●この記事のポイント
・プラチナカード市場で「ステータスから実利へ」の価値転換が加速。dカード PLATINUMは1年未満で100万会員を達成し、業界異例の成長を遂げた。
・NTTドコモ・江藤俊弘常務執行役員は「楽天カードが高級レストランで使われる時代」を契機に、実利重視の戦略を構築したと語る。
・NISA普及が生んだ「投資してリターンを得る」思考と、キャッシュレス定着が年会費を”投資”と捉える消費者を創出。10年後は決済が生活に溶け込み、AIエージェントが最適な購買タイミングを提案する未来を展望する。
かつて富裕層の象徴だったプラチナカードが、いま「実利」を求める層に選ばれている。年会費2万9700円(税込み)のdカード PLATINUMは、サービス開始からわずか11カ月で100万会員を突破。dカード GOLDが同じ会員数到達に9年を要したことを考えれば、この成長スピードは日本のクレジットカード史に残る記録だ。
この急成長の背景には、消費者の価値観の構造的変化がある。NTTドコモが2025年に実施した、各種プラチナカード保有者、保有意向者への調査では89.7%が「年会費以上のメリットがあれば賢い選択」と回答。86.3%が「ステータスよりポイントなどの実利が重要」と答えた。
金融決済分野で30年以上のキャリアを持つNTTドコモ常務執行役員の江藤俊弘氏に、この市場変化の本質と、dカード PLATINUMが支持される理由を聞いた。
●目次
- 「ステータスより実利」――市場を読み解いた着眼点
- NISA普及が変えた「年会費=投資」という発想
- 1年未満で100万会員、想定を超えた成長
- エンタメ特典が描く「推し活経済圏」
- ゴールド1000万会員が示す潜在市場
- 10年後、決済は「意識されない存在」に
「ステータスより実利」――市場を読み解いた着眼点
dカード PLATINUM誕生の着想は、ある消費行動の変化から生まれた。
「楽天カードのような年会費無料の高還元カードが、高級レストランでも当たり前に使われている光景を目にするようになりました。これは市場の大きな転換点だと感じたんです。もはや、かっこつける時代ではない。どんなシーンであっても、自分にとって最もメリットのあるカードを合理的に選ぶ。この価値観の浸透を肌で感じたことが、dカード PLATINUM構想の原点になりました」
楽天カードの成功は、「実利重視」という選択が市民権を得たことの証明だった。ならば、プラチナカードという上位カテゴリーでも、同じ価値観で勝負できるのではないか。
サービス開始前のアンケート調査でも、「お得に使いたい」というニーズが圧倒的に多かった。ただし、完全に実利一辺倒でもない。
「デートの時などは、やはりかっこいいカードを持ちたいという声もある。実利と、見た目の良さを配合しながら設計すれば、幅広い層に支持されるのではないかと考えました」
このバランス感覚が、dカード PLATINUMの特徴だ。日常では徹底的に実利を追求しつつ、非日常のシーンではプレミアム感を演出する。黒を基調としたカードデザインも、この戦略の一環である。
NISA普及が変えた「年会費=投資」という発想
ではなぜいま、消費者は年会費を「コスト」ではなく「投資」として捉えるようになったのか。江藤氏は、NISA普及との相関を指摘する。
「世の中のトレンドとして、NISAの普及があります。一回投資して、リターンを狙う。お金を出してリターンを得るという考え方が、国民に一般的になってきたのではないでしょうか」
実際、dカード PLATINUMはマネックス証券での積立投資に対し、最大3.1%のポイント還元を提供している。資産形成をしながらポイントも貯まる――この「二重の利得」が、合理的な消費者の心を掴んだ。
「ユーザーの中には、経済に非常に明るい方が多くいらっしゃいます。インフレが2%、3%進めば、資産価値は目減りしていく。それを超えるポイント還元を設定すれば、インフレ分を取り戻せるわけです」
キャッシュレス決済の定着も追い風となった。市場調査のデータでは、日本でも半数以上がタッチ決済を利用しており、スマホ決済へのシフトが加速している。
「クレジットカードの発行には、それなりのコストがかかります。スマートフォンがそれを代替できるなら、浮いたコストをユーザーの特典に回せる。事業者とユーザー、双方にとってウィンウィンです」
物理カードの製造費、郵送費などのコスト削減分を還元率向上に振り向けることも視野に入れている。事業者とユーザー双方にメリットをもたらすこの構造が、年会費2万9700円で特定条件下では最大20%還元という「常識外れ」の特典設計を可能にしているのだ。
1年未満で100万会員、想定を超えた成長
dカード PLATINUMは2024年11月25日にサービスを開始し、2025年10月30日に100万会員を突破した。この成長速度について、江藤氏は率直に語る。
「社内目標として、早期に100万会員を達成したいとは考えていましたが、1年未満での達成は、正直なところ想定していませんでした」
急成長の要因は、市場の変化というより「潜在需要の顕在化」だったという。
「これまでゴールドとレギュラーという2枚看板で展開してきましたが、ユーザーのニーズは多様化しています。少額の年会費を払ってでも、お得額でペイするのであればやってみたいという層が、潜在的に存在していたのです」
現在、dカードゴールドの会員数は1000万を超えている。100万のプラチナ会員は、その上位10%が「年会費を払ってでも、より高い還元を得たい」という明確な意思を持ってアップグレードした結果だ。そして江藤氏は、残る900万のゴールド会員に対し、「ゴールドとプラチナの違いをどううまく見せていくのか」が今後の鍵になると見ている。この巨大な潜在市場をどう取り込むか――dカード PLATINUMの挑戦は、まだ緒に就いたばかりである。
エンタメ特典が描く「推し活経済圏」
dカード PLATINUMの特徴のひとつが、エンタメ特典の充実だ。人気アーティストのライブやスポーツ観戦チケットの先行抽選、IGアリーナでの割引特典などを提供している。
「音楽が好きな方は年齢を問わずいらっしゃいます。エンタメとカードの相性は非常に良いと感じています」
では「推し活」などは、ユーザーのカード利用を促進するジャンルではないか。そう訊ねたところ、江藤氏はこう答えた。
「推しのアーティストが北海道でコンサートをするなら、航空券も宿泊も予約する。コンビニで食事も買う。これらすべてをカードで決済すれば、便利でお得だと実感してもらえます」
不景気と言われる中でも、エンタメ支出は伸びている。心の充足を求める現代人にとって、エンタメは削れない支出だ。dカード PLATINUMは、この領域に戦略的に投資しているのだ。
ゴールド1000万会員が示す潜在市場
現在のメインターゲットは、ゴールドカードの上位層だ。
「ゴールドで10%還元しているのに、プラチナでそれ以上の還元率がないとインパクトがない。dカードはドコモが出しているという認知があるので、携帯電話料金の部分で特典に差をつけることにしました」
ドコモ利用料金に対する10%、15%、最大20%の還元率は、この発想から生まれた。ドコモショップでの販売を考えると、特典の分かりやすさも重要だった。
ユーザー層としては、40代・50代の男性世帯主が中心だが、家族カードを含めた利用が多いという。
「長くドコモ回線を使っていただくのと同様に、長くドコモの金融サービスもご利用いただきたいと考えています」
携帯電話を起点に、子供の独立時には電気も……という形で、世代を超えた利用を目指している。
10年後、決済は「意識されない存在」に
インタビューの最後、江藤氏に10年後のビジョンを尋ねた。その答えは、決済の本質的な未来を示唆していた。
「10年後、決済は今以上にユーザーが意識しないものになっているでしょう。買い物をして決済する、という行為が今は分離していますが、これが一体化していくと考えています」
顔認証による自動決済、スマホ操作すら不要な購買体験――決済は生活に溶け込み、意識されない存在になる。
「お客様の生活に染み込んで、意識されないものになっている。そんな未来が来るのではないでしょうか」
その中で重要になるのが、AIエージェントだと江藤氏は語る。
「ユーザーによって、割引率が大事な人とポイント付与が大事な人に分かれます。商材によっても違う。『このバッグが欲しいけれど、どこでいつ買ったら一番安く買えるか』といった問いに、金融決済エージェントが答えてくれる時代が来ます。『3ヶ月待てば割引になる。そこで10%ポイントがつくから、ここで買うのが最適です』というように」
AIが最適な購買タイミングを提案し、自動的に決済まで完了する。ユーザーは「気づいたらこのカードを使っていてよかった」という体験を月に何度も得る――それが江藤氏の描く未来だ。
「10年前は、AIオペレーターなんてSFだと思われていました。でも今や、人間よりも流暢に喋る。技術の進化は予想を超えて進んでいきます。想像力こそが重要です。新しいプロダクトや利便性の高いサービスを作っていく。それが我々に求められていることだと思います」
量子コンピューティングの実用化も2030年頃には見込まれている。複雑な問題も瞬時に解を返す時代が来る。そうした未来へ向けて、dカード PLATINUMの100万会員突破は、単なる通過点に過ぎない。ステータスから実利へ、そして実利すら意識しない自然な体験へ。プラチナカードの進化は、決済の未来そのものを映し出している。
(取材・文=昼間たかし/ルポライター、著作家)