「未来と芸術展」が森美術館で開催。電通「OPEN MEALS」が作品を展示

最新技術とアートを通して未来について考える展覧会「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命 --人は明日どう生きるのか」(主催=森美術館、NHK)が、11月19日~2020年3月29日、東京・六本木ヒルズの森美術館で開催される。

Sushi Singularity(スシ・シンギュラリティ)コンセプトマシーン

本展は、「都市の新たな可能性」「ネオ・メタボリズム建築へ」「ライフスタイルとデザインの革新」「身体の拡張と倫理」「変容する社会と人間」の五つのセクションで構成され、100点を超えるプロジェクトや作品を紹介。AI、バイオ技術、ロボット工学、AR(拡張現実)など最先端のテクノロジーとその影響を受けて生まれたアート、デザイン、建築を通して、近未来の都市、環境問題からライフスタイル、そして社会や人間のあり方を来場者と一緒に考える展覧会となっている。

また本展では、電通のフードテック・プロジェクトを進める「OPEN MEALS(オープンミールズ)」の作品“Sushi Singularity(スシ・シンギュラリティ)” のコンセプト・マシンやビジュアルが展示される。

Sushi Singularity(スシ・シンギュラリティ)作品イメージ

 
今回展示されるのは、「食」がシンギュラリティ(人工知能が人間の知性を超えることで生活に大きな変化が起こるという概念)を起こした世界をビジュアライズした超未来的寿司屋“Sushi Singularityレストラン”をコンセプトにした一連の作品。世界から多くの企業やクリエーター、起業家、投資家が参加する祭典「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)2019」で展示とプレゼンテーションを行い、大きな反響を呼んだ。
OPEN MEALSは、現在のテクノロジーを徹底的にリサーチし、あり得るかもしれない「未来の食」の姿をビジュアライズして提起することで、 議論を引き起こしてその実現を加速させ、パートナーと共に実際の産業を生み出すことをめざしている。
 

■未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命ー人は明日どう生きるのか
会期:2019年11月19日(火)~2020年3月29日(日)
開館時間:10:00~22:00(火曜日のみ17:00まで)
会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
主催:森美術館、NHK
公式サイトはコチラ

ポスト資本主義のブランディング〜「価値」と「信用」を支える新しいシステムとは?〜


インターネット社会が進み、社会や文化、人間にとっての価値を考えることが求められている現代。ポスト資本主義社会のブランディングと価値共創はどうなっていくのか?前回 に続き、インフォバーン(※1)CVOの小林弘人氏に話を聞きました。

小林弘人氏と小西圭介氏
インフォバーンCVOの小林弘人氏(右)、電通の小西圭介氏(左)

ポスト資本主義の「価値」と「お金」の関係の変化

小西:私がそもそも“ブランド”という概念に興味を持ったきっかけは、それが人間性を中心に、「意味」や「価値」をどのように作るのかという方法論を示していたからです。そして、インターネットは価値の作り手や作り方に本質的な変化をもたらしてきました。一つの大きな変化は、個人を中心とした情報発信や価値創造の民主化ですよね。またデジタル化で価値をコピーして無限に再生産することが容易になり、フェイク(偽物)やコモディティー化が起こるようにもなった。

そしてもう一つ、価値交換の手段や前提である「お金」や「信用」についても大きな変化が起こりつつあります。ウェブ3.0の中核となるブロックチェーン技術は、国家や企業などの中央集権ではなく、個人主導のつながりが軸となった、分散型の信用システムを実現するテクノロジーとして注目されています。

小林:ウェブ3.0については、単にウェブ1.0とか2.0に続く新しい技術コンセプトとして捉えるのは間違いだと思っています。極端にいうと新しい「私有」や「専有」の概念を、法律の代わりにツールが生み出しつつあるんですね。コード(プログラムによる命令規則)が新しい価値と社会改革の機会を創発しています。

それは今の資本主義システムに取り込まれたウェブ世界に対する、反動的な思想と民主的なテクノロジーを伴った大きな流れだと認識すべきですね。インターネット黎明期では、世界に張り巡らされたウェブは公共のものであり、その上で寡占的に儲けるなんてあり得ないという議論がありました。今聞いたら笑い話ですが、本当にそのような議論がされていた時期があります。

しかし、今支配的な考え方は、その企業のやり方が多少荒っぽくても時価総額が高ければ周りを黙らせられるし、株主のために資本を最大化すればそれでよいという思考停止状態に陥りがちです。

企業は短期的な利益確定を求める株主のために存在し、ガバナンスという言葉も株主や市場向けにしか聞こえない。働いている従業員とその家族、また、「社会」や「公益」がすっぽり抜け落ちたまま、集金マシンとしての価値しか検分されないように思えます。

小西:なるほど。今の資本主義社会は、「価値」が「お金」と結びついて交換される社会ですが、いつの間にかマネー資本主義みたいになって、昔は「物」と「お金」という交換構造があったのが、お金だけが回っていくみたいな。むしろ今、「価値」と「お金」が切り離されてしまっている時代だと思うんですね。社会や環境に悪いことをするほど儲かるような。社会や人間にとっての「価値」と、その適切な交換システムを取り戻す必要がある。

しかしウェブ3.0時代には、お金にコードで「色」がつけられる。どういうお金の使い方や、どういう価値に対して、それを報酬として交換し合うかのような。今まで“匿名”の通貨経済ではお金として換算しにくかった、個人や特定の文脈で意味を持つ、多様な価値をやりとりする新しい手法が出てきている。だからお金も個別性を持った意味を付与されて「ブランド化」できるし、そこにすごく可能性を感じるのです。

小林:私がしっくりきたのは、ベルナルド・リエター(※2)という経済学者の提示した論です。今使っている通貨システム自体が、「負債」(お金の貸借)から始まり、人から利子を取ることが前提となっている。

一つのパイの中から利子を取るので、誰かからその利子分を持ってこないといけない。だから、基本的には、人に分け与える思想設計じゃなくて、人の競争を促す設計になっている。このメカニズムは国力を向上させることや競争を促すことには効果があるのですが、コミュニティーに持ち込むとどんなことが起きるかというと、コミュニティーが持つ「地縁」を壊す力があるわけですね。

ここを何とかするには補完通貨が必要だということを、ブロックチェーン以前から唱えていたのがリエター氏です。そのような補完通貨として、有名なシルビオ・ゲゼル(※3)というドイツの経済学者の「減価するお金」といった考え方があります。

いわばある期間までに使わないと腐ってしまう。ゆえに早期に経済を循環させ、貯め込ませないために設計された「腐るお金」(※4)ですね。今だったら、ブロックチェーンを使えばそのような設定が可能なので、期限限定や用途限定型のお金とか、試論されていますよね。

インフォバーン小林弘人氏

「意味」を提起することで、共創コミュニティーをつくる

小西:価値を共有するコミュニティーの仕組みを支える経済システムですよね。実は2013年に私は『ブランドコミュニティ戦略』(ダイヤモンド社)という本を書いたのですが、ブランドというのはこれからコミュニティーづくりになり、企業や組織がお客さんと直接つながって一緒に価値をつくっていく、というコンセプトを提唱しました。でも、今考えるとまだ大企業中心の目線だったなと思ってしまって。

圧倒的に個人が中心の社会を前提に、これからはブランド主導のコミュニティーではなくて、個人やコミュニティーが中心の価値をつくっていく。そのために企業やブランドがどう支えていけるのか、支えるプラットフォームを形成していけるのかという発想で考えないと、5年、10年後の価値を共創していくような社会に対応できないんじゃないか、という気がするんですね。

小林:それはまさにおっしゃる通りだと思います。僕はコミュニティー形成こそ、常に過去から未来に向けたブランディングの軸になっていると思います。例えば地域発のクラフトビールを作るスタートアップが増えていますが、彼らは、クラフトビール文化や地域の独自価値を生み出す「想い」をユーザーと共有して、一緒に発信しています。コンシューマーを巻き込みながらエバンジェリストやプロシューマーを育てている。

ただ一方で、コミュニティーをつくるには、「意味」を提起することが必要だと思うんです。ミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ氏(※5)は「意味のイノベーション」を提起していて、これはポスト・デザインシンキングですね。

デザインシンキングは、ユーザー視点の価値設計の方法論を理論化して、カリスマやクリエーターが暗黙知でやってきたことを、みんなでできるようになった。でも、それは改善にはつながるけれど、新しい「意味」の提案に果たして向いているのか、という疑念が残ります。

「意味」の提案には責任が伴うし、社会のグランドデザインになってくる。従来のやり方でいいのかという、ポスト・デザインシンキングの問題提起が起きることは必然だと考えていたので、ベルガンティ氏の思想に触れ、合点がいきました。私も「エディトリアル・シンキング」という考え方をここ数年喧伝してきたからです。そこでは、リサーチだけではあぶり出せない、異なる領域同士の接合やアイデアの跳躍方法に加え、いかに新しい価値を基軸とした社会変革の意志を込めるのかといったことを中心に話してきました。むしろ、アイデアのテンプレート化に対する批判です。

小西:新しい「意味」を提起して、その価値を共有するコミュニティーを通じて共創する運動を、私も「動詞のブランディング」という言葉で表現しています。その主体としてのリーダーシップが企業なのか個人なのかは分かりませんが、世の中を変える大きな力を生み出せないかと。

電通の小西圭介氏
小林:インフォバーン社内に、企業や行政内のイノベーターたちをネットワークするUnchainedを創設したのは、まさにそういう目的からです。ブロックチェーンの社会実装プログラムや領域横断型のイベント、勉強会、海外視察を行っています。

最初、私たちが企画するベルリン視察ツアーに参加される方は、渡航前に「すごいテクノロジーを持っているスタートアップがあったら、出資したいので教えてくれ」と依頼されます(笑)。でも、参加した後は、「そもそもうちの会社、何がやりたいの?」と意味を考えだす。そして、その意味に基づいて実現したい理想の社会像が描けてこそ、共創相手が見つかることに気づかれるわけですね。

どんなに歴史のある企業でも、無数の「How」ばかりで、たった一つの「Why?」が欠けていることが少なくありません。私が「イノベーションごっこ」と揶揄するのは、流行りに乗って「アジャイル」「コ・ワーキング」「デザインシンキング」などと「How」に振り回され、「Why?」を見つけようとしない状態のことです。それでは本質的なイノベーションを生み出せないし、コミュニティーもつくれないと思います。なぜなら、何の価値を提供しようとしているのかわからないし、A社ではなく、B社でも展開できそうなことに誰も共感はできません。

小西:私もまさにそれを体感しました。今回は本質的で、非常にインスピレーションに富むお話をありがとうございました。

(対談を終えて)
マーケティング手段を超え、社会や文化、人間にとっての価値を考える

今回は、ポスト資本主義のブランディング、価値共創の未来という大きなテーマで小林氏に伺いました。その中で、テクノロジーと社会の大きな転換点に当たって、人や社会にとって意味のある「価値」を生み出し、増やしていく経済システムをどのように実現していくのか、という本質的な問いに至りました。ブランディングも、企業にとっての経済価値を増やすマーケティング手段にとどまらず、より大きな視点で社会価値を共創していく仕組みや手段として、新しい視野と方法論を持つ必要があると確信しました。


※1  インフォバーン:国内外企業のデジタルマーケティング全般からウェブメディアの立ち上げ・運用などを支援。コンテンツ・マーケティング、オウンドメディアの先駆として知られる。2016年からベルリン最大のテック・カンファレンスTech Open Airの日本公式パートナーとなる。

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※2 ベルナルド・リエター:ベルギー生まれの経済学者(1942-2019)。新しいマネーの仕組みを提唱した、補完通貨(地域通貨)研究の世界の第一人者。主著に『マネー崩壊―新しいコミュニティ通貨の誕生』(日本経済評論社)など。

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※3 シルビオ・ゲゼル:ドイツ人の実業家・経済学者(1862~1930)。主著『自然的経済秩序』など。自由貨幣の概念を提唱した。

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※4 腐るお金: 愛知県豊田市で発案されたコメと交換できる地域通貨「おむすび通貨」などが有名。時間がたつほど価値が減る仕組みを持つ。

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※5 ロベルト・ベルガンティ:イタリア・ミラノ工科大学教授。専門はリーダーシップ論、イノベーション論。「意味のイノベーション」と呼ぶ考え方で多くの企業から注目され、欧州委員会のイノベーション政策にも関与している。著書に『デザイン・ドリブン・イノベーション』(クロスメディア・パブリッシング)、『突破するデザイン』(日経BP)など。

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もうひとつのラグビー世界大会。

車いすラグビーワールドチャレンジ決勝
写真は、2019年10月20日に行われた、「車いすラグビーワールドチャレンジ」オーストラリア対アメリカの決勝戦。

ラグビーワールドカップに、日本中が沸いた今年の秋。同じ日本で、もうひとつのラグビー世界大会が行われていたのをご存じでしょうか。車いすラグビーワールドチャレンジ2019(以下WWRC2019)。車いすラグビーの世界ランキング上位8カ国が集まり、世界一を決める大会です。

入社4年目、プランナー/コピーライターの仲澤南です。WWRC2019観戦を通じて感じたことや驚いたことをもとに、車いすラグビーについてご紹介します。スポーツ観戦は好きですが、ラグビーは、ドラマ「ノーサイド・ゲーム」からのにわかファン、車いすラグビーはまったくの初心者。そんな目線からのWWRC2019をお伝えさせてください。

車いすラグビーワールドチャレンジボード

車いすラグビーって…ラグビー?

最初に思ったのは、

「これって、ラグビー?」

お恥ずかしい話、会場を聞いて「あ、体育館なんだ」と思ったくらいの初心者です。今回の観戦が決まり、慌てて車いすラグビーのルールを調べると、ひたすら驚きの連続でした。

ラグビーだけど、屋内。ラグビーだけど、円形のボール。ラグビーだけど、8分×4ピリオド。ラグビーだけど、前にパス。ラグビーだけど、コートには1チーム4人…。この前覚えたばかりのラグビーのルールとは、まったく違っていたのです。車いすラグビーとはいうけれど、もはやこれはラグビーと同じだと思って見ていると、大事なところを見落としてしまうかもしれない。

そして当日。会場に入って驚きました。

「めちゃくちゃ盛り上がってる!」

試合は、金曜日の午後7時。雨の東京体育館に、驚くほど多くの観客が詰めかけていたのです。しかもサポーターTシャツを着たり、選手の名前を書いたうちわを持っていたり、その姿は本気そのもの。試合開始前から、会場は一緒に観戦した同僚の声が聞こえないほど盛り上がっていました。

車いすラグビーワールドチャレンジ会場
そして遂に試合スタート、したのですが。

「どこで点差がつくんだろう…?」

私が見に行ったのは、予選リーグ最終戦の日本×イギリス戦。日本は世界ランク第2位の強豪国で、同じく第4位のイギリスとのレベルの高い試合が展開されていました。車いすラグビーではルール上、ボールを持った選手に直接触れることはできません。そのため、ラグビーのようにタックルで攻守を逆転するのには限界があります。

そしてレベルが高ければ高いほど、パスは回るしトライも決まる。ミスがない分、ペナルティで相手ボールになることもない。トライで攻守が入れ替わるたびに、両チーム1点ずつ順調に決まっていったのです。

そんな中で点差をつくったのは、車いすが傾くほどに身体を伸ばしたパスカットでした。驚くほど正確に回るパスの、その一瞬のチャンスを狙うパスカット。試合を大きく動かしたファインプレーに、会場は大盛り上がりです。ルールに追いつくのが精いっぱいだった私も、つい声に力が入りました。

ぶつかるための車いす。

試合を見ながらふと思い出したのは、以前、会社の同僚と車いすバスケを観戦したときのこと。選手たちの動きがあまりにもしなやかで、車いすが選手の身体の一部のようでした。

一方で車いすラグビーの車いすは、私の目には選手を守る盾であり、勇敢にタックルするための矛のように映りました。それもそのはず、一般的に車いすはぶつからないように作られているのに対し、車いすラグビー用の車いすは「ぶつかるために」作られているのです。

車いすを使うパラ競技の中で、タックルなど他の選手との接触が認められているのは車いすラグビーただ一つ。車いす同士が火花を散らし、激しくぶつかり合います。衝突時の重力加速度は、瞬間最高30G。自動車の急ブレーキがおよそ0.5G程度なので、その60倍…もはや想像がつきません。

車いすラグビーの車いすは、衝撃に耐えるため、装甲車のような見た目でかなり丈夫。また、攻撃用と守備用の2種類があります。相手の守備に引っかからずに小回りできる、丸みを帯びた攻撃用に比べ、相手をブロックしたり相手の車いすに引っかけたりするためのバンパー(出っ張り)を持つ守備用は、まさに「ぶつかるための車いす」でした。

車いすラグビーでは障がいの程度によって各選手がクラス分けされていて、守備用の車いすは主に障がいが重い選手、攻撃用の車いすは主に障がいが軽い選手が使います。障がいの重い選手ががっちりと相手チームをブロックしてくれている間に、障がいの軽い選手がトライを狙うチームプレーが、車いすラグビーの得点源です。

日本代表チームで多くのトライを生んでいるのが、主将・池透暢選手とエース・池崎大輔選手の“池池コンビ”。まだ相手チームのトライライン近くにいる池選手がロングパスをしたかと思うと、その先には必ず池崎選手がいるのです。そのパスはコートの長さ28メートルに対して、世界最長クラスの20メートル。片方の手は障がいのために使えないというから、さらに驚きです。

ここまで投げてくれると信じて走り込む池崎選手と、追いついてくれると信じて投げる池選手の阿吽の呼吸が、日本の安定した得点につながっていました。

身体と同じくらい、頭も使う。

試合中は何度か、不思議なことが起きていました。

「どうして今、タイムアウト?」

選手が度々、タイムアウトを要求していたのです。いつも見るスポーツでは監督が要求するイメージがあったので、少し驚きました。さらにそのタイミングも少々特殊。一般的にタイムアウトは流れが悪い時や、作戦を練りたい時にとることが多いですが、車いすラグビーでは「え、ここで!?」というタイミングでよくとられていました。

実はタイムアウトさえも、作戦の一部なのです。

車いすラグビーでは特に攻撃側に対して、時間に関わるルールが設けられています。

・ボールを持つ選手は10秒に1回ドリブルかパスをする
・12秒以内にセンターラインを越える
・40秒以内にトライを決める
・トライライン前のキーエリアに入れるのは10秒まで

いずれかを破ると、反則として相手ボールになってしまいます。ボールを持つことが非常に重要な車いすラグビーで、相手にボールが渡るのは避けたいところ。そのため選手は時間制限を超えそうになると、自らタイムアウトを要求するのです。

あんなに激しいプレー中に時間を確認してタイムアウトを要求する…。身体だけでなく頭もフル回転させる、難しくもさらに面白みのある戦いに興奮しました。

車いすラグビーは、ラグビーだった。

その後確実なトライと不意をついたパスカット、緻密な作戦によって得点を稼いだ日本は、57-51でイギリスに勝利。翌日の準決勝に駒を進めるも世界ランク1位のオーストラリアに敗れ、最終的に3位で幕を閉じました。

試合の熱気と興奮で、いささかボーっとしながら会場を後にした帰り道、私は思っていました。

「やっぱり車いすラグビーはラグビーなんだなあ」

何をそんな、当たり前のことを。そう思われるかもしれませんが、あまりに違うルールに驚いていた私は改めて納得したのです。それは、激しいタックルはもちろん、互いの信頼から生まれる流れるようなパスワークと、トライラインを超えた瞬間に訪れる感動、会場をひとつに引き込んでしまうパワフルさからだと思います。

そしてもちろん、車いすラグビーにしかない見どころや魅力も数多くありました。

今年の世界大会は幕を閉じましたが、二つのラグビーのとりこになってしまった私はきっと、来年も再来年も、ラグビーや車いすラグビーを見ている気がします。日本選手の活躍を目の当たりにし、たくさんの方々と一緒に応援できる日が来るのが待ち遠しいです。

シリコンバレー式、イノベーションを生み出すアプローチとは?

今回の記事を担当するDentsu Craft Tokyoに所属するカワシマです。恐らくほとんどの方がはじめましてだと思うので少しだけ自己紹介をさせてください。

僕は2004年から今年の春先まで約15年間をアメリカ、カリフォルニア北部のシリコンバレーで過ごし、またキャリアの多くをテック企業に身を置き働いてきました。

深い霧で覆われたサンフランシスコ湾。
深い霧で覆われたサンフランシスコ湾。

渡米当初のアメリカでは、携帯電話といえば NOKIA が主流。i-mode のようなネット機能はなく、通話以外の機能といえば SMS と言われるショートメールだけでした。すでに日本ではカラー液晶でカメラ付き(いわゆる写メですね)が主流で、なけなしの生活資金からわざわざ旧型の NOKIA に買い換えることに違和感を感じたのを覚えています。ともあれ、それが当時のアメリカのスタンダードでしたので、周りの友人に日本から持ってきた高性能の携帯電話を見せると ”Wow!” とびっくりされたものでした。

しかし、皆さんご存じの通り、それからの10年でシリコンバレーの立ち位置は大きく変わります。NOKIA の携帯電話が主流だった3年後、同じマーケットから iPhone が発売されました。またその2年後には Google から Android が発表され、今では世界のスマートフォン市場の大部分をシリコンバレー発のプロダクトが占めています。

振り返ってみれば、当時はもしかしたら日本発の携帯電話をグローバルに展開できる大きなビジネスチャンスだったかもしれない。逆に言えば、こうして Apple や Google などの新参者が新たに市場を Disrupt (破壊) し、ひっくり返すことができる機会が潜在していたわけです。

もちろん、これはスマホに限った話ではありません。この20年足らずの間に数多くの新たなテック製品やサービスがシリコンバレーから誕生してきました。どうしてこんなにも速いスピードでイノベーションが起こったのか、その根底となる考え方やアプローチの姿勢について、その現場で揉まれながら僕なりに体験し、学んだことをご紹介したいと思います。


“Do it first” or “Do it better”

「誰が最初にやったのか?」

よく議論になるトピックです。
最初に思いついた人、最初に発明した人。

もちろん、特許で守られている技術や知的財産は、尊重され、保護されるべきです。ただ知識がネットワーク化された現在、誰かが思いついたアイデアのほとんどは、実は世界のどこかでも同じように考えられていることが簡単に証明できる世の中になりました。

人のアイデアを単純にまねする姿勢は、決して賛成できるものではありません。しかしながら、たとえすでにあるものであったとしても、そこに何かしらの問題が潜んでいることが発見でき、さらにそれを解決する方法を見いだし、実際に実装する技術力があれば(それも少しではなく、圧倒的に良くすることができれば)、それは大きな効果をもたらします。

今、世の中でイノベーティブと呼ばれる製品を生み出してきたシリコンバレーの名だたる企業の製品開発は、まさにこのアプローチが原点です。

ピカソの名言
ピカソの名言
「平凡なアーティストは模倣にとどまるが、偉大なアーティストは盗んで応用する」

例えば、インターネットの「検索エンジン」を初めて開発したのは Google ではありません。むしろ既存の検索エンジンはもっと良くなるはずという仮説のもと、2人の学生による学術研究のプロジェクトとして始まりました。mixi が日本で流行していた頃、アメリカの SNS 市場は MySpace が独占し、Facebook は「後発の二番煎じ」と当初は受け止められていました。電気自動車を最初に開発したもの Tesla でなければ、Amazon もオンライン通販のパイオニアではありません。オリジナル映像コンテンツをつくって独自に配信することは Netflix が発明したビジネスではありません。スティーブ・ジョブズも「良いものは恥を忍んで積極的に盗んで取り入れる」と公言しています。

誰が最初にやるかよりも、誰が一番良いものをつくるか。オリジナルを生むことももちろん大事ですが、ベイエリアにおいてのイノベーションとは、むしろこうした問題解決のアプローチと、それを実現化する技術力、そしてその開発サイクル(イテレーション)のスピードだということを学びました。それらのコンビネーションによって新しい「バリュー」を創出していく。それがまず一つ目のアプローチです。


10x Thinking

では、どうやってより良いものをつくっていくのか。それも、圧倒的に良くするためにはどうするべきか。アメリカの Google ではこうしたアプローチを「10x Thinking」と呼んでいます。

カワシマタカシ ツイート

今の状態をより良くしようとすると、どうしてもその目線は近くに落ちがちです。すでに見えている問題や解決策が明らかなもの、そうしたところにまず手を伸ばそうとするのは当たり前の行為です。

ただ、それでは圧倒的な効果を生み出すことは難しいでしょう。そうではなく、全く違う視点から問題を観察し解決策を考える。「10%良くするのではなく、10倍良くするためにはどうしたらいいか?」そこを基準に設定すると、今まで見てきた視野の枠を飛び出したアプローチや解決方法が見えてきます。

「そんなのおかしいよ」って言われたらそれはチャンスかもしれません。そこには他の人には見えていない10xの解決法が埋まっているかもしれないのです。また逆説的に言うならば、そうした一見「おかしい」と思わされるジャンプしたアイデアを気兼ねせずに自由に発言できる、そんなインクルーシブな環境をつくっていくことが、実はイノベーションへの第一歩なのだと思います。
 

安倍首相「桜を見る会前夜祭」会費5000円では無理!? ホテルは「最低1万1千円」+「銀座久兵衛の寿司4貫2000円」

「臭いものには蓋をしろ」とはまさにこのことだ。昨日夕、菅義偉官房長官は来年の「桜を見る会」の開催中止を発表し、安倍首相もテレビカメラの前で「私の判断で中止にすることにしました」と述べ、公金を使った私物化問題の追及を封じ込めにかかった。  しかも、噴飯モノだったのが、今朝放...

第32回東京国際映画祭 森達也監督「i―新聞記者ドキュメント―」

権力に立ち向かう女性記者の孤軍奮闘を描く、森達也監督の新作ドキュメンタリー。日本映画スプラッシュ部門で上映された。

投稿 第32回東京国際映画祭 森達也監督「i―新聞記者ドキュメント―」映画遊民 映画をもっと見たくなる! 映画ライター沢宮亘理の映画レビュー、インタビューetc に最初に表示されました。

第32回東京国際映画祭 原一男監督「れいわ一揆」

参院選で健闘した“れいわ新選組”に密着した、原一男監督の長編ドキュメンタリー。日本映画スプラッシュ部門で上映された。

投稿 第32回東京国際映画祭 原一男監督「れいわ一揆」映画遊民 映画をもっと見たくなる! 映画ライター沢宮亘理の映画レビュー、インタビューetc に最初に表示されました。

【参加者募集】電通デザイントーク 「ジャイアントキラーズ ~逆境からメジャーをつくる~」


電通デザイントーク事務局は東京・汐留の電通ホールで11月20日、株式会社ゴンパの権八成裕氏、音楽プロデューサーの渡辺淳之介氏、電通の尾上永晃氏を招き、トークイベント「ジャイアントキラーズ ~逆境からメジャーをつくる~」を開催する。

本イベントに、ウェブ電通報読者から観覧希望者(先着30人)を募集する。応募方法はこちら

【事務局から】

シンガタ解散後、権八成裕さんが、いよいよ株式会社ゴンパを立ち上げたと聞き、いま考えていることをお聞きします。トークのお相手は、日ごろから親しくしている音楽プロデューサーの渡辺淳之介さん。スキャンダラスな話題と圧倒的な楽曲・パフォーマンスでアイドル界に革命を起こし続けています。「ジャイアントキラーズ=番狂わせ」はゴンパさんと渡辺さん共通の在り方、態度、生き方になっているそうで、渡辺さんがプロデュースするBiSHの楽曲タイトルにも使われています。電通入社早々、あの佐々木宏さんに誘われシンガタに加わったゴンパさんですが、ボスである佐々木さんという大メジャーに対する葛藤もあったとか?最近では、稲垣吾郎さん・草彅剛さん・香取慎吾さん、3人の「新しい地図」の挑戦などがいろんな意味で話題を呼んでいます。今回はさらに、電通の尾上永晃さんにも加わっていただき、カウンターの目線でクライアントや世界に向き合ったときに見えてくる、メジャーな手法にはない面白さ、新しさ、挑戦から生まれる経験について語っていただきます。

【イベント詳細・応募方法】

電通デザイントークVol.194「ジャイアントキラーズ ~逆境からメジャーをつくる~」
■日時:2019年11月20日(水)13:30-15:30
■会場:電通本社ビル1階 電通ホール
■募集人数:30人(先着順)
 ※11月18日(月)正午締め切り。
  なお、定員に達した場合はその時点で締め切りとなります。
■主催:電通デザイントーク事務局
■応募方法:必要事項を記載したメールを下記アドレスに送付してください。
 ope-dentsuho@dentsu.co.jp

【必要事項】

・メールタイトル「電通デザイントーク vol.194参加申し込み」
・氏名と会社名(学校名)をメール本文にご記載ください。会社員・学生以外の方は職業(または無職)をご記載ください。なお、入場時は身分証が必須となりますのであらかじめご了承ください。
*定員になる前に応募いただいた方には事務局よりご案内のメールをお送りします。11月19 日(火)までにご案内メールが届かない場合は、残念ながら定員の枠外となりますのでご了承ください。

【個人情報の取り扱い】

提供いただいた個人情報は、本イベントの運営に必要な範囲内で、当事務局を運営する株式会社電通および株式会社電通ライブが利用します。提供いただいた個人情報は、第三者に開示せず、利用する必要がなくなった場合には遅滞なく消去します。

【権八氏のプロフィール】

電通入社後、03年電通の佐々木宏、博報堂の黒須美彦とシンガタ設立に参加。19年株式会社ゴンパ設立。最近の仕事に、香取慎吾「10%」作詞。スタジオマリオCM(ゆりやんレトリィバァ)。ファミリーマート広告(香取慎吾)。サントリーストロングゼロ(天海祐希・沢村一樹)、金麦ゴールドラガー(長嶋一茂・ヒロミ・小池栄子)。宮﨑あおい〜広瀬すずearth music&ecologyのCM。稲垣吾郎さん・草彅剛さん・香取慎吾さん、3人の「新しい地図」を命名&ブランディング。3人によるアベマTV『72時間ホンネテレビ』チーフ作家として企画。映画『クソ野郎と美しき世界』を多田琢、山崎隆明と共に企画。香取慎吾NIPPON初個展『BOUM!BOUM!BOUM!』を企画。渡辺氏との仕事に、BiSH「GIANT KILLERS」やGANG PARADE「ブランニューパレード」。WACK渋谷109 『まだ何もしてませんが先に謝罪しときます』。WACK渋谷東急壁面『○○○と言える世の中を』。東京FM『澤本・権八のすぐに終わりますから』日曜24時〜放送中。

権八成裕

 

【渡辺氏のプロフィール】

早稲田大学政治経済学部卒業 2014年7月マネジャーを行っていたBiSを横浜アリーナで解散させた後、脱サラ。8月に音楽事務所、株式会社WACKを設立。以後、BiSH、GANG PARADE、EMPiRE、CARRY LOOSE、WAggといった 所属グループのプロデュース、作詞、マネジメントを担当。 近年は自社制作のドキュメンタリー映画の興行やアパレルブランド "NEGLECT ADULT PATiENTS"を立ち上げるなど 音楽のみにとらわれない活動を行っている。 

渡辺淳之介

【尾上氏のプロフィール】

電通入社後、企業広告からまちづくりまで臨機応変なコミュニケーション設計をしている。最近の主な仕事は、ネットフリックス「リラックマとカオルさん」、スクエアエニックス「ドラゴンクエストウォーク」、日清食品「チキンラーメン アクマのキムラー」、東急電鉄「池上線フリー乗車デー」など。ゴンパさんとはファミマなどで、渡辺さんとはバンドのPV制作で絡ませていただいたことがある。

尾上永晃

「大嘗祭」の秘密の儀式とは! 新天皇が寝座のある部屋に一晩こもり…秋篠宮は“宗教色”の強さを指摘し国費支出に異議

 本日14日から15日にかけて、天皇の代替わり儀式のなかで最重視される「大嘗祭」が行われる。大嘗祭は、代替わりした天皇が初めて行う「一世一度」の新嘗祭。その内容の多くは非公開で行われるが、これまでの研究から、その実態は一連の代替わり儀式のなかでもとりわけ宗教色が強いことがわ...

月を生活圏に。民間企業ispaceが主導する、“全産業参加型”の月面開発プロジェクト

2040年、月には1000人が定住し、年間1万人が訪れる―。

そんな未来を現実にしようとしているのが、世界有数の宇宙ベンチャー企業、ispaceです。電通は、約5年前からispaceと共に事業開発やマーケティングを行うとともに、同社と企業パートナーを結び付ける橋渡し役としてサポートを続けてきました。

ispace CEO 袴田武史氏、電通 ソリューション開発センター コンテンツソリューション部長 後藤光彦氏の対談を通じ、もはや遠い話ではない月面探査事業の今をひもときます。

<目次>
月面の水資源を活用し「宇宙産業」を創出する
非・宇宙企業にこそ、プロジェクト参画の意義がある!
「月への物資輸送サービス」をはじめとする、宇宙産業の三本柱
 
ispace袴田武史CEO、電通・後藤光彦
ispace袴田武史CEO、電通・後藤光彦

月面の水資源を活用し「宇宙産業」を創出する

後藤:本日は宇宙産業の創出というテーマで袴田さんに伺います。現在、宇宙産業を取り巻く状況はどのようなものなのでしょうか?

袴田:宇宙と聞くと、皆さん遠い世界の話だと思いますよね。しかし、そもそもわれわれの生活は、GPS、気象衛星、通信衛星など、宇宙のインフラによって支えられています。今後はインターネットをはじめ人類の宇宙への依存はますます深まり、「宇宙のインフラ」をいかに効率的に構築するかが重要なテーマになるでしょう。

宇宙探査については、1969年にアポロ11号が月面に着陸してから50年、人類は目覚ましい偉業を達成できずにいました。しかし近年になって技術開発が急加速しており、その中で今改めて「月」が注目されているんです。ispaceでは2040年を目標に、月面に資源採掘エリアを築く「ムーンバレー構想」の実現に向けて動いています。


後藤:人間が宇宙に生活圏を築く、というビジョンですね。ロードマップを簡単に教えてください。

袴田:2020年代に月面に輸送インフラをつくり、高頻度低コストの輸送サービスを展開していきます。そして2030年代には月面で資源開発を行い、2040年代に月で生活する未来をつくるという計画です。

後藤:月の資源として、特に期待されているのが「水」だそうですね。

袴田:月に水が存在すると聞き、驚く方もいるかもしれません。アポロ11号の時代に、月には水の痕跡がないということでほぼ結論づけられましたから。しかしこの10年で再調査が始まり、2018年にはNASAも月に水があることを確認しています。月の砂に氷が混ざっているとされ、その量は数十億トンに及ぶといわれています。

水は人間の生活にも不可欠ですが、それ以上に「水素と酸素に分けて燃料にできる」という点が重要です。月の水を燃料として活用すれば、月をいわば「中継基地」として、宇宙探査やインフラ構築がさらに発展する。月は、宇宙開発における貿易港のような役割を果たすと考えています。

後藤:地球からわざわざ水を持っていくと、輸送コストがかさみますからね。

袴田:そうなんです。水に限らず、地球から静止軌道まで資源を運ぶには、莫大なコストがかかります。しかし、月から直接資源を調達すれば輸送コストは100分の1に抑えられる。経済合理性は圧倒的です。

後藤:今の技術を考えると、「南極よりも月に行く方が楽ではないか」という説もありますよね。南極に行くには自然現象の影響を大きく受けますが、ロケットで宇宙に出られれば、探査機を阻むものはなく、月までスムーズに移動できますから。南極への年間旅行者は約2万人。そう考えると、2040年には年間1万人が月を訪れるというのも絵空事ではありません。

袴田:月を中継基地としての惑星探査、さらに月面観光も当たり前になっていくと考えています。

「水資源」を持った月を燃料ステーションにすることで、人工衛星を使ったビジネスや惑星探査にも大きな可能性が開かれる。
「水資源」を持った月を燃料ステーションにすることで、人工衛星を使ったビジネスや惑星探査にも大きな可能性が開かれる。

後藤:宇宙産業市場はここへ来て大きく成長しており、2016年はグローバルの市場規模が30兆円、2040年代には少なくとも100兆円規模になると推測されています。投資も活発化しており、2017年には、ispaceが宇宙ベンチャーとしては世界最高額となる103.5億円の資金調達を行いました。INCJ、日本政策投資銀行など政府金融機関だけでなく、電通を含む非・宇宙事業会社からも巨額の投資を受けていますね。

袴田:背景にあるのは、宇宙開発の、国家機関から民間企業へのシフトです。例えばNASAは月の周回軌道上に新たな拠点をつくる「ゲートウェー構想」を主導していますが、これも実は民営化を前提としています。コストを下げるために民間企業の参入を促し、競争環境をつくるべきと判断したのでしょう。

後藤:民間へのシフトは、世界的な潮流といえます。イーロン・マスクのSpaceX、ジェフ・ベゾスのBlue Originと、世界を代表する実業家たちも、莫大な資金をもって宇宙ベンチャーを立ち上げていますよね。民間による宇宙開発事業は、まさに広大なブルーオーシャンだと感じています。

袴田:NASAやJAXAなどが国家として宇宙開発に関わっているだけでは、事業としては成り立ちません。宇宙ビジネスを持続可能な「産業」として確立し、永続的に成長させるには、民間企業の参入が不可欠なんです。

非・宇宙企業にこそ、プロジェクト参画の意義がある!

後藤:2040年の「ムーンバレー構想」に先駆け、ispaceでは現在二つのミッションに取り組んでいらっしゃいますね。

袴田:はい、2023年まで2回の月面探査を行うプログラム「HAKUTO-R」を実施しています。2021年に月面着陸、2023年にローバー(探査車)による月面探査を行う予定です。

このプログラムを前提に、月着陸船「Lunar Lander」、月面探査車「Lunar Rover」の技術開発も進めています。コンセプトは、小型軽量化による低コスト・高頻度の輸送システム。ランダー(月面着陸船)は30キロの荷物を年に数回月面に運ぶことができ、ローバー(月面探査車)は世界最軽量の4キロを達成する見込みです。打ち上げロケットは、イーロン・マスクのSpaceXが開発した「Falcon 9」と契約済みです。

 

ispaceの月着陸船と月面探査車。パートナー各社を含め、日本のテクノロジーの粋を集めたプロジェクトとなっている。
ispaceの月着陸船と月面探査車。パートナー各社を含め、日本のテクノロジーの粋を集めたプロジェクトとなっている。

後藤:「HAKUTO-R」は、すでに多くのコーポレートパートナーの協賛を得ています。JAL、三井住友海上、日本特殊陶業、シチズン時計、スズキ、住友商事がコーポレートパートナー、TBS、朝日新聞、小学館がメディアパートナーとなっています。

袴田:後藤さんをはじめ、電通の皆さんに橋渡し役を担っていただいていますね。パートナー企業には、出資にとどまらず、自社事業を宇宙ビジネスに結び付けるべく、文字通り協業パートナーとしてプロジェクトに参画していただいているんです。

後藤:スポンサーとして「HAKUTO-R」を“応援”するだけでなく、各事業会社の強みを生かし、自ら月面開発に、つまり宇宙産業に“参画”できるスキームを構築しているのが特徴的です。

袴田:そうなんです。例えばJALには、成田空港の整備工場にランダーの組み立て施設をつくっていただきました。燃料パイプの溶接、エンジンに亀裂がないかチェックする非破壊検査などの技術においても、サポートしていただいています。

後藤:JALの整備工場の方は、「まさか自分たちが宇宙開発に関われるとは思わなかった」と話していました。何十年も旅客機のエンジン整備をしてきた方々の技術が宇宙に生かされるわけですから、皆さんうれしそうでした。

JALの溶接技術がHAKUTO-Rのランダー(月着陸船)に生かされている。
JALの溶接技術がHAKUTO-Rのランダー(月着陸船)に生かされている。

袴田:また、日本特殊陶業には電解質に液体を一切使わない全固体電池の実証実験で協力していただきます。昼は110度、夜はマイナス170度という月面の過酷な環境でも、電力を安定的に供給できるかという技術実証です。シチズン時計は、スーパーチタニウム技術をランダーやローバーに応用。スズキにはランダー脚部の構造設計において、小型軽量化と強度の両立のために必要な構造解析の技術で貢献いただいています。

協業は技術面にとどまりません。三井住友海上は、リスク管理での支援として「月保険」を新たに開発していただきます。今年100周年を迎える住友商事は、さまざまな観点から宇宙開発への貢献を我々と共に取り組んでいます。さらなるパートナー企業も募集中です。

後藤:「宇宙開発なんてウチには関係ない」と考える企業も多いのですが、そうではないんですよね。人間が移動し、生活する以上、「地球で必要なもの」は月でも必要になる。つまり、“月×全企業”がビジネスチャンスになり得るわけです。

もちろん電通も例外ではなく、約5年前からispaceと協力体制を築き、事業投資の他に電通が得意とするマーケティング、セールス支援を行っています。さらに地球から月への輸送ビジネスの販売代理店としても協力したいと考えています。

袴田:後藤さんと出会った5年前、ispaceは民間初の月面無人探査コンテスト「Google Lunar XPRIZE」に取り組んでいました。ローバーの開発費、人件費などの調達にとても苦労していたところをサポートしていただきましたね。

後藤:袴田さんは、当時から宇宙産業に“広告モデル”を取り込もうと考えていましたよね。しかも、宇宙系企業だけでなく非・宇宙系企業の支援を必要としていました。電通は国内外の企業とのアクセスに強みがあるので、ispaceとは非常に相性が良いと感じました。

袴田:それから5年で、実体のあるビジネスとしての手応えを感じられるところまで来ました。世界の宇宙ビジネス業界の中で、かなりispaceの名前も浸透してきたと思っています。

5年前、ispaceが麻布台のビルの一室にオフィスを構えていた時代の貴重な写真。
5年前、麻布台のビルの一室にオフィスを構えていた時代の貴重な写真。

「月への物資輸送サービス」をはじめとする、宇宙産業の三本柱

後藤:ispaceの柱となる事業についてお聞かせください。

袴田:短期的には、3本の柱を考えています。一つは月面に荷物を運ぶ「輸送サービス」。地球から月面に探査機器などの物資を運ぶ、宅配便のようなシステムですね。

後藤:探査車が1台6トンとすると、非常に大きなビジネスが期待できそうです。

袴田:二つ目は、月面で得られるさまざまな「データ」の提供です。例えば建造物を構築する場合、月面の環境を事前に知っておく必要があります。そういった探査データの他、VRやゲームなどエンターテインメントの領域に活用できる映像データも取得、提供する予定です。

そして最後に挙げるのが、われわれが力を入れているスポンサーシップです。非・宇宙企業が最初に宇宙に関わるきっかけを、ispaceでつくっていきます。

後藤:一つ目の輸送サービスについては、すでに世界が動き始めていますよね。

袴田:はい。ispaceも、NASAが計画する商業月面輸送サービス「CLPS」(Commercial Lunar Payload Service)に参加しています。アポロ11号計画にもソフトウエア開発で参加したドレイパー研究所のチームで、ispaceはランダー、ローバーの設計を行っています。CLPSはNASAが10年間で約3000億円をかける一大プロジェクトなんです。

後藤:「HAKUTO-R」と「CLPS」を並行して進めているんですね。

袴田:NASAとしては、できるだけ早期に月面着陸したいと考えています。というのも、トランプ大統領が2024年の月面有人探査をするという方針を示したんです。当初は2028年と発表されていたのに、4年も早まりましたので、「HAKUTO-R」における月着陸の計画も早めることになりました。急きょの前倒しになりましたが、ポジティブに受け止め、迅速に対応しようと考えています。

後藤:宇宙開発には、アメリカをはじめ、中国やインドといった強力なライバルもいますが、どのように見ておられますか?

袴田:確かに、ある意味では脅威なのですが、新しい宇宙産業をつくるには“競争”だけでなく“共創”も重要です。これから先、宇宙をめぐる国同士の争いをなくすには、なんらかの国際的な合意事項が必要となります。その枠組みをつくるに当たり、「日本の民間企業」が果たせる役割は大きいと思うんです。

そもそも宇宙の資源は、国連が定めた宇宙条約により、国家では所有できないことになっています。しかしアメリカの連邦法では、民間企業であれば宇宙の資源を所有・売買してよいと定められていて、国際的な議論もその方向で進み始めているんですよね。そういう意味でも、超大国同士が正面切ってやり合うよりも、日本の民間企業が主導権を握って話し合うことが解決に最も近いと思います。

後藤:宇宙開発は、民間企業にとって今や避けて通れないビジネスになりつつあります。成長領域として資金が投入され、技術開発も加速度的に進化しています。何より、社会的意義が重要性を増しています。資金、技術開発、社会的意義という三つを掛け合わせると、新しい巨大産業が生まれてくる。電通としても、さらに注力していきたいです。本日はありがとうございました!