個人視聴率も世帯視聴率も、春ドラマの中でトップ。さらに、録画視聴を含めた総合視聴率では、全番組の中でトップと、頭一つ抜けた結果を残している二宮和也主演ドラマ『マイファミリー』(TBS系)。
同作を放送する「日曜劇場」と言えば、2010年代以降は福澤克雄監督を中心にした勧善懲悪の脚本とケレン味たっぷりの演出で結果を出し続けてきた歴史がある。それだけに放送前は、「日曜劇場で長編ミステリーはウケるのか?」と不安視する声もあったが、ここまでは何の問題もなかったと言っていいだろう。
しかし、ネット上の盛り上がりは「春ドラマのトップ」と言えるほどのものは見られず、関連記事やSNSなどの動きも長編ミステリー特有の熱狂は感じられない。なぜ『マイファミリー』は「盛り上がっているのか」「盛り上がっていないのか」、いまいちつかみどころのない状態になっているのか。
4度の誘拐を繰り返す脚本の理解度
終盤に突入したことでネット上のコメントが増えてきたのは確かだろう。ただ本来、長編ミステリーの終盤は『最愛』(TBS系)しかり、『真犯人フラグ』(日本テレビ系)しかり、放送日前後のエンタメ系ネットニュースを埋め尽くし、感想や考察の声が飛び交うなど、もっともっと盛り上がるものだ。
つまり、それらの近作に比べて「『物足りない』『今いちノリ切れずにいる』という人がいる」ということだろう。では、どこが「物足りない」「ノリ切れない」理由なのか。
それは「子どもの誘拐をほぼ同じ手口で3度繰り返す」という脚本にある可能性が高い。最初に行われた鳴沢温人(二宮和也)と未知留(多部未華子)の娘・友果(大島美優)の誘拐時は、「警察を排除する」という斬新な物語で引き付け、意外な早期解決も含めて、好意的に受け止める声が多かった。
ところが、三輪碧(賀来賢人)と沙月(蓮佛美沙子)の娘・優月(山崎莉里那)、阿久津晃(松本幸四郎)と絵里(森脇英理子)の娘・実咲(凛美)の誘拐がほぼ同じ手口で行われたことで、「またか……」「主人公や警察がアホすぎる」などとしらけてしまった視聴者は少なくない。
温人は犯人に翻弄されて右往左往し、同じように大金を奪われ続けていく。さらに、「質問は受け付けません。拒否すれば○○さんを殺します」などの冷酷な電話音声が繰り返され、けっきょく犯人はつかまらない。それどころか、「東堂樹生(濱田岳)の娘・心春(野澤しおり)も誘拐されていた」という同じ展開が用意されていた。
「4つの誘拐事件が繰り返されていく」という展開は意表を突くものであり、被害者の4家族が感情を激しく揺さぶられる様子が描かれている。このプロット(あらすじ)を考えた脚本家とプロデューサーは、「これはおもしろい」とかなりの自信を抱いたのではないか。それほど稀有で緻密な脚本なのだが、視聴者が「4つの誘拐事件や、それに振り回される4家族の心理描写をしっかり見て理解できる」とは限らない。
何気なく見ていると、その稀有で繊細な脚本に気づけず、「また同じことが繰り返されている」と退屈を感じてしまいかねない。そんなリスクのあるプロットだったのではないか。
子どものためなら親友の子を誘拐?
そして終盤に突入したここにきて、「それはどうなの?」というツッコミどころを指摘する声が増えてきた。
5月29日に放送された第8話では、温人に追及された東堂が鳴沢友果と三輪優月の誘拐を自供。ところがその理由は、「娘・心春を誘拐した犯人をあぶり出すために模倣犯を演じた」というものだった。
子どもを誘拐される苦しみを誰よりも知っているはずの東堂が、その苦しみを親友たちにも与えられるのか。「子どものためだったら何だってする」という理由で、最も嫌う犯罪であるはずの「幼い子どもを誘拐する」ことができるのか。そんなツッコミがネット上に書き込まれていた。
また、「犯人にとって完全にノーリスクの誘拐だ」という東堂のセリフにも、「けっこう荒っぽい手口に見えるけど」「何で警察に気づかれないのかわからない」などとツッコミを入れる声が見られた。
そして、さらに象徴的なツッコミは、第8話の物語全体への「ほとんど同じシーンで進展なし」というもの。「東堂の自供に伴い、繰り返された3回の誘拐を種明かししながらもう一度振り返る」という、これまで見てきたシーンをなぞる筋書きに物足りなさを訴える声が少なくなかったのだ。
とはいえ、これらのツッコミどころは、特に『真犯人フラグ』には多かったものであり、「長編ミステリーにはつきもの」とも言える。この先の物語でツッコミどころを忘れさせるくらいのおもしろさがあれば、「何の問題もなかった」「あれくらいは許容範囲だった」と手のひら返しされる可能性もありそうだ。
結末のハードルは上がる一方
物語は「何で実咲ちゃんのときだけ(犯人が)自分の手で誘拐する必要があったのか」という謎を提示して第9話を迎える。その予告映像には、「最後の誘拐…狙われたのは妻!?」の文字があった。
未知留は妊娠中だけに、本当に誘拐されるとしたら、それは煽情的なシーンにほかならない。しかし、そんな視聴者の心を強引に揺さぶるような煽情的なシーンは、これまで「ノリ切れない」と言われた理由の1つだった。
たとえば、犯人の電話音声である「○○さんを殺します」というフレーズは、その最たるところであり、連呼することで煽情的な印象を与え、嫌悪感を抱いた人の声も散見された。クライマックスを盛り上げるために、これまで以上に煽情的な誘拐シーンを描こうとしているのか。それとも、これまでとは異なる展開を用意して驚かせてくれるのか。制作サイドにとっては腕の見せどころだろう。
ただ、「子どもの誘拐」というワンテーマでここまで風呂敷を広げた以上、視聴者を納得させる結末へのハードルが上がっているのは間違いない。できれば大団円にしたいところだが、「5年前に誘拐された心春が今でも生きているのか」という点での落としどころは難易度が高そうだ。
もともと「長編ミステリーの犯人は第1話から出ていた人で、人物相関図にも載せていた人であるのが望ましい」というセオリーがあり、それを守らなければ視聴者は納得しないだろう。その意味であやしい人物は、すでに3~4人程度に絞られているが、どんな結末が用意されているのか。
豪華キャストの熱演や精力的なロケなど、随所に努力と苦労の跡が見えるだけに、「名作だった」と言われる結末を期待したい。