夫・渡部建の復帰で図らずも注目を集めてしまうなど、昨年からすっかり幸薄い印象がついてしまった佐々木希。相変わらず「キレイ」「かわいい」という声は多く、インスタグラムのフォロワー数も事実上の女優トップでありながら、演技力を疑問視する声がなかなか減らないという微妙なポジションに甘んじている。
しかし、今冬の『ユーチューバーに娘はやらん!』(テレビ東京系)では、このところの佐々木希自身がオーバーラップするような幸薄い32歳のOL・平千紗を熱演。
第1話では、「結婚式当日、婚約者に逃げられてしまい、しかも相手は男性だった」という2重のショックを受けながらも1人で披露宴をやり切るヒロインを演じて思わぬ感動を誘った。実際、この1カ月間あまりだけで、当作を絶賛するドラマ関係者の声を4人も聞いたくらいだ。
その後、物語は披露宴を見て心を動かされたユーチューバー・タックタック(戸塚純基)とテレビマンの榎本信(金子ノブアキ)が千紗に惹かれていく……という展開で進んでいくのだが、それでも佐々木希演じる千紗は幸薄いイメージを引きずったままだ。
前述した4人のドラマ業界関係者が佐々木希と当作を評価した理由は、「過去最高のハマリ役であること」「深夜ドラマらしい脱力感と深夜ドラマとは思えない作り込み」の2点だった。
近年の主演作では幸薄い役がハマらず
佐々木は『ユーチューバーに娘はやらん!』と同じ時期に、朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK)にもゲスト出演。彼女が登場したとき、多くの視聴者は「主人公・るい(深津絵里)と錠一郎(オダギリジョー)の恋路を邪魔する存在ではないか」と怪しんだが、実際は錠一郎の病気や今後を心配する素晴らしい女性だった。
ほとんど怪しい描写がなかったにもかかわらず視聴者から疑われた理由は、「佐々木希=美人」という世間のイメージにほかならない。「ここで佐々木希を投入したのは横恋慕させるためだろう」という、いわば“ビジュアル女優”のようなポジションとみなされていたのだ。
しかし、『ユーチューバーに娘はやらん!』で不幸続きでも明るい千紗を演じる佐々木を見て、「この役の方がフィットしているかもしれない」という声があがっている。これは夫の一件から佐々木のイメージが変わったことを意味しているのではないか。
実は2018年に放送された主演ドラマ『デイジー・ラック』(NHK)でも佐々木は、勤務先が倒産し、恋人にも振られてどん底の幸薄い女性を演じていた。ところが佐々木は同作の放送前に第一子妊娠を発表。さらに放送時は出産を控えた幸せいっぱいの状態であり、「ミスキャスト」という声が飛んでいた。
さらに佐々木は、もう1年さかのぼった2017年の主演ドラマ『雨が降ると君は優しい』(Hulu)でも「セックス依存症に苦しむ妻」という幸薄い役に挑戦。体当たりの演技は業界内で評価されながらも、配信ドラマのため視聴者が少なかった上に、「Huluだから見ないけどミスキャスト」などの辛らつなコメントが目立った。
本人は不本意かもしれないが、プライベートでの不幸な出来事があったことで、これまでのイメージから逃れられ、幸薄い役がハマったのかもしれない。今後も幸薄い女性の役を演じやすいのはもちろん、さらに「今なら不倫される女性の役ですらオファーを快諾し、難なく演じ切るのではないか」と思わせられる。
テレビとYouTubeを合わせたような映像
女優は必ずしも自身の演技力だけで勝負できるとは限らず、「自分が視聴者にどう見られているか」のイメージに左右されやすい職業。前述したドラマ業界関係者の1人は、「決して皮肉ではなく、夫の一件があったことで、逆に佐々木希のこれからが楽しみになった」と語っていた。
ドラマ業界関係者が当作を評価していた「深夜ドラマらしい脱力感と深夜ドラマとは思えない作り込み」も、佐々木の演技を確実に盛り立てている。
とりわけFCC(フジクリエイティブコーポレーション)時代に、『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』『リッチマン、プアウーマン』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などのチーフ演出を務めた西浦正紀の手がける映像が凝りに凝っている。
まず目を引くのは、テレビ番組とYouTube動画を組み合わせた上で、その中間をゆくような映像と、切れ間なく詰め込まれた底抜けの明るさとバカ。さらにカット割りの細かさと、画面装飾や効果音などのディテールに対する仕事数は見たことがないほど多い。その上で各話のクライマックスは、恋の甘酸っぱさと切なさをほのかに感じさせている。
たとえば、2月28日に放送された第6話の「平家バレンタイン選手権」も、佐々木希、若月佑美、斉藤由貴の告白寸劇は熱量たっぷり。優勝した斉藤由貴の三つ編みおさげ+セーラー服姿での告白はインパクト十分だった。
ただ正直なところ、一本の良質な舞台喜劇を見ているようなクオリティがあった第1話が圧巻であり、それを超えるものは見られていない。恋の三角関係が盛り上がる終盤でそれが見られるか。そのとき佐々木希はどんなヒロインを演じているのか。もっともっと多くの人々に見てもらいたい作品であることは確かだ。
(文=木村隆志/テレビ・ドラマ解説者、コラムニスト)
●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。