●この記事のポイント
・スキマバイト最大手タイミーの一強体制に変化の兆し。すかいらーくやマクドナルドが自社プラットフォーム化を進め、競争軸は「アプリ」から「人材の囲い込み」へ移行している。
・手数料約30%という構造が、大手事業者を“自走”へ向かわせた。スキマバイトが一時的補填から標準運営へ変わる中、外部プラットフォーム離脱の動きが加速している。
・市場の本質はIT競争ではなく、運用インフラの争奪戦へ。タイミーは現場力と伴走支援を武器に、「顧客の自社化」という包囲網を突破できるかが問われている。
「人が足りない」。外食・小売・物流・介護など、現場産業の共通語になったこの危機に対し、“即日・面接なし”で働けるスキマバイトは、いまや一時しのぎではなく、運営モデルそのものに組み込まれつつある。
その中心にいるのが、スポットワーク大手のタイミーだ。累計ワーカー数800万人超、導入事業者(店舗)数6万社超(いずれも2024年時点として公表されている数値)という規模は、国内のスポットワーク市場で突出している。
だが、ここにきて「タイミー一強」に不穏な影が差す。マクドナルドやすかいらーくグループといった巨大事業者が、自社でスキマバイトの仕組みを持ち始めたからだ。競合アプリの台頭というより、“顧客がプラットフォーム化する”現象──すなわち中抜き(disintermediation)が起きている。
この変化は、タイミーの将来価値を問うだけでなく、労働市場の構造そのものを塗り替える可能性がある。市場は「誰がアプリを握るか」というIT競争から、「誰が労働者を直接、安く、長く抱え込めるか」という“リアルな陣取り合戦”へ。2026年、その転換点が見えてきた。
●目次
- 二面市場の“壁”を越えたタイミーの強さは「現場力」
- 「30%の手数料」が巨大事業者を“自走”へ向かわせる
- すかいらーく「スポットクルー」が示した“巨大顧客の回答”
- タイミーの脅威は「競合」ではなく「顧客の離脱」
- タイミーは包囲網をどう突破するのか
- 労働者保護とルール整備も、次の競争軸になる
二面市場の“壁”を越えたタイミーの強さは「現場力」
タイミーの強みを端的に言えば、二面市場(ワーカーと事業者を同時に増やす必要がある)の厚い壁を、泥臭い現場運用で突破してきた点にある。
二面市場のプラットフォームは、片側だけ増えても成立しない。ワーカーが多くても求人が少なければ稼げない。求人が多くてもワーカーが来なければ欠員は埋まらない。さらに、現場労働は「当日ドタキャン」「初日戦力化」「評価のばらつき」といった運用課題がつきまとう。単なるマッチング機能だけでは、現場は回らない。
そこでタイミーは、営業・運用担当が事業者の現場に入り込み、場合によっては長期派遣のような形で、タイミー経由のスタッフを教育・管理する「伴走型支援」まで広げてきた。ここに、ソフトウェアだけでは代替しにくい参入障壁がある。
戦略コンサルタントの高野輝氏は次のように見る。
「スポットワークは“アプリが便利”だけでは定着しません。現場では、業務切り出し、受け入れ導線、教育手順、評価、リピート導線までセットで設計しないと、事故が起きる。二面市場で強いのは、結局“運用の標準化”を持っているプレイヤーです。タイミーが築いたのは、テックというよりオペレーション資産に近い」
つまり、タイミーの本質は「求人掲示板の高速版」ではなく、現場の欠員を埋める“運用インフラ”に踏み込んできた点にある。
「30%の手数料」が巨大事業者を“自走”へ向かわせる
一方で、プラットフォームが強くなるほど、構造的に避けられない緊張が生まれる。それが手数料だ。
事業者が外部のスポットワークサービスを使う場合、ワーカー報酬に対して一定比率の利用料が上乗せされるのが一般的だ。市場では「約3割程度」と語られることが多い(※料率は契約形態・条件で異なり得る)。仮に時給1200円で5時間働いてもらえば、賃金は6000円。ここに利用料等が加わり、事業者負担はさらに膨らむ。
人手不足が深刻化し、スポットワークへの依存度が高まるほど、この上乗せコストは“固定費のように”効いてくる。特に数千店舗単位のチェーンにとっては、1回あたり数百円〜数千円の差が、年間で巨額になる。
さらに事業者側の悩みは、コストだけではない。最大の論点は「定着」だ。スポットワークは便利な反面、ワーカーとの関係が一期一会になりやすい。自社にフィットした人材を囲い込み、育て、戦力化するには、外部マーケットプレイスだけでは限界がある。
「店舗数が多い大手は、スポットワークを“例外対応”ではなく“標準運用”として使い始めています。そうなると手数料は変動費ではなく、実質的に恒常コストになる。加えて、優秀なワーカーを囲い込めない点が痛い。大手が自社化へ動くのは、テック志向というより“財務と人材の合理性”です」(同)
プラットフォームに支払う30%が、結果として「自前でやったほうが安い」という意思決定を促す。これは、二面市場が成熟するほど起きやすい“宿命”でもある。
すかいらーく「スポットクルー」が示した“巨大顧客の回答”
そうした課題への“解答”として象徴的なのが、すかいらーくHDが2025年11月に提供開始した自社システム「スポットクルー」だ。ガスト、バーミヤン、しゃぶ葉など、グループ約2600店舗という圧倒的な受け皿を前提に、履歴書・面接なし、即日勤務といったタイミー的UXに近い体験を実装しつつ、次のような強みを持たせたとされる。
・コストの極小化:自社運用のため、採用ごとの外部利用料を抑えやすい
・スキルの共通化:グループ内でのスキル互換性を設計し、店舗をまたいだ戦力化を狙う
・シフトの即応性:既存のシフト管理と連動し、欠員発生→募集→応募の速度を上げる
同様の動きはマクドナルドにも広がっている。自社の巨大店舗網と膨大な潜在労働者を、自前のアプリで直接つなぎ始めているのだ。
ここで重要なのは、すかいらーくやマクドナルドが「ゼロから二面市場を作らなくてよい」点である。メルカリやリクルートなどがスポットワークで苦戦した背景には、働く場所も働く人も、最初から集めなければならなかったという難しさがある。
対して巨大チェーンは、最初から数千規模の「働く場所」を持つ。さらに、来店客という“潜在ワーカー”への導線もある。店内POPやレシート、アプリ誘導、ポイント施策など、広告を大きく打たずとも自社の経済圏に取り込める。二面市場の最大の難所を、既存アセットでショートカットできるわけだ。
タイミーの脅威は「競合」ではなく「顧客の離脱」
タイミーにとって真の脅威は、別のスポットワークアプリが出ることではない。主要顧客である大手法人が、「自社でプラットフォームを持ったほうが安く、早く、囲い込める」と気づき、マーケットプレイスから離脱していくことだ。
この構図は、他業界でも繰り返されてきた。ECで大手ブランドがD2Cへ向かったように。配車で大口が自社契約を強めたように。プラットフォームが価値を証明すると、その価値を“内製化”しようとする動きが起きる。
スポットワークでも同じだ。とりわけ、スキマバイトが「補填」から「常態」になった企業ほど、外部利用料は重く感じられる。そして、自社の育成・評価・再雇用(リピート)まで含めて統合したくなる。
「現場のワーカーは複数アプリを併用(マルチホーム)しがちです。だからプラットフォームは、ワーカーが“ここで働き続ける理由”を作らないといけない。大手チェーンが自社化するのは、スイッチングコストを上げて、良い人材を継続的に回す設計がしやすいから。タイミーが対抗するなら、単発マッチングの便利さを超えた“継続の仕組み”が問われます」(同)
タイミーは包囲網をどう突破するのか
結論から言えば、タイミーが勝ち筋を維持するには、「大手の自社化は起きる」という前提で、価値の置き所を再定義する必要がある。ポイントは3つある。
1)「人材の流動性」を武器に、企業内経済圏を超える
大手チェーンの自社化は、グループ内では強い。しかし、ワーカー視点では「選択肢が狭い」リスクもある。タイミーが提供できるのは、業種横断・地域横断の就業機会だ。外食で覚えた接客が小売に活き、物流の経験が別拠点で評価される。こうした“市場の流動性”は、企業内アプリでは作りにくい。
2)「伴走型支援」をSaaS化し、事業者の内製化を取り込む
事業者が自社で仕組みを持つなら、タイミーがそれを“敵”と見るのではなく、裏側の運用基盤として入り込む戦略がある。求人の配信、勤怠、評価、教育コンテンツ、労務リスク管理(雇用区分・休業手当・労災対応など)、不正防止、本人確認……。現場運用は想像以上に複雑だ。ここをSaaSとして提供できれば、「自社化する大手」にも売れる。
3)価格だけでなく「品質」を数値化し、プレミアムを正当化する
“30%”が高いと感じられるなら、価格を下げるか、価値を上げるしかない。後者の鍵は、ミスマッチ率の低減、当日キャンセル率の抑制、戦力化までの時間短縮といった、経営指標に直結する品質の可視化だ。事業者が本当に欲しいのは「安い人手」ではなく、「回る現場」である。そこを数値で示せれば、単なる手数料ではなく投資として説明できる。
労働者保護とルール整備も、次の競争軸になる
最後に見落とせないのが、労働者保護と制度面だ。スポットワークが“標準運用”になるほど、働き手の安全・健康・賃金支払い・労災・情報管理の重要度が増す。大手が自社化しても、運用の不備があれば炎上や訴訟リスクを抱える。逆に、適正運用を支援できるプレイヤーは、信頼を武器に市場を取る。
ここは「便利さ」だけで語ってはいけない領域だ。短期就労の拡大は、雇用の流動性を高める一方で、労働者の交渉力やキャリア形成、社会保険、教育機会の設計にも影響を与える。スポットワーク企業にも、事業者にも、説明責任が求められる時代に入る。
2026年のスキマバイト市場は、もはや“アプリの便利さ”を競う段階を超えつつある。巨大チェーンは自社化により、コストと囲い込みの合理性を取りにいく。タイミーは、二面市場を突破した「現場力」という資産を、マーケットプレイスの外側へ拡張できるかが問われる。
タイミーの真の脅威は、プラットフォーマーではない。顧客が学習し、内製化し、離脱することである。この包囲網を突破する戦略こそが、同社の“本当の価値”を決める。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)