あまり報じられていないが、日本テレビが厳しい状態に追い込まれ始めている。
日本テレビと言えば、2010年代の世帯視聴率争いでトップを走り続けていたほか、独自に進めていたスポンサー受けのいい13~49歳の個人視聴率でも独走状態。「もはや他局は追いつけないほど差が広がってしまった」とも言われていたが、現在は民放主要4局の争いにほぼ吸収され、それどころか「最も危ういのではないか」という声すら聞こえてくる。
そんな日本テレビの危うさは今春の改編にも表れていた。改編の主な内訳は、『しゃべくり007』が月曜22時台から21時台に移動し、空いた22時台には『月曜から夜ふかし』が24時台から移動。空いた24時台には新番組『午前0時の森』がスタートし、火曜の同時刻にも放送されている。
また、水曜21時台に新番組『上田と女が吠える夜』がスタート。さらに土曜19時台の『I LOVE みんなのどうぶつ園』を『嗚呼!!みんなの動物園』にリニューアルし、続く土曜20時台の『世界一受けたい授業』も放送内容をリニューアルした。
今のところ他局のテレビマンたちは、この改編を「ツッコミどころだらけ」「日テレが焦っているのではないか」と見ている。「自局の状況も決していいとは言えないものの、日テレの凋落が思った以上に大きい」というのだ。
好調の『夜ふかし』に忍び寄る不安
まず月曜の改編だが、月曜19時台の『有吉ゼミ』と20時台の『世界まる見え!テレビ特捜部』は、日曜同時刻の『ザ!鉄腕!DASH!!』『世界の果てまでイッテQ!』と並ぶ日本テレビ最大の強みであり、これに続く「21時台の番組が課題」と言われていた。そこに以前より数字は落ちたとは言え、ゲストのキャスティング次第で浮上も期待できる『しゃべくり007』が据えられた。
空いた22時台に移動した『月曜から夜ふかし』は、数字こそ獲れているが、評判は必ずしも良くない。やはりプライム帯に移動したことで、「おバカさはそのままでも、エロさ、グロさ、失礼さなどが薄まった」「深夜時代のキャラクターを消費しているだけ」という声が決して少なくないのだ。
そもそも22時台は日テレが他局に惨敗を喫することも多い鬼門の時間帯。だから「日テレにとっての切り札である『月曜から夜ふかし』に頼った」というニュアンスもあり、それを使わざるを得なかったところに切迫した状況が表れている。
次にリニューアルした土曜の2番組だが、『嗚呼!!みんなの動物園』の劇的な変化には他局から驚きの声があがっていた。これまでは動物にフォーカスした番組だったが、リニューアルで主役になったのは「動物を深く激しく愛する人=ガチ恋さん」。つまり、動物番組なのに人間にフォーカスしているのだ。
これはグルメ番組なのに店主にスポットを当てて成功を収めている『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』(中京テレビ・日本テレビ系)と同じコンセプトと言っていいだろう。前述した驚きの声は、「日本テレビは系列局である中京テレビの番組をマネするのか」という意味によるところが大きい。さらに、このところ芸能人企画ばかりになるなど、早くもコンセプトがブレてしまうところにも危うさを感じさせられる。
開始早々ケチがついた2つの新番組
『世界一受けたい授業』は、「番組開始当初の原点に戻って“スター先生”の発掘、“ホンモノ”の先生が出演」「“世界に誇れる日本の天才”を紹介するなど、家族そろって楽しめるアカデミックバラエティを目指す」というコンセプトを掲げているが、「何が変わったのかわからない」「リニューアルに気づいていない」という人ばかりのところが苦しい。
どちらの番組もスタッフの制作体制が変わったのだが、それは視聴者には関係のない話。何度も内容を変えて放送を続ける『行列のできる相談所』を筆頭に、「打ち切らずにリニューアルで現在のスポンサーをキープしていこう」という日テレならではの戦略が見える。
しかし、同社内でも「『このやり方が通用しなくなっている』という声があがり始めている」ことを耳にした。現場を任されるスタッフは一生懸命だが、以前ほどの自信や自由がなくなっているのではないか。
新番組に目を向けると、水曜21時台の『上田と女が吠える夜』は、低調なスタートに終わっているほか、「内容がフジテレビの『トークィーンズ』、TBS(CBC)の『ドーナツトーク』と似ている」という指摘が次々にあがっている。
『午前0時の森』に至っては、スタート前のパイロット版で出演者の差別発言があり、生放送から収録に路線変更。「何が起きるかわからない」を売りにした番組だけに、いきなり目玉のコンセプトを失ってしまい、新番組としての存在意義が薄れてしまった。
他のバラエティを見ても、昨秋にスタートさせた『ひと目でわかる!!』『おしゃれクリップ』はここまで低調続きで、前番組を下回る存在感のまま放送されている。『世界の果てまでイッテQ!』『鉄腕!DASH!!』が以前ほどの数字を残せていないことなども含め、日テレ自慢のバラエティが他局と変わらないレベルまで落ちてきているのは間違いないだろう。
「ドラマを軽視」する戦略のツケ
そしてもう1つ、「日テレが危ういのではないか」と言われる理由の1つがドラマの弱さ。日本テレビは「ゴールデンタイムのほぼすべてをバラエティで埋めてコア層(13~49歳)の個人視聴率を狙う」という戦略を敷いてきた。ちなみに唯一の例外である『金曜ロードショー』を除く、21番組中20番組が1時間枠のバラエティだ。
日本テレビは「ドラマは数字が獲れないため22時台のプライムタイムに繰り下げた」のだが、ここにきてドラマをめぐる業界の空気感が一変した。放送での広告収入が下がり、配信での広告収入を上げる必要性に迫られているのだが、配信ではドラマが圧倒的に強く、現状のバラエティはほとんど再生数の上位ランキングに入ってこない。
さらに、NetflixやDisney+などでの世界配信による収入を得ていく必要性もあるのだが、こちらもドラマのほうが圧倒的に強く、バラエティとは大きな差がある。
つまり、「今後テレビ局は、ネットによる広告収入と海外配信収入を得なければ経営が厳しくなる」ということであり、ドラマの制作力と人気で他局に劣る日本テレビにとっては先行きが厳しいと言わざるを得ないのだ。今春はフジテレビ、TBS、テレビ東京がドラマ枠を新設するなど、他局がますますドラマに注力していることも日テレの危うさを物語っている。
2020年春の視聴率調査リニューアル以降、他局も日本テレビと似たターゲット層を設定してバラエティ制作を進めたことで、2010年代に得ていたアドバンテージはほとんど消えてしまった。逆に、日本テレビのバラエティが長寿番組化したことで以前より数字が獲れず、飽きられ始めているのもつらいところだ。
このまま他局との団子レースに巻き込まれ、ドラマで後手を踏んでいくのか。戦略を見直すことで再び業界のトップを走るのか。同局にとって大事な局面が訪れていることは確かだろう。