『競争の番人』が「地味・暗い・小さい」と揶揄されてしまうワケ…モヤモヤの正体

 放送前は「公正取引委員会が舞台のドラマは史上初」「同じ原作者の2クール連続放送はフジテレビ史上初(『元彼の遺言状』に続く新川帆立の原作小説)」と“史上初”を大きく打ち出すなどの派手なPRが目立った『競争の番人』(フジテレビ系)。

「坂口健太郎と杏のダブル主演」という強みも含め、華やかな印象を与えていたが、始まってみたら「地味」「暗い」「小さい」などと真逆の声を浴びている。

 では、そう言われてしまう理由は何なのか。ここまでネット上の声を見続けた限り、主人公から各エピソード、登場人物、クライマックスのシーンまで多岐に渡り、その根は深そうだ。

「弱い者いじめ」をする小悪たち

 まず主人公の2人について。当作は、20歳で司法試験に合格し、東大法学部を首席で卒業したひねくれ者の小勝負勉(坂口健太郎)と、実直で感情のままに行動する元刑事・白熊楓(杏)の“凸凹バディ”を売りにしている。これはベタとはいえ、華のある2人が演じるため、何の問題もないだろう。

 さらに「彼らが企業の不正を暴き、弱者を救う」という痛快さも、最近の視聴者が好む世界観であり、権力が弱く「弱小官庁」と見下されながらも戦いを挑む姿勢も共感を誘う。だからこそ『競争の番人』の視聴率や配信再生数は、今夏ドラマの中でも上位の座を得ている。

 ではなぜ「地味」「暗い」「小さい」と言われるのか。その答えは、ここまでのエピソードを見直すと浮かび上がってくる。

 北関東のホテルによるウェディング費用のカルテルや納入業者いじめを描いた第1~3話、世界的電機メーカーの下請けいじめを描いた第4~5話、着物業界の女帝による私的独占疑惑を描いた第6話。ファッション通販サイトの再販売価格維持疑惑を描いた第7話。

 どのエピソードも憎むべき悪人はいたし、最後は小勝負と白熊が不正を暴く爽快感はあった。しかし、その悪人による不正の大半は「弱い者いじめ」がベースのものだけに、エピソード全体が「地味」「暗い」という印象を与えてしまう。

 また、「小さい」と言われる理由は、悪人たちと不正のスケールそのものにある。どれも人々の生活に関連した身近なものだが、だからこそ“巨悪”ではなく“小悪”に見え、小勝負と白熊が成敗したところで視聴者が得られるカタルシスは小さい。「弱くても戦わなきゃいけない」という小勝負の決めゼリフは共感できるものの、それは大きな相手あってこそだろう。

 わかりやすく言うと、『半沢直樹』(TBS系)の大和田暁(香川照之)、伊佐山泰二(市川猿之助)、箕部啓治(柄本明)のような巨悪を感じさせられたら、「地味」「暗い」「小さい」とは言われなかったのではないか。

4年間、保守的だった月9ドラマ

 その「地味」「暗い」「小さい」は、当作のみならず、引いては“月9ドラマ”そのものの制作スタンスにも当てはまる。

 あまり語られていないが、月9ドラマが刑事・医療・法律以外のジャンルを放送するのは、2018年春の『コンフィデンスマンJP』以来4年ぶり。

 その間、『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』『SUITS/スーツ』『トレース~科捜研の男~』『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』『監察医 朝顔』『シャーロック』『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』『SUITS/スーツ2』『監察医 朝顔』『イチケイのカラス』『ナイト・ドクター』『ラジエーションハウスⅡ~放射線科の診断レポート~』『ミステリと言う勿れ』『元彼の遺言状』が放送されてきた。

 この4年間、月9ドラマが“刑事・医療・法律の3ジャンルしばり”で放送されてきたのは、「一定のファン層がいる上に中高年層を押さえられるため失敗しづらい」から。振り返ると2010年代後半、月9ドラマは何度も過去最低視聴率を更新し、ドラマ枠の打ち切り報道が繰り返される危機的状況だった。

 そこで刑事・医療・法律の保守的な3ジャンルで「まずは視聴率を上げよう」という戦略が採られてきたのだが、公正取引委員会が舞台の『競争の番人』はそこから一歩踏み出したことになる。

 ただ、公正取引委員会は内閣府の外局に位置づけられる行政機関。刑事・医療・法律という保守的な3ジャンルの延長線上にあるような舞台の物語であり、小さな一歩を踏み出しただけのように見えてしまう。

 あらためて今年の月9ドラマを見ると、『ミステリと言う勿れ』『元彼の遺言状』が放送された。この2作を見ても、「刑事事件を扱いながらも、少しずつ毛色を変えていこう」という狙いが伝わってくるのではないか。

 フジテレビとしても、「このまま刑事・医療・法律の3ジャンルだけを扱っていたら、いずれ苦しくなる」という意識があるのだろう。だから「できるだけ視聴率を落とさないように、少しずつ慎重に変えていこう」としているのだが、もう少し大きな一歩を踏み出す勇気を持つべきかもしれない。

『HERO』をイメージしたチーム戦

 そんな当作で最大の売りとなっているのが、“公正取引委員会 第六審査”のメンバーによる“チーム戦”。小勝負と白熊に加えて、上司にあたる主査の桃園千代子(小池栄子)とキャップの風見慎一(大倉孝二)、さらに六角洸介(加藤清史郎)、公取出向の検察官・緑川瑛子(大西礼芳)も含め芸達者ぞろいで、チームで戦うシーンは勇ましく、時にコメディパートで笑わせてくれる。

 月9ドラマにおけるチーム戦は、『HERO』『ラジエーションハウス』『イチケイのカラス』などでも見られた得意なコンセプト。さらに原作者・新川帆立も、「“令和版『HERO』”のイメージで、『Can You Keep A Secret?』を聴きながら書いたため、月9ドラマ化が実現してとてもうれしいです」と語っていた。

 ドラマ版はもっと『HERO』のようなユーモアたっぷりのチーム戦を前面に打ち出していけば、「地味」「暗い」「小さい」という声が減るのではないか。

 ドラマではその原作小説を第1~3話にかけて描き、それ以降のエピソードはオリジナルで進められている。第1~3話の放送時、「最初のエピソードが北関東のホテルでは弱いし、3話もかけるのは長い」などと言われ、逆に一話完結でスピーディーに描いた第6話と第7話の評判がいいだけに、まだまだ伸びしろを感じさせられる。

 そして第8話から最終章に突入。いよいよ最大の敵である国土交通省・事務次官の藤堂清正(小日向文世)との戦いが始まっていく。藤堂は小勝負と因縁がある文句なしの巨悪だけに、これまで以上に盛り上がるはずだ。