今週末の競馬も、出走馬と枠順が確定した。筆者はここ数週間、出走馬と騎手が確定する毎に、ある種の“変化”を感じずにはいられない。
それは今年3月に亡くなった岡田繁幸さん(享年71)が設立したクラブ馬主「サラブレッドクラブ・ラフィアン」所有馬に騎乗する騎手の顔ぶれが、じわじわと変貌を遂げている点だ。
「マイネル軍団」の総帥と呼ばれた故・岡田さん。妻の美佐子氏が代表を務めるビッグレッドファームなどの所有馬、つまり総帥の息がかかる馬の鞍上は、ほぼ固定されていた事実は、競馬ファンならご存知だろう。
主戦・柴田大知騎手は2012年、当時は総帥が代表を務めていたビッグレッドファーム生産のコスモオオゾラで弥生賞(G2)優勝。翌年のNHKマイルC(G1)も「マイネル軍団」のマイネルホウオウで制して、自身初G1制覇を果たした。
それ以来、柴田大騎手といえばラフィアンの“お抱え騎手”としての地位を確立した感がある。同騎手の“涙の勝利騎手インタビュー”を覚えている競馬ファンも多いだろう。
丹内祐次騎手も“お抱え騎手”のひとり。同騎手が直近5年で記録した勝利数は112勝。そのうち46勝がラフィアンの所有馬で、23勝がビッグレッドファームの馬。さらに総帥の個人所有馬なども合わせると、合計で約80勝になる。つまりここ5年の丹内騎手にとって、白星の約70%は岡田さんの関連馬だったのだ。
しかし、この“蜜月”関係は徐々に崩壊しつつある。前出の主戦騎手たちの起用は減る一方で、「マイネル軍団」にリーディング上位騎手を起用する傾向が見えてきたのだ。
先週13日の常滑特別(2勝クラス)には、今年のダービージョッキー福永祐一騎手がウィズダイヤモンズに騎乗。福永騎手がラフィアン所有馬に乗るのはなんと11年ぶりで、2010年6月のマイネルクラッチに騎乗して以来だった。
今年の日本ダービー(G1)を制した福永騎手。このタイミングで11年ぶりのラフィアン馬の騎乗依頼は、長い空白期間を埋める“お近づきのプレゼント”と疑いたくもなる。来年のダービーで、ラフィアンの勝負服を着た福永騎手が登場する可能性も「なくはない」だろう。
こうした「マイネル軍団」の騎手起用の方向転換が露骨に見えたのが、今年のオークス(G1)で初の牝馬クラシック制覇をもたらした、ユーバーレーベンを巡る騎手起用だ。
ちょうど1年前の2020年6月、東京の新馬戦に登場したユーバーレーベン。続く札幌2歳S(G3)までの2戦は、戸崎圭太騎手の手綱で連勝を飾った。
しかし同年10月のアルテミスS(G3)では、柴田大騎手が騎乗。結果は4番人気で9着に終わる。
その後、同年12月の阪神JF(G1)に駒を進めたユーバーレーベンは、6番人気ながらテン乗りのM.デムーロ騎手で3着。一躍、2021年の牝馬クラシック路線を賑わす存在として再注目を集めた。
明け3歳になったユーバーレーベン。3月20日のフラワーC(G3)を年明け緒戦に選ぶも、今度はデムーロ騎手が騎乗停止の憂き目に。結果、丹内騎手を背に1番人気に推されながら3着に終わった。
その後の結果は周知のとおり。デムーロ騎手を背にオークス馬・ユーバーレーベンが誕生。「天国の岡田総帥に捧げる勝利」と報じられたのは、記憶に新しいところだ。
この一連の騎手起用が、すべてを物語っているようにも見える「マイネル軍団」の騎手起用の変化。一方で気になるのが、“お抱え騎手”たちの今後だ。
例えば、19日の東京10R相模湖特別(2勝クラス)に出走するセイドアモール。過去7回も同馬に騎乗した柴田大騎手が空いているにもかかわらず、テン乗りの木幡巧也騎手に乗り替わっている。また20日の東京6Rには、ビッグレッドファームのコスモカルティエが出走。前走の柴田大騎手から、売出し中の永野猛蔵騎手に乗り替わる。
今年4月には、総帥が個人名義で所有していた競走馬の名義変更が完了。重賞2勝馬のスマイルカナをはじめ、すべての馬主名義をビッグレッドファームに変更したことで、同馬たちは完全に総帥の手を離れてしまった。
つまり起用する騎手に言及できる人物は、別の人物になることが確定。いずれにせよ、亡くなった総帥が天国から指示を出すわけにもいかず、今後は“お抱え騎手”の存在も過去のものになる可能性は高い。
2005年10月から09年8月まで、丸4年間も平地競走で未勝利だった柴田大騎手に騎乗馬を提供した岡田さん。ほかにも、当時はまだ若かった松岡正海騎手を主戦として抜擢するなど、総帥の“志(こころざし)”や“想い”は受け継がれるのだろうか。
その一方でリーディング上位騎手たちが、手ぐすねを引いて騎乗依頼を待ち受けている姿が目に浮かぶのは、筆者だけではないだろう。
今週末だけでなく、引き続き故・岡田繁幸さんの関連馬の鞍上に注目したい。(文=鈴木TKO)
<著者プロフィール>
野球と競馬を主戦場とする“二刀流”ライター。野球選手は言葉を話すが、馬は話せない点に興味を持ち、競馬界に殴り込み。野球にも競馬にも当てはまる「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」を座右の銘に、人間は「競馬」で何をどこまで表現できるか追求する。