AIはマーケティングを強くできるか

NewsPicks|AIはマーケティングを強くできるか/シバタアキラ氏(DataRobot)、有益伸一氏(電通デジタル)

電通グループが推進する「“人”基点」の統合マーケティングフレームワークPeople Driven Marketing(以下、PDM)は、人の「意識」と「行動」に着目したPDM2.0、さらに今秋スタートした3.0へと進化する。今回は、データとAIがマーケティングに取り組む企業と、その先の消費者にもたらす価値について、AI活用プラットフォームDataRobotのチーフデータサイエンティストであるシバタアキラ氏、電通デジタル デジタルイノベーショングループ マネージャーの有益伸一氏に語ってもらった。


マーケティングにおいて高まるAI・機械学習の重要性

── AIの活用が広がっていますが、マーケティング領域ではどのように有用なのでしょうか。

シバタ:AI、機械学習はデータが大量にある領域で何かを予測することに役立つテクノロジーです。マーケティングはそのひとつ。「人の行動を予測したい」というニーズがマーケティングにあるからです。

シバタアキラ氏(DataRobot)

DataRobot チーフデータサイエンティスト・物理学博士
人工知能を使ったデータ分析によるビジネス価値の創出が専門分野。 ボストンに本社を置き、世界のトップデータサイエンティストが多数在籍するDataRobot社(https://datarobot.com)の日本マーケット技術責任者。NYU研究員時代に加速器データの統計モデル構築を行い「神の素粒子」ヒッグスボゾン発見に貢献。 その後ボストン・コンサルティング・グループでコンサルタント。 ニュースキュレーションアプリ「カメリオ」を提供する白ヤギコーポレーションのFounder & CEOを経て現職。

有益:マーケティングや広告の領域で機械学習が利用されるようになったのは、2010年ごろからといわれています。デジタル広告の自動入札や一部のテキスト自動生成で使われ始めました。

その後、誰もがスマホを持つようになり、顧客とのコンタクトポイントが増えて集まるデータが飛躍的に増加しました。

人の行動パターンを認識し、広告配信や顧客管理を最適化するのに、とてもマーケターの人力だけでさばききれる状態ではなくなり、機械学習へのニーズが高まってきたのです。

有益伸一氏(電通デジタル)

電通デジタル データ/テクノロジー部門 デジタルイノベーショングループ マネージャー
M&A事業のデューデリジェンス業務や、データマーケティングを軸とした経営企画、事業推進、マーケティングコンサルティング業務を経て現職。 AI(機械学習)、MA、CRM、DMP、BI等の最新マーケティングテクノロジーを統合的に活用し、経営課題・事業課題を解決に導くことを強みとする。 また、国内外の最新デジタルツールの発掘・アライアンスも得意とし、デジタルマーケティング関連の講演・寄稿多数。

シバタ:マーケターがさばくには不可能なボリュームでも「機械学習が自動的に処理してくれるのなら」と、とにかくデータをできるだけ蓄積したくなるところです。

しかし実際には、データの容量が大きければ優れているとは限りません。

価値のあるデータとは

シバタ:人の行動という広い範囲に対して、1つの企業が捉えられるのはごく一部です。例えば、そのお店で買った情報は分かるけど、そのお客さんのお財布全部の中身がどうなっているかまでは分からない。

でも、マーケティングで本当に知りたいのは、財布の中身の内訳です。

有益:その通りですね。財布に1万円が入っていて、そのうちお店で使ってくれたのは1000円だけで、残りの9000円は別の店で使ったとしましょう。1000円だけでその人が1万円をどんなことに使っているか、といった興味の全体像を見るのは難しい。

マーケティング的な観点でいくと、それは間違った解釈につながる可能性があるということですね。

シバタ:分かりやすい表現ですね。

全体像を捉えるためには、自分たちで持つ「1stパーティー」のデータに加えて、ほかの企業が持っている「3rdパーティー」データを入手することで補完しようと考えます。

── 「1stパーティー」と「3rdパーティー」データをもう少し具体的に説明してください。

有益:例えばあるクレジットカード会社が、最終的にカードを何度も使ってくれる顧客を獲得したいと仮定しましょう。

ところがそのカード会社が持っているデータは利用履歴だけだったとします。それ自体は価値ある「1stパーティー」データですが、新規顧客の獲得に役立つでしょうか。

新規獲得のためにデジタル広告を配信するタイミングでは、広告の受け手がどのようにカードを利用しているかというデータはありません。

つまり1stパーティーデータだけでは、カードを何度も使ってくれそうな新規顧客を予測して広告配信することは簡単ではありません。

ですが、3rdパーティーデータと1stパーティーデータとが連携し利用履歴と興味関心データがひも付いたとします。そうするとAI(機械学習)が「カードを何度も使ってくれそうな新規顧客」を「興味関心のパターン」に基づいて予測し、そうしたターゲットを狙った広告配信が可能になるわけです。

もちろんこれはしっかりとカード会員からデータ利用に関する同意を受けているのが大前提です。

[3rdパーティーデータ]×[1stパーティーデータ][データ加工]>>[機械学習]>>[高LTVユーザー予測モデル]
シバタ:未来が予測できるということですよね、端的にいうと。もちろんその人が100%買うかどうか分からないものの、「メールを送る」「電話する」といった介入によって「買う」というアクションの確率を高められるわけですが、その精度を上げられる、と。

有益:そういうことですね。電通デジタルが持つ3rdパーティーデータ「People Driven DMP」と接続することで、精度を上げることができます。

LTVを最大化するデュアルファネル視点

シバタ:多くの企業は新規顧客の獲得重視で、獲得のためにいろいろなマーケティング施策に資金を投じる傾向があります。

でも今、さまざまな業態で、利益を1度だけあげるのではなく継続的にあげるビジネスに変わりつつあります。トラディショナルな組織ほど、この変化への対応に苦労している印象です。

有益:今までは新規顧客獲得を目指せばよかったマーケティング部門が、営業、製品開発やサポート部門も含めた融合に苦労しているわけですよね。

もともとマーケティングと営業は意思の疎通が難しいケースが散見されます。双方が違うKPIを追っていたりするからです。マーケティング部門はCPA(Cost Per Action:顧客獲得単価)、営業部門は売り上げを追っている。

マーケティング部門が低いCPAでたくさんのリードを獲得した。ところが、実は質の良くないリードばかりで売り上げにはつながらず、営業部門は困ってしまうといったケースなどですね。

複合的にデータを活用しようとすると、今まで別々に動いていた組織の融合が不可欠。BtoBであれBtoCであれ、中長期的にその顧客がどのくらいの価値となるかの指標「LTV(=Life Time Value)」を伸ばすことを部門横断のミッションにすべきなのです。

そうすれば、LTVに関する予測モデルを機械学習で作成し、マーケティング部署はそのモデルを使って「高LTV顧客の予測」や「高LTV~低LTV顧客のアクションや属性の違いから打ち手を探索する」などといったことが可能になります。

つまり、新規顧客獲得から既存顧客管理までを統合的にに考えられる「デュアルファネル」の視点が重要なのです。

デュアルファネルTMソリューション
 
シバタ:フリーミアム(基本のサービス・製品は無料で提供し、さらに高度な機能などを導入する際に課金する仕組みのビジネス)のようなモデルはもっと分かりやすいかもしれません。

最初は無料や安価で始められて、だんだんたくさん使ってもらう。今いろんなものがサービス化しているので、顧客のエンゲージメントを高める後半を重要視する流れが起こっていますね。

DataRobotでも、このほど「AI サクセスプログラム」の提供を始めました。ライセンスを売ることに変わりないのですが、機械学習やAIを実際に使えるようにプランニングなどをサポートするのです。

先ほどのカード会社の例であれば「いい新規顧客を獲得できたか」「獲得した顧客のLTVを上げられたのか」といった顧客企業が重要視している指標を達成すれば、おのずと継続利用してもらえて利用範囲も広がり、DataRobotの売り上げが連動することになります。

AIによるセレンディピティ

シバタ:データを使って消費者のことを理解して、行動も予測できるというと、「気持ち悪い」という反応が返ってくるのは、おそらく生理的なことでしょう。

だからWin-Winの関係をどうつくるかがすごく重要です。

例えば、情報があふれる中で、自分が欲しいと思えるものを短時間で見つけられるとうれしいですよね。企業にとってもそれは購買につながる。消費者と企業のベクトルをできるだけそろえていくことが重要で、それこそがAIの提供できる価値です。

あるいは、意識的に探していたものでなくても、思ってもみなかったようなものをリコメンドされると、新鮮な驚きや出会いがある。これはもう、AIによる新しいセレンディピティ(偶発的な出会い)と言えるのではないでしょうか。

シバタアキラ氏(DataRobot)

マーケティングは理論から離れているというか、結構「人間的」な不確実な側面が強い。本来なら新しい技術が応用されるまですごく時間がかかる分野です。人間の行動を予測するとなると、だからこそ、単なる統計ではなく機械学習が役立ちます。

人の興味がどんどん細分化され、それぞれの好みもある。それに対して、実際に好みを満たせるだけモノがあふれている。たとえば、リュックを例にしても、ビジネス用なのかカジュアルなのか、ハンドルの位置は上なのか横なのか。

その結果、ほしい人といいモノをどうつなげられるかという問題が顕在化しているわけです。すると、アルゴリズムのおかげで出合えたという恩恵の幅が大きくなっているはず。

どこまでデータを使うかという「飛び越えてはいけない線」は引くべきですが、セレンディピティを提供できれば、データ活用の価値は認めてもらえるものだと思います。

AIの民主化が始まった

── 有益さんは、5年以上前からマーケティングへのAI(機械学習)活用を検討されていたとか。どんな変化を感じていますか。

有益:AIや機械学習の活用が進んできたのは、データ量がバラエティも含めて増えただけでなく、DataRobotのようなプラットフォームが出てきて、多くのことを自動化できるようになったのがブレイクスルーだと感じています。

5年前なら、例えば機械学習をマーケティングに活用しようとしたら、すごく大変だったんですよね。それがDataRobotが日本市場に出現した2017年以降、徐々に「マーケティングの領域でももっとカジュアルに機械学習が利活用できそうだね」という会話をマーケターが始めたような感触があります。まさにDataRobotの掲げる、「AIの民主化」が始まりつつあることを感じさせます。

現在は、DataRobotに投入するためのデータセットをどのように集めどう加工するかや、作成した予測モデルから得られた示唆を、実際にデジタル広告・マーケティングオートメーションやウェブサイトでどう活用するか、さらにBtoB営業のターゲティング精度向上やレコメンデーションの最適化などさまざまな領域が課題として挙がっています。

電通デジタルもDataRobotも、この間を取り持つためのコンサルテーションをしているところです。

(左から)シバタアキラ氏(DataRobot)、有益伸一氏(電通デジタル)
 
シバタ:ウェブサイトは、紙のカタログとは違って動的なコンテンツをつくれるメディアです。機械学習は、何を見せるとより満足できるコンテンツになっていくかを、どんどん先読みしていくことができるので、親和性がある技術です。

これは以前から夢のように語られていたけれど、実現できる技術力や発想を持っている事業会社は多くありません。それに対してDataRobotも、技術を提供するのが主になっています。

リアルに具体化していくには、顧客企業との関係やデータに対する深い理解で取り持つ役割が必要で、そこが電通デジタルの強いところでしょう。

AIで売れるプラモデルは作れるか?

有益:DataRobotのようなプラットフォームが進化していくと、自動化できることが増えていきます。過去のデータをもとにした広告の出し分けのような仕事は減っていくでしょうね。

それによって、セレンディピティに近い部分をいかに発想するかといったクリエイティブな領域に、マーケターの時間が割かれるようになるべきです。

シバタ:そういうコンテンツに依存するところこそ、人間にしかできない。最終的にコンテンツ力は、AIは人間にはかなわないところがあります。

有益:以前「AIで売れるプラモデルのデザインを作り出せないか?」という相談を受けたことがあります。AIが出してくれる過去のパターンに基づく示唆をアイデアの源泉にしたり、自分が持っている感覚とぶつけて新しいアイデアを生み出すのはとてもすてきです。

AIをうまく活用しながら、よりクリエイティブなマーケティングを提供していきたいと思っています。

(左から)シバタアキラ氏(DataRobot)、有益伸一氏(電通デジタル)
(制作:NewsPicks Brand Design 構成:加藤学宏 編集:久川桃子 撮影:北山宏一 デザイン:岩城ユリエ)

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眠らせた五感を研ぎ澄ます ダイアログ・イン・ザ・ダーク「内なる美、ととのう暗闇。」がオープン

暗闇での体験を通して、人と人との関わりや、対話の大切さ、五感の豊かさを感じるソーシャルエンターテインメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)」(主催=ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ)が日本での活動20年目を迎え、11月22日にDID初となる、大人のための体験施設「内なる美、ととのう暗闇。」を東京・新宿区の三井ガーデンホテル神宮外苑の杜プレミアにオープンした。当日は、先行体験会も兼ねたメディア向け発表会が開催され、多くのメディアが取材に訪れた。

テーマは、施設名と同じ「内なる美、ととのう暗闇。」。神宮外苑ならではの自然や日本文化を感じながら、禅の思想をベースにした純度100%の暗闇を体験できる、日本だけのオリジナルプログラムを提供する。

発表会では、DIDの発案者であり哲学博士のアンドレアス・ハイネッケ氏や、ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ代表理事の志村季世恵氏の他、プログラムを監修した身体感覚教育研究者の松田恵美子氏、曹洞宗長光寺住職の柿沼忍昭氏がDIDへの思いを語った。
日本でのDIDは過去20年にわたり、“暗闇の中で自身の感性を磨きそして多様性を理解しながら、新しい自分と出会えるコンテンツ作り”を続けてきたが、今回は異なるベクトルを持ったコンテンツを目指したという。志村氏は、「この神宮外苑に残っている美しい自然、水や光などを感じられるような内容にした」「人と対話する前に内なる自分と対話し、何を感じ、何を考え、何を伝えたいかに気付き、今の自分を大切に考えるようになった上で、新しい世界に向き合ってほしい」と熱く語った。

柿沼氏は、“型破り”と言われた自身の姿勢を引き合いに出しながら「感覚的で、禅そのもののメソッドを使った、エンターテインメントとして楽しめる空間」「禅でもマインドフルネスでもなく、自然なままでいることは、素晴らしいんだ、ということを学べる場所だと思う」と話した。
松田氏は「DIDは、感覚を研ぎ澄ますことができる暗闇の体験で、眠っている五感を呼び戻してくれる」「日本ならではの自然観を感じさせる空間になった」と述べた。

ハイネッケ氏は、「日本での活動が、シリコンバレーのように、世界への“触媒”になる」と期待を見せ、時間や五感などから解き放たれる“情報デトックス”という独自のワードを使いながら、その重要性を示した。また、今後の目標として、この活動がますます「自分の思想や考え方を評価する・鍛える場」「本当の自分と出会う可能性のある場」になり、「マインドフルネスやウェルビーイングとはどういうことなのか、を伝えていきたい」と意気込みを語った。

同施設は、“大人のための”と冠している通り、これまでのDIDとは一線を画す、ラグジュアリーで大人向けの体験を提供している。
“内に秘めた美を磨きたい、心身の美と癒しを求めている”、そんな大人にぴったりな上質な時間を、ぜひ体験してみてはいかがだろうか?

【ダイアログ・イン・ザ・ダークとは】
1988年、ドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケ氏の発案によって生まれたダイアログ・イン・ザ・ダークは、これまで世界50カ国以上で開催。併せて何千人もの視覚障害者のアテンド、ファシリテーターを雇用してきた。
日本では、99年の初開催以降、21万人以上の人々が体験している。東京・浅草橋会場での企業研修プログラムや大阪の「対話のある家」も開催中。

【ダイアログ・イン・ザ・ダーク「内なる美、ととのう暗闇。」】
三井ガーデンホテル神宮外苑の杜プレミア2階
(東京都新宿区霞ヶ丘町11番3号)
https://did.dialogue.or.jp/totonou/

眠らせた五感を研ぎ澄ます ダイアログ・イン・ザ・ダーク「内なる美、ととのう暗闇。」がオープン

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テーマは、施設名と同じ「内なる美、ととのう暗闇。」。神宮外苑ならではの自然や日本文化を感じながら、禅の思想をベースにした純度100%の暗闇を体験できる、日本だけのオリジナルプログラムを提供する。

発表会では、DIDの発案者であり哲学博士のアンドレアス・ハイネッケ氏や、ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ代表理事の志村季世恵氏の他、プログラムを監修した身体感覚教育研究者の松田恵美子氏、曹洞宗長光寺住職の柿沼忍昭氏がDIDへの思いを語った。
日本でのDIDは過去20年にわたり、“暗闇の中で自身の感性を磨きそして多様性を理解しながら、新しい自分と出会えるコンテンツ作り”を続けてきたが、今回は異なるベクトルを持ったコンテンツを目指したという。志村氏は、「この神宮外苑に残っている美しい自然、水や光などを感じられるような内容にした」「人と対話する前に内なる自分と対話し、何を感じ、何を考え、何を伝えたいかに気付き、今の自分を大切に考えるようになった上で、新しい世界に向き合ってほしい」と熱く語った。

柿沼氏は、“型破り”と言われた自身の姿勢を引き合いに出しながら「感覚的で、禅そのもののメソッドを使った、エンターテインメントとして楽しめる空間」「禅でもマインドフルネスでもなく、自然なままでいることは、素晴らしいんだ、ということを学べる場所だと思う」と話した。
松田氏は「DIDは、感覚を研ぎ澄ますことができる暗闇の体験で、眠っている五感を呼び戻してくれる」「日本ならではの自然観を感じさせる空間になった」と述べた。

ハイネッケ氏は、「日本での活動が、シリコンバレーのように、世界への“触媒”になる」と期待を見せ、時間や五感などから解き放たれる“情報デトックス”という独自のワードを使いながら、その重要性を示した。また、今後の目標として、この活動がますます「自分の思想や考え方を評価する・鍛える場」「本当の自分と出会う可能性のある場」になり、「マインドフルネスやウェルビーイングとはどういうことなのか、を伝えていきたい」と意気込みを語った。

同施設は、“大人のための”と冠している通り、これまでのDIDとは一線を画す、ラグジュアリーで大人向けの体験を提供している。
“内に秘めた美を磨きたい、心身の美と癒しを求めている”、そんな大人にぴったりな上質な時間を、ぜひ体験してみてはいかがだろうか?

【ダイアログ・イン・ザ・ダークとは】
1988年、ドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケ氏の発案によって生まれたダイアログ・イン・ザ・ダークは、これまで世界50カ国以上で開催。併せて何千人もの視覚障害者のアテンド、ファシリテーターを雇用してきた。
日本では、99年の初開催以降、21万人以上の人々が体験している。東京・浅草橋会場での企業研修プログラムや大阪の「対話のある家」も開催中。

【ダイアログ・イン・ザ・ダーク「内なる美、ととのう暗闇。」】
三井ガーデンホテル神宮外苑の杜プレミア2階
(東京都新宿区霞ヶ丘町11番3号)
https://did.dialogue.or.jp/totonou/

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AbemaTV×電通、社長対談。ネットが切り開く新しいテレビの形

“無料で楽しめるインターネットテレビ局”として成長を続けるAbemaTVに電通が出資を行ってから1年。両社のさらなる連携強化を目指して、10月3日、東京・汐留の電通ホールでイベント「Dentsu AbemaTV Day」を開催しました。

同イベント内で行われた、AbemaTVの藤田晋社長と電通の山本敏博社長によるトークセッションの模様をお届けします。

<目次>
テレビの新しい時代を切り開いていくのは何か?
「受け身視聴」をつくってこその広告。そこにAbemaTVの勝機がある
「新しいテレビ」的な価値を高めるハイブリッド化とは?
サイバーエージェントと電通、お互いをどう見ている!?

 

電通 山本敏博社長、AbemaTV 藤田晋社長
電通 山本社長、AbemaTV 藤田社長

テレビの新しい時代を切り開いていくのは何か?

―電通がAbemaTVに出資した経緯を教えてください。

山本:「日本のテレビの未来はどこにあるのか?」というのが、ずっと私の関心事です。日本のテレビの持つポテンシャルの高さは、世界でも類を見ない素晴らしいものです。ただ、正直に言うとこのままではダメだとも思っていまして、テレビの新しい時代を切り開いていくためにはやはりインターネットとの融合が不可欠だと常々感じています。ですから、テレビがネットの方向に向かっていく取り組みについては、そのどれも全て、電通も一緒に挑戦をしたい。「うちも入れてよ!」と言っています。当然、2016年にAbemaTVのサービスが始まるときにも同じ側に立ちたいと思って、テレビ朝日さんに「一緒にやりたい」と声を掛けさせてもらったのですが、その時は「サイバーエージェントの藤田さんが、ちょっと待ってほしいと言っている」という(笑)。

それから2年後の2018年に、藤田さんと一緒にご飯を食べる機会がありまして、AbemaTVが何をしようとしているのか、直接聞くことができました。その時やっぱり藤田さんの肌感覚みたいなものにすっかり感じ入って、「ネットによってテレビが新たな未来を切り開いていく現場で、同じ方向を向いて一緒にやりたい」と改めて強く思い、「電通も入れてくださいよ」と申し出たところ、その翌日にはもう藤田さんから電話がかかってきて。テレビ朝日とも話は済んでいるということで、非常に具体的な条件のお話をされて。お願いした翌日にですよ。「こういうところだな!」と思いましたね。

藤田:最初にちょっと待っていただいたのには理由がありまして、サービス開始当時、「ネットテレビをつくる」というベンチャーはAbemaTV以外にもたくさんありました。そのうちの一つとして出資を受けるのでは、物足りない。つまり、本気で「これは放っておけない」と思っていただいてから受けたかったんです。そこでテレビ朝日と相談して、「まず、どれだけわれわれが本気かということを感じてもらえるところまでは、自力で頑張りましょう」と決めました。

その後、電通の出資を受けることになったきっかけは、昨年私がチェアマンを務めるプロ麻雀リーグ、「Mリーグ」に電通が参戦してくれたことです。もう本当にうれしくなっちゃったんですが(笑)、そのタイミングで、ちょうど山本社長と食事をすることになりましたので、今度はすぐに出資をお願いした次第です。

電通山本社長
電通 山本社長

「受け身視聴」をつくってこその広告。そこにAbemaTVの勝機がある

―ネットの動画配信サービスが急速に増えていますが、AbemaTVの勝機はどこにあると考えていますか。

藤田:大きくは二つあって、「リニア」であることと、「無料」であることはAbemaTVの他にはない大きな強みだと思っています。

リニアである理由はいくつかありますが、一番の理由は「受け身視聴」をつくりたかったんです。私自身が広告会社をやってきて感じていたのは、ネット上でユーザーが目的を持ってクリックしていくもの、つまり能動的に見るコンテンツは、広告と相性があまり良くないということでした。やはり「受け身視聴」をつくってこその広告である、ということです。しかも、多くの人に見てもらわなければ広告にならない。

「ブランド広告はインターネットにシフトする」と以前から言われていますが、僕の体感値ではまだそれほどシフトしていません。出す場所がないんですよ。ネットでたくさんの視聴者を得ているメディアの多くがCGM(ユーザー投稿型メディア)なので、要は広告主のブランド力や好感度を上げるような出しどころというのが本当に少ない。そんな中で、ちゃんとクオリティーを管理できて、安心できるスペースをつくりたかったんです。

山本:ちょっといいでしょうか。皆さん、私は藤田さんと食事をしたときにこの話を聞いて、本当に衝撃を受けましたよ。あのサイバーエージェントの藤田晋がですよ、「広告、特にブランド広告は、やっぱりリニアで、受け身視聴でなくては効果がない」と言うんですから。あ、ごめんなさいね(笑)。

藤田:いやいや(笑)。それで、先ほど山本社長がおっしゃった日本のテレビのポテンシャルについては、僕も全く同じように考えています。だけど、今ある動画配信サービスは大半がオンデマンドで、実質的にテレビをリプレースできているものはありません。つまり、テレビのメインコンテンツである「ニュース番組」や「スポーツ中継」の流し場所というものがネット上にない。「テレビが出せるものが、ネットでは出せていない」という状況がまず頭にあったんです。

今では、「緊急ニュースがあればAbemaTVを開く」というのが、ある程度ネットユーザーに浸透してきました。スポーツでも、大相撲や格闘技などをAbemaTVで視聴する人は増えている。また、将棋に麻雀など、非常に放送時間が長い中継コンテンツを流すのに適しているのも強みですね。加えて、テレビではなかなか見られないフェンシングやフットサルなどのマイナースポーツからも大変な期待を寄せていただいています。

山本:AbemaTVをやって3年たつと、サイバーエージェントの藤田社長がこういうことを言うようになるんですよ。毎日自分たちであれだけのチャンネルを編成してやっているからですよね。つまり、「テレビ的なもの」に対して恐ろしく造詣が深くなっているんです。こんな話を聞かされてしまったら、放っておけない、絶対にそこに一緒にいないといけない(笑)。「一人では行かせないぞ!」という気持ちが大きかったですね。

藤田:ありがとうございます(笑)。次に、「無料」であることの強みについて。他社の動画配信サービスの多くは、いわゆる有料のサブスクリプションモデルなので、「同時にたくさんの人に見せる」ということが苦手です。その点、AbemaTVはリニアかつ無料ということで、大人数の同時視聴に強いんですね。

例を挙げると、アニメコンテンツ。開局以来行ってきたアニメ第1話の世界最速無料配信は、ついに200作品を超えました。アニメの「最速放送日」は、従来は東京ローカル局が一番多かったのですが、2019年の1月クールではAbemaTVが最多となりました。これは、テレビに代わって「全国区でより多くの人が視聴できる無料の場所」として、AbemaTVに期待が集まっている結果だと感じます。

この「リニア」であることと、「無料」であることが、従来の広告メディアとしてのテレビの特徴ですが、AbemaTVならではの特徴でもあります。

AbemaTV藤田社長
AbemaTV 藤田社長

「新しいテレビ」的な価値を高めるハイブリッド化とは?

―AbemaTVは進化している過程にあると思いますが、どのような方向性を目指しているのでしょうか。

藤田:現在、非常に力を入れているのは、「リニアとオンデマンドのハイブリッド化」です。というのも、自分自身がそうなんですが、AbemaTVを使い慣れれば使い慣れるほど、タイムシフトで見たかったり、追っかけ再生で見たかったりと、オンデマンド的な使い方が増えるのは避けられません。

それに合わせて、UIも大きく変えていこうとしています。AbemaTVの従来のUIは、見ている番組を横にスワイプしていくことでチャンネルを変えるというものですが、やはり見ているときが手持ち無沙汰になりがちなので、そこはYouTubeのように「次に見るもの」を探せるUIに変えようと。

そうなると、オンデマンド視聴に対しては課金サービスにしていくか、もしくはオンデマンドでも無料で出すものについてはなんらかの広告を導入すべきだと考えています。でも、これは地上波を見ていて感じる課題なのですが、オンデマンドやタイムシフト視聴では、どうしてもユーザーに広告を飛ばされてしまうんですよね。それでは収益機会がなくなってしまうので、そんな課題に対応できる新しい広告商品の適切な開発の仕方というのを、電通と一緒に取り組んでいきたいです。

ネットの歴史を見てみると、大きくなったサービスというのは、GoogleにせよFacebookにせよYouTubeにせよ、最初は何もマネタイズのことを考えていません。とにかくたくさんの人を集め、それがある日、決定的にスケールできる広告商品を生み出している。Googleであれば検索結果にリスティング広告を入れたり、Facebookならインフィード広告とリタゲを組み合わせたものだったり、YouTubeならTrueViewだったり。なので、AbemaTVもまずは多くのユーザーを集め、広告効果の高いスケールできるものを開発していきたいです。

そのためにはまず、メディアとしてユーザーに“視聴習慣”をつくってもらう必要がありますが、それには長い年月が必要だというのは改めて感じていますので、腰を据えてやっていきます。

山本:ありがとうございます。新しい広告商品の開発といった面でも、一緒に取り組んでいけたらと考えています。テレビ×ネットでいうと、地上波・ネット同時配信についてはどうお考えですか?

藤田:報道などでミスリードがあるなと思っているんですが、本当に価値があるのは、実は「同時配信」という部分ではないんですよ。同時配信をして、それを追っかけ再生もできて、かつ全ての番組がタイムシフトで見られるということを実現してこそ、テレビ的な価値をさらに高めた新しい体験になる。ユーザーにとってより便利なものとして、テレビを“再発明”していかなきゃいけないと思っています。そのためのハイブリッドです。

サイバーエージェントと電通、お互いをどう見ている!?

―お二人は、社長としてお互いの会社をどのように見ていますか?

山本:今日は「AbemaTVの藤田社長」にお越しいただきましたので、まずAbemaTVについて。最初にお話しした通り、電通も新しいテレビの可能性を一緒に切り開いていきたい、そのことが誰にとってもいいことであると考えています。

一方で、競合する広告会社としての「サイバーエージェントの藤田社長」が持つ若さと、革新さと、破天荒さは電通にとっては脅威です。しかし、そういう存在がいてくださることで、やり方は違うかもしれないけど、この人たちよりも革新性のあること、新しいこと、若いことを毎日やっていかなくてはならないのだと思えるので、とてもいい刺激になっています。ちょっと負け惜しみもありますけど(笑)。

「テレビ×ネット」という新しい舞台に対して、AbemaTVという新しい可能性のあるメディアに共に協力して取り組みつつ、その舞台ができたあかつきには、広告会社としてのサイバーエージェントと、堂々と戦えればいいなと思っています。

藤田:私にとって電通は、数少ない「こんな会社にしたい」と目標にしている会社です。社員が自由に働いているのに、結束が非常に強い。そんな会社を、優秀な人材をたくさん集めながらつくれるというのは、本当に参考にしたい部分です。

私は昔、アメーバブログの頃からメディア事業に傾倒していったのですが、その当時に電通のある方から食事に誘われ、「広告代理店、電通にできないの?」と言われたことがあります。「企業カルチャーがあるので、難しい」とお断りしたところ、「よし、じゃあこの話は終わりだ、今日は飲もう!」と(笑)。はっきりと、回りくどくなく言ってくれるところは、本当に電通の良さだなと思います。そういう、個人的に好きな会社でもあるんです。

広告会社サイバーエージェントとしては競合かもしれませんが、今後も電通とはさらなる連携を深め、「日本のテレビ」の持つポテンシャルをAbemaTVを通じて引き出していけたらと思っています。

山本:本日はありがとうございました!

電通 山本敏博社長、AbemaTV 藤田晋社長
電通ホール

生きた仕組みこそ、現場と経営の大動脈に

ビジネス誌『プレジデント』元編集長、現在はプレジデント社の社長・長坂嘉昭さんとの対談により、大企業のトップを長年にわたり眺め続けている彼の目からも、「今、現場社員に焦点を当てる」ことの重要性を確認したCDC・武藤新二。では、アカデミックな視点からは、どのような見解を伺うことができるでしょうか。武藤が続いて訪ねたのは、早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授の入山章栄さん。

長坂社長との対談記事は、こちら

トップは現場で「知の探索」を。
「仕組み」づくりの好手・悪手


武藤:三菱総合研究所でメーカーや政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、博士号を取得し10年以上にわたり経営学の研究を行っている入山先生。今、元気のいい企業に共通点はありますか?

入山:うまくいっている企業のトップは、必ずといっていいほど現場を歩いていますね。ボトムアップが大切であることはもちろんですが、結局トップの意思があるからこそボトムアップが実現する。トップが現場を知った上で、社員が生き生きと働ける仕組みをつくり、情報を吸い上げられる体制を築いています。経営学ではイノベーションは「既存の知と別の既存の知の新しい組み合わせ」で生まれるとされていますが、人間の認知力には限界があるため、トップは「知の探索」、つまり意識的に遠くのものと出合う努力が非常に重要。そして、彼らにとっての“遠く”とは、海外や異業種だけでなく「現場」も含まれているのです。

早稲田大学ビジネススクール・入山章栄教授(写真右)と電通・クリエーティブディレクター・武藤新二(同右)
早稲田大学ビジネススクール・入山章栄教授(写真右)と電通・クリエーティブディレクター・武藤新二(同左)

武藤:電通の「カンパニーデザイン」プロジェクトでも、現場社員のための仕組み部分を「アクティビティー」と呼び、クリエーターならではの視点でプランニングしようと考えています。入山さんがご覧になってきた企業では、具体的にはどのような仕組みづくりがされていましたか?

入山:例えばオフィス空間を歩き回りやすくデザインする、トップが若手とLINEでつながる。失敗の報告に対しインセンティブを設定するなどさまざまです。あえて労働組合と仲良くし社員の不満に向き合うというような方法をとる企業もありました。海外でいえばファーウェイが素晴らしいですね。あの会社は世界170カ国以上の企業とコラボレーションしていますが、その現場で得たものを社内の財産にするため「シェア」に対する評価制度があります。結果、社員一人一人が、知識やスキルを抱え込まず、シェアすることが当然という企業文化が完成しています。

武藤:とても興味深いですね。逆に悪い仕組みの例はありますか?

入山:変えられない、絶対に守らなければならないマニュアルを作ってしまうパターンですね。現場の状況は刻一刻と変わるので、マニュアルも常に改変されていくべきなのですが、現場社員というのはマニュアル信仰になりがち。「マニュアルは現場の意見で変えられる」という前提をつくらないと、社員たちは責任を負わないことを優先する働き方をしてしまいます。

早稲田大学ビジネススクール・入山章栄教授

組織の個性は右脳で見つかる?
「両利きの企業経営」とは

武藤:「企業のオリジナリティー」を見つけ出すことも「カンパニーデザイン」の大きなテーマです。われわれがそれを行う上で、どんなことを大事にすべきでしょうか?

入山:組織が一丸となって歩んでいくためには「この会社って何なんだっけ?」という部分、つまりオリジナリティーが必要不可欠ですよね。人間は腹落ちしないと前に進めないんですよ。だからグローバル企業はトップがとにかくビジョンを伝え続けるのですが、日本企業の場合はそのさらに手前の「この会社は何なのか」を一言で言えないことが多い。

武藤:われわれが第三者の視点から見ることで、会社の価値を発見し、言語化するなど、そこでお力になれるのではないかと考えています。

入山:特に広告業界のクリエーターさんが持つ右脳的な直感力は、経営者に求められていると思います。ビジネス領域が多岐にわたる企業だと、左脳でロジカルに分析・整理していくだけでは「細かいことは置いといて丸っと一言で言うと、結局この会社は何?」という問いの答えが出てこないんですよ。最近、戦略コンサルティングファームがデザインファームを買収するケースが増えているのは、まさにその問題に突き当たった結果です。

武藤:入山先生が重要視されている「両利きの経営」につながるお話ですね。

「両利き経営」の図
「両利き経営」の図

入山:そうですね。最新の神経科学では左脳と右脳、つまり論理思考と直感はお互い補完し合っているという説が有力になっています。論理思考ができる人は直感も発達し、直感が発達すると論理思考が発達する。企業も同様に、論理思考力と直感力を併せ持つことで好循環サイクルに入れるはずなんです。日本企業に不足しがちな右脳的な部分を電通さんがサポートすることは、組織の活性化において大きな可能性を感じます。ので、楽しみにしています。

早稲田大学ビジネススクール・入山章栄教授(写真左)と電通・クリエーティブディレクター・武藤新二

本対談を通して得られた知見

生きた仕組みづくりの極意とは?

プレジデントの長坂社長、早稲田の入山教授の取材を経て、本格的な活動をスタートさせたカンパニーデザインチーム。「カンパニーデザイン」という考え方が世に浸透し、多くの会社で導入されていくことを目指し、実践と学びを加速させていきます。

カンパニーデザインチームの新連載「なぜか元気な会社のヒミツ」は、こちら。興味を持っていただいた方は、プロジェクトサイトも併せて、どうぞ。

生きた仕組みこそ、現場と経営の大動脈に

ビジネス誌『プレジデント』元編集長、現在はプレジデント社の社長・長坂嘉昭さんとの対談により、大企業のトップを長年にわたり眺め続けている彼の目からも、「今、現場社員に焦点を当てる」ことの重要性を確認したCDC・武藤新二。では、アカデミックな視点からは、どのような見解を伺うことができるでしょうか。武藤が続いて訪ねたのは、早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授の入山章栄さん。

長坂社長との対談記事は、こちら

トップは現場で「知の探索」を。
「仕組み」づくりの好手・悪手


武藤:三菱総合研究所でメーカーや政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、博士号を取得し10年以上にわたり経営学の研究を行っている入山先生。今、元気のいい企業に共通点はありますか?

入山:うまくいっている企業のトップは、必ずといっていいほど現場を歩いていますね。ボトムアップが大切であることはもちろんですが、結局トップの意思があるからこそボトムアップが実現する。トップが現場を知った上で、社員が生き生きと働ける仕組みをつくり、情報を吸い上げられる体制を築いています。経営学ではイノベーションは「既存の知と別の既存の知の新しい組み合わせ」で生まれるとされていますが、人間の認知力には限界があるため、トップは「知の探索」、つまり意識的に遠くのものと出合う努力が非常に重要。そして、彼らにとっての“遠く”とは、海外や異業種だけでなく「現場」も含まれているのです。

早稲田大学ビジネススクール・入山章栄教授(写真右)と電通・クリエーティブディレクター・武藤新二(同右)
早稲田大学ビジネススクール・入山章栄教授(写真右)と電通・クリエーティブディレクター・武藤新二(同左)

武藤:電通の「カンパニーデザイン」プロジェクトでも、現場社員のための仕組み部分を「アクティビティー」と呼び、クリエーターならではの視点でプランニングしようと考えています。入山さんがご覧になってきた企業では、具体的にはどのような仕組みづくりがされていましたか?

入山:例えばオフィス空間を歩き回りやすくデザインする、トップが若手とLINEでつながる。失敗の報告に対しインセンティブを設定するなどさまざまです。あえて労働組合と仲良くし社員の不満に向き合うというような方法をとる企業もありました。海外でいえばファーウェイが素晴らしいですね。あの会社は世界170カ国以上の企業とコラボレーションしていますが、その現場で得たものを社内の財産にするため「シェア」に対する評価制度があります。結果、社員一人一人が、知識やスキルを抱え込まず、シェアすることが当然という企業文化が完成しています。

武藤:とても興味深いですね。逆に悪い仕組みの例はありますか?

入山:変えられない、絶対に守らなければならないマニュアルを作ってしまうパターンですね。現場の状況は刻一刻と変わるので、マニュアルも常に改変されていくべきなのですが、現場社員というのはマニュアル信仰になりがち。「マニュアルは現場の意見で変えられる」という前提をつくらないと、社員たちは責任を負わないことを優先する働き方をしてしまいます。

早稲田大学ビジネススクール・入山章栄教授

組織の個性は右脳で見つかる?
「両利きの企業経営」とは

武藤:「企業のオリジナリティー」を見つけ出すことも「カンパニーデザイン」の大きなテーマです。われわれがそれを行う上で、どんなことを大事にすべきでしょうか?

入山:組織が一丸となって歩んでいくためには「この会社って何なんだっけ?」という部分、つまりオリジナリティーが必要不可欠ですよね。人間は腹落ちしないと前に進めないんですよ。だからグローバル企業はトップがとにかくビジョンを伝え続けるのですが、日本企業の場合はそのさらに手前の「この会社は何なのか」を一言で言えないことが多い。

武藤:われわれが第三者の視点から見ることで、会社の価値を発見し、言語化するなど、そこでお力になれるのではないかと考えています。

入山:特に広告業界のクリエーターさんが持つ右脳的な直感力は、経営者に求められていると思います。ビジネス領域が多岐にわたる企業だと、左脳でロジカルに分析・整理していくだけでは「細かいことは置いといて丸っと一言で言うと、結局この会社は何?」という問いの答えが出てこないんですよ。最近、戦略コンサルティングファームがデザインファームを買収するケースが増えているのは、まさにその問題に突き当たった結果です。

武藤:入山先生が重要視されている「両利きの経営」につながるお話ですね。

「両利き経営」の図
「両利き経営」の図

入山:そうですね。最新の神経科学では左脳と右脳、つまり論理思考と直感はお互い補完し合っているという説が有力になっています。論理思考ができる人は直感も発達し、直感が発達すると論理思考が発達する。企業も同様に、論理思考力と直感力を併せ持つことで好循環サイクルに入れるはずなんです。日本企業に不足しがちな右脳的な部分を電通さんがサポートすることは、組織の活性化において大きな可能性を感じます。ので、楽しみにしています。

早稲田大学ビジネススクール・入山章栄教授(写真左)と電通・クリエーティブディレクター・武藤新二

本対談を通して得られた知見

生きた仕組みづくりの極意とは?

プレジデントの長坂社長、早稲田の入山教授の取材を経て、本格的な活動をスタートさせたカンパニーデザインチーム。「カンパニーデザイン」という考え方が世に浸透し、多くの会社で導入されていくことを目指し、実践と学びを加速させていきます。

カンパニーデザインチームの新連載「なぜか元気な会社のヒミツ」は、こちら。興味を持っていただいた方は、プロジェクトサイトも併せて、どうぞ。

AbemaTV×電通、社長対談。ネットが切り開く新しいテレビの形

“無料で楽しめるインターネットテレビ局”として成長を続けるAbemaTVに電通が出資を行ってから1年。両社のさらなる連携強化を目指して、10月3日、東京・汐留の電通ホールでイベント「Dentsu AbemaTV Day」を開催しました。

同イベント内で行われた、AbemaTVの藤田晋社長と電通の山本敏博社長によるトークセッションの模様をお届けします。

<目次>
テレビの新しい時代を切り開いていくのは何か?
「受け身視聴」をつくってこその広告。そこにAbemaTVの勝機がある
「新しいテレビ」的な価値を高めるハイブリッド化とは?
サイバーエージェントと電通、お互いをどう見ている!?

 

電通 山本敏博社長、AbemaTV 藤田晋社長
電通 山本社長、AbemaTV 藤田社長

テレビの新しい時代を切り開いていくのは何か?

―電通がAbemaTVに出資した経緯を教えてください。

山本:「日本のテレビの未来はどこにあるのか?」というのが、ずっと私の関心事です。日本のテレビの持つポテンシャルの高さは、世界でも類を見ない素晴らしいものです。ただ、正直に言うとこのままではダメだとも思っていまして、テレビの新しい時代を切り開いていくためにはやはりインターネットとの融合が不可欠だと常々感じています。ですから、テレビがネットの方向に向かっていく取り組みについては、そのどれも全て、電通も一緒に挑戦をしたい。「うちも入れてよ!」と言っています。当然、2016年にAbemaTVのサービスが始まるときにも同じ側に立ちたいと思って、テレビ朝日さんに「一緒にやりたい」と声を掛けさせてもらったのですが、その時は「サイバーエージェントの藤田さんが、ちょっと待ってほしいと言っている」という(笑)。

それから2年後の2018年に、藤田さんと一緒にご飯を食べる機会がありまして、AbemaTVが何をしようとしているのか、直接聞くことができました。その時やっぱり藤田さんの肌感覚みたいなものにすっかり感じ入って、「ネットによってテレビが新たな未来を切り開いていく現場で、同じ方向を向いて一緒にやりたい」と改めて強く思い、「電通も入れてくださいよ」と申し出たところ、その翌日にはもう藤田さんから電話がかかってきて。テレビ朝日とも話は済んでいるということで、非常に具体的な条件のお話をされて。お願いした翌日にですよ。「こういうところだな!」と思いましたね。

藤田:最初にちょっと待っていただいたのには理由がありまして、サービス開始当時、「ネットテレビをつくる」というベンチャーはAbemaTV以外にもたくさんありました。そのうちの一つとして出資を受けるのでは、物足りない。つまり、本気で「これは放っておけない」と思っていただいてから受けたかったんです。そこでテレビ朝日と相談して、「まず、どれだけわれわれが本気かということを感じてもらえるところまでは、自力で頑張りましょう」と決めました。

その後、電通の出資を受けることになったきっかけは、昨年私がチェアマンを務めるプロ麻雀リーグ、「Mリーグ」に電通が参戦してくれたことです。もう本当にうれしくなっちゃったんですが(笑)、そのタイミングで、ちょうど山本社長と食事をすることになりましたので、今度はすぐに出資をお願いした次第です。

電通山本社長
電通 山本社長

「受け身視聴」をつくってこその広告。そこにAbemaTVの勝機がある

―ネットの動画配信サービスが急速に増えていますが、AbemaTVの勝機はどこにあると考えていますか。

藤田:大きくは二つあって、「リニア」であることと、「無料」であることはAbemaTVの他にはない大きな強みだと思っています。

リニアである理由はいくつかありますが、一番の理由は「受け身視聴」をつくりたかったんです。私自身が広告会社をやってきて感じていたのは、ネット上でユーザーが目的を持ってクリックしていくもの、つまり能動的に見るコンテンツは、広告と相性があまり良くないということでした。やはり「受け身視聴」をつくってこその広告である、ということです。しかも、多くの人に見てもらわなければ広告にならない。

「ブランド広告はインターネットにシフトする」と以前から言われていますが、僕の体感値ではまだそれほどシフトしていません。出す場所がないんですよ。ネットでたくさんの視聴者を得ているメディアの多くがCGM(ユーザー投稿型メディア)なので、要は広告主のブランド力や好感度を上げるような出しどころというのが本当に少ない。そんな中で、ちゃんとクオリティーを管理できて、安心できるスペースをつくりたかったんです。

山本:ちょっといいでしょうか。皆さん、私は藤田さんと食事をしたときにこの話を聞いて、本当に衝撃を受けましたよ。あのサイバーエージェントの藤田晋がですよ、「広告、特にブランド広告は、やっぱりリニアで、受け身視聴でなくては効果がない」と言うんですから。あ、ごめんなさいね(笑)。

藤田:いやいや(笑)。それで、先ほど山本社長がおっしゃった日本のテレビのポテンシャルについては、僕も全く同じように考えています。だけど、今ある動画配信サービスは大半がオンデマンドで、実質的にテレビをリプレースできているものはありません。つまり、テレビのメインコンテンツである「ニュース番組」や「スポーツ中継」の流し場所というものがネット上にない。「テレビが出せるものが、ネットでは出せていない」という状況がまず頭にあったんです。

今では、「緊急ニュースがあればAbemaTVを開く」というのが、ある程度ネットユーザーに浸透してきました。スポーツでも、大相撲や格闘技などをAbemaTVで視聴する人は増えている。また、将棋に麻雀など、非常に放送時間が長い中継コンテンツを流すのに適しているのも強みですね。加えて、テレビではなかなか見られないフェンシングやフットサルなどのマイナースポーツからも大変な期待を寄せていただいています。

山本:AbemaTVをやって3年たつと、サイバーエージェントの藤田社長がこういうことを言うようになるんですよ。毎日自分たちであれだけのチャンネルを編成してやっているからですよね。つまり、「テレビ的なもの」に対して恐ろしく造詣が深くなっているんです。こんな話を聞かされてしまったら、放っておけない、絶対にそこに一緒にいないといけない(笑)。「一人では行かせないぞ!」という気持ちが大きかったですね。

藤田:ありがとうございます(笑)。次に、「無料」であることの強みについて。他社の動画配信サービスの多くは、いわゆる有料のサブスクリプションモデルなので、「同時にたくさんの人に見せる」ということが苦手です。その点、AbemaTVはリニアかつ無料ということで、大人数の同時視聴に強いんですね。

例を挙げると、アニメコンテンツ。開局以来行ってきたアニメ第1話の世界最速無料配信は、ついに200作品を超えました。アニメの「最速放送日」は、従来は東京ローカル局が一番多かったのですが、2019年の1月クールではAbemaTVが最多となりました。これは、テレビに代わって「全国区でより多くの人が視聴できる無料の場所」として、AbemaTVに期待が集まっている結果だと感じます。

この「リニア」であることと、「無料」であることが、従来の広告メディアとしてのテレビの特徴ですが、AbemaTVならではの特徴でもあります。

AbemaTV藤田社長
AbemaTV 藤田社長

「新しいテレビ」的な価値を高めるハイブリッド化とは?

―AbemaTVは進化している過程にあると思いますが、どのような方向性を目指しているのでしょうか。

藤田:現在、非常に力を入れているのは、「リニアとオンデマンドのハイブリッド化」です。というのも、自分自身がそうなんですが、AbemaTVを使い慣れれば使い慣れるほど、タイムシフトで見たかったり、追っかけ再生で見たかったりと、オンデマンド的な使い方が増えるのは避けられません。

それに合わせて、UIも大きく変えていこうとしています。AbemaTVの従来のUIは、見ている番組を横にスワイプしていくことでチャンネルを変えるというものですが、やはり見ているときが手持ち無沙汰になりがちなので、そこはYouTubeのように「次に見るもの」を探せるUIに変えようと。

そうなると、オンデマンド視聴に対しては課金サービスにしていくか、もしくはオンデマンドでも無料で出すものについてはなんらかの広告を導入すべきだと考えています。でも、これは地上波を見ていて感じる課題なのですが、オンデマンドやタイムシフト視聴では、どうしてもユーザーに広告を飛ばされてしまうんですよね。それでは収益機会がなくなってしまうので、そんな課題に対応できる新しい広告商品の適切な開発の仕方というのを、電通と一緒に取り組んでいきたいです。

ネットの歴史を見てみると、大きくなったサービスというのは、GoogleにせよFacebookにせよYouTubeにせよ、最初は何もマネタイズのことを考えていません。とにかくたくさんの人を集め、それがある日、決定的にスケールできる広告商品を生み出している。Googleであれば検索結果にリスティング広告を入れたり、Facebookならインフィード広告とリタゲを組み合わせたものだったり、YouTubeならTrueViewだったり。なので、AbemaTVもまずは多くのユーザーを集め、広告効果の高いスケールできるものを開発していきたいです。

そのためにはまず、メディアとしてユーザーに“視聴習慣”をつくってもらう必要がありますが、それには長い年月が必要だというのは改めて感じていますので、腰を据えてやっていきます。

山本:ありがとうございます。新しい広告商品の開発といった面でも、一緒に取り組んでいけたらと考えています。テレビ×ネットでいうと、地上波・ネット同時配信についてはどうお考えですか?

藤田:報道などでミスリードがあるなと思っているんですが、本当に価値があるのは、実は「同時配信」という部分ではないんですよ。同時配信をして、それを追っかけ再生もできて、かつ全ての番組がタイムシフトで見られるということを実現してこそ、テレビ的な価値をさらに高めた新しい体験になる。ユーザーにとってより便利なものとして、テレビを“再発明”していかなきゃいけないと思っています。そのためのハイブリッドです。

サイバーエージェントと電通、お互いをどう見ている!?

―お二人は、社長としてお互いの会社をどのように見ていますか?

山本:今日は「AbemaTVの藤田社長」にお越しいただきましたので、まずAbemaTVについて。最初にお話しした通り、電通も新しいテレビの可能性を一緒に切り開いていきたい、そのことが誰にとってもいいことであると考えています。

一方で、競合する広告会社としての「サイバーエージェントの藤田社長」が持つ若さと、革新さと、破天荒さは電通にとっては脅威です。しかし、そういう存在がいてくださることで、やり方は違うかもしれないけど、この人たちよりも革新性のあること、新しいこと、若いことを毎日やっていかなくてはならないのだと思えるので、とてもいい刺激になっています。ちょっと負け惜しみもありますけど(笑)。

「テレビ×ネット」という新しい舞台に対して、AbemaTVという新しい可能性のあるメディアに共に協力して取り組みつつ、その舞台ができたあかつきには、広告会社としてのサイバーエージェントと、堂々と戦えればいいなと思っています。

藤田:私にとって電通は、数少ない「こんな会社にしたい」と目標にしている会社です。社員が自由に働いているのに、結束が非常に強い。そんな会社を、優秀な人材をたくさん集めながらつくれるというのは、本当に参考にしたい部分です。

私は昔、アメーバブログの頃からメディア事業に傾倒していったのですが、その当時に電通のある方から食事に誘われ、「広告代理店、電通にできないの?」と言われたことがあります。「企業カルチャーがあるので、難しい」とお断りしたところ、「よし、じゃあこの話は終わりだ、今日は飲もう!」と(笑)。はっきりと、回りくどくなく言ってくれるところは、本当に電通の良さだなと思います。そういう、個人的に好きな会社でもあるんです。

広告会社サイバーエージェントとしては競合かもしれませんが、今後も電通とはさらなる連携を深め、「日本のテレビ」の持つポテンシャルをAbemaTVを通じて引き出していけたらと思っています。

山本:本日はありがとうございました!

電通 山本敏博社長、AbemaTV 藤田晋社長
電通ホール

自由に動いてビジョンでつながる「ティール組織」によるアイヌ文化の新価値発掘

2019年10月、新宿のビームス ジャパンで、北海道阿寒湖温泉の若手アイヌ工芸家と日本各地の手仕事を紹介し続けているセレクトショップBEAMSのレーベル<fennica(フェニカ )>のコラボ商品が発売されました。本連載第1回では、「地産外商」や「観光地から交流地への変革」というビジネスモデルや、持続的にプロジェクトを進めるためのモチベーション・ビルディングについて紹介しました。

第2回では、私たちが出合ったアイヌ文化が現代社会に提起する、「未来へのヒント」ともいうべき価値と、その価値への気付きを社会の需要に結び付け、コラボレーション商品の開発に至った「自由意思で動くチーム=ティール組織」について組織論的視点で考察します。

「アイヌ文化」という異文化との遭遇

「アイヌ」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。私は以前、土産物店でアイヌ文様らしきものを見かけたことがありましたが、「個性的だな」という印象にとどまり、その後は全く接点がなく、深く知ることはありませんでした。

今回、阿寒湖の地域活性プロジェクトをスタートするに当たって思い出したのが文様のこと。アイヌの方々と話していくうちに、木彫りなどに施される個性的な文様には魔よけの意味があり、着物に刺繍する際には、着る人・使う人を思って刺繍するなど、アイヌ民族・文化に独特な特徴があり、これは魅力的なコンテンツになることを確信しました。

一方で、当初は個性が強い文様ゆえにアイヌ工芸をふだんの暮らしに取り入れるのは難しいかもしれないという直感も働いていました。われわれは「地産外商」という目標を掲げ、旅の思い出にアイヌ工芸品を買うという"土産品”で終わることなく、例えば「イイな」と思って買ったらアイヌ工芸だったというような普遍的価値のある商品の開発を目指しており、「古き良きアイヌ」にはとどまらない、どこか新しい見せ方で、ターゲットとなる地域外の人々との接点をつくりたいと考えました。

伝統的なアイヌ文様があしらわれた着物
伝統的なアイヌ文様があしらわれた着物

現代人のバイブル?! SDGsの先を行くアイヌ民族

彼らとの接点が濃くなるうちに印象的だったのが、アイヌ民族の自然と共生する姿勢。すべての動物、植物、ひいては道具にまでカムイ(神)が宿るという教えがあります。獲物として捕らえた母熊と一緒にいる子熊は、殺すことなく大きくなるまで育てていた習慣があったり、衣料やカゴなど織物の素材になる植物を採る際には「いただく」と言ったり、「感謝の気持ちを持つように」「採る際には根こそぎ採らないように」と生命を絶やすことのないよう、語り継がれています。

また日本国内で後継者不足により消滅していく手工芸品も多い中で、アイヌの人たちの手仕事が暮らしの中で自然と代々受け継がれているケースを耳にしました。「おばあちゃんに刺繍を習った」「おばちゃんと一緒に材料を採りに行った」というように。自然やモノを大事にすることを生まれながらに知っている民族なのです。これはSDGsの先を行っている、と感じました。

このようにアイヌ社会での考え方や暮らし方には、現代人が失ってしまったものを取り戻し、強く生きていくための未来へのヒントがあるのではないかと感じ、「現代人のバイブル」的存在に捉え方が変わりました。

工芸品の素材となる「ツルウメモドキ」を採集
工芸品の素材となる「ツルウメモドキ」を採集

「阿寒湖で生きる」がブランドストーリーの核

初めて阿寒湖温泉を訪問したのは、アイヌ新法の成立に先立つこと2年近く。2017年初秋でした。豊かな大自然を味わいながら現地を散策するとともに、道内屈指のアイヌコタン(村・集落)にある幾つかの土産店や工房を訪ね、コラボレーションの可能性を探りました。同じように見えていた商品群の中でも「これは」と心に触れる作品に幾つか出合い、幸いにもその制作者の方々から参画の承諾を得られ、木彫り、刺繍、織物、彫金の技術を持った若手の作家たちが集まりました。

工房内でカフェを営む彫金作家
工房内でカフェを営む彫金作家

出会った初日から、作品の味わいだけではなく、魅力あふれる人間性、また阿寒湖という森と湖に囲まれた風土が阿寒湖アイヌ民族の個性を下支えしている様子がうかがわれ、確固たるブランドに昇華していくだろうとの予感を抱きました。阿寒湖温泉ではアイヌ舞踊のシアターを構えたり、民族衣装で観光船のガイドをするなど他地域に先駆けて文化発信に取り組んできた特徴があり、伝統を守るだけではない「開かれたアイヌ」というポジションも生かせると考えました。

こうした気付きから、開発していく商品とともに作家のライフスタイルや人物像をブランドの核にしたいと考えるようになりました。作家の内面にまで迫りたいと、アイヌコタン出身、アイヌ文化の中で育ったライターの方に参画いただき、作家自身をフィーチャーしたウェブサイト「kar pe kuru ~創り手の街 阿寒湖温泉」を商品発表の半年前から公開して下地をつくり、発売時、作家のプロフィールと作品をひも付けて詳細に紹介するなど、ブランドの核を固めていきました。

自由に動いてビジョンでつながる「ティール組織」が生んだ想像以上の成功

今回、電通が得意とするブランディングやプロモーションの領域を超えた事業のプロデュースが可能となったのは、自由なチーミングが鍵だったと考えます。今回のメンバーは数年前たまたま席を並べていて、現在はそれぞれが異なる部署で異なるミッションに当たっていた3人のチームでした。われわれには営業・ストラテジックプランニング・出版・コンテンツ・人事・経営企画の経験があり、さまざまな職能を持ち合わせたチームです。プロジェクト後半には電通北海道のメンバーも加わり、共にプロジェクトを進めています。

経営の世界では次世代型の組織モデル「ティール組織」が話題ですが、われわれも事前の役割を規定せず、専門性の異なる一人一人が主体的に職能を発揮しつつ、プロジェクトが有機的に進んでいきました。常に本質的な問題と向き合い、異なる視点から多角的に課題を発見。時には領域侵犯しながら考えをぶつけ合いソリューションを生み出していくことで、各人のスキルアップも実現しました。

SDGsでは企業や自治体の活動が頻繁に紹介されますが、そこにアイヌ民族が受け継いできた暮らし方に着目し「われわれに未来のヒントをくれるバイブル的存在」と捉えてみるなど、これまで見いだされていないソリューションのポイントをつくり出すためには、このような自由意思に基づく幅広い視野と動き方が肝要だったと考えます。

また、ゼロからのスタートで規定演技は通用せず、東京と阿寒湖という物理的な距離や、アイヌ民族とセレクトショップという業態の縁遠さを埋めていくチャレンジングな取り組みという点でもフレキシブルな発想が必要でした。

上意下達ではない自主運営のティール組織においては、プロジェクトが目指すべき方向性・ゴールといった「ビジョン」がメンバーの自由な動き方を規定する唯一のルールといえるでしょう。ビジョンを共有し、変化に自由であること。それらは活動しながら、さらに皆で発展させていくのが望ましい形です。

本プロジェクトにおけるティール組織が生んだ効果

さまざまなプレーヤーとのフレキシブルな体制にもビジョンが重要

阿寒湖温泉で活動する若手アイヌ工芸作家と、日本各地の手仕事を市場に紹介し続けているセレクトショップBEAMSのレーベル<fennica>(ディレクターはロンドン在住)。本来巡り合うことのなかった両者を結び付けましたが、社内のメンバーに加えて阿寒湖温泉の観光協会、釧路信用金庫、現地コーディネーター、アイヌ民族のライターの方々とのフレキシブルな連携がそれを可能にしました。そこにもビジョンの存在が重要であったことは間違いありません。

阿寒湖訪問初日にfennicaディレクターの北村恵子氏は語りました。「日本の手仕事は各地で消滅の危機を迎えています。今なら、後継者がいなくても、そばで見ていた人がいたり、かつては触ったことがある人がいたり、ギリギリ間に合うタイミング。技術は途絶えてしまったらそこで終わりですから。素晴らしい技術は守らなくては、今やらなくては、という使命感のようなものがわれわれにはあります」。

実際に仙台の伝統工芸品であるこけしをアップデートして「インディゴこけし」としてよみがえらせ、コレクターの女性「こけ女」が発売前に行列する「こけしブーム」を仕掛けた方です。説得力がありました。こうした思想はfennicaの元々の活動ビジョンにあるものですが、結果としてわれわれのモチベーションへとつながり、プロジェクトのビジョンに組み入れられてチームの全員が意識するようになりました。

自由意思でチームを動かすためのコンセプトワード開発のすすめ

ティール組織の運営において効力があったのは「ことば」です。立ち上げ当初から、プロジェクトのビジョンや世界観をコンセプトワードにまとめ意図的に使用してきました。ゼロからの立ち上げという点を逆手に取り、常に高い目標設定でプロジェクトを描いていましたが、「阿寒湖Next Generation」もその一つ。作家のブランディングとして、単なる若手ではなく、もともと瀧口政満氏、藤戸竹喜氏、床ヌブリ氏をはじめ木彫作家の巨匠たちを輩出してきた阿寒湖の次世代を担う人たち、というポジションを形成し地域の資産を活かしたいという狙いでした。

当初からチーム内で使っていたプロジェクトの仮称「AKAN AINU Collection」に込めていたのは、阿寒湖のアイヌ文化らしさが感じられ、コレクション欲をそそるアイテム群をつくり、一過性ではなく永続的なブランドとして立ち上げること。そしてお土産物とは一線を画したアート性×ライフスタイルのあるイメージです。

これらのワードは、fennicaディレクターのテリー・エリス氏による“新作コレクション”発表イベントのタイトルへと引き継がれます。題して「アイヌ クラフツ 伝統と革新 -阿寒湖から-」(英題:AINU CRAFTS from Lake Akan Tradition and Innovation)。2年余の歳月の中でメンバーの思いは「ことば」で引き継がれながら進化し、やがてかたちになったのです。

イベントのキービジュアル
イベントのキービジュアル