12月7日夜、ドラマ『ファーストペンギン!』(日本テレビ系)がいよいよ最終話を迎える。
視聴率は世帯7~8%・個人4%前後の「可もなく不可もない」という状態が続き、配信再生数も『silent』(フジテレビ系)、『クロサギ』(TBS系)、『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系)、『親愛なる僕へ殺意をこめて』(フジテレビ系)、『アトムの童』(TBS系)、『エルピス―希望、あるいは災い―』(カンテレ・フジテレビ系)ら他の秋ドラマには及ばない。
ところがネット上には驚くほど好意的な声があふれていた。「今年放送のドラマの中では一番面白いのでは」「個人的には『silent』より泣ける」「このドラマ観てない人、もったいないねぇ。めっちゃ面白いぜ!!」など、前述した作品より数こそ少ないものの、愛情深いコメントが目立っている。
その立役者は、脚本を手がける森下佳子と、民放ゴールデン・プライム帯の連ドラ初主演の奈緒で間違いないだろう。2人の何が人々の支持を集めているのか。一方で、なぜ視聴率や配信再生数が伸び悩んだのか。最終話はどんな展開が期待できるのか。
「今期1番」の声があがった理由
森下佳子と言えば、業界内でもドラマ好きの間でも、約20年間にわたって「ハズレなし」と言われる屈指の脚本家。『ごちそうさん』(NHK)や『天国と地獄~サイコな2人』(TBS系)らのオリジナルはもちろん、漫画や小説の脚色にも定評がある。
実際、『世界の中心で、愛をさけぶ』『JIN-仁-』『とんび』『義母と娘のブルース』(すべてTBS系)などは、漫画や小説を拡張するような形でエピソードを加えて連ドラ仕様に仕上げ、原作ファンをうならせてきた。しかもハートフルな人間ドラマを描く名手だけに、実話をベースにした『ファーストペンギン!』の脚本にも不安はなく、ここまでクチコミを見ても期待通りの感動作となっている。
ただ、あらためて振り返ってみると当作のストーリーは、感動作というより過酷そのもの。主人公は「金なし」「家なし」「仕事なし」で5歳児をワンオペ育児中のシングルマザーであり、その設定は他作以上にシビアだった。
加えて彼女が飛び込んだのは、古い体質がはびこる男社会の漁業。荒くれ漁師たちと既得権益にしがみつく漁協、その背後にいる政治家などを相手にしつつ、古い慣習を打ち破っていかなければいけない……このシビアでシリアスなストーリーは、えん罪や巨大組織の隠蔽がテーマの「『エルピス』と双璧」と言っていいだろう。
しかし、『ファーストペンギン!』は、シビアやシリアスよりハートフル優先の日本テレビ『水曜ドラマ』。だからこそ森下佳子の手腕によって、人間の悪さや弱さを描きながらも、笑って泣ける物語に着地させている。
実際、11月23日放送の第8話でも、岩崎和佳(奈緒)率いる「さんし船団丸」が元議員などの妨害によって銀行から融資を切り上げられ、漁協から急な返済を求められて倒産危機に陥ったが、力を合わせて切り抜けていく様子が描かれた。
最終話目前の今だからこそ、「シビアでシリアスな設定なのに笑って泣ける」という難易度の高い作品だったことがわかるのではないか。それを感じ取っていた人々が「今期1番」という声をあげているのかもしれない。
小柄な奈緒が大男と向き合う説得力
一方、放送前は「まだプライム帯の主演は早いのではないか」という声も少なくなかった奈緒は、見事にその声を覆した。終盤を迎えた今、「この役は奈緒以外考えられない」という声すら聞こえてくるから、のちに彼女のキャリアにとって重要な作品になるだろう。
小さな体で大柄で頑固な男たちと向き合い、営業で飲食店を駆け回り、国も動かした和佳。視聴者は小さな体で大男たちにたんかを切り、苦しくても動くことをやめない和佳の姿に、身長157cmの小柄な奈緒を重ね合わせ、妨害工作などの困難が訪れるたびに感情移入していった。
現代の視聴者が連ドラヒロインに求めているのは、以前のようなスターとしての華よりも、親近感と演技力。女優たちのSNSやYouTubeが全芸能人の中でトップクラスのフォロワー数を記録しているように、親近感は必須項目となっているが、その点で奈緒の気さくなキャラクターは申し分ない。
その親近感に加えて、今作で確かな演技力、引いては主演としての説得力を視聴者に印象付けたことで、連ドラ主演の常連になる可能性を秘めている。
『ファーストペンギン!』には、「もう地方の漁師にしか見えない」と言われる堤真一、吹越満、梶原善。さらに「漁師町の女にしか見えない」と言われるファーストサマーウイカも含め、キャスティングがハマっている。これも作品全体の親近感につながるとともに、リアリティを感じさせているのだろう。
民放各局の番組でネタバレ済み
では、なぜ視聴率や配信再生数が伸び悩んでいるのか。
実話ならではのディテールがしっかりしていてリアリティには事欠かないし、森下佳子の脚本でハートフルな作品に仕上がった。言わば、自分事のように考えられる“いい話”なのだが、業界では「“いい話”の印象が濃いほど視聴率や配信再生数は伸びづらい」という傾向がある。また、「“いい話”ほど、どんな最終回に向けて進んでいるのかわかりづらい」という難しさも理由の1つだろう。
“いい話”は「絶対に見たい話」と「見ても見なくてもいい話」の紙一重。「どうしても気になって見てしまう」「他の候補を押しのけてわざわざ見る」という強烈な引力や爆発力に欠けている。
特に当作は、『news zero』『news every.』(いずれも日本テレビ系)、『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日系)、『中居正広の金曜日のスマたちへ』(TBS系)、『奇跡体験!アンビリーバボー』(フジテレビ系)、『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)など民放各局の番組でピックアップされてきた実話の実写ドラマ化。すでに大まかなストーリーがネタバレしていて、「どうなるのだろう」という連ドラ特有のハラハラドキドキがなかった。
10年後の成長した姿にも注目
11月30日放送の第9話は、「もう(さんし船団丸に)ワシの居場所はない」と思い込んでしまった片岡洋(堤真一)が不在の中、和佳は倒産危機を救ってくれたビジネスコーディネーター・波佐間成志(小西遼生)の提案で、浜の船団を一企業化することに動き出す様子が描かれた。
しかし、最後に「浜全体が外国資本に売られた」という衝撃の事実が発覚。これまでとは桁違いの危機に見舞われたところから最終話がスタートする。和佳は帰ってきた片岡らと契約白紙に向けて動き出すが、他の船団が裏切り、事態はさらに深刻化してしまう。
これまで敵対関係にあった漁協組合長・杉浦久光(梅沢富美男)とのタッグは実現するのか。船団の正常な一企業化は成功するのか。和佳と片岡の関係に進展は見られるのかなど見どころは多い。すでに実話を超越するようなスケールの脚色が見られているだけに、特大級のハッピーエンドが期待できるのではないか。
当作のナレーションを担当しているのは和佳の息子・進。ただ、10年後の進が当時を振り返る形で母の奮闘を語っているだけに、最後は「“現在”の和佳や進がどんな生活を送っているのか」も見ものであり、森下佳子にとっては腕の見せどころだ。まだまだ読めない点が多く、これらの出来が最終的な作品の評価を決めるのだろう。