【レポート】8つのポイントから読み解く、「ジャパンブランド」の現在地

ジャパンブランド調査は2011年にスタートし、訪日観光や食分野、日本産品、コンテンツ、価値観などジャパンブランド全般に関する海外生活者の意識と実態を定期的に把握する、電通独自のナレッジ基盤事業です。

14年目を迎える本調査は、対象エリアや調査項目を時代の流れに合わせて進化させ続けています。データドリブンや多様化・複雑化が進む企業活動に寄与するだけでなく、日本社会に向けた知見の発信を継続しています。

2024年は15カ国・地域(アメリカ・オーストラリア・イギリス・ドイツ・フランス・インド・アラブ首長国連邦・インドネシア・シンガポール・タイ・ベトナム・中国本土・香港・台湾・韓国)を対象に大規模調査を実施しました(調査概要はこちら)。

マーケティング分野の従事者としても、いち生活者としても、異文化理解におけるささやかな貢献を、メンバー一同で積み重ねていきたいと心から願っています。

<目次>
はじめに
Point 01:期待
Point 02:契機
Point 03:関心
Point 04:地方
Point 05:障害
Point 06:和食
Point 07:魅力
Point 08:就労
おわりに

はじめに

これまでは、欧米諸国が国力や人気度を測る各種のランキングの上位を独占する結果となっていました。そんな中、日本は押しも押されもせぬ存在として、魅力的な国ランキングの常連となった数少ないアジアの国です。日本政府観光局(JNTO)の直近の統計によると、2024年の訪日外国人は、3月~6月で、4カ月連続で300万人を超えました。また、過去最高の来訪者数を記録した2019年同月を9カ月連続で上回り続けています(※:2023年11月と2024年1月は2019年同期比でほぼ同数)。【図表0】

日本政府観光局(JNTO)資料
本連載では、こうしたマクロ視点から見た日本の人気を最新のジャパンブランド調査をベースに、電通ならではの複眼的思考を掛け合わせながら、読み解いていきます。そして、人気現象の深層に隠された課題や、ポテンシャルの拡張につながるヒントを探ります。

連載の第1回は8つのポイントから最新調査の重点項目を紹介し、ジャパンブランドの現在地をつかんでいただければ幸いです。

Point 01:期待

パンデミック後の海外旅行経験者(2023年中)を対象に、旅行先の再訪意向を調べたところ、日本が1位を獲得しました。それも、2位のシンガポールと3位のアメリカを20pt近く上回っています。【図表1】

これを国単位ではなくリージョン単位で見てみると、東アジアと東南アジアはともに再訪意向の首位が日本です。東アジア2位の香港(13.1%)との差は45.2pt、東南アジア2位のシンガポール(28.7%)との差は23.8ptと、次点と大差をつけた形になりました。

一方で欧州と北米ではやや順位を落とし、欧州では10位(1位はスペイン)、北米では2位(1位はイギリス)となりました。つまり、観光先としての日本人気は、圧倒的にアジアに支えられていることが分かります。【図表2】

旅行先の再訪意向

再訪意向・リージョン別

魅力的な旅行先として認知されている日本に対して、海外生活者が最も期待していることは、以下の5つでした。

①多彩な食
②他国と異なる独自の文化
③他国にない自然景観
④現代と伝統の共存
⑤他国にない清潔感

リージョン別の特徴としては、東アジアと東南アジアは共通して「多様な食」、東アジアは「安心感」「物欲を満たすこと」、東南アジアは「他国にない自然景観」への期待値が突出して高いです。

一方で欧米豪は「他国と異なる独自の文化」に比較的関心が高く、中東では「他国にない自然景観」に加えて「ホスピタリティ」「クリエーティビティ」「インスピレーション」にも期待する傾向にあります。【図表3】

訪日観光に期待していること

Point 02:契機

歴史的な円安がインバウンドの盛況をもたらした主因と思われがちですが、各リージョンとも、最大の訪日きっかけは「以前の訪日体験」にあり、過去の良き体験が確実に再訪の機会を生み出しています。

この調査結果は、パンデミック以前の訪日観光が外国人にもたらした体験がいかに満足度の高いものだったかを、改めて気づかせてくれました。見方を変えれば、この満足度を維持するには今後どういうアプローチを試みるべきかを、行政と民間の双方から考える必要に迫られているともいえます。

次に、最大の送客元である東アジア市場と、来訪者数の増加幅が比較的大きい欧米豪市場を比較したところ、訪日きっかけの2位以降は大きく異なることが分かりました。東アジアでは「円安」が重要なきっかけとなっているのに対し、欧米豪ではOTA(Online Travel Agent)の影響度合いが大きいと推察されます。

また、リージョン共通の結果として、「日本製品」や「日本料理」といった、生活の中で触れる機会のあったものも、確実に背中を押してくれる重要なきっかけと言えます。つまり、広義的に現地で展開されているジャパンブランドはインバウンド促進に寄与しており、両者は表裏一体であると捉えることができます。【図表4-A、4-B】

訪日のキッカケ
訪日外客数の増減と構成比

Point 03:関心

本調査でもっとも重要視している項目のひとつが、「関心のある訪日体験」です。

日本に行ってやりたいと思うこと、行きたいと思うところ、買いたいと思うものとは何かを定期的に観察することで、変わるものと変わらぬもの、感覚値と一致するものと違和感を覚えるものなど、さまざまな傾向が見えてきたり、各種の示唆を得ることができます。

まずは自然・文化カテゴリーについて。四季の体感や自然観光、日本庭園、世界遺産巡りは共通して関心度が高い項目です。

農泊体験に最も関心を示したのが東南アジア。公園関連の選択率が高いのは欧米豪で、東アジアとは対照的であることが明らかです。農泊体験への興味関心は東南アジアが群を抜いて高く、東アジアと欧米豪とはおよそ倍以上の差があります。

また、訪日観光の定番アクティビティであるテーマパーク、温泉体験、着物や茶道、お祭りといった伝統文化の体験に関しては、東アジアと欧米の違いが顕著に見られました。【図表5-A】

次に買物・飲食・宿泊・交通カテゴリーについて。日本ブランドの食品と和食関連は共通して関心の高い項目です。和食は地域を問わず体験意向の上位を占めており、その人気は疑う余地がありません。また、日本ブランドの化粧品に関しては引き続きアジアが有力なターゲットと思われます。OTC医薬品(処方箋がなくても購入できる医薬品)には東アジアの生活者から支持が集まっていることが一目瞭然です。

消費額の中で大きな割合を占める宿泊においては、温泉旅館への関心で地域差が大きいことが見てとれます。交通手段に関しては、都市交通(電車、地下鉄、バス)と新幹線の利用意向が高い結果となりました。【図表5-B】

関心のある訪日体験関心のある訪日体験

さて、ここまで訪日体験への興味関心を一通り見てきましたが、消費単価の引き上げ(着地消費の増加)をめざす昨今においては、「日本滞在中にお金を払って体験・利用したいもの」の見える化も重点課題と考えられます。

そこで本レポートでは、観光に欠かせない30個近くの有料体験項目を、国・地域別のランキング形式で可視化しました。食や温泉などの定番コンテンツはもちろんのこと、「日本のコンビニ食品」「日本製の伝統工芸品」「農泊体験」「新幹線の利用」も、消費金額の増加に寄与する優良コンテンツになりうると推察します。

また、国・地域別に見ると、リピート率が高い韓国・香港・台湾では、居酒屋が上位にランクインしており、よりディープで日本らしさを感じる体験を求める傾向が見られました。【図表6-A、6-B】

お金を払って、体験・利用したいものお金を払って体験・利用したいもの

Point 04:地方

地方送客は地域活性化だけでなく、都市部のオーバーツーリズムの抑制にもつながると考えられます。各地方が持っている観光資源の磨き上げとともに、どの程度認知されているかといった現状認識も定期的に把握しておく必要があります。ジャパンブランド調査では、ゼロ次分析に資する各都道府県の認知・訪問経験・訪問意向を定期的に聴取しており、その動向変化にいち早く注視してきました。

最新データではリージョンを問わず、3指標とも「東京」が次点以下を大きく引き離し、圧倒的な存在感を示しています。リージョン別に見た場合、いずれの指標においても、アジアと欧米豪は明らかに異なるフェーズにあることが分かります。【図表7-A】

都道府県の認知・訪問経験・訪問意向

一方、比較的知られている広島、長崎、福島、福岡、沖縄、千葉以外の県に関しては、共通して認知不足という根本的な課題があります。こうした二極化現象は今に始まったことでは決してありません。本調査の過去実施分にさかのぼったところ、おおむね同様の傾向が見られました。認知度の上位5位は変わらず、東京、大阪、京都、北海道、広島の5カ所でした。【図表7-B】

都道府県の認知・経年比較

さらに、国別の状況もチェックしてみましょう。アジアの最大送客元「韓国」と欧米の最大送客元「アメリカ」を比較すると、韓国ではいわゆる“ゴールデンルート”や九州地方の認知が高いのに対し、アメリカでは東京が圧倒的であり、東京以外を大きく上回ります。また、いずれの国においても、訪問意向は認知と相関しており、知られていない大半の県は訪問意向も低いままでした。【図表7-C】

都道府県の認知と訪問意向

知られていても必ずしも訪れたい気持ちが高まるとは限りませんが、知られていなければ選択肢に入ることはまずありえません。各市町村にはそれぞれのありたき姿と独自アセットがあり、自治体によっては狙いたいターゲットが大きく異なることもよくあります。To be(理想像)とAs is(現状)を照らし合わせたとき、ギャップは必ず存在します。どこの国から地方へ誘致したいか、どこの国から地方へ誘致すべきか、理想と現実の狭間で冷静な分析と熱意ある決断が問われるのではないでしょうか。

Point 05:障害

地方誘客にあたって把握しておきたいもうひとつの要素は、地方観光の障害要因です。本調査では、あえて一部仮説を立てながら障害要因を調べたところ、①言語問題、②情報不足が海外生活者にとっての2大課題であることが明らかになりました。

最大の障害要因は圧倒的に言語であることが下記ヒートマップ(色が濃いほどスコアが高い)から見て取れます。とりわけ訪日経験のないポテンシャル層は、その傾向がより一層顕著になるのです。

2番目の障害要因は、さまざまなレイヤーにおける情報不足です。知名度の高い都市以外の地方観光地をそもそも知らなかったり、それを知るための情報源が不足しているという課題が横たわっています。さらに、地方にたどり着くための二次交通にまつわる情報不足も課題です。接続交通(電車・バス・レンタカーなど)や補助交通(ライドシェアなど)といった手段自体よりも、日本の道路事情や交通ルールをそもそも理解していないことの障害度合いがより高いと推察します。【図表8】

地方観光の障害要因

地方観光に関連した話の余談として、昨今問題化しているオーバーツーリズムについても少し触れます。日本に限った話ではなく、世界の有名観光地はほぼ同じく、オーバーツーリズムの問題に悩まされています。

現在は、パンデミックによるリセットを機に、大小さまざまな解決策に乗り出しています。観光客の体験、地域住民の生活の質、社会インフラや自然環境への負荷が、世界的に見直され始めているのです。観光地ごとに、最優先すべき事項とは何かの難しい判断を迫られます。そして共通して言えるのは、最適解となる解決策はどこもまだ見つけていない、ということです。

Point 06:和食

今年度から、日本食の浸透度合いを測る指標のひとつとして、シチュエーション別の日本料理の喫食頻度を調査項目として導入しました。

外食と中食に関しては、月に1度以上の日本食の喫食率はアジアが7割台、欧米豪が6割未満。内食は、アジアが7割未満、欧米豪が6割未満となっています。

アジアでは外食と中食は喫食率が内食より1割高くなっているのに対し、欧米豪ではその割合がほとんど変化していません。外食文化が発達しているアジアの食事情を表しているかもしれません。【図表9】

※喫食シチュエーションの定義について
  • 中食(調理済み食品の購入や、弁当・惣菜等のテイクアウト、デリバリー等、家庭外で調理された食品を家庭や職場に持ち帰って食べる)
  • 内食(家で調理して食べる)
日本料理の喫食頻度

次に、訪日経験者を対象に、日本滞在中に食べた料理と帰国後にまた食べたいと思う料理を調べました。品目自体にそれほど大差は見られませんでしたが、日本滞在中も帰国後もほぼ首位を占めるのがラーメンです。

また、滞在中・帰国後のいずれにおいても、選択率の上位20位に、「日本風カレー」がランクインしており、日本の国民食であるカレーの海外ポテンシャルの大きさがうかがえます。【図表10】

日本料理の喫食経験

食は地域差の大きいカテゴリーであり、リージョン別に見た場合、いくつかの発見がありました。たとえば、から揚げ、焼肉、ラーメン、てんぷら、うどん、刺身などの品目においては、地域間の差が大きいことが明らかに。から揚げは中東と欧米豪では首位であるのに対し、東アジアではそれほど関心が高いとは言えず、25位でした。【図表11】

喫食意向(帰国後)

また、各リージョンの上位から見た食の傾向には示唆に富んだものがあります。アジアと欧米豪で共通して関心の高い品目は、ラーメン、刺身、てんぷら、とんかつ、うどん。

他の地域に比べて和食レストランが多く(※)、相対的に日本食を気軽に楽しめる東アジアにおいては、帰国後にまた食べてみたいと思う料理の幅が広いです。

一方で、他のリージョンと傾向が大きく異なるのは中東です。今後、高付加価値旅行者層として注目が集まっている中東エリアの食嗜好の学習が、観光地の飲食店ではますます求められるでしょう。【図表12】

※農林水産省輸出・国際局輸出企画課「海外における日本食レストラン数の調査結果(令和5年)」をもとに計算すると、東アジアの和食レストランの合計が全世界総数の約57%を占めます。【図表X】
海外の日本食レストラン
喫食意向帰国後 リージョン別

Point 07:魅力

昨年度のジャパンブランド調査2023では、4つの意向(居住・就労・留学・旅行)から日本の総合力を探りました。その際は、アジアから見た日本は「非常に素晴らしい(Excellent)」、欧米から見た日本は「素晴らしい(Good)」という結果で、好感度には温度差があることが明らかになりました。

そして今年度のジャパンブランド調査では、新たな切り口を加えることで4カ国(シンガポール、韓国、アメリカ、イギリス)との相対比較を試みることにしました。

東アジアからの評価では5軸(居住意向・就労意向・留学意向・旅行意向・ビジネスパートナーとしての意向)とも英米とシンガポールが拮抗(きっこう)しており、日本に比べてシンガポールの方が優勢です。東南アジアからの評価では、韓国以外、各国とも拮抗している状況です。居住先とビジネスパートナーとして見たとき、日本はシンガポールとほぼ同水準にあります。

欧米豪はアジアとの違いがはっきりしており、米英への各種意向はほとんど差がなく、同一文化圏ならではの特徴がうかがえます。日本はいずれの指標においても中間に位置し、シンガポールと韓国よりやや優勢と言えます。【図表13】

総合魅力度(5つの意向軸)

Point 08:就労

人材争奪戦をはじめ国家間競争が激しさを増すと同時に、さまざまな業界において慢性的な人手不足の問題が顕在化してきています。女性活躍と高齢者再雇用に加え、外国人材の活用も期待されている分野です。現在、特別高度人材制度(J-Skip)や育成就労制度といった外国人向けの各種政策が施行されています。本調査では、日本での就労意向に加え、それぞれの理由についても分析を行いました。

【日本で働きたくない層】
日本で働きたいとは思わない主な理由としては、「自国で働くことに満足している」「日本語ができず、意思疎通に大きな不安がある」がまず挙げられます。この2項目のスコアが3位以下を大きく引き離しています。

次に、リージョン別で見た場合、欧米豪では自国で働くことに不満が見られないことが、アジアでは日本語への不安が目立ちます。また、日本の景気への期待が最も低いのが東アジアです。【図表14-A】

日本での就労

【日本で働きたい層】
全体傾向としては、「クオリティ・オブ・ライフの向上」「治安のよさ」「給料」「今後の日本の景気や市場への期待」「日本企業の魅力や可能性」が上位を占めます。

リージョン別で見ると、「クオリティ・オブ・ライフの向上」が共通して最大の理由となっています。日本の生活の質の高さが広く認知されていることの表れだと考えられます。

3リージョンの中、「給与面」「治安の良さ」に満足しているのが東南アジアで、「利便性・暮らしやすさ」と「日本企業の魅力と可能性」が就労意向を後押ししてくれたのが東アジアです。欧米豪では、「日本に対する期待感」「異文化理解に自信がある」が上位にランクイン。また、地域間のバラつきが大きい項目として、給料、人材育成制度などが挙げられます。【図表14-B】

日本での就労

この結果に考えを巡らせると、国力や魅力度を反映したいくつかのランキングにおいて上位を占める欧米諸国はいわゆるクオリティ・オブ・ライフも高い国ばかりです。こうした国からの人材誘致は元々難易度が高く、そこに言語問題が加わると、獲得できる人材プールが一気に小さくなることは想像にたやすいでしょう。

一方でアジアに関しては、東南アジアにおける日本人気は間違いないものの、日本と同じくクオリティ・オブ・ライフが高く、かつ英語が通じる国々と比較される際、ストレートに日本の優位性がどこにあるかがシビアに問われます。前述の就労意向ですでに明らかになったように、米英のみならず、シンガポールも有力な競争相手になります。

環境変化が確実に進む中、日本らしさ、日本的なこだわりを維持しつつも、国力になる人材に振り向いてもらうには何を整備すべきか、という本質的な議論を避けては通れないと考えます。

おわりに

最後に本レポートを、2つのキーワードで締めくくりたいと思います。

1つめは、アメリカの社会学者のロバート・キング・マートンが約55年前に提唱した「マタイ効果」です。

国家も組織も、都会も地方も、観光も就労も、知られているところや優れたところにはリソースがより一層集まり、集まったリソースでさらなる高みへの進化が可能になります。その反対は衰退の一途をたどり、元々持っているリソースまで廃れていく恐れがあると考えられます。

さまざまな現実を突きつけられる言葉であり、実に正鵠(せいこく)を射た普遍的な指摘であるように思えます。

2つめは「イドラ」です。イドラはラテン語の偶像、幻影を意味する言葉です。人間には主に4タイプのバイアスがあると言われています。イギリス16世紀最大の知識人フランシス・ベーコンの「4つのイドラ論」によれば、

①種族のイドラ(錯覚)
②洞窟のイドラ(環境や個人の体験からくる思い込み)
③市場のイドラ(職場やネットでのうわさ話、陰謀論)
④劇場のイドラ(権威への妄信)

これらがわれわれの社会生活を悩ませる主な思い込みと偏見です。

異文化理解に限らず、同質性の強い社会においても、上記のイドラ論から逃れることはできません。そして、あらゆる市場調査やデータ分析に関しても同様のことが言えます。

仕事と生活のさまざまな場面において、完全排除できないバイアスがあることを前提に、日本らしさとは何か、持続可能な繁栄とは何か、グローバルや異文化と向き合うときに何が必要なのかをぜひ考えていただきたいです。


※1:本記事における対象国・地域の名称表記は日本国内の読者を想定対象とし、日本の社会通念やビジネス慣習に沿ったものになります。
 
※2:本調査における構成比は小数点以下第2位(一部整数表示の場合は小数点以下第1位)を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。
 
※3:本調査で使用した地図(世界地図および日本地図)は分析内容やページのレイアウトに合わせて一部修正・加工・トリミングを行っており、必ずしも国境線および国土範囲を正確に反映したものとは限りません。
 
※4:図表作成時、紙幅またはレイアウトの都合上、国・地域名はISO 3166-1 alpha-3を使用しています。


【本件に関するお問い合わせ先】
電通ジャパンブランド調査プロジェクトチーム
japanbrand@dentsu.co.jp

【電通ジャパンブランド調査とは】
2011年、東日本大震災で日本の農水産物や訪日旅行に風評被害が発生した際に、ジャパンブランドが世界でどのように評価されたかを把握するために始まった電通の独自調査。2022年に調査設計とアウトプットを大きくリニューアルし、全社横断プロジェクト活動へと進化。
訪日観光や食分野、日本産品、コンテンツ、価値観などジャパンブランド全般に関する海外生活者の意識と実態を定期的に把握。変わりゆく生活者の気持ちとジャパンブランドの課題を可視化し、複雑化が進む企業活動に寄与するとともに、日本社会における異文化理解の促進にも貢献する。

【電通ジャパンブランド調査2024概要】
・対象エリア:15カ国・地域(アメリカ・オーストラリア・イギリス・ドイツ・フランス・インド・アラブ首長国連邦・インドネシア・シンガポール・タイ・ベトナム・中国本土・香港・台湾・韓国)
・対象者条件:20~59歳の男女(中間所得層以上)
・サンプル数:7460(内訳:アメリカ960、インド900、中国本土800、その他の国・地域 各400)
・調査手法:インターネット調査
・調査期間:2024年1月19日~3月26日
・調査機関:株式会社ビデオリサーチ

※5:中国本土の対象エリアは上海・北京、インドの対象エリアはデリー・ムンバイ・ベンガルールに限定。
 
※6:中間所得者層の定義:OECD統計などによる各国平均所得額、および社会階層区分(SEC)をもとに各国ごとに条件を設定。
 
※7:各国・地域とも性年代別に均等割付で標本収集し、人口構成比に合わせてウエイトバック集計を実施。
 
X

つながりとファクトから読み解く食の意義と日本の食

海外で暮らす外国人中高所得者層向けの電通独自調査「ジャパンブランド調査」(概要はこちら)の最新データを見ながら、ジャパンブランド(訪日観光・日本の食・日本製品など)の現状と、今後の日本のポテンシャルを探る本連載。今回のテーマは「食」です。

<目次>
想像を超える食と知のつながり

ユーラシア大陸の東端の沖合へ

日本料理と日本食材の世界商品

うま味の理解は三者三様

食には、周辺領域とのペアリングとストーリーテリングが必須要件


想像を超える食と知のつながり

一日三食。そんな当たり前のように習慣化されている食には、いくつもの知られざる壮大な物語が眠っています。2400余年前、古代中国で諸子百家が誕生した背景は、「食客」の存在を抜きにして語ることはできません。食客とは各地の権力者の邸宅に居候する人たちのことです。食客三千という四字熟語があるように、有力者たちはおのおのが抱えている食客の数を競い合い、衣食住を保証する代わりに、いざという時のブレーンまたは助っ人になることを期待すると伝えられています。今日的に解釈すると、多様性あふれるインクルーシブなジョブ型組織のように思えます。

「衣食足りて礼節を知る」という言葉が表しているように、生存の前提となる食料が足りてからはじめておのおのの内面や才能に向き合い、思う存分に開花させることが可能になります。こうした知の開花は中国のみならず、インドや、ペルシャをはじめとした古代オリエント、ギリシャでもほぼ同時期に起こりました。紀元前8世紀から前3世紀頃にかけて、インドでは仏教の創始者ガウタマ・シッダールタが生まれ、ペルシャではザラスシュトラが創設した世界最古の一神教といわれるゾロアスター教(拝火教)が広く普及され、後にユダヤ教やキリスト教やイスラム教などに影響を与えたと考えられています。そして、今日の西洋文明の礎(いしずえ)を築いた古代ギリシャでは、哲学の揺るぎない基盤を構築した三大哲学者(ソクラテス・プラトン・アリストテレス)を筆頭に、地中海文明からも知の巨人が多数輩出されました。

こうした百花繚乱(りょうらん)の「知の偶然多発の時代」を世界史の軸となる時代「枢軸時代:Axial Age(※1)」として、カール・ヤスパースがはじめて提唱したのが1949年のことでした。鉄の普及が農耕の発達をもたらし、農耕の進歩が十分な食料を産出するとともに、多彩な知を誕生させました。食という漢字は人と良の組み合わせであり、人を良くする、世界を豊かにする、これは今も昔も変わらない食の本質です。

※1=枢軸時代:人類の精神的基礎となる思想が誕生した時代。枢軸時代という概念はドイツの哲学者・精神科医のカール・ヤスパースが提起した。
 
枢軸時代


 

ユーラシア大陸の東端の沖合へ

世界各地で噴出した知の源流がゆっくりと時間をかけ、それぞれの周辺地域へと流れていきます。ユーラシア大陸の東端の沖合にある日本は弥生時代から古墳時代へと変わり、中国の儒教、インドの仏教が百済(くだら)経由で伝えられ、やがて日本社会に深く根を下ろすことになりました。儒教と仏教の伝来から約1300年後、西洋文明を取り入れ近代化にいち早く成功した日本は、古今東西の文化の融合・併存という他に類を見ない「積み上げ様式」を生み出し、独自の進化を遂げています。複数の文化や慣習や価値観を相対化できる人ほど、日本のこの積み上げ様式の魅力に心地よさを覚えるはずです。

同じことが本記事のテーマである「食」にもいえます。たとえば、料理ジャンルについて、徒歩圏内で比較的リーズナブルな価格で良質な多国籍料理やフュージョン料理を苦労せずに食べられるのも、積み上げ様式の産物だと考えられます。高い金銭コストと時間コストを払わなくても、身近にある食のダイバーシティを堪能できるのは実に貴重な体験です。

そして、長きにわたり国際的ブームとなっている日本料理(日本食/和食)も重層的な世界観を美しく表現した代表例です。今からちょうど10年前、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されました(和食;日本人の伝統的な食文化, 2013)。和食の特徴として、「①多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、②健康的な食生活を支える栄養バランス、③自然の美しさや季節の移ろいの表現、④正月などの年中行事との密接な関わり」(※2)、が挙げられています。つまり、単なる味の追求だけでなく、食にまつわる多面的な要素にも配慮し、より高次元の調和を図るというなんとも日本らしい発想です。

※2 和食の4つの特徴は農林水産省の食文化のポータルサイトから引用。出所:農林水産省 「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されていますhttps://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/ich/index.html


ところで一口に日本食といっても、ジャンルもしくは品目ごとに見なければ、ブームの実像がなかなかつかめません。電通ジャパンブランド調査では、日本食を料理(9カテゴリー、42種類)と食材(9カテゴリー、54品目)に分けてそれぞれ大規模調査を実施。その結果を踏まえながら、日本食ブームの実態を探りました。

「日本料理」と「日本食材」の世界商品

まず、人気の日本料理について傾向をざっと把握しましょう。

日本料理の「認知度・喫食経験・喫食意向」の3指標の上位10位以内にランクインしたのは、「高級寿司」「ラーメン」「天ぷら」「エビフライ」「おにぎり」「豆腐」「味噌汁」「刺身」「からあげ」「うどん」。これらはどれも世界的な日本料理といえます。

日本料理の上位10位

また、訪日経験という視点から見た場合、リピーター(訪日回数が3回以上)になると、「牛丼」「とんかつ」「うなぎ」の喫食率の上昇が目立ちます。特にうなぎの喫食率に関しては、訪日未経験者(8.0%)に比べ、リピーター(30.3%)が20pt以上も増え、全体平均(17.3%)をも大きく上回っています。上位10位以内にはランクインしていないものの、すき焼きや会席料理についても同様の傾向が見られました。

日本料理の上位10位 訪日経験別

次に、日本の食材に関する膨大な調査データからほんの一部になりますが抜粋して、海外からみた日本の食材のイメージとともに、世界商品ともいえる日本食材について探っていきます。

安心安全、高品質、おいしい……。日本で作られた食材に対して、日本人が持っているイメージを、海外の消費者も持っているのか。世界全体を俯瞰したとき、「美・新・良」を最重要キーワードとして覚えていただきたいです。美(美味しい)、新(新鮮)、良(クオリティがよい)の3項目が他を引き離して上位を占め、食材のイメージ評価としてはこの上ないレベルに達しているといっても過言ではありません。

ただし、個別にみていくと、地域によってイメージのばらつきが大きいです。東南アジアと欧米豪では、前述の「美・新・良」が相対的にイメージが強いのに対し、東アジアでは全体的にフラットになっており、突出したイメージを持っていないことを示唆しています。

日本食材のイメージ

2010年代に入ってから、海外の和食レストランの数が急増しています。農林水産省の調査「海外における日本食レストランの数(※図4)」によると、2023年の日本食レストランの数(約18.7万店)は2013年(約5.5万店)に比べ、約3.4倍に増えたということです。その内訳をみていくと、和食店舗数の約57%が東アジアに集中していることが分かります。換言すれば、欧米豪や東南アジアよりも、東アジアの生活者がより身近に和食に触れる機会が多いため、和食に対する理解が多面的になり、イメージの分散化と多様化が進んでいると推察します。東アジアは和食の先進地域である一方、剥き出しの競争が繰り広げられるVUCA度合いの高い社会という見方もあります。そういう意味では、日本らしさ、日本らしさ由来の自分らしさ、そして、適者生存、この3つの要素をいかにバランスさせるかが否応なしに求められます。

日本食材のイメージを一通り押さえた上で、今度は地域別に人気の食材について見てみましょう。

地理的にも文化的にも近い東アジア市場において、圧倒的な存在感を放つのが「牛肉(和牛)」と「日本酒」です。果実カテゴリーでは「りんご」「ぶどう」「いちご」が人気です。酒類カテゴリーでは日本酒にはまだ及ばないものの、「焼酎・泡盛」「日本のビール」も認知されており、飲用/購入意向が比較的高いことが分かりました。

欧米豪市場における人気の日本食材といえば、「牛肉(和牛)」「日本酒」はもちろんのこと、「醤油」も大変ポピュラーであることがデータから判明しました。いずれの指標においても、オーストラリアと欧州各国は世界平均を大きく上回っています。

日本食材に関する3指標

このように、地域を問わず共通して好まれている日本の食材もあれば、それぞれの市場でしか見られない人気の品目も確実にあります。世界全体を見たとき、認知度・喫食経験/購入経験・喫食意向/購入意向の3指標ともに、上位5位を占めるのが「日本酒」「牛肉(和牛)」「醤油」「抹茶」「味噌」です。いわば食材カテゴリーの世界商品にあたります。

日本食材の上位10位

うま味の理解は三者三様

本記事の最後は、先人が発見した偉大なジャパンアセットのひとつである「うま味」について。

うま味は5つの基本味のひとつであり、日本料理を語る上で欠かせない要素となります。百年以上も前に発見されたうま味がいまや日本語のまま英語(フランス語・ドイツ語・イタリア語など)となって、一般名詞として世界中に知られるようになったのです。

ただし、うま味は甘味、酸味、塩味、苦味のような万国共通でわかりやすい味覚とは言い難いと感じます。電通ジャパンブランド調査では、うま味の概念としての認知、うま味と料理の関係性などについて、必ずしも日本人の感覚と同じように認識されていないという仮説のもと、国・地域別のうま味理解度を調べました。

全体を見ると、「甘味、酸味、塩味、苦味と並んで5大味覚の1つであること」、「料理のおいしさに大きく関わっていること」を知っている人は回答者の約4割を占めていますが、国・地域別に見た場合、2~3割しかない国もあれば、5割を上回る地域もあり、大きなバラつきが見られます。そして意外なことに、うま味そのものを全く知らない人も全体で2割弱いることが判明。カナダやイギリスやフランスにいたっては、その割合が4割以上となっています。

うま味の認知理解について

さらに、うま味が多く含まれる料理ジャンルについて、各国の認知理解にどの程度の差があるのかという問いを分析したところ、興味深い結果が得られました。

中国(和食店舗数1位)と韓国(和食店舗数3位)では、自国の料理が最もうま味が豊富だと思っている回答者が圧倒的に多いです。グローバルサウスの一員として大きく注目されているインドでは、うま味が豊富な料理として、フランス料理と日本料理はほぼ同列に並ぶ形になっています。そして、この2ジャンルをやや下回るのが韓国料理、中華料理、イタリア料理となっており、うま味における日本料理の優位性がそれほど突出しているとはいえません。

うま味が豊富だと思う料理

食には、周辺領域とのペアリングとストーリーテリングが必須要件

近年、観光テーマの多様化・細分化が進み、アドベンチャーツーリズム、サステナブルツーリズム、ガストロノミーツーリズムなど、多種多様なツーリズムが開発されています。その中で、アメリカを除き、参加意向が最も高いのはガストロノミーツーリズムです。また、観光庁の調査によれば、飲食カテゴリーへの支出が全体の2割以上(※3)を占めています。本調査においても、食が積極的にお金をかけたいカテゴリーであることが分かりました。

※3  国土交通省観光庁:訪日外国人消費動向調査<2023年1~3月期・4~6月期・7~9月期(速報値)、2019年年間値(確報値)>
https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html
 
テーマ型ツーリズムの参加意向

加えて、10人に7人が「素材や器や調理法などの前提知識を知った上で料理を味わうのがより好まれる」、そして、「商品や企業の歴史やブランドストーリーを理解することで購買意欲が確実に高まる」と回答しています。すなわち、食への取り組みは食べる行為のみならず、工芸・美術・芸術・空間デザイン・歴史・文化・哲学などといった周辺領域の開発と掛け算(ホリスティックなエクスペリエンスデザイン)を一体として捉えるのが妥当です。もはやこれらの周辺領域は「あればいい」ではなく、「なくてはならない」と考えるべきです。

価値観

最新の観光立国推進基本計画がすでに示したように、インバウンドは裾野の広い産業でありながら、外貨獲得とともに国際相互理解・国際平和にも大きく寄与する戦略分野でもあります(※4)。一方、「人を良くする、世界を豊かにする食」はインバウンドとも海外輸出とも親和性が高いジャンルです。これまで、食と知が壮大につながっていて、世界の文明と社会の進歩を支えてきたと同様に、これからも変わらぬポジティブな役割を果たしていくに違いありません。

※4 国土交通省観光庁:「観光立国推進基本計画(第4次)概要」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/kankorikkoku/kihonkeikaku.html


ビジネスの実務において、ガストロノミーツーリズムの磨き上げにせよ、日本産食材や和食の輸出促進にせよ、外国人消費者が理解している「日本の食」を、解像度を上げていくだけでなく、周辺領域との多様なペアリングや、よそでは味わえないような深みがにじみ出るストーリーテリングもますます求められるでしょう。

※本記事における対象国・地域の名称表記は日本国内の読者を想定対象とし、日本の社会通念やビジネス慣習に沿ったものになります。
 

【本件に関するお問い合わせ先】
電通ジャパンブランド調査プロジェクト事務局 
japanbrand@dentsu.co.jp

【電通ジャパンブランド調査とは】
2011年、東日本大震災で日本の農水産物や訪日旅行に風評被害が発生した際に、ジャパンブランドが世界でどのように評価されたかを把握するために始まった電通の独自調査。
 
【電通ジャパンブランド調査2023概要】
・対象エリア:19カ国・地域(アメリカ、中国、韓国、台湾、香港、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン、インド、オーストラリア、サウジアラビア、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン)
・対象者条件:中高所得者層 20代~50代男女
・サンプル数:7260人(アメリカ=960人、中国=1200人、その他の国・地域=各300人)各国/地域とも性年代別に均等割り付けで標本収集し、人口構成比に合わせてウエイトバック集計を実施
・調査手法:インターネット調査
・調査期間:2022年12月~2023年1月
・調査機関:株式会社ビデオリサーチ

【電通ジャパンブランド調査2022概要】
・対象エリア:22カ国・地域(アメリカ、カナダ、中国、韓国、台湾、香港、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン、インド、オーストラリア、サウジアラビア、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ロシア、フィンランド)
・対象者条件:中高所得者層 20代~50代男女
・サンプル数:8220人(アメリカ=960人、中国=1260人、その他の国・地域=各300人)各国/地域とも性年代別に均等割り付けで標本収集し、人口構成比に合わせてウエイトバック集計を実施
・調査手法:インターネット調査
・調査期間:2021年12月~2022年1月
・調査機関:株式会社ビデオリサーチ

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外国人が読み解くジャパンブランドの魅力と課題~「日本製品」編

2022年に大きくリニューアルした海外中高所得者層向けの電通独自調査「ジャパンブランド調査」(概要はこちら)の最新データを見ながら、ジャパンブランドの現状と、今後の日本のポテンシャルを探る本連載。

今回のテーマは「日本製品」です。ジャパンブランド調査のプロジェクト設計を務める電通のチーム・クールジャパン所属のリーが、外国人の視点から「日本製品」の魅力と課題を考えます。

<目次>
自由な発想と集合知の力

ロゴス・エトス・パトス

鳥の目と虫の目

イデアを目指すも、決して現実を軽視せず

彼を知り己を知れば百戦殆うからず

無知の知

自由な発想と集合知の力

本題に入る前に、まず社会背景について触れたいと思います。
2010年代の後半に入ってから、日本のデジタルトランスフォーメーションの周回遅れ説が頻繁に聞かれるようになりました。また、社会環境についても、日本経済の黄金期に比べ、停滞感や閉塞感に覆われ、個人も組織も余白を楽しむ余裕がなくなっているという論調が散見されます。

そうは言いつつも、その環境に置かれているわれわれ一人ひとりは、ただの傍観者ではいられません。それぞれの立場でもがきながらも必死に打開策を模索している人も多いでしょう。

不思議なことに、不確実で複雑、前例も正解もないにもかかわらず、われわれは良くも悪くも短兵急に、「自分が理解できる分かりやすさ」を追い求めようとしています。左脳と右脳、デジタルとアナログ、グローバルとドメスティック、伝統的大企業と新興企業、マーケットインとプロダクトアウト、終身雇用と成果主義、トップダウンとボトムアップ、というように二項対立的に捉えて、もっともらしい論理的分析で説得を試みる手法がより高く評価される風潮が見られます。

しかし、VUCA時代や新型コロナウイルスがもたらす不可逆的な社会の流れの中で、ジャパンブランドの現在地と可能性という壮大なテーマと向き合うには、ひとりの知恵、ひとつの勝ちパターン、あるいはひとつのアプローチだけでは日本製品が直面している壁を突き破ることはもはやできませんし、新たな魅力の創造も青天に上るよりも難し、と考えています。

ひとつのデータ、さまざまな読み解き方。本連載は誰もが一瞬で共感するような答えを示すものとは程遠いかもしれませんが、呼び水となってさまざまな卓見を引き出せればと願っています。自由な発想と集合知の力に敬意をこめて。

ロゴス・エトス・パトス

アリストテレスは「弁論術」において、人を説得するための3要素として、ロゴス(論理)、エトス(人柄/信頼)、パトス(感情/共感)が必要不可欠だと主張しています。商品購入の本質はロゴス・エトス・パトスの掛け算そのものです。

今回は、製品イメージを、
① 機能性
② 価格
③ サービス
④ 使い心地
⑤ 安全性
⑥ ブランドイメージ
⑦ デザイン性
の7カテゴリーに分類した上で、さらに33の項目にブレークダウンして解像度の高い調査を行いました。
ここでは日本製品に必要な3要素(ロゴス・エトス・パトス)を思考の軸にしながら、考察を加えてみます。

A.ロゴス:理性や比較検討が強めに働く「機能性・価格・サービス・使い心地」(=論理)
B.エトス:製品/企業としての性格や信頼度を表す「安全性」(=人柄/信頼)
C.パトス:ブランドの物語や美学を反映する「ブランドイメージ・デザイン性」(=感情/共感)

ロゴス・エトス・パトス

A.ロゴス:理性や比較検討が強めに働く「機能性・価格・サービス・使い心地」(=論理)
まず、7割超の回答者は、日本製品が「機能性に優れている」というイメージを持っています。すなわち、他国製品と比べて「ロゴス」の部分で大きく優位性を発揮できていると言えます。
さらに機能性のうち、「高性能」と「ハイテク」がもっとも評価が高く、他の項目を大きく上回りました。
そのほか、「丁寧な作り」「実用的」「細部まで作り込んでいる」「壊れにくい・長持ちする」といった、多くの日本製品に共通する特徴も高く評価されていることが分かりました。

B.エトス:製品/企業としての性格や信頼度を表す「安全性」(=人柄/信頼)
次に、「エトス」に該当する安全性については、「安心して使えそう」のイメージが強く、安心のMade in Japanという感覚が確実に定着しています。

C.パトス:ブランドの物語や美学を反映する「ブランドイメージ・デザイン性」(=感情/共感)
それから、「パトス」と定義したブランドイメージ・デザイン性においては、「上質である」「信頼できる」が最も評価されており、「ロゴス」(高性能、ハイテク)と「エトス」(安心感)の裏付けと捉えることもできます。
その一方で、歴史や文化の蓄積、センスの良さ、美しさなどの項目は比較的低くなっており、ブランドの物語や美学という軸で見た場合、一抹の物足りなさが残ります。

日本製品のイメージ

鳥の目と虫の目

普段何気なく欧米とか、アセアンとか、アジアという地理的なくくり方が多用されています。ある一定のシチュエーションにおいて、確かにそういうくくりは非常に便利です。

しかし、マーケティングや認知心理学などの観点では、往々にしてこうした分類の仕方は誤謬(ごびゅう)や思い込みの元となります。本来複雑性や多様性と向き合うべきはずの思考や取り組みを、必要以上に単純化してしまう恐れがあります。

本調査においては同じ西欧の国々であっても、日本製品に対するイメージについて、多くの項目で大きな差異が見られました。
たとえば、「ハイテク」について、イギリスでの認知は全体平均とほぼ同水準にあり、ドイツとフランスを大きく上回っています。

一方、「特にイメージを持っていない」に関しては、フランスが最多(約5人に1人)という結果が出ています。言い換えれば、日本製品に特に興味もなければ関心も示していない割合が、フランスでは比較的高いことを意味しています。フランスに憧れをもつ人にとっては、実に残念な結果と言わざるを得ません。

日本製品のイメージ

続いてアジアに目を向けると、対日好感度の高い台湾とタイにも大きな違いが存在していることが分かります。台湾では、「丁寧な作り」「繊細」「壊れにくい・長持ちする」「高級感」「先進的」といったイメージが非常に強く持たれているのに対して、タイではそれほどでもなかったのです。

タイの消費者にとって、日本製品は「高性能」「コスパがよい」「おしゃれ」などといったイメージがより強いことがうかがえます。こうした細かな違いを観察することで、近隣のアジア地域とはいえ、訴求ポイントを変えていく必要があることが分かります。

日本製品のイメージ

イデアを目指すも、決して現実を軽視せず

第1回第2回では、インバウンドを切り口にさまざまなデータを紹介しました。観光庁と日本政府観光局(JNTO)によると、2019年の訪日外国人の70.1%(※1)を占める東アジアは、訪日外国人旅行消費額の64.4%(※2)を占めているという統計結果が出ています。

インバウンドの最大ボリュームゾーンが東アジアであることは事実であり、現実でもあります。地理的・文化的に近い近隣地域から人が集まってくるのは多くの国で見られる現象であって、決して日本だけに起きているわけではありません。

現実をしっかり捉えた上で、日本が今後目指すべき観光立国の理想像(イデア)とは何かを、時間軸と空間軸を伸ばしながら議論し、意思決定を重ねていく必要があると考えます。言うまでもなく、イデアと現実の間に必ずギャップが存在します。旅行に限らず、インバウンドは裾野が広く、事業者の従事分野によってもイデアが当然ながら異なるため、それに伴うギャップも一様ではないことが容易に想像できます。そのギャップを示唆するデータは本調査からも確認できました。

日本製品の購入意向について調査したところ、アジアのほとんどの国・地域では、テレビや冷蔵庫、洗濯機、大衆車、エアコンなど、ジャパンブランドを代表する製品カテゴリーがランキングの上位にずらりとランクインしています。その関心の高さは数字だけでも感じとることができます。

それに対し、西洋文化圏では、大衆車やテレビに加え、残念ながら「この中にない」も上位に上がっています。主要な製品カテゴリーをほぼ網羅した選択肢を提示したにもかかわらず、「この中にない」をあえて選択したことは興味関心を持っていないことと同義です。

中でもイギリス、ドイツ、フランスの日本製品の購入意欲のなさは、欧米の中でもワーストクラスと言えます。これはインバウンド関連項目でも見られる現象であり、欧米諸国を対象とした誘致促進もしくは販売拡大によるビジネスの躍進を目指す場合、並々ならぬ「ロゴス(論理)・エトス(人柄/信頼)・パトス(感情/共感)」の創意工夫が試されるに違いありません。

日本製品の購入意向TOP5

 

彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず

日本でも愛読者の多い「孫子」が成立したとされる紀元前5世紀頃は、古代ギリシアのソクラテスやプラトンが生きていた時期とほぼ同時代です。はるかなる古代の兵法を今日の競争戦略にそのまま転用できるのは実に興味深いことです。

人間の寿命伸長に反比例して、企業が勝ち続け、俗に言う勝ち組でいられる期間は昔よりも短縮されています。しかし、自由競争が必要とされる限り、勝って存続するための努力をしなければなりません。小見出しの通り、ここでは他国製品(ドイツ製、フランス製、中国製、韓国製)との比較を通して、製品イメージの角度から日本製品の特徴をあぶり出したいと思います。

はじめに、日本以外の4カ国の製品イメージについて手短に解説します。

日本製品にイメージが近いのはドイツ製です。多くの評価軸において、両者が接戦状態にあり、日本製にとっての真のライバルはドイツ製かもしれません。

フランス製は「おしゃれ」「高級感ある」「美しい」といったブランドイメージやデザインの評価が突出して高く、フランスに対する従来のイメージと合致している部分が多いことが分かります。

中国製は「安価」「シンプル」など、従来通りのイメージ。特に「安価」が突出してスコアが高いです。また、「使いやすい」「コスパがよい」「人気がある」といった項目においては、ほぼ日本製と拮抗している状況です。

韓国製は「おしゃれ」「かっこいい」「美しい」というイメージが持たれているようです。韓国のものづくり自体の競争力が増しているほか、グローバル展開への意識が強く、ソフトパワーの一丁目一番地であるコンテンツ(ドラマ、映画、音楽等)の世界的ヒットを立て続けに生み出していることも一因だと推察されます。

そして、肝心な日本製品はこれらの競合と比較した場合、悲観視するほどブランド価値が下落したかというと、決してそんなことはありません。むしろ卑下することに必要性が全く感じられません。

事実として、機能面を筆頭に高く評価されていることが一目瞭然です。特に「ハイテク」「高性能」「細部まで作りこんでいる」「壊れにくい・長持ち」「上質である」「信頼できる」といった評価軸において、他国の製品より明らかに優位性があると読み取れます。

他国性とのイメージ比較

ただ、他国の後塵(こうじん)を拝したデジタルエコシステムの構築がすでに示したように、日本よりイノベーションが起こりやすい一部の国による、機能面での追いつき追い越せは早晩現実としてやってきます。先進技術を軸にしたものづくりの「イデア」を追求する精神は大いに尊重されるべきです。しかし、それに縛られることなく、いかにして彼を知り己を知るか、いかにして変化し続ける市場の「現実」を虚心坦懐に見つめ、アジャイルに軌道修正していくかもますます問われます。

無知の知

公私で経験したことも含めて、多くの人は無意識のうちに諸外国の多様性や相違点を過小評価したり、異質性に対して静かな拒絶反応を示す傾向が見て取れます。

日本の場合、日本は島国だからという理由がよく使われています。しかし、ある程度理解はできるものの、深い共感はなぜか得られませんでした。というのも、ユーラシア大陸の沖合にある島国として、日本は古今東西のさまざまな文化を積み上げた希少な「ミルフィーユ国家」であり、この上ない奥深さと味わいが感じられます。バイアスを外して観察していれば、社会の至るところに、多様性と包括性の下地ができあがっていることが分かります。

問題の本質は島国という地理的要因よりも、歴史のある時期を背景に、画一性がもたらした類を見ない成功体験と、その成功体験が形成した強固なコンフォートゾーンにあると推察します。つまるところ、天井知らずの黄金時代と、ハイコンテクストで同質性の高い環境において、社会・組織・個人の違いを相対化する機会に触れることが少ないため、「さまざまな違いが客観的に存在していることを知らない」という構造になりかねません。

これは日本に限らず、どこの国/集団にでも起こりうることですが、日本製品を含むジャパンブランドの長き繁栄にとって不利なのは火を見るよりも明らかです。そして最も問題となるのは、「違いの存在を知らないことに気づいていない」というパターンです。

「違いの存在を知らない」にせよ、「違いの存在を知らないことを自覚していない」にせよ、解決の糸口として、はるか昔の紀元前5~前4世紀を生きていたソクラテスの「無知の知」という考え方が大いに参考になるはずです。要するに、「違いの存在を知らないことを知っている」を出発点にするということです。

古代ギリシアの時代から2000年以上の時がたっても、今もなお価値が認められ続けているということを踏まえると、賢者の考えからヒントを得ることは不確実性の高い時代だからこそ必要な知恵だと考えられます。

以上、説得手段、多面的観察、理想と現実、対比、自覚と探求など、時代に左右されない先人の教えを借りながら、違いを知る・違いに気づく手段としてのジャパンブランド調査を土台に、移ろいやすい世界の消費者と日本製品を読み解いてみました。

日々の営みの中で具体策や結論を急ぐあまり、視野偏狭になっていないか、グローバルや多様性は自分の住む世界とは無関係のものと思っていないか。知らず知らずのうちに、認知の死角がおのおのの豊穣(ほうじょう)な余白を暗黒化してしまうことが十分あり得ます。それを防ぐため、リソースとアプローチの多様化とともに、思考の余白を意図的に創り出すことが求められています。やや異質的かつ抽象的かもしれませんが、多少なりともご参考になれれば幸いです。次回は食の世界を駆け巡ります。

出典:
※1:日本政府観光局(JNTO)「2019年訪日外客数」をもとに計算
※2:観光庁「訪日外国人の消費動向2019年年次報告書」をもとに計算
当該ページのURL https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/content/001345781.pdf

 
【電通ジャパンブランド調査とは】
2011年、東日本大震災で日本の農水産物や訪日旅行に風評被害が発生した際に、ジャパンブランドが世界でどのように評価されたかを把握するために始まった電通の独自調査。電通チーム・クールジャパンとパブリック・アカウント・センター主導のもと、2022年に対象エリアや聴取内容を変え、大きくリニューアルした。
 
【電通ジャパンブランド調査2022概要】
・対象エリア:22カ国・地域(アメリカ、カナダ、中国、韓国、台湾、香港、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン、インド、オーストラリア、サウジアラビア、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ロシア、フィンランド)
・対象者条件:中高所得者層 20代~50代男女
・サンプル数:8220人(アメリカ=960人、中国=1260人、その他の国・地域=300人)
・調査手法:インターネット調査
・調査期間:2021年12月~2022年1月
 
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