思ったよりもいいヤツだった? 人工知能の実力を探る“AIグラフィック”

アートディレクションの拡張を目指す“NEWSPACE NEW PROTOTYPE OF ART DIRECTION”プロジェクト。発足以来、次々と注目のアートディレクターが実験的な試みを発表しています。第4弾の作品は、人工知能にグラフィックデザインをさせる“AI GRAPHIC DESIGN PROJECT”。

アートディレクションを手掛けたのは、普段はアナログ志向だという江波戸李生です。異色のチャレンジによって体感したAIの素顔、デザインにおける可能性を語ります。


AIさん。世間で騒がれてますけど…何ができるんですか?

最新のAIグラフィックの作品をご覧いただいた上で、記事もご覧ください!

 

──AIにデザインをさせるという発想へは、どのように行き着いたのでしょうか。

私は、大学でファッション、舞台美術、インテリアなどを学んでいました。自分も同級生も、全て手作業で作品を完成させていくことが多く、その影響かアナログ大好き人間になりました。デジタルって聞くと、距離を置いてきました…。

ですが、今回立ち上げられた“NEWSPACE”はアートディレクションの実験の場だと聞いて、普段は手を出さない領域にあえて踏み込んでみることに。「世間ではもてはやされているけど、本当にデザインができるのか!?」と、半ばケンカ腰でAIへの挑戦を決めました。

まず、僕には人工知能に関する知識がほぼなかったため、AI研究とメディアアートの制作をしている東京大大学院特任助教の山岡潤一氏とアーティストの草野絵美氏に教えを請うことに。そこで紹介されたのが「DCGAN(ディーシーギャン)」という画像版のディープラーニングAIソフトです。AIが大量の画像素材を学習し、新たな画像をつくり出す。この技術からAIにグラフィックデザインをさせてみようという発想に至りました。


約200点の画像素材から16×4500通りものビジュアルを生み出す

──AIにグラフィックデザインをさせるプロセスとは?

工程として、まずAIに学習させる画像のデータを収集する手順があります。今回の一連の作品に対しては、シンプルな色面構成のような画像を集め、200点ほどに絞ってDCGANに与えました。

最初に全ての素材を与え「あなたが考えたグラフィックデザインを見せてください」と、繰り返し結果を求めていきます。今回の実験では、4500回以上結果を出させて経過を観察しました。

1回の結果につき、16点の画像がDCGANから提示されます。膨大な結果の中から、過程が読み取れる画像を以下にピックアップしました。

AIグラフィック作品

AIも混沌から試行錯誤してオリジナリティーを絞り出す

 

AIグラフィック作品
AIグラフィック作品
AIグラフィック作品
AIグラフィック作品

──4点の作品と、AIによるデザインの特徴について教えてください。

どんな素材を与えても、初期には一番左上の画像に代表されるようなもやもやとした画像が提示されます。初めて見せられたものから何かを紡ぎ出そうとしている感じ、いろいろな情報によって頭の中をかき回されている感じが出ています。

回数を重ねるごとに形を見せ始め、構成がシンプルになったり、ベタになったりしながら、オリジナリティーを出そうと奮闘しているさまには親近感すら覚えます。途中で画面がブレークしたり、変化が止まったりと、過学習による現象も観察できました。

後半にかけては、結果が似てきます。明度のバランス、形の複雑さなどは変化しますが、徐々に方向性が固まっていきます。


人間が触れることで個性やキャラクターが芽生え、育つ

──実際にAIと向き合って得た成果、感じた将来性とは?

この実験をする上で一番意識したのは、いかにこのAIらしさを引き出すかという点です。実は、ポスターや商品パッケージなども素材としてDCGANに与えてみました。すると元の素材に近づこうとする性質が働き、まるでパクリのような画像が多出。

学習させる内容をしっかりと精査することで、オリジナリティーのあるビジュアルを導き出すことができたと思います。

実験前と今で、AIの印象は「よく名前を聞くけど、距離を置きたい偉そうなヤツ」から「結構がんばる、いいヤツ」へ変わりました。必死に何かを生み出そうとする力を感じられたし、今回の結果だけでいうなら「まだまだだな」と安堵した面もあります。

AIにゼロから学習をさせる過程は、子どもに言語を教えるようなもの。相手は育てなくちゃいけない赤ん坊のような存在で、僕らが触れることで個性やキャラクターが形成されていきます。

今回の実験結果はまだグラフィックデザインとして主張できる段階にはありませんが、人工知能ソフトは速いスピードで進化しています。同じプロセスを踏んでも日に日に精度が上がっていくはずなので、楽しみですね。AIがつくるグラフィックをアートや音楽、ファションなどの分野に転換してアウトプットすることも考えています。


研ぎ澄まされた感性で生き残るアートディレクターに

──将来AIに取って代わられる職種もあるという説ですが、アートディレクターはどうでしょうか?

自分たちの仕事がなくなるかもしれない、ターゲットへ端的に届く情報の羅列のような広告が量産されるようになるかもしれない、という危機感はどこかに持っています。

一方、新しい技術がもたらす利便性に対し、手触りや重みを感じられるものや体験の価値はなくならないとも感じています。音楽産業に例えるなら、CDが衰退してデータが進化すると同時に、アナログレコード盤の価値が高まっていくように。

広告で表現をする基礎体力があれば、どんなジャンルのアートディレクションにも対応できる。グラフィックデザインの傍らで空間やプロダクトを手がける周囲の先輩たちがそうでした。

アナログとデジタルのちょうどいいところを突く、感覚の研ぎ澄まされたプロのアートディレクターであれば、時代が進んでも適応していけるのではないでしょうか?そうなるためには人間もAIと同じで、学習とアウトプットを重ねるしかない。だからAIに親近感が湧いたのかもしれないし、まだ自分にやれることがあると思えました。

よい広告デザインをつくるために、AIに仕事をアシストしてもらう関係もありですよね。そんなワガママな夢も今回の実験から生まれ、どう発展するかは未知数ですが、AIとはこれからも付き合っていきたいと考えています。

人工知能に長けている社内外の方々とリンクをし、可能性を探っていきたいと考えています。“AI GRAPHIC DESIGN PROJECT”プロジェクトに興味を持っていただけたら、ぜひinfo@newspace.galleryまでご一報ください。

 

思ったよりもいいヤツだった? 人工知能の実力を探る“AIグラフィック”

アートディレクションの拡張を目指す“NEWSPACE NEW PROTOTYPE OF ART DIRECTION”プロジェクト。発足以来、次々と注目のアートディレクターが実験的な試みを発表しています。第4弾の作品は、人工知能にグラフィックデザインをさせる“AI GRAPHIC DESIGN PROJECT”。

アートディレクションを手掛けたのは、普段はアナログ志向だという江波戸李生です。異色のチャレンジによって体感したAIの素顔、デザインにおける可能性を語ります。


AIさん。世間で騒がれてますけど…何ができるんですか?

最新のAIグラフィックの作品をご覧いただいた上で、記事もご覧ください!

 

──AIにデザインをさせるという発想へは、どのように行き着いたのでしょうか。

私は、大学でファッション、舞台美術、インテリアなどを学んでいました。自分も同級生も、全て手作業で作品を完成させていくことが多く、その影響かアナログ大好き人間になりました。デジタルって聞くと、距離を置いてきました…。

ですが、今回立ち上げられた“NEWSPACE”はアートディレクションの実験の場だと聞いて、普段は手を出さない領域にあえて踏み込んでみることに。「世間ではもてはやされているけど、本当にデザインができるのか!?」と、半ばケンカ腰でAIへの挑戦を決めました。

まず、僕には人工知能に関する知識がほぼなかったため、AI研究とメディアアートの制作をしている東京大大学院特任助教の山岡潤一氏とアーティストの草野絵美氏に教えを請うことに。そこで紹介されたのが「DCGAN(ディーシーギャン)」という画像版のディープラーニングAIソフトです。AIが大量の画像素材を学習し、新たな画像をつくり出す。この技術からAIにグラフィックデザインをさせてみようという発想に至りました。


約200点の画像素材から16×4500通りものビジュアルを生み出す

──AIにグラフィックデザインをさせるプロセスとは?

工程として、まずAIに学習させる画像のデータを収集する手順があります。今回の一連の作品に対しては、シンプルな色面構成のような画像を集め、200点ほどに絞ってDCGANに与えました。

最初に全ての素材を与え「あなたが考えたグラフィックデザインを見せてください」と、繰り返し結果を求めていきます。今回の実験では、4500回以上結果を出させて経過を観察しました。

1回の結果につき、16点の画像がDCGANから提示されます。膨大な結果の中から、過程が読み取れる画像を以下にピックアップしました。

AIグラフィック作品

AIも混沌から試行錯誤してオリジナリティーを絞り出す

 

AIグラフィック作品
AIグラフィック作品
AIグラフィック作品
AIグラフィック作品

──4点の作品と、AIによるデザインの特徴について教えてください。

どんな素材を与えても、初期には一番左上の画像に代表されるようなもやもやとした画像が提示されます。初めて見せられたものから何かを紡ぎ出そうとしている感じ、いろいろな情報によって頭の中をかき回されている感じが出ています。

回数を重ねるごとに形を見せ始め、構成がシンプルになったり、ベタになったりしながら、オリジナリティーを出そうと奮闘しているさまには親近感すら覚えます。途中で画面がブレークしたり、変化が止まったりと、過学習による現象も観察できました。

後半にかけては、結果が似てきます。明度のバランス、形の複雑さなどは変化しますが、徐々に方向性が固まっていきます。


人間が触れることで個性やキャラクターが芽生え、育つ

──実際にAIと向き合って得た成果、感じた将来性とは?

この実験をする上で一番意識したのは、いかにこのAIらしさを引き出すかという点です。実は、ポスターや商品パッケージなども素材としてDCGANに与えてみました。すると元の素材に近づこうとする性質が働き、まるでパクリのような画像が多出。

学習させる内容をしっかりと精査することで、オリジナリティーのあるビジュアルを導き出すことができたと思います。

実験前と今で、AIの印象は「よく名前を聞くけど、距離を置きたい偉そうなヤツ」から「結構がんばる、いいヤツ」へ変わりました。必死に何かを生み出そうとする力を感じられたし、今回の結果だけでいうなら「まだまだだな」と安堵した面もあります。

AIにゼロから学習をさせる過程は、子どもに言語を教えるようなもの。相手は育てなくちゃいけない赤ん坊のような存在で、僕らが触れることで個性やキャラクターが形成されていきます。

今回の実験結果はまだグラフィックデザインとして主張できる段階にはありませんが、人工知能ソフトは速いスピードで進化しています。同じプロセスを踏んでも日に日に精度が上がっていくはずなので、楽しみですね。AIがつくるグラフィックをアートや音楽、ファションなどの分野に転換してアウトプットすることも考えています。


研ぎ澄まされた感性で生き残るアートディレクターに

──将来AIに取って代わられる職種もあるという説ですが、アートディレクターはどうでしょうか?

自分たちの仕事がなくなるかもしれない、ターゲットへ端的に届く情報の羅列のような広告が量産されるようになるかもしれない、という危機感はどこかに持っています。

一方、新しい技術がもたらす利便性に対し、手触りや重みを感じられるものや体験の価値はなくならないとも感じています。音楽産業に例えるなら、CDが衰退してデータが進化すると同時に、アナログレコード盤の価値が高まっていくように。

広告で表現をする基礎体力があれば、どんなジャンルのアートディレクションにも対応できる。グラフィックデザインの傍らで空間やプロダクトを手がける周囲の先輩たちがそうでした。

アナログとデジタルのちょうどいいところを突く、感覚の研ぎ澄まされたプロのアートディレクターであれば、時代が進んでも適応していけるのではないでしょうか?そうなるためには人間もAIと同じで、学習とアウトプットを重ねるしかない。だからAIに親近感が湧いたのかもしれないし、まだ自分にやれることがあると思えました。

よい広告デザインをつくるために、AIに仕事をアシストしてもらう関係もありですよね。そんなワガママな夢も今回の実験から生まれ、どう発展するかは未知数ですが、AIとはこれからも付き合っていきたいと考えています。

人工知能に長けている社内外の方々とリンクをし、可能性を探っていきたいと考えています。“AI GRAPHIC DESIGN PROJECT”プロジェクトに興味を持っていただけたら、ぜひinfo@newspace.galleryまでご一報ください。

 

超高度IT人材の宝庫、「AtCoder」の実態とは?

世界トップクラスのプログラマー高橋直大氏に登場いただき、高度IT人材の採用と育成について考える本連載。今回は、高橋氏が代表を務める、競技プログラミングコンテストを開催するAtCoderの実態と、今後の展望について語っていただきます。

AtCoderって何?どんな人材がいるの?

AtCoderは、本連載で紹介してきた「競技プログラミング」の大会を、オンラインで開催する日本のサービスです。

世界中から極めてレベルの高いプログラマーが集まり、毎週土曜日に約5000人の参加者が同時に、自身のプログラミング能力や、アルゴリズム構築能力を競い合っています。

さて、そんなレベルの高いAtCoderですが、参加者はどんな人たちなのでしょうか?

プログラミングのコンテストに、毎週土曜日の夜9時から参加する…というと、極めて勉強熱心で、スキルアップに情熱を注いでいるような人たちを、皆さん想像するのではないかと思います。

もちろん、そのような参加者も多くいます。ですが、実は、AtCoderのユーザの大多数は、勉強やスキルアップだけを期待して競技プログラミングに参加しているわけではありません。実は、かなりのユーザが、AtCoderを「ゲーム」だと思ってプレーしているのです。

問題が与えられ、アルゴリズムを考え、プログラムを組む、という一連の流れを、ゲームとして楽しむ。そんな人が多数存在するのがAtCoderであり、競技プログラミングの世界です。

実社会に求められる「教育性」と、モチベーションを保つ「娯楽性」の両立

AtCoderの参加者に、「AtCoderに参加している理由は何ですか?」とアンケートを取ると、以下のような結果になりました。

https://twitter.com/chokudai/status/1187208275026034688

高橋直大氏Twitterアンケート画像

やはり、アルゴリズム学習などのスキルアップを期待しているユーザは数多くいます。ですが、面白いコンテストが開催されるから、という項目にも、かなり多くの票が入っています。これは、重要な要素です。

一見しただけでは、競技プログラミングに娯楽性があるようには見えにくいかもしれません。ですが、「数学パズル的な要素」「競技性」の2点で、娯楽性を確保しています。以下、これらについて解説していきます。

まず、第一に面白いのは、「数学パズル」の要素です。情報科学の世界は数学が大量に存在し、「それらを数学的に解決していく」ことに面白さを感じる人が多くいます。この部分の面白さは、本連載の第1回でかなりしっかりと書いたつもりです。

このパズルが面白いと思えれば適性がありますし、そうでない人は、あまり競技プログラミングに向いていないかもしれません。第1回を読んで面白さを感じた方は、ぜひ競技プログラミングに挑戦してもらえればと思います。

ちなみにAtCoder社員の半数近くは、競技プログラミングの世界大会の決勝大会に進出経験があります。そしてAtCoderの問題は、コンテスト上位参加者が投稿した問題の中から、社員が厳選したものを出題しています。そのため、国内だけではなく、海外でも「AtCoderの問題の面白さは世界一だ」と評価する人が多くいるというレベルです。

次に「競技性」についてですが、コンテストという場を用意し、順位表を提供するといった、競技の場が整えられていることが、面白さを生む要因の一つとなります。

計算ドリルの問題を解くのが好き!という方は、あまり多くないと思います。しかし、そういった方でも、100マス計算競争をしてもらうと、結構楽しんでくれる人が多かったりします。

これは、100マス計算のタイムを競うという「競技性」をはっきりさせたことで、タイムを競い合う競争要素や、実力の上昇をタイムで実感できるなどのメリットが発生し、楽しく取り組めるわけです。

AtCoderでも、競い合いの面白さを感じてもらうため、さまざまな要素を用意しています。例えば、コンテストに参加するごとに、「レーティング」という実力指標が更新され、自分の実力の変化を分かりやすく見られるようにしています。また、一定レーティングごとに色を変えることにより、名前の色で、その人の実力がすぐに分かるようになっているのです。

AtCoderに参加する高校生のレーティング変化グラフ
AtCoderに取り組む高校生のレーティング変化。成長が実感しやすい

その他にも、「解いた問題数」を増やしていくことに楽しみを感じたり、Twitterなどでライバルを見つけ、勝敗を楽しんだり、世界のトッププログラマーが競い合うコンテストの提出時間を見て、その速さに興奮したり、ある種のネットゲームとしての地位を確立しているのが、競技プログラミングなのです。

とても正直に言ってしまえば、競技プログラミングは、アルゴリズムやプログラミングを学ぶ上で、最も効率が良い方法ではありません。モチベーションが十分に保てるのであれば、学習書で勉強したり、作りたいものを決めた上で、それにあった応用分野を勉強したりする方が役に立つ、という主張は、その通りだと思っています。

しかし、高いモチベーションを保ちながら、これからの社会に必要なスキルを勉強し続けられる人は、決して多くはありません。競技プログラミングは、「実社会に役に立ち、そこそこ楽しめるネットゲーム」という、二つの要素を持っているからこそ発達してきた文化です。昨今の若者が、続々と競技プログラミングを始める理由はここにあります。

AtCoder人材に熱視線を向ける企業たち

さて、そんな人材の揃うAtCoderですが、これらの人材を、各種IT企業から見るとどうなるでしょうか?

本人たちはネットゲームとして楽しんでいるAtCoderですが、企業から見れば、「毎週土曜の夜からコンテストに参加し、それ以外の日も、授業や仕事以外の時間に熱心に勉強をしている、極めて高度なIT人材」となるわけです。

実際のところ、彼らがどういうモチベーションで取り組んでいるかはともかく、能力的には他を圧倒するとんでもない能力を持った人材が大量にいます。AtCoderの上位30%ほどである「緑色」(前出の画像の800~1199点)の人材は、他社転職サイトのアルゴリズムスキルチェックだと、上位1~2%に匹敵します。

競技プログラミング参加者の高いモチベーションから生まれる高い能力が知られてきたことで、AtCoderには多くの企業が注目しています。競技プログラミングで成果を出すプログラマーを、高度IT人材として、リクルーティングしよう、という動きが活発になっているのです。

AtCoder、ユーザー、企業の関係の三角図

これまでにAtCoder上でコンテストを開いた企業は20社以上存在します。今や、競技プログラミング、およびAtCoderは、IT人材市場にとって、無視できない存在に成長してきているわけです。

リクルートやドワンゴ、サイバーエージェント、KLabなどのウェブ系企業、MUJINやCADDiなどの勢いのあるベンチャー企業などの、いわゆるIT企業はもちろんのこと、DISCOなどの製造業の企業や、ヤマト運輸などの一見ITに関係ない企業も、コンテストを開催し、人材獲得に乗り出しています。

大規模なコンテストやプログラミングのスキル検定サービスも開始

さて、AtCoderでコンテストを開催した企業は数多くありますが、実はAtCoder社では、広告費を使ったことはほとんどありません。

これまでAtCoderでコンテストを開いていた企業は、口コミやTwitterなどでAtCoderを発見した、技術系の話題に極めて敏感な企業だけでした。

つまりAtCoderの優秀な人材は、そうした企業に就職・転職していき、そうでない企業には優秀な人材が集まらない、というのが現状です。

そこで、AtCoder社は、今年4月、電通から資本提携を受け、共同で競技プログラミング事業に当たることになりました。もちろん問題やコンテストシステムはAtCoder社が100%コントロールしていますが、電通が加わることにより、これまでリーチできなかったさまざまな企業に、AtCoderの提案ができるようになりました。

日経新聞社が開催した「全国統一プログラミング王決定戦」はその一つで、決勝が行われた会場に全国各地から500人が集結する、非常ににぎやかな大会となりました。このコンテストは非常に評判が良く、すでに第2回の開催も決まっています。その後、電通ホールで開催された「第1回日本最強プログラマー学生選手権」にも同じように人が集まりました。

プログラミングのコンテストシステムが活用できるのは、実はウェブ上でコンテストを開催するときだけではありません。AtCoderのコンテストシステムの肝は、「提出されたプログラムの正誤を判定すること」です。そこで、このシステムを活用し、本年12月よりプログラミングのスキル検定サービス「アルゴリズム実技検定」を開始します。

これは言うなればTOEICのプログラミング版で、アルゴリズムを設計し、早く正確なコードを書くという実践力を問う、他に類のないサービスです。プログラミングのスキルを等級で可視化することができるので、例えば就活時のスキルレベルの判定基準に用いたり、教育に利用したり、さまざまな活用方法があります。電通と協力することで、このようなサービスが標準モデル化されることを期待しています。

超高度IT人材の宝庫、「AtCoder」の実態とは?

世界トップクラスのプログラマー高橋直大氏に登場いただき、高度IT人材の採用と育成について考える本連載。今回は、高橋氏が代表を務める、競技プログラミングコンテストを開催するAtCoderの実態と、今後の展望について語っていただきます。

AtCoderって何?どんな人材がいるの?

AtCoderは、本連載で紹介してきた「競技プログラミング」の大会を、オンラインで開催する日本のサービスです。

世界中から極めてレベルの高いプログラマーが集まり、毎週土曜日に約5000人の参加者が同時に、自身のプログラミング能力や、アルゴリズム構築能力を競い合っています。

さて、そんなレベルの高いAtCoderですが、参加者はどんな人たちなのでしょうか?

プログラミングのコンテストに、毎週土曜日の夜9時から参加する…というと、極めて勉強熱心で、スキルアップに情熱を注いでいるような人たちを、皆さん想像するのではないかと思います。

もちろん、そのような参加者も多くいます。ですが、実は、AtCoderのユーザの大多数は、勉強やスキルアップだけを期待して競技プログラミングに参加しているわけではありません。実は、かなりのユーザが、AtCoderを「ゲーム」だと思ってプレーしているのです。

問題が与えられ、アルゴリズムを考え、プログラムを組む、という一連の流れを、ゲームとして楽しむ。そんな人が多数存在するのがAtCoderであり、競技プログラミングの世界です。

実社会に求められる「教育性」と、モチベーションを保つ「娯楽性」の両立

AtCoderの参加者に、「AtCoderに参加している理由は何ですか?」とアンケートを取ると、以下のような結果になりました。

https://twitter.com/chokudai/status/1187208275026034688

高橋直大氏Twitterアンケート画像

やはり、アルゴリズム学習などのスキルアップを期待しているユーザは数多くいます。ですが、面白いコンテストが開催されるから、という項目にも、かなり多くの票が入っています。これは、重要な要素です。

一見しただけでは、競技プログラミングに娯楽性があるようには見えにくいかもしれません。ですが、「数学パズル的な要素」「競技性」の2点で、娯楽性を確保しています。以下、これらについて解説していきます。

まず、第一に面白いのは、「数学パズル」の要素です。情報科学の世界は数学が大量に存在し、「それらを数学的に解決していく」ことに面白さを感じる人が多くいます。この部分の面白さは、本連載の第1回でかなりしっかりと書いたつもりです。

このパズルが面白いと思えれば適性がありますし、そうでない人は、あまり競技プログラミングに向いていないかもしれません。第1回を読んで面白さを感じた方は、ぜひ競技プログラミングに挑戦してもらえればと思います。

ちなみにAtCoder社員の半数近くは、競技プログラミングの世界大会の決勝大会に進出経験があります。そしてAtCoderの問題は、コンテスト上位参加者が投稿した問題の中から、社員が厳選したものを出題しています。そのため、国内だけではなく、海外でも「AtCoderの問題の面白さは世界一だ」と評価する人が多くいるというレベルです。

次に「競技性」についてですが、コンテストという場を用意し、順位表を提供するといった、競技の場が整えられていることが、面白さを生む要因の一つとなります。

計算ドリルの問題を解くのが好き!という方は、あまり多くないと思います。しかし、そういった方でも、100マス計算競争をしてもらうと、結構楽しんでくれる人が多かったりします。

これは、100マス計算のタイムを競うという「競技性」をはっきりさせたことで、タイムを競い合う競争要素や、実力の上昇をタイムで実感できるなどのメリットが発生し、楽しく取り組めるわけです。

AtCoderでも、競い合いの面白さを感じてもらうため、さまざまな要素を用意しています。例えば、コンテストに参加するごとに、「レーティング」という実力指標が更新され、自分の実力の変化を分かりやすく見られるようにしています。また、一定レーティングごとに色を変えることにより、名前の色で、その人の実力がすぐに分かるようになっているのです。

AtCoderに参加する高校生のレーティング変化グラフ
AtCoderに取り組む高校生のレーティング変化。成長が実感しやすい

その他にも、「解いた問題数」を増やしていくことに楽しみを感じたり、Twitterなどでライバルを見つけ、勝敗を楽しんだり、世界のトッププログラマーが競い合うコンテストの提出時間を見て、その速さに興奮したり、ある種のネットゲームとしての地位を確立しているのが、競技プログラミングなのです。

とても正直に言ってしまえば、競技プログラミングは、アルゴリズムやプログラミングを学ぶ上で、最も効率が良い方法ではありません。モチベーションが十分に保てるのであれば、学習書で勉強したり、作りたいものを決めた上で、それにあった応用分野を勉強したりする方が役に立つ、という主張は、その通りだと思っています。

しかし、高いモチベーションを保ちながら、これからの社会に必要なスキルを勉強し続けられる人は、決して多くはありません。競技プログラミングは、「実社会に役に立ち、そこそこ楽しめるネットゲーム」という、二つの要素を持っているからこそ発達してきた文化です。昨今の若者が、続々と競技プログラミングを始める理由はここにあります。

AtCoder人材に熱視線を向ける企業たち

さて、そんな人材の揃うAtCoderですが、これらの人材を、各種IT企業から見るとどうなるでしょうか?

本人たちはネットゲームとして楽しんでいるAtCoderですが、企業から見れば、「毎週土曜の夜からコンテストに参加し、それ以外の日も、授業や仕事以外の時間に熱心に勉強をしている、極めて高度なIT人材」となるわけです。

実際のところ、彼らがどういうモチベーションで取り組んでいるかはともかく、能力的には他を圧倒するとんでもない能力を持った人材が大量にいます。AtCoderの上位30%ほどである「緑色」(前出の画像の800~1199点)の人材は、他社転職サイトのアルゴリズムスキルチェックだと、上位1~2%に匹敵します。

競技プログラミング参加者の高いモチベーションから生まれる高い能力が知られてきたことで、AtCoderには多くの企業が注目しています。競技プログラミングで成果を出すプログラマーを、高度IT人材として、リクルーティングしよう、という動きが活発になっているのです。

AtCoder、ユーザー、企業の関係の三角図

これまでにAtCoder上でコンテストを開いた企業は20社以上存在します。今や、競技プログラミング、およびAtCoderは、IT人材市場にとって、無視できない存在に成長してきているわけです。

リクルートやドワンゴ、サイバーエージェント、KLabなどのウェブ系企業、MUJINやCADDiなどの勢いのあるベンチャー企業などの、いわゆるIT企業はもちろんのこと、DISCOなどの製造業の企業や、ヤマト運輸などの一見ITに関係ない企業も、コンテストを開催し、人材獲得に乗り出しています。

大規模なコンテストやプログラミングのスキル検定サービスも開始

さて、AtCoderでコンテストを開催した企業は数多くありますが、実はAtCoder社では、広告費を使ったことはほとんどありません。

これまでAtCoderでコンテストを開いていた企業は、口コミやTwitterなどでAtCoderを発見した、技術系の話題に極めて敏感な企業だけでした。

つまりAtCoderの優秀な人材は、そうした企業に就職・転職していき、そうでない企業には優秀な人材が集まらない、というのが現状です。

そこで、AtCoder社は、今年4月、電通から資本提携を受け、共同で競技プログラミング事業に当たることになりました。もちろん問題やコンテストシステムはAtCoder社が100%コントロールしていますが、電通が加わることにより、これまでリーチできなかったさまざまな企業に、AtCoderの提案ができるようになりました。

日経新聞社が開催した「全国統一プログラミング王決定戦」はその一つで、決勝が行われた会場に全国各地から500人が集結する、非常ににぎやかな大会となりました。このコンテストは非常に評判が良く、すでに第2回の開催も決まっています。その後、電通ホールで開催された「第1回日本最強プログラマー学生選手権」にも同じように人が集まりました。

プログラミングのコンテストシステムが活用できるのは、実はウェブ上でコンテストを開催するときだけではありません。AtCoderのコンテストシステムの肝は、「提出されたプログラムの正誤を判定すること」です。そこで、このシステムを活用し、本年12月よりプログラミングのスキル検定サービス「アルゴリズム実技検定」を開始します。

これは言うなればTOEICのプログラミング版で、アルゴリズムを設計し、早く正確なコードを書くという実践力を問う、他に類のないサービスです。プログラミングのスキルを等級で可視化することができるので、例えば就活時のスキルレベルの判定基準に用いたり、教育に利用したり、さまざまな活用方法があります。電通と協力することで、このようなサービスが標準モデル化されることを期待しています。

ITの力で“関係人口”を増やせ!郡上市のシビックテック事例

シビックテックとは、地域の課題を住民自身がテクノロジーで解決すること。しかし、必ずしも「そこに住むプロのエンジニアが、地域のために新たなシステムやツールを開発する」だけがシビックテックの全てではありません。

本連載では、SNSやスマホアプリなど、すでに世の中にあるIT/ICTサービスを住民が活用することで地域活性化を図る、いわば「広義のシビックテック」の事例を中心に紹介していきます。

今回は、岐阜県郡上市で行われた「IT活用により“関係人口”を増やす取り組み」を、地域施策を数多く手掛ける電通デジタルの加形拓也が紹介します。

<目次>
郡上市の課題:“交流人口”を“関係人口”につなげられない
データ管理とコミュニティーで郡上ファンのつながりをつくる
関係人口を生み出すために「四つのフェーズ」を連携させる
小中学校にもテレビ電話を導入。身近なIT化がもたらすメリット

 

郡上市の課題:“交流人口”を“関係人口”につなげられない

岐阜県のほぼ中央に位置する郡上市は、観光客が非常に多い地域です。日本三大民踊の“郡上おどり”や、江戸時代の城下町の面影が残る“郡上八幡”の街並みが有名。さらに、ラフティング(ラフトを使用した川下り)などの自然を使ったアクティビティーも人気ですし、踊り文化によって根付いた下駄や染物など、工芸品も盛んです。

日本三大民踊の一つ“郡上おどり”のために、市外、さらには県外からも多くの人が訪れる。
日本三大民踊の一つ“郡上おどり”のために、市外、さらには県外からも多くの人が訪れる。

郡上市の総人口は4万人弱ですが、年間に訪れる観光客は600万人に迫るほど。この数字からも、いかに多くの人がこの街に足を運ぶか分かるでしょう。

郡上市はベンチャービジネスも活発ですし、「徹夜踊り」で名高い郡上おどりの伝説的な歌い手や、夜の川に潜って漁をする名人、自然農法の達人など、全国にファンを持つカリスマ的な人がたくさんいます。

また、漫画家のさくらももこさんが生前に足しげく通い、郡上への愛着から「GJ8マン」というキャラクターを自主的に誕生させるなど、文化人との縁も深い。地域としての観光資源はとても豊かな場所です。

しかし、郡上市には悩みがありました。観光客のような“交流人口”は多くても、その人たちの訪問は単発で終わってしまい、長期的に地域と関わる“関係人口”(※)に発展させることができていなかったのです。

※ 関係人口=移住した“定住人口”でも、観光という一時的な“交流人口”でもない、地域外の人が持続的に地域と関わり続けるケースのこと。地域と外部の接触点を増やし、地域づくりの担い手になることが期待される。


それに郡上市自体、2004年に7町村が合併しましたが、人口は年々減少。いっときの観光にとどまらない、関係人口を増やすことが急務となっていました。

そこで実施されたのが、電通がお手伝いさせていただいた「郡上縁つなぎプロジェクト」です。

データ管理とコミュニティーで郡上ファンのつながりをつくる

プロジェクトの発端は、電通の「地方創生室」に所属する岡野春樹からの相談です。岡野は総務省の「地域おこし企業人」という制度を活用して、郡上市に出向していました。

彼から「郡上市の関係人口を増やしたい」と相談され、二人で話し合う中でこのプロジェクトが生まれました。

目指したのは、お祭りやアクティビティーなど郡上市でのイベントに参加してくれた人たちを“横につなげる”ことです。これまで、それぞれの目的でたくさんの“郡上ファン”が訪れていましたが、イベント同士は相互に連携せず、完全なタテ割りになっていました。

しかし、例えばラフティング目的で郡上を訪れる人を、ラフティングと相関性の高い自然体験や他のアクティビティーに関するイベントにも勧誘できれば、より深く、長期的に地域と関わってもらうことができます。

あるいは郡上踊りに来た観光客に対しても、郡上踊りに関係する工芸品や他のイベントに案内できれば、これまで年1回だった来訪が2回、3回と増えるかもしれません。

郡上市には魅力的な工芸品もたくさんある。
郡上市には魅力的な工芸品もたくさんある。

そこで、イベント同士の横のつながりをつくるために活用したのが、CRM(顧客管理)システム大手のSalesforceです。主に企業が顧客管理や営業支援に使うサービスですが、これを郡上市という“地域”に導入したのです。

もともと店舗や組織ごとでそれぞれ顧客管理をしていたものを、「郡上市」という大きなくくりの顧客データとして、Salesforce上で一元管理することに。蓄積されたデータを元に、各個人に興味のありそうな関連イベントや、昨年来訪したイベントの告知などをDMで送付するようにしました。

ただし、DMを見ていない人もいます。そこで、もう一つの顧客接点としてFacebook上に郡上市のグループを作成。郡上市を訪れた方たちのためのコミュニティーをつくりました。このコミュニティーでは、郡上市で行われるさまざまなイベントを発信。自分の興味あるイベントしか知らなかった郡上ファンたちが、「他にこんなイベントがあるんだ」と、新たな発見をするようになりました。

従来は、各イベントが独自で情報発信、集客、参加者管理を行っていた。しかしこれでは関係を深めている人が誰なのかが見えてこないし、他のイベントがさらにコンタクトする手段がない。
そこで各イベントが共通で使える情報発信、集客、参加者管理の仕組みを既存のITサービスで構築。郡上市全体で関係人口になりそうな人を把握し、継続的にコンタクトできる状態をつくりだした。

これら「郡上縁つなぎプロジェクト」の運営は、HUB GUJOという地元のコワーキングスペースを営む団体に依頼。行政の施策にせず、あくまでも民間の方が関わる形です。

特にポイントとなったのは、SalesforceのDMや、Facebookコミュニティーでのトピック投稿、参加者とのコメントのやりとりです。運営自体はHUB GUJOですが、実際にDMを作成したりFacebook上で郡上ファンとコミュニケーションしたりする「縁つなぎサポーター」の役割は、地元の主婦の方々に依頼しました。

コミュニティー内で誰か郡上ファンがコメントすると、サポーターが積極的に返信し、会話を活発化。やがて、面識のない郡上ファン同士が新たに知り合うケースが増えていき、タテ割りだった郡上ファンやイベントが横につながる流れができたのです。

こうして横のつながりが生まれると、郡上を訪れる回数、関わる機会は増えていきます。それは“関係人口”につながります。

地域課題解決のために専用システムをゼロから開発するのではなく、SalesforceやFacebookという “こなれた技術”を使い、“市民”である民間組織や地元の主婦が携わる。そういった「広義のシビックテック」が実践された実例だと思います。

最後に、電通から郡上市に出向して奮闘してきた岡野と、実際にプロジェクトを運営するHUB GUJOの代表者からのコメントをご紹介しましょう。

関係人口を生み出すために「四つのフェーズ」を連携させる

電通 地方創生室の岡野春樹氏
電通 地方創生室の岡野春樹氏

電通 地方創生室の岡野です。私は郡上市に出向してから、住民と外部の人が一緒になって“根っこのある”プロジェクトを生み出すローカルインキュベーション事業「郡上カンパニー」を立ち上げるなど、さまざまな人がこの地と関われるような機会を企画・創出してきました。「郡上縁つなぎプロジェクト」もそのひとつです。

地域の関係人口を増やすためには、以下の四つのフェーズがあると思います。

  1. 交流フェーズ(観光などで地域を訪れる)
  2. 関係継続フェーズ(DM、Facebookなどで関係を継続する)
  3. プロジェクトフェーズ(地域の取り組みに参加するようになる)
  4. 担い手フェーズ(地域に関わり続けるようになる)

郡上は、観光という交流フェーズ(1)で止まるケースが多かったのですが、そこで途切れずにDMやFacebookで郡上ファンとコミュニケーションをとることで、関係継続フェーズ(2)に移行できます。さらにここで関係性が増すと、地域の取り組みなどに関わるプロジェクトフェーズ(3)、そして年間を通じて関わり続ける担い手フェーズ(4)へと移っていきます。この流れをスムーズにつくることが、関係人口創出のポイントです。

大切なのは、四つのフェーズを連携させる仕組みづくり。縁つなぎプロジェクトでは、官民で力を合わせ、ITを活用することで、それを実現できたと思います。

小中学校にもテレビ電話を導入。身近なIT化がもたらすメリット

NPO法人 HUB GUJO理事長・赤塚良成氏
NPO法人 HUB GUJO理事長・赤塚良成氏

HUB GUJOの赤塚です。「郡上縁つなぎプロジェクト」の運営団体は私たちHUB GUJOですが、DMの作成やFacebookでのやりとりは、郡上に住む主婦の方2人に「縁つなぎサポーター」として担当していただきました。郡上には若い女性が結婚を機に移住してくるケースも多く、彼女らはSNSやITに親しみがあります。そのような方が、自宅で子育てしながらスキルを生かせる形にしました。

郡上にはもともと多数のイノベーターがおり、それぞれのコミュニティーは活気がありましたが、コミュニティー同士の横のつながりはできにくかったといえます。私たちがHUB GUJOというコワーキングスペースを運営しているのは、いろんな人たちが郡上と“つながる場所”をつくりたかったから。そのためにテレビ会議などのITシステムを充実させ、市内や遠方の人がつながれる空間としました。

ちなみに郡上市では、公立の小中学校でもテレビ会議のシステムを導入しています。少子化に加え、山間部で学校同士が離れており、子どもたちの孤立化が課題でしたが、テレビ会議で交流や合同授業が可能になり、新たな形で友達が増えています。ITの活用は、地域の維持を考える上で欠かせないと強く思います。

郡上のコミュニティー同士、あるいは郡上と外部の人たちのハブとなる空間として設計されたHUB GUJO。
郡上のコミュニティー同士、あるいは郡上と外部の人たちのハブとなる空間として設計されたHUB GUJO。

ITの力で“関係人口”を増やせ!郡上市のシビックテック事例

シビックテックとは、地域の課題を住民自身がテクノロジーで解決すること。しかし、必ずしも「そこに住むプロのエンジニアが、地域のために新たなシステムやツールを開発する」だけがシビックテックの全てではありません。

本連載では、SNSやスマホアプリなど、すでに世の中にあるIT/ICTサービスを住民が活用することで地域活性化を図る、いわば「広義のシビックテック」の事例を中心に紹介していきます。

今回は、岐阜県郡上市で行われた「IT活用により“関係人口”を増やす取り組み」を、地域施策を数多く手掛ける電通デジタルの加形拓也が紹介します。

<目次>
郡上市の課題:“交流人口”を“関係人口”につなげられない
データ管理とコミュニティーで郡上ファンのつながりをつくる
関係人口を生み出すために「四つのフェーズ」を連携させる
小中学校にもテレビ電話を導入。身近なIT化がもたらすメリット

 

郡上市の課題:“交流人口”を“関係人口”につなげられない

岐阜県のほぼ中央に位置する郡上市は、観光客が非常に多い地域です。日本三大民踊の“郡上おどり”や、江戸時代の城下町の面影が残る“郡上八幡”の街並みが有名。さらに、ラフティング(ラフトを使用した川下り)などの自然を使ったアクティビティーも人気ですし、踊り文化によって根付いた下駄や染物など、工芸品も盛んです。

日本三大民踊の一つ“郡上おどり”のために、市外、さらには県外からも多くの人が訪れる。
日本三大民踊の一つ“郡上おどり”のために、市外、さらには県外からも多くの人が訪れる。

郡上市の総人口は4万人弱ですが、年間に訪れる観光客は600万人に迫るほど。この数字からも、いかに多くの人がこの街に足を運ぶか分かるでしょう。

郡上市はベンチャービジネスも活発ですし、「徹夜踊り」で名高い郡上おどりの伝説的な歌い手や、夜の川に潜って漁をする名人、自然農法の達人など、全国にファンを持つカリスマ的な人がたくさんいます。

また、漫画家のさくらももこさんが生前に足しげく通い、郡上への愛着から「GJ8マン」というキャラクターを自主的に誕生させるなど、文化人との縁も深い。地域としての観光資源はとても豊かな場所です。

しかし、郡上市には悩みがありました。観光客のような“交流人口”は多くても、その人たちの訪問は単発で終わってしまい、長期的に地域と関わる“関係人口”(※)に発展させることができていなかったのです。

※ 関係人口=移住した“定住人口”でも、観光という一時的な“交流人口”でもない、地域外の人が持続的に地域と関わり続けるケースのこと。地域と外部の接触点を増やし、地域づくりの担い手になることが期待される。


それに郡上市自体、2004年に7町村が合併しましたが、人口は年々減少。いっときの観光にとどまらない、関係人口を増やすことが急務となっていました。

そこで実施されたのが、電通がお手伝いさせていただいた「郡上縁つなぎプロジェクト」です。

データ管理とコミュニティーで郡上ファンのつながりをつくる

プロジェクトの発端は、電通の「地方創生室」に所属する岡野春樹からの相談です。岡野は総務省の「地域おこし企業人」という制度を活用して、郡上市に出向していました。

彼から「郡上市の関係人口を増やしたい」と相談され、二人で話し合う中でこのプロジェクトが生まれました。

目指したのは、お祭りやアクティビティーなど郡上市でのイベントに参加してくれた人たちを“横につなげる”ことです。これまで、それぞれの目的でたくさんの“郡上ファン”が訪れていましたが、イベント同士は相互に連携せず、完全なタテ割りになっていました。

しかし、例えばラフティング目的で郡上を訪れる人を、ラフティングと相関性の高い自然体験や他のアクティビティーに関するイベントにも勧誘できれば、より深く、長期的に地域と関わってもらうことができます。

あるいは郡上踊りに来た観光客に対しても、郡上踊りに関係する工芸品や他のイベントに案内できれば、これまで年1回だった来訪が2回、3回と増えるかもしれません。

郡上市には魅力的な工芸品もたくさんある。
郡上市には魅力的な工芸品もたくさんある。

そこで、イベント同士の横のつながりをつくるために活用したのが、CRM(顧客管理)システム大手のSalesforceです。主に企業が顧客管理や営業支援に使うサービスですが、これを郡上市という“地域”に導入したのです。

もともと店舗や組織ごとでそれぞれ顧客管理をしていたものを、「郡上市」という大きなくくりの顧客データとして、Salesforce上で一元管理することに。蓄積されたデータを元に、各個人に興味のありそうな関連イベントや、昨年来訪したイベントの告知などをDMで送付するようにしました。

ただし、DMを見ていない人もいます。そこで、もう一つの顧客接点としてFacebook上に郡上市のグループを作成。郡上市を訪れた方たちのためのコミュニティーをつくりました。このコミュニティーでは、郡上市で行われるさまざまなイベントを発信。自分の興味あるイベントしか知らなかった郡上ファンたちが、「他にこんなイベントがあるんだ」と、新たな発見をするようになりました。

従来は、各イベントが独自で情報発信、集客、参加者管理を行っていた。しかしこれでは関係を深めている人が誰なのかが見えてこないし、他のイベントがさらにコンタクトする手段がない。
そこで各イベントが共通で使える情報発信、集客、参加者管理の仕組みを既存のITサービスで構築。郡上市全体で関係人口になりそうな人を把握し、継続的にコンタクトできる状態をつくりだした。

これら「郡上縁つなぎプロジェクト」の運営は、HUB GUJOという地元のコワーキングスペースを営む団体に依頼。行政の施策にせず、あくまでも民間の方が関わる形です。

特にポイントとなったのは、SalesforceのDMや、Facebookコミュニティーでのトピック投稿、参加者とのコメントのやりとりです。運営自体はHUB GUJOですが、実際にDMを作成したりFacebook上で郡上ファンとコミュニケーションしたりする「縁つなぎサポーター」の役割は、地元の主婦の方々に依頼しました。

コミュニティー内で誰か郡上ファンがコメントすると、サポーターが積極的に返信し、会話を活発化。やがて、面識のない郡上ファン同士が新たに知り合うケースが増えていき、タテ割りだった郡上ファンやイベントが横につながる流れができたのです。

こうして横のつながりが生まれると、郡上を訪れる回数、関わる機会は増えていきます。それは“関係人口”につながります。

地域課題解決のために専用システムをゼロから開発するのではなく、SalesforceやFacebookという “こなれた技術”を使い、“市民”である民間組織や地元の主婦が携わる。そういった「広義のシビックテック」が実践された実例だと思います。

最後に、電通から郡上市に出向して奮闘してきた岡野と、実際にプロジェクトを運営するHUB GUJOの代表者からのコメントをご紹介しましょう。

関係人口を生み出すために「四つのフェーズ」を連携させる

電通 地方創生室の岡野春樹氏
電通 地方創生室の岡野春樹氏

電通 地方創生室の岡野です。私は郡上市に出向してから、住民と外部の人が一緒になって“根っこのある”プロジェクトを生み出すローカルインキュベーション事業「郡上カンパニー」を立ち上げるなど、さまざまな人がこの地と関われるような機会を企画・創出してきました。「郡上縁つなぎプロジェクト」もそのひとつです。

地域の関係人口を増やすためには、以下の四つのフェーズがあると思います。

  1. 交流フェーズ(観光などで地域を訪れる)
  2. 関係継続フェーズ(DM、Facebookなどで関係を継続する)
  3. プロジェクトフェーズ(地域の取り組みに参加するようになる)
  4. 担い手フェーズ(地域に関わり続けるようになる)

郡上は、観光という交流フェーズ(1)で止まるケースが多かったのですが、そこで途切れずにDMやFacebookで郡上ファンとコミュニケーションをとることで、関係継続フェーズ(2)に移行できます。さらにここで関係性が増すと、地域の取り組みなどに関わるプロジェクトフェーズ(3)、そして年間を通じて関わり続ける担い手フェーズ(4)へと移っていきます。この流れをスムーズにつくることが、関係人口創出のポイントです。

大切なのは、四つのフェーズを連携させる仕組みづくり。縁つなぎプロジェクトでは、官民で力を合わせ、ITを活用することで、それを実現できたと思います。

小中学校にもテレビ電話を導入。身近なIT化がもたらすメリット

NPO法人 HUB GUJO理事長・赤塚良成氏
NPO法人 HUB GUJO理事長・赤塚良成氏

HUB GUJOの赤塚です。「郡上縁つなぎプロジェクト」の運営団体は私たちHUB GUJOですが、DMの作成やFacebookでのやりとりは、郡上に住む主婦の方2人に「縁つなぎサポーター」として担当していただきました。郡上には若い女性が結婚を機に移住してくるケースも多く、彼女らはSNSやITに親しみがあります。そのような方が、自宅で子育てしながらスキルを生かせる形にしました。

郡上にはもともと多数のイノベーターがおり、それぞれのコミュニティーは活気がありましたが、コミュニティー同士の横のつながりはできにくかったといえます。私たちがHUB GUJOというコワーキングスペースを運営しているのは、いろんな人たちが郡上と“つながる場所”をつくりたかったから。そのためにテレビ会議などのITシステムを充実させ、市内や遠方の人がつながれる空間としました。

ちなみに郡上市では、公立の小中学校でもテレビ会議のシステムを導入しています。少子化に加え、山間部で学校同士が離れており、子どもたちの孤立化が課題でしたが、テレビ会議で交流や合同授業が可能になり、新たな形で友達が増えています。ITの活用は、地域の維持を考える上で欠かせないと強く思います。

郡上のコミュニティー同士、あるいは郡上と外部の人たちのハブとなる空間として設計されたHUB GUJO。
郡上のコミュニティー同士、あるいは郡上と外部の人たちのハブとなる空間として設計されたHUB GUJO。

ジャパンライフ山口会長を「桜を見る会」に招待したのは安倍首相か! 首相推薦枠1000人も大嘘、「総理、長官等で3400人」の証拠

「桜を見る会」問題で安倍首相をめぐる新たな疑惑が浮上した。それは、磁気ネックレスの預託商法などを展開し、悪徳マルチ商法としてこれまでにもたびたび社会問題化してきたジャパンライフ社の創業者で元会長である山口隆祥氏を「桜を見る会」に招待したのは、安倍首相なのではないか、という疑...

「沢尻逮捕は桜を見る会から話題をそらすため」は陰謀論か? 拙速逮捕の組対5課とあの“安倍官邸忖度”警察官僚の関係

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Made in JAPANは強みになるか?~日本ブランドの今とこれから~

本連載の第3回で、日本でやりたいことの上位に「ショッピング」がランクインしていることを紹介しました。銀座を歩けばショッピングに興じる大勢の外国人観光客に出会いますし、ガチャガチャが話題になったり、日本の包丁や扇子がお土産に人気だという話も聞きます。

かつて世界を席巻したMade in JAPANですが、訪日や越境ECで購入する機会が増えた今、世界からどのように評価されているのでしょうか? 

2018年12月に20カ国・地域で実施した「ジャパンブランド調査2019」から、これからのインバウンドビジネスのヒントを探る本連載。今回は「Made in JAPAN」に焦点を当て、深掘りしたいと思います。

「日本の製品は優れている」という人が8割超え!圧倒的なMade in JAPANへの評価

日本の製品は優れているグラフ

第2回でも紹介しましたが、日本の印象について、「日本の製品は優れていると思うかどうか」を聞いたところ、20カ国・地域全体では82.3%の人が「優れていると思う」と回答しました。

特にASEANエリアではスコアが9割を超え、圧倒的な評価を得ていることが分かります。また欧州でも8割の人が評価。日本製品が多く流通するアジアだけでなく、世界的に評価されていることが分かりました。

では、具体的にはどのような人が評価しているのでしょうか?詳しく見ていくと、訪日経験のある人の評価が高い傾向がありました。実際に日本を訪れて日本製品を体験し、気に入ったため購入して帰る、という人も多く、一時期爆買いで話題になった温水洗浄便座もその一つです。

また、日本の「食」や「伝統」について、「優れている」「興味がある」と回答した人たちでも評価が高くなっています。カップラーメンやお菓子、浴衣や扇子などもお土産として人気になってきていますが、日本の食品や伝統的なデザインを経験する機会が増えたことも、日本の製品への評価に影響しているのかもしれません。

Made in JAPANのイメージは、“最先端”から“品質”へ

Made in JAPANイメージ トップ3

Made in JAPANのイメージを聞いてみると、全体では「ハイテク」がトップ。次いで「高性能」「信頼できる」という結果になりました。

エリアによってややイメージに差があり、特に東アジアエリアでは「丁寧に作られていそう」「繊細な/細やかな」「信頼できる」と他のエリアとは異なった印象になっています。

また、欧米エリアでは「ハイテク」「高性能」「信頼できる」となり、全体の傾向と同じですが、全体的にスコアが低く、日本製品に対するイメージが乏しいことがうかがえます。

これは日本製品の流通量や製品内容に関係していると思われますが、幅広く日本のものが浸透している東アジアで、“技術”ではなく“ものづくりの姿勢”とそれに裏打ちされた“品質”が評価されていることが印象的です。

また2015年の調査と比較すると、2015年は1位の「ハイテク」が2位の「高性能」よりも10ポイント以上高いスコアとなっており、5.5ポイントしか差がない今と比較して“最先端”イメージが非常に強かったことが分かります。

“最先端”のイメージが弱まったのは、韓国や中国をはじめとしたアジア諸国の技術力の向上といった、外部的な要因もあると考えられます。

競合との比較、という視点で見ると、Made in JAPANブランドは性能や品質における評価は高いのですが、「おしゃれな印象」については評価が低い、という結果も出ています。日本製品は世界から評価されていますが、より多くの人に使ってもらうためには、まだまだ課題がありそうです。

今後ポテンシャルが高い製品カテゴリーは「健康食品」と「ジュエリー」?

日本のブランドの製品カテゴリー

では、どのカテゴリーで日本の製品が求められているのでしょうか?経験や興味のスコアが高いものは、やはり従来強い分野である「TV、オーディオなどのAV機器」「自動車、バイクなどの輸送機器」。それを追いかけるのが「ラーメンなどのインスタント食品」「化粧品」です。それ以外のカテゴリーは経験が3割にも届かず、まだ少ないことが分かります。

一方、今後ポテンシャルがあると思われる(興味が経験を上回る)製品カテゴリーは、「健康食品・飲料」と「ジュエリー」でした。国・地域別で見ると、「健康食品・飲料」のスコアが高いのは台湾(63.3%)、「ジュエリー」はフィリピン(30.0%)となっています。

また、別の視点として今後の意向(=今自国にはあまりない・まったくないが、これからもっと自国で日本のブランドのものが買えるようになったらいいと思う製品カテゴリー)を聞いてみると、国・地域によって傾向が異なりました。

例えば、欧米エリアなど、従来日本製が強い分野である「AV機器」や「輸送機器」をトップに挙げる国々も多い一方、東アジアの国・地域とベトナムでは「医薬品」がトップ。

また、シンガポールでは「インスタント食品」、タイでは「菓子」、インドネシアでは「アパレル・ファッション」、イタリアでは「化粧品」、ロシアでは「健康食品・飲料」がトップという結果でした。約半数の国・地域では従来日本が強かった「AV機器」や「輸送機器」とは違う多様なカテゴリーへの需要が生まれていることが分かり、今まで以上に幅広い日本製品のポテンシャルを感じさせる結果となりました。

かつて世界を席巻したジャパンブランドですが、外部環境の変化や日本製品の体験が増えることによってそのイメージは変わり、品質への信頼という強みがある半面、まだ経験の幅が狭く、おしゃれなイメージで競合に負けているといった課題も見える結果となりました。

このようなさまざまな日本製品に対する興味が訪日観光客をさらに増やし、インバウンドによる日本製品の体験の多様化がさらにジャパンブランドのイメージに影響していくと考えられます。

変わっていくジャパンブランド、そしてインバウンドとの関係性に、今後も注目していきたいと思います。


ジャパンブランド調査2019の概要
・目的:食や観光、日本産品など「ジャパンブランド」全般に関する海外消費者の意識と実態を把握する
・対象エリア:20カ国・地域
中国(グループA=北京、上海、広州、グループB=深圳、天津、重慶、蘇州、武漢、成都、杭州、大連、西安、青島)、香港、台湾、韓国、インド、シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピン、オーストラリア、アメリカ(北東部・中西部・南部・西部)、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ロシア、トルコ
※今回は、過去の調査の推移で変化の少なかったブラジルを除外し、インバウンドで注目が高まるトルコを追加しました。
・調査手法:インターネット調査
・対象者条件:20~59歳の男女 *中間所得層以上
 *「中間所得者層」の定義(収入条件):OECD統計などによる各国平均所得額、および社会階層区分(SEC)をもとに各国ごとに条件を設定
・サンプル数:中国はA・B300名ずつで計600名、アメリカは600名、それ以外の地域は各300名の計6,600名
・調査期間:2018年12月
・調査機関:株式会社ビデオリサーチ
 

北欧発デザインスクールに、世界中の経営者が殺到するわけ。

電通ビジネスデザインスクエア(以下、BDS)では、デンマーク・コペンハーゲンの教育機関「CIID」(Copenhagen Institute of Interaction Design)と連携し、デザインの手法やアプローチを学ぶことができる「CIID Winter School」を2020年2月に日本で開催します。

今回は、BDSビジネスデザイナーの齋藤陽介氏が登場。コペンハーゲンで開催された「CIID Summer School」経験者の視点から、CIID の魅力やBDSと連携する意義について語ってもらいました。

新しい知恵が生まれる、壮大な実験場

CIIDは2006年にコペンハーゲンで創立されたデザイン教育機関です。「クリエーティブな発想からソーシャルインパクトを創造し、ビジネスにつなげていくこと」が、CIIDの目指す姿。

コペンハーゲンで毎年開催されるサマースクールには、「People Centered Research」や「Design for Sustainability」「Designing Interactive Spaces」など、デザインに関するさまざまなプログラムが用意されています。

カリキュラムは参加者主体のグループワークが中心で、参加者は数名のチームに分かれ、5日間を通して与えられた社会的な課題に対してデザインの手法を実践。最終日に向けて作品やアイデアなどのアウトプットを完成させ、同時期に開講している他のコースの参加者も含めて全体で発表を行います。

欧米では非常に有名な学校で、私自身、2016年にロンドンのデザインスクールに留学していた時、よく名前を耳にしていました。しかし当時はUXデザイナーやエンジニア向けのインタラクションデザインの学校だと、彼らの取り組みを狭い視点でしか捉えていませんでした。

しかし、実際にサマースクールに参加してみて感じたことは、CIIDはデザインという共通言語を通して新しい知恵を生み出す「壮大な実験場」だということです。

各プログラムの講師は、NASAの研究所でリサーチャーとして活躍する方や、Spotifyのシニアプロダクトデザイナー、WeWorkのデザインディレクターなど産業界のトップランナーばかり。彼らは、一方的に知識を教えるのではなく、いわば“ファシリテーター”の役割を担います。つまり、参加者同士が自由に意見を交わす環境をつくり、時折、最新のセオリーや知見をエッセンスとして加えていきます。

トップランナーたちの最先端の知見に触れられる機会とあって、世界中のトップ企業から多種多様な人材が集まってきます。私がサマースクールで参加したコース「People-Centered Research」でも、UI/UXデザイナーらデザインに直接関係する職種の人だけではなく、経営者や建築家、考古学者など、さまざまな人材が13カ国から集まりました。

そうした異なる国籍・バックグラウンドを持つ参加者から出る意見が集積することによって、新しい知恵が生み出される。本当にワクワクする体験でした。

「People-Centered Research」コースの集合写真
「People-Centered Research」コースの集合写真

5日間で「デザインアプローチ」を身につけ、ビジネスの武器にする

大量生産・大量消費の時代は、「データ」を重視するマーケティングを行うことで人々のニーズを捉えられていました。例えば、「20代男性のうち、〇%の人たちがこういう価値観を持っている。だからこういうものを欲している」という考え方です。

しかし、これからの時代は、人々が求めるものや行動パターンがさらに多様化し、データだけで人々の本質的なニーズをとらえるのが困難になっていくことが予測されます。

そこで、世界の有力企業が経営に取り入れているのが、
共感→定義→アイデア開発→プロトタイプ→テスト
を基本とするデザインアプローチです。

「デザイン」は「人」に深くフォーカスします。例えば、同じ20代の男性でも、子煩悩な父親、大学院で研究に没頭する人など、立場はいろいろ。フィールド調査やユーザー観察などを通して、人のリアルなストーリーや文脈を掘り下げていきます。

デザインリサーチにおいて中でも重要な要素の一つが、「すべてを見える化」すること。調査で得た情報を付箋などに書き出すなどして壁一面に張り、それを見ながら情報を統合していきます。そして、拡散と収束のプロセスを繰り返しながら、ソリューションのアイデアを導き出します。思い付きではなく、「リサーチ→インサイトを発見→問いの設定→事業機会の特定」と、体系化されたプロセスはデザインアプローチならではです。

また、「プロトタイピング」を頻繁にすることもデザインの良いところです。アイデアを実際に紙などでつくりながら進めることで、スピード感をもってアイデアを磨き上げていくことができます。

失敗を恐れがちで、初めから完成度の高いアイデアを出そうとする傾向がある日本では、こうしたデザインの考え方を現場レベルで実践しているのはまだ珍しいのではないでしょうか。手を動かして失敗から学び、多様なメンバーでコラボレーションしながら、実践的に新しいアイデアを形作っていくアプローチを伝え、このスクールを、日本企業のマインドセットや視点の変化、そして未来に対するアクションを促す機会にしていくこと。そこにCIIDとBDSが連携する意義があると考えています。

2020年2月に開講の「CIID Winter School」は、8種類のカリキュラムを設けています。

・People-Centered Research
・Service Design
・Intro to Interaction Design
・Prototyping as a Process
・Designing for Impact & Inclusion
・Designing Interactive Spaces
・Change Management through Design
・Future Casting
<各コースの詳細はこちら> 

CIIDが提示する20種類以上のカリキュラムの中から、日本人に合いそうなものやニーズが高いと思われるカリキュラムをBDSがピックアップしました。新規事業を生み出すためのブレイクスルーを得たい人、既存事業を別のアプローチ方法で見つめ直したい人など、誰もがビジネスに役立つ武器を身につけられる5日間になるでしょう。

コペンハーゲンで行われたサマースクールのオープニング
コペンハーゲンで行われたサマースクールのオープニング

地球規模でサービスを考える「サーキュラーエコノミー」がグローバルスタンダード

CIIDで学べるデザイン思考は、「人」にフォーカスするだけにとどまりません。同機関が提唱するのは「相互に作用するデザイン」。ユーザー1人ではなく、その人を取り巻くコミュニティーや地球環境にまで価値がある仕組みをつくって初めて、よい製品やサービスが生まれるという考えです。CIIDでは“Life-Centered Design”とも表現されています。

カリキュラムは、ジェンダー平等、気候変動、持続可能な生産消費といったSDGs(持続可能な開発目標)で掲げられているテーマに沿って構成されています。CIID自体、国連と提携をしている教育機関なので、社会課題と向き合う姿勢にブレがありません。

デンマークをはじめ北欧諸国では「サーキュラーエコノミー」という考え方が広く産業界で実践されています。「作って、使って、捨てる」という直線的な「リニア型エコノミー」ではなく、廃棄物を出さずに価値を循環させていく、大量生産・大量消費モデルに変わる環境負荷の低い新しい経済の仕組みです。「地球環境が持続可能でなければ人間は生き残れない」という強い認識が、日常レベルで息づいていると感じています。

CIIDが提唱する「相互に作用するデザイン」とも非常にマッチする「サーキュラーエコノミー」の考え方をもとに、上記の国々ではどんどん新しいサービスが生まれ、イノベーションを起こすパイオニアとなっています。すでにグローバルスタンダードとなりつつあり、近い将来、必ず日本企業にも必要になってくるでしょう。

しかし現在のところ、日本で「サーキュラーエコノミー」が浸透している企業はまだ多くありません。その根底には、「地球環境保護はできれば達成した方がいいけど、それは自社のビジネスとは関係ない社会貢献活動である」という発想があるのではないでしょうか。そうではなく「事業を成功させるために欠かせない考え方である」と認識しなければ、世界から取り残されてしまうでしょう。

その一方で、「サーキュラーエコノミー」と密接に関わるSDGsの考え方が日本社会にも浸透してきており、企業も積極的に取り入れるようになってきています。しかし、大切なのは、企業が社会貢献活動としてSDGsにある項目を個別にピックアップして対応することではなく、「自社が世の中にどのような価値を提供する存在なのか」「社会にどんなインパクトを与えるか」といった本質的な議論をし、実践をしていくことです。

SDGsは共通のアジェンダではありますが、SDGsのどのゴールに軸足を置いて事業を展開するのかを決めるだけでは、その先行き詰まってしまいます。自分たちの掲げるビジョン対して向き合っていく視点や姿勢、マインドセットを身につけ、行動していくためにCIIDの考え方やツールは非常に有効だと思います。

ぜひこのCIID Winter Schoolで、多くの人に体感していただきたいと考えています。

コペンハーゲンで行われたサマースクールの授業の様子
コペンハーゲンで行われたサマースクールの授業の様子

「CIID Winter School」インフォメーション