河合塾、講師を一斉雇い止め…労働局が指導「社会通念上、疑問」、無期雇用転換を阻止か

 大手予備校の河合塾が今年3月、29年働いた講師を雇い止めしたことに対し、福岡労働局が「助言」というかたちで指導したことが明らかになった。雇い止めの理由は「授業アンケート結果が改善されなかった」との内容だったが、労働局はその理由と雇い止め自体について、疑問を投げかけたかたちだ。

 改正労働契約法によって、5年以上同じ職場で勤務する有期雇用労働者は、無期雇用への転換を申し入れることができるようになった。河合塾側が無期雇用を阻止しようとしたことが、雇い止めの背景にあるのではないかという指摘もある。

 河合塾で何が起きているのか。雇い止めされた当事者に聞いた。

例年よりも大量の雇い止め


 河合塾で29年間勤務し、主に九州地区の福岡校、北九州校で講師をしてきた松永義郎さん(68)が、2018年3月での雇い止めを口頭で告げられたのは、17年11月だった。

10月26日厚生労働省で会見する松永義郎さん

 10月26日厚生労働省で会見する松永義郎さん

 理由は「授業アンケート結果が改善されなかった」というもの。しかし、講師がどのような部分で評価されるかについて基準も結果も聞かされていないうえ、具体的に改善を指導されたこともない。河合塾の講師には当時、定年などの決まりもなかった。身に覚えがない理由による、一方的な雇い止めだった。

「あと2、3年は働けると思っていましたので、ショックでした。冬期講習を控えた時期で、受験生にとっても大事な時期でしたから、モチベーションが上がらないなかでもいい授業をしなければならなかったのが、辛かったですね」

 なんとか受験の指導を終えた松永さんは、自分の雇い止めにどうしても納得がいかなかった。すると、河合塾の全国の講師が、例年よりも多く雇い止めされていることを知った。これまでは年に3、4人が辞めるだけだったのに、16年3月と17年3月は十数人が雇い止めされているという。

 この時期、有期雇用の労働者を、企業や大学が雇い止めすることが問題になっていた。13年に改正された労働契約法によって、5年以上同じ事業所で勤務している有期契約の労働者は、本人が希望すれば、無期雇用への転換を申し込めるようになった。にもかかわらず、無期雇用への転換を嫌がった雇用者側が、長く勤務している人を雇い止めしていた。

 河合塾も、無期転換を阻止しようとして、雇い止めをしているのではないか――、そう疑問を持った松永さんは、18年3月、福岡労働局に相談した。

雇い止めは無効の可能性」


 福岡労働局は、すぐに調査に乗り出した。松永さんにも、2度電話で聞き取りがあった。結論が出たのは半年が経過した9月。福岡労働局は「雇い止めの理由が合理的で、社会通念上相当であると認められるかについて疑問」があるとして、河合塾に対し再度松永さんと話し合うように求める「助言」の文書を、河合塾に送付した。事実上の指導だ。

 1カ月後、松永さんのもとにも、労働局から同じ文書が届いた。

福岡労働局長が学校法人河合塾に「助言」した文書の写し

 福岡労働局の「助言」は、「雇い止めに客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、その雇い止めは無効になる」と前置きしたうえで、松永さんの雇い止めに対して次のような見解を示している。

・2010年に労働契約書を結んでから毎年特に説明もなく契約更新が行われてきた。そのことを踏まえると、労働契約法19条第2項に該当する「雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある」と認められる可能性が否定できない。

・雇い止めの理由は前年からの注意・指導にもかかわらず授業アンケート結果が改善されなかったためとされているが、双方の主張に隔たりがある。雇い止めに客観的理由と社会通念上の相当性があるかどうかについて、必ずしも明白ではない。

・無期転換ルールを意図的に避けることを目的として、無期転換申し込み権が発生する前に雇い止めをすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではないので、慎重な対応をお願いする。

 ポイントは2つある。ひとつは、福岡労働局が、雇い止めの理由に疑問を呈しており、雇い止めが無効になる可能性を指摘していること。もうひとつは、労働契約法19条第2項によって、松永さんの契約更新が認められる可能性について言及していることだ。

 河合塾は以前、契約書を交わさずに講師を勤務させていた。契約書をつくるようになった1995年以降も、業務委託のかたちをとっていたことが問題になり、2010年4月に就業規則が作られ、講師が雇用と委託を選択するようになった。

 松永さんは雇用を選択し、それから毎年、7回にわたって雇用契約が更新されてきた。その事実から労働局は、松永さんには契約が更新される期待権が生じ、労働契約法19条第2項が適用される可能性があるので、河合塾には再度松永さんと話し合うようにと「助言」しているのだ。

河合塾の対応は「歩み寄れるものはない」


 松永さんは10月26日、首都圏大学非常勤講師組合とともに厚生労働省で記者会見した。

「私を雇っていた河合塾に対して、一定の警告が発せられたことは非常にうれしい。福岡労働局の指導が講師たちの雇い止めに歯止めをかけるものになればいいなと思います」

 前述の通り、雇い止めされたのは松永さんだけではない。現在、松永さんと同じく雇い止めされた講師1人が河合塾を東京地裁に提訴して、裁判が進められている。この講師の雇い止めの理由も「アンケートの結果が改善されない」というものだった。この裁判のなかで、17年3月に雇い止めされたのは14人であることが判明している。

 無期雇用への転換を申し込める時期を前にして雇い止めをされた人は、民間企業、大学、独立行政法人などにも多くいる。その雇い止めに合理的な理由がなく、社会通念上相当ではないと認められたときは、雇い止めは無効になると福岡労働局は見解を出したのだ。

 多くの大学と雇い止め撤回の交渉を進めてきた首都圏大学非常勤講師組合の志田昇書記長は、福岡労働局の見解を高く評価している。

「労働契約法19条の定めによって簡単に雇い止めはできないということを、労働局がはっきりと見解を示した意義は大きいと思います。河合塾のように、無期雇用への転換の直前に、何か別の理由をつけて雇い止めをした例は、大学でも少なくありません。今も駆け込みで雇い止めがいろいろなところで起きています。福岡労働局の文書は、不当な雇い止めに対してかなりの効力を持つのではないでしょうか」

 これまで無期雇用への転換をめぐっては、東京労働局が17年2月に、休職期間を置くことで継続して契約した期間をリセットするクーリングは認められないという見解を出している。また17年12月には長崎労働局が、契約期間が5年上限であることを理由に雇い止めすることは、改正労働契約法の趣旨に反するという見解を出した。いずれの見解も無期転換を避けようとした雇用者側を指導するもので、結果的に雇用者側は是正に応じている。

 では、河合塾の対応はどうだろうか。無期転換を阻止しようとして松永さんを雇い止めしたのではないかと河合塾に質問すると、広報担当者は否定した。

「無期転換を避けることを目的として雇い止めしたことはありません。今後も行うつもりはありません」

 では、福岡労働局の「助言」をどのように受け止めているのかと聞くと、次のような答えが返ってきた。

「助言を労働局から受けたのは事実です。松永さんの主張と当方の認識は異なっており、これ以上話し合いで歩み寄れるものはないと、福岡労働局にはお伝えしました」

 河合塾は「助言」に対して「歩み寄れるものはない」と回答し、今のところ指導に応じる気配を見せていない。松永さんと非常勤講師組合は、引き続き河合塾に交渉に応じるよう求めている。
(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)

ベローチェがスタバに圧倒的大差で顧客満足度1位になった「納得の理由」

ベローチェ渋谷2丁目店

 休日や仕事の合間など、さまざまなシーンで利用されるカフェ。多くのカフェチェーンがしのぎを削るなか、今注目を浴びているのが、シャノアールが展開するカフェ・ベローチェだ。

 6月27日、公益財団法人日本生産性本部のサービス産業生産性協議会が発表した「2018年度日本版顧客満足度指数」で、スターバックス(ランキング圏外)やドトールを抑え、ベローチェがカフェ部門で顧客満足度第1位に選ばれたのである。

 同指数では、顧客の期待度を表す「顧客期待」、全体的な品質評価を表す「知覚品質」、コストパフォーマンスを表す「知覚価値」、利用した顧客が他人におすすめしたいかを表す「推奨意向」、再び利用したいかを表す「ロイヤルティ」の5つの指標によって企業やブランドを評価し、総合的な顧客満足度を算出している。

 今回ベローチェは、このうちの「知覚価値」と「ロイヤルティ」で1位を獲得し、総合的な顧客満足度でも1位に輝いた。つまり顧客からは「コスパが高くて継続して利用したいカフェ」だと認識されているということになる。

 実際ベローチェは低価格路線をとっており、ドトールなら220円(税込・以下同)、スタバなら302円する最小サイズのホットコーヒーを200円で提供するなど、業界最安値を実現している。そのためコスパが高いと評価されるのは納得であるが、ではもうひとつの要素「ロイヤルティ」への高評価は、一体どこから生まれているのだろうか。

 そこで今回、都内のベローチェを実際に巡り、店内の様子を観察。店内の客層や注文内容、客の滞在時間や何をしているかをリサーチし、なぜベローチェが顧客満足度1位に輝いたのかを分析してみた。

 足を運ぶのは中野店(東京都中野区)、渋谷二丁目店(渋谷区)、南新宿店(渋谷区)の3店舗。下町の雰囲気が残る中野エリア、若者が多い渋谷エリア、オフィス街のある新宿エリアと、それぞれ客層が異なると考えられる店舗を訪問し、調査する。



中野店:だいたいの客が休憩やヒマつぶしのために利用


 9月初旬の平日。最初に訪れたのは、JR中野駅北口から徒歩2分の場所にあるカフェ・ベローチェ中野店」。9割以上の店舗で喫煙可能なベローチェでは珍しい全席禁煙の店舗だ。

 店内は全115席と比較的広めだが、訪れた13時時点で席はおよそ7割程度が埋まっていた。この日は猛暑を引きずるような暑さだったため、アイスコーヒー(210円)を注文して、店内の全体が見えやすい中央の席に座った。

 客層としては、ビジネスパーソンやショップ店員などの仕事組が2割、休日組が8割といったところ。基本的に男女の割合は同じくらいなのだが、お年寄りの姿が比較的多い。また、7割程度が一人客であった。

 意外だったのが、ベローチェはフリーWi-Fiを開放しているにもかかわらず、パソコンを開いて作業する、いわゆるノマドワーカーがほとんどいなかったことだ。というより、スマホをいじる人や本を読む人、そして雑談している人がほとんどで、仕事をしているらしき人が少なかったようにも思える。

 注文内容に関しては、ほとんどの人がドリンク1杯のみで、特に追加注文などもなし。それもアイスコーヒーやアイスティー(210円)、アイスカフェオーレ(240円)などばかりで、コーヒーフロート(280円)やオレンジジュース(250円)のような甘めのドリンクを頼む人はほぼいなかった。

 次に滞在時間。仕事組は予定が詰まっているのだろう、30分~1時間程度で退店する客がほとんど。一方の休日組は、1時間以上滞在する人が圧倒的に多く、なかには2時間以上滞在している人もちらほら見られた。

 ひとつ印象的だったのが、コーヒーゼリー(310円)のみを注文するお年寄りが何人かいたことだ。調べてみると、「ベローチェのコーヒーゼリーは美味しすぎる」と評判の商品で、これを食べるためにベローチェに足を運ぶ人も少なくないそうだ。あのお年寄りたちは、おそらくベローチェのヘビーユーザーなのだろう。



渋谷二丁目店:ノマド組と喫煙組が全体の8割を占める


 次に訪れたのは、JR渋谷駅と東京メトロ表参道駅のちょうど中間地点に位置する、「カフェ・ベローチェ渋谷二丁目店」。オシャレ街に挟まれたベローチェには、一体どのような人が訪れるのだろうか。

 店内は全65席の少しこぢんまりとしたつくりで、入り口から向かって奥側、全体のおよそ3分の1程度が喫煙席となっている。来店した15時時点での席の埋まり具合は6割程度。アイスカフェオーレを注文し、喫煙ルームの入り口横に着席した。



 ベローチェはパーテーションで喫煙席と禁煙席を分割しており、入り口部分にドアはなく常に開放状態となっている。その代わり風の流れをつくることで、煙が漏れないようにしているようだ。実際、喫煙ルーム入り口の真横に2時間滞在しても、タバコの臭いが気になることはなかった。

 さて、客層は若者やビジネスパーソンが中心で、中野店と比較すれば全体的に若め。男女比は同じくらいだが、喫煙席を利用するのは9割5分がビジネスマンだった。また、ほとんどは一人客で、複数人のグループは大体が喫煙席を利用する男性であった。オフィス内全面禁煙の流れに追われ、ベローチェにタバコを吸いに来る人も多いのだろう。

 こちらの店ではノマドワーカーの比率が高く、4割程度を占めていた。喫煙組とノマド組が全体の8割ぐらいで、むしろヒマつぶし組のほうが少数派だったのが興味深い。

 一方、注文内容に関しては中野店と同じように、ドリンク1杯の人がほとんどを占めていた。違うところといえば、甘めのドリンクを頼む人がちらほらといたところくらいだろう。

 滞在時間に関しては、喫煙組が30分、ヒマつぶし組が30分~1時間、ノマド組が1時間以上といったところ。



南新宿店:ほぼ全員ビジネスパーソン、作業目的で来店


 最後に訪れたのが、JR新宿駅南口から徒歩4分のところにある「カフェ・ベローチェ南新宿店」。2階建てで全151席と広く、2階の奥側半分が喫煙席になっている店舗だ。

 訪れた19時時点での席の埋まり具合は4割程度。こちらではアイスカフェラテ(270円)を注文し、2階の中央あたりの席に座る。余談ながら、カフェオレとカフェラテは混同されがちだが、まったく別の飲み物。大抵のカフェはどちらか片方しか扱っていないため、どちらもラインアップしているベローチェはなかなか稀有な存在だ。やるじゃないか……と思わず唸ってしまった。

 夜の新宿、それも歌舞伎町とは正反対の南口方面なだけあって、客層はほぼ全員がビジネスパーソンで、そのうち6割程度が複数人のグループ。パソコンでの作業や資格の勉強、仕事の打ち合わせ、外国人との英会話、ビジネス系セミナーへの勧誘など、何かしら目的があって訪れている人ばかりであった。

 注文内容は他2店舗と同じようにドリンク1杯の人がほとんどで、追加注文をする様子は特に見られなかった。

 滞在時間に関しては、ほぼ全員が1時間~1時間半程度といったところ。新宿駅近くには無料喫煙所が複数あるためか、渋谷二丁目店のようにタバコを数本吸ってパッと帰るような人は見受けられなかった。



顧客満足度第1位の理由は“日常使いにちょうどいいから”?


 以上の3店舗を観察したうえでの分析を挙げていこう。

 まず、新作フラペチーノを求めてスタバに来店するように、ベローチェならではのメニューを求めて来店する客はほとんどいない、ということ。どちらかというと、客は休憩や作業をするためのスペースとして利用している印象だった。

 次に挙げたいのが、客層に偏りがない、ということだ。もちろん場所や時間帯によってメイン客層は変化してくるわけだが、全店舗に共通して多い層、少ない層というのは、特に見受けられなかった。

 たとえば、若い女性ばかりのオシャレなカフェは男性にとって入りづらいだろうし、反対に男性ばかりの居酒屋は女性にとって入りづらいだろう。そういう“入りづらさ”を感じる人が誰もいないというのは、ベローチェが持つ魅力なのではないか。

 そしてもうひとつ、利用客にカップルらしき男女ペアがほとんどいなかったことも挙げておきたい。

 これはもちろん、ベローチェはデートに使えないほどダサい、という意味ではない。いい意味で雰囲気が緩いのだ。利用客もみなリラックスしながら各々のやりたいことをやっているような状態で、デートのような緊張感がそぐわない、肩肘を張ることのない空間は確かに心地のいいものであった。この気楽さも、ベローチェの魅力なのだろう。

 以上のような「誰も居心地の悪さを感じることのなく、リラックスできる空間であること」が、多くの顧客がベローチェのロイヤルティを高く評価した理由ではないだろうか。

 スタバのようにわざわざ行きたい理由があるわけではないが、コスパが高く居心地がいいため、作業やヒマつぶしといった日常のシーンの中で使いやすいカフェであること。それが今回、ベローチェが顧客満足度第1位に選ばれた理由なのだろう。
(文・取材=A4studio)

不妊原因の48%が男性由来…不妊治療、夫の非協力による多大な経済的・時間的損失

「Gettyimages」より

 夫婦のうち、6組に1組は不妊に悩む時代日本は不妊治療の患者数が世界1
だが、それでも不妊治療の実態はあまり知られていない。

 恥ずかしながら筆者も、不妊に関しては「お金がすさまじくかかる」「日本人はダイエットをしすぎるため女性が不妊になりやすい」くらいしか知らなかった。ましてや不妊治療といえば、顕微鏡を使ってブスっと精子を卵子に注入するシーンくらいしか見たことがなかった。しかしこの数週間で、衝撃の事実を知った。なんと、不妊原因の48%が男性由来なのだという。

 そこで今回、男性の不妊治療に詳しい株式会社ヘルスアンドライツ代表取締役の吉川雄司氏から詳しくお話を聞いた。

男性が抱える3つの不妊リスク


――男性由来の不妊とは、具体的にどういう種類があるのでしょうか。

吉川氏 大きく分けて3つありますが、どれも精子に関するものです。

(1)精子が少ない
(2)精子の運動率が低い
(3)正常形態の精子が少ない

 これ以外に、そもそも精神面での課題があって妊娠するための行為ができないケースもありますが、行為があるにもかかわらずお子さんができない場合は、おおまかに分けてこの3パターンとなります。

――どれも検査をしないと、わからないものですよね。

吉川氏 そうですね。男性は検査を受けるのを嫌がるので、まず女性がひとりで産婦人科へ通い、「タイミング法」という妊娠しやすい時期を測定する検診を受けます。それでも進展がなくなってから、男性はやっと検査を受け、そこで初めて男性由来の不妊だと発覚するケースも多いです。

――男性はなぜ検査を避けるのでしょうか。

吉川氏 まず危機感の薄さがあると思います。女性は生理によって毎月、自分が妊娠しているかどうか知らされます。不妊治療においても、薬の投与にともなう副作用など、「不妊」へ危機感を抱く機会が多い。それに対して男性は、精子を提供するだけの立場ですから、いまいち不妊治療への実感がわきにくいのです。

 さらに不妊治療について調べても、ふわっとした情報が多いのも挫折要因です。エモーショナルな表現が散りばめられていると、男性は「もっと数字に基づいたデータを欲しい」と思いがち。そこで調べる気を失くし、妻から叱られて、さらに遠のいて、というケースが見られます。

――男性が動かないことによる損失も大きそうですね。

吉川氏 そうです。何よりも経済的損失へ目を向けてほしいですね。前述のタイミング法は、1カ月につき約1~3万円かかります。タイミング法で失敗してから体外受精など次の治療へ進む夫婦も多いのですが、そこで「タイミングの問題だと思ったら、実は夫の精子が問題だった」ということが判明することもあります。タイミング法を6カ月実践すると3万円×6カ月=18万円になるので、その金額を丸々ドブに捨てていたことになります。

 さらに不妊治療を扱う産婦人科は混雑しており、待ち時間を含め診療時間が1時間半なんてこともザラにあります。タイミング法では月に3回程度通うことになりますから、6カ月だと27時間もの時間を消費したことにもなります。

 そして忘れてはいけないのは、妊娠にはタイムリミットがあるということです。女性の卵子は毎月消失していき、増えることはありません。「たった6カ月」と男性は思うかもしれませんが、妊活においてはとても貴重な時間です。お金も時間も無駄にしないよう、早めに夫婦揃って検査を受けることを医師も勧めています。

男性不妊にも希望があると知れば、やる気が起きる


――「精子がなければ、もうダメだ」という悪いイメージがあることも、男性のやる気を奪っている一因に思えます。

吉川氏 実は、男性不妊は食事や睡眠などに気を付ければ改善できることが多いのです。たとえば私は、自身の精子を「seem」という精子検査アプリでチェックしたことがあります。

 こちらがその画像です。濃度はWHO(世界保健機関)の「自然妊娠ができる」とされる基準を満たしていたのですが、運動率が下回っていたんですね。それから適度な運動や睡眠、食生活の改善など精子の活動に良いとされることを試しました。

 そして約2カ月後に再度測定したのが、こちらです。

――運動率が2倍近くに伸びていますね。

吉川氏 そうなんです。ですから不妊治療で男性由来と言われても、自分を責めないでほしいんです。精子は熱に弱いので、ブリーフをトランクスに変えるとか、サウナを控えるといっただけでも不妊治療の効果が出ることがあります。男性ができることも、たくさんあるんですよ。

不妊に悩む妻ができること、夫にしてほしいこと


――よく不妊で妻が「夫が非協力的だ」と怒るケースがあるようですね。

吉川氏 そうですね。実際、夫は何をしたらいいかもわからず、そして生理のたびに「また妊娠できなかった」と落ち込む妻を見ていられず、不妊治療を嫌がります。夫には、「調べる役」を積極的にやってほしいと思います。統計的データや妊娠に効果があるとされる栄養素などを調べて情報を交換すると、妻は喜びます。あとは病院の送り迎えや、しんどいときに家事を代行することも支援になります。男性向け不妊治療のデータをまとめましたので、(リンクお願いします:リンク20日更新予定)ご参考になれば幸いです。

 さらに、もし夫が非協力的で悩んでいらっしゃるならば、「調べもの」を任せてみてください。実際におひとりで不妊の3大負担とされる経済、精神、そして身体的負担を背負うのはつらいはずです。せめてそのなかでも「精神面での負担」は分け合っていただければ、夫も積極的に取り組めるのではないでしょうか。

――ありがとうございました。

 吉川氏は現在、不妊治療を前へ進めるためTwitterで情報を提供している。このように不妊へ向き合う男性が増え、男性同士の連携も進み、「何かわからないけれど妻が不機嫌になって怖いもの」だった不妊治療が、「夫婦2人で取り組める前向きなこと」に変わることを願ってやまない。
(トイアンナ/ライター、性暴力防止団体「サバイバーズ・リソース」理事)

サウジ・カショギ氏殺害で、ソフトバンク肝いり「10兆円ファンド」頓挫の危機

ソフトバンク・孫正義社長(ロイター/アフロ)

「サウジアラビアで内戦が起きて、シリアのようになることが心配です。そうしたら日本に石油が来なくなりますよ」

 そう語るのは、経済産業研究所上席研究員の藤和彦氏である。

 サウジアラビアのジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏が、トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で死亡した事件で、トルコのエルドアン大統領は23日、首都アンカラの国会で捜査状況を説明し、「凶悪な計画殺人だった」と述べた。カショギ氏殺害に関し、サウジに徹底した説明を求めるG7声明が出されるなど、国際的な非難の声も高まっている。

 23日から25日にかけて、サウジの首都リヤドでは、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の肝いりで、国際経済フォーラム「未来投資イニシアチブ(FII)」が行われた。サウジの政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)は、運用額10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」に約5兆1000億円を出資することで合意しており、ソフトバンクの孫正義会長兼社長はFIIで講演を行う予定だったが、取りやめた。サウジとソフトバンクの軋みは、日本経済に影響を与えるのだろうか。

「カショギ氏殺害にムハンマド皇太子が関与していたかどうかが日本のメディアの関心事になっていますが、欧米のメディアでは、ポスト・ムハンマド皇太子の議論になっています。ムハンマド皇太子の5歳年下のハリドさんが駐米大使でしたが、すでにサウジに戻っているらしい。いきなり皇太子というわけにはいかないので、副皇太子になるのではないかといわれています」(藤氏、以下同)

 皇太子が代わった場合には、SVFはどうなるのだろうか。

「サウジの経済改革計画『ビジョン2030』そのものが露と消えるでしょう。そもそもがコンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーが書いたペーパーで、しょせん絵に描いた餅ですから。サウジの労働・社会発展省は、“マッキンゼー省”といわれているくらいです。構造改革は、痛みを伴ったり汗をかいたりしないとできない。それを、サウジアラムコの上場益をPIFに投じて、それで世界から技術を集めて産業構造を転換するなんてことができたら、どこだって超一流国になっていますよ。そんなことして成功した国は、ひとつもないじゃないですか」

第3次AIブームの終焉


 AI(人工知能)がすべての産業を再定義する、という孫氏の構想は画期的な革新とも聞こえるが。

「第3次AIブームはもう終わっています。画像解析や音声解析以外のことは、今のところ、たいしたことはできないんです。AIは、大量のデータがないことには何も分析できないですから。そんな大量のデータがある部分など、現実の世界でほとんどないんですね。よく『AIで仕事がなくなる』といわれますけど、仕事はなくなりません。AIだけでは仕事は完結しませんから。大変な仕事はAIにやらせて、隙間仕事みたいなマネージメントの仕事を人間がやるようになるでしょう。

 リクルートワークス研究所の海老原嗣生さんがわかりやすい例を挙げていますが、今の回転寿司は、一番大変な板前の仕事とか寿司を運ぶ行程も全部機械化されています。だけど肝心の接客は、人間がやるしかない。そういうふうになるでしょう。大事な仕事がAIに取って代わられるので、日本には仕事が生きがいだというマゾヒスティックな人も多いので、そういう人たちにとっては労働の価値が下がってディストピアだと感じられるかもしれません。

 だけど、接客のような、人間にしかできないホスピタリティが必要とされる仕事が重視されるでしょう。実際に今、人手不足でパート代が上がっています。そういう意味では、ユートピアかもしれません。デフレの20年間とは逆のことが起こって、ユートピアなのかディストピアなのか、わからない世界が来るのではないでしょうか」

 10月4日に、ソフトバンクトヨタ自動車とモビリティ事業での協業を発表し、注目を集めた。

「話題を呼んでいますが、将来の中核事業に発展するかどうかは不透明です。大手企業の場合、社内の意志決定の段階で10個のうち9つがボツになると言われてます。新しいビジネスはスタートアップ企業がやったほうが発展すると思います。

 1989年にソニーがコロンビア映画を買収しましたけど、下手にソフトを持ってしまったものだから、技術的には可能だったのに、iPodとかiPadみたいなものをつくれなかった。トヨタとソフトバンクが並べば、メディアは取材に行くしかありません。要するに、株価対策じゃないですか。トヨタにしても、業績がいい割には株価は高くないですからね」

サウジに金があるというのは幻想


 サウジで、ポスト・ムハンマドへの移行は、スムーズにいくのだろうか。

「ハリドさんがまずは副皇太子になって、10月末にロンドンから帰国したアハメド王子(77歳)が後見人となり、ムハンマドさんがどこかのタイミングで自然に消えていくというようなことが考えられているのかもしれません。しかし、ムハンマドさんの性格からいったら、そのシナリオに乗らない可能性があります。サルマン国王もいまだにムハンマドさんを擁護しているといわれており、必ずしもスムーズにはいかないでしょう」

 ムハンマド皇太子の体制が続く場合、SVFはどうなるのだろうか。

孫さんは、今回わざわざリヤドまで行って、ムハンマドさんには会ったけど会議には出ずに講演をしなかった。困った時に手を差し伸べてくれるのが、真の友情ではないですか。リヤドまで行ったはいいけど、『ごめん、ちょっといろいろコンプライアンスの問題あってなかなか出られない』ということであれば、『なんだ、お前は?』ということになりますよね。

 今回、米ウーバーテクノロジーズのCEOが会議に出席しませんでしたが、同社はSVFから融資を返してくるかもしれません。日本では、まだまだ人権意識は薄いですけど、欧米はものすごく人権問題を重視していますから。『そんな血にまみれた金なんかいらない』ということになって、SWFは今後開店休業になるかもしれません」

 今回のFIIでは、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事、ムニューシン米財務長官、米JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEO(最高経営責任者)、米ブラックストーン・グループのスティーブン・シュワルツマン会長を初め、米ゴールドマン・サックスの幹部、ドイツ銀行幹部、スイス・ABB幹部が出席を取りやめている。

「今回のFIIで、サウジは560億ドルの案件が成約したと言っていますが、そもそもサウジはお金を持っていません。PIFは、サウジアラムコが上場できないので約110億ドルを国際金融界から借金しているんです。サウジに金があるというのは幻想、ソフトバンクに金があるっていうのも幻想です。孫さんは壮大なビジョンを掲げて世界からお金を調達するのがお上手な方ですから。孫さんとサウジアラビアが組めば最強のコンビだと誰でも思いますが、内情は別という可能性があります」

(文=深笛義也/ライター)

インダストリー4.0は革命か、空想か…ネットワーク巨大化がもたらすデメリット

「Gettyimages」より

 ドイツで官民一体となって打ち出された「第4次産業革命(インダストリー4.0)」という概念。今では日本でもその言葉が躍るようになり、企業の経営戦略にも影響を及ぼすようになってきました。ところが、このインダストリー4.0(以下4.0と呼ぶ)は本当に「革命」となるのでしょうか。「単なる空想」と断じる人も少なくありません。そこで、本連載では、この4.0が「革命」となるのか、あるいは「単なる空想」なのかについて、さまざまな視点から検証していきたいと思います。

 まずは、この4.0について整理しましょう。要約すると、「あらゆるものがインターネットにつながるIoTの技術を使い、各工場の製造装置をセンサーとネットワークでつなぎ、世界各地の工場をまるでひとつの工場のように運用し、多様化した消費者ニーズ(カスタム化やコストダウン)に対応するために、物流やエネルギー、働き方も含め社会全体で生産を最適化すること」ととらえることができます。まだ少しわかりにくいと思いますので、この4.0を日本の首都圏の鉄道の例を使ってとらえてみることにします。

 首都圏の鉄道は、JRをはじめ、地下鉄、私鉄などが網の目のように張りめぐらされています。現在は、鉄道が部分的に相互乗り入れなどで絡み合っていますが、これにすべての路線バス、タクシーまで含めて、首都圏の全交通をセンサーとネットワークでつなぎ、今よりもさらに「快適に、早く、安く」を図るために全体の交通システムを最適化するというイメージです。

「朝の通勤時に最寄りのバス停まで行き、遅れ気味の路線バスに乗って駅についたら相当混雑。ようやく乗れた1本後の電車は超満員。極めて窮屈で不快な空間の中、1時間ぐらい揺られ目的の駅に到着。その後は徒歩で出社」

 現在の首都圏における典型的な通勤の例ではないでしょうか。もし、これが次のようになったらどうでしょうか。

「朝の通勤時のバスは1分も遅れずに到着。センサーにより乗客数の把握が可能となりバスの乗客が分散。座って楽々駅まで移動。駅ではICチップにより目的地を事前に把握。そのデータを基に電車の運転本数を制御し、目的地別に乗客を誘導。混雑は緩和し、今よりもより快適な通勤が可能となる」

 このようになると本当に素晴らしいですね。センサーとIoT技術を使い、路線バスまでネットワークでつなぎ、首都圏の交通網全体をまるでひとつの交通網のようにする。まさに4.0の考え方はこのようなイメージです。

オーバースペックのプロダクトアウト的発想


 しかしながら、本当にこのようになるのでしょうか。現代の技術を使えば、路線バス、タクシーも含めてすべての交通網をひとつのネットワーク下に置くことは可能です。ICタグを使えば、各人の目的地を把握することもできるでしょう。実は、これらの技術は何年も前からすでに存在しています。にもかかわらず、なぜそれが実現されていないのでしょうか。そんなに便利なのであれば、すでに実現していてもおかしくありません。

 1980年代頃のアニメや空想の世界では、21世紀には車が空を走り、宇宙旅行が当たり前となり、人型ロボットが活躍している姿を目にしました。ところが、実際に21世紀になってみると、人型ロボットが少し活躍している以外はまだどれも実現していません。振り返ってみれば、自動車やロケット、ロボットの技術が進化しているという「仮定」を基に、「希望」を抱いていたのかもしれません。そう考えると、今抱いている4.0の理想形も、なんらかの「仮定」と「希望」が含まれている可能性は大いにあります。

 例えば、駅で目的別の乗客を誘導する際、時間通りに規則的に乗車してくれるという「仮定」が必要となるでしょう。また、すべての人がICチップを持ってくることもしかりです。人間では難しい何か複雑な要素が入ると、最後はなんでも「AI(人工知能)に任せればいい」という「希望」も入っています。つまり、実現すれば素晴らしい物語なのですが、そのなかには「仮定」と「希望」が多く含まれている可能性が非常に高いのです。

 また、ネットワークの巨大化によるデメリットもあります。「山手線の神田駅の事故で中央線の電車が遅れている」という経験をしたことがある人もいるでしょう。両線はつながっていないのに、共通の駅である神田駅で何か異常があったため、万一に備えて中央線も止める。それによって遥か遠くの八王子方面まで影響を受けてしまう。また、最近の事例でも、北海道の地震で主力の火力発電所が止まってしまった影響で、全道の電力供給が停止してしまう。証券取引所の売買システム異常、金融機関のATM障害など、ネットワークが大きくなればなるほど、ひとつのトラブルの影響が広範囲に広がってしまうのも事実です。

 先ほどの事例で考えてみると、地方の路線バスのたったひとつのトラブルが、1000万人の人々に影響を及ぼす可能性も捨てきれません。少なくとも現在は路線バスと鉄道はネットワークで切り離されています。また、鉄道も部分的にはつながっていますが、すべての鉄道がひとつのネットワーク下で動いているわけではありません。そのおかげで、トラブルの連鎖を回避できている部分も大いにあります。

 また、現代の製造業では、電子商取引なども含めたネットワーク化は十分進んでいます。自動車産業などでは、後工程引き取り方式という生産方式でジャストインタイムを実現しています。さらに、工場間のネットワーク化も必要に応じて進み、工場内ではあちこちにセンサーがついて、産業用ロボットによる自動化も進んでいます。これらの技術的な進化により、内装の色やデザインなど、自分の好みに組み合わせた車も注文できるようになりました。

 このように、今でも必要に応じてネットワーク化は実現しているなか、4.0のいう「すべての工場をまるでひとつの工場のようにネットワークでつなぐ」というのは一体、何を実現しようとしているのでしょうか。今よりももっと便利になることは素晴らしいのですが、そのコストパフォーマンスは成り立つのでしょうか。オーバースペック(過剰仕様)のプロダクトアウト的発想ではないのでしょうか。

「仮定」と「希望」が多分に含まれた概念


 4.0には、ほかにもいろんな問題点、課題がたくさんあります。基幹技術であるセンサーについても、まだまだ技術的課題も多く残っています。4.0では、設備に取り付けられたセンサーが機械の故障を診断するといっていますが、今のセンサーの技術では、精度よく診断をすることができないケースも多くみられます。

 4.0が主張する世界の工場がまるでひとつの工場のようにシステム化された場合、国家、企業体という形はどうなるのでしょうか。そのネットワークで生み出された利益は誰のものになり、どの国に税金を納めるのでしょうか。ネットワークに組み込まれた下請け企業は、利益構造をすべて把握されるため、自分達で販売価格を決めることさえできなくなるでしょう。その結果、企業として存在することさえできなくなるかもしれません。

「仮定」と「希望」が多分に含まれた概念、そしてネットワークの巨大化がもたらすデメリット。さまざまな技術的な課題とそれに対する都合のよい希望的観測。国家、企業体の概念さえ変えようという思考。しかしながら、壮大な概念の割には、それによって得られる大きなメリットがよく見えてこない。少し見ただけでも、4.0は本当に「革命」となるのか、それとも「単なる空想」にすぎないのか。いろいろと考えさせられますし、今の日本における盛り上がり方を見ていると、むしろ、もっとしっかりと考えるべきだと思います。

 そこで、本連載では、次回以降もこの「インダストリー4.0」について、さまざまな視点から検証していきたいと思います。
(文=高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士)

なぜLIXILは、プロ経営者を連続解任したのか? 創業家、CEOに復帰で独裁経営

リクシル本店(「Wikipedia」より/Rs1421)

 LIXILグループは10月31日に会見を開き、瀬戸欣哉社長兼CEOが来春に退任し、後任の社長に社外取締役の山梨広一氏が就任し、潮田(うしおだ)洋一郎取締役会議長が会長兼CEOに就任すると発表した。潮田氏は創業家出身で、同社内で大きな意思決定権を行使している。同社では瀬戸氏の前任だった藤森義明氏に続いて、「プロ経営者」が短期での実質更迭となった。

 創業家が資本の保持だけでなく経営にも大きく関与している場合、招聘されたプロ経営者は機能しにくい場合がある。退任する瀬戸社長の本音はどんなものだろうか。

 また、直接経営に乗り出すことになった潮田氏だが、この機会に同社はオーナー経営型を続けたほうがよいのではないか。

業績が下降すると退任を迫られる、それが雇われ社長の辛さ


 瀬戸氏の退任発表の前触れとなったのが、10月22日にLIXILグループが発表した今期業績の下方修正だ。2019年3月期の連結純利益(国際会計基準)が前期比97%減の15億円に、事業利益が前期比40%減の450億円(従来予想は850億円)となると修正した。また、今期4-9月の上期決算では86億円の純損失が発生した。

 10月31日の社長交代会見で潮田氏は「決算が原因ではまったくない」と話したが、そんなことはないだろう。

 業績の下方修正を受けて、10月22日には2062円を付けていたLIXILグループの株価は翌日1737円へと16%も下落した。ちなみに、10月31日の会見により株価は同日の1780円から11月1日は1530円と一段下げとなった。この社長交代が市場ではネガティブ要因としてとらえられた。

 瀬戸氏が社長に就任した16年6月15日の前日の株価は1810円。就任後、今年1月の高値(3255円)までに80%上昇したのだが、10月23日には1737円へと下落してしまった。瀬戸氏の社長就任時の株価を下回ってしまったことから、現在でも大株主である潮田氏がそこで見切ったものと私は見ている。

 思い起こせば、瀬戸氏の前任だった、藤森氏の社長交代劇もドライというか、苛烈だった印象がある。藤森氏は、ドイツの水回り設備会社のグローエを買収するなど、海外戦略を加速させた。しかし、15年にグローエの中国子会社が不正会計を行っていたことが発覚し、660億円の損失が発生すると、その年の暮れには藤森氏の社長退任、瀬戸氏の就任が発表された。

 藤森氏は辞めるつもりはさらさらなかったと見られていた。その年が明けて、社長交代の発表会見に後任社長が出席しなかった(瀬戸氏はイギリスに滞在していた)という異例の事態は、直前に更迭が決まったことを物語っている。当時から取締役会議長で指名委員会委員長の潮田氏が断を下した。

上場会社でオーナー?


 瀬戸氏は退任会見で淡々としていた。

「これからのLIXILをどうしていくかの方向性が違ってきた。潮田氏が違う方向を考えているのであれば、対峙するよりもそれをやってもらうことが一番だなと判断した」

 瀬戸氏はまた、「ポジションを譲るのもプロ経営者」と話して、恬淡としたところを示した。3年ほど前に招聘され、今回は短期間の業績暗転で交代を要請された。そんな経緯なのに強い遺憾の念を持っていないように見えるのは、瀬戸氏にプロ経営者としての覚悟と矜持があるからだろう。

 前任者だった藤森氏も日本GEの会長兼社長を経て、外部から招聘されたプロ経営者だった。そんな藤森氏でさえ実質解任されて自分にバトンが渡されたわけだ。自らの業績が上がらなければ、あるいは下がるようなことがあれば、当然自分にも同様な途が示されることは覚悟して就任したはずだ。

 私はよく言うのだが、プロ経営者とプロ野球の監督は似ている。そのチームの戦績が振るわなければ、外部から新しい監督が招かれることがある。そして、多くの場合、数シーズンでまた次の監督にバトンタッチする。いってみれば、このような流動性が出てきたからこそ、プロ経営者も経営者市場に登場してくるわけだ。

 さて、2人のプロ経営者の更迭を主導した潮田氏は、LIXILグループ内でどれくらいの「資本力」を擁しているのだろうか。

 同氏はLIXILグループの前身であるトーヨーサッシを創業した潮田健次郎氏の長男で創業家の直系である。その持ち株数を見てみると、18年3月末現在で直接個人持ち株と、信託財産としての実質持ち株を合わせて、LIXILグループ発行済み株式の2.995%を保有している(18年3月期同社有価証券報告書より)。

 上場会社における創業家持分としては、それほど大きいほうではない。例えば、出光興産が昭和シェル石油との合併を最近まで踏み切れなかったのは、創業家の出光家がほぼ3分の1を有していたからである。

創業家の潮田氏がCEOに復帰した理由


 創業家が直接経営に乗り出さずに外部からプロ経営者を招聘して、その後に更迭した例として記憶に新しいのが、ベネッセホールディングスだ。日本マクドナルドですばらしい実績を残した原田泳幸氏を招聘した。しかし、2年後には実質解任された。

 ベネッセの創業家は福武家だが、同家が直接あるいは信託銀行を経由して実質保有している株式は、同社の23.14%に上る(18年3月期同社有価証券報告書から筆者調べ)。大経営者といわれた鈴木敏文氏をセブン&アイ・ホールディングス会長職から解き、詰め腹を切らせた伊藤家の実質保有株は、同社の10%を超え、実質的に筆頭株主である。

 出光家、福武家、伊藤家と比べ、LIXILグループでの潮田家の保有株式比率は小さい。しかし会社を上場しても、創業者あるいは創業家が強い意思決定権を保持しているケースは、実は枚挙に暇がない。たとえその保有株式数が少数だったとしてもだ。

 たとえば、トヨタ自動車の豊田章男社長は創業者の豊田喜一郎氏を祖父に持つ御曹司とはいえ、豊田社長の持ち株比率は0.1%で、豊田家全体でも1%程度である。創業家といってもオーナーではない。それにもかかわらず豊田社長は実質オーナー社長のように受け取られている。つまり、上場企業となっても創業家は実質オーナーとしての威光を保つことが多いのだ。それらの会社は実質的にファミリー・ビジネスであるといえる。

 潮田氏もこの程度の保有株式数でLIXILグループでキング・メーカーとして君臨できているのは、他にも理由がある。同氏は、同社で取締役会議長と指名委員会の委員長職を握っていたのだ。藤森氏も瀬戸氏も、潮田氏が実質招聘したのだが、創業家である潮田氏が委員長として指名委員会で提案したのだから、他の誰も異議を唱えることなど難しかっただろう。潮田氏は今回自らがCEOに復帰したので、指名委員会を退任した。

 今回瀬戸氏を実質解任する前には、おそらく潮田氏は他の外部のプロ経営者を招聘しようと働きかけたのではないか。しかし、2人も招聘して解任という経緯を目のあたりにしたら、誰も受ける経営者などいなかっただろう。それで仕方なく自らがCEOに復帰することになったのではないかと、私は推測している。

潮田新CEOはLIXILをどこへ導く


 プロ経営者側から見れば、横暴ともいえるガバナンスを発揮した潮田新CEOだが、経営者としての実績は実は十分にある。

 潮田氏は前回、06年から11年までCEOとしてLIXILグループの経営に当たってきた。前述のとおり同社の源流はトーヨーサッシで、潮田氏が着任したときは社名がトステムであり、もうひとつ住生活グループという会社も率いていた。

 10年ごろからM&A手法を繰り出し始めた潮田氏は、サンウェーブ工業、新日軽をたて続けに買収し、11年4月1日に傘下の事業会社のトステム、INAX、サンウェーブ工業、新日軽、東洋エクステリアの5社を統合した事業会社LIXILグループを発足させた。

 このようにいくつもの会社をグループ形成の持ち駒のようにしてきた潮田氏にとって、自らが招聘したプロ経営者もやはり経営上の持ち駒のように考えているのではないか。

 さて、潮田氏が会長兼CEOとして復帰したので、同社の取締役たちは戦々恐々としているのではないか。実際、10月31日の記者会見では、潮田氏と退任する瀬戸氏と並んで、社長兼COOに就任した山梨氏が出席していたのだが、同氏が自らコメントを述べることは少なかった。隣にいる潮田氏に遠慮したものと受け止められる。

 実質オーナーが直接経営に乗り出すとなると、これ以上の求心力は望めないだろう。しかし、藤森氏を実質解任した15年末には、潮田氏はシンガポールに居住していると報道されていたのだが、今回CEOに着任した後はどうするのだろうか。フルタイムで経営に当たるのだろうか。

 いずれにせよ、LIXILグループは新しく潮田体制で動き出す。潮田氏は「再びM&A手法も繰り出したい」と発表会見で語っている。同社のダイナミックな成長に期待したい。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)

※ 本連載記事が『残念な経営者 誇れる経営者』(ぱる出版/山田修)として発売中です。

【山田修と対談する経営者の方を募集します】
本連載記事で山田修と対談して、業容や戦略、事業拡大の志を披露してくださる経営者の方を募集します。
・急成長している
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・大きな志を抱いている
・創業時などでの困難を乗り越えて発展フェーズにある
などに該当する企業の経営者の方が対象です。
ご希望の向きは山田修( yamadao@eva.hi-ho.ne.jp )まで直接ご連絡ください。
選考させてもらいますのでご了承ください。

撮影=キタムラサキコ
●山田修(やまだ・おさむ)
ビジネス評論家、経営コンサルタント、MBA経営代表取締役。20年以上にわたり外資4社及び日系2社で社長を歴任。業態・規模にかかわらず、不調業績をすべて回復させ「企業再生経営者」と評される。実践的な経営戦略の立案指導の第一人者。「戦略策定道場」として定評がある「リーダーズブートキャンプ」の主任講師。1949年生まれ。学習院大学修士。米国サンダーバードMBA、元同校准教授・日本同窓会長。法政大学博士課程(経営学)。国際経営戦略研究学会員。著書に 『本当に使える戦略の立て方 5つのステップ』、『本当に使える経営戦略・使えない経営戦略』(共にぱる出版)、『あなたの会社は部長がつぶす!』(フォレスト出版)、『MBA社長の実践 「社会人勉強心得帖」』(プレジデント社)、『MBA社長の「ロジカル・マネジメント」-私の方法』(講談社)ほか多数。

無印良品なのに買ってはいけない商品リスト5…とにかく微妙、美味しくない

素材を生かしたシチリアレモンのクリーミーチキンカレー(「無印良品 HP」より)

 無印良品が、実は大手スーパーマーケットチェーン・西友のプライベートブランドが前身だったということを、ご存知ない方も少なくないだろう。

 ブランド性を持たせないことで価格を抑えたい、という意味を込めて「無印良品」と名付けられたそうだが、シンプルながらスタイリッシュな商品も多い現在の無印良品を見ると、西友から生まれたとは想像もつかないかもしれない。

 無印良品を運営する良品計画が設立されたのは1989年。今や老若男女から支持されている人気ぶりは業績にも表れており、2018年2月期の営業収益は、前期比の13.9%増となる3795億円を記録。15期連続増収と絶好調なのである。現在では国内外合わせて928店舗(18年2月期の時点)を有する世界的なブランドにまで成長しているのだ。

 ちなみに、多彩な商品展開をする無印良品のなかでも、特に品質と製法へのこだわりが顕著に表れているのが食品であり、どれも評価の高いものばかり。

 しかし、こだわりすぎたがゆえに割高になってしまっているものや、一般ウケしづらくなっているものも、なかには存在しているのも事実。そこで今回、編集部では、700点以上販売されている食品メニューをリサーチし、無印良品の買ってはいけない食品を独断で選ばせてもらった。

「素材を生かした シチリアレモンのクリーミーチキンカレー 180g(1人前)」/350円(税込、以下同)


 無印良品のレトルトカレーは、本格的な味が好評を博す大人気商品。しかし、本格的ゆえに、クセが強く好き嫌いの分かれやすいものもなかには存在している。

 たとえば、こちらの「シチリアレモンのクリーミーチキンカレー」。非常にマイルドな口当たりで、爽やかなレモンの香りがとても心地よい。ただ、美味しいといえば美味しいのだが、正直なところ、カレーっぽさがあるシチューといった印象だ。

 もちろん、この味が好みだという方は大勢いるだろう。しかし、辛さもほとんどないうえ、カレーとしては異質なレモンの香りが強いこともあって、一般的なカレーらしさを期待する方には、あまりオススメできない。

「自分でつくる 組み立てる ヘクセンハウス」/1490円


「ヘクセンハウス」というのは、クッキーやゼリーを材料にして作られたお菓子の家のこと。クリスマスの時期ともなると、さまざまなメーカーから発売される商品なので、子どもがいるご家庭であれば、一度は購入してみようかなと思ったことがあるかもしれない。

 無印良品からも毎年発売されるのだが、その内容物は、サンタの砂糖菓子と、クッキーの壁、アイシングパウダーのみ。いってみれば“家の基礎部分”だけなので、豪華なお菓子の家をつくるためには、別途お菓子を購入する必要があるのだ。

 先述した通り、ヘクセンハウスのキットはさまざまなメーカーから発売される。家の基礎部分のみを無印良品より安価に販売しているお店や、多少高くても飾り付け用のお菓子まで含まれたキットを販売しているお店はいくらか存在しているので、コスパという観点で考えると、あまりオトクな商品とはいえない。

 無印良品のお菓子は原材料にこだわっているので、高品質であることは間違いない。しかし、ヘクセンハウスとはそもそも組み立てて楽しむエンタメ性の強いものであるため、若干値の張る無印良品で購入する必然性は低いといえるだろう。

「台湾茶 凍頂烏龍茶 16.2g(1.8g×9袋)」/390円


 烏龍茶の一種であり、台湾で古くから愛されている凍頂烏龍茶。フルーティで華やかな香りと、苦みが薄く甘みの強い味わいが特徴的で、日本でもじわじわとブームになりつつある。本商品は、そんな凍頂烏龍茶をティーバッグにしたものだ。

 凍頂烏龍茶をお安く手軽に楽しめるのはうれしいのだが、特徴である香りと味が若干弱めなのが残念なところ。凍頂烏龍茶を楽しみたいなら、少し値が張っても、もっと本格的な商品を買ったほうがいいかもしれない。

 また、これはこれで美味しいのだが、日本で一般的に飲まれている烏龍茶からは大きくかけ離れているという点も、留意しておいてほしい。人によってはまったく口に合わない可能性もあるため、烏龍茶のティーバッグという心づもりで買うのは避けたい。

「【ネット限定】【まとめ買い】天然水500ml×24本」/2052円


 シンプルでスタイリッシュな見た目がかっこいいとSNSで話題になった、無印良品の「天然水」。

 普段からミネラルウォーターを愛飲している方のなかには、最もコスパのいい“水の仕入先”探しで苦労している人もいるのではないだろうか。ただ、結論をいうと、無印良品の水はあまりコスパがよくない。

 24本で2052円ということは、換算すると1本当たり85円ということになる。1本当たり50円程度のミネラルウォーターセットであれば、ネットストアなどを探せばそれなりに見つかるため、あえて無印で買う必然性は薄い。

 また、店頭での販売価格は、1本当たり90円。コンビニで買うよりは安いが、ドラックストアやディスカウントストアほど安くはないという微妙なラインである。いずれにせよ、味やパッケージが好みという理由がない限りは、わざわざ買うべきではないだろう。

「堅焼きビスケット レモン味 40g」/100円


「堅焼きビスケット レモン味」も、ここで紹介しておきたい。実はこちら、“無印良品のお菓子は素朴な味わい”という固定観念をひっくり返す、無印良品の異端児なのである。

 実際に食べてみると、甘さはまったくなく、代わりにレモン特有の酸味と苦味が口の中に広がる。つまるところ、レモンそのものの味がするのだ。もはやビスケットの食感をしたレモンと言ったほうが正しいかもしれない。

 実際、本商品には「おやつのつもりで買ったら全然おいしくなかった」などという口コミが多数寄せられている。ただ、同時に「レモンそのままの味でキツイのに手が止まらない」という“中毒者”も生み出しているようだ。ハマる人はハマるタイプのビスケットということだろう。気になるならば一度食べてみてもいかもしれない。

 今回は5つの食品を“買ってはいけない”と評したが、あくまでコスパや一般ウケといった、ひとつの側面から独断で評価させていただいたということは、改めてご了承いただきたい。もちろん今回紹介した5商品を好んで何度も購入しているという方も多いだろう。気になる方は、ぜひチャレンジしてもらいたい。
(文・取材=山本愛理/A4studio)

無印良品、絶対買うべき商品リスト5…安い&美味い&手間いらずで“神”!

素材を生かしたカレーバターチキン(「無印良品 HP」より)

 シンプルながら高品質な商品展開で、老若男女問わず多くの人から愛されている無印良品。2018年2月期の営業収益は、前期比13.9%増となる3795億円を記録しており、15期連続で増収という驚きの絶好調ぶりを見せている。

 無印良品を運営する株式会社良品計画が設立されたのは1989年のこと。大手スーパーマーケットチェーン・西友のプライベートブランドを前身としており、ブランド性を持たせないことで価格を抑えたい、という意味を込めて「無印良品」という名がつけられた。その低価格で高品質な商品展開によってバブル崩壊後も順調に売上を伸ばし続け、今では2018年2月期の時点で国内外合わせて928店舗を有する、世界的な企業にまで成長しているのである。

 そして、多彩な商品展開をする無印良品のなかでも、特に品質と製法へのこだわりが顕著に表れているのが、食品だ。

 しかし、その評判はかねがね聞いてはいるが、膨大な商品のなかからどれを選べばいいのかわからない、と思っている方も多いのではないだろうか。そこで今回、編集部では、700点以上販売されている食品メニューをリサーチ。無印良品の絶対に買うべき食品を独断で選ばせてもらった。

「素材を生かしたカレー バターチキン 180g(1人前)」/350円(税込、以下同)


 無印良品のレトルトカレーは、どれも本格的な味わいだと高い評価を得ている。そのなかでも格別の人気を誇るのが、今回紹介する「バターチキンカレー」である。2017年には250万個を売り上げ、無印良品の食品以外も含む全商品のなかで売上ナンバーワンに輝いた、不動の大人気商品だ。

 やはり特筆すべきは、その味だろう。ほのかに香る上品なバターの風味や、食欲を増進するようなトマトの酸味、そしてスパイスの香り高さを兼ね備えながらも、まろやかで甘みのある味わいにまとめられた絶品なのである。

 なんでも本商品、本場インドのカレーを再現すべく、開発担当者がインドに赴き、300食以上ものカレーを食べて研究した末に生まれたのだという。本格的な味と手軽さ、そして低価格をすべて兼ね備えた、誰もが納得の良品といえる。

「チキン味 ミニラーメン120g(4個)」/120円


「チキン味」「こがし醤油味」「トムヤムクン味」「キムチ味」という4種類がラインアップされている、無印良品の「ミニラーメン」。乾麺自体にスープの味付けがされているため、お湯を注ぐだけでラーメンになるという簡単で手間いらずな商品だ。

 オススメポイントのひとつめは、ひとつ120gという絶妙なサイズ感。小腹を満たすおやつとしてはもちろん、自宅で晩酌をする際のおつまみとしてもちょうどいいため、ストックしてあれば重宝すること間違いなしだ。

 また、このような麺自体に味の付いたタイプのインスタントラーメンは、そのままバリバリ食べるのが好きだという方も多いだろう。本商品はあまり味が濃すぎないため、そのままでも食べやすい、ということにも注目したい。
 
 どの味もおいしいのだが、ここでは王道であるチキン味を推しておきたい。無印良品らしい優しい味わいで再現された伝統のチキン味は、“本家”以上のおいしさかもしれない。災害時には非常食としても活躍するので、戸棚に常備しておいて困ることはまずないだろう。

「不揃い コーヒーバウム 1個」/150円


 バウムクーヘンを食べきりサイズにカットした「不揃いバウム」シリーズは、素朴な味わいでファンの多い商品だ。検品の項目から、サイズや焼きムラなど、味に関係しない要素を排除することにより、1つあたり150円という低価格を実現したことも、その人気に拍車をかけている。

 現在、「不揃いバウム」シリーズは13種類が発売されている。なかでも特にオススメしたいのが、「コーヒーバウム」だ。甘さは控えめになっており、コーヒーの香りと味をしっかりと感じることができる上品なおいしさが魅力的。甘いものはそこまで得意でない、という大人の男性でもおいしく食べられるだろう。

 一度で食べきれ、おなかにもしっかり溜まるサイズ感も絶妙。仕事中、ちょっと小腹が空いたな、というときのためにストックしておいてはいかがだろうか。

「ごはんにかける ルーロー飯 120g(1人前)」/350円


 無印良品のレトルト食品は、カレー以外にも評価の高いものが多い。そのひとつが、ご飯にかけるだけで料理が1品完成するという「ごはんにかける」シリーズ。現在、全部で11種類がラインアップされているが、そのなかでも注目したいのが、八角や山椒の入った甘辛いタレで煮込んだ豚肉をご飯にかけた台湾の伝統料理「ルーロー飯」だ。

 日本食にはない独特の味付けなのだが、あえて表現するなら、“中華テイストの入った豚の角煮丼”といったところだろうか。少なくとも白いご飯が大量に進む味付けなのは間違いない。シイタケやタケノコ、キクラゲなども一緒に入っているので、コッテリしすぎず、最後までおいしく食べられる一品となっている。

 そのまま食べても当然おいしいのだが、写真のようにゆで卵や温泉卵をトッピングすると、甘辛いタレにマイルドさが加わり、よりおいしさが際立つようになる。あえて一手間かけるのもオススメだ。

「あえるだけのパスタソース いかすみ 33g×2(2人前)」/250円


 いかすみパスタというのは、なかなかに難しい料理である。そもそも一般家庭で気軽に作れるメニューではないうえ、服にソースが跳ねることを考えると、レストランで注文するのも躊躇してしまう。そんな課題を軽々とクリアしてみせるのが、この「あえるだけのパスタソース いかすみ」なのだ。

 その名の通り、茹でたパスタにあえるだけで、いかすみパスタが完成してしまう本商品。レトルト食品唯一の調理工程である“温めること”すら必要ないため、もはや失敗のしようがないのだ。

 そこまで簡単でありながら、いかすみパスタ独特の風味はしっかり再現されており、なおかつ生臭さがほとんどない。ここまで高いクオリティのいかすみパスタを、レトルトで再現した無印良品の企業努力、恐るべし。

今回紹介した5つの商品は、味のよさとリーズナブルな価格を両立した、コストパフォーマンスが非常にいい食品といえるだろう。手軽に本格的な味を楽しみたいときはもちろん、非常食として保存しておくのにも適した商品が多いため、ぜひ一度、お試しいただきたい。
(取材・文=山本愛理/A4studio)