軽の日産デイズ/三菱eKクロスに驚愕、もはや普通車並み…ホンダN-BOXを脅かす

ホンダ・N-BOX

 今、日本の軽自動車がすごいことになっている。販売台数面はもちろんだが、乗用車の実力としても相当高くなっているのだ。

 皆さんは軽自動車というと、どのようなイメージをお持ちだろうか。昭和生まれの方なら、軽自動車はホンダN360やスバル360などに代表されるようなコンパクトでチープな乗用車か軽トラックなどの商用車だろう。なかにはスズキ・ジムニーやフロンテ・クーペといった個性的なモデルに実際に乗っていた方もいるかもしれない。

 平成生まれなら、免許を取得し最初は小さくて運転しやすそうな軽自動車の購入を考えてみたり、地方住まいなら一家に一台ではなく一人に一台というほど生活必需品として軽自動車と深く付き合っているのかも。

 軽自動車は日本にしか存在しない日本独自のカテゴリーであり、それはまるでガラパゴス島の爬虫類のように独自の進化を果たしてきた。その進化の度合いは近年特に顕著であり、完成度が飛躍的に高まっているのだ。

 アメリカの某自動車メーカートップが来日した際に日本の軽自動車に試乗し、そのあまりの出来の良さに舌を巻く一方、軽自動車の存在こそがアメリカ製自動車が日本で売れない要因であり、非関税障壁として自動車税が1万800円と格安な軽自動車規格をやめさせるべきだと米国政府に訴えたとも聞く。

 日本自動車販売協会連合会(自販連)が毎月発表している車種別新車登録販売では、トヨタのプリウスやアクアといった燃費性能に優れるハイブリッド車(HV)が常にトップをキープし続けている。しかしそれは登録車の話であり、軽自動車まで統計の枠を拡大し全国軽自動車協会連合会(全軽自協)のデータを加えてみると、ここ数年はホンダN-BOX(軽自動車)が販売台数トップに君臨しているのがわかる。

 自動車は売れれば売れるほど次期モデル開発の予算が拡大する。それで新技術や高価な装備が採用され、さらに完成度が高まり販売面が強化されるというプラス効果が生まれる。

 N-BOXは、販売面でトヨタの2強に独走され苦境に陥っていたホンダが、人気大衆車シビックを開発するのに匹敵するほどの開発予算をつぎ込み完成させたという。少し売れたくらいでは元の取れないギャンブル的なモデルだったのだが、見事に的中させ現在の成功に導いたのだ。

 その半面、ホンダのディーラーに来訪するお客はほとんどがN—BOXを指名買いしていき、本来の利益頭であるシビックやフィットが売れなくなってしまったという負の一面もあり、諸手を上げて喜んでばかりもいられないのだという。

 N-BOXの成功は、競合する軽自動車販売他社にも大きな刺激を与えた。他社もスーパーハイトワゴンのパッケージングや左右電動スライドドアの採用など、人気の理由となったアイテムを次々と採用し追従している。

 しかしN−BOXの成功の理由はそれだけではない。動力性能やハンドリング、乗り心地や快適性、質感など実際に走らせてみないとわからない走行性能面で、N-BOXは普通車クラス以上の仕上がりを実現しており、軽自動車専門メーカーがそう簡単に真似できるレベルのものではない。

日産デイズ

三菱eKクロス

日産デイズ三菱eKクロス


 そんな状況のなか、平成時代最後となる今春に発表・発売され注目されているのが日産デイズ/三菱eKクロスの新型軽モデルだ。なぜこの2台を併記したかというと、この2車は実は同じ車だから、だ。正確にはアライアンス関係にある日産自動車と三菱自動車が共同出資し設立したNMKV(日産 三菱 軽 ビークル)社が企画から設計、開発までを請け負い、三菱自の水島工場で生産される。

 NMKVの設立は2011年まで遡るが、設立当時から近年までは軽自動車の開発や生産、販売で実績のある三菱自が主体的に開発を行い生産していた。しかし今回の新型モデルから日産に開発の主導権が移ったことで注目を集めることとなったわけだ。

 軽自動車を独自に開発したことがなかった日産が企画し開発するということは、ホンダがN-BOXを成功に導いたような割り切りの良さ、コストマネージメントが期待されるのだ。



 実際、新型日産デイズ/三菱eKクロスに試乗してみて、軽自動車規格離れした装備や仕様に驚かされる。両モデルはパワートレインも車体もシャシーも共用していて、異なるのはフロントマスクのデザイン程度だが、中味の進化がすごい。エンジンはガソリンのターボとノンターボが設定されているが、どちらもマイルドHV仕様(最廉価モデルはノンHV)となっていてリチウムイオンバッテリーが搭載されている。


 通常発電機として使用されるジェネレーターを駆動モーターとしても活用する仕組みで、最大20Nmのトルクを駆動アシストできる。アイドリングストップももちろん作動し再始動はこのモータージェネレーターで行い、その都度セルモーターが回転する音や振動から解放された。


 リチウムイオンバッテリーは運転席下に格納されていて、これはガソリン廉価モデルでも採用されており、各部電動モーターやエアコンなど電装品への給電に役立てている。パワーステアリングも電動で直進状態がしっかり再現できるアシスト制御が施され高速直進性にも優れているのだ。


 また、デイズには日産が得意とするアラウンドビューモニターが採用され、eKクロスにはデジタルインナーミラーが採用されるなど最先端の装備も備わる。軽自動車として初となる渋滞時停止から再発進まで前車に追従可能なオートクルーズコントロール(ACC)つき運転支援機構プロパイロット(三菱名・マイパイロット)も用意されている。

 前席左右にシートヒーターが備わり、後席の足元スペースは日産の最上級セダンであるフーガより広く荷室の使い勝手も良い。N-BOXのようなスーパーハイトワゴンではなくハイトワゴンカテゴリーに属しているため、後席ドアは普通のヒンジ式で4ドアモデルとして成り立っている。

 今回の新型をベースにスーパーハイトカテゴリーモデルも企画されているといい、N-BOX追撃の狼煙は今まさに立ち上がろうとしているのだ。
このホットな闘いを繰り広げている軽自動車。最新モデルにあなたも、ぜひ一度乗ってみてもらいたい。
(文=中谷明彦/レーシングドライバー、自動車評論家)

ユニクロ、今春、“絶対に失敗しない”買うべき服5選…無難&大人の品、着心地も最高

「ユニクロ HP」より

 国内だけでも800店舗以上(2018年11月末現在、832店舗)を有し、日本のファストファッションブランドの王者として君臨するユニクロ

 ユニクロを運営するファーストリテイリングが発表した今年3月の国内ユニクロ事業の売上推移速報によれば、既存店とEコマースを合算した売上高は前年同月比4.5%アップとのこと。投入されたS/S(スプリング/サマー)商品の立ち上がりが好調であったことがわかる。

 また、ファストリは2020年春入社の新入社員初任給を、現状からおよそ2割アップとなる月給25万円超の水準にする方針を発表している。これは同社が今後の事業拡大に必要となる優秀な若い人材を確保するためとみられているが、ファストファッション王者としての貫禄を見せつけたといえるだろう。

 そこで今回、そんな絶好調のユニクロの春アイテムで、おすすめの服をリコメンド。「Business Journal 買うべき・買ってはいけない調査班」が「この春、買うべきユニクロの服5選」を選び、恋愛コラムニストで10年以上のファッションライター経験もある堺屋大地氏に、おすすめポイントを解説していただいた。

 今回、以下の5つを基準として選定した。

(1)ファッションビギナーでも比較的に着こなしやすい

(2)難易度の高い“最先端のおしゃれ”は目指さないこと

(3)“ダサい”と思われるぐらいなら無難な着こなしにする

(4)女子ウケが良く“ちょっとおしゃれ”と思われる

(5)無理に若ぶるのではなく、年相応に大人っぽく見られる

 では、「買うべき・買ってはいけない調査班」が選んだ「この春、買うべきユニクロの服5選」を紹介していこう。

ポケッタブルパーカ/2990円(税別、以下同)


 多少の雨水ならはじく耐久撥水加工が施された軽量撥水パーカ。コンパクトサイズにして持ち歩けるポケッタブル仕様で、バッグなどにしまっておくこともでき、いつでもどこでもすぐに羽織れるのがメリットというアウターだ。

「これは私自身購入し愛用していますが、強度があって丈夫なリップストップという生地を採用していて、薄くて軽いのがいいんです。春先のバーベキューやちょっとしたトレッキングなど、アウトドアレジャーのアウターとしてうってつけですね。ダークグレイ、ブラック、ブルー、ネイビーというカラバリ(カラーバリエーション)なんですが、どれも大人の男性に似合う良い意味で無難な色ばかりなので、コーディネートで失敗しづらいというのもポイントです」(堺屋氏)

ミラノリブジャケット/4990円(※値下げ後価格)


「ミラノリブ」とはイタリアはミラノで生まれた編地の名称で、つまりこのアウターはニット・テーラードジャケット。コットンを強めにひねることで、サラリとした肌触りに仕上げられている。

「ニットジャケットは、気張り過ぎない自然体な雰囲気が出せるので、春先のデートコーデの鉄板でしょう。ちなみにこちらは、クリストフ・ルメール率いるデザイナーチームが手掛けたアイテムとなっています。正直言うと、このデザインチームのアイテムのなかには、ファッションビギナーが手を出すには難易度が高すぎるものもありますが、このジャケットは大丈夫でしょう。きれいめすぎずカジュアルすぎずの絶妙なデザインで、大人の品を醸し出せる逸品ですね」(堺屋氏)

オックスフォードスリムフィットストライプシャツ(ボタンダウン・長袖)/1990円


 コットン100%のオックスフォード素材で、スリムフィットタイプだからすっきりしたシルエットで着こなせる。襟はネクタイなしでもきれいに決まるボタンダウン仕様だ。

「このストライプシャツに限らず、ユニクロのオックスフォードシャツはコスパが良いのでおすすめ。仕事着としても使えますし、デニムやチノパンと合わせれば休日のオフコーデとしても成立させられますね。それだけフレキシビリティーが高く、活躍の場が広いということです。カラバリが豊富ですし、約2000円なので色違いで何枚も買っておいてもいいぐらいでしょう」(堺屋氏)

ワッフルクルーネックT(半袖)/1500円


 表面に多少の凹凸感があるワッフル素材を採用しており、軽い肌当たりでさわやかな着心地を実現。袖口はリブ仕様になっていて、すっきり見えるのも特徴のTシャツである。

「このワッフルクルーネックTは、ワッフル素材なので普通のTシャツよりちょっと差別化できていいですね。無地タイプとボーダータイプがありますが、私のおすすめはボーダー。無地もカラバリがたくさんあるのでいいのですが、ボーダーのほうは白ベースと紺ベースがあり、マリンボーダーで“ちょっとおしゃれ”と思わせることができるでしょう。ジャケットのインナーとして着てもいいですし、これ一枚で外出してもOKな、程よいスタイリッシュさがあります」(堺屋氏)

ウルトラストレッチスキニーフィットジーンズ/3990円


“ストレッチ”とは伸縮性に富んだ素材のことを意味し、“スキニー”とは体にぴったりフィットするシルエットであることを意味する言葉。つまり、自分の脚のラインをきれいに見せられるジーンズということだ。

「この『ウルトラストレッチスキニーフィットジーンズ』は、ユニクロのジーンズシリーズのなかで一番細身のシルエットのものなんですが、私は色違いで2本買っているほどヘビロテしています。細身と聞いて、着心地が窮屈そうだと敬遠してしまう人もいるかもしれませんが、このジーンズはすごく伸びるのでストレスフリーな穿き心地なんです。また、先が次第に細くなるテーパードシルエットなので、足元まですっきりときれいなラインを保てるのが素晴らしいですね」(堺屋氏)

 ユニクロはベーシックなデザインのものが多いので、大きく失敗しないと思われがちだが、セレクトしたアイテムによっては“ダサい”と思われてしまうこともある。だが、今回紹介した5つは、コーディネートで失敗してしまう可能性が低く、しかも“ちょっとおしゃれ”と思わせられるアイテムをセレクトしているため、ぜひ春コーデの参考にしていただきたい。
(文・取材=「買うべき・買ってはいけない調査班」 from A4studio)

※情報は2019年4月10日現在のものです。

ジャパンディスプレイ、債務超過寸前…年内が山場、中国企業の傘下入りを国が後押し

月崎義幸ジャパンディスプレイ社長記者会見(写真:毎日新聞社/アフロ)

「日の丸液晶」とまでいわれたジャパンディスプレイ(JDI)。ソニー、東芝、日立製作所の液晶事業統合会社となれば、その呼び名も当然である。そのJDIが台湾と中国の企業連合であるSuwaコンソーシアムの傘下に入ると4月に発表され、ショッキングに受け止められた。しかし、その後進展がなく、業界では「(傘下入り合意は)破棄されるのではないか」という憶測が広まった。

 5月30日、こうした憶測を払拭するかのように、JDIは「6月14日に台中連合は支援を行うことを機関決定する」と発表した。ひとまずこれで当面の危機は回避したかにみえるが、本当にそうだろうか。

 Suwaは、台湾のタッチパネル大手であるTPKと、中国・台湾の投資会社によって構成されている。JDIへの支援決定のネックになっているとみられているのは、中国の投資会社、嘉実基金管理(ハーベスト・ファンド・マネジメント)だ。ハーベストの関係者はJDIとの交渉テーブルに4月中旬からついていないのではないかという話も流れていた。米中貿易摩擦に出口が見えないこともあり「このままではハーベストが米国アップル向けにディスプレイを供給するJDIに出資することは難しいのではないか」と指摘する声には説得力があった。

そもそも4月に正式合意したのではないか


 Suwaからの出資受け入れは4月12日に合意していたはずだが、その後さらに市況が悪化するなか「(支援のための出資は)実行されないのではないか」という憶測が強まり、今回JDI側がSuwaに確認をとり、改めて約束をとりつけたのだ。

 ただ、今回JDIが発表したのは「6月14日にSuwaが内部で機関決定を行う」ということだけである。言い換えれば、すでに正式合意はしていたのだが、市況悪化により難色を示しているとされる中国投資会社を含めて、改めてテーブルにつくことになったことを確認しただけともいえる。

 6月14日に機関決定をしたら、中台連合各社が臨時株主総会でそれを承認、実際の資金注入は今年末までをメドに実施することとしている。一気に資本が入るわけではなく、実際の資本注入までは目を離せない。

 JDIを取り巻く液晶市場の環境は引き続き厳しい。それでも中台連合が契約を破棄しなかったのは、政府系ファンドであるINCJ(旧産業革新機構)からの追加支援が決まったからだ。

 JDIは、INCJから追加支援を受けるため、持分法適用会社として運用する有機ELディスプレイメーカー、JOLED(東京都千代田区)の保有する株式すべてをINCJに年内をメドに譲渡することを決めた。JDIは、JOLEDの発行済み株式の27.2%を保有しており、これをすべてINCJに譲渡する。株式譲渡はINCJからのブリッジローン債務200億円および劣後ローン債務246億円の代物弁済というかたちとなり、さらにINCJはJDIへの優先株式の引き受け額も総額750億円から1,020億円に増額する。

 こうした支援により、Suwaは交渉テーブルに再びついたわけだが、米中貿易摩擦や液晶市場の悪化などJDIを取り巻く環境が変わったわけではない。「日の丸液晶」を政府系ファンドが必死に支えることで、台中連合から資金を得るという構図である。

既に財務状況は債務超過寸前


 JDIは、19年3月期も最終赤字となった。ついに5期連続である。赤字幅は半減したとはいえ、最終の赤字幅は1,094億円と1,000億円を超える大幅赤字である。赤字続きで今年3月末時点で純資産は70億円余にまで縮小しており、自己資本比率は0.9%となった。前期末で自己資本比率が1%を切るという状況は、足元では債務超過寸前といっていいだろう。

 19年3月期の通期業績をみてみると、売上高が対前期比11.3%減の6,366億円となり、経常利益は441億円の赤字(前年は936億円の赤字)、これに主力の白山工場(石川県白山市)などで747億円の減損損失を実施したことなどから、最終では1,094億円の赤字(同2,472億円の赤字)となっている。

 前年の18年3月期は事業構造改革費用1,442億円を特別損失で計上したことから大幅欠損だったため、そこから比べると19年3月期の欠損幅は半減しているが、それでも1,000億円を超える最終赤字となった。

 JDIは前述のように2012年にソニー、東芝、日立製作所のそれぞれの液晶事業子会社だったソニーモバイルディスプレイ、東芝モバイルディスプレイ、日立ディスプレイズを統合して設立された。

 当初は旧産業革新機構が70%、ソニー、東芝、日立製作所がそれぞれ10%出資、従業員数は6,200人という規模でスタートしたが、液晶市場の悪化で近年は赤字経営が続き、さらに昨秋からスマホ市場が一段と冷え込むなか、台湾・中国勢からの資金調達に活路を求めて再出発することになったというのが現状である。
(文=高橋潤一郎/クリアリーフ総研代表取締役)

MMT(現代金融理論)が見落としているもの…財政の民主的統制の難しさ

「Gettyimages」より

 ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授などが「MMT(現代金融理論)」という理論を提唱し、アメリカを中心に徐々に広がりを見せ始めている。日本でも、経産官僚の中野剛志氏(現、経済産業省商務情報政策局の情報技術利用促進課課長)が、MMTを日本に紹介するため、『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』(ベストセラーズ)等を出版し、一部の間で話題となっている模様である。

 一方で、アメリカのハーバード大学のケネス・ロゴフ教授やサマーズ元米財務長官といった主流派の経済学者は、「MMTは様々なレベルで間違っている」とし、MMTの理論的な妥当性を強く批判している。

 どちらの見解が正しいのだろうか。中野氏の書籍を読むと、MMTが正しいと判断する読者もいようが、ロゴフ教授やサマーズ氏らの指摘のほうが正しい。理由は、MMTは、財政の民主的統制の難しさを深く考察していないためである。以下、順番に概説する。

MMT(現代金融理論)とは何か


 まず、議論を簡略化するために閉鎖経済で考えよう。このとき、「民間貯蓄(S)=民間投資(I)+財政赤字(G-T)」というISバランスが成立するが、経済学の正統派ではISバランスが成立しない場合、市場原理で金利が変動し、ISバランスが自動的に成立するものとする。しかし、MMTでは、完全雇用のときの民間純貯蓄(S-I)は構造的に決まっており、市場メカニズムのみではISバランスが成立しないケースがあり、その場合では財政赤字が必要になると主張する。

 この主張は、有効需要の原理を重視する伝統的なケインズ派の理論に近く、別に目新しいものではない。むしろ、目新しいのは財政赤字を賄う財源として法定通貨の発行を主張することであろう。

 すなわち、「財政ファイナンス」の積極的な活用である。このため、MMTでは、(1)政府支出の拡大や減税=法定通貨の新規発行、(2)増税や政府支出の削減=法定通貨の回収を意味し、完全雇用のときの民間純貯蓄(S-I)にマッチするように、財政赤字(G-T)を制御する政策を提案する。

 そもそも、今の日本のように、失業率が低く、コンビニ等の労働力不足が懸念される状況で本当に有効需要の原理が機能する否かという考察も極めて重要だが、この財政ファイナンスを積極的に活用する発想は本当に目新しいのか。

 実は、ブキャナンとワグナーの名著『赤字の民主主義-ケインズが遺したもの』(日経BPクラシックス)(原題はBuchanan and Wagner1977), Democracy in Deficit: the Political Legacy of Lord Keynes, New York : Academic Press)で、ブキャナンらがすでに約40年前に指摘しており、これも目新しいものではない。

 例えば、同書の76-77ページには以下の記述がある(下線は筆者)。

意図的な財政赤字の創出―支出はするが課税はしないというあからさまな決定 ―は、ケインズ政策の特徴だが、(略) ケインズ派が-大半のケインズ派が-通貨の増発を選ばず、古典的な公債負担論に挑戦する道を選んだのは、今もって意外である(略)需要不足という環境では、 政府の追加支出の機会費用は完全にゼロである。これは直ちに、必要な財政赤字を補てんするために通貨を創造しても、 純コストは発生しない-つまりインフレの恐れはない-ことになる。したがって、政治・制度上の制約がない場合は、意図的に財政収支を赤字にし、通貨発行だけで赤字を補てんすることが、ケインズ派 の理想的な景気対策になるはずだ>
 
 財政学者であれば周知の事実だが、ノーベル経済学賞を受賞したブキャナンらは「ケインズがいなければ、1960~70年代の政治家がこんなに節度を失うことはなかった」とし、アメリカの財政赤字や通貨膨張、政府部門の肥大化の主な原因をケインズ派の理論にあると批判するために執筆したのが同書(『赤字の民主主義』)である。

 同書において、財政規律を重視するブキャナンらが「ケインズ派が-大半のケインズ派が-通貨の増発を選ばず、古典的な公債負担論に挑戦する道を選んだのは、今もって意外」とする記述は、ケインズ派に対する「強烈な皮肉」を投げかけるものである。

予算膨張と減税の政治圧力をどうコントロールするのか


 MMTでは、財政赤字が害をもたらすとわかれば、その時点で適切な水準に財政赤字を縮小すればよいという発想だが、民主主義の下で政府支出の削減や増税を迅速かつ容易に行うのは極めて難しい。政府が財政赤字の縮小を迅速に行えるという仮定は、ケインズ理論が仮定する「ハーヴェイロードの前提」に近いものだが、政府支出の削減や増税は現実の政治プロセスで行うのは容易ではない。

 例えば、1997年に消費税率は3%から5%に引き上がったが、2014年に消費税率が8%に引き上がるまで17年もの時間がかかったのが一つの証である。本丸の社会保障改革もなかなか進まない。日本をはじめ各国では財政赤字の問題に長年悩んできたが、社会保障費の削減や増税が政治的に容易に可能ならば、今ごろ日本では財政再建が終了しているはずである。

 政治家は票を求めて選挙で競争を行う。その際、有権者や利益団体の要求に応じて予算は膨張するメカニズムをもつ一方、政治家は有権者に税を課すことは喜ばない。むしろ、減税こそが歓迎される。

 つまり、財政民主主義の下では、財政は予算膨張と減税の政治圧力にさらされることになり、現在の政治家と有権者には財政赤字が膨れ上がるメカニズムを遮断するのは簡単なことではない。このため、ブキャナンらは「民主主義の下で財政を均衡させ、政府の肥大化を防ぐには、憲法で財政均衡を義務付けるしかない」と主張する。

 なお、財政赤字を法定通貨の新規発行で賄うリスクは、第1次世界大戦後のドイツや第2次世界大戦後の日本などでも経験しており、その歴史的教訓から、中央銀行の独立性を高め、財政法で財政ファイナンスを禁止しているということも忘れてはいけない。

 この意味で、『赤字の民主主義』の216-234ページの以下の指摘が現代の我々に突きつけるメッセージを深く理解することが望まれる(下線は筆者)。

<政府は公債発行の権利よりも通貨発行の権利を厳しく制限されてきた。選択が許される場合、政府が課税よりも通貨の膨張(水増し)に傾く傾向があることは、 経済史の無数の例が示している。(略)選挙で選ばれる政治家は公的支出を承認し、有権者に課税する。もし予想される歳出を歳入と均衡させることが政治家の義務でない場合は、そんなことはしない。政治家の行動が必然的にインフレを招いても、有権者から直接責任を問われることはないからだ。(略)教科書通りのケインズ理論を鵜呑みにした有権者や政治家から見れば、財政赤字の削減で総支出のペースが落ちれば、雇用と実質生産がいつ減少してもおかしくない>

(文=小黒一正/法政大学教授)

小室圭さん、皇室入りで“圭殿下”誕生の可能性が取り沙汰…秋篠宮家の苦悩深まる

小室圭さん(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 令和が始まった。天皇皇后両陛下のトランプ米大統領夫妻への、皇居・宮殿での見事なおもてなしは、国民にそれを実感させた。

 だが、皇室をめぐる暗雲は過ぎ去ったわけではない。秋篠宮家の長男・悠仁さまが通うお茶の水女子大学附属中学校。その悠仁さまの机の上にピンク色に塗られた刃物が見つかったのは、4月26日正午過ぎだった。建造物侵入容疑で逮捕された住居・職業不詳、長谷川薫容疑者(56)は、「(悠仁さまを)刺そうと思った」と供述しているという。逮捕によって不安が去ったわけではないと、複数の週刊誌が指摘している。

「保護者会での学校側の説明によると、生徒たちは当初、刃物をオモチャだと思い込み“誰が持って来たの?”などと、深刻には気に留めていなかったという。しかし、悠仁さまのクラスが偶然に体育の授業で教室を出ていなかったら、大変な事態になっていた可能性もあった」

 そう事態の深刻さを報じるのは、「女性セブン」(小学館/5月30日号)。以下のようにも書いている。

「学校が所轄署に通報したのは、事件当日の18時過ぎ、それでも遅すぎるぐらいだが、宮内庁が事件を把握したのは翌日午前中だった。その時点で、やっと事件を聞いた悠仁さまはとても驚かれた様子だったという。すぐにスキー旅行から帰京されたようだ」

 今回の事件に絡めて、秋篠宮家の問題を指摘する声もある。「週刊文春」(文藝春秋/5月23日号)は、皇室ジャーナリストの見解を紹介している。

「犯人の侵入を許してしまったことも含め、学校の警備体制が問われています。その点、学習院であれば、皇族の警備や警察との連携について、ノウハウを持っている。そのため『学習院に進学されていれば、こんなことにはならなかった』という意見も一部にあるのです」

 同誌では、上皇后となられた美智子さまが「公人として周囲に迷惑をかけたのだから、クラスメイトやその保護者、あるいは学校に対する謝罪のコメントを出すべきでは」と考えておられたという、上皇職周辺の声も紹介されている。それに対して、秋篠宮さまは「悠仁が悪いことをしたのでもないのに、なぜ謝罪文を出さなければならないのか」という考え。意見の食い違いでどう対応するか苦慮したと、宮内庁関係者の声が紹介されている。

 教育に関して秋篠宮家が子どもの自主性を重んじるのは、よく知られているとおりだ。眞子さまと佳子さまは国際基督教大学に進学されている。同誌では、昆虫好きの悠仁さまが赤坂御用地で虫を捕まえている様子や、解剖学や歴史に対しても知識欲が旺盛で、論理的な思考をするので、時には紀子さまを言い負かしてしまうということも紹介されている。「ゆくゆくは、悠仁を東大に入れたい」と秋篠宮さまは周囲に語っているという。

 伝統やその場の雰囲気を大切にされる紀子さまに、論理的に問い詰める悠仁さまが時に勝ってしまうというのだが、秋篠宮家が持っているのは、現代的な自由闊達な考えだけではないようだ。

小室圭さんの将来


 職員に対しての紀子さまの要求が高すぎて離職者があとを絶たず、秋篠宮家は宮内庁きっての「ご難場」とされていると報じているのは、「週刊新潮」(新潮社/5月23日号)である。宮内庁関係者の声が紹介されている。

「新設された皇嗣職では、東宮職で設けられていた『侍従』『女官』といった分類を用いず『宮務官』の呼称で統一することになりました。これを庁側は『秋篠宮家では、ご夫妻の区別なく職員の役割を業務の性質で分担してきた』と説明し、それが効率的だという。“全員一丸”と言えば聞こえはいいですが、つまりは人手不足。御所や東宮ではオモテ(事務方)とオク(ご身辺のお世話)という職務分担がなされていましたが、秋篠宮邸ではその余裕もなく、職員はいくつも持ち場を兼任しながら、フル稼働させられてきました」

 他部署の職員からは、「あの家だけは勘弁してほしい」「配属されると思うと胃が痛くなる」といった声が漏れているという。
 
 秋篠宮家がもっとも頭を抱えているのは、いうまでもなく“小室圭問題”だ。眞子さまとの関係については、5月11日放送のテレビ朝日系『サタデーステーション』で、小室圭さんの代理人弁護士の「最近も当然、連絡を取り合っています。一般のカップルが連絡を取り合う頻度で連絡を取っていると思います」というコメントが紹介された。

 小室さんは、米国フォーダム大ロースクールのLLMコースを修了し学位を取得した。5月7日放送のフジテレビ系『バイキング』では、「弁護士になるとは言っていません」という代理人弁護士の発言が紹介され、波紋を呼んだ。だが実際に代理人弁護士が話したのは、「一般論として、弁護士資格を取得した後にはニューヨークで弁護士として働くだけではなく、企業の法務担当や、自身で起業するなど、さまざまな選択肢があるということを説明した」とのことで、それが歪曲して伝えられたのだった。

女性宮家の議論も影響

 それでも小室さんの先行きは見えにくいという不安を指摘したのは、「女性自身」(光文社/5月28日号)だ。皇室担当記者の見解が紹介されている。

「代理人が言うように、現時点で弁護士資格取得という目標が変わっていないことは間違いないでしょう。ただ、これまで小室さんの目標は、バイオリニスト、アナウンサー、銀行マン、そして国際弁護士と、何度も変わっているのです。もしかすると小室さんは、将来設計を先延ばしにすることで、新たなる目標に手を伸ばそうとしているのかもしれません。それは“宮家の殿下”ではないかという声もあります」

 女性宮家の創設論議に関して「先延ばしにできない重大な課題」という菅官房長官の言葉が紹介されて、こう説明が続く。

「参考になるのが、小泉政権下の’05年に有識者会議がまとめた報告書だ。そこでは女性皇族の配偶者も<皇族の身分を有することとする必要がある>と結論づけられている」

 女性宮家が認められた後に結婚すれば、小室さんも皇族入りし、“圭殿下”と呼ばれることになる。そのために今、先延ばし戦術を採っているというのだ。

 それもそう簡単にはいかないことも「女性自身」では指摘されている。

「金銭トラブルや留学の行方など、多数の課題を抱えている小室さん。皇室会議の場で皇族としての資質を問われることになれば、むしろ結婚が遠のく可能性もある」

 華やかな宴の陰で、皇室の憂鬱は続いている。
(文=編集部)

東証1部に上場しているのが不思議な企業リスト20

東京証券取引所(「Wikipedia」より/Kakidai)

「『会社四季報』を持ち歩くのが面倒になった」

 旧知のシニア投資家(70代)から聞いた話である。企業や業界の情報収集のために図書館に出向く際には、保有銘柄を複写したものを持っていくそうだ。

 なるほど近年の『会社四季報』(東洋経済新報社)は鞄に入れて持ち歩くには、いささか抵抗を覚える。試みに古い「四季報」を取り出してみて、そのコンパクトさに驚いた。1986年新春号の厚さは3センチしかない。これに対して直近は4.5センチ。ちなみにバブル全盛期の1989年秋季号でも3.5センチだった。

 上場企業の代表的な辞書である「四季報」の膨張は、掲載する社数、上場企業の増加を示している。一見するとそれだけ日本経済が成長を遂げた、また産業、企業が発展、拡充したように映るが、慶事とばかりはいえないようだ。

 昨年末から市場の話題をさらっている東京証券取引所の制度変更、すなわち東証1部上場企業の絞り込み、新基準創設の検討は、上場企業数の増加が必ずしも内容の充実にはつながっておらず、むしろ玉石混交に陥っていることを示している。ここに来て報道は一巡しているが、東証を運営する日本取引所グループに、現状及び今後の方針について尋ねてみた。

「制度変更のタイムスケジュールは決まっていない。現在は方向性を検討している段階であり、方向性が見えてきたところで具体的にどうしていくかの段階になる。市場に大きな影響を及ぼすことなので、オープンな場で論議を深めて慎重に進めていく。報道が若干先行しているようだが、突然制度が変更されるようなことはあり得ない」(上場部企画グループ)

 要するに、まだ外堀を埋める準備をしているあたりか。コメントの中にもあるように、主要な指標に深く関係する制度変更が、市場に大きな影響を及ぼすことは、日経新聞による225採用銘柄の入れ替えが誘発した暴落からも明らかだ。拙速を避けて、すり足で事を進めるのは妥当なところだろう。

 だが、上場企業や証券会社など身内の事情を優先して、あまりにも緩い基準で妥協するのならば、現在でも西日を浴びつつある東証ブランドを一層低下させることになる。

「番外地」


 改めて東証1部上場企業を調べてみると、頂点と位置づけられる市場に、株式を公開していること自体が不思議と思われるような銘柄は多い。

 頻繁に業態を変更して実態が把握できない、苦し紛れとしか思えない増資を乱発する、慢性的な業績不振によって2桁の株価水準が定位置になっているものもある。わけても市場関係者からも「番外地」と揶揄されるような時価総額の底辺グループを形成する企業は、ベテラン投資家でも社名すら認知していないような会社が多い。このあたりはヤフーファイナンスなど各種の株式サイトで、時価総額の下位ランキングを検索すれば、実感できるのではないか。

 時価総額もさることながら、存在意義さえ疑われるのは、こうした銘柄群の市場性(売買数量)の低さであろう。過去1カ月を見ても、1日の平均出来高が1万株に満たないものが相当数ある。投資経験がある方ならば理解できるであろうが、この程度の出来高では普通に取引を行うことさえ難しい。指し値注文をすれば約定はできず、成り行き注文では想定外の高値、安値で約定してしまう危険性が高くなるからだ。

 さらに問題であるのは、商いの薄さを利用した株価操縦が可能なことだろう。一定の売買テクニックを有していれば、思うままに株価を操ることは難しくないはずだ。株価自体も低位なものが多いから、投資資金もそう多くはいらない。現状のまま放置をすれば、松谷天一坊(明治から大正にかけて暗躍した投機家。私設証券取引所を開設したことで知られる)もどきが蝟集することにも、つながりかねないだろう。
(文=島野清志/評論家)

【東証1部上場で1日平均出来高1万株未満の銘柄】
 中国工業(5974)、小林洋行(8742)、日本鋳鉄管(5612)、ミサワ(3169)、一蔵(6186)、神栄(3004)、ヤマシタヘルスケアHD(9265)、田谷(4679)、秀英予備校(4678)、東天紅(8181)、藤久(9966)、ブラス(2424)、NCHD(6236)、盟和産業(7284)、ティーライフ(3172)、東海染工(3577)、中広(2139)、サンリツ(9366)、イーグランド(3294)、サイネックス(2376)
※調査対象は東証1部時価総額下位50銘柄。出来高は3月26日から4月25日まで。ヤフーファイナンスより引用。

パナソニックのアイロン「衣類スチーマー」が感動的に楽チン&時短&便利すぎるぞ!

 新社会人になった方にはもちろん、今年から就職活動する方にもオススメしたいのがアイロン。たとえあまり人に会わない研究職といっても、発表やら公演、とにきには意見交換会などで必ず人に会うシーンがある。新入社員にしてもしかり。同期とはいえ情報を交換したり、配属先で先輩たちに連れ添われて人に会ったり、ときにはひとりの社員として外部の人と会う機会が必ずある。今年から就職活動という方は、もういうまでもないだろう。

ハンガーに衣類をかけたままシワをのばせるパナソニックの「衣類スチーマー」(NI-FS750)。もちろんアイロンとしても使える。市場価格は1万4000円程度

 とりあえずの生活家電として、エアコンやパソコン、テレビや冷蔵庫を買うはずだが、そこにぜひアイロンを入れてほしい。家電ライターがこんなこと言うのは失格なのは承知だが、あえて言わせてもらおう。最近はコンビニエンスストアのようにコインランドリーがあちこちにあるあるので、洗濯機なんていらない。炊飯器もまずいらない。だってコンビニやほか弁の白米のほうが、よっぽどうまいから。だからまずアイロンだ(笑い)。
蒸気の力でシワを伸ばし、蒸気の力で衣類のニオイも消臭する

 その代わりに、ハンガーに衣類をかけたまま使えるタイプのアイロンを買ってほしい。

かなり見られている服のシワ


 面接のハウツー本にもあるように、服のシワは意外に目立つ。だから相手の印象を大きく左右する。ワイシャツはもちろん、スーツも座りっぱなしになっていると、腰回りがシワシワになってしまうことも。

一般的なアイロンに比べるとコンパクトで置き場所にも困らない

 とはいえ、アイロンなんてほとんど使ったことない人にとっては、一般的なアイロンは難しい。特に男性は、アイロンなんて使ったことないという人も多いだろう。そんなアイロン初心者が初めに悩むのは設定温度だ。低、中、高のどれを使ってアイロンをしていいのか? そもそもウールや化学繊維のスーツにアイロンがけをしてもいいのか?
一般的なアイロンについている温度選択。どれを選んでいいのかわからない

 さらに親と同居しているときは、霧吹きを吹いてからアイロンがけをしていたが、どんなとき霧吹きが必要で、どんなとき不要なのか、サッパリわからない。アイロン台を持っていないが、床の上でアイロンしてもいいものなのか? ボタンにアイロンが当たっても溶けないのか? おそらく疑問だらけで、右も左もわからないはずだ。
 
 そんなアイロン初心者にお薦めするのが、パナソニックの「衣類スチーマー」(NI-FS750)。
温度設定のボタンはなく、電源スイッチとスチームショットボタンのみ

 温度の設定ダイヤルは一切なし。あるのは電源ボタンとスチームボタンのみだ。しかもこのアイロン、衣類をハンガーにかけたままアイロンできるのが最大の特徴。さらにアイロンが温まるまでの時間が超短く、なんと24秒! 電子レンジでお弁当を温めるより短い。
ランプは2つあり、1つ点灯すると衣類スチーマーとして使える状態。2つ点灯するとスタンバイ状態になり、スチームボタンを連続で2回押すと瞬間的に3倍のスチームを放出して、局部的なシワ取りや消臭ができる


 アイロンが温まるとランプが点灯するので、シワになっている部分にスチームボタンを押してアイロンをかざすだけでいい。わざわざアイロン台を出す必要もないのでお手軽に短時間ですむ。そもそも衣類に触れずにスチームをあてるだけなので、ボタンが溶けるかどうかの心配も無用。襟や袖にアイロンをかけるのも、ハンガーにかけたままでOKだ。
衣類をハンガーにかけ、片手で衣類を少し引っ張りながら、もう片方でスチームを当てていく。衣類と触れるか触れない程度の距離を置くので、ボタンなどの上からシューッとスチームすればいい

 それでシワが取れるのか? と不思議に思えるかもしれないが、次の写真を見比べてほしい。


 ハンガーにかけたままでも、キレイにしわが伸びているのがわかるだろう。しかも折り目が伸びることなく、実家でアイロンがけしてもらったのと、なんら変わらない。そう。このアイロンは、アイロン初心者でも簡単にかけられることを目指してつくられた簡単アイロンなのだ。

毎秒3cm! これがスチームシワ伸ばしのテクニック!


 通販番組でおなじみのレジェンド松下さんから、筆者が教わったテクニックがある。ここではそれを公開しよう!

 ワイシャツもスーツも基本は同じなので、ここでワイシャツを例に見ていこう。まずはアイロンに水を入れてスイッチオン。水が入っているかどうかは、窓から確認できるので、ここを覗けばいい。もし半分以下になっていたら、専用の水差しで注水する。

専用の軽量カップも付いているので注水も簡単
水の残量が小さな窓から確認できる
 普通のアイロンならコーヒーでもいっぱい飲んで温まるのを待つところだが、このアイロンは24秒もせずに温まる。このときの温度は140~150℃ほど。
アイロンの表面温度は、だいたい140~150℃程度。一般的に中温と呼ばれている温度
 次に、シャツをハンガーにかける。クリーニング店でもらった針金ハンガーでもいいし、100円ショップで買ったものでもOK。木製でもプラスチックでも構わない。

 と、ここで普通のアイロンなら、シャツに付いている「タグ」をみてアイロンの温度を云々というところだが、パナソニックのアイロンは設定不要。アイロンの絵に×が付いていないことだけ確認すればいい。

普通のアイロンは服に付いている「タグ」を見て温度を設定する必要があるが、このアイロンでは設定不要。アイロンのアイコンに×マークが付いていないことだけを確認

最初は水が経路に行き渡らないので、長く押してスチームが出続けるのを確認

 スチームボタンを押して勢いよくスチームが出ることを確認。あとは衣服に付くか付かない(離したときで1cm)程度にアイロンを近づけてスチームを当て続ける。このとき胸がわのシワを伸ばすなら、軽く前の裾を引っ張るとパーフェクト。
シワを伸ばしたい部分を少し引っ張ると、素早くキレイにシワが伸びる


 毎秒3cmぐらいのスピードでゆっくり動かしていくといい。腕にアイロンをかける場合は、袖を少し引っ張りつつ、さっきと同じスピードでアイロンがけ。またパナソニックのアイロンは、どんな向きにしても蒸気が出続け、水がこぼれることもないので、アイロンを回転させながらやりやすい方向に向けるといい。




横にしても逆さにしてもスチームが出続ける



秘密は水タンクのホースに重りが付いていて、常に給水ホースが水につかるようになっていること!

 こうしてシャツ1枚にアイロンをかけると、ちょうど水が半分になるはずだ(生地によって異なる場合もあり)。
水量計を覗くと大体半分ぐらいになっているはず

 一般的な小型のアイロンでは、シャツ1枚にアイロンがけすると水がなくなってしまうが、パナソニックのアイロンは大型のタンクを持っているので、続けてスーツにもアイロンできる。忙しい朝や、仕事から帰ってテレビを見ながらでも、ゆっくりアイロンがけできるだろう。

アイロンはシワ伸ばしだけでなく匂いも消す


 スチームアイロンは、誰でも簡単にしわを伸ばせるが、実は除菌や消臭効果もある。除菌はみなさんご存知の通り、熱い蒸気を吹き付けるので、たんぱく質が変異する70℃を超えるため、たいていの菌は死滅する。一方、消臭効果は、繊維に入り込んだニオイの分子が、高温で溶け出し、スチームの噴出する勢いで衣類の中から出てくるというわけ。なのでアイロンと反対側に、キレイなタオルを当ててスチームするとさらに消臭効果が増すという。

バスタオルなどを敷いて、その上に衣類を置きスチームするとニオイが取れやすい。襟やワキなどのニオイが気になる部分にも

 さらになかなか伸びないしわや、ソースやしょうゆなどをこぼしてしまったニオイは、強力スチームモードと使うといい。瞬間的に通常の3倍のスチームが勢い良く噴射する。
ランプが2つ点灯している状態でスチームボタンをダブルクリック!

これで瞬間的に3倍のスチームが噴出する

もちろん普通のアイロンとしても


 アイロン台を使わない衣類スチーマーとして使えるのはもちろんだが、通常のアイロンとしても使える。ワイシャツの襟をしっかり立てたり、スーツのズボンの折り目をしっかりつけたりなどもOK。

普通のアイロンとしても使える

 またアイロンプリントでオリジナルのTシャツをつくるなんて場合にも使える。まだアイロンを持っていないという新社会人、そして就職活動を始める方にぜひオススメだ。
(文=藤山哲人/体当たり家電ライター)


こんなにシワシワだったシャツも

スチームだけでキレイにシワ伸ばし&ニオイも消臭!

住宅、「定額制」広がりで“所有”から“利用”への流れ加速

「Gettyimages」より

定額制のタイプ


 音楽や映像配信の世界では当たり前になっている「定額制」(サブスクリプション)が、リアルの世界でも急速に普及している。例えば、高級時計やブランドバッグ、自動車の定額制利用サービス、飲食店や美容室の定額制利用サービスなどがあるが、最近になり、住居や宿泊サービスなど不動産分野でも登場している。不動産分野で定額制は根付くのだろうか。

 定額制を導入する場合の狙い、タイプにはいくつかある。第1は、従量制では需要の発生に限界があるところを、会員は月額いくらかで視聴し放題などとすることで、需要を喚起しようというものである。供給者にとっては1単位当たりの値段は安くなるが、多くの需要者を獲得できれば採算が合う。消費者にとっては、多くを需要しようとする場合、1単位当たりの値段が割安になる。

 第2は、所有した商品ひとつしか利用できないよりは、そのときどきでさまざまな銘柄(ブランド)を使いたいという需要がある場合、その商品の定額サービスが成り立つことになる。高級時計やブランドバッグ、自動車などがその代表で、定額料金で一定範囲の銘柄から利用できるというサービスがその典型である。供給者は商品のバリエーションを揃えた上、消費者に貸し出す必要が生じるが、会員を多数確保して貸し出し回数が増えていけば採算が合う。消費者にとっては、所有する場合の管理の手間などに煩わされることなく、使いたい時に使いたい銘柄を利用できるメリットがある。

 月額いくらかで、何種類かの洋服やスーツが、スタイリストのチョイスの下、消費者に届けられるサービスもこの一種である。この場合、消費者はいちいち店に出向いて洋服やスーツを選ぶという手間から解放される。

 こうしたサービスは、ずっと使い続けるのならば所有したほうが値段的に有利であるが、さまざまなバリエーションを管理や選択の手間に煩わされることなく、手ごろな値段で使いたいという欲求に応えるものとなっている。

 第2のタイプのより発展したかたちは、供給者が、消費者が持て余している高級時計やブランドバックを借り受け、それを定額制で供給するというものである。例えば、高級時計の「カリトケ」(クローバーラボ株式会社、大阪市)、ブランドバックの「ラクサス」(ラクサス・テクノロジーズ株式会社、東京都港区)などがこうした仕組みを取り入れている。この場合、供給者は自ら所有することなく、商品のバリエーションを増やせることになる。定額制サービスの供給者は、その商品を使いたい消費者が一定期間使用できるようにするための仲介の役割を果たすことになる。

 第3は、店舗の稼働率向上を狙うものである。定額制サービスの供給者は、サービスを提供する加盟店を集め、消費者は定額でその店舗を一定回数、利用できるというようなかたちである。飲食店や美容室などでこのタイプがある。店舗にとっては通常のサービスよりは割安な供給になるが、このサービスに加盟すれば店舗の稼働率を上げることができる。

 消費者にとっては、割安な料金でそのときどきで好きな店や都合の良い場所にある店を利用できることになる。この仕組みでは、定額制サービスの供給者は、消費者のこうした需要と、稼働率に余裕がある店舗とのマッチングを行うかたちになる。これは先に述べた第2のタイプの発展したかたちと基本的に同じになる。

 第4は、消費者の来店を促すため、基礎的サービス部分を定額とするというものである。消費者が来店時に派生消費を行えば、供給者にとっては採算に合うことになる。例えば、コーヒーショップでのコーヒーの定額制、うどん店でのすうどんの定額制がこれに当たる。コーヒーショップではサンドイッチなど他の商品を購入すれば、うどん店ではすうどんに具材をトッピングするなどすれば、店側にとっては利益を確保できることになる。

住居、宿泊サービスの定額制


 最近出てきた不動産分野の定額制は、主に2つある。ひとつ目は、住居や仕事場として各地で利用できる施設を供給するというものである。IT系の職種など仕事場を選ばない人や、多拠点居住を志向する人などの利用が見込めればビジネスとして成り立つ。もっとも、そのような個人を会員として多く集めることには一定の限界があるとも考えられるが、法人会員を確保できれば、需要を補うことができる。そのような戦略で参入したのは、株式会社アドレス(東京都千代田区)である(2019年4月サービス開始、当初の利用可能施設は11カ所)。空き家を改修するなどして、今後、施設を増やしていく方針という。

 前述の第2のタイプの定額制では、供給者は初期時点で高級時計なら高級時計で多くの銘柄を揃えなければならない投資負担を負うが、不動産分野のこのタイプの定額制も同じ負担を負う。投資に見合った顧客を常に確保できるかどうかが、ビジネスとして成り立つかどうかの分かれ目になる。その点、高級時計やブランドバックでは、前述のように消費者が持て余しているものを借り受け、それを定額制サービスで供給するかたちも出ており、これは投資負担を軽減するものとして注目される。

 これに対し不動産では、施設として供給するためには、一定の条件を満たすために改修する必要があり、消費者の持て余しているものを単に需要者にマッチングすればよいというわけではないという点が、ビジネスとして成り立つためのハードルを高くしている。ただ、個人では、自分の住んでいる家を住んだまま、留守の時に集会スペースなどとして時間貸しすることで、一定の収入を得ている例もあり、これは定額制のビジネスモデルではないものの、不動産をマッチングにより、そのまま活用できる場合もあることを示している。

 不動産分野での定額制の2つ目は、ゲストハウスやホステルの定額制である。これは、前述の定額制の第3のタイプに近い。多くの施設に定額制で泊まれる仕組みをつくれば、稼働率向上につなげられる可能性がある。ゲストハウスやホステルですでに採算の取れる水準で稼働しているが、なお稼働率を上げたい場合に、定額制の顧客を確保することは有効になると思われる。

 これとは別であるが、最近は都心近くのゲストハウスで定額制を導入し、残業で終電を逃した時、あるいは繁忙期に通勤時間を節約して会社近くに宿泊したい時などの需要を確保しようとしている例もある。立地によっては、ひとつのゲストハウスだけで定額制を導入できる余地がある。

 一般の財、サービスに比べ、不動産分野での定額制の導入はより難しいと考えられるが、最近はさまざまなチャレンジが登場しており、今後の発展が期待される。近年の不動産の所有から利用への流れは、定額制というかたちでも進展しつつあるといえる。
(文=米山秀隆/シンクダイン研究主幹)

たばこ代、20年間で365万円支出…肺がんや要介護の危険増大、早急な禁煙が賢明

「Gettyimages」より

 先日、古いテレビドラマを観ていたら、女優さんがたばこを吸うシーンが出てきて、ああ、こんな時代もあったなあと懐かしく感じた。

 不良少年役がたばこをふかして悪ぶってみたり、刑事役が犯人張り込み時間の長さをたばこの吸い殻の量で示したり。かつては、映画やドラマなどで、たばこが小道具として使われていたものだ。

 たばこは、コーヒー、お茶、お酒と並ぶ世界の四大嗜好品の一つともいわれ、いわば大人の嗜み。しかし、喫煙によるさまざまなリスクが顕在化するにつれ、今やたばこは文字通り“煙たい”存在となってしまったようだ。

 どんなに値上がりしようと、声高にリスクがあると言われようと、「絶対に自分はたばこをやめない!」と確固たる信念を持っている人には、何も言うまい。しかし、なかには、禁煙したいが、つい習慣でやめられないという人もいるはず。そんな方々が、早くやめておけば良かったと後悔しないよう、最近の喫煙者を取り巻く環境の変化と喫煙による5つの経済的なデメリットをご紹介したい。

どんどん狭くなる「喫煙者の肩身」と「喫煙可能な場所」


 まずは、環境の変化から。

 2018年7月に受動喫煙対策を強化した「改正健康増進法」が成立し、2020年4月から全面施行となることをご存じだろうか? これによって、学校、病院、児童福祉施設、行政機関、バス、航空機等について、屋内は禁煙かつ敷地内も基本的に禁煙。敷地内の屋外は、受動喫煙を防止するための対策がとられた場所にのみ喫煙場所を設置できるという。

 これらの場所以外も、多くの人が利用する施設や飲食店等は、原則として、喫煙ブースを設置する全席禁煙あるいは店内で一切喫煙できない全面禁煙かを選択しなければならない。

 さらに、2018年7月に制定された「東京都受動喫煙防止条例」は、東京2020大会に向けて、国の法律よりも要件が厳格化されている。

 原則として、従業員のいる飲食店は屋内禁煙で、喫煙に対応するには専用の場所を設ける必要がある。

 そのため、規制対象となる飲食店は、国の法律を基準にすると全国の45%だが、都条例では都内の84%にものぼる。もはや、ほとんどの飲食店の店内が禁煙になると考えて良いだろう。

 全面施行が来年4月とはいえ、すでに、ファストフードでは、日本マクドナルドや日本ケンタッキー・フライド・チキンが全面禁煙を実施。モスフードサービスも2020年3月末までに全面禁煙化を目指す。

 飲食チェーンでは、2018年6月から串カツ田中がほぼ全店舗、同年7月からサイゼリアが段階的に全面禁煙化を進めているほか、すかいらーくホールディングスやココスなども、全面禁煙化を発表しているなど、動きは早かった。

 一方で、愛煙家の客が多い居酒屋や専用コーナーを設置する余裕のない中小規模の喫茶店等は対応に苦慮している。喫煙者にとっては、「まだ吸っているの?」と周囲に言われて肩身が狭くなるばかりか、一服できる場所も失われつつあるということだろう。

成人喫煙率(男性)は約30年前に比べると55.3%から29.4%に減少


 それでも以前に比べて、たばこを吸う人はかなり少なくなった気がする。実際の喫煙率はどの程度なのだろうか?

 厚生労働省「平成29年国民健康・栄養調査」によると、平成元年のデータでは、習慣的に喫煙している人の割合は男性55.3%、女性9.4%で、とくに20~30代男性の6割以上が習慣的に喫煙していた。それが、平成29年のデータでは、喫煙者の割合は平均17.7%と2割にも満たない。

 男女別にみると、男性29.4%、女性7.2%で、とりわけ30~40代男性が、他の年代よりも割合が高く、4割近くが現在も習慣的に喫煙している。つまり、この30年ほどの間に、男性の喫煙率が明らかに減少したわけだ。

 さらに遡ると、JT全国たばこ喫煙者率調査では、昭和41年以降のピーク時(昭和41年)が83.7%だったというから、今年50歳になる筆者が生まれた頃と比べると、かつて多数を占めていた喫煙派がマイナーになり、今やたばこを吸わない禁煙派がメジャーになったということになる。

 また、現在喫煙している人の中でも、3割近くの人が、たばこをやめたいと考えている。男女別にみると、男性26.1%、女性39.0%と、女性のほうが禁煙について、より切実なようだ。

たばこによる経済的損失は2兆円以上


 それでは、喫煙による経済的損失はどれくらいなのだろうか?

 国全体の損失に関する検証データはさまざまなものがあるようだが、比較的、最近のわかりやすいデータをご紹介しよう。

 厚生労働省研究班の推計によると、2015年度の総損失額は、2兆500億円。その内訳は、喫煙者の医療費、受動喫煙、歯の治療費などの医療費が1兆6,900億円と8割以上を占める。そして、こうした病気にともなって必要となる介護費用や火災による消防費用、吸い殻の清掃費用など医療費以外の費用が3,600億円となっている。

 2兆円の損失と言われても、単位が大きくて実感がわかないかもしれないが、2019年10月に実施される予定の消費税増税の経済対策が約2兆円に膨らむ見込みだという。となれば、中長期的にみても、社会全体に与える影響は見過ごせないレベルなのだとは感じられる。

 ちなみに、一般的に、たばことの因果関係が「十分ある」もしくは「示唆される」といわれる病気といえば、がんや脳卒中、心筋梗塞、認知症など。脳卒中や認知症は、要介護状態の原因にも挙げられているように、たばこによる経済的損失は、直接的な医療費ばかりではなく、将来の介護費用にまで及ぶという点にもっと注意すべきである。

 とりわけ、依然として約4割が喫煙者である40~50代男性にとって、将来、要介護状態になりたくないのであれば、今の時点で禁煙する必要がある。狭心症や心筋梗塞などの心疾患のリスクが低下するのは、禁煙から2~4年経過してから。がんのリスクが低下するのは、10年かかるからである。

たばこによる個人レベルの5つの経済的デメリット


 それでは、経済的損失について、もう少し具体的かつ身近な問題として考えてみよう。たばこが個人の家計に与える影響として、主に次の5つが挙げられる。

(1)たばこ代がかかる
(2)勤務先の各種手当(禁煙手当など)がもらえない
(3)医療・介護費がかかる可能性が高い
(4)住まいにかかる費用負担が大きい
(5)民間保険の保険料が高い(健康体割引が利用できない)

 それぞれの内容を詳しくみてみよう。

(1)たばこ代がかかる

 2018年10月のたばこ税増税を受けて、たばこは値上がりしている。銘柄によってたばこの値段は変わるが、セブンスター・ピース1箱500円のたばこを1日1箱、毎日吸う場合、500円×365日=18万2,500円かかる。月額に換算すると、約1万5,200円となり、ちょっとした支出ではないか。さらに、喫煙歴が20歳から20年間だとすると、365万円にものぼる。

 たばこの危険度をはかる「ブリンクマン指数」という指標をご存じだろうか? 1日のタバコの本数×喫煙年数で計算し、この数値が高いほど危険度が増す。例えば、400を超えると肺がんを発症する危険性が高まるといわれるが、同指数200以上の人なら、禁煙治療が健康保険の適用になるので、これ以上、たばこにお金をかけて健康を害するのなら、禁煙治療外来に行って治療を始めることをお勧めしたい。

 加えて申し上げると、たばこの値上がりはこれからも続く。2019年10月には消費税が10%に、2020年10月と2021年10月には、さらに1本当たり1円ずつ増税の予定となっている。

(2)勤務先の各種手当(禁煙手当など)がもらえない

 ここ数年、「健康経営」という考え方が提唱されているように、従業員の健康維持・管理、業務効率化を目的として、コストをかける企業が増えている。

「禁煙手当」あるいは「健康維持促進手当」など、名称はさまざまだが、福利厚生の一環として、禁煙を実行した喫煙者や禁煙を継続している非喫煙者を対象に、月額5,000~1万円の手当を支給するというものだ。

 ルールは各社異なり、ある会社では、禁煙する旨の誓約書を社員が会社に提出し、喫煙した場合あるいは不当に手当を受け取った場合は、手当が取り消されたり、全額返金もやむなしといった措置があるという。いずれにせよ、支給額が1万円なら年間12万円。こちらもちょっとした金額である。

 数年前から禁煙手当を導入している企業の社員によると、「禁煙へのモチベーションがアップしますし、健康への意識が高まって、ほぼ全社員が禁煙できました」とのことである。

 前編はここまで。後編では、経済的デメリットの(3)~(5)をご紹介しよう。
(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)

最大800万円も非課税で投資できる方法? 初心者でも安心

「Gettyimages」より

 今回はつみたてNISAについて、女性公認会計士コンビ、先輩の亮子と税務に強い後輩の啓子が解説していきます。

亮子「つみたてNISAで投資できる商品って限られているよね」
啓子「一定の要件を満たす投資信託等になりますね」
亮子「個別の株には投資できないのだよね」
啓子「投資できるものが限られているから選びやすい、と考えることもできますよ」

非課税枠は最大800万円×最長20年


 つみたてNISAとは、あらかじめ決まった金額を定期的に購入する積立投資によって得た運用益が非課税となる制度です。20年間、毎年40万円の投資枠が用意されますので、最大800万円まで非課税で投資できることになるというものです。それぞれの非課税枠の非課税期間は20年。もちろん、積立NISAを始めたからといって、途中でやめられないということはなく、20年間積立をやり続けなくてはならないということでもありません。それだけの非課税枠を利用できる、ということです。

 ざっくり言えば、最大800万円の投資が最長20年間非課税でできるということになります。

 仮に元本の変動はなく年利1パーセント(単利)の利回りを実現できたとしたら、

・800万円×1%×20年=160万円

の利益(利息や配当)を得ることができますが、現行制度を前提に考えると、通常この160万円には20.315%の所得税が課せられます。つまりトータルで

・160万円×20.315%=約32万円

の所得税が課せられます。ここで、つみたてNISA口座を使って同様の投資をすれば、この所得税がかかりませんので、約32万円の節税につながるというわけです。

 投資の元本の値上がりがあれば、さらにその分も節税になりますので、この制度を利用する価値は大いにあると思います。

つみたてNISAの節税以外のメリット


 つみたてNISA口座で購入できるのは従来のNISAと異なり、国が定めた基準を満たした投資信託商品に限られます。投資信託は投資信託協会のデータによれば公募型のものでも6,000本以上存在していますので、そのなかから実際にどれを購入するか選択するのは至難の技でしょう。

 この点、つみたてNISAは国の厳しい基準をクリアした商品に限定されているため、投資初心者にも優しい制度なのです。金融機関にもよりますが、「月々100円から積立可能」という金融機関もあり、毎日積立、毎週積立、毎月積立など、自分自身のペースに合わせて投資をすることができます。また、時期に関係なく売却して積立資金を引き出すことができるので、無理なく積み立てることができます。

 つみたてNISAにも注意点があります。前回説明した一般NISAと同様に、つみたてNISAで発生した損失は損益通算・繰越控除できないという点です。また、つみたてNISAはロールオーバーができませんので、新たな口座に資産を移すということができない点も注意です。さらに、運用の際には国が厳選しているとはいえ、利益が出ることを保証しているわけではありませんので、その点は留意しておきましょう。

いろいろな意見はありますが


 あらかじめ決まった金額で定期的に買い続ける積立投資は、ドル・コスト平均法と呼ばれる投資手法の一つです。投資商品の価額は常に変動していますので、購入するタイミングによって価格が高い、安いといったことがあります。投資は安い時に買って高い時に売ると利益を得ることができるので、できれば安いタイミングで投資できればベストですが、そのタイミングを確実に見極めるのは不可能です。

 その点、積立投資であれば一定金額を定期的に購入するため、価格が高い時は購入できる口数が少なく、価格が安い時は多く購入できるため、購入価格が平均化され、長期の投資には有利に働くというメリットがあります。

 ドル・コスト平均法の是非については、いろいろな意見はありますが、安く買って高く売るという狙い撃ちが難しいのであれば、機械的に購入することで、長期的に見れば成長し続けている市場に身を委ねる意味はあると思います。

つみたてNISAと一般NISAは同時には使えない


 ただし、つみたてNISAと一般NISAは併用することができませんので、利用する場合はどちらか一方を選択する必要があります。年ごとに選択することができますが、年ごとにどちらかの制度をかわるがわる選択しながらうまく運用していくのは難しいと思いますので、一定期間はどちらか一方を選択するのが現実的だと思います。

 以前から一般のNISAを利用している人がつみたてNISAを利用したい場合には、(1)保有する資産を売却してつみたてNISAへ切り替える、(2)一般NISA口座に資産を残したまま、つみたてNISAを利用する、(3)NISA口座の資産を通常の課税口座に移し、つみたてNISAを利用する、といった選択肢が考えられます。

 つみたてNISAを利用するからといって従来のNISA口座の資産をすぐに売却する必要はありません。売却損失が出る場合には(1)を選択すると損失が確定されて、損益通算や繰越控除を利用することができないため不利です。また、(3)を選択すると移行時の株価で課税口座に移されるため、値下がり時に移行し、その後、株価が値上がりして売却した場合に、当初想定していた以上の税金負担が出てしまうといった可能性もあります。つみたてNISA切り替え時に保有する資産を売却するタイミングが今ではないと考えられる場合には、(2)のNISA口座で資産を保有しつつ、つみたてNISAを活用するといいのではないでしょうか。

19歳以下のためのNISA


 NISAは20歳以上を対象とした制度ですが、19歳以下でも利用できるジュニアNISAという制度があります。これは2016年に開始された制度で、ジュニアNISAも従来のNISAと同様に運用によって得た利益が非課税となります。

 従来のNISAと主に異なるのは(1)上限額が年間80万円、(2)18歳まで引き出し制限がある、(3)親などの親権者等が口座の管理をする、という点です。非課税期間は投資した年から5年で、新たなNISA口座へロールオーバーできるという点は一般のNISAと同じです。

 ジュニアNISAは主に子どもや孫のための教育資金などを増やすために活用される方法ですが、必ずしも使途が教育資金に制限されるわけではなく、子どもの結婚資金や住宅購入費用にも活用することができます。預金や定期預金で資金を置いておくよりも、株式投資信託などで運用をすることで、より資金を増やせる可能性もあります。18歳まで引き出し制限がありますので、その点は注意して無理ない範囲で運用してみてはいかがでしょうか。



亮子「つみたてNISAで毎日1000円ずつ積み立てるのも面白そう!」
啓子「365日で36万5000円」
亮子「つみたてNISAはいざとなれば引き出せるけれど、長期的な視点を持って活用できると良さそうですね」
啓子「一方、ジュニアNISAは引き出すことはできませんが、だからこそ教育費や自立のための資金をつくるのに適しているように思います! もちろん、いずれも無理のない範囲で利用することが重要ですけれどね!」
(文=平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表、徳光啓子/公認会計士)

●徳光啓子
2009年 公認会計士試験合格
2011年 明治大学商学部卒業
2011年から2016年、有限責任あずさ監査法人に勤務し、主に上場企業(製造業)を中心に監査業務に携わる。
2016年から税理士法人タックス・アイズにて企業の各種税務申告業務や会計・税務コンサルティングを行う。また、同年より茨城大学にて非常勤講師として原価計算論等の講義を行う。