Hey!Say!ツアー中止の背景にある、トップがオリキを統率するジャニーズ文化の消滅

5月22日に発売されたばかりのHey!Say!JUMP、24枚目のシングル「Lucky-Unlucky/Oh! my darling」通常盤のジャケット(販売はジェイ・ストーム)

 5月19日、ジャニーズ事務所が、Hey!Say!JUMPの2019年のアリーナ会場でのコンサートを見送ることを発表した。理由は「ツアー移動時に一般のお客様に対して多大なご迷惑をお掛けする状況が改善にいたらなかった」としており、ファンの間で衝撃が走っている。

ジャニーズ事務所はこれまでも再三にわたり、公式ホームページにおいて「大切なお願い」として、ファンの迷惑行為に対して注意・警告を行ってきた。迷惑行為とは具体的には……

・タレントが利用することを予想し、駅でタレントを待ち受ける
・タレントと同じ新幹線に乗車し、タレントを見るために車両のデッキや通路に留まる
(2018年10月17日)

・タレントの写真、動画を撮影し続ける行為
・タレントに故意にぶつかったり、抱きついたりする行為
・スタッフに向けてエアガンを発砲する行為
(2017年9月13日)

 などである。

 事務所だけではない。タレント自身も声を上げている。

 2018年10月、Hey!Say!JUMPメンバーの八乙女光はジャニーズ公式携帯サイト「Johnny's web」内のブログでファンのマナーの悪さについて言及し、「僕はHey! Say! JUMPのライブの開催自体を考え直した方がいいように思います」と注意を促した。八乙女は2017年8月にも同ブログでファンのマナーについて言及。2018年11月には同メンバーの薮宏太がコンサート中に「一般の人に迷惑をかけないで」と直接ファンに訴えた。

 ジャニーズファンによるこうした一連の行為に対し、ジャニーズに詳しいある雑誌ライターは次のように語る。

「実は他のグループに対しても同様の行為が多々あることはジャニーズファンの動向に詳しい者なら周知の事実。にもかかわらず今回、Hey! Say! JUMPのツアーだけが中止になったことについては、『ここ数年、Hey! Say! JUMPの人気が落ちてきていたので、“ファンへの脅し”として、ツアーを中止しても損害が少なくて済むHey! Say! JUMPを選んだのではないか……』などと冗談気味に語る他グループのファンもいます。でも実際、他グループの迷惑行為もひどいものなんですよ」

 2018年9月、King & Princeのファンが仙台駅に殺到し、新幹線の発車が7分間遅れるトラブルが発生。2017年11月には、Kis-My-Ft2の玉森裕太がブログで新大阪駅を利用した時の状況を「昨日 行き帰りも たくさんの方に踏まれながら歩いてました。正直いろいろと 辛かったですわ」「気をつけて じゃなくて やめて欲しいかな。そして危ないからね」と綴った。2018年11月、関ジャニ∞の大倉忠義もブログで、カバンの中に物を入れられた、突然手をつながれた、友人と食事をしていたら駅や空港にいつもいる人が横のテーブルにいたなどのストーカー行為を挙げ、「身勝手な行動が精神的に辛いです。このまま耐え続けられるのだろうか」「普通の人に戻る方がよっぽどらくだろう。そろそろ限界だ」と悲痛な叫びを上げていた。

オリキをトップが統率するという文化の消滅

 しかし、こうした過激なストーカー行為は、今に始まったことではないという。「ずいぶん昔から続いてきたものではあるんです」と、前出のライターは指摘する。

「今回は公共交通機関での迷惑行為が問題となっていますが、自宅までついていったという話も昔からよく聞きます。自宅の前にテントを張って泊まっていたとか、郵便物を盗んだとか。ジャニーズタレントの自宅ポストは、郵便物が盗まれないよう、Jr.メンバーに至るまで軒並みガムテープが貼ってあったといいます」(同・雑誌ライター)

 しかし、かつてと今とでは、決定的に違う点があるのだという。

「昔は、“オリキ”と呼ばれる熱心なおっかけには、必ず“トップ”という統率役がいたんです。このトップはジャニーズ事務所サイドと非公式にではあれどつながっており、出待ちが可能な場所などの情報はトップからしかもらえなかった。だからみんなトップの言うことは聞いていたし、ルールを守らない“ヤラカシ”に対しては情報を与えないという“制裁”を科すなどし、一定の秩序を保ってはいられたんです。

 しかし今では、このようなオリキの“文化”はほぼ消滅してしまった。その大きな理由は、ネットの発達です。一部のヤラカシや業界関係者から漏れた情報、一般人による目撃情報などは、今はSNSによってあっという間に拡散してしまいます。そうやって情報を得られるから、以前のようなトップによる統率などもはや意味を成さない。たまにマナー違反を注意する真面目なファンもいますが、そうしたファンは“純オタ”などと呼ばれ、『純オタとはかかわりたくない』と揶揄の対象にすらなっている始末」(同・雑誌ライター)

 さらに、迷惑行為の“質”も、より陰湿になってきているという。

「2018年にKing & Princeがデビューを記念して行ったハイタッチ会で、『好きなタレントにファンを近づけさせないためにナイフを持ってくる』と一部のファンが宣言し、その情報が拡散するという騒動がありました。実際にナイフを持参したかどうかは不明ですが……。

 こうした異様なファンも以前からいるにはいましたが、SNSのせいで近年は悪目立ちするようになってきています。一部のYouTuberが過激化するのと同じ理屈で、行為をあおる者もなかにはいるし、そうやって注目されることが快感となってしまうと歯止めが利かないですからね。コンサートで特定のメンバーの名前を挙げて『死ね』などと書いたうちわを掲げているファンの存在などもよく聞きますし、そうした行為の広がりに身の危険を感じてしまうメンバーが増えてきていても不思議ではないと思いますね」(同・雑誌ライター)

 手軽に情報を得ることが可能となってしまった現在。過激な言動はあっという間に広がり、そのことで優越感を得てしまう者もいれば、そうした歪んだファン感情を持つ“仲間”を見つけることもかつてより容易だ。また、タレントによるネット向け情報発信の一般化で、タレントとの距離をかつてよりもぐっと身近に感じやすいといった時代状況もあろう。

 こうしたSNS時代において暴走するファンを止めるには、ツアーの中止、さらには活動停止といった“最後の手段”しか残されていないのかもしれない。
(文=編集部)

福山雅治『集団左遷!!』の顔芸はヘタなのか…業界関係者が語る“ましゃ”の本当の演技力

TBS系『集団左遷!!』公式サイトより

 現在放送中の連続ドラマ『集団左遷!!』(TBS系)で主人公を演じる福山雅治の熱演が、いろんな意味で話題だ。

 廃店寸前の三友銀行蒲田支店に課せられたノルマは、「半年間で融資額100億円」。上層部から「銀行の未来のために、ノルマを達成できなければ廃店にする」と言われ、部下たちを守るため支店長として奮起する福山は、とにかく走り、怒り、嘆く。ここで、2013年に『半沢直樹』大ヒットを生んだこの「日曜劇場」枠ではお約束の“顔芸”が炸裂するのだが、「福山の顔芸はサムい」「大根役者丸出しで引く」など、SNS上では罵詈雑言が炸裂。実際に同作を見てみると確かにかなりの熱演ぶりだが、そこに“男50歳、福山雅治の新境地”が感じられるような気も……。

 なぜ彼の顔芸はこれほどまでに不評なのか? あるテレビ局のドラマ部プロデューサーは、次のように語る。

「福山さんは、所属事務所アミューズの先輩女優、富田靖子の相手役という好待遇で事実上の役者デビューを果たし、俳優としてそこまでの下積みを経験しないままブレイクしてしまった。その勢いでミュージシャンとしても成功しその後も順風満帆のため、俳優業で大きく悩むこともなかったのでしょう。その結果、どうしても演技力がデビュー当時から大きく進歩していないんですよね。

 彼の人気が絶大なので、これまでは制作側が“福山雅治ありき”で、“福山ができる役”を考え、ここまでやってきたという側面もあると思います。結果どうしても、“感情がわかりづらいイケメン役”が多かった。実際、彼の芝居で最もよかったのは、『ガリレオ』シリーズ(フジテレビ系)の湯川学でしょう。ああいった、感情の起伏がなく淡々とロジカルにセリフを言うことが求められる役こそが、彼に最も向いているのだと思います。

 ところが今回の『集団左遷!!』における役は、まさにその真逆。感情をむき出しにして走り回り、部下を熱く鼓舞する中間管理職なわけですから、バリエーションに乏しいという彼の短所がどうしても露呈してしまう。といって、キャリア30年超の福山さんに演技の基礎から指導できるわけもないので、今作ではもう、彼のこうした大げさな演技を眺めているしかない。そもそも失笑ギリギリの過剰な演技が求められる日曜劇場で、しかも銀行モノとくれば、どうしても『半沢直樹』的な顔芸が求められてしまうのは仕方のないこと。でも、共演の香川照之さんや神木隆之介くんの芝居がウマすぎて、福山さんのバリエーションの空回り感が際立ってしまっていますよね。お茶の間に失笑が生まれてしまうのは、ある意味当然なのかもしれませんね……」

今秋には主演映画公開、“五輪仕事”獲得も視野に入れるか

 視聴率的にも、初回こそ13.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)を獲ったものの、2話目で8.9%と早くも1桁台に突入、その後も依然として低空飛行が続いている。最終話で視聴率42.2%を記録した『半沢直樹』には遠く及ばず……という結果になりそうである。

「そもそもこの『集団左遷!!』は『半沢直樹』シリーズの原作者である池井戸潤作品ではないし、演出スタッフも違う。にもかかわらず『半沢直樹』を意識しすぎていることが、最大の間違いだと思うんですよ。それに加え、7月からはまさに池井戸潤原作の『ノーサイド・ゲーム』が大泉洋主演で始まり、さらに来年にはなんと、『半沢直樹』待望の続編が7年ぶりに制作されることが発表されました。よりによって福山さんが『日曜劇場』で苦戦しているこのタイミングで、なぜ半沢の続編まで発表されたのか……理解に苦しみますね。もはや福山さんが“当て馬”のようにも思えてきて、不憫でなりませんよ」(前出のプロデューサー)

 先日オンエアされた第6話で「100億円のノルマ」は一応の着地点を見いだし、次回からは第2章が始まることとなった『集団左遷!!』。一方で、「物語としては面白いのに、あまりにも酷評されすぎている」と反論するのは、あるテレビ誌のライターだ。

「最初は情けない上司という感じでしたが、徐々に部下たちの信用を得て、銀行マンとして輝きを取り戻すという役柄が福山さんにマッチしてきて、がぜん面白くなってきたと思います。福山さんの熱演や顔芸にも慣れてきちゃって、クセになってきましたよ(笑)。第2章からは本部に戻り、銀行の闇がより深く描かれていくのですが、ここまできたら、もはやもっと顔芸を炸裂させてほしいですね。

 でも、“男が惚れる男”といわれるだけあって、ノルマ達成を目指して部下たちと一丸となって奮闘する福山さんはやはりとてもカッコよかった。第2章でも、外野からのネガティブな声を気にすることなく、そんなシーンをたくさん出していけば、逆に『半沢直樹』との差別化も図れると思います。11月には主演映画『マチネの終わりに』も公開され、その余勢を駆って東京オリンピックでも大きな仕事を狙ってることは間違いないでしょう。今回の『集団左遷!!』で多少コケたとしても、次の新曲を出せばまた確実に売れるのでしょうから、大きな傷にはならないと思いますね」

 とにかく賛否両論が渦巻く、俳優・福山雅治の熱演。とはいえ、誰が見ても忘れられない“顔芸”を確立したという意味では、彼が“新境地”を開くことには十分に成功したといえるのかもしれない。
(文=藤原三星)

藤原三星(ふじわら・さんせい)
ドラマ評論家・コメンテーター・脚本家・コピーライターなど、エンタメ業界に潜伏すること15年。独自の人脈で半歩踏み込んだ芸能記事を中心に量産中。<twitter:@samsungfujiwara

尿検査で屈辱感を抱く選手も…競泳藤森選手だけじゃない、厳しすぎるドーピング検査の功罪

2018年12月、中国・杭州で開催された世界短水路選手権において、男子200メートル個人メドレーで銅メダルを獲得して微笑む藤森太将。しかしこの大会のドーピング検査において、のちに陽性反応が出てしまう。(写真:AP/アフロ)

「手の打ちようがない」――。

 日本水泳連盟幹部によるこの言葉に衝撃を受けたのは、日本競泳陣だけではない。東京五輪を戦うほかの競技団体の役員たちも恐怖を覚えたのではないだろうか。日本の競泳陣を牽引してきた池江璃花子も、きっと心を痛めていたことだろう。

 東京辰巳国際水泳場・日本選手権に、東京五輪のメダル候補の姿はなかった(4月8日閉幕)。2016年リオデジャネイロ五輪の競泳男子200m個人メドレーで4位入賞した藤森太将選手が、ドーピング検査に引っかかったのだ。同大会は東京五輪出場の選考レースでもあった。正式な処分は今後開かれる国際水連(FINA)による聞き取り調査後に決まるが、藤森と日本水連は“争う姿勢”を見せている。今回のドーピング検査は、他競技団体にも影響を及ぼしそうだ。

「昨年12月、中国・杭州で開催された世界選手権に出場した際のドーピング検査で引っかかったんです。その後、再検査もされたんですが、藤森の体から禁止物質の『メチルエフェドリン』が検出された事実は変わりませんでした」(体育協会詰め記者)

 藤森たちが争うのは、検査結果についてではない。そうではなく、「意図的に摂取したのではない」という主張をするのだ。「メチルエフェドリン」には興奮作用があるとされている。

「メチルエフェドリンは、市販の風邪薬にも含まれていることの多い物質です。藤森と水連は『つい、うっかり』で服用してしまったのではないかとしており、悪意がなかった旨を訴えていくつもりです」(前出・同)

“屈辱的”なドーピング検査

 ドーピング検査について、少し説明しておきたい。1960年ローマ五輪で、興奮剤を投与した自転車競技選手の死亡事故が発生した。それを受け、1968年のグルノーブル冬季五輪、同年・メキシコ夏季五輪から正式に禁止薬物を使用していないかどうかの検査が実施されるようになった。当時は麻薬や覚醒剤さえ使用されていたような時代だが、その後、筋肉増強剤のステロイドなど従来の検査では見つけにくい薬物も広まった。国際オリンピック委員会と世界アンチ・ドーピング機構(以下、WADA)は検査方法を改め、より厳しいペナルティも科すなどして禁止薬物の撲滅に努めてきた。

 WADAが薬物の使用を絶対に許さないのは、フェアプレー精神と人体に及ぼす悪影響を防ぐためだ。

「検査を抜き打ちで行うなどしてきましたが、禁止薬物の使用者はゼロにはなっていません。2016年のリオ五輪直前、ロシアによる組織的な使用の隠蔽疑惑が出て、WADAはさらに厳しい検査をするようになりました」(前出・同)

 ドーピング検査とは、具体的には尿と血液の検査である。競技本番を終えた選手は必ず調べられる。尿摂取は検査員が見ている前でやらなければならず、女子選手も例外ではない。検査員は、「摂取容器にちゃんと自分の尿を入れているのかどうか、覗き込むようにして見ている」という。当然、屈辱的な思いを抱える選手や怒りに震える選手もいるが、これがロシアの組織的な隠蔽疑惑以降、さらに厳しくなったそうだ。

 先の藤森を始め、日本の五輪選手団は当然、禁止薬物撲滅、フェアプレー精神には賛同しているわけだが、「ちょっとやりすぎでは?」の声もないわけではない。

「リオ五輪400mリレーのメンバーだった古賀淳也も、2018年3月の検査で『クロ』と認定されました(同年5月に通達)。古賀も意図的に服用した覚えはないと強く反論しましたが、出場停止4年の処分は変わりませんでした。仮に間違って禁止薬物成分を摂取してしまったことが証明できていたとしても、出場停止の期間が2年に縮まるだけ。無意識で服用してしまったことを証明するのは、相当にハードルが高いようですね」(テレビ局スポーツ部員)

東京五輪“ホスト国”のメンツ

 2018年1月にも、禁止薬物を巡る事件が国内で起きている。カヌーの日本代表候補だった鈴木康大選手が、同じく日本代表候補である小松正治選手の飲み物に禁止薬物を混入させていたことが発覚したのだ。東京五輪出場を確実にするため、ライバルを陥れようとしたのである。最後は鈴木選手が自ら罪を告白したことがせめてもの救いだが、日本オリンピック委員会、加盟各競技団体は、東京五輪の「ホスト国のメンツ」に懸けて、これ以上の薬物違反者は出さないよう再三の注意を払っている。各競技団体とも講習会を開いてきたし、先のメチルエフェドリンのように、「無意識のうちに摂取しかねない禁止薬物が市販薬に含まれていること」の説明もして、その確認・相談の窓口も設置した。

「日本人の気質でしょうかね。クスリに対する強い抵抗感もあって、どの選手もマジメに取り組んでいました」(前出・同)

 そんなときに飛び込んできたのが、冒頭で挙げた競泳・藤森の陽性反応だった。藤森の母校である日本体育大学・同大学院の関係者がこう語る。

「藤森の性格はマジメ。お父さんは田島寧子らを育てた競泳のコーチで、現在も指導を続けています。親子で東京五輪出場とメダル獲得を目指して頑張ってきました。薬物に手を染めるようなことは絶対にないと思う」

 日本水連は、会見というかたちで藤森の陽性反応を発表した。自ら公表したということは、「やましいことはない。無意識のうちに摂取してしまったのだ」と“潔白”を訴える意味もあったのだろう。しかし、そのときに思わず飛び出てしまったのが、冒頭に挙げた「手の打ちようがない」という日本水連幹部の言葉であった。同幹部は再発防止にいっそう力を注ぐとも語ってはいるが、「指導は徹底している。今後、どこに気をつけたらいいのか」ともこぼしていた。

「リオ五輪前、ロシアによる組織的な隠蔽疑惑をWADAは立証できず、一部選手に出場停止を言い渡すだけでした。近年では、体内に薬物の痕跡が残らず、すぐに消えるものもあるそうです。もはや、取り締まる側と不正をする者とののイタチゴッコですよね」(特派記者)

 水泳の藤森は、より厳しくなった検査の犠牲になったともいえなくはないだろう。無意識による摂取の訴えをあきらめてしまった古賀のような例もある。第二、第三の藤森が現れないという保証は、どこにもないのだ。
(文=美山和也)

『ロンハー』深夜枠に降格後も評判最悪…ロンブーは以前のアナーキーさを取り戻すべき

2013年9月によしもとアール・アンド・シーより発売された『ロンハー』DVD版である『ロンドンハーツ vol.7』

 この4月から放送時間帯が深夜枠に変更となった、ロンドンブーツ1号2号がMCを務めるバラエティ番組『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)。2001年から長らくゴールデン帯で放送されていた同番組だが、ここ数年は低視聴率にあえいでいたため、深夜帯への事実上の降格となった形だ。とはいえ芸人バラエティの“最後の牙城”ともいわれ、足掛け20年にも及ぶ長寿番組のリニューアルである。その結果は功を奏しているのか? 人気番組を多数抱えるある放送作家は、次のように分析する。

「業界内でも注目度の高かった今回のリニューアルですが、やってることは前身番組の『金曜 ロンドンハーツ』と一緒。ドッキリ企画や芸人格付けなど、既視感ばりばりの企画をほぼ同じメンツでやってます。このリニューアルには、相当肩透かしを食らいましたね。ロンハーが久々に深夜枠に移るということで、『イナズマ! ロンドンハーツ』時代のような“素人いじり”をメインとした番組になるのではないかともいわれてましたが、やはり難しかったんでしょう。コンプライアンスが叫ばれて久しい昨今、素人をメインに据えることほど面倒くさいものはありませんから。

 でも、有吉弘行、ザキヤマ(山崎弘也)、狩野英孝など、ギャラがそんなに安くはない人気芸人を相変わらず出演させているのは『さすがは“元人気番組”』ともいえますが、当然ゴールデン帯時代ほどの予算があるわけではないので、編集が妙に粗いのが気になりますね。予算が潤沢なバラエティにはよく使われる効果音や面白テロップなどがかなり少なくなり、安っぽくなっているのも気になります。視聴率20%を超え、ドッキリ企画のために数千万円を使って家を建てたりもしていた『ロンハー』の黄金期を知ってる僕らからすると、今回のマイナーチェンジはかなり悲しい気持ちになってしまいます。深夜2時からというド深夜でありますが、同じスタッフチームで作られている『テレビ千鳥』のほうが、まったくの低予算ながら、攻めに攻めまくっていて面白いですよ」

本当はアナーキーなロンブー

 3月に行われた説明会で、テレビ朝日の赤津一彦編成部長は『ロンドンハーツ』の深夜枠への移動に対して、「撤退とは考えていません。若者がターゲットなので、プライム帯よりも番組の将来性がある。今よりもアグレッシブに攻める企画ばかりになる」とコメント。しかし実際は、「さほど攻めてはいない」との評価を受けているようである。

「23時20分から始まる『ネオバラ枠』はテレ朝が長らく力を入れている深夜枠であり、今までも『ココリコA級伝説』『オーラの泉』『お試しかっ!』など、ネオバラ枠で人気に火が着いてゴールデン帯へと昇格した番組がたくさんあります。しかし現在のラインナップは、ロンハーと同じくゴールデン帯から降格した『陸海空 こんなところでヤバイバル』、今もゴールデンでたびたび特番が組まれる『アメトーーク!』のように、有吉とマツコ・デラックスの『かりそめ天国』以外はすべてゴールデン帯を経験済み。つまり、ネオバラ枠の持つ意味合いがすでに変化してしまったのだということであり、『ゴールデン昇格』というのが、そもそも目標として機能しなくなりつつあります。今後はより若者向けにシフトし、AbemaTVとの連動企画を増やして、さらなる独自路線を突き進むといわれてますね」(前出の放送作家)

 となると、『ロンハー』の巻き返しをまだまだ期待していいということなのか? ある制作会社のディレクターは次のように語る。

「テレ朝に20年も貢献してきたロンブーをまだ切るわけにはいかない、ということなんだと思いますが、同時にここからの淳さんの巻き返しに期待しているのも事実です。もともとはアナーキーな芸人さんですから、再び深夜にフィールドを移せば、AbemaTVとの連動も含め、彼なりの持ち味をもっと出せるはず。今はまだゴールデン時代の遺産でなんとか成立してますが、今後はより攻めた企画にしないと、視聴者はもっと離れていくに違いありません。

 ただ、今の淳さんは娘さんの子育てにかなりはまっており、『昔ほど攻めまくる芸人ではなくなった』と周囲のスタッフからもいわれているようです。なんなら、キングコングの西野亮廣さんやオリエンタルラジオの中田敦彦さんのほうが、ネットを駆使して素人ともうまく融合し、話題を振りまいてますよね。もちろん子育ても大切だと思いますが、いまはロンブーにとっても正念場。この1年で結果を出さないと、番組だけではなくロンブー自体が終わってしまう可能性もあると思いますよ」

 若者から根強い人気を誇り、熾烈を極めるバラエティ業界で長らくトップに君臨し続けてきたロンドンブーツ1号2号。彼らの原点である深夜帯で、果たして人気芸人の面目躍如なるか? これらかも注目していきたい。
(文=藤原三星)

藤原三星(ふじわら・さんせい)
ドラマ評論家・コメンテーター・脚本家・コピーライターなど、エンタメ業界に潜伏すること15年。独自の人脈で半歩踏み込んだ芸能記事を中心に量産中。<twitter:@samsungfujiwara

“池袋東口暴走事件”確定判決から考える「てんかん」という病気の本当の姿

事件現場となった池袋駅周辺の様子(写真:「Getty Images」)

 2018年11月13日、ある“交通犯罪”の判決が確定した。2015年8月に起きた“池袋東口暴走事件”。この事件において、自動車運転処罰法における危険運転致死傷罪を犯した容疑で逮捕、その後起訴された53歳(当時)の男性医師に対する刑事裁判の上告審判決が下り、最高裁は上告を棄却、懲役5年の実刑判決が確定したのだ。

 この事件でポイントとなったのは、脳に関する神経疾患のひとつである「てんかん」。男性医師にはてんかんの持病があり、事件当日の夕方分の薬を飲み忘れていたという。そのためか、事件直前にてんかんの発作が起き、男性医師の運転するベンツは暴走、結果として1人が死亡し4人が重軽傷を負う大惨事となったのである。

 これを受けてネット上などでは、「そもそもてんかん患者が免許を取れること自体がおかしい」といった過激な意見も出た。しかし、てんかん患者が一定の条件のもとで運転免許を取得できることになったのは2002年と比較的新しく、「適切な治療、投薬を続ければ発作を抑えることも可能であり、一律に免許取得を禁止するのは重大な人権侵害である」といった指摘もある。

 なじみの薄い者にとっては、「突然倒れてけいれんを起こす怖い病気でしょう?」といった一面的な認識だけが独り歩きしている感もある、この「てんかん」という病気。

 いったい、てんかんとはどのような病気で、その原因はどこまで解明されており、その治療法にはどのようなものがあるのか。精神科医で、精神科専門病院である昭和大学附属烏山病院の院長でもある岩波明氏が、その特徴や、てんかんをテーマにした文学作品を挙げながら解説を加える。

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 てんかんは古くから知られている疾患であるとともに、出現頻度の高い病気です。てんかんの有病率は0.5~1%程度であると考えられており、男女差はありません。つまり男女問わず100~200人にひとりはこの疾患を有するわけで、頻度の高い疾患であるといえますが、一方でてんかんに関して一般の方の理解度は高いとはいい難いでしょう。

 てんかんはかつて精神医学の分野においては、統合失調症、躁うつ病と並んで三大精神病のひとつとされていました。特に成人のてんかんについては精神科医が診療することが多かったのですが、現在では脳外科か神経内科が担当することのほうが増えています。

 てんかんは、脳の神経細胞の過剰な興奮により、さまざまな発作(てんかん発作)が反復して起こる慢性疾患であると定義されています。発病年齢として多いのは、小児期から思春期です。より詳しくいえば、生後1年未満の発症が特に多く、ほとんどが思春期までに発症します。脳の発達は乳幼児期がもっとも速く、3歳くらいまでに成人の8割程度まで完成するとされています。てんかんの発症は、この脳の発達速度に関連すると考えられているのです。

 10歳を超えるとてんかんの発症はまれになりますが、老年期になると脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷、脳変性疾患などが原因となり、再びてんかんは増加します。30代以降に初発したてんかんを「遅発性てんかん」と呼ぶことがありますが、この遅発性てんかんにおいては、脳の器質性疾患が原因のことが多いとされています。

 てんかんは、第一に病因により分類されます。これによって、原因不明で体質が関連する「特発性てんかん(原発てんかん、真性てんかん)」と、脳の器質性または代謝性の原因に基づく「症候性てんかん(続発性てんかん、二次性てんかん)」とに大別されます。

 さらに別の分類法もあります。発作型による、「部分てんかん」と「全般てんかん」です。部分てんかんとは、脳の過剰な興奮が大脳の一側半球の一部の部位から始まり、それが拡がっていくものです。一方で、脳深部の過剰な興奮が脳全体に一挙に拡がっていくものが全般てんかんです。

「Getty Images」より

「突然倒れてけいれんを起こす」は誤り

 てんかんの症例は、ギリシア時代から記載が見られます。ギリシア時代において、てんかんは「神意」の表れとみなされ、「神聖病」とも呼ばれていたといいます。ところがローマ時代になると、一転して「悪魔憑き」とされるようになっていきます。

 古くから知られている病気ではありましたが、一方でてんかんには検査手段もなく、そのメカニズムについても不明な時代が近代まで続きました。しかし、1912年の「脳波」の発見などを経て、てんかんが脳の器質的な疾患であることが次第に認知され、てんかんに有効な薬物も発見されるに至っているのです。

 てんかんに有効な薬物を、「抗てんかん薬」と呼びます。薬物の効果はさまざまで、完全に発作のコントロールが可能な例から、多くの薬物を併用しても発作が収まらないケースも存在します。日本ではあまり一般的ではないですが、てんかんの原因となっている脳の一部を外科的に摘除するといった治療も行われています。

 医療従事者でさえも、てんかんは「突然倒れてけいれんを起こす病気」という認識しか持っていない方も多くいます。しかし実際には、てんかんの発作は、脳のどの部位に異常(焦点)があるかによって違いがあり、さまざまな形で出現します。けいれんのないてんかんも存在していますし、意識障害が出現しないタイプもあるのです。

 一方で、完全に意識消失を示すもの、無意識のまま行動を継続するもの、既視感(デジャブ)や幻視などの精神症状を呈するものまで多彩で、他の疾患と誤診されることもあります。また逆に、ストレスなどをきっかけとして、てんかんに類似の心因性の発作が誘発されることもあります。

 歴史的に見ると、てんかんの患者は疾病そのものによるストレスだけでなく、社会的偏見などから受ける精神的、社会的不利を被ってきたことも知っておくことが必要でしょう。

精神症状を伴うことの多い「側頭葉てんかん」

 部分てんかんのなかに、精神症状を伴う頻度の高い一群があります。これは、脳の側頭葉になんらかの脳障害を持つもので、「側頭葉てんかん」と呼ばれています。精神症状を伴う発作においては、幻視や幻聴、夢幻状態、恐怖、怒りなどを伴うことがあります。

 側頭葉てんかんにおいてはなんらかの意識障害を伴うことが多いのですが、軽い意識混濁(なんとなくぼーっとしている)から完全な意識消失まで、その程度はさまざまです。

 この発作は徐々に始まり、数分間持続します。それまで行っていた行動が突然止まり、一点を凝視してぼんやりとした表情になって、問いかけにも反応しない……など、周囲との接触性が失われることが多いのが特徴です。

 発作中は、見当識障害(場所や時間に対する認識の障害)が認められることが多く、発作中のことを記憶していません。また「自動症」を認めることもありますが、これは発作直前までしていた動作をそのまま続けたり、習慣化した仕事の身振りをしたりするもので、口をくちゃくちゃと鳴らす「口部自動症」が特徴的です。

 無意味に室内を歩きまわったり、人混みの中を物や人に当たることもなく上手に障害物を避けて歩いたりする「歩行自動症」が見られることもあります。このような発作には、けいれんが伴うこともあります。

あの『ドグラ・マグラ』はてんかん患者がモデル?

 上記の側頭葉てんかんを主要なモチーフにしているのが、昭和初期に活躍した作家・夢野久作の長編小説『ドグラ・マグラ』です。この奇想あふれる探偵小説には、昭和初期における精神科治療について、興味深い記述が数多く見られます。

 この作品は、主人公・呉一郎の犯罪についての物語で、九州帝国大学の精神科病棟と保護室が主な舞台となっています。物語は、呉一郎が精神科の保護室に収容されている場面から始まります。彼は、自分の名前や来歴をまったく記憶していないのです。

 呉一郎の隣の部屋には若い女性患者が入室しており、「おにいさま、おにいさま」と一郎に呼びかけてきますが、一郎はまったく記憶が戻りませんし、自分がどういう状況に置かれているのかも理解していません。

 その後、呉一郎のもとに法医学教授の若林鏡太郎が訪れ、奇怪な物語を語り始めます。若林によれば、呉一郎は精神科教授の正木によって「狂人の開放治療」と名付けられた治療を受けていたのですが、その中途で病棟内において殺傷事件を起こしたため保護室に収容され、さらにその後、正木教授自身が自ら命を絶ってしまったというのです。

 この小説は、1930年代に執筆された作品にもかかわらず、「狂気」の本質を鋭く描いている上に、当時においては非常に先駆的な精神医学への見解が述べられています。たとえば、前述した精神科患者の「開放治療」は、1960年代以降になって初めて一般的になった治療法です。

 多くの評者は、この『ドグラ・マグラ』の主人公である呉一郎を、統合失調症であるとみなしているようです。しかし、おそらくそれは誤解であろうと思います。

 呉一郎は、正木博士によって遠い祖先である呉青秀の描いた絵巻物、それも美しい女の死体が次第に腐り朽ちていく経過を描いた絵を見せられたことによって精神的に錯乱し、母親と伯母を絞殺しました。さらに同じことがきっかけとなり、九州帝大病院においても殺傷事件を引き起こしてしまいます。

 しかしながら呉一郎は、呉青秀の絵を見るまでは、正常な青年であったとされています。美女の腐乱死体を描いた絵という視覚刺激を受けたせいで、彼は異常な行動を起こすことになった。しかも呉一郎は、自分の起こした行動についてまったく記憶していません。

 突然の意識消失発作を繰り返す疾患は、今回のテーマであるてんかんが代表的なものです。呉一郎は視覚刺激によっててんかんの発作が誘発され、意識が混濁したもうろう状態になったのだと思われます。似たような例として、テレビゲームの視覚刺激によっててんかん発作が出現したケースも知られています。

 さらに呉一郎の症状として、意識障害が見られる状態で、場の状況にそぐわない行動が出現する「自動症」も認められることから、診断的には「側頭葉てんかん」であったと考えられます。自動症が起きている時期の記憶は失われるため、発作については彼は、何も記憶していなかったのです。
(文=岩波 明)

●岩波 明(いわなみ・あきら)
1959年、神奈川県生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。都立松沢病院などで精神科の診療に当たり、現在、昭和大学医学部精神医学講座教授にして、昭和大学附属烏山病院の院長も兼務。近著に『殺人に至る「病」~精神科医の臨床報告~』 (ベスト新書)、『精神鑑定はなぜ間違えるのか?~再考 昭和・平成の凶悪犯罪~』(光文社新書)などがあり、精神科医療における現場の実態や問題点を発信し続けている。