●この記事のポイント
・太陽光発電が量的拡大から「選別」の時代へ。環境アセス義務拡大とサイバー対策の義務化が、再エネバブルに終止符を打つ。生き残るのは責任ある事業者だけだ。
・釧路湿原問題や監視機器のサイバー悪用事件を受け、太陽光発電は社会インフラとしての厳格な管理が求められる局面に入った。2027年が分水嶺となる。
・環境破壊とサイバー脆弱性を放置した「安かろう悪かろう」は終焉へ。規制強化は普及の足かせか、それとも再エネ産業を健全化する産みの苦しみか。
政府が2025年2月に公表した「第7次エネルギー基本計画」は、2040年度における太陽光発電比率を23〜29%へと大幅に引き上げる目標を掲げた。だが、その裏側で進行しているのは、これまで日本の再生可能エネルギーを支えてきた「量の拡大」を優先する政策からの決別だ。
環境破壊、住民対立、そして電力インフラの脆弱性を突いたサイバー攻撃——。2026年から2027年にかけて施行される一連の制度改正は、太陽光発電を「儲かる投資商品」から「責任ある社会インフラ」へと変質させる分水嶺となる。
●目次
- なぜ「再エネ・バブル」は放置されてきたのか
- 環境アセス義務の大幅拡張が意味するもの
- 発電所が「犯罪の踏み台」になる時代
- 2027年、JC-STAR認証が“通行証”になる
- 「普及のブレーキ」か、「産業の健全化」か
なぜ「再エネ・バブル」は放置されてきたのか
日本の太陽光発電が急拡大した背景には、2012年に始まった固定価格買取制度(FIT)がある。高水準の買取価格は民間投資を一気に呼び込み、2024年度時点で国内の太陽光設備容量は約75GWに達した。
一方で、制度の設計には重大な欠陥があった。
・小規模開発を分割することで環境アセスを回避
・自治体に許認可と監視を丸投げ
・撤去・原状回復の担保が不十分
こうした「歪み」が顕在化した象徴が、釧路湿原国立公園周辺での乱開発だった。
「再エネの名の下で自然が壊される構図が、社会的に限界を迎えた」(エネルギー政策の専門家である佐伯俊也氏)
環境アセス義務の大幅拡張が意味するもの
政府は環境影響評価法および電気事業法の政省令を改正し、メガソーラーに対する環境アセスメントの対象を事実上拡大する方針を固めた。
特に注目されるのが、第2種事業の基準引き下げだ。
・現行:3万kW以上
・改正後:1万5,000kW以上(検討案)
これにより、これまで“規制の隙間”で増殖してきた中規模メガソーラーの多くが新たに対象となる。
「分割設置による“抜け道”は、もはや通用しない」(同)
発電所が「犯罪の踏み台」になる時代
問題は環境だけではない。太陽光発電が抱えるもう一つの重大リスクがサイバーセキュリティだ。
2024年5月、太陽光発電の遠隔監視装置約800台がマルウェアに感染し、インターネットバンキング不正送金の踏み台として悪用された事件は、業界に衝撃を与えた。
攻撃者は脆弱なIoT機器を中継点とし、発電所という「社会インフラ」を匿名犯罪の道具に変えた。
「これは“もしも”の話ではない。発電停止や系統混乱も、現実的な脅威になった」(サイバーセキュリティコンサルタントの新實傑氏)
2027年、JC-STAR認証が“通行証”になる
政府はこの事態を受け、2027年12月から太陽光制御システムのサイバー対策を義務化する。 中核となるのが、IPAが運用するJC-STAR(IoT製品セキュリティ適合性評価制度)だ。
・認証未取得機器は系統連系不可
・つまり、売電そのものが不可能
・上市後も脆弱性報告が義務化
「これは規制ではなく、インフラ事業者として最低限の“免許”だ」(元経産省官僚)
「普及のブレーキ」か、「産業の健全化」か
業界からは「コスト増で普及が鈍る」との声もある。だが視点を変えれば、これは市場の健全化に他ならない。
・低品質機器の淘汰
・ESG投資の本格化
・長期運用前提の事業モデル
インフラ系の投資アナリストは「今後は“安く作れるか”ではなく、“20年守れるか”が問われる」と語る。
2026年は、環境規制の実質開始と2027年サイバー義務化への移行の年となる。
制度が変わることを嘆くのではなく、いち早く適応し「安全・安心」を価値に変えた企業だけが、次の20年を生き残る。
太陽光発電は終わらない。だが、「狂乱の時代」は、確実に終わりを迎えようとしている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)