未来の音声ブランディング~AIエージェントがブランドの将来にもたらすものとは?~

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエイティブセンター岡田憲明氏の監修でお届けします。
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「ねえSiri、お話を聞かせてくれる?」

昨晩、筆者の子供たちが寝る前にお話を読み聞かせてくれたのは、Apple社の音声アシスタント「Siri」です。実際のところ、程よく短い話で内容も面白く、なかなかのものでした。子どもたちもとても楽しんだようで、もう一つ聞かせてとせがみました。するとSiriは、今度は猫の話をしました。子どもたちは人の話にじっと聞き入るタイプです。これはおそらく、筆者がたびたび寝る前の読み聞かせをしていることと関係があるのでしょう。そのためもあってか、ある残念な事実にも気づいてしまいました。二つ目の話が終わったとき、Siriの声がとても平板で単調なことに気づいてハッとしたのです。

筆者がSiriの話にどうも感情移入できなかったのは、それが理由だと思います。その後、子どもたちが夢の世界に入ってしまった後、声のトーンの大切さについて考え始めました。心のつながりを感じられるかどうかは、話の内容そのものよりも、むしろどんな風に話すかが大きくかかわります。

声のトーンは、ずっと以前からブランド表現の重要な一要素でした。生成AIがバラバラなツールから、リアルタイムで会話ができるマルチモーダル(※1)なインターフェースへと進化していく中で、その重要性はさらに増していくでしょう。声のトーンこそ、サウンドロゴやブランドのテーマ曲の先にある、未来の音声ブランディングの鍵なのです。

※1 マルチモーダル=テキスト、動画、音声など複数の種類の情報(モード)を組み合わせて、処理する技術・手法。

 

会話型インターフェースが主流の新たな世界におけるAIエージェント

ダイナミックな双方向体験をリアルタイムで提供する生成AIの出現を機に、ブランド各社は従来の顧客エンゲージメントツールから脱却しようとしています。生成型検索エンジンが登場したことで、いまや人々の注目はブランドのウェブサイトから離れつつあり、時代は検索エンジン最適化(SEO)から、生成検索最適化(GEO)に移ろうとしています。

数々のアプリはやがて、ユーザーの代わりにすべてのアプリとやりとりをしてくれるAIエージェント(自律的にタスクを実行し、状況に応じて判断・行動できるAIシステム)に取って代わられるでしょう。そのうちに、いくつものプラットフォームやチャネルを別々に操作する必要はなくなります。

AIエージェントがそうしたバラバラの要素を一つにまとめてくれるようになるからです。AIエージェントが見えないアシスタントとして働き、さまざまなチャネルやプラットフォームにまたがる無数のタスクをまとめてスムーズに対応してくれる――。そんな未来へ飛び込むのは、難しいことではありません。ただ、そのような未来には身体的な体験がさらに重要になることは間違いないのですが、その点についてはまた別の機会にお話ししましょう。

私たちはやがて、日々の煩雑な事務手続きから解放されることになるでしょう。ルームランナーでエクササイズしながら、週末の小旅行のプランを立てるのもお手のもの。朝食で摂り過ぎたカロリーを燃やし終える前に、AIエージェントが行き先を選び、移動手段やホテルを手配して、あなたの好みに合った本を注文し、レストランの予約までしてくれます。ついでにエクササイズも代わりにやってくれれば、なおいいのですが。

とはいえ、もしルームランナーで走っているときに足をねんざしたら、AIエージェントに足首用サポーターの注文も頼むことができます。さらに、そうした事務作業だけではなく、精神的なサポートが欲しいときにも、AIアシスタントが心のこもった人間らしい声のトーンで応えてくれるでしょう。寝る前の読み聞かせをするSiriの単調な声とは違って、未来の生成AIの音声は温かく情緒的なものになるのです。


「やあAIエージェント、僕が今日どんな気分かわかる?」

2024年のTEDトークで、Microsoft AIのCEOのムスタファ・スレイマンは、生成AIは単なるツールやプラットフォームをはるかに上回るものとみなすことが必要だという話をしました。生成AIを新しい「デジタル種」ととらえようと呼びかけたのです。そして、この考え方を踏まえて、生成AIは敬意をもって扱い、時間をかけて育てていく必要があるものだと示唆しました。

「私たちはAIを構築するに当たって、良いもの、私たちが愛するもの、人類の優れた特性、つまり共感や優しさ、好奇心、創造性といったものをすべて反映させることができるし、そうしなければなりません。」(ムスタファ・スレイマン)

この論理に従えば、 AIエージェントがただの音声以上のものになり得る理由が見えてきます。 自然言語へのシフトによって、顧客との間でより親密なやりとりができるようになるのは明らかです。AIエージェントはユーザーの嗜好や習慣を学習することで、その時々の状況や感情をいっそう理解できるようになるでしょう。誤解のないように言えば、感情を理解する能力は、一般的な知性とは別のものであるため、AIエージェントに命が宿るとか、何らかの形で意識を持つと言いたいわけではありません。AIエージェントが素晴らしく賢いデジタルエコシステムになることに変わりはありませんが、ユーザーについての知識が蓄積されていくにつれて、そのユーザーにとって親密さを感じられる音声の作り方を学習していくということです。

また、音声が関係するのはそうしたやりとりの一方だけにとどまりません。AIエージェントはユーザーの声も聴いています。つまり、プロンプトに応じた声のトーンで、ユーザーの知りたいことを伝えることができるわけです。

例えば、今日の午後にゴルフができるか、天気予報を尋ねるとします。晴れる場合は熱のこもった声で、雨風が強いなら残念そうな声で答えてくれるでしょう。もう一歩先に進めば、ユーザーの家族一人ひとりに合わせてやりとりの仕方を変えることもできるようになるはずです。冒頭にあげた、子どもたちに猫のお話を聞かせてくれた話に戻れば、猫のキャラクターを演じるときはもっと楽しげな声のトーンを選ぶだろうと想像できます。

「やがて、あらゆることが会話的インターフェースを通じてできるようになるでしょう」(ムスタファ・スレイマン)

音声は非常に大きな影響力を持つため、視覚や触覚、嗅覚など、聴覚以外の感覚にも幅広くアプローチしていくための入口になり得ます。インターネットへの接続が当たり前になる新しい世界では、AIエージェントが私たちの想像を超えていくかもしれません。AIエージェントは、単に予約をしたり、商品やサービスを注文したりするツールをはるかに超える存在になる可能性を秘めています。

最近は、孤独を感じ、それに関連する健康問題を抱える人が急激に増えていると警鐘を鳴らす声が聞かれます。AIエージェントの普及に伴ってそうした人々の数が減ったとしても、驚くには当たらないでしょう。しかし、ブランドの役割に関して言えば、孤独感はなくならないかもしれません。例えば、ユーザーのAIエージェントがブランドのAIエージェントとだけやりとりしているとすれば、ユーザー本人とブランドとの結びつきはないも同然ではないでしょうか?

現在のブランドの立ち位置とは

「ブランド(brand)」という言葉には「燃える(burn)」という意味があり、元々は所有者を示すために家畜に焼き印を押すことを指していました。やがて時を経て、製造元や原産地を示すために商品に付けられる印を指すのに使われるようになりました。現在では、ブランドという言葉は組織の存在感を示すための重要な要素となっています。しかし、AIエージェントが導く新しい世界では、ブランドの役割は先細りしていく危険があります。

AIエージェントを自社開発するにせよ、他社のエージェントを最適化するにせよ、ブランド各社にとっては、できる限りほかとの区別がつきやすい独自の音声レイヤーを制作することが不可欠になるでしょう。これは何層にも重なったバースデーケーキのようなものと考えることができます。

一番上の層はロウソクとトッピング(ブランドレイヤー)。その次の層はアイシング(状況や顧客一人ひとりの嗜好に合わせて構築する感情レイヤー)。そしてケーキの残りの部分がLLM(大規模言語モデル)レイヤーで、音声を作動させる原動力となります。

こうしたことをすべて考え合わせると、一つの疑問が浮かびます。ブランドをありのままに表す音声を、どのようにして決めればいいのでしょうか?

「ブランドは、その使命や価値観、ターゲット層に適合した独自の音声(ボイス)を決める必要があります。ブランドボイスは、そのブランドの個性とアイデンティティ、そしてコミュニケーション目標に最もよく適合したトーンとスタイルを反映したものでなければなりません。また、すべてのチャネルやプラットフォームを通じて、一貫して識別可能で記憶に残る印象を顧客に残すものでなければなりません」

上の一節は生成AIによって作成されたものです。間違ってはいませんが、あまりクリエイティブな文章とは言えません。ブランドの音声レイヤーをどうやって決めるかという問いへの答えは、おそらくすでに既存のブランド表現の中にあるはずですが、ブランドガイドラインからブランド化された音声へと軸足を移すに当たっては、それは出発点にすぎません。

そのブランドのストーリーを語り、そのストーリーがこんな風に聞こえてほしいという理想に合わせてクリエイティブに語られるように(さらに言えば、著名人の声の使用許諾を得るのに巨額の支出をしなくて済むように)する必要があります。匿名化した個人情報や、抽出・分析した公共データ、リサーチの結果、さらには創作データといった各種のデータが、ブランドボイスを制作するための秘密兵器となります。

例えば、有名な創業者のいる消費財ブランドなら、ブランドの個性をよくとらえたさまざまなフレーズに加えて、創業者の思想や録音物を元にしてブランドボイスを構築するという方法があります。世界的なスポーツ用品ブランドなら、一つのボイスに絞るのではなく、特に影響力のあるアンバサダーやキャンペーンの音声を活用して、競技別に複数のボイスを用意するといいでしょう。金融サービスブランドなら、地域ごとの特徴やニーズに合うように気を配りながら、顧客サービス部門のスタッフの声を録音して使うのも一案です。

遠くからこだまする未来のサウンドをとらえる

世界の中でも先見の明に優れた組織、特に特徴の強いブランドを持っている場合は、すでに独自のブランドボイスと新たな時代の会話的インターフェースを模索し始めています。そうして探し出す「ブランドの声」は、顧客体験(CX)戦略のほかの部分と同じように、戦略的に妥当で、明確に識別でき、ブランドの個性を際立たせるものでなければなりません。ただし、CX戦略の他の部分とは異なり、ブランドボイスはブランドポートフォリオの中で最も感情訴求力の高いアセットであり、大切に保護し、育てる必要があります。次に筆者の娘たちに読み聞かせをしてもらうときには、そんな風にして育てられた声で、心に響く楽しい猫の物語を聞かせてくれることを願いたいものです。

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「ストラテジックフォーサイト」で未来のビジョンを現実に

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエイティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

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「ストラテジックフォーサイト(戦略的先見性)」とは、組織としての先見性のある見解を十分な情報に基づいて創出すること。未来を恐れる必要はありません。先を見通す視点を持つことで、自分たちの状況に合った未来を形づくっていきましょう。

先々の変化に適応する

世界最大の写真フィルムメーカーだったコダック社がデジタル写真時代の到来で倒産に至った経緯は、何度も繰り返し語られてきました。それは大抵、教訓めいた物語として展開されます。しかし、その裏では興味深い話が見落とされています。

コダック社は1974年から2006年まで、ニューヨーク州ロチェスターにあった秘密の地下研究施設に、約1.6キロの濃縮ウランを装填した原子炉を所有していました。この原子炉は中性子ラジオグラフィ※1実験に使用されていて、いわば最先端の技術研究への投資の一つでした。こうした研究のおかげで、コダック社は常に新たな写真・画像化製品の最先端を走っていました。ところがその後どうなったか、今では誰もが知っています。

※1中性子ラジオグラフィ=非破壊検査技術の一手法であり、X線またはγ線ラジオグラフィと類似した放射線透過法のこと。

 

課題は、新しい技術やデータリテラシーの向上によって引き起こされる大きな変革に適応していけるかどうかだけではありません。よりよい未来に向けて、先を見越して貢献していく方法を探ることも求められます。

成功するためには、絶え間なく変化する複雑な世界と向き合いながら、革新性とレジリエンス、そして適応性を備えた道筋を切り開くことが不可欠です。カギとなるのは、継続的な事業改革――。つまり、次に何が起こるかを想像し、まったく新しいビジネスモデルや製品、サービスを創り出すことです。

そのためには、難しい疑問に答えなければなりません。例えば、生成AIを利用したボットが会社と顧客とのやりとりを仲介する時代に、ブランドの一貫性を守るにはどうすればいいか?消費者が企業による環境に配慮した取り組みや倫理面の実績をますます重視するようになる市場で、競争上の優位性を維持するにはどうすればいいか?将来のビジョンを実現するための第一歩として、まず何をすればいいか?そうした疑問への答えを探す必要があるのです。

戦略をクリエイティブな行為として実現する
 

組織が将来の不確定要素を効果的に予測し、それに対応していくための規律と考え方を「ストラテジックフォーサイト(戦略的先見性)」といいます。この考え方は、企業が自らを継続的に改革し、自分たちの戦略が市場の情勢に影響するさまざまな要因に対応できるようにするための出発点となります。結局のところ、将来の変化を予測する能力は、そのインサイトに応じて自らの組織を改革する能力が伴って初めて価値を持つのです。

ストラテジックフォーサイトはここ数十年にわたってビジネス戦略の主流となっており、シナリオ立案から適応型戦略の策定まで、さまざまな形で実践されてきました。その理念の核となるのは、未来への道筋は直線でもなければ予測可能でもないといった認識です。したがって、考えられる複数の未来の始まりに備えるための「適応力の文化」が必要になるのです。

基本的に、戦略とは選択肢を創り出し、課題に対応し、生まれてくるチャンスをつかむことです。そのためには、型にはまった考え方に基づく縛りを打ち破る多面的なアプローチが求められます。frogでは、戦略はクリエイティブな行為であると考えています。つまり、人間の想像力、好奇心、直感の産物であり、デザインやデータ、テクノロジーと共生関係にあります。戦略は方向性をもたらし、デザインがその道を形づくり、データをもとにアプローチが決められ、テクノロジーがその実行を可能にするわけです。

コンサルティング業界で従来好んで用いられている経験的視点では、定量的分析と データに基づくインサイトが優先される傾向にあります。このアプローチにはそれなりの利点があり、貴重な情報を得られますが、戦略上の課題と機会の繊細で定性的な側面をとらえるには、他の手法と組み合わせて使う必要があります。未来がどうなるかは、スプレッドシートではとらえきれません。未来は数限りない可能性に満ちた、生きて呼吸する情景なのです。

ストラテジックフォーサイトを効果的に利用すれば、ビジネスの多様な側面にさまざまな規模の機会や整合性が生まれます。いくつか例を挙げてみましょう。

  • 新規事業を立ち上げ、リアルタイムのニーズに基づいて思い切った選択を
    する。
  • ブランドを変革し、今の時代に即した革新的な組織としてポジショニング
    する。
  • 可能性の限界を広げる全体としてつながりのある製品・サービス体験を実
    現する。
  • 顧客エンゲージメントを深め、ロイヤリティを高める新しい方法を発見する。
  • 組織の将来性を確保するために必要不可欠な能力を特定する。

未来思考の戦略的パラダイムの分類

組織はそれぞれ、独自の背景や文化、置かれた状況に応じて、それぞれに異なる未来との関係を築きます。その関係性がこれから先に待ち受けていることを組織がどのようにとらえ、備えるかに大きく影響します。時期や状況によって、未来を脅威ととらえたり、機会ととらえたりすることもあれば、しっかりとしたビジョンを形づくることのできる柔軟性のあるものととらえる場合もあるでしょう。

frogではクライアントとの仕事を通じて、ストラテジックフォーサイトには主に次の4つのカテゴリーがあることを発見しました。


フューチャーシールド型
(予想外の有害事象による必要以上の影響から組織を守る)

組織が存続するために事後対応的に適応しなければならない場合を、私たちは「フューチャーシールド(future-shield)」と呼んでいます。これは、必ずしも愚かさの結果ではありません。人生はいつでも予測可能とは限りません。将来起こりそうなことを知識に基づいて強く確信していたのに、それが結果として間違っていたということもあり得ます。このような状況で求められるのは、組織のメンバーや製品、収益、ブランドへの潜在的なダメージを最小限に抑えながら、軌道修正を図って新しい現実に適応することです。

frogでは過去50年にわたって、さまざまな業界でこのような問題に直面した例を数多く目にしてきました。メディア消費のあり方や産業構造が急速に変化する中で、私たちはある非営利の大手通信社が今後の課題と潜在的な機会を特定し、対応していくプロセスをサポートしました。また、危機に瀕していたインクジェットプリンター部門を革新的な製品コンセプトで再生させようとする大手ハードウエアメーカーにも協力しました。このクライアントは、frogがZ世代調査と未来思考を組み合わせて構築したビジョンを採用した結果、新たなニッチ分野を見つけることができました。
 

フューチャープルーフ型
(期待される成果に基づいて既存の計画へのリスクを緩和する)

「フューチャープルーフ(future-proof)」とは、要するに、企業が将来起こり得る問題や変化による悪影響に備えて、戦略的な対策や活動を実施することを指します。いわば、リスク管理の要素を活用した「防御態勢」をとり、個々の出来事への反応を検知し、影響を予測する一連のアクションによって対応できるようにすることです。この方法は、成熟した大手企業が採用するのが普通です。そういう企業は、多数の構成要素が常に稼働していて、状況が悪化したときにうまく対応するには、時間と余裕と事前の計画が必要だからです。

frogでは先頃、このアプローチを利用して、航空管制・空港運営業界の世界的大手がボトムアップ型の変革を進め、アイデアを活性化させるのを支援しました。このクライアントは、モビリティのあり方が変わっていく中、自社の役割の変化を理解できたことで、多面的なアプローチのアイデアを生み出しました。中核事業も継続的に成長させながら、拡散的な戦略的思考を組織に根づかせることができたのです。

フューチャーレディ型
(新たな機会を検知・分析することで変化に適応する)

「フューチャーレディ(future-ready)」な組織は、適応的かつ先見的な視点から将来を展望し、新しい機会が現れたときにそれを利用できる態勢をとります。このアプローチでは決定論的な手法とは距離を置き、むしろ事が起きる確率に目を向けます。つまり、「何が最も起こりやすいか」ではなく、「どのようなことが起こる可能性があるか」を考えるわけです。

起こり得る未来を思い描くことは、本質的に柔軟性を備えた戦略の構築につながります。中核的な対応策と並行して、物事が予想とは違った進み方をした場合は、状況に応じた対応策を発動することができます。例えば、frogではある世界的な大手ハイテク企業から委託を受け、今後10年間にメタバースが人間の生活にどんな影響を与えるかを予想しました。このプロジェクトでは、多様な側面をとらえていながら説得力のある語り口と、クライアントがその未来のエコシステムの中での自らの立ち位置を見いだせるように明確な長期的戦略が求められました。

フューチャーシェイプ型
(ビジネスや文化の新たな変化を特定し、事前対応的に脅威を評価する)

「フューチャーシェイプ(future-shape)」を行う企業は、多くの場合、強い信念を持ち、思い描く未来を率先して決定づけようとします。そうした企業は、業界内で支配的な横並び意識を打破しようとする傾向があります。そんなフューチャーシェイプ型は「リスクを伴う」「野心的」と受け取られる向きもありますが、見返りが非常に大きくなる可能性もあります。最も大きな価値を得られると組織が考えている広範なエコシステムに、目を向けているからです。このアプローチは本質的にやや理想主義的で、未来のビジョンを実現させるだけでなく、ステークホルダーにも共通認識を形成して協働してもらうためにも、組織は明確なビジョンと目標、そしてそこへ至る道筋をはっきりと打ち出す必要があります。自らが望む未来を構築するためのシステムと周囲の環境を整備することを目指すアプローチといえます。

frogはあるインフラ部門の世界最大級の企業グループから、将来のモビリティとエネルギー貯蔵分野の中心的存在としての立ち位置を確保するため、柔軟で適応性のある緊急対応戦略を立案してほしいとの依頼を受けました。この取り組みによって、同社の長期的な方針に沿った形で、短期的に大きな影響力を生み出す意欲的で実際的な一連の活動が策定されました。新しい事業分野、戦略的提携、未来志向の組織的マインドセットを導入したことで、同社は数年のうちに、同業者の中で最も革新性のある企業の一社としての地位を確立しました。
 

ストラテジックフォーサイトにさまざまな視点を適用する





 

ストラテジックフォーサイトの可能性をフルに引き出すには、未来についてさまざまな視点から考え、不確定要素に機敏に適応できるようにしておかなければなりません。残念ながら万能の処方箋はありません。どうすればいいかは、それぞれの組織内外の状況を形成する多数の影響力によって決まるからです。一般論としては、frogでは未来を考えるときに3通りの視点を採用しています。カギとなるのは、どのアプローチ(あるいは複数のアプローチの組み合わせ)があなたの組織にふさわしいかを判断することです。

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分析的視点
過去のデータから学び、未来志向の意思決定の指針とする

「分析的視点」を活用すると、過去に関する情報に基づいて未来を推定することになります。通常は、膨大な情報を分析し、内容の濃い説得力のある見解を構築することが可能です。そうした見解は、過去の出来事を厳しく詮索されても揺るがず、ベストプラクティスの策定や潜在的なリスクの回避につながることもあり得ます。ただし、この視点では未来についての見解を過去の出来事から引き出すため、単独で用いると、本質的に還元主義的な考え方になります。未来が従来のパターンに従わない方向に展開し始めると、このアプローチは逆効果になるおそれがあります。

思索的視点
創造的で拡散的な思考で幅広い未来の可能性を探る

対照的に、「思索的視点」と呼ばれるアプローチもあります。個々のトピックの変動要素や事象についてじっくり考え、それらを全体として説明することで、既成の枠にとらわれない考え方をうながし、拡散的な見方を取り上げて、建設的な意見のやりとりを生み出すことができます。

例えば、frogでは、ウエアラブル技術とファッションを融合したブランドMACHINAと協力し、気候危機に直面した際のファッションの生き残りの手段について構想しました。このアプローチでは、ブレーンストーミング※2やブレーンライティング※3、ワイルドカードといった手段を活用します。しかし、この手法で効果的な成果を生むには、思索のために用いる手段やプロセスの準備と整合が重要になります。このような生成的な実践は役に立ちますが、永続的な価値を創り出すには、より深いレベルで考えることが必要です。数回のワークショップを通じて考案された「Two-minute futures(2分間で描く未来)」という手法は表面的な内容にとどまる危険があり、詳しく検証されるとほころびが出て、組織にもたらされる価値は限られるかもしれません。


※2 ブレーストーミング=複数人でアイデアを出し合う集団発想法
※3ブレーンライティング= 回覧板式にシートを回し、他人のアイデアをヒントに発想を広げていく手法

 

システム的視点
各種のシステムをつなげて、柔軟で適応性のある戦略を構築する

最後に挙げるのは「システム的視点」です。ここでは、デザイン原則を戦略とイノベーションに応用しながら、一連のツールを利用して2つの物事の間にあるグレーエリアを探ります。論理的思考と想像力、直感、システム思考を駆使して、「起こり得ること」のいろいろな可能性を探り、未来の望ましい姿を描き出します。さまざまな変動要素の間のつながりや因果関係を考え、フィードバックループや弱いシグナルを探り、分析から得られたインサイトを総合的にとらえることで、組織を取り巻く世界を深く詳細に理解することができます。

新しい現実と考えられる未来を形づくる

冒頭に紹介したエピソードの話に戻ると、コダック社はその後、状況に適応し、再生を果たしました。現在のコダック社は写真技術に革命を起こしたパイオニアと認められており、今も先頭に立って新たな道を切り開いています。最近では、クリストファー・ノーラン監督の2023年の映画作品「オッペンハイマー」のためにまったく新しい専用のIMAX用フィルムを開発しました。

コダック社がたどった道のりは、他の企業にとって重要な教訓になるでしょう。業界トップの巨大企業でも、変化の波に巻き込まれずにはいられないのです。次々と生じる変化が衰えるどころか加速する一方の現代にあって、組織が今後現れる新たな展開や市場の変化に後れをとることなく、そうした変化に対し先見性をもって特定し、取り込んでいくにはどうすればいいかを問う価値はあるでしょう。

結局のところ、成功するための態勢を整えている組織は、考えられる未来像を、想像力を働かせながら徹底的に探る作業に時間と労力とリソースを投じているものです。忘れてはならないのは、私たち人間の現実のとらえ方は大抵の場合、認知バイアスや根深いメンタルモデル、過去の主観的な意見に縛られているものだということです。このことを認識し、近い将来に何が起きるかを体系的に考えることが、組織内で文化の違いを越えて共感を呼ぶ変化を可能にし、「前例踏襲」の思考から脱却することにつながります。

さて、あなたの組織は未知の未来にどのように備えていますか?踏み固められた道をたどっているだけですか?それとも新しい道を切り開こうとしていますか?ぜひ考えてみてください。

「ストラテジックフォーサイト」についてさらに詳しく学びたい方は、frogの記事「 AIとアルゴリズムの時代に「ストラテジックフォーサイト」をとらえ直す 」をご覧ください。昨今のAI分野の動向が、未来思考のあり方を根本的に変革しつつある理由について解説しています。

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エッジ環境での生成AIの活用

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

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未来のIoT(モノのインターネット)を比較的少ないコストで実現するために、生成AIはその重点を「エッジ」の方へ移しつつあります。

「エッジ」とは、デジタル世界と物理世界が交差する場所のこと。私たちが使っている携帯電話やノートパソコン、そして物理世界をデジタル化し、変容させるセンサーやロボットアクチュエータなどのコネクテッドデバイスを指します。

本記事では、エッジAIが生成AIの次の最前線になる理由をひもときながら、「エッジ環境での生成AIの活用法」を探ります。

<目次>
「エッジ」こそが生成AIの次の最前線に

コスト面で見ると、エッジプロセッサ上の小規模モデルが有利に

生成AIがエッジ特有の価値を生かしたIoTの新たな時代を開く

エッジで得られる独自のトレーニングデータの有用性が高まる

これからは分野の壁を越えたアプローチとチームが求められる


 

「エッジ」こそが生成AIの次の最前線に

生成AIの活用とそこに寄せられる期待は、過去1年の間に飛躍的に高まりました。これは業界を問わずさまざまな企業や製品、そしてその顧客に、これまでの常識を覆す根本的な変化がもたらされようとしているからです。

関連市場は今後10年間に年平均成長率42%のペースで成長し、1.3兆ドル規模に達すると予想されています。

これまでのところ生成AIの利用は主に「大規模言語モデル(LLM)」を活用して、有用なテキスト、画像、音声、そして現在では動画コンテンツを、ウェブ上の大衆市場向けアプリケーション用のプロンプト(指示)に基づいて生成するユースケースが中心となっています。
クエリ(データベースへの命令のためのキーワード)に基づく情報検索から、プロンプトに応じた有用なコンテンツの生成へのシフトという図式は、今後数年の間、ビジネス機会と大変革の重要な部分を占めていくことになるでしょう。

この市場の次のステップを予測するのは、初めて電球が灯ったのを見ただけで電力のユースケースを考え出すようなもので、かなりのアイデアの飛躍が必要です。とはいえ、「エッジ」が生成AIの次の最前線となろうとしていることは、今、明らかになりつつある一つの傾向となっています。

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コスト面で見ると、エッジプロセッサ上の小規模モデルが有利に

多くのアプリケーションにおいて、エッジプロセッサ上で実行される小規模モデルがコスト面では有利となります。

AIモデルはますます高度化しています。大衆市場向け生成AI分野をリードしようと競い合う大手テクノロジー企業は、競争を勝ち抜くにはこれまで以上に大量のトレーニングデータを使い、強力なAIを開発することが絶対条件だと見ています。

わずか数年の間に、各モデル(GPT、Gemini、Mistral、Llamaなど)が依存するパラメータの数は1000倍以上増加し、大規模マルチタスク言語理解(MMLU)ベンチマーク(AIモデルの知識を測るための、高卒資格認定試験と同類の尺度)のスコアは3倍に上昇しました。

このような現状には納得できます。この種のAIモデルは、食材をもとにしたレシピの提案から1枚の写真をもとにしたプロ仕様の顔写真の生成まで、あらゆる要求に対応できる必要があります。大衆市場でのリーダーシップを確保したいという意欲は、こうした商用アプリケーションのコスト最適化も後押ししています。この傾向は今後も続いていくでしょう。

このようにますます性能を増す高度なAIモデルはクエリを実行するごとに数セントかかる場合があり、そのコストはプロンプトとアウトプットの規模と性質によって異なります。このため計算能力の激しい拡大競争も起きており、AI技術の先端を走るNVIDIA(エヌビディア/半導体メーカー)の株価は一時、最高水準まで上昇しました。

とはいえ、ほとんどの企業やアプリケーションには、このような最上位モデルは必要ありません。アプリケーションが特定用途に特化されるようになれば、役に立つ応答を生成するのに必要な情報の範囲やモデルの高度化の程度は減っていきます。

また、モデルの性能は急速に進歩しており、Gemini Nanoなどの「小型」モデルでも、GPT-3などの2年足らず前の「大規模」言語モデルと同等のMMLUスコアに達しつつあります。

具体的に言えば、効果的な顧客サポート用チャットボットをつくるには、会話言語の理解と、特定製品の関連文書、そしてできれば問い合わせ電話のトランスクリプトがあれば事足ります。詩や音楽の知識や画像などは要らないのです。そうなると、モデルにかかる負荷は大幅に少なくなります。

現在では、Edge Impulseのようなツールのおかげで、開発者はGPT-4oなどの大規模モデルを容易に活用して桁違いに小さいカスタムモデルに学習させ 、遅延がはるかに少ないエッジデバイスプロセッサ上で狭い範囲の機能を実行させることが可能になっています。

それと同時に、MicrosoftのAIツールCopilotのようなサービスのプラットフォームサブスクリプション料金や、カスタムモデルアプリケーションのクエリ1件当たりコストの動向が、効率のいい適度なサイズのモデルの構築へと向かう流れを強力に後押ししています。

ユーザーのノートパソコンやスマートフォン、コネクテッドデバイスなどのエッジハードウエア上で生成AIを実行する場合、ローカルの処理能力やメモリが限られていても、AIモデルに満足のいくパフォーマンスを発揮させるという大きな課題を解決できさえすれば、クエリは実質的に無料になります。

以上のような要因が重なれば、特定の事業分野や製品に特化されたアプリケーションで、比較的小規模な言語モデルで生成AIを活用する事例がエッジでもクラウドでも次々と出てくるでしょう。

下の図は運用コストとモデルの規模の相関図です。「トークン」とは単語や文字の断片を表し、クエリのコストは処理されるトークンの数によって決まります。つまり、プロンプトやアウトプットが大きいほど必要なトークンの数が増え、全体のコストも増えることになります。「LLMアクティブパラメータ」とは、処理中に使用される大規模言語モデル内の内部変数の数です。パラメータ数が多いほどモデルは大きく高性能ですが、必要なリソースも多くなります。

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生成AIがエッジ特有の価値を生かしたIoTの新たな時代を開く

実体のあるアナログな生き物である私たち人間は、物理世界で生を送りながら、幸福感を味わったり実用性を感じたりします。エッジに大きな影響力があるのは、これが理由です。エッジは私たちにとって、タッチスクリーンや音声アシスタント、AR(拡張現実)ヘッドセットを通じてつながるデジタル世界への双方向の窓であり、データによって可能になるアクションや実用性が最終的に形になっていく経路です。航空券を買ったり搭乗チェックインをしたりするのはスマホでできるとしても、実際に飛行機に乗って、現実の目的地まで飛ぶことができてこそ実益があるわけです。

エッジ処理やエッジAIは新しい概念ではありません。エッジ処理は、クラウドへの接続やクラウド処理に信頼性に欠ける、速度が遅い、高額すぎる、リスクが高すぎるといった問題がある場合に、デバイス上での実行を可能にする技術です。自動運転車が障害物を避ける、外科手術支援ロボットが触覚フィードバックを用いて精密な切開を行う、センサーが遠隔地の工場での生産工程をリアルタイムで制御するなど、エッジ処理とAIによって実現している価値あるユースケースはすでに数多くあります。

エッジでの生成AIの活用は、こうした実用性の新たな領域を切り開いていくでしょう。生成AIは今や、結果一覧を表示するだけの検索エンジンから、ユーザー一人一人に適したコンテンツを生成するチャットボットへのパラダイムシフトをけん引しています。それと同じように、エッジでの生成AI活用では、物理世界のリアルタイムの文脈にデジタル世界の知識をプラスした情報に基づいて、それぞれのユーザーに合わせた予測、提案、コンテンツを生成することが中心になっていくと予想されます。

これはまさに、誰もがIoTに期待していた「価値のレベルアップ」を意味します。これまでのIoTは、数値化と接続性という目新しい機能を実用的と装うばかりで、それ以上の説得力のある価値をユーザーにもたらしてこなかったことを考えれば、重要な一歩です。

その可能性は無限ですし、期待は膨らむばかりです。すでに実用化されている事例も多く、そうした事例は概して2種類に分類できます。一つは、これまでにないユーザーインターフェースや体験を実現する製品やサービス、もう一つは、実際にアクションを起こす製品やサービスです。

<ユーザーインターフェースと体験>

  • Appleの昨年の発表によれば、同社はiOS 18、iPadOS 18、macOS SequoiaにチャットGPTを統合する見込みです。この統合は、コンテンツ制作のあらゆる領域でユーザーのプライバシーにメリットがあるとうたっています。

  • 旅行を楽しむ人にとっては、エッジでの生成AI活用によって音声認識や背景ノイズの除去、リアルタイムでの現地語への翻訳ができ、言葉の壁を越えてスムーズな会話ができるようになります。Samsungの最新スマートフォン「Galaxy S24」がこの機能を搭載しています

  • 産業施設では、エッジでの生成AI活用により、マシンビジョンを用いてリアルタイムのカメラ映像のテキストおよび音声ベースのクエリが可能になり、従業員が適切な安全装備を着用しているかを検査するなど、複雑な事象を精度よく監視できるようになります。NVIDIAがすでにこのユースケースを実証しています

  • 消費者の間では、Apple Vision ProやLimitless Pendant、rabbit r1、Humane Ai Pin、AIスマートグラスBrilliant Labs Frameなどのデジタルアシスタントや拡張現実デバイスの実用性が、エッジでの生成AI活用によって大幅に高まることが考えられます。ユーザーの指示に周辺の状況も加味して提案や背景情報を生成でき、しかも遅延時間が少ないため、イライラすることもありません。QualcommがAndroidスマートフォン上で実行する大規模マルチモーダルモデルをすでに実証しています。

  • Googleは先頃、eコマースプラットフォームShopify向けにAndroidに搭載されたエッジでの生成AI機能を実証しました。それによって小売業者は、eコマースサイトに掲載する商品画像の修正や準備に、エッジでの生成AIを活用することができます。

  • 医療機関では、エッジでの生成AI活用により、治療チームからの音声入力や医療研修データに加えて、患者から取得したマルチモーダル生体信号センサーのデータをもとに、リアルタイムで、しかも患者のデータをクラウドに転送することなく安全に、医療上の提案を生成することができます。

<エッジでのアクション>

  • ロボット工学の分野では、エッジでの生成AI活用により、反復的作業の自動化の範囲をはるかに超えた、「推論」を伴う音声コマンドの処理が可能になり、ロボットがより役に立つアシスタントとしてシームレスに動作できるようになります。 ヒューマノイド(人型)ロボット開発のスタートアップ企業Figureは先頃、まさにこの機能を実現するため、チャットGPTとの提携を活用してこの性能を実証。「何か食べるものをもらえる?」といった間接的なプロンプトをロボットが受け取り、視野内にある使える物をもとに推論を行うことができます。この生成AIインターフェースをエッジでロボットに内蔵することで、遅延時間が短縮され、運用コストも抑えられます。

  • 自動運転車に関しては、エッジでの生成AI活用により、周囲の状況を検知するLiDARシステムやカメラなどのセンサーデータをインプットして、他の物体の動きについての予測を生成することで、走行を改善することができます。以前のマシンビジョンシステムも歩行者を検知することはできましたが、生成AIなら、歩行者がこれから横断歩道を渡ると予測することができます。この処理は、車載エッジシステムで瞬時に行われねばなりません。

エッジで得られる独自のトレーニングデータの有用性が高まる

ほとんどのAIアプリケーションの開発において、モデル開発が占める割合は、すでにデータの収集や処理はもとより、テストや最適化と比べても低くなっています。オープンソースのソリューション(MetaのLlamaなど)を含めた簡単に入手できるモデルの性能が高まるにつれて、AI開発の重点はますますモデル開発からその他の取り組みへと移っていくと予想されます。

特定の業務に特化したアプリケーションを考えると、主な課題はデータ収集、タグ付け、クリーニング、メンテナンスといった分野です。

業務特化型アプリケーションの多くは、デジタル領域のみにすでに存在するデータ(社内のディレクトリにある全文書に基づく社内ナレッジ管理など)を活用することはできると考えられます。その一方で、接続されたセンサーやデバイス経由で物理世界にあるデータにアクセスし、それをデジタル化することが、現在のAI開発競争において他社と差をつけたいと考える企業にとっては重要な機会になります。

プライバシーに関する問題と制約も、重要な推進要因になるでしょう。キャップジェミニの調査機関「キャップジェミニ・リサーチ・インスティテュート」によれば、コネクテッド製品の購入を決めるとき、消費者の75%は信用を重要な要素と考えます。したがって各企業は、プライバシーとセキュリティを考慮するだけでなく、顧客が自分のデータを見返りに提供してもよいと思えるだけの価値を提供することを迫られます。自分の情報を提供したくなければ、簡単にクッキーを無効化できます。一方、それらがもたらす価値に引かれてコネクテッド製品を自宅や職場に導入した人にとっては、その製品を手放すのはクッキーの無効化よりはるかに難しいのです。

これからは分野の壁を越えたアプローチとチームが求められる

クラウド型LLMのコスト圧力と計算資源不足に加えて、エッジでの生成AIとデータ収集によって価値の高いユースケースが実現する可能性を考えれば、2024年以降にはこのエッジでの生成AI活用という分野が急成長することが期待されます。

このような傾向が続く中で、企業はいかにこの波に乗るかを考えなければなりません。この分野はまだ萌芽(ほうが)期にあるため、しっかりとした戦略を立てるには、分野の壁を越えたアプローチとチームが必要です。リソースの制約があるエッジプロセッサ上でのモデルの構築と運用が可能かどうかを評価できるエンジニア、この可能性を実現する新たな技術とそれがユーザーにもたらす価値を理解しているユーザー体験・戦略チーム、そして投資利益率(ROI)を確保するための妥協点とメリットを計算できるビジネスアナリストが、力を合わせて取り組むことが求められるでしょう。

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人工知能(AI)時代に求められる、コンバージェント・デザインとは?

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

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私たちは今、AI対応製品をサポートする新しいサービスエコシステムに大きく依存してしまう「コンバージェント※1・デザイン」時代の初期段階にいます。人間とAIとの関係を深める新たなフォームファクター(ハードウエアの形状や寸法などに関する仕様や規格)を探ることが、これまで以上に重要になっています。

※1=収束、収斂(しゅうれん)の意。複数のものが一つに集まること。従来は接点のない異なる存在だったものが融合・統合する様を表す。
 

このような背景のもと、2024年の「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」(CES:消費者向けエレクトロニクス製品の見本市)の最大の注目ともいわれた新製品が、ラビット社(Rabbit Inc.)から発売されました。同社創業者のジェシー・リュー氏は、私たちのデジタルサービスとの関わり方を考え直すという意欲的な目標を掲げました。そうして生まれたのが、スマートフォンの機能の大半を時代遅れにするとうたわれる、チャットGPTベースのパーソナルアシスタント「Rabbit r1」です。すっきりしたデザインの小型デバイスで、個々のユーザーに合わせて体験をパーソナル化してくれるオペレーティングシステムを搭載し、自然言語インターフェースで操作できます。

今回は、デジタルデザイン、物理的デザイン、サービスデザインをシームレスに統合する収斂的アプローチを追求するfrogの視点で、Rabbit r1のこれからのあり方を考えます。

<目次>
時流に乗って、新たな技術を体験した結果……

懐疑的な楽観論者が見たRabbit r1の可能性

非現実的なMVPは不愉快な体験を招くことも

frogが考えるRabbit r1のセールストークとは?

アプリのない世界における体験とモダリティ

製品開発で重要なのは、意味のある体験ができるかどうか
 

時流に乗って、新たな技術を体験した結果……

日々の生活に必要なすべてのことに対応でき、かつスマホを補完するというRabbit r1の野心的な目標に、私やfrogの同僚を含めたニッチな層が引きつけられたのは、驚くことではありません。私たちは新しいテクノロジーをいち早く取り入れる層、つまり、取り入れの早さによる分類で「イノベーター」と呼ばれるカテゴリーに属します。

基本的に、組織が新しいテクノロジーを受け入れるスピードは、「イノベーター(革新者)」「アーリーアダプター(初期採用層)」「アーリーマジョリティ(前期追随層)」「レイトマジョリティ(後期追随層)」「ラガード(遅滞層)」の5つに分類されます 。

私たちのような「イノベーター」は新しいテクノロジーを、それが市場で十分成熟しないうちに受け入れます。未熟な製品につきものの遊び心と実験性に価値を見いだす、つまり、市場の安定性より先見性のある野心に魅力を感じるわけです。このような変化への欲求が強い私たちは、人間の体験の根本的な変容への最前線を常に走っているのです。

<新しいものの受け入れスピードに基づく5つの消費者カテゴリー
イノベーター(革新者)2.5%
アーリーアダプター(初期採用層)13.5%
アーリーマジョリティ(前期追随層)34%
レイトマジョリティ(後期追随層)34%
ラガード(遅滞層)16% 

とはいえ、世の中の主流になる前に新しい技術を使ってみることは、ワクワク感がありますが、新しいものをいち早く取り入れると、それなりの落胆もついてきます。Rabbit r1の場合でいうと、このデバイスを何とかして役に立つものにしようという私の努力が、今のところうまくいっていないことは認めざるを得ません。

自分の生活の中でこのデバイスの居場所を見つけるのに四苦八苦しながらも、希望はもち続けています。Rabbit r1は世界と関わるための手順を大きく組み直してくれると私は確信していますが、この製品ともっとシンプルな方法でやりとりできればいいのに……というより、この製品と仲良くなるための口実が欲しい、と感じています。

Rabbit r1の場合、製品への「親近感」をもってもらうことを目指してはいませんでした。ユーザーが新しい製品に親近感を抱くには、その製品に100%没頭する必要はありません。何らかの執着心が新しく生まれてくればいいのです。親近感を重視した製品は、日々の日課に簡単に組み込むことができます。けれども、その製品との日々の関わり方は人によって違います。

結局のところ、適切な状況に置かれれば、私たちは全員が「イノベーター」になります。人は誰でも何か特別に好きなことがあり、その何かをさらに充実させるのにAI搭載デバイスを利用できるからです。

例えばRabbit r1は、ロマンチストでいつも本ばかり読んでいて、コンピュータが人間の体まで変容させようとしているデジタル時代についていけずにいる人をターゲットにしてもいいのです。そうすれば、能力レベルや目的にかかわらず、集めた本との対話を求めているすべての読書好き、つまりはアナログ派の人々を、デジタルアシスタント体験に招き入れることができるでしょう。上級レベルの読書家からさらに先へ進んで、大学生に対象を絞り、さまざまな教育環境で新たな「イノベーター」市場を開拓することもできるはずです。

もっと明確にターゲットを定めた戦略をとったら、サービスレイヤーと大規模アクションモデル(LAM)※2の潜在的な可能性にどのような影響が考えられるでしょうか?フォームファクターはどうなるでしょうか?

※2=実際のタスクを遂行することを目的とした人工知能モデル


懐疑的な楽観論者が見たRabbit r1の可能性

創業者のリュー氏が世界に向けて Rabbit r1を初めて紹介し、スウェーデンの電子楽器メーカー、ティーンエイジ・エンジニアリング(Teenage Engineering:TE)がハードウエアデザインに協力していると発表したとき、この製品は信頼性も完成度も高いという雰囲気が高まりました。TE社は何年も前から音楽界とデザイン界で非常に高く評価されていて、音楽制作での斬新なユーザー体験と、ドイツの工業デザイナー、ディーター・ラムスのデザイン哲学 に沿ったシンプルなハードウエアデザインで人気を集めています。このデザインと200米ドルという価格がRabbit r1について楽観視していられる最大の理由かもしれません。

人々を製品に夢中にさせるには、その製品を使う体験の何らかの側面に投資してもらう必要があります。外観のデザイン性の高さをアピールすれば、しばらくの間は投資してくれて、製品の本来の魅力をだんだんと感じるようになる人も一部にはいるでしょう。

一方、Rabbit r1は大胆で遊び心のあるデザインですが、TE社への説明が、読書好きやオーディオ好き、植物好きなど、特定のものに熱中している人を取り込むという上述の目標にもっと沿ったものだったら、どうだったでしょうか?現状のデザインとは違う、もっと繊細なアプローチをとっていたでしょうか?問題は、物理的なデバイスを通じてAIの能力を発揮させようとする場合、ユーザーの知性と感覚をフルに働かせるには、そのデバイスが働きかける人間のモダリティのすべてを考慮する必要があるということです。

Rabbit r1を手に入れてから数カ月たちましたが、私は今でも懐疑的な楽観論者です。今の時代、多くの人がそういう意識をもつべきだと思います。私たちはついつい、バッテリー寿命が短い、動画録画ができない、データの読み込みに時間がかかるなど、欠点ばかりをあれこれ気にして、いわゆる「ウサギ(ラビット)の穴」に落ちて(=大筋から外れた状況から抜け出せなくなって)しまいがちですが、それよりも、ひょっとしたらそうだったかもしれないことや、これからそうなるかもしれないことを探るほうがいいような気がします。

そういうふうに推測を働かせることは、このデバイスの真の可能性を見いだす一つの手段です。

非現実的なMVPは不愉快な体験を招くことも

ラビット社は継続的に改良に取り組んでいくと明言しています。
新しいものにいち早く飛びつく「イノベーター」としては、継続的に改良していくという約束を信じています。けれども、ラビット社にはすぐに人々が夢中になるものを生み出す可能性をもっているとも思います。もう少し焦点を絞り、ある一つの体験を根本的に変えるとうたうことが、市場開拓戦略としてはさらに望ましいのではないでしょうか。

一つ例を挙げるとするならば、アマゾンを思い出してみてください。そもそも世界初のオンライン「書店」としてスタートし、その後、利便性を追求しながら規模を拡大していきました。初めは本という一つの分野にフォーカスしたことで、熱心なユーザーと親密な関係を築き、それがやがて、急速に規模を拡大していく原動力となったのです。

テクノロジーの間口の広さを証明するために製品を発売するのは、得策ではありません。人々にLAMのコンセプトに興味をもってもらいたいのなら、生活者が望む製品を提供することが重要です。その後、サービス業界のデベロッパーの間でLAMの真の可能性についての認識が広まるにつれて、対応するニーズの範囲を少しずつ広げていけばいいのです。

frogが考えるRabbit r1のセールストークとは?

「消費者は製品を購入するのではなく、体験と感情という形の価値を購入する」
ハルトムート・エスリンガー(frog創設者)

frogでは、デジタルデザイン、物理的デザイン、サービスデザインをシームレスに統合する収斂的アプローチを常に追求しています。私たちは世界初の唯一無二の製品を数多く市場に送り出してきました。その経験上、特定のユースケースに焦点を絞った新製品の発売は、期待感を抱かせ、その後のロードマップを明確にするのに役立つということがいえます。とりわけ、今のモバイルデバイスに取って代わる新製品が一夜にして登場することを特に求めていない、ごく一般的な家庭に寄り添ったユースケースのほうが、大きなメリットがあります。

この場合、LAMがまず対応するのは、限られた行動やモノだけです。もしそうだったら、どのような違う展開が見られたでしょうか?もしRabbit r1がそのようなサービスとセールストークを掲げて発売されていたら、どうなっていたでしょうか?

ここで、敢えて批判的な立場から架空のデザインを想定して、望ましい要件をすべて満たしたRabbit r1のセールストークを考えてみましょう。Rabbit r1が多機能デバイスではなく、あなた自身の独自のニーズにぴったり合うサービスにつながる専用ツールだったら、と皆さんも想像してみてください。私たちは次のようなコピーを考えました。勝手をお許しいただけるなら、ぜひリュー氏に提案してみたいところです。【Rabbit r1の架空ミッション】
特定の分野で最高の体験を提供する

新発売のRabbit r1は、あなたの新しいナレッジアシスタントです。Rabbit r1が大切にするのは、現実世界での体験の喜びを取り戻すこと。テクノロジーの目まぐるしいペースを緩めて日常生活のスピードに合わせ、普通の言葉で、状況に合った一貫性のあるやりとりを実現します。複雑なユーザーインターフェイスのせいで目の前のタスクから気をそらされることなく、現実世界のやりとりと体験がよみがえります。時間の流れに身を任せた自然な生活を取り戻していただくことが、Rabbit r1の使命です。

読書アシスタント
Rabbit r1は学生、学術関係者、研究者の方々に理想的な読書アシスタントです。お気に入りの本やブログ、雑誌などを読むうちに、知識創造スキルが磨かれていきます。あなたが本を読むとき、Rabbit r1はいつでもそばにいて、出てきたテーマについて話し合ったり、質問に応えたりしてくれます。そこは、まるであなただけのための読書クラブです。究極の読書支援ツールになることを目指すRabbit r1は、まったく新しい読書体験をお届けします。役に立つ関連知識をリアルタイムで教えてくれたり、ユーザーの読書習慣をもとにおすすめの本を表示したり。紙の蔵書とデジタルライブラリをシームレスに統合して、蔵書を一括管理することも可能です。このようにRabbit r1は読書体験のあり方を大きく変え、あなただけの本の世界に浸れる、これまでにないユーザーフレンドリーな読書の旅へといざないます。

【主な機能】
 •文節スキャン:文章の一部をスキャンして、引用や要約についての関連情報を表示
•動的ディスカッション:文章の一部を音読すると、Rabbit r1がさまざまな考え方や分析スタイルで会話を始め、今読んでいる内容について議論できる
•蔵書カタログ作成:棚にある本の背表紙をスキャンすると、Rabbit r1がナレッジベースを構築し、要約付きの仮想ライブラリを作成
•文化的視点:本の内容をさまざまな文化的視点から読み解き、幅広い視野で内容を解釈

【近日リリース】
音楽アシスタント
音楽がお好きですか?新しいサウンドを見つける革新的な方法をお探しの方のために、音楽の再生・検索アシスタントとして理想的なRabbit r1がまもなく登場します。お気に入りの曲の関連情報を通知したり、曲を再生しながら直感的な操作でおすすめアーティストを紹介したりする機能で、あなたの音楽体験をさらに豊かにしてくれる新しいRabbit r1にご期待ください。

Rabbit r1で「好き」をとことん体験できる未来へ

アプリのない世界における体験とモダリティ

この架空のセールストークからわかるように、Rabbit r1は「読書アシスタント」という基本的なアシスタント機能を体験できるツールとしてセールスすることもできます。Rabbit r1のAIは、ページをスキャンしてキーワードを検索したり、いろいろな分析モードで文学的な議論に対応したり、お気に入りの作品を他の言語で読む方法を指南したり、ユーザーの読書習慣を理解した上でおすすめの本を紹介したりできます。

スマホを時代遅れにしようと各社がしのぎを削る世界では、このように的を絞ってユーザーの親近感を獲得するチャンスが見逃されています。上述のような基本的な読書アシスタント体験を提供すれば、まずは短期的に、Rabbit r1をモバイルデバイスと差別化することができるでしょう。

ただし、本当の変革が始まるのは、一つの分野を極めた後、その専門知識とノウハウを他の体験にも応用し、広げていくときです。重要になるのは、LAMやその他の大規模言語モデル(LLM)※3の対応範囲の広さだけではなく、初めて使ってみたときにユーザーをどのようにガイドしていくかという点です。最初はただの読書アシスタントでも、特定の用途に適したさまざまなフォームファクターやハードウエアの追加を行いながら、真の意味でのアシスタントAIデバイスへと進化していけるはずです。

※3:膨大なテキストデータと深層学習技術によって構築された自然言語処理モデル。テキストの生成や質問への回答などが可能となる。


新しいテクノロジーを使ってもらうには、その使い方をユーザーに理解してもらう必要があります。特定の分野(ガーデニング、エクササイズ、料理など)に絞って簡単に使い方を学べるようにすれば、ユーザーが自分にとって大切な時間を過ごしているときに、その関心を引きつけることができます。私たちは皆、ただのユーザーや顧客や生活者ではありません。研究者、生産者、料理人、教育者、探検家、ゲーマー、ドライバー、日曜大工、介護者、おもてなし役などなど、他にもさまざまな顔をもっているのです。

製品開発で重要なのは、意味のある体験ができるかどうか

新しいものをいち早く取り入れる私たち「イノベーター」は、世界初といわれるデバイスと出合うために生きているといってもいいでしょう。私たちをワクワクさせ、可能性を感じさせてくれる製品の条件は、それほど多くありません。確実に意味のある体験ができ、その体験を通じて親近感を抱かせてくれさえすればいいのです。

世界初の製品を世に出すのは簡単なことではありません。新しいことに挑戦し、生成AI時代の収斂的デザインの未来に向かって先頭を走るラビット社のような企業には敬意を表します。皆さんの中にも、生成AIを活用した世界初のデバイスの開発に取り組んでおられる方がいらっしゃれば、私たちは喜んでサポートし、これまでに学んだことをお伝えします。どうぞご遠慮なく、あなたの経験をお聞かせください。

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今こそ「車線変更」を!持続可能な高級車を目指して

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

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自動車産業における「高級」の定義は何十年も一貫したままでしたが、今まさに変わろうとしています。もっと幅広い「高級」の概念を受け入れるべき時が来ています。

従来、「高級」とは、上流顧客向けの上質な技術・デザインを指していました。最新の技術と時代を超えたデザインを採用し、精密な匠(たくみ)の技で製造された最高品質の製品です。しかし、自動車産業においては、こうした上流顧客は今やニッチな層にすぎません。しかも、そのような層をターゲットにしても成功の見込みがない状況に近づきつつあります。

この主な要因には、「サステナビリティ(持続可能性)」と「電動化」の重要性が増していることが挙げられます。この2つはひと昔前の市場ではかなり不人気だった要素ですが、現代の生活者の認識は大きく異なります。

シェアリングエコノミーの台頭と旅行の民主化、そして電動化の進展と新たな規制によって、「高級」はより手の届きやすいものになりました。その結果として、高級車ブランド各社は、以前よりも幅広く新しい生活者層のニーズに対応することを迫られているのです。

簡単に言えば、持続可能性に主眼を置いて「高級」の定義を進化させ、捉え直さなければならない、ということです。そうしなければ、時代に取り残されてしまうことになりかねません。

<目次>
自動車における「高級体験」とは?

高級車の顧客は変わりつつある

サステナブルな高級感の意味と価値を問い直す機会領域とは?

新たな顧客層の期待に応えるために

 

自動車における「高級体験」とは?

高級車の販売代理店とメーカーを支援するため、私たちは優れたエンドツーエンドのサービス体験をデザインするための指針を次のようにまとめました。

・「時間」が新たな贅沢に  

目まぐるしく動く世界からちょっと離れて、充電(一休み)できるようなエクスペリエンスをデザインしましょう。毎日が忙しく過ぎていく現代の生活の中で、生活者は一息ついてじっくり考えることができる時間を求めています。このようなニーズに応えようと、デザイナーたちは、日々慌ただしく過ぎる生活のペースを少しだけ緩められる体験を構築し始めています。デジタルノイズを遮断して、自分自身を振り返ったり、周囲の環境をあらためて見直したりする時間こそ、今や新しい贅沢(ぜいたく)なのです。  

・サービスこそすべて

顧客のライフサイクル体験全体を意図的にデザインすることで、顧客満足度を維持するための適切な機能や製品が、確実に優先されるようになります。それによってデリバリーチームは、卓越したサービスを顧客に提供し、ロイヤルティを高めることができます。 

顧客が販売代理店に入ってきた瞬間から購入後のサポートまで、細心の注意を払ってすべてのシーンで、コンタクトポイント(顧客との接点)を構築する必要があります。スムーズな試運転体験を提供するにせよ、役に立つ情報を盛り込んだ透明性の高い購入ガイダンスを行うにせよ、あるいは質の高いアフターサービスを実施するにせよ、高級車ブランド各社は、顧客満足と従業員体験を優先し一層の努力を注ぐことで、輝きを増します。

・細かい所に気を配る

パーソナル化が重要である一方、細かい部分に配慮することで、エクスペリエンス全体が特別なものに感じられるようになります。シームレスなデザインとは、エクスペリエンス全体の水準を高めることを意味します。例えば、顧客の好みの色のレザーシートに慎重にステッチを配する場合も、あるいは特定のタイプのリスナー向けのサウンドシステムを緻密に設計するといった場合も、それは同じです。

中でも重要なのは、顧客が好むテクノロジーやソフトウエアを車に組み込み、今の時代にあった高級感と没入感のあるエクスペリエンスを作り出すことです。どんな細部も見逃さないようにしながら、ごく微妙な違いもおろそかにせず、その違いを感じられるようにすることで、高級車ブランド各社は生活者の期待に応え、洗練された上質な雰囲気を生み出すことができます。

・サステナブルな解決策 

環境に配慮したサステナブルな解決策を取り入れましょう。ポイントは、エシカル(倫理的)な調達とフェアトレード慣行を重視すること、そして、持続可能で環境に優しい材料を使用して環境への影響を抑えることです。現代の生活者は環境への悪影響を減らしたいという意識が高く、エシカルな製品やサービスになら多少高いお金を払っても構わない、と考えています。ニールセンの調査によれば、ミレニアル世代の73%は、サステナブルなブランドや社会的意識の高いブランドの製品なら他より高くても購入する、と答えています。

透明性に資するため、サプライチェーンの持続可能性と二酸化炭素排出量に関するデータを、購入時点で顧客が自由に入手できるようにしましょう。「グリーンウォッシング(環境に配慮しているように装ってごまかすこと)」とみなされないように、主張する内容については裏付けとなる証拠を示さなくてはなりません。新しい世代の高級志向の生活者は、十分な情報に基づいて自分がサステナブルな選択をしていると証明できる根拠を求めているのです。  

このような社会的行動の傾向を受けて、デザイナーは、サステナブルな慣行を制作物に取り入れるように努めています。エシカルな調達、フェアトレード慣行、持続可能で環境に優しい材料を活用することで、組織は廃棄物や有害な二酸化炭素の排出を最小限に抑え、自然環境に与える負荷を減らすことができます。顧客はサステナビリティを優先するブランドの製品を購入することで環境保護を支援できると感じているため、そうしたブランドに引きつけられます。

・記憶に残るようにする 

高級車ブランドは、顧客に「おおっ!」と思わせるような瞬間を意図的にデザインしなければなりません。戦略として、後々まで残る印象を与え、顧客が実際にユーザー体験をした後もずっと、記憶に残った内容について語りたくなるように促すためです。忘れられない象徴的な瞬間を意図的にデザインすることで、ブランドは顧客の体験が「バズる」状況を戦略的につくり出し、新しい顧客を呼び込むことができます。

顧客の期待を大きく超えることで、高級車ブランドは製品そのものの範囲を超えた心のつながりを築くことができます。こうした記憶に残る圧倒的な体験を通して、高級車ブランド各社はロイヤルティを醸成し、口コミによる製品の推奨を広め、高い評価を持続させるのです。

高級車の顧客は変わりつつある 

高級車の購入者には以前より若い層が増え、グローバルな広がりも見せていることから、新たなニーズや期待が生まれています。こうした新しい顧客層はこれまでの世代と比べると、全く新しい感覚を持っています。生まれたときからデジタル製品に囲まれて育ってきた彼らはテクノロジーへの関心が高く、倫理観やサステナビリティに基づいて意思決定をし、包括的なエクスペリエンスを提供するブランドを利用しようとします。

また、ブランドに期待するコミュニケーション手段も異なり、従来の販促チャネルよりも、各種のデジタルチャネル経由で製品情報を知ることを求めています。メーカーとしては、現代の生活者と同じペースで進化し、彼らの声に耳を傾けて対応することが絶対条件です。それができなければ、市場シェアが縮小し、収益源を失う結果を招くでしょう。  

以上のような現状から考えると、高級車市場をターゲットにすることは、自動車メーカー各社にとってこれまでにない挑戦になります。適切な調査データと計画がなければ、的外れに終わってしまいかねません。

では、どんなふうに進めていくのが望ましいのでしょうか?

サステナブルな高級感の意味と価値を問い直す機会領域とは?

高級車のライフサイクル全体において、ブランド各社がサステナブルな高級感の意味と価値を問い直すために活用できる機会領域として、以下の4つがあると、私たちは考えています。

1.サプライチェーンの再構築

どのメーカーも規制に準拠しようとサプライチェーンの改革に取り組んでいますが、とりわけ高級車メーカーは、製品やブランドの特徴を伝えるメッセージに新素材や持続可能な製造過程を織り込むことで、独自の価値を提案できるチャンスがあります。

短期的には、サステナビリティに関する監査・報告に機会が見つかるでしょう。信頼を築き、ブランドロイヤルティを高める上で、コンプライアンスは重要な要素です。中期的な意味では、グリーン・サプライヤー・ネットワークの構築に力を入れることがメリットにつながります。このネットワークが確立すれば、設計段階を再考し、部品の循環性を最大限に高めることを目指しながら、サプライヤー・パートナーシップを構築するための長期的な計画を立案することができます。

2.サステナブルなドライビング

電気自動車(EV)への移行が必然とされる中で、高級車メーカーは、車の販売方法、動力源、メンテナンスや運転の仕方に、自社の高級車ラインアップをどのように適応させていくかを検討する必要があります。 

この目標を達成するには、短期的には高級車試乗体験に力を入れる必要があるでしょう。メーカーはまず、このエクスペリエンスを概念化し、顧客の期待を上回らなければなりません。その他の機会を活用するのはそれからです。中期的には、高品質な再生可能エネルギーに重点を移す必要があります。

生活者はエシカルな動力源を求めますが、車の性能を犠牲にすることは望みません。以上の2つの段階が完了したら、会員制ドライバークラブなどの長期的な優先課題に重点的に取り組むことができます。この種のプログラムでは、サステナブルなEVオーナーシップ体験をサポートし、将来の車の選択にも役立つ主要なデジタルサービスを必ず活用するのがポイントです。

3.ワンランク上のデジタルエクスペリエンス

高級車メーカーは購入、メンテナンス、充電などの主要なエクスペリエンスに重点を置くことで、EVを所有するのは難しいことではなく、何の面倒もない、というふうに生活者の認識を高めることができます。そうすれば、サステナブルな自動車の購入を考える高級志向の顧客も増えていきます。 

最近では、デジタル不動産や新しいコミュニティ、仮想コラボレーションなどが集まった、日常的な現実の中にある世界にユーザーをいざなうデジタルエクスペリエンスが登場しています。ですから、高級車メーカーも短期的には、没入感のあるカスタマイズ体験に力を入れる必要があるでしょう。

中期的には、このカスタマイズ体験の延長として、音声AIサービスやスマート・パーソナル・アシスタント、インテリジェントなデジタルインターフェースなど、長い充電時間のイライラを和らげるためのテクノロジーに、機会が見つかるはずです。ただし長期的には、「フリクションレスな(煩わしさがない)」充電と修理の分野に、より多くの機会が見つかるでしょう。

4.循環性を確立する

 

循環性を確立すれば、高級車メーカーは、時間の経過とともに所有者が変わる自社製品の価値を、最大限に享受することができます。また、新たな顧客層の獲得につながる有意義なブランドパートナーシップを結ぶチャンスも生まれます。製造の視点から見れば、循環型プロセスは材料コストを有意に引き下げ、二酸化炭素排出量を最大70%削減できます。 

 

フェラーリとレイバンの近年のパートナーシップの例からわかるように、短期的には高級ファッション分野にさまざまな機会があります。現在の傾向が続けば、中期的には、認証中古車販売市場で多くのチャンスに恵まれるでしょう。この市場では、新世代の生活者が比較的安値で安全に高級車を購入することができます。ただし長期的には、生活者はいい意味で不完全な、この世に一つしかない製品を求めるため、個別化戦略に真の価値がありそうです。 

新たな顧客層の期待に応えるために

それぞれの機会領域で抜きん出るには、自動車メーカーは、次のような考え方を取り入れてはいかがでしょうか。

•新しい顧客層を引きつけるエクスペリエンス:今後はZ世代が高級車の最大の顧客層になり、 移動の未来に影響を及ぼすことが予想されます。したがって、自動車業界にとってはこの顧客層の変化に適切に対応し続けることが不可欠です。

•自動車の域を超えたビジネスモデル:これからの高級車に求められるのは、上質なシートや最新のドライビング機能だけではありません。先頃公開された frogのリポート「車の域を超えて(Beyond the Vehicle)」 では、自動車に関連するカスタマーエクスペリエンスを全体として捉え直すことの可能性を提示しています。

•戦略的パートナーシップ:高級車ブランドは戦略的パートナーシップを結ぶことで、信頼性を高めるとともに、新たな分野で実験的な試みをし、さまざまな異なるタイプの生活者にアピールすることができます。

•説得力のあるストーリー:それぞれの機会領域で、サステナビリティを重視した「高級」の新たな定義を十分に納得してもらえるように、配慮の行き届いた、顧客へのコミュニケーションを行う必要があります。 

顧客の期待に応え、さらにその期待を超えることは、決して簡単なことではありません。ターゲット層の本質を、その本当の要望やニーズを含めて把握することが不可欠です。それができて初めて、提供すべき製品やサービスを分析し、本当の意味で共感を得られる包括的なエクスペリエンスを構築することが可能になります。デザイン段階で高級感を優先すれば、新たな成長に向かうハイウエーをまっすぐ進むことができるのは間違いありません。

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生成AIの時代、ユーザー体験はアプリから自然言語へ生まれ変わる

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。
 
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いま、私たちは何をするにもアプリを利用します。ウェブサイトの検索や閲覧、調べもの、文書作成、読書、コミュニケーション、人脈づくり、クリエイティブな作業、そしてもちろん仕事でも。しかし、この便利さの裏には、“断片化した現実”が隠れていることをご存じでしょうか。今回は、従来のアプリ中心のデジタル体験が、生成AIの登場によってどう変化していくのか、その可能性と未来について考えます。

<目次>
単一用途のアプリが集まるデジタル世界からの脱却

リアルタイム・インタラクションの出現

自然言語中心のインタラクションを見据えたデザインへのシフト

自然言語中心のエクスペリエンスをデザインするための5つの原則

アプリ不要へのパラダイムシフト

単一用途のアプリが集まるデジタル世界からの脱却

現在の私たちのデジタル生活は、単一用途のアプリという孤島の集まりの中で暮らしているようなものです。一つ一つのアプリが独立していて、絶えずどれかのアプリの操作に集中していなければなりません。このためユーザーエクスペリエンス(UX)は途切れ途切れで、それぞれのサービスプロバイダーのエコシステムが壁となって、時代と共に変化する私たちの多様なニーズは後回しにされています。

現実には、アプリやウェブサイトの活用はやるべき仕事を効率的に終わらせるのに最適な方法とは限りません。特に、たびたびタスクを切り替える必要があり、精神的な負担の多い複雑な仕事には全く適しません。

例えば、飛行機を予約するためにコストを比較する場合を考えてみましょう。まず、あちこちのサイトやアプリを閲覧して、料金やルートを比較してから、これだと思う便のサイトに戻って予約しなければなりません。最新料金を比較できるサイトも存在しますが、まだまだ扱いにくく、スムーズなプロセスで予約まで完了できるレベルではありません。加えて、こうしたサイトは価格表示に透明性がないため信頼性に欠け、検索方法が複雑でナビゲーションしづらいという難点もあります。

それでも、変革が進んでいるのは事実で、アプリ中心から私たちが日常的に使っている自然言語中心のユーザー体験への大きな転換が起きつつあります。最近では生成AIという強力な武器によって、その流れがさらに加速しています。ユーザージャーニーが個々のプラットフォーム間の境界線を越え、ぶつ切れ状態でイライラさせられるアプリやサイトとのやりとりが、全体としてまとまりのある体験に変わろうとしているのです。

リアルタイム・インタラクションの出現

現代の消費者、特に1990年代以降に生まれたZ世代やアルファ世代は、先を予想できるリアルタイムの体験を望んでいます。こうした世代は、AIが目に見えないアシスタントとしてさまざまなタスクやサービスを切れ目なくまとめ、知識や解決策を瞬時に示してくれる未来を思い描いています。

この変革の模範的な例が、革新的なパーソナルAIアシスタント「Rabbit r1」です。Rabbit r1が採用している大規模アクションモデル(LAM)は、いわば「アプリのユニバーサルコントローラー」で、ユーザーの好みを学習するだけでなく、好みに沿ったアクションを実行します。ユーザーのニーズを予測し、各種のアプリからタスクを集めてシームレスにまとめてくれるのです。

例えば、週末の小旅行を計画するとしましょう。ユーザーの好みを学習したr1は、飛行機やホテルの手配からレストラン、レジャーの予約まですべてを管理し、切れ目のない体験を構築してくれるので、一つ一つのアプリを別々に操作する必要はありません。また、請求書の支払いを効率化するように学習させれば、電話番号を探したり、レスポンスの悪いオンラインフォームで問い合わせたりする必要もなくなります。

従来のアプリが立場を失いつつあることを示すAI活用事例は他にもあります。2024年の「モバイル・ワールド・コングレス」(世界最大のモバイル関連展示会)では、ドイツの通信会社Deutsche Telekomがアプリなしの携帯電話を発表しました。同社のティモテウス・ヘットゲス最高経営責任者(CEO)は、「今から5年から10年後には、誰もアプリを使わなくなるでしょう」と宣言しました。

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自然言語中心のインタラクションを見据えたデザインへのシフト

いま出現しつつあるこのような環境には、特有の課題と機会があります。自然言語中心への変革が進むということは、デジタルデバイスとやりとりする主な方法が、人間同士のやりとりとほぼ同じになるということです。一つのアクションを完了させるために複数のアプリを苦労して操作する必要はなくなります。チャットや音声認識で、何をしたいかをデバイスに伝えさえすればいいのです。

このパラダイムシフトによって、私たちが製品やサービスのデザインにアプローチする方法も根本的に変わり、自然言語使用のインタラクションが標準になります。企業の競争力がユーザーインターフェース(ユーザーがウェブ上のサービスやサイト、アプリなどを利用する際に触れる接点)だけでなく、サービス提供モデルによって決まる傾向がしだいに強くなるでしょう。

自然言語中心のエクスペリエンスをデザインするための5つの原則

ここで、この新しい時代のデザインの指針となる原則と、それぞれのユースケースをご紹介しましょう。

1.パラダイムとしてのプライバシー 

AIによるアクションが舞台裏で進むことを考えると、信頼を築くことが極めて重要になります。倫理的で透明性のあるAIにふさわしいデザインをし、ユーザーが自分のデータのプライバシーをコントロールできるようにする必要があります。AI革命の初期段階にある今の時点で信頼を築くためには、大規模言語モデル(LLM)やLAMからのデータや出力をユーザーが検証・修正できるようにすることが重要です。

2.スムーズな相互運用性

アプリ間の障壁を壊し、データやサービスをシームレスにやりとりできるようにする必要があります。例えば、予定表とフィットネストラッカーと音楽配信サービスを統合して、ユーザーのリアルタイムのニーズと好みに合わせてスケジュールとエクササイズ、プレイリストを調整してくれるAIアシスタントなどが考えられます。

3.順応性のあるエクスペリエンス   

未来のエクスペリエンスは、コンテキストアウェアネス(状況認識)によってユーザーのニーズに動的に対応できなければなりません。LAMを利用すれば、誰でも自分の望むエクスペリエンスを学習させることができます。例えば、忙しい一日を終えて帰ってきたときには、自動的に暗めの照明が点き、穏やかな音楽が流れるようにして、自宅を癒やしの空間に変えることも可能になるでしょう。

4.効率性と共感性のバランスをとる 

作業の効率性だけを求めるのではなく、ユーザーの気持ちに寄り添うデザインを大事にすることが不可欠です。例えば、ユーザーのそのときの気分や精神状態に合わせて、思いやりのある質問を投げかけたり、じっくり話を聞いてくれたり、対話を通じて内省を促してくれるなど、親身なパートナーとして寄り添ってくれるメンタルヘルスサービスが考えられます。

5.探究、センス、表現 

AIによる推奨やコンテンツ生成、体験の最適化が当たり前になる未来では、個人やブランドの表現の独自性を守ることが非常に重要になります。AIは効率化と統合が得意ですが、私たちは画一性とは距離を置いた空間を作り出さなければなりません。人々や企業には、探究して独自のセンスを養い、生き生きとした表現を構築する自由があってほしいと考えています。このような意図のあるデザイン戦略は、多様性を守り、AIが支援する環境における個人やブランドの表現の豊かさを支えるカギとなります。

アプリ不要へのパラダイムシフト

私たちは新しい製品やテクノロジーの先頭を走るだけでなく、パラダイムシフトの最前線にも立っています。新興のベンチャー企業も確立された企業も、そのことに気づき始めています。未来のユーザーは、思考や感情と同じくらい自然に流れていく体験を求めるでしょう。

自然言語中心への変革はもう始まっています。そのような時代にふさわしいデザインを実践する準備はできていますか?これからのデジタル環境をもっと直感的に使いやすく、ユーザーの思いに寄り添い、効率的で、私たちの人間としてのニーズに応えるものに作り変える旅へ共に踏み出しましょう

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AIとアルゴリズムの時代に「ストラテジックフォーサイト」をとらえ直す

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。
 
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ストラテジックフォーサイト(戦略的先見性)」とは、組織としての先見性のある見解を十分な情報に基づいて創出することをいいます。従来のストラテジックフォーサイトでは、変化のシグナルを見つけ、シナリオを立案して戦略を組み立てるうえで、分析や人間の直感、経験、創造力に頼っていました。この作業には、将来の開発に取り組むに当たって取りうるさまざまな立場や、世界に対する独自の視点が取り入れられています。現在は技術の進歩、特に人工知能(AI)の領域の進歩によって、各種の視点に新たな次元が加わっています。

AIの出現がもたらす新たなメリットは、人間の能力を拡張し、組織による未来思考へのアプローチを根本的に変革する可能性があることです。本記事では、AIを利用して未来思考を広げる3つの方法と、注意すべきポイントをお伝えします。

<目次>
AIの活用で、複雑なストラテジックフォーサイトのプロセスを効率化する

ストラテジックフォーサイトのプロセスにAIを活用する3つの方法(および避けるべきこと)

人間とAIの協働において重要なのは、適切なバランスを見つけること

 

AIの活用で、複雑なストラテジックフォーサイトのプロセスを効率化する

frogは先頃、AIを活用した未来インテリジェンスプラットフォームと提携し、先陣を切って大手インフラ事業者向けの革新的なストラテジックフォーサイトの取り組みを開始しました。この取り組みでは、AIの計算能力を活用して複合的な層をなすストラテジックフォーサイトのプロセスを効率化し、何千もの変化のシグナルを統合・分析して、変革をもたらすインサイトを明らかにしていきました。

このコラボレーションは大きな躍進となり、従来のシナリオ計画におけるプロセスをデータ主導型のダイナミックな方法に変革しました。この独自のアプローチにより、クライアントは将来起こる変化を予想するだけでなく、イノベーション戦略を新たなビジネス機会と整合させることが可能になりました。これが情報に基づく意思決定のための新しい業界基準となっていくでしょう。

基本的に、ストラテジックフォーサイトのプロセスには次の3つの段階があります。AIはすべての段階においてさまざまな作業に活用できるため、フォーサイトの取り組みの範囲を広げ、効率を大きく高めることができます。

1.シナリオ立案                                                                                            分析の土台作りをし、最後に対象とするテーマにかかわるさまざまな未来の可能性を見極めます。 

  • 変化のシグナルを読み取る
  • 主な変動要因間の因果関係を突き止める
  • AIを活用してシナリオを生成する
  • 生き生きとした語り口で未来のシナリオを描く
  • 未来を視覚的に表現した資料を作成する

2.シナリオ計画
シナリオ立案で描いた自社のビジネスが未来に及ぼす影響を判定し、それぞれの未来について柔軟な条件付き戦略を策定します。

  • シナリオの影響を査定し、シミュレーションする
  • 各種の戦略的対応のロバスト性(堅牢性)を評価する
  • それぞれの戦略的パス(道筋)の機会費用を検討する

3.シナリオモニタリング
条件が変化する中で、それぞれの戦略が常に妥当性を維持し、変化に対応できるように継続的に監視します。

  • 可能性のあるシナリオの早期の兆候を読み取る
  • センチメント分析(※1)を実施する
  • パターンの変化を追跡する
  • 対応の有効性を分析する

ストラテジックフォーサイトの取り組みを拡張しようとする場合、AIはその効果を大きく倍増させる力として働きます。何百万もの可能性をあっという間に処理し、見過ごされがちな変化のシグナルや、パターン、相関関係を見つけ出すことができます。

しかし、AIのメリットはその計算能力だけではありません。AIにセンチメント分析やクロスインパクト分析(※2)などの高度な解析ツールを適用するように学習させることで、生データを実用的なインテリジェンスに変換し、ストラテジックフォーサイト活動の幅を広げ、精度を高め、リードタイムを向上させることができます。

さらに、AIは「弱いシグナル」、つまり、まだほんのかすかであったり、頻度が低かったりして人間は気づかないものの、重大な変化の可能性を示す早期の兆候を見つけ出すのに役立つ場合があります。そういう兆候が見つかれば、変化への適応に向けていち早くスタートを切ることができます。組織としては願ってもないメリットです。

※1 センチメント分析:テキストデータや音声データをもとに人間の感情を分析する方法。
 
※2 クロスインパクト分析:特定の出来事の確率を予測し、さまざまな要因や変数が将来の意思決定にどのような影響を与えるかを予測するための分析手法。

ストラテジックフォーサイトのプロセスにAIを活用する3つの方法(および避けるべきこと)

1.前提を疑う
AIを活用すると、人間の判断を往々にして曇らせる認知バイアスを克服できます。AIは利用できるすべての情報を公平に扱うため、「確証バイアス」(既存の信念を肯定する情報を重視し過ぎる傾向)や「利用可能性バイアス」(簡単に思い出せる情報を重視する傾向)が生じる可能性を抑えることができます。AIシステムは多様な視点と客観的分析を取り入れることで、人間の判断に潜む先入観に影響されずに、十分な情報に基づく意思決定ができるように組織を支援します。

ただし、ここでの注意点は以下になります。
AIモデルの能力は学習したデータによって決まります。つまり、慎重に使えばバイアスを克服できるものの、逆にうっかり既存のバイアスを持続させたり、学習したデータに基づいて間違った推測をしたりする可能性もあるということです。ストラテジックフォーサイト活動の整合性を維持するには、意思決定だけでなく、AIの訓練、検証、モニタリングに関しても、人間が継続的に指導監督することが不可欠です。

2.創造性を高める
AIは、シナリオ立案のクリエイティブの支援に利用できます。AIは入力パラメータを体系的に変更することで、一見すると常識外れだとかあり得ないと思えても実は戦略的に重要かもしれないものも含めた可能性を、幅広く探ることができます。

またAIは、対象を絞ったプロンプトを使ってテキストを組み立て、相手に寄り添った語り口でシナリオを伝える上でも役に立ちます。シナリオ立案を終えた後は、何百とはいかないまでも何十種類ものシナリオの潜在的な影響や結果を予想し、それぞれのシナリオに伴う機会とリスクを生成することにも活用できます。さらに、さまざまな偶発的な出来事に備えるための戦略的な道筋を提案できるようにAIを訓練し、戦略的な計画立案をさらに強固なものにし、かつ迅速に進められるようにすることも可能です。

ここでの注意点は以下になります。
AIの現状の機能では、感情や共感、対人関係の複雑な相互作用を再現することや、私たちの世界観を形作っている根深い思い込みを読み解くことはまだできません。ストラテジックフォーサイトの取り組みを活性化し、戦略的なインサイトから実際的な計画を導き出すには、人間によるインプットだけでなく、既存のメンタルモデル(※3)を疑い、再定義できることが必要になります。

例えば、新しい戦略的方向性を採用することをチームに納得してもらうには、説得力のあるデータを見せるだけでは足りません。そのチームの懸念を理解する共感力や、変更のメリットをわかりやすく説明するコミュニケーションスキル、そして移行期間を通じてチームを導くリーダーシップが求められます。

ここで大事なのは、信頼を呼び起こし、共通の将来のビジョンを育てることです。AIは「何を」と「いつ」を提示することはできますが、「なぜ」と「どうやって」は人間のリーダーが提示しなければなりません。組織内の力学やステークホルダーの利益、感情の機微を理解した上で、データ主導型のインサイトにコンテキストや妥当性、緊急性の要素をプラスするのがリーダーの役割です。

※3メンタルモデル:誰もが無自覚に持っている固定観念や思い込みのこと。

 

3.パターンを見つける
AIボットは、フォーサイトのプロセス全体を通じて継続的にリアルタイムのインサイトを確保しながら、無数の研究論文や報道記事、SNSなどをあらかじめ定義された基準に従って検索し、大規模データの中から一定のパターンを見つけ出して、全体像を描き出していきます。絶えず学習を続け、性能を高め続けるAIは、時間とともに検索アルゴリズムを進化させ、パターンを見つけたり関連するシグナルを特定したりする能力を向上させていきます。AIを活用した水平スキャニングは、過去の実績から学んで将来の仕事の効率を高めていく、疲れを知らない優秀なスパイのような存在です。

ここでの注意点は以下になります。
パターンを見つけるだけでは不十分です。ストラテジックフォーサイトにAIを取り入れると、「ブラックボックス」、つまりAIの意思決定の中核にある不透明な部分と向き合わざるを得ません。AIが生成する出力の論理的根拠は常に明確なわけではなく、意思決定者に難題を突きつけます。合理的な説明ができることを目指すのは、学問の世界だけの話ではありません。AIの複雑なニューラルネットワークによって導き出された戦略的選択が、その結果に責任を負う人にとって理解でき、信頼でき、それに基づいて行動できるものかどうかを確認することが必要です。

人間とAIの協働において重要なのは、適切なバランスを見つけること

成功につながるストラテジックフォーサイトは、想像や考察と証拠や分析とのバランスがとれています。その根拠は、人間の経験は本質的に複雑で、多面的で、絶えず変化していくという考え方にあります。課題を導き出すプロセスは、人間が主導しなければなりません。AIシステムは分析と予測、情報提供はできますが、人間が持つ価値観や感情、社会的背景の機微を理解する力はありません。AIは進化していますし、私たちの生活のさまざまな面に影響を与えているとはいえ、 その技術を応用する際の課題を設定し、運用に当たっての倫理的限度を決めるのは人間の役目です。
 
社内での人間とAIの協働において適切なバランスをとるには、次のような運用原則が必要になります。

  • 文化を第一に考える:学びと新しい働き方への適応を優先することで、組織内の意識を正しい方向へ向けましょう。つまり、業務に適切なツールを配備し、多様な視点を取り入れ、変化に迅速に対応できるようにするということです。
  • インサイトを起点にする:大規模なデータセットからインサイトを抽出し、それを基に意思決定プロセスを進めましょう。データの解釈がうまくいけば、新たな展開を理解し、フォーサイトの方法論を応用することができます。
  • テクノロジーを活用する:複雑な情報を処理して解釈し、戦略的なフォーサイトと開発に活用できる技術インフラを構築(または利用できる体制を整備)しましょう。

frogでは、AIがもつ本質的な限界は人間とAIの協働の重要性を明確に示していると考えます。したがってクライアント向けの業務でAIを利用する際にも慎重を期しています。目指すのは、AIの計算能力と客観的分析を活用しながら、人間がコンテキストに応じた理解と倫理的な判断に寄与することで、シナジー(相乗作用)が生まれる関係です。この点は「厄介な問題」、例えば気候変動など、不確実性が高く、社会的、文化的な背景と深く絡み合った複雑で多面的な課題に取り組む場合に極めて重要となります。

AIはストラテジックフォーサイトを変革する可能性を秘めていますが、その実現に向かう道筋は、AIと人間がバランスのとれた形で連携し、それぞれの独自の強みでこのプロセスに貢献することにあります。AIの技術を人間の戦略的な洞察力にとって代わるものではなく、その拡張手段として取り入れ、明日の世界での成功への道筋がデータ駆動型であると同時に人間的でもあるようにすることが、当面の課題となるでしょう。

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圧力を進化の力に!重工業で求められる脱炭素化ツールとは?

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

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スマートエネルギーマネジメントシステムやリアルタイム排出モニタリングなど、脱炭素化におけるデジタル化の進展によって、企業の環境目標実現に向けた新たな可能性が広がっています。

重工業は現在、操業によって排出される温室効果ガス(以下CO2)の削減を求める強い圧力に直面しています。業界に広がる切迫感を原動力に、企業の脱炭素化を加速するさまざまな技術の開発と商用化が進んでいます。

カーボンニュートラルの実現を目指す取り組みの中で、デジタル化と脱炭素化の結びつきは今後、ますます高まっていくでしょう。どのようなテクノロジーも普及のために必要なのは使いやすさですが、脱炭素化ツールにおいても使いやすいデザインはきわめて重要です。なぜなら、各テクノロジーが企業の迅速な意思決定や低炭素化戦略の実践に活用されるかどうかは、その使いやすさにかかっているからです。今回は、多様な企業においてインテリジェント脱炭素化ツールの導入・普及につながるデザインとはどのようなものか、その特徴を探っていきます。

<目次>
重工業にとって、ネットゼロ化への道のりは複雑で険しい

ネットゼロへの移行に果たすテクノロジーの役割

テクノロジーの可能性を高めるデザインとは?

 

重工業にとって、ネットゼロ化への道のりは複雑で険しい
 

各方面からの強力な圧力が、脱炭素化に向けて断固たる行動を取ることを企業に要求しています。重工業も、政府、投資家、そして一般社会からのCO2 排出削減を求める圧力に直面しています。しかし、重工業分野の企業活動には、ゼロカーボン経済への移行を促進する側面と阻害する側面があり、こうした要請に応えることは難しい課題です。重工業企業にとってネットゼロ(CO2排出量正味ゼロ)化への道のりは複雑であり、各社の相当な努力と協調的な取り組みが必要となります。

重工業企業は、自社の生産能力を左右することになる自社施設の運用と設備投資に関する意思決定を慎重に行うことが求められています。また、検討している戦略が、業界の経済環境において重要な役割を担っているバリューチェーン上の企業にも影響を与える可能性があることを考慮する必要があります。以下に、重工業分野とその製造業者が果たすべきだとされている役割や責任を述べていきます。

重工業分野の役割

このセクターは、ゼロカーボン経済への移行に必要な重要資源を提供しており、持続可能な未来に向けての転換における中心的な役割を果たす存在です。

製造業者の責任

製造業者は、CO2排出量に関しては発電装置の製造という側面が注目されますが、「スコープ2」(※)、すなわち電気の使用による間接的なCO2排出量の削減に関しても責任を負っています。つまり、製造業はCO2排出およびソリューション提供の両方において重要な役割を担っているということです。


※スコープ2:温室効果ガス排出量算定・報告の国際基準である「GHGプロトコル」では、サプライチェーン排出量をスコープ1、スコープ2、スコープ3に分類。スコープ2は、他社から供給された電気、熱などを自社で使用する際に伴う間接排出のことを指す。
 

資本集約型の産業

重工業は資本集約型の産業であるだけでなく、鉄、プラスチック、エネルギーなどの生産、ひいてはより広い意味での経済全般に欠くことのできない産業です。これは、重工業が持続可能性の実現に重大な影響力を持っていることを意味します。カーボンニュートラルという目標を達成するには、重工業企業が業務のあり方を変えていく必要があります。つまり、サプライチェーン全体を含めた事業計画の立案、コミュニケーションや協働のあり方に関して新たなアプローチを取っていく必要があるということです。脱炭素化を求める圧力は今後も続いていくでしょう。企業は、変革への取り組みをこれ以上遅らせることはできません。

ネットゼロへの移行に果たすテクノロジーの役割

業務における脱炭素化という切迫したニーズを背景に、市場では企業の脱炭素化への取り組みを加速させるようなテクノロジーへの需要が高まっています。「フォーチュンビジネスインサイト」は、2023年に165億ドルであった世界のグリーンテクノロジーおよびサステナビリティ関連の市場規模が、2030年までに619億2000万ドルにまで成長すると予測しています。このところの気候変動関連テクノロジーの急速な成熟を見れば、デジタル化と脱炭素化が今後ますます相互促進的な関係を強めていくであろうことは明らかです。

デジタル化と脱炭素化の動きが結びつくことによって技術革新や投資のための環境が急速に成熟していく一方、脱炭素化目標達成に向けた取り組みにおけるデジタルツールの重要性に注目が集まっています。炭素捕獲技術といった下流分野の技術だけでなく、例えばCO2排出量管理ツールといった脱炭素戦略策定支援を目的としたさまざまなテクノロジーが1つのセグメントとして成長しつつあります。

事業計画策定におけるテクノロジーの重要性への理解が広がったことで、専用ソフトウエアのプロバイダー、機器メーカー、大手テクノロジー企業、コンサルティングファームなどの多様な主体が参画する、CO2排出量管理分野の競争的な市場が形成されてきています。

テクノロジーの可能性を高めるデザインとは?

競合がひしめき合うこの市場で、自社技術の大々的な採用を狙う企業にとって、技術の使いやすさは競争優位性となります。どのような技術であれ、使いやすいデザインは重要な要素ですが、脱炭素化ツールにおいては、主たる利用者がその企業全体の変革を推進し、脱炭素戦略を実践していけるかどうかを左右するきわめて重要な要素となります。以上を踏まえ、脱炭素化ツールにおけるデザインを見た場合、以下のような特徴があることがわかります。

行動につながるデザイン

データに基づく意思決定はきわめて重要です。したがって、意義ある行動を促進するようなデザインが求められます。データを現実世界でのインパクトにつなげ、ユーザーが十分に説明を受け納得した上で選択できるようにサポートするデザインが必要です。

変化するデザイン

私たちが生きているのは、規制や技術、環境が常に変化している世界です。デザインもやはり生きものであり、そういった世界とともに変化していきます。デザインは製品のライフサイクルを通して常に適切なものでなくてはなりません。モジュール性、柔軟性、カスタマイズ性を備え、規制、技術、環境の変化に合わせていく必要があります。

協働できるデザイン

私たち自身が変化をもたらす主体です。したがって、全員がそのテクノロジーを使えることが重要であり、業種、職階、職務が異なる多様なユーザーに合わせた使いやすさを確保する必要があります。一人一人のニーズを可視化し、より広い視点からの気づきにつなげることも必要です。

優先事項がわかるデザイン

「すべてが重要」というのは、「どれも重要でない」のと同じことです。今、基本的なデザイン原則であるヒエラルキー(優先順位をつけること)に注目が集まっています。気候変動に関するデータについては、その科学的価値を高め、それによって世界の現実を正確に示し、実践可能な変革の指針としていくことが必要です。

重要な情報があふれかえる現在、優先順位を決めることによって真に重要なものが明確に見えてくるようになります。どのようなアプローチであれ、重要な科学的知見に光を当て、人々の生活および地球環境へのインパクトを増大させ、変える意義のある領域をピンポイントで見いだすことが求められます。デザインに関しては、戦略的ヒエラルキーを考えることが引き続き、必須の原則だといえます。

以上、効果的なデザイン戦略を策定する際の指針となるデザイン原則として、行動につながるデータ、導入のしやすさ、包摂性、そして優先事項の絞り込みといったポイントを見てきました。持続可能な変革を進めていく準備はできましたか?frogは企業の環境負荷低減に向けた取り組みをこれからも支援していきます。

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顧客との「6分間」で、持続的な価値を創出するために

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コンタクトセンターで顧客と接する時間が継続するのは、平均で6分間。スタッフとプロセス、テクノロジーを効率的に編成して、その時間を特別なものにしましょう。

<目次>
コンタクトセンターにこそ、“特別な顧客体験”を提供するチャンスがある

顧客体験を台無しにする原因とは?

本来の目的と役割を見失うなかれ

顧客体験中心のコンタクトセンターをつくる3つのステップ

コンタクトセンター改革に投資するなら今

コンタクトセンターにこそ、“特別な顧客体験”を提供するチャンスがある

顧客からの問い合わせに対応するコンタクトセンターの存在は見過ごされがちですが、どのような組織においても、サービスと顧客体験の全体構造の中で極めて重要な要素の一つです。活気に満ちたこの一室こそ、スタッフ、プロセス、テクノロジーが一体となって顧客と一対一でつながることができる場所です。世の中の組織はこの「一対一で顧客とつながる」ために、マーケティング活動に何億円も費やしています。

従来、企業はコンタクトセンターをコスト重視、テクノロジー第一の短期的な視点で見ていました。しかし、このアプローチでは長期的な成果を生み出すことはできません。持続的な価値を実現しようとするなら、顧客と直接やりとりをしてサービスを提供するこの機会を最優先することがとても重要です。最終的に売り上げと最終損益の向上につながる顧客体験をつくり上げることを目指す必要があります。

今こそ、見返り重視、コスト重視の発想で考えるのはやめて、人間関係を最優先する考え方を養うときです。顧客に対して丁寧に接するのは当然ですが、それだけでは不十分です。最大限の総体的な価値をもたらす顧客体験を提供しなければなりません。目標は、最適な顧客体験と最適なコストのバランスをとることです。

この目標は、顧客の信頼を獲得し、コミュニケーションを取りやすくすることで達成できます。誰もが注目を集めようと競い合う現代の世界において、顧客体験は、多くの業界にとって企業が顧客に提供できる最後の差別化ポイントです。企業は、コンタクトセンターでの顧客接点を変革し、その名にふさわしい場所、つまり特別な体験の拠点にまで高めるのが賢明です。

顧客と接する時間は常に顧客を中心に考え、スタッフ、プロセス、テクノロジーを結集してシームレスなサービスを提供することで、最大限の総体的価値を実現しましょう。

顧客体験を台無しにする原因とは?

多くの顧客にとって、企業に問い合わせをしなくてはならないというのは気が重いものです。まるで迷路のような自動音声メニューをやっと抜けたと思ったら、生年月日や郵便番号などを入力させられ、何秒か後に出てきたオペレーターにまた同じことを聞かれるといった調子。

おそらくは「遅いシステム」のせいで、電話の向こうからわざとらしい謝罪の言葉が延々と繰り返されることも。そんな事態を避けようとチャットで問い合わせてみると、会話が途中で途切れたり、どちらにしても電話しなくてはならないことがわかったり……。顧客はうんざりする上に、誰にとってもいいことはありません。

皮肉なことに、純粋に短期的な「ギリギリ」のコスト最適化を追求すると、長期的なコストは高くなります。普段は穏やかな顧客が、絶望感のあまり怒りをあらわにするのも当然です。その怒りはSNSで発信され、オペレーターと二人だけの会話の場を何百万人もが声を上げる公的なものに変えてしまうでしょう。あるいは、さっさと他社に乗り換え、友人にもあの会社のサービスを利用するのはやめろと勧めるかもしれません。

これでは特別な体験が聞いてあきれます。顧客に収まることのない怒りを与え、やりとりが始まってから終わるまでの体験全体を台無しにしかねないポイントが、顧客対応プロセスのあちこちに潜んでいるということを、痛感させられる話です。

米調査会社フォレスターが発行する「ザ・フォレスター・ウェーブ™:顧客体験戦略コンサルティング業 2022年第4四半期」において、frogブランドの親会社キャップジェミニは、顧客体験戦略の「リーダー」に認定されました。(詳しくはこちら

サービスデザインの専門性と顧客体験デザインに関する詳細な知識を兼ね備えたfrogは、クライアントと連携しながら第一級のコンタクトセンター変革ソリューションを提供することができます。クライアントには、自社のビジョンと目標に応じた適切な機能を備えたサービスを構築できていると確信していただけるはずです。

本来の目的と役割を見失うなかれ 

平均的な顧客対応と役員による意思決定の間のギャップは大きいものです。アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が同社の役員30人が集まった会議の最中に、「アマゾンはすべての問い合わせ電話に1分以内に出る」という、あるリーダーの主張を検証するため、アマゾン・コンタクトセンターに電話をかけたというのは有名な話です。4分半が過ぎると、ベゾス氏は烈火のごとく怒ったそうです。 

経営陣による介入は変革への強い後押しになり得ますが、大抵の役員はむしろ、取締役会で問題が報告され、対応を求められることがないような体制を望むでしょう。コンタクトセンターの中心的な目的は、顧客に寄り添って信頼を醸成し、関係性を深め、良い印象を与えて喜んでもらう機会となる時間を創出することです。ところが現実には、プロセスの決定や従業員減少への対策、ベンダーとの交渉などの「舞台裏」を整える業務に日々追われ、役員の関心もそうした面に集中します。そんな中で、センターの本来の目的は忘れられがちです。

顧客とのやりとりは、後から手直しすることはできません。十分な情報とデータに基づいて、賢く設計しておくことが必要になります。一つ一つの意思決定が、その瞬間に影響します。顧客とやりとりする一つの機会が、顧客を引き留め、その体験を最適化しようとするブランド全体にとって極めて重要なタッチポイント(接点)となります。ほんのいくつか(たとえたった一つでも)不愉快なことが起きれば、収益が不意になりかねないのです。  

frogでは、コンタクトセンターでのやりとりを会話の機会と考えています。しかし現実には、こうしたサービスの機会は非効率だらけなのが現状です。では、どのような対策をとればいいのでしょうか?

顧客体験中心のコンタクトセンターをつくる3つのステップ

顧客の抱える問題を解決し、その体験をより良いものにすることを第一に考えるなら、企業は経費の優先順位と成長戦略を考え直し、コンタクトセンターを顧客が楽しめる場にしなければなりません。コンタクトセンターでの体験は、綿密に構築され、大切に考えられる必要があるのです。

企業は、顧客を妨害し、その体験を台無しにするポイントの根底に何があるのかを理解しなければなりません。ここで、コンタクトセンターの改革に乗り出す組織の皆さまのために、コンタクトセンター改革を進めるための3つのステップを紹介しましょう。これまではコストの検討が最優先され、顧客の不安はないがしろにされてきました。これからは、総体的価値の最大化が成功のカギとなります。

  1. サービス機会の構成を分析する
    まずは、望ましい結果を思い描きましょう。個々のサービス機会の構成を読み解き、典型的なやりとりはどのようなものかを把握します。その構成を検証して、効率と体験の価値がどちらも最大限に高まる最適な対応の仕方を見極めます。それを手引きとして参照しながら、スタッフ、プロセス、テクノロジーの配置を決めていきます。本当の意味で大切な瞬間を創出するチャンスを探しましょう。
     
  2. 「総体的価値」を最大化する
    ここでの「総体的価値」とは、企業側のコンタクトセンターへの投資を最大限に生かしながら、顧客と従業員双方の体験をより良いものにするサービスを指します。顧客は一人一人すべてが大切ですが、その顧客が持つ期待はセグメントごとに異なる場合があります。従業員には、自分が大切にされていて、適切な方法で顧客に対応する権限を与えられていると感じてもらう必要があります。従業員の体験は、顧客満足度と密接に関連しているのです。

    先行投資と、サービス単位および従業員一人当たりのコスト、そして顧客満足度のバランスを検証し、限られたリソースを、顧客サービスが最大限の効果を生むように配置しましょう。
     
  3. 体験の「ハブ」を構築する
    frogでは、コンタクトセンターを「体験ハブ」として再定義しようとしています。体験ハブとは、複数のチャネルを通じたすべてのサービス上のやりとりと顧客対応を管理する企業の中核拠点です。この体験ハブによって大規模な持続的変化が可能になり、周期的に上下するのが標準といえる「コンタクトセンターの投資利益率曲線」が、上向きに変化します。そのためには、サービス上のやりとりを一つ一つ検証した上で、顧客と従業員の体験を最優先に考えながら、テクノロジーを活用するとともに運営上の整合性のとれた顧客対応機会を構築することが必要になります。

コンタクトセンター改革に投資するなら今

例えば、コンタクトセンターを体験ハブに変容させ、組織全体に持続的な価値を創出し、誰にとっても特別な体験を実現するための機能の導入を考えてみませんか?frogは、クライアントの皆さまがこれを実現できるようにサポートします。 

目の肥えた顧客はサービスに対する期待が高く、卓越した顧客体験を求めることから、コンタクトセンターは改革戦略における重要な課題となっています。現在のビジネス環境においては、テクノロジーを活用した体験重視の機能への変革が、投資利益率の維持につながります。 

 私たちfrogは、エンジニアリングとテクノロジーに、市場に並ぶ者のいない 世界トップクラスのデザイン思考を組み合わせて、クライアントの皆さまを支援することができます。 

コンタクトセンター改革戦略の一環として、サービス変革とコスト削減、収益増加を実現したいとお考えであれば、ぜひfrogにお申し付けください。私たちにはその実績があります。frogは皆さまとともにテクノロジー活用と変革に取り組むビジネスパートナーとして、プロジェクト全体にわたってあらゆる領域の価値を実現します。顧客体験デザインに関する当社のサービスの詳細については、こちらのレポートをダウンロードしてご覧ください。

この記事はウェブマガジン「AXIS」にも掲載されています。

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インビジブルバンキング:“見えない金融サービス”で成功するために

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

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リゾートやゲームをシームレスかつスタイリッシュに楽しめるようにする、ウェアラブル決済とはどんなものでしょうか?

商品やサービスからどんな体験を得られるかということに対する消費者の期待は、近年ますます高まっています。消費者のロイヤルティを獲得するために、決済サービスをシームレスで「フリクションレス(摩擦がない)」なものにすることが当たり前になってきているだけではなく、社会的・文化的な面にもシームレスな決済を後押しする機運が高まっています。

frogは、世界有数の金融サービス企業であるJPモルガンと提携し、ウェアラブル決済デバイスの分野でビジネスチャンスの拡大を目指す企業に向けて、決済エコシステムのイノベーションに関するコンセプトを取りまとめました。

<目次>

カスタマージャーニーのあらゆる側面に組み込まれた「決済」行為

「アクセサリー」としての決済デバイスが新ジャンルに

なぜ“RGE”業界でウェアラブル決済デバイスが必要なのか?

ウェアラブル決済デバイスにおける3つのクリエイティブコンセプト

インビジブルバンキング革命の始まり

カスタマージャーニーのあらゆる側面に組み込まれた「決済」行為

消費者の期待の高まりに応えるように技術の進歩が加速する今、これまでの決済サービスの進化について振り返っておくのによい機会かもしれません。例えば、クレジットカードはここ数十年間で目覚ましい普及を見せました。しかし、カードという物理的な存在そのものは変化していません。

人々の関心は、クレジットカードによって何を手に入れられるのかということでした。そして最上位ランクのチタン製カードが登場し、さらに、カードはVIPなライフスタイルを実現するための鍵だと考えられる時代になっていきました。

frogは市場の成長を促し、消費者を中心に据えた変革をリードすべく、複数のパートナーとさまざまな取り組みを行っています。そのうちの1つ、JPモルガンとのコラボレーションで探究しているのが、今、徐々に広がりつつあるインビジブルバンキング(見えない金融サービス)による決済サービスです。

どの業界の企業でも、決済という行為を単なる取引という観点から捉えるのではなく、決済行為はカスタマージャーニーのあらゆる側面に組み込まれているという視点を持つことが必要とされてきています。

そのためには、現在、期待されている以上の決済サービスの可能性を示すような一連のテクノロジーや機能を駆使して、自動車からヘルスケアまで、さまざまな業界をカバーする大きなエコシステムを構想し、開発していくことが求められます。いずれ、すべての企業が自社の決済サービスを含むあらゆる金融サービスをシームレスに統合し、ユーザーが体験するすべてのプロセスをより「フリクションレス」にしていこうという流れが生まれるでしょう。しかし、インビジブルバンキングにおける成功を勝ち取るには、それだけでは十分ではありません。

「アクセサリー」としての決済デバイスが新ジャンルに

テクノロジーとファッションが融合する今の時代にふさわしい、新世代のデジタルバンキングがまもなく登場し、日々の暮らしの中に浸透していくでしょう。「アクセサリー」としての決済デバイスはすでにスマートデバイスの新ジャンルとなりつつあります。現在のスマートウオッチやスマートフォンでは応えることができていない(そして、これまでとはまったく異なる)多様なニーズに対応でき、かつ考え抜かれたデザインを持つ極めて高性能な指輪やブレスレット、ネックレスなどが誕生しています。

テクノロジーを駆使した、こうしたライフスタイルアクセサリーを複数の企業が共同で開発していくことも増えていくと思われます。この流れをリードするには、ユーザーエクスペリエンスのシンプル化と感覚的な魅力を両立させることで差別化を図っていくことが必要です。

現在進めているJPモルガンとのコラボレーションの一環として、frogはイノベーションを加速させ、新しい体験を引き出し、お客さまの想像力を刺激するようなウェアラブル決済デバイスのプロトタイプ開発を検討してきました。

最初のターゲットは、「今ここ」を楽しむことがぜいたくだと考えられている業界、すなわちリゾート、ゲーム、エンターテインメント(RGE)業界を想定しています。

なぜ“RGE”業界でウェアラブル決済デバイスが必要なのか?

RGE業界のサービスは、魔法にかかったような魅力を感じさせる物理的体験が中心です。しかし、外の世界と常につながった状態でいると(そして、時に邪魔をされると)、せっかくかかった魔法が薄らいでしまいます。

もしスマートフォンをポケットに入れたまま、あるいは部屋に置いたままでも、RGEのあらゆるサービスや体験にアクセスできるとしたらどうでしょう? その瞬間を生きるための面倒なあれこれが減り、RGEの世界をリアルタイムで楽しむことができるようになるとしたらどうでしょう?

リゾートにおけるカスタマージャーニーは、コンシェルジュによるチェックイン手続きやゲストエンゲージメントに始まり、デジタルIDの確認、客室への入室、イベントへの参加、そしてもちろんショッピングやスパに至るまで、あらゆる場面で「フリクション」をなくすためのデジタル化が進んでいます。

カジノを持つ多くの施設では、カジノを楽しむゲストの間のバリアをなくすべく、カジノフロアのキャッシュレス化を猛スピードで進めています。

frogとJPモルガンが開発を目指すウェアラブルデバイスのコンセプトモデルは「U-Ring」と呼ばれる、目立ちすぎないレジン(樹脂)製のデジタルウォレットです。これは、JPモルガンのクライアントとなるRGE企業が、物理的な世界とデジタルな世界を完璧に融合させ、差別化を図れるアイテムとしてデザインされました。各社のエコシステムのさまざまな場面で、ブランドロイヤルティの向上につながるようなカスタマーエクスペリエンスを簡単に提供できるようにしたのです。

frogチームは、ウェアラブルデバイスのポイントを次のように考えていました。

  • ユーザーの実際の体験と、それにまつわる自己表現と喜びの時間までを含めた総合的な体験として提供できるものでなければならない
  • この分野でこれまでに見たことのないようなものでなければならない

U-Ringは、キーカードよりも、スーパーアプリよりも、クレジットカードよりも優れた、特別な価値と優雅な気品を提供するオールインワンのウェアラブルデバイスです。

ウェアラブル決済デバイスにおける3つのクリエイティブコンセプト

frogとJPモルガンは、ウェアラブルデバイスとインビジブルバンキングの深い知見を生かし、ウェアラブル決済デバイスのクリエイティブコンセプトを3つのポイントにまとめました。

やや抽象的なこれらのコンセプトは、金融サービス、エンターテインメント、ファッションなどさまざまな業界の企業にとって、来るべき激的な変化を迎えるうえでのインスピレーションとなりうると思われます。

1.デザインは人の感情に従う

このコンセプトは、frog創業時の「デザインは機能に従う」というキャッチフレーズを思い起こさせます。しかし、もうこのフレーズは忘れてください。frog創業者であるHartmut EsslingerとSteve Jobsはともに仕事をしていく中で、イノベーションとは、機能面が大きく変わることではなく、製品やサービス、そしてそれらにまつわるエクスペリエンスに対して消費者が抱える感情が大きく変わることだという考えを共有するようになりました。

デジタルウォレットを物理的に形にした、美しいデザインのウェアラブルデバイスは、ユーザーに形あるモノとつながる安心感を与えてくれます。ウォール街よりもミラノに似合う、さりげなくも魅力的なこのアクセサリーには、近距離無線通信(NFC)、指紋認証リーダー、キャッシュレス決済技術(JPモルガンが出資するSightlineなどのプロバイダーによる)が組み込まれており、リゾート滞在中の直接的かつ安全な支払いを可能にしました。それは、ユーザーが普段から行っている行為でありながら、まったく新しい決済体験をもたらすことができます。

2.体験のためのソリューション

各業界の企業は、次世代テクノロジーを駆使して、消費者の感情的なニーズを満たしながらも利益を追求できるサービスを、より多様な体験の中に組み込んでいくことが求められます。

「今ここ」を楽しむことがぜいたくの新しい形であることを示す文化的指標があります。消費者は常に(インターネットと)接続した状態に置かれ、常に何かを気にせざるを得ず、あらゆる場面で否応なしに自分のステータスを知らされます。

人々はリゾート滞在中にハイエンドな体験を期待し、時間もお金もエネルギーも惜しみなく投入します。リゾート運営者は、ユーザーにそれまでとは違う行動を起こさせるような新鮮で予想を超える体験を創造し、より大きく、より追跡可能なベネフィットを提供する努力が必要でしょう。それが最終的に他社との差別化につながり、ゲストにリピーターとなって、周りの人に薦めてくれるようになるのです。

3.変化を予測し、それに対応する

パートナーと共同でイノベーションを進めていくことは、未知のニーズや機会が眠っている分野を見つけ出し、業界を変えてしまうような大きな変化を起こしていくための共通のビジョンと勇気を与えてくれます。

複数の企業が持つそれぞれの強みを組み合わせることで、困難への対処、戦略的な規模の拡大、そして競合を含めた業界の多くの企業への普及につなげていくことができます。

現在、広がりつつある「今ここ」を重視するRGE文化のさまざまな側面に、すでに消費者が享受しているコネクテッドなライフスタイルの恩恵を同じように受けたいという欲求が潜んでいます。

消費者の行動を変え、莫大(ばくだい)な事業価値を生み出す新技術が登場した時の常として、まずは新しいものを積極的に取り入れるアーリーアダプターたちが、カジノで高額を賭けるVIPプレーヤーのような、大きな影響力を持つ小規模なセグメントのニーズに応える必要があります。彼らが、新技術が広く市場に普及するまでに越えなければならない障害(いわゆる「キャズム(溝)」)を乗り越えることで、広く一般に普及していく道筋が開かれていくのです。

インビジブルバンキング革命の始まり

RGE業界は、インビジブルバンキング革命の影響を受ける数多くの業界の中のごく一部にすぎません。新しいテクノロジーが一部の勇敢な企業に取り入れられ始めており、現在、上記のようなクリエイティブコンセプトを、ヘルスケア、建設、バーチャルグッズ業界などを含むより広い範囲で応用していくことが検討されています。

frogとJPモルガンは、これらのウェアラブルデバイスが切り開く新たなフロンティアの可能性を探り、B2B2Cイノベーションのリーダーとして存在感を高め、より多くのパートナーと協力して決済サービスの未来を築いていくべく取り組みを行っています。

この記事はウェブマガジン「AXIS」にも掲載されています

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