巨人、巨費投入の大型補強に“原監督の悪夢再来”懸念…銀仁朗やオリ中島獲得に批判噴出

原辰徳前監督(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
 4年ぶりに復帰した原辰徳監督率いる読売ジャイアンツ(以下、巨人)が着々と戦力補強を進めている。


 11月22日にはオリックス・バファローズを退団した中島宏之選手が入団会見を行い、26日には埼玉西武ライオンズからフリーエージェント(FA)宣言した炭谷銀仁朗捕手の獲得も発表した。すでに現役メジャーリーガーのクリスチャン・ビヤヌエバ選手の入団も決定しており、さらには広島東洋カープからFA宣言した丸佳浩選手の獲得も目指している。

 一方で、相次ぐ大型補強に早くも疑問が噴出しているという。

「昨オフ、巨人は『若返り』を理由に36歳(当時)の村田修一を自由契約にしました。2000本安打まであと少しだった村田は独立リーグでプレーしながらNPBからのオファーを待ち続けましたが、結局は現役を引退。現在は巨人の二軍打撃コーチを務めています。そんな経緯がありながら、来年には37歳になる中島を獲ったことに対して、ファンからも『理解不能』『村田がかわいそう』という声があがっています。同じ右の長距離打者で、ポジションも村田とかぶりますからね。選手としてのピークは過ぎていることもあり、『村田が復帰したほうが打ちそう』との声すら出ています。

 また、原監督は中島の入団に際してアレックス・ゲレーロに背番号5を譲らせ、『コンディションがよかったら必ず1軍からスタートさせる』と早くも1軍入りを確約しています。この好待遇ぶりも『特別扱いしすぎ』『溺愛するとロクなことがない』と反発を生む要因となっています」(スポーツライター)

 原監督と中島選手は2009年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表の監督と選手として優勝を果たした間柄で、原監督は獲得前から「私と相性がいい」と好印象であることをアピールしていた。

「この点が不安なんです。もともと、原監督は自身が惚れ込んだ選手に執着する傾向があります。13年オフには、西武からFA宣言した片岡治大(現・巨人二軍内野守備走塁コーチ)を獲得しましたが、これも原監督の意向が大きかったとされています。08年の日本シリーズで、巨人は片岡の俊足にかき回されて西武に日本一の座を奪われました。原監督には当時の印象が強烈に残っており、のちの片岡獲りにつながったといわれているのです。しかし、片岡も西武時代が全盛期で、たび重なる怪我もあって移籍後は目立った活躍ができずに終わりました。そのため、『中島獲りは片岡の二の舞になるのでは』『悪夢再現』と懸念する声もあがっています」(同)

 さらに、炭谷捕手の獲得についても異論が噴出しているという。通算1169試合に出場している炭谷捕手は西武の正捕手として活躍し、13年と17年にはWBC日本代表にも選出された実力者だ。いったい、何が問題なのだろうか。

「巨人の捕手争いは、18年に119試合出場の小林誠司が一番手。打撃面に課題はありますが、盗塁阻止率は3年連続でリーグトップと強肩は大きな武器です。それに宇佐見真吾、大城卓三らが続く構図で、さらに来季からはベテランの阿部慎之助が4年ぶりの捕手復帰を果たすことになりました。生え抜きが育っているにもかかわらず30代の炭谷を獲るということで、小林を不動の正捕手として育てる気がないととらえられても仕方ありません。また、阿部が捕手に再チャレンジするタイミングですし、意図の見えづらい補強といえるでしょう」(同)

長嶋巨人の“欲しい欲しい病”再発か


 球団史上ワーストタイとなる4年連続で優勝を逃している巨人は、オリックスに自由契約を申し入れた金子千尋投手やメジャーリーグのシアトル・マリナーズを退団した岩隈久志投手の獲得調査も進めているという。

「かつて長嶋茂雄監督時代には、毎年のようにFAで他球団の4番打者やエースを“強奪”し、“欲しい欲しい病”などと揶揄されました。来季は何がなんでも優勝しなければならない事情があるため大型補強は想定の範囲内ですが、これで結果が出なければ、また『なんのための巨額投資だ』という声が聞こえてくるでしょう」(同)

 中島選手は1年契約で年俸1億5000万円、炭谷捕手は3年契約で年俸1億5000万円、ビヤヌエバ選手の年俸は契約金を含めて総額約2億2400万円とされている。さらに、前述した丸選手には5年総額35億円もの大型契約を用意しているというが、果たしてどうなるか。
(文=編集部)

10年後に食いっぱぐれる人はココでわかる(1)お金の使い方編

『1万2000人を見てわかった! お金に困らない人、困る人』(集英社/松尾昭仁)
 テクノロジーの発展や社会の変化のスピードが速い現代では、油断すると自分のスキルや能力があっという間に古いものになってしまう。10年後、あなたは今の自分よりも稼いでいる自信はあるだろうか? 少なくとも「現状維持」はできそうだろうか?


 10年後に、今の収入どころか今の半分程度しか稼げない人は一定数いるはずだ。一方で、社会情勢や環境が変わっても、ビジネスの大海で自分の居場所を見つけ、しぶとく稼いでいく人もいる。両者の違いは、いったいなんなのだろうか?

 コンサルタントの松尾昭仁氏による『1万2000人を見てわかった! お金に困らない人、困る人』(集英社)は、その違いを知るために最良の書。10年後も食べていける人とそうでない人の違いは、今すでに表れているのだ。

あなたは「必要な投資」ができる人か、「無駄金」を使って終わる人か


 日常生活やビジネスシーンで、その人の人柄がもっともよく表れるのは「お金」にまつわる場面だ。たとえば、飲み会の会計や、どんなものにどれだけお金を使うかといったことには、その人の価値観が出る。

 本書によると、将来、今より稼ぎたかったら「金払い」は良くしておいたほうがいい。飲み会や食事会などでよくあるが、割り勘にこだわりすぎる人はお金を出すことを渋るクセがつく。結果、投資すべき場面で投資できなくなってしまい、ビジネスチャンスを逃すことになる。

『1万2000人を見てわかった! お金に困らない人、困る人』(集英社/松尾昭仁)
 そして、「どうせお金を払うのであれば、周囲からの印象が良くなる払い方をすべき」だと松尾氏は言う。お金の払い方には、人から好印象を持たれるスマートな方法がある。

「一番スマートで、なおかつ大物感を感じさせるのは、代金を多めに置いて飲み会の途中で先に帰る人」(松尾氏)

「1万円置いていくから、あとはみんなで楽しくやってください」と言い残して先に帰れば、ほかの参加者からは感謝されるし、自分の時間も確保できる。早めに帰れば、翌日のコンディションにも響かない。

「ケチらず、無駄遣いせず、スマートに。そして、本当に必要な投資は惜しまない」(同)

 逆説的だが、「稼げる人」ほど「お金の使い方」を知っているのだ。

 この「お金の使い方」について、松尾氏は「保険に入って満足する人は稼げない」とも言っている。保険に入ること自体は悪くないにしても、それで健康管理がおろそかになるのでは本末転倒というわけだ。何が自分に必要なのかを見極める。この力が「稼ぐ」ことに直結することはいうまでもないだろう。

◇ ◇ ◇

『1万2000人を見てわかった! お金に困らない人、困る人』は、将来どんな社会がやってきても稼ぎ続ける、ビジネスパーソンとしてのたくましさとしたたかさを植え付けてくれる1冊だ。

 10年後の自分について不安があるなら、一読して損はない。おそらく、思っていたよりも多くの示唆を得ることができるだろう。
(文=編集部)

※本記事はPR記事です。

なぜ『結婚相手は抽選で』は共感を呼ぶのか?「結婚できない人」たちの苦悩を問う問題作

結婚相手は抽選で | 東海テレビ」より
 野村周平主演の連続テレビドラマ結婚相手は抽選で』(フジテレビ系)第6話が、11月10日に放送される。前週3日に放送された第5話は平均視聴率2.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)を記録。初回も2.8%での幕開けとなっていたが、その後は2~3%台を行ったり来たりしている。


 本作の舞台は、少子高齢化を食い止めるための苦肉の策として、政府が「抽選見合い結婚法」を制定した日本社会。これは独身で子どもを持たない25~39歳の男女を対象に、本人の年齢プラスマイナス5歳の範囲でお見合いの相手が抽選されるといった、かなり強引な政策だ。都内でひとり暮らしをしている主人公・宮坂龍彦(野村)も同法の対象者だが、潔癖症と人間不信を抱える彼は同法に振り回されながらも疑問を強めていく。見合い相手に断られ続けるなかで、さまざまな女性たちの人生と哀しみを知るからだ。

 第5話で見合いすることになった冬村奈々(高梨臨)も、複雑な境遇や思いを隠している。幼い頃に母親を亡くしている奈々は、美人のお嬢様。しかし、同法の施行直前に振られた恋人・銀林嵐望(大谷亮平)からは、「母性を感じられない」などと指摘されていた。奈々の抽選見合いは失敗続きで、自分から断った回数もすでに2回……。同法では、3回断った者は「テロ対策活動後方支援隊」に2年間従事しなければならないと決められているため、奈々は“リーチ”なのである。

 そんなタイミングで、奈々の見合い相手となった龍彦。奈々は、もう自分から断るわけにはいかないため、龍彦に断らせようと派手な服装で“無理目な女”を演じる。だが、龍彦は恐縮して「どうぞ断ってください」などと言うので、奈々はあわてて見合い続行を希望するのだった。

 その夜、龍彦は友人の北風祐輔(松本享恭)や鯨井浩樹(加藤雅人)から、男性にリーチを悟られた女性が脅迫されるといった事件が続出していることを聞かされる。北風は、奈々についても「明らかにリーチ」と見破るが、龍彦は彼女のような美人が同法に振り回されている理由が気になっていた。数日後、奈々と再会した龍彦は、料理ができないという彼女をお好み焼き店に誘う。これを機に、2人は少しだけ打ち解けたように見えた。

 一方、今回は北風が龍彦に“ゲイ”であると告白する場面も。北風は3回目の抽選見合いで限界を感じたこと、性的マイノリティと呼ばれる人々もまた、同法に悩まされていることを語ったのだった。

 少子高齢化は、確かに深刻な問題である。ただ、だからといって強制的に結婚を促すことは、“男女の結婚”という枠に収まらない人々を無視することと同じだ。性的マイノリティに限らず、同ドラマにはこれまでさまざまな理由で結婚を選べない人、選ぼうとしない人が登場した。今後は、龍彦がそんな社会と向き合い、成長していく姿に注目である。

 ところで、インターネット上には「龍彦がカワイイ」「龍彦を応援したくなる」といった書き込みが多く見られると同時に、「野村自体は嫌いなのに、野村の演技は嫌いじゃないんだよなぁ」という声も。野村はイケメン俳優として扱われる一方で、バラエティ番組での“ビッグマウス”やツイッターでの投稿が物議を醸すなど、幾度となく炎上してきた存在だ。

 それでも、ネット上のアンチたちにさえ「俳優としては評価できる」「普段の野村と龍彦って全然キャラが違いそうなのに、妙にハマっててすごいわ」「野村はムカつく。でも、演技に関しては認めざるを得ない」「いけすかないヤツだと思って野村のドラマ見たことなかったけど、龍彦を見たらかなり株が上がった」などと言わせているから、大したものである。視聴率は深夜枠とあって3%前後でも仕方がないものの、“俳優・野村”の評判はうなぎのぼりのようだ。
(文=美神サチコ/コラムニスト)

『世にも奇妙な物語』ついに放送前から波紋…「水溜りボンド」頼みに酷評噴出

世にも奇妙な物語 - フジテレビ」より
 タモリの淡々とした語り口や独特のテーマ音楽でおなじみのドラマ『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)。長きにわたり視聴者を震わせてきたが、近年はその評価に大きな変化が起きているようだ。


 オムニバス形式の『世にも奇妙な物語』は1990年にスタートした長寿番組。かつては3期にわたってレギュラー放送されたほどの人気ぶりで、2000年には『世にも奇妙な物語 映画の特別編』(東宝)が公開されたこともある。現在は、特別ドラマとして春と秋に放送されている。

 小松左京や星新一らの作品も映像化され高い評価を獲得していたが、近年はドラマ独自のストーリーが目立つと同時に悪評が増えている。

 たとえば、15年4月放送の「ゴムゴムの男」は阿部寛がヤクザを演じた作品だが、作中に『ONE PIECE』(集英社)の主人公・ルフィが登場。大人気漫画との異色のコラボレーションとして話題になったが、視聴者からは「なんでルフィが出てくるんだ」「完全にコメディで『世にも奇妙な物語』の雰囲気ぶち壊し」「人気漫画に便乗した感がありあり」と不満が続出した。

 15年11月の放送でも、キャストへの疑問とパクリ疑惑が噴出した。1992年に放送された「ハイ・ヌーン」のリメイクでは、玉置浩二が演じていた不気味な男をなぜか和田アキ子が演じ、「わざわざ女性に男役をやらせる意味がわからない」と昔のファンから不評を買ったのだ。また、竹内結子主演の「箱」に対しては、10年のスペイン映画『リミット』と「特殊な状況設定なのに、内容が似すぎている」という指摘が相次いだ。

 17年4月放送の「カメレオン俳優」も物議を醸した。菅田将暉演じる若手人気俳優が“カメレオン俳優”になるために秘薬「カメレオーネ」を投与し続けるという内容だったが、「話がありきたりで完全に菅田くん頼りの回」「本物のカメレオンになるというオチが意味不明」などの声が続出した。

 また、同年10月放送の「フリースタイル母ちゃん」は、普通の主婦が謎のリップクリームを使ったところ、プロ顔負けのラップが口から飛び出すようになるというストーリー。主演としてラップを披露した中山美穂に対して、「なぜか心に響く」「挑戦した勇気に拍手」「肝心のラップが下手すぎる」「放送事故レベル」「寒すぎて直視できない」と賛否が分かれた。

 11月10日放送の『世にも奇妙な物語'18 秋の特別編』に至っては、放送前から疑問が続出している。番組初となるYouTuberとのコラボ企画として、「水溜りボンド」のカンタとトミーが出演。さらに、水溜りボンドによるオリジナルドラマ動画が9日20時から公開される。

 フジの老舗コンテンツが人気YouTuberと手を組んだことに対して、番組のファンからは「YouTuberの拡散力目当ての魂胆が見え見え。YouTuber人気に便乗しすぎ」「フジはプライドを捨てたのか……迷走しすぎ」「話題の人を出せばいいってもんじゃない。物語で勝負してほしい」「最近はドラマとしてもつまらないし、的外れのコラボばかりで辟易」と厳しい反応が多い。

 時代に合わせた変化は重要だが、視聴者の声を無視していては良い作品は生まれないのかもしれない。
(文=編集部)

『リーガルV』4話、島崎遥香の「大根演技」に酷評噴出「観てて不愉快」「すべてが台無し」

木曜ドラマ『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』|テレビ朝日」より
 米倉涼子主演の連続テレビドラマリーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』(テレビ朝日系)の第4話が11月8日に放送され、平均視聴率は前回より0.6ポイント増の16.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だった。前週はプロ野球日本シリーズの試合延長により休止されており、2週間ぶりの放送を楽しみにしていた視聴者が多かったようだ。


 第4話は、元AKB48の島崎遥香がゲストとして登場し、遺産相続をテーマにした展開が繰り広げられた。「峰島興業」の会長である峰島恭介(竜雷太)が病死し、ひとり息子で社長の峰島正太郎(袴田吉彦)が200億円の遺産全額を相続することで話がまとまりかけるが、「峰島会長の妻」を名乗る玲奈(島崎遥香)が現れる。

 玲奈は「妻として遺産を相続する権利がある」と主張するが、婚姻届が提出されたのは会長が亡くなる4時間前。婚姻の無効を求めて訴えられた玲奈は、現役ホスト兼パラリーガルの茅野明(三浦翔平)の知り合いということで、京極法律事務所に弁護をお願いする。

 最初から「この結婚には裏がある」と疑っていた小鳥遊は、玲奈が峰島会長と子どもの頃に出会っていたことを突き止める。しかも、玲奈は家族が経営していた牧場を峰島会長に潰された過去があり、偶然を装って峰島会長から遺産を奪い、そのお金で牧場再建をたくらんでいることがわかった。

 一方、裁判では峰島社長が提出した「遺言書」が偽装されたものであることが判明。峰島社長の相続権利がなくなり、200億円の遺産は玲奈のもとに入るかと思われたが、玲奈もまた、担当医にお金を渡して峰島会長の死亡時刻を偽装していたことが発覚する。玲奈は罪に問われるが、小鳥遊が本物の遺言書を見つけだし、結局は200億円すべてが牧場に寄付されることになった。

 2週間ぶりの放送となった今回は、特に林遣都演じる若手弁護士・青島圭太の活躍に期待していた視聴者が多かったようだが、物語自体は島崎がメインとなっていた。インターネット上では「意外に良かった」「ぱるるの最後の涙に泣かされた」という意見も見受けられるものの、それ以上に「演技が大根すぎる!」という批判の声のほうが多いようだ。

「ぱるるの演技、下手すぎ。浮いてたし、明らかに変だった」

「ホステス役、最悪。ベテラン揃いのなかでひとりだけ浮いてて、観てて不愉快だった」

「田舎娘という設定にしても、大富豪をたぶらかせたホステスのオーラはゼロ。演技力ない」

 島崎の演技力について酷評が相次ぎ、なかには「島崎の演技が大根すぎて観る気なくなった」「この子がすべてを台無しにしてる。ほかの出演者の演技をぶち壊してる」などの辛辣な意見も見られた。

 また、島崎の演技だけではなく、「ポチ」として人気を集めている青島の活躍シーンが少なかったのも残念なポイントだった。1話完結型のため、毎回さまざまなゲストが出演するが、初回や第2話のように京極法律事務所の人間にスポットを当てたほうが視聴者は喜ぶのではないだろうか。

 とはいえ、ゲストが毎回変わるということは、今回のように批判が噴出しても巻き返しがきくということでもある。次週のゲストは『仮面ライダーエグゼイド』(テレビ朝日系)で仮面ライダーブレイブに変身する青年を演じていた瀬戸利樹と、『仮面ライダーウィザード』(同)に出演していた戸塚純貴という、若手俳優の2人だ。さらに、青島の活躍も期待できる展開のようなので、今回がっかりした人も次週に期待したい。
(文=絢友ヨシカ/ライター)

持ち家を10年ごとに住み替えて利益1億円も…「家は一生もの」は幻想

「gettyimages」より

「住宅すごろく」という人生ゲーム


住宅すごろく」という言葉がある。

 上京し、四畳半の古いアパートの一人暮らしから、それは始まる。収入が増えるに従い、賃貸マンションに住み替え、グレードアップしていく。結婚して、夫婦2人用の「愛の住処」として引っ越す。子どもが生まれ、小学校に上がるくらいには3LDKの分譲マンションを購入する。子どもが大きくなるにつれて手狭になるので、郊外の庭付き一戸建てを手に入れ、住宅すごろくは上がりになる。

 バブル崩壊前までは、この住宅すごろくは多くの人に当てはまり、「郊外の庭付き一戸建て」は夢として存在した。しかし、広さを求めて郊外へ……という潮流はバブルが崩壊した30年前にすでに終わっている。しかも、「上がり」だと思っていた戸建を持て余す人が増え、鍵ひとつで外出ができるマンションに引っ越すケースが増えている。

 人生設計も昔とは明らかに違う。晩婚化は進み、20代で結婚する人は少数派になった。未婚化は、現在30歳の男性の3割、女性は2割が生涯未婚になると厚生労働省は予測している。離婚件数も格段に増えており、新婚早々の「成田離婚」から「熟年離婚」まで、いつ起きてもおかしくない状況にある。そして、平均寿命は90歳に届こうとしているが、定年は60歳のままだ。老後の単身である確率は50%を見込んだほうがいい。

 これ以外にも、男女雇用機会均等法で女性の転勤辞令も少なくない。転職回数は増え続け、会社の終身雇用は今は昔だ。転勤、転職、職場の移転、給与の増減、出産による休職、リストラ、早期退職などの要因がある。そして、退職金が出ないのも当たり前になった。年金は若年層になるほどもらえず、支給年齢も後ろ倒しが続いている。

親のアドバイスは聞き流したほうがいい理由


 30年でこれだけ状況が変わると、親の世代に常識だった人生設計はもはや参考にならないだけでなく、親のアドバイスは時代錯誤になる可能性が高い。親を見て、「マイホームは結婚して、子どもが生まれてから」などと思っていたら、未婚のまま40歳になっているかもしれず、定年まで20年しかない。やっと家を買ったとしても、離婚・転勤・介護に直面するかもしれない。

 だからこそ、いずれ住み替えるタイミングは来るかもしれないと予期しておいたほうがいい。そして、その際に家を売れる状況にしておかないといけない。そのためには、買ってから大きく値下がりするようなことは絶対に避けなければならない。なぜなら、引っ越しできなくなるからだ。離婚したのに、同じ家に住む男女は意外と多い。マイホームが“牢獄”か“地獄”と化している人生は、誰もが避けたいことだろう。

「家は一生もの」という幻想


「終の棲家(ついのすみか)」という言葉がある。そのためか、家を購入すると永住するように思っている人が多いが、都市部ではそうではない。首都圏のマンションでは、10年で約2割が住み替えており、都心部では約3割に及ぶ。30年以上のローンを組もうが、一生住む権利を得ただけで、住み続ける義務を負わされたわけではない。永住はひとつの選択肢にすぎない。

 住宅ローンも、実質的には15年ほどで完済されるケースが多い(「フラット35」を運営している住宅金融支援機構調べ)。35年ローンを組んでも、平均15年で売却して住み替えるか、全額繰り上げ返済しているのが実態なのである。離婚して売ったかもしれないし、もっと広い家にステップアップしたかもしれない。いずれにしても、住宅ローンを組んだ際の将来イメージより15年は短い人が多いはずだ。

 私は10年で住み替えることを提唱している。人生は進学、就職、結婚、出産、転勤、離婚、再婚、介護などのライフイベントで区切られる。そのタイミングは10年スパンをひとつの目安にしたい。なぜなら、日本の教育制度は6・3・3・4年制だ。小中で9年、中高大で10年になる。社会に出てから結婚するまでの期間も約10年だ。世帯構成やライフスタイルが変わるのに合わせるなら、10年がひとつの目安となる。

「一生もの」という売り文句があるが、実際にその商品を一生使うとは限らない。電池の切れている腕時計や着なくなった皮のコート、大きな箱にしまわれたブーツや年に一度も使わない万年筆など、一生ものというのは幻想に近い。使用頻度と使用価値がないものが「一生もの」とはお寒い限りだ。

 不動産は「一生に一度の高い買い物」といわれることもあるが、これも幻想だ。不動産から「一生」のレッテルを剥がそう。ライフイベントごとにライフスタイルが変わるので、そのたびに住み替えるのが合理的だ。

10年で住み替えるために必要な視点


 住み替えるのに必要なことは、物件が値下がりしにくいことだ。不動産は実物に投資しているので、値下がりされると困る。その上、住宅ローンという多額の負債を負って、銀行のお金で住んでいるようなものだ。だから、値下がりすると売れなくなり、ローンが終わるまで住み続けることを余儀なくされる。

 逆に値下がり幅が小さいか、むしろ値上がっていたら、積極的に住み替える意味を見いだせる。それは、含み益を現金に換えることができるからだ。このためには、売るしか方法がない。マンションで資産形成する方法は意外に簡単で、物件の選び方を学ぶだけでいい。すべてのマンションの資産性の良し悪しを「住まいサーフィン」【※1】という無料会員制サイトで公開しているので、それだけで成功確率をかなり上げられる。

 実際、住まいサーフィン会員の実績は、71%が購入価格より値上がりし、平均で資産を2200万円増やしている。私の値上がり益はすでに1億円を超えている。この含み益は売却で現金化される。住み替えてつくった現金を次の頭金に入れて、資産を増やしながら、子どもが巣立った場合には家をダウンサイズしよう。こうすると、面積減少分の現金を手に入れることができる。

 こんな住み替えができると、持ち家はお金をもらいながら住んでいるに等しい。家賃を払っている賃貸とは大違いで、ここ10年では、持ち家と賃貸のトータルコストは3000万円の差になっているのが実態だ。

 こうなると、「結婚したら」とか、「子どもが生まれたら家を買おう」という、これまでの常識は意味がないのがわかるだろう。独身のうちから家を買って、結婚する際は買い替えるのがこれからの当たり前だ。持ち家が資産形成できるのに対して、家賃は掛け捨てでしかないのだから。

10年で住み替えるべき11の根拠


 10年は、ライフイベント以外にも区切りとしてちょうどいい。その理由は11ある。

 詳細は本稿では割愛するが、(2)の住宅ローン控除だけでも400万円になる。全部合わせれば、知っているか知らないかの違いで1000万円は軽く超えるだろう。あとは行動あるのみである。

(1)含み益を実現益にしても自宅の売却益は3000万円まで無税である
(2)住宅ローン控除の期間が10年で切れる(最大400万円、共有なら2倍)
(3)「フラット35S」の金利優遇は10~20年で設定されている(最大約200万円の差)
(4)固定資産税の新築マンションの減額には5年の期限がある(数十万円の差)
(5)次に買いたい人は10年以内を望んでいる
(6)約10年で故障し始める住宅設備は多い
(7)共用施設は最初の数年だけで使われなくなる
(8)大規模修繕(築12~15年)を回避する
(9)築年で競争力を失い、貸す場合の家賃は安くなっていく
(10)自分が生きている間に耐用年数(47年後)が来てしまう
(11)売主の瑕疵担保保険の期間は10年で切れる

 だからこそ、その解決策が10年での住み替えとなる。
(文=沖有人/スタイルアクト(株)代表取締役、不動産コンサルタント)

【※1】
住まいサーフィン

●このコラムには理解を深めるための動画を用意しています。沖が図解を含めて、直接レクチャーしています。「YouTube」でご覧ください。

ホンダ・N-BOXに軽自動車“初心者”が殺到…スズキとダイハツが脅威を感じる理由

N-BOX|Honda」より
 軽自動車業界でかねてから注目されているものに“SD戦争”がある。ブランド別の軽自動車販売台数ランキングで、暦年締めや事業年度締め、それぞれの半期締めなどで、「S=スズキ」と「D=ダイハツ工業」がブランド別販売台数トップをめぐり、まさに“仁義なき”販売競争を展開していることだ。


 2007年にそれまでしばらくナンバー1だったスズキが2位に転落し、ダイハツがトップに立つと、13年までダイハツのトップが続いたのだが、14年にスズキがトップに返り咲く。しかし、15年から17年まで再びダイハツがトップの座を守っている。しかも、首位のダイハツと2位のスズキとの販売台数差は15年以降毎年5万台以上となっており、ダイハツの圧勝が続いている。


 しかし、全国軽自動車協会連合会(全軽自協)の統計によると、スズキの18年1月から9月までの累計軽自動車販売台数が44万9880台に対し、ダイハツは46万2171台となっており、トップのダイハツと2位スズキの差は1万2291台にまで迫っている。さらに、18年5月、6月、8月、9月はスズキがダイハツを僅差ながらも抜き去り、ブランド別の軽自動車販売でトップとなっているのだ。

 18年1月から各単月での販売台数の差を見ると、1月は7806台、2月は3820台、3月は2729台、4月は1977台と、スズキはトップのダイハツとの差を縮めていき、ついに5月に1492台の差をつけてトップとなった。

 その勢いもあってか、18事業年度締め上半期(18年4~6月)でのブランド別販売台数では、ついにスズキがダイハツを抜いてブランド別軽自動車販売台数第1位となったのである。

新型スペーシアの登場とホンダN-BOXの脅威


 このように、スズキとダイハツが例年にないデッドヒートを展開している要因のひとつに、スズキの新型「スペーシア」の好調な販売がある。

 現行スペーシアがデビューしたのは、17年12月14日だった。このタイミングでのデビューだったので、各ディーラーでの初披露目は年明け3日から全国のスズキ系ディーラーで始まった“初売り”となった。実質1月から本格販売となったため、スズキとダイハツの販売台数差も、1月こそ7806台とけっこうな開きがあったのだが、2月になるとその差は3820台とほぼ半減、年度末決算月となる3月期には2729台にまで縮まった。新型スペーシアの登場がスズキとダイハツのブランド別販売台数差の縮小に貢献していることは、統計数字を見ても明らかといえる。

 ただし、スペーシアがライバルとして想定しているのは、ダイハツ「ムーヴ」ではない。現行ムーヴは14年12月にデビューしており、すでにモデル末期状態になっていることもあり、往時に比べて販売台数は低迷苦戦傾向にあるからだ。スペーシアがライバルとして想定しているのは、本田技研工業(ホンダ)の「N-BOX」である。それは、現行スペーシアのスタイルを見てもすぐにわかる。“スズキ版N-BOX ”と表現してもいいほど、N-BOX をかなり意識したエクステリアデザインとなっているのだ。

 通称名別(一般的に言うところの車名)では、すでに向かうところ敵なし状態のN-BOXは、単月、暦年、事業年度など、ありとあらゆる販売ランキングで圧倒的強さを見せ、トップに立っている。幸いにしてというべきか、ホンダがほかにラインナップしている軽自動車がN-BOXにのみこまれるように、販売低迷傾向にあるので、ホンダというブランド自体は2位のスズキに大差をつけられて3位となっているが、決して油断できる状況ではない。

 販売台数やシェアも気になるところだが、スズキやダイハツがN-BOXを脅威に感じる理由は、それまで軽自動車に興味がなかったり軽自動車に乗ったことがなかったりする消費者を多く惹きつけている点にある。今でも「軽自動車には興味があるが、スズキやダイハツはちょっと……」と考える消費者は少なくない。そのような消費者に対しては“ホンダの軽自動車”というフレーズは効果がある。つまり、本来はスズキやダイハツに流れてくると考えられた“軽自動車ビギナー”的なユーザーをN-BOXが率先して囲い込んでしまい、スズキやダイハツへ十分に流れ込んできていないことを脅威と感じる部分も多いのである。

 日産自動車も三菱自動車工業との合弁会社で開発した軽自動車を販売しているが、ホンダ同様に“日産の軽自動車”という点が大きく、好調な販売が続いている。

“未使用中古車”が生まれる裏側


 ただし、今日の新車販売統計の数字が必ずしも市場での一般消費者の人気のみを反映しているとはいえないのも事実だ。もちろん、小売販売でよく売れているのは大原則なのだが、販売上位車種では、ディーラーなどにある未使用状態で未届け(ナンバープレートのついていない)在庫車をディーラー名義などで届け出を行い、ナンバープレートを取得する“自社届け出”を行い、販売台数の上乗せを図るケースが常態化している。

 たとえば、スズキやダイハツは正規ディーラーと販売協力関係にある“業販店”と呼ばれる街の整備工場などでの販売(業販比率)が、正規ディーラーでの販売比率より高い。しかも、スズキとダイハツの両方の業販店を兼ねているところも多いので、両メーカーの営業担当者はそのような業販店を回り、お互いの販売状況を探りだすなど、メーカーはさまざまなルートでライバルの販売状況の把握に努めているのである。

 そして、月末が近くなると、「あとどれぐらい販売台数を増やせば、ライバルに勝てるか」などの予想を立て、それに基づいて自社届け出を行い、販売台数の上積みを図るのである。そのため、自社届け出は“販売台数の調整弁”などともいわれている。

 そして、自社届け出された車両は未使用のまま半年ほど寝かしておき、ほどほど減価償却が進んだ段階で“届け出済み未使用中古車”として中古車市場に放出されるか、自社届け出後にディーラーの試乗車や点検や整備の際の代車として、半年ほど使った後に“なんちゃって未使用中古車”として、届け出済み未使用中古車より買い得な価格設定で中古車展示場に並ぶこととなる。

ダイハツが“自社届け出”に消極的な理由


 新型スペーシアが販売好調であることを前述したが、そのスペーシアも、N-BOXがライバルということもあり、自社届け出は積極的に行われている。もちろん、N-BOXも程度の差こそあれ同様のことは行われている。

 しかし、ダイハツは少し様子が違うようだ。たとえば、「タント」はモデル末期状況ということもあり、タントを中心に積極的に自社届け出を仕掛けてきてもおかしくないのだが、自動車業界関係者は以下のように語る。

「最近は業者が大量にオーダーを入れ、届け出を行い、ナンバープレートをつけた直後に届け出抹消手続きをして海外に軽自動車が輸出されることが珍しくないのですが、トヨタの完全子会社としての立場もあるようで、それが“よろしくないこと”として、海外輸出が疑われるような大量の発注への監視が強化されているとの話も聞いています。そのようなこともあり、思うような自社届け出活動が、ムーヴも含めてダイハツの軽自動車全般で行えていないようなのです」

 海外輸出のメインは軽トラックなどの商用車となるようだが、結局のところ、国内での自社届け出でも価格の安い軽トラックは販売台数上積みのためによく利用される。そのため、市街地でも“ノンエアコン、ノンパワステ、MT”という売りにくそうな届け出済み未使用中古車の軽トラックが多数展示されることもあるわけだ。

 また、軽自動車業界には「販売ナンバー1」にこだわる事情があるのだが、それは“SD戦争”のゆくえとともに次回に詳述したい。
(文=小林敦志/フリー編集記者)

コマツの“最強コンピュータ”はなぜ狂った?予測不能な新興国で需要読み違え、本社で悲鳴

コマツ 公式サイト」より
 千里眼のように需要を先読みしてくれるはずだった、コマツ自慢のコンピュータ需要予測システムが狂った。

 コマツは4月27日、2016年3月期連結決算は純利益が前期比10.4%減の1380億円となり、2期連続で減益になる見通しだと発表した。同社は、記者会見で2期連続減益の要因を「中国経済減速で建設・鉱山機械の市場が20~25%縮小した。新興国でも需要が減少している」と説明した。

 同日に発表された15年3月期連結決算は、売上高が前期比1.3%増の1兆9787億円、営業利益が同0.7%増の2421億円、純利益が同3.5%減の1540億円だ。ほかの輸出企業と同様、円安の恩恵を十分に受けながら、売上高も営業利益も前年比横ばいを保つのがやっとだった。

 同社は、12年度に策定した中期経営計画(13~15年度)で、建設・鉱山機械需要は13年度を底に徐々に回復すると予測していた。ところが、中国の経済成長減速、新興国の経済成長鈍化、鉱山資源価格下落などの影響で、14年度から主力事業の建設・鉱山機械が大幅な売り上げ減少に陥った。

 特に、12年度まで好調だった鉱山機械・車両の14年度売り上げは前年度比26%減だ。石炭などの価格低迷を受け、体力のない中小資源開発事業者だけではなく、資源メジャーまで新規購入を控え、手持ち鉱山機械・車両を修理しながら使い続ける状況が続いている。

 このため、同社は決算説明会で「現在の経営環境は中計策定時の想定から大きく乖離しており、中計目標の進捗に多大な影響を及ぼしている」と、得意の需要予測の誤りを認めざるを得なかった。

 自信を喪失したかのように、同社が期初から決算の減益予想を発表するのは、リーマン・ショックの影響を受けた09年度以来6年ぶりのことだ。「ダントツ商品、ダントツサービス、ダントツソリューション」の「ダントツ経営」で着実な成長を続け、今や「製造業の優等生」とまでいわれる同社に、いったいなにが起こっているのだろうか。

 関係者への取材から深層を探ると、今はやりのビッグデータを活用したコンピュータ需要予測システム「KOMTRAX(コムトラックス)」に対する過信が見えてきた。

市場の変化をつかめなかった、自慢のコンピュータシステム


 同社の需要予測が狂う兆候は、13年9月から表れていた。ある日、本社の一角で突然、悲鳴のような声が上がる。

「なに、鉱山で使う大型ダンプや油圧ショベルの商談が、国全体でも数件しかないだと?」

 その日、インドネシアの現地法人から送られてきた営業報告は、同国の鉱山機械・車両の冷え切った需要状況を伝えるものだった。本社サイドが分析した「回復基調」の予測は、完全に外れていた。

 その後も需要は回復せず、13年10月下旬、同社は14年3月期の連結営業利益予想を約1000億円下方修正した。

 13年5月、前月に就任したばかりの大橋徹二社長は、インドネシアの首都・ジャカルタにいた。インドネシアは資源バブルの崩壊以降、石炭採掘に使う鉱山機械・車両の需要が減退しており、大橋社長の最大の懸念事項になっていた。そこで、「いつになれば、需要の前提となる石炭市況が回復するのか」を直接確かめたいという思いを抑えきれず、社長就任直後の超多忙な状況にもかかわらず、現地視察を敢行したのだ。

 大橋社長は、現地のコマツ販売代理店や石炭開発会社のトップと面会し、石炭市況の先行きを聞いて回ったのはもちろん、石炭採掘現場に足を延ばし、現場管理者にも石炭市況の見通しを聞いた。

 すると、返ってきたのは、いずれも「しばらくすれば、市況は回復する」という答えだった。「市況の先行きは不安だ」の声は誰からも聞かれなかった。東京で深刻な状況を心配していた大橋社長は、現地関係者のあっけらかんとした反応に拍子抜けする思いだったようだ。

 だが、9月になっても鉱山機械・車両需要回復の兆しは見えなかった。大橋社長が、現地関係者の根拠のない楽観的な見通しを真に受けたことを悔やんだ時は、すでに万事休すだった。同社は、業績予想の下方修正に追い込まれた。

 実は、インドネシア事業の予測外れは、新米社長の判断ミスだけが原因ではなかった。同社が頼りにしていたコムトラックス自体が、変化をつかめなかったのだった。

ビッグデータ収集と製販一体のデータ分析で「万全の需要予測」


 コムトラックスは、通信衛星や携帯電話の回線を使い、コマツが世界中で販売した建設機械や鉱山機械の稼働状況を、リアルタイム監視できる遠隔管理システムだ。

 このシステムに伴い、同社の建設・鉱山機械は、稼働状況を監視するセンサーや稼働場所を特定するGPSを標準装備しており、大阪工場のオペレーションセンターで一元管理されている。

 センターの正面壁には4台の大型モニターが並び、世界各地の工場ラインなどの映像が24時間リアルタイムで映し出されている。オペレータはそれを見ながら、自席のパソコンでコムトラックスを通じて世界中から集まる34万台以上の機械の稼働状況、流通在庫、日々の販売台数などをチェックしているのだ。

 同社は、これらの分析結果などを判断材料に、毎月開催する全社販生会議で、生産台数の増減を月次で決める。ビッグデータ活用の巧拙が、同社の収益を大きく左右しているのだ。

 全社販生会議は、販売部門と生産部門が一体となった同社独特の組織だ。議長は、篠塚久志取締役と、高橋良定専務執行役員が共同で務めている。同会議には、社内から選出された販売・生産の管理職と、藤塚主夫CFOが参加する。

 同会議は、建設・鉱山機械の稼働状況、日次販売状況などのビッグデータ分析に基づき、世界中の同社工場の生産台数を決め、流通在庫最適化を図る、司令塔の役目をしている。

 同社が同会議を設置したのは、11年だ。08年のリーマン・ショックによる世界的な景気後退により、建設機械の在庫が膨れ上がってしまった反省がきっかけだった。当時も、コムトラックスにより機械の稼働状況はリアルタイムで把握していたものの、流通在庫や日次販売状況までは把握できなかったからだ。

 当時の社長だった野路國夫会長の指示で、流通在庫はすべてコマツの資産にした。代理店の資産にしてしまうと、流通在庫を正確に把握できないからだ。その結果、一時は1万8000台もあった流通在庫を約1万台まで削減、以後は適正化を実現している。

 コムトラックスの威力は、それだけではない。さまざまな経済指標と機械の販売データ、機械の稼働データなどをチャート分析すれば、国別の需要予測ができる。さらに、各国の経済成長についても、かなりの精度で予測できるといわれている。当然、それらのデータを販促に活用することもできる。

 例えば、建設機械の稼働時間が半年前より長くなっていれば、それだけ消耗している証拠であり、更新時期が近づいていると推測できる。それにより、同社は競合他社よりも先に営業ができるというわけだ。

 業界内で、コムトラックスが単なる遠隔管理システムではなく「コンピュータ需要予測システム」と見られているゆえんだ。

コンピュータには荷が重すぎた、新興国の需要予測


 そのコムトラックスが、なぜインドネシア市場の変化をつかめなかったのだろうか。

 インドネシアでは13年夏以降、現地関係者が揃って楽観視していたように市況が回復、石炭採掘量が増えていた。当然、コマツの鉱山機械の稼働時間も短縮されていなかった。「全社販生会議でも、コムトラックスの分析からインドネシアの石炭市況は回復に向かっており、鉱山機械の買い替え需要は減らないと判断された」と、同社の関係者は打ち明ける。

 この判断を打ち砕いたのが、インドネシアの通貨であるルピアの急落だった。同年7月以降、ルピアの対ドルレートは約20%も下落した。鉱山機械の取引は、その大半がドル建てだ。現地の石炭開発会社に、コマツの鉱山機械を買い替える余裕はなかった。

 前出の関係者は「インドネシアのように、想定外の要素が絡んでくると、いくら賢いコムトラックスでもお手上げだ」と、コンピュータ需要予測の限界を認めている。

 コマツが「伝統市場」と位置付けている日米欧の先進国市場と、「戦略市場」と位置付けている中国をはじめとする新興国市場は、事業環境がまるで異なる。同社が古くから事業展開を行ってきた先進国では、すでに営業ネットワークが張り巡らされている。このため、マクロの経済データはもとより、顧客個別の経営状況など、生の市場データもつかみやすい。

 一方、同社売上高の過半数を占める新興国では、営業ネットワークが未整備な上、政府発表の経済統計ですら水増しがあるなど、マクロのデータ自体の信憑性が低い。加えて、「販売代理店の販売計画は『やってみなければわからない』というずさんさで、マージン稼ぎの水増し報告も多い。顧客の購入計画も、猫の目のようにコロコロ変わります。そもそも、何が起きるかわからない新興国で、1年先の需要予測をするのは不可能に近い」(建設機械業界関係者)といわれている。

 つまり、不確実な要素が多すぎるため、コンピュータでは需要予測が困難な事業環境といえる。インドネシア市場の需要予測が狂ったのは、インドネシア個別の事情によるものではなかったのだ。

 前出の建設機械業界関係者は、自らの営業経験から、「新興国の需要予測で頼りになるのは、本社の分析ではなく現場の皮膚感覚です」と断言する。

 ビッグデータを活用したコンピュータ需要予測に頼る経営から、人間が需要変化に即応できる経営へ。今回の2期連続減益予想は、コマツにそんな教訓をもたらしたようだ。
(文=田沢良彦/経済ジャーナリスト)

ある小さな町の広報紙がヤバすぎる!写真にスマホをかざすと音声と映像が!

埼玉県三芳町 公式サイト」より

ARとは?


 近年、広報映像の発信方法が多様化している。いわゆる広報番組や広報ビデオというかたちだけでなく、インターネットの活用が当たり前になってきた。そして最近、さらに新たな技術の応用が加わった。AR(オーグメンテッド・リアリティ、拡張現実)技術だ。

 すでに馴染みのあるVR(ヴァーチャル・リアリティ、仮想現実)は、コンピュータによる五感への働きかけによって、人工的な現実感をつくり出す。

 一方、ARは現実のコンテンツに、現実にはない情報を付加することでインパクトを与える。いわば現実の一部を改変するわけで、具体的には目の前にある現実空間にデジタル情報を重ね合わせて表示するのだ。

 5月8日、地方自治体の広報活動向上に寄与することを目的に実施されている「全国広報コンクール」の結果発表があった。筆者は、その映像部門で審査委員を務めているが、2席に入選したのが埼玉県三芳町(人口約3万8,000人)である。

AR技術導入で「手話講座」


 同町では、全国の自治体に先駆けて広報にAR技術を導入し、広報紙『広報みよし』の写真や絵にスマートフォン(スマホ)やタブレット端末をかざすと、映像と音声が流れてくる仕掛けを施した。受賞映像は動画による「手話講座」だ。

 ここでは、手話による季節の挨拶や単語を動画で学ぶことができる。出演しているのは町内の手話サークルのメンバーだ。紙媒体での図解などでは伝えきれないニュアンスも、動画ならよりわかりやすく伝えることができる。全体が軽快で明るく、楽しい映像であることも評価された。

 また、『広報みよし』は、印刷以外、つまり動画撮影や編集をはじめARにかかわるすべての作業(取材、写真撮影、デザインレイアウトなど)を、ほぼ一人の職員が行っていることも特色だ。外部委託ではないため、ARの導入費や運営費用は0円なのである。

 もちろん、他の市町村がそのまま踏襲することはできないかもしれない。しかし、すでにこうした先進的な広報の取り組みが行われていることは、しっかりと認識しておきたい。

 ちなみに映像部門では2席だった同町だが、『広報みよし』は内容や写真のクオリティーが認められ、コンクールの最高賞である内閣総理大臣賞に輝いた。
(文=碓井広義/上智大学文学部新聞学科教授)

“厄介者”社長の超異例経営 倒産寸前から奇跡の復活!元請けを買収、2年で黒字化

セーレン 公式サイト」より
 北陸新幹線の開業に沸く北陸地方。その地で、知る人ぞ知る存在ながら、斜陽といわれる繊維産業の再成長を牽引している地場企業がある。その名はセーレンだ。売上高1000億円あまり、1889年創業の老舗メーカーである。

 30年ほど前まで、セーレンは染色加工事業が主力の繊維製品下請けメーカーにすぎなかった。14期連続の赤字を垂れ流し、業績はボロボロだった。地元では「ボロレン」と揶揄され、会社は危急存亡の秋を迎えていた。

 そんな同社は、社員のやる気を引き出す「仕事の仕組みの変革」で窮地から脱却した。

 さらに、入社直後に経営批判をしたことで「異端児」「厄介者」といったレッテルを貼られ、冷や飯を食わされていた社員が勝手に開発、ヒットした自動車内装材事業を軸に、事業構造改革を断行した。それにより、電磁波シールド、人工血管材、建材シートなどの機能性繊維を次々に開発し、繊維製品の産地・福井県を代表する、先端的な繊維総合メーカーに生まれ変わった。

 同社を一躍有名にしたのは、05年のカネボウの繊維事業買収だ。

 元請けを下請けが買収する異例のM&Aに、当時の繊維業界関係者は一様に驚いた。それだけではない。当時の産業再生機構が「不可能」とさじを投げていたカネボウ繊維事業の再建を、同社はたった2年で達成し、業界を再び驚かせた。

 その後、同社はITを駆使することで、繊維事業を婦人服の製造小売事業に進化させるなど、今ではカネボウ繊維事業が成長エンジンの一つになっている。カネボウの化粧品事業を買収した資生堂の場合、13年に発生した「白斑問題」で被害者から集団訴訟を起こされるなど、カネボウ化粧品事業がお荷物と化しているが、それとは対照的だ。

 同社は、なぜ不可能といわれたカネボウ繊維事業の再建を達成することができたのだろうか?

ふてくされ社員に希望を与えた「川田再建」


 それは、05年秋のことだった。

「カネボウからKBセーレン(セーレンの子会社)に変わって3カ月。みなさんへのあいさつが遅れて申し訳なかった」

 長浜工場で、旧カネボウの全社員に初対面したセーレン社長(現会長)の川田達男氏は、そう陳謝した。旧カネボウ社員たちからどよめきが起こったのも無理はない。

 長浜工場は、かつて「東洋一の綿布工場」と呼ばれた、旧カネボウの主力繊維工場だ。しかし、カネボウは80年代以降の経営不振で倒産、産業再生機構の再建計画で、同社の繊維事業は最下位の「第四分類」にランクされた。

 つまり、繊維事業の再建は不可能と判断されていたわけだ。そんな繊維事業を買い取ったのが、旧カネボウ社員にとっては無名に等しい、福井の染色加工メーカーだった。旧カネボウ社員の誰もが、「田舎の染色屋に、上流の製糸・紡織ができるのか。買収は、カネボウの製造設備と技術の転売目的ではないか」と疑心暗鬼に陥り、「新会社に残れるのは、ほんの一握り。これから、どんな人員整理の嵐が吹き荒れるのやら」と不安に駆られていた。

 ところが、初めて長浜工場の視察に来たセーレンのトップは、開口一番「あいさつが遅れた」と陳謝し、繊維事業再建の道筋を詳細に説明した。「話の意外な展開に、安堵するより唖然とする思いだった」と、旧カネボウ社員は当時を振り返る。

 川田氏が、長浜工場で旧カネボウ社員に説明した繊維事業再建の道筋は、三つだ。

 一つ目は、製品の高付加価値化だ。買収の目的は、製糸から縫製まで繊維製品の一気通貫生産体制の構築である。それにより、低コストで付加価値の高い製品を製造・販売する。したがって、心配しているような人員整理はあり得ないどころか、再建が軌道に乗れば増員が必要になる。

 二つ目は、「カネボウが誇った、日本一の栄光を取り戻そう」というものだ。会社は倒産したが、優秀な人材が残っている。不幸だったのは、旧カネボウで自分たちの独自性を存分に発揮できる環境が与えられなかったということであり、それが倒産の一因でもあった。だから「栄光を取り戻すため、諸君の独自性発揮を尊重する」というわけだ。

 三つ目は「変えよう」である。古い企業体質を変えることができるか否かが、再建の鍵を握る。社員全員が自分の役割と責任を自覚し、仕事への取り組み方を自ら変え、「会社を変えられるのは、自分たちだけだ」という気概で再建に取り組んでほしい、というものだ。

 その後、川田氏は月に一度は長浜工場に足を運び、社員とマンツーマンで話し込み、「もう一度、みんなが夢を持てる会社に作り直そう」と語り続けた。倒産で意気消沈し、ふてくされていた旧カネボウ社員たちも、川田氏の熱意に打たれ、やがて競うように業務改善を提案し、率先して再建に取り組むようになった。

 川田氏は、現場の社員とのコミュニケーションと並行して、90億円の設備投資を断行した。当時は、セーレン本体の設備投資額が年間120億円だったが、生産設備を一新することで、川田氏は再建の本気度を旧カネボウ社員に示したのだ。

 カネボウ時代、設備投資は修繕レベルの年間数億円だったため、彼らは活気づいた。「カネボウ時代は雲上人だったトップが現場へ来て、一対一で自分たちの意見に耳を傾けてくれる。さらに、あり得ないと思っていた最新設備まで入るのだから、再建意識が高まるのは当然でした。今では、新規事業創出にチャレンジするまで士気が上がっています」と、前出の社員は語る。

カネボウ買収で完結した、セーレンの一気通貫事業モデル


 セーレン自身にとっても、旧カネボウ繊維事業再建は、斜陽の繊維産業で自社が生き残るための必須条件だった。

 90年代、自動車内装材事業に参入した同社は、製品の低コスト化と品質向上を図るために一気通貫の生産体制構築が不可欠と考え、織り・編み、染色加工、縫製の内製化を進めた。しかし、製糸の内製化だけが未解決だった。

 上流工程の製糸を、非製糸メーカーがゼロから立ち上げるのは、無理に等しい難題だった。そこで、製糸メーカーの買収先を物色していた矢先の04年に、カネボウが倒産した。事業再建が不可能と判断され、買い手がなかったカネボウ繊維事業を、セーレンは運良く買収した。

 したがって、カネボウ繊維事業の再建は、同社の至上命題だった。再建に失敗すると、製糸工程の内製化が頓挫し、一気通貫生産体制の構築が不可能になる。しかし、再建に時間がかかれば、それだけコストが膨らみ、品質向上も中途半端になる。

 このため、川田氏は優秀だった旧カネボウ社員を「再建に巻き込んで、自主的に動かそう」と考え、潜在能力を引き出すための環境整備に腐心した。指示待ち意識を払拭し、自主性、責任感、使命感を植え付けることに注力したのだ。

 そうした努力の結果、KBセーレンは設立2年目の07年3月期に営業利益14億円を達成、長年の赤字から脱却した08年3月期に、営業黒字が約17億円の増益となり、再建が確定的となる。同時に、セーレンは自動車内装材を製糸から販売まで一気通貫で行う、現在の事業モデルの原型も確立させた。

再建を妨げる問題をあぶり出せ


 カネボウ繊維事業再建成功の秘訣は、実はセーレン自身の経営再建体験にあった。

 セーレンは、繊維製品メーカーの染色工程を下請けして加工賃を稼ぐだけの事業に安住し、80年代の繊維不況で倒産寸前に陥った。その時、創業家の指名で、末席取締役から社長に抜擢されたのが、子会社の自動車内装材の開発・販売で唯一売り上げを伸ばしていた川田氏だった。「異端児」「厄介者」といったレッテルを貼られ、社内で冷や飯を食わされていた社員というのは、川田氏のことである。

 しかし、危機感をあらわにして、社員に自主性、責任感、使命感の大切さをいくら訴えても、彼らはまったく動かなかった。そこで初めて、川田氏は「かけ声や説教では、長年染み付いた意識は変わらない。仕事の仕組みを変えなければ、意識は変わらない」と気付いた。

 その後、具体的な経営再建方針を示すと同時に、目標と実績のギャップから、再建を妨げている問題を顕在化させる仕組みと、問題が起きたら管理職が責任を持って解決し、再発を防ぐ仕組みを導入した。その一方で、染色加工メーカーとして蓄積した技術を水平展開し、新製品開発や新事業創出につなげていった。

 そうした「仕事の仕組みの変革」の中から、現在の主力事業の一つとなっている、デジタル染色システム・ビスコテックスが開発され、オーダーメード婦人服の製造小売事業が誕生した。

 経営再建の柱となり、現在は売上高の54.7%(15年3月期)を占める自動車内装材は、国内シェア約40%、世界シェア約15%の事業に育っている。

 まず「目標ありき」の計画経営ではなく、「問題点を顕在化させる」ことを重視し、さらに既存技術の水平展開で新事業を育てる「逆転の発想の経営」が、同社再建の要因となった。

 それにより、社員が仕事に自信を持ち、ユーザーと直接接触する製造小売事業モデルがユーザーを意識したモノ作りを促し、社員の意識は完全に変わった。

「ファッション流通革命」への挑戦


 その後、同社はビスコテックスをオーダーメード婦人服のオンデマンド販売システムに進化させた。これにより、大量生産から1着ずつの個別生産が可能になった。同社は、消費者が買いたい時に、自分だけのオリジナル婦人服が買える「ファッション流通革命」を起こそうとしている。狙いは、需要創出だ。

 それに向けた、オリジナル婦人服専門店「ビスコテックス・メーク・ユア・ブランド」1号店を、4月1日に福井市の本社で開業した。今後は、実需ベースでシステムの改善を続け、1~2年で全国の有名百貨店を中心にチェーン展開する計画だ。

 同社にとって、経営不振は「経営者の怠慢」、成長は「需要創出」を指すようだ。
(文=福井晋/フリーライター)