箱根駅伝、もう一つの闘い…ナイキ転落、アディダスを猛追アシックス・プーマの戦略

●この記事のポイント
・箱根駅伝2026は、もはや正月の風物詩ではなくスポーツメーカーの主戦場だ。ナイキの後退、アディダス首位、アシックスとプーマの台頭が、足元の勢力図激変を物語る。
・厚底シューズの進化で駅伝は高速化し、着用モデルは多極化。走法別設計のアシックス、安定感のアディダス、体験重視のプーマなど、各社の戦略差が鮮明になっている。 
・急成長するプーマは、Z世代ランナーに寄り添う「体験と囲い込み」で存在感を拡大。箱根の足元は、次世代ランニング市場の覇権を占う重要な指標となっている。

 2026年1月2日、東京・大手町から箱根・芦ノ湖へ――。第102回を迎える東京箱根間往復大学駅伝競走(通称「箱根駅伝」)が号砲を迎える。沿道観客は延べ100万人規模、テレビ中継の平均視聴率は20%超。正月三が日の“国民的行事”として不動の地位を築いてきた箱根駅伝だが、近年その性格は大きく変質している。

 いまや箱根路は、スポーツメーカーにとって「年間最大の実走広告塔」であり、ブランドの命運を懸けた戦場だ。背景にあるのが、シューズ性能による「駅伝の高速化」である。元日のニューイヤー駅伝では区間新記録が相次ぎ、「厚底+高反発」が競技の前提条件になったことを改めて印象づけた。

 かつてはナイキの「厚底革命」が大学駅伝を席巻し、箱根での着用率が9割を超えた年もあった。しかし2026年大会を前に、選手たちの足元はかつてないほど多極化している。

 スポーツマーケティングに詳しい戦略コンサルタントの高野輝氏はこう指摘する。

「箱根駅伝は単なる競技会ではなく、“視聴率20%超のBtoC実証実験”です。ここで履かれたシューズは、翌日から市民ランナーの購買行動に直結する。各社が数億円単位の投資を惜しまない理由です」

2026年大会を左右する「主要4強」の主力モデルを比較

 今大会、各メーカーのシェア争いを左右するのは、トップエリート向けのフラッグシップモデルだ。大学生ランナーは「支給されたから履く」のではなく、自身の走りに最適な一足を極めてシビアに選ぶ。その選択の積み重ねが、勢力図を形づくる。

アディダス:アディゼロ アディオス プロ 4 / Adizero Adios Pro 4
 昨年大会の着用率トップを誇る“現王者”。超軽量ミッドソール素材「ライトストライクプロ」と、洗練されたエナジーロッド構造による安定した推進力が武器だ。クセが少なく、区間を問わず対応できる汎用性が、首位を守った最大の要因とされる。

アシックス:METASPEED TOKYO Series
 日本ブランドの逆襲を象徴するモデル。「ピッチ型」「ストライド型」という走法別設計を徹底し、日本人ランナーの身体特性に真正面から向き合った。パリ五輪仕様に開発したPARISシリーズよりさらに約15g軽く、エネルギーリターンが約18.8%向上。箱根仕様に落とし込み、首位奪還を狙う。

ナイキ:Alphafly 4/Vaporfly 4
 かつての絶対王者は、現在3番手に後退。圧倒的な反発性能は健在だが、「履きこなすための筋力・フォーム」を要求する尖った設計が、大学生ランナー全体への適合性を下げているとの指摘もある。

プーマ:FAST-R NITRO ELITE 3
 最も勢いのある“挑戦者”。前足部と後足部を分離した独創的構造による爆発的な反発力が特徴で、2021年の着用率0%から、わずか数年で10%超へと急伸している。

 シューズ開発に詳しいスポーツ工学の専門家は、次のように分析する。

「性能差は紙一重ですが、大学駅伝では“扱いやすさ×信頼感”が重要です。ナイキはピーキー、アディダスは安定、アシックスは最適化、プーマは体験価値。この違いが数字に表れています」

なぜプーマはZ世代の学生ランナーの心を掴んだのか

 今回の勢力図で、最も注目すべきはプーマの急伸だ。単なる製品力だけでは説明できない背景がある。

「体験」と「コミュニティ」を売る戦略

 プーマが力を入れているのが、合宿地に設けた「PUMA RUNNING HOUSE」だ。ここは単なる展示スペースではない。水素吸入、サウナ、栄養サポートなど、最高水準のリカバリー体験を提供する拠点として機能している。

「Z世代の選手は、モノより“自分を理解してくれる環境”を重視します。プーマは“君たちの成長を支える場所”を用意した。それが刺さった」(大学陸上部コーチ)

「ブランドの民主化」で心理的距離を縮めた

 ナイキが「勝者の象徴」として高みに君臨する一方、プーマは選手の目線まで降りてきた。担当者が合宿に常駐し、微細な違和感や練習の悩みに向き合う。こうした積み重ねが、「この人たちのブランドを履きたい」という情緒的価値を生んでいる。

上下を押さえる“青田買い”戦略

 大学生だけでなく、実業団OB、有力高校生にも早期からアプローチ。SNSでの発信力が高い若年層を巻き込み、「プーマ=新しい」「勢いがある」というイメージを形成した。

「強豪校の先輩が履き、後輩が憧れる。この“伝統の連鎖”に入り込めたのは大きい」(高野氏)

外資の資本力か、国内の現場力か。「日本人の足」を巡る攻防

 箱根駅伝の舞台裏では、「グローバルvsローカル」の戦いも激化している。プーマやアディダスは、選手を欧米の開発拠点に招き、最先端の知見をフィードバック。一方、アシックスは日本人の足型をミリ単位で分析し、きめ細かな微調整を重ねる。

「日本の駅伝は世界でも特殊な競技文化。アシックスの現場密着型開発は、今後さらに評価される可能性があります」(同)

 加えて、オン(On)やホカ(HOKA)といった新興勢力も虎視眈々と箱根を狙う。“4強時代”は、すでに過渡期に入りつつある。

 2026年1月2日、選手たちが踏み出す一歩一歩は、各社の技術力と数億円規模のマーケティング投資の結晶だ。アディダスは王座を守れるのか。アシックスは日本ブランドの意地を見せられるのか。プーマは勢力図をさらに塗り替えるのか。

 中継所ごとに映し出される「足元のカウント」は、単なるデータではない。それは、次世代ランニング市場の覇権を占う、最もリアルな指標なのである。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)

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