29日、小倉競馬場で行われた小倉日経オープン(OP、芝1800m)は、3番人気のプリンスリターン(牡4歳、栗東・加用正厩舎)が勝利。本馬にとっては2019年9月以来、約2年ぶりとなる嬉しい復活星となった。
「調教で能力があるのはわかっていました」
そう話すのは、勝利の立役者となった松若風馬騎手だ。「ちょっとタイミングが悪かったけど、リカバーできました」と振り返った通り、スタートはやや出遅れ気味だったが、鞍上が上手く促して好位へ。
残り1000mを切った辺りからじょじょにポジションを上げると、4コーナーでは2番手まで浮上。最後は2着ダブルシャープとの追い比べを制して、久々の美酒に酔った。
2歳の朝日杯フューチュリティS(G1)では、15番人気の低評価を覆して5着に好走。シンザン記念(G3)2着や、アーリントンC(G3)3着といった経験のある実績馬が、秋の大舞台に向けて再び賞金加算に成功した格好だ。
「この馬の根性を活かした松若騎手の好騎乗が光りましたね。『前回はゲートで暴れた』と話していた通り、前走の米子S(L)はスタートで後手を踏んで後方からの競馬になってしまいましたが、今回は上手にリカバリーして好走パターンに持ち込んでいました。
プリンスリターンの父ストロングリターンが安田記念(G1)を勝ったのは6歳春。奥手の血統だと思いますし、賞金加算に成功したことからも今後が楽しみな存在になりそうです」(競馬記者)
ただ、そんな華々しい復活劇の一方で、この結果を複雑な思いで受け止めているであろう騎手がいる。元主戦の原田和真騎手だ。
「誰よりも、この馬の力を出せる騎乗ができる自信はあります――」
原田騎手がそんな力強い言葉を残したのは、昨年の2月のことだ。原田騎手とのコンビで朝日杯FSを5着、シンザン記念を2着と好走したプリンスリターンに海外遠征の話が舞い込んだのだ。原田騎手にとっても、勝てば初重賞が海外G1になるビッグチャンスだった。
当時、前年の平地3勝のうち2勝がプリンスリターンという、まさにどん底にいた原田騎手にとって、騎手人生を変えるような出来事が本馬との出会いだったに違いない。そして、美浦所属の原田騎手もプリンスリターンの調教のために栗東に滞在するなど、このコンビに懸けていた。
しかし、国内に専念することになったプリンスリターンは4月のアーリントンCで3着したものの、本番のNHKマイルC(G1)で15着に大敗……その後も勝利から遠ざかり、今年6月の米子Sでついに松若騎手に乗り替わった経緯がある。
「自身があの手この手を尽くして勝たせることができなかったプリンスリターンを、松若騎手が乗り替わって2戦目で復活させたことに、やはり原田騎手には騎手として思うところはあるでしょう。
プリンスリターンが低迷する中、自身の気持ちも切れてしまったのか、今年2月には油断騎乗で2着から3着に抜かれるというアクシデントもありました。原田騎手にとっては前年の9月以来、久々の上位人気馬の騎乗だったのですが……。
今週は札幌で乗りましたが未勝利。これで今年はわずか1勝で、3月から現在66連敗中になります。厳しい状況にあることは確かですが、プリンスリターンをここまで育てたのは原田騎手の貢献があってこそですし、今回の復活劇をプラスに捉えて奮起してほしいですね」(別の記者)
また、かつて攻め馬を回してもらう形でプリンスリターンに騎乗するきっかけを作ってくれた松岡正海騎手は、現在も落馬負傷のリハビリのため復帰のメドが立っていない。原田騎手にしても「お世話になりっぱなし」と信頼を寄せる先輩の不在も、小さくはない気掛かりになっているはずだ。
「結果を出すことができてよかったです。スムーズなレースができたと思います」
レース後、松若騎手がそう自画自賛した通り、今回のプリンスリターンの勝利は鞍上の好騎乗によるところも大きい。陣営が原田騎手に替わる主戦に据えても、まったくおかしくないだろう。大きなモチベーションを失ってしまった“崖っぷち騎手”の奮戦に期待したい。
(文=銀シャリ松岡)
<著者プロフィール>
天下一品と唐揚げ好きのこってりアラフォー世代。ジェニュインの皐月賞を見てから競馬にのめり込むという、ごく少数からの共感しか得られない地味な経歴を持つ。福山雅治と誕生日が同じというネタで、合コンで滑ったこと多数。良い物は良い、ダメなものはダメと切り込むGJに共感。好きな騎手は当然、松岡正海。