『アンナチュラル』にはない唯一無二の魅力…『MIU404』が特別な作品となった理由

※前編はこちら。

MIU404』(TBS系)はもともと全14話で、2020年4月から放送が始まり、東京オリンピック・パラリンピック開催直前まで放送される予定だった。

 しかし、コロナの影響で撮影が一時中止となり、第1話の放送も6月26日まで延期され、全11話に短縮された。撮影が止まった影響でスケジュールは圧迫され、当初のプランが大きく変わったことは本編を観ていると想像ができる。何より、オリパラが1年延期されたことの影響は大きかったのではないかと思う。

 たとえば最終話(第11話)の冒頭にはオリンピック開催に反対する人々が登場し、志摩一未(星野源)がオリパラの影響で街がキレイになる一方、排除されるホームレスがいることを指摘する場面がある。もしかしたら本来の最終話では、オリパラをめぐる本格的な物語が用意されていたのかもしれない。

 タイトルの「MIU(ミュウ)404」は、機動捜査隊を意味する「Mobile Investigative Unit」と、主人公の伊吹藍(綾野剛)と志摩のコールサイン「404」から取られたものだ。同時に、インターネット上に存在しないページを示す「404 not found」(404エラー)とのダブルミーニングになっており、「存在しない」ことにされている事件や社会的弱者を表していた。だが、皮肉なことに当初の物語自体が「404 not found」となってしまった。

 コロナ禍の影響もあってか、本作の構成は歪で、物語の純粋な完成度だけで言うならば、同じチームで作られた『アンナチュラル』(TBS系)より一段落ちるというのが正直な印象である。ただ、『アンナチュラル』にはない唯一無二の魅力が『MIU404』にはある。

 コロナ禍に直面した脚本の野木亜紀子たちドラマの作り手が、いかにして2020年の現実と対峙したかという、リアルタイム・ドキュメンタリーとしての魅力である。

『MIU404』ラスト2話が描いたものとは

 それが最も強く表れていたのが、久住(菅田将暉)との対決が描かれた10~11話だ。

 久住は違法ドラッグ「ドーナツEP」の元締めとして登場する謎の男。違法カジノを経営するエトリ(水橋研二)を裏から操っていたが、彼が逮捕されると、爆弾を搭載したドローンで殺害する。久住を追う伊吹と志摩は動画配信者の特派員REC(渡邊圭祐)を通してPC越しに正体を探ろうとするが、逆に刑事だとバレてしまう。

 久住はRECのPCをハッキングし、ドローンを用いた連続爆破テロの虚偽映像をSNS(つぶったー)で拡散する。「テロ実行犯はメロンパンの車に偽装!目撃者求む!!!#MIU404」というつぶやきが拡散され、#MIU404というハッシュタグがSNSにあふれかえる。

 他の野木亜紀子作品と同じように『MIU404』はSNS(ツイッター)で多くつぶやかれていた作品だったのだが、このシーンが放送されたときは現実のツイッターでも#MIU404という言葉が多数拡散され、その時間のトレンド第1位となった。

 久住が起こしたインフォデミックをなぞるかのように、現実でも『MIU404』に関するつぶやきがあふれかえる状況は壮観だったが、同時に、今のドラマブームを牽引する断片の情報から作中の謎に関心を向かわせる「考察」と、虚偽の情報や誹謗中傷を人々が信じて拡散する「インフォデミック」は表裏一体の欲望なのだと、作り手自身が暗に告白しているかのように見えた。

 久住はインフォデミックの権化と言える悪魔的存在だが、彼の手口は野木が得意とする、断片的な情報を散りばめることで人々の考察を刺激する作劇手法と紙一重のものである。その意味で『脚本家・野木亜紀子の時代』は「インフォデミックの時代」と言い換えることも可能だろう。

 インフォデミックと対峙した10話に対し、最終話は「コロナ禍」と向き合った物語だった。東京湾マリーナで久住と対峙した伊吹は、志摩が撃たれたことに逆上し、久住を拳銃で撃ってしまう。

 その後、時間は早送りされ、2020年7月24日となる。オリンピックが開催され街が賑わう中、行方不明となった志摩と伊吹を心配する仲間たちの会話が挟み込まれる。

 その後、時間は現在(2019年10月15日)に巻き戻る。眠らされていた伊吹と志摩は目を醒まし、屋形船で逃げる久住を逮捕する。つまり、物語が分岐されてバッドエンドを見せた後、真のエンディングを見せるというゲーム的な構成なのだが、おもしろいのは、伊吹が久住を撃った世界ではコロナは存在せず、オリンピックも無事開催されていること。

 久住を逮捕した後、劇中の時間は2020年7月となり、マスクをつけている2人が登場する。最後の最後で物語は現代に追いつき、コロナ禍の東京を生きる伊吹と志摩の姿が少しだけ描かれた後、誰もいない国立競技場を上空から映して幕を閉じる。

 物語のスタートが2019年だったからこそ成立したアクロバティックな演出だったが、一度追い抜かれた現実に追いつき、再びコロナ禍の現実と対峙するという、作り手の意思表示がはっきりとわかるエンディングだった。二転三転するサスペンスやテレビドラマ史に残る久住の悪役ぶりなど、見どころはたくさんあったが、何より「現実と向き合うことから逃げない」野木亜紀子の作家としての矜持に感動した。

 この10話と11話があったからこそ『MIU404』は特別な作品となったのだ。

(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)