三菱スペースジェット、なぜ事業凍結に陥ったのか…3年連続世界首位のホンダとの決定的な差

 10月30日、三菱重工業は「2021事業計画(FY2021~2023)」において、ジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」の開発を事実上、凍結すると発表し、メディアなどでも大きく取り上げられている。

 三菱重工業の発表の詳細は、以下の通りである。

 まず、民間航空機市場は新型コロナウイルスの影響で一時的に落ち込むものの、長期的には成長領域である。よって、民間航空機事業全体としては、2024年以降の回復期に備え、効率化・新技術開発を推進し、国際新規プログラムへの参画を図るとしている。

 しかしながら、スペースジェットに関しては、開発状況と市場環境を踏まえ、開発活動を中断し、この間、再開のための事業環境の整備に取り組むという。具体的には、機体の安全性を証明する「型式証明」の取得に必要な文書作成は続けるが、飛行試験は中断するとのこと。

 国産初の“日の丸ジェット旅客機”と、多くの日本人が期待していた、このプロジェクトは、なぜ中断(三菱重工業は「開発活動は一旦立ち止まる」と表現)する事態に陥ってしまったのだろうか。

日本企業なら航空機もうまくやれる?

 筆者が米シアトルに滞在していた際、幸運にもボーイングの工場を訪ね、スタッフとディスカッションする機会にしばしば恵まれた。工場で優雅に(ダラダラとも表現できる)作業するスタッフを見ながら、「日本企業なら格段に高い生産効率を実現できるだろう。日本に旅客機メーカーがないのは残念だ」と感じていた。

 ただ、仮にコストパフォーマンスに優れた旅客機を開発できても、旅客機の販売においては外交力などが重要になると聞き、強い外交力を擁するアメリカのボーイング、旧植民地に対して現在でも強い影響力を有するヨーロッパのエアバスと比べると、日本企業の場合、確実に不利な立場に立ってしまうとも思っていた。

 そんななか、三菱重工業が国産旅客機の開発に着手するというニュースを聞いた時には、「もちろん日本人として、うまくいってほしい。しかし、大丈夫なのだろうか?」と、期待と不安が混在していた。その後、国からの補助と航空会社からの先行予約が目標の水準に達したら事業を本格的に始動させるといったニュースを耳にした際、「もちろん、企業としてリスクヘッジは重要だろうが、何がなんでもやり抜くという熱い思いや覚悟のようなものを感じない。

 ひょっとすると、モノづくり大国である日本に旅客機メーカーがないのは問題であると、一部の政治家や経済産業省などが強く主導し、三菱重工業はこうした声に引っ張られているだけなのか?」とも勘ぐってしまった。もちろん、航空は日本の大学において人気のある学問分野であり、三菱重工業の若手エンジニアを中心に旅客機開発を切望していたスタッフも数多くいたであろうとは思う。

 さらに、開発される機体は最新の設計技術により、機内は広く、燃費もいいと謳われていたが、競争優位性に直結する独自技術のようなものはあまり見当たらなかった。

ホンダジェットは3年連続世界首位

 一方、本田技研工業(ホンダ)の小型ジェット機である「ホンダジェット」は3年連続で世界首位という快挙を達成している。「ホンダジェット」は独自に開発したエンジンを機体から離して主翼上面に配置することにより、広いキャビンスペースの確保、騒音や振動の低減、高燃費を実現している。

 さらに、速度、高度、航続距離などでもトップクラスのパフォーマンスとなっている。こうした商品力に加え、ビジネスジェットの主たる市場となるアメリカに開発当初から根を下ろしてプロジェクトを進めたことも大きな成功要因のひとつとして指摘されている。

 三菱スペースジェット開発の中断の直接的な理由は、コロナかもしれない。しかしながら、当初2013年に設定されていた納期は6度も延期され、いまだ実現していない。この点に関しては、経験やノウハウ不足による「型式証明」の取得の遅れが、しばしば指摘されている。その後、こうした問題を解消すべく、本拠地をアメリカに移し、経験豊かな外部スタッフを採用するなどしたものの、あまりうまく機能していないという話も聞こえてくる。

 確かに、旅客機ビジネスにおいて開発の遅延はよくある話だが、現時点で7年遅れており、当初想定していた他社の旅客機に対する強みが今後も有効に機能するのか、大いに危惧される。

 以前、ボーイングのスタッフから自社の弱みに関して「開発をはじめ、すべての意思決定のスピードが遅い。テスラモーターズやスペースXを率いるイーロン・マスクのような強いリーダーシップを持った人物が不在」といった話を聞いたことがある。

 まさに一時、日本で流行った「大企業病」に該当するコメントだが、そういえば最近めっきり耳にすることがなくなった。その理由は、解消されたからか、それとも抗うことをやめてしまったのだろうか。

 ちなみに、電気自動車市場の拡大に伴い、テスラが急成長する一方で、2009年に販売が開始された世界初の量産電気自動車である三菱自動車「アイ・ミーブ」が来年3月に生産終了となる。成否を分けたものは、なんだったのだろうか。商品力など、さまざまな要因を挙げることはできるものの、結局は1人の人間の熱い思いと覚悟に大企業がしてやられたということではないか。
(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)

飲酒運転を起こすと自動車保険から保険金が支払われない?同乗者も罪に問われる可能性も

 TOKIO元メンバーの山口達也容疑者が飲酒事故を起こし逮捕され、日本中に衝撃が走りました。事故直前の画像を見ましたが、明らかに蛇行運転で、ひとつ間違えれば大惨事を引き起こしかねないと、見ているこちらのほうがヒヤリとしました。被害者の方にも山口容疑者にもケガがなかったことが不幸中の幸いでした。

 ところで、飲酒運転で被害に遭った場合、保険金は支払ってもらえるものでしょうか。一般社団法人日本損害保険協会 経営企画部広報室の西村敏彦さんに聞いてみました(以下、敬称略)

――飲酒運転は、刑法・道路交通法の改正と厳罰化により、運転者本人だけでなく、酒類を提供したお店も罰せられます。また20歳以下に販売しなくなったこともあり、飲酒運転による事故は減少していると聞きますが、実際はどうなのでしょうか。

西村 警察庁のデータを基に当協会が2009年~19年の飲酒運転事故件数の推移をまとめた表があります(グラフ参照)。これを見ると、飲酒運転事故の件数は年々減少していますが、飲酒を原因とした悲惨な事故はまだまだ後を絶ちません。

被害者への保険金支払い

――実際に事故が起きた場合、自動車保険では飲酒運転の運転者や被害者にそれぞれ保険金は支払われるのかが気になります。まずは被害者の補償からお聞かせください。不幸にも飲酒運転での事故に巻込まれ被害者となってしまった場合、保険金は支払われるのでしょうか。

西村 被害者の場合は、飲酒運転による事故でも保険金は支払われます。“被害者救済”の観点から、法律に基づく強制保険である自賠責保険、および任意保険、つまり損害保険会社が発売している自動車保険の対人賠償保険のいずれからも保険金が支払われます。

――自賠責保険と対人賠償保険を簡単に説明いただけますか。

西村 自賠責保険は、自動車の運行によって他人を死傷させた場合、加害者が負う損害賠償額について保険金をお支払いします。ただし、被害者の自動車や建物など物の損害は補償されません。また、支払限度額が定められています。対人賠償保険は、自賠責保険で支払われる額を超える損害賠償額に対して支払われる保険です。

 ただし、注意しなければならないこともあります。飲酒運転の被害者でも、運転者が加入している任意保険から保険金が支払われない場合があります。先ほど、飲酒運転による事故の場合でも対人賠償保険から保険金が支払われると説明しましたが、任意保険の場合、もともと補償の対象ではない運転者が起こした事故では、保険金は支払われません。

 例えば、運転者本人・配偶者限定特約がセットされた自動車保険の契約車両で、運転者本人や配偶者以外の友人が運転中に事故を起こした場合は、飲酒運転かどうかにかかわらず、保険金は支払われません。なお、その場合でも、被害者には自賠責保険から保険金が支払われます。

――歩行中の場合は、どうなりますか。

西村 飲酒運転により歩行中の方にケガを負わせてしまった場合も、 自賠責保険と対人賠償保険の2つが適用となります。

自賠責保険には支払限度額

――被害者のケガに対して、自賠責保険自動車保険から、いくらぐらいの保険金が支払われますか。

西村 自賠責保険では、治療費、通院交通費などの治療関係費、交通事故証明書の発行手数料などの文書料、および休業損害(原則として、1日につき6,100円)、慰謝料(1日につき4,300円)が支払われますが、被害者1名につき120万円が支払い限度額となっています。

――お亡くなりになった場合や後遺障害になった場合は、いかがですか。

西村 お亡くなりになった場合は、葬儀費、逸失利益、被害者本人の慰謝料および遺族の慰謝料が支払われますが、1名につき3,000万円が限度額となっています。後遺障害による損害は、身体に残った障害の程度に応じた等級によって、逸失利益や慰謝料などが支払われますが、等級別に1名につき75万円から4,000万円の支払い限度額が定められています。

――自賠責保険には、支払い限度額があるんですね。死亡や重篤な症状ほど、被害者の方の身体的・精神的な被害を考えると、やはり任意保険である民間の自動車保険の加入の必要性を痛感しますね。任意保険からの支払額はどうなるのでしょうか。

西村 先ほどご説明したように、自賠責保険により支払われる保険金を超える額に対して、対人賠償保険から保険金が支払われます。対人賠償保険の賠償限度額が無制限の場合、算定された損害額から被害者の過失分を引いた額が支払われることになるでしょう。

――加害者が保険に加入していない場合は、どうなりますか。

西村 被害者は、加害者に直接損害賠償請求をしたり、加害者が任意保険、自賠責保険のいずれにも加入していない場合は政府保障事業へ請求できます。また、車同士での事故でケガをした場合に、被害者ご自身が加入されている人身傷害保険や無保険車傷害保険(対人賠償保険を契約していないなど賠償資力が十分でない他の自動車との事故で、運転者や同乗者が死亡または後遺障害を被った場合に保険金が支払われる)から保険金が支払われます。詳しくは損害保険会社にお問い合わせください。

――加害者の補償はいかがですか?

西村 万が一飲酒運転の被害者になってケガをしたり、物を壊されてしまった場合は保険金が支払われますが、飲酒運転の運転者自身のケガやその車の損害には、保険金は支払われません。

――どこの損害保険会社も同じでしょうか。「うちの代理店は地域では知られた存在だから、頼めばなんとかなる」と思っている方もいます。

西村 基本的にはどこの保険会社も同じ取り扱いです。詳細についてはご契約の損害保険会社にご確認ください。また、保険金を支払うのは代理店ではなく、損害保険会社です。

――では、飲酒運転事故により同乗者が亡くなったり、ケガをした場合も同じ扱いですか?

西村 通常、同乗者は事故の被害者となりますので、故意または重大な過失がない限りは、人身傷害保険や搭乗者傷害保険で補償されます。ただし、道路交通法では「何人も、車両の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第一項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない」と規定されています。したがって、運転者が飲酒していることを同乗者がまったく知らないというケースは考えにくい以上、同乗者も道路交通法上の責任を問われるでしょうし、場合によっては故意や重大な過失ありとみなされることも、あるかもしれません。 

――飲酒運転をした加害者が保険に加入していれば、被害者に支払われることはわかりました。でも、加害者にはなんの経済的負担もないのでしょうか。

西村 加害者が自賠責保険と任意の自動車保険に加入していれば、被害者には保険金が支払われるため、飲酒運転事故による加害者の経済的負担は少ないかというと、実はそうではありません。加害者自身が被ったケガの治療費や車両本体の修理費などについては、自動車保険はもとより、医療保険などからも保険金が支払われません。

加害者への罰則

――飲酒運転の罰則は?

西村 飲酒運転には行政処分や道路交通法の罰則があり、交通事故を起こすと処分や罰則がさらに重くなります。行政処分では、酒酔い運転は免許取消、欠格期間は3年で、さらに死亡事故を起こした場合は、欠格期間は7年です。道路交通法では、酒酔い運転は5年以下の懲役または100万円以下の罰金が適用されます。また、他人を死傷させてしまうと刑法に定められている危険運転致死傷罪が適用(飲酒運転等でケガを負わせた場合、20年以下の懲役)されます。

――飲酒運転で死亡事故を起こし、悪質と判断されたなかには、懲役20年という判決も出ていますね。さらに、勤務先の処罰も控えています。ちなみに貴協会の飲酒運転に関する就業規則等は、どのようになっていますか。

西村 就業規則で飲酒運転という言葉を明確に示した規定はありませんが、飲酒運転は、懲戒事項の『重大な法令違反行為があった場合』として厳正に処分(懲戒)することとなります。

――やはり協会の性質上、厳格なのですね。貴協会では飲酒運転撲滅に積極的に取り組んでいらっしゃいますが、どんな啓発活動をされていらっしゃいますか。

西村 損保協会では、交通事故の削減により、被害者とともに加害者も減少する社会の形成に向けてさまざまな取り組みを推進しています。飲酒運転防止の取り組みもそのひとつです。企業の経営者、安全運転管理者などが飲酒運転防止の社員教育や研修を行う際の手引きとして『飲酒運転防止マニュアル』という小冊子を作成しています。このマニュアルでは、飲酒運転をした場合の企業等の罰則や、飲酒運転防止対策の各種提言、飲酒運転防止の啓発ツール・教育の紹介、さらには飲酒運転対策に困った時の相談先など、多岐にわたる情報を網羅しています。これまでに99.6万部を作成し、企業や自治体などを中心にご活用いただいています。有償(1部につき税込50円、郵送料実費)でのご提供となりますが、ホームページからダウンロード(無料)もできます。また、損保協会には全国に11の支部を置いていますが、地元県警と連携して飲酒運転防止に向けた独自の取り組みを展開している支部もあります。

――最後にこれだけは伝えたいということはありますか。

西村 交通事故、特に飲酒運転による事故は、被害者のみならず、その家族、さらには加害者とその家族など多くの関係者に大きな苦しみや悲しみをもたらし、それらは損害に対する補償や時間の経過によって癒えるものではありません。にもかかわらず、繰り返し悲惨な事故が起きています。一人ひとりがこうしたことを自覚して、運転するときには飲酒しない、させないことを実践していただきたいと思います。そうすれば、飲酒運転による事故の悲劇がなくなる日が、必ずやってくると信じています。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

BMW 320d x-DriveツーリングMスポーツで腰痛ナシ!よいクルマはシートだ

 人によって「よいクルマ」の条件は変わるものだ。

 たくさんの人や荷物を載せたい。迫力のあるクルマがほしい、高い走行性能を持つハイパフォーマンスカーがほしい……などなど、人がクルマに求めるポイントはそれぞれ。しかし、それだけでいいのだろうか。そうした見た目や機能、パフォーマンスの能力が高いだけでは、真の意味でよいクルマというわけではないのではないか。

 そこで今回は、クルマ購入時に最も重視すべき「よいクルマ」の条件について考えてみたいと思う。

「年間8000km」以上の走行で「過走行」とされてしまうクルマ事情

 国土交通省の発表によると、自家用乗用車の年間平均走行距離は約1万575km。さらにソニー損保が2019年に発表した全国カーライフ実態調査によれば、自家用車を所有する1000人にアンケートしたところ、年間走行距離3000〜5000kmの人は31.4%、5000〜7000kmが18.8%とのこと。つまり、およそ50%の人は年間7000kmもクルマには乗っていないというわけだ。

 実はこの7000kmという数字には大きな意味がある。買取店などでマイナス査定のポイントとなる「過走行」の定義は、古いクルマを除けば、年間約8000kmとされており、この7000kmという数字に近い。新車購入して3年しか経過していないクルマでも、走行距離が3万kmを超えていると「過走行車」という扱いになってしまう。

 年間走行距離が多ければ任意保険の保険料も高くなるし、今はやりの個人リースでも、契約する年間走行距離をオーバーしてしまうと、クルマ返却の際に追加料金が発生する。

 年間8000kmというと、月間約670km。ハイブリッド車のプリウスならば、燃料満タン1回で走行できる距離だ。現在のように燃費のよいクルマが増えてくると、ガソリンスタンドが生き残れないのもよくわかろうというもの。

 そんな現代のクルマ事情のなか、筆者は取材で、4日間で約4300kmを走るというタフなロケを行った。当初は1週間の予定だった。東京から高速道路を利用して四国の高知、愛媛を経由し、瀬戸大橋を渡って九州・鹿児島へ。そして九州を高速道路で回り、東京へ戻るというプラン。しかし運悪く台風10号が発生し、まさに上陸するタイミングに当たってしまい、急遽4日間で行うことに。しかも復路は愛知や静岡ですでに雨が降り始めていたため、嵐を避けるために名神から北陸道、上信越道、関越道を経由したことでプラス200kmとなってしまった。しかし結果、雨にも降られず道も空いており大変快適に東京まで戻ってくることができた。

BMW 320d x-Drive ツーリング M Sportsで、腰痛が発生しないドライビング!

 というわけで前置きが長くなったが、4日間で約4300kmという非常識な距離を走行したからこそ、本当の意味で「よいクルマ」の条件が見えてきた、というわけなのだ。今回ドライブしたのは、BMW 320d x-Drive ツーリング M Sports。現在日本のクルマ市場においてステーションワゴン人気は下火となっているが、欧州ではこうしたステーションワゴンに荷物を詰め込み、大陸をロングドライブしてバケーションに向かうといったことも珍しくない。現代日本で人気のミニバンやSUVといったクルマは、ドライバーの目線が高く運転しやすい反面、重心が高くなるためカーブを曲がるときなどはクルマの傾きが大きくなってしまう。しかしステーションワゴンはセダン同様に重心が低いため、クルマの傾きも少なく、無駄な揺れが起きないので、乗員全員が疲れにくい。

 BMW 320d x-Drive ツーリング M Sportsの高い走行性能、そして精度の高い運転支援システムに助けられたのは間違いないが、1日12時間以上運転していると、どうしても気になるのが腰痛だ。しかし今回、これだけ長時間の運転を毎日続けていても、腰痛はまったく起きなかった。さらに後席に同乗者がいたのだが、こちらも腰痛はまったく起きず快適だったという。そう、つまり本当に「よいクルマ」というのは、結局のところどんなに乗っても腰痛が発生しない「よいイス」を装着しているクルマなのではないか、と思うにいたったのだ。

 多くの人は新車を購入する際、販売店で試乗をすると思うが、その時、主に何に注意するだろうか。エンジンのパフォーマンス、視界、ユーザーインターフェイスなどのユーティリティ……いろいろとあるだろう。しかし、限られた試乗時間で最も重視してもらいたいのは、そのクルマのシートが自分の身体にフィットするかどうか。そして違和感がないかどうかだ。

実はルノーやプジョー、シトロエンといったフランス車のシートも非常に疲れにくい

 年間200台以上のクルマに接している筆者は毎回、シートの座り心地をチェックするようにしている。ドライバーシートに座り、スライド、リクライニング、そしてステアリングの高さなどを調整して正しいドライビングポジションを作る。その際、尻や太もも、肩回り、腰などにシート面がキチンとフィットするかどうかをチェックする。この時に最も重要なのは、「本当に正しいドライビングポジション」が作れているかどうかだ。よいシートは乗員の身体を広い面で支えてくれる。そのことによって圧が均等になるため、圧倒的に疲れが出にくい。これは座ってみれば数分でわかることだし、逆に違和感を感じ「なんか落ち着かない……」という感覚が生じるのであれば、それはつまり、身体にシートがフィットしていない、要は少なくともあなたの身体には合っていないのだ。

 その点、今回ドライブしたBMWやメルセデス・ベンツといったドイツ車はしっかりと作り込まれているのが一般的だが、実はルノーやプジョー、シトロエンといったフランス車のシートも、絶品で非常に疲れにくいと感じさせられることが多い。国産車では日産のゼログラビティシートをはじめ、マツダ、スバルはシート作りにこだわっていて、ロングドライブをしても非常に疲れにくい。ちなみにこれは新車だけでなく、中古車でも同じこと。たとえもともとの形状がよかったとしても、シート内部の素材がへたっているとしっかりと身体が支えられず、結果として運転中の疲労増加へと繋がってしまう。

 期せずして苛酷なロケとなったことから、筆者はクルマシートの重要性を改めて感じることができた。もちろん運転支援システムなどの最新機能も大切だ。しかし新車を試乗する際には、そうした機能だけに飛びつくことなく、シートの座り心地もしっかりとチェックしていただきたい。それは、スペックや数値には表れにくい、クルマの「本当の性能の高さ」を表すものなのだ。

(文=萩原文博/自動車ライター)

実はあまり知られていない不動産投資の“おいしいメリット”…不労所得や税金低減も

はじめに

 はじめまして。不動産投資コンサルタントの姫野秀喜です。私の連載する「確実に成功するための不動産投資の学校」へようこそ。

 コロナ禍で会社の給与以外の収入源を求める人が増え、不動産投資に注目している人も増え続けています。この記事を読んでくださっているということは、あなたは少なくとも不動産投資に興味がある方だと思います。

 そういった皆様に向けて、確実に成功できるための知識や不動産にまつわる時事問題などをお伝えしていきます。読者の方はこの記事を読むことで不動産投資のメリットやデメリット、やるべき具体的なアクション、やってはいけないことなどを理解することができます。

第1回:なぜ不動産投資なのか?不動産投資の魅力とは?

 投資と聞いて多くの人が一番にイメージするのは「株」でしょう。それ以外にも外貨を取引する「FX」やビットコインなどの「暗号通貨(仮想通貨)」を頭に思い浮かべる人も多いでしょう。

 昨今ブームが起きていたとはいえ「不動産投資」は投資全体で見ればマイナーなカテゴリーといえます。それもそのはずです。日本で株式投資をしている人数は約2,550万人(※1)であるのに対し、不動産投資をしている人数は約53万人(※2)しかいないのです。日本人の25%が行っている株式投資と異なり、不動産投資を行っている人は日本人の1%にも満たないのです。

 不動産投資は株式投資と異なり、まとまったお金がないとスタートできないという参入障壁の高さや、パソコンで手軽に売買できない不便さなどが理由で、まだまだマニアックな一部の人の投資なのが現状なのです。

 しかし、そんなマニアックな投資ですが、それを補って余りある魅力が不動産投資にはあるのです。「不動産投資の学校」では、まず、その魅力について述べるところから始めます。不動産投資の魅力には、下記のようなものがあります。

【不動産投資の魅力】

・働かなくても良い(不労所得が手に入る)

・お金を借りて行える(元手が少なくてもできる)

・生命保険を解約できる(団体信用生命保険に入ることができる)

・税金が安くなる

・動きが遅く安定している(暴落しても逃げ出す時間がある)

・実際の土地・建物が存在する(実物資産である)

・一国一城の主になった気分になる(まぁこれは気分の問題)

働かなくても良い

 多くの方が一番にイメージする魅力は「働かなくてもよい(不労所得が手に入る)」ということだと思います。これは半分正しくて、半分は間違いです。確かにキャッシュフローがしっかりと残る優良な物件を購入することができれば、投資家である大家さんがやることはほとんどないので、不労所得といえます。

 しかし、キャッシュフローがしっかりと残る優良な物件を探し出すためには、大量に物件を見て探しまくるという行動が必要であり、その点においては労働をしているからです。キャッシュフローがしっかりと残る優良な物件は投資物件全体の1%も存在しないため、多くの場合においてすぐに売れてしまいます。ゆえに誰より早く動いて誰より早く融資を付けて購入することが重要となってきます。そのため、購入するまでは人一倍労働しなくてはならないからです。

 そうは言うものの、株やFXであれば購入後も日々株価や外貨の推移を見ておかなくてはならないのに対して、不動産は買ってしまえば、後はほったらかしにしておいても大きな問題は起きないので、やはり働かなくてもよいといえるでしょう。

お金を借りて行える

「お金を借りて行える(元手が少なくてもできる)」というのも不動産の魅力です。投資は自己資金で行うのが一般的ですが、不動産投資では物件価格の1~2割の自己資金があれば、残りは融資を使うことができるからです。FXなどを除くと自己資金にレバレッジをかけられる投資というのは、不動産投資くらいのものでしょう。

 また、不動産投資のレバレッジはFXのレバレッジに比べ安定的なのが良い点です。不動産投資のレバレッジは長期の事業性融資なので、月々の支払は固定されています。支払いが固定されているので問題なく経営できていれば安定します。

 一方、FXのレバレッジはある日突然、通貨が大暴落するとロスカットで預けていた証拠金はすべて消え失せるため、あまり安定的なレバレッジとはいえないでしょう。

生命保険を解約できる

 不動産投資ではアパートやマンションなどの物件を購入する際に、銀行が指定する団体信用生命保険(以降、団信)に加入することがあります。この団信は優れた保険で、本人が亡くなった場合や仕事ができないような障害を持ってしまった場合などに、物件の借金がゼロになるというものです。

 あまり想像したいことではありませんが、万一自分になにか不幸な出来事があったとしても安心できます。残された家族は借金が完済されたアパートやマンションを手にすることができるため、そのまま保有して月々の家賃収入で生活することも、売却して大金を手に入れることも可能だからです。そのため、今家族のために入っている「生命保険を解約できる」のです。

税金が安くなる

 高所得なサラリーマンは税金をたくさん納めていますが、不動産投資では減価償却費などを計上することで、税金を安くすることも可能です。減価償却費についてはまた別の機会に解説しますが、不動産投資家は息をするように減価償却費の使い方を身につけておかなければなりません。

動きが遅く安定している

 不動産は「動かない資産」というように非常に動きが遅いです。動きというのは、売買スピードなどを意味しています。株やFXでは1秒ごとに価格が上下し、一瞬で大暴落してしまうこともありますが、不動産ではまずありえません。

 不動産の売買は一般的には3カ月や6カ月、1年以上かかることもあり、非常に時間がかかります。逆説的ではありますが、そのため不動産は非常に動きが遅く安定しているのです。動きが遅いため、仮に暴落しはじめたとしても、逃げ出す余裕があるのです。

実際の土地・建物が存在する

 それから不動産は実際の土地・建物が存在する実物資産です。企業が倒産するとただの紙切れになってしまう(すでにデータ化され紙すら存在しない)株に対し、実際にその場所に存在する土地・建物を購入するわけですから当然です。

 実際にモノが存在するわけですから、少なくとも価値が0になることはないのです。ただし、もちろん都心の価値の高いエリアでキャッシュフローがプラスになる優良物件を購入していることが大前提です。

一国一城の主になった気分になる

 これに加え、株式やFXのようにデータではなく土地・建物が存在するため、「一国一城の主になった気分になる」ことができるというのも、ある意味で不動産投資の醍醐味といえます。まぁ、これは気分の問題ではありますが、パソコン画面に映し出された株式やFXのチャートを見るよりも、自分のアパートやマンションを見るほうがモノを保有する欲求を満たすことができるのではないでしょうか。

 このほかにも不動産投資にはさまざまな魅力が存在するわけですが、これらの魅力を手にすることができるのは、あくまで努力して成功した不動産投資家だけです。不動産投資も投資である以上、当然リスクが存在します。不動産業者の口車に乗せられてダメな物件を高値で買ってしまうなど、失敗した人はごまんといるでしょう。

 不動産投資は他の投資に比べ金額が大きいため、失敗するとリカバリーするのが非常に困難です。そのために必要なリスクについて、またそのリスクを回避する方法については今後少しずつ解説していきたいと思います。

 ということで、次回は不動産投資のリスクについて解説します。

(文=姫野秀喜/姫屋不動産コンサルティング株式会社代表)

※1:日本証券業協会による「顧客口座数」より

※2:統計局データより不動産賃貸を行っている116万世帯から、相続によるものを除いた

【プロフィール】

姫野秀喜(ひめのひでき)

姫屋不動産コンサルティング(株)代表。九州大学経済学部卒。アクセンチュア(株)で日本を代表する大企業の会計・経営コンサルティングに従事。独立・開業後、年間100件以上の実地調査から得られる詳細な情報と高い問題解決力で、一人一人に合致した戦略策定から購入、融資、賃貸経営の改善までを一貫してサポート。不動産に関する記事は週刊ダイヤモンド、週刊ビル経営、ニュースサイト等に掲載されている。発行するメルマガは2万5千部を超え、現在行っている無料相談は不動産を見極める力が身につくと評判。融資が厳しい現状でも、変わることなく1億円大家さんを多数プロデュースしている。著書に「確実に儲けを生み出す不動産投資の教科書」(明日香出版社)、「誰も教えてくれない不動産売買の教科書」(明日香出版社)、「売れない・貸せない・利益が出ない負動産スパイラル」(清文社)がある。

【書籍】

「確実に儲けを生み出す不動産投資の教科書」(明日香出版社)

「誰も教えてくれない不動産売買の教科書」(明日香出版社)

「売れない・貸せない・利益が出ない負動産スパイラル」(清文社)

原因不明の体調不良、銀歯や刺身が原因かも…重金属蓄積で免疫低下、糖尿病や認知症の恐れも

 我々は通常通りの生活を送るなかで、知らず知らずのうちに有害な重金属を摂取していることをご存じだろうか。何気ない体の不調は、重金属の毒性によるものかもしれない。また、重金属の蓄積は認知症を招くリスクにもなる。

 予防医療の意識が高まる今、蓄積した重金属による健康被害を防ぐため、キレーション治療が注目されている。

 キレーション療法とは、体内から有害な重金属や老廃物を取り除く治療のことで、血管内に薬剤を点滴して行う。キレーション治療を行う麹町皮膚科・形成外科クリニック院長、苅部淳医師に話を聞いた。

「キレーション治療は細胞外の重金属を排出することを目的とし、デトックス治療は細胞内の重金属を排出します。細胞の外に蓄積しているキレート剤が届く範囲の重金属は、腎臓を通して尿中に排出されます」

 重金属の蓄積は、後に大きな健康被害を引き起こすという。

「重金属の蓄積は血管の障害を引き起こし、高血圧、動脈硬化、心臓疾患、視力障害、肌の衰えなど、加齢に伴う変化すべてに関与します。血管の状態が若ければ、身体の若さを維持できるのです。キレーション治療によって、老化した血管を若返らせ、体に生じてくるさまざまな加齢現象の進行を遅らせることができます」

 マグロ、クジラなどの刺身を好んで食べる日本人は、水銀の蓄積量が欧米人に比べて2~6倍も高いといわれている。また、水銀は銀歯(アマルガム)、ワクチンなどからも知らず知らずのうちに体内に取り込まれている。特に妊婦に関してはマグロ類の摂取を控えるべきことは広く知られている。

「自然界に存在する無機水銀は消化管からほとんど吸収されませんが、人間がつくり出したメチル水銀は容易に吸収されます。体内に取り込まれたメチル水銀は、妊婦の胎盤を通じて胎児に移行したり、さらには血液-脳関門をも通過して脳に到達してしまいます。メチル水銀は神経系に作用し、高濃度に暴露するとヒトに神経障害や発達障害を引き起こします。胎児の発育中の脳はメチル水銀に対する感受性が高いため、比較的低濃度の暴露であってもその影響が懸念されています」

 水銀だけでなく、アルミニウム、カドミウム、ヒ素、鉛、ニッケル、ベリリウムなどの有害重金属は、食事、水、空気、日用品などから体内に取り込まれ、さまざまな不調を引き起こす。

「水銀に限らず有害重金属により、さまざまな疾患を引き起こします。たとえば、過敏性腸症候群や便秘、リーキーガット、リウマチ、骨粗鬆症、慢性疲労症候群、甲状腺ホルモン異常、副腎疲労、不妊症、自閉症、不眠、認知症、アトピー性皮膚炎、肌荒れ、免疫低下、アレルギー、糖尿病、肥満、やせすぎなど。重金属の解毒とそれぞれの疾患の治療法を併用することで、さまざまな慢性疾患の改善に役立ちます」

 原因不明の不調が続く場合は、有害重金属の蓄積を疑ってみることも必要かもしれない。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)



吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

菅首相のゴリ押しか「ぐるなび」滝会長が「文化功労者」に! 初当選以来のタニマチ、山口敬之氏の雇用を依頼した特別な関係

 菅義偉首相の人事私物化は日本学術会議の任命拒否に代表される「気に入らない人間を外す」というものだけではないらしい。  政府は10月27日、2020年度の文化功労者20人を発表した。文化功労者は「文化の向上発達に関し特に功績顕著な者」に贈られる称号で、この時期、5人の文化...

住民投票否決も維新の横暴で都構想にすでに100億円の血税! 吉村・松井はコロナ対策おざなり、大阪は死亡者も感染者も東京を上回る

 大阪市を廃止して特別区を設置することを問うた、いわゆる「大阪都構想」の住民投票は2015年につづき「反対多数」という結果となったが、そんななか、維新の政治家らから「大誤報」扱いを受けた毎日新聞がこんな記事を配信し、大きな話題を集めている。 「大阪都構想関連に公金100億...

NHKが学術会議問題で日本会議イデオローグ・百地章の任命拒否擁護論! 政権忖度、両論併記のために極右学者を起用する危険性

 日本学術会議の任命拒否問題をめぐる菅義偉首相の答弁の支離滅裂ぶりが止まらない。任命拒否したことの理由として菅首相は「多様性が大事」などと言い出しているが、30日におこなわれた参院本会議では新たに「7つの旧帝国大に所属する会員が45%を占めている」と主張したのだ。  菅首...

“大阪市4分割でコスト218億円増”は捏造でも誤報でもない! 松井市長が市財政局長を恫喝し都合の悪いデータ封じ込め

 1日に住民投票が行われる「大阪都構想(大阪市廃止構想)」をめぐって、都合の悪い事実を突きつけられた維新の松井一郎・大阪市長がとんでもない圧力を加えてきた。  標的になったのは10月26日、毎日新聞が出した「大阪市4分割ならコスト218億円増 都構想実現で特別区の収支悪化...

ニューノーマル時代の店舗とは。5Gが生んだ「AR接客」

電通のクリエイティブ横串組織「Future Creative Center」(FCC)は、広告の枠を超えて、未来づくりの領域をクリエイティビティーでサポートする70名強による集団。この連載では、「Future×クリエイティビティー」をテーマに、センター員がこれからの取り組みについて語ります。

今回特集するのは、KDDIが9月26日にオープンした「GINZA 456 Created by KDDI」。銀座の一等地に位置し、5Gを体験できるコンセプトショップとして誕生しました。コロナ禍の中、体験を軸にした店舗をつくるのは、さまざまな苦労があったといいます。FCCメンバーも店舗の空間設計からPRまで多岐に関わり、そのハードルをテクノロジーとクリエイティビティーで突破しました。

ニューノーマルといわれる時代の中で、企業と人の“接点”となる店舗にはどんな工夫が求められるのでしょうか。KDDIの坂本伸一氏(コミュニケーション本部宣伝部 ブランドマネジメント室長 兼 戦略グループリーダー)と、電通のプロデューサー加藤俊文氏、FCCメンバーである電通の南木隆助氏が振り返りました。

KDDIの坂本伸一氏、電通加藤俊文氏、電通南木隆助氏
(左:電通 加藤俊文氏、中央:KDDI 坂本伸一氏、右:電通 南木隆助氏)
※この取材は、オンラインで行われました。

「見る・触れる・集まる」が厳しい中、店舗はどうあるべきか

坂本:GINZA 456 Created by KDDI(以下、GINZA 456)は、5Gを体験できるコンセプトショップです。店名の「456」は、住所の中央区銀座4丁目5番6号が由来であると同時に、4Gから5G、その先へつなぐという意味も込めています。文化の発信地である銀座で、他のauショップとは異なる空間にしました。auではなくKDDIを冠した特別な店舗です。

「GINZA 456 Created by KDDI」
「GINZA 456 Created by KDDI」

加藤:山野楽器の本店が入っているビルの、B1F、1F、2Fが使われています。 私はKDDIさんの仕事をここ数年担当しており、テナント交渉からコンセプト設計、PRまで、企画全体を統括しました。

南木:僕は店舗のデザインとその統括を担当しました。店舗の企画・構想から、店内の空間デザイン、設計、外観まで。B1Fが5Gを体験できるイベントフロアとなっており、1Fはエントランスショールーム、2Fは販売ショップとなっています。この2Fも、KDDIの旗艦店として、最上級のおもてなしをする空間というコンセプトです。とはいえ、やはりGINZA 456の目玉となるのはB1F。5Gを体験できるスペースですよね。

坂本:はい。5Gの提供がスタートしましたが、本当の意味で浸透させていくには「体験」が重要だと思っています。例えば4Gのスタート期は、スマホというデバイスが同時に普及したタイミングで、消費者がスマホを新たに買う中で自然と4Gも普及していった。しかし今は、スマホがほぼ行き渡っており、4Gのようにデバイスの買い替えから普及させるのは期待しにくいでしょう。その中で5Gを浸透させるには体験価値が重要で、多くの方にとってまだ「想像」でしかない5Gを「体験」してもらうことで魅力を感じていただく。結果、5Gを使う人が増える。そんな場所にしたいと考えました。

加藤:この場所でどんな体験を用意すべきか、時間をかけ議論を重ねていたのですが、途中からコロナの問題が深刻化し……。密や接触を避けなければならない中で、どういった体験がよいのか、そもそも店舗はどうあるべきか。かなりの難題を突きつけられました。ニューノーマルの時代に求められることと、店舗での体験は相反する要素も多いですから。

坂本:まさに「見る・触れる・集まる」が難しい中で、さあどうしましょうと。皆さんとひたすら議論する中で生まれたのが、タレントの池田エライザさんによる「AR接客」でしたね。アイデアが出たとき、これを「ニューノーマル時代の接客体験」にしようと。

池田エライザさんの「AR接客」
池田エライザさんの「AR接客」

加藤:そうですね。GINZA 456では、予約されたお客さまに入り口で5G対応スマホをお貸しします。そうして店に入ると、そのスマホのARで池田エライザさんが登場し、案内してくれるのです。「GINZA 456を案内する池田エライザです」と自己紹介するところからスタートして。

坂本:AR接客は今後につながるアイデアだと感じています。お客さまとの新しいインターフェイスが、コロナ禍での店舗を考える僕らの議論の中で生まれて実現できたのはよかった。

コロナ禍を踏まえた体験コンテンツと、展示スペースの設計

南木:B1Fの体験コンテンツも、すべてお客さまの手にある5Gスマホを通して見るものにしました。世界中の好きな場所に行ける「au XR Door」や、バーチャル空間の横浜スタジアムを歩き回れる「バーチャルハマスタ」など。

地下1階の展示スペース
地下1階の展示スペース

加藤:この状況なので、人を集めるイベントは難しいですし、実物展示には多くの人が触れる、集まるリスクがあります。であれば思い切り舵を切って、お客さまが一人でスマホを見ながら体験できるものにしようと。なるべく感染リスクを抑えた形を選びました。このあたりは、KDDIさんと一緒に議論しながら、だんだんとアイデアが膨らんできたのを覚えています。

坂本:決して形式的な議論ではなく、本当にフリーハンドで雑談しながらでしたよね(笑)。リモートワークだったので、パワーポイントで出てきたワードや図をメモしながら。未来の店舗やサービスを考えるとき、言語化できないことはたくさんあります。それをプレゼンや会議で形式的な話すと、中身がぼやけたままになりやすい。むしろ、お互い自由に思いついたことをどんどんブレストしながら、アイデアを積み上げて明確化する方が合っていると思いました。

南木:未来を見据えるという意味では、B1Fの構造もポイントですよね。壁全面をスクリーンにし、その他に可動式の壁も設置。投影するプロジェクターも、自由に設置場所を決められるよう天井を工夫しました。その結果、B1Fは「展示を自由に変えられる仕様」となっています。これは、KDDIさんが企画当初から決められていたことですよね。

地下1階の展示スペース

坂本:未来の体験をテーマにしている以上、今後予測できない変化がたくさん起こるはずです。想像すらできないテクノロジーやサービスが出てくるかもしれません。さらにコロナ禍で先が読めない今、ハードも、どこまで柔軟に変化できるかが重要になります。いろいろな未来に対応できる空間設計にしたいと強く考えていました。

サイバー世界へのゲートを示す、エントランスのファサード

南木:地下の設計以外にも、KDDIさんは企画当初から一貫して大切にしていた点がありました。それがGINZA 456という店名と、エントランス(店舗入り口)の見せ方ですよね。エントランスには、LED映像が流れるファサードを設置。このデザインも僕が担当したのですが、使用するLEDを決める際に、工場まで足を運んで、見え方の確認をしようとLEDを簡易的に組んで実験したり。KDDIさんのこだわりを強く感じました。

GINZA 456のエントランス
GINZA 456のエントランス

坂本:5Gはサイバー世界の進化であり、エントランスは、まさにリアルからサイバーへの入り口。銀座の街中を歩いていた人が、サイバーの世界に飛び込む。そのゲートとしての世界観を表す必要がありました。5Gの普及に体験が重要な中で、どれだけ気軽に敷居をまたいでもらうか。ここが鍵でした。

加藤:エントランスの非現実感がサイバー世界へのゲートになっていますよね。そうして中に入ると、未来のコンテンツ・空間が広がっている。そういう体験設計になったのはよいかなと。

南木:ですので、ファサードのデザインは工夫しました。大きなファサードを取り付ければインパクトは出ますが、店舗の外壁面積には限りがあります。そこで、ファサードを外壁からエントランス、店内までうねるようにつなげて、奥行きを出しました。これにより、外から見たときのインパクトが生まれたと思います。

一方、エントランスのサイドに展示スペースを設けることを当初提案していました。これだけの土地なので、スペースを余らせたくないという思いもあり(笑)。ですが、KDDIさんは「エントランスは象徴的に強く見せたい」と。極力モノをなくし、削ぎ落とした空間にしたいと話されました。その覚悟というか、ブレない姿勢は印象に残りましたね。

デジタル化が進むほど、接点を生む「ブランドスペース」が重要に

南木:今回の店舗のように、ブランドとしての意思を発信する空間は今後重要になると思っています。FCCではそれを「ブランドスペース」と呼んでいるのですが、KDDIのブランド戦略に携わってきた坂本さんはどう感じていますか。

坂本:リアルなスペースの役割は今後増していくと思いますね。ブランドを築く上で一番大切なのは、お客さまとの接点づくり。コミュニケーションする場や機会を生むことです。デジタル化が進むほど、その接点は簡単にはできなくなってきました。そこで、リアルの役割が重要になる。サイバー世界が進化するほど、お客さまとの接点となるリアルスペースが求められると思っています。その中でKDDIとしてのブランドを感じていただくのが大切です。

南木:僕が今回の設計で学んだのは、5Gの体験コンテンツという「ソフト」と、建物という「ハード」が絡み合った空間になっていることです。ソフトを最大限生かすためのハードになっているし、どちらかが違えばこのスペースは成立しない。高次元で融合しています。ブランドスペースは、リアルを軸にブランドを伝えていく場所ですが、今後はソフトとハードが融合した空間が増えていくのかもれません。

坂本:私たちとしても、未来の方向性は無限にあるので、変化を前提にした施設ができてよかったです。今は5Gのスマホを中心とした展示ですが、今後はスマホに限らないコンテンツや楽しみも用意したいので、どんどん入れ替えていきます。もちろん、自社だけでなくパートナー企業とコラボした体験施策も考えていきたい。最新のテクノロジーに敏感な方だけでなく、普通に銀座を歩いていた方が“ちょっと先の体験”を簡単に味わえる。そんな場所にしたいですね。