“復興バブル終焉”が建設業界を襲い始めた…被災地の工事減少で倒産増加、五輪バブル崩壊も

 2011年の東日本大震災以後、被災地の建設投資は活況を呈していた。宮城県仙台市では建設関係者が飲み歩く姿が随所で見られるなど、復興が景気を刺激していたことは確かだ。同時に、人手不足で東京やほかの地域から建設職人が引き抜かれる動きも活発化した。

 しかし、東北地方全体が潤ったわけではなく、建設投資の増加は太平洋側に限定された。そして、いわば“復興特需”を謳歌していた建設業界の雲行きが怪しくなっている。

 19年4月には、福島第一原子力発電所事故による除染工事を請け負うなど、復興工事で実績を上げていた全建設事業協同組合が東京地方裁判所へ民事再生法の適用を申請した。東京商工リサーチの「2019年(1-12月)建設業倒産状況」によると、震災や自然災害の復旧・復興工事が一巡した東北の建設業の倒産件数は、18年の82件から19年は86件(前年比4.8%増)に増加した。

 東京商工リサーチ情報本部情報部の増田和史課長は「東日本大震災に伴う建設業の“復興バブル”は、すでに崩壊したと見ていいでしょう」と語る。

福島と宮城だけで50社が倒産

 被災当時、東北の建設業界は氷河期で休廃業・解散を選択する業者も多く、一人親方の建設職人は転職してコンビニエンスストアで働くケースもあったが、復興により需要が高まったことで、建設業に復帰した例も多いという。復旧・復興工事ではとにかく人手が必要な現場も多く、人手不足が続いたことで、建設職人の大移動が始まった。東京をはじめ、近隣の山形県や秋田県などからも職人が手配されたのだ。

 これは、悪くいえば引き抜きである。当時、被災地の専門工事会社の職長は、応援に来た山形の建設職人に対して「これだけ出すから、ここに留まってくれないか」と言って人材を獲得していたという。仕事が豊富で稼げるため、そのまま被災地に留まる建設職人も多かったようだ。また、そういった建設職人が飲み歩くことで被災地の繁華街が賑わうという副産物も生まれた。

「基本的に、福島第一原発事故による除染工事、高台移転工事、解体工事などは、それほど高い技術を要しない工事です。ただ、実施するには重機などを購入しなければならないため、会社としては負担が大きい。そのため、それらの工事を継続して受注することができれば問題ないのですが、工事の案件自体が減少すると、会社としては経営が行き詰まってしまうのです」(増田氏)

 東北の建設業者の倒産事例を見ると、土木工事、除染工事、解体工事、木造建築工事をメインにしている会社が多い。復興需要に伴い規模を拡大したが、需要のピークアウトによって倒産するケースが増えているようだ。また、負債10億円規模の大型倒産ではなく、中小規模の業者が多い。前述の全建設事業協同組合の負債総額は7億4636万円で、重機設備購入などに伴う借り入れが重荷になっていたという。

 金融業界では地方銀行の合併問題が本格化しており、建設業界内では「地銀の合併とともに、地方のゼネコンの合併問題も浮上するのでは」とささやかれているようだ。すでに、準大手の戸田建設が福島県に本社を置く佐藤工業を完全子会社化しており、今後はゼネコンの合従連衡が活発化することが予想される。

 全国で見ると、19年の建設業の倒産は1444件で前年度比0.9%増、11年ぶりに増加。復興需要やオリンピック需要で活況を呈し、倒産抑制の牽引役となっていたが、今後の推移が注目される。

 都道府県別では、東京180件、大阪158件、神奈川・愛知が107件、埼玉80件の順。東北の建設業者の倒産を県別に見ると、青森12件、岩手9件、宮城35件、秋田4件、山形11件、福島15件となっている。宮城に次いで多い福島は原発事故に伴う除染工事で潤ったが、それもほぼ終了したことが影響している。

 一方で、倒産を避けられたケースもある。たとえば、大手ゼネコンが被災地で行った工事に下請けとして入った地元の専門工事会社は、その数年間で大手との関係をうまく構築する。そして、今度は東京五輪関連で首都圏で建設需要が高まると、大手ゼネコンはそちらのプロジェクトに参画することになり、その専門工事会社も再び下請けとして受注するという流れだ。その専門工事会社は東京営業所を設立し、首都圏の建設職人の拠点となっているという。

「被災地の復興工事は、今は高い技術を要するものに質が変わってきています。そのため、被災地の工事が縮小していくと業者の倒産も増えるでしょう。もともと工事が少なかったところに、復興のために設備投資や職人確保がなされましたが、今はそれが重荷になっているのです。技術がある会社は引き続き受注し、経営が安定しますが、土木、除染、がれき処理、解体などに依存していた業者は厳しいでしょう」(同)

復興バブルの終焉

 また、もうひとつの課題が高齢化だ。東京商工リサーチの調査によると、最近の人手不足関連倒産は、代表者や幹部役員の死亡、病気入院、引退などによる「後継者難」型が多くなっている。「経営者の年齢層が高いほど、業績が悪くなる傾向にあります」(同)

 東京商工リサーチの19年「休廃業・解散企業」動向調査によると、19年に休廃業・解散した企業は全国で4万3348件、代表者の年齢は60代以上が8割を超えている。産業別では建設業が7027件と多く、高齢化による事業承継の難しさが浮き彫りになっている。

 今夏の東京五輪が終わった後、“五輪バブル”崩壊後の建設業界がどのような道筋をたどるかは不透明だが、少なくとも、東日本大震災の復興バブルはすでに終焉したといえそうだ。

(文=長井雄一朗/ライター)

児童相談所の壮絶ブラックな労働実態…親から罵倒、残業120時間で過労死ライン超え

 子どもを守るべき親が我が子に危害を加える“児童虐待事件”が増えている。その壮絶な実態と共にクローズアップされているのが、児童相談所(以下、児相)の対応だ。「児相が早く動けば子どもの命が救えたのでは」などと批判の対象になることもあるが、児相の労働環境の過酷さが対応の遅れを招いている、という見方も強い。ブラック企業よりもキツい児相の労働環境について、専門家に話を聞いた。

職員1人で100の案件を抱えるケースも

 児相に対して「虐待を受けている子どもを保護する場所」というイメージを持つ人は多いだろう。しかし、児相の役割はそれだけではない。

「児童相談所とは、都道府県と政令指定都市が設置している行政機関のひとつです。18歳未満の子どもに関するさまざまな相談を受けたり、調査をしたり、心理診断をしたりしながら家庭を支援する機関。そのため、児相で働く児童福祉司の仕事は多岐にわたります」

 そう話すのは、明星大学人文学部福祉実践学科で常勤教授を務め、虐待や家庭相談のあり方を研究している川松亮氏。

「児相の仕事でもっとも多いのは、障害がある子どもが社会的援護を受けられる『療育手帳』の判定。続いて多いのは、子育てに関するあらゆる相談に乗る『養護相談』です。相談内容はしつけや貧困に関するもののほか、保護者が病気になった、逮捕されてしまったなどの事情で子どもを育てられない場合も、児相が相談を受けます」(川松氏)

 虐待への対応は「養護相談」に含まれ、児相に寄せられる相談の3分の1を占めるという。そのほか、18歳未満の子どもたちの家出や虚言などの問題行動を更生に導く「非行相談」も児童福祉司の大切な仕事だ。

「児相の最大の特徴は、家庭から子どもだけを分離して一時的に保護する『一時保護』ができる点です。虐待によって子どもの命に危険が及んでいる場合や、育成環境が劣悪な家庭から保護することができます。その後も児童福祉司が調査を進め、家庭に返すのは難しいと判断した場合は、施設に入所させたり里親に委託したりするなど、子どもの『措置権限』も持っています」(同)

 実際に子どもが施設に入るには親権者の同意が必要となる。しかし、親権者が同意してくれない場合は、児童相談所長が家庭裁判所に訴訟を起こすなどの法的措置をとることもあるという。

「さまざまな業務や案件をひとりの児童福祉司が担当することが多く、ひとりで100以上の案件を抱えているケースもあります。自治体によって分業しているケースもありますが、仕事量に対して児童福祉司の数が足りていない、圧倒的な人材不足はどの地域も同じです」(同)

 日本の児童福祉司は、2019年4月現在で全国にたった3800人ほどしかおらず、ひとり当たりの平均担当件数は50件以上(「児童虐待防止対策体制総合強化プラン<案>」)といわれる。案件が多すぎるため「一つひとつの家庭に向き合う余裕がない」というジレンマを抱えているのだ。

虐待する親から攻撃される日々

「児童福祉司の勤務の特徴は“勤務時間の長さ”です。特に、虐待通告を受けた場合には48時間以内に子どもの安否を確認しなければならないというルールがあるので、児童福祉司は迅速な対応が求められます。昼夜問わず児童福祉司が家庭を訪問し、不在の場合は休日に再び訪問……それを子どもの安全が確認できるまで繰り返します」(同)

 この家庭訪問によって、児童福祉司は移動時間がとても多く、日中に事務作業が終わらないので夜遅くまで残業する……そんな悪循環につながっているという。結果的に、児童福祉司の時間外労働は「多少」では済まないレベルにまで膨れ上がっている。

「週刊東洋経済」(2019年9月21日号/東洋経済新報社)が全国の自治体を対象に行った調査では、児童福祉司の月の時間外労働の最大値について、千葉市で121時間、三重県では97時間という結果が明らかになった。過労死ラインの月80時間を優に超えている自治体が全国に点在しているのだ。

「何より、児童福祉司には“精神的な過酷さ”があります。虐待案件の場合、保護者がすんなり子どもを預けてくれず、児童福祉司と激しく対立するケースが多い。私が児童福祉司として働いていた頃も、保護者から罵倒されたり暴力を受けたりすることもありました。児童福祉司は肉体的にも精神的にも疲弊する仕事なのです」(同)

 児相では児童福祉司のメンタルケアなども行っているものの、「年に1~2人の休職者が出る児童相談所もあります」と川松氏。さまざまなプレッシャーが児童福祉司たちを追い詰めているのだ。

政府の人手不足対策が不十分な理由

 社会問題と化している児童相談所の人手不足。その背景には、児童虐待相談対応件数の急増が関係しているという。実際に相談件数は年々増しており、2018年度には過去最多の15万9850件(「平成30年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数」)を記録している。

「相談件数が増えた要因は2つ。ひとつは、虐待に関する市民への周知が進み、保育士や学校、近所の人などからの発見・通告が増えていることです。児童虐待の存在が知られ、かつては発見されなかった事例も虐待として通告されるようになりました」(同)

 もうひとつの要因は“虐待の定義”が拡大したことにある。00年に施行された「児童虐待防止法」は幾度となく改正され、定義の拡大とともに該当する事例が増えているそうだ。

「以前は夫婦間の暴力・暴言は虐待に含まれませんでしたが、04年度の改正から夫婦間の暴力・暴言が子どもへの『心理的虐待』に該当するようになりました。そのため、警察官が夫婦間のDV案件で訪れた家庭に子どもがいた場合も、『心理的虐待が行われている』として児相に連絡が入るようになったんです」(同)

 確かにDVが蔓延している家庭には警察や専門家の介入が必要だが、子どもを受け入れる児相の現場は、すでに限界を超えている。こうした状況を受けて、政府は22年までに児童福祉司を2020名ほど増員するプランを発表した。しかし、川松氏は「ただ増やすだけでは不十分」と話す。

児童福祉司はとても専門性が高く、時間をかけて人を育てる必要があります。未経験者を大量に配属してしまうと、すでに手一杯の現場では満足な指導ができません。新たに増員された職員をどう育てるかということが大きな課題です」(同)

 また、現在のように「児相=過酷、ミスが多い」というイメージが定着したままでは希望者すら集まらないのでは、と川松氏は危惧する。

「虐待事件で児相が激しいバッシングを受ける事例もありますが、実際には、児童相談所が親子にかかわったことで親子関係がよくなった事例がたくさんあるんです。まずは悪いイメージを払拭しなければ、目標の増員数に届かないかもしれません」(同)

 何より、児童福祉司の働き方が改善されることは相談者と深く向き合うことにもつながる、と川松氏。

「近年では、NPOが虐待対応のサポートを担ったり、療育手帳の判定を他機関に移したりする例も見られますが、まだまだ少数派です。こうした取り組みを広げることも一案です。今後も親子の困りごとを解決していくためにも、“地域の人々”が彼らの仕事や家庭の子育てを支えられる仕組みづくりが急務です」(同)

 地域の親と子のために懸命に働く児童福祉司たち。より多くの人々が彼らの仕事や現状を理解することが、虐待問題解決の第一歩になるのかもしれない。

(文=真島加代/清談社)

●川松亮(かわまつ・あきら)
明星大学人文学部福祉実践学科・常勤教授。過去に児童福祉司として働いた経験をもとに、虐待問題や子ども家庭相談の在り方を研究し、児童福祉司の育成にも携わる。

●「明星大学福祉実践学科

伸和工業、インサイダー取引の嫌疑で家宅捜索…プロスペクトに経営権奪取を仕掛けた矢先

 東証2部上場のプロスペクトが岐路に立たされている。同社は1937年に繊維会社として創業し、62年に東証2部上場した老舗。91年に「ライオンズマンション」の大京と提携し不動産事業に鞍替えし、「グローベルマンション」を展開。2007年に大京から離脱した後は投資会社に事実上変貌し、上場株や不動産開発、太陽光発電所へのポジションを増やしてきた。しかし、保有資産の減損が相次ぎ、19年3月期には連結売上高63億円に対して経常損失67億円という有様であった。

 当期業績も低調が予想されるなか、ここにきてプロスペクトに攻勢をかけている勢力がある。同社筆頭株主の西村浩氏と、同氏の経営する太陽光関連会社の伸和工業である。プロスペクトとは14年から業務提携しており、直近の第2四半期(19年9月末)時点の持分は合わせて11.46%。西村氏は昨年11月に臨時株主総会招集を請求したが、プロスペクトは<議案の適法性に疑義があるものなどが含まれている>とし即座に応じなかった。そのため西村氏が今年1月24日に東京地裁に臨総招集を申し立てたのだ。

 プロスペクトの経営陣が難色を示したものがあるとすれば、3号議案だろう。西村氏は、取締役の選任について<株主西村浩が事前又は総会の会日の当日までに最終的に推薦する候補者から先議し>、定数に満たない場合は<西村浩が他の自薦他薦候補者の中から指名したものをその指名の順序で選任の是非を問う候補者とする>ことを提案している。事実上、西村氏の息のかかった者でボードメンバーを固めようとする提案だ。

 だが関係者によると、西村氏による攻勢に前後する今年1月末、証券取引等監視委員会がインサイダー取引の嫌疑で西村氏と伸和工業を家宅捜索したとのことである。西村氏は昨年2月14日、プロスペクトが場が引けた後に無配と特別損失を公表するという内部者情報を同社元執行役員(退職)から得て、300万株を不正に売り抜けた疑いがあるという。翌15日の同社株は一時ストップ安となっていた。

 インサイダー取引という初歩的なコンプライアンス違反の疑いがある勢力に、投資会社の命運が任せられるのか、という不安が残る。伸和工業に取材したが、担当者から折り返すとしたまま約2週間、返答がない。

(文=編集部)

ルノー、珍妙すぎる「メガーヌR.S.トロフィR」開発の裏側…徹底した軽さ追求の果て

 世界には珍妙なクルマが存在する。それも、遠く古い昔の、技術力が未熟だった時代のモデルではない。まさに現代の、2020年の現役モデルだというのに、本末転倒、本来の目的を失ったモデルが存在するのだ。

ルノー・メガーヌR.S.トロフィR」は、言ってみれば平凡なルノーの主力ファミリーカーがベースである。若者が好みそうなスタイリッシュクーペスタイルではあるものの、使い勝手を考慮した5ドアハッチバックであり、メガーヌのラインナップには積載性を高めたステーションワゴンタイプも組み入れられている。通勤通学に重宝するだろうし、近所への買物にも過不足ない要件を揃えている。いわば大衆車なのだ。

 だが、「R.S.トロフィR」と名がつくと、趣きはガラリと変わる。5ドアハッチバックだというのに、なんとシートは前席の2座しかない。本来あるはずのリアシートは取り払われている。トランクとの隔壁もなく、室内はがらんどうだ。

 リアにはシートがないから、つまり法規上の定員乗車は5名から2名に減らされてしまった。リアシートに人が座らないから、リアのガラスを開閉する必要もない。それゆえガラスは“はめ殺し”になった。開閉しないからウインドーレギュレーターもないし、もちろんパワーウインドーのスイッチも省略されている。まったく不思議なクルマなのである。

 だが、ひとたび「R.S.トロフィR」を走らせれば、定員人数を2名に減らし、ウインドーをはめ殺し、ウインドーレギュレーターをも省略したことの意味が際立ってくる。そう、「R.S.トロフィR」は5ドアハッチバックであるものの、人を乗せてドライブするためのモデルではなく、もちろん通勤通学の足でもない。世界一過激なサーキットとして知られるドイツのニュルブルクリンクでFF最速タイムを記録することを命題に開発されたモデルなのだ。

 リアシートを取り払い、窓をはめして殺してしまったのは、すべては軽量化のためだ。速く走るために不必要なものを大胆に省略したというわけだ。 

 その割り切りは、常人が理解できる範疇を大幅に逸脱している。エンジンは強力である。1.8リッターユニットに大口径ターボを合体させている。タイムを叩き出すためにはパワーが欠かせない。それをビッグタービンで補っている。それだけではなく、たとえば組み合わされるトランスミッションは最新式のツインクラッチではなく、古典的な6速ミッションに換装されている。目の覚めるコーナリングの源だった後輪操舵システムも省略している。それらがすべて軽量化のためだというのだから、開いた口が塞がらない。

「軽ければなんでもいいわけではないだろう」

 そんな悪態が思わず口をついて出そうになった。というのも、ツインクラッチはあきらかに駆動ロスが少ない。いくら腕利きのプロドライバーであろうとも、いちいちクラッチペダルを踏んでシフトレバーを捻ったり押し込んだりするのに時間的なロスがある。それが証拠に、今どきシフトレバーが生えているレーシングマシンなど見かけない。

 リアステアも、コーナリングでは有利なはずだ。当のルノーもそれを自覚しており、確かにリアステアのほうが区間タイムは短縮すると認めている。だが、それをも軽量化を理由に排除しているのだ。

 つまり、シフトチェンジが煩雑になっても、操縦性が悪化しても、軽さでタイムを叩き出せればそれでいいというわけなのである。

 確かに、質量はクルマの動きの三原則に影響する。「加速する、曲がる、止まる」――このすべてにおいて、軽さは好影響を残す。だが、それとてドライバーが扱えてこその話である。つまり、ルノーはしゃにむにFF最速タイムを狙ったというわけだ。ルノーというメーカーはとても稀有な存在なのである。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

「Think Lab汐留」誕生。その、きっかけとは?

この連載は、「働き方改革は『時間』だけじゃない!『質』を高めるための“集中力”セミナー」と題して行われたJINS株式会社Think Lab取締役 井上一鷹氏の講演の内容を再編集することで、現代人が失いがちな、あるいは、奪われがちな“集中力”のヒミツを解き明かしていく。井上氏からの「目うろこ」な指摘の数々に、きっと驚かされるはずだ。

2020年1月30日、電通本社ビル内で開催された井上氏による講演の様子
2020年1月30日、電通本社ビル内で開催された井上氏による講演の様子


井上氏:日本人の3分の1はメガネをかけていて、3分の1は外ではコンタクト、家ではメガネを使用している。つまり、3分の2の日本人は、1日に1回でもメガネに触れています。考えようによっては、メガネをかけているという行為は、パンツをはいている時間の次くらい、人体に密接していることになる。

その発見が、そもそもの始まりでした。メガネから送られてくる目の動き、まばたき、姿勢といったデータをスマートフォンに飛ばすことで、人間の「集中力の質」を測ってみたいと思い立ったのです。

集中力とまばたきとの関係を解析した図

集中する、ということは万民に同等に与えられている時間の密度(=価値)を高めるという行為。その仕組みが解明されれば、企業が求める「働き方改革」や
個々人が求める「幸せな働き方」の大いなるヒントになるはずだからです。

「働き方」の定量的なデータは、基本的に「時間」でしか測れません。なので、残業時間を短縮することばかりが取りざたされがちですが、時間だけでなく、時間×パフォーマンスが仕事のアウトプットを決めるはずなので、もしパフォーマンスを測ることができれば、低い状況を特定して減らしていき、高い状態の再現性をつくっていくことで、はじめてオフィスワーカーはもっと質の高い仕事をしていくことができるはずです。

パフォーマンと時間の相関関係図

「朝型」「夜型」という言葉そのものは、世の中に浸透していますが、人によって、「パフォーマンス」が高まる時間帯はまちまちで、それは、DNAに刻み込まれているものなんです。一方で、集中できる場所については、個体差はなく、公園や喫茶店といった場所に比べると実はオフィスが最も集中できない場所である、というデータがあります。

場所ごとの集中力の比較図

日常生活で集中を阻害する要因の最たるものは「同僚とスマホ」です。人は深い集中状態に入るためには、23分の時間を要するといわれている。しかしながら、オフィスにおいては11分に1回の割合で、周りの人間に話しかけられるか、メールが届く。これでは、集中した作業、集中した思考を行えるはずがありません。

「知」を高めるには、「探索」(同僚とのコミュニケーションやネットでの情報検索)と「深化」(一人で集中して、もの思いにふけること)の二つが必要です。これまでのオフィス空間は「探索」をベースに設計されていて「深化」のための工夫は、ないがしろにされてきました。独創的なアイデア、というものが求められる時代にあって、「独り」で「創る」ための時間と空間を確保することは絶対に必要なことなのです。

知の探索と進化の関係を示した図

知の深化をしていくために、一人の深い集中状態が必要です。人が集中するためには、緊張感とリラックスという相反する状態を同時に保持していく必要があります。緊張を高めて没頭できる状態になると人のまばたきは、回数が劇的に減ります。しかし、緊張だけでは長続きしないので、リラックスしているか、も同時に重要になります。そのリラックス状態は、まばたきの強さのばらつきに表れます。心が安定状態になると人は、まばたきも安定するのです。

そのデータを、メガネを使って「定量的」にとれないものか。プロジェクトは、4年前に動きだしました。述べ1万人のデータが集まりました。その結果、非常に興味深いことが、次々に分かってきました。

例えば、「持続的な集中ができているか?」をテーマにベテランの職人さんと初心者の職人さんの「まばたきの回数と強度」のデータを検証したところ、明らかな差が認められたのです。しかしながら「やはり、経験が大事なのね」で、終わってしまってはこのプロジェクトを進める意味がありません。

初心者とベテランの集中度合いを比較した図

大事なことは「集中できている」という状態に至るには、あらゆる要因があるのだということです。温度、湿度、気圧、音、光、香り…あらゆる要因を分析した結果、集中を高めるための三つのポイントが、明らかになってきました。

1)できるだけ「要素」を満たすこと
2)入りやすい「構造」を用意すること
3)入るための「準備」を整えること

例えば「準備」ということでいうと、最近ではPCのソフトなどを用いてスケジュールを管理&共有することが多くなっていますが、その際に、会議と会議の合間の時間をついつい「空き時間」と表現しがちではありませんか?

これがどういうことかというと「仕事相手とコミュニケーションをとるための予約はするのに、一人で集中して考える時間は、予約していない」ということで、
集中するための「準備」を私たちは怠っている。集中できる時間を獲得するためには「いつ、どこで、何をするか」の準備が必要なのです。

集中するための「要素」「構造」「準備」。最終回となる次回は、これらのポイントについてより深く、具体的に解説していきます。

「Think Lab汐留」内部の様子
「Think Lab汐留」内部の様子

20~30代の働く女性、カロリー摂取量がケニア並みで栄養失調…ヘルシーな食事で体の不調

 例年よりも少し長いお正月休みだったこともあり、1月は職場で「正月太り」が話題になっていたという方もいらっしゃるかもしれません。しかし、20代の女性の栄養摂取量が年々減少し、昭和20年代と同等だという事実を、皆さんご存じでしょうか(厚生労働省「平成29年国民健康・栄養調査」)。

 同調査では20代女性の「やせ」は全体の21.7%にも上ることを示しています。ここでいう「やせ」の定義は、BMI(body mass index)18.5未満です。BMIの視点からみれば、戦後に増加傾向をたどり社会問題となっている男性のメタボとは対照的です。この「やせ」の増加には、現代女性のやせ志向が根底にあり、さらに働く女性の増加が原因だと感じます。

 国の発展段階によって人々の判断基準が変化することも一因で、国が貧しいうちは太ることを望み、豊かになれば体形のコントロールができる「やせている人のほうがかっこいい」となる。これは日本だけではなく欧米やアジアでも見られる傾向です。

 1990年代のスーパーモデルブームのケイトモスを覚えていますか。「ガリガリでなくてはいけない」という価値観が若い女性に植え付けられた頃です。さらに最近ではSNSやカメラ付きスマートフォンなどの普及で、自分が見られているという意識が高まり、女性の摂取カロリーに対する意識が過剰に強まっています。近年、欧米ではやせ志向の末に増加している摂食障害への社会的意識も高くなり、一定以上のBMIでなければモデルになれないという規制のある国もあります。やせたスーパーモデルがランウェイを歩き、それを見た若い女性に過度な“やせたい願望”を抱かせていることから、このような規制が始まったのです。

働く女性は「必要な栄養素」を摂れていない

 私たち女性には、なんとなく「メタボは悪、太っているのは罪」という意識がある気がします。最近ウエストが締まってきたと感じると気分が良い、というのは女性共通の感覚でしょう。私が産業医面談をする女性に「食事はきちんと摂れていますか?」と聞くと、大抵の人は「ヘルシーな食事をしています!」と堂々と答えます。その「ヘルシー」の定義が怪しいため、何を食べているかを聞きますが、多くの人は「ヘルシー=野菜が多い食事→サラダ」という思考回路を持っており、昼はサラダ、朝はスムージーです。これは完全なダイエット食、すでに十分にやせているのに、です。

 20~30代の働く女性に必要な摂取カロリーは、国の発表で一日2000kcalほど。しかし実際の平均摂取カロリーは1470kcal、これ実は食糧難のケニアと同じで飢餓状態レベルなのです。また、労働時間が長い女性ほど摂取カロリーや必要な栄養素を摂れていないという調査結果もあります。

 現代では容姿も仕事の成果と同じくらい評価の対象になりやすいという、価値観の変化も背景にあるのかな、と感じます。誤解を恐れずにいえば、80~90年代のキャリア女性は「牛乳瓶の底のような眼鏡」でキャリアに突き進んでいても、それはそれで評価されていた。そんな高学歴女性はよくいました。しかし、今は一流大学卒であろうとMBAホルダーであろうと、見た目も向上してきました。つまり「見た目も中身も」。仕事の成果だけでなく、容姿も求められるというダブルスタンダードに直面しているのでしょうか。

 朝食の欠食も20代には多く、一人暮らしの女性の29%に上ります。仕事が忙しく、朝食を抜き、昼はコンビニのサラダとおにぎり1つ、夕方職場でクッキーを食べてしまったから夕食は抜く……私が産業医面談する女性に多いパターンです。これでは糖質がメインとなり、三大栄養素の中のタンパク質、脂質はほとんど摂れません。脳の働きに必要なアミノ酸のもととなるタンパク質、ホルモンの材料となる脂質の不足は、「見た目も中身も」が求められる働く女性にとって、仕事力、女子力を落としてしまう原因です。

女性の鉄不足も深刻

 鉄不足も深刻で、労働局のデータによると職場の定期健康診断の有所見率は平成に入り右肩上がり。今や貧血で献血不適格とされる割合は、男性では2%なのに対し女性ではなんと30%に上ります。女性は月経や妊娠、そして婦人科系疾患により鉄不足となりやすく、頻脈、息切れ、立ち眩み、注意力低下、神経過敏、頭痛などの症状が出ますが、鉄不足の症状ははっきりしないものも多いため、発見を遅らせる原因となっています。

 メンタル症状にも関係する脳内伝達物質合成に鉄が必要ということもあり、鉄不足で鬱の症状も出ます。メンタル不調だと思って受診したけど、採血をしたら貧血で、鉄を飲み始めたら鬱っぽさもなくなった、なんてことも結構あります。鉄不足の不調を気力で乗り切ろうとしているうちに糖分を取りたくなる、そんなことも起きます。糖質の摂取で乗り切り、その後悔で食事を抜く、まさに悪循環ですね。

「女性の社会進出」がうたわれた頃には、働く女性が増えることは女性の自立を促し、それにより女性が心身共に健康になると信じられていましたが、今や仕事をするのが当たり前、見た目も仕事の成果も求められ、さらに子育ても夫が頼りにならず「ワンオペ」で。そんな超ハードな女子の肉体は「栄養失調状態」で酷使されているのです。

 これからの働く女性は、ダイエット系のメニューではなく、必要なものをきちんと食べ、その分動く。そんな健康法にシフトです。さあ今日から、淡白なものばかりでなく、お肉に、魚、そして緑黄色野菜などをがっつり食べて、見た目と仕事のパフォーマンスを上げていきたいものですね。

(文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表)

山野美容芸術短期大学客員教授。ドクターズヘルスケア産業医事務所代表。東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。パリ第1大学大学院医療経済学修士、WHO健康都市プロジェクトコンサルタント、保健所勤務などを経て産業医事務所設立。10年にわたる東京女子医科大学附属女性生涯健康センターの女性外来、産業医として数千人の社員面談の経験より、働く女性のメンタルヘルスに詳しい。著書に『ハイスペック女子の憂鬱』(洋泉社新書)ほか。

4月、民法大改正で相続が激変!高齢妻がひとり残されても老後生活は安泰

 40年ぶりに相続に関する民法の規定が改正され、4月から施行されます。たとえば、自筆証書遺言の「財産目録」を、自筆ではなくパソコン等で作成することが可能になります。また現在は、預金者の死亡が判明すると銀行口座が凍結され、遺産分割協議が終わるまで預金を引き出せなくなりますが、一銀行150万円まで引き出せるようになります。ほかにも、義理の親を介護した嫁が相続人に対して「特別寄与料」の名目で介護費用を請求することできるようになります。

 特筆すべきは、死亡した人(被相続人)の配偶者が、死ぬまで自宅に住み続けることができる「配偶者居住権」という規定が新設されたことです。

「配偶者居住権」とは

 配偶者居住権(新民法1028条以下)とは、自宅を所有する人が死亡したときに、その配偶者が引き続き自宅に住むことができる権利です。配偶者に限って相続開始後、原則として亡くなるまでの間、無償でその家に住み続けることができます。

 配偶者居住権が創設される前は、遺産分割の際に遺産のほとんどが不動産である場合に、法定相続分を請求する他の相続人がいると、配偶者は今まで住んでいた自宅を売却して、売却代金を分割しなければなりませんでした。売却する必要がなくても、相続した自宅の評価額が相続分を超える場合は、その配偶者は残りの金銭等を相続することができず、生活費が不足してしまい、老後を安心して過ごすことができないという事態が珍しくありませんでした。

 そこで、高齢の配偶者の生活を保護するために配偶者居住権が新設されました。この規定により2020年4月以降は、被相続人の配偶者は住み慣れた自宅に住み、安心して老後の生活を送ることができるようになります。

配偶者居住権の構造

 もともと自宅の所有権というひとつの権利だったものを、配偶者居住権と所有権の2つに分けたのです。それにより、被相続人の配偶者が配偶者居住権を相続し、子が所有権を相続するといったことができます。

 配偶者居住権は、譲渡することはできませんが(新民法1032条2項)、放棄することはできます。そのため、所有者との合意により、対価を得て配偶者居住権を放棄したり、第三者に当該建物を使用させて収益を得ることもできます。しかし、配偶者は無償で所有者の建物を借りて使用収益しているため、“善良な管理者としての注意義務”を負います(新民法1032条1項)。

 この配偶者居住権を実行可能にするために、持ち戻し免除の意志表示があったものと推定する規定(新民法903条4項)も加えられました。

「持ち戻し」とは

 「持ち戻し」とは、共同相続人のなかに特別受益者(被相続人の生前に金銭や金銭的価値のあるものを受けた者)がいる場合、共同相続人間の公平を図るために、遺産分割にあたって、その受け取ったものを相続財産に戻して各相続人の取り分を等しくする制度です。

 贈与や遺贈によって特定の相続人へ多く遺したいとの意向を持つ人もいます。この場合、被相続人が遺言等でその旨を明確にしておけば、被相続人の意思が尊重され、生前贈与や遺贈を受けた相続人は受け取ったものを相続財産に戻す必要はなくなります。

 しかし現実を見ると、被相続人が持ち戻し免除の意志表示をしない場合が多いので、被相続人の意志を推定する規定を置いて、配偶者の保護を図ったのです。

 ただし、この規定は推定規定なので、反証を挙げれば覆すことができますし、婚姻期間20年未満の配偶者には適用されないので、その場合は生前贈与または遺贈を受けたものを相続財産に戻さなければなりません。

まとめ

(1)配偶者居住権は配偶者が無償で自宅に住むことができる権利で、所有権ではない。
(2)配偶者居住権は譲渡することができない。
(3)配偶者居住権は放棄することはできる。
(4)配偶者居住権は建物所有者の承諾を得て第三者に当該建物を使用させ、収益を得ることができる。
(5)配偶者は所有者の建物を借りて使用収益しているため、善良な管理者としての注意義務を負う。
(6)婚姻期間20年以上の配偶者に対し、持ち戻し免除の意志表示があったものと推定する規定が加えられた。

(文=藤村紀美子/ファイナンシャルプランナー・高齢期のお金を考える会)

絶望的な“長生きリスク”…100歳までの介護費は6千万円、老人ホームは10年で3千万円

「人生100年時代」の負の側面として顕在化してきているのが“長生きリスク”だ。昨年、金融庁の「老後資金2000万円不足」問題が波紋を呼んだが、長生きすることで生じるリスクには、どんなものがあるのだろうか。

「人生100年時代」という言葉は、政府の「人生100年時代構想会議」によって周知されるようになった。産業の現場で人手不足が深刻化し、社会保障費が増大している今、政府としては元気な高齢者には働いてもらい、いろいろな意味で現役並みの社会生活を送ってほしいという思惑がある。

 いわゆる「ピンピンコロリ」であれば問題は少ない。健康寿命が長ければ、介護にお金がかからないからだ。しかし、今は「老老介護」が問題となっているように、老人が老人を介護せざるを得ないケースも増えている。

 高齢者やその家族、介護施設から数多くの相談を受けている教育ジャーナリストで神奈川県在住の木村誠氏は、長生きに伴うさまざまなリスクについて「人生100年時代の魔界」と表現する。

「高齢者が軽度の認知症になると、徘徊、暴力、暴言などを繰り返し、家族が悩むというケースが身近で増えています」(木村氏)

 認知症によって性格がガラリと変わり、家族に暴力を振るうなど攻撃的になったり、被害妄想気味になったりすることがあるという。しかも、本人に自覚がないため、家族が諌めても暴力や徘徊は続き、それが家族の心に深い傷を負わせるのだ。

 認知症の進行に加え、足腰が弱ってくると、今度は経済的な問題が深刻化してくる。自宅での介護が難しくなるからだ。

 神奈川県のある介護付き有料老人ホームは、生活の質の向上を目指し、機能訓練指導員による個別のリハビリプランを打ち出している。2017年に放送されたドラマ『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)のヒットにより、高齢者の間では充実したリハビリプランやサークル活動などへの関心が高まっているが、ある入居している高齢者は以下のように語る。

「あれはドラマの話。あんな悠々自適な生活なんて無理。現実の老人ホームの中は、欲望に忠実になった高齢者同士が老いらくの恋に走ったり、食事のことで喧嘩したり、むしろ絶望的に見える」

 ちなみに、有料老人ホームの予算は安くない。首都圏では方式によって異なるが、平均的標準入居金は300万~600万円。月額利用料は約20万円、さらに介護保険の自己負担分が毎月かかる。

「月額利用料が月20万円とすると、それだけで10年で2400万円かかることになり、その重い負担に家族が経済的に耐えられなくなるケースもあります」(同)

介護費用だけで6000万円かかる?

 また、病気になって入院した場合も問題が発生するかもしれない。

「急性期を過ぎた高齢者の患者は3カ月以上入院していることはできず、多くの場合、転院しなければならなくなります」(同)

 これは、3カ月を過ぎると病院に支払われる入院医療報酬が極端に減るという仕組みのためだが、高齢者が3カ月ごとに病院を転々とするのは、転院先を探すだけでも現実的ではない。

「そのため、慢性期の患者の長期療養を目的とした医療措置やリハビリなどのサービスを提供する療養型病棟を探すことになります。しかし、私の地元である湘南では、一番安い個室でも1日9000円はかかることが多い。そのほかに病衣のリースや日用品などの出費もあり、費用負担は重いのです。健康寿命にもよりますが、100歳まで生きると、介護費用だけで総額6000万円ほどかかるという試算になりました」(同)

高齢者の死を待つ親族の実態

 ところで、高齢者にとって甥や姪らの親族はあてになるのだろうか。前出とは別の高齢者は以下のように語る。

「土地を保有していた高齢者が亡くなった後、今まで介護もしなかった甥や姪が相続権を主張するケースがあります。実際、おじやおばの死を待っている甥や姪は多いようで、裁判になって甥や姪が相続を主張することもあるようです」

 2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり、国民の4人に1人が後期高齢者という超高齢社会を迎える。そんななか、木村氏は「国家プロジェクトでさまざまな介護ロボットを開発し、早期に実用化する」「敬老精神が強く残る国から外国人労働者を呼び込み、介護のスキルを身につけてもらう」という2つの打開策を提案する。

「この2つの施策をベースに介護産業を国策的な福祉ビジネスに成長させ、高齢化に悩む海外諸国にもノウハウを輸出するような仕組みづくりが必要です」(同)

 介護や長生きに関する問題は、もはや全国民にとって他人事ではないだろう。

(文=長井雄一朗/ライター)

JRAカレンブーケドール「シルバーコレクターだね」惜敗続きにコンビ解消を決断! O.マーフィー騎手でドバイシーマクラシックへ

 もうこれ以上2着はいらない……欲しいのはただただ1着だけ。

 カレンブーケドール(牝4、美浦・国枝栄厩舎)陣営にとって3月28日のドバイシーマクラシック(G1)を見据えた京都記念(G2)は、絶対に取りこぼせないレースだったに違いない。

 コンビを組んでいた津村明秀騎手も、3歳春のスイートピーS(L)の1着を最後にここまで2着3回、3着1回と惜敗を繰り返していただけに今回が正念場だったといえよう。

 54キロを背負ったライバルに対し、1キロ軽い53キロでの出走。枠順も7枠クロノジェネシスに1枠カレンブーケドール、勝つためのお膳立てが整っていたのは間違いない。

 ところが、積極的にポジションを取りにいき、できるだけ距離のロスなく立ち回ったライバル・クロノジェネシスとは逆に、後方まで下がってから外々を追走して終始後手に回ったのは痛かった。

 津村騎手も残り800m過ぎから懸命に追い上げたものの、先に抜け出した勝ち馬を交わすだけの脚はなく、秋華賞に続きまたしてもクロノジェネシスの後塵を拝する2着に敗れてしまった。

「軽い馬場を得意とするディープインパクト産駒のカレンブーケドールにとって、今の京都の馬場は決して得意ではないでしょう。紫苑S(G3)でも3着に敗れたようにもともと休み明けは走らない可能性もあります。

ただ、オーナーの目の前で負けてしまったのは心証が悪いです。昨年も津村騎手の乗り替りが噂されていましたし、もしかしたら外国人騎手の起用もあるかもしれませんね」(競馬記者)

 レース後のコメントで津村騎手は「馬場を気にしていたのかゲートを出ても進まず、前半は無理せずに行きました。勝った馬はこのような馬場が得意なようです」と馬場適性に敗因を求めるしかなかった。

 管理する国枝師も「スタートして進んで行かず、腹をくくって下げて、馬場の良いところを走らせたようです。勝った馬は強く、全然この馬場を気にしていなかったようです」と擁護した。

 ところが、「(2着続きで)シルバーコレクターだね」と苦笑いだけで終わらなかったのは、今日こそは愛馬の勝利を見届けようと観戦に訪れていた鈴木隆司オーナーだ。

「日本では重賞もG1も勝っていないけど、海外でアッといわせたいですね」と気持ちを切り替えるとともに、陣営からは次走ドバイシーマクラシックにO.マーフィー騎手の起用が発表された。

 津村騎手なりにベストを尽くしたのは間違いないとはいえ、結果を求められるのもまた、勝負の世界の厳しさでもある。

 再度のコンビ結成に向けても、実績を積み重ねて信頼を勝ち取っていくしかないだろう。

JRAディアドラとメイショウマンボが歩んだ名牝街道へ……「隠れ出世レース」で好走したハープスター妹に期待

 16日(日)に京都競馬場で行われた3歳1勝クラスの「こぶし賞」(芝1600m)。7頭立ての少頭数となったが、直線は2頭の激しい叩き合いが続く、見応えあるレースとなった。

 勝ったのは2番人気のサトノインプレッサ。道中、最後方を進み、4角で大外に持ち出すと、直線鋭く伸びて、1番人気のギルデッドミラーをクビ差捕らえた。

 サトノインプレッサはこれでデビュー2連勝。今後はクラシック路線、マイル路線のどちらに進んでも有力馬の1頭として注目を浴びるであろう、そんな勝ちっぷりだった。

 優勝馬にゴール前差されたが、2着に粘ったギルデッドミラーも「負けて強し」のレースぶりを見せた。道中は終始掛かり気味で、これがゴール前の惜敗につながったと言えるだろう。

 鞍上の福永祐一騎手も「引っ掛からないようにゆっくりゲートを出しましたが、なかなかハミが抜けなかった。その割には最後までバテずに伸びてくれました」と話しているように、粗削りな部分を残しながらも、伸びしろがありそうだ。

 3着には4番人気のゴールドティアが入り、今年のこぶし賞は2~3着が牝馬という結果に終わった。1勝クラスで決して注目度も高くない同レースだが、実はここで馬券に絡んだ牝馬はその後に飛躍する確率が高いことで知られている。

 2010年から昨年までの過去10年で、牝馬の成績は「3-0-2-21」。5頭が馬券圏内に入っている。その顔ぶれは以下の通りだ。

2017年 3着 ディアドラ
2015年 1着 ペルフィカ
2013年 1着 メイショウマンボ
2012年 3着 トーホウアマポーラ
2010年 1着 オウケンサクラ

 3年前のこぶし賞で3着に入ったのが、国内外でG1競走2勝を挙げているディアドラだ。本格化前ながら、その後もアネモネS(OP)2着から桜花賞(G1)に参戦(結果は6着)。その後500万下の矢車賞で2勝目を挙げると、オークス(G1)で4着に食い込み、秋の秋華賞(G1)制覇へとつなげ、19年には英ナッソーSで海外G1制覇も果たした。

 2013年のこぶし賞を制したメイショウマンボは、その後にフィリーズレビュー(G2)も優勝。桜花賞は10着に敗れたが、9番人気で臨んだオークスでG1制覇を果たした。秋も秋華賞、エリザベス女王杯とG1を連勝。3歳時に国内G1を3勝以上した牝馬は2000年以降、6頭しかいないが、メイショウマンボはそのうちの1頭である(ジェンティルドンナとアーモンドアイが4勝、ダイワスカーレット、スティルインラブ、アパパネ、メイショウマンボが3勝)。

 2010年のこぶし賞を制したのがオウケンサクラ。その後、チューリップ賞(G3)で4着に敗れたが、フラワーC(G3)を制覇。3番人気で臨んだ桜花賞ではアパパネの2着に入った。

 5頭のうちディアドラとメイショウマンボが複数のG1を制覇。オウケンサクラが重賞制覇を果たすなど、こぶし賞で好走した牝馬にとっては“出世レース”と言えるだろう。

 2着のギルデッドミラーも強いレースぶりだったが、3着のゴールドティアも桜花賞馬ハープスターを半姉に持つ超良血馬。ただし2頭とも賞金を加算できなかったため、牝馬クラシック路線に進むには次のレースで優勝、もしくは権利取りが絶対条件となる。

 果たして“出世レース”で好走したギルデッドミラーとゴールドティアはディアドラ、メイショウマンボと同じように牝馬G1制覇への道を歩むことができるだろうか。長い目で期待したい2頭だ。