史実に忠実/歪曲?『ウマ娘』競馬ファンに賞賛派・アンチ混在のワケ…根深い問題も

 実在した競走馬を美少女化したキャラクター・ウマ娘たちが人気となり、ゲームやアニメが大ヒット中のメディアミックス作品『ウマ娘 プリティーダービー』。10月末時点のスマホアプリのダウンロード数は1100万を突破し、12月に放送された『2021 FNS歌謡祭』(フジテレビ系)にもウマ娘を演じるキャスト7名が出演するなど、話題が尽きないコンテンツだ。

 そんな『ウマ娘』の魅力は、美少女化した競走馬たちのキャラクター性ももちろんだが、史実の競馬に対する熱いリスペクトにもある。劇中に登場するウマ娘には、モデルとなった競走馬の性格やエピソードが反映されており、シナリオやレースの多くは史実に則った内容となっている。こうした競走馬に対しての敬意を忘れない姿勢が功をなし、競馬を知らないライト層だけではなく、生粋の競馬ファンのなかにも本作を高く評価する人は多いようだ。

 しかし、すべての競馬ファンが温かく応援してくれているわけではなく、『ウマ娘』に批判的なスタンスの競馬ファンがいるのも事実。ネット上では、“美少女化しているため実際の競馬とは別物に見える”“史実を歪曲している”といった否定的な意見も目立つ。

 また11月10日には、運営元である「Cygames」が“著しく競走馬のイメージを損なう二次創作が見受けられる”として、二次創作のガイドラインを厳格に指定したことが話題となった。ネット上でファンから非難されている性的嗜好を煽るような過激な二次創作に対して、運営側もかなりデリケートになっているようだ。

 このように『ウマ娘』には、“史実をリスペクトするウマ娘を支持している競馬ファン”と、“史実には則っているかもしれないがウマ娘には否定的な競馬ファン”という、大きくふたつの派閥の存在を確認できる。そこで、今回は競馬評論家・血統研究家である生駒永観氏に、『ウマ娘』のリスペクト表現に対する競馬ファンや競馬関係者の率直な反応について聞いた。

競馬関係者としても『ウマ娘』のリスペクト表現はアリ?

 そもそも、競馬関係者として実際の競走馬が擬人化して美少女になっていることに抵抗はないのだろうか。

「『ウマ娘』というコンテンツを初めて知ったときは、さすがにビックリしました。牝馬(雌の馬)だけでなく牡馬(雄の馬)まで美少女化しているのかと。最初は抵抗がありましたが、競馬業界にもウマ娘ブームが到来していたので、とりあえずスマホアプリをダウンロードし、その後テレビアニメも観てみました。すると、思っていた以上に史実に忠実だったり、キャラクターの育成やレースが面白かったりしたので競馬へのリスペクトは感じられましたね。ですから現在はあまり違和感ないですし、当然私は批判的な気持ちもありません」(生駒氏)

 確かに『ウマ娘』では、競走馬が歩んできた歴史を丁寧になぞり、敬意や愛を感じさせるシーンが多い。なかでも、テレビアニメ第2期におけるトウカイテイオーの「有馬記念」での復活劇は、多くの感動を呼んだエピソードだ。

「史実のトウカイテイオーは、1993年12月26日に開催された『第38回有馬記念』で、怪我の影響で1年間のブランクがあったにもかかわらず、見事優勝を果たしました。アニメでもその経緯が丁寧に描写されていたため、モデルとなった競走馬がこれほどすごい馬だったということが伝わりましたので、競馬関係者としては嬉しい限りでした」

 一方、『ウマ娘』では史実とは異なる“IF”の世界を描いているシーンも少なくない。たとえば、1998年11月1日に開催された「第118回天皇賞」におけるサイレンススズカが挙げられる。

「サイレンススズカは、レースの途中、足を骨折してしまいレース場で安楽死という措置がとられてしまったことで、当時の競馬ファンを深い悲しみの底へと追いやりました。テレビアニメ1期でも、史実通りサイレンススズカはレース中に骨折してしまいますが、死には至らず長期に渡るリハビリを経た後、無事にレースに復帰しています。当時から“もし、あのとき故障しなければ今後どんな走りを見せてくれたのだろうか”とは何回も思っていたので、アニメやゲームの劇中で、サイレンススズカの夢の続きが見られることはとても嬉しいです」

 なるほど。必ずしも史実通りでなくとも、競馬ファンが夢見ていたようなIF展開などであれば、改変を受け入れられる人も少なくないということか。また、特定の競走馬の活躍ばかりにフィーチャーしない公平な視点を持っていることも、ウマ娘の魅力であると生駒氏は語ってくれた。

「テレビアニメ1期の終盤では、サイレンススズカが『ウィンタードリームトロフィー』というアニメオリジナルのレースに出走しますが、一緒に出走したスペシャルウィークやグラスワンダーをまとめて負かすことはありませんでした。史実を無視して特定の馬を無理やり勝たせてしまうと、他の競走馬への配慮が足りないと感じてしまいますが、アニメではレースの結果を上手くぼかしており、しっかりと配慮されていましたね」(生駒氏)

競馬ファンが懸念している“二次創作”の過激性描写問題

『ウマ娘』では、エルコンドルパサーがプロレス好き、アグネスタキオンがマッドサイエンティストのように描かれているなど、登場するウマ娘によっては史実とはあまり関係ないようなキャラ付けがされている。そういった要素が、コアな競馬ファンは気になってしまうのかもしれない。

「私見ではありますが、史実から抽出できる要素が少ない競走馬の場合、史実への忠実性を優先して地味なキャラクターになるよりは、どんなかたちであれ一目見ればわかる個性をはっきり描くほうが良いと感じます。ただ、史実で強いとされていた競走馬がゲームで弱くなっていると少し違和感を覚えてしまいますね。ゲームのバランスを考えると仕方ないのかもしれませんが……」(生駒氏)

 キャラクターの強さにばらつきがあるのはやむを得ないと語った生駒氏だが、競馬ファンの間ではやはり“あの問題”を危惧している声が大きいと指摘する。

「競馬ファンが最も懸念しているのは二次創作についてでしょう。運営側はしっかりとしたガイドラインを定めていますし、ファンの多くも順守していますが、一部ではガイドラインの範囲を超えた性的に過激な表現をしている二次創作なども見受けられます。キャラクタービジネスのコンテンツにおいて、そのような度を超えた創作をするファンが出てくるのを止めるのは難しいですが、自分の愛した競走馬が性的な二次創作の対象になることを好ましいと感じる競馬ファン、関係者はあまりいないと思いますね」

 運営は競馬ファンに配慮した対応を行っているが、一部のファンによる過激な二次創作は競馬業界全体のイメージダウンにつながる懸念もあるだろう。では、Cygamesは今後『ウマ娘』を運営し続けていくために、競馬業界とどう付き合っていけばよいのか。

「より競馬業界を盛り上げるような行動をして、競馬をリスペクトしていることを強調し続けていけば、今まで敬遠していた競馬ファンにも理解の輪が広がるのではないでしょうか。個人的には、売上金の一部を引退した競走馬たちが数多く在籍している『引退馬協会』などに寄付するなどして行動に移せば、作品のイメージも上がっていくと思いますね」

 ウマ娘は確かに競走馬へのリスペクトを忘れずに、競馬の魅力を世の中に発信し続けている。しかし、一部の競馬ファンが危惧するように二次創作の問題に関しては、シビアに考えていくべきなのかもしれない。『ウマ娘』というコンテンツを続けていくために、競馬関係者とは常に緊張感をもって関係を築いていかなければならないだろう。

(文・取材/A4studio)