ジェンダーギャップ解消のために、世代交代を待たずに今できること – 集団浅慮

2025年に社会に大きな衝撃を与えた「フジテレビ事件」と、それを受けた第三者委員会の調査報告書をきっかけに執筆された、『集団浅慮:「優秀だった男たち」はなぜ道を誤るのか?』(古賀史健)。その出版を記念した対談が、ブックファースト新宿店で開催されました。ゲストは、『わたしたちは無痛恋愛がしたい』を連載する漫画家であり、「パブリックスピーカー」「フェミニスト」としても活動する瀧波ユカリ氏。お二人の対談の模様をダイジェストでお届けする全3回の最終回です。

テスラ「Terafab」が示す半導体戦略の転換点…自給自足でTSMC・トヨタを駆逐?

●この記事のポイント
テスラがテキサスで進める半導体一貫生産拠点「Terafab」は、設計・製造・パッケージングを統合する垂直統合モデルにより、AIチップの開発速度とコスト競争力を高める試みである。自動運転やロボット開発を支える計算資源の内製化が、半導体産業や製造業の競争構造に与える影響を分析する。

 テスラがテキサス州で進める次世代製造拠点「Terafab(テラファブ)」が今、注目を集めている。従来のギガファクトリーを拡張した施設と見る向きもあるが、その本質は単なる生産能力の増強ではない。

 テスラが目指しているのは、「製品を作る企業」から「計算資源を内製し、活用するインフラ企業」への転換である。電気自動車メーカーとしての枠組みを越え、AI時代の基盤となる演算能力を自社で確保し、それを中核にビジネスモデルを再構築しようとしている。

 半導体はもはや部品ではなく、AI時代における競争力の源泉である。Terafabはその供給を外部に依存しないための装置であり、同時に将来的な事業拡張の起点ともなり得る。

●目次

 

水平分業モデルへの挑戦

 現在の半導体産業は、設計(ファブレス)、製造(ファウンドリ)、後工程(OSAT)といった分業体制によって成立している。この構造はコスト効率と技術分業を両立させ、過去数十年にわたり産業の成長を支えてきた。

 しかしテスラは、この前提そのものに再考を迫っている。Terafabの構想は、設計から製造、パッケージングまでを一体化する「垂直統合」に近い。すべてを自社内で完結させることで、設計変更から量産までのリードタイム短縮や、サプライチェーンの不確実性低減を狙うとみられる。

 元半導体メーカー研究員で経済コンサルタントの岩井裕介氏は、次のように指摘する。

「最先端ノードでは依然としてTSMCなどの専業ファウンドリが優位にあるが、設計と製造の距離を縮めることで開発スピードを高める動きは確実に広がっています。特にAI用途では、汎用チップよりも用途特化型の最適化が重要になるため、垂直統合のメリットが出やすい領域です」

 つまり、テスラの試みは既存モデルの完全否定ではなく、「特定領域における最適解の再定義」と捉えるべきだろう。

AIチップ内製化の戦略的意味

 テスラはすでに自動運転向けチップ(FSDチップ)を自社設計しており、その進化版とみられる次世代AIチップの開発も進めている。こうした内製化の狙いは、単なるコスト削減ではない。

 第一に、ソフトウェアとの最適化である。AIの性能はアルゴリズムとハードウェアの統合設計によって大きく左右される。汎用チップを使う場合に比べ、自社設計チップは処理効率や消費電力の面で優位性を持ちやすい。

 第二に、供給制約の回避である。近年の半導体不足は、自動車産業にも大きな影響を与えた。AI需要の急増により先端チップの確保競争は一層激しくなっており、内製化は安定供給の観点からも重要な戦略となる。

 第三に、データと計算資源の統合である。テスラは車両から膨大な走行データを収集しており、それを学習に活用するための計算基盤を自社で持つことは、開発サイクルの高速化につながる。

「今後の競争はモデル性能だけでなく、“どれだけ高速に改善を回せるか”に移るでしょう。その意味で、データ収集・学習・実装を一体化できる企業は有利になります。テスラは、その構造を早くから意識しているのです」(同)

自動車からロボティクスへ

 Terafabの影響は、自動車領域にとどまらない可能性がある。テスラが開発を進める人型ロボット「Optimus」は、その象徴的な存在だ。

 ロボットは、センサー、制御、AI推論といった複数の技術の統合体であり、その中核を担うのが半導体である。高性能かつ低消費電力のチップを大量に供給できるかどうかが、実用化の鍵を握る。

「ロボットの普及はハードウェア価格に強く依存します。もしテスラがチップを含めたコスト構造を自社でコントロールできれば、他社よりも早く量産フェーズに入る可能性があります」(同)

 また、ロボットは工場だけでなく、物流やサービス分野への応用も期待される。これは労働力不足が深刻化する先進国にとって、重要なテーマである。

 Terafabがもたらす最大の変化は、テスラの収益構造にある。

 従来の自動車ビジネスは、ハードウェア販売による単発収益が中心だった。しかし、FSDやソフトウェアサービス、さらには将来的なロボット関連サービスは、継続課金型の収益モデルに近い。

 このとき、自社でチップを供給できることは、コスト構造の最適化だけでなく、利益率の向上にも直結する。外部調達に依存する場合と比べ、価格決定権を持ちやすくなるためだ。

 さらに注目されるのが、計算資源の外部提供という可能性である。

 クラウドインフラの分野では、アマゾンが自社向けに構築したサーバー基盤を外販し、「AWS」として巨大な収益源に育てた。同様に、テスラが将来的にAI計算基盤やチップを外部に提供するシナリオも想定される。

 もっとも、現時点で具体的な事業化が示されているわけではなく、あくまで構造的に可能性がある段階に留まる点には留意が必要だ。

産業構造の再編は段階的に進む

 この動きは、日本企業にとっても重要な示唆を含む。

 日本の製造業は、高品質な部品や製造技術に強みを持つ一方で、サプライチェーンの中での「部分最適」に依存する傾向が指摘されてきた。半導体においても、材料や装置では高い競争力を持ちながら、最終製品の主導権は海外企業に握られている。

 Terafabが象徴するのは、「どの領域を自社で統合し、どこで外部と連携するか」という戦略的選択の重要性である。

「すべてを内製化することが正解ではありませn。ただし、競争優位の源泉となる領域については、自社でコントロールする覚悟が必要です。テスラの動きは、その判断基準を問い直しています」(同)

 また、AIと製造の融合が進む中で、データ活用能力やソフトウェア開発力の強化も不可欠となる。

 Terafabは、既存の製造業を直ちに置き換えるものではない。しかし、AIと半導体を軸とした新しい競争構造が形成されつつあることは確かである。

 垂直統合と水平分業は対立概念ではなく、用途や戦略に応じて使い分けられるべきものだ。テスラの取り組みは、そのバランスを再設計する試みといえる。

 今後の焦点は、このモデルがどこまで実効性を持つか、そして他企業がどのように対応するかにある。半導体、AI、自動車、ロボティクスといった複数の産業が交差する中で、競争のルールそのものが変わりつつある。

 その変化をいち早く捉え、自社の戦略に落とし込めるかどうかが、次の時代の競争力を左右するだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩井裕介/経済コンサルタント)

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「推し美容師」が1.3兆円市場を押し上げ…スマホ写真1枚で100万円が動く時代に

●この記事のポイント
美容室市場は約1.3兆円規模で拡大する中、成長の主因は客数ではなく単価上昇にある。SNSを起点に「推し美容師」への指名消費が拡大し、動画による技術の可視化とD2C物販が収益構造を変革。サロンは雇用主からエージェントへと役割を転換し、個人ブランドが市場を動かす新たな経済圏が形成されている。

 美容業界の構造が、静かだが決定的に変わりつつある。

 従来、美容室経営の成否を分けてきたのは、大手予約ポータルサイトでの露出量と広告投資だった。いかに上位表示を獲得するか、いかにクーポンを打つかが集客の核心であり、結果として多くのサロンがプラットフォーム依存から抜け出せない状況にあった。

 しかし2026年現在、この力学は明確に崩れ始めている。

 矢野経済研究所などの調査を基にすると、日本の理美容市場規模は約1.3〜1.4兆円規模で推移し、コロナ禍からの回復とともに再成長局面に入っている。その特徴は「客数増」ではなく、「単価上昇」による成長である。女性の平均客単価は7,000円台後半、男性も4,000円台後半まで上昇し、いずれも過去最高水準に達している。

 この単価上昇を支えているのが、「推し美容師」と呼ばれる現象だ。顧客はもはや「近いから」「安いから」で店を選ばない。「この人に切ってほしい」という個人指名が購買意思決定の中心に移行している。

 その結果、SNSで見た1枚の写真や動画をきっかけに、顧客が県境を越えて来店し、年間で数十万円から場合によっては100万円規模の消費を行うケースも現れている。美容は「場所のビジネス」から「人のビジネス」へと転換したのである。

●目次

「映え」から「思想」へ…SNS戦略の質的転換

 この変化の中核にあるのが、SNSの役割の変質だ。かつてInstagramは「ヘアカタログ」の延長線上にあり、完成されたスタイル写真の美しさが評価の軸だった。しかし現在、そのモデルは飽和し、差別化要因としての機能を失いつつある。

 代わって台頭しているのが、美容師個人の「思想」や「専門性」を軸とした発信である。

 例えば、「白髪ぼかしに特化」「骨格補正ショート専門」「縮毛矯正のダメージ最小化」といった、特定の悩みに対する深い知見を動画で発信するスタイルだ。単なるビフォー・アフターではなく、「なぜこの施術が必要か」「どのような理論に基づいているか」を語るコンテンツが支持を集めている。

 美容専門の経営コンサルタント・岩崎理恵氏はこう指摘する。

「SNSはもはや“集客ツール”ではなく“信頼構築装置”です。美容師個人が専門性を開示し続けることで、顧客は来店前から疑似的な関係性を構築する。これにより価格感度が低下し、高単価でも選ばれる構造が生まれています」

 実際、広告費をほぼ投じず、SNSのみで月商500万円以上を達成する個人美容師も珍しくなくなっている。フォロワー数の多寡よりも、「誰に、どの悩みで、どれだけ深く刺さるか」が競争軸となっている点が重要だ。

職人技の「可視化」とデジタル資産化

 もう一つの構造変化は、美容師の技術が「見える化」されたことにある。

 従来、カットやカラーの技術は来店しなければ体験できないブラックボックスだった。しかしショート動画の普及により、そのプロセスや仕上がりは事前に可視化されるようになった。

 この変化は、価格設定にも直接的な影響を与えている。

 リクルートの調査では、若年層を中心に「写真・動画の充実度」がサロン選びの重要な判断基準となっており、特に20代男性では約半数がこれを決定要因に挙げている。つまり、技術をどれだけ分かりやすく伝えられるかが、そのまま指名料や単価の根拠となっている。

「これまでの美容師は“技術があっても伝わらない”という課題を抱えていました。現在は逆に、“伝えられる技術”だけが価値になる時代です。動画は単なる広告ではなく、技術そのものを資産化する装置になっています」(同)

 いわば、職人技がコンテンツ化され、ストック型の価値へと変換されているのである。

「美容師D2C」がもたらす収益構造の転換

 さらに重要なのは、収益モデルの変化だ。

 従来の美容室は、施術時間に依存する典型的な労働集約型ビジネスであった。1日に対応できる顧客数には物理的な上限があり、売上拡大には人員増加が不可欠だった。

 しかし現在、有力な美容師は自らプロダクトを開発し、SNSを通じて直接販売する「D2Cモデル」を取り入れている。

 国内D2C市場は約3兆円規模に達し、その中でもコスメ・美容領域は大きな比率を占める。美容師は顧客の髪質や悩みを最も深く理解する立場にあるため、自ら開発したシャンプーやトリートメントの説得力は極めて高い。

「美容師は“顧客データを持つメーカー”になり得る存在です。店舗での接点に加え、SNSとECを組み合わせることで、来店しない期間も継続的に収益を生み出せる。この構造が利益率を大きく押し上げています」(同)

 このモデルにより、「椅子に座っている時間だけが売上」という制約は崩れつつある。結果として、高収益化と待遇改善が進み、優秀な人材の流入を促す好循環が生まれている。

サロンは「雇用主」から「エージェント」へ

 個人の力が強まる中で、サロン側の役割も大きく変化している。

 従来の「雇用主と従業員」という関係は、現在では「プラットフォームと所属クリエイター」に近い形へと移行している。サロンは、集客を担う主体ではなく、美容師が価値を最大化するための基盤を提供する存在へと変わりつつある。

 具体的には、撮影設備の整備、SNS運用支援、法務・契約面のサポート、さらにはAIによる髪質診断や顧客管理ツールの導入などが挙げられる。

「今後のサロン経営は“いかにスターを育て、活躍させるか”が核心になります。発信力のある美容師がいる店舗には、広告をかけずとも人材が集まる。採用コストの構造そのものが変わり始めています」(同)

 つまり、個人のブランド力を組織の競争力へと転換できるかどうかが、サロン間の優劣を分ける要因になっている。

テクノロジーの先にある「人」への回帰

 AIによる髪型シミュレーションやAR技術の進化により、技術の標準化は今後さらに進むと見られる。誰でも一定水準の施術が可能になる一方で、差別化の源泉は別の領域へと移行していく。

 それが「誰が提供するか」という要素だ。

 テクノロジーが機能価値を均質化するほど、顧客は「この人に任せたい」という情緒的価値を重視するようになる。言い換えれば、美容は再び「物語のビジネス」へと回帰している。

「推し美容師」経済圏は、単なる一過性のトレンドではない。労働集約型ビジネスの限界を突破し、個人の専門性と信頼を核に新たな価値創出を実現するモデルとして、他業界にも波及する可能性を持つ。

 美容業界で起きているこの変化は、「個人がいかにして市場を動かすか」という現代ビジネスの本質を、極めて分かりやすく示している。今後の競争は、設備や立地ではなく、「誰が選ばれる存在になれるか」によって決まる時代へと完全に移行したと言えるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩崎理恵/経営コンサルタント)

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