ルノー、日産へのTOBも取り沙汰…ルノー経営陣が日産乗り込み、西川社長退任説も

日産自動車・西川廣人社長兼CEO(写真:つのだよしお/アフロ)

 日産自動車は5月17日、6月25日に開催する定時株主総会へ向けた人事案を発表した。

 新しい取締役候補は11人。筆頭株主のルノーから経営トップ2人を迎え、日産の生え抜きと同数になった。残る7人は社外取締役で、全体の過半数を占める。

 ルノーからはジャンドミニク・スナール会長(日産取締役)が続投。新たにティエリー・ボロレCEO(最高経営責任者)が加わる。ボロレ氏の取締役就任はルノー側の強い要求で、これを日産が受け入れた。

 日産側は西川廣人社長兼CEO、山内康裕COO(最高執行責任者)の2人。5月16日付でCOOに就いた山内氏が新たに取締役となる。

 西川氏の続投に関しては、検討段階で「ゴーン前会長の不正を見過ごした責任を問う声が出た」(日産の元役員)という。

 新たな取締役候補を選ぶ「暫定指名・報酬諮問委員会」の井原慶子委員長(日産の社外取締役で新体制でも留任)は「不正の看過、検査不正、業績悪化について責任を問う声もあったが、経営の継続性を考えた」と述べた。「ルノー、三菱自動車とのアライアンス強化という面で(西川社長続投は)ふさわしい。刷新するのはリスクがある」(同)と判断したという。

 井原氏はボロレ氏が日産の取締役に就任することについて「日産の自立性を阻害しないか、十分に検討した。ボロレ氏は(日産の)代表権もなく、執行権もない。(ゴーン被告に権限が集中した)以前とはまったく違う」と説明した。

 西川氏の続投とボロレ氏の役員就任は、「日産・ルノーの妥協の産物」との見方が強い。「ギブ・アンド・テイク」と関係者は言う。日産はルノーとの交渉を担ってきた西川氏を交代させたくないと考え、ルノーに同氏の続投を承認してもらう代わりに、ボロレ氏を受け入れたというのだ。

 では、西川体制はいつまで続くのか。「2020年3月決算の中間決算がまとまる今年秋まで」と、ルノー及びフランス政府は考えているフシがある。2019年9月中間決算の業績がさらに悪化すれば、「西川社長の責任論が日産社内からも再び出てくる」(日産関係者)とみられているからだ。

 日産とルノーの提携協定には、ルノーから迎える取締役は日産の生え抜きを1人下回る「nマイナス1」というルールがある。ルノーの過度の経営干渉を防ぐ狙いだ。日産にとって対ルノーの「切り札のひとつ」なのに、今回の人事では適用を見送った。“来るべき日”に備えて力を温存したと前向きに評価できるかどうかは、今後の日産の経営方針の決定の過程で明らかになろう。

 井原氏は「スナール氏とボロレ氏からは、日産の業績回復が最優先で、しっかり支えていくと言及があった。問題ないと取締役会でも判断した」と強調したが、「そんなきれいごとではない」と冷ややかに見る向きが多い。

 常勤の取締役をルノーは2人確保した上、社外取締役に仏ミシュランタイヤ日本法人(日本ミシュランタイヤ)会長のベルナール・デルマス氏を推薦。日産はこの提案も飲んだ。ミシュランはスナールの出身企業でもある。

 一方、日産は現在の常勤監査役の永井素夫氏が社外取締役の候補になった。永井氏は、みずほ信託銀行の元副社長である。

 井原氏と豊田正和氏の社外取締役は続投。永井、井原、豊田の3氏を日産側とカウントすれば“日産関係者”は5人となる。ルノーは3人なので、数の上で有利となる、と日産社内では皮算用している。ちなみに、豊田氏は日本エネルギー経済研究所理事長で経済産業省OB。

 取締役会議長には新たに社外取締役となる木村康・JXTGホールディングス相談役(前経団連副会長)の就任が有力視されている。

 取締役会議長への就任を念頭に取締役に招請することを検討してきた榊原定征・前経団連会長は候補に残らなかった。榊原氏は日産のガバナンス改善特別委員会の共同委員長を務めたうえ、暫定指名・報酬諮問委員会の委員でもある。日産に会長職を廃止して取締役会議長のポストを新設するよう提言したガバナンス委の主要メンバーが、自らその役職に就くことを疑問視する声が社内外にあった。「お手盛り」と強く批判されてきた。

“ゴーン・チルドレン”の筆頭といわれてきた志賀俊之氏は、取締役を退任する。

 西川新体制は「統合」の火種を残したままスタートを切ることになる。6月の定時株主総会で西川氏への賛成票がどの程度になるかに関心が移った。「80%」を切るようなら、「株主は実質不信任を西川氏に突きつけた」との厳しい評価が下されることになる。

 日産は監査役設置会社から指名等設置会社に移行する。経営の執行と監督機能を分離し、再び“カルロス・ゴーン事件”が起きないようにする腹づもりだが、「ルノーvs.日産」のつばぜり合いが激化することは避けられない。

日産vs.ルノー、これまでの経緯

 18年11月、カルロス・ゴーン日産元会長が逮捕されて以降、ルノー・日産の対立が表面化したが、その後、議論を一旦棚上げにして衝突を回避してきた。

 ところが、ルノー側が態度を一変。日産に経営統合を再提案した。ルノーの筆頭株主である仏政府の意向とされている。

 仏経済紙レゼコーは4月26日、ルノーが日産に要求している経営統合について、「両社が対等な関係でアジアの第三国に持ち株会社を設立する計画が浮上している」と報じた。「持ち株会社は東京、パリの双方の証券市場に上場。両社の株主が受け取る持ち株会社の株式比率は公平になるように定める。日産がルノーとの対等な関係を求めることに配慮して、ルノーの依頼を受けた金融機関がまとめた。ルノーの筆頭株主である仏政府は受け入れに前向き」という内容だ。

 日産は6月25日の定時株主総会で監査役会設置会社から指名委員会等設置会社へ移行することを決めており、西川氏の続投を中心とする新たな経営陣の人選の真っただ中だった。

 ルノーがあえて経営統合を提案したのは、43.4%を出資する大株主であることを日産側に強く再認識させる狙いがある。日産の新たな経営陣にも、将来の統合に向けた議論を常に念頭に置くよう、要求したものと受け止められた。

 日産は4月23日、ナンバー2のCOOに山内康裕CCO(チーフ・コンペティティブ・オフィサー)を昇格させるなどの執行役員人事を発表した。13年、志賀俊之取締役がCOOを退任し、空席となっていたCOOのポストが約5年ぶりに復活する。

 副COO職を新設し、仏ルノー出身のクリスチャン・ヴァンデンヘンデCQO(チーフ・クォリティー・オフィサー)が兼務する。いずれも5月16日付だ。

 山内氏は81年、国際基督教大学教養学部社会科学科を卒業し、日産に入社。購買部門の経験が長く、CCOとして生産や研究開発・購買の3部門を統括してきた。今後は世界規模のマーケティングや営業なども幅広く担当。ルノーの取締役も務めている。

 日産は17年9月、資格のない担当者による検査の不正が発覚した。18年9月、再発防止に向けた対策を発表。検査担当者の増員や新たな測定装置などを導入。今後6年間で約1800億円を投資する。今年度、約670人を工場の検査関係で採用する計画も明らかにした。このとき記者会見したのが山内氏だ。「コスト管理と品質保証の優先順位が正しく判断されていなかった」と述べた。

 日本事業担当の星野朝子氏、渉外担当の川口均氏、開発担当の中畔邦雄氏の3人の専務執行役員を副社長に昇格させる。事業の立て直しを担うポスト「パフォーマンス・リカバリー」を新設し、生産技術担当の関潤氏を専務執行役員のまま専任させる。

 星野、川口、関の3氏と、中国担当の内田誠、北米担当のホセ・ルイス・バルスの両専務執行役員を最高意思決定機関のエグゼクティブ・コミッティ(EC)のメンバーに新たに加える。

 星野氏の夫は星野リゾートの星野佳路社長。朝子氏は旧日本債券信用銀行出身のマーケティングのプロで、ゴーン前会長がスカウトして専務執行役員に大抜擢した。

 川口氏はゴーン追放を仕掛けた中心人物のひとりとされている。菅義偉官房長官との太いパイプを持つ。

 日本・アジア・オセアニア事業を担当するダニエル・スキラッチ副社長は、5月15日付で退任した。今年1月の電気自動車(EV)リーフの改良型を発表する会見でスピーチを任されるなど、世界に向けた「日産の顔」であった。スキラッチ氏はゴーン派ではないが、混乱続きの日産に見切りをつけたとみられている。

 日産とルノーの合意文書には「ルノーは日産のCOO以上のポストの人材を指名できる」とある。4月23日の取締役会で人事案の議論にテレビ電話方式で参加したルノーのジャンドミニク・スナール会長から「山内氏のCOO就任について異論は出なかった」(日産幹部)とされる。

 その一方で、スナール氏は4月12日、パリで日産の西川社長に経営統合を打診したと伝えられている。提案と合わせてボロレ氏を日産の取締役にすることや、ルノー出身者をCOO以上のポストに就任させるよう求めたとされている。合併推進派を複数、日産の経営陣に送り込み、日産の取締役会で議論をリードしていくとの思惑がある。

 日産とルノーがぶら下がる持ち株会社のトップ(会長兼CEOが有力)の椅子には、スナール会長が座る案が現地では報道された。

日産の株価が急落

 日産の株価が下げ足を速め、連日の安値更新となった。5月15日には一時、8%安で800円割れとなった。一時、772.8円と年初来安値をつけた。20日には一時、763.9円まで下げ、再び年初来安値を更新した。

 5月第3週末にはゴーン元会長が逮捕されて半年を迎えたが、逮捕当日(18年11月19日)の終値は1005.5円。5月15日現在で23.1%安だ。同じ期間でみるとトヨタは1.8%安、本田技研工業(ホンダ)は13.2%安で、日産の下げが突出している。

 日産の20年3月期決算の連結純利益が46.7%の減益。トヨタは19.5%増益でホンダも8.9%増益を予想している。収益格差が株価に反映されている、とアナリストは分析する。

 北米販売の不振、ゴーンの拡大路線のツケ、19年3月期の営業利益が10年ぶりにルノーのそれを下回ったなど、ネガティブな報道が相次いだ。

 株価急落のもうひとつの原因が減配(前期57円から今期40円に減らす)だ。過去には、会社の実力を上回る高い配当を実施してきた。これはゴーン体制下、配当金は43.4%の大株主のルノーへの貢ぎ物という側面があった。ルノーvs.日産の対立が激化すれば、今後も減配の可能性がある。

 ただ、日産の株価がこれ以上下がると、「ルノーによるTOB(株式公開買い付け)の動きが出てくる」(パリ在住の自動車アナリスト)という見方もあるため、注視し続ける必要がある。
(文=編集部)

ZOZO、資金難示す材料も…前澤社長所有分の同社株式9割が銀行担保に

ZOZO前澤友作社長(AFP/アフロ)

 ZOZO前澤友作社長の言葉を借りるなら、これも「クソ記事」ということになるのかもしれない。前澤氏はツイッターで「人生の肥料はクソ記事」と言い放ったからだ。

 アパレル通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するZOZOの2019年3月期連結決算の売上高は、前期比20.3%増の1184億円と増収だったが、営業利益は同21.5%減の256億円、純利益は同20.7%減の159億円と上場以来初の減益となった。年間配当は24円とし、前期(29円)から5円減らした。

 18年4月に発表した初の中期経営計画で、前澤は「10年以内に時価総額5兆円」「グローバルアパレルトップ10入り」とぶち上げた。年間2~3割伸ばしてきた商品取扱高を21年3月期に18年3月期比2.6倍の7150億円にするとした。

 この目標に向けて新機軸を打ち出したが、ことごとく不発に終わった。

 18年1月に始めたプライベートブランド(PB)事業が足を引っ張った。全身を採寸できる「ゾゾスーツ」を無料で配り、試着なしでぴったりの服を届けられることを切り札に販売拡大につなげる計算だった。

 無料で配るゾゾスーツは話題を呼んだが、採寸結果が正確ではないという批判が出たほか、計測の煩わしさや予約から配送まで時間を要したことから、ゾゾスーツが届いてもPB商品を注文する人は少なかった。19年3月期にPB部門は200億円の売上げを見込んでいたが、結果は27億円にとどまった。

 中期経営計画では21年3月期にPB事業を2000億円に伸ばして第2の収益の柱とする超強気の目標を掲げたが、この計画は1年で撤回。海外向けPBからは撤退を決め、ドイツや米国の関連子会社の評価損を計上した。

有料会員向け割引サービスは優良ブランドの離反を招く

 18年12月に始めた有料会員向け割引サービス「ZOZOARIGATOメンバーシップ」も失敗した。月額500円か年額3000円を支払う有料会員になると、ゾゾタウン上での商品購入金額から10%が割引される。割引分はZOZO側が負担する。

 ゾゾタウンにおいて常時1割引で買えるという価格政策に、「ブランド価値が毀損する」と判断したオンワードホールディングスやミキハウスなどがゾゾタウンから相次いで撤退した。

 順調に伸びてきたゾゾタウンへの出店ショップ数は2019年3月末現在で1245店。昨年12月末時点と比べて10店減少した。ZOZOは出店企業の離反を防ぐため、4月25日で入会受け付けを停止。5月30日にサービスを終了する。

個人所有のZOZO株の87%を銀行へ担保提供

 資金難を示す懸念材料が出てきた。2月12日と22日、前澤氏は関東財務局に大量保有報告書を提出した。それによると、前澤氏個人が所有するZOZO株式の87%が、国内外の金融機関に担保として差し出されていた。担保提供先は三井住友銀行、野村信託銀行、みずほ銀行など7行だ。

 鳴り物入りで始めたPB事業は、スーツの発送費を回収することができなかった。さらに、利用者の支払いが最大2カ月後となる決済サービス「ツケ払い」を始めて、販売代金の回収期間が長期化。売掛金が増加し、18年末の現預金は82億円と18年3月末から7割近く減少した。

 金融機関は、前澤氏に保有株式を担保として差し出すことを求めたのだろうか。

 3月29日、三井住友銀行など3行と150億円を上限に借り入れができるコミットメントライン(融資枠)契約を結んだ。三井住友のほか千葉銀行と京葉銀行が参加。これにより運転資金を確保し、19年3月末の現預金の残高は216億円と持ち直した。

 ZOZOは18年5月に三井住友から240億円を借り入れている。同月、前澤社長から600万株を自社株買いで取得した。取得額は250億円に上った。1年もたたないうちに、こうした窮状に陥るなどとは、前澤氏は夢想だにしなかったことだろう。

株価上昇大作戦に市場は冷やか

 前澤氏は株価を引き上げるコツを心得ている。グローバルアパレルTOP10入り目標、PBゾゾブランドの10万着無料配布、さらにプロ野球への参入を表明するなど、話題づくりに長けている。知名度は、いつの間にか全国区となった。

 プロ野球への参入を表明した翌日(18年7月18日)のスタートトゥデイ(現ZOZO)の株価は、4875円の高値を付け、時価総額は1兆5192円と1兆5000億円を超えた。前澤氏は株式37.9%(18年3月31日現在)を保有しており、この時の株価で計算すると、同氏の保有株式の時価総額は5762億円となった。

 昨年9月には月周回旅行計画をぶち上げた。さらに今年1月上旬に前澤氏がツイッター上で、個人資産1億円を投じて100万円を100人に現金でプレゼントするキャンペーンを実施した。

 しかし、市場は冷やかだ。19年2月8日、年初来安値の1621円に沈んだ。株価は昨年夏の高値に比べて5割以上安い。半年で時価総額は1兆円が消し飛んだ計算だ。

 ZOZOの20年3月期の売上高は、前期比14.9%増の1360億円、営業利益は同24.7%増の320億円、純利益は同40.8%増の225億円と、超強気の見通しを立てている。 

 新しい株価上昇の起爆剤として打ち出したのが、10月に開催するゴルフ「ZOZOチャンピオンシップ」だ。賞金総額975万ドル(約10億9200万円)、優勝賞金は175万ドル(約1億9600万円)。日本で開催されるゴルフ大会では史上最高額となる。

 同大会には、スーパースターのタイガー・ウッズが参戦する。“ウッズ効果”で、失った信頼をどこまで取り戻せるか。

 前澤氏は停止していたツイッターの再開を4月25日に発表した。「今後のリスク要因」(アパレル業界担当のアナリスト)と見る向きもあり、連休明け後の株価の10%安につながった、という辛口の指摘もある。

 次は5月13日、「アルバイト2000人、時給1300円、ボーナス付き」で新規雇用すると発表したところ、「応募が殺到。わずか2日後の5月15日正午で募集を締め切った」そうだ。前澤氏は14日、ツイッターで締切りを表明。「(応募者は)全員面接させていただきます」と述べた。ただ、応募総数は公表していない。

「バイト改革」と銘打ち、千葉、茨城両県の物流センターで商品発送作業などをするバイトを新規に採用。週4日以上働く既存のバイトの時給も6月から300円増の1300円に上げることにした。成果などで一定の条件を満たせば、月最大1万円のボーナスも支給される。

 かつての現金100万円プレゼントや今回の時給3割引き上げなど、カネにまつわる話題が多いところが、前澤氏らしいといえるのかもしれない。
(文=編集部)

求人情報サイトで詐欺被害訴える企業続出…「掲載無料」と勧誘→突然30万円要求!

「ジョブサーチ HP」より

 お年寄りを狙ったオレオレ詐欺のみならず、我々も日常的に多種多様の詐欺または詐欺まがいの事態に遭遇する。

 筆者のスマートフォンにも大型連休開けの5月9日、これまでただの一度も利用したことのないアマゾンから詐欺メッセージが届いた。「料金未払いにより、法的措置を取った」とのメッセージだったが、アマゾンはこれまでもこれからも絶対に利用しないサービスなので、筆者にはすぐ詐欺であることがわかった。インターネットでも念のために検索してみたが、アマゾンをかたる同様の詐欺行為がいくつもヒットした。これも架空請求詐欺の一種なのだろう。

 こうした架空請求詐欺であれば完全に無視すれば済むが、契約書が介在する詐欺の場合は、やっかいである。「無料キャンペーン」と銘打った求人広告サイト詐欺もそのひとつで、日本全国の中小企業で被害が続出している。被害に遭った企業の求人担当者に話を聞いた。

「最初に電話があったのは、3月25日でした。内容は『当社が運営している求人サイトで、掲載無料のキャンペーンをやっているので、無料期間だけでも広告を載せてくれないか』というものでした。うちはハローワークに求人を出していたんですが、それを見て電話していると言っていました。運営会社名は名乗らず、『ジョブサーチ』というサイト名でした。

 そのあと、求人広告掲載申込書がFAXで送られてきて、『3カ月プラン』か『30日間無料キャンペーン対象プラン』を選ぶチェック欄があって、それで30日間無料キャンペーンプランにチェックを入れ、社判を押して、メールアドレスと電話番号等を記載して送り返したんです。運営会社がアシストという東京・渋谷にある会社だとわかったのは、その時です。

 FAXでは、チラシと「求人サイトへの募集掲載に関する契約条項」という書面が送られてきて、そこには確かに掲載終了7日前までに解約を申し出ないと自動更新されますよということが書かれていて、送り返し用のFAXにも小さい文字で別紙の契約条項を確認し、それが適用されることを了承したうえで送信しますという文言も入っていました」

 だが、当該担当者はキャンペーン終了1週間前までに解約の手続きを取らなかった。すると、4月17日付の消印で「32万4000円を支払え」という請求書が送られてきたのである。

警察「詐欺としての立件は困難」

ジョブサーチから送付された請求書

「契約書をちゃんと確認しなかったのですが、おそらくそこを見落とすようにつくられていると思います。それが手口なのでしょうが、確認不足については、こちらの落ち度でもあります。掲載期間は4月23日までの契約でしたが、4月16日までに解約の申し出をしないと自動更新される契約内容だったので、契約が自動更新されたということで請求書が送られてきたんです。

 実際、解約期限までに用紙は届いていたんですが、これも非常にわかりにくい書式で書かれていて、表は別のキャンペーンの広告がでかでかと載っていて、書面裏の一番下に小さく1行、『無料掲載終了後は有料掲載となっていますので、更新をしない方は必ずチェックをしてください』と書いてあった。おそらくそれにチェックして送り返さないといけなかったんでしょうが、封書を開けた瞬間、ただの営業のチラシだと思って、そのまま放置してしまったんです。

 どういうことかとクレームの電話を入れて、やりとりをしていくなかで、相手の口調とか態度から、これは詐欺的な会社で、自分がだまされたんだとようやく気づきました。最初は契約が継続してしまったので、32万4000円を支払うようにということでしたが、向こうも途中から、『そちらにも言い分があるでしょうから、半額の16万2000円にする』と変わってきました。それでも納得いかないと告げると、『更新手数料の10万8000円だけでも払え』と言われたんです。

 その後も、アシストからの電話はかかってきて、やりとりをしていたんですが、事務所にもばんばん電話がかかってくるようになったので着信拒否をしていたら、非通知の電話でヤクザみたいな口調の脅迫めいた電話がかかってきて、その非通知の電話も鳴りやまなくなったので、業務妨害として警察に相談して、これまでの経緯をお話ししました。

 契約書を綿密につくり上げているので、警察にも詐欺としての立件は難しいと言われました。非通知の電話についても、アシストからの電話かどうか判断できないので動けないということでした。うちは多店舗経営をしているので、非通知の電話が事務所以外の店舗にかかってくるとやっかいだなと思って悩んでいるところです。

 結果的に、求人情報を掲載したジョブサーチを経由した応募は1件もありませんでした。すべてハローワークの求人からの応募で採用が決まり、すでに募集も終了しているので、ジョブサーチでの求人効果はまったくありませんでした。ジョブサーチのサイトにはうちの求人広告がまだ掲載されているので削除するように要求しているのですが、削除されていないというのが現状です」(前出の担当者)

同様の手口を行う求人サイトは多数存在

 渋谷にあるアシストという会社に電話をかけてみたが、「おかけになった通話は、現在お取り扱いしておりません。番号をお確かめになってお掛け直しください」というメッセージが流れ、すでにつながらなくなっていた。

 ネットで検索したところ、アシストという運営会社とジョブサーチというサイトのほか、13の運営会社と名前の異なるサイト名に関して、同様の被害に遭った人たちが、昨年8月頃から、該当の電話番号も掲示しつつ警鐘を鳴らすメッセージを発信していることがわかった。以下にその一部を示す。

「株式会社アシスト。実態のない会社です。『3週間無料キャンペーン』で勧誘し、その後、自動契約更新で有料契約になり、多額の請求がきます」

詐欺会社です。支払いはしない旨を通知し、一切無視しましょう」

「悪質詐欺会社! 『無料求人サイト3週間無料掲載』と約束しておきながら、必ず有料期間に移行されるようになっていて高額の請求書がきます。ジョブサーチと騙っていますが、とんでもないインチキホームページ。本物のジョブサーチ(パソナ)さんも迷惑な話ですよね。逮捕してほしい!」

「ハローワークに求人を出すと必ず電話がかかってきます」

「メディアプロモーション株式会社の『まいじょぶねっと』は、昨今の人手不足につけこんだ悪質な求人広告会社です。個人店舗や中小企業の人手不足を悪用した非常に悪質かつ迷惑な企業です」

「横浜市のメディアプロモーション、とんでもない詐欺師。警察や消費者相談センターでは、これ以上話が展開しないことを逆手にとって、悪事を働き続けている。早く捕まってほしいです」

 詐欺まがいとして名指しされている求人広告サイトは、以下の通り。ジョブサーチ、ジョブランド、ジョブグッドナビ、ジョブグラム、アスクナビ、ワンビズネット、甲信越アットワーク、まいじょぶねっと、ジョブウォーリー、じょぶハウス、ジョブディア、マイジョブネット、WHITE Works、WORK WORK。

 10連休が明けて、従業員が出社しない、辞めてしまったなど、急に従業員が足りなくなるケースの対応に苦慮している事業所は、どれくらいあるのだろうか。地方であれば、とりあえず地元のハローワークを頼るしかないが、その求人情報はネットで誰もが簡単に閲覧可能だ。ある日突然、不審な求人サイトから無料広告掲載依頼の電話がかかってくるかもしれない。くれぐれもご用心を。
(文=兜森衛)

道路脇の「緊急退避所」使用経験者はいる?実際飛び込むとどうなる?ブレーキ過熱問題の今

緊急退避所

 これこそ“昭和の遺跡”のような気がする。もはや絶滅危惧種だ。日本の高度成長期や、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』(東宝)のような郷愁すら漂う――。

 ワインディングの下り車線で時おり見かける「緊急退避所」のことである。平成生まれの若いドライバーには、存在すら知らない方も多いに違いない。これは、まだ日本車が貧弱だったころの名残なのだ。文化遺産に推挙したいほどである。

 緊急退避所は、長く下り坂が続く峠道に設置してある。走行車線からそのまま飛び込めるようになっており、ジャンプ台のように正面に受けている。路面は砂地。飛び込んだクルマが砂地にめり込むように、盛り上がりが波状的に横断しているのだ。

 用途は、万が一、ブレーキ関係のトラブルによって、制動力を失った場合に、そこへ飛び込むことで強制的に停止させるためにある。

 実際に飛び込んだ経験は、自身はもちろんのこと、仲間にもいない。そのため、その時の恐怖心や衝撃を語れる者はいないが、おそらく心臓が飛び出るくらいの恐怖に耐えなければならないだろうし、果たしてその時に冷静に退避行動が取れるかどうか自信もない。

 よしんば飛び込めたとしても、横断する波状の砂の山でクルマは強い衝撃を受けることだろう。ハンドルにしがみつかねばならない。室内で体が暴れ回り、どこかに強打する危険性もある。それに耐えられる自信もない。

 かといって、ノーブレーキなのだから、みるみる速度を上げていくクルマを止める手段は限られている。クルマが破損することも、ともすれば多少の怪我をするのも、覚悟で挑まなければならない。

 もっとも、クルマの性能や耐久性が飛躍的に進歩した今、それにお世話になったドライバーがどれだけいるのであろう。

 緊急退避所を管理する方に話を聞くと、実際に使用するケースは「まずないですね」とのこと。想像通り、緊急退避所のおかげで命拾いしたケースは激減しているのである。

 制動力の喪失は、整備不良かブレーキフェード現象が原因だ。下り区間が長く続き、ブレーキペダルを踏み続けていれば、いずれブレーキが過熱し利かなくなる。

緊急退避所は絶滅するか

 だが、それも過去のこと。注意が必要なことは現在でも同様だが、昔のように山坂道をちょっと下っただけでブレーキが過熱することは、まずない。ブレーキ容量が格段に増したばかりか、放熱性も高い。パッドの材質も進化した。旧車を大切に乗っている人は、以前と同様に気を配る必要があるが、最新のクルマではまず問題ないといえる。とはいえ、トラックなどでは、まだ同様の心配がある。

 それが証拠に、注意喚起の看板は随分と減った。我々が頻繁に通う箱根ターンパイクでも、かつてはパーキングに「エンジンブレーキの使い方」なる注意書きが丁寧に貼り出されていた。だが、それも今はもうない。「ブレーキの過熱注意」「エンジンブレーキ併用」「2速で下れ」等の表示はまだ残されているが、どれだけ多くの方がそれを意識しているか、甚だ怪しい。それほどブレーキ過熱の心配はなくなったのである。

 近い将来、緊急退避所は絶滅するのではないかと思う。ブレーキ性能が進化したばかりか、EV(電気自動車)化によって回生ブレーキが優先され始める。ますますブレーキの過熱は起こりづらくなるからである。

 と思ったら、昭和の遺産として記念撮影したくなった。誰も飛び込まなくなった砂地は雨で締まって硬くなり、雑草が生えている。役目を終えようとしているそれは、どこか物悲しい。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員
「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

ドトール、ついに客離れが深刻化…「居心地いい」コメダが怒涛の出店攻勢で猛追中

コメダ珈琲店(「wikipedia」より)

コメダ珈琲店」と「ドトールコーヒーショップ」で、明暗が分かれている。

 コメダを運営するコメダホールディングス(HD)の2019年2月期連結決算(国際会計基準)は、売上高が前期比16.7%増の303億円、営業利益が5.0%増の75億円だった。増収増益を達成した。特に売上高は大きく伸張している。

 一方、ドトールを運営するドトール・日レスHDの19年2月期連結決算は、売上高が前期比1.5%減の1292億円、営業利益は1.9%減の101億円だった。減収減益だ。18年2月期まで8年連続で増収を達成していたが、ここにきて一転して減収となった。

 コメダは店舗数が大きく増えている。19年2月末時点の国内店舗数は1年前から43店増えて828店となった。現在青森県以外の全ての都道府県に出店しており、6月に予定している青森県での出店で47都道府県すべてでの展開が完了する。コメダは1968年に名古屋市内で1号店が誕生。近年は知名度が大きく高まり、出店が加速している状況だ。

 一方、ドトールの19年2月末時点の国内店舗数は1113店。1年前からは13店減った。長らく1100店台で概ね横ばいで推移しており、成長が見られない。1号店が誕生したのは1980年。コメダより後発だが、積極的な出店で店舗数は急速に増え、04年には国内1000店を達成した。だが、それ以降は伸び悩んでいる。00年代中頃から現在までは1100店台で横ばいが続いている状況だ。

 コメダとドトールはフランチャイズチェーン(FC)加盟店の割合が高いことが特徴となっている。そのことは店舗数の伸びに大きく関係している。コメダ(国内)のFC比率は97%、ドトール(同)は83%と高い。一般的に、直営よりもFCのほうが出店スピードを加速しやすい。こうした原理が働き、ドトールは早くから店舗数を伸ばすことに成功し、コメダも近年、急速に伸ばしてきている。

 コメダHDは出店の面で好調だが、既存店のFC向け卸売売上高も好調だ。3月は前年同月比6.2%増で、10カ月連続で前年を上回った。通期ベースでは、19年2月期が前年比6.4%増と大きく伸びている。それ以前はマイナスが続いていたが、一転して大幅増に転じた。

客離れが深刻なドトール

 19年2月期の既存店売上高が大幅増だったのは、昨年5月下旬から中京エリアにおいて、コメダで使用されるすべての食材・資材を本部が一括で調達・配送する商流に変更したことが大きく寄与した。変更した18年5月まで既存店売上高は6カ月連続でマイナスだったが、6月以降は一転して大幅なプラスが続き、先述した通り10カ月連続でプラスとなっている。

シロノワール」が好調だったことも寄与した。シロノワールは直径約16センチメートルのデニッシュパンの上にソフトクリームがのったスイーツで、77年に誕生して以来の看板商品となっている。19年2月期は季節限定のシロノワールを8種類投入した。たとえば、昨年10月は既存店売上高が11.8%増と好調だったが、シロノワールが大きく貢献している。9月下旬からコーヒー味の「大人ノワール」を、10月下旬から森永製菓の人気チョコレート菓子「小枝」とコラボした「シロノワール小枝」を、それぞれ期間限定で販売し、好評だったという。

 コメダHDの既存店売上高は好調に推移しているが、一方でドトールの既存店売上高(直営店・加盟店)は冴えない。3月は前年同月比1.3%減で、5カ月連続で前年を下回った。

 通期ベースでは、19年2月期が前年比2.0%減とマイナスだった。客離れが深刻で、客数は19年2月期まで2年連続でマイナスとなっている。

 ドトールは競争激化で顧客を奪われている。ドトールよりも多い1400店を展開するスターバックスコーヒーは店舗数を伸ばしており、ドトールを引き離している。後方からはコメダやタリーズコーヒーなどが追い上げている。また、近年はコンビニエンスストアのいれたてコーヒーの進化が目覚ましく、さらに店内で飲食できるイートインを増やしてカフェ化が進んでおり、コンビニの脅威度が高まっている。このように競合が台頭しており、ドトールから顧客が流出している。

 ドトールが属する低価格帯のコーヒー市場を取り巻く環境は今後より厳しくなるだろう。特にコンビニが大きな脅威だ。イートインを備えたコンビニは増えてはいるが、まだまだ設置されていない店舗も多い。裏を返せば、イートイン設置店舗を増やせる余地が大きいということだ。コンビニは全国に5万5000店以上もあり、計り知れない潜在能力を持っているといえる。

 また、新規出店でイートイン併設店が増えることも十分予想される。今年は「24時間営業をめぐる問題」のあおりで大手各社は出店を抑制する考えだが、来年以降は大量出店を再開することが考えられ、イートイン併設店が増えることが予想される。こうして、コンビニのドトール包囲網は確実に広がっていくだろう。

顧客満足度が急上昇しているコメダ

 このように低価格帯市場は厳しい状況にあるが、中価格帯以上は市場の拡大が見込まれている。

 喫茶店は外食産業のなかでも、やや特殊な業態だ。ほかの業態は一般的に食事がメインで、焼肉店であれば焼肉を食べることがそうだし、牛丼店であれば牛丼を食べることがメインとなる。一方、喫茶店は必ずしもコーヒーなどを飲食することがメインとはならない面がある。飲食することよりも、会話や読書、仕事、勉強することを主目的にしている人が少なくない。割合は後者が大きくなっているだろう。

 喫茶店を会話や仕事などをする場とするには、居心地のいい雰囲気が欠かせない。この点において、コメダは高いレベルを誇っている。たとえば、居心地のいい雰囲気を構築するため、コメダでは木材を多用している。これは、視野に占める木材の割合を示す「木視率」が4割程度だと落ち着くという建築業界の経験則に基づいている。

 コメダは椅子がフカフカなのも特徴で、ゆったり過ごすのに最適だ。これは、他のコーヒーチェーンではあまり見られない大きな武器となっている。また、電源や無料Wi-Fiを備えている店舗が多いのも、利用者にとっては嬉しい。コメダはこうした居心地のいい空間を提供していることが消費者に支持されている。

 コメダとドトールは、顧客満足度においても明暗が分かれている。日本生産性本部・サービス産業生産性協議会の「日本版顧客満足度指数(JCSI)」(2018年度)で、コメダはカフェ部門の「顧客満足」で3位、ドトールが2位だった。ドトールのほうが上位だが、勢いの面ではコメダが上だ。コメダの17年度の顧客満足は18年度と同じ3位だったが、16年度は5位以下の圏外、15年度は4位だったので上昇傾向にあることがわかる。一方、ドトールは17年度まで3年連続で1位だったが、18年度に2位に転落してしまった。顧客満足度でもコメダに勢いがあり、ドトールは失速が鮮明となっている。

 ドトールは成熟化しているので、これ以上の大きな成長は難しいだろう。そこで、ドトール・日レスHDは高級コーヒー店「星乃珈琲店」で高価格帯市場を攻略する。一方、コメダHDはコメダを主軸に出店攻勢をかけて中価格帯市場の取り込みを狙う。今期(20年2月期)はコメダだけで50~60店を出店する。コッペパン専門店「やわらかシロコッペ」などを含めて、19年2月期末の860店から21年2月期までに1000店にしたい考えだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。

スルガ銀行、総融資の3割・1兆円で不正発覚…みずほ・りそなは救済拒否、新生銀行が提携の裏事情

スルガ銀行(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 スルガ銀行のスポンサー探しに関して、4月13日付記事『スルガ銀行、5月の“Xデイ”が取り沙汰…単独生き残り困難、有力スポンサー候補に新生銀行』で報じたように、新生銀行がスルガ銀行の救済に動いた。

 だが、業務提携はしたものの資本提携まで踏み込めていない。それは、スルガ銀行の創業家がネックとなっているとみられている。

 新生銀行は、今や公的資金を返済できない唯一の銀行となった。前出記事で「新生銀行がスルガ銀行救済に手を挙げているのは、金融庁(遠藤俊英長官)に恩を売って、金融庁との関係を良くしたいとの思惑があるからだ。今や新生銀行は実質、ノンバンク状態。普通の銀行は新生銀行と組みたくない。その意味で、同様にノンバンク化したスルガ銀行なら親和性がある」(有力金融筋)との声を紹介した。こうした背景もあって、新生銀行がスルガ銀行の“受け皿”のダークホースとして急浮上してきたわけだ。

 スルガ銀行は5月15日、新生銀行と、家電量販店・ノジマとの業務提携で基本合意したと正式に発表した。

 新生銀行とは個人向けローンなどの分野で、ノジマとはクレジットカード事業や、金融とITを融合した「フィンテック」事業を共同で展開することを目指す。

 ただ、新生銀行の資本参加(数パーセントと報じられていた)は、スルガ銀行創業家の持ち株の売却が価格面で折り合えなかったこともあって見送られた。スルガ銀行の現経営陣は、創業家から買い取った株式を業務提携先に割り当てるシナリオを描いており、金融庁も新生銀行の資本参加を視野に入れていた。発表前日まで金融庁を交えた協議が水面下で続けられたが、結局、合意に至らず、「今回はあくまで業務提携まで」(スルガ銀行の有國三知男社長)となった。

 スルガ銀行の3月末の預金残高は、前年同期比22.5%減の3兆1656億円。今年1~3月だけで預金残高が630億円減少、不正融資問題による顧客離れが依然として続いている。

 神奈川県が地盤の家電量販店中堅のノジマは、スルガ銀行株を市場経由で4.98%(議決権ベース)を保有しており、追加取得もあり得るとしている。しかし、年商5000億円のノジマがスルガ銀行を丸飲みするのは無理がある。異業種の軍門に降ることをスルガ銀行が潔しとはしないだろう。

りそなやみずほは出資等を拒否

 ノジマは2017年、富士通の子会社だったインターネット接続サービス大手、ニフティの個人向け事業を買収するなど、事業の多角化に積極的だ。スルガ銀行の有國社長は「(ノジマとの提携について)今までになかった新しいことができるのではないか」と期待感を滲ませたが、ノジマがスルガ銀行の経営再建で果たす役割は限定的だろう。

 SBIホールディングス(HD)の北尾吉孝社長は「我々ならスルガ銀行をうまくマネージメントできる」と意欲を燃やしていた。市場経由でスルガ銀行株を買う可能性をスルガ銀行側に伝えたと報じられた。SBIHD傘下のSBI証券が業務提携する可能性は残るが、広がりを見せてはいない。金融庁から見ればSBIグループは、スルガ銀行のスポンサーの本命・本筋ではない。

 スルガ銀行は、りそなホールディングス(HD)とも業務提携を軸に交渉していたが、りそなHDは不正融資の拡大というリスクを考慮し、提携を見送った。シェアハウス以外に1.8兆円ある不動産関連の貸付債権の毀損度をどう見るかなど、受け皿候補となっている金融機関は慎重に審査せざるを得なかったということだ。

 これまでの取材で明らかになったことがある。スルガ銀行は、りそな銀行と埼玉りそな銀行を傘下に持つ、りそなHDと最優先に交渉を続けてきた。だが、りそなHDは結局、火中の栗を拾わなかった。

 一方、みずほ銀行を傘下に持つ、みずほフィフィナンシャルグループも、受け皿の有力候補と取り沙汰されたこともあって、「金融庁が非公式に、みずほに(引き受けを)打診した」(有力地銀の頭取)との情報が駆け巡った時期もあったが、これも幻となった。

 銀行に20%以上出資する場合には、金融庁の認可が必要になる。

 スルガ銀行の19年3月期決算は、971億円の純損失となった。前年の69億円の黒字から一転、17年ぶりの赤字となった。シェアハウス向け融資など貸し倒れに備えて2000億円超の引当金を積んだことが響いた。20年は105億円の黒字転換を見込むが、19年9月期(中間決算)の数字を見るまでは、達成できるか否か見通せない。

 投資用不動産向け融資を5月下旬に再開するとしているが、不正行為を招いた営業ノルマを廃止し、審査体制を厳しくする。投資用不動産融資で地方銀行随一の高収益を誇ったスルガ銀行が、新しい事業モデルを見つけるのは容易ではない。

不適切融資は1兆円超

 スルガ銀行は、総額1.8兆円の投資用不動産向け融資の洗い直しを進めてきた。その結果を5月15日に発表した。5537億円(7813件)分については、借入希望者の預金通帳の改竄といった明らかな不正行為が見つかった。計75人の行員が不正の指示や不正の黙認に関与していた、と認定した。

 調査の対象となったのは、シェアハウスや中古のマンション(1棟売りを含む)など約3万8000件。改竄や偽造など「不正の疑い」がある融資も864億円(1575件)判明した。

 このほか、借り手が用意すべき自己資金(物件購入額の1割)を不動産業者が立て替え、自己資金を偽装したと疑われる案件が4300億円(4000件。資料改竄分との重複を除く)に達した。

 これら3つの不正を合計すると、総額1兆700億円(計1万3000件超)となり、同行の総融資残高2.9兆円の3割超となった。有國社長は「これだけの件数の不正が検出されたことは、誠に申し訳ない」と陳謝したが、厳しいノルマや創業家におもねる行内の雰囲気やパワハラの横行が無謀な融資拡大に突っ走った原因と指摘されている。

 スルガ銀行は銀行法で禁じられている無担保ローンの抱き合わせ販売が1372件あったことも、合わせて公表した。
(文=編集部)

外貨預金なんてやってはいけない…バカ高い手数料&損失リスク

「Getty Images」より

 どれだけ預貯金しても、お金はまったく増えない――。これは、日本人のほぼすべてがわかっている事実です。では、「投資」をしようとしても、株、債券、投資信託、FX、仮想通貨などがありますが、お金が減るリスクを考えると、手を出せない人が大勢いるのも、また事実です。

 そこで目をつけがちなのが、「外貨預金」です。日本円の預貯金より金利が高いという理由よりも、預金という言葉が付いているので一種の安心感があるのかもしれません。しかし、外貨預金は、言うなれば「手数料の高い預金」です。

外貨預金がNGな理由1:高い手数料がかかる

 外貨預金は手数料が非常に高いので、コストパフォーマンスが悪いことがNGな理由のひとつです。預金でかかる手数料といえば、ATM(現金自動預け払い機)での入出金時や、他支店・他銀行への振込手数料などが身近でしょう。しかし、外貨預金の場合、「日本円を外貨に替えるとき」と「外貨を日本円に替えるとき」の両方で手数料がかかります。

 たとえば、日本円とドルを替える場合、大手銀行では1ドルにつき約0.5円(片道、以下同)かかります。仮に1万ドルの外貨預金を行った場合、円からドルにして、さらにドルから円に戻すと、手数料は合計1万円かかります。つまり、少なくとも両替の前後で為替が1円以上動かないと利益が出ないことになります。

 どうしても外貨預金を行う場合は、ネット銀行で行うことをお勧めします。たとえば、住信SBIネット銀行では、日本円とドルを替える場合、手数料は1ドルにつき0.04円です。楽天銀行では、1ドルにつき0.25円です(2018年11月19日時点)。

 他方、FX(外国為替証拠金取引)の場合、日本円とドルを替えるのに「往復0.3銭」としている会社が多く、1万ドルの取引なら手数料は30円です。FXと聞くと、「リスクが大きく怖い」という印象があるかもしれませんが、それはレバレッジを高くしたときの話です。

 レバレッジとは、日本語で「てこ」のこと。証拠金(元手)より多くの金額の投資が行える仕組みを「レバレッジ」と呼ぶわけです。

 仮に、10万円持っているとしましょう。外貨預金の場合、外貨に交換することができる金額は当然ながら10万円分までです。しかし、FXの場合は10万円分を証拠金として口座に入れることで、最大25倍の250万円分の外貨取引を行うことができるのです。ちなみに、証拠金を超える取引金額については、証券会社がお金を貸してくれている状態になります。

 FXでレバレッジをかけずに、外貨預金と同じ金額の取引(レバレッジ1倍)で行えば、リスクが大きくなりすぎることはないのです。

外貨預金がNGな理由2:円高に動くと損失が続く

 外貨預金の弱点は、円高です。外貨預金の場合、FXと異なり日本円を米ドルやユーロなどの外貨に替えて預金することしかできません。外貨預金を始めた当初よりも円安に動けば利益を得られますが、円高が続いた場合は損失の状態が続きます。つまり、円高に動いた場合は、外貨預金では利益を狙うことが難しいのです。

 単純な話ですが、「1ドル=100円」の時に100万円をドル換算すると、1万ドルです。それが「1ドル=120円」と円安になれば円換算で120万円になり、「1ドル=80円」と円高になれば80万円です。

 この点、FXであれば、証拠金を預ければ、実際にその通貨を保有していなくても、米ドルやユーロなどの外貨を売る取引もできるため、円安だけでなく円高になっても利益を狙うことができます。

外貨預金がNGな理由3:銀行破綻時に元本の保証がない

「預金」と記載があるので、いかにも安全そうに見えますが、外貨預金は円預金と異なり「預金者保護制度」の対象外です。円預金の場合、預金者保護制度によって1人当たり、1金融機関につき元本1000万円とその利息が保護されますが、外貨預金は保護されません。

 外貨に投資はしたいけれど、どうしても安全資産がいいと考えるのであれば、米国債に投資をするのはいかがでしょうか。債券とは、お金を借りたときに発行する「借用証書」のようなものです。預貯金にお金を回すと利息がもらえるのと同じで、債券を購入することでも利息がもらえます。債券を購入した金額を「元本」と呼びますが、定期預金と同様、満期が来れば元本が返済されます。

 日本国債は日本国が発行している債券であり、米国債は米国が発行している債券です。安全性を見るのに、「信用格付」があります。これは、債務の支払い能力を評価したもので、お金をきちんと返せる能力があるのかをアルファベットの記号で表します。AAA(Aaa)が最上位格付で信用力が高く、BBB(Baa)格以上は投資適格、BBB(Baa)格未満は非投資適格とされます。

 ムーディーズやS&Pなどの格付機関が独自に、企業の業績や経営に関するデータを調査して債券の信用度を評価していますが、日本国債はムーディーズがA1、S&PがA+、一方の米国債はムーディーズがAaa、S&PがAA+となっており、米国債のほうが高い格付になっています。また国債と預金を比べた場合も、国と銀行、どちらが先に破綻するかは言わずもがなでしょう。

 たとえば、SBI証券が取り扱っている米国債の内「トレジャリーストリップス米ドル建 2045/2/15満期 ゼロクーポン債」は、税引き前年利回りで3.204%あります。気になる手数料は片道0.5銭です。1万ドル購入しても片道50円という安さです。(2018年11月19日時点)

 安全性と手数料を重視するならば、米国債もひとつの選択肢です。

金融商品の仕組み・特徴を知れば、自ずと投資すべきものがわかる

 金融商品には、完璧なものはありません。また、リスクとリターンは表裏一体の関係なので、リスクを取らなければリターンは得られません。金融商品の仕組み・特徴をよく理解し、その上で自分が取れるリスク許容度に合わせて資産を組み合わせて活用すべきでしょう。
(文=頼藤太希/マネーコンサルタント、株式会社Money&You代表取締役)

頼藤太希
マネーコンサルタント/株式会社Money&You代表取締役
慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に株式会社Money&Youを創業し、現職へ。お金の総合相談サイト「FP Café」や女性向けマネーメディア「Mocha」を運営。メディアなどで投資に関するコラム執筆、書籍の監修、講演など日本人のマネーリテラシー向上に努めている。著書は『投資信託 勝ちたいならこの7本!』(河出書房新社)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。日本証券アナリスト協会検定会員。

メルカリ、上場で社内がパニックか…売上金失効多発で「ユーザーの売上を横領」との不信広まる

東証マザーズに上場したメルカリ(写真:ロイター/アフロ)

 メルカリといえば、フリーマーケットアプリの代表格だが、10月下旬、ひとりのユーザーがツイッター上で「メルカリ、本当にやばい」「33万円が奪われる」などと訴え、波紋を呼んだ。

 この発言について考えるうえで、メルカリのシステムを知っておかなければならない。出品者が商品を出品して売買が成立した場合、得られた“売上金”は即座に手元に入るわけではなく、一旦メルカリにプールされる。これを現金化するには、自分で“振込申請”をする必要があるのだ。

 もっとも、売上金を現金化せず、メルカリ内で利用可能なポイントに換えるという選択肢もあるので、振込申請を行わないユーザーもいる。とはいえ、売上金には取得日から180日間(今年9月27日の規約変更前は90日間、昨年12月4日の規約変更前は365日間)という“振込申請期限”が設けられているため、メルカリを出品専門で利用しているユーザーは、やはり定期的な申請手続きが必須といえるだろう。

 冒頭で取り上げたユーザーは、規約に違反した覚えがないにもかかわらず、メルカリに本人確認を求められ、サービスの利用を一方的に制限されたという。利用制限中は振込申請を行うこともできない。何度メルカリに問い合わせても、本人確認作業が終わっていないとして利用制限が解除されなかった。利用制限は3カ月近くに及び、その間に振込申請期限を迎えた売上金6012円は“失効”扱いとなってしまったそうだ。そのため、ほかの売上金も含めた約33万円がすべて失効してしまうと懸念し、冒頭のツイートとなった。

 このユーザーは結局、3カ月弱かかってようやく本人確認が完了し、売上金6012円もメルカリから戻ってきたとのこと。ただ、あのまま利用制限が続いていれば最終的には合計33万円近くの売上金が失効になっていたことや、本人確認書類を何度も提出させられたことを挙げ、メルカリへの不信感をあらわにしている。

売上金が“失効”するという表現自体がおかしい

 メルカリの本人確認や売上金をめぐる不満の声は、ほかのユーザーからも相次いでおり、今年の8月頃から特に表面化したようだ。

 こうした本人確認の意図についてメルカリ広報に取材すると、次のような回答が返ってきた。

「メルカリでは、すべてのお客様に安心・安全にご利用いただけるプラットフォーム運営のため、利用規約違反や悪質な行為などを行う利用者の排除に尽力しております。そのなかで、以前より、登録情報や利用状況などを基に、随時お客さまにご本人確認をお願いしております。

 このようななかで、一部のお客さまに長い時間お待たせしてしまいましたこと、また弊社の説明が不十分でお客さまを不安にさせてしまったことについては、誠に申し訳ございません。本人確認をお願いしたお客さまやお問い合わせをいただきましたお客さまにつきましては、個別に対応させていただいております。

 なお、ご本人確認のための利用制限中に振込申請期限を迎えて売上金が失効した場合にも、本人確認の結果、不正な取引がないことが確認され次第、売上金は再付与しております」(メルカリ広報)

 また、一般的に、本人確認にどれくらいの日数を要するのかという問いに対しては、「個々の事案により長さが異なり、一概にお伝えすることが難しい」(同)という。

 メルカリは、11月8日に開いた決算説明会の質疑応答においても「本人確認を強化していることは事実」と明かしているが、ここにはどのような背景があるのか。ITジャーナリストの井上トシユキ氏に話を聞いた。

「メルカリでは昨年12月に仕様変更があり、ユーザーは初回出品の際に住所と氏名、生年月日を登録することが義務となりました。本人確認書類の提出を複数回にわたって要求されたり、提出してもメルカリから返事が来なかったりといったユーザーが増え始めたのもこの時期からですが、本人確認のトラブル自体は前々からずっと続いていました。

 そこに利用制限や売上金の失効といった別の問題が絡み、今回のように話が大きくなっているのですが、そもそも私は“失効”というメルカリの言葉遣いに違和感があります。ユーザーがメルカリで発生させた売上金は確かに存在しており、ポイントみたいに消えるわけではないはずです。それが失効するというのは、ユーザーの売上金をメルカリが横領するつもりなのかと疑われかねない、的外れな表現でしょう。

 そしてメルカリは、今年6月に東証マザーズに上場しており、警察や金融庁からの監視の目が強くなっているのだと思われます。1月に仮想通貨NEM(ネム)の流出騒ぎがありましたが、あれはコインチェック社が、自己資金と顧客からの預かり資金をごちゃ混ぜにして管理していたのがひとつの原因でした。メルカリも、自己資金とユーザーの売上金をどのように切り分けているのかなど、あれこれ追及されたのではないでしょうか。

 さらには、株主へのIR説明の準備などにも追われ、上場にあたりメルカリは社内全体がパニックに陥っていたのかもしれません。本人確認というものは人の手作業ですし、オペレーションになんらかの混乱が生じていた可能性があります。本人確認ができていないまま売上金を振り込むと、それはそれで問題になりますから、一時的に“凍結”させた可能性があります。そのような後付けの対応が、今回のトラブルを招いたという印象です」(井上氏)

メルカリの喫緊の課題はユーザーとの関係性構築

 先述した決算説明会でメルカリは「安全・安心な取引環境の強化」として4つの指針を打ち出しており、そこには「本人確認の強化」も挙げられている。具体的には、「反社会的勢力や悪質な行為を行う利用者の排除を強化」するとのことだ。

「これはそのまま、警察からの要請でしょう。たとえば10月下旬、少なくとも6万個以上のメルカリのアカウントを不正に作成・販売していたとして、2人の逮捕者が出ました。複数のアカウントを取得するということは、それだけ売るものがたくさんあるということで、盗品や偽物を売買しているおそれが非常に高いわけです。メルカリは厳密な本人確認によって犯罪を防がなければならず、さもなければ、反社会的な人物の不正な商売に手を貸している集団だと警察に認識されてしまうのです。

 とはいえ、このように利用者のモラルが問われるのはメルカリに限らず、1999年にサービスが始まった『ヤフオク!(旧Yahoo!オークション)』にも当てはまる話でした。しかし、『ヤフオク!』は現在、本人確認も含めてきっちりとした仕組みができあがっていますし、メルカリのようにユーザーの売上金をプールするという面倒なこともしていません。

 要は、ビジネスの拡大スピードに社内の体制が追いついていないのがメルカリの根本的な課題であり、今はまだ、できて当たり前のことができていないのではないでしょうか。上場企業ならば社会的な説明責任もありますし、脇が甘いと、今後新しいサービスが出てきたときにユーザーは逃げていってしまいます。

 とにかくメルカリは、これ以上ユーザーに負担をかけないよう、本人確認の進捗状況をマメに伝えたり、年末までにどういう取り組みをするかを詳細に発表したりと、ユーザーとの関係性をちゃんと構築していかなければなりません。逆にいうと、ここで『実は信用できるサービスだ』と世間に思わせることができれば、メルカリはこの先も強いビジネスになっていきそうです」(同)

 フリーマーケットアプリとしての地位を確立するために、どれだけユーザーからの理解を得られるか。メルカリは、まさに今が正念場なのかもしれない。
(文=A4studio)

過払いの電気料金が返金、真面目に修正申告→税務署から怒られ裁判で敗訴!

「Getty Images」より

 元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな発電方式は「自家発電」です。

 税務調査での否認項目というのは、売上除外のようなベタなものから、聞いたこともない経費科目や新しくグローバルかつ専門的すぎて、現役を退いたさんきゅう倉田では理解できないものまで、さまざまです。

 むかしむかし、払いすぎた電気料金が戻ってきて、確定申告をやり直したら「その処理じゃだめだよ」と言われてしまった事案がありました。確定申告で確定した所得額を変更する方法には、「修正申告」と「更正」があります。納税者が自分で行う場合、所得が増えるときは修正申告で、所得を減らすときは更正になります。

 このケースでAさん(仮名)は、支払った電気料金を経費にしていました。そのため、電力会社から戻ってきた電気料金分を、それぞれの年の経費にした電気料金から引いて、つまり、経費を減額して、修正申告をしたのです。「ちゃんとしている」という印象を受けます。

 思いがけず入ってきたお金を、「うっかり」あるいは「意図的に」帳簿に載せないなんて、よくあることです。しかも、今回は遡って直すような処理で、今、進行している年分の帳簿ではありません。わざわざ古い帳簿を倉庫や古棚から引っ張り出して、直すのです。電気料金の過大徴収は12年に及んでいて、優しいAさんは一部の還付を放棄しました。概算した過大金額は2億円で、その一部の請求を放棄してあげただけでなく、しなければバレなかったかもしれない修正申告を、わざわざしたのです。

 すると、税務署から連絡が来て、「電気料金の還付金は、過去の経費を遡って減らすのではなく、返ってきた今年の収入にしなさい」と、言われてしまいます。そこで、納得のいかないAさんは、争うことにしました。

 結果からいうと、Aさんの主張は認められませんでした。電気料金の還付金は、還付された年の収入としなければいけなかったのです。税務署側は、その理由を次のように説明しました。

(1)払い戻しは、払いすぎた電気料金や利息の額ではなく、真の金額に関係ないAさんと電力会社の合意に因るものである
(2)法人は「公正妥当な会計処理の基準」を求められ、原則として「発生主義」を採用している。すると、企業会計上は、遡って経費を減らすのではなく、還付が確定したときの収入にすべきである
(3)「不当利得」と考えられる可能性もあるが、Aさんたちは12年たってからそのことを認識し、合意によって金額を決めたので、不当利得ではなく、新たに発生した会計事実である

※不当利得とは、法律上の原因なしに、他人に損失を及ぼし、他人の財産または労務によって利益を受けること(今回の場合は、電力計量装置の設定の誤りによって、電力会社がAさんに損失を与え、利益を受けていた)。

返金されただけなのに「収入」?

 今回、考え方の中心となったのは、正しいとの認識で過大な電気料金を払っていたのであって、前年以前に過大分を取り戻すことは事実上、不可能だったことです。つまり、後から気づかなければ返ってこなかったお金で、気づいたのであれば、気づいたときの収入になる、という考えです。

 ただし、異なる意見も裁判官から出ており、今回返ってきた電気料金の処理が難しいものであったことを示しています。簡単に言うと、「電気料金の支払いは過大であったのであるから、過大分は原価に該当せず、経費の過大計上があったといえる。還付された電気料金は今年の収入ではない」みたいな意見でした。

 Aさんが行ったように、返ってきたお金を、経費にした電気料金の減額として処理すると、12年分のお金が返ってきていても7年分の修正申告で済みます。しかし、一括で今年の収入として処理すると、延滞税はないものの、総額を収入としなければいけません。結果的には、納税者が負けて損をしてしまいましたが、状況が異なれば納税者有利に傾いたかもしれない事案でした。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)

●さんきゅう倉田
 大学卒業後、国税専門官試験を受けて合格し国税庁職員として東京国税局に入庁。法人税の調査などを行った。退職後、NSC東京校に入学し、現在お笑い芸人として活躍中。2017年12月14日、処女作『元国税局芸人が教える 読めば必ず得する税金の話』(総合法令出版)が発売された。

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忍者タクシーやSP風TAXIが人気急騰!乗ってみたら“クオリティの高さ”に驚愕!

三和交通の「忍者でタクシー」

 6月にサービスの提供が開始された「忍者でタクシー」「SP風TAXI」が注目されている。運転手が忍者やSPに扮し、目的地まで送り届けてくれるという同サービスは、主にインターネットを通じて話題を呼び、にわかに人気が高まっているようだ。

 サービスを仕掛けているのは、神奈川・東京・埼玉をメインエリアとする三和交通。タクシー業務やハイヤー業務を主に取り扱う会社だが、近年ではユニークな広報活動を展開している。前述のコスプレタクシーだけではなく、エイプリルフールでのジョーク企画や、自社のユーチューブチャンネルを活用した積極的な発信なども行っている。

 今回は、そんなユニークな取り組みで話題を集めている三和交通に赴き、取材を行った。広報を担当している眞壁広貴氏、コスプレをして乗務するドライバーの小関正和氏に聞いた話を交え、実際にタクシーに乗車体験した模様をレポートしよう。

忍者になりきるために、伊賀まで行って修行

 まずは眞壁氏に、忍者やSPのコスプレタクシーを提供するに至った経緯を聞いた。

「まず、2018年の2月に、ドライバーが黒子の格好で、筆談で会話をする『黒子のタクシー』というサービスをリリースしたところ、海外で人気になりました。また、メディアから取材されることも多かったという経緯があったため、コスプレタクシーのサービス展開を始めたのです。そのなかで、海外のインバウンド向けに、より日本的でわかりやすいサービスを提供しようということで、忍者を選びました。

 また、SPに関しては、弊社が8月にリリースした『G7大使館ツアー』という、都内の大使館を巡るツアーがありまして、そのドライバーはSPのほうが雰囲気が出るだろうということで、サービス提供を始めました」(眞壁氏)

 サービスを提供して数カ月、狙いであった外国人の利用者は、意外なことに多くないようだ。

「海外の方々へのアプローチが、まだうまくできていないのが原因だと思うのですが、海外のお客様から直接依頼されたことは、まだありません。ですから、利用者層としては日本人のお客様が大半というのが現状です。

 依頼内容としては、こうしたメディアでの情報を見て、イベントであるとか、結婚式の二次会、友達へのサプライズとしてコスプレタクシーを利用したい、といったものが多いです。

 また、サービスとして比較いたしますと、忍者よりSPのほうが、現在では人気になっています。あるテレビ番組をきっかけに『SP風TAXI』がツイッターで話題になり、その反響がかなり大きく、それから急激に依頼が増えたという経緯があります」(同)

 一見、ただコスプレをしているだけのように見えるこれらのサービスだが、実は忍者に関しては特別な研修を行ったという。その研修とは、どのようなものだったのだろうか。

「はじめは格好だけだったのですが、お客様から『もっと振る舞いなどのクオリティーを上げたほうがいい』というご意見を頂きまして、ドライバーを忍者の里である伊賀に送り込みました。滝に打たれたり、手裏剣を投げたり、川を渡ったりという忍者修行を、研修として受けたのです。その模様は弊社のユーチューブチャンネルである三和交通チャンネルで発信しています。

 一方、SPは、さすがに警察で教えてもらうというわけにはいかないので、ドラマや映画などのイメージでつくり上げています。基本的に、弊社のSPはサングラスをかけているのですが、実際の日本のSPでサングラスをかけている人はほとんどいないんです。ただ、多くの人がSPと聞いて想像するような、最大公約数のイメージに仕立て上げていったというところですね。もちろん、ドライバー自身がドラマなどを見て仕草を真似するといった工夫も行っています」(同)

「SP風TAXI」

 次に、忍者に扮している小関氏に、実際にサービスを提供する際に気をつけていることを聞いた。

「拙者は、テレビや動画などを観て、日々どういった行動をしたら忍者らしいだろうかと考え、模索しながら現場に行っているでござる。拙者が特に気をつけているのは、動きとスピードでござる。トークはなんとか誤魔化せるのでござるが、忍者が遅いとなるとお客様のテンションが下がってしまうでござる。
 
 一方のSPは、常に無表情でいることを心掛けているようでござる。SPがにやけてしまっては、台無しになってしまうでござるからな。また、いかにかっこよく見せるかといったことも考えながら、SPは行動しているでござる」(小関氏)

人材不足を解消するためのブランディング戦略だった

 実際に、これらのサービスを体験させてもらった。まずは「忍者でタクシー」。

 駐車場で待っていると、黒いタクシーが到着。運転席から颯爽と降りてきた忍者が、乗車をサポートしてくれる。その姿は、背中の刀だけではなく、「くない」まで常備しているという徹底ぶりだ。

 しかし、車内に掲示されている運転者証には、スーツ姿(いわゆる普通のドライバー)の小関氏の写真が載っている。なんでも「これをいじると怒られるでござる」とのことだった。とはいえ、細部までつくりこまれた忍者姿は、子どもや外国人なら相当喜ぶだろう。まだ海外からの利用申し込みがほとんどないということが、もったいなく感じられた。

 次に、「SP風TAXI」で、実際に路上を走行して最寄りの駅まで送り届けてもらった。乗車時には、黒いスーツに身を包みサングラスをかけたSPに、緑の水鉄砲を片手に護衛してもらえる。友人などと一緒に利用すれば、これだけで盛り上がること間違いなしだろう。

 やはり、こちらの運転者証にも小関氏が写っていたが、これは目をつぶらなければならない。運転中の車内でも、こちらの問いかけに和やかに返答してもらい、短い乗車体験だったが、通常のタクシー利用とは異なる高揚感があったのは言うまでもない。

 余談だが、メディアからの注目度も高く、この日も別の取材を受けていたとのこと。これから、ますます知名度が上がっていくことが予想でき、ここまで面白いサービスならば、一度体験した人から口コミで評判が広がっていくこともありそうだ。

 最後に、こういった風変わりなサービスを提供している意図について、眞壁氏に聞いた。

「もちろん、お客様に楽しんでいただきたいという思いもありますが、実はこういった取り組みは、社員採用のプロモーションという目的が一番大きいのです。現在のタクシー業界は、非常に深刻な人材不足に陥っています。他業界より年齢層が高いということもあって、10年後にはドライバーが約半分になってしまう可能性もあるとの予測も出ているほどです。ですから、業界各社が採用活動に力を入れているなかで、こういった取り組みから弊社のブランディングにつなげ、知名度を向上させていきたいと考えているのです。

 タクシードライバーの基本的な業務内容は、どの会社でも大きな違いはないため、他社との差別化が重要になってきます。要するに、タクシー業界に入ろうと思ってくれている人に、『三和交通って聞いたことあるな』と、興味を持っていただくことが狙いなのです。また、こういったサービスをするドライバーをやりたいと志願する方も意外と多くおりまして、採用活動という面でのメリットは当初の想定以上に出ています」(眞壁氏)

 つまり、「忍者でタクシー」と「SP風TAXI」は、人材難のタクシー業界において優秀な人材を採用するためのブランディング戦略の一環だったのだ。しかし、サービス発足の目的がどうであれ、エンドユーザーとして利用しても、純粋に楽しめるユニークなサービスであることは間違いない。結婚式や誕生日、そのほかのイベント日などでも、特別な思い出をつくりたいというときに、ぜひ一度利用してみてはいかがだろうか。
(文・取材=後藤拓也/A4studio)