への需要増大が期待できるので地価が上がっています。

 また、台湾TSMCが大規模工場を設置した熊本県の菊陽町なども路線価が上がっております。昔風にいうと企業城下町、工場ができると住民が増えて商業が活発になりますが、外資系企業の新たな進出によって地価が上昇するという動きもみられます」

二次相続で多額の相続税

 路線価の上昇は、人々に大きな影響を与え始めているという。

「路線価は相続財産を評価する際の基礎となる数字ですので、それが全国的に上昇しているというのは、これから相続を迎える高齢者のいる世帯にとっては深刻な問題です。年間で亡くなる方の数は160万人くらいですが、その構造が変わりつつありまして、配偶者を亡くされた高齢のおひとり様が増加しています。ご夫婦のうちどちらかが亡くなった際の相続は一次相続といわれ、相続税上、配偶者特別控除があるので、多くの場合は税金を負担せずに済みますが、二次相続になると、こういった控除はなくなります。例えば大都市圏の比較的中心部に住まわれている方になりますと、かなりの割合で相続税が課税されることになりますが、路線価が上がっていくと、ご遺族が二次相続で多額の相続税を課せられることになります。

 団塊の世代が後期高齢者となり、おそらく向こう5~10年くらいの間で、実際に相続が発生するケースが増えてくると予想されますので、路線価が毎年上がり続けることで、二次相続によって物件を売却するという動きも増えてくると思われます。当面は、少なくとも大都市圏は不動産価格が大きく落ち込む可能性は低いと考えられますので、ここまで大きく路線価が上昇するというのは、多くの人々、特にこれから相続を迎える方々にとっては、決して朗報とはいえない、むしろ深刻な事態だといえるかもしれません」(牧野氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

成田空港、6月の国際線外国人旅客は過去最多=中国線好調

 成田国際空港会社は31日、6月の空港運用状況(速報値)を発表した。国際線の外国人旅客数は前年同月比1%増の184万9269人で6月としては過去最多となった。中国線の発着が好調だった。日本人らを含めた国際線の旅客数全体は2%増の267万0104人。

 2025年上期(1~6月)の国際線の外国人旅客数は、近距離アジア線の好調や円安を背景に前年同期比15%増の1222万4789人となり、上期での過去最多を更新した。日本人らを含めた全体の国際線旅客数は12%増の1733万3344人だった。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/07/31-15:01)