ドローン、危険ばかり挙げて過剰規制の愚かさ ビジネス化で大きく世界に遅れる懸念

DJI社製ドローン「ファントム2」

「規制」でアドバンテージを逃したイギリス

 18世紀後半のイギリスでは、蒸気機関車を発明したジェームズ・ワットの助手であるウィリアム・マードックにより、蒸気自動車の開発が他の国に先駆けて行われていた。1833年には世界で最初の自動車による都市バスの営業がロンドンで始まり、36年にはロンドンから海辺のブライトンまで1万人以上の旅客を輸送していた。まさに当時のイギリスは、自動車分野のビジネスで世界の最先進国になりつつあった。

 しかし、どの時代・どの国においても新しい技術に対して脅威を感じる人は多く、異論や反論は起こる。19世紀のイギリスにおいて、「鉄のイノシシ」である自動車に対してその利便性より脅威を感じる人も多く、さまざまな妨害や過剰な規制が行われるようになった。

 その最たる例の1つは65年に導入された「赤旗法」だ。この法律によって、自動車は市外では時速4マイル(約6.4キロ)、市内では時速2マイル(約3.2キロ)と普通の人が歩くスピードよりも遅い時速で走ることが義務付けられてしまったのだ。こうなってしまうと、当時の「競合」である馬車よりも速く移動できることに魅力を感じた人も利用は遠のく。これにより、世界の先頭を走っているはずだったイギリスで自動車産業は衰退してしまい、法的規制が少なかった米国などにその立場を譲ることになった。

見過ごせないドローンのポテンシャル


「空の産業革命」を牽引するともいわれているドローンについても、日本をはじめとする各国で同じようなことが起こりつつある。ドローンとは、もともとは軍事用として使われてきた無人飛行機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)のことで、米アマゾンが小型無人機による「空の宅配サービス」を始めると発表したことから急激に注目を集めるようになった。

 しかし、昨年に起きた米国ホワイトハウスや日本の首相官邸への侵入事件により、テロや犯罪に悪用される問題や、企業や他人のプライバシー侵害の問題、空中での事故発生の問題などが懸念され、飛行を規制する声が上がっている。欧米諸国ではすでに商用利用について許可制を敷くなど制度策定が進められているが、日本は検討中の段階だ。今後、飛行場所や速度、機体重量、操縦者の免許登録等の規制が遅かれ早かれなされるだろう。

 しかしながら、かつてのイギリスのように過剰反応でイノベーションの芽を摘んでしまうようなことは避けたいところだ。ドローン市場のポテンシャルは大きい。米国際無人機協会(AUVSI:Association for Unmanned Vehicle Systems International) が発表した「ECONOMIC REPORT」によると、ドローンの市場規模は2025 年までに米国内だけでも820億ドル(約10兆円)に達し、10万人以上の新たな雇用を生み出すと予測されている。また、前述したアマゾン以外にも、グーグルやDHL、AIG、ドミノピザなど、多様な企業がドローンのビジネスでの活用を積極的に模索している。

先進的な「ドローン・マーケティング」の活用


 ドローンには、具体的にどのような活用の可能性があるのか。ドローンの活用事例として「空撮(空中からの撮影)」や「宅配」「農業支援」などがよく挙げられるが、ここでは、「マーケティング」にフォーカスして簡単に見ていこう。模索中の段階ではあるものの、ユニークな活用パターンが散見される。

(1)Product:既存商品の代替/進化

 今年1月にラスベガスで開催された家電ショー「CES2015」では、ドローンに関する展示も多かった。その中で注目を浴びたものの一つが「Nixie」。簡単にいえば、自撮り(セルフィ)のドローンだ。腕時計サイズのドローンで、通常は腕に巻きつけておき、自撮りしたいときにアームを伸ばして飛ばし、自分を写してくれるものだ。撮影後は、まるでブーメランのように空中浮遊して戻ってくる。

出典:「Damn Geeky」

(2)People:無人化(+サービスのエンタメ化)

 次に紹介するのは、ウエイターに代わって店内で料理や飲み物を運んでくれるドローン。シンガポールのフードチェーンの「The Timbre Group」が計画中だが、すでに実験段階を終えており、今年中には国内5店舗に40機あまりのウエイター・ドローンを本格的に導入する予定。さらに、料理や飲み物を運ぶだけでなく、メニューの注文や支払い対応もできるように開発を計画しているとのこと。

出典:「Lindsworth Deer」(mythoughtsontechnologyandjamaica.blogspot.com)http://mythoughtsontechnologyandjamaica.blogspot.jp/2015/03/Singapore-Timbre-Waiters-Infinium-Robotic-Drones-Robot.html

(3)Promotion:広告手法の多様化
 
 ドローンによって、今まで考えられなかったユニークな広告手法も可能になっている。ロシアのモスクワにあるアジア系レストランではドローンに昼食の広告チラシを搭載し、オフィスビルの前をランチタイムの直前に飛び回った。この広告手法は大成功し、これをきっかけにドローンを用いた広告手法は「Drone-vertising(Drone advertisingの略称)」として世界的に知られることになった。

(4)Place:店舗空間の拡張化

 ここまでは海外の事例を紹介したが、最後に国内の事例を紹介しよう。クロックス・ジャパンは、3月に東京ミッドタウンでドローンを使った世界初の「空中ストア」を期間限定でオープン。ストア内のiPadで欲しいシューズの色を選ぶと、ドローンが空高く舞い上がり、高さ5メートル、幅10メートルの巨大ディスプレイから指定された色の靴を運んで持ってきてくれる。今後も、こういったプロモーションが増える可能性はあるだろう。

これからも「ドローン的」なテクノロジーを見逃すな


 はじめに紹介した自動車に限らず、3Dプリンタによる銃製造やウェアラブル端末によるプライバシー侵害など、新しいテクノロジーには脅威や問題がつきものだ。悪用されない、一切の問題がないテクノロジーなどはむしろまれであり、大半は何かしらの問題があり、規制が加えられると考えたほうが自然だろう。ただし、規制されるリスクがあるからといって、企業がそのテクノロジーの活用を先延ばしにすることは避けなければならない。

 かつてイギリス自動車産業で起こった過剰規制の二の舞いを演じないためにも、そのテクノロジーがもたらす価値は何か、自分たちのビジネス全体やマーケティングにどう活用することができるか、ゆっくりでもプロペラを回して前に進んでみることが重要だ。
(文=村澤典知/インテグレート執行役員、itgコンサルティング執行役員)

●村澤典知
インテグレート執行役員、itgコンサルティング執行役員。一橋大学経済学部卒。トヨタ自動車のグローバル調達本部では、調達コスト削減の推進・実行を中心に、新興国市場での調達基盤の構築、大手サプライヤの収益改善の支援に従事。博報堂コンサルティングでは、消費財・教育・通販・ハイテク・インフラなどのクライアントを担当し、全社戦略、中長期戦略、マーケティング改革、新規事業開発、新商品開発の導入等のプロジェクトに従事。A.T.カーニーでは、消費財・外食・自動車・総合商社・不動産・製薬業界などの日本を代表する企業のグローバル成長戦略、中期経営計画、マーケティング改革(特にデジタル領域)、M&A、組織デザイン、コスト構造改革等のプロジェクトに従事。2014年より現職。大手メーカーや小売、メディア企業に対し、データ利活用による成長戦略やオムニチャネル化、新規事業開発に関する戦略策定から実行までの支援を実施。

・株式会社インテグレート http://www.itgr.co.jp/

ドローン、危険ばかり挙げて過剰規制の愚かさ ビジネス化で大きく世界に遅れる懸念

DJI社製ドローン「ファントム2」

「規制」でアドバンテージを逃したイギリス

 18世紀後半のイギリスでは、蒸気機関車を発明したジェームズ・ワットの助手であるウィリアム・マードックにより、蒸気自動車の開発が他の国に先駆けて行われていた。1833年には世界で最初の自動車による都市バスの営業がロンドンで始まり、36年にはロンドンから海辺のブライトンまで1万人以上の旅客を輸送していた。まさに当時のイギリスは、自動車分野のビジネスで世界の最先進国になりつつあった。

 しかし、どの時代・どの国においても新しい技術に対して脅威を感じる人は多く、異論や反論は起こる。19世紀のイギリスにおいて、「鉄のイノシシ」である自動車に対してその利便性より脅威を感じる人も多く、さまざまな妨害や過剰な規制が行われるようになった。

 その最たる例の1つは65年に導入された「赤旗法」だ。この法律によって、自動車は市外では時速4マイル(約6.4キロ)、市内では時速2マイル(約3.2キロ)と普通の人が歩くスピードよりも遅い時速で走ることが義務付けられてしまったのだ。こうなってしまうと、当時の「競合」である馬車よりも速く移動できることに魅力を感じた人も利用は遠のく。これにより、世界の先頭を走っているはずだったイギリスで自動車産業は衰退してしまい、法的規制が少なかった米国などにその立場を譲ることになった。

見過ごせないドローンのポテンシャル


「空の産業革命」を牽引するともいわれているドローンについても、日本をはじめとする各国で同じようなことが起こりつつある。ドローンとは、もともとは軍事用として使われてきた無人飛行機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)のことで、米アマゾンが小型無人機による「空の宅配サービス」を始めると発表したことから急激に注目を集めるようになった。

 しかし、昨年に起きた米国ホワイトハウスや日本の首相官邸への侵入事件により、テロや犯罪に悪用される問題や、企業や他人のプライバシー侵害の問題、空中での事故発生の問題などが懸念され、飛行を規制する声が上がっている。欧米諸国ではすでに商用利用について許可制を敷くなど制度策定が進められているが、日本は検討中の段階だ。今後、飛行場所や速度、機体重量、操縦者の免許登録等の規制が遅かれ早かれなされるだろう。

 しかしながら、かつてのイギリスのように過剰反応でイノベーションの芽を摘んでしまうようなことは避けたいところだ。ドローン市場のポテンシャルは大きい。米国際無人機協会(AUVSI:Association for Unmanned Vehicle Systems International) が発表した「ECONOMIC REPORT」によると、ドローンの市場規模は2025 年までに米国内だけでも820億ドル(約10兆円)に達し、10万人以上の新たな雇用を生み出すと予測されている。また、前述したアマゾン以外にも、グーグルやDHL、AIG、ドミノピザなど、多様な企業がドローンのビジネスでの活用を積極的に模索している。

先進的な「ドローン・マーケティング」の活用


 ドローンには、具体的にどのような活用の可能性があるのか。ドローンの活用事例として「空撮(空中からの撮影)」や「宅配」「農業支援」などがよく挙げられるが、ここでは、「マーケティング」にフォーカスして簡単に見ていこう。模索中の段階ではあるものの、ユニークな活用パターンが散見される。

(1)Product:既存商品の代替/進化

 今年1月にラスベガスで開催された家電ショー「CES2015」では、ドローンに関する展示も多かった。その中で注目を浴びたものの一つが「Nixie」。簡単にいえば、自撮り(セルフィ)のドローンだ。腕時計サイズのドローンで、通常は腕に巻きつけておき、自撮りしたいときにアームを伸ばして飛ばし、自分を写してくれるものだ。撮影後は、まるでブーメランのように空中浮遊して戻ってくる。

出典:「Damn Geeky」

(2)People:無人化(+サービスのエンタメ化)

 次に紹介するのは、ウエイターに代わって店内で料理や飲み物を運んでくれるドローン。シンガポールのフードチェーンの「The Timbre Group」が計画中だが、すでに実験段階を終えており、今年中には国内5店舗に40機あまりのウエイター・ドローンを本格的に導入する予定。さらに、料理や飲み物を運ぶだけでなく、メニューの注文や支払い対応もできるように開発を計画しているとのこと。

出典:「Lindsworth Deer」(mythoughtsontechnologyandjamaica.blogspot.com)http://mythoughtsontechnologyandjamaica.blogspot.jp/2015/03/Singapore-Timbre-Waiters-Infinium-Robotic-Drones-Robot.html

(3)Promotion:広告手法の多様化
 
 ドローンによって、今まで考えられなかったユニークな広告手法も可能になっている。ロシアのモスクワにあるアジア系レストランではドローンに昼食の広告チラシを搭載し、オフィスビルの前をランチタイムの直前に飛び回った。この広告手法は大成功し、これをきっかけにドローンを用いた広告手法は「Drone-vertising(Drone advertisingの略称)」として世界的に知られることになった。

(4)Place:店舗空間の拡張化

 ここまでは海外の事例を紹介したが、最後に国内の事例を紹介しよう。クロックス・ジャパンは、3月に東京ミッドタウンでドローンを使った世界初の「空中ストア」を期間限定でオープン。ストア内のiPadで欲しいシューズの色を選ぶと、ドローンが空高く舞い上がり、高さ5メートル、幅10メートルの巨大ディスプレイから指定された色の靴を運んで持ってきてくれる。今後も、こういったプロモーションが増える可能性はあるだろう。

これからも「ドローン的」なテクノロジーを見逃すな


 はじめに紹介した自動車に限らず、3Dプリンタによる銃製造やウェアラブル端末によるプライバシー侵害など、新しいテクノロジーには脅威や問題がつきものだ。悪用されない、一切の問題がないテクノロジーなどはむしろまれであり、大半は何かしらの問題があり、規制が加えられると考えたほうが自然だろう。ただし、規制されるリスクがあるからといって、企業がそのテクノロジーの活用を先延ばしにすることは避けなければならない。

 かつてイギリス自動車産業で起こった過剰規制の二の舞いを演じないためにも、そのテクノロジーがもたらす価値は何か、自分たちのビジネス全体やマーケティングにどう活用することができるか、ゆっくりでもプロペラを回して前に進んでみることが重要だ。
(文=村澤典知/インテグレート執行役員、itgコンサルティング執行役員)

●村澤典知
インテグレート執行役員、itgコンサルティング執行役員。一橋大学経済学部卒。トヨタ自動車のグローバル調達本部では、調達コスト削減の推進・実行を中心に、新興国市場での調達基盤の構築、大手サプライヤの収益改善の支援に従事。博報堂コンサルティングでは、消費財・教育・通販・ハイテク・インフラなどのクライアントを担当し、全社戦略、中長期戦略、マーケティング改革、新規事業開発、新商品開発の導入等のプロジェクトに従事。A.T.カーニーでは、消費財・外食・自動車・総合商社・不動産・製薬業界などの日本を代表する企業のグローバル成長戦略、中期経営計画、マーケティング改革(特にデジタル領域)、M&A、組織デザイン、コスト構造改革等のプロジェクトに従事。2014年より現職。大手メーカーや小売、メディア企業に対し、データ利活用による成長戦略やオムニチャネル化、新規事業開発に関する戦略策定から実行までの支援を実施。

・株式会社インテグレート http://www.itgr.co.jp/

アマゾンと角川、取次「中抜き」の差別化 アマゾンがケンカで見せつけた「強かさ」

KADOKAWAの書籍
 大手出版社KADOKAWAが、インターネット通販大手アマゾンジャパンと書籍や雑誌の直接取引を始めている。従来は取次といわれる日本出版販売やトーハンなどの卸を経由して、アマゾンに書籍や雑誌を卸していた。このKADOKAWAの施策は、差別化として他出版社に優位に機能するだろうか。

 そもそも差別化が機能するには、以下の3つの要素が必要である。

(1)顧客に「有意差」を感じさせること
(2)簡単に真似されない差別化を実現すること
(3)次から次へと差別化を実現すること

 差別化を感じるのは「企業」ではなく「顧客」である。だから、企業が「この施策は差別化できている」といくら言っても、顧客がそれを他企業の施策と比較して「有意差」=「意味のある差」として感じないと、差別化は機能しない。

顧客にとっての有意差


 では、今回のKADOKAWAの施策は、顧客にとって有意差があるものだろうか。

 取次を経由しなければ、その分KADOKAWAからアマゾンへ書籍や雑誌が早く届くだろうが、既刊の場合、もともとアマゾンに在庫があることも多い。なので、バックヤードでKADOKAWAとアマゾンの連携が進んだとしても、顧客の目からみればサービスレベルはあまり変わらない。だから顧客は有意差を感じないだろう。

 もっとも、人気のある新刊が出た場合、アマゾンにとっても顧客にとってもメリットはある。アマゾンは在庫リスクを考え、他の書店と比べれば数量は多いものの、新刊の納入量はある一定程度しかないからだ。そのため、人気のある新刊が出た場合、たいてい発売から数日で在庫切れを起こし、1週間程度それが続くこともある。著者や出版社からしてみれば、せっかくの販売機会をロスしていることになるし、それはアマゾンにとっても同様である。

 よって、人気のある新刊が出て、在庫がなくなり販売機会を逸している場合は、今回の連携はKADOKAWAにとってもアマゾンにとっても、そして顧客にとっても「意味のある差」になるだろう。しかし、このような連携はないよりあるほうがもちろんよいのだが、顧客にとって「有意差」を感じさせるかというと、限定的であるといえる。

KADOKAWAにとって差別化になるのか


 一方、簡単に真似されない差別化かどうかという観点ではどうだろうか。

 これはKADOKAWAに追随する出版社が現れるかどうかで決まる。既存の取引関係を崩すのは、出版社にとっても覚悟のいることであり、そう簡単に判断できない。だから、同社に追随する出版社が現れなければ、簡単に真似されない差別化ということになり、同社の今回の施策は、差別化として機能し続けることになる。

 しかし、出版社のうち数社が同じように取次を経由しないという決断をすれば、おそらく雪崩を打つように多くの出版社が追随するだろう。そうなると、簡単に真似される差別化ということになり、今回の施策は差別化として機能しないことになる。したがって、この施策が差別化として機能するかどうかは、多くの出版社が取次を経由しないという意思決定をするかどうかで決まることになる。

 今回の施策は、KADOKAWA側からみれば取次の中抜きということになるのだが、アマゾンからみれば取次機能の内製化ということになる。取次も高い在庫機能を持っているが、アマゾンも同様なので、アマゾンからしてみればKADOKAWA以外にも直接取引をする出版社を増やし、取次機能を内製化していきたいという考えなのだろう。

 それにしても、こういう施策を打てるアマゾンはすごい。というのも、取次業界2強の日本出版販売、トーハンとアマゾンは、取引関係を持っているからだ。アマゾンにとって取次は、パートナーであると当時にライバルでもある。言い換えれば、アマゾンは右腕で取次と握手をし、左手でケンカをしているようなものである。

したたかなアマゾンの戦略


 では、なぜアマゾンにこういう施策ができて、他の書店にはできないのだろうか。

 それは、出版業界の構造に原因がある。出版業界は、出版社→取次→書店という流通構造で顧客に書籍や雑誌が届けられる。それぞれの売上高を見ていくと、出版社上位の講談社、集英社、小学館が1000~1200億円。取次は寡占状態にあるので、上位の日本出版販売やトーハンが5000~6000億円、書店上位の紀伊國屋書店や丸善が1000億円前後である。

 つまり、(1)中堅企業が集まる出版社、(2)寡占状態なので大企業の取次、(3)中堅企業が集まる書店という構造になっているので、流通の支配権は大企業の取次にあった。

 しかし、アマゾンは書籍部門の売り上げは明らかになっていないものの、12年の国内売上高は約7800億円。取次大手とも十分な交渉力を持てるだけの企業規模だといえる。

 今回の施策をKADOKAWA側からみると、差別化として機能するかどうかはまだ判断できないが、アマゾン側からみると、取次をコントロールしながら自社に優位な取引を拡大していく意味のある施策になるといえるだろう。

 新聞や雑誌である施策が取り上げられている時には、その論調とは立場を変えて考えてみるとよい。今回の場合は、KADOKAWA寄りの立場で解説される報道が多いが、それをアマゾン寄りの立場で考えてみるのだ。立場を変えて考えることにより、その施策は誰にどのような意味があるのか、新たな発見をすることができる。
(文=牧田幸裕/信州大学学術研究院<社会科学系>准教授)