未来のために、今こそ持続可能な製品デザインを

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

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サステナブル・シンキングに基づくビジネスとは?

「再考:なぜ持続可能な製品デザインが今、必要とされているのか」から見る3つのポイント

持続可能な製品デザインの推進を考えているなら

気候変動に対する懸念は地球全体で高まっています。もし私たちが持続可能性を高める取り組みを推進していかなければ、この惑星で人類という種が存続することは難しくなっていくでしょう。

そこで、デザイン業界を含むあらゆる業界のプロジェクトにおいて、サステナブル・シンキングに基づくビジネス という考え方を取り入れることが切実に求められています。デザイナーは、消費者に高い価値を提供するためのデザインだけではなく、この地球がより健康的で公正で、住みやすい場所になるようなデザインをも考える必要があるということです。

サステナブル・シンキングに基づくビジネスとは?

具体的に言えば、修理可能な製品、環境に優しい原料を使った製品、社会における公平性を促進する方法で生産される製品をデザインするということです。これらのことを簡単に実現できると言う人は一人もいません。しかし、私たちが今、行動することが極めて重要であると認識し始めた人はどんどん増えています。そこで、持続可能性に向けた対策の一つは生産量を減らすことですが、それよりも“スマート”に解決する方策が、よりよいデザインを考えることなのです。

私はfrogの再生型デザイン担当副社長として、キャップジェミニ・リサーチ・インスティテュート(CRI)(※1)が作成した最近の調査リポート「再考:なぜ持続可能な製品デザインが今、必要とされているのか」 (Rethink: Why sustainable product design is the need of the hour)に著者の一人として参加しました。そして、キャップジェミニ・グループ内の複数の部門から集まった13人で、気候変動という非常事態が進行する中で、持続可能な製品デザインの必要性について活発に議論を行いました。

本リポートは、消費財メーカーや自動車メーカー、産業用機械製造業など、さまざまな業界の大手企業で製品デザインやエンジニアリングを担当するシニアエグゼクティブ900人を対象にアンケートを行い、そこから得られたデータと知見をまとめたものです。以下にその一部をご紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。

※1=キャップジェミニ・リサーチ・インスティテュート(CRI)
英国、米国、シンガポール、インドに研究センターを持つ、トップクラスのグローバル・シンクタンク。ビジネスとテクノロジーに関する開発の調査を行い、実用的な洞察と分析を発信している。

「再考:なぜ持続可能な製品デザインが今、必要とされているのか」から見る3つのポイント

●持続可能な製品デザインは、これからのビジネスに必須の要素 
製品デザインの持続可能性を確保することは、環境にとって正しい選択であることに加え、ビジネスとしても正しい選択となります。なお、よく引用される統計によると、製品が環境に与える負荷の80%は、設計段階の意思決定に起因しているといわれています。

今回、調査対象の企業のうち、3分の2以上が、持続可能な製品デザインを行うことにより二酸化炭素排出量を削減できたと回答しています。

また、持続可能な製品デザインを優先することで、企業は持続可能性の目標達成に向けた取り組みを加速させることができるだけでなく、将来、サプライチェーン(※2)が受けるであろう衝撃に対するレジリエンス(回復力)を高めていくことができます。

※2 = サプライチェーン
素材・部品の調達、商品の製造、在庫管理、物流・流通、販売といった一連のプロセスのこと。
 


●持続可能性を製品デザインの中核に
持続可能な製品デザインが切実に求められているにもかかわらず、今回の調査で持続可能性が製品デザインの重要な要素だと回答した人はわずか22%でした。また、行動を起こすためには意識を持つことが重要ですが、デザイナーの多くは、製品が環境や社会に与える影響について限定的な理解しか有していませんでした。そして、製品デザインの一環として定期的な環境・社会影響評価を実施している企業は全体の4分の1程度でした。

さらに、持続可能な製品デザインを行うには、デザイナーがシステム思考(※3)やサーキュラーデザイン(※4)といった方向へとマインドセットし、製品の影響について総合的な観点から考えられるようにならなければなりません。しかし、これまで製品デザインにシステム思考を取り入れたことがあると回答した企業は12%だけでした。また、製品の持続可能性を向上させるために具体的な行動を起こしている企業もほんの一握りでした。

※3= システム思考
物事をシステムと捉え、さまざまな視点からアプローチすることで、本質的な解決に導く思考法のこと。
 
※4= サーキュラーデザイン
資源を使い捨てにせず、循環させることを前提とした、製品やサービスのデザイン。SDGsの目標の一つであるサーキュラーエコノミーを目指す上で欠かせない考え方。



●コストと素材調達の課題は克服できる 
一般的に、持続可能な製品デザインを進めるうえで、障害となるのはコストだと考えられています。しかし、今回の調査では、持続可能なデザイン戦略を採用したことによりコストが下がったと回答した人が23%、変わらなかったと回答した人は37%となっており、持続可能なデザインが必ずしもコスト増につながるわけではないということがわかりました。

一方で、コスト以外にも、企業が克服しなければならない課題が社内外に存在します。本調査によると、55%の企業が、持続可能な素材の調達の困難さが大きな課題であると回答しており、54%の企業が、特に製品の環境や社会への影響を正確に評価するためのデータが不足していると回答しています。また、企業には、システム思考やサーキュラーデザインといった、持続可能なデザインの基盤となるスキルセットの蓄積がないという現状も見えてきました。

持続可能な製品デザインの推進を考えているなら

よりよい地球環境を目指して積極的に活動するすべての人にとって、持続可能な製品デザインは人ごとでは済まされない、極めて重要なテーマです。今回の調査を通して、地球の未来に欠くことのできないデザインの核心的な側面について、同僚やキャップジェミニ・リサーチ・インスティテュートと協働する機会を持てたことに感謝します。

企業のワークフローに組み込めるような持続可能な製品デザインを実践していくには、多くのハードルがあることは確かですが、そのゴールに向けてのステップは具体的で実行可能なものです。ぜひ、この調査リポートをダウンロードして、どのように持続可能な製品をデザインし、提供すればよいのか、より詳しい内容をご覧ください。

どのような業界であれ、より健康的で公正で、住みやすい地球環境を創造していくために、誰もがそれぞれの分野で役割を担い、行動することができます。私たちfrogとともに持続可能性を推進していきませんか。関心のある方はぜひお問い合わせください 。

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顧客エンゲージメントを向上する「ABM」というツール

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今、お客様にリーチするための最適な方法とは

B2B企業にとってのABMとは何か

なぜB2BにABMが重要なのか

ABMがB2Bビジネスを変革できる6つの理由

技術の意思決定もABMに基づくこと

近年、どの業界においてもお客様が企業へ抱く期待に変化が起きています。特にサービス産業は、世界経済の成長を牽引する重要な(そして確実に最大の)セクター。この広範なサービス産業に属する多くの企業も、進化し続ける顧客ニーズに対応すべく新たな方法を模索しています。そして今日、サービス産業の多くのサブセグメントが、エンジニアリング、調達、建設、輸送、流通、専門的サービス等のB2B(企業間取引)市場の活性化を支えています。

その上でB2B企業の多くが直面している重要な課題は、お客様に共感していただきながら、いかに自社の価値を適正に伝え、示すかということです。以前のように、一つのやり方ですべてのお客様に対応するシンプルなアプローチでは、もはや不十分であることに気づき始めたのです。



 

今、お客様にリーチするための最適な方法とは

現代のように流動性が高い時代には、大きな変化が起きる可能性があります。そのため、市場参入戦略も根本から見直すことが重要です。専門用語ばかりの企業スローガンをなくし、もっと明確で率直な問いを立ててみましょう。「お客様にリーチするための最適な方法は何だろうか」と。

実はその答えは、シンプルかつ本質的な方法です。「お客様のところへ会いに行く」ということです。「アカウントベースドマーケティング(ABM)」の真価が発揮されるのは、まさにこの部分です。

B2B企業にとってのABMとは何か

frogでは常に、お客様の目標達成を支援する最新のツールを探しています。そこで注目しているのがABMです。ABMは、サービス産業をはじめ、その他の産業においても直面するであろう主な課題を解決するための重要なツールの一つといえます。

ABMとは、価値の高い企業(アカウント)に焦点を絞り、カスタマイズされたマーケティングおよびセールス施策を通してアプローチしていく市場参入戦略のことです。ABMを活用することで、マーケティングチームと営業チームが緊密に連携して、優先すべきアカウントを選択します。それぞれに合わせてカスタマイズした施策でそのアカウントを大事に育て、収益を上げ、関係を強化していくことが可能になります。

つまりABMはマーケティングにおいて、これまでのように広範なオーディエンスに向けて一律のメッセージを発信するのではなく、特定のお客様に的を絞り、そのお客様により適したコンテンツを作成し、提供する機会を生み出すものなのです。

なぜB2BにABMが重要なのか

B2Bビジネスにおいて、よりよいカスタマーエクスペリエンス(CX)を実現するために必要なこと。それは、お客様が抱える悩みに共感し、お客様に合わせてカスタマイズされた適切な方法で、意思決定者に直接マーケティングを行うことです。そしてデジタルとヒューマンタッチを適切に組み合わせて、お客様が希望する時間と場所でお客様にリーチできるようにすることです。

ABMを導入することで、組織全体として、よりパーソナライズされた有意義な方法でお客様との関係を育て、お客様をエンゲージする方向へと意識をシフトできるようになります。

また、規模の大小にかかわらず、B2B企業では取引の完了までに数カ月かかることも珍しくありません。しかし、一見複雑なB2Bの営業プロセスが、実はwin-winの関係という非常に人間的なものの上に成り立っていることを忘れないでください。

ABMによって価値の高いアカウントに的を絞り、その企業特有のニーズに対してパーソナライズされた各種キャンペーンを実施することで、より簡単に自社の存在を知ってもらい、問い合わせにつなげることができます。マーケティングチームと営業チームが連携することで、チームの垣根を越えてターゲット企業のエンゲージメントをシームレスに引き出すことができ、その結果として見込み顧客や望ましい企業との有益な関係を構築していくことができます。

ABMがB2Bビジネスを変革できる6つの理由

①高い投資収益率(ROI)と事業成果
ABMを導入した企業は、ROIが97%も増加し、獲得したターゲット企業との取引規模は他のチャネルからの取引の2.3倍にのぼっているという報告があります。また、これらの取引成立までの営業サイクルは、ABMを使用していない組織よりも平均で30日以上短くなっています。戦略的にリソースを投入し、価値の高い見込み顧客に的を絞ることで営業プロセスを迅速化でき、新規顧客の獲得や既存顧客の維持をより効率的に行えるようになったのです。

②顧客エンゲージメントとロイヤルティーの向上
ABMはマーケティングチームにとって、幅広い層のお客様に対して一律のメッセージを送るのではなく、目標とする特定のお客様に、より適切なコンテンツを作成するチャンスをもたらします。このように「パーソナライズ」するためには人間的なアプローチが必要となります。それがひいてはブランドに対する信頼を高め、お客様のエンゲージメントとロイヤルティーの向上につながる強固な関係づくりを可能にします。83%の企業が、ABMを活用して得られた最も大きなメリットはターゲット企業のエンゲージメント向上だと回答しています。

③時間や費用の効率化
ABMでは、「理想の顧客特性」(ICP)の定義から、ターゲット企業の選定、そして成約に至るまで、すべてのプロセスにおいてマーケティングチームと営業チームとの連携が求められます。社内の連携が強化されると、数値として目に見える利益が生まれます。営業チームとマーケティングチームがうまく連携できている企業では、マーケティングによる収益が208%も増加しています。同一の目標と指標に対する責任を両チームに持たせることで、より質の高いリード(見込み顧客)を獲得し、時間と費用をより効果的に使うことができるのです。

④組織内の連携と協働の強化
従来のマーケティングチームと営業チームの関係は、マーケティングチームが“戦略”や“戦術”を駆使してできるだけ多くリードを獲得し、マーケティング活動を通じて有望と認められたリードを営業チームに引き継ぐ。そして営業チームがアウトリーチやコンバージョンを行うという分業体制になっていました。営業チームは最初のマーケティング戦略には関与せず、マーケティングチームは営業戦略には関与してこなかったのです。しかし、データ駆動型のABMアプローチを成功させるには、これまでのようにマーケティングから営業にバトンタッチして順番に活動するのではなく、両チームが連携し、ターゲット企業のエンゲージメント獲得に向けて協調的かつ継続的に活動していく必要があります。

⑤ターゲットに合わせパーソナライズしたコンテンツ
パーソナライズはABM戦略の要であり、ターゲットに合わせた適切なコンテンツとメッセージを準備することは、自社がターゲット企業のニーズを理解し、信頼できるパートナーであることを示す重要なポイントです。しかし、実際のターゲット企業、想定される顧客像(ペルソナ)、あるいは製品やサービス購入に至るまでのプロセスの各ステージにおけるニーズに合わせてコンテンツを作成するには、非常に多くの時間とリソースが必要となります。だからこそ、適切なターゲット設定が重要になってくるのです。

⑥最適なABM用技術スタックの構築
マーケティングチームと営業チームがうまく連携し、ターゲット企業向けにパーソナライズされたコンテンツの作成はできました。そこで最後に残るパズルのピースは、マーケティングチームができるだけ多くのターゲット企業にアプローチできるよう、適切なAMB用の技術スタック(特定の目標を達成するために協働する複数のツールの組み合わせ)を構築することです。通常、企業がすでに保有している既存の技術スタックに、1~3種類の新しいソフトウエアを補うことになります。また、予算が許せば、ABMを効果的にサポートするABM専用ツールを購入してもいいでしょう。

技術の意思決定もABMに基づくこと

以上を踏まえた上で、もう一つ忘れてはならない重要なポイントがあります。それは技術に関する意思決定はABM戦略に基づいて行うべきであり、その逆ではない、ということです。ABM施策の中で、自社の事業目標に有効なものだけに集中する(重点を置く)ことが必要なのです。

B2B企業にとってABMというトレンドに乗らない手はありません。ABMアプローチであれば、より明確に的を絞り、ターゲットごとに差別化したマーケティングが可能になります。frogでは、ABMの導入やその他の事業目標の達成に向けた支援を提供しています。ABMに関心のある方はぜひお問い合わせください。

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直観力とデータ解析が交わるところ お客さまが発するシグナルに的確かつリアルタイムに対応するには、クリエイティブな直観力と確実なデータ分析が必要

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「クリエイティビティ」と聞いて、何を思い浮かべますか?カラフル?直観的?遊び心のあるビジュアルやアート?では、「データ」という単語はどうでしょう?おそらくパソコンの画面や、ケーブルの束、グラフやスプレッドシートなどが思い浮かぶのではないでしょうか。

マーケティングという視点から見た時、クリエイティビティとデータは、一見、まったく関連性がない要素のように見えるかもしれません。しかし、左右の脳がそうであるように、クリエイティビティとデータも、私たちが考えるよりはるかに密接なつながりを持っています。

 

未来のマーケティングは「データ」と「直観力」の融合が鍵

frogの業務においても、価値・統一感・満足感の高いカスタマーエクスペリエンスを提供し、さらにビジネスとしても成果を達成できるよう、ブランディングやマーケティングにおいてこの2つを組み合わせることがよくあります。

私は最近、Capgemini Research Institute (CRI) が発行した季刊誌「Conversations for Tomorrow」第4号に寄稿しました。「The New Face of Marketing 」(マーケティングの新たな姿)と題された今号では、変わりつつあるCMO(チーフマーケティングオフィサー)の役割について、いろいろな業界のトップリーダーが意見を述べています。

マーケティングの未来は、確かなデータの分析・解釈と、そうしたデータを、オーディエンスが自分に関連するものとして受け止められるようクリエイティブな形で提示すること、すなわち、データとクリエイティブな直観力とをいかに融合していくかにかかっています。感情に訴え、共感を生むことでお客さまの信頼を高めることができ、それがそのブランドに対する信頼度の向上につながります。

データを活用したクリエイティブな手法

現在、データドリブン(※)なリアルタイムマーケティングを手がけている方も、これまでとは違うデータの使い方を模索し、ブランド戦略やブランドアイデンティティの新しい手法を考案するために、クリエイティビティを高めていくことが必須になってきます。また、クリエイティビティを活用することで、 データが重要な業務のスピードや柔軟性を高めることにもなります。 それをはっきり示しているのが、CRIが最近行ったアンケート調査です。 

※ =データドリブン 
経験や勘だけでなく、収集したデータをもとに意思決定をする手法。
 

データドリブンマーケターの79%が、他のマーケターよりもお客さまや市場のニーズに対してアジャイルな対応が可能と回答 しています。「The New Face of Marketing」リポートにも、クリエイティブを活用したデータドリブンマーケティングの利点として、

「変化のスピードが速いトレンドにうまく対応できる」
「お客さまに合わせたパーソナルなアイデアを生み出せる」
「高度にターゲティングされたお客さまのエンゲージメントを可能にする新たなパラダイムにつながる」

等が挙げられています。

このように、クリエイティビティとデータがしっかりと融合されている事例の一つが「ダイナミックバーチャル広告」という革新的な手法です。これは、AR(拡張現実)技術を使って放送チャンネルや視聴者のいる場所に合わせてターゲティングされたコンテンツを表示するというもので、それにはクリエイティブの力とデータを扱うデジタルスキルが同じくらい必要 とされます。

可能な限り多くのオーディエンスにリーチするためには、クリエイティブなコンテンツとそれを発信するために必要なテクノロジー を融合する必要があるのです。さらには、消費者を取り巻くデジタル環境の中で、その広告をどこに配置すれば最も効果的なのかを検討するためにも、データを的確に分析することが必要になります。

この技術はすでに現実の世界で活用されています。実際にどのように行われているか説明しましょう。あなたは今、サッカーの試合を見ているとしましょう。試合が行われているフィールドの後ろには電光掲示板があり広告が表示されています。しかし、テレビで試合を見ている人には、視聴している地域やチャンネルごとに異なる広告が映るようになっているのです。

つまりテレビ局は、ダイナミックバーチャル広告技術 を使って、視聴者に一切気づかれることなく、スタジアムの観客が見ているものとは違うバーチャル広告を実際の広告の画像上に重ねて放送しているのです。この技術により、広告出稿のスケジュールを、ターゲットとする視聴者に合わせてより的確に調整できるようになります。

メタバースやその他の技術を視野に入れて、直観力を強化する

データドリブンなクリエイティブの制作者も、コンテンツの制作にあたって本能的な感覚だけに頼るやり方を変えていく必要があります。協働によるクリエイティブプロセス と確実なデータを得るためのリサーチとの組み合わせを有効に活用すべきです。そして、お客さまの変化に対して、リアルタイムに、しかもお客さまの共感を生み出すような形で対応するためには、クリエイティブな直観力とデータドリブンなリサーチのどちらも同じぐらい重要なのです。

今後さらにメタバースの技術が進んでいくことを考えると、お客さまとブランドをより密接に結びつける、そして真の感動があり、感覚を重視したバーチャル体験を創造していくためには、データを利用する際にクリエイティブの力を活用することが不可欠になっていくでしょう。

リアルタイムのデータを積極的に活用し、そこからインスピレーションを得て、新しいデジタルリアリティーを構築するには、個人の周辺環境を解き明かす必要があります。そのためには、人がどこにいて、誰と、どんな状況でかかわり合っているかを理解した上でメタバース内の世界を構築することが必要です。この新たな領域への探求をリードする優位なマーケティングチームには、説得力のあるストーリーを語れるデータサイエンティストと、リアルタイムなインサイトを活用できるマーケターがメンバーとして含まれていることでしょう。

クリエイティビティとデータとは、もはや対立するものでもなければ、二者択一するものでもありません。これまでもその必要はなかったのです。この2つをどちらも活用できるのがマーケティングの新しい姿です。広告およびメディア の新しい領域での成果を求める企業や組織のために、私たちマーケターはクリエイティビティとデータが融合する地点に到達することができるし、到達すべきなのです。

クリエイティビティとデータの融合やCMOの新たな役割についてさらに知りたい方は、キャップジェミニ・リサーチ・インスティテュートのリポートをダウンロード してください。

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「メタバース」か、「メタトラップ」か?長期的成長に必要な視点

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イノベーターたちがメタバースの基盤を築こうとしている今、それがもたらす価値を手にしようと世界中の企業の間で関心が高まっています。メタバースの活用を検討している段階であれ、すでに試験活用を始めている段階であれ、自分たちのアプローチが正しいかどうかを、今のうちに確認しておきたいところです。

そこで本記事では、すぐに達成できる目標を追うという、企業が陥りがちな罠を避け、自社のビジネスにとって、さらに大きな戦略的価値をつかむためのメタバースの導入方法を解説します。ますますバーチャル化していく世界で、持続可能な収益源を新たに創出する方法を学んでいきましょう。

メタバース空間でも“これまで成功した方法”を繰り返してしまう「メタトラップ」とは?

新しいテクノロジーに出会ったとき、私たちは以前の行動に回帰し、過去にうまくいった方法を繰り返すことがよくあります。例えば、最初のラジオ番組は新聞を読み上げるだけのものでしたし、最初のテレビ番組は生放送の劇でした。マーケティング専門家の トム・グッドウィンが分かりやすく説明しているとおり、多少の革新的な“味付け”を加えたり、周辺の手順を新しくしたりはしても、根本的なところで、私たちの意識は過去に根ざしたままなのです。

そして今、私たちはまた同じことをしています。ただし今回は、それがメタバースで起きているわけです。これを「メタトラップ(メタの罠)」と呼ぶことにしましょう。例えば、小売りブランドはメタバース空間「ディセントラランド」に実店舗をそっくり再現し、音楽レーベルはバーチャルコンサートを開催、消費財メーカーはバーチャルでデモ販売を行っています。

ここではっきりさせておきましょう。以上のような動きは、称賛されてしかるべきです。進歩的なブランドは注目を集める機会を狙って、ゲーム界への参入や「NFT(非代替性トークン※)」の活用を試み、若者層に働きかけて、新たなチャネルでのブランド構築に乗り出しています。

今、考えるべき重要な問いは、こうした初期のメタバースの取り組みから得た教訓をどのように生かしていくか。さらには、この機運を足掛かりにして、持続可能な収益源を新たに創出するにはどうすればよいか、ということです。

※ = NFT(非代替性トークン)
唯一無二のデジタルデータであることを証明し、資産的価値を付与する技術。

メタバースはゲームではなく、人々のより良い暮らしを実現するチャンス

次に、企業がメタバースを活用する際に見落としがちな3つの視点について、詳しく見ていくことにしましょう。

①メタバースとは何か?
メタバースはビデオゲームではなく、VRヘッドセットを着けたまま一日中歩き回ることでもありません。メタバースとは、フィジカルな世界とバーチャルな世界を結び付けることにより、人々のより良い暮らしを実現する“チャンス”なのです。

人工知能(AI)が支援する拡張現実(AR)や仮想現実(VR)から、NFT、メタヒューマン※。その他今後登場するであろうあらゆるバーチャル技術を含め、メタバース前の時代には不可能だった双方向的な製品・サービス・新規事業を開発するチャンスと認識することが必要です。では、「ディセントラランド」のようなバーチャルプラットフォームでの活動も、そのようなチャンスに含まれるのでしょうか? もちろんです。ただし、それは「メタ氷山」の一角にすぎません。

※ =メタヒューマン
非常にリアルな人間のデジタルモデルを作成するツール。
 

バーチャルサイクリングサービス「Zwift(ズイフト)」の例を考えてみましょう。Zwiftは、オンラインフィットネスサービスを提供する「Peloton(ペロトン)」をさらに双方的なメタバース型にしたものといえます。ユーザーは自宅で快適に過ごしながら、他のユーザーとリアルタイムでレースができます(隠さずにいっておくと、モン・ヴァントゥー山を自転車で登るのは決して快適ではありません)。さらに、各ユーザーのパフォーマンスに合わせてカスタマイズされたトレーニングプランが作成されます。2020年、Zwiftの事業は 4.5億ドルの投資を集めました。

メタバースは、顧客との関係を深め、従業員のパフォーマンスと満足度を高め、パーソナル化された製品体験を提供し、従来の販路の質を高める機会だと考えましょう。最終的には、それが新たな収益源とビジネスモデルの創出につながっていきます。

新たなテクノロジーの裏に隠れた、長期的な潜在メリットを理解する

②メタバースに参入するには?
メタバースでの取り組みは、ちょっとした成功がすぐに手に入る類いのものではありません。まずは、新たに出現しつつあるテクノロジーの裏に隠れた、自社にとっての長期的なメリットの可能性を理解することから始めましょう。

メタバースの市場規模は拡大しています。 2030年までには50億人が利用し、獲得可能な最大市場規模は13兆ドルに及ぶと予測されています。この規模は、現在の中国の国内総生産(GDP)にほぼ相当します。

しかし、企業がバーチャル技術の潜在性を効果的に引き出すために必要なのは、NFTブームに便乗して安易に利益を上げる方法を考えるよりも、新たに出現しつつあるこうしたテクノロジーの裏にある長期的な潜在性に目を向けることです。

現在frogは、ある世界規模の消費財メーカーと連携し、まさにその研究を進めています。ポイントとなるのは、将来的な価値の源泉を見極め、戦略的なメタバースへの参入方法を明確にすることです。有望な価値の源泉が分かれば、将来にわたって有効な、説得力のある成長シナリオを構築することができます。

そこに至るために、私たちはカテゴリーのマクロ傾向、消費者ニーズ、企業戦略との整合性、パートナーの優先課題、活用すべき既存の資産の分析に協力しながら取り組みます。関連する問題が明確になった時点で、メタバース関連のテクノロジーが、永続的な価値のあるソリューション(解決策)の構築にどのように役立つのかを検討します。メタバースはそれ自体がソリューションなのではなく、重要な顧客ニーズを解決するためのツールだと認識することが必要です。

このことが、3つ目のポイントにつながります。

“自明”なことの先にある変革的なアイデアの追求が、次の時代を切り開く

③利益性の高い製品を開発するには?
視野を広げて考えましょう。慌てて実行に移す前に、自明なことの先にある変革的なアイデアを追求することです。

まずは、製品のアイデアや成長戦略、市場機会が、どのようなものであれ、文化的、技術的、商業的なインサイトに基づいて妥当性を検証する必要があります。そうした検証を効果的に導入、実行し、規模を拡張していかない限り、それが持つ商業的潜在性を引き出し、組織全体に行き渡らせることはできません。投資利益率の高い製品で次の時代を切り開くには、誰もが認知しているようなことではなく、その先にあるより変革的なアイデアを追求しなければなりません。

多くの企業がつまずくのは、この段階です。

さまざまな業種や国、事業形態で戦略主導型のイノベーションに携わってきた私たちの経験から、多くの組織に共通していることがあります。それは、「アイデアが過大評価されている」、あるいは(こちらの方がありがちですが)「アイデアはすでにたくさんある」と考えていることです。

実際、イノベーションラボの壁には付箋がびっしりと貼ってあり、デザイン思考ワークショップに参加する機会にも事欠きません。しかし、そうしたアイデアは実践においてどれほど説得力があるでしょうか?30分のブレインストーミングで、思わず親友に話したくなるほどワクワクするような世界初のアイデアが出てきたでしょうか?そのアイデアは、お気に入りの雑誌の見出しになると期待できるほど当を得たものでしょうか?実際には、競合他社がすでにやっていることや過去にうまくいったことに、ちょっとひねりを加えただけのものでは?よくある話だとお思いなら、ぜひ一歩引いたところから、思い切って視野を広げて考えてみてください。

frogでは、変革的なソリューションを考案するための多くのツールの一つとして、「変革をもたらす問い」を活用しています。また、クライアントに対して現状維持の意識を脱し、もっと大局的に考えるように促す際にも、このツールが役に立っています。

frogが提案する「変革をもたらす問い」

脳を刺激し、新しいアイデアが泉のように湧き出る「変革をもたらす問い」をいくつか紹介しましょう。

  • 次世代のAIインフルエンサーを開発し、何百万人ものファンと一対一の親密な関係を築くことができるとしたら?
  • 製品体験やサービスを一人一人に合わせたパーソナルなものとし、製品ポートフォリオのインクルーシブ性をさらに高められるとしたら?
  • NFTを、高額消費者の自慢の種を増やすだけでなく、すべての顧客が自社のブランドと個人的に意味のある関係を築けるようにする目的で利用できるとしたら?
  • 仮想現実と没入型シミュレーションを利用して、従業員のパフォーマンスと満足度を高められるとしたら?
  • 顧客行動を少しずつ変え、人々がもっと持続可能な生活を送れるようにする没入体験を開発できるとしたら?

当然ながら、以上のような思考を誘発する問いは、すべての業種に適用できるとは限りません。ここで大事なポイントは、メタバースでの取り組みを実行に移す前に、広い視野で考え、自社の具体的なビジネスに適したメタバースの戦略的な機会を見極める必要があるということです。

何らかの方向性が見えたら、すぐに試行版を作り、アジャイル方式で検証テストを実施して、アイデアに磨きをかけていきましょう。アイデアを実証するのに必要十分なテクノロジーだけを構築し、現実的なフィードバックを集めるといいでしょう。

不況の中でイノベーションを起こすには、成長分野への投資が重要

インフレ傾向で高金利という現在のアメリカ状況は、景気低迷がすぐそこまで来ている可能性を示唆しています。このような状況では、多くの経営者は身動きが取れなくなるか、コスト削減や安全策に走って守りに入るのが普通でしょう。

メタバースなんて後回しだ、となりそうですが、本当にそうでしょうか?

アメリカのコンサルティング会社Bain & Companyが2001年の不況後に実施した8年間のグローバル調査 は、今こそ将来の成長分野に投資すべきときであることを示しています。なぜなら、景気低迷期にはその前後の平穏な時期に比べ、約2倍の企業が突出した成長と利益を手にしているからです。

したがって、企業が現在と将来の事業にレジリエンスを組み入れる必要性が、ますます切迫してきていると私たちは考えています。そうするための鍵となるチャネルの一つが、メタバースなのです。

frogの「Chief Challenges」の最新エピソード「Expectations vs. Reality」では、既成概念を打ち破る画期的なアイデアを、企業を大きく変革させる製品やサービスや体験に発展させる方法を詳しく紹介しています。メタバースを戦略的な視点から掘り下げてみたいとお考えの方は、 frogまでお問い合わせください。

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デジタル時代に必要な「テクノロジーレーダー」とは?

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デジタル時代に重要なのは、テクノロジースタックの透明性と明確性を確保すること

皆さんが新規の代理店やパートナーと仕事を始めるときには、おそらく次の疑問のうち、少なくとも1つについての答えを探すことになると思います。

  • 信頼できるクラウドプラットフォームとテクノロジースタック(※)はどれか。
  • 推奨されるプログラム言語とフレームワークはどれか。
  • 業務の自動化にどのツールや手法を使うか。
  • 使用する、または試してみるテクノロジーをどのような視点で選ぶか。

企業はデジタルファーストの組織になるべく進化し、特定の信頼できるテクノロジーの選択を基盤とする、新規企業も生まれています。現在、テクノロジースタックの透明性と明確性を確保することは何よりも重要になっています。

※ = テクノロジースタック  
デジタルシステム・ソフトウエアなどの構築のために使われるツールやアプリケーション、サービスなどを組み合わせたもの

 

frogの「テクノロジー実践コミュニティ(CoP:Community of Practice)」では、ソフトウエアの構築方法を完全に透明化し、テクノロジーやソフトウエア開発手法と企業内の他部門との距離を縮めることを目指しています。クリエイティブ志向の技術者集団である私たちは、デジタル技術の絶え間ない進化が広く共有されて理解され、技術戦略を立案する際の参考になれればと考えています。

しかし、現在はテクノロジーが急速に変化していますし、複数のプロジェクトを同時に進行している方も多いはずです。そんな中、上記のような重要な疑問の答えを素早く簡単に見つけるにはどうすればいいのでしょうか? 

そこで役に立つのが、「テクノロジーレーダー」です。

テクノロジーレーダーとは?

テクノロジーレーダーとは、特定のチームや組織の課題に直結する、あるいは、業界全体の視点から見て重要であると確認されたテクノロジーやツール、手法を収集・整理し、カテゴリー別に分類したリストです。

これらのテクノロジーは役割に基づいてグループ分けされ、レーダー作成時点での成熟度、関連性、使用状況を基準に評価されます。レーダーの中心に近い項目(「ブリップ」とも呼ばれる)ほど、対象の人々に深く理解され多く使用されている、とみなされます。

「レーダーが何を表すようにするか」や「グループ分けや関連性の見せ方をどうするか」は、レーダーを作成するチームの自由です。例えば、「レーダーに取り上げるのはテクノロジーだけ」とする必要はありません。イノベーションなど、さらに広義のテーマを表すレーダーを作成している組織もあります。レーダーを作成する面白さの半分は、そこに取り上げる項目をどのように取捨選択するか決めることにあります。

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2021年1月版テクノロジーレーダー

テクノロジーレーダーの作成から学んだ4つのこと  

当社では、具体的なデジタル製品の(再)開発や社内プラットフォームの機能構築に先立ちテクノロジーを選定する際に、その指針となる枠組みとして、また推奨される技術の一覧としてテクノロジーレーダーを利用しています。

テクノロジーレーダーを活用すると、次のようなことができます。

  • 情報に基づいた選択をし、学びを強化する:
    エンジニアリングチームでは、各プロジェクト間でテクノロジーやエンジニアリングの手法を整合させるのにこのレーダーが役立っています。また、レーダーのおかげで、チームが学んだ貴重な教訓や経験のフィードバックもうながされます。現在、私たちが信頼するテクノロジーの多くは当社独自のテクノロジーアクセラレータに含められており、社内の各チームは充実したデジタル体験を迅速に構築し、リリースすることができます。
  • プロジェクトの要件と関係なくレビューや議論を行う場を設ける:
    テクノロジーレーダーを作成したことで、特定のプロジェクトの要件に縛られずに各項目についてのレビューや議論を行う場ができました。特に「プラットフォームとデータ」のカテゴリーでは、人によっては全く耳にしたことがないものや、名前しか知らなかったものも提案されました。

    また、プロジェクトチームによって意見が分かれる場面もありました。例えば、スタイル付きコンポーネントよりCSSモジュールの方がいい、というチームがったことなどです。この2つは結果的にどちらも「使用中」の枠に入りましたが、今後時間が経過するうちに、こうした意見がどのように変わるかも興味深いところです。
  • 先見性を持ち、戦略的に考える:
    テクノロジーレーダーの目的は、当社のレーダー作成時点でのテクノロジーを表すだけでなく、将来を見据えることにもあります。社内では、将来のデジタル体験の構築方法をさらに改善できる可能性のある新しいツールやプラットフォーム、手法の提案を積極的に奨励しています。
  • コミュニティ共通の目標を持つ:
    あらゆる人がリモートワークをするようになった近年では、テクノロジーレーダーによって、コミュニティ全体が協力して取り組む共通の目標ができました。このレーダーが、知識や意見を共有したり、誰かの役に立ちそうなものを新たに開発したりする目的でコミュニティにメンバーが集まる理由になっています。

テクノロジーレーダーの作成をお勧めする理由

おそらく皆さんのチームや組織は、選択するテクノロジーを確定し、業務の大部分に共通して採用できる推奨テクノロジーや基準について意見をまとめたいと考えているのではないでしょうか?あるいは、現状のテクノロジースタックについてはしっかり把握していても、今後見込みのあるテクノロジーの発展を追跡する必要があるのでは?
だとすれば、手始めにテクノロジーレーダーを作成してみることです。

テクノロジーレーダーがあれば、ソフトウエア開発チームや、技術・IT部門に近い職種の方はその先の仕事がずっとやりやすくなります。とはいえ、レーダーが有用なのは技術部門に限りません。デジタル資産が可視化されれば、そうした手法や知識が社内の他の部門にとっても身近なものになります。

当社のパートナー企業の多くが、自分たちもやってみようと独自のテクノロジーレーダーの作成に乗り出しています。当社では皆さんと協力しながら、皆さんのチームや組織のニーズに適した枠組みを共同開発することも可能です。

独自のテクノロジーレーダーを作成する際の3つのポイントとは?

当社の技術コミュニティでテクノロジーレーダーを作成した経験から、次のようにして作成を進めることをお勧めします。

  • 社内の技術コミュニティ全体を対象に、短時間のバーチャルワークショップのシリーズを企画しましょう。メンバー全員に、使用中や評価中の、あるいは興味があって調査してみたいと思っているテクノロジーや手法を提案するように呼びかけます。
  • 提案された各項目の関連性、成熟度、導入状況について、掘り下げた意見交換や健全な議論を行うための場をつくりましょう。
  • バーチャル投票システムを使用して、レーダーに含めるテクノロジーと、レーダー作成時点でそのテクノロジーを振り分けるカテゴリーを正式に決定しましょう。各項目の位置づけは時間とともに変化していくことに注意が必要です。

当社のテクノロジーレーダーは、実践コミュニティとして、当社に関連性があるテクノロジーと将来予想される状況についての視点を創出するために役立ってきました。

現在では、「プロジェクトXをいま再開するとしたら、前と同じ選択をするか、あるいは別の技術と入れ替えるか?」「このプラットフォームに新しい機能が追加されたらしい。その点を再検討すべきだろうか?」といった疑問が浮かんだときに、どこで答えを探せばいいか迷うことがなくなりました。

当社の現行版のテクノロジーレーダーは先頃リリースされたばかりですが、取り上げている項目の更新に加えて、その体験そのものをどのように進化させていくかについても、すでに多くのアイデアが出てきています。付属のフォームを使って、レーダーの更新版リリース通知の受け取りを登録することもできます。

掲載してはどうかと思う項目や、当社の現行のテクノロジー選択についてのご意見がおありの方は、ぜひお聞かせいただきたいと思います。また、独自のレーダーを作成してみたいと思われる方も、どうぞご連絡ください。喜んで当社の経験をお伝えし、御社のテクノロジーレーダー作成とリリースのプロセスをお手伝いさせていただきます。

この記事はウェブマガジン「AXIS」にも掲載されています

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デジタル時代に必要な「テクノロジーレーダー」とは?

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

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デジタル時代に重要なのは、テクノロジースタックの透明性と明確性を確保すること

皆さんが新規の代理店やパートナーと仕事を始めるときには、おそらく次の疑問のうち、少なくとも1つについての答えを探すことになると思います。

  • 信頼できるクラウドプラットフォームとテクノロジースタック(※)はどれか。
  • 推奨されるプログラム言語とフレームワークはどれか。
  • 業務の自動化にどのツールや手法を使うか。
  • 使用する、または試してみるテクノロジーをどのような視点で選ぶか。

企業はデジタルファーストの組織になるべく進化し、特定の信頼できるテクノロジーの選択を基盤とする、新規企業も生まれています。現在、テクノロジースタックの透明性と明確性を確保することは何よりも重要になっています。

※ = テクノロジースタック  
デジタルシステム・ソフトウエアなどの構築のために使われるツールやアプリケーション、サービスなどを組み合わせたもの

 

frogの「テクノロジー実践コミュニティ(CoP:Community of Practice)」では、ソフトウエアの構築方法を完全に透明化し、テクノロジーやソフトウエア開発手法と企業内の他部門との距離を縮めることを目指しています。クリエイティブ志向の技術者集団である私たちは、デジタル技術の絶え間ない進化が広く共有されて理解され、技術戦略を立案する際の参考になれればと考えています。

しかし、現在はテクノロジーが急速に変化していますし、複数のプロジェクトを同時に進行している方も多いはずです。そんな中、上記のような重要な疑問の答えを素早く簡単に見つけるにはどうすればいいのでしょうか? 

そこで役に立つのが、「テクノロジーレーダー」です。

テクノロジーレーダーとは?

テクノロジーレーダーとは、特定のチームや組織の課題に直結する、あるいは、業界全体の視点から見て重要であると確認されたテクノロジーやツール、手法を収集・整理し、カテゴリー別に分類したリストです。

これらのテクノロジーは役割に基づいてグループ分けされ、レーダー作成時点での成熟度、関連性、使用状況を基準に評価されます。レーダーの中心に近い項目(「ブリップ」とも呼ばれる)ほど、対象の人々に深く理解され多く使用されている、とみなされます。

「レーダーが何を表すようにするか」や「グループ分けや関連性の見せ方をどうするか」は、レーダーを作成するチームの自由です。例えば、「レーダーに取り上げるのはテクノロジーだけ」とする必要はありません。イノベーションなど、さらに広義のテーマを表すレーダーを作成している組織もあります。レーダーを作成する面白さの半分は、そこに取り上げる項目をどのように取捨選択するか決めることにあります。

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2021年1月版テクノロジーレーダー

テクノロジーレーダーの作成から学んだ4つのこと  

当社では、具体的なデジタル製品の(再)開発や社内プラットフォームの機能構築に先立ちテクノロジーを選定する際に、その指針となる枠組みとして、また推奨される技術の一覧としてテクノロジーレーダーを利用しています。

テクノロジーレーダーを活用すると、次のようなことができます。

  • 情報に基づいた選択をし、学びを強化する:
    エンジニアリングチームでは、各プロジェクト間でテクノロジーやエンジニアリングの手法を整合させるのにこのレーダーが役立っています。また、レーダーのおかげで、チームが学んだ貴重な教訓や経験のフィードバックもうながされます。現在、私たちが信頼するテクノロジーの多くは当社独自のテクノロジーアクセラレータに含められており、社内の各チームは充実したデジタル体験を迅速に構築し、リリースすることができます。
  • プロジェクトの要件と関係なくレビューや議論を行う場を設ける:
    テクノロジーレーダーを作成したことで、特定のプロジェクトの要件に縛られずに各項目についてのレビューや議論を行う場ができました。特に「プラットフォームとデータ」のカテゴリーでは、人によっては全く耳にしたことがないものや、名前しか知らなかったものも提案されました。

    また、プロジェクトチームによって意見が分かれる場面もありました。例えば、スタイル付きコンポーネントよりCSSモジュールの方がいい、というチームがったことなどです。この2つは結果的にどちらも「使用中」の枠に入りましたが、今後時間が経過するうちに、こうした意見がどのように変わるかも興味深いところです。
  • 先見性を持ち、戦略的に考える:
    テクノロジーレーダーの目的は、当社のレーダー作成時点でのテクノロジーを表すだけでなく、将来を見据えることにもあります。社内では、将来のデジタル体験の構築方法をさらに改善できる可能性のある新しいツールやプラットフォーム、手法の提案を積極的に奨励しています。
  • コミュニティ共通の目標を持つ:
    あらゆる人がリモートワークをするようになった近年では、テクノロジーレーダーによって、コミュニティ全体が協力して取り組む共通の目標ができました。このレーダーが、知識や意見を共有したり、誰かの役に立ちそうなものを新たに開発したりする目的でコミュニティにメンバーが集まる理由になっています。

テクノロジーレーダーの作成をお勧めする理由

おそらく皆さんのチームや組織は、選択するテクノロジーを確定し、業務の大部分に共通して採用できる推奨テクノロジーや基準について意見をまとめたいと考えているのではないでしょうか?あるいは、現状のテクノロジースタックについてはしっかり把握していても、今後見込みのあるテクノロジーの発展を追跡する必要があるのでは?
だとすれば、手始めにテクノロジーレーダーを作成してみることです。

テクノロジーレーダーがあれば、ソフトウエア開発チームや、技術・IT部門に近い職種の方はその先の仕事がずっとやりやすくなります。とはいえ、レーダーが有用なのは技術部門に限りません。デジタル資産が可視化されれば、そうした手法や知識が社内の他の部門にとっても身近なものになります。

当社のパートナー企業の多くが、自分たちもやってみようと独自のテクノロジーレーダーの作成に乗り出しています。当社では皆さんと協力しながら、皆さんのチームや組織のニーズに適した枠組みを共同開発することも可能です。

独自のテクノロジーレーダーを作成する際の3つのポイントとは?

当社の技術コミュニティでテクノロジーレーダーを作成した経験から、次のようにして作成を進めることをお勧めします。

  • 社内の技術コミュニティ全体を対象に、短時間のバーチャルワークショップのシリーズを企画しましょう。メンバー全員に、使用中や評価中の、あるいは興味があって調査してみたいと思っているテクノロジーや手法を提案するように呼びかけます。
  • 提案された各項目の関連性、成熟度、導入状況について、掘り下げた意見交換や健全な議論を行うための場をつくりましょう。
  • バーチャル投票システムを使用して、レーダーに含めるテクノロジーと、レーダー作成時点でそのテクノロジーを振り分けるカテゴリーを正式に決定しましょう。各項目の位置づけは時間とともに変化していくことに注意が必要です。

当社のテクノロジーレーダーは、実践コミュニティとして、当社に関連性があるテクノロジーと将来予想される状況についての視点を創出するために役立ってきました。

現在では、「プロジェクトXをいま再開するとしたら、前と同じ選択をするか、あるいは別の技術と入れ替えるか?」「このプラットフォームに新しい機能が追加されたらしい。その点を再検討すべきだろうか?」といった疑問が浮かんだときに、どこで答えを探せばいいか迷うことがなくなりました。

当社の現行版のテクノロジーレーダーは先頃リリースされたばかりですが、取り上げている項目の更新に加えて、その体験そのものをどのように進化させていくかについても、すでに多くのアイデアが出てきています。付属のフォームを使って、レーダーの更新版リリース通知の受け取りを登録することもできます。

掲載してはどうかと思う項目や、当社の現行のテクノロジー選択についてのご意見がおありの方は、ぜひお聞かせいただきたいと思います。また、独自のレーダーを作成してみたいと思われる方も、どうぞご連絡ください。喜んで当社の経験をお伝えし、御社のテクノロジーレーダー作成とリリースのプロセスをお手伝いさせていただきます。

この記事はウェブマガジン「AXIS」にも掲載されています

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メタバースとヘルスケア~無限の可能性を秘めたウェブ3.0で、医療に革命を起こす

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

メタバースの登場によって、 デジタルの世界がリアルな世界を超える瞬間があるとすれば、その時、メタバースは私たちの健康管理(リアルな世界でもサイバー空間両方でも)に、どんな役割を果たすのでしょうか。

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「メタバースなんて、IT界の大物が想像する奇想天外な未来」としか、思えないかもしれません。けれど、周りに目を向けてください。オンラインゲーム「フォートナイト」が人気を集め、Slack、Microsoft Teams、Miro、Figmaなどの生産性を高める共同作業用のデジタルツールが活用されています。これらは氷山の一角に過ぎません。メタバースの時代は、すでに来ています―。そして、今後はさらに普及するでしょう。

私たちが日常的に利用するサービスが、メタバースの世界にどんな形で移行するか、それによって生活がどう変わるかに思いをめぐらせねばなりません。「自分のビジネスがメタバースの影響を受けるのは、何年も先のことだろう」。そう思っている経営者は、考え直した方がいいでしょう。そうした会社のビジネスは、世界の激変に耐えられません。

frogは、画期的なテクノロジーの新たなユースケースを見極めようとしています。私たちは ヘルスケア 部門を通して、メタバースがヘルスケア業界にどのように革命を起こすか、ウェブ3.0(※1)によって人類の医療ニーズをどう解決できるかを想像しようとしてきました。

※1=ウェブ3.0
これまでインターネット上のデータを独占的に支配していた大手プラットフォーマーに対して、ブロックチェーンなどのテクノロジーを活用して情報を分散管理できるようにすることで民主化しようとする考え方

 

この記事では、私たちが考える未来の医療保険、治療、病院の姿を紹介します。ヘルスケアを支えるこれら三者が、暗号化処理(ブロックチェーン、トークン、安全性の高い新たなガバナンス体制)や没入型デジタル環境(ヘッドセットをはじめ、仮想空間での治療を実現するVR/ARハードウェアやソフトウェアの普及)の影響を受けてどのように形を変えていくかを、見ていきます。

保険のトークン(個別認証情報)化

医療保険は転換点を迎えています。生活者は、個人のニーズとリスクに合わせてカスタマイズされた保険を求めるようになっています。現在の保険商品は、保険会社が破産する危険を減らすために、大勢の人から保険料を集めてリスクを分散させる画一的な設計になっています。おかげで、保険に加入していれば、誰でも多額の費用負担なく必要な治療を受けられます。

米国では、医療費負担適正化法(Affordable Care Act)に基づき、保険会社が料率を算定する時に使用できるリスク因子が制限されています(性別を理由に保険料に差をつけられないなど)。しかしメタバースでは、大量のデジタルデータを利用して、健康リスクや健康状態の悪化をさらに正確に予測し、予防できるでしょう。

もちろん、その前提として重要な倫理的問題を、慎重に考慮し検討する必要があります。例えば保険会社が、料率算定の根拠としてどんな情報を利用でき、どんな情報は利用できないかなどです。うまくデータを活用すれば、誰もが自分のニーズに合ったオーダーメイドの保険に加入できるかもしれません。

メタバースでは、暗号化処理が行われるため、自分のデータが他人の目に触れることはありません。現在のように、保険金請求に必要なデータが電子カルテや保険会社に分散しているといった事態はなくなるでしょう。それどころか、メタバースでのあらゆる活動が、普段使っているレシピ、居住地、会話の内容、検索履歴、交友関係などとともに健康情報として記録されます。データは安全に保管され、クリプトウォレット(暗号通貨取引で使用できるツールの一種)を使って共有されます。そうなれば、現在、健康の増進につながるデータの共有を妨げている、一部の政府規制(HIPAA:米国の「医療保険の携行性と責任に関する法律」など)の見直しも進むでしょう。合わせて、生活者から見たデータセキュリティやプライバシーの保護も向上します。

例えばメタバースで診療予約を入れる場合、ユーザーは、クリプトウォレットを使って医療機関のサイトにログインし、自分の健康情報のうちどれを共有するか選択できます。診察結果は、患者本人のウォレットに安全な形で保管されます。医療機関と保険会社は、必要に応じてウォレットにアクセスして予後を確認し、幅広い新たな価値のある商品・サービスを提供できます。例えば、うつ病患者のメタウォレットを使って、非哀感などのうつ病に典型的な症状が軽減したことを証明できれば、認知行動療法の効果を明らかにできます。

将来的には、非代替性トークンを利用して保険がトークン化されると予想されます。ユーザーは、予防的治療を受けたり健康を高める行動をとったりすることで、保険トークンを獲得します。このトークンを使って保険料の割引を受けたり、ヘルスケアだけでなく、ライフスタイルの改善に役立つサービスを受けたりできるのです。

医療保険はもはやリスク分散の手段ではなく、健康維持に役立つパートナーになります。保険会社が、ヘルスケア関連のツールやリソース、加入者が参加できるさまざまな活動を集約し、適切な料金設定で提供するようになります。未来の世界では、トークン獲得につながる多様な活動を用意してインパクトを与える保険会社が成功を収め、最も大きな利益を手にするでしょう。人々の健康を守る仕組みが、メタバースの世界でついに実現するのです。

発展するデジタル治療市場

近頃は、医療情報の記録、患者どうしの交流、診察予約、日常的な治療支援(薬の飲み忘れ防止など)に、「MyChart」や「Apple Health」などのデジタル技術が使われることが増えています。仕事や日常生活と同じように、健康管理でも、デジタルとリアル両方のサービスを使いこなすのが当たり前になっているのです。

一方で製薬会社は、デジタル治療への参入に慎重です。Grand View Research社の調査によると、デジタル治療市場の規模は2021年時点で20億ドル未満と、米国のヘルスケア業界全体の0.05%に過ぎません。

今後はメタバースの発展に伴い、デジタル治療が推奨されるようになります。今後数年間に、ほぼすべての病気と症状を対象として、人間中心のアプローチで設計された効果的で快適なデジタル治療を目指す競争が展開されるでしょう。

製薬会社は、今のビジネスモデルや経営のあり方を、根本から見直さねばなりません。研究開発への集中投資と時間のかかる臨床治験を通じて、次の大型新薬を探す時代は終わります。これからは、リスクを嫌う保守的で動きのスローなライフサイエンス企業よりも、アジャイルなIT企業に近いスタイルの製薬企業が成功を収めるでしょう。

ただし、それと平行して従来通り、厳しい試験を通じた有効性の実証に取り組む必要があります。医師や研究者はデジタル治療の開発者として、高度な医学知識や臨床経験と最先端の設計・コーディング技術に基づき、きめ細かなアドバイスを行い、新たな治療薬や臨床試験を短期間で開発するようになります。

今後数年以内に、薬局経由の治療から、分散化されたオープンなデジタル治療市場への移行が起きます。この新たな市場では、患者のデータを多角的に分析して作成された処方箋を参考に、患者が自分のニーズに合った治療オプションを選ぶことができます。デジタル治療市場の決済には、暗号通貨が使われます。保険商品の柔軟性も高まり、患者は給付金を使って、デジタル治療市場での高額な治療費をまかなえます。

リアルとデジタルが融合した“メタ病院”

近頃の病院や医療機関は、市場シェアを伸ばすために、大都市近郊に建てられることが多くなっています。米国では、病院は資本集約型のビジネスであるため、大手病院は受診患者数を増やして収益アップを目指しています。「価値に基づく契約」(サービスの量でなく、集団に提供した治療の価値によって診療報酬が決定される契約方式)を採用する病院でさえ、患者を適切な治療拠点に速やかにつなぐことが求められます。例えば、専門医よりかかりつけ医、救急治療室より急病診療所といった形が挙げられます。

米国の病院経営者は、大規模治療拠点の診療報酬を増やすために、医師グループや、各地域のクリニック・診療所の買収を進めています。さらに病院は、環境負荷の削減という課題も抱えています。現在は対面診療が中心ですが、将来的には、対面診療は必要な場合に限られ、それ以外はすべてオンラインになるでしょう。

今後は、保険ネットワークを設計する際も、地域ではなく、オンライン診療、質の高いケア、専門知識、ユニバーサルアクセスがポイントになります。遠方に住んでいるから大切な家族の診察に立ち会えない、といったこともなくなるはずです。希望すれば、世界のどこからでも家族の診察に同席できるでしょう。

治療に関わるのは病院のスタッフだけ、という時代は終わります。包括的なサービスがリアルタイムに手配され、どこにいようと最適な治療を受けられるのです。COO(最高執行責任者)が病院経営に大きな影響力を持つ代わりに、CDO(最高デジタル責任者)が実権を握るようになります。対面とオンラインの調整を行うために、看護士などの現場スタッフが重要な役割を果たします。

最後に、メタバースの世界では、メンタルヘルスは後から追加されるのではなく、最初から治療に組み込まれます。メンタルヘルスを見守り、必要に応じて治療を行うためにウェアラブルや体内埋込型の脳波計が普及し、精神状態を常時測定しているメタバースのデータがこれを補います。精神科の医師に気軽に相談できる機会が増え、24時間いつでもオンライン診療を受けられるようになります。メタバースにも、リラックスやマインドフルネスの実現を促す、安らぎの空間がたくさん生まれるでしょう。

病院は次第に、立地の枠を超えて、総合的な治療モデルの提案と実現を目指すでしょう。快適なデジタル体験、オンライン診療を通じた最高の医療へのユニバーサルアクセス、AIを活用した医学的アドバイス、さらには利便性と想像力を実現する新時代が、こうした動きを加速させます。爆発的に増える大量のデータや、飛躍的に進歩する医学的知識にどこからでもアクセスできるため、今後はメタバースでの治療が医療の形として推奨されるでしょう。ひいてはそれが、病院の炭素排出量の大幅な削減を通じて、地球環境に優しいビジョンの実現にもつながります。

治療イノベーションの最前線「メタバース」がもたらす健康の未来とは

クライアントが未来の可能性に気づくお手伝いをすること、それが frogの仕事です。私たちは、クライアントとその顧客の将来的な成功を実現するチャンスを作ります。frogのヘルスケア部門は、医療を必要とする方に人間中心の治療のあり方を提案するために、地道な取り組みを続けています。

メタバースは、治療のイノベーションの最前線です。新しく意外性に満ちたこの世界には、分からないこともたくさんあります。けれど見て見ぬふりをするのでなく、治療を必要とする人により良いサービスを提供するために、この未知の領域がもたらすチャンスを一緒につかみましょう。もちろん、倫理的、道徳的に重要な問題や、メタバース体験に特有の問題を考える必要はあります。けれど私たちは、人類には、誰もが手軽に利用できる、データ志向の安全で快適な全く新たな医療の場を作り出せる力があると信じています。そんな世界で、あなたはどうなりたいですか?

この記事はウェブマガジン「AXIS」にも掲載されています

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意思決定で“分析麻痺”に陥らないための8つの原則

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

アマゾン、アップル、ディズニーといった企業は、会議をどのように活用し、変革を推進するための意思決定を加速化しているのでしょうか?

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私は以前、組織内の意思決定プロセスを改善したいというクライアントと仕事をしたことがあります。そのプロジェクトが予定の半分くらいまで進んだ頃、クライアントが怒りをあらわにしてこう言いました。「あなたに依頼したのは意思決定プロセスのデザインであって、会議のデザインではありません!」。それに対して、私は次のように尋ねました。「では、意思決定が行われるのはどこですか?」。彼はきまり悪そうにこう答えたのです。「……会議です」。

まずは、真の意思決定が“どの会議”で行われているかを把握する

 “会議”といっても、いろいろあります。組織によっては、意思決定が“会議の前の会議”で行われたりします。また別の組織では、“会議の後の会議”で意思決定が行われます。あるいは、休憩室で、ゴルフコースで、教会の懇親会で、サッカーの試合を観戦しながら、意思決定が行われることもあるのです。

意思決定のプロセスで“分析麻痺”(データなどの分析に時間をかけて行動に移せない状態)に陥らないようにするには、あなたの組織で意思決定が行われているのはどのような“会議”かを把握し、より効果的に意思決定が行えるよう会議をデザインしていくことが必要です。

変革に向けた行動の中で最も難しいのが意思決定でしょう。しかし、「次の大規模投資をどの分野で行うべきか」「どの特性に重点を置くべきか」など、意思決定の中身は違っても、意思決定プロセスをきちんとデザインしておかなければ、混乱(当社では「スワール=渦巻」と呼んでいます)、無駄、不満の原因となるばかりでなく、競争力の欠如にもつながっていきます。

意思決定のために委員会を立ち上げることはよく行われるアプローチの1つです。しかし、明確な目的を設定し、説明責任を果たすことができなければ、委員会に意思決定を委ねた組織のためにならないばかりか、変革の推進が阻害される可能性もあります。

このような課題に対処するためには、委員会を立ち上げる際、サーバントリーダーシップ・アプローチ(委員会は会社に奉仕する立場であり、その逆ではないという考え方)を基盤として、次に述べる8つの原則に従って委員会をデザインすることをお勧めします。

意思決定のための委員会をスムーズに動かす「8つの原則」とは

原則1 拙速に判断を下さない:
センスメイキング(意味づけ・納得)とディシジョンメイキング(意思決定)は分けて考えましょう。言い換えると、デザイン思考における“ダイバージェンス(発散)”と“コンバージェンス(収束)”を実践するということです。

ある研究から、アイデアの質はアイデアの量に直接関係することが分かっています。もし優れたアイデアが1個必要なら、稚拙なアイデアが10個必要になります。優れたアイデアが10個欲しいのであれば、100個の稚拙なアイデアが必要なのです。

稚拙なアイデアをためらわずに提案できるようになるには、そのための訓練が必要です。frogでは、共同ワークセッション、リサーチ、ユーザーテストなど、この原則に基づいて迅速に最適解に到達できるよう、さまざまな活動をデザインして提供しています。

原則2 集合知を目指す:
集団で考えたアイデアは、個人で考えたアイデアよりも必ず良いものになります。

2人以上の人が集まれば、1つの集団が成立します。そして、その集団には、構成メンバーのパーソナリティーと切り離すことのできない集団としてのパーソナリティーが備わります。この原則を受け入れ、集団の中で生み出されたアイデアはすべて集合知であることを理解しましょう。

この原則に従うと、個人として「集団の中で最も賢い人」になろうとするのではなく、集団として課題を解決し、何かを創造していこうという行動の変化につながります。これは、意思決定を行う組織にも、その他のさまざまなチームにも適用できる原則です。重要なのは「私のアイデア」が採用されることではなく、「集団として最適な考え方」ができるようになることです。

原則3 業務に近い人たちに任せる:
業務に最も密接に関わる人に意思決定をしてもらいましょう。

これは、組織として実行するのが最も難しいことの1つかもしれません。役員クラスの意思決定者が1人(または複数人で)業務に関わってきて、不必要な業務のやり直しや確認作業を指示してくる。または、迅速に業務を進めていく実質的あるいは心情的な動機を持たず、あいまいに物事を進めていくことは珍しくありません。

そうならないよう、会社を巻き込み、話し合いに参加させ、開発チームとともに学び、選択の方向性について合意を取り付けましょう。しかし、最終的な意思決定はその業務に最も密接に関わる人たちに任せるべきです。

原則4 道を譲る:
スポンサーは障害を排除する役割を担います。

スポンサーの主な役割は、意思決定の障害になるものを排除することであり、承認のサイクルを作り出すことではありません。スポンサーは意思決定に必要な要件や環境、制約などをうまく調整し、課題解決の加速化に向けて創造的なやり方で協力すべきです。

原則5 予算について話し合う:
意思決定プロセスにおけるチェックポイントを事前に決めておきましょう。

会社による体系的な検討と承認が必要なのは、あらかじめ決められた投資のタイミングに関することだけです。そのほかに、情報共有や方向性を決定するための検討があります。予算については、たとえば「この事業は1000万ドルの利益をもたらす可能性があります。これに対して我々は20%の自信を持っていますが、10万ドル(100分のXドル)の投資を行うことで、20%を50%まで上げることができます」といった提案をします。

原則6 議論の余地を残す:
委員会方式での意思決定には時間とスペースが必要です。

上記3~5と併せて考えるべき原則が、主要な意思決定は段階的に行うべきであるというものです。たとえば、「最適な解決策に対する予算の検討を行う。どれが最適な解決策かは、業務に直接携わる人たちに決めてもらう」という具合です。

原則7 反対意見を述べ、意見に責任を持つ:
聖書にも書かれているように、“イエス”は“イエス”、“ノー”は“ノー”という意味で使うべきです。

上層部の誰かが陰でこそこそ意見を言う、あるいは決定した案を100%支持していたわけではないというサインを発することで、意図的ではないにせよ、変革を阻害している場合があります。会議の中で「本当にそれでいいか?」と覚悟を確認したのであれば、極めて重要なデータが新たに出てこない限り、話を戻したり、決定したことを覆したりしてはいけません。

原則8 「プロセス」よりも「プログレス」を優先する:
物事前進させていくことが、何よりも重要です。

最後の原則は、1~7の原則や人の行動モデルを全部考慮して会議を進めていったとしても、最終的に最も価値があるのは、「プロセス」よりも「プログレス」。すなわち物事が前進していることです。私たちに変革していく力があるということを周囲の人に知ってもらうには、実際に成果を上げていることを見せるのが最も効果的なのです。

8つの原則を応用したアマゾンの「6ページのメモ」

これら8つの原則を実際に応用している例が、有名なアマゾンの「6ページのメモ」です。これがなぜ確実で効果的なのでしょうか。それは「6ページのメモ」には、8つの原則がすっきりと簡潔に、誰にでも実践できる形で反映されているからです。

「6ページのメモ」方式で素晴らしいのが、会議参加者全員が30分間、黙って資料を読むという部分です。

どうしてだと思いますか?直前に資料を配ることの弊害は皆さんもよくご存じでしょう。翌朝8時に始まる会議の資料として、200枚ものスライドが夜11時に送られてきた経験はありませんか?それは決して生産的な意思決定につながることはありません。

事前配布する資料の量に関係なく、会議に参加する人は3つのタイプに分かれます。

  • 資料を読み込んで参加し、会議中はこまめにメモを取り、次のステップについてきちんと意見を持っている人
  • 資料を読んでこなかった、あるいはざっと目を通してきただけだと正直に言う人
  • 資料を読んでいないにもかかわらず、読んできたとウソをつく人

つまり、「今状況を理解しようとしている(ダイバージェンス=発散する)人」と、「すでに理解している人」が同じ場にいるということです。その状況でグループとして意思決定に向けた議論を進めていく(コンバージェンス=収束する)と、参加者は“スワール(混乱状態)”に陥ることになります。

会議の中で「資料を読む工程」を議事の一つとして設定することで、全員が資料を読む時間を持つことができます。また拙速な判断を避けることができ、きちんと準備をして会議に臨んでいる、責任ある大人は誰か、といった推測をする必要がなくなります。

また、全員に資料を読んでもらうために会議の1週間前までに資料を提出するという時間的な制約も必要なくなり、1週間の間に一部の情報が古くなってしまっているという事態も避けることができるのです。

実際の意思決定に生かすには?

この8つの原則に従うことで、会議室に集まって集合知を生み出し、会議を本質的な議論の場とすることができます。会議の中で反対意見を述べ、意見に責任を持ち、邪魔をしないよう道を譲り、最も密接に業務に関わる人が決められた予算について提案を行えれば、プロセスよりも前進を優先することに成功したと言っていいでしょう。

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スタートアップと大手企業との「愛を貫く」パートナーシップの秘訣とは?

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BX・クリエーティブ・センター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

スタートアップ企業と大手企業との戦略的パートナーシップは、成功すれば素晴らしい結果が得られますが、物別れに終わることもあり、その場合は大きな痛みをもたらします。スタートアップと大手の企業、双方が注意すべき点について、そしてお互いの「愛を貫く」方法について紹介します。

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リソースへのアクセス、資金の確保、企業としての成長を願うスタートアップ企業にとって、大手企業とのパートナーシップは大きな魅力があります。大手企業側は、スタートアップ企業のような柔軟性や俊敏性には欠ける一方、それを補うだけの顧客リーチや資産を保有しています。スタートアップ企業と大手企業が手を組むことによって、戦略の転換、チームの育成・雇用、全く新しい事業の立ち上げなどが、迅速かつ大規模に実施できるようになります。

スタートアップ企業も大手企業も、パートナーシップから得るものが多いことは確かですが、両社の属する世界は大きく異なり、それはさまざまな場面で表面化してきます。パートナーシップを結ぶ過程には、プロセスやビジョンをめぐる対立や争いもつきものです。第三者――多くの場合はコンサルタント会社――による支援がなければ、組織構造や企業文化の衝突によって、当初は有望に見えた関係が台無しになってしまう可能性もあります。

ビジネスの世界でも正反対の者同士が惹かれ合うというのは本当のようです。2020年、Vodafoneが消費者向けリーガルテック(法律に関わるIT技術やサービス)市場に進出するために提携したのはリーガルテック・スタートアップ企業Sparqa Legalでした(参照)。フランスに本社を置く世界的な電気機器メーカーSchneider Electricは、エネルギー分野の有望なスタートアップ企業の選定にあたって、気候技術分野のインキュベーターであるGreentown Labsと提携しました。将来を見据えてスタートアップ企業と大手企業が共にイノベーションを起こしていくためには、双方がコミュニケーションや協働のあり方を学んでいく必要があります。

パートナーシップを築くうえで注意すべきサイン

スタートアップ企業と大手企業間のパートナーシップでよく見られる摩擦の原因として、以下のようなものがあります。

スピード:スタートアップ企業は、ミッションの実現に直結する重大な意思決定を、実用主義で日々行っています。大手企業が同様の判断を下すには、半年から1年という時間がかかるでしょう。

プロセス:スタートアップ企業には、大手企業のように形式の決まったプロセスがありません。業務のやり方に互換性がないと、いずれ大きな問題や重大なミスを引き起こしかねません。>

目的:大手企業は大きなポートフォリオを保有しており、そのミッションの成功を段階的に測定します。一方、スタートアップ企業には目的を現状打破に置いているところが多くあります。

リスクレベル:一般的に言って、スタートアップ企業と大手企業が抱えるリスクレベルは同等ではありません。スタートアップ企業は、全社を挙げてパートナーシップに大きな賭けをしています。しかし、大手企業は通常それほど大きな賭けだとは考えていないでしょう。

関係性を築くために必要なもの

スタートアップ企業にとっては、大手企業との最初の接点を作ること自体がなかなか困難なステップです。大手企業にコンタクトする際には、先鋭的なアイデアだけでなく、しっかりとした経営基盤も持っていることが重要です。

フランス・リヨンの医薬品メーカーSanofi社イノベーションラボ部長のSylvain Grivel氏は次のように述べています。「スタートアップ企業は、大手企業とパートナーシップについての協議を始める前に、ある程度成熟していなければなりません。コンセプトの有効性を示すだけでは不十分であり、ビジネスとしての可能性や、その可能性を実現するための方策の両方についてしっかりと考えておく必要があります」

スタートアップ企業が相手企業の意図を疑ってしまうことは珍しいことではありません。frogがサポートしてきたスタートアップ企業の中にも、事業売却の準備ができているにもかかわらず、自社のビジョンにこだわり、間違った相手には会社を委ねられないと考える企業が少なくありませんでした。事業売却は、スタートアップ企業の目的を考えれば、命取りになる危険をはらんでいます

マサチューセッツ州ボストンで機械学習を活用したソフトウェア開発を手掛けるDeepHealth社のCEO・Greg Sorenson氏は、「大手企業が当社を丸ごと取り込みたいのであれば、買収するしかありません」と語っています。リヨンを拠点に起業家のサポートサービスを提供するIncubator Manufactory社で、スタートアップ企業を支援しているAlexandre Andre氏も、買収をめぐって不安を感じるスタートアップ企業を多く見てきました。「多くのスタートアップ企業は買収を目標にしているが、買収されると、吸収され大手企業側に占領されるだけで、何のベネフィットも残らないという不安を感じています」

パートナーシップを通じて「愛を貫く」には両社の間の信頼が必要です。そのためには、知的財産、共通の目的実現に向けた共通の成功指標、そして明確な出口戦略といった点についてコミュニケーションを重ねていくことが重要になります。これらはまさしく、第三者企業がスタートアップ企業と大手企業の両方の言語を理解する“翻訳者”の役割を担うことによって、両社の歩調を保ち、新しい働き方を試すための中立的な場を提供できる分野です。

第三者による支援のタイミング

企業文化や業務をめぐるギャップを埋めるためには、パートナーシップのライフサイクル全体にわたって第三者による支援が必要とされる場面があります。

1 妥当性の検証
初期評価では、第三者企業が仲人役として、競争者が多い環境の中で、双方にとっての共通基盤を見つけられるようサポートします。

2 話し合いの円滑化
第三者企業は、双方の意見を平等に聞きながら、戦略的なコラボレーションに向けた計画や共通の将来ビジョンをデザインします。

3 関係の構築
スタートアップ企業と大手企業が手を組んで、より大きなエコシステムを形成していくためには、相互の価値が明らかになっていなければなりません。第三者企業は中立的な立場で、双方に利益をもたらす関係構築をサポートします。

4 イノベーションの加速化
迅速にイノベーションを起こしていくには、徹底した顧客中心主義のマインドセットが求められます。第三者企業は顧客の声を代弁することで、顧客体験の向上につながるイノベーションの加速化を支援します。

5 パートナーシップ終了後
すべてのビジネスパートナーシップが長続きするわけではありません。パートナーシップの7割は短命に終わるという報告もあります。第三者企業は、パートナーシップを解消して別々の道を歩むことになった双方の企業の仲介役となり、両社の価値や評判を守ります。「辛い離婚」ではなく、「意識的な分離」と考えましょう。

双方にとっての利益と「ロマンス」を長続きさせるために

「ポスト・コロナ」のビジネスには、急速に変化する顧客ニーズに対応するために継続的なイノベーションがますます必要となってくるでしょう。スタートアップ企業と大手企業はこうした未来を見据え、今後、対処すべき課題に正面から取り組むために健全な絆を結んでいくことが賢明な選択と言えます。

ハッピーエンドを迎えるためには、パートナー双方の配慮と協力、そして時には外部からの支援も必要となります。マッチングが成功すれば、WIN-WINの関係が生まれます。もし失敗しても、どちらか一方が壊滅的な打撃を受けて終わり、というわけではありません。

すべての別れがそうであるように、次のパートナーシップに生かせる教訓を学べたことは未来への希望になります。将来のことは誰にもわかりません。もしかしたら、次のパートナーシップこそ本物になるかもしれません。

この記事はウェブマガジン「AXIS」にも掲載されています。

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変わりゆく、「B2B企業」のデザイン

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BX・クリエーティブ・センター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

工業・製造業のCxO(Chief x Officer)に知ってほしい、生産性、安全性、従業員エンゲージメントを向上させる手段としてのデザインへの投資についてご紹介します。

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デザインを重視する企業といえば、一般的にはハイテク、小売、金融サービス(もしかしたら自動車も)といった、一般消費者を対象とする企業を思い浮かべることが多いかもしれません。デザイン業界も、消費者向けのガジェットや有名ブランドのデジタル製品を称賛することで、このイメージを強化してきました。

しかし実際のところ、デザインの仕事の多くはB2B (B to B)企業のセクターに移行しています。この10年間に登場した極めて興味深く挑戦的なデザインは、工業、製造業、テクノロジー産業や、この領域の企業のために生まれてきたものです。

frogは世界的な戦略・デザインファームとして、この“B2Bデザイン革命”とも言える潮流の一翼を担ってきました。現在では、frogの仕事の約半分はB2Bプロジェクトが占めています。当ファームのデザイナー、テクノロジスト、ストラテジストたちは、鉱山用の安全対策製品からグローバルな物流システム、ITセキュリティー機器に至るまで、ありとあらゆるもののデザインを手掛けてきました。

ビッグデータへの対応

消費者向けのIoTは基本的に失敗だったかもしれませんが、モノがインターネットに接続されている環境が整ったことによって、自社の生産プロセスや、実際に製品がどう使用されているのかを把握する方法が大きく変化しています。

工場、油田、発電所、飛行機のエンジン、船、トラック、あるいはその他のさまざまな機械にセンサーを装備することで、企業は豊富なデータを収集し、機器の監視、管理、保守、制御などに利用することができるようになったのです。しかし重要なのは、それが何を意味しているのかを理解することです。

膨大なデータを扱う場合、多くの人は直感的に、IT業界で確立された手法に倣ってまず全てをダッシュボードで一覧表示しようと考えます。しかし私たちの経験から言うと、この方法はオペレーターの負担が大きいばかりでなく、面白くても役に立たないデータのスナップショットが大量に作成されるだけの結果になりがちです。

それよりも、オペレーターの認知的負荷を軽減し、迅速な意思決定を可能にするデータ・ビジュアライゼーションを構築するほうがずっと効果的です。frogのいくつかのプログラムでは、高度なB2B企業の管理ツールを設計する際、最適化を目指すメトリックとして「意思決定までのスピード」を使っています。

見た目の美しさよりも安全性と生産性

デザイナーが作ったデジタルツールは、確かにデザインはしゃれているかもしれません。しかし、工業や製造業におけるデザインへの投資は、美しさを求めて行うものではなく、従業員の生産性を高め、全員の安全を確保するために行うものです。

消費者向け製品をデザインするときの考え方や方法論が、工業分野の物理的なデジタルプロセスやワークフローの安全性・生産性を向上させるためにも使えることが分かってきました。

例えば、私たちはあるプロジェクトで製造業向けの安全装置と制御システムの設計を担当しました。設計に不備があれば、悲惨な結果を招くことになります。ですから、緊急事態が発生し、緊迫した状況であっても、次のステップが常に明確に分かるようなツールやソフトウエアを設計する必要がありました。2018年にハワイで起きたミサイル攻撃に関する誤報や1979年のスリーマイル島の原発事故は、ソフトウエアの設計不良が原因の一つといわれています。

さらに、多くの工業生産の現場では従業員の役割がどちらかと言えば流動的です。このような状況が、工業・製造業における設計をさらに難しくしています。

例えば、frogのあるチームが発電所においてエスノグラフィックリサーチ(※1)を実施したところ、システムが緊急停止すると作業員全員が協力して問題解決にあたるため、職務や肩書はあまり関係なくなることが分かりました。これは、管理者や一般ユーザーといった役割をはっきりと分けて、それに合わせたソフトウエアを開発する消費財メーカーや事務系の企業とは対照的です。工業向けソフトウエアの設計では、設計チームがクライアント企業のワークフローを十分に理解した上で、ユーザーの役割に合わせるのではなく、さまざまなシーンを想定して設計することが必要になります。

※1 エスノグラフィックリサーチ
デプスインタビューや観察調査、フィールドワークなどの手法を使って、ユーザーの潜在的なニーズを探る調査のこと。


団塊の世代もミレニアル世代も満足させるデザインの必要性

工業・製造業分野の多くの企業では、従業員の高齢化が進んでいます。ベテラン従業員は、特定の機器やプラント、システムに関する知識を豊富に持っているため、企業側はできるだけ長く雇用したいはずです。同時に、こうした企業にはデジタルネーティブ世代の従業員も働いています。彼らは、工業用・企業用のソフトウエアにも、最上級の消費者向けアプリケーションのような見栄え、感触、動作を期待しています。これは、デザイン上の利益相反という難しい問題を引き起こします。

この問題への対処方法の一例として、frogがあるテクノロジー機器メーカーと共同で取り組んだプロジェクトをご紹介しましょう。

このメーカーが保有している技術は、収益性は非常に高いものの、かなり古いものでした。現在の水準からすると、コンソールでコマンドラインを打ち込むユーザーインターフェース(UI)は最適とは言い難かったのです。また、新規ユーザーは、このツールの古めかしい外観や雰囲気に抵抗を感じており、ビジュアルインターフェースのコンソールやモバイルアプリを求めていました。

一方で、何年もシステムを使ってきたパワーユーザーはこのインターフェースになじんでおり、その扱いにも長(た)けているため、ほとんどの人が変化に対して消極的でした。私たちに課せられたデザイン上の課題は、パワーユーザーにとって慣れ親しんだデザインでありながら、新しいユーザーにとってもアクセスしやすく、魅力的なシステムを作ることでした。

これは、「OT(オペレーショナル・テクノロジー:運用制御技術)」の分野でよく見られる課題です。なぜなら、IT分野では一般的に製品寿命が3~5年であるのに対し、OT分野では15~20年という長寿命の製品が多いからです。

業務とデザインをつなげるデザインシステム

デザインで競争しようとする工業・製造業の企業にとっての最初のステップは、デザイン言語を確立することです。デザイン言語は、デザイン方針や美意識、双方向交流のパターン、デザイン資産などをシステムに落とし込むためのもの。多様で複雑な製品エコシステムの一貫性を確保するために作られます。通常、デザイン言語には、製品の開発・発売に関わるエンジニアチームが使いやすいよう、上述の方針やパターンを具現化するユーザーインターフェース・ツールキットのサポートがあります。

こうしたツールは、製品チームが製品化を進めるにあたり有利なスタートを切る助けになりますが、長期的な価値の提供においては不十分であると言わざるを得ません。プラットフォームやデザイン言語にははやり廃りがあり、特定ベンダーの技術に大きく依存する「ベンダーロックイン」では、自社でコントロールできない製品化スケジュールに縛りつけられてしまう可能性があります。

多くのデザイン言語を設計・構築してきた経験から、私たちは、これらのシステムにはレジリエンスや開発と他のフェーズとの強い連携が欠けていることに気づきました。そこで、工業・製造分野の企業が抱える長期的なニーズを考慮しながら、各社の業務にデザインを組み込んでいく方法を模索しました。

より柔軟かつ長期的にデザインに投資していこうと考える企業にとっての解となるのが、デザイン言語よりもデザインシステムです。デザインシステムとは、各種のツール、コンポーネント、ワークフローを統合し、業務上の課題とデザインプロセスを積極的につなげるシステムのことです。

デザインシステムは、製品デザインのための唯一正しい情報源として機能し、製品開発サイクルにデザインを直接統合するモジュール式ツールをもって、ワークフローを支えます。デザインシステムの多くは、デザインツール、デザイン言語、UX(ユーザーエクスペリエンス)アーキテクチャとシステム、UIツールキット、業務量の制御的な調整を可能にするガバナンスモデル、業務量調整を日常的に実行するためのタスク管理ツールなどで構成されます。

その上で決定的に重要なのがヒューマンエレメント、すなわち、各製品チームがデザインシステムを使用するよう、いかに奨励し、動機づけ、説得するかということです。馬を走らせるには鞭よりもニンジンのほうが効果的であるように、私たちは、一部の工業製品メーカーで、デザインシステムを中心としてデザイン志向のエンジニアやプロダクトマネジャーたちがコミュニティを形成するようになったのを見てきました。

デザインシステムは、そのモジュール性と継続的な効果測定・改善により、特定のプラットフォームベンダーに縛られることなく、必要に応じて変更を加えることを可能にします。
一度デザインシステムが採用されれば、統一感のある製品群の提供、パターン統一によるユーザートレーニングコストの削減、ブランディングされた独自のユーザーエクスペリエンスが実現します。

工業・製造業、テクノロジー分野の企業が競争力を高めていくには、デザインが極めて重要な役割を果たします。機械やシステムがより高度化し、IoTによってオペレーターが処理しきれないほどのデータフローが生成される中、それらを考慮して設計されたソフトウエアは、オペレーターの安全性と生産性を向上させるだけでなく、競争力のある差別化を実現するための一助となります。

今や、あらゆる企業がソフトウエアメーカーになっていると言っても過言ではありません。つまり、競争力を維持するためには、最新のソフトウエア設計・開発手法を採用する必要があるのです。frogは、クライアントであるB2B企業各社とのコラボレーションにおいて非常に興味深いデータ・ビジュアライゼーションやソフトウエア・デザインの課題を見いだしており、工業・製造業分野のお客さまとの仕事を通して、私たちのスキルや経験をより広い領域で生かせる機会を歓迎します。

この記事はウェブマガジン「AXIS」にも掲載されています

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