東芝、爆弾・LNG事業を9百億円払って他社に売却…経営危機再燃を寸前で回避

「Getty Images」より

 東芝は6月1日、米国の液化天然ガスの(LNG)事業を仏エネルギー大手、トタルに売却すると発表した。譲渡価格は1500万ドル(約17億円)。

 国際石油資本(メジャー)の一角を担うトタルのシンガポール子会社へ、2020年3月末までに売却する。「ブルームバーグ」の報道によると、東芝はLNGの引き取り義務を引き継いでもらうための費用として、トタルに8億1500万ドル(約912億円)を支払うという。東芝は20年3月期決算に売却関連費用を含めて約930億円の損失を計上する。実際は900億円超の“手切れ金”を払う取引である。

 前向きに捉えるなら、米国テキサス州のLNGプロジェクト「フリーポート」は、想定されていた1兆円規模の損失を、930億円の出血で抑えることができることになる。

 迷走を続けたLNGの売却計画を振り返ってみよう。

 東芝は4月11日、撤退を決めていた米国でのLNG事業の売却が、白紙になる可能性が生じたと発表。10日夜に、売却先の中国のガス会社、ENNエコロジカルホールディングスから、売買契約を解除する意向を伝えられたという。

 18年11月に発表した経営再建計画で、LNG事業からの撤退を明記。ENNに約930億円を払って引き取ってもらう売買契約を結んだ。今年3月末までに売却手続きを終える予定だった。

 ところが、米国の対米外国投資委員会(CFIUS)の承認や中国の国家外貨管理局(SAFE)の認可が得られなかったことに加え、契約の一部についてENNの臨時株主総会で承認を得られなかったことを契約解除の理由に挙げているという。

 市場関係者は当初から東芝とENNとの譲渡契約に懐疑的だった。東芝がLNG事業の譲渡契約を発表した18年11月は、“米中貿易戦争”の真っただ中にあった。東芝がフリーポート売却に当たってENNに米国の子会社の株式を譲渡するには、対米外国投資委員会の承認が必要になる。

 東芝は承認を得られると楽観していたが、アナリストたちは「承認を得るのは厳しい」と疑問視した。そして案の定、承認を得られなかった。

 最大1兆円近い損失が見込まれる事業のため、売れなければ経営再建計画の見直しを迫られるのは必至となる。米LNG事業からの撤退は、東芝の生き残り策の柱だった。東芝はENNに対して契約解除を通知し、新しい“受け皿”探しを再開した。
 

原発がダメになり、シェールガスに飛びついた

 東芝は、経営破綻した米原発メーカー、ウエスチングハウス(WH)の関連資産の売却を18年7月末で終了した。06年に買収してから12年。計1.4兆円もの巨額損失につながったWHとの関係に、やっと区切りをつけた。巨額損失を穴埋めするために、高い収益力を誇る半導体メモリー事業の売却を余儀なくされた。

 だが東芝は、原発事業以外にも巨額損失を生みかねない「爆弾」を抱えていた。それが米国で手掛ける液化天然ガス(LNG)事業だった。

 13年、米テキサス州のフリーポート社との間で、年220万トンのLNGを19年からの20年間引き取る「液化加工契約」を結んだ。ここに大きなリスクが隠れていた。

 LNGの日本国内などでの買い手が決まらず、引き取れなかったとしても、フリーポート社に毎年400億円超を払い続けなければならない。フリーポート社が担うのは天然ガスを液化する業務だけでガスの調達や買い手探しは東芝の責任だ。安い値段を提示すれば買い手は見つかるが、売れば売るほど赤字になってしまう。

 16年3月期の有価証券報告書で「電力・社会インフラ部門」の想定最大損失額を9713億円とした。大部分がフリーポート事業にかかわるものだ。つまり、LNG事業は、将来的に1兆円の巨額損失リスクがあると東芝自体が認めたことになる。

 なぜ、こんなにリスクの大きい事業に手を出したのか。11年3月11日、東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故で、日本ではすべての原発の稼働が停止した。火力発電が急拡大し、燃料費が高騰した。そこで東芝は、原油やほかの天然ガスと比べて安い米国産シェールガスに飛びついたのだ。

 米国産のシェールガスをフリーポート社の大型プラントで液化し、日本にタンカーで運ぶ。低価格を武器に、発電システムとセットで電力会社などに売り込む計画を立てた。

 フリーポート社と契約したとき、エネルギー業界では「素人の東芝が、リスクの高いLNGに、なぜ手を出したのか」と驚きの声が上がったが、その不安は的中した。原油価格が下落し、在来型のLNGも安くなったため、東芝が調達を予定した米国産シェールガス由来のLNG価格は割高になってしまった。

 それでも東芝は、東京電力などが新しい火力発電所の建設計画を進めており、そうしたところが米国産のLNGを引き取ってくれると楽観視していた。だが、割高なLNGを引き取る電力会社はなかった。東芝は慌てて国外で引き取り手を探したが、米国や豪州で増産が続くLNGは世界中で供給過剰の状態で、買い手は見つからなかった。

売却中止で930億円の損失は計上せず

 18年4月、東芝に乗り込んできた三井住友銀行出身の車谷暢昭会長兼CEO(最高経営責任者)は、リスクを避けるためにフリーポートの売却を決断した。だが、フリーポートの契約は20年と長い。ENNの株主も、この長期契約に「リスクは大きい」と判断したようだ。

 19年3月期の連結純利益(米国会計基準)は前期比26%増の1兆132億円だった。東芝メモリ(現東芝メモリホールディングス)の売却益を約9700億円計上。一方、米LNG事業売却に伴う930億円の売却損を見込んでいたが、売却を取りやめたため計上しなかった。

 20年3月期の売上高は前期比8%減の3兆4000億円、営業利益は同3.9倍の1400億円を見込む。「今期中の売却を目指す」(会社側)米LNG事業の成り行きが不透明なため、最終損益は「未定」とした。米LNG事業の売却損の規模次第では、赤字の可能性がある。

 米LNG事業は、毎年200億円の損失が出る状況が続く。昨年の譲渡交渉で登場した石油メジャーの米エクソン・モービルや英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなどの名前が再び挙がっていたが、トタルで決まった。

 昨年11月、23年度に営業利益率10%を目指す中期経営計画「Nextプラン」を発表、再生に向けてスタートを切った。Nextプランは20年間のリスクを抱えるLNG事業を切り離すことが前提で、売却は必須課題だった。その売却先が、ようやく見つかった。
(文=編集部)

日本の信号機は異常、黄を経ず赤→青に替わる謎…“焦り事故”を誘発して危険なのに

タイの交差点

 日本の信号機が、どんなサイクルで点灯と消灯を繰り返しているのか、気にされている方はどれだけいるだろうか。

 普段、生活していて街中で信号機を見ない日はないほどなのに、意外にその存在は意識の中に入らない。だがそれは、密かに生活をコントールしているのである。

 信号機が青から赤に移り変わる時、一旦黄色を経由することは誰もが知っていることだろう。「これから赤信号になるから止まる準備をしなさい」という警告である。今まさに青信号で通過しようとしているドライバーに、そう警告するわけだ。

 一方、赤から青は突然である。なんの予告もなく、唐突に色が替わるのだ。「これから青信号になるから発信する準備を進めなさいよ」とはならない。いきなり信号機が赤から青に変わって、ハッと驚いた経験がある方もいるだろう。逆にジッと身構えて、タイミングを見逃さないようにと信号機を凝視することも少なくない。「赤から青は前触れもなく」――。これが日本の信号機の特徴だ。

 では海外はどうか。

 たとえばドイツは、青から赤になるときも、赤から青になるときも、かならず黄色信号を経由する。「これから信号の色が変わりますよ」と知らせるわけだ。これによって交通はスムーズになる。日本のように、青が点灯してから、慌ててギアを発進モードにいれたり、ブレーキペダルから足を放したりする無駄な間がない。まして、最近社会問題になろうとしている「スマホに見入って発進が遅れる」という迷惑も少ないのだ。

 ドイツ在住の交通の専門家に聞くと、こんな答えが返ってきた。

「ドイツはクルマ文化が成熟しています。クルマを早く進めることが交通に有益だという考え方が基本にあるのです。それも道理ですよね。クルマは動かして初めてクルマなのですから」

 止まっていたのでは、クルマはただの大きな鉄の塊にすぎない。それにもかかわらず、日本の行政はクルマを停止させたがる。それが安全なのだという悪しき考え方が基本なのである。信号機を管理する公安委員会と警察は、いまだに交通後進国体質なのである。

 前出の専門家は、ドイツが黄色を経由して青になる理由を、こう推測する。

「マニュアルギア比率が多いことも関係しているかもしれませんね。クラッチを踏み込んでギアを1速に入れて発進する。そんなプロセスが必要ですから、いきなり青が点灯したのではモタモタするのでしょうね」

 日本もかつてはマニュアルギアばかりだった時代もあったはずなのに、古くからこのスタイルを改善することなく続けているのだから、それは理由ではないかもしれない。

タイの交通

 実は、もっと交通を流そうという国がある。そのひとつが「微笑みの国」タイランドだ。

 バイクやクルマが激しく往来するタイの首都バンコクでは、たいがいの信号機のカウントダウンの数字が表示される。赤信号で停止している時にも「あと○秒で青に変わりますよ」と告げられる。これがとても有効で、どれだけ待たされるのかわからないことのイライラからも解放される。

 そればかりか、ドイツのように発進にモタつくことがない。カウントダウンからの青信号だから、それはまるでレースのスタートシーンのように、ほとんどのクルマがその瞬間にスタートする。最前列のクルマが動いてからようやく2列目のクルマが動き、挙げ句の果てに後続の車が動き出した時にはもう信号機は赤に変わっていた、などという日本的なモタモタ感はないのである。

 もちろん、信号機はレース風のスタイルだから、フライングするドライバーがいないわけもない。だが、事故を誘発するような発進をする場面は見当たらなかった。観光客には危険に見えても、あれはあれで秩序が整っているのだ。

「カウントダウンしないと信号無視が多発するから」という苦肉の策である側面もあるのかもしれないが、結果として流れが円滑になる。

 せっかくの優秀なクルマを生み出している自動車大国・日本だが、交通インフラは旧態依然としている。クルマは走らせることで初めてクルマだということを、海外で学ぶことも少なくない。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員
「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

米国、ファーウェイ制裁の裏に「自由競争では中国企業に勝てない」という判断か

ファーウェイのスマートフォン(写真:Featurechina/アフロ)

 アメリカによる中国の通信機器メーカー・華為技術(ファーウェイ)への制裁が本格化している。その要因として、安全保障の問題がたびたび指摘されている。ファーウェイの機器を通じて世界的に情報が収集され、中国政府に漏えいするリスクがあるといわれている。

 もちろん、こうした危険性は否めないだろうが、アメリカによる制裁の本気度を見ると、安全保障のリスク以上に、それほどまでにファーウェイには通信機器メーカーとしての底力があるのかと感じる。

『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』(大﨑孝徳/日本実業出版社)
 もちろん、多くの報道機関が取り上げているように、これまで欧米企業からの盗用などがあったかもしれないが、2018年度に国際出願された特許の件数でファーウェイは世界1位になっている。しかも特許数は5405件と、2位の三菱電機(2812件)の2倍に迫る数字となっている。そのほか、技術、生産、販売などにおいても、我々の予想をはるかに上回り、アメリカをはじめ世界的大手通信機器メーカーを凌駕する底力を持っているといえるだろう。


政治に対する経済の無力さ

 現在、通信機器の国際市場において日本企業は強い存在感を示せていないが、過去には大きな力を保持していた時代もあった。たとえば、日本企業の携帯電話端末は1980年代の国際市場においての半数近くのシェアを持っていた。また、現在、通信規格で話題の5Gの3世代前である2Gにおいて、日本発の規格であるPDCは欧州発のGSMに対してなんら遜色はなかった。しかし、技術的優劣ではなく政治的な要因によって、GSMが国際標準となり、以降、日本の携帯電話端末も国際市場において影響力を失っていった。

 また、現在、国際的にOSを支配しているのは、アメリカの企業であるマイクロソフトのウィンドウズであるが、当初は坂村健氏により開発された日本初のOSであるトロンのほうが先行していた。しかしながら、アメリカ経済への悪影響を危惧したアメリカ政府の干渉により、日本の文部省(現文部科学省)が学校に配布する教育用パソコンへのトロンの採用を取り下げるといった事態が生じるなど、トロンは勢いを失ってしまった。

 このように、政治の力の前に経済は実に無力だ。経済はルールに従って行動しなければならないが、政治はそのルール自体を自由につくり変える力を有している。

 今回、アメリカが政治の力を利用してファーウェイを叩こうとしている事実は、もはや経済における自由競争では米国企業に勝ち目がないと判断していることの裏返しかもしれない。

「一帯一路」構想を声高に叫ぶことは正しいのか

「一帯一路」は、2014年に中国・習近平国家主席が提唱した経済圏構想である。こうした壮大な構想は、共産党による一党支配により長期政権が約束されている中国だからこそ打ち立てられる素晴らしいものであると評価することもできるかもしれない。しかしながら、ここまで声高に叫ぶ必要があったのだろうか。いたずらに中国脅威論を助長させ、現在のアメリカとの制裁合戦、さらには今回のファーウェイ問題にも悪影響を与えることになってしまったのではないだろうか。構想を掲げたとしても、大きくアピールすることなく粛々と進めるほうが、はるかに利があったのではないだろうか。

 たとえば、一帯一路構想には東南アジアも含まれている。筆者が暮らすフィリピンはもちろんフィリピン人により統治されているが、経済においては華人が極めて大きな影響力を保持している。ついでに言えば、スペイン人の末裔もいまだに勢力を保っている。こうした状況は、フィリピンに限らず、ほかの国々でも見られる。

 本来、こうした事態は、各国において大きな問題となってもおかしくはないが、いたずらに力をひけらかすようなことはせず、寄付をはじめ社会貢献活動などに注力することによって、批判をうまくかわしているように思われる。たとえば、筆者が勤務する大学の図書館は、華人によるフィリピン最大の財閥であるSMの寄付によるものである。

 こうした華人たちは何世代にもわたり現地に暮らし、国籍も現地の国のものになってはいるが、それでもなお多くの華人は中国語を話し、中国の文化や習慣を尊重した生活を送っている。

「血は水よりも濃し」という言葉もあるように、たとえ共産党の一党支配に批判的であっても、中国という国に対しては多くの華人が特別な思いを抱いている。一帯一路などを掲げるよりも、粛々と現地で強い影響力を有する華人たちと関係を深め、事業を展開していくほうが、よほど利があるのではないだろうか。

 一帯一路をはじめ、中国が自らの力をいたずらにひけらかすようなことをしなければ、米国との制裁合戦やファーウェイ問題なども、回避もしくは少なくとも少しは緩和できたかもしれない。
(文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer)

利益率はオートバックスの2倍…イエローハット、超高収益企業を支えるローコスト経営の正体

イエローハットの店舗(「Wikipedia」より)
 今年のゴールデンウィーク(GW)は、過去最長となる4月27日から5月6日までの10日間の超大型連休となった。新元号「令和」への改元効果も加わって、列島各地でにぎわいが報じられた。かつてない盛り上がりを見せたのではないか。


 ところで、そのGW直前に大手カー用品店「イエローハット」の静岡県内の店舗で事件が起きた。

 イエローハットの制服を着た男性がタイヤを蹴ったりホイールに火をつける様子が映った動画が4月25日ごろからインターネット上で拡散したのだ。これを受けてイエローハットは26日にホームページ上で謝罪。同社は後日、店舗でホイールに火をつけたとして、現住建造物等放火容疑の疑いで、元アルバイト従業員と元従業員の2人が逮捕されたと発表した。

 この事件の数カ月前には、無添くら寿司やセブン-イレブンなど大手飲食チェーンやコンビニエンスストアで撮影された不適切な動画がネット上で拡散する問題が相次ぎ、社会問題となっていた。これらと比べてイエローハットの動画は逮捕者が出たことからより悪質といえ、より大きな反響があってもおかしくなかった。しかし、改元の話題が盛り上がっている時期に事件が起き、かつ、すぐにGWに突入したため、それほど問題視されることなく騒動が消えていったように思える。イエローハットはGWに助けられたのではないか。

 そんなイエローハットだが、業績は堅調に推移している。5月9日発表の2019年3月期連結決算は、売上高が前期比1.0%増の1392億円、営業利益は0.2%増の95億円だった。わずかな増収増益だが、17年に発生したタイヤの値上げ前特需の反動や例年に比べて全国的に降雪が少なかったことで主力商品のタイヤの販売数が前年同期より少なかったという特殊要因が大きく影響したため、微増の増収増益にとどまったことはそれほど問題ではない。

 同様の理由で、競合のオートバックスセブンも売上高は伸び悩んだ。5月8日発表の19年3月期の連結売上高は前期比0.7%増の2138億円にとどまった。伸び悩んだ理由はイエローハットと同じだ。

業績が横ばいのオートバックス、急成長のイエローハット

 両社とも今年度前期の業績はまずまずといったところだが、一方で、中長期の業績では明暗が分かれている。オートバックスの売上高は近年こそ横ばいで推移しているが、08年3月期からそれまでは減少傾向が続いていた。08年3月期から19年3月期までの11年間で売上高は20%も減っている。一方、イエローハットは09年3月期から19年3月期まで10年連続で増収を達成。この10年で売上高は1.5倍以上に膨らんだ。売上高の大きさではオートバックスが上だが、勢いではイエローハットに軍配が上がる。

 近年のこうした勢いの違いは、主に主力ブランドの国内店舗数の増加具合の違いからきている。

 オートバックスブランドの国内店舗数は600店程度で横ばいが続いているが、一方のイエローハットブランドの国内店舗数は右肩上がりで増えている。ここ数年は年間約30店のペースで増えており、19年3月末時点で約730店に達している。

 オートバックスは都市部の街道沿いに大型店を中心に展開してきたが、そういった形態を国内では出店し尽くした感がある。

 一方、イエローハットはコンビニエンスストアなど異業種が退店した「居抜き物件」を中心に出店してきた経緯がある。こういった物件では小型店となりがちで品ぞろえが限られるという欠点があるが、小商圏の立地でも出店できるというメリットがある。オートバックスが出店できないような場所にも出店が可能だ。それが功を奏し、店舗数の増加につながっている。また、居抜き物件での出店はコストを抑えられるというメリットもある。オートバックスにはない強みといえるだろう。

 もっとも、オートバックスも11年ごろから小商圏での出店を積極的に行うようになった。だが、この分野では長い経験によるノウハウの蓄積があるイエローハットに分があるだろう。

イエローハット、高利益率の秘密

 イエローハットは近年、積極的に店舗数を増やしたほか、ホームセンターなどへの卸売りを強化したり、提携先の出光興産のガソリンスタンドでの販売を増やしたりして規模の拡大を追求してきた。それにより、スケールメリットを生かした経営を可能にした。

 イエローハットは12年4月に出光興産と業務・資本提携し、共同仕入れによる仕入れ費用の低減を目指した。13年には、出光興産傘下のアポロリテイリングが出光興産のガソリンスタンドにイエローハットの商品を販売する「アポロハット」と呼ばれる売り場を導入。以降、展開を広げていき、アポロリテイリングは17年4月にアポロハットの導入店舗が200店を突破したと発表している。アポロハットが増えれば、当然、イエローハットの売上高も増えることになる。また、より大きなスケールメリットを発揮できるようにもなる。

 イエローハットはこうしたスケールメリットを生かしたローコスト経営を実践しているため、利益率が高いことで知られている。19年3月期の売上高営業利益率は6.9%にもなる。また、近年は上昇傾向にある。一方、オートバックスの売上高営業利益率は3.5%(19年3月期)と低い。以前は5%台だったが、近年は3%台あたりで推移している。営業利益の額もイエローハットのほうが大きく、同期はオートバックスが74億円なのに対しイエローハットは95億円にも上る。

 このように、イエローハットの業績は堅調だ。だが、予断は許さない。少子化や趣味の多様化による若年層を中心としたクルマ離れが影響し、カー用品市場に大きな影響を与える新車販売台数や自動車保有台数の今後の大幅な伸びは期待できない。また、カーナビやカーオーディオなどは単価下落や新車での標準装備化の流れにより、この分野の市場縮小が見込まれている。

 一方で、自動車保有台数は緩やかながらも伸びており、さらに自動車の平均使用年数は長期化しているため、タイヤやバッテリー、オイルなどの消耗品、車検やメンテナンスなどのサービス分野の市場は拡大が見込まれる。イエローハットはこういった分野に重点をシフトすることで市場環境の変化に対応し、業績を伸ばしたい考えだ。

 市場の大きな拡大は見込めないが、中小カー用品店の廃業が進むなどで市場参加者は減少しており、イエローハットなどの大手による寡占化は進んでいく可能性が高い。そのため、イエローハットの業績はまだまだ拡大していくことが見込まれる。しかし、イエローハット元従業員らによる放火未遂事件が水を差すかたちとなってしまった。イエローハット従業員の質の低さが露呈した格好となったが、これを契機に従業員教育の強化を図り、接客サービスの強化も図ってもらいたいものだ。それができれば、当面は安泰だろう。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

一部の養殖サーモンに要注意?ダイオキシン検出量が11倍の例も、エサに豚肉や植物油脂

「Getty Images」より

 日本人が自分の健康のために投じているお金は、年間総額5兆7351億円にも上るそうです。このなかから、スポーツジムの費用、エステなどの美容関係、健康器具、医療雑貨、そして市販の医薬品等にかける金額を除いた、いわゆる健康食品や健康飲料、サプリメントなどに支払っているお金だけで2兆6735億円に達するといわれています。良いか悪いかは別として、巨大な市場を形成していることだけは確かなようです。

 この数字から見て取れるのは、通常の食事では必要な栄養を摂取できないから、食事以外でその不足を補おうとしている人たちが相当数いる、ということです。

 その食事にかけるお金に関して、正確な数字を出すことは難しいと思いますが、ひとつの指標として「エンゲル係数」というものがあります。これは家計に占める食費の割合ですが、日本のエンゲル係数はずっと下がり続けていました。2005年には22.9%まで落ちましたが、その後、上昇して16年には25.8%まで回復しています。これは1980年代後半と同様の数字です。この数字だけを見て、「日本人は自分たちが食べるものが大事だということに気づき、それにお金を使うようになってきたか」と思ったら、大間違いです。実態は、かなり悲惨な状況です。

 エンゲル係数はパーセンテージで算出するものなので、いくら使ったかという金額の実数とは別なのです。ここ数年、日本のエンゲル係数が上がった理由は、消費者物価が上がったこと、特に食品の価格が高騰していることと、収入が下がったことで消費全体が低迷していることによるのです。消費全体が下がるなかで、どうしてもかかってしまう食費は、そのパーセンテージが上がっているという、悲惨な実態を表したのがエンゲル係数の上昇ととらえなければなりません。

 実際に、食品全体の価格はここ数年で約1.7%上昇し、特に生鮮野菜は約5%上昇しています。これは天候不順など、やむを得ない事情もありますが、筆者は国の食料政策が間違っているためだと思っています。

魚を食べるメリットとデメリット

 そんななか、食肉の消費量は相変わらず増えています。独立行政法人・農畜産業振興機構の調べによると、日本人1人当たりの食肉(牛肉・豚肉・鶏肉)年間消費量は、1960年に3.5kgだったのが、2013年にはその約10倍近くの30 kgにまで増えているそうです。一方で、日本人の主食であったはずの米は115kgから 57 kgに減少。同時に魚介類の消費量も減少しているそうです。

 そもそも、動物性たんぱく質をそれほどたくさん摂る必要はなく(食事全体の10%でよい)、また現代の食肉生産はさまざまな問題を孕んでいるということは、本連載で繰り返し述べてきたので、ここでは触れませんが、同じ動物性たんぱく質を摂るなら、獣肉よりも魚肉のほうがいいとは、よくいわれることです。特に妊娠中の女性には積極的に食べていただきたい食品のひとつが魚です。それは、お魚に含まれるオメガ3脂肪酸系列のEPAやDHAなどの脂肪酸が胎児の脳の発達に良い影響を与えるからです。スペインの環境疫学研究センターの調査で、妊娠中に魚を多く食べた女性が産んだ子供は、認知機能テストで高得点を記録し、発達障害の発生も少ないことがわかっています。

 ほかにも、魚を食べることのメリットはたくさんありますが、逆にデメリットはといえば、魚に毒性のある重金属類が含まれていることです。近海で獲れる魚より、遠洋で獲れる魚のほうが、より危険度が高いとされています。

 養殖魚は、すべてとはいいませんが、危険なものが多いと思います。特に養殖のサーモンは要注意です。エサとしてトウモロコシ、大豆などの安価な穀物が使われ、加えて豚肉や鶏肉を加工したものや、大豆油やキャノーラ油などの植物油脂も使われています。もともと鮭がそのようなものを好んで食べていたとは到底考えられないので、鮭に合わないものを無理やり食べさせているわけで、当然、病気にもなります。それを未然に防ぐために、エサには感染症などを防ぐための抗生物質や合成ビタミン、もともと白身魚であるサーモンの身を鮮やかなピンク色にするために加えられる合成の着色料(アスタキサンチン)なども添加されています。

 そして、さらに憂慮すべきは、養殖のサーモンには、ダイオキシン類やPCB(ポリ塩化ビフェニル)などの環境汚染物質も大量に含まれていることです。天然の鮭と比べて、ダイオキシンは11倍、PCBは16倍も多く検出されたという報告もあります。エサとして使われた穀物が含む農薬成分も魚の中に取り込まれてしまいます。

 このような養殖のサーモンは、本来、魚を食べる場合のメリットのひとつである、オメガ3脂肪酸は極端に減少し、オメガ6脂肪酸が増大する傾向にあります。それが、食べた人の体内での脂肪酸バランスを狂わせ、不健康な状態をもたらすということに、早く、多くの方に気づいていただきたいものです。

食生活の改善が不可欠

 しかし、養殖魚の生産に携わっている方々のなかには、本当に素晴らしい技術をもって、安全性を第一に考えて一生懸命努力されている方もいらっしゃるので、そういう方々が生産したものと、劣悪な養殖魚をきちんと区別する、いわば「目利き」みたいなことが、これからは必要になってくるのかもしれません。

 天然の魚も、遠洋のものには水銀などの有害重金属類が含まれています。これは、ご存じのように、胎児の脳の発達に悪影響を与えます。胎児のみならず、子供も大人も食べた人すべてに悪影響を与えることもわかっています。なぜ、遠洋のもののほうが危険度が高いかというと、食物連鎖の果てに体内濃縮が起こり、大型のものであればあるほど、その汚染度が濃縮されていくからなのです。それを食べるということは、食物連鎖の頂点に立つことを意味しますが、そこに問題の根幹があるのです。

 これは一人ひとりが考えるべきことですが、人類全体として考えていかなければならない問題も含まれています。それは、私たちが将来に向けて、どのような食料生産体制を組むかという壮大な問題なのです。

 今が良ければそれで良い、ということにはなりません。未来の私たちの子孫の生命・健康に重大な影響を及ぼす問題です。

 その鍵は、実は私たちの毎日の食事、食生活、食習慣にあります。そのことを考えようという趣旨で、この連載を続けてまいりました。それが、今回でなんと100回目を迎えることができました。この間、ビジネスジャーナルの関係者の皆さま、とりわけ編集担当の方には一方ならぬお世話になり、また、読者の方からのさまざまなご指摘にも真摯にご対応くださったことに、この場をお借りして深く感謝申し上げます。

 この連載100回を記念して、今までの分をまとめ、さらに新たに書き下ろし原稿を加えた本が出版されることになりました。出版時期などはまだ決定しておりませんが、なるべく早く本を世に出して、多くの方々に食生活のありようを問いたいと思っています。

 出版の暁にはぜひ、お買い求めいただき、ご支援を賜りたく存じます。そして、これからもこの連載をお読みくださいますよう、お願い申し上げます。
(文=南清貴/フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事)

●南清貴(みなみ・きよたか)
フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事。舞台演出の勉強の一環として整体を学んだことをきっかけに、体と食の関係の重要さに気づき、栄養学を徹底的に学ぶ。1995年、渋谷区代々木上原にオーガニックレストランの草分け「キヨズキッチン」を開業。2005年より「ナチュラルエイジング」というキーワードを打ち立て、全国のレストラン、カフェ、デリカテッセンなどの業態開発、企業内社員食堂や、クリニック、ホテル、スパなどのフードメニュー開発、講演活動などに力を注ぐ。最新の栄養学を料理の中心に据え、自然食やマクロビオティックとは一線を画した新しいタイプの創作料理を考案・提供し、業界やマスコミからも注目を浴びる。親しみある人柄に、著名人やモデル、医師、経営者などのファンも多い。

IKEA、感動モノの“お片付け”収納グッズなど厳選5品!数百円なのに超便利&オシャレ

IKEA HPより

 IKEAは「優れたデザインと機能性を兼ね備えたホームファニッシング製品を幅広く取りそろえ、より多くの方々にご購入いただけるよう出来る限り手ごろな価格でご提供する」というビジネス理念を持つ、北欧スウェーデンで発祥した世界最大規模の家具メーカーである。日本には今年4月時点で9店舗しかないながらも(うち4店舗は関東に集中)、根強いファンを抱えているようだ。

 そんなIKEAを日本で展開するイケア・ジャパンは、2018年8月期の決算では前年同期比13.5%増の840億9100万円という売上高を記録している一方、営業損失としては9億6200万円を計上。前期の営業損失は14億4600万円だったので、回復傾向にはあるものの、業績はイマイチ振るわないようだ。

 とはいえ、IKEAには先述したビジネス理念のとおり、欧州産のオシャレな家具や、日常生活を豊かにしてくれる便利な商品が低価格で多数売られているのもまた事実。そこで今回「Business Journal 買うべき・買ってはいけない調査班」では「買うべき日用品5選」をテーマとし、IKEAのおすすめ商品を独断で選ばせてもらった。この春に始まった新生活の日用品を、どこで買い揃えようか、まだ決めかねている人には、ぜひ参考にしてほしい。

【この春、買うべきIKEAの日用品5選】

GRUNDTAL(マグネット付き小物入れ3個入り)/699円(税込/以下同)

 最初に紹介するのは、「GRUNDTAL(グルンドタール)」シリーズの「マグネット付き小物入れ3個入り」だ。

 主にキッチン回りで使われているらしく、マグネットを生かし、たとえば冷蔵庫の扉に貼りつけることができる。散らかりがちな調味料はこの小物入れにまとめておくと、スペースの節約になるだろう。さらに、フタの天板が透明なアクリルでできているため、中身の確認が容易なのもうれしい。

 一応はキッチン用品として販売されているが、そのシンプルな構造と丈夫さゆえ、クリップや輪ゴムなどをしまう小物入れとしてオフィスでも活躍できそうだ。デスク周辺の掃除が苦手だという人にも、ぜひおすすめしたいアイテムである。

ISTAD(ジッパー付きプラスチック袋)/299円

 続いては、こちらもキッチン用品として販売されているものの、もっといろいろな場面で役立つこと間違いなしの「ISTAD(イスタード)」シリーズ「ジッパー付きプラスチック袋」だ。

 IKEAのジッパー付き袋は、バリエーションに富んでいる。6パターンのサイズを展開しているうえに、同様の商品では無地のものが一般的ななか、お好みのデザインやカラーを選べるようになっているのも魅力的だろう。

 今回「買うべき・買ってはいけない調査班」が実際に使用したのは、1L用と0.4L用の2種類が、それぞれ50枚同封されたもの。ティッシュのように箱からそのまま1枚ずつ取り出すことができ、非常に扱いやすかった。チャック部分が二層構造になっているため中身が漏れる恐れもなく、袋の素材もしっかりとしていた印象である。

KLOCKIS(時計/温度計/アラーム/タイマー)/349円

 いまやスマートフォンを見れば時刻はわかるようになり、腕時計をしない人も増えているが、自宅やオフィスなどでも時計は欠かせない。次に紹介するIKEAの「KLOCKIS(クロッキス)」という商品は、時計としてだけでなく、温度計、アラーム、タイマーとしても機能する万能選手だ。

 これまでにアラームやタイマーつきの時計を買ったことがあるものの、操作が意外と複雑だったり面倒だったりで、結局はただの時計としてしか使いこなせていないという人もいるかもしれない。

 しかし、IKEAのKLOCKISならばその心配は無用。置き型でコンパクトな四角い本体を回転させ、向きを変えるだけで4つの機能(画面表示)を切り替えることができるのだ。カラーバリエーションも白、黒、水色、ピンク、黄色と5種類あるため、設置する部屋の雰囲気に合わせたものを選ぶといいだろう。

VARIERA(収納ボックス)/399円

 一見するとなんの変哲もないケースだが、とにかく使い勝手がよくておすすめなのが「VARIERA(ヴァリエラ)」シリーズの「収納ボックス」だ。

 幅24cm×高さ10.5cm×奥行き17cmのボックスには小物や資料など、あらゆるものを収納できる。さらに特筆すべきは、素材に再生PET樹脂が採用されていること。頑丈なのに軽くて持ち運びしやすく、もし汚れてしまった場合には、水で丸洗いすることも可能。収納ボックスとして必要な要素をすべて兼ね備えた、究極のアイテムといえるかもしれない。

 また、前述した「ジッパー付きプラスチック袋」や「KLOCKIS」同様、VARIERAの収納ボックスにも複数の色が用意されている。外側はどれも白で共通だが、内側の色が異なるので、部屋を鮮やかに彩りたい人にもちょうどよさそうだ。

RASKOG(ワゴン)/4999円

 最後に紹介するのは「RASKOG(ロースコグ)」シリーズの「ワゴン」。ここまで取り扱ってきた商品に比べると値は張るが、購入者たちからはお買い得感や品質を高く評価されているアイテムだ。

 ワゴンと聞いてもピンとこなかったら、美容師が小道具を入れているような、人の腰ほどの高さのかごを思い浮かべてほしい。IKEAのRASKOGは3段のかごが上下に連なっており、真ん中のかごは位置を好きに調節できる。キッチン用品の整理に利用している人が目立つほか、ランドセルがすっぽり収まる絶妙なサイズ感ということで、子どもがいる家庭でも重宝されているようだ。

 かなり丈夫な素材が使われているゆえ、ワゴン単体だと重く感じるのだが、キャスターが非常に軽いつくりになっているため、部屋の中を移動させるときはほんのわずかな労力で済むだろう。購入後は各自で組み立てる必要があるものの、10分ほどで完了する簡単な作業なので、DIYが不得手な人でも気負う必要はない。

 いかがだっただろうか。IKEAは今回紹介した5品のように、低価格かつスタイリッシュな日用品をいくつもラインナップしている。春の新生活に伴い、自宅やオフィスを引っ越したばかりだというような人は、よりオシャレで快適な空間づくりのため、ぜひIKEAを有効活用していただければと思う。
(文・取材=「買うべき・買ってはいけない調査班」from A4studio)

橋げたが逆さま状態…JR北海道、線路が災害で残骸のまま放置→事実上廃線がお決まりに

ラグビーワールドカップの開催告知(新千歳空港)

 北海道が活気づいている。ゴールデンウィークさなかの新千歳空港。多くの観光客らが行き交うターミナルビルの一角に「ラグビーワールドカップ2019日本大会札幌開催」を知らせる大きなポスターが貼られ、吹き抜けフロアには「一生に一度が札幌に!」のキャッチコピーと「オーストラリアvs.フィジー」「イングランドvs.トンガ」の試合日程が紹介されていた。国際的な大スポーツイベントに期待感が高まっているようだ。

 5月4日には実業家の堀江貴文氏が出資する宇宙ベンチャー、インターステラテクノロジズ(IST)の小型ロケットが十勝(とかち)の大樹町(たいきちょう)から打ち上げられた。民間単独のロケットとして国内で初めて宇宙空間に到達し、地元は沸き立った。3日後の7日には十勝総合振興局の商工労働観光課に「宇宙関連産業推進室」の看板が掲げられた。ロケットビジネスを十勝に根付かせたいとして、宇宙関連産業への参入希望企業をISTや自治体につなぐコーディネート役を担うという。

 10月下旬には、国際リゾート地として脚光を浴びているニセコエリアの倶知安(くっちゃん)町でG20観光大臣会合が開催される。2020年4月には白老(しらおい)町にアイヌ民族の文化を複合的に伝える民族共生象徴空間がオープンする予定。さらに2023年3月にはプロ野球・日本ハムの新球場「北海道ボールパーク」(仮称)が開業する。

「北海道インバウンド加速化プロジェクト」で、20年度までに海外からの観光客500万人を目標に掲げ、オール北海道で取り組むと意気込んでいる。

災害でズタズタの鉄路は手つかずのまま

大狩部駅

 明るいニュースの一方で、厳しい現実がある。その象徴が日高(ひだか)本線だ。15年1月に厚賀(あつが)-大狩部(おおかりべ)間で発生した高波による土砂流出の影響で、丸4年以上たった今なお鵡川(むかわ)-様似(さまに)間は運休が続き、復旧のめどが立っていない。JR北海道はいち早く「単独で維持困難」な線区のひとつに指定。全線バス転換を提案している。地元では昨年、「沿線7町の町長会議が全線復旧を断念で合意」と報じられた。

 筆者は現場を2年ぶりに訪れてみた。日高本線は現在、苫小牧(とまこまい)-鵡川間のみが運転中。鵡川駅発の列車は6時台から21時台まで1日に9本(すべて苫小牧行き)。朝8時25分過ぎに苫小牧からの列車が到着した。GWということでカメラ片手の観光客の姿もチラホラあり、降り立ったのは30人ほど。そのうちの20人近くが8時38分発の静内(しずない)行き列車代行バスに乗り換えた。

 バスは災害の爪痕が残る現場に向かった。鵡川から5駅目の清畠(きよはた)駅近くにある慶能舞(けのまい)橋梁。ここは16年8月の台風で橋梁が流出した。白波が押し寄せる砂地に土台だけが取り残され、橋げた部分は逆さまの状態で放置されている。橋げたには08年7月塗装と記されている。風が吹きすさび、荒涼感が漂う。

慶能舞橋梁


 清畠駅から2駅先の大狩部駅。波打ち際にコンクリート製のシェルターのような待合室があるひなびた無人駅だ。ホームから投げ釣りができそうなほど海が近い。待合室の中には代行バスの時刻表や運賃表が貼られ、ブロックに打ち付けられた板には「私は○○君が好きです。いけないことでしょうか?本当に好きなんだから!」との告白文が残されている。こんな無人駅にも青春のドラマがあったのだ。

 海沿いの線路は土砂が流出して大きく歪み、宙ぶらりんになった2年前のまま。あまりにも痛々しい。この線路に列車が再び走ることは、恐らく、もうないだろう。

 被災した鉄路は放置されたままだが、高規格幹線道路の日高道は18年4月、日高門別(ひだかもんべつ)IC-日高厚賀(ひだかあつが)IC間が新たに開業。国が所管する道路整備だけは着々と進んでいるのだ。

札幌市内では新たな液状化被害

 18年9月に発生した最大震度7の北海道胆振(いぶり)東部地震では、災害関連死を含めて42人が亡くなった。厚真(あつま)町、安平(あびら)町、むかわ町では、多くの人たちが仮設住宅での生活を余儀なくされている。連休中に整体マッサージのボランティアに参加した東京の30代男性は「仮設住宅暮らしの高齢者が喜んでくれた」と話す。胆振地方中東部では今年2月に最大震度6弱、5月4日にも最大震度2の地震が発生している。

 胆振東部地震の際、札幌市内では液状化の被害が出た。地震から8カ月たった今も、市内では液状化による被害が新たに見つかるケースが相次いでいる。市内で液状化被害が集中的に発生したのは6カ所で、このうち最大規模の被害が起きた清田区里塚では市が宅地の地盤改良工事に着手する予定だというが、そのほかは手つかず。住民らは宅地の復旧などを市や造成業者に求めているという。

 北海道では国際的なスポーツイベントや国際会議、博物館建設など華やかなムードが演出されているが、生活不安、生活の不便さが解消されていない実態も厳然としてある。若者流出による高齢化、過疎化も至るところで見られる。駅前や国道沿いの閉鎖されたままの店舗、崩れ落ちそうなサイロ。公共インフラの老朽化が進み財政難に悩む自治体も少なくない。Wi-Fiが通じないなど、情報インフラの整備が遅れている地域も散見される。その一方で外国資本による土地・建物の買収や転売が続く。

 4月の知事選で全国最年少(38歳)の新知事が誕生したばかりだが、インバウンド誘致だけでは問題解決にほど遠い。新知事の手腕が問われる。
(文=山田稔/ジャーナリスト)

明日、「供託金」違憲訴訟で画期的判決か…一般国民の選挙立候補を“妨害する”悪しき制度

供託金違憲訴訟弁護団。2月27日最終口頭弁論後の報告集会。右から2番目が原告の近藤直樹氏

 この夏の参議院議員選挙を控え、あるいは衆参ダブル選挙の可能性も指摘されるなか、5月24日午後3時から東京地裁103号法廷で、「供託金違憲訴訟」の判決が言い渡される。

 国政選挙に立候補する場合、公職選挙法によって、選挙区で出馬には300万円、比例代表では一人当たり600万円を国に供託しなければならない。これを供託金という。

 選挙区から立候補した場合、有効投票総数の10分の1に達しなければ、供託したカネは全額没収される(国庫に入る)。つまり、日本では事実上、一般人、特に貧しい人は立候補できない制度になっている。

 2014年12月の衆議院選挙に立候補しようとしていた埼玉県在住の近藤直樹氏は、出馬に必要なすべての書類を準備したが、供託金300万円を用意できず、立候補を断念した。

 そこで近藤氏は、高額の供託金を義務付ける公職選挙法92条は、選挙権に関して財産や収入による差別を禁じた憲法44条但し書き「人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない」に違反するとして、訴訟に踏み切った。

 近藤氏は提訴の理由を、裁判後の報告会などでこう述べている。

「おかしいことは自分たちの力で変える。そう思っても具体的に行動する人は少ないから、提訴というかたちで行動を起こしました。

 最初はどうしていいかわからず、インターネットなどで情報を集め、宇都宮健児弁護士を見つけ、“ダメ元”で事務所に電話してみたのです」

 電話を受けた宇都宮弁護士は何人もの弁護士に呼び掛け、最終的に8人の弁護士で弁護団を結成した。

 これまでにも、近藤氏と同じ疑問や怒りを感じて、何人かが供託金違憲訴訟を提起したが、裁判所はまともに審理もせず、口頭弁論を1回か2回開くだけだった。それも、書面の確認をするだけである。

 筆者の知人も提訴したことがあるが、原告が法廷で意見陳述させてほしいと主張しても、「書面を出してもらっていますので」と、裁判長はまともな陳述さえ許さず、5分程度で閉廷する始末だった。当然のごとく、過去の同種の訴訟は、原告の主張が退けられてきた。

 ところが、今回の訴訟では8人の弁護士が代理人となり、毎回傍聴者も多く、注目の裁判になった。口頭弁論も12回開かれ、原告の近藤氏の尋問も法廷で行われた。

 これまでの同種の裁判とは、様子がまるで違うのだ。そのため、原告の主張を一定以上認めるような判決が出るのではないかとの見方も出ている。

「結果いかんでは、国会も対応せざるを得ない」と、宇都宮弁護士は言う。

 もし、供託金が憲法違反とされたら、ただちに国会は公選法改正をしなければならないだろうし、仮に原告敗訴でも判決理由に何が書かれるかによって、廃止しないまでも供託金の大幅減額へ向けて国会が動く可能性もある。

最大の政治勢力である「無党派」が排除されている

 選挙に立候補するのに300万円、あるいは600万円も支払わなければならない高額供託金のルーツを、改めて確認する必要があるだろう。

 1925年(大正14)、25歳以上のすべての男子に選挙権が与えられたが、同時に弾圧法の治安維持法、そして供託金制度ができた。

 立候補も投票も自由にできれば、無産政党(労働者政党)、一般人が大量に国会に進出してしまう。それを阻止するための治安維持法と供託金だった。

 そして第二次大戦敗戦後の民主化のなかでも、供託金は廃止されるどころか年々高額化され、世界一高くなってしまった。

 ちなみに、戦前は一定の税金を納めた者にのみ選挙権が与えられていたが、選挙法が改正されるたびに納税額が引き下げられてきた。戦後は逆に、供託金の額が選挙法改正ごとに何度も引き上げられてきた。

 したがって、2019年の現在も平等な自由選挙(普通選挙)は実現されていない。

 さらに、公選法では、文書図画の配布も原則禁止で、政治団体のニュースレターを配っただけで逮捕・長期拘留・起訴有罪にされた例もある。さらには戸別訪問の禁止をはじめ、ビラ配りやポスター張り、ハガキも公選法で厳しく制限されている。世界でも珍しい制限選挙といえるだろう。

 一方で現役議員、とりわけ与党所属の者は、1日24時間365日選挙運動しているも同然であるのに、新人や新しい政治威力、無党派市民は、わずかな選挙期間しか運動は認められない。そのため、存在さえ有権者に知らせるのが難しい。

 とりわけ最大の政治勢力である無党派市民の立候補が、高額供託金と選挙運動規制で阻まれているのが現状だ。

 まさに制限選挙であり、公職選挙法は政治弾圧の側面が非常に強い。

自民党からも「供託金は高すぎる」という声

 民主制度の根幹にかかわるこの訴訟は、2月27日に行われた第12回口頭弁論をもって結審し、5月24日の判決文言い渡しを待つのみである。

 原告側が提出した書面で注目されるのは、供託金について国会や政党がどのように議論してきたかを示した部分だ。

 一般人や無党派市民、新政党所属者が立候補を断念せざるを得ない世界一高い供託金によって、もっとも恩恵を受けている自民党の対応が実に興味深いので紹介しておこう。

(1)2001年の「衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」。議員の質問に対し、大竹邦実・政府参考人は「日本の場合は諸外国に比べますと、供託金の額が非常に高いものになっているのは事実でございます」と、世界的に見て供託金が高いことを認めている。

(2)2009年の国会では、供託金減額の公職選挙法改正案が衆議院で可決された。その内容は、選挙区300万円を200万円、比例区600万円を400万円にするというものだったが、衆議院が解散されたため参議院で可決せずに廃案になった。

(3)2015年の「衆議院政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」で船田元議員は、「やはり今の公職選挙法全体の体系が、諸外国のなかでもかなり厳しいということは、私自身も認識をしております。しかし、昨今投票率が下がってきている、恒常的に下がってきているという原因のひとつには、やはり厳しすぎる公職選挙法の縛りが、ある程度は原因している」と述べ、選挙運動の厳しい制限と供託金が、恒常的な投票率の低下の原因だと指摘している。

(4)2016年3月12日、自民党青年局は自民党に対して、多くの若い世代が政治に挑戦しやすい環境を整備するために供託金の金額を早急に下げるべきだと提言している。

 このように、さすがに自民党の中からも、供託金が高すぎるという声が相次いでいるのだ。

 判決を前に、もう一度、立候補について差別を禁じている憲法44条を掲げておく。

「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない」

 判決内容が注目される。
(文=林克明/ジャーナリスト)

〇5月24日(金)15:00 
〇東京地裁103号法廷(地下鉄「霞ケ関駅」A1出口)
※傍聴券抽選の可能性もあるため20分前までに裁判所正面入り口わきの抽選券配布場所へ
〇記者会見 16:00(司法記者クラブ)
〇報告集会 16:00~17:00(弁護士会館508ABC)

パ・リーグLIVE?DAZN?ニコ生?radiko?今年のプロ野球は何で見るべきか?

「Getty Images」より

 プロ野球観戦というと昭和から続く娯楽だが、ここ数年はネットの普及と発展のおかげで大きく様変わりしてきている。テレビ放送のみだったころは、中継映像が見られるのは読売ジャイアンツか地元球団だけ、みたいな状態だったが、今はネット配信サービスのおかげで、地元以外の球団の試合も視聴しやすくなった。

 ネット配信サービスなら、BS/CSの有料チャンネルを複数契約するより安価に済ませやすい。スマホやパソコン、タブレットなどで視聴できるので、外出先や作業中の「ながら」でも視聴しやすく、試合中のCMもなく、延長戦になってもヒーローインタビューや監督インタビューまで見られる。さらに配信サービスによっては、視聴者コメントのようなネットならではのおもしろさもある。

 しかし、どの試合をどの配信サービスで視聴できるかは、その試合を主催する球団次第。公式戦の半分は自球団が主催するいわゆるホームゲームだが、もう半分は相手球団主催のビジターゲームとなる。応援する球団の主催試合(ホームゲーム)だけを視聴できても、全試合の半分にしかならない。

 なるべく多くの試合を見ようとすると、実はパシフィック・リーグ(パ・リーグ)だけなら簡単なのだが、セントラル・リーグ(セ・リーグ)は球団ごとに配信サービス対応がバラバラなので、どこのサービスと契約するか、かなり悩ましい。今回はそうしたお悩み解決の一助となるべく、主要なプロ野球公式戦の配信サービスをピックアップして解説しよう。

パ・リーグ主催試合は「パ・リーグLIVE」がコスパ抜群!

月額料金:462円(税別/ソフトバンクモバイル・ワイモバイルユーザーは無料)
配信試合:パ・リーグ球団の主催試合
対応機器:スマートフォン・タブレット

 パ・リーグは2018年より、リーグ全体のネット中継の配信パートナーとして「Rakuten TV」「DAZN」「パ・リーグLIVE」「パ・リーグTV」と提携している。

 このうち、パ・リーグ球団のファンにもっともオススメなのが、「パ・リーグLIVE」だ。こちらはソフトバンクのサービスなのだが、別に福岡ソフトバンクホークスびいきというわけでもなく、パ・リーグ全球団の主催試合をすべて配信している。パ・リーグのどの球団にとっても、公式戦143試合中、視聴できないのは交流戦のビジターゲーム9試合だけ。これで月額462円なのだが、桁違いにコストパフォーマンスが良い。

 実はこのパ・リーグLIVE、月額462円のYahoo!プレミアムのサービスのひとつ、という位置づけになっている。Yahoo!プレミアムは拡販のためにソフトバンクグループを挙げていろいろなコンテンツやサービスを詰め込んでいるので、契約するのなら、ほかのコンテンツ・サービスも要チェックだ。特にYahoo!プレミアム向けの読み放題サービスでは週刊ベースボールが読めたりするので、プロ野球ファンはそれだけで元が取れたりする。ただしYahoo!プレミアムの内容はしょっちゅう変わっているので、来年以降もこのお得さが続くかは不明だ(ちなみに去年のパ・リーグLIVEはソフトバンクモバイルの大容量データ契約者専用だった)。

 このほかにも「RakutenTV」や「パ・リーグTV」などもパ・リーグの全試合を中継するが、パ・リーグLIVEほどコストパフォーマンスが高くない。Rakuten TVの年間契約も悪くないのだが、レギュラーシーズンの試合なら、4月~10月の7カ月間だけでイイので(チームの成績が悪ければ9月まででもOK)、年間契約のお得感は少ない。

「パ・リーグLIVE」公式サイトより

セ・リーグファンにオススメな「DAZN

月額料金:1750円(税別/NTTドコモユーザーなら980円)
配信試合:パ・リーグ全球団・ジャイアンツ・ベイスターズ・ドラゴンズ・タイガース主催試合
対応機器:スマートフォン・タブレット・パソコン・PS4・Apple TV・Amazon Fire TV・Chromecastなど

 スポーツ専門の動画配信サービス「DAZN」は、世界中のさまざまなスポーツ中継を配信するサービスだ。メジャーリーグや国内外のサッカー、球技や格闘技、モータースポーツなどが見放題という、スポーツ好きの人には非常にありがたいサービスだが、日本のプロ野球も試合中継を配信している。価格はそこまで安くないので、パ・リーグファンならば前述のパ・リーグLIVEのほうが安くてオススメだが、セ・リーグにとっては複数球団に対応する貴重なサービスとなっている。

 ただし今年のDAZNは、セ・リーグでは広島東洋カープと東京ヤクルトスワローズの主催試合を中継しない。実は去年のDAZNではジャイアンツ以外の全球団の主催試合を配信していたのだが、今年はジャイアンツが加わった代わりに、カープとスワローズ、奇しくも昨年のセ・リーグ1位・2位球団が抜けてしまった。

 主催試合を配信するジャイアンツ、横浜DeNAベイスターズ、中日ドラゴンズ、阪神タイガースからすると、レギュラーシーズン143試合中、約25試合が中継されないが、大半の試合が中継されるので、かなりコストパフォーマンスの良いサービスとなる。特にドラゴンズにしてみると、ほかにネット配信サービスがないので、DAZNがもっともオススメだ。

 しかしカープとスワローズにとっては、試合の半数にあたるホームゲームが中継されないので、ビジターゲームのためだけに契約するかは微妙なところである。

 スワローズに関しては、球団の第2株主であるフジテレビを優先するので、DAZNに放映権を販売しないということだろう。しかし後述するフジテレビ系のネット配信サービスで主催試合を視聴できるので、スワローズファンはDAZNではなく、そちらを契約するのもオススメだ。

 カープはというと、地元放送局を優先する傾向があるようで、その流れで主催試合をDAZNで配信しないようだ。昨年のDAZNではカープ主催試合だけ「広島以外でのみ視聴可能」という制限があり、再生するときにアプリが位置情報を確認するようになっていた。地元放送局への配慮だったと思われるが、今年は配信自体がなくなってしまった。

 広島であれば、地元局が必ずカープの試合を中継してくれるのだが、広島以外のファンにはちょっと厳しいところでもある。特にカープはここ数年の好成績や優秀な選手のおかげで全国的にファンも増えている。そんな状況なのに、広島以外での試合視聴が困難になってしまったというのは、ちょっと残念な話だ。

「DAZN」公式サイトより

とにかく全球団の試合を視聴したいなら「スカパー!」(ちょっと高いけど)

月額料金:3685円(税別/別途基本料金390円が必要)
配信試合:プロ野球全試合
対応機器:スマートフォン・テレビ

 衛星放送の「スカパー!」の「プロ野球セット」なら、セ・パ全12球団の公式戦をすべて視聴できる。基本的にはテレビで見る人向けの有料チャンネルサービスだが、おまけとして契約者はスマホからもネット経由で視聴できるようになる。

 全球団の全試合を一括で見られる唯一のサービスで、当然だが、セットに含まれる12個のチャンネルのほかの番組も見られる。しかし有料チャンネルなので、月額料金は3685円と、ネット配信サービスに比べるとちょっと高価。ライトなプロ野球ファンにはオススメしにくい。見られる試合が少なくても、もうちょっと安いネット配信サービスで済ませ、浮いたお金で球場に行く機会を増やしたほうが良いかな、とも思うところだ。

「スカパー!」公式サイトより

地方球団ファン、特にカープファンには頼もしい「radiko」

月額料金:無料(プレミアム会員は350円【税別】)
配信試合:ラジオ放送に準ずる
対応機器:スマートフォン・テレビ

「radiko」はAMラジオとFMラジオをインターネット経由で聴取できるというサービスだ。自分がいま居る地域のラジオ局の番組であれば、無料でリアルタイムおよびタイムフリー聴取ができ、さらに月額350円のプレミアム会員になると、全国のラジオ局を聴取できるようになる。

 音声のみなので、映像配信に比べると臨場感に欠けるところもあるが、ラジオにはラジオならではの良さがある。まず試合の動きをすべて声で実況してくれるので、画面を見る必要がなく、移動中や作業中でも楽しみやすい。動画配信に比べるとデータ通信量が格段に少ないので、1試合をまるごとWi-Fi外で聴取しても、すぐにギガ残量が尽きるということもない。ラジオよりテレビのほうが良いと思われがちではあるが、実は使いどころによってはラジオのほうが便利だったりするのだ。

 ただし、試合のラジオ中継があるかどうかは、ラジオ局や球団(あるいは放送権を持っている企業)の意向次第だ。たとえばスワローズ主催試合は放送権を持つニッポン放送ですらジャイアンツ戦を優先していたりする。しかし、地方のラジオ局は地元球団の中継を優先する傾向があり、たとえば広島のRCCラジオはカープ主催試合の完全中継を謳っている。広島以外に居住するカープファンにとっては、radikoのプレミアム会員は非常に頼もしいサービスだ。

「radiko」公式サイトより

ベイスターズファンの救世主「ニコニコ生放送

月額料金:無料(プレミアム会員は540円【税別】)
配信試合:ベイスターズ主催試合
対応機器:スマートフォン・タブレット・パソコン

「ニコニコ生放送」ではここ数年、ベイスターズの主催試合の生中継を無料配信している。ちなみに筆者もベイスターズファンなので、かなりお世話になっていて、昨年はDAZNを契約していたのにホームゲームはわざわざニコニコ生放送で視聴していたくらいだ。

 ニコニコ生放送の最大の特徴は、なんといっても視聴者によるリアルタイムコメント表示があることだ。応援や期待、不安、解説、ヤジ、賞賛、ジョーク、世間話などなど、ほかの視聴者のコメントとともに試合を観戦するのは、テレビやほかの配信サービスにない唯一無二の魅力になっている。

 たとえば「ハマのプーさん」こと宮崎敏郎内野手の打席ではハチミツやクマの絵文字をコメントするなど、コメントならではの応援も楽しい。応援歌をそのままコメントで歌ったりもするし、ネットスラングなどが飛び交うのもまたおもしろい。実際のところ、コメントを表示すると試合映像が見にくくなるが(特に試合が大きく動いた瞬間はコメントで画面が埋まる)、しかしコメントを読み書きしながらの観戦をオススメしたい。

 テレビ放送やほかの配信サービスに比べ、「雰囲気がユルい」のも特徴となっている。ニコニコ生放送では基本的に解説者はつかず、フリーアナウンサーによる実況のみなのだが、コメントを拾いながら実況したり、コメントがツボに入った実況者が放送中に爆笑したりと、かなりフリーダムな雰囲気で視聴者と一体感のある実況を楽しめる。

 ちなみに昨年まではAbemaTVもベイスターズの主催試合を無料配信していたが、今年は配信していないので、無料配信はニコニコ生放送だけとなる。しかしニコニコ生放送は視聴者が多すぎると無料会員から追い出していく仕組みを取っているので、確実に視聴するなら、月額540円のプレミアム会員が必要になってくる。

「ベイスターズなんて、そんなに人気ないだろう」と思われる方もいらっしゃるかも知れないが(筆者だってそう思っていた)、ところがどっこい、最近のベイスターズ人気は想像以上のものがある。3月のある平日昼間に行なわれたオープン戦のニコニコ生放送の中継では、延べ視聴者数が10万を超え、無料会員はどんどん追い出されるという状態だった。シーズンがスタートしてから、4月後半の絶不調10連敗もあってチームは低迷しているものの、ニコニコ生放送は毎試合満員状態で無料会員は追い出されまくり。人気があるのはファンにとっても嬉しいことだが、おかげで観戦しにくくなってるのはちょっと悲しくもある。

昨年の「ニコニコ生放送」の配信中継より


スワローズファンならフジテレビの「FODプレミアム

月額料金:888円(税別)
配信試合:スワローズ主催試合
対応機器:スマートフォン・タブレット・Amazon Fire TV

 スワローズは、第2株主がフジ・メディア・ホールディングスという関係もあって、主催試合はすべてフジテレビ系の有料CSチャンネル「フジテレビONE」で放送しつつ、そのネット配信サービス「フジテレビONE・TWOsmart」(月額1000円~)やフジテレビのネット配信サービス「FODプレミアム」(月額888円)で配信している。

 スワローズの主催試合はDAZNで配信していないので、ファンにとってFODプレミアムはありがたいサービスなのだが、逆にいうと、資本関係のあるフジテレビ系を優先しているからDAZNに映像提供しない、という見方もできる。DAZNに配信してくれないと、ライバル球団のファンがビジターゲームを視聴しづらくてツラいのだが、このあたりは球団の方針なのでどうしようもない。

 ともあれ、スワローズファンはホームゲームを視聴できるこれらのサービスか、ビジターゲーム(カープ主催試合を除く)を視聴できるDAZNのどちらか、あるいはそれら両方を契約するのがベストだろう。ちなみにFODプレミアムはライブ配信のみだが、フジテレビONE・TWOsmartはアーカイブ配信にも対応するので、時間が合わずに生中継を視聴できないことが多い人は、フジテレビONE・TWOsmartがオススメだ。

「FODプレミアム」公式サイトより

ジャイアンツファンは「ジャイアンツLIVEストリーム

月額料金:1500円(税別/無料のGIANTS ID会員なら1000円)
配信試合:ジャイアンツ主催試合・対ベイスターズのビジターゲーム・対タイガースのビジターゲーム・交流戦のビジターゲーム
対応機器:スマートフォン・パソコン

 ジャイアンツは「ジャイアンツLIVEストリーム」というサービスで、主催試合と一部のビジターゲームを配信している。DAZNと価格的に大差がないが、こちらもビジターゲームをそこそこ配信するので、DAZNとどちらにするか悩ましいところだ。

 といっても、そもそもジャイアンツの主催試合は日本テレビ系列の地上波やBSで全国中継されることが多い。無料のテレビ放送だけでもそこそこOKなのは、人気球団の強みといえるだろう。もちろん放送では削られがちなヒーローインタビューや監督インタビューもネット配信なら見られるし、過去の試合のアーカイブやダイジェストなども配信されている。機能もコンテンツも充実しているが、月額料金はそこそこかかるので、それだけのためにジャイアンツLIVEストリームを契約するかどうかは悩ましいところだ。

 このほかにも日本テレビの子会社である「Hulu」でも主催試合を中継している。Huluは月額933円とやや安く、ドラマや映画などプロ野球以外のコンテンツも楽しめるので、そのあたりも興味があるならば、コストパフォーマンスの高いサービスとなる。

「ジャイアンツLIVEストリーム」公式サイトより

タイガースファンは「虎テレ」がお得で楽しい

月額料金:600円(税別)
配信試合:タイガース主催試合・対ジャイアンツのビジターゲーム・交流戦のビジターゲーム
対応機器:スマートフォン・タブレット・パソコン

 タイガースは球団公式の「虎テレ」で主催試合とビジターゲームの一部を配信している。ニコニコ生放送でベイスターズの主催試合が見られれば、DAZNと比べても見られないのは対ドラゴンズのビジターゲームだけ。これが月額600円なのだから、タイガースファンにとっては抜群にコストパフォーマンスの良いサービスだ。

 虎テレでは独自に「熱狂メーター」という機能を提供している。これは視聴者がクリックした「よっしゃ!」ボタンと「そりゃないで……」ボタンを集計してグラフ表示するというもの。ニコニコ生放送などのコメント機能は、ときには誹謗中傷などが流れることもある。さすがに球団公式サービスでそうしたコメントを流すわけにいかないが、「よっしゃ!」と「そりゃないで……」の2つだけならば問題ないというわけだ。

 実際にグラフを見てみると、タイガースが失点した瞬間に「そりゃないで……」が殺到しているのがわかる。得点した回も、追加点のチャンスで期待の打者が凡退とかだと「そりゃないで……」になるのがおもしろい。

 ハイライト映像も充実していて、熱狂メーターの月間ランキングやキーワード検索などで過去の映像を再生したり、マイリストを作ったりもできる。単一球団の独自配信サービスとしてはそこそこ安価な虎テレだが、サービス内容は他球団のファンから見ても羨ましいくらいの充実ぶりだ。
(文=白根雅彦)

「虎テレ」公式サイトより

レオパレス、“逆ざや”の危険水域目前…深山社長、「知らなかった」として取締役残留

レオパレス21(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 賃貸アパート大手、レオパレス21は創業家出身の深山英世社長が代表権のない取締役に退き、後任に宮尾文也取締役常務執行役員が昇格する。いずれも5月30日付。建築基準法の基準に合わないアパートを施工した問題が拡大しており、深山社長は「一定のけじめをつけ、責任を果たす意味で辞任を決めた」と語る。

 自分が取締役として経営陣に残ることについては「物件オーナーや法人顧客との関係を維持するため」と強調したが、説得力に欠ける。

 2019年3月期の連結決算の売上高は18年同期比4.8%減の5052億円、営業利益は67.8%減の73億円、最終損益は686億円の赤字(18年同期は148億円の黒字)に転落した。空き室が増加したことに伴い賃料収入が減り、その一方で施工不良が見つかった物件の補修工事費が膨らんだ。最終損益が赤字になるのは8年ぶり。赤字幅は10年3月期の790億円の赤字に次いで創業以来ワースト2だ。年間配当はゼロ(同22円の配当)となった。

 18年4月に表面化した施工不良のアパート問題は、調査が進むにつれて、より深刻になっている。天井裏の「界壁」と呼ばれる仕切り壁がないことが判明。当初は1990~2000年代に手がけたアパートが中心だったが、18年まで販売していた最新物件でも不備が見つかっており、問題発覚から丸1年たった現在でも調査が続いている。調査の過程で深山氏が社長就任後の施工物件でも不備が見つかったことや、大幅な赤字計上、無配転落の責任を取ったとしている。赤字決算と株価下落で企業価値を大きく損なった。

 外部調査委員会が3月にまとめた中間報告は、創業者の深山祐助・元社長の関与を指摘、組織ぐるみの不正の疑いが深まった。

 19年3月末時点で全物件約3万9000棟の4割弱、調査が済んだ約2万棟のうちの7割超の物件で不備が見つかった。5月14日、新たに1029棟で不備が見つかり、施工不良の物件が4月末時点で1万5628棟に拡大したと発表した。4月末までに全体の棟数の約半分の調査が終わったが、約7割で不備が見つかっている。

 国土交通省はレオパレスに対し、10月までにすべての調査を終えるように指示しているが、調査の終えていない物件が全体の半分ほど残る。すべての部屋の補修を終えた物件数は800棟にとどまる。施工不良物件が、さらに増える可能性があり、前途は多難だ。

法人の解約が相次ぐ

 20年3月期の業績予想は、「楽観的過ぎる」(外資系証券会社のアナリスト)などと酷評されている。売上高は微減の5022億円だが、営業利益は22億円、最終損益も1億円の黒字転換を見込む。補修工事に全力をあげ、入居者の募集を順次再開し、入居率を3月末の84.33%から1年後に90%近くまで回復させるとしている。とはいえ、計画通りに入居者が戻ってくる保証はない。

 レオパレスの入居者は法人契約が多いことで知られる。19年3月末時点で契約戸数48.4万戸のうち、法人契約が28.0万戸と全体の57.9%を占める。個人契約は16.3万戸、学生契約は4.0万戸。法人は転勤者のための借り上げ社宅として利用することが多い。工場の近くでは季節期間工、建設工事の現場では作業員の宿泊施設となっている。

 施工不良問題が発覚後、企業の社宅解約が相次いだ。18年3月末に30.9万戸あった法人契約は、翌19年3月末には28.0万戸と2.9万戸減った。

 補修を終えるまで入居者の募集を停止したため、入居率は毎月低迷。19年3月期末の入居率は84.33%と1年前(93.72%)から9.39ポイント低下した。それが4月は一段と悪化した。契約戸数は47.3万戸で、前月比1.1万戸減、前年同月比5.6万戸減。入居率は82.35%で、前月比1.98ポイント減、前年同月比10.47ポイント減となった。

 受注高の落ち込みも大きい。19年4月末の受注高は10億円にとどまり、前月比13億円減、前年同月比50億円の減少だ。施工不良の問題は事業全体に深刻な影響を及ぼしている。

家賃収入が保証賃料を下回る「逆ざや」のリスク

 レオパレスはオーナーからアパートを一括借り上げ、入居者に転貸する「サブリース」の形式をとる。入居率が下がれば、家賃収入がオーナーに保証している賃料を下回る「逆ざや」となる。「逆ざや」の目安は、入居率80%がとされる。

 過去を振り返ってみよう。

 10年3月期の最終損益は790億円の赤字、11年3月期も408億円の赤字と2期連続の巨額赤字に沈んだ。原因は08年秋のリーマン・ショック。世界的な金融危機の影響をモロに受けた。工場への派遣社員や期間従業員の入居率の低下が地方都市にまで広がりを見せた。

 20年3月期は10・11年と同様に、入居者数の減少による「逆ざや」になる可能性が高い。というのも、建築不正の全容が明らかになっておらず、収束のメドが立たないからだ。生命線の入居率が想定を下回る状況が続けば、経営は一段と厳しくなる。

 6月末に予定されている株主総会後で、深山氏が取締役として残るかどうかも不透明だ。「きちんとけじめをつけるべきだ」との声が社内外に多い。

 改修工事費や引っ越し費用などとして、4回にわたり計547億円の特別損失を計上したが、今期、どれだけの特別損失が出るかについても明確になっていない。2月段階で特損は430億円だった。

 宮尾新社長は、創業家以外から初の社長となるが、同氏を選んだ理由について深山氏は「(宮尾氏は)施工部門の所属しておらず、一連の問題に関与していないこと、経営企画部門が長く会社全般に詳しいことなどから後任に適任と判断した」と説明している。

 深山氏は、施工不備を招いた原因を「順法と、ものづくりに対する意識が欠けていた。商品開発も急いでいた。順法性を担保しなければならない組織がスピードについていけず、こういうことになったのだろう」としたうえで、不正への関与を「知らなかった」と否定している。

 第三者調査委員会が5月下旬に最終報告書をまとめる見通し。報告書の内容によっては、「2020年、黒字転換」としている会社側の見立てが大幅に狂うこともあり得る。

 物件のブランドイメージの悪化は避けられない。今年3月の入居率は繁忙期にあるにもかかわらず、84%と過去5年間でもっとも低くなった。4月は82.35%と、さらに続落した。この数字の意味は重い。

 旧村上ファンド系投資ファンドのレノが、レオパレス21の株式保有比率を6.24%まで増やしたことが5月14日に判明。同日付で関東財務局に提出された大量保有報告書で明らかになった。18年9月期末の大株主名簿によると、筆頭株主の持ち株比率は4.2%。この通りなら、レノが筆頭株主になった可能性がある。保有目的は「投資および、状況に応じて経営陣への助言、重要提案行為などを行う」としている。

 さらに、5月21日、レノと共同保有者2者と合わせた保有割合が14.13%となったことが判明した。20日に12.56%まで高まっていたが、さらに買い増した。株価の波乱要因になるかもしれない。
(文=編集部)