山下智久主演ドラマ『正直不動産』原案担当者の知られざる仰天エピソードとは?

 4月5日にスタートするドラマ正直不動産』(NHK/22時~22時45分)。「嘘をつけなくなった不動産会社の営業マンが正直に話をする」という内容で、多くの人が知らない不動産業界の内幕を描いた作品だ。

『ビッグコミック』(小学館)に連載中の原作漫画の原案担当である夏原武さんは、ドラマ&映画化された『クロサギ』の原案も担ったヒットメーカーである。

「裏社会を描いたら右に出る人はいない」――私がこう感じたのは20年ほど前だった。

「救急車を呼べ! 逮捕はされないから」

 当時、私は“チーム夏原”の一員として仕事をさせていただいた。それまで出会ってきたライターとは異なり、夏原さんの筆力や取材力、人脈、知識、経験値などは群を抜いており、私の周囲全員が「凄い人だ」と感じていた。

 闇金や賭博、債権回収など、あらゆる裏社会に精通する夏原さんの指示は的確で、ムック本としてシリーズ化された。私も末席に携わらせていただき、未経験のジャンルで多数の経験をさせていただいた。

 密猟がテーマの原稿を担当したときのこと。私のルートでツテを頼るも取材先が見当たらず、夏原さんに相談をすると、いとも簡単にセッティングしてもらえたが、こんなことは序の口だった。

 右翼をテーマとした1冊では、巻頭原稿で右翼の歴史を一般人にもわかりやすく表現する。5万字ほどの膨大な分量にもかかわらず、飽きずに読めるのである。

 一字一句を大事にする感性も学べた。つい先日、夏原さんはロシアによる「ウクライナ侵攻」という新聞の見出しを「侵略としてほしかった」とツイートしたが、こうした観点が非常に勉強になった。

 ドラッグをテーマとした本の制作後、私はマジックマッシュルーム(現在は違法だが、当時は合法で販売されていた)を体験したくなり、2枚ほど口にした。数分経っても効かないので、一気に5枚口に入れ、一息ついた次の瞬間、頭の中のモードが一気に変わった。

 1分、2分と経つうちに急激に気分が悪くなり、「やばい!」とパニック状態。動転して、すかさず夏原さんに電話をすると「とにかく水を飲め! 我慢できなかったら救急車を呼べ! 逮捕はされないから」と的確なアドバイスをもらった。

 夏原さんの指示通りに大量の水を口にすると、症状はやや軽くなった。しかし、平常にはほど遠く、救急車を呼んでどうにか助かった。

 あのときの私は何の知識も持たず、単なる好奇心で危険な物に手を出した。逆に、夏原さんは、その危険性を専門書や取材で把握していた。

 半年後。あまりにアホすぎる大失敗を、夏原さんは酒の席で笑いに変えてくれた。

構想2年、ひらめいたギミック

“チーム夏原”が終わった後、夏原さんが漫画原作を手がけた『クロサギ』が大ヒット。シリーズ累計800万部を超えて小学館漫画賞を受賞した同作は、山下智久さんの主演でドラマ化や映画化された。今回の『正直不動産』も、再び山Pの主演である。

 この原稿を記すため、久しぶりに夏原さんに連絡すると、声を弾ませて当時の思い出を語ってくれた。漫画原作を4本も抱えているのに、気がつけば2時間も話に花が咲いた。

「『正直不動産』の構想には2年かかったよ。不動産営業は、嘘をつきたくないと思っていても、実際は裏腹の言動をしなくてはならないときもある。主人公に自然に本音を語らせる設定を、どうすればいいか。半年以上悩んだけど、あるとき、祟りをギミックにする設定がひらめいたんだ。ほら、よく神社に『小便をするな』などと書かれているよな。あのイメージだ」

 ストーリーの土台に時間をかけた苦労が報われ、『正直不動産』はドラマ化されるまでのヒット作となった。

 物書きの世界は千差万別だ。私を含め、名もないライターは締め切りや字数を気にしてしまい、ついクオリティを後回しにしてしまいがちだが、ヒット作を生む作家は何よりも作品の質を優先する。取材にかかる時間や費用は惜しまない。

 夏原武という人物から、私が学んだ姿勢である。

不動産で騙されやすいタイプとは?

 あるインタビューで、夏原さんは次のように語っていた。

「頭がいいには『頭が切れる』と『頭が強い』があります」――「頭が切れる」とは高学歴の秀才タイプだが、プライドが高いので知ったかぶりをする。後者は勉強は得意でないが知恵や知識が豊富で、知らないことを知ろうとする欲求が大きい、と。

 前者は「不動産で騙されやすいタイプ」とも語っていたが、それを読み、後者こそ夏原さんである、と感じずにはいられなかった。

 多くの業界人に話を聞き、知見を高め、作品に反映する努力を重ねてきた。そこに加えて、誰もまねのできないオリジナリティがあるからこそ、ヒット作は生まれるのだ。

 これから社会に出る若者を筆頭に、老若男女問わず「夏原武の作品」に触れてほしい。学校では学べない「真の社会勉強」ができること、人生において必ず役に立つことを、ここで保証する。

* * *

 世界がコロナに襲われる直前、夏原さんの還暦を祝う会で“チーム夏原”は20年ぶりに集まった。他のメンバーもライターや編集者として、今も業界で仕事を続けている。

 その席で夏原さんは「君たちが当時、協力してくれたおかげで今の僕がある」と、私たちに感謝の意を述べてくれた。メンバー全員が、夏原武という人物に勉強をさせていただいた。こちらこそ感謝である。

(文=小川隆行/フリーライター)