プロジェクト実例に学ぶ、サーキュラーエコノミー実現の方法

2021年11月9・10日、電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィスと電通TeamSDGsは、オンラインセミナー「サーキュラーエコノミーを実現する新たな連携とビジネスの可能性」を開催しました。

サーキュラーエコノミーの実現に向けて、さまざまな企業・自治体が共同で実施した実証実験や事例などをもとに、今後の連携やビジネスの可能性を紹介した本ウェビナー。ウェブ電通報では3回にわたってその内容をダイジェストで紹介します。最終回は、電通グループと企業が共創した3つのプロジェクトについて、トークセッションの内容をお伝えします。

これまでの記事はこちら
「サーキュラーエコノミー」で、消費や社会はどう変わる?
企業がサーキュラーエコノミーに取り組むべき4つの動機

 

 

植物由来100%のプラスチックを開発。素材から始めるサーキュラーエコノミー

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最初に紹介するのは、事業革新パートナーズ代表取締役社長・茄子川仁氏と、電通テック・虎渡慎吾氏のトークセッションです。MCは電通テック・石澤元氏が務めました。

事業革新パートナーズは世界で初めてヘミセルロースを原料としたバイオプラスチック材料の開発・製造に成功した企業です。ヘミセルロースは木材に約20%含まれる多糖類で、世界の木材生産量年間18億トンのうち、産出量は約5億トンも存在します。しかし有効活用することが難しく、利用率は1%未満で、ほとんど廃棄されている素材です。一方、海中での生分解性が非常に高いのも特長。CO2排出削減に寄与することから、同社が開発したヘミセルロース由来のバイオプラスチック材料を活用することにより、大きな環境効果が期待できます。

電通テックは電通グループ内における製造を含めたものづくりを担い、近年はサステナビリティに対するクライアントニーズの高まりを受けて、リサイクルや環境に配慮したプロダクトを多く手掛けています。

今回、この2社がタッグを組み、オリジナルの環境対応プラスチックの開発に挑戦しました。

事業革新パートナーズの茄子川氏は提携の理由について、「樹脂材料メーカーは技術が強みなので、どうしてもプロダクトアウト的な発想をしがちです。一方、電通テックは顧客起点のマーケットイン発想に長(た)けているので、私たちの製品の顧客ニーズを深く掘り下げることで新しい活路が開けると考えました」と説明。

電通テックの虎渡氏も「素材開発は川上から川下のサプライチェーンに流れていく過程で、コストや汎用性の問題が起きて採用されないケースがあると認識しています。電通グループは市場や生活者のニーズ起点によるマーケティング、あるいは多数のクライアントからの課題やインサイトから、どのような製品・技術・素材であれば採用されるかという、まさに川下領域からのアプローチを得意としています」と述べました。

こうして両社の協業から生まれた素材が「PLANEO™️」(プラネオ)です。「PLANEO™️」は高い製造汎用性を持つ100%植物由来のプラスチックです。従来の植物性100%のバイオプラスチックと比べて流動性が高く、成形スピードやデザイン転写性が向上することで細かい意匠の再現だけでなく、製造コスト低減も実現します。

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虎渡氏は「射出成形(インジェクション成形)と呼ばれる方法で作られているものは、PLANEO™️でもある程度製造が可能であることが分かっています」と話し、例えば食器類やカトラリーなどはもちろん、フィギュアをはじめとする玩具など、従来のバイオプラスチックが苦手としていた細かな造形にも対応できることを解説。

石澤氏は「電通テックはクライアントのプロモーション活動の一環でスプーンやフォークなどのカトラリーを作る機会も多いので、そういったものをできる限り環境対応していくことに大きな意義があるのではないでしょうか」と述べました。

最後に、サーキュラーエコノミーに向けて環境対応素材が果たす役割について、茄子川氏と虎渡氏がそれぞれコメントしました。

「日本のように高いリサイクル率を実現できている国ばかりではないので、リサイクルできない場合も土や海の中で分解して天然のものに戻る素材を作ることは、サーキュラーエコノミー社会をつくる上で非常に意味があると思っています」と茄子川氏。

虎渡氏は「PLANEO™️は100%植物由来の生分解性プラスチックなので、一度プラスチックになっても自然に戻すことも可能ですし、石油由来プラスチックに比べCO2排出量の削減にもつながります。素材自体がまさに循環型であり、サーキュラーエコノミーの実現に向けて大きな可能性を秘めていると思っています」と語りました。

PLANEO™️について詳しく知りたい方は、下記の記事もご参照ください。
植物由来プラスチックの開発って、どこまで進んでいるの?



 

食品残渣と生分解性素材を組み合わせた、新しい地域循環のカタチ

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続いて紹介するのは、NTTビジネスソリューションズ バリューデザイン部 部門長・宮奥健人氏、三菱ケミカル サステナブルポリマーズセクター 市場開発セクション マネージャー・小林哲也氏によるトークセッション。電通・堀田峰布子氏がMCを務め、「食品残渣(さ)と生分解性素材を組み合わせた新たな地域循環」の取り組みについて語り合いました。

NTTビジネスソリューションズは、地域社会の発展に貢献する活動の一環として、2019年から地域食品資源循環ソリューションを提供しています。地域の食品関連事業者に食品残渣を発酵分解する装置をサブスクモデルでレンタルして、そこから生まれた一次発酵物を各拠点のリサイクルセンターで完全堆肥化。地域の契約農家に堆肥を提供することで農作物へ還元していくという“リサイクルループ”を構築しました。従前の廃棄物の処分費用より安価にソリューションを提供することでコスト削減と環境負荷低減、さらに地域経済の活性化を実現しています。

三菱ケミカルは、1990年代から生分解性樹脂を開発。2017年から「BioPBS™️」の生産販売をスタートし、この樹脂は堆肥化可能なごみ袋や使い捨て食器、包装材などに活用されています。他の生分解性樹脂に比べ、成形性や耐熱性、自然環境での生分解性に優れており、環境負荷も低減する素材です。

こうした地域食品循環や生分解性樹脂の取り組みをさらに発展させる手段として、電通はスポーツ・イベント分野でのコンタクトポイント創出や、社内外への発信とブランディング、アプリを含めたUX設計に強みを持っています。

この3社が協働することでコレクティブインパクト(多様な企業・自治体との連携)を創出すべく、食品残渣と生分解性素材を組み合わせた新たな地域循環の取り組みを開始。省庁や自治体などへのB to G、外食産業や食品関連産業などへのB to B、そしてスポーツやイベントなど、幅広い分野を対象にソリューションを提供しています。

例えばJリーグのギラヴァンツ北九州と連携した実証実験では、「BioPBS™️」の紙コップをスタジアムで使用し、使用済み紙コップを回収して堆肥化。その後、堆肥の一部を地元の高校で野菜の栽培に活用し、さらに収穫された野菜をスタジアムで2022年春から販売する予定です。

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三菱ケミカルが開発した生分解性プラスチックを使用した紙コップを、ギラヴァンツ北九州のイベントで提供。回収した使用済み紙コップを、NTTビジネスソリューションズとウエルクリエイト社が「食品残渣発酵分解装置(フォースターズ)」で食品残渣物などと一緒に堆肥化。その後、堆肥の一部を地元の高校で野菜の栽培に活用し、収穫された野菜をスタジアムで販売する。このサッカースタジアムを起点とした地域食品資源循環型システムの実証実験には、他にも、飲料メーカーや自治体など、15の企業・団体が参加している。
ギラヴァンツ北九州の実証実験について詳しく知りたい方は、下記の記事をご参照ください。
紙コップが野菜に!?北九州市発、コレクティブインパクト


このソリューションは拡張オプションとして、「移動式循環リサイクルカー」を展開しています。NTTビジネスソリューションズでは、静岡県浜松市で学校給食で残った食品残渣をリサイクルカーで回収し、装置で一次発酵が進む様子を子どもたちに見てもらいながらSDGsの重要性を伝える“出前授業”を行いました。

NTTビジネスソリューションズの宮奥氏は「子どもたちが非常に興味を持ってくれましたし、先生からも“SDGsの具体的なイメージができるので生徒だけでなく保護者の方にも参加してもらいたい”という声を頂きました」と振り返ります。

リサイクルカーは食品残渣を回収しながら分解を行い、同時に堆肥で作られた野菜の移動販売も行うことができます。「一般家庭やスーパー、レストランなどで残渣を回収する際に野菜も買っていただく。一つの地域で、堆肥を使って野菜を育てている農家の方と、生活者やお店をつなぐことで、地域の食品循環をつくることを目指しています」と宮奥氏。電通の堀田氏は「期間限定のイベントにも活用できそうですね」と期待を込めました。

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もう一つ、B to Bの展開として、NTT西日本グループも含めた企業の社食や、外食チェーンなどでの食品循環の仕組みを取り入れています。例えば、御殿場プレミアム・アウトレットでは、モール内の残渣を堆肥化し、それを花壇に活用してモールの緑化を目指しています。三菱ケミカルの小林氏は、「今後は、食べ物だけでなく、フードコートの紙皿やカトラリーにも生分解性樹脂を採用することで、食品残渣と共に堆肥化できます」と取り組みのポイントを解説しました。

最後に、宮奥氏と小林氏が今後の展望を述べました。

「三菱ケミカルの生分解性樹脂とつながることで、飲食店やフードコートなど、これまでは紙皿やカトラリーが混ざってしまってリサイクルが難しかった食品残渣のリサイクルに大きな可能性が生まれたと思っています。このように、今後も一緒に課題解決に取り組んでくださる仲間の輪をどんどん拡大し、サーキュラー・エコノミーの実現に向けて取り組んでまいりたいと思います」と宮奥氏。

「社会課題が複雑化し、一企業や一業態では解決しにくい課題があるからこそ、多様な方々が強みを持ち寄り、より大きな輪で取り組んでいきたいと思っています」と小林氏は述べました。

自治体×地域住民×企業の共創による食資源循環モデル

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最後に紹介するのは、自治体×地域住民×企業の共創による食資源循環モデル「eco-wa-ring Kawasaki(エコワリング川崎)プロジェクト」に関するトークセッションです。川崎市環境局 生活環境部 減量推進課・安川宏太氏、ローカルフードサイクリング代表取締役・たいら由以子氏、電通・口羽敦子氏が登壇しました。

「eco-wa-ring Kawasaki」は、川崎のフードサイクルプログラム。家庭の生ごみをコンポスト化容器などに入れて堆肥を作り、野菜を育てて食べるという循環の輪を都市部でつくることに挑戦しています。

事業は大きく「自活型フードサイクル」と「共助型フードサイクル」に分けられ、前者は企業が主体となって地域住民と一緒にコミュニティガーデンを運営するもの。武蔵小杉東急スクエアの展望デッキや、大型施設のヨネッティー王禅寺でコミュニティガーデンで実施しました。後者は地域農園が主体となり、住民が持ち込んだ堆肥を使って野菜を育て、地域住民に買ってもらうという地産地消型のフードサイクルを目指すもの。現在、市内9カ所の農園と連携しています。

さらにアプリを通じ、個人のエコ活動(堆肥を持ち込む、イベント参加など)に応じてポイントが付与され、連携企業からのインセンティブを受けられるプラットフォームを構築し、実験しました。個人のアクションが可視化、評価され、次のアクションを促す仕掛けを作っています。

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同プロジェクトは川崎市が責任統括し、コミュニティガーデンの運営やコンポストなど、生ごみ循環のエキスパートとしてローカルフードサイクリングが参画。プロジェクト運営・推進業務を電通が担当し、エシカル系メディア「ELEMINIST」などを運営する株式会社トラストリッジが広報業務を担う、多様なプレイヤーで構成された共同プロジェクトとなっています。

トークセッションでは、それぞれの立場からプロジェクトの意義を語りました。

川崎市の安川氏は、「SDGs未来都市として、さまざまな地域課題に率先して取り組んでいくことはもちろん、川崎の循環コミュニティを創出し、地域コミュニティを活性化させることで、生ごみのリサイクルだけでなく他の部門の課題解決にもつながっていくと考えています」と発言。

ローカルフードサイクリングのたいら氏は、「私はもともと自分の娘が将来安全に野菜を食べ続けることができるのか?という疑問から活動をスタートし、都会でも簡単に生ごみを循環できるコンポストを開発しました。今回のプロジェクトは、有機物を土に戻して循環させる暮らしを都市部で設計することに、チャレンジの意義があると感じています」と述べました。

電通の口羽氏は、「私としては、電通の強みである、いろいろなプレイヤーをつないでゼロから活動をつくって継続させていく力。それを社会貢献・環境貢献のど真ん中でやりたいという思いがまずありました。そして、多くの企業の方々がサステナブルな取り組みをしたいと思っていても、実際はお金も手間もかかって続かないという課題がある中、“サステナブル活動ほど、サステナブルであるべきだ”という考えから、地域の企業や自治体が無理なく参加できて、個人もエコアクションが“与信”になることで次のアクションを生み出すような仕組みを作ることにしました」とプロジェクト開発の経緯を語りました。

プロジェクトはまだ始まったばかりですが、参加者からの反響はもちろん、興味を持った住民からの問い合わせも多数あるそうです。安川氏は、「若い世代は生ごみ堆肥を使ってガーデニングをする、野菜を育てるといった部分にモチベーションを感じる方が多いので、そこからリサイクルやごみの分別などに興味を持っていただけるのではないかと期待しています」と述べました。

たいら氏も、「都市部に住んでいる方がこのプロジェクトを通じて農園の方々とつながることで、普段スーパーで買い物するときの買い方や選び方が変わるといいなって思います」と波及効果への期待を語りました。

口羽氏は「すでに多くの企業や自治体からもお問い合わせを頂いており、社会に貢献する機会を探していらっしゃる方々は多いのだと感じています。今回のように、今日参加している3社と広報担当のトラストリッジが集まって物事を進めるのはそんなに簡単なことではありません。それでも共通のビジョンを持って協力し合い、何よりもユーザーが楽しめる体験を設計することが、活動を継続させるための原動力になると思っています」と、プロジェクト実現のポイントを述べて締めくくりました。

サーキュラーエコノミーについて、企業が目指す方向性や、消費や社会がどう変わるのか、さらには現在の取り組み事例などについて幅広く紹介し、さまざまな意見が交わされた本ウェビナー。サーキュラーエコノミー実現の動きは世界で加速し、国内でもさまざまなアクションが生まれています。電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィスと電通TeamSDGsはこれからもウェビナーや本連載で、サステナブルな社会実現のための知見を伝えていきます。

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企業がサーキュラーエコノミーに取り組むべき4つの動機

2021年11月9・10日、電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィスと電通TeamSDGsは、オンラインセミナー「サーキュラーエコノミーを実現する新たな連携とビジネスの可能性」を開催しました。

サーキュラーエコノミーの実現に向けて、さまざまな企業・自治体が共同で実施した実証実験や事例などをもとに、今後の連携やビジネスの可能性を紹介した本ウェビナー。ウェブ電通報では3回にわたってその内容をダイジェストで紹介します。2回目は、「サーキュラーエコノミーの全容と世界の最前線」と題した基調講演をリポートします。

前回の記事はこちら
「サーキュラーエコノミー」で、消費や社会はどう変わる?


スピーカーとして、サーキュラーエコノミー・ジャパン代表理事の中石和良氏が登壇し、サーキュラーエコノミーの全体像や世界の動き、国内外の各産業の最新事例について講演しました。本稿ではその中から、企業がサーキュラーエコノミーに取り組む際に目指すべき方向性について一部をピックアップしてお伝えします。

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サーキュラーエコノミーの3大原則とは?

現在、約79億人の世界人口は、2050年に約100億人に達すると国連は推計しています。世界銀行は、人口増などにより、2050年に約34億トンもの年間廃棄物が生じると推計(現在は約20億トン)しています。

すでに気候変動や資源枯渇を中心に地球規模でさまざまな影響が起きており、このままでは人類が安全で健康に暮らせない世界になってしまうことは明らかです。このような危機感から、世界は持続可能な社会の実現に向けて動き始めています。

ウェビナーの冒頭、中石氏は持続可能な世界を実現するために4つの目標があることを示しました。

①Planetary Boundaries(プラネタリー・バウンダリー)
地球の持続可能性に関わる要素を「気候変動」「成層圏オゾンの破壊」など、9つに分類し、それぞれの現在のレベルを「安定領域」「危険領域」「壊滅的領域」の3つに設定。相互関係を考慮しながら、各要素が安定領域にとどまることを目指す。

②Decoupling(切り離す)
経済成長と資源使用量の増加を切り離し、経済成長による人間の幸福を追求しながら、同時に資源の枯渇や環境負荷を低減することを目指す。

③2030 Agenda SDGs
2030年までに持続可能でより良い社会を目指す国際目標。17のゴール、169のターゲットから構成される。

④Paris Agreement(パリ協定)
気候変動問題に関する国際的な枠組み。人類最大の解決すべき課題としてカーボンニュートラルの実現を目指す。

この4つのゴールに向けて、いち早く支援を始めたのが投資・金融業界だと中石氏は述べます。実際にESG投資額は年々増加しており、2020年には3883兆円と世界全体の投資額の36%を占めるようになりました。こうした背景から、世界では政府や投資家、企業が中心となって4つの持続可能性ゴールの実現に向かっています。その実現の手段として注目されているのが、サーキュラーエコノミーです。

資源を採取し、製品を作って使用し、破棄して処分する「大量生産、大量消費、大量廃棄」というこれまでの「リニア(直線型)エコノミー」や、廃棄物をできるだけ減らそうとする「3Rエコノミー」とは異なり、「サーキュラーエコノミー」は、最初から破棄物や汚染を生み出さないように設計する経済システムです。

中石氏はサーキュラーエコノミーを理解する上で重要な下記の3原則を紹介しました。

①廃棄物・汚染・無駄を生み出さない設計
(人・環境への悪影響、経済の無駄、格差・人権など社会問題を含む)
②製品と原材料を使い続ける
③自然システムを再生する

「この3つの原則を常に念頭に置きながら、ビジネスモデルや事業のビジョンを設定していただきたい」と企業への期待を伝えました。

ビジネスモデルに固執せず、コンセプト設計から始めよう

企業がサーキュラーエコノミーに取り組む際、必ずと言っていいほど次の「5つのビジネスモデル」が参照されると中石氏。

・循環型原材料・素材供給
・シェアリングプラットフォーム
・サービスとしての製品
・製品寿命の延長
・資源回収とリサイクル

同氏は「これらにとらわれすぎると、間違ったビジネスモデルを構築してしまう可能性があるので、あまり固執しないでください」と注意を促しました。その理由として、上記5つのビジネスモデルは単独ではサーキュラーエコノミーが成り立たないことを述べ、企業や分野間の連携でライフサイクル全体を構築するビジネスモデルをつくらなければならないことを強調。まずサーキュラーエコノミーのコンセプトで設計されたプロダクトが必要で、それがあって初めてシェアリングプラットフォームや資源回収とリサイクルといったビジネスモデルが成り立つと解説しました。

特にサーキュラーエコノミーコンセプトによる製品は、リニア型の「プロダクトを作って売り切るという手法」ではメリットがないため、PaaS(Product as a Service:製品のサービス化)モデルを構築することが非常に重要だと述べました。

なお、サーキュラーエコノミーのビジネスモデルを構築する上でのポイントとして、中石氏は「直線型のバリューチェーンからバリューリサイクルという循環型への発想の転換」や「競合も含めた他企業・他分野・他領域との連携」などを挙げています。

また中石氏は、「頭をフラットに切り替えて、持続可能性ゴールを達成することは“果たして目的なのか?”ということを考えていただきたい」と提起。SDGsや気候変動緩和、生物多様性回復、廃棄物管理といった取り組みは、国や企業の目的・目標として捉えられがちですが、本来の目的は「人類のウェルビーイング。幸せと健康」だと自身の論を述べました。

「目的と手段が逆になってしまっているケースが多いのですが、目的は人類の健康と幸せであり(Why)、その手段として4つの持続可能性ゴール(What)が存在します。さらに持続可能性ゴールを実現する手段(How)としてサーキュラーエコノミーがあるのです」

企業がサーキュラーエコノミーに取り組むべき4つの動機

では、企業としてはなぜサーキュラーエコノミーを事業戦略に取り入れる必要があるのでしょうか?中石氏は4つの動機を挙げて解説しました。

①リスク回避
資源価格の高騰や資源自体の供給不安定といったリスク、気候変動や持続可能な社会に向けて取り組まない国に対する規制やカーボンプライシング、コロナ禍でも顕在化したグローバルなサプライチェーンリスク、投資家や顧客の喪失リスク。これらを回避する手段としてサーキュラーエコノミーに取り組む必要があります。

②ブランド強化
サーキュラーエコノミーに取り組むことで、投資家や金融機関、顧客や消費者からのポジティブな評価が得られることに加えて、従業員からの期待も高まり、優秀な人材の確保にもつながります。

③コストダウン
サーキュラーエコノミー=コストアップという捉え方をする企業も多いのですが、実はグローバル有力企業はサプライチェーン最適化や資源・エネルギー使用の効率化、廃棄物コスト削減など、トータルでコストダウンに結びつくという発想で取り組んでいます。

④収益創出・成長戦略
サーキュラーエコノミーで新たな収益源や新規事業モデルをつくり、新市場/顧客の獲得や事業ポートフォリオ拡大を目指します。そのためには、サーキュラーエコノミーを単純に「資源を循環させて廃棄物を出さない経済」と捉えるのではなく、「人類が永続的に繁栄し次世代のウェルビーイングを実現するための、経済社会システムの変革」と再定義することが重要です。

なお、欧州やアメリカ、中国などの海外諸国では国と企業が連携してサーキュラーエコノミーへの転換を目指していますが、日本ではサーキュラーエコノミーは政策化されず、企業の自主的な取り組みを促進するソフトロー的アプローチを取っています。

中石氏は「サステナブル・ファイナンス促進に向けて、経済産業省や環境省、金融庁がしっかりとしたガイドラインを打ち出し始めています」と話し、現時点でのグローバルなカーボンニュートラル環境を網羅した内容であることを評価。こうしたガイドラインを参照しながら、カーボンニュートラルのリスクを回避するとともにチャンスを捉え、企業戦略に取り入れてくことの重要性を伝えました。

次回は、電通グループと企業が共創した3つのプロジェクトについて、トークセッションの模様をリポートします。

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「サーキュラーエコノミー」で、消費や社会はどう変わる?

2021年11月9・10日、電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィスと電通TeamSDGs主催のオンラインセミナー「サーキュラーエコノミーを実現する新たな連携とビジネスの可能性」が開催されました。

サーキュラーエコノミーの実現に向けて、さまざまな企業・自治体が共同で実施した実証実験や事例をもとに、今後の連携やビジネスの可能性を紹介した本ウェビナー。ウェブ電通報では3回にわたってその内容をダイジェストで紹介します。初回は、サーキュラーエコノミーに取り組む企業のトップを中心に5人のスピーカーが、「サーキュラーエコノミーで日本を変える!」というテーマでセッションした、2日目の基調講演の模様をリポートします。

サーキュラーエコノミーウェビナー
(左から)モデレーターの飯田香織氏(NHK報道局 専任部長)、永田暁彦氏(ユーグレナ 取締役代表執行役員CEO)、澤田道隆氏(花王 取締役会長)、中台澄之氏(ナカダイ 代表取締役)、加藤佑氏(ハーチ 代表取締役)、竹嶋理恵氏(電通 TeamSDGs プロジェクトリーダー)

サーキュラーエコノミーに取り組む3社の実例

冒頭、サーキュラーエコノミーの実現に向けて先進的な活動を行う花王、ユーグレナ、ナカダイの事例紹介がありました。

花王は、洗剤などのプラスチック製の詰め替え容器のリサイクルを促進すべく、ライバル企業であるライオンと異例のタッグを組んだことで大きな話題となりました。2020年から東京都墨田区のイトーヨーカドーでスタートした実証実験では、使用済みの詰め替え容器をリサイクルボックスで回収。開始8カ月で計画の2倍となるフィルム容器5200枚の回収に成功しました。回収した容器は製品に再利用するだけでなく、再生ブロックなどにも活用し、地域のコミュニティや子どもたちと一緒にゴミを資源に変える社会の実現を目指しています。

ユーグレナ社は微細藻類ユーグレナ(和名ミドリムシ)の無限の可能性に着目したバイオベンチャー。微細藻類ユーグレナには、光合成により二酸化炭素を吸収して成長するほか、バイオ燃料の原料となる油脂の面積あたりの生産量が高く、環境負荷の低減に寄与する可能性があります。同社は2005年に世界初となる食用ユーグレナの屋外大量培養に成功したほか、日本初のバイオ燃料の製造実証プラントも建設し、近年は微細藻類ユーグレナの成分からプラスチックを開発する研究にも着手。バイオ燃料はすでに国内のバスやフェリー、飛行機などで使用実績があり、サーキュラーエコノミーの社会実装を加速させる気鋭のベンチャーとして注目を集めています。

ナカダイは群馬県前橋市を拠点とする産業廃棄物処理会社。国内における廃棄物のリサイクル率が53%程度なのに対し、同社では廃棄物の構造や素材を知り尽くしたスタッフが丁寧に素材を分解・分類することで99%という脅威のリサイクル率を誇っています。近年はブックオフとの協業でゴミの新しい利用方法を提案するショップを展開。子ども向けのワークショップも開催し、ゴミを資源に変える社会を目指しています。

今回は3社のトップに加えて、サーキュラーエコノミーに特化したデジタルメディアを運営するハーチ代表の加藤氏、電通TeamSDGsのプロジェクトリーダーを務める竹嶋氏の5人で、サーキュラーエコノミーの実現に向けた課題やアイデアについて議論しました。

サーキュラーエコノミー浸透度が低い日本。そのポテンシャルとは?

サーキュラーエコノミーを実現するためには、企業だけでなく生活者の意識変容や協力も欠かせません。電通と電通総研が実施した「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」(調査概要は末尾記載)で、日本でサーキュラーエコノミーという言葉を聞いたことがあると答えた人は全体の21.2%、内容を理解していると答えた人は全体の8.4%でした(中国は26.4%/64.4%、アメリカは20.2%/20.0%)。

サステナブル・ライフスタイル意識調査2021

竹嶋氏は「SDGsをはじめ環境関連のルールや法規制は欧米を中心に決まることが多いので、どうしても後追いになっている部分はあります」と前置きしつつも、「一方で、認知は他国に比べて低い日本ですが、サーキュラーエコノミーの考え方に共感する、今後自分の生活に取り入れたいと考える人は多いという調査結果も出ています。生活者に受け入れられる土壌はあるでしょう」と述べました。

一方、加藤氏は「自分の体感値よりは高い数字だと感じました。サーキュラーエコノミーを聞いたことがある人も含めると全体の3割ぐらいで、単純に人口換算すると4000万人ぐらいになりますよね?例えば、サーキュラーエコノミーが進んでいるといわれるオランダの人口は1700万人程度なので、すでに日本には4000万人のマーケットがある、とポジティブに捉えることもできます」と、市場規模自体の大きさに言及。「循環という概念自体、日本が古くから培ってきた文化やマインドにマッチしていると思うので、今後もまだまだ伸びる可能性があるでしょう」と期待を込めました。

循環にかかるコストは、未来への投資と捉えることもできる

続いて、サーキュラーエコノミーのための価格転嫁を生活者はどのぐらい許容できるのか?というテーマで議論。電通が2021年に実施した「第2回カーボンニュートラルに関する生活者調査」では、6割以上の人たちが「501円以上負担できる」と答えました。この結果について竹嶋氏は、「SDGsネーティブと呼ばれる10〜20代のほうが1000〜3000円といった高い金額でも許容する傾向にある」と解説。一方、全体としては高年齢層のほうが容認する人の割合が多く、「おそらくマスメディアを通して環境やサーキュラーエコノミーの話題に接触する機会が多いことが大きな要因の一つだと思います」と見解を述べました。

澤田氏は、自社の洗剤で洗濯にかかるエネルギーを低減できることをしっかりと訴求したところ、その商品を選ぶ人が増えてきていることから、「生活者の方々のエシカル(消費)に対する意識が高まってきている」と感じるといいます。

加藤氏も重ねて「僕の周りも、多少高くても環境に良いものを選択する人たちが増えている印象があります。企業にとっても、今はまだ旧来の直線型の経済のほうが合理的に感じるかもしれませんが、カーボンプライシングなどをはじめとする法規制が進むことは間違いないので、長期的に見るとサーキュラーエコノミーの合理性が担保されると思います」、とサーキュラーエコノミーに移行するメリットを指摘。

中台氏も「循環には当然コストがかかるのですが、それを単なるコストと捉えるか投資と捉えるかで意味合いは大きく変わります。例えば、サステナビリティへの意識が高い若い世代が10年後のメインターゲットになると考えると、あらゆるコストを未来への投資に変えることができるでしょう」と、加藤氏の意見に同調しました。

一方、永田氏は「価格転嫁」という言葉ではなく「フェアバリュー=誰かを搾取していない価格」という言葉を広めるべきだと提言。「日本で安い価格が成り立つ背景には、地球環境への負荷や児童労働など、何かしらの搾取が発生しているという事実をまずはみんなが受け入れるべきだと思っています」、と自身の見解を伝えました。

澤田氏も「洗剤や紙おむつなどの日用消費財ひとつとっても、欧米では日本と同じ品質の商品が倍以上の値段で売られているケースが多々あります。そうなると、例えば循環や再生にかかるコストを5〜10円価格に上乗せしても、全体としての値上がり率は日本よりも少ないわけです。生活者の意識が変わりつつある今こそ、このような海外とのギャップをもう一度見直すタイミングがきていると思います」と述べました。

こうした意見に対して、竹嶋氏は「そこは企業の皆さまも一番気になっていらっしゃるところだと思いますので、生活者の意識がどのように変わっているのかを国内外含めて常にチェックするとともに、皆さんと一緒に意識や行動をどのように変えていけるかを考えていきたいと思います」と答えました。

日本社会が変わるための5つの提言

基調講演の最後には、登壇者それぞれが日本を変えるために今最も必要なことをワンフレーズで表しました。

●澤田氏の提言「本気と継続/協働と連携」
サーキュラーエコノミーは環境価値と経済価値を両立させる必要があるため、生半可な覚悟では実現できません。本気で取り組み、諦めずに継続することが非常に重要なんです。そして、その「本気と継続」を支えるのが「協働と連携」です。当社もライバル企業と一緒に取り組むことで感じていますが、協働して支え合いながら本気でやり続けることで、社会を変えていくことができると思っています。

●永田氏の提言「企業選択」
企業選択というと、生活者がモノやサービスを選ぶという意味をイメージされると思いますが、今すでに日本中で活躍している方々ができる最大の企業選択は、転職だと思っています。これからの時代、サステナビリティに対して真摯(しんし)に向き合わない会社で働くことのリスクは高いですし、優秀な人ほどサーキュラーエコノミーやサステナビリティを正しく追っています。会社の根本的価値は人にあると私は信じているので、サーキュラーエコノミーに取り組む企業に人材が集まることで、ひいては生活者のアクションも変えていけると思います。

●中台氏の提言「消費を楽しむ!」
僕らは日々、廃棄物を受け取っているので、モノの残念な捨てられ方を見るたびに、自分が使った後のことを考えずに商品選択をしているのではないかと感じるところがあります。自分の商品選択でCO2がどれだけ削減できるのか、どこまでゴミにならずに済むのか、社会をどのくらい変えられるのかが分かると、消費がもっと楽しくなると思うんです。ゴミを出さないように我慢するだけじゃなくて、楽しめるような商品を選んで買うことが僕は大事だと思っています。

●加藤氏の提言「江戸時代」
日本の歴史をひもといてみると、実は、江戸時代も含めて古くから循環型の暮らしを続けてきたんですよね。例えば、1枚の布を無駄なく使い切る着物は、世界のファッション業界で注目されているサーキュラーデザインそのものです。こうした江戸時代のエッセンスに学び、現代ならではのテクノロジーなどを組み合わせて社会に実装することで、日本独自のサーキュラーエコノミーがつくれると思っています。

●竹嶋氏の提言「許容できる社会づくり」
SDGsやサーキュラーエコノミーは中長期かつ険しい道のりなので、企業も生活者も時には失敗もしながら試行錯誤していく必要があるのではないでしょうか。失敗を否定するのではなく、相手へのやさしさやリスペクトとともに失敗もお互いに許容して、理解しあうことで、本来の大きな志や目的を共有しながら、社会全体がポジティブに進んでいくための雰囲気づくりをしていけるといいなと思っています。

次回は、「サーキュラーエコノミーの全容と世界の最前線」と題した一日目の基調講演をリポート。企業がサーキュラーエコノミーに取り組む際に目指すべき方向性についてお伝えします。
 

【調査概要】
タイトル:「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」 
調査手法:インターネット調査 
実施主体:株式会社電通、電通総研 
調査時期:2021年7月8日~20日 
対象国:12カ国(日本、ドイツ、イギリス、アメリカ、中国、インド 、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)
サンプル数:4,800人
対象条件:18~69歳男女500人、ASEAN 6カ国は18~44歳男女300人
日本500人、ドイツ500人、イギリス500人、アメリカ500人、中国500人、インド500人、
インドネシア300人、マレーシア300人、フィリピン300人、シンガポール300人、
タイ300人、ベトナム300人
 
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「国境炭素税」がもたらすビジネスチャンスとは?

昨年、電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィスと電通Team SDGsは、「欧州が進める国境炭素税 世界の潮流と求められる企業の対応」と題したウェビナーを開催しました。

国内外で関心が高まっている「カーボンニュートラル(温室効果ガス・CO2排出実質ゼロ)」の実現に向けて、EUでは2026年から「炭素国境調整メカニズム」(CBAM)、いわゆる「国境炭素税」を導入することを発表しています。

本ウェビナーでは、国境炭素税がもたらす産業界への影響とビジネスチャンスについて、有識者を交えて考えました。

登壇したのは、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授と、電通Team SDGsの竹嶋理恵氏。両者のトークセッションを中心にお届けします。

過去のウェビナーレポートはこちら
「カーボンニュートラル」は、企業価値向上の起爆剤になる
大手企業3社に学ぶ、カーボンニュートラルへの取り組み方

 

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世界のビジネスに大きな影響を与えかねない「国境炭素税」とは?

今、世界ではカーボンニュートラル実現に向けた動きが活発になっています。2050年に温室効果ガス・CO2排出実質ゼロを目標に掲げる国は140カ国以上(2021年末現在)とEUに及び、日本も2020年に「2050年カーボンニュートラル」目標を宣言しました。このような潮流を受けて、国内でも2050年までにカーボンニュートラルを目標とする企業が増えています。

さらに各国では2030年目標の引き上げや関連政策の策定などにも注力し、EUは2021年7月に一連の気候・エネルギー関連法を改正する「Fit for 55」を公表しました。さまざまな新法令案の中でも特に産業界に大きな影響をもたらすと考えられているのが、2023年からの試行期間を経て2026年にスタートする予定の「炭素国境調整メカニズム」(CBAM)です。

これは、鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、電力の5分野で、EU域外からの輸入品を取り扱うEU域内の事業者に対して、同じ物を域内で製造した場合にEUで支払いが求められる炭素価格に応じた価格の支払いを義務付けるというもの。輸入者は輸入品の量とその炭素排出量を申告し、輸入品の排出量に相当する分の「CBAM証書」を購入することで炭素価格を支払わなければなりません。

日本のメディアでは「国境炭素税」と呼ばれているこの制度。東京大学教授の高村氏は「現状、日本の産業に及ぼす直接的な影響は相対的に小さいと考えられます。しかし、EUでは引き続き対象製品の拡大の可能性を検討することとしており、また、日本国外の生産拠点で製造した製品をEU域内に輸出する際の影響や、EU域内の生産拠点で鉄鋼などの対象製品を輸入して製品を製造している場合の影響などもありえます。今後の動向を引き続き注視する必要があります」と述べています。

製造過程の排出量把握が欠かせない時代に

では、国境炭素税は今後の産業界にどのような影響を与え、そこにはどのようなリスクとビジネスチャンスがあるのでしょうか?ここからは、高村氏と電通Team SDGsの竹嶋理恵氏によるトークセッションの様子をお届けします。

竹嶋:はじめに、そもそもなぜEUは国境炭素税を導入しようと考えたのか、その背景を教えていただけますか?

高村:2030年目標の引き上げが密接に関係しています。これまでの「1990年比で少なくとも40%削減」目標を、「少なくとも55%削減」に大きく引き上げたことで、排出削減対策を強化せざるを得ない状況があるのです。一方、国際競争にさらされている欧州の企業にとっては、EU域内だけではなく、域外での対策も強化してくれないと競争上不利になってしまいます。

竹嶋:なるほど、気候変動対応という大義だけでなく、欧州の産業をきちんと守ろうとする意図もあるわけですね。こうしたEUの動きに対して、アメリカはどうなっているのでしょうか?

高村:アメリカでも国境炭素税のような措置は2000年代から議論され、提案されていましたが、なかなか国内の対策の水準が引き上がらなかったこともあって、導入に至る動きは多くありませんでした。しかし、2021年1月に誕生したバイデン政権のもとで「2005年比50〜52%削減」という大きな目標が掲げられたために、国境炭素税に関する関心があらためて高くなっています。

竹嶋:そのような欧米の動きと比べると、日本はかなり遅れてしまっている印象があります。

高村:これまで日本では、炭素に価格を付けるという議論はなされてきましたが、具体的な措置の検討はなかなか進んでいませんでした。しかし、2020年に発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、「産業の競争力強化やイノベーション、投資促進につながるよう、成長に資する炭素の価格付けについてはちゅうちょなく取り組む」という方向性が示されています。

私が課題に感じているのは、例えばエネルギーに関連して相応の金額を支払っていると感じている企業も少なくないと思うのですが、国外からは「日本は炭素価格をあまり払っていない」と見られていることです。支払いが必ずしも炭素比例になっておらず、“炭素に対する価格”として十分に見える化できていない点に問題があるのではないでしょうか。

竹嶋:つまり、事業や製品について炭素の価格をどう見える化するか、その前提として、排出量の測定や可視化が大きなキーポイントになるわけですね。

高村:はい。国境炭素税では、製品の製造過程でどれだけ炭素を排出しているのかを報告して支払額が決まるわけですから、まずは自社が製造している製品の排出量をしっかりと把握することがこれまで以上に重要になると思います。

特に今後、鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、電力の5分野から対象が拡大する可能性も考えると、「Scope3(※)」といわれるサプライチェーンにおける排出量も把握することが本当に大切になるでしょう。

※事業活動に関する温室効果ガス排出量を算定する際、Scope1、Scope2、Scope3と分けて算定される。Scope1/事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)。Scope2 /他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出。Scope3 / Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)。


 

国境炭素税は各業界にビジネスチャンスをもたらす

竹嶋:今後、国境炭素税が導入されていく中で、日本企業が向き合うべきリスクについて教えていただけますか?

高村:現在対象となっている5分野に関しては、日本からEUに直接輸出している量はゼロかそれほど多くありません。ただ、海外に生産拠点を置いてEUへ輸出されているケースもあると思いますので、そうした場合も含めて事業への影響、リスクを評価することが必要になると思います。特に対象5分野については2023年から排出量の推計・報告が始まるので、いち早く対応を進めなければなりません。

竹嶋:なるほど、対象5分野以外の業界はどのようなリスクを想定すべきでしょうか?

高村:欧州議会は一貫して、できるだけ多くの産品を国境炭素税の対象にすべきだといっています。国境炭素税の気候変動対策としての制度の趣旨=EUに輸入される製品に伴う域外の排出量を削減するという趣旨からすると、サプライチェーン排出量が大きい分野、例えば、自動車、電気・電子製品は対象候補になりやすい分野だと思います。

竹嶋:一方で、国境炭素税をビジネスチャンスと捉えるならば、どのようなことが考えられますか?

高村:国境炭素税が導入されると、製造過程での排出量を減らした製品が市場から評価され、コスト競争力を持つようになるのは間違いありません。それに伴い、各業界のカーボンニュートラルへの取り組みを支援するビジネスが拡大すると思います。例えば、製造に必要なエネルギーを低炭素・脱炭素で提供できるエネルギー事業ですとか、製造プロセスや輸送も含めたロジスティクス分野における排出を減らすことができる設備・装置など、脱炭素の要請にソリューションを提供できる製品や事業にも大きなニーズが生まれるでしょう。

竹嶋:低炭素・脱炭素を実現できる施設へのニーズが生まれると考えると、不動産や、企業を誘致する自治体にもチャンスが広がりそうですね。

高村:おっしゃるとおりです。製造プロセスも含めてサプライチェーン全体でどうやって排出量を減らすのかが問われています。ある飲料メーカーさんは、脱炭素対応の工場を新設したほうが製造プロセス全体の排出量を下げられると判断し、思い切って製造施設を新設しました。

竹嶋:リスクばかりではなく、ビジネスチャンスにも目を向けることが大切なんですね。

高村:おそらく今後、Scope3のサプライチェーン排出量をどう把握するかが企業の悩みどころになってくると思います。例えば、デジタル技術や情報システムを活用して企業の負荷を和らげることができるのであれば、排出量の把握・推計をサポートする製品やサービスなどはIT業界にとっても大きなビジネスチャンスですよね。

竹嶋:国境炭素税がさまざまな業界に関係するトピックだということがよく分かりました。これから企業が特に注視すべき動向はありますか?

高村:EUはもちろん、アメリカなども含めて国境炭素税に関わる政策の動向を注視することが大事だと思います。繰り返しになりますが、Scope3の排出量をどう管理するかが今後の課題になります。また、排出量だけでなく労働者の人権や社会的配慮の観点から自社のサプライチェーンを把握し、適切に管理することがより強く求められるようになるでしょう。

竹嶋:ありがとうございます。最後に大きな質問になってしまいますが、今後日本全体で国境炭素税に対してどのような動きをとることが求められますか?

高村:サプライチェーン排出量の把握は大企業だけの課題ではありません。サプライチェーンを支える中小企業も含めて、しっかりと排出量が把握できて削減につながる仕組みを作らなければいけません。国として、そういった取り組みを支援する制度・環境を整備する必要があると思います。

それから、先ほど申し上げたように、日本の今の制度は炭素の価格が外から見えにくい制度になっています。これは生活者にとっても、排出量が少ない製品を選ぶ際の支障になっています。製品から排出される量を誰もが分かりやすく把握・認識できるような仕組みを作るべきだと思います。

竹嶋:国の制度も含めて、企業単体ではなくサプライチェーン全体で力を合わせて対応していかないといけないということですね。本日はありがとうございました。

【参加者募集】
Sustainable d Actions Webinar~vol.4~
<カーボンニュートラル最前線>
COP26から見えてくる企業のリスクとビジネスチャンス

電通TeamSDGs

【概要】
主催:電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィス/電通TeamSDGs
日時:1月20日(木) 15:00〜16:30
費用:無料
形式:Zoomウェビナー
登録締切:1月18日(火)17:30
定員:先着500名

■参加登録・セミナー詳細はこちらから

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大手企業3社に学ぶ、カーボンニュートラルへの取り組み方

国内外で関心が高まっている「カーボンニュートラル」の実現に向けて、各企業での取り組みが加速しています。

2021年8月24日、電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィスと電通TeamSDGsは、「カーボンニュートラルビジネスウェビナー 企業に迫るカーボンニュートラル対応の危機とビジネスチャンス」を開催しました。

今回は、ウェビナーの中から、カーボンニュートラル対応に積極的に取り組んでいる企業の事例紹介をレポートします。小売業界からイオン、不動産業界から東急不動産、金融業界から三井住友フィナンシャルグループをゲストに迎え、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授がコメンテーターを務めました。

Sustainable d Actions

イオン:商品・サービスを通じて、生活者の価値観を変えていく

Sustainable d Actions

■イオンの取り組み(一例)

・2018年に「脱炭素ビジョン2050」を発表。店舗のCO2などの排出総量ゼロを、2040年を目途に達成、2030年までにCO2など排出量35%削減(2010年比)を掲げる。

・グループで前年度(2018年度)比約3%減を実現。2010年度と比べると約10%減となる。・太陽光発電導入は2019年時点で累計1040店舗、7.4万kWhに。

・2025年までにイオンモールの100%再エネ(再生可能エネルギー)化、2030年までに中小型モールも含めて100%再エネ化を目指す。

・FIT(※1)終了世帯から余剰電力を買い取り、中部エリアでは年間再エネ調達量1600万kWhを実現。

・EV車を活用して各家庭の再エネを買い取り、店舗への利用や災害時の電力に充てる。

※1 FIT(Feed-in Tariff):再生可能エネルギーの固定価格買取制度。再生可能エネルギーで発電した電気を、国が決めた価格で買い取るよう、電力会社に義務づけた制度。FIT終了とは、10年の買取期間が過ぎてFITの適用が終了してしまうこと。



最初に登壇したのは、イオンの三宅香氏。基本理念に「平和」を掲げるイオンでは、環境保全なくして平和は成し得ないという思いから、長きにわたって環境やサステナブルへの取り組みに注力しています。

もともと2008年に「低炭素社会」を掲げていたイオンですが、近年の自然災害が事業に与える影響の大きさから、「私たちが率先して気候変動に対応しなければ、事業を継続できない可能性がある」という考えに至り、2018年に「脱炭素社会」の実現に舵を切りました。

イオンは、企業活動に影響を与える気候変動関連リスクを開示する国際機関「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」にも、いち早く賛同しています。三宅氏は「実際にやってみると、自社の気候変動リスクを洗い出せるだけでなく、リスクを回避する施策までを真剣に考える機会が得られます。結果として、投資家の方々にも評価いただけますし、商品部など社内へのコミュニケーションにも活用できます」とTCFD賛同のメリットを説きました。また、脱炭素化の発表に対する反響も大きく、今まで接点がなかった企業から声をかけられるようになったそうです。

一方、脱炭素化は小売側だけでなく、サプライヤーや生活者とも一緒に取り組む必要があります。三宅氏は、「サプライヤーと生活者の間に立つ小売業の私たちが、双方とコミュニケーションを取り、思いをつなぐ重要な役割を担っていると感じます。特に日々、店舗に足を運んでくださるお客さまの意識や暮らしをどう変えられるかが非常に重要なポイント。私たちのコンセプトや理念をお伝えするにはどんな商品やサービスが必要なのか、もっと考えて工夫していきたいと思います」と、今後取り組みたいことを語りました。

コメンテーターの東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授は、「商品やサービスを通じて、生活者の価値観や社会を変えていくという発想は大変面白いですね。新しいビジネスチャンスにもなり得ると考えると、小売業にとっては、とてもやりがいのある取り組みではないでしょうか」と、同業種にとっての意義にふれて、感想を述べました。

東急不動産:2025年に自社の100%再エネ化 、もしくはRE100実現を宣言!
 

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■東急不動産の取り組み(一例)

・2025年に自社のカーボンマイナス(※2)、2030年にサプライチェーンも含めたCO2排出量46.2%削減、2050年に排出ネットゼロを掲げる。

・2016年再エネ事業へ本格参入。全国67事業、定格容量1,197MW、41.3万世帯の電力使用量相当へと規模拡大(2021年6月末時点)

・北海道松前町と「再エネによる地域活性化」に関する協定を締結し、自社の風力発電所の電気を活用して、将来的に松前町で消費される電力の100%再エネ化を目指す。

・不動産業初のRE100(企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ)加盟を宣言。2025年度までに事業活動で消費する電力の100%再エネ化を掲げる。

・CO2削減の推進に向けた意識向上およびESG評価向上を目指し、社内炭素税の導入を検討。

・地域と再エネの共生による脱炭素社会を目指す業界団体「一般社団法人再生可能エネルギー地域活性協会(FOURE)」を設立。

※2 カーボンマイナス:自社のCO2排出量<再エネ創出などによる削減貢献量。


続いて登壇したのは、東急不動産の池内敬氏。東急不動産は「WE ARE GREEN」のスローガンのもと、全社的に環境経営に取り組んでいます。同社は宅地開発の技術や、地域と一緒に事業に取り組むノウハウを生かして、2016年に再生可能エネルギー事業に本格参入しました。その結果、テナントも含めた自社の電力は再エネで供給できる算段が立ったことから、RE100の目標を2050年から2025年に前倒しするという大きな決断をしました。

「再エネ事業者として一番先にやらなくてどうする、という社長の強い思いと、もともと社会貢献に積極的な社風もあいまって、早期の100%再エネ化に踏み切ることにしました」と池内氏。この発表は大きな話題となり、近年はテナントをはじめとする取引先企業からの再エネに関する問い合わせもかなり増えているようです。

同時に、自社だけでやれることは限られているという考えから、地域企業と連携して脱炭素化社会の実現を目指す団体「FOURE」を設立。「まだ立ち上がったばかりの団体ですが、地域とwin-winな関係を築きながら脱炭素を推進するためのさまざまなアイデアを出し合い、施策を検討しています」と池内氏は述べました。

続けて、「例えば、スマートシティ化に向けて公共の場にデータを取得するセンサを設置するためには、周辺の住民の方や事業者、行政と対話して取り組みを理解していただかなければなりません。先進的な取り組みは地域の理解なくして実現できませんから、当社が区画整理や都市開発事業で培ったノウハウを生かしながら、今後も提案や対話を続けていきたいと思っています」と語りました。

高村氏は、「脱炭素化社会に向けて、不動産業界の役割は非常に大きいと考えています。なぜなら、カーボンニュートラルは生活者一人一人の意識や行動を変えることが重要で、その変容を大きく左右する要素の一つが、私たちが住んでいる空間のデザインとマネジメントだからです。特に東急不動産には地域のステークホルダーと共創する経験と知識が豊富にあります。ぜひ地域と連携して、“心地良い脱炭素の住空間”を生み出していただきたいと思います」と、同社への期待を伝えました。

三井住友フィナンシャルグループ:丁寧な対話とサポートで、投融資先のGHG排出把握・削減へと共に取り組む

 

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■三井住友フィナンシャルグループの取り組み(一例)

・2023年に投融資ポートフォリオにおけるGHG排出量(※3)の中長期目標開示、2030年の自社グループGHG排出量ネットゼロ、2050年の投融資ポートフォリオにおけるGHG排出量カネットゼロ実現を掲げる。

・グループCxOとして、グループCSuO(Chief Sustainability Officer)を設置し、経営管理体制の高度化を推進。

・気候変動をトップリスクの一つと捉え、顧客のGHG排出量の把握/開示を目指す。

・2030年までにサステナブルファイナンス実行額を30兆円に設定。

※3 GHG(Greenhouse Gas)排出量:二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出量。

 

最後に登壇したのは、三井住友フィナンシャルグループの竹田達哉氏。グローバル規模の金融業界ではパリ協定採択以降、気候変動を金融市場のリスクと捉える議論が活発に進められてきました。ここ数年でEUを中心とした気候変動関連政策が次々と生まれ、近年その動きはさらに加速しています。

三井住友フィナンシャルグループはグループとしてのCO2排出削減はもちろんのこと、金融監督当局と産業界の間に立ちながらトランジション(脱炭素化に向けた移行、およびそのためのファイナンス)を進める立場として、投融資先のGHG排出の把握と中長期目標設定、リスク管理の強化、脱炭素化ビジネス推進を一体で進める役割を担っています。

その中でも注目すべきは、グリーンファイナンスを含むサステナブルファイナンス実行額の上方修正です。もともと2020年に同グループはグリーンファイナンス実行額10兆円を目標に掲げていましたが、グローバル規模での需要が大きく、1年間で実行額は2.7兆円に到達したそうです。「特にサステナビリティに関するお客さまからの問い合わせは昨年比7〜9倍と、市況の変化が顕著に表れています。世の中の潮目が変化したと捉え、よりアグレッシブにサステナブルファイナンスを実行していくことを決めました」と竹田氏。

一方、「一大プロジェクトになる」と竹田氏が述べたのが、投融資先のGHG排出量の管理・削減です。投融資先企業の規模や業態はさまざまで、サプライチェーンの仕組みや商品ライフサイクルもそれぞれ異なります。「それぞれのお客さまに適した対応が必要であり、その意味ではわれわれ行員のスキルの変革も求められます。例えば、財務状況だけでなく環境問題も含めた非財務情報の観点から対話をできるかどうかもポイントになるでしょう」と竹田氏。

そして、「決して金融機関の都合だけで進めるのではなく、カーボンニュートラルの世界を作るために一緒に変わっていく必要があります。そのお手伝いをさせていただくために、GHG排出量を把握するツールも開発して、できるだけ負担をかけずに進めていきたいと考えています」と語りました。

もう一つの論点として、トランジションの難しさをどう乗り越えるかという課題があります。トランジションには技術革新への投資を伴うケースが多く、将来的に商品が生み出せればキャッシュフローに変わりますが、研究開発だけだとキャッシュアウトが続いてしまうので、投資としては厳しい側面があります。「不確実性が伴うトランジションは、間接金融のリスク・リターンだけでは難しいので、公的なファイナンスと組み合わせてサポートするなど、リスクを分散する仕組みが必要だと考えています」と、国や公的機関のサポートの重要性について言及しました。

高村氏は、「三井住友フィナンシャルグループが取り組んでいる投融資先企業のGHG排出量把握や情報開示に関するサポートは、結果的に企業の戦略強化につながり、中長期的な企業体力を高める大切な取り組みだと考えています。特にサプライチェーン全体での排出削減が社会的に求められている状況を踏まえると、大企業だけでなく中小企業もサポートする金融機関の役割は大きいでしょう。

また、最後に課題として挙げていただいたように、新しい技術開発など不確実性を伴うトランジションへのファイナンスは高いリスクを伴う可能性もあります。こうしたリスクを、国や社会がどう分担するのか、その仕組みを作ることの重要性をメッセージとしていただいたと感じています」と感想を述べました。

自社はもちろん、取引先やお客さまのカーボンニュートラル支援にもチャンスあり

三者三様の先進的な取り組みを知ることができた今回のウェビナー。最後の総括として、高村氏のコメントを紹介します。

「いずれも日本で先陣を切ってカーボンニュートラル対応をされている企業ですが、さらに近年の社会動向を受けて取り組みをより強化されている点が印象的でした。また、ただ単に自社の排出を減らすだけでなく、取引先やお客さまのカーボンニュートラルも支援していくという考え方が、3社に共通していてとても興味深く聞いていました」

また、これからカーボンニュートラルに取り組みたいと考えている企業へのアドバイスをこう話しました。

「まずは自社のビジネスにカーボンニュートラル対応を組み込む、これが最初の一歩として重要だと思います。その際、気候変動に対してどういうリスクとビジネスチャンスがあるのか、中長期的な視点で考えることが必然的に求められますので、改めて自社のビジネスと経営課題をチェックする良い機会になると思います。それから、自社だけでなくお客さまもカーボンニュートラルの課題を抱えている可能性が高いため、お客さまに対して自社のビジネスでどのような対応ができるかもポイントです。そこにも大きなビジネスチャンスがあるのではないでしょうか」


ウェビナーを終えて……

今後日本全体で取り組んでいかなくてはいけない「カーボンニュートラル」について、高村先生をはじめご登壇の企業のみなさまそれぞれの立場から貴重なお話を伺うことができました。調査結果からみてもわかるように「カーボンニュートラル」への取り組みについては現時点でも消費者からも賛同の声が多いですが、それぞれの企業の取り組みとなると消費者にとってはなかなかわかりづらく、まだあまり理解されていないのが現状かもしれません。

カーボンニュートラルの実現に向けては企業努力や取り組みについて、きちんとその目的や目指すところ、それが社会や消費者にとってどんな貢献をするのかという価値についてわかりやすく伝えて、理解を得ることで、社会や消費者の意識や行動も共に変わっていくことが必要なのだと思います。今回のウェビナーがこれからみなさまがカーボンニュートラルに取り組まれるにあたって何かのヒントになれば幸いです。

電通グループでは今後も企業やメディアのみなさまと連携して、日本全体で取り組んでいくべきテーマに対してこのような形で定期的に情報共有やディスカッションの場を作っていきたいと考えています。状況はめまぐるしく変わっていくと思いますので、消費者や世の中の動きを捉えつつ、電通グループとしても貢献していきたいと考えています。

電通TeamSDGs 竹嶋理恵

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「カーボンニュートラル」は、企業価値向上の起爆剤になる

国内外で関心が高まっている「カーボンニュートラル(温室効果ガス・CO2排出実質ゼロ)」の実現に向けて、各企業での取り組みが加速しています。

2021年8月24日、電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィスと電通Team SDGsは、「カーボンニュートラル最前線ウェビナー 企業に迫るカーボンニュートラル対応の危機とビジネスチャンス」を開催しました。本連載では2回にわたって、ウェビナーの内容をレポートします。

今回は東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授による基調講演と、電通Team SDGsの竹嶋理恵氏、林祐氏によるトークセッションの内容をレポートします。

SDGs

「2050年カーボンニュートラル」に向かうビジネス

最初に登壇したのは、気候変動とエネルギーに関する法政策などを研究している東京大学の高村ゆかり教授。カーボンニュートラルをめぐる世界的な潮流と国内の政策、金融市場の動向をもとに、今後企業に求められる対応を次のように解説しました。

世界の気温は19世紀と比べて、2011〜2020年に、すでに1.09℃も上昇し、この数十年で温室効果ガスの大幅な排出削減ができなければ、今世紀中に2℃を優に超える気温上昇が起こる可能性もあります。地球温暖化は大気や海洋、雪氷圏、生物圏に急速な変化を及ぼし、異常気象の頻度や強度にも大きな影響を与えます。

このような背景から、世界ではカーボンニュートラル(脱炭素社会)実現に向けた動きが活発になっています。2℃を十分に下回る水準に世界の気温上昇を抑える、1.5℃までに抑えるよう努力する=今世紀後半の脱炭素社会の実現、をめざす長期目標を明示した2015年のパリ協定のもとで、1.5℃までに気温上昇を抑える目標に相当する「2050年カーボンニュートラル」を目標に掲げる国は120カ国以上に及びます。日本も2020年に「2050年カーボンニュートラル」目標を宣言しました。世界的なカーボンニュートラルの潮流を受けて、国内でも2050年までにカーボンニュートラルを目標とする企業が増えています。

高村氏は、企業がカーボンニュートラルに動く理由について、気候変動が事業に悪影響やリスクを及ぼす可能性があることはもちろん、「金融市場やサプライチェーン全体で脱炭素化やCO2排出削減が求められるようになり、気候変動への対応が企業価値を左右する重要な要素になりつつある」と述べました。実際に金融機関・投資家が企業に気候変動リスクの情報開示を働きかけ、場合によっては議決権を行使することも起きています。

「国内でも、2050年までに投融資先ポートフォリオの温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにすることを表明している金融機関があり、この流れは今後も加速していくことが予想されます」(高村氏)

このように、企業や金融市場の動きは国内外のカーボンニュートラルをめざす政策からも大きな影響を受けていることが分かります。高村氏は、日本のGHG排出量の約85%がエネルギー起源であることから、今後は、エネルギー効率のさらなる改善とともに、「再生可能エネルギーの最大限導入」により力点が置かれるようになると予測。住宅・建築物のゼロエミッション化やガソリン車の新規販売停止なども強化される可能性があると言います。

さらに、日本の強みである技術力を発揮できるような新技術の社会実証・社会実装のための制度・ルール・インフラの整備を進める政策が必要であること、企業の温室効果ガスの排出削減をファイナンスで支援する「サステナブル・ファイナンス」の政策動向にも注目すべきとのことです。

最後に高村氏は、今起きている変化の中で企業に求められることを下記のようにまとめました。

「気候変動への対応だけでなく、サーキュラーエコノミーや生物多様性に対する投資家たちの関心は非常に高まっています。カーボンニュートラルをはじめとするサステナブルな製品・サービスをつくることは、取引先や投資家からの評価を高めることに直結するのです。そして、一つの企業がつくる製品・サービスが、他の多くの企業を支えていることを考えると、カーボンニュートラルに取り組むことが取引先のお客さまの企業価値を高めることにもつながると考えることができるでしょう」

「電通カーボンニュートラル生活者調査」からのヒント

続いて登壇したのは、電通Team SDGsでプロジェクトリーダーを務める竹嶋理恵氏と、同チームでSDGsコンサルタントを務める林祐氏。生活者のカーボンニュートラルへの意識や取り組んでいる企業イメージを明らかにする定点調査「電通カーボンニュートラル生活者調査」の結果から、今後企業が取り組むべき施策のヒントを導き出します。

はじめにカーボンニュートラルという言葉の認知状況についてのヒアリング結果では、半数以上の人が聞いたことがあると回答。年代別に見ると、年齢が上がるにつれて認知度も上がる一方で、10代の認知度も高いことが分かりました。林氏は「SDGsの認知度を調査した際も、グラフは同じようなカーブを描いていました。10代の若者はサステナブルへの感度が高い傾向にあることが分かります」と解説しました。

カーボンニュートラル

続いて、カーボンニュートラルの成長が期待できると政府が発表している重点14分野に対する取り組みの認知度調査では、「再生可能エネルギーの主力電源化」「自動車の脱炭素化・蓄電池技術の実現」「資源循環型社会の実現」の3分野の認知度は比較的高かったものの、他の分野の取り組みはまだ生活者にあまり知られていないことが分かりました。

カーボンニュートラル
出典:「2050年カーボンニュートラルに伴う グリーン成長戦略」より
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618005/20210618005-4.pdf

さらに、世界の取り組みについてのヒアリングでは、どの分野でも「世界のほうが積極的に取り組んでいる」という認識が多数との結果に。竹嶋氏は、「取り組みの中身を詳しく見ると、日本企業のほうが進んでいる分野もあるように感じます。しかし、一般の生活者は世界のほうが進んでいるというイメージを抱いているため、世界に比べて日本企業がどうなのかをしっかりと伝えていく必要があると思います」と実情とのギャップについても解説しました。

同調査ではさまざまな産業から合計40社の企業をピックアップし、各企業のカーボンニュートラルへの取り組みに対する認知度と期待度を調べています。この結果を業界別にマッピングすると、業界ごとの現在地が見えてくると、両氏は言います。

「例えば自動車業界は、カーボンニュートラルへの取り組みの認知度も期待度も比較的高い傾向にあります。これは、各企業の取り組みも、業界としての取り組みも、カーボンニュートラルとの結びつきを理解しやすいことが要因として考えられます」と林氏。逆に不動産業界や建設・住宅業界は、各企業も業界としてのイメージもカーボンニュートラルとして結びつきにくいため、認知度・期待度共に低い傾向にあるとのことです。この結果から、業界ごとに取り組むべき施策のヒントが見えてくることを解説しました。

カーボンニュートラル

①認知度大・期待度大(自動車業界)
カーボンニュートラルをけん引していく業界。業界の垣根を超えた取り組みや、海外に向けた情報発信が求められる。

②認知度小・期待度大(輸送業界、電気機器・機械業界、エネルギー業界)
感度の高い人には伝わっているため、今後はより多くの生活者に認知を広げる活動に注力する。その際、分かりやすく生活者の暮らしに結びつけることがポイント。

③認知度大・期待度小(食品業界、小売業界)
生活者との接点だけでなく、バックグラウンドも含めたチェーン全体でのカーボンニュートラル化を推進する必要がある。同時に、顧客体験でカーボンニュートラルを実感できるような取り組みや情報発信もカギに。

④認知度小・期待度小(不動産業界、建設・住宅業界、通信業界)
業界のカーボンニュートラルへの取り組みが、生活者の暮らしにどう関係するのか、何をもたらすのかを説明することが不可欠。

竹嶋氏は「すでに多くの企業がカーボンニュートラルに取り組み、徐々に生活者の認知も高まりつつあります。今後より理解や共感を高めていくためには、業界の特徴や自社の特性に合わせてコミュニケーション戦略を立てることが大切です」と見解を示しました。

最後に紹介があったのは、カーボンニュートラルに取り組む企業への意識に関する調査結果。生活者はカーボンニュートラルに取り組む企業を「応援したい」「信頼できる」と考えるだけでなく、「長期にわたって利用したい」「商品・サービスを購入したい・利用したい」と考える割合が半数以上いることが明らかになりました。

カーボンニュートラル

「カーボンニュートラルへの取り組みは、実利やエンゲージメントに関わる重要なものだと捉えることができるのです」と林氏は述べて締めくくりました。

今回紹介した基調講演とトークセッションを通して、企業はカーボンニュートラルに取り組むことで、投資家や取引先といったステークホルダーからの評価を高め、商品・売上の拡大や顧客ロイヤルティも向上させる可能性があることが分かりました。カーボンニュートラルへの迅速かつ積極的な対応が求められる一方で、この変化は大きなビジネスチャンスであると捉えることもできそうです。

次回は、カーボンニュートラル社会の実現と企業の成長を両立していくために企業が取り組むべきことについて、実際の事例を交えながら展開されたウェビナーについてレポートします!
 

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「サーキュラーエコノミーを実現する新たな連携とビジネスの可能性」

主催:電通ジャパンネットワーク サステナビリティ推進オフィス/電通Team SDGs
日時: 2021年11月9日(火)・10日(水) 両日とも10:00〜13:00
費用 : 無料(先着500名)
形式: Zoomウェビナー

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