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なぜデリバリー「Wolt」は地方から攻める独自戦略?北海道・東北で存在感、店頭価格と同額で宅配も
●この記事のポイント
・北海道で存在感を示しているフードデリバリーが「Wolt」
・比較的個人店の選択肢が豊富。地道に店舗を開拓
・「デリバリーなのに店頭価格」を実施、対象店舗の商品価格が店頭価格と同額に
国内のフードデリバリー市場はUber Eatsと出前館の2強体制になっている。市場シェアは調査会社によって大きく異なるが、Uber Eatsが3~4割程度、出前館が2~3割程度で、他社が数%程度といわれる。2トップが君臨するなか、北海道で存在感を示しているのがフィンランド発のフードデリバリー「Wolt」だ。日本進出は2020年で後発組に入るにもかかわらず、北海道でのシェアが約3割という調査結果も出ている。北海道では苫小牧市、室蘭市、北見市など比較的小規模な都市にも進出している。Woltはなぜ地方のエリアに注力し、存在感を示すことができているのか。Wolt Japan株式会社の代表、ナタリア・ヒザニシヴィリ氏に国内での拡大戦略を聞いた。
●目次
中規模都市に注力
Woltはフィンランド・ヘルシンキ発のフードデリバリーサービスだ。2014年に創業して2年後にはスウェーデンに進出。その後、中欧諸国を中心に勢力を拡大し、日本では2020年にサービスを開始した。出前館がスマホに対応したのは2010年、Uber Eatsの日本進出は2016年であり、業界の中では後発にあたる。日本進出にあたり、まずは20年3月に広島でサービスを開始、その後、北海道・東北でリリースし、同年10月に東京進出を果たした。
「都市の規模がヘルシンキなどヨーロッパの中核都市に似ているため、日本ではまず広島でサービスを開始しました。東京や大阪などのメガシティに進出するのはもちろん重要ですが、弊社はまず地方中核都市、中規模都市にフォーカスし、徐々にエリアを拡大する方針を取りました。やみくもにエリアを拡大するのではなく、各エリアで質の高いサービスを提供するよう努めています」(ナタリア・ヒザニシヴィリ代表)
北関東や北陸、関西では未出店地域も多いが、北海道と東北の全県には進出している。札幌・仙台でも、東京に進出する前にサービスを開始した。広島で始めたにも関わらず、なぜ北日本に注力したのか。
「九州や西日本にも中規模都市は沢山ありますが、サービスを素早く浸透させたかったため、比較的競合の少ない北方を選びました。他社が浸透していないエリアであれば、新しいユーザーを獲得することができ、また、地元の飲食業者と組んでビジネスを展開しやすくなります。昨年秋には北海道の小樽・苫小牧・室蘭に進出、今年5月には岩見沢と北見で、6月には釧路でサービスを開始しました」(同)
苫小牧・室蘭・北見の人口はそれぞれ16万人・7万人、11万人だ。室蘭のデリバリー状況を見ると、“2トップ”も進出しているが、ピザチェーンなど大手が主。Woltは個人店の選択肢が圧倒的に豊富だ。地道に店舗を開拓していることが窺える。店舗数の多さが北海道でのシェア拡大につながったのだろう。
消費者にとってアフォーダブルであることを重視
勝者総取りと言われるように、アプリを使ったサービスはまず、シェア拡大を狙うことが多い。しかしWoltではシェアを重視していないという。
「国内で何パーセントというようなマーケットシェアは気にしておりません。それよりも、各エリアでベストなサービスを提供できるよう、心がけています。Wolt内で、消費者が欲しいと思える物をWoltに掲載されている店舗が提供できる状況にする必要があります。その上で重要なのが、“アフォーダブル”であること。消費者が価格とサービスの質を比較し、納得することです」(同)
「アフォーダブル(affordable)」とは「お手頃な」「手の届く」という意味で、ニュアンスとしては「納得のいく値段」を言い表す時に用いる。Woltでは注文から30分以内の配達を目標としており、スピードの速さが売りだという。そして最近ではお得感を打ち出すべく、店頭価格による集客も行っている。
「日本では一般的に、デリバリーのメニュー価格が実店舗での価格よりも高く設定されています。このため、デリバリーサービスを使うことについて『贅沢だ』と考える人が多く、消費者がフードデリバリーを利用する際の障壁になっています。海外では、デリバリーの商品価格と店頭の価格は同じであることが一般的で、このため世界の他の都市と比較すると、日本のユーザーのデリバリー利用率は著しく低い。便利なサービスを気軽に利用してもらえるよう、メニューの価格を店頭価格と同じにする施策を行っています」(同)
日本の通常のフードデリバリーでは、商品価格に加え、サービス料や配達料などの手数料が加算されるが、そもそも商品価格が店頭価格よりも高く設定されていることが一般的だ。Woltは4月から札幌市と広島市で「デリバリーなのに店頭価格」を開始、対象店舗の商品価格を店頭価格と同額に設定している。この取り組みは今、北海道内の他のエリアにも拡大している。
広がる小売との連携
Woltは、2021年からコンビニエンスストアや北海道地盤のドラッグストアチェーン「ツルハドラッグ」との連携を始めるなど、ドラッグストア、スーパー、コンビニエンストア、百貨店などの小売事業者との連携も活発に行なっている。飲食店から料理を配達するだけでなく、小売店舗で販売する食料品や、洗剤や掃除用品など日用品の配達にも対応している。
「2020年以降、Woltは『ポケットの中のショッピングモール』をコンセプトに、料理以外の配達も手がけるようになりました。従来のいわゆるフードデリバリーの枠を超えて、例えば花屋からの配達にも対応します。商品ジャンルを増やす中、食料品や日用品を数多く扱うスーパーやドラッグストアとの連携は、ユーザーのニーズにきめ細かく対応できるポテンシャルが非常に大きいと感じています」(同)
他社は22年以降、ドラッグストアとの連携を強化しており、配達とドラッグストアの組み合わせは効果が大きかったとみられる。特にWoltが注力する中小都市では飲食店数や注文数が大都市より少ないため、その空隙を埋める効果もありそうだ。
Woltが北海道など北方に注力し、中小規模の都市でサービスを強化していることが分かった。他社もエリアを拡大しているが、マイナーなエリアにおける店舗の選択肢はWoltが豊富で、地道な開拓が支持につながったと考えられる。
他の業界にも共通するが、既に高シェアが握られている市場において、後発の企業がシェアを増大するのは至難の業だ。「地域」または「客層」を限定し、特定の区分に限定するニッチ戦略を取るしかない。コンビニ業界のセイコーマートのように北海道の覇者となるのか、Woltの今後に注目したい。
(文=山口伸/ライター)
雑誌「BRUTUS」 は、なぜ「動画」で成功したのか?
雑誌や書籍作りで培った出版社のクリエイティブ力やブランド力が、いま注目されています。本連載では、世の中のマーケターに向けて、さまざまなテーマでいまの時代における出版社のアセットやコンテンツ作りを紹介しながら、出版業界を活用するヒントをお届けします。
初回のテーマは、「動画」。動画コンテンツに力を入れるメディアが増えている昨今、出版社が描く動画戦略とは?数あるマガジンハウスの雑誌の中でいち早く動画施策に力を入れて成功を収めた「BRUTUS」の取り組みを紹介します。
ゲストは、雑誌「BRUTUS」編集長の田島朗(たじま・ろう)氏と、マガジンハウスのビジネスプロデュース部部長の長勲(ちょう・いさお)氏。聞き手は、動画をはじめとしたデジタルソリューション開発を進めている、電通出版ビジネス・プロデュース局(以下、出版BP局)の中村一喜(なかむら・かずき)氏です。
マガジンハウス
anan、POPEYE、クロワッサン、BRUTUS、Tarzan、Hanako、GINZA、CasaBRUTUS、ku:nel、&Premiumの定期刊行雑誌をはじめ、書籍、ムック、ウェブマガジンなどを幅広く手掛ける、日本を代表する出版社。
雑誌ビジネスのエコシステム再構築には、「動画」が重要なツールになる
中村:はじめに自己紹介をお願いします。
田島:2021年12月からBRUTUSの編集長を務めています。また、執行役員として、マガジンハウスが定期刊行する雑誌10誌について、編集担当役員と各雑誌のブランド戦略について議論したり、今年80周年を迎えるマガジンハウスがこの秋に行う周年イベントの企画運営に携わっています。
長:ビジネスプロデュース部の部長として、広告主と向き合いながら、マガジンハウスのさまざまなメディアの広告売り上げの最大化に取り組んでいます。それと並行して、当社のDXを推進しています。新規事業開発部にも所属し、マガジンハウス80周年の施策や新しいビジネス事業開発にも携わっています。
中村:今回、「出版社×動画」というテーマでお話を伺いたいと考えています。現在、動画は興隆期で、2024年日本の広告費を見ても、「ビデオ(動画)広告」は、前年比123.0%の 8439億円と、広告種別の中で最も高い成長率を記録しました。広告種別における構成比は28.5%となり、日本の広告費の推定開始以降初めてディスプレー広告(構成比25.8%)を上回る結果となっています。
参考記事
「2024年インターネット広告媒体費」解説。ビデオ(動画)広告の成長はさらに加速。ソーシャル広告費が1兆円を突破
私たち電通出版BP局は、普段から、田島さん、長さんとお仕事をさせていただいていますが、マガジンハウスさんも動画の企画が大変増えていますよね。なぜ貴社は動画に着目されているのかを教えていただけますか?
長:出版社にとって動画は大変重要になっています。はじめにその背景をお話ししますね。出版市場は、雑誌や本の売り上げに大きく左右されますが、いまは生活者がデジタルシフトしたこともあり、書店がどんどん減っています。
私が出版社に入って一番驚いたというか、コンテンツ以外で「これが出版社の肝だ」と思ったのは、ディストリビューション(流通)の強さです。本や雑誌を作ったら、それがすぐ全国に一斉に流通して、書店で売ってもらえる。これは一般的なメーカーでは、なかなかあり得ないことです。私たちの先輩や取次、書店の皆さまが築き上げてくださった強固な流通システムが、出版社の強さを支えていたと思います。
中村:支えていた、ということは、いまは変わりつつある、と。
長:はい。出版社の売り上げを支える要素は、マーケティング的にいろいろ分解できますが、コンテンツ以外で私たちがフォーカスすべきは、「配荷率(店舗で買える状況にある確率)」と、本や雑誌の「認知率」だと、私は考えています。ところがいまは生活者のデジタルシフトにより、書店が減る→配荷が減る→認知が減る→売り上げが減る→書店が減るという負のループに陥っています。
なので、良いコンテンツを作っても、以前ほど生活者に認知されず、売り上げにつながりにくくなっています。市場規模の縮小、メディアとしての影響力の低下、広告の売り上げ減少という課題を出版社が抱えている中で、私たちは広告の売り上げはもちろん、根幹である販売利益を支える配荷率と認知率をどう改善していくかを考える必要があります。
とはいえ、配荷率については書店減少の課題もあり、個社の努力だけではすぐに改善できないところではあります。しかし、コンテンツを生活者にもっと届ける方法はあると思い、デジタル化を進め、例えば、当社の雑誌サイトの充実を図ってきました。
中でも、いまはソーシャルプラットフォームに最も多くユーザーが集まっています。ソーシャルプラットフォームが、広告マネタイズすることに重きを置く中で、ユーザーの滞在時間やエンゲージメントをおそらく最重要指標にしている。そのとき、一番効果的なのが動画と考えているようで、特に新規のユーザーには動画が最優先で配信されるアルゴリズムになりつつあると思います。
今後、ますますソーシャルプラットフォームが動画化していくと考えると、配荷率と認知率を高めるためには、私たちは雑誌や本を作るだけではではなく、ソーシャルプラットフォームのアルゴリズムを学び、ハックして、自分たちのコンテンツを届きやすくするようにしなければなりません。
中村:雑誌ビジネスのエコシステムを再構築するためには認知率が重要で、そのために動画が重要なツールになっているということですね。
長:そうです。とはいえ動画が大事だと分かっていても、コンテンツメーカーではない会社がゼロから始めるのは、実は結構ハードル高いと考えています。その点、私たちはコンテンツを常に作っている会社なので、いろいろできることはあると思っています。マガジンハウスのコンテンツ制作の延長線上に動画制作の良いルーティンを作ることで、コンテンツを届ける力を強くすることができないかと。ですから、雑誌の販売と広告営業の両面において、動画がいま大事だと考えているのです。

動画施策を始めて、BRUTUSの完売が増えた
中村:ここからは、BRUTUSの動画の取り組みについてお聞きします。BRUTUSは、2023年5月から動画施策「BRUTUS ORIGINAL MOVIE」をスタートしましたよね。どのような内容でしょうか?
田島:BRUTUSの特集からスピンオフした動画シリーズで、映像ならではの視点で、特集をより楽しむための動画を毎号お届けしています。マガジンハウスの雑誌の中では、BRUTUSが先陣を切って、動画施策に積極的に取り組んできました。
中村:数あるマガジンハウスの雑誌の中で、なぜBRUTUSが先陣を切ったのですか?
長:そもそもマガジンハウスで動画施策を行うといっても、すんなりとはいかない状況でした。やはり、紙(雑誌)を作りたくて編集者になった人が多いので、すぐに「動画をやろう」という空気にはなりません。
そのような状況の中で、ビジネスの観点から、私たちが考えたポイントが2つあります。1つは、動画を作ってビジネス的に大成功させること。多少反響があったぐらいでは、社内の空気は変わらないと思ったのです。もう1つは、マガジンハウスが定期刊行している10の雑誌の中から、動画施策の効果が出やすいものを選ぶことです。そのためには、動画制作の協力体制がすばやくきちんと敷ける雑誌を選ぶことが肝でした。
この2つのポイントを踏まえた結果、BRUTUSがベストだと考えました。編集長の田島は、以前から動画の重要性を感じていましたから、前のめりでやってもらえるだろうと。体制については、BRUTUSに動画専門のスタッフがいなかったので、外部からアサインし、BRUTUSをメインに活動しつつ、他ブランドの相談にものっていただける体制をつくりました。
中村:動画をスタートするにあたり、編集部員の皆さんの反応はいかがでしたか?
田島:まあ、すんなりやろうという感じには……(笑)。動画制作は専門外でしたし、手間がかかって仕事量も増える。なので、「なぜ動画をやるのか」という理由を伝え、「編集者として紙だけではなく動画というフィールドに取り組むことはコンテンツ表現の幅が広がるので絶対楽しいよ」と言い続けて、編集部員に納得してもらいました。

長:動画のコンテンツ作りでは、「BRUTUSらしい動画とは何か」を議論しましたよね。その結果、「2週間に1回、いろいろな特集を出していることが一番のBRUTUSらしさではないか」という話になりました。
そこで、特集テーマに沿ったオリジナル動画を作れば、2週間に1回必ずアップできるし、BRUTUSは多種多様なテーマを扱っているので、いろいろなレファレンスが作れて、広告的にもさまざまな業界や企業にアピールできると考えました。
田島:動画を作るときに気を付けたことがあります。普通の発想だと、動画は紙(雑誌)を売るための宣伝的な位置づけになってしまう。例えば、紙の撮影のときに動画チームを入れて、撮影の合間にカメラを回し、「今回はこんな特集です」と紹介するようなものになりがちです。それだと動画は永遠に紙のサブ的な扱いにしかならない。
そこで、特集テーマについて、この企画は紙で表現する、こちらの企画は動画で見せるという発想で作ってほしいと編集部員にお願いしました。結果的に、動画のコンテンツは、紙では一切取り扱っていないようなオリジナルの企画が生まれるように。読者は、紙と動画の両方を見ることで、特集テーマをより楽しめる仕掛けにしたわけです。
中村:例えばどんな企画がありましたか?
田島:以前、ホラー特集を組んだことがありました。実は、私は怖いものが苦手で、特集にするのは敬遠していたんですけど(笑)。でも、最近、新しい世代による怪談師のブームが来ているという話を聞いて。ちょっと映像を見たところ、さまざまな怪談師がいろいろなシチュエーションで、しゃべり方にもオリジナリティを出して、上質なエンターテインメントに昇華している。それが面白いと思って、雑誌の企画より先に、THE FIRST TAKEの怪談師バージョンのような映像を作ることを思いつきました。
それで動画を作り、紙のほうは、まだ世に出ていない「読むと呪われる怪談」を袋とじにしたりしました。その結果、動画の再生回数が大変高い数字を記録したんですね。そうすると、コンテンツを作っている編集部員も手ごたえを感じて、紙と動画のコラボが面白いことを実感する。それから企画を積極的に考えるようになり、動画の企画スキルも上がっていく良い循環が生まれました。いま編集部員は皆、動画に対してアレルギーはないですし、企画の立案からしっかり考えられるようになったと実感しています。
中村:まさに長さんの狙い通りですね。動画を作ることによる、雑誌の売り上げへの効果は見えてきていますか?
田島:動画単独での売り上げへの影響は分かりづらいですが、通常のプロモーションとの合わせ技で売り上げにつながっている実感はあります。例えば、BRUTUS1000記念号では、動画に力を入れていろいろなプロモーションを行った結果、完売しました。
動画施策を始めて2年弱ですが、記念号に限らず、BRUTUSが完売することが増えていていますし、「この特集ならこれくらい雑誌が売れそう」という予測を上回るケースが多くなっています。
長:雑誌を売るためにマーケティングうんぬんの話もあるのですが、結局、編集部が楽しみ始めたら勝ちということを感じます。BRUTUSが成功したことで、 ananやPOPEYEなど、動画施策に力を入れる雑誌が増えてきました。

ロゴは、雑誌の最重要資産
中村:改めて、BRUTUSやマガジンハウスが作る動画の魅力とは何でしょうか?
田島:これは紙も同じですが、普通の撮り方をしないというか、いろいろなアイデアを出して検討するところから生まれるオリジナリティですね。動画も、手間のかけ方やアイデアの折り込み方が紙と同じレベルでできているので、結果的に紙とクリエイティブのトーンがずれない。さらに、紙の編集者が動画にもちゃんと介在している。動画チームに制作を丸投げするのではなく、動画チームのディレクターと紙の編集者が対等に意見を交わしながら内容を決めていくプロセスを大切にしています。
中村:動画で紙の世界観を担保するという点では、ロゴの価値も見逃せませんよね。
長:おっしゃる通りです。私たちは、ロゴを最重要資産と位置付けています。書店が減ることで雑誌のロゴを見かける機会は大変減っている。すると、生活者の頭の中から雑誌ブランドが消えてしまう。それを防ぐためにも、いま一番人がいるソーシャルプラットフォームにロゴを露出していくことは認知率を上げる点からも大事です。ですから、動画制作では、必ず視認性の高いところにロゴを配置するルールを設けています。
中村:広告主にとっても、ロゴはとても重要だと思います。自社商品をBRUTUSに紹介してもらえていることを分かりやすく伝えるのは、やはりロゴですからね。
いまは誰でも動画を作れる時代になったからこそ、「誰が作って誰が発信するのか」がとても大事ですよね。広告主は貴重な予算を組んで広告を打つわけですから、ブランドの歴史や信頼感があるところには、大きな価値があります。
今回、BRUTUSのお話を伺って、出版社が作る動画の力というものが見えてきた気がします。次回は、マガジンハウスの他の雑誌にも話を広げて、動画の取り組みを伺いたいと思います。
マーケターの時間を“解放”する。生成AIで切り拓く次世代マーケティングの兆し

生成AIの活用が、ビジネスのあり方に大きな変化をもたらしています。クリエイティブ制作やデータ分析など、これまで専門スキルを要していた領域に、生成AIと対話型エージェントが浸透。マーケティング業務においても、スピードと精度を両立した新しいワークスタイルが急速に現実化しつつあります。
こうした中、電通デジタルでは、独自のAIソリューションブランド「∞AI(ムゲンAI)」を展開。バナーや動画広告を誰でも直感的に作成できる「∞AI Ads」や、生成AIのパフォーマンスをさらに高めるためのプラットフォーム「∞AI Marketing Hub」などを通じて、マーケティング全体の変革を加速させる取り組みが進んでいます。
電通デジタル CAIO(Chief AI Officer)兼執行役員の山本覚氏が、最前線で得た知見と事例をもとに、マーケティング変革の現在地と未来を語ります。
※本記事は2025年3月にアイルランドで開催された「AWS AI and Data Conference 2025」で講演した内容をもとに構成しています。
<目次>
▼マーケティングの転換点——生成AIとエージェントが変える業務プロセス
▼∞AI Ads:誰でも扱える、強力なクリエイティブ生成AI
▼1枚の画像から動画を生成・分析する
▼∞AI Chat:本音ベースの深いインサイトを引き出す
▼∞AI Marketing Hub:対話だけで完結するマーケティング分析の最前線
▼マーケターが“創造”に集中できる世界
マーケティングの転換点——生成AIとエージェントが変える業務プロセス
私たちは今、マーケティングにおける大きな転換点に立っています。従来のように、膨大な工数と時間をかけて広告を企画・制作・分析する時代から、AIエージェントと生成AIを活用して短時間かつ高精度に企画・制作・分析する時代へと移行しようとしています。
電通デジタルでは、こうした未来を見据え、AIを活用した独自ソリューションブランド「∞AI」を展開しています。このソリューションは、大きく以下の4つのソリューションで構成されています。
- ∞AI Ads(広告)
- ∞AI Chat(チャット)
- ∞AI Contents(コンテンツ)
- ∞AI Marketing Hub(データ分析基盤)
今回はその中でも、マーケターの仕事に大きな変化をもたらしている「∞AI Ads」と「∞AI Marketing Hub」についてお話しします。

∞AI Ads:誰でも扱える、強力なクリエイティブ生成AI
∞AI Adsは、広告の企画・生成・効果予測・改善提案を一貫して担うAIです。すでに120以上のキャンペーンに導入され、平均150%以上の効果改善を実現してきました。

導入前は、1本の広告バナーを完成させるのに、企画・制作・レビューを含めて数週間かかっていた工程が、AIの導入によって最短5〜10分で高精度な案出しと生成ができるようになります。
近年、私たちが力を入れているのが、AWSの生成AIモデル「Amazon Nova」との連携です。
たとえば、Amazon Novaの画像生成モデル「Amazon Nova Canvas」の機能を活用すると、バナーに映っている人物を入れ替えたり、映っていない部分を付け足したり、背景だけ変更したりと、わずか数クリックで自由自在に画像編集することが可能です。
重要なのは、これらの画像がバイアスなく生成され、多様性にも富んでいるということ。Amazon Nova Canvasを含むAmazon Novaファミリーは「責任あるAI(レスポンシブルAI)」を非常に深く考慮しており、実務でも安心して使用できる品質を担保しています。
1枚の画像から動画を生成・分析する
私たちはAmazon Novaの映像生成モデル「Amazon Nova Reel」を活用し、動画の効果予測と生成にも取り組んでいます。動画をアップロードするだけで、AIがストーリー展開も含めた内容を理解した上で、予測に基づく改善策のサジェストと実際に生成するところまで担ってくれます。
ゴルフダイジェスト・オンライン様の事例では、ゴルフ場予約サイトのブラックフライデー向けバナーに動的背景を合成。プロンプトに「黒い背景とゴールドの光が放射されているイメージ」と入力するだけで、複数のバリエーションが生成されました。さらに、「回転するルーレット」といった動きのある演出も同様の流れで簡単に生成可能です。
この取り組みによって得られた成果は非常に大きく、パフォーマンスは8倍、コストは70%以上削減という結果につながりました。

この生成技術はすでにさまざまなキャンペーンに導入済みです。単純な背景の静止画を動くアニメーションに差し替えたり、夜景の静止画をスローカメラで撮影したような動画に変更したことで、同様に顕著なパフォーマンス改善が見られました。
そして何よりも強調したいのは、こうしたクリエイティブ制作を、もともとデータサイエンティストだった私自身も会議の合間に行っているということです。デザイナーでなくてもマーケター自身がツールを操作し、戦略的なクリエイティブを生み出せる時代が、本当に始まっているのです。
∞AI Chat:本音ベースの深いインサイトを引き出す
∞AI Marketing Hubの話をする前に、少しだけ∞AI Chatの説明をさせてください。広告のパフォーマンスを高めるためには、顧客を深く理解することが不可欠です。その鍵を握るのが、∞AI Chatです。
たとえばゴルフ場予約サイトでは、チャットAIが「ゴルフはどのくらいやったことがありますか?」「練習施設が充実しているほうがいいですか?」などとユーザーに問いかけ、得られたデータを蓄積。それをAIエージェントが自動で分析することで、場所・レベル・日時・金額といった関心の軸、つまりインサイトが自動的に浮かび上がります。こうした会話ベースのデータは、従来のページ閲覧ログよりも遥かに“本音”に近く、「この商品が好きです」とチャット内で語られたひと言のほうが、はるかに信頼できる購買意思の指標になります。
AIエージェントは、こうした分析結果をもとにクリエイティブ改善の具体案も提示してくれます。
たとえば、
「ユーザーはゴルフ場の景色を気にしているので、白い背景を自然の風景に変えましょう」
「人がスイングしているシーンはダイナミックさに欠けるので、ボールが飛んだ瞬間のシーンに変更しましょう」
といったように、データから導かれる実践的なクリエイティブ改善案を次々と提示してくれるのです。
結果として、提案を反映させたバナーはインプレッション2倍以上、クリック数3倍に向上し、ボリュームも質も担保したキャンペーンに改善できました。

∞AI Marketing Hub:対話だけで完結するマーケティング分析の最前線
こうした会話データなどを他のデータと掛け合わせて分析することもマーケターの重要な仕事の一つですが、そのマーケティング分析を飛躍的に進化させるのが∞AI Marketing Hubです。
∞AI Marketing Hubは、∞AIブランドを支える基盤として、企業固有のデータの学習やマーケティング活動に活用可能な各種AIモジュール・データアセットを取り込み、企業のマーケティング活動を支援しています。データの分析や利活用、その後のデジタルマーケティング施策立案に活用しています。
さらに特筆すべきは、自然言語対応型のAIエージェントを統合することで、マーケターの分析プロセス自体を対話化している点にあります。マーケターは分析したいことをチャット形式で尋ねるだけで、最適な分析案の提案と、複雑な分析の実行、分析結果に基づく考察まで自動的に行われる仕組みを整えました。
マーケターが「先週のキャンペーンで、30代女性の反応はどうだった?」と質問すると、AIエージェントはデータ基盤をもとに必要なロジックを自動で構築し、数値とグラフを含むレポートを返してくれます。加えて、その結果に基づいた次のアクション提案まで行ってくれるのです。
外部データと掛け合わせた分析も可能です。たとえば、テレビの視聴データを統合することでテレビ視聴者と非視聴者の違いを4つのセグメントに分けて分析を行い、各セグメントのパフォーマンス分析と、それに対する最適なクリエイティブやチャネル配分がAIエージェントから提案されます。
さらにAIエージェントは、データの追加連携も自動で実行できます。「この結果に外部の天気データを加えてみたい」「SNSでの反応も加味できる?」と問いかけると、外部APIとの連携まで検討し、拡張的なクロスデータ分析も提案してくれます。

あるクライアント企業のキャンペーンでは、「カスタマージャーニーについて知りたいです」と質問すると、「アトリビューション分析やゴールデンパス分析はどうですか?」とAIから提案され、ゴールデンパス分析を実行してもらいました。すると、パスごとの分析結果を瞬時に可視化してくれるだけでなく、「バナーの離脱率がボトルネックになっています」という改善点や、「こんなバナーに変えたらどうでしょう?」というクリエイティブ案まで提示してくれます。もちろん、実際のクリエイティブ生成もAIが担ってくれます。
マーケターが「知りたい」「変えたい」と思ったことをAIに話しかけるだけで、高速かつ高精度なアウトプットが生まれる。そんな時代が、すでに現実になっています。
マーケターが“創造”に集中できる世界
ご紹介してきた一連のプロセスは、すべて1つのAIエージェントで実現可能です。
ですが私たちは今、さらにその先の世界を見据えています。たとえば、∞AIのエージェントとプラットフォーマーのエージェント、その他の国内外ソリューションのエージェントがマルチモーダルに連携することで、マーケターは1人で複数の専門家に同時に相談しているかのような状態を実現できます。

マーケティング施策の立案、広告制作、分析、提案、配信などあらゆるプロセスが「スーパーエージェントに話しかけるだけ」でほぼ完結する未来。マーケターの時間が“解放”されることで、本来もっと力を発揮すべきクリエイティブな仕事、もっといえば「人間の幸せとは何か?」という本質的な命題に向き合うことができるようになるのではないでしょうか。
テクノロジーの進化は、マーケターを縛るものではなく、自由にするものです。より良い未来をつくるために、新しいマーケティングの扉を開きましょう。
∞AIは国内電通グループ独自のAI戦略「AI For Growth 2.0」内の各ソリューションと接続しています。AI For Growth 2.0の詳細はこちらをご覧ください。
AI時代のエンタメビジネスはビッグチャンス!今こそクリエイターは起業すべき
●この記事のポイント
・IVS2025の注目コンテンツのひとつ「IVS Entertainment」は、エンタメ領域とスタートアップの可能性を探る。
・IVS Entertainmentの責任者である中村ひろき氏は、IVSが参加者にとって事業に必要な『武器』を手に入れる場所になるはずだと胸を張る。
7月2~4日に京都で開催される日本最大級のスタートアップカンファレンス「IVS2025」。およそ1万2000人が訪れると見込まれており、スタートアップ企業関係者のみならず、大企業の決済権限を持つ担当者や金融機関、投資家などスタートアップとの連携を模索する人々や、スタートアップに興味を持つ人々も多く集う。特に2023年からは招待制が廃止され、誰でも自由に参加できるようになったことから、参加者が爆増した。
そんなIVSにおいて、特に今年注目されているのは、AI、ディープテック、グローバル、ジャパン、シード、グロースといった先端領域が並ぶ7つのテーマゾーンだ。その中で、ひときわ異彩を放つのが「IVS Entertainment」だ。その責任者を務めるStudio ENTRE株式会社プロデューサーで、一般社団法人スタートアップスタジオ協会共同代表理事の中村ひろき氏に、エンターテインメント領域におけるスタートアップの可能性、そしてIVS Entertainmentが目指す未来について話を聞いた。
目次
- エンタメ領域におけるスタートアップの可能性
- IVSとの出会い…エンタメ×スタートアップの可能性
- IVS Entertainmentが目指すもの:大企業とスタートアップ、そしてクリエイターの融合
- エンタメスタートアップの未来
- IVS Entertainmentの挑戦:クリエイターとビジネスの垣根をなくす
エンタメ領域におけるスタートアップの可能性
中村氏がプロデューサーを務めるStudio ENTREは、エンターテインメントに特化したスタートアップスタジオだ。スタートアップスタジオという言葉は、日本ではまだ馴染みが薄いかもしれないが、中村氏はその普及にも尽力し、スタートアップスタジオ協会の共同代表理事も務めている。
「エンターテインメントの世界で新規事業の立ち上げを続ける中で、エンタメ領域の『スタートアップ』の可能性を強く感じ、起業家と一緒に事業を創り上げていく『スタートアップスタジオ』という形でStudio ENTREを立ち上げました」
中村氏とコンテンツビジネスの出合いは、早稲田大学を卒業した後に新卒で入社したDMM.comでの新規事業立ち上げに遡る。アニメや音楽事業の立ち上げ、IP(知的財産)活用に携わり、その経験が、現在に繋がっているという。
Studio ENTREでは、AIを活用した音楽マネージャーサービスを運営する『Baby jam』や、音楽NFTマーケットプレイス『.mura』といった独自のサービスを輩出し、ライトノベル出版社『BookBase』の経営にも携わるなど、幅広いエンタメ領域で実績を上げている。
IVSとの出会い…エンタメ×スタートアップの可能性
――エンターテインメントと一口に言っても、範囲は広いと思います。中村さんが特に強みとしているのはどのような領域でしょうか。
中村氏 メディアやコンテンツの領域です。最近ではスタートアップ業界の中でもエンターテインメントが注目されるようになり、コンテンツに投資が集まりスタートアップが生まれやすい環境になってきました。Studio ENTREを立ち上げた当初は、エンタメで投資を募るのが難しい面もありましたが、現在は環境が大きく変わったと感じます。
――IVSと関わるようになったきっかけを教えてください。
中村氏 2023年に京都でIVSが開催された時に、「IVS Sandbox」という企画を持ち込んだのが始まりです。スタートアップスタジオを運営する上で、常にこれから起業しようとする個人との出会いを求めています。IVSという濃密な空間であれば、そういった人々が集まり、多くの面白いプロジェクトが立ち上がるのではないか、という思いから企画を持ち込みました。今年も、エンタメエリアのチーフディレクターを務めつつ、「IVS Sandbox」も継続しています。
IVSに「エンターテインメント」という専門エリアが設けられること自体、数年前には考えられませんでした。ディープテックやAIといった注目度の高い分野と並んでエンターテインメントが配置されることは、とても光栄だと感じています。
――ご自身は、エンターテインメントとスタートアップの組み合わせに、どのような面白さや可能性を感じていますか。
中村氏 私はStudio ENTREを2020年から運営していますが、当初よりエンタメ領域でスタートアップを始めやすくなっていると感じています。日本のコンテンツ産業はスタートアップに限らず、非常に規模が大きく、国全体で大きくしていく意識があります。また、最新技術が最初に取り込まれるのがエンタメだと言われることも多く、そこがスタートアップがエンタメに挑戦することの相性の良さにも繋がっているのだと思います。
――日本のエンタメコンテンツは海外での人気も高いので、グローバル展開しやすい側面はありますか。
中村氏 日本のエンタメはすでに海外で受け入れられている領域なので、スタートアップにも大きな可能性があります。大きなIPの方が海外展開が進むことが多いですが、VTuberのようにスタートアップ業界から世界中に広がるエンタメも増えており、今後も新しいエンタメが生まれ続けていくはずです。
日本国内では既に多くの人々がエンタメを楽しんでいるため、市場の急拡大は起きづらいかもしれません。しかし、地球規模で見た時には、経済発展とともにエンターテインメントを楽しむ人々は増えており、日本発のグローバルエンタメスタートアップも大いに期待できると思います。
IVS Entertainmentが目指すもの:大企業とスタートアップ、そしてクリエイターの融合
今年のIVSでは、AI、エンターテインメント、ディープテック、グローバル、ジャパン、シード、Growthという7つのテーマゾーンが設置される。各テーマに沿った革新的なスタートアップと投資家との出会いを促進するのが目的だ。
そのなかで「IVS Entertainment」エリアでは、アニメ、ゲーム、漫画、音楽、体験、映画、アートといった日本の豊かなエンタメコンテンツに焦点を当て、『Go Global』『IP経営』『Creative Founder(起業家自身)』という三本柱をセッションテーマに掲げ、世界を熱狂させるエンタメビジネスの最新トレンドを深掘りする。
IVS Entertainmentが主な対象者としているのは、以下のとおり。
・エンタメ領域で更なる大きな市場に出ていこうとしているスタートアップ経営者
・エンタメ領域でスタートアップ起業を志す起業家候補
・エンタメ領域でスタートアップとの連携を模索している事業会社
・エンタメ領域の最新分野にて投資先を探索しているVC・CVC
IVS Entertainmentエリアのチーフディレクターとして、中村氏が特に注力しているのは、エンターテインメント業界の「特殊性」を活かすことだという。
「エンターテインメント領域は、これまで業界を支えてきた大企業の存在感が非常に大きいのが特徴です。ITなどの歴史が浅くダイナミックな市場とは異なります。大企業が行っている先進的な取り組みとスタートアップの機動的な動きをどちらも知ることができ、良いシナジーが生まれるエリアにしたいと考えています」
エンタメ分野へのスタートアップ投資は拡大傾向にあり、投資家の関心も高まっている 。その背景には、IPという分かりやすい資産の、金融との相性の良さや、タレントやインフルエンサーといったクリエイターによるビジネス進出などのトレンドがある。
IVS Entertainmentでは、これらのトレンドを「Go Global」「IP経営」「Creative Founder」の三本柱としてセッションテーマに掲げ、議論を深めていく。
エンタメスタートアップの未来
――エンタメ業界では、育ったスタートアップが大企業に吸収されるケースも散見されます。今後、スタートアップがIPO(新規上場)を果たしたり、M&Aで買収する側に回るほど成長する余地はあると考えられますか。
中村氏 十分にあり得ます。エンタメ企業はIPという分かりやすい資産を持つため会社の価値がわかりやすいです。エンタメスタートアップはそのIP、コンテンツを作り続ける仕組みを築くことが重要です。その仕組みを持った会社は、今後も大きく成長していく可能性が高いと考えています。VTubeのように、新しいコンテンツを継続的に生み出す仕組みを構築することが、エンタメスタートアップが企業価値を高める上での鍵になるでしょう。
――そのなかで特に注目している分野はありますか。
中村氏 これまでIPが注目されながらも、スタートアップ投資という点ではリスクが高くなかなか手出しされなかった部分があります。しかし、AIをIP開発に活用する時代が来たことで、高いコンテンツ制作ノウハウを持つスタジオが、クオリティを落とさずにAIで効率を上げる『スタートアップ化』の流れがこれがこれから一気に広がっていくとみています。
――IVSに初めて参加する方にメッセージをお願いします。
中村氏 年に一度、スタートアップに関わるほとんどの人が集まるお祭りです。初めてIVSに参加する方、これから起業を考えている方にとっては、まずは会場の空気を吸うだけでも刺激になると思います。自分の事業をスケールさせたい、このチャンスをものにしたいと考えている方は、会いたい人がどこに登壇するのかを狙い定め、名刺交換したい人をリストアップするくらいの目的意識を持って来場することをお勧めします。IVSは、自分の事業に必要な『武器』を手に入れる場所になるはずです。
――中村さんは、今後のエンタメ業界がどのように発展してほしいと考えていますか。また、どのようなビジョンを描いていますか。
中村氏 「クリエイターが思う存分創作活動に没頭でき、それが最大限に求める人に届き、熱狂がよりたくさん生まれる世界」を実現したいです。生成AIやブロックチェーンといったテクノロジーの発展により、クリエイターが作ったものが純粋に求めている人の手にまっすぐ届き、お金が動くような世界観が、もうすぐそこに来ていると感じています。クリエイターもファンも皆が幸せに生きていけるようなサービスをどんどん作っていきたいです。
クリエイター自身がスタートアップの社長となり、自ら資金調達し、作品を作り、届けたい人に届けていく世界がもっと広がると思います。プラットフォームに依存するのではなく、クリエイターとファンがダイレクトに繋がっていく関係性が広がっていくのではないでしょうか。
IVS Entertainmentの挑戦:クリエイターとビジネスの垣根をなくす
――IVS Entertainmentは、未来のエンターテインメントにどのように寄与していくのでしょうか。
中村氏 クリエイターがビジネスの世界に踏み出すハードルをなくしたいと思います。IVSはスタートアップ業界のイベントとして始まったため、正直まだクリエイターの参加は少ないのが現状です。エンターテインメントを“ど真ん中”で作っている人たちからすると、投資や金融の話は縁遠いと感じるかもしれませんが、IVS Entertainmentエリアでは、そうした垣根をなくし、エンタメビジネスに関わる全ての方に気軽にIVSに来てもらえるような場にしたいと考えています。スタートアップ起業家もクリエイターも、エンタメに関わる多様な人々が混ざり合うことが、IVS Entertainmentが目指すべき姿です。
――最後に、中村さん自身が、今年のIVSにどんなことを期待していますか。
中村氏 エンタメ×スタートアップに関わる方がたくさん集まるイベントになるでしょう。他のスタートアップの事業から着想を得たり、自分の事業をブーストさせるために大企業の投資部門の担当者と商談をしたり。IVSは、次に描きたい自身の事業の未来に必要な“武器”を手に入れるために、ぜひ来てほしい場所です。
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中村氏がビジョンとして掲げた「クリエイターが思う存分、創作活動に没頭でき、それが最大限に求める人に届き、熱狂がよりたくさん生まれる世界」を実現させるため、IVS Entertainmentは日本のエンタメの未来を担う新たな才能とビジネスが交差する、熱気に満ちた場となるに違いない。
(構成=UNICORN JOURNAL編集部)
東京都、STEM分野で活躍する女性を増やす施策を推進…女子中高生向け職場体験オフィスツアーの狙い
●この記事のポイント
・東京都、都内在学・在住の女子中高生を対象にSTEM分野の職場を体験するオフィスツアーを実施
・メルカリ創業者の山田進太郎CEOが設立した公益財団法人「山田進太郎D&I財団」と今年1月に連携協定を締結し、職場体験オフィスツアーを共催
・参加者数は22年度80名、23年度218名、24年度546名と順調に増えつつある
OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本の女性の15歳時点の科学・数学のリテラシーはOECD平均を上回っている。だが日本では、STEM分野で大学卒業生に占める女性比率が17.5%にすぎず、OECD38カ国のなかで最下位となっている。東京都生活文化スポーツ局が高校生を対象に調査したところ、男女の39.4%が「性別で教科の得意・不得意があると思う」と回答した。「理系科目は男性のほうが得意だと思う」は、男性19.6%、女性33.2%。「文系科目は女性のほうが得意だと思う」は、男性22.1%、女性34.6%だった。
●目次
文理の選択前にSTEM分野の仕事に触れる機会を提供
上記の現状について、6月11日に開かれた記者会見で松本明子東京都副知事は要因に言及した。
「日本の女子学生の理科や数学の学力は世界でもトップレベルだが、社会に出てからSTEM分野で活躍する日本人女性はまだまだ少ない。その要因は2つあると考えている。ひとつは今の女子学生にとってロールモデルが少ないこと。もうひとつは、女子学生は理系の科目が苦手という固定観念がいろいろなところにはびこっており、進路選択の幅を狭めていると思われることである」
打開策として東京都は、大学進学における文理の選択前にSTEM分野の仕事に触れる機会を提供して、興味を高めることが重要と考えた。そして2022年から、都内在学・在住の女子中高生を対象にSTEM分野の職場を体験するオフィスツアーを実施して、STEM分野で働く女性社員との交流や、仕事を体験する機会を提供している。
STEMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の4つの学問の総称である。参画企業は22年度にわずか1社だったが、23年度に5社、24年度に12社と徐々に増えた。メルカリ創業者の山田進太郎CEOが設立した公益財団法人「山田進太郎D&I財団」と今年1月に連携協定を結び、25年度は本取り組みを共催。同財団が2024年から実施する中高生女子向けツアーの取り組みと合流し、同財団が参画企業の募集を担ったことで、参画企業は一気に増えた。25年度はすでに60社近くに達したという。
山田氏はオフィスツアーの狙いをこう語った。
「将来の進路を選ぶ前にいろいろな仕事を知って、自分の好きや興味を育むキッカケとなる場をめざしている。今後は東京都で実現した自治体との協力モデルを第一号として全国にも広げ、より多くの中高生女子にSTEM領域の仕事に触れる機会を届けていきたい」
25年度は約2000名の参加者数を目標に
これまでの参画企業は、フェイスブックジャパン、マイクロソフト、SCSK、NTTデータ、富士通、メルカリ、ファーストリテイリング、サイバーエージェント、グーグル、コニカミノルタ、NEC、デロイトトーマツ、コクヨなど。参加者数は、22年度80名(応募倍率7.5倍)、23年度218名(9.1倍)、24年度546名(13.5倍)と順調に増えつつある。
25年度は約2000名の参加者数を目標に据えている。松本氏は「オフィスツアーは参画企業が増えており、この課題への問題意識が高まっている」と手応えを実感している。参加者アンケートによると「STEM分野で働きたい」がオフィスツアー参加によって、参加前の30.4%から85.2%へと約55ポイントアップした。ツアー3カ月後に実施したアンケートには「進路のコース選択に迷っていたが、理系の進路に決めた」「文系でもITのためにできる仕事があることがわかり、職業選択の幅が広がった」「将来の選択肢にデジタル関係の職業を考え始めた」などの受け止めが報告されている。
小池知事と参加学生の質疑応答
さらに、この会見当日には、東京都の外郭団体で都と都内市区町村のデジタル化を担う一般財団法人GovTech東京(東京都新宿区)のオフィスツアーが実施された。参加したのは品川女子学院高等部の23名。小池百合子東京都知事に質問する機会も設けられ、3名が質問した。以下は質疑応答の要旨である。
参加学生 大学受験を見据えたときに「やりたい」「なりたい」よりも、今「できる」「できない」に目が向いてしまう。私は文系を選んだが、それは数学や理科が苦手だからだ。しかし、やりたいことは理系分野を応用したジェンダー政策で、自分の文理選択が正しかったかを後悔している。どのように行動すれば自分の選択を後悔せずに済むのか教えてほしい。
小池知事 悩むことは自分を考える良い機会になっていると思う。文系、理系とはっきり決めてしまうのは日本の空気だと思うが、生活の中で数学的な思考が必要だったり、日記を書くときの文学的な表現だったり、いろいろと交差してこそ価値があると思う。今の世の中はそれぞれが響き合って答えを出すことが多いので、これからもしっかりと悩みながら幅広く勉強してほしいと思う。大学生活の後も残るのは自分の好きなことなので、好きなことを極めればよいのではないか。
参加学生 女性が管理職に就くことは少ないとよく耳にするが、小池さんは女性の社会進出をどのように考えているのか聞かせてほしい。
小池知事 高校・大学までの成績はだいたい男子よりも女子のほうが良いが、社会に出ると逆転現象が始まるという時代が長く続いてきた。しかし社会で、女性が培った学びを活かさない手はない。日本の社会はゲームチェンジが欲しいが、ゲームチェンジを担うのは女性で、女性の力を活かさない企業は生き残れないと思う。できることから始めることだが、まず都としてできることは、都庁で女性管理職を増やして、これまでとは違う見方を都政に取り入れて都政をリッチにすることだ。
参加学生 小池知事が学生時代にやって良かったと思うことは何か。
小池知事 クラブ活動でESSに入り、英語劇にチャレンジしていた。自分で脚本を書いたり、舞台の設えをやったりしたことを今でもよく覚えている。自分の好きなことを思い切りやれば、失敗も良い思い出になって糧になっている。この前、AIに「日本はどうなるか?」と聞いてみたら「22世紀には120歳まで元気で死ねない」と。皆さんの人生はあと100年以上あるので、周りを気にせず今だからやりたいことに思い切りチャレンジしてほしい。チャレンジしただけ糧になると思ってほしい。
山田進太郎D&I財団は、中高生女子の理系選択を支援するツアーを25年度は112企業・機関、32大学、8高専で実施する。文部科学省が発表した「学校基本調査」データを元に同財団が実施した調査によると、大学入学者のうちSTEM(理工学部)の女性比率は21年度に17.90%、24年度に20.65%だった。同財団はこの比率を35年度に28%に引き上げることを目標に据えている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

