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ユニクロやニトリがライブコマースに注力する理由は売上増だけではなかった…意外かつ絶大な効果
●この記事のポイント
・インターネット上でライブ配信を行い、ECや店舗での売上増につなげるライブコマースが活性化
・UNIQLO LIVE STATIONの2024年の年間視聴者数は約1500万人に増加
・ニトリLIVEは配信1回あたりの平均視聴者数が約2万人
インターネット上でライブ配信を行い、ECや店舗での売上増につなげるライブコマースが活性化している。手掛ける大手企業も増えており、例えばユニクロは2020年から「UNIQLO LIVE STATION」を開始。ニトリは22年から「ニトリLIVE」を、楽天グループは21年から「楽天市場ショッピングチャンネル」を運営している。店舗スタッフが出演して店舗から配信したり、社内部署の社員が出演したりと企画内容や形態はさまざまだが、ニトリLIVEは配信1回あたりの平均視聴者数が約2万人にも上り、売上増に一定の効果が出ているという。多くの企業が今、ライブコマースに注力している背景・狙いは何か。また、ライブコマースによって、どのような効果が生じているのか。手掛けている企業への取材をもとに追ってみたい。
●目次
スタッフの接客の質やモチベーションの向上も
ライブコマースは2010年代後半頃から中国で市場が拡大したとされ、日本でもメルカリなどが開始(メルカリはすでに終了)。日本で一気に広がる契機になったのが、コロナ禍によるリアル店舗の来客数減とEC利用の増大であり、参入する企業が相次いだ。ライブコマースで配信される内容はさまざまで、自社商品の紹介に限らず、部署や社員の取り組みにクローズアップしたり、会社の秘密を明かしたりと、直接的なEC売上アップだけではなくブランドのファンを増やしたり、店舗への来店のきっかけづくりが目的となっているケースも多い。
毎週金曜日夜に「UNIQLO LIVE STATION」を配信しているユニクロのLIVE STATIONチームのリーダー、清水氏はいう。
「弊社がUNIQLO LIVE STATIONを開始したのは20年12月ですが、当初はコロナ禍の真っただなかで店舗に行くことが難しく、家にいながら知りたい情報を得てお買い物ができるという新しい購買体験をご提供するという目的で、スタートさせていただきました。動画コンテンツが“見られるメディア”になってきていたこともあり、タイミングとしては合っていたかなと思っております。現在は消費者との双方向のコミュニケーションが重要になっており、我々から一方的に情報を発信するのではなくて、ライブ配信中にお客様からいただくコメントや質問に対して、その場で答えて納得していただき、ファンになっていただくということを重視しています」
UNIQLO LIVE STATIONの2024年の年間視聴者数は約1500万人であり、23年の約1000万人から大幅に増加している。24年の夏からはTikTokやYouTubeなどでも配信するといった取り組みの効果が出ているという。
UNIQLO LIVE STATIONが売上に与えた影響に関する数値は公表されていないが、同社の24年9月~25年2月の国内ユニクロ事業におけるEC売上高は前年同期比10.9%増と伸びている。ライブコマース実施によって、どのような効果が出ているのか。
「私どもはお客様からの声をもとに商品を開発しておりますが、UNIQLO LIVE STATIONに携わるスタッフがお客様のお悩みを解決するような企画を考えたり、商品をつくっている部署にヒアリングしながら新しい企画を考えたりするなかで、いろいろな部署の人と接することによって自身の商品知識を増やしたり、出演する販売スタッフも知識が増えることで、接客の質やモチベーションを向上させることができるという点は良い効果だと考えております。
先ほどもお伝えさせていただきましたとおり、UNIQLO LIVE STATIONではお客様との双方向のコミュニケーションを重視しているため、台本などの事前準備をしつつも、その場で臨機応変に対応していくことで、お客様の声をもとに予定と実際の配信内容が変わることも珍しくないですが、結果的にお客様のご要望にできるだけお答えすることでご満足いただいている部分はあると考えております。
ユニクロという会社や商品の紹介だけで終わるのではなく、お客様のリアルな反応を見つつベストな内容は何なのかを模索し、視聴者の方々が動画を見て“ほっこり”した気分になっていただけるように、もしくは『ユニクロがつくっている番組って、なんか楽しいよね』『配信が楽しみ』と感じていただけるようにチャレンジしていきたいと考えております」
商品開発やECサイトの改善にも利用
ニトリは「ニトリLIVE」を手掛けており、今年の視聴者数は前年比約1.5倍で推移し、視聴者数は延べ900万人以上に上っているという。ニトリはいう。
「ECサイトでも、店舗同様の接客を受けられるようにしたい、という想いからライブコマースを導入いたしました。お客様にわかりやすく伝えるべく、商品の説明を実演形式で行い、お買い物がさらに便利になるよう日々工夫しております。リアルタイムでいただくコメントを、貴重なご意見として商品開発やECサイトの改善にも利用させていただいております」
ニトリも配信時には視聴者とのコミュニケーションを重要視しているという。
「コメントに寄せられた疑問の解消に加え、お客様への問いかけを行い会話をしていくことを心がけています。また、配信した内容は店舗での販促や接客動画、国内外のSNSで二次利用をしております」(ニトリ)
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)
自社保有データをデータクリーンルームと連携すると、何ができる?
自社で多くの「ファーストパーティデータ」を保有しているものの、うまく活用できていない──そんな課題を持つ企業は少なくありません。
本記事では、データクリーンルームを利用して自社保有データに価値を見いだし、新たなデータビジネスを創出するPoC(概念実証)事例を紹介します。
PoCに参加したのは、商品比較サイト「マイベスト」を運営する株式会社マイベスト。同社のユーザーの行動データを、LINEヤフーと電通の共同分析プロジェクト「HAKONIWA」と連動させて、商品購買に寄与する取り組みを行いました。
HAKONIWA
2019年に電通、電通デジタル、旧ヤフー社で発足した、共同データ分析プロジェクト。電通連携のデータ、LINEヤフー保有のデータ、クライアント保有のデータをセキュアな環境で連携させ、Yahoo! JAPAN IDを基軸として分析ができる。
PoCおよび今後のデータ活用の展望について、マイベストの土橋崇之氏、内藤純氏をゲストに招き、電通の福田真大氏、馬容容氏、電通デジタルの坂戸美輝氏らが語り合います。
※本稿で紹介する事例は、すべて個人を特定できない形でデータを分析・活用しており、ユーザーのプライバシー保護を最優先に設計されています。
<目次>
▼「比較検討層」の膨大な行動データを活用したい
▼自社商品に興味のある層に広告を配信し、購買につながったかを検証
▼HAKONIWAで競合分析から1to1マーケティングまで一括管理!
「比較検討層」の膨大な行動データを活用したい
──はじめに自己紹介と、本プロジェクトでの役割を教えてください。
福田:電通データ・テクノロジーセンター(以下、DTC)で、ファーストパーティデータ活用を推進している「JDGA(Joint Data Growth Accelerator)」のリーダーを務めています。
JDGAは、電通のアセットやネットワークを使い、企業が自社で保有するデータを活用してビジネスを生み出すサポートをするチームです。今回のPoCでは、HAKONIWAのデータ分析チームのリーダーとして携わりました。
馬:同じくDTCに所属し、JDGAのメンバーを務めております。今回はマイベストさんからのご相談を受け、PoCのプロジェクトマネージャーを務めました。
坂戸:電通デジタルのプラットフォーム部門に所属し、LINEヤフー社を担当しています。基本的には広告商品の推進がメインで、さらにコマース施策、データ活用の推進に取り組んでいます。その中にHAKONIWAというプロジェクトもあり、今回のPoCに参加しました。
土橋:マイベストは主にtoC向けのサービスを展開しているのですが、私は執行役員として、主にtoB部門の統括をして、収益全般を担当しています。ビジネスモデルとしては成果報酬型モデルと広告になります。事業全体の戦略を考えたり、当社のデータを活用してクライアントのマーケティング支援を行ったりしています。
内藤:マイベストのデータサイエンスチームのマネージャーを務めています。私たちのチームでは、サイトや広告のABテストや効果検証など、いわゆるデータ周りのことを一通り担当しています。さらにマイベストユーザーの行動データについても、現在データ基盤を整えています。
──マイベストのサービス概要を教えてください。
土橋:私たちの運営している「マイベスト」は、サービス開始から8年目の商品比較サイトです。単なる口コミによる商品ランキングを掲載するのではなく、さまざまな商品カテゴリーの専門家を交えて、自社で商品を検証・調査し、定期的に最新のランキングや比較情報を発信しています。その中でどこにもないオリジナルなデータを蓄積してきました。
マイベストの月間ユニークユーザー数は3000万人以上に上り、日本人の4人に1人が利用するサービスになっています。
──マイベストではどのようなファーストパーティデータを保有していますか?
土橋:大きく2つあり、商品の検証や調査を通して蓄積したデータと、月間3000万ユーザーのサイト内での行動データです。サイトには多種多様な商品が掲載されているので、家電からコスメまで、カテゴリーを横断した行動データがあります。加えて、マイベストは会員登録もできるので、各会員のデータも保有しています。会員登録により蓄積されるデータは、ユーザーの許諾範囲内で活用されており、分析の際には必ず個人が特定できない形で統計処理を行っています。
マーケティング観点では、マイベストは「認知層」より深い階層の、「比較検討層」というミドルファネルに位置づけられると思っています。実際、多くの企業が、自社商品のミドルファネルへの落とし込みに課題を感じています。
内藤:ユーザーの行動データや商品の検証データは当社にとってコアなもので、かつ独自のユニークなものです。ただし、取得できるデータは膨大で扱い方が難しく、まだまだ使いこなせていないのが現状です。
自社商品に興味のある層に広告を配信し、購買につながったかを検証
──PoCの概要を教えてください。
馬:マイベストでは、比較検討層は特定できているものの、サイトを見た後の購買行動をトラッキングするのが難しいという課題がありました。マイベストを見たことによる「その後の購買寄与」まで可視化できれば、マイベストがユーザーの購買を後押しできることを示せます。
そこで今回は、購買データと多種多様なアフィニティ(ユーザーが何を好むのかといった特徴)データを保有しているHAKONIWAを活用することで、「マイベストで商品を比較検討したユーザーのアフィニティ」を抽出。そのアフィニティを持つ人に対してアプローチすることで、その後の購買寄与を可視化する、マイベスト×HAKONIWAの分析・配信パッケージを構築しました。
坂戸:PoCでは、電通ジャパン・インターナショナルブランズの大沼桃佳氏主導のもと、グローバル消費財メーカーにご協力いただきました。クライアントの自社商品の購買リフトを目標として、「マイベストで競合商品を見ている人」に広告を配信し、実際に購入につながるかを検証しました。
馬:より具体的には、マイベストにおける「自社商品検討層」と「競合製品検討層」との特徴(アフィニティ)の違いを、HAKONIWAのデータをかけ合わせた分析により明らかにしました。そうしてユーザーをセグメント化し、競合製品検討層に多い特徴値を持つ人にLINEヤフーの広告を配信。実際に購買につながったかどうかを可視化したのです。
坂戸:HAKONIWAは、LINEヤフーが持っているさまざまなデータを分析に使用できます。例えばですが、「検索」「興味関心」はもちろん、Yahoo!ショッピングでの「購買」データなどもユーザーIDにひもづけて、ユーザーの特性を明らかにできます。そこに今回、マイベストの保有するユーザー行動データをかけ合わせることで、より解像度を上げることができました。
内藤:HAKONIWAを用いれば、マイベストのサイト上で特定商品を閲覧したユーザーが、その後Yahoo!ショッピングで購入に至ったかを、個人を特定せずに統計的に分析することができます。マイベストは、LINEヤフーグループの一社なので、HAKONIWAとの連携はスムーズにできました。
──どういう行動をした人を、競合商品検討層と定義したのでしょうか?
坂戸:マイベストには、商品カテゴリー以外にも、商品詳細のページや検索窓もあります。そこで競合商品を見ているユーザーや、競合商品をワード検索しているユーザーのデータをもとに、「自社商品検討セグメント」と「競合商品検討セグメント」を作りました。
──PoCでは「競合商品を調べているユーザー」に広告配信をしたのですか?
坂戸:そうですね。厳密に言うとセグメントごとに、どのような興味関心を持っているのか、特に高いものを一覧化して、含有率を調べました。その結果、競合商品を見ている人は、例えば「グルメ」や「金融」などの含有率が高いことが分かりました。
──広告を配信した結果、購買リフトの変化はどのように把握したのでしょうか?
坂戸:HAKONIWAでは、広告接触のデータも入ってくるので、今回のセグメントの中で広告に接触した人・そうでない人、それぞれのYahoo!ショッピングにおける最終的な購買率を算出できます。その結果、マイベストデータを活用した広告配信を行ったユーザーにおいて、「購買」の非常に高いリフト値を示しました。

──ファーストパーティデータをHAKONIWAと連結することで、購買リフトが高まることがよく分かりました。こうしたデータ活用において、ファーストパーティデータを持つ企業、この場合マイベストには、どういう利益がありますか?
福田:いくつかありますが、まずマイベストさんへの広告出稿ニーズが生まれます。そのことにより、マイベスト内でのユーザーの回遊行動が増えます。また、直接の広告出稿だけでなく、クライアントにデータを提供して、データの利用料が得られるといったことも考えられます。競合のユーザー分析を希望される企業は非常に多いですから。
──今回の取り組みで苦労された点や、興味深かった点は?
土橋:外部にユーザーの行動データを提供するのは新しい試みだったのですが、やはり契約まわりは非常に慎重に、かつ入念に進めました。また、クライアント選定にも時間をかけましたね。
今回のPoCを行って、商品を購入したユーザーがマイベストに接触したかどうかといったことや、購買リフト値が把握できたことは収穫でした。実はマイベストでは、モニターの方のデータや、商品を検証した数値など、「ウェブ上にアップしていないデータ」も大量に保有しています。
当社内では、内藤をはじめとするデータサイエンスチームによりデータ基盤が整理されて、ユーザーの行動データと、「ウェブ上にアップしていないデータ」を一元管理できるようになりつつあるので、今後はデータ活用の施策にさらに積極的に取り組んでいきたいです。
内藤:現在は私たちがひたすらデータ管理の整備を進めています。私から見ても、興味深いユニークなデータが膨大にあるのに、現在はまだまだ活用しきれていない側面もあります。それだけビジネスとしてのポテンシャルがあるということだと思います。
土橋:先ほど福田さんからも少しお話がありましたが、当社の保有データを活用したいというクライアントはすでにおられます。そこで、クライアントが自分たちの手元でデータを見られるように、いま内藤のチームでダッシュボードを作っています。
これは、PCのIDやURLを入れると、どういう方が見ているのかデータが出てくるというものです。あくまでも訪問傾向などの「集計情報」のみが確認できる仕組みで、ユーザー個人を特定する情報や個別履歴はもちろん含まれていません。今後は企業のマーケターの要望に合わせて、さまざまなデータが分かりやすく見られるように取り組んでいます。
──ファーストパーティデータの活用に当たっては、プライバシーポリシーの設定も重要になってくると思います。どういった点に気を配られていますか?
土橋:マイベストでは、ユーザーの信頼を最も大切にし、以下のような方針にのっとってデータ活用を行っています。
- 個人情報やIDが特定されるような利用は一切行わない
- すべての分析は匿名・集計ベースで行う
- データ連携は法令・契約・セキュリティを順守した環境で実施
- ユーザーに還元される形での活用を重視
今後も透明性を重視し、安心して利用できるサービスの構築に努めていきます。
HAKONIWAで競合分析から1to1マーケティングまで一括管理!
──JDGAとして、ファーストパーティデータを今後どのように活用していきたいですか?
馬:今回は施策の出口であるYahoo!広告に合わせて、HAKONIWAをファーストパーティデータ活用の場として選びましたが、今後はもっとさまざまな出口に対応できるように連携を進めていきます。
また、マイベストさんが保有する比較検討データは広告領域以外でも活用の広がりがあると考えています。そこで、リテールや販促、いろいろなプロダクト開発にも生かしていただけるようなソリューションを開発していきたいです。
──マイベストから見てHAKONIWAというプラットフォームの魅力は?
土橋:マイベストのデータ蓄積とHAKONIWAの連携は、より立体的なデータを描き出すことを可能にします。HAKONIWAを新たな価値創出の起点と位置づけ、多様なデータをつなぐハブとして活用していく考えです。
福田:電通グループにはさまざまなデータの専門家がいて、単純に分析をするメンバーもいれば、効率よくデータを活用する方法や、活用後にどのような検証ができるかを考えるメンバーもいます。マイベストさんや、他のクライアント企業の、さまざまなご要望にお応えできると考えています。
馬:電通グループは、多種多様なクライアントと向き合っているので、クライアントのニーズの集約もある程度できているのも大きな強みです。そのリアルなニーズを加味して、マイベストさんのような企業と新しいビジネスを生み出していけると思います。
土橋:私どももマーケターとしての視点から検討を重ねております。その上で、幅広い業界の知見をお持ちの電通さんからいただくご助言は大変参考になります。
──今後のユーザーデータ活用について展望をお聞かせください。
内藤:マイベストは月間3000万人のユーザーが使っていて、膨大なデータを分析できます。例えば、最近では温暖化の影響もあってか、花粉症のピークが例年より2週間ほどずれていることが分かりました。それによって商品の購入ピークもずれるわけです。活用の仕方次第では、経済予測などにも活用できるかもしれません。
坂戸:HAKONIWAには、LINEヤフーが持っている膨大なデータがあります。それも単にIDが多いだけではなくて、LINEヤフーの幅広いサービスを反映して、さまざまなユーザーの属性や行動が分かるのが強みです。そこにクライアントが持っているファーストパーティデータやユーザーIDを接続することで、よりユーザーの解像度が上がり、それによってアウトプットの質も上がります。
将来的にLINEのデータもHAKONIWAに接続できるようになれば、企業のLINE公式アカウントの友だちのデータともひもづけられて、1to1マーケティングが加速していくのではないでしょうか。
──ファーストパーティデータとHAKONIWAのかけ合わせで、これまでできなかったことがどんどん可能になっていきそうですね。本日はありがとうございました。
小規模言語モデル「SLM」への需要が高まり…巨大化するLLMの課題と限界
●この記事のポイント
・SLM(小規模言語モデル)へのニーズが高まりつつあり、開発が活発化
・大規模なLLMが抱える、レイテンシー、コスト、ネット接続に関する課題
・個々のユーザー向けの限定したサービスを提供するには小規模言語モデルが必要
米OpenAIが11日、新AIモデル「o3-pro」の提供を開始し、従来モデルの「o1-pro」「o3」よりも高い性能を発揮する点が注目されている。多くの有力テック企業がより高性能なLLM(大規模言語モデル)の開発にしのぎを削るなか、SLM(小規模言語モデル)へのニーズが高まりつつあるという。米グーグルや米IBMなどSLMをリリースする企業も増え、開発が活発化しつつあるが、背景には何があるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
●目次
小規模な言語モデルをローカルで使いたいというニーズ
米国のテック企業に加えて、DeepSeekやアリババ(Qwen)など中国勢の台頭も目覚ましいLLMの世界では、数千億~数兆個のパラメーターを擁する高性能なLLMの開発が進められている。だが、高負荷の処理のためにサーバーが大量の電力消費を必要としたり、レスポンス速度が遅くなったり、利用コストが高額になるといったデメリットも課題となっている。こうした課題を解消する言語モデルとしてにわかに注目されつつあるのが、SLMだ。
現在、SLMの開発や利用は増えているのか。AI開発者で東京大学生産技術研究所特任教授の三宅陽一郎氏はいう。
「少しずつですが増加していると思います。小規模言語モデルのパラメーター数など規模に関する明確な基準はありませんが、LLMほど高い性能は求めず規模が小さいほど助かるという事業者は少なくありません。幅広い産業において小規模なLLMへの需要があります。
背景としては、大規模なLLMは必ずしも使い勝手が良いわけではないということがあります。LLMはデータセンターのサーバー内に置かれて、ユーザーはそこにインターネット経由でトークンを投げて答えが返ってくるという仕組みですが、ネット接続ができなくなれば利用できません。また、レイテンシーの問題もあります。レスポンスが返ってくるまでに遅延が生じますし、レスポンスの速度が速かったり遅かったりと一定しないと、サービス提供側ははサービスのクオリティを維持するために工夫を強いられます。
コストの問題もあり、LLMを通じてサービスを提供する側は利用頻度に応じてLLMの提供事業者にお金を払う必要があります。利用頻度はサービスを開始するまで完全には読み切れませんし、日によって異なることもあり、急激な増加には急激なコストが発生します。こうした点を踏まえると、LLMを使ってサービスを提供する事業者としてはビジネスモデルをつくるのに懸念があり、ビジネスレベルではある程度の余裕のある予算組みとサービス側で工夫を行うことが必要になっています。とはいえLLMの隆盛期にはLLMをラップした(内部に内蔵した)サービスの誕生と成長期でもあり、多数のサービスが乱立しました。その勢いが一段落した今、よりよい仕組みを求める時期に来たということもあります。
そこで、小規模な言語モデルをネットを介さずにローカルで使いたい、自社のサーバーでコントールしたい、レイテンシーもあまり多く発生せずに使いたい、というニーズが増えています。例えば空港が施設内のサーバー内で言語モデルを動かしたり、お店やそのデパートに特化した言語モデルを使いたい、といったニーズです。よりユーザーに近いエッジ側に小規模な言語モデルを置いて高速に使いたいと考える事業者は多いのです。さらにエッジ側とサーバー側を併用できれば、反射的な会話はローカルで、より本質的な議論はリモートで行うことも可能です。
そもそも、あらゆるケースで言語モデルに何もかも答えてもらう必要があるわけではありません。例えば東京・渋谷の道案内を提供するサービスがあったとして、そこで使われる言語モデルは、渋谷に関する地理的な知識だけが求められるわけで、政治や地球温暖化や相対性理論に関する知識はいらないわけです。本来は大規模な言語モデルは必要ないのに、多額の利用料を払ってその言語モデルのほんの一部のみを使うということは避けたいでしょう。大規模言語モデルを独自にカスタマイズするのは少し苦労が多いですので、はじめから小さく限定したモデルを用意したいということで、SLMへのニーズが高まっていると考えられます」
LLM、性能的にはもう十分といえるレベル?
LLMの性能がユーザー側にとって十分といえるほど高い水準になりつつあることも背景にはあるという。
「汎用的な言語モデルを使うというのはこれは一見矛盾しているようですが、BtoC、つまり一般ユーザーが求めているものです。BtoC型ではLLMが求められ、BtoB型ではSLMが求められるという流れです。つまり一般ユーザー向けには大規模言語モデルは検索エンジンの代替となることが求められつつあり、一方で、特定のサービスを提供する企業は特定の用途に限定した高品質な会話を求めており、個々のユーザー向けの限定したサービスを提供するには小規模言語モデルが必要だという認識が広まっています。これまでは言語モデルは、とりあえず大きくなるのがいいことだという方向で進んできましたが、性能的にはもう十分といえるレベルなので、これ以上の大規模化は、企業的なニーズと距離ができつつあります。
NTTの『tsuzumi』は早い時期に開発された小規模モデルを含む大規模言語モデルの一つですが、そのような小規模言語モデルの要求は徐々に発掘されつつあります。大規模言語モデルも既に大規模であることがセールスポイントである時期は過ぎて、1人1エージェントの時代には、よりパーソナライズされた会話、個人向けのエージェント記憶が必要とされています。ただ誤解して欲しくないのは、大規模言語モデルがなくなったり、ユーザーが減少するという意味ではなく、大規模言語モデルの一つのサービスの形として小規模言語モデルがラインナップに加わっていく、または、小規模で特徴を持った特定の会話サービスの市場がそれなりに拓けてくるだろう、ということです」(三宅氏)
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=三宅陽一郎/AI開発者、東京大学生産技術研究所特任教授)
大手4行、固定金利下げ=変動は据え置き―7月住宅ローン
大手銀行5行は30日、7月に適用する住宅ローン金利を発表した。代表的な固定期間10年の基準金利を三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行、三井住友信託銀行の4行が引き下げると発表した。長期金利が低下傾向だったことを踏まえた。一方、三菱UFJ銀行は引き上げる。変動金利は5行とも据え置いた。
10年固定の最優遇金利は、三菱UFJ銀が前月から0.05%引き上げ年1.88%、三井住友銀は1.85%、みずほ銀は1.70%、りそな銀は2.135%で、3行いずれも前月から0・1%引き下げる。三井住友信託銀は0.06%引き下げ1.885%。 (了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/06/30-19:35)
IVSと京都府が挑む“食”の未来戦略…フードテックが描く新産業地図
●この記事のポイント
・IVS2025において、「フードテック」が大きな注目を浴びそう。古都・京都の伝統の料理技法や地元食材に、最先端のフードテクノロジーが融合し、新たな食の未来を提案する。
・京都府もIVSと強力にタッグを組み、京都特有の課題解決にも取り組んでいる。
2025年7月2日~4日、京都で再び開催される国内最大規模のスタートアップカンファレンス「IVS2025」。300を超えるスタートアップが出展し、約1万2000人が訪れると見込まれている。2023年に完全招待制からオープンな形式へと舵を切り、1万人規模の巨大イベントへと変貌を遂げたIVSが今年、新たな注目テーマとして「フードテック」に本格的に光を当てる。
その本番まで1カ月を切った6月10日、来るべき熱狂の序章ともいえるプレイベント「IVS Food 作戦会議 & 試食会」が、東京・八重洲の「Gastronomy Innovation Campus Tokyo(ガストロノミーイノベーションキャンパス東京/GIC Tokyo)」で開催された。IVS2025のFOODエリアに出展する企業のプロダクトをいち早く体験できるこのイベントには、スタートアップ関係者や投資家、大企業の新規事業担当者などが集い、食の未来を担う最新技術とその可能性に触れた。本記事では、このプレイベントの様子を詳細にレポートし、IVSが描くフードテックの未来像、そして京都府との連携によって生まれる新たな価値を探る。
京都は日本の古都であり、伝統の街との印象が強いが、一方で大学や研究機関も多く、ベンチャー企業も多く輩出している。京セラ、日本電産、村田製作所、オムロン、任天堂、ローム、島津製作所など、さまざまな分野で活躍する大企業も京都発祥だ。そして今、京都府はビジネスの地、特にディープテックの街としての認知を上げていくべく、注力している。
目次
- IVSが「食」に本腰を入れる理由
- イノベーションの拠点「GIC Tokyo」
- 深化するIVS2025:「実を伴う機会」の創出へ
- 京都府との強力タッグ:伝統文化と最先端技術の融合
- 未来の食を体験する:絶品フードテック試食会レポート
- 京都へ、高まる期待
IVSが「食」に本腰を入れる理由
2023年と2024年のIVSのフードエリアは、開催地である京都の名店に出店してもらう形が主だった。たとえば、IVS2024 KYOTOでは、京都の名店13店舗が「FOOD PARK」に集結し、地元の食文化を堪能できるラインナップが話題になった。「王府井」「肉匠 森つる」「ぎょうざ処 亮昌」など、食通にはよく知られた名店がフードトラックなどで出店した。 もちろん、それは参加者に地域の魅力を伝える上で重要だったと、IVS事務局でアライアンス担当執行役員を務める今井遵氏は振り返る。しかし、今井氏個人の体験が、IVSのフードエリアを新たな次元へと押し上げるきっかけとなったという。
「コンビニなどで大豆ミートの製品はありますが、おいしい物はカロリーが高く、ヘルシーな物だと味気ないなと思ってしまうことがあったんです。ですが、今日に至るまでに、ヘルシーなのに美味しいものに数多く出合ったんです」
この感動が、「京都の名店と、IVS当日に限ったコラボができると、より美味しくフードテックなどの印象がより良くなるんじゃないか」というアイデアにつながった。 とはいえ、アイデアを形にするのは容易ではなかった。今井氏は、「自分自身の力不足によって、それをどう発展してリアルに開催していったらいいかわからなかった」と語るが、大きな変化のきっかけとなったのが、東京建物株式会社で八重洲・日本橋・京橋エリアのまちづくりと、FOOD領域でのイノベーション推進を担う渡部美和氏と、株式会社for Crafts代表の岩本拓真氏との出会いだった。
今井氏は「本当にこの2人がいなければこの場をはじめ、IVSフードエリアは誕生しないものでした」と、その貢献の大きさを強調する。一方の岩本氏は、自身が食品業界に長く関わる中でイノベーションの難しさを痛感してきた経験から、「フードテック、スタートアップ、ショット領域のスタートアップに対して、もっと着目していけるような機会を作っていきたい」と、この企画への参画理由を語る。
イノベーションの拠点「GIC Tokyo」
プレイベントの舞台となったGIC Tokyoもまた、今回のテーマを象徴する場所だ。渡部氏によれば、ここは普段、食の未来を創造するための「キャンパス」として機能している。 スペインにある、食で大学の学位が取れる世界三大学の一つ、「Basque Culinary Center(バスクカリナリーーセンター」の国際拠点であり、シェフや科学者、大企業・スタートアップ、といった多様な人々が交わり、イノベーションを創出することを目指している。
施設内には、最新の3Dフードプリンターや、大手電機メーカーの新規事業として生まれた、食べ物を超高圧で柔らかくする「Delisofter(デリソフター)」といった先進的な調理機器が並ぶ。デリソフターは残念ながら販売中止となってしまったが、「嚥下障害の方や高齢者の方も含めた、食のダイバーシティを実現するためには非常に重要な商品であるとの思いから、何か新たな活用方法はないか等、GIC Tokyoににいらっしゃる皆さんと考えていきたい」と渡部氏が語るように、ここは単なる学びの場ではなく、未来の食を社会実装するための実験場でもあるのだ。
深化するIVS2025:「実を伴う機会」の創出へ
IVS代表の島川敏明氏は、今年のIVSが目指す方向性について語った。
2007年に経営者合宿としてスタートし、今年で18年目を迎えるIVSは、2023年の京都開催を機に1万人規模へと一気に拡大した。だが参加者の人数を追うのではなく、「より深みを目指していこう」「しっかりと自分の足元のビジネスにつながるような実現を伴う機会をしっかりと設計していこう」という方針を掲げる。
全体のテーマは「Reshape Japan with Global Minds」。島川氏は「言うなれば今は『スタートアップ五年計画』の後半戦みたいなところ」と日本の現状を分析し、「日本にある、まさにフードやエンタメ、IT、ディープテック(学的な発見や革新的な技術に基づいて、社会課題を根本から解決しようとする取り組み)など。日本には、素材はたくさんあると思うんですよね。それらをしっかりと見直して、どういったものがグローバルで戦っていけるのか、みんなで考えていくような場にしていきたい」と、その狙いを説明した。
その具体策として、いくつかの新たな試みが導入される。
テーマゾーンの設置: AI、ディープテック、エンタメ、グローバルなど、テーマに特化したゾーンとステージを設ける。 フードテックは、半導体やヘルスケア、宇宙などと並び、ディープテックの領域に含まれる。
スタートアップマーケットの初開催: VC(ベンチャーキャピタル)から推薦された質の高いスタートアップが1日100社×3日間出展する本格的な展示ブースエリア。
VCによるブースツアー: ただ見て回るだけでなく、VCが市況感を解説しながら注目企業を巡る「AIツアー」のような企画を実装し、他の展示会との差別化を図る。
サイドイベントの拡充: 京都の町中で約300もの関連イベントが開催される見込みで、街全体がIVSの熱気に包まれる。
これらの施策はすべて、ただ参加して、『楽しかったね』と終わるようなイベントではなく、参加者一人ひとりが具体的なビジネスチャンスをつかめるーーそんな“実りのある場”を実現するための設計なのだ。
京都府との強力タッグ:伝統文化と最先端技術の融合
IVSのフードエリアが目指すのは、テクノロジーのショーケースだけではない。「地元の方などのテクノロジーの融合の場になれば」という渡部氏の言葉通り、開催地・京都との連携が大きな鍵を握る。今回のプレイベントにも京都府農林水産部から田邉智也氏が駆けつけ、府のフードテック戦略について説明した。
京都府は3年ほど前に「フードテック基本構想」を策定。背景には、世界的な人口増加や地球温暖化、国内の少子化といった社会情勢の変化がある。田邉氏は、京都府が抱える「中山間地域が多く、大規模農業が難しい」といった課題に対し、「古くからある伝統食文化」と「最先端技術」を掛け合わせることで、京都ならではのフードテックを推進したいと語る。
そのための具体的な方策として、以下の3つを挙げた。
研究開発拠点の整備: 綾部市、宇治市、けいはんな学研都市に、それぞれ一次産業、食品加工、企業集積を担う拠点を整備する。
ネットワークの構築: 大学や研究機関が多いという強みを活かし、産学官が連携するプラットフォームを構築する。
オープンイノベーションの推進: 異業種連携を通じて、一社では解決できない課題に取り組み、付加価値の高い新商品開発を目指す場を提供する。
このプラットフォームからは、すでに具体的な成果が生まれている。例えば、災害時でも心豊かになれる食事を目指す「美蓄食プロジェクト」や、インバウンド需要に応える「ヴィーガン(動物性の食品や製品を一切使わずに生活する人向けの)弁当」、そして今回の試食会でも提供された有機シロップなどだ。IVSとの連携は、こうした行政主導の取り組みと、スタートアップの持つスピード感や斬新なアイデアを結びつけ、イノベーションを加速させる絶好の機会となるだろう。
未来の食を体験する:絶品フードテック試食会レポート
プレイベントのハイライトである試食会では、IVS2025本番での出展が予定されている企業の革新的なフードが振る舞われた。いずれも、単に美味しいだけでなく、健康、サステナビリティ、新たな食体験といった明確なコンセプトを持つプロダクトばかりだ。
NINZIA「罪悪感なしの唐揚げ」 プラントベースで小麦・牛乳・卵不使用を実現した唐揚げ。 その秘密は衣にある。同社は単なる食品メーカーではなく、こんにゃくの食物繊維から作る粉末をジェル状にする技術を持つ「テクスチャエンジニアリング企業」を標榜する。この独自技術で衣をヘルシーに仕上げ、「罪悪感なしで食べられる」美味しさを実現した。
ディッシュウィル「未来を見据えるヘルシー弁当」 代表の中村明生氏は「将来は砂漠のど真ん中、もしくは宇宙の中でもタンパク質が豊富な食品を生み出せる会社になろうとしている」と壮大なビジョンを語る。同社は植物工場で大豆を栽培し、食品生産までを一気通貫で行う。今回提供された弁当のハンバーグは、同社が開発したプラントベース(植物由来の疑似肉)と本物の牛肉を半分ずつ混ぜたハイブリッド型。健康を支えるために管理栄養士と共に栄養調整も行っているという、ストーリー性に富んだ一品だ。
アドプランツコーポレーション「京たけのこヴィーガンカレー」 嵐山の美しい竹林を維持するために伐採された竹を、環境に配慮しつつ有効活用できないかという発想から生まれたカレー。味の監修は、無印良品のヒット商品であるカレーシリーズを手掛けた専門家が担当しており、その味は折り紙付きだ。
yumrich「贅沢なひとくちを、すべてのひとに。」 牛乳、卵、アレルギー表示義務のある28品目を一切使用しない、ヴィーガン&ハラル対応のユニバーサルなプラントベースアイスクリーム。日本の食材にこだわって開発された本商品は、株式会社YUMRICH・共同創業者 藤田夏生氏が「食において最も大切なのは、直感的に“美味しそう、食べてみたい”と思わせる魅力だと思います」と語るように、美味しさやデザインを追求した先に、サステナブルといった付加価値が自然についてくるようなプロダクトを目指している。
ASTRA FOOD PLAN「タマネギ ぐるりこ」 某大手牛丼チェーンから出るタマネギの端材をアップサイクル(本来なら捨てられるはずのモノに創造的な工夫を加え、新たな価値を持つ製品として生まれ変わらせること)したクラフト調味料(職人のこだわりや伝統的な製法を活かして、少量生産で丁寧に作られた調味料)。この会社のフードテックは、素材を瞬間的に乾燥させる特許技術「過熱蒸煎機」。わずか10秒で乾燥・殺菌することができる技術で、一般の乾燥タマネギの135倍もの芳醇な香りを閉じ込めており、フライドオニオン代替、飴色に炒めたソテーオニオン代替など、様々な用途で活用できる新素材となっている。
このほかにも、害獣として駆除される鹿の命を無駄にしないジビエカレー(株式会社RE-SOCIAL)や、廃棄されるゆずの「わた」を活用した「ゆずトニックソーダ」(株式会社七十二候)など、社会課題の解決と「美味しい」を両立させたプロダクトが候並んだ。
京都へ、高まる期待
今回のプレイベントは、IVS2025が単なるスタートアップの祭典ではなく、日本の未来を形作るための具体的な議論と出会いの場へと深化していることを明確に示した。特にフードテックは、テクノロジー、健康、サステナビリティ、そして伝統文化の継承といった現代社会の重要テーマが凝縮された分野だ。
IVS代表の島川氏は「IVSに参加いただければ、5年から7年くらい後で『あそこのスタートアップ、めちゃくちゃ大きくなったね』という企業に会えるんじゃないかなと思っております」と語り、IVSは参加企業がその後に大きく飛躍するきっかけとなることが多いと胸を張る。
ヘルシーで、美味しく、地球にも優しい。そんな未来の食卓を創造するスタートアップたちが、京都の伝統と交わり、グローバルな視点を得ることで、どれほどの飛躍を遂げるのか。7月3日には、今回紹介されたASTRA FOOD PLAN 代表の加納氏と京料理の老舗「とりよね」の六代目が登壇するセッションも予定されている。古都・京都で繰り広げられる熱い議論と新たな出会いに、期待は高まるばかりだ。
(文=UNICORN JOURNAL編集部)
次世代の挑戦者を育むIVS Youth…子どもから親世代まで巻き込む“教育の恩送り”
●この記事のポイント
・日本最大級のスタートアップカンファレンス「IVS」が、学生・子ども向けにもイベントを開催する。次世代の起業家を育成することを目的に、小学生から高校生まで年代やスキルなどに応じてビジネスを体験できるコンテンツが多く用意されている。
・IVS Youthのディレクターを務めるマコウ氏は、「起業についてより深く知るだけでなく、自ら実践する機会も豊富に得られる場となる」と説明する。
日本最大級のスタートアップカンファレンスとして知られるIVS。その中で、次世代の起業家育成に特化した新たな取り組みとして注目を集めているのが「IVS Youth」。今回は、IVS Youthのディレクターを務めるマコウ・デイナ氏に、その立ち上げの経緯から具体的なコンテンツ内容、そして未来への展望について話を聞いた。彼女の熱い思いは、単なるビジネスイベントに留まらず、日本の教育、ひいては社会全体への「恩送り」へと通じている。
目次
- アメリカから日本へ…教育格差を目の当たりにした起業
- 未来を担う子どもたちへ、起業を身近に…IVS Youthの全貌
- 教育への“恩送り”:次世代の挑戦を多角的にサポート
- 「実践」と「対話」を重視した多様なコンテンツ
- 次世代の起業家ネットワークと親世代への啓蒙
- 「想い」が起点となる多様な起業の形
アメリカから日本へ…教育格差を目の当たりにした起業
マコウ氏はアメリカ育ちで、日本人の母親を持つことから、幼い頃より日本へ興味を抱いていた。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)から早稲田大学への交換留学をきっかけに日本に住み始め、そこで留学支援や英語教師として活動する中で、ある課題に直面する。「家庭環境によって留学が人生において難しいこともある状況を目の当たりにし、都心と地方の情報格差や教育格差によって留学する機会が平等ではないことに気づいた」とマコウ氏は語り、この経験は彼女が起業し、オンラインで留学・海外大学進学塾「Enlite Academy」を運営する原点となった。
IVSとの出会いは昨年、ボランティアとして参加したことがきっかけだった。留学支援だけでなく、多角的に学生を支援したいという思いと、スタートアップへの興味がマコウ氏をIVSへの参加へと動かしたのだ。
IVSを通してマコウ氏は、「こんなにレベルの高い、日本中や世界中で大活躍されている起業家や投資家が集まっている、なかなかない素晴らしい機会なのに、どうして学生版がないのか」という疑問を抱く。日本の学生が高いポテンシャルを持ちながら、それを発揮する機会が少ない現状を目の当たりにし、「学生向けのIVSがあってもいいのではないか」という話が持ち上がったことが、今回のIVS Youthへと繋がったと明かしている。
未来を担う子どもたちへ、起業を身近に…IVS Youthの全貌
今年のIVSは7月2日から4日に開催されるが、閉幕翌日の7月5日には、京都府主催の「IVS Youth」が終日開催される。対象は小学生から高校生までと幅広く、学生が中心となる企画が満載だ。
マコウ氏は、IVS Youthを「起業についてより深く知るだけでなく、自ら実践する機会も豊富に得られる場となる」と説明する。コンテンツは多岐にわたり、起業家の登壇、中高生ピッチコンテスト、そして小学生のビジネス体験など、あらゆる年齢層の学生が様々な角度から起業に触れられるよう工夫されている。
ゲストスピーカーの顔ぶれも豪華だ。キーノートスピーチには、上場企業であるフリークアウト・ホールディングスのグローバル社長、本田謙氏が登壇。さらに、日本で活躍する起業家や学生起業家、起業支援を行う起業家、投資家が多数登壇予定だ。IVS Youthは国内に留まらず、グローバルな視点も重視している。シリコンバレーで活躍する日本人起業家の小林清剛氏や内藤聡氏なども登壇し、「日本から海外」というテーマでディスカッションが行われる予定だ。
IVS Youthにおいて、マコウ氏は企画ディレクターとして全体を統括している。「全体の構成や、コンテンツチームと一緒に内容を固める役割」として、チームと一緒に切磋琢磨している。彼女の教育への深い関心と経験が、このイベントの根幹を支えている。
教育への“恩送り”:次世代の挑戦を多角的にサポート
マコウ氏が教育活動に注力する背景には、「学生時代から先生や周りに助けられたという経験があったので、“恩送り”という形で、自分も次世代の何かしらの力になりたいと思ったのがきっかけ」と、感謝の気持ちを熱く語る。これまでの留学支援や海外大学支援の経験を活かしつつも、「もっと幅広く、さまざまな形で学生の夢をサポートできたら嬉しい」との思いを明かした。
彼女が考える「グローバルな挑戦」は、必ずしも海外に行くことだけではない。「例えば国内でも海外の人とつながったり、あるいはグローバルなビジネスを始めたりと、さまざまな形の挑戦をサポートできたらいい」と、多角的な視点での支援を目指す。
IVS本体が大人向けの企画が多く、学生にとってはハードルが高いと感じられる中で、マコウ氏は日本の学生が持つ高いポテンシャルが十分に活かされていない現状を憂慮する。さらに、「学生だけでなく、ポテンシャルや夢があっても、なかなかそれを発揮できる機会や出会いの場は少ない。もっと活躍できる場所があるのにもったいないと感じる」と、IVS Youth立ち上げへの動機を明かした。
京都府やHeadline VCの協力も得て初の企画として実現したIVS Youthには、「学生が自分のポテンシャルを、日本だけでなく世界にも披露できるような場があったらいい」というマコウ氏の願いが込められている。
「IVS Youthに参加していただく学生は、基本的に3種類いる」とマコウ氏は説明する。
起業についてわからない層:まずは興味を広げることが目的。
起業について興味はあるが、一歩踏み出せない層:次のステップへ繋げたいと考えている学生。
すでに起業していたり、プロジェクトを進めていたり、プロジェクトを進めている層:さらに事業を広げたいという意欲を持つ学生。
IVS Youthは、さまざまな年齢層の学生を受け入れ、それぞれのレベルで起業について学べる企画となっている。同世代の仲間と繋がり、起業家や投資家から多くのことを吸収し、次のステップへと繋げることができるだろう。
「実践」と「対話」を重視した多様なコンテンツ
IVS Youthでは、学生たちが具体的な行動を通じて学ぶことを重視しており、対象年齢に合わせた多様なコンテンツを提供している。
●小学生向け:お店づくりやビジネス体験
お兄さんやお姉さんと一緒に参加するケースも多いと想定し、ビジネスに触れたことのない子どもたちも実践的にビジネスを体験できる機会を提供します。
●中高生向け:ピッチコンテスト
日本語と英語でのピッチコンテストを開催。すでに事業を持つ学生だけでなく、これから自分のアイデアを形にしていきたい学生も、さまざまな観点から起業や挑戦について学ぶことができます。
●講演と実践ワークショップ(会場:京都「QUESTION」)
会場となる京都の「QUESTION」では、幅広い学びの機会を提供予定。
★7階スピーカーズステージ: 本田謙氏のキーノートをはじめ、さまざまな起業家の話を聞くことができる。
★4階ディスカッションルーム: 起業アイデアを考えるワークショップや問題解決を中心としたワークショップなど、実践的な体験が可能です。また、アメリカやエストニアの留学・挑戦体験談が聞ける学生中心のパネルディスカッションや、シリコンバレーで起業している日本人の登壇など、グローバルな視点でのセッションも用意されている。
★4階ピッチステージ: 中高生が日本語や英語で自身のビジネスアイデアを発表する場が設けられている。
IVS Youthは、単なる学生向けのイベントに留まらない。1階には小学生向けのビジネス体験コンテンツが用意されており、まさに「職業体験」の場としても機能する。マコウ氏は、「家族や子連れの方が多いので、家庭があっても起業や挑戦することを応援できるような環境を作りたい」と語る。具体的には、ペアレンツラウンジでの保護者向けコンテンツや託児エリアも設けられており、ファミリーフレンドリーな企画となっているのが大きな特徴だ。これにより、子連れの参加者も安心してイベントに参加し、学びの時間を確保できるとマコウ氏は強調する。
既存の職業体験施設との違いについて尋ねると、マコウ氏は、IVS Youthが小学生から高校生まで幅広く対応し、各年齢層に合わせたコンテンツを提供している点を強調した。
「国内での起業、グローバルな起業のほか、学生から起業したい場合にはどうすればいいのかなど、幅広いテーマが学べます。例えば、『シリコンバレーで起業したい場合にはどうすればいいのか』といったレベルにも対応したコンテンツがあるので、各参加者が学びたいコンテンツや、自分のレベルや起業の段階に合わせたコンテンツに参加できます」と、マコウ氏は語る。このように、IVS Youthはより専門的かつ個別最適化された学びの場を提供できる点が強みだと胸を張った。
次世代の起業家ネットワークと親世代への啓蒙
参加者がビジネスや起業に興味を持った後、さらに一歩進むためのネットワーク作りについても、マコウ氏は意欲的だ。
「個人的にやりたいのは、今後IVSからたくさんの次世代起業家が生まれてほしいということ。そのためにも、若手起業家ネットワークや学生起業家、さらには起業の有無に関わらず興味を持つ、日本全国の学生とコミュニティを作れたらいいと考えています」と、マコウ氏は将来的な展望を明かした。
同時に、マコウ氏は親世代への啓蒙も重要だと考えている。「起業している親御さんや、今後社会が変わっていくにつれて、自分の子どもにも起業について伝えていこうと考える保護者も出てくると思います。だからこそ、保護者にも伝えていきたいのが、自身が起業していなくても、日本のスタートアップや起業に関して、ある程度の知識を身につけてほしいということです」とマコウ氏は語り、親世代が子どもたちの挑戦を理解し、サポートできるような環境づくりを目指す。
そのために、学生起業家のオンラインコミュニティに加え、保護者向けのコミュニティも作りたいと考えているという。「今まで親御さんがあまり知らなかった、少し扉が閉じていたスタートアップや起業について、徐々に今の保護者層に伝えていけたら」とマコウ氏は語り、IVSが親世代と次世代に与えるポジティブなインパクトに期待を寄せる。
来年以降のビジョンについても、マコウ氏は明確な目標を持っている。「個人的には、日本の学生がもっとグローバルに活躍してほしい」と語り、将来的にはIVS Youthへの参加学生が「海外の起業家と同じ土俵に立てるくらい、同じ目線で話せるようになってほしい」という願いを明かした。今年はまだ全て英語での登壇はないものの、今後はそうした機会も増やし、日本の学生が英語で海外の起業家と交流できるチャンスを広げ、自信をつけてほしいと考えている。
IVS Youthを通じて、単に起業する人が増えるだけでなく、グローバルで活躍する人材が増えることが重要なメッセージの一つだと強調する。同時に、子どもたちや若い世代に最も伝えたいこととして、マコウ氏は「一番は、思い切って挑戦してほしい」と力強く語る。
「挑戦したいのであれば、さまざまな機会がある。やりたいことがあれば何かしら、それを実現する方法はあると信じている」と、マコウ氏は可能性を信じ、最初の一歩を踏み出すことの大切さを訴える。もし金銭的なハードルや何から手をつけて良いか分からないという時は、「周りを頼り、サポートしてくれる団体や大人はいると思うので、まずは一生懸命、最初のステップを踏み出してほしい」と、具体的な行動を促した。
マコウ氏は参加者へ「パラダイムシフトを起こす、つまり社会の流れを変えるような勢いを持ってほしい」と熱いエールを送り、「日本や世界を変えるくらいの勢いや動機を持ってほしい」と期待を込める。
「想い」が起点となる多様な起業の形
最後に、まだIVS Youthに来たことがなく、起業について考えてもいない人々へのメッセージとして、マコウ氏は自身の経験を交えて語る。
「個人的な話になりますが、私はもともと全く起業を考えていませんでした。むしろ、ずっと研究や指導、教えることなど、教育寄りの人間だったんです。でも、結果的に“想い”で起業した部分もあります。最初から起業家になりたいとがっつり考えていたわけではありません。そういう観点から言えば、起業には本当にさまざまな形があると思っています。IVS Youthに参加する学生にも、どのように自分のやりたいことを形にできるか考えてほしいと思います」
IVS Youthでは、「多様な形で社会的インパクトを作っている方とたくさん出会える」と、マコウ氏は多様なロールモデルとの出会いの重要性を強調する。ビジネスカンファレンスという堅苦しいイメージではなく、「楽しいイベントにもなるので、ワイワイ楽しみながら学び、有意義な体験をしてほしい」と語る。そして、「ぜひIVS Youthに来て、夢を持つ同世代や、積極的に行動している仲間と友達になってほしい」と、参加を呼びかけた。
マコウ・デイナ氏の情熱と、次世代への深い愛情が詰まったIVS Youth。このイベントが、日本から世界へと羽ばたく新たな才能を育み、未来を創造する大きな一歩となることは間違いない。
(文=UNICORN JOURNAL編集部)
